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事件 昭和 51年 (ワ) 359号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1983/02/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告光洋精工株式会社は、別紙物件目録記載のジヨイントヨーク自動組立機JYA―I型を販売又は貸渡してはならない。
2 被告光洋機械工業株式会社は、前項記載のジヨイントヨーク自動組立機を製造・販売してはならない。
3 被告光洋精工株式会社は、第1項記載のジヨイントヨーク自動組立機を廃棄せよ。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 第3項につき仮執行宣言二 請求の趣旨に対する答弁主文同旨
当事者の主張
一 請求原因1 原告は、次の特許権(以下(一)の特許権を「本件原特許権」、その発明を「本件原発明」と、(二)の特許権を「本件追加の特許権」、その発明を「本件追加発明」と、(三)の特許権を「本件分割にかかる特許権」、その発明を「本件分割発明」という)を有する。
(一) 発明の名称 カルダン継手の組立法及び組立装置出願 昭和三九年八月二七日(特願昭三九―四八八三四)優先権主張 一九六三年(昭和三八年)八月二七日ドイツ国出願J二四三二二公告 昭和四四年七月二五日(特公昭四四―一六八四一)登録 昭和四七年一〇月一六日(第六六二五七九号)特許請求の範囲「1 略2 2つの被結合軸の端部に形成された二叉部の孔内に、継手十字体のピンを収容するための半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受が配置されている形式のカルダン継手の組立装置において、継手十字体を軸の二叉端部に対して正しい相対位置におく機構を有し、軸受を押込み固定するプランジヤが、二叉端部の腕に対して相対的に孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置と結合されておりこの押込力発生装置と二叉腕との間に反力伝達部材が配置されていることを特徴とする、カルダン継手の組立装置。」(二) 発明の名称 カルダン継手の組立装置出願 昭和四一年一一月一日(特願昭四一―七二一八九)優先権主張 一九六五年(昭和四〇年)一二月一〇日ドイツ国出願J二九五六三号公告 昭和四八年三月一九日(特公昭四八―八九四九)登録 昭和四九年一月八日(第七一三八八九号)特記 特許第六六二五七九号の追加特許請求の範囲「2本の被結合軸の端部に形成された二又部の孔内で、継手十字体のピンが半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受けによつて収容されているカルダン継手の組み立て装置、それも、軸受けを押し込むプランジヤが、二又部の腕に対して相対的に孔の軸線方向で移動可能な押し込み力発生装置と結合されており、この押し込み力発生装置と二又部の腕との間に反力伝達部材が配置されており、更に押し込み方向とは逆方向の押し込み力発生装置の移動距離を制限するストツパーが設けられている形式の組み立て装置において、押し込み作業の開始前に、押し込み力発生装置とストツパーとが、被結合軸の二又部の孔の軸線方向で所定の相互間隔を保つた状態で、二又部の孔の軸線方向で一緒に調節移動可能であることを特徴とする、カルダン継手の組み立て装置。」(三) 発明の名称 カルダン継手の組立装置出願 昭和三九年八月二七日(特願昭五〇―九三六八六)優先権主張 一九六三年(昭和三八年)八月二七日西ドイツ国出願P一五二七五五七・一公告 昭和五一年八月七日(特公昭五一―二六五六七)登録 昭和五三年八月二二日(第九一九九九七号)特記 特願昭三九―四八八三四特許出願の分割である特願昭四四ー八一〇四一特許出願の分割特許請求の範囲「2つの被結合軸のフオーク端部のフオーク腕に形成された孔内に、継手十字体のピンを収容するための半径方向ならびに軸方向に負荷可能な軸受けが配置されている形式のカルダン継手の組立装置であつて、継手十字体を軸のフオーク部に対して正しい相対位置におく機構と、プランジヤにより軸受けを前記の孔内に押し込んで継手十字体のピンに遊びなしに接触させる機構と、プランジヤの押し込み方向とは逆方向に移動可能な部分に一端部を枢着されかつ他端部にフオーク腕の内面と係合するフツクを有している保持クランプを使用してフオーク腕を弾性変形させて拡開させる機構とを有し、
軸受けが前記孔内で固定された後に前記弾性変形を解除すると軸受けが継手十字体のピンに圧着されることを特徴とするカルダン継手の組立装置。」2 本件各発明の構成要件(要部)及び作用効果(一) 本件原発明の構成要件(要部)は次のとおりである。
(イ) 二つの被結合軸の端部に形成された二叉部の孔内に、継手十字体のピンを収容するための半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受が配置されている形式のカルダン継手の組立装置であること。
(ロ) 継手十字体を軸の二叉端部に対して正しい相対位置におく機構を有すること。
(ハ) 軸受を押込み固定するプランジヤが、二叉端部の腕に対して相対的に孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置と結合されていること。
(ニ) この押込力発生装置と二叉腕との間に反力伝達部材が配置されていること。
本件原発明は、右の構成により次の作用効果を奏する。
二叉腕の厚さの公差やピンの長さの公差に無関係に、軸受とピンとを遊びなしに接触させることができ、両方の軸の軸線が継手十字体の中心を通るようにすることによつて、両方の軸の回転中に生ずる力を申し分なく受容できる。
(二) 本件追加発明の構成要件(要部)は次のとおりである。
(い) 二つの被結合軸の端部に形成された二叉部の孔内で、継手十字体のピンが半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受によつて収容されているカルダン継手の組立装置であること。
(ろ) 軸受を押込むプランジヤが、二叉部の腕に対して相対的に孔の軸線方向で移動可能な押込力発生装置と結合されていること。
(は) この押込力発生装置と二叉部の腕との間に反力伝達部材が配置されていること。
(に) 押込方向とは逆方向の押込力発生装置の移動距離を制限するストツパーが設けられている形式の組立装置であること。
(ほ) 押込作業の開始前に、押込力発生装置とストツパーとが、被結合軸の二叉部の孔の軸線方向で所定の相互間隔を保つた状態で、二又部の孔の軸線方向で一緒に調節移動可能であること。
本件追加発明は、右の構成により次の作用効果を奏する。
ストツパーの調節範囲を広くして、
種々異なる寸法のカルダン継手を同一の組立装置によつて組立てうることにより、
カルダン継手の組立作業をできるだけ機械化して組立作業に要する経費を安価にできる。
(三) 本件分割発明の構成要件(要部)は次のとおりである。
(a) 二つの被結合軸のフオーク端部のフオーク腕に形成された孔内に、継手十字体のピンを収容するための半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受が配置されている形式のカルダン継手の組立装置であること。
(b) 継手十字体を軸のフオーク部に対して正しい相対位置におく機構を有すること。
(c) プランジヤにより軸受を前記の孔内に押込んで継手十字体のピンに遊びなしに接触させる機構を有すること。
(d) プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分に一端部を枢着されかつ他端部にフオーク腕の内面と係合するフツクを有している保持クランプを使用して、フオーク腕を弾性変形させて拡開させる機構を有すること。
(e) 軸受が前記孔内で固定された後に前記弾性変形を解除すると、軸受が継手十字体のピンに圧着されること。
本件分割発明は、右の構成により次の作用効果を奏する。
軸受が最初からある程度のばね力をもつて継手十字体のピンに圧着されることにより、軸受カツプの底と継手十字体のピンとの間の摩滅に基づく軸方向の遊びを補償することができる。
3 被告らの行為 被告光洋精工株式会社(以下「被告光洋精工」という)は、各種ベアリング及びその部品の製造販売、これに関連する装置の製造販売等を目的とする会社であり、
被告光洋機械工業株式会社(以下「被告光洋機械」という)は、工作機械・産業機械、その他の機械・器具・工具及び装置並びに金属製品の製造販売等を目的とする会社である。被告光洋精工は、被告光洋機械が製造した別紙物件目録記載のジヨイントヨーク自動組立機JYA―I型(以下「被告装置」という)を買入れ、これを訴外鈴木自動車工業株式会社に無償で貸与するかたわら、継手十字体用のベアリングを同会社に販売している。
4 被告装置の構成 被告装置において、調節ナツト(26)は、
案内パンチ押軸(18)の最大前進位置を調節するものであつて、これは、ヘツドボデー(10)の後壁より前方に突出した送りピストン(29)のおねじ(29)′に螺合されており案内パンチ押軸(18)を介して案内パンチ(19)の最大前進位置を決定することもできるし、ヘツド前進位置で案内パンチ押軸(18)と調節ナツト(26)とが接触しないように調節することもできる。
右のように、ヘツド前進位置で調節ナツト(26)が案内パンチ押軸(18)に接触しないように調節しておくことによつて、被告装置は、別紙作動目録(一)記載の自動作業形式(T)・(U)、手動作業形式(T)の各作動をさせることができる。このことは、被告装置が手動・自動の作動を選択できる旨説明されていることによつても裏付けられる。すなわち、被告装置には、これを操作するための操作盤若しくは操作パネルがあり、被告装置の別紙取扱説明書には、操作パネルのセレクトスイツチが動作を手動・自動させる場合に選択するスイツチである旨記載され、自動・手動の場合の操作方法が説明されている。当業者は、これによつて右各作業形式の操作を容易にすることができる。
右各作業形式においては、調節ナツト(26)が案内パンチ押軸(18)と接触しないから、軸受(6)は、カシメツール(20)を前進させる前に案内パンチ(19)によつて押込まれることはない。すなわち、この場合には、第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン(14)を前進させてカシメツール(20)を前進させる際、スペーサーリング(22)がカシメツール(20)により連行されて案内パンチ(19)の後端に当接し、カシメツール(20)と案内パンチ(19)とが一体となつて軸受ケース(7)の端面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込むのである。したがつて、自動作業形式(T)の(一)ないし(三)の工程、自動作業形式(U)の(一)・(二)・(三)′の工程、手動作業形式(T)の(一)・(二)・(三)″の工程では、軸受(6)の押込みが行われていないから、送り油圧シリンダ(28)・送りピストン(29)は押込みに関与せず、
自動作業形式(T)・(U)の(四)の工程、手動作業形式(T)の(四)″の工程で押込みが行われるから、第1油圧シリンダ(11)・第1ピストン(14)が押込みに関与することになる。
被告装置が以上の作業形式を採ることを前提として、被告装置の構成を分説する。
(一) 本件原発明の構成要件に対応して、被告装置の構成を分説すると、次のとおりとなる。
(イ)′ 二つの被結合軸の端部に形成された二叉部の二叉腕(1)の軸受孔(4)に、十字軸のトラニオン(5)を収容するための半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受(6)が配置されている形式のカルダン継手の組立装置であること。
(ロ)′ 二叉部の軸受孔(4)内に十字軸を収容したカルダン継手をセツトする下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)により、継手の両方の軸の軸線が継手十字体の中心点を通るように保持しておく機構を有すること。
(ハ)′ 軸受(6)を押込み固定するカシメツール(20)及びこのカシメツールとともに軸受(6)を押込む案内パンチ(19)が、二叉腕(1)に対して相対的に孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置(11)・(12)・(14)・(15)と結合されていること。
(ニ)′ この押込力発生装置(11)・(12)・(14)・(15)と二叉腕(1)との間に、反力伝達部材であるフツク連結レバー(31)及びフツク(32)が配置されていること。
(二) 本件追加発明の構成要件に対応して、被告装置の構成を分説すると、次のとおりとなる。
(い)′ 二つの被結合軸の端部に形成された二叉腕(1)の軸受孔(4)内で、
十字軸のトラニオン(5)が半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受(6)によつて収容されているカルダン継手の組立装置であること。
(ろ)′ 軸受(6)を押込むカシメツール(20)及びこのカシメツール(20)とともに軸受(6)を押込む案内パンチ(19)が、二叉部(1)の腕に対して相対的に孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置(11)・(12)・(14)・(15)と結合されていること。
(は)′ この押込力発生装置(11)・(12)・(14)・(15)と二叉腕(1)との間に反力伝達部材(31)・(32)が配置されていること。
(に)′ 押込方向とは逆方向の押込力発生装置の移動距離を制限するストツパ(16)が設けられている形式の組立装置であること。
(ほ)′ 押込作業の開始前に、押込力発生装置(11)・(12)・(14)・(15)とストツパ(16)とが、カルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線方向で所定の相互間隔を保つた状態で、二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線方向で一緒に調節移動可能であること。
(三) 本件分割発明の構成要件に対応して、被告装置の構成を分説すると、次のとおりとなる。
(a)′ 二つの被結合軸の端部に形成された二叉部の二叉腕(1)の軸受孔(4)に、十字軸のトラニオン(5)を収容するための半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受(6)が配置されている形式のカルダン継手の組立装置であること。
(b)′ 継手十字体を軸の二叉腕(1)に対して正しい相対位置におく機構を有すること。
(c)′ 軸受(6)を軸受孔(4)内に押込み固定するカシメツール(20)及びカシメツールとともに軸受(6)を押込む案内パンチ(19)とにより、軸受(6)を十字軸のトラニオン(5)に遊びなしに接触させる機構を有すること。
(d)′ カシメツール(20)及び案内パンチ(19)の押込方向とは逆方向に移動可能な部分に一端部を枢着されかつ他端部に二叉腕(1)の内面と係合するフツク(32)を有しているフツク連結レバー(31)を使用して、二叉腕(1)を弾性変形させて拡開させる機構を有すること。
(e)′ 軸受(6)が軸受孔(4)内で固定された後に二叉腕の弾性変形を解除すると、軸受(6)が十字軸のトラニオン(5)に圧着されること。
5 本件各発明と被告装置との対比(一) 本件原発明と被告装置との対比(1) 本件原発明の構成要件(イ)と被告装置の構成(イ)′とを比較する。
被告装置の二叉腕(1)は本件原発明の二叉部に、二叉腕(1)の軸受孔(4)は孔に、
十字軸のトラニオン(5)はピンにそれぞれ該当するから、構成(イ)′が構成要件(イ)を充足することは明らかである。
(2) 本件原発明の構成要件(ロ)と被告装置の構成(ロ)′とを比較する。
本件原発明において、継手十字体を軸の二叉端部に対して正しい相対位置におく機構とは、被結合軸の軸線が継手十字体の中心点を通るようにし、かつ継手十字体のピンを二叉部の孔に対して同心位置におく機構を意味する(本件原発明にかかる特許公報(甲第一号証、以下「本件原特許公報」という)二欄七行目ないし一四行目、四欄三三行目ないし三六行目、七欄五行目ないし八行目参照)。右機構は、本件原発明出願時の技術水準において当業者が自明な事項のうちから自由に選択してよいのであつて、本件原発明にかかる特許明細書(以下「本件原特許明細書」という)にはその内容を限定するなんらの記載もない。甲第一三、第一四号証は、本件原発明出願時に公知であつた右機構の例である。
被告装置では、案内パンチ(19)の軸線とカルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線を一致させた後、送りピストン(29)を僅かに後退させ、ヘツド(9)を若干戻す。その間に下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)によつてカルダン継手を固定する。固定された後においては、トラニオン(5)が二叉腕(1)の軸受孔(4)に対して正しい相対位置におかれていることになる。そして、ボルト(66)・(67)を調節して隙間(8)がなくなるようにすれば、上部バイス(3)が取付けられている支持体(55)は移動しなくなり固定される。
支持体(55)が固定されていない場合でも、下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)により被結合軸を固定すれば支持体(55)が動くことはない。
すなわち、被告装置は、下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)によつて継手十字軸を正しい相対位置においているのであつて、被告装置の構成(ロ)′の機構は、本件原発明にいう正しい相対位置におく機構に該当し、構成要件(ロ)を充足する。
(3) 本件原発明の構成要件(ハ)・(ニ)と被告装置の構成要件(ハ)′・(ニ)′とを比較する。
@ 本件原発明の構成要件(ハ)・(ニ)について 本件原発明は、特許法38条により併合出願されたカルダン継手の組立法についての方法発明(その特許請求の範囲は、「2つの被結合軸の端部に形成された二叉部の孔内に、継手十字体のピンを収容するための半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受が配置されている形式のカルダン継手の組立法において、継手十字体を軸の二叉端部に対して正しい相対位置においた後に、個々の軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで二叉端部の腕の孔内に押込み、この押込力によつて生ずる反力を二叉腕のところで支えることを特徴とする、カルダン継手の組立法。」である)を直接実施する装置に関する発明である。本件原発明は、反力に関する限り、
押込力によつて生ずる反力を二叉腕のところで支える装置に関するものであり、二叉腕を拡開させることまでをも発明の要旨とするものではない。
このことは、本件原特許明細書の特許請求の範囲の記載自体によつて明らかであるばかりでなく、同特許明細書の発明の詳細な説明において、「本発明の要旨とするところは、継手十字体および被結合軸の二叉腕を互いに正確な相対位置においた後に、個々の軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで二叉腕の孔内に押込み、その際に押込力に基く反力を二叉腕のところで支える点にある。」(本件原特許公報三欄一四行目ないし一九行目)と記載されていることによつても明らかであり、更に、同特許明細書のうち実施態様に関する説明において、実施態様1として前記方法発明の特許請求の範囲の記載と全く同一の方法が記載されている(同公報八欄三九行目ないし九欄三行目)ところ、実施態様5として本件原発明の特許請求の範囲の記載と内容的に一致する装置が実施態様1の方法を実施するものとして記載されている(同公報九欄一七行目ないし二二行目)こと、これとは別に実施態様2として二叉腕を拡開させる方法が記載されている(同公報九欄四行目ないし九行目)ことによつても、
また本件原発明の要旨及び装置の機能を詳細に説明した記載(同公報三欄三四行目ないし四三行目)によつても裏付けられる。
したがつて、本件原発明の眼目は、軸受を押込む際に押込力によつて生ずる反力を二叉腕のところで支えて、二叉腕を弾性変形させないようにする装置であること、すなわち、個々の軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで二叉端部の腕の孔内に押込むためのプランジヤが、孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置と結合されている機構、及び、この押込力によつて生ずる反力を二叉腕のところで支えるための反力伝達部材が、押込力発生装置と二叉腕との間に配置されている機構、とを具備する装置であることにある。
ここで押込力とは、軸受をその押込方向に押込もうとする力をいい、「個々の軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで二叉端部の腕の孔内に押込む」(同公報一〇欄二〇行目、二一行目)力をいうから、プランジヤが軸受の底面に接触するまでの間におけるピストンを移動させる力は押込力とはいわない。また、反力とは、押込力と同じ大きさの力であつて押込力とは反対方向の力をいう。この反力は、押込力によつて生じ、軸受と二叉端部の腕のところで生ずるものであり、ここで発生した反力を二叉腕に伝達、作用させて弾性変形を防止するのに用いられるものである。
そうすると、構成要件(ハ)・(ニ)における押込力発生装置は、一方において軸受押込用のプランジヤと結合され、他方において二叉端部の腕との間に押込力によつて生じた反力を二叉端部の腕に伝達するための反力伝達部材が配置されているとともに、二叉端部の腕に対して相対的に孔の軸方向で移動可能であることを要し、かつそれで足りる。また、反力伝達部材は、二叉腕を支えるために用いられることを要し、かつ、それで足りる。なお、「軸受を押込み固定するプランジヤ」は、軸受を押込む作用のみを行う押込みプランジヤと、かしめ(固定)作用のみをするかしめプランジヤとが別体を構成する場合と、一つのプランジヤが押込作用とかしめ作用とを兼有する場合とを含む。また、「軸受を押込み固定するプランジヤが、
ヽヽヽヽヽ押込力発生装置と結合されており」という場合の「結合」の態様は問わない。
A 自動作業形式(T)を採つた場合における被告装置について 被告装置において、案内パンチ(19)の軸線に対しカルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線を一致させると同時に、トラニオン(5)を二叉腕(1)の軸受孔(4)に対して正しい相対位置におき、下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)でカルダン継手を固定した後に、フツク連結レバー(31)を下降させ、第2ピストン(15)を油圧により後方に弱い圧力で後退させ、フツク(32)と二叉腕(1)の内側に当接させる。ストツパ(16)を固定し、更に第2ピストン(15)の右端面に作用する油圧を強める(拡開は行われない)。次いで、
第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン(14)を前進させ、カシメツール(20)を前進させてスペーサーリング(22)を介して案内パンチ(19)を軸受ケース(7)の端面がトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込み、かつこの位置でカシメツール(20)によつてカシメ作業を終了させる。この押込・固定作業の間、二叉腕(1)はフツク(32)によつて支えられているので、二叉腕(1)は内側に弾性変形しない。
右工程において、調節ナツト(24)と第2ピストン(15)に形成されたおねじとは締付けられていて間隔(S)は零であり、かつストツパ(16)はロツクされているので、第2油圧シリンダ(12)内の油圧を強めても第2ピストン(15)は動かない(押込方向と反対方向に後退しない)。このような場合、第2油圧シリンダ(12)内の油は剛体と化する。これによつてフツク連結レバー(31)は押込力発生装置に固定された状態となる。
次いで、第1油圧シリンダ(11)内に油圧力が加えられることによつて押込力が発生し、第1ピストン(14)によつてカシメツール(20)が前進せしめられる。この押込力によつて押込力と等しくかつ方向が反対の反力が生ずる。反力は伝達されるから、ここで発生した反力は、
カシメツール(20)・第1ピストン(14)・第1油圧シリンダ(11)内の圧力油を通つて第2油圧シリンダ(12)と第1油圧シリンダ(11)との隔壁に達し、かつ第2油圧シリンダ(12)の圧力油・第2ピストン(15)・フツク連結レバー(31)・フツク(32)を介して二叉腕(1)に伝達される、その際第2油圧シリンダ(12)内の油圧は一定に保たれているから、第1油圧シリンダ(11)・第2油圧シリンダ(12)・第2ピストン(15)は一つの剛体と考えられ、フツク連結レバー(31)は、第1油圧シリンダ(11)に直接取付けられているのとなんら変わりがない。
かくして、被告装置では、二叉腕(1)側で押込力に基づく反力が発生し、この反力は、前記経路を介してフツク連結レバー(31)及びフツク(32)に、更に二叉腕(1)に順次伝達される。二叉腕(1)は、同じ大きさの押込力と反力との作用を受けるので力の釣合が生じ、内側に弾性変形しない。
B 手動作業形式(T)を採つた場合における被告装置について 被告装置において、案内パンチ(19)を軸受ケース(7)の端面がトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込み、かつこの位置でカシメツール(20)によつてカシメ作業を終了させるまでの工程は、自動作業形式(T)の場合と同一であり、二叉腕(1)が弾性変形しない点も同様である。そして、手動作業形式(T)においては、右工程の後に二叉腕(1)が拡開されるのであるが、本件原発明は、拡開のための装置までをも発明の要旨とするものではないから、これを無視して差支えない。
そうすると、手動作業形式(T)においても、自動作業形式(T)の場合と同様に、第2油圧シリンダ(12)内の油圧を強めても第2ピストン(15)は不動で、第2油圧シリンダ(12)内の油は剛体と化し、第1ピストン(14)が押込力によつて前進し、この押込力に基づく反力が第2ピストン(15)からフツク連結レバー(31)及びフツク(32)を介して二叉腕(1)に伝達され、二叉腕(1)は、同じ大きさの押込力と反力との作用を受けるので弾性変形しない。
C 被告装置の構成(ハ)′・(ニ)′について 右に検討したところによれば、被告装置における押込(作業)とは、送りピストン(29)を再び前進させ、フツク(32)を二叉腕(1)の内側面に当接させ、
ストツパ(16)を固定し、その後に第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン(14)を前進させてカシメツール(20)をスペーサーリング(22)の前端が案内パンチ(19)の後端に当接するまで前進させるという準備工程(ここまでの工程は押込工程ではない)を経た後、スペーサーリング(22)によつて案内パンチ(19)が軸受ケース(7)の端面を押込み始める時から該端面に遊びなしに押込むまで、をいうのである。したがつて、被告装置において、軸受(6)を押込もうとする押込力によつて生じた反力がフツク連結レバー(31)及びフツク(32)を介して二叉腕(1)に伝達されるという点で、構成(ハ)′・(ニ)′における第1・第2各油圧シリンダ(11)・(12)及び第1・第2各ピストン(14)・(15)は、本件原発明の構成要件(ハ)・(ニ)にいうところの押込力発生装置に該当する。そして、被告装置においては、カシメツール(20)が軸受(6)を押込み固定するプランジヤに該当し、案内パンチ(19)が軸受(6)を押込むプランジヤに該当する。カシメツール(20)は押込力発生装置(第1ピストン(14))と固定的に結合しており、案内パンチ(19)は第1ピストン(14)と機能的に結合している。押込力発生装置の一部である第1油圧シリンダ(11)は、二叉腕(1)の軸方向で移動可能である。そうすると、構成(ハ)′は構成要件(ハ)を充足する。
次に、第2油圧シリンダ(12)内の圧力油が剛体化した後は、第1油圧シリンダ(11)・第2油圧シリンダ(12)・第2ピストン(15)は一つの剛体とみなされる。したがつて、フツク連結レバー(31)は、第1油圧シリンダ(11)(押込力発生装置の一部)に固定されているのと同じである。そうすると、構成(ニ)′におけるフツク連結レバー(31)及びフツク(32)は構成要件(ニ)における反力伝達部材に該当し、
構成(ニ)′は構成要件(ニ)を充足する。
(4) 結論 以上のとおり、被告装置の構成は本件原発明の構成要件を充足し、被告装置はこれによつて本件原発明と同一の作用効果を達成している。よつて、被告装置は本件原発明の技術的範囲に属する。
(二) 本件追加発明と被告装置との対比(1) 本件追加発明が本件原発明と追加の関係に立つ以上、両者の構成要件・機能において重複するところがあるのは当然である。本件追加発明の構成要件(い)は本件原発明の構成要件(イ)と同一内容であるから、前記本件原発明と被告装置との対比におけるのと同様の理由により、被告装置の構成(い)′は本件追加発明の構成要件(い)を充足する。
(2) 本件追加発明の構成要件(ろ)と被告装置の構成(ろ)′とを比較する。
本件原発明の押込力・反力・押込力発生装置等に関して主張したことは、本件追加発明の押込力・反力・押込力発生装置等についてもそのままあてはまる。そして、本件追加発明の要旨は、「ストツパーの調節範囲を広くして、種々異なる寸法のカルダン継手を同一の組み立て装置によつて組み立て得るようにするものであつて、その要旨とするところは、押し込み作業の開始前に、押し込み力発生装置とストツパーとが、被結合軸の二又部の腕の孔の軸線方向で所定の相互間隔を保つた状態で、二又部の腕の孔の軸線方向で一緒に調節移動可能であるようにした点に存する。」(本件追加発明にかかる特許公報(甲第二号証、以下「本件追加特許公報」という)八欄二行目ないし一〇行目)のであり、右の構成(構成要件(に)・(ほ))にこそ本件追加発明の重要な特徴がある。すなわち、本件追加発明は、二叉腕の拡開が行われることを前提とするものであるが、発明の要旨としては、押込作業前において押込力発生装置とストツパーとが右のような相互間隔を保つた状態で軸線方向で調節移動できるという点にあり、かつこれをもつて足り、拡開がどのような態様・方法・順序で行われるかは発明の要旨ではない。右の意味で拡開がなされることを前提にすると、本件追加発明の押込力発生装置は、
一方では軸受を押込む装置であるとともに、他方では押込み過程中における反力の伝達を仲介し、かつ二叉腕を反力伝達部材により拡開する作用を行うものである。
被告装置の押込力発生装置をみるに、自動作業形式(T)(ただし(S)が零でない場合)を採る場合、第2油圧シリンダ(12)は第1油圧シリンダ(11)と一体をなし、第1油圧シリンダ(11)の一部をなすということができるのであり、また第2ピストン(15)は、フツク(32)を介して二叉腕(1)を拡開する際の拡開量を規制するものであつて、第2ピストン(15)が間隔(S)だけ移動(後退)する場合、その移動した時点で第2油圧シリンダ(12)に固定されて一体化し、第2油圧シリンダ(12)の一部となる。そして、第2油圧シリンダ(12)内に圧力油が供給され第2ピストン(15)が間隔(S)だけ後退すると、第2油圧シリンダ(12)、第2ピストン(15)、圧力油は互いに一体となり、あたかも第1油圧シリンダ(11)の付属物のごとき形で、第1油圧シリンダ(11)及び第1ピストン(14)による軸受(6)の押込作業に参加する。かくして、被告装置において、第1油圧シリンダ(11)・第1ピストン(14)・第2油圧シリンダ(12)・第2ピストン(15)をもつて移動可能な押込力発生装置とすべきものであり、第2ピストン(15)は移動可能な押込力発生装置の一部である。
そして、被告装置において、カシメツール(20)が本件追加発明の軸受を押込み固定するプランジヤに、案内パンチ(19)が同じく軸受を押込むプランジヤに該当し、カシメツール(20)が押込力発生装置(第1ピストン(14))と固定的に結合し、案内パンチ(19)が第1ピストン(14)と機能的に結合していることは、本件原発明と被告装置との対比で主張したとおりである。そうすると、構成(ろ)′は構成要件(ろ)を充足する。
(3) 本件追加発明の構成要件(は)と被告装置の構成(は)′とを比較する。
被告装置において、フツク連結レバー(31)を介してフツク(32)が、
押込力発生装置の一部である第2ピストン(15)に連結されているが、前記のとおり第2ピストン(15)は移動(後退)した時点で第2油圧シリンダ(12)と一体化しその一部となるので、フツク(32)は、移動可能な押込力発生装置の一部である第2油圧シリンダ(12)に連結されているのと同じである。したがつて、構成(は)′におけるフツク連結レバー(31)及びフツク(32)は、構成要件(は)における反力伝達部材に該当し、構成(は)′は構成要件(は)を充足する。
(4) 本件追加発明の構成要件(に)と被告装置の構成(に)′とを比較する。
被告装置において、本件追加発明のストツパーに該当するのはストツパ(16)である。すなわち、ストツパ(16)を係止機構(17)によりロツク及びロツク解除シリンダ(13)にロツクして位置を固定した後、二叉腕(1)を(定寸)拡開する際、押込力発生装置の一部である第2ピストン(15)が、ストツパ(16)と第2ピストン(15)との間に配置されて両者間に所望の間隔(S)を維持する作用をするばね(23)のばね力に打ち勝つて、押込方向とは逆方向にストツパ(16)のフランジ面に当たるまで後退する。ストツパ(16)は固定されているので第2ピストンの自由端面が当たつても動かない。したがつて、ストツパ(16)が押込力発生装置の一部である第2ピストン(15)の移動距離を制限していることになるから、構成(に)′は構成要件(に)を充足する。
(5) 本件追加発明の構成要件(ほ)と被告装置の構成(ほ)′とを比較する。
被告装置において、送りピストン(29)が油圧によつて前進せしめられると、
ストツパ(16)及び押込力発生装置が一緒に二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線方向で前進するが、ストツパ(16)と第2ピストン(15)との間隔(S)は、
調節ナツト(24)とばね(23)とにより所定の相互間隔を保つた状態を維持する。すなわち、押込作業の開始前に、ストツパ(16)と押込力発生装置の一部である第2ピストン(15)とが、
所望の間隔(S)を保つた状態で二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線方向で一緒に移動可能である。したがつて、構成(ほ)′は構成要件(ほ)を充足する。
(6) 結論 以上のとおり、被告装置の構成は本件追加発明の構成要件を充足し、被告装置はこれによつて本件追加発明と同一の作用効果を達成している。よつて、被告装置は本件追加発明の技術的範囲に属する。
(三) 本件分割発明と被告装置との対比(1) 本件分割発明の構成要件(a)と被告装置の構成(a)′とを比較する。
被告装置の二叉部の二叉腕(1)は本件分割発明のフオーク端部のフオーク腕に、二叉腕(1)の軸受孔(4)は孔に、十字軸のトラニオン(5)はピンにそれぞれ該当するから、構成(a)′が構成要件(a)を充足することは明らかである。
(2) 本件分割発明の構成要件(b)と被告装置の構成(b)′とを比較する。
本件分割発明における継手十字体を軸のフオーク部に対して正しい相対位置におく機構の意味及び解釈は、本件原発明の構成要件(ロ)(継手十字体を軸の二叉端部に対して正しい相対位置におく機構を有すること)の意味及び解釈がそのままあてはまる(ただし、本件分割発明のフオーク部は本件原発明の二叉部に対応する)。そして、これを前提として被告装置をみると、被告装置は下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)によつて継手十字体を正しい相対位置においている、
といいうるのであつて、この点も本件原発明の構成要件(ロ)と被告装置との対比について主張したところがそのままあてはまる。したがつて、構成(b)′は構成要件(b)を充足する。
(3) 本件分割発明の構成要件(c)と被告装置の構成(c)′とを比較する。
被告装置において、第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン(14)を前進させて、カシメツール(20)をスペーサリング(22)の前端が案内パンチ(19)の後端に当接するまで前進させ、これによつて案内パンチ(19)が軸受ケース(7)の端面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込む。したがつて、
被告装置のカシメツール(20)及び案内パンチ(19)が構成要件(c)のプランジヤに該当し、構成(c)′は構成要件(c)を充足する。なお、本件分割発明は、押込力発生装置と二叉腕との間に保持クランプが配置されることを要件とするものでないから、被告装置において、押込力発生装置と二叉腕(1)との間に保持クランプに該当する部材が配置されているか否かを検討する必要はない。
(4) 本件分割発明の構成要件(d)と被告装置の構成(d)′とを比較する。
被告装置において、押込方向と逆方向に移動する第2ピストン(15)は案内パンチ(19)の押込方向とは逆方向に移動可能な部分である。そして、第2ピストン(15)にその一端が枢着されているフツク連結レバー(31)を下降させ、第2ピストン(15)を弱い圧力で後退させ、フツク連結レバー(31)の他端部であるフツク(32)を二叉腕(1)の内側面に係合させ(ストツパ(16)をロツク及びロツク解除シリンダ(13)内の係止機構(17)によつて固定し)、第2ピストン(15)を油圧により後退させて二叉腕(1)を弾性変形させて拡開するのである。したがつて、構成(d)′は構成要件(d)を充足する。
(5) 本件分割発明の構成要件(e)と被告装置の構成(e)′とを比較する。
被告装置において、軸受(6)の押込・固定後第2ピストン(15)を前進させてフツク(32)を二叉腕(1)から前へ離して二叉腕(1)の弾性変形を解除すると、二叉腕(1)はその弾性変形によつて生じた戻りばね力に基づいて再び最初の位置に戻ろうとするが、軸受(6)が二叉腕(1)の軸受孔(4)内で既に固定されているので最初の位置に戻ることができず、戻りばね力が軸受(6)に作用してこれを十字軸のトラニオン(5)に圧着する。したがつて、構成(e)′は構成要件(e)を充足する。
(6) 結論 以上のとおり、被告装置の構成は本件分割発明の構成要件を充足し、被告装置はこれによつて本件分割発明と同一の作用効果を達成している。よつて、被告装置は本件分割発明の技術的範囲に属する。
6 右のとおりとすると、
被告光洋精工が被告装置を業として販売・貸渡し、被告光洋機械が被告装置を業として製造・販売することは、原告の有する本件各特許権を侵害することになる。
よつて、原告は、特許法100条一、二項により、被告光洋精工に対して被告装置の販売・貸渡しの差止めと被告装置の廃棄を、被告光洋機械に対して被告装置の製造・販売の差止めを、それぞれ求める。
二 請求原因に対する認否1 請求原因1の事実は認める。
2(一) 同2(一)について本件原発明の特許請求の範囲の記載を原告主張の構成要件に分説することは可能であるが、その一つ一つの用語の有する技術内容については、被告らは原告と異なる見解を有している。
本件原発明の作用効果についての主張は争う。その作用効果は次のとおりである。
両方の軸及び継手十字体を互いに正確な相対位置においた後に、ピンの長さ及び二叉腕の厚さに無関係に軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで押込むことができ、この押込過程中に二叉腕が押込力によつて弾性変形せしめられず、かつ押込後に軸受が最初からある程度のばね力をもつて継手十字体のピンに圧着されているようにすることができ、その結果、軸受と孔との間の摩滅に基づく軸方向の遊びを補償できる。
(二) 同2(二)について 本件追加発明の特許請求の範囲の記載を原告主張の構成要件に分説することは可能であるが、その一つ一つの用語の有する技術内容については、被告らは原告と異なる見解を有している。
本件追加発明の作用効果についての主張は争う。その作用効果は次のとおりである。
本件追加発明は、ストツパー若しくは組立装置全体を取替えることなしに種々異なる寸法のカルダン継手を組立てることが可能である。また、二叉部の腕の厚さの公差に基づく変化も極めて簡単に補償して、すべてのカルダン継手において継手十字体のピンに対する軸受のばね圧着力の大きさを常に同じにすることができる。
(三) 同2(三)について 本件分割発明の特許請求の範囲の記載を原告主張の構成要件に分説することは可能であるが、その一つ一つの用語の有する技術内容については、
被告らは原告と異なる見解を有している。
本件分割発明の作用効果についての主張は争う。その作用効果は本件原発明の作用効果と同一である。
3 同3のうち、別紙物件目録の記載について以下指摘する部分の表現を争い、その余の事実は認める。右部分は次のとおり訂正・変更・付加・削除されるべきである。
(一) 第1図に示された装置が被告装置であるカルダン継手組立機の一部であることを明確にするために、第1図の説明文中、「カルダン継手組立機の一部の縦断面略図、」との表現を、「カルダン継手組立機の一部の装置の縦断面略図、」と訂正されるべきである。
(二) 第2ピストン(15)が第2油圧シリンダ(12)内で摺動するのは当然のことであるから、「第2ピストン(15)が摺動可能に設けられている。」との表現は、「第2ピストン(15)が装入されている。」と訂正されるべきである。
(三) 「(22)はスペーサリングで、第1ピストン(14)によつてカシメツール(20)を前進させる際、案内パンチ(19)を介して軸受(6)をトラニオン(5)に隙間がなくなるまで押込むようにカシメツール(20)の前進量を規定するためのものである。」のうち、「案内パンチ(19)を介して軸受(6)をトラニオン(5)に隙間がなくなるまで押込むように」との部分は削除されるべきである。
スペーサーリング(22)はカシメツール(20)の前進量を規定するためのものであつて、案内パンチ(19)を介して軸受(6)をトラニオン(5)の端面に隙間がなくなるまで押込むためのものではない。軸受(6)はカシメツール(20)を前進させる前にすでに案内パンチ(19)によつてトラニオン(5)の端面に隙間がなくなるまで押込まれている。
(四) 「しかし、この間隔(S)が零になるようにナツト(24)を締付けることもできる。」との部分は削除されるべきである。
被告装置においては、この間隔(S)は第2ピストン(15)とストツパ(16)の両者をその間隔(S)を保つたまま第2油圧シリンダ(12)内への低圧油の供給によつて後退させ(一次拡開)、
係止機構(17)によつてストツパ(16)を軸方向に固定させたうえ、更に高圧油を供給することによつて、この間隔(S)を保持するばね(23)を圧縮させながら間隔(S)が零になるまで第2ピストン(15)を更に後退させ二次拡開を行うのである。
もし、原告主張のように、二叉腕(1)の二次拡開を無視し、この間隔(S)を零にしてカルダン継手の組立てを行うとすれば、二叉腕(1)は僅かに一次拡開されるだけで所定量の拡開が行われず、したがつて軸受(6)固定後二叉腕(1)の所定の戻りばね力(予圧)を軸受ケース(7)の底面と十字軸のトラニオン(5)の端面に与えることができないから、所期の組立てを行うことができない。
(五) 「(26)は案内パンチ押軸(18)の最大前進位置を調節するナツトで、これはヘツドボデー(10)の後壁より前方に突出した前記送りピストン(29)のおねじ(29)′に螺合され、案内パンチ押軸(18)を介しての案内パンチ(19)の最大前進位置を決定することもできるし、ヘツド前進位置で、案内パンチ押軸(18)と調節ナツト(26)とが接触しないように調節することもできる。」との部分は、「(26)は案内パンチ押軸(18)の位置を調節するナツトで、これはヘツドボデー(10)の後壁より前方に突出した前記送りピストン(29)のおねじ(29)′に螺合され、案内パンチ押軸(18)を介して案内パンチ(19)の最大前進位置を決定する。」と表現するのが妥当である。すなわち、被告装置において、「ヘツド前進位置で、案内パンチ押軸(18)と調節ナツト(26)とが接触しないように(調節ナツト(26)を)調節する」ことはできない。
このような操作をすれば、軸受及び十字軸の位置決めをすることができなくなる。
(六) 「そして、挟持部材(61)・(62)は、突起(57)・(58)と挟持部材(61)・(62)間にそれぞれ配置されたばね(63)・(64)によつて互いに付勢されて他方の支柱(54)に固着された凸状部材(65)を挟持している。」の次に、「したがつて、上部バイス(3)が取付けられた支持体(55)は、
その枢着支点(56)を中心にバネ(63)・(64)の撓みによつて僅かに移動しうる状態にある。」との説明が付加されるべきである。
(七) 「ボルト(66)・(67)は調節ボルトであつて、作業開始前に下部チヤツク(2)の中心に上部バイス(3)の把み位置の中心を一致するように調節する際、第5図に示す状態から隙間(δ)がなくなるまでねじ込んで支持体(55)を固定したり、作業開始後に隙間(δ)をあけておいて作業できるようにしたり、
隙間がなくなるように締付けておいて作業できるようにするためのものである。」のうち、「位置の中心を一致」から後の文章、すなわち、「するように調節する際……できるようにするためのものである。」の部分は、現実の構造と作業手順に合致する表現としては、「調節するための調節ボルトであつて、調節作業後は、挟持部材(61)・(62)に対しそれぞれ隙間(δ)を保つている。」とするのが正確である。
4 同4のうち、被告装置が原告主張の作業形式によつて作動できるとの事実は否認し、被告装置が本件各発明に対応して原告主張の構成に分説できるとの主張を争う。
5 同5、6の主張は争う。
三 被告らの主張1 被告装置に関する原告主張の各作業形式について 原告主張の作業形式は、いずれも観念上のものであつて現実に被告らが採用している作動方法ではない。現実に被告らが用いている作動方法は、別紙作動目録(二)記載のとおりである。被告装置は、同目録記載の作動方法による自動組立装置として実用に供されているのであつて、手動組立装置としては実用に供されていない。被告装置は、手動で行う単品生産ではなく、セツトされた作業工程に従つた大量生産を目的としたものであり、手動切換用スイツチは大量生産を行うための準備ないし点検のために設けられたものにすぎない。そもそも、本件各発明にしろ被告装置にしろ、大量生産に適するように作業を機械化して製作費を低廉にすることを目的としている。このような装置について、わざわざ製品を一つ一つ生産する手動式のものを想定して検討を加えること自体非常識である。
現実に用いられない概念的に案出された作業形式を特許権侵害の議論の対象とすべきではない。
のみならず、原告主張の手動式作業は、原告の指定する順序に従つて行つても技術的に種々の難点が生じる。
まず、原告主張の作業形式では、ヘツド前進位置で調節ナツト(26)が案内パンチ押軸(18)に接触しないように調節しておくことが前提となるが、調節ナツト(26)は、送りピストン(29)の前進とともに前進させられる案内パンチ押軸(18)に後端を押される案内パンチ(19)が、軸受ケース(7)の内底面を十字軸のトラニオン(5)の端面に接触させたときに、十字軸の中心が組立機の作業線X―X軸、Y―Y軸の交点に一致するように、案内パンチ(19)の最大前進位置を決めるためのものであり、これによつて十字軸の中心が被結合軸の軸線に一致することになる。原告主張の作業形式では、調節ナツト(26)が右機能を果せないために十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線とを一致させることができず、不良品しか製造できない。
すなわち、二叉腕(1)の軸受孔(4)は、実際には被結合軸の軸線にその中心が一致するように加工されておらず、芯ずれが生じているのが普通である。被告装置は、このような被結合軸を組立てるときに、二叉腕(1)に加わる異常な力を逃がすために上部バイス(3)の支持体(55)が僅かに移動しうるようになつている。したがつて、下部チヤツク(2)によつて固定された被結合軸は不動であるが、上部バイス(3)によつて挟持された被結合軸は移動しうる状態であつて、いまだ二つの被結合軸の軸線と十字軸の中心との一致は行われていない。
右一致が行われるのは被告ら主張の十字軸の位置決め工程においてである。この工程において、前進する送りピストン(29)は、同ピストンの先端に螺着された調節ナツト(26)の端面を、案内パンチ押軸(18)の後端面に当接させて案内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)を押し進めることにより、四方から軸受ケース(7)の底面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させる。ところで、案内パンチ(19)は、
軸受ケース(7)の底面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させたときに、十字軸の中心が被告装置の組立機の作業線X―X軸とY―Y軸との交点(組立機の作業中心)に一致するように、その最大前進位置が調節ナツト(26)で後記のとおり調節されている。したがつて、案内パンチ(19)が四方から同時に軸受(6)を押込み、軸受ケース(7)の底面をトラニオン(5)の端面に接触させることにより、上部バイス(3)によつて挟持された被結合軸が十字軸と一緒に移動し、この移動に追従して上部バイス(3)を取付けた支持体(55)も移動して、
十字軸の中心と組立機の作業中心とが一致し、下部チヤツク(2)に固定された被結合軸の軸線に十字軸の中心と上部バイス(3)によつて挟持された被結合軸の軸線とが一致する。
そして、調節ナツト(26)による案内パンチ(19)の最大前進位置の調節・決定は準備作業として次のとおり行われる。案内パンチ(19)の最大前進位置は、軸受ケース(7)の底面が十字軸のトラニオン(5)の端面に接触したときの対称位置にある各軸受ケース(7)の外底面間の距離a(別紙作動目録(二)添付第16図参照)によつて規定される。距離aと同じ直径aを有する円柱形のセツトゲージ(同目録添付第17図参照)の脚を下部チヤツク(2)に挿入して固定する。次に、調節ナツト(26)を後退させておいて、ヘツドボデー(10)を最大前進位置におき、調節ナツト(26)をセツトゲージ・案内パンチ(19)・案内パンチ押軸(18)・調節ナツト(26)の各面が当接して密着するまで前進させ、その位置にロツクナツト(27)で固定する。
ところが、原告主張の作業形式では、案内パンチ(19)の最大前進位置を調節するための調節ナツト(26)及びロツクナツト(27)が、調節ナツト(26)の機能を全く奏しえない状態にまで締込まれているため、手動作業形式(T)の(三)″の工程において、送りピストン(29)を再び前進させて案内パンチ(19)の先端が二叉腕(1)の軸受孔(4)内にある軸受(6)の底面に当たる位置にヘツド(9)を前進させても、
案内パンチ(19)は、二叉腕(1)の軸受孔(4)内にある軸受(6)をばね(41)の力で押すだけで、送りピストン(29)の力の作用を調節ナツト(26)及び案内パンチ押軸(18)を介して受けることがないから、軸受(6)を押込んで軸受ケース(7)の端面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込むことがない。したがつて、上部バイス(3)によつて挟持された二叉腕(1)が十字軸と一緒に移動するということがなく、これにともない上部バイス(3)を取付けた支持体(55)も移動しないから、下部チヤツク(2)に固定された被結合軸(下部二叉腕)の軸線に、十字軸の中心と上部バイス(3)によつて挟持された被結合軸(上部二叉腕)の軸線とが一致しえない。
のみならず、原告主張の作業形式において、カシメツール(20)を前進させて軸受(6)を押込みかしめる場合に、被告装置はX軸・Y軸の四方から押込みを行うのであるから、X軸方向(Y軸方向)の対向する左右の押込みかしめ力に差があるとすれば、力の弱い側の十字軸・軸受ケース(7)・案内パンチ(19)・案内パンチ押軸(18)は、反対側の強い押込みかしめ力に負けて、押込方向とは反対方向に案内パンチ押軸(18)の後端が調節ナツト(26)に当接するまで後退させられる。その結果、十字軸の中心と被結合軸の軸心線とが一致せず、芯ずれを生じる。対向する左右の押込みかしめる力を同じ大きさにしても、摺動部の抵抗、圧油の流れる量等の要因で、実際に出ている左右の力には不均衡が生じやはり芯ずれが生じる。そうすると、原告主張の各作業形式では精度のよい製品を作ることはできず不良品を作るだけであるから、現実に実用に供しえないことは明らかであり、
被告装置において原告主張の各作業形式を考慮することは意味がない。
次に、自動作業形式(T)の(三)の工程で間隔(S)を零にする場合が想定されているが、被告装置において間隔(S)は是非必要なものであり、これによつて正確なカルダン継手を製作することができるのである。間隔(S)を零にすれば、
不良品を作るだけである。
また、
ロツク及びロツク解除シリンダ(13)にストツパ(16)を固定している係止機構(17)の固定作用を同シリンダ(13)内の油圧を低下させることによつて解除する、との工程についていえば、油圧作用の性質上、ロツク及びロツク解除シリンダ(13)内の油圧がストツパ(16)のロツクを解除する状態まで瞬時に減圧することはないから、ストツパ(16)が完全にロツク解除されるまでに、高圧の油圧作用を受けている第2ピストン(15)とストツパ(16)とが一緒に後退を始める。その結果ストツパ(16)は係止機構(17)内で摩擦的に摺動し、ストツパ(16)と係止機構(17)の接触面を極度に摩耗し、装置の使用を不能にしてしまう。
更に、カシメツール(20)によるカシメ作業が終了した後に二叉腕(1)を高圧で拡開する場合、この拡開に要する力は二叉腕(1)の弾力とカシメツール(20)のカシメ力の和よりも大きな力でなければならず、そのような強い力で二叉腕(1)のそれも肉厚の薄い先端部を引張ると、二叉腕(1)の先端部を破壊するおそれがあり、また、作業者が二叉腕(1)の拡開時間を、作業者がスイツチ切換操作により軸受ケース(7)とトラニオン(5)の端面に与える所望の予圧量が得られる程度のカシメの付加的進行に合せて適正に調節することは不可能である。
以上のとおり、被告装置において原告主張の各作業形式を採ることはできない。
現実に用いられている別紙作動目録(二)記載の作業方法を前提として、被告装置の構成を分説すると次のとおりとなる。
(一) 本件原発明の構成要件に対応した構成の分説(イ)″ 二つの被結合軸の端部に形成された二叉腕(1)の軸受孔(4)内に、
十字軸のトラニオン(5)を収容するための半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受(6)が配置されている形式のカルダン継手の組立装置であること。
(ロ)″ 二叉腕(1)の軸受孔(4)内に、十字軸のトラニオン(5)が挿入配置されるとともに、
各軸受孔(4)内に外方から軸受(6)が挿入されて十字軸のトラニオン(5)を軸受孔(4)内で回動自在に支持するように予備組立されたカルダン継手の両方の軸を支持する下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)と、上部バイス(3)が取付けられ装置の一作業線方向に僅かに移動自在に設けられた支持体(55)と、二叉腕(1)の軸受孔(4)内の軸受(6)を十字軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込んで継手の両方の軸の軸線に対し十字軸の中心を一致させるとともに、トラニオン(5)の端面に対して軸受(6)を位置決めする案内パンチ(19)とにより、下部チヤツク(2)に固定された被結合軸の軸線に、十字軸の中心と上部バイスによつて挟持された被結合軸の軸線とを一致させる機構を有すること。
(ハ)″ 二叉腕(1)の軸受孔(4)内に既に押込まれた軸受(6)を軸方向に固定するためのカシメツール(20)が、送り油圧シリンダ(28)内の油圧により不動の状態に位置決めされたヘツドボデー(10)の一部を構成する第1油圧シリンダ(11)内の第1ピストン(14)と結合されていること。(ニ)″ ヘツドボデー(10)の一部を構成する第2油圧シリンダ(12)内の第2ピストン(15)と二叉腕(1)との間には、二叉腕(1)を引張り拡開するフツク連結レバー(31)及びフツク(32)が配置されていること。
(二) 本件追加発明の構成要件に対応した構成の分説(い)″ 二つの被結合軸の端部に形成された二叉腕(1)の軸受孔(4)内で、
十字軸のトラニオン(5)が半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受(6)によつて収容されているカルダン継手の組立装置であること。
(ろ)″ 予備組立てされたカルダン継手の軸受(6)をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込む案内パンチ(19)が、案内パンチ押軸(18)を介して機台(52)に不動に固定された(二叉部の腕(1)に対して相対的に孔の軸方向で移動不可能な)押込力発生装置(28)・(29)と連結されていること。
(は)″ この押込力発生装置(28)・(29)と二叉腕(1)との間に反力伝達部材なるものは全然配置されていないこと。
(に)″ 押込方向とは逆方向に移動し、二叉腕(1)をフツク連結レバー(31)及びフツク(32)を介して引張り拡開する第2ピストン(15)の移動距離を制限するストツパ(16)が設けられている組立装置であること。
(ほ)″ 押込作業の開始前に、押込力発生装置(28)・(29)とストツパ(16)とが、カルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線方向で所定の相互間隔を保つた状態で二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線方向で一緒に調節移動可能でないこと。
(三) 本件分割発明の構成要件に対応した構成の分説本件原発明の構成要件に対応した構成の分説(イ)″・(ロ)″・(ハ)″・(ニ)″に同じ。
2 本件原発明と被告装置との対比(一) 被告装置の構成(イ)″が本件原発明の構成要件(イ)を充足することは認める。
(二) 本件原発明の構成要件(ロ)と被告装置の構成(ロ)″とを比較する。
本件原発明の構成要件(ロ)に示された機構については、本件原特許明細書の詳細な説明中で、当業者(出願当時その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者)が容易にその実施をすることができる程度に具体的な開示がなされていない。
すなわち、本件原特許明細書添付の第1図ないし第4図(本件原発明の組立装置を略示等した図)を説明する中で、「継手十字体5は軸1に対して直角なピン6および7を有しているが、この十字体は図示していない保持装置によつて掴まれて軸1および二叉腕の孔910に対して正しい相対位置におかれる。」(本件原特許公報四欄三二行目ないし三六行目)と記載され、同第8図(組立装置を示した図)を説明する中で、「軸1に対して直角な両方のピン6および7は図示していない保持装置によつて、二叉腕2および3の孔9および10に対して正しい位置に固持されている。」(同公報七欄五行目ないし八行目)と記載されている。ところで、第1図と第8図に示す組立装置では、
二叉腕2・3の孔9・10に継手十字体5のピン6・7が宙に浮かんだ状態で示されており、また軸受13は二叉腕2・3の外側に押込前の位置にあるので、本件原発明では、予備組立しない方法でカルダン継手を組立てる組立装置を対象としているといわざるをえないが、その場合、継手十字体を軸の二叉端部に対しどのようにして正しい相対位置におくのか、その具体的機構については、前記載以外に明細書になんらの説明もない。したがつて、当業者が明細書に基づいて右機構を実施しようとしても実施することができず、このような明細書の記載が特許法36条4項・五項に違背することはいうまでもない。右のとおり本件原特許は特許法123条所定の無効原因を有しているから、本件侵害訴訟の関係でいえば、本件原特許権は実体を備えない発明につき付与されたと評価されるべきであり、その権利行使を否定されるべきである。なお、甲第一三、第一四号証の装置は、本件原発明に適用しえない構造となつているから、これをもつて右指摘の発明の未開示を償うことはできない。
被告装置において二つの被結合軸の軸線に十字軸の中心を一致させるのは、前記のとおり別紙作動目録(二)記載の位置決め工程の方法による。これを略記すると、調節ナツト(26)により案内パンチ押軸(18)を介して最大前進位置があらかじめ調節された案内パンチ(19)が、四方より軸受ケース(7)の底面をトラニオン(5)の端面に接触するまで押込んだときに、上部バイス(3)によつて挟持された被結合軸すなわち二叉腕(1)が十字軸と一緒に移動し、この移動に追従して上部バイス(3)を取付けた支持体(55)も移動して、下部チヤツク(2)に固定された被結合軸の軸線に、十字軸の中心と上部バイス(3)によつて挟持された被結合軸の軸線とが一致するのである。
以上のとおりであつて、本件原発明は構成要件(ロ)において無効原因を有するものであり、これを看過して登録された本件原特許に基づく権利行使は否定されるべきであるから、被告装置が本件原特許権を侵害していないことは明らかである。
のみならず、
被告装置の構成(ロ)″が構成要件(ロ)を充足しないことも明らかである。
(三) 本件原発明の構成要件(ハ)・(ニ)と被告装置の構成(ハ)″・(ニ)″とを比較する。
(1) 本件原発明について本件原発明は、反力による二叉腕の拡開をその技術内容に包含するものである。
本件原特許明細書の発明の詳細な説明によれば、本件原発明においては、一つのシリンダーによつて、一方では軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで押込み、他方では二叉腕の端部の内面に保持クランプを引掛けておき、前記押込みの後更に押込みを続け、押込力によつて生ずる反力によつてストツパーによる規制距離まで二叉腕の拡開が行われる。これにより軸受が最初からある程度のバネ力をもつて継手十字体に圧着される(以下「予圧」という)。このように、軸受を継手十字体のピンに接触するまで押込むだけでなく、更に二叉腕に予圧のための拡開を加え軸受を軸方向に固定することによつて、産業上利用しうる実用的なカルダン継手を得ることができる。
本件原発明が反力による拡開を要旨とするものであることは、本件原特許明細書の記載によつて裏付けられる。すなわち、本件原発明の課題は、「両方の軸および継手十字体を互いに正確な相対位置においた後に、ピンの長さおよび二叉腕の厚さに無関係に軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで押込むことができ、
この押込過程中に二叉腕が押込力によつて弾性変形せしめられず、かつ押込後に軸受が最初からある程度のばね力を以つて継手十字体のピンに圧着されているようにすることである。」(本体原特許公報三欄六行目ないし一三行目)。右課題を解決するために、本件原発明は前記特許請求の範囲に記載のとおりの構成を採用したが、その技術的意味について、「本発明の要旨とするところは、継手十字体および被結合軸の二叉腕を互いに正確な相対位置においた後に、個々の軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで二叉腕の孔内に押込み、その際に押込力に基く反力を二叉腕のところで支える点にある。軸受をピンに完全に接触するまで押込んだ後に押込力をさらに作用させると、
二叉腕に作用する反力により二叉腕がそのつどあらかじめ調整せしめられている距離だけ押込方向とは逆の方向に弾性変形で拡開せしめられ、その際に軸受は二叉腕の孔内でこれと相対的に移動して、継手十字体のピンに遊びなしに接触した状態にとどまる。二叉腕の拡開が終了した時或いはその後で、ピンに遊びなしに接触している軸受が二叉腕の孔内で固定される。次いで押込力を取除くと、二叉腕の拡開によつて生じる戻りばね力が軸受に作用し、軸受をピンに圧着する。」(同公報三欄一四行目ないし三〇行目)と説明している。すなわち、押込過程中においては、軸受を軸の二叉端部の腕の孔内に押込む際の押込力によつて生ずる反力を二叉腕に伝達するとともに、二叉腕のところで支えることによつて二叉腕を弾性変形させないようにする(同公報三欄三四行目ないし四三行目、四欄七行目ないし一二行目、四欄三七行目ないし五欄二行目参照)一方、「押込後軸受13がある程度のばね作用を以つてピンに圧着されているようにするためには、装置11が押込方向とは逆の方向に一定距離だけ動き得るようにしなければならない」(同公報五欄八行目ないし一一行目)。その詳細は、「部分14によつてひき続き二叉腕2に伝達される反力は、二叉腕および装置11を、ストツパーによりあらかじめ調整されている距離だけ押込方向とは逆の方向に動かす。要するに二叉腕はその最初の位置から押込方向とは逆の方向に弾性変形せしめられる。この弾性変形と同時に軸受13が孔内に対して相対的に動かされる。この状態で第4図に示されており、この状態で軸受13は図示していない形式で孔9内に固定され、軸の回転中に押込方向とは逆の方向で軸受に作用する軸方向の力が二叉腕2に伝達されるようにする。押込力を取除くと、二叉腕2は弾性変形によつて生じた戻りばね力に基いて再び最初の位置に戻ろうとする。しかし二叉腕2の孔の内で軸受が既に固定されているので、二叉腕はその最初の位置にもはや戻ることができず、従つて戻りばね力に軸受13に作用してこれを継手十字体のピン7に圧着する。」(同公報五欄三八行目ないし六欄一〇行目)と説明されている。"そして、拡開中或いは拡開直後の軸受の固定によつて、継手十字体の組立が完了する(同公報六欄一一行目ないし一三行目、三六行目ないし四五行目参照)。
次に、本件原発明における反力は、押込力と同じ大きさの力であつて、押込力とは逆の方向の力であり、押込力によつて押込力の発生と同時に同じ発生源で生ずる力である。このことは、本件原特許公報四欄七行目ないし一二行目、四欄三七行目ないし五欄二行目、七欄九行目ないし一三行目の記載のほか、同特許公報七欄三七行目から八欄五行目までの「軸受を押込むためには先ずシリンダ室43に導管Uを介して圧力油が供給されて、ピストン面43に圧力が作用せしめられる。これにより生ずる力はばね32を介してプランジヤ20に伝達されて、軸受13が二叉腕2の孔9内に押込まれる。ばね32のばね力はピストンとプランジヤとがこの最初の押込段階ではまだ剛性的に結合されているような大きさに定められている。シリンダ室42内に生ずる圧力は同時にシリンダ面44に作用して、これを押込方向とは逆の方向に押そうとする。この圧力は保持クランプ14を介して二叉腕2に伝達されて、この二叉腕のところで押込力を釣合する。これにより二叉腕2は押込過程中に最初の位置を維持する。」との記載、及び同報八欄一五行目から二七行目までの「軸受13がプランジヤ20によつて継手十字体のピン7に遊びなしに接触するまで押込まれると、導管Uひいてはシリンダ室42内の圧力が増大せしめられる。軸受13は既にピン7に接触しているので、それ以上押込まれず従つてピストン面43およびシリンダ面44に作用する力はばね32を圧縮してかしめプランジヤ46を孔9内に押込み、これにより突起が形成される。同時にシリンダ面44および保持クランプ14を介して力が二叉腕2に伝達されて、二叉腕がシリンダ30と一緒に押込方向とは逆の方向に動かされて、ピン状突出部33が楔面41に接触せしめられる。この場合ばね37は圧縮される。」との記載によつて裏付けられ、また、
本件原特許出願経過書類中の昭和四三年一月八日付出願人の意見書(乙第一号証の四)、
同年六月一二日付出願人の意見書(同号証の六)の記載、特許庁審査官の昭和四七年六月二九日付特許異議の決定(同号証の二一)によつても支持される。
仮に、原告主張のように反力が軸受と二叉腕のところで生ずるとして反力の伝達経路を見ると、伝達される反力は、シリンダのピストン面43で力が釣合い相殺されて消えてしまい、二叉腕を支える力とはなりえない。すなわち、二叉腕を支える力としての反力は、シリンダのピストン面43に対向するシリンダ面44に押込力によつて生じ、この反力が伝達されて二叉腕のところでこれを支える力となつて現われる、と理解すべきである。
また、本件原発明における押込力発生装置について、本件原特許明細書の特許請求の範囲には、「軸受を押込み固定するプランジヤが、二叉端部の腕に対して相対的に孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置と結合されておりこの押込力発生装置と二叉腕との間に反力伝達部材が配置されている」と記載され、更に同明細書の発明の詳細な説明中において、「押込力発生装置は、二叉腕の孔の方向で移動可能なシリンダと、このシリンダ内で滑動可能なピストンと成つており、このピストンは押込プランジヤと結合されていて、例えば圧力油によつて押される。この場合シリンダは、二叉腕に作用する反力伝達用保持クランプを有している。」(本件原特許公報四欄七行目ないし一二行目)、「押込力発生装置が、二叉腕の孔の方向で移動可能なシリンダと、このシリンダ内で滑動可能で押込プランジヤと結合されているピストンとより成つており、シリンダが、二叉腕に作用する保持クランプを有し」(同公報九欄二八行目ないし三二行目)と説明されている。
右明細書の記載及び説明によると、押込力発生装置は、(@)二叉腕の孔の方向で移動可能なシリンダと、このシリンダ内で滑動可能なピストンから構成されている、(A)このピストンは軸受を押込み固定するプランジヤと結合されている、
(B)シリンダは二叉腕に作用する反力伝達用保持クランプを有している、という三つの特徴を持つものである。
(2) 被告装置について 被告装置において、
軸受(6)の押込みがなされるのは、別紙作動目録(二)記載の位置決め工程において、送り油圧シリンダ(28)・送りピストン(29)によつてである。
すなわち、予備組立てされたカルダン継手を下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)で保持した後、送り油圧シリンダ(28)内に油圧路(39)から圧油を供給し、送りピストン(29)を送り油圧シリンダ(28)の前壁に当接するまで前進させ、ヘツドボデー(10)を案内レール(40)に沿つて前進させる。この送りピストン(29)の前進により案内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)は、緩衝用押軸(45)の先端で押された状態でヘツドボデー(10)と一緒に前進する。案内パンチ(19)の先端が軸受ケース(7)の底面に当接すると、前進する送りピストン(29)は緩衝用押軸(45)及び案内パンチ押軸(18)を介して案内パンチ(19)を押しているばね(41)を圧縮しながら前進し、送りピストン(29)の先端に螺着された調節ナツト(26)の端面を案内パンチ押軸(18)の後端面に当接させて、送り油圧シリンダ(28)内の油圧で案内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)を押進め、これにより案内パンチ(19)が二叉腕(1)の軸受孔(4)内の軸受(6)を押込み、軸受ケース(7)の底面を十字軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させる。ここで軸受(6)の押込みが完了する。この場合、送り油圧シリンダ(28)内の油圧は、一方では送りピストン(29)を軸受(6)の押込方向に押出し、他方では送り油圧シリンダ(28)を逆方向に反力の作用で移動させようとするが、送り油圧シリンダ(28)は、位置決め装置(42)によつて位置が固定され、下端両翼部(48)を案内レール(40)にボルトと締付板(49)で締付けられて不動に固定されているから、送りピストン(29)の押込力によつて反力が生じても逆方向に移動することはない。換言すれば、仮に、
送り油圧シリンダ(28)・送りピストン(29)・ヘツドボデー(10)・緩衝用押軸(45)・案内パンチ押軸(18)・案内パンチ(19)を本件原発明の押込力発生装置とみなしても、これらの装置において押込方向とは逆の方向への運動は全く行われず、反力を二叉腕(1)で支えることはできない。また、これらの装置と二叉腕(1)との間に反力伝達部材が配置されていないのであるから、押込過程において押込力によつて生ずる反力を二叉腕(1)のところで支えて二叉腕(1)の弾性変形を防止することも行われない。
これを要するに、被告装置においては、押込みに際して押込力によつて生ずる反力を利用していない。
被告装置においては、別紙作動目録(二)記載のとおり、二叉腕(1)の拡開は一次拡開工程と二次拡開工程の二つの工程で行われるが、いずれも拡開に用いられる力は、押込力と関係なく、押込力によつて生ずる反力とも関係ない。
すなわち、軸受ケース(7)を十字軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させた後、フツク(32)を昇降装置(44)により降下させ、その部分(33)を二叉腕(1)の端部に引掛ける位置においた後、第2油圧シリンダ(12)内に低圧油を供給し第2ピストン(15)を後退させることによつて、第2ピストン(15)に連結された連結レバー(31)を介してフツク(32)の部分(33)を二叉腕(1)の端部に当接させ、二叉腕(1)を低圧油により僅かに一次拡開させる。右の低圧油は第2ピストン(15)だけでなくストツパ(16)をも一緒に後退させるが、第2ピストン(15)とストツパ(16)との間にはばね(23)が設けられており、調節ナツト(24)によつてあらかじめ定められた間隔(S)を保持したまま後退する。その後、ロツク工程を経てこの状態を固定した後、第2油圧シリンダ(12)内へ更に高圧油を供給して第2ピストン(15)をばね(23)を圧縮しながらストツパ(16)に当接するまで、すなわち間隔(S)を零にするまで後退させ、これにより二叉腕(1)はフツク(32)によつて引張られて二次拡開が行われる。そうすると、
被告装置における一次拡開・二次拡開は、軸受(6)の押込みに関係のない第2油圧シリンダ(12)と第2ピストン(15)によつて行われるのであるから、押込力によつて生ずる反力を利用していないことは明らかである。
被告装置においては、別紙作動目録(二)の軸受固定の工程で、第1油圧シリンダ(11)・第1ピストン(14)により軸受(6)を二叉腕(1)の軸受孔(4)内にその軸方向に固定する。
すなわち、二叉腕(1)を二次拡開させた状態で第1油圧シリンダ(11)内へ圧油を供給して第1ピストン(14)を前進させ、この第1ピストン(14)の先端にナツト(21)で結合されたカシメツール(20)の先端を、案内パンチ(19)と同心的に二叉腕(1)の軸受孔(4)内に圧入させる。圧入時に、カシメツール(20)の先端部外周に設けられた突起(20)′により、軸受孔(4)の内壁を部分的に冷間塑性変形させて軸受ケース(7)の外底面上に複数個の突起(4)′を形成させ、この突起(4)′により軸受(6)を二叉腕(1)の軸受孔(4)内に軸方向に固定する。そうすると、第1油圧シリンダ(11)・第1ピストン(14)は、軸受(6)の固定のために機能しており、押込みや拡開とは関係のないことが明らかである。
以上のとおり、被告装置においては、押込み、拡開、軸受固定のそれぞれに必要な力は、それぞれ必要な範囲で別系統の油圧装置を設けて力の発生源を異にしており、反力を使用して装置を単純化する考え方を採つていないのであるから、本件原発明の技術思想とは異なる技術によるものである、というべきである。
原告は、被告装置において第1油圧シリンダ(11)・第2油圧シリンダ(12)・第1ピストン(14)・第2ピストン(15)が押込力発生装置に該当すると主張する。右主張は、被告装置を原告のいう自動作業形式(T)・(U)、手動作業形式(T)という作動方法により作動させることを前提としたもので、その当を得ないことは既に指摘したとおりである。のみならず、次のとおり被告装置の構造からも押込力発生装置に該当しないことが明らかである。
まず、
第1油圧シリンダ(11)は、二叉腕(1)の軸受孔(4)に軸受(6)を固定する際及び固定中、軸受孔(4)の方向には移動できない。すなわち、第1油圧シリンダ(11)を構成するヘツドボデー(10)は、送り油圧シリンダ(28)内に圧油を供給した状態を維持して送りピストン(29)を同シリンダ(28)の前壁に当接させて常に軸方向に固定され、軸受(6)の固定完了まで継続して後退しないようにされている。したがつて、第1油圧シリンダ(11)は、本件原発明の押込力発生装置を構成するシリンダのように二叉腕の孔の方向で移動可能ではない。
また、第1油圧シリンダ(11)内で滑動可能な第1ピストン(14)の先端にナツト(21)で結合されたカシメツール(20)は、二叉腕(1)の軸受孔(4)内に既に案内パンチ(19)によつてその軸受ケース(7)の底面が十字軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込まれた軸受(6)を、その軸方向に固定するだけである。したがつて、第1ピストン(14)は、本件原発明の押込力発生装置を構成するピストンのように軸受を押込み固定するプランジヤに結合されていない。
次に、第2油圧シリンダ(12)・第2ピストン(15)は、二叉腕(1)を拡開させるのに用いられるものであるから、本件原発明を構成するシリンダとピストンでないことは明らかである。
以上のとおりであつて、構成(ハ)″・(ニ)″は構成要件(ハ)・(ニ)を充足しない。
(四) 結論よつて、被告装置は本件原発明の技術的範囲に属しない。
3 本件追加発明と被告装置との対比 被告装置は、構成(い)″が本件追加発明の構成要件(い)を充足するほか、以下の理由により、構成(ろ)″・(は)″・(に)″・(ほ)″はそれぞれ構成要件(ろ)・(は)・(に)・(ほ)を充足しないことが明らかであるから、本件追加発明の技術的範囲に属しない。
本件追加発明における押込力発生装置は本件原発明の押込力発生装置と同一であり、これと二叉部の腕との間に設けられた反力伝達部材が押込力によつて生ずる反力を二叉部の腕に伝達し、
これによつて押込工程での二叉腕の弾性変形を防止するとともに軸受固定工程での二叉腕の拡開を行うことも、本件原発明と同一である。したがつて、本件追加発明が反力による二叉腕の拡開をその技術内容に包含すること、反力とは押込力と同じ大きさの力であつて押込力とは逆の方向の力で押込力によつて押込力の発生と同時に同じ発生源で生ずる力であることも本件原発明と同一である。
そして、本件追加発明は、構成要件(に)・(ほ)に記載されたようなストツパーを設けることにより、「軸受けが継手十字体のピンに遊びなしに接触せしめられた後に、更に押し込み力を作用させると、被結合軸の二又部の腕が拡開せしめられて、これにより軸受けが最初からある程度のばね力を以て継手十字体のピンに圧着されることになる。これによつて摩滅に基づいて生ずる遊びが補償される。二又部の腕の拡開中に、押し込み力発生装置も押し込み方向とは逆の方向に移動せしめられるが、前記のばね圧着力の大きさがすべてのカルダン継手において同じであるようにするためには、押し込み力発生装置のこの移動運動を一定の大きさに制限するストツパーを設けなければならない。」(本件追加特許公報七欄九行目ないし二一行目)との課題を解決している。これに対して被告装置の押込力発生装置は、送り油圧シリンダ(28)と送りピストン(29)とからなり、送り油圧シリンダ(28)は機台(52)上に固定され、送りピストン(29)には案内パンチ押軸(18)を介して軸受押込用の案内パンチ(19)が連結されていて、送り油圧シリンダ(28)及び送りピストン(29)と二叉腕(1)との間に反力伝達部材に該当する部材は存在しない。
したがつて、本件原発明と被告装置との比較の場合と同じく、被告装置の構成(ろ)″・(は)″が本件追加発明の構成要件(ろ)・(は)を充足しないが、更に、被告装置の右構造からして、押込方向とは逆方向の押込力発生装置の移動が行われず、押込力発生装置の移動距離を制限するストツパーに該当するものは存在せず、押込作業の開始前に、
押込力発生装置とストツパーとが被結合軸の二叉部の孔の軸線方向で所定の相互間隔を保つた状態で、二叉部の孔の軸線方向で一緒に調節移動可能である機構は存在しないのであるから、構成(に)″・(ほ)″は構成要件(に)・(ほ)を充足しない。
4 本件分割発明と被告装置との対比(一) 本件分割発明は、本件原発明を別な表現によつて重ねて権利付与を受けたにとどまり、実質的には本件原発明と同一の発明である。
本件原発明の構成要件(イ)・(ロ)に対し、本件分割発明の構成要件(a)・(b)は、「被結合軸の端部に形成された二叉腕の孔内に」を「被結合軸のフオーク端部のフオーク腕に形成された孔内に」と、「二叉端部」を「フオーク部」と、
それぞれ言い換えているのみで、他の部分は同一の表現をしており、右表現を変えた箇所も内容的には同一であるから、本件分割発明の構成要件(a)・(b)は本件原発明の構成要件(イ)・(ロ)と同一である。
また、本件原発明の構成要件(ハ)・(ニ)と本件分割発明の構成要件(c)・(d)とをみるに、構成要件(ハ)のうちの「軸受を押込み固定するプランジヤが……押込力発生装置と結合されている」と、構成要件(c)の「プランジヤにより軸受を前記の孔内に押込んで継手十字体のピンに遊びなしに接触させる機構」とは実質的に同一であり、構成要件(ハ)のうちの「二叉端部の腕に対して相対的に孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置」と、構成要件(d)のうちの「プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分」とは実質的に同一であつて、右「プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分」が「装置11」のみを意味するものであることは、本件原特許明細書及び本件分割発明にかかる特許明細書(以下「本件分割特許明細書」という)の記載(本件原特許公報四欄七行目ないし一二行目、
三七行目ないし四二行目、本件分割発明にかかる特許公報(甲第五号証、以下「本件分割特許公報」という)四欄九行目ないし一四行目、三三行目ないし三五行目、
五欄一行目ないし五行目)が共通し、同様の装置を開示していること、
及び本件分割発明が本件原発明の出願に対する分割出願にかかるものであることによつて裏付けられる。
すなわち、本件分割発明の特許請求の範囲の記載事項は、特許法44条41条の規定から、本件原発明の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内に限られるところ、本件原発明の明細書には、「押込力発生装置は、二叉腕の孔の方向で移動可能なシリンダと、このシリンダ内で滑動可能なピストンと成つており、このピストンは押込プランジヤと結合されていて、例えば圧力油によつて押される。この場合シリンダは、二叉腕に作用する反力伝達用保持クランプを有している。」と記載されている(本件原特許公報四欄七行目ないし一二行目)ほか、
装置についての開示は全くなく、したがつて、本件分割発明の「プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分」は押込力発生装置のシリンダ以外に存在しない。そして、本件原発明が押込力によつて生ずる反力を利用した二叉腕の弾性変形防止と二叉腕の拡開を技術内容とするものであることは前記のとおりであり、本件分割発明においても、押込力発生装置のシリンダに保持クランプのフツクが枢着され、押込力発生装置がプランジヤの押込方向と逆方向に移動するのは押込力に生ずる反力によるものであり、これ以外の他の力によつて移動するとの開示はない。したがつて、構成要件(ハ)の「二叉端部の腕に対して相対的に孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置」と構成要件(d)の「プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分」とは技術内容として同一である。
次に、本件原発明の構成要件(ニ)の「この押込力発生装置と二叉腕との間に反力伝達部材が配置されていること」には、本件分割発明の構成要件(d)の「プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分に一端部を枢着されかつ他端部にフオーク腕の内面と係合するフツクを有している保持クランプを使用してフオーク腕を弾性変形させて拡開させる機構」が対応するところ、「保持クランプ」という用語が「反力伝達部材」の「反力伝達」という限定をはずす目的で用いられているが、
本件原特許明細書及び本件分割明細書における「装置11と二叉腕(フオーク腕)2との間には押(し)込(み)力に基(づ)く反力を伝達するための保持クランプ14が設けられている。」(本件原特許公報四欄四〇行目ないし四二行目、本件分割特許公報四欄一二行目ないし一四行目)との開示と、前記のとおり、「プランジヤの押込方向と逆方向に移動可能な部分」が「装置11」(押込力発生装置)のみを指すことからすると、「保持クランプ」は「反力伝達部材」と同一である、ということができる。
右のとおり、本件原発明の構成要件(ハ)・(ニ)と本件分割発明の構成要件(c)・(d)とは同一である。なお、本件分割発明の構成要件(e)は、発明の作用を表現したにとどまるものであるから、発明の必須の構成要件には当たらない。
そうすると、本件分割発明の構成要件はいずれも本件原発明の構成要件と同一であるから、本件分割発明と本件原発明とは同一の発明である。
本件分割発明が本件原発明と同一であることは、被告光洋精工のした同じ理由による異議申立に対し、原告が「前記部分(押込方向とは逆方向に移動可能な部分)のプランジヤの押込方向とは逆方向の移動距離を制限するストツパー」を構成要件の一つとして特許請求の範囲に加える、という補正をすることにより、右異議申立の理由が当たつていることを認め、これを回避しようとしたことからも裏付けられる。
なお、特許庁審査官は、特許異議の決定において、本件分割発明がフオーク腕を弾性変形させて拡開させる機構として構成要件(d)を採用した点において本件原発明と異なるとし、この相違点によつて、本件分割発明は、保持クランプをフオーク腕に引掛ける前に装置を適当な位置に動かすだけでフオーク腕の厚さの公差を容易に補償することができる、との特有の作用効果を奏するとの理由で、本件分割発明と本件原発明とが異なるとし、一方、原告のした前記補正に対する却下決定において、本件分割発明がフオーク腕の厚さに無関係にフオーク腕の弾性変形を利用して軸受を継手十字体のピンに圧着さすることを目的とするものである、と認めた。
しかしながら、
ピンの厚さ及びフオーク腕の厚さに無関係に、軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで押込むことができるという発明の目的は、本件分割発明に限つたことではなく、本件原発明にもうたわれているところ(本件原特許公報三欄六行目ないし一〇行目)であつて、本件分割発明に特有のものではない。したがつて、前記特許異議の決定のごとく、作用効果が本件分割発明に特有のものであるということはできず、この判断が誤つていることは明らかである。
(二) 本件分割発明と本件原発明とは同一であるから、本件原発明と被告装置との対比におけるのと同様の理由で、被告装置は、本件分割発明の構成要件を充足せず、その作用効果も本件分割発明のそれと同一ではないから、本件分割発明の技術的範囲に属しない。
四 原告の反論1 被告装置の特定について 被告らの主張は、被告装置が被告ら主張の作動方法だけでしか行われないとの前提に立つものであつて、右のほかに原告主張の自動作業形式(T)・(U)及び手動作業形式(T)のごとき作動方法を行いうる機構を持つた装置であることを無視したものである。被告装置が原告主張の各作業形式によつて作動できるものである以上、かかるものとしてその構造を特定しなければならない。
被告装置において、調節ナツト(26)をヘツド前進位置で案内パンチ押軸(18)と接触しないようにあらかじめ調節しておけば、軸受(6)は、カシメツール(20)を前進させる前に案内パンチ(19)によつて押込まれることはない。すなわち、この場合には、第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン(14)を前進させてカシメツール(20)を前進させる際、スペーサーリング(22)がカシメツール(20)により連行されて案内パンチ(19)の後端に当接し、カシメツール(20)と案内パンチ(19)とが一体となつて、軸受ケース(7)の端面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込むのである。したがつて、
「案内パンチ(19)を介して軸受(6)をトラニオン(5)に隙間がなくなるまで押込むように」との表現は必要である。
被告装置において、
調節ナツト(24)を調節して間隔(S)を零にすることができるのは明らかであるから、その旨の表現は正確であり、削除する必要はない。
被告装置において、調節ナツト(26)を調節することにより、案内パンチ押軸(18)と調節ナツト(26)が接触しないようにすることは可能である。このような操作をした場合、十字軸を軸の二叉端部に対して正しい相対位置におくことができることについては、本件原発明の構成要件(ロ)と被告装置の構成(ロ)′とを比較した際の主張のとおりであり、なんらの支障も生じない。したがつて、調節ナツト(26)の構造等の説明・表現は、原告主張のとおりとするのが正当である。
ボルト(66)・(67)が調節可能であり、これを調節して隙間(δ)がなくなるように締付けることが可能である以上、ボルト(66)・(67)の構造等の説明・表現は、原告主張のとおりとするのが正当である。
2 原告主張の各作業形式について 本件各発明は装置に関する発明であつて、作業方法に関する発明でない。装置発明についての特許権侵害の有無については、侵害の対象とされた装置が装置として当該装置発明の構成要件を充足するか否かを問題とすべきであつて、その装置が現実にどのような作業形式を採つているかは問題にならないし、問題とすべきでない。その装置が当該装置発明の構成要件と同一の構成を具備している以上、それが現実にどのような作業形式のもとに運転されていようと、当該装置発明の技術的範囲に属し、当該特許権を侵害することは明らかである。
被告装置の取扱説明書には、手動切換スイツチの使用が自動作業の準備ないし点検に限られるとの説明はないし、被告装置が大量自動生産を目的としたものであるとしても、手動で操作することができ、手動作業に必要な構成を具備し、その構成が本件各発明の構成要件と一致する以上、その技術的範囲に属するというべきである。本件各発明及び被告装置においては、大量生産といつても、トラニオンを二叉腕に予備組立し又は予備組立されたカルダン継手を装置に取付け、工程終了後カルダン継手を取外すのはすべて手で行うのである。
この意味では被告装置は半自動式、逆にいえば半手動式である。手動か自動かの相違は、サイクルの中のボタンの各操作を手動でするか自動でするかの点に存在するのみである。組立装置の各工程の進行速度は、自動・手動を問わずゆつくりしたものであつて、これを手動で行う場合には各工程ごとのスイツチ操作の時間が余計にかかるだけである。しかも、原告主張の各作業形式で作業した場合、不良品でなく実用に供しうる製品が出来上るのである。
被告らのいう、原告主張の各作業形式では十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線とを一致させることができないとの点は、芯ずれが生じている(二叉腕(1)の軸受孔(4)の中心が被結合軸の軸線に一致せず、ずれている)という特殊なケースに関するものであるが、原告は、このような特殊なケースを問題にしているのではなく、芯ずれを生じていない被結合軸を組立てる場合について侵害の主張をしているのである。
芯ずれを生じていない場合には、その作業開始前に二叉腕に異常な力が加わることがないから、二叉腕に加わる異常な力をできるだけ逃がすために上部バイス(3)の支持体(55)が移動しうるようにする必要はなく、したがつて挟持部のところで隙間(δ)を与える必要はない。調節ボルト(66)・(67)を締切り隙間がない状態で上部バイス(3)により被結合軸をつかむと、上部バイス(3)を取付けた支持体(55)は不動に固定される。また、下部チヤツク(2)は既に組立機のX軸とY軸との交点を通る垂線に同軸に配置されていて、下部チヤツク(2)によつてつかまれた被結合軸は組立機に不動に固定されているので、被結合軸を上部バイス(3)でつかむとそれぞけで必ず被結合軸の軸線と十字軸の中心とが一致する。すなわち、十字軸は軸の二叉端部に対して正しい相対位置におかれる。この場合、下部被結合軸が下部チヤツク(2)により不動に固定されているので、十字軸は下部二叉腕によりX―X軸方向への移動を阻止され、上部被結合軸が上部バイス(3)により不動に固定されているので、十字軸は上部二叉腕によりX―X軸方向に垂直なY―Y軸方向への移動も阻止され、
上下の二叉腕はフツクで引張られていて移動しない。したがつて、被結合軸の軸線は十字軸の中心を通ることになる。
被告らは、カシメツール(20)を前進させて軸受(6)を押込みかしめる場合に左右の押込みかしめる力に差があるため十字軸の中心と被結合軸の軸心線とが一致しない、と主張する。しかし、被告装置において、左右両側のかしめ力を決める油圧の大きさは同一の油圧源から送られる等しい圧力のものであるから、両者の力に問題となる程の力の差は生じない。摺動部の抵抗の大きさや圧油の流れる量の差によつて、カルダン継手の仕上がりの精度になんらかの差異が生じたとしても、かかる差異は、カルダン継手の製作上及び販売上問題となる程のものではない。
また、被告らは、原告主張の各作業形式において装置の使用を不能にし又は装置を破壊するおそれのある場合が生じる、と主張するが当たらない。被告装置を手動形式(T)で操作した場合、ロツク及びロツク解除シリンダ(13)の油圧を低下させて係止機構(17)の固定作用を解除する工程においては、ロツク及びロツク解除シリンダ(13)内の油圧が解放されているから、ストツパ(16)が係止機構(17)内でごく僅かに摺動することがあつても、それがストツパ(16)と係止機構(17)の接触面を極度に摩耗し、装置の使用を不能にしてしまうおそれは全くない。更に、カシメ作業が終了した後、二叉腕(1)を高圧で拡開する場合でも、被告装置が有する圧力制御弁によつて高圧を適当な値に設定しておけば、二叉腕(1)の先端が破壊するおそれは全くない。
3 発明未開示による無効の主張について 本件各特許権は、全部特許庁における適法な審理を経て特許登録されたものである。登録された特許権は、これが無効との審決が確定するまで有効なものとして取扱われるべきである。そして、登録された特許権が無効であると主張するためには、特許庁に対して無効審判の請求を行い無効審決を求めるべきであつて、この無効審判手続を経ないまま特許権の効力を否定することは、我が国の法制度上許されない。また、
特許の無効事由を主張しその事由をもつて特許発明技術的範囲を制限する理由とすることも、侵害訴訟の場合においては許されない。したがつて、本件において、
継手十字体を軸の二叉端部に対して正しい相対位置におく機構について、技術の開示がないから無効であるとか、権利の行使が否定されるとかの主張をすることは筋違いである。
4 反力について 本件原発明は、押込力によつて生ずる反力を二叉腕のところで支えることにより、二叉腕の弾性変形を防止することを目的とするものであつて、反力による二叉腕の拡開を目的とするものではない。このことは、既に主張した本件原特許明細書の記載によつて明らかである。被告らの指摘する本件原発明の要旨についての明細書の記載のうち、「本発明の要旨とするところは、継手十字体および被結合軸の二叉腕を互いに正確な相対位置においた後に、個々の軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで二叉腕の孔内に押込み、その際に押込力に基く反力を二叉腕のところで支える点にある。」(本件原特許公報三欄一四行目ないし一九行目)の部分までが本件原発明の要旨に関する記載であつて、その後に続く、「軸受をピンに完全に接触するまで押込んだ後に押込力をさらに作用させると、二叉腕に作用する反力により二叉腕がそのつどあらかじめ調整せしめられている距離だけ押込方向とは逆の方向に弾性変形で拡開せしめられ、その際に軸受は二叉腕の孔内でこれと相対的に移動して、継手十字体のピンに遊びなしに接触した状態にとどまる。二叉腕の拡開が終了した時或いはその後で、ピンに遊びなしに接触している軸受が二叉腕の孔内で固定される。次いで押込力を取除くと、二叉腕の拡開によつて生じる戻りばね力が軸受に作用し、軸受をピンに圧着する。」(同公報三欄一九行目ないし三〇行目)の記載は、本件原発明の要旨とは無関係である。このように解することが、文章の常識的な理解の仕方であり、原告がさきに主張した明細書の記載、なかんずく特許請求の範囲の記載にも副うことになる。
本件原特許明細書の発明の詳細な説明には、なるほど二叉腕を拡開する技術も開示されているから、
当業者がこの記載に基づいて実施すれば、二叉腕の拡開まで行うことができるが、
発明の詳細な説明に記載してある事項全部が発明の要旨となるものではなく、その記載の中からその発明の構成に欠くべからざるものを拾いあげたもの、すなわち特許請求の範囲に端的に表現されたもののみが発明の要旨をなすのである。
被告らは、予圧のための手段を講じないと産業上利用しうべき実用的なカルダン継手を得ることができない、と主張するが、予圧をかけないカルダン継手で産業上利用しうべき実用的なカルダン継手も製造されている。現に、予圧のための拡開を加えないのみか、軸受と継手十字体のピンとの間に所望の大きさの遊びを生ぜしめるように押込む技術も、産業上利用されうべきカルダン継手として要求され、かかる技術は既に特許登録されている(甲第一一号証)。本件原特許明細書の実施態様についての記載中にも、押込力によつて生ずる反力を二叉腕のところで支える方法及び装置が、押込後に更に押込力を作用させて二叉腕を拡開させる方法及び装置とは、別個の完成した技術的事項として記載されているのであつて、この記載は、押込力によつて生ずる反力を二叉腕のところで支える方法及び装置が、独立の完成した実用的技術であることを物語つている。
次に、本件原発明における反力は押込力によつて生じ、軸受と二叉腕のところで生ずるものであつて、押込力の発生源と同じ発生源で生ずるものではない。本件原特許明細書において、反力は特別の定義を与えられていないから、それは学術上普通に用いられる意味で理解されるべきである。この意味での反力は、ある物体に外力が作用したとき、ある物体とその支持部分との接合点(接合面)に、その物体の動きを拘束するように生じる力で、外力と大きさが等しく方向が反対の力であるとされている。このように、反力は、ある物体に外力が作用するときその物体の動きを拘束する場所で発生するものであつて、拘束のない場所では発生しないものである。もちろん、反力は伝達されうる力であるから、伝達経路のいかなる場所においても捉えることができるが、この場合でも、
反力がその場所で発生したと考えてはならない。本件原発明においては、軸受を押込む際に押込力によつて軸受と二叉腕のところで生ずる反力が、押込力とは反対方向で大きさが等しい点に着目し、この反力をプランジヤ・押込力発生装置・反力伝達部材により二叉腕に作用させて、二叉腕が弾性変形するのを防止することを目的としており(本件原特許公報二欄一三行目ないし三欄一九行目参照)、この目的を達成するため、前記特許請求の範囲の構成を採用したのであるが、これを本件原特許明細書は、「装置11と二叉腕2との間には押込力に基く反力を伝達するための保持クランプ14が設けられている。従つて二叉腕2は一方の側からは押込力によつて、他方の側からは押込力と同じ大きさの反力によつて負荷される。これにより二叉腕に作用する力が釣合せしめられるので、二叉腕は押込過程中その位置を不動に保つ。」(同公報四欄四〇行目ないし五欄二行目)と説明し、他の箇所でもこれに副う説明をしている(同公報三欄三四行目ないし四三行目、四欄七行目ないし一二行目参照)。
以上の反力についての通常の意義及び本件原特許明細書の記載に照らすと、反力は軸受と二叉腕との関連において把握すべきものであり、軸受と二叉腕のところで生ずると解すべきである。被告らの指摘する本件原特許公報四欄七行目ないし一二行目、四欄三七行目ないし五欄二行目、七欄九行目ないし一三行目の記載、及び本件原特許出願経過書類中の記載中には、反力が押込力発生装置内で発生する、との被告らの主張に副う記載は全くない。また、同公報七欄三七行目ないし八欄五行目、八欄一五行目ないし二八行目の記載も、前記反力の通常の意義を前提にすれば次のとおり理解されるのであつて、なんら被告らの主張を裏付けるものではない。
すなわち、軸受を押込む際押込力が軸受を押込むと二叉腕のところに反力が発生し、この反力は同時にシリンダ面44に伝達される。押込力の発生と反力の発生及び反力のシリンダ面44への伝達はすべて同時に行われ、シリンダ室42内に生ずる圧力は同時に二叉腕のところに反力を発生せしめ、
その反力はシリンダ面44に作用してこれを押込方向とは逆法向に押そうとする。
次に、被告らは、反力がシリンダのピストン面43で力が釣合つて消えてしまうと主張するが、このようなことはありえない。けだし、押込力と反力とが相殺されて消えてしまうのであれば、押込力は存在しなくなり、軸受を押込むことは不可能になるからである。この場合、伝達された反力は押込方向と釣合つているにすぎず、このような釣合は、プランジヤの中間においても圧力油中においてもシリンダ面44においても反力伝達部材の中でも生じており、二叉腕のところでも押込力と反力とが釣合つている。そして、前記部材のどの部分でも押込力と反力とが釣合つているということは、取りも直さず反力が伝達されていることを意味する。
5 本件分割発明と本件原発明が同一であるとの点について 本件原発明では、二叉腕を押込方向とは逆の方向に拡開させる機構を有することを発明の要旨とするものではない。これに対し、本件分割発明では、保持クランプを使用してフオーク腕を弾性変形させて拡開させる機構を有することを発明の必須要件とする。この点が本件原発明と本件分割発明とのもつとも顕著な違いである。
被告らの主張は、二叉腕を拡開させることを本件原発明の要旨に含めることを前提とするもので、その前提が誤つていることは既に指摘したとおりであり、被告らの主張は当たらない。
本件分割発明の構成要件(d)、すなわち、「プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分に一端部を枢着されかつ他端部にフオーク腕の内面と係合するフツクを有している保持クランプを使用して、フオーク腕を弾性変形させて拡開させる機構を有すること」と、「本件原発明の構成要件(ニ)、すなわち、「この押込力発生装置と二叉腕との間に反力伝達部材が配置されていること」とは同一ではない。本件原発明では、反力伝達部材が押込力発生装置と二叉腕との間に配置されていることのみが要件であり、反力伝達部材が押込力発生装置と二叉腕とにどのように取付けられるかは要件とならない。これに対して本件分割発明では、一方において、
保持クランプは押込力発生装置と二叉腕との間に配置されていることを要件とせず、プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分とフオーク腕の内面との間に配置されれば足り、他方において、保持クランプは押込方向とは逆方向に移動可能な部分に一端部を枢着されるように取付け、他端部をフオーク腕の内面と係合するように取付けることを要件とするものである。そして、右のように特別な態様で取付けることにより、保持クランプを容易に二叉腕に引掛けることを可能ならしめる。右の作用効果は本件分割発明に特有のものであり、本件原発明のそれと異なる。
被告らの指摘する本件原発明の目的(本件原特許公報三欄六行目ないし一〇行目)は、発明の解決課題をうたつたものであり、発明の詳細な説明の欄に記載されたものにすぎないから、これによつて特許請求の範囲を限定するのは誤りである。
そして、構成要件(d)のうちの「プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分」は「装置11」のみを指すものではない。これに関して、被告らの指摘する本件原特許明細書及び本件分割特許明細書の各記載部分は、単なる実施例も含めてすべて発明の詳細な説明欄の記載にすぎず、これらによつて特許請求の範囲を限定することはできない。また、原告が異議申立手続中に手続の補正をしたのは、本件分割発明の特徴を更に一層明確化することにより、異議申立手続を速やかに終結させるべきであると考えたからであつて、特許異議申立の理由が当たつていることを認めた趣旨に理解すべきでない。
証拠(省略)
理 由一 請求原因1の事実(原告が本件各特許権を有すること)は当事者間に争いがなく、右争いのない特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第一、第二号証、第五号証によれば、本件各発明の構成要件は原告主張のとおり(本件原発明につき(イ)・(ロ)・(ハ)・(ニ)、本件追加発明につき(い)・(ろ)・(は)・(に)・(ほ)、本件分割発明につき(a)・(b)・(c)・(d)・(e)の各構成要件)に分説することができる。
二 被告らが、
請求原因3記載の営業を目的とする会社であり、同請求原因記載のとおり被告装置(被告装置の特定・表示につき争いのあることは後記のとおり)を製造・販売又は貸与していることは当事者間に争いがなく、右事実によれば、被告光洋機械は被告装置を業として製造・販売し、被告光洋精工は被告装置を業として貸与しているものと認めることができる。
さて、被告らは、被告装置の特定・表示につき、請求原因に対する認否3(一)ないし(七)のとおり争うのであるが、この点に関する争点は、原告が別紙作動目録(一)記載の各作業形式により被告装置を作動しうるとの前提に立つのに対し、
被告らが右前提を否定する点にあり(ただし、請求原因に対する認否3(一)・(二)の点を除く)、このことは、当然のことながら、被告装置の構成の分説における争点ともなっている。したがって、原告主張の作業形式により被告装置の作動が可能であるか否かを検討する。
原告主張の別紙作動目録(一)記載の各作業形式では、いずれも、軸受(6)及び十字軸が予備組立によりカルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)に挿入された状態でカルダン継手が組立装置に配置されるのであるが、この予備組立の具体的作業方法、予備組立完了後のカルダン継手の状態についての原告の主張は明らかでない。
被告らの主張によると、予備組立は別紙作動目録(二)の一項記載のとおり行われる。その予備組立作業の手順によると、同目録添付第1図に示すように、軸受(6)が二叉腕(1)の一方の軸受孔(4)内に外側から約半分程度押込まれ(第1図の(4))、十字軸のトラニオン(5)が二つの軸受孔(4)内に内側から挿入され(第1図の(5))、他方の軸受孔(4)にも軸受(6)が外側から押込まれて(第1図の(6))、一方の被結合軸への十字軸の取付けが行われるのであるが(第1図の(7))、この場合、軸受(6)の軸受孔(4)への圧入は、第1図の(8)・(9)に示すように圧入治具の角度θの斜面が軸受孔(4)内の角度αの斜面に当接するまで行われる、というだけであるから、
二叉腕(1)の二つの軸受孔(4)内において軸受ケース(7)の底面とトラニオン(5)の端面との間に生ずる各隙間が等しい長さになるとはいえない。したがつて、一般に十字軸の中心が被結合軸の軸線に一致するとはいえない。このことは、
二叉腕(1)の軸受孔(4)の中心が被結合軸の軸線に一致する場合(芯ずれのない場合)であると一致しない場合(芯ずれのある場合)であるとを問わず、同じ結論になる。他方の被結合軸への十字軸の取付けについても同様であるから、予備組立されたカルダン継手においては、一般に十字軸の中心は二つの被結合軸の軸線に一致しない、というほかはない。
予備組立に関する被告らの右主張につき、原告から特段の反論・反証がないので、原告主張にかかる予備組立も右のとおり行われるものと解して妨げない。そうすると、原告主張の各作業形式においても、予備組立されたカルダン継手は、十字軸の中心が二つの被結合軸の軸線に一致していないのが常態である、ということができる。
原告主張の各作業形式の(一)の工程では、このように予備組立されたカルダン継手を組立装置に配置し、送りピストン(29)を前進させることにより、ヘツド(9)全体を前進させて案内パンチ(19)の先端を二叉腕(1)の軸受孔(4)内にある軸受(6)の底面に当て、案内パンチ(19)の軸線に対しカルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線を一致させる。この段階では、軸受孔(4)の軸線が案内パンチ(19)の軸線に一致する、すなわち組立装置の作業線に一致するのみで、配置されたカルダン継手の十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線とが一致していないことに変わりはない。原告主張の各作業形式の(二)の工程では、
この状態のカルダン継手を下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)によつて把持・固定するだけであるから、依然として右一致のないことに変わりがない。その後の原告主張の各工程でも、これを一致させうるような操作は行われない。原告主張の工程(四)又は(四)″における押込みに際して、
調節ナツト(26)は案内パンチ押軸(18)と接触しないようにあらかじめ調節されているので、案内パンチ(19)が軸受ケース(7)の内底面を十字軸のトラニオン(5)の端面に接触させたときに、十字軸の中心が二つの被結合軸の軸線に一致するようにその最大前進位置を決めることはできないし、それ以外に右一致がもたらされるような操作をなすとの主張・立証はないから、案内パンチ(19)は、軸受ケース(7)の底面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込むにすぎず、押込完了後に十字軸の中心が二つの被結合軸の軸線に一致することはない。
一方、被告ら主張の別紙作動目録(二)の作動方法によると、準備作業の段階で、右一致が得られるように調節ナツト(26)を調節して案内パンチ(19)の最大前進位置が決められており、十字軸の位置決め工程において、送りピストン(29)の前進にともない案内パンチ(19)が所定の最大前進位置まで押進められて、四方から軸受ケース(7)の底面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させると、上部バイス(3)によつて挟持された被結合軸が十字軸と一緒に移動し、案内パンチ(19)の最大前進位置によつて規定される十字軸の中心と被告装置の組立機の作業線X―X軸、Y―軸の交点との一致点への十字軸の中心の移動調節がなされ、十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線との一致が得られる仕組みとなつている。
原告主張の各作業形式では、十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線とがずれた状態のカルダン継手ができるのみである。そして、前掲甲第一、第二号証、第五号証により認められるように、カルダン継手について所期の製品をうるためには、継手十字体(被告装置における十字軸)の中心を二つの被結合軸の軸線に一致させることが不可欠の技術事項であるから、原告主張の各作業形式により得られるカルダン継手が産業上利用しうる製品といえないことは明らかである。
原告は、芯ずれの生じていない(二叉腕(1)の軸受孔(4)の中心が被結合軸の軸線に一致するように加工されている)予備組立されたカルダン継手を使用すれば、
十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線とが一致した製品が得られる、と主張するが、右主張のカルダン継手を使用する場合でも右所望の製品が得られないことは前説示のとおりである。また、原告は、被告装置の表示・その取扱説明書に被告装置が手動で作動しうる旨の記載がある、と主張するが、前説示の際問題としたのは、
自動・手動のいずれで作動するかではなく、自動・手動に限らず、原告主張の各作業形式では、調節ナツト(26)が機能しないことを前提としているために、十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線とが一致した製品が得られない、ということである。仮に被告装置が手動で作動しうるとしても、原告主張の手動作業形式(T)の作動方法では不良品を製造することとなる。原告の右主張は理由がない。
以上のとおり、原告主張の各作業形式では産業上利用しうる所望の製品は製造しえない。被告らは前認定の目的を有する会社であつて、このような不良品を製造するような作動方法で運転される被告装置を製造・販売・貸渡し等しているとは考えられない。被告装置は、現実には原告主張の各作業形式で作動されていない、というほかはない。したがつて、原告主張の各作動方法を前提にする被告装置の特定・表示についての主張並びに右特定・表示を前提にした被告装置の構成の分説の主張は、いずれも現実になされていない作動方法を前提にするものであつて採用することができない。
原告は、装置発明の侵害対象は装置そのものであるから、装置の作動方法がどのようなものであるかは問題とならないかのごとく主張するが、当たらない。装置発明に基づく特許権侵害訴訟において、差止めの対象とされうる装置が、現実に存在する装置であることを必要とすることは論を俟たない。本件においては、装置発明に基づく原告の権利に対して現実に存在する被告装置が何であるか、すなわち現実に存在する被告装置の特定・表示をいかにすべきか、これに基づく構成の分説がどのようになるかを問題にしているのであつて、これを決定するために被告装置の作動方法が問題になるのである。そして、
現実に採られていない架空の作動方法に基づく装置の特定・表示及びこれに基づく構成の分説が、現実に存在する装置の特定・表示及びこれに基づく構成の分説といえないことは明らかである。原告の右主張は理由がない。
そうすると、原告主張の別紙物件目録の記載のうち、被告らの指摘する請求原因に対する認否3(三)ないし(七)の点については、被告ら主張のとおりに訂正・変更・付加・削除がなされるべきである。同3(一)の第1図の説明文及び同3(二)の第2ピストン(15)の装設態様に関しては、原告主張の表現が不当とまでいうことはできないから、原告主張どおりの表現で差支えないと考える。
三 原告主張の各作業形式を採り得ないことは右にみたとおりであるが、原告の主張に鑑み、右各作業形式で作動させた被告装置と本件各発明とを対比検討する。
まず、被告装置が本件原発明の構成要件(ロ)、本件分割発明の構成要件(b)を充足するかについてみるに、構成要件(ロ)、構成要件(b)にいう「継手十字体を軸の二叉端部(フオーク部)に対して正しい相対位置におく機構」とは、前掲甲第一号証、第五号証によれば、少なくとも、被結合軸の軸線が継手十字体(被告装置では十字軸)の中心を通るようにしうる機構を意味する、ということができる(本件原特許公報二欄七行目ないし一四行目、本件分割特許公報二欄一一行目ないし一八行目)。しかるところ、原告は、被告装置において、各作業形式の(二)の工程の下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)によるカルダン継手の把持・固定をもつて右の「正しい相対位置におく機構」に該当する、と主張するのであるが、
被告装置において、各作業形式の(二)の工程で下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)によつてカルダン継手を固定しても、二つの被結合軸の軸線は十字軸の中心を通らないことはさきに判示したとおりであるから、原告の右主張が理由のないことは明らかである。したがつて、被告装置は、本件原発明の構成要件(ロ)、本件分割発明の構成要件(b)を充足しない。
次に、被告装置が本件追加発明の構成要件(は)、
本件分割発明の構成要件(d)を充足するかについて判断する。
まず、本件追加発明の拡開の機構をみるに、前記争いのない事実によると、本件追加発明は本件原発明に対して追加の関係にあるが、前掲甲第二号証によれば、本件原発明の装置を使用する際に、押込み終了後押込力を更に作用させると、二叉腕が押込方向と逆方向に所定の距離だけ拡開せしめられ、この際押込力発生装置も二叉腕の拡開量と同じ距離だけ押込方向と逆の方向に移動し、この移動運動を制限するためにストツパーが設けられるが、該ストツパーは種々に異なる寸法のカルダン継手に応じて押込力発生装置の位置を調節するための調節範囲が極めて狭く、本件追加発明は、これを改良して前記特許請求の範囲記載の構成を採用したものである、と認められる(本件追加特許公報三欄三行目ないし四欄二六行目、七欄九行目ないし八欄一〇行目)。
ところで、前掲甲第一号証によると、拡開の方法について本件原特許明細書に開示されているのは、軸受を継手十字体のピンに完全に接触するまで押込んだ後に押込力を更に作用させると、軸受がピンに接していてそれ以上これを押込むことができないので、押込力は軸受を介しピンに作用して二叉腕には作用せず、したがつて力の釣合が崩れ、反力伝達部材によつて引き続き二叉腕に伝達される反力が二叉腕を所定距離だけ最初の位置から押込方向とは逆の方向に弾性変形させて拡開させる、というものであり(本件原特許公報三欄一四行目ないし三〇行目、五欄三〇行目ないし六欄一〇行目)、これ以外の方法・機構による拡開の開示はなされていない。そして、前掲甲第二号証によると、本件追加特許明細書で実施例として開示されている拡開の機構も本件原特許明細書に開示のそれと同一である、と認められるのである(本件追加特許公報六欄三行目ないし二〇行目)。そうすると、本件追加発明の構成要件(は)にいう反力伝達部材は、拡開に際して押込力に基づく反力を利用するための反力伝達部材としての機能を営むことを必要とするものである、と解することができる。
原告は、
本件追加発明においては構成要件(に)・(ほ)に掲げられた事項が発明の要旨をなすものであつて、拡開の態様・方法・順序は発明の要旨とならない旨主張する。
しかし、構成要件(に)・(ほ)に掲げられた事項が本件追加発明の眼目である、
とはいいえても、だからといつて、拡開の態様・方法・順序が発明の要旨でないとはいえない。けだし、本件追加発明の特許請求の範囲には、押込力発生装置と二又部の腕(以下「二叉腕」という)との間に反力伝達部材が配置されていることが必須の構成要件として掲げられており、右の反力伝達部材の意味内容は、特許請求の範囲の記載のみでは不明であるので、明細書の発明の詳細な説明実施例の記載に基づいてこれを明確にすることになるが、その結果はさきに検討したとおり、押込力に基づく反力を利用した拡開の機構の一部を構成する部材として理解されるのであり、拡開の態様・方法は右のようなものとして一義的に確定され、発明の要旨の一部を構成する、といいうるからである。原告の右主張は理由がない。
右説示の本件追加発明の拡開の機構に照らし、被告装置における拡開の機構をみると、原告主張の各作業形式を通じて、被告装置の第2ピストン(15)に枢着されたフツク連結レバー(31)・フツク(32)が二叉腕(1)に当接され、第2油圧シリンダ(12)内へ油圧路(36)から圧油が供給されて第2ピストン(15)が押込方向とは逆方向に後退させられることにより、拡開が行われる(ただし、自動作業形式(T)で間隔(S)を零にした場合には拡開は行われない)。そして、原告の主張によると、第1油圧シリンダ(11)によつて動かされる第1ピストン(14)がカシメツール(20)を前進させて押込みかしめ作業を行うのであるが、原告主張の各作業形式において、右第1油圧シリンダ(11)などによる押込みかしめ作業は、拡開工程の前又は後に独立して行われ、拡開工程中には押込方向に第1ピストン(14)を前進させるための第1油圧シリンダ(11)を作動させていないことが明らかである。換言すれば、右拡開は、第1油圧シリンダ(11)の作動していない状況のもとで、
第2油圧シリンダ(12)において発生する独自の力によつて行われるのであり、
原告主張の第1油圧シリンダ(11)の押込力に基づく反力によつて行われるのではない。したがつて、拡開が行われる際、第2ピストン(15)と二叉腕(1)との間に配置されるフツク連結レバー(31)・フツク(32)は、押込力に基づく反力を利用するための反力伝達部材としての機能を営むものではない。
そうすると、本件追加発明における反力伝達部材は前記のような意味を有する部材であるから、被告装置におけるフツク連結レバー(31)・フツク(32)は、
反力伝達部材に該当しないことが明らかである。したがつて、被告装置は、本件追加発明の構成要件(は)を充足しない。
また、後に説示のとおり、本件分割発明における保持クランプも、拡開に際して押込力に基づく反力を利用するための反力伝達部材としての機能を営むものである、ということができ、同様に、被告装置のフツク連結レバー(31)・フツク(32)は右保持クランプに該当せず、被告装置は本件分割発明の構成要件(d)を充足しない。
なお、自動作業形式(T)で間隔(S)を零にした場合は拡開が行われないが、
本件追加発明・本件分割発明は、前説示のとおり若しくは後に説示のとおり、拡開の機構を発明の要旨の一部とすることが明らかであるから、拡開が行われない作動方法を前提とした被告装置が本件追加発明・本件分割発明の構成要件を充足しないことはいうまでもない。
以上のとおり、原告主張の各作業形式で作動させた被告装置と本件各発明を対比すると、被告装置は、本件原発明の構成要件(ロ)、本件追加発明の構成要件(は)、本件分割発明の構成要件(b)・(d)を充足せず、本件各発明の技術的範囲に属しない、といわなければならない。
四 次に、前記特定された被告装置について、被告らの主張する別紙作動目録(二)記載の作動方法をもしんしやくして、本件各発明と対比検討する。
被告装置において、本件原発明の構成要件(ニ)、本件追加発明の構成要件(は)にいう押込力発生装置に該当するのは、
案内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)を押進めて二叉腕(1)の軸受孔(4)内に軸受(6)を押込み、軸受ケース(7)の底面を十字軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させるところの、送り油圧シリンダ(28)・送りピストン(29)である、と認められる。そして、本件原発明・本件追加発明では、押込力発生装置と二叉腕との間に反力伝達部材が配置されていることを必須の構成要件とするのに対し、被告装置の押込力発生装置である送り油圧シリンダ(28)・送りピストン(29)と二叉腕(1)との間には反力伝達部材に相当するものが配置されていない。
前掲甲第一、第二号証によると、本件原発明・本件追加発明は、右構成を採ることにより、押込みに際しての押込力によつて生ずる反力を二叉腕に伝達し、二叉腕で押込力と同じ大きさの反力の作用を受けて力の釣合が生ずることにより、二叉腕の弾性変形を防止する作用を有し、本件追加発明は、押込終了後更に押込力を作用させると、力の釣合が崩れ反力により二叉腕を拡開させる作用も有することが認められるところ、被告装置は、反力伝達部材に相当するものが配置されていないから、右のような作用を有しない。なお、被告装置には、第2ピストン(15)にフツク連結レバー(31)により枢着されたフツク(32)が二叉腕(1)に当接しうる構造となつているが、フツク連結レバー(31)・フツク(32)は、第2油圧シリンダ(12)内へ油圧路(36)から圧油が供給されて第2ピストン(15)が押込方向とは逆方向に後退させられることにより、二叉腕(1)を拡開させるものであつて、押込力発生装置(送り油圧シリンダ(28)・送りピストン(29))の作動時には使用されていないから、押込力によつて生ずる反力を利用する部材ではない。
次に、本件分割発明は、「プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分に一端部を枢着されかつ他端部にフオーク腕の内面と係合するフツクを有している保持クランプを使用して、フオーク腕を弾性変形させて拡開させる機構を有すること」(構成要件(d))を必須の構成要件とする。右機構については、
前掲甲第五号証によると、本件分割特許明細書の発明の詳細な説明中の実施例で開示されていて(本件分割特許公報四欄九行目ないし三五行目、五欄一行目ないし六欄一行目)、これ以外に具体的開示はない。
右開示例によると、プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分とは装置11であり、装置11は、軸受13を継手十字体のピン7に遊びなしに接触するまでフオーク腕2の孔9内に押込む作用を有し、フオーク腕2との間に設けられた押込力に基づく反力を伝達するための保持クランプ14により、押込過程の際に生じる反力が装置11からフオーク腕2に伝達され、押込過程中、フオーク腕2が、一方の側から押込力により他方の側から押込力と同じ大きさの反力により負荷されてその位置を不動に保ち、押込完了後、更に押込力が作用されると、軸受13のカツプ底が継手十字体のピン7に接していてそれ以上これを押込むことができないので力のバランスが崩れ、押込力は保持クランプ14を介してフオーク腕2を拡開し、
押込力を除去すると、フオーク腕2の弾性変形によつて生じたもどりばね力が軸受13に作用してこれを継手十字体のピンに圧着する、とされている。右開示例は、
本件分割発明の課題・目的として本件分割特許明細書に掲げられたところ(本件分割特許公報三欄一五行目ないし四〇行目)に照応する。
ところで、本件分割発明は、本件原発明の特許出願から分割出願された特願昭四四―八一〇四一特許出願から分割出願されて特許されたものであるから、その発明の要旨とするところは、本件原発明にかかる特許の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものと解される。成立に争いのない乙第一号証の一・二によれば、右明細書において、本件原発明の課題・要旨として記載されたところ(右明細書の四頁一二行目ないし五頁一八行目)は、本件分割発明の前記課題・目的の記載と同一であり、実施例として記載されたところ(右明細書の八頁一一行目ないし九頁一一行目、一〇頁一行目ないし一二頁一一行目)は、本件分割発明の前記開示例と実質的に同一である。そして、右乙号証によれば、
右明細書及び図面に記載された事項は、押込力発生装置により個々の軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで二叉腕の孔内に押込む際、押込力に基づく反力を二叉腕のところで支えて二叉腕の弾性変形を防止すること、及び、軸受をピンに完全に接触するまで押込んだ後更に押込力を作用させると軸受が継手十字体のピンに接していてそれ以上これを押込まず、押込力が軸受を介して継手十字体のピンに作用して二叉腕に作用せず、力の釣合が崩れ、反力伝達部材によつて引き続き二叉腕に伝達される反力が二叉腕を所定距離だけ最初の位置から押込方向とは逆の方向に弾性変形させて拡開させ、次いで押込力を取除き二叉腕の拡開によつて生じるもどりばね力により軸受を継手十字体のピンに圧着させる、ということであり、また、右明細書及び図面において、押込力発生装置に該当するものとして装置11が開示されており、これ以外のものの開示はない。
そうすると、本件分割発明にいう「プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分」とは、本件原発明明細書に記載された押込力発生装置以外のものを意味するとは解し難い。そして、本件原発明及び本件分割発明の各明細書の右記載から考えると、本件分割発明の技術的骨子は、プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分とフオーク腕との間に前記態様で配置された保持クランプにより、押込過程中一方からは押込力により他方からは押込力と同じ大きさの反力によつて負荷されてその位置を不動に保つたフオーク腕が、押込完了後更に押込力の作用を受けると、軸受が継手十字体のピンに接していてそれ以上これを押込むことができなくなり、押込力が軸受を介し継手十字体のピンに作用してフオーク腕に作用せず、力の釣合が崩れ、保持クランプによつて引き続きフオーク腕に伝達される反力がフオーク腕を所定距離だけ最初の位置から押込方向とは逆の方向に弾性変形させて拡開させることにある、と認めることができる。
したがつて、本件分割発明の構成要件(d)所定の機構とは、押込力発生装置とフオーク腕との間に反力伝達部材である保持クランプが前記態様で配置され、
押込力によつて生ずる反力を利用してフオーク腕を拡開させる機構である、と解するのが相当である。
これを被告装置についてみるに、前記のとおり、押込力発生装置に該当するものは送り油圧シリンダ(28)・送りピストン(29)であるが、これと二叉腕(1)との間には反力伝達部材である保持クランプに該当するものは配置されていない。第2ピストン(15)と二叉腕(1)との間にはフツク連結レバー(31)・フツク(32)が配置されて二叉腕(1)を拡開するが、右拡開は、押込力によつて生ずる反力を利用することによつてなされるものではない。
以上のとおりであつて、被告装置は、本件原発明の構成要件(ニ)、本件追加発明の構成要件(は)、本件分割発明の構成要件(d)を充足せず、当該構成要件に基づく作用を果しえないことが明らかであるから、その余の点につき判断するまでもなく、本件各発明の技術的範囲に属しない、というべきである。
五 そうだとすると、被告らが業として被告装置を製造・販売し、又は貸渡すことは、なんら本件各特許権を侵害するものではないから、右侵害を前提とする原告の請求は、すべて理由がない。
よつて、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
物件目録ジヨイントヨーク自動組立機JYA―1型第1図は被告装置のカルダン継手組立機の装置の一部の縦断面略図、第2図は同部分平面図、第3図は第1図のA―A線の断面図、第4図は支持体の支柱補強ブリツジを除いた組立機全体の平面図、第5図は支持体の部分詳細拡大図、第6図は組立機の正面図である。
第1図において(1)はカルダン継手の二叉腕であつて、その各被結合軸が機台(52)上に設けた下部チヤツク(2)及び支持体(55)に取付けた上部バイス(3)によつて組立機に固定されるようになつている。(4)は二叉腕(1)に形成された軸受孔、(5)は十字軸のトラニオン、(6)は軸受孔(4)に挿入された半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受、
(7)は軸受(6)の軸受ケースで十字軸のトラニオン(5)の周面にころがり接触するニードル(8)を収容している。(9)は装置のヘツド全体を表わすもので、ヘツドの外殻を形成するヘツドボデー(10)を有している。ヘツドボデー(10)は第1油圧シリンダ(11)と第2油圧シリンダ(12)とロツク及びロツク解除シリンダ(13)を有している。第1油圧シリンダ(11)内に第1ピストン(14)が、第2油圧シリンダ(12)内に第2ピストン(15)が摺動可能に設けられている。また、ロツク及びロツク解除シリンダ(13)内にはストツパ(16)が摺動可能に設けられ、このストツパ(16)の周囲に、ロツク及びロツク解除シリンダ(13)へのストツパ(16)の固定及び固定を解除する係止機構(17)が設けられている。(18)は案内パンチ押軸で第1油圧シリンダ(11)、第2油圧シリンダ(12)、ロツク及びロツク解除シリンダ(13)、第1ピストン(14)、第2ピストン(15)及びストツパ(16)と同軸にこれらを貫通して移動可能に設けられている。(19)は案内パンチで、後端を案内パンチ押軸(18)によつて押されるように配置されている。(20)はカシメツールで案内パンチ(19)と同軸にその外側に設けられ、摺動できるようになつている。
カシメツール(20)と第1ピストン(14)とはナツト(21)によつて固定連結されている。(22)はスペーサリングで、第1ピストン(14)によつてカシメツール(20)を前進させる際、案内パンチ(19)を介して軸受(6)をトラニオン(5)に隙間がなくなるまで押込むようにカシメツール(20)の前進量を規定するためのものである。(23)はばねで、第2油圧シリンダ(12)の後方に突出した第2ピストン(15)の後端部に形成された複数個の有底孔と、ロツク及びロツク解除シリンダ(13)から前方に突出したストツパ(16)の前端部に形成されたフランジとの間に挿入され、第2ピストン(15)の後端部とストツパ(16)との間に間隔(S)を保持するために用いられる。(24)は調節ナツトで、"これに設けられた内つば(24)′でストツパ(16)のフランジに係合し、更に、このナツト(24)のめねじは第2ピストン(15)の後端部に形成されたおねじに螺合され、このナツト(24)の調節により第2ピストン(15)の後端面とストツパ(16)のフランジ面との間隔(S)があらかじめ決められる。しかし、この間隔(S)が零になるようにナツト(24)を締付けることもできる。
(25)は調節ナツト(24)の弛み止め用のロツクナツトである。(28)はヘツド(9)の送り油圧シリンダ、(29)は送りピストンでその前端部に形成されたおねじ(29)′がヘツドボデー(10)の後壁に設けられためねじ(30)に螺合固定されている。(26)は案内パンチ押軸(18)の最大前進位置を調節するナツトで、これはヘツドボデー(10)の後壁より前方に突出した前記送りピストン(29)のおねじ(29)′に螺合され、案内パンチ押軸(18)を介しての案内パンチ(19)の最大前進位置を決定することもできるし、ヘツド前進位置で、案内パンチ押軸(18)と調節ナツト(26)とが接触しないように調節することもできる。(27)は調節ナツト(26)の弛み止め用のロツクナツトである。なお、ヘツドボデー(10)の後部両側には調節ナツト(26)及びロツクナツト(27)を操作するための窓(50)が設けられている。(45)は緩衝用押軸で、これは送りピストン(29)の中央を貫通しており、その長さの中程に設けられたフランジ(46)が送りピストン(29)に形成せられた中空部(47)を摺動しうるようになされ、かつ、フランジ(46)と中空部(47)の底との間にばね(41)が介在されることにより、この緩衝用押軸(45)の先端は案内パンチ押軸(18)の後端に常に当接している。第2図の(31)は第2ピストン(15)の両側にピン(51)により枢着されたフツク連結レバー、(32)はフツク連結レバー(31)に固定されたフツクで昇降装置(44)により上・下に運動できるようになつている。(33)は二叉腕(1)の端部に当接する部分である。なお、"各油圧シリンダには油圧路(34)・(35)・(36)・(37)・(38)・(39)がロツク及びロツク解除シリンダ(13)には油圧路(43)がそれぞれ設けられている。また、ヘツド(9)は案内レール(40)によつて案内されながら移動するようになつている。(42)は送り油圧シリンダ(28)の位置決め装置である。送り油圧シリンダ(28)は、第3図に示されているように、その下端両翼部(48)をヘツド(9)と共通の案内レール(40)の両側立上り部に内方突出状にボルト止めする締付板(49)で締付けることにより固定されている。
第1図において、ヘツド(9)及び送り油圧シリンダ(28)は一個だけ図示されているが、組立機全体では第4図に示すとおりヘツド及び送り油圧シリンダが前後左右に交叉して四個配置されている。
第4図ないし第6図に示すように、機台(52)上には間隔をもつて二本の支柱(53)・(54)が設けられており、上部バイス(3)を取付けた支柱体(55)が、ヘツド(9)の上方を跨いでその一端側を一方の支柱(53)に軸(56)により枢着されている。支持体(55)の他端側の中程には平行に突出した突起(57)・(58)が設けられており、その突起(57)・(58)に形成された孔にピン(59)が回動可能に嵌挿され、ピン(59)の一端部に固着されたハンドル(60)により回動されるようになつている。ピン(59)には一対の挟持部材(61)・(62)が、ピン(59)の軸方向に移動可能でかつピン(59)と一体となつて回動可能に嵌挿されている。そして、挟持部材(61)・(62)は、突起(57)・(58)と挟持部材(61)・(62)間にそれぞれ配置されたばね(63)・(64)によつて互いに付勢されて他方の支柱(54)に固着された凸状部材(65)を挟持している。ボルト(66)・(67)は調節ボルトであつて、作業開始前に下部チヤツク(2)の中心に上部バイス(3)の把み位置の中心を一致するように調節する際、第5図に示す状態から隙間(δ)がなくなるまでねじ込んで支持体(55)を固定したり、
作業開始後に隙間(δ)をあけておいて作業できるようにしたり、隙間がなくなるように締付けておいて作業できるようにするためのものである。
第1図<12342-001>第4図<12342-002>第5図<12342-003>第6図<12342-004>作動目録(一)被告装置の作動についての以下の各作業形式では、調節ナツト(26)がヘツド前進位置で案内パンチ押軸(18)と接触しないようにあらかじめ調節されている。
自動作業形式(T)は定寸拡開(間隔を(S)にする場合)を、自動作業形式(U)及び手動作業形式(T)は定圧拡開を行う。
一自動作業形式(T)〔第2ピストン(15)の端部とストツパ(16)のフランジ面との間の間隔(S)は二叉腕の所望の拡開寸法(拡開寸法零を含む)に予め調整されている。〕(一)軸受(6)及び十字軸が予備組立によりカルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)に挿入された状態でカルダン継手を装置の下部チヤツク(2)、上部バイス(3)に配置し、送りピストンの右端面に加わる油圧を高めて送りピストン(29)を前進させることにより、ヘツド(9)全体を第7図に示す初期位置から前進させて案内パンチ(19)の先端を二叉腕(1)の軸受孔(4)内にある軸受(6)の底面に当て、案内パンチ(19)の軸線に対しカルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線を一致させる(第8図)。すなわち案内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)は第1ピストン(14)、第2ピストン(15)及びストツパ(16)の各中心に可動的に貫通されているので、ヘツド(9)全体を送りピストン(29)により前進させると、送りピストン(29)の中空部(47)内にあるばね(41)によりフランジ(46)の後面を支えられた緩衝用押軸(45)も前進し、したがつて案内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)も前進して、案内パンチ(19)の先端が二叉腕(1)の軸受孔(4)内にある軸受(6)(詳細な形状は第12図参照)の底面に当たる。案内パンチ(19)は当初ヘツド(9)とともに前進するが、
案内パンチ(19)の先端が軸受(6)の底面に当たると、案内パンチ(19)は軸受(6)の底面をばね(41)の作用で押し、軸受(6)の底面の形状に応じた案内パンチ(19)の先端面に軸受(6)の底面をそわせる結果、案内パンチ(19)の軸線とカルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線が一致させられる。
(二)その後送りピストン(29)を僅か後退させ、ヘツド(9)を若干戻す。
その間に下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)によつてカルダン継手を固定する。その結果トラニオン(5)が二叉腕(1)の軸受孔(4)に対して正しい相対位置におかれる。
(三)送りピストン(29)を再び前進させてヘツド(9)を(一)の工程の第8図の位置まで前進させる。この場合下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)がカルダン継手を固定しているので、その状態は第9図に示すようになる。次にフツク連結レバー(31)を下降させ、第2ピストン(15)を弱い油圧により後退させ、フツク(32)を二叉腕(1)の内側面に当接させる。この際、あらかじめ調節ナツト(24)によつてセツトされた第2ピストン(15)の端面とストツパ(16)のフランジ面との間隔(S)はそのまま保たれている。このようにしてから、ストツパ(16)をロツク及びロツク解除シリンダ(13)内の係止機構(17)によつて固定する。次に更に油圧を強め、第2ピストン(15)をその後端がばね(23)のばね圧に打ち勝つてストツパ(16)のフランジに当接するまで後退させ、二叉腕(1)を拡開する(第10図)。間隔(S)を零に調整した場合拡開は行われない。
(四)(三)の状態において第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン(14)を前進させて、カシメツール(20)を前進させる。この際所定距離前進するとスペーサリング(22)の前端が案内パンチ(19)の後端に当接して、これによつて案内パンチ(19)は軸受ケース(7)の端面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込み、かつこの位置でカシメツール(20)によるカシメ作業が終了する(第11図)。
(五)その後第2ピストン(15)を前進させてフツク(32)を二叉腕(1)から前へ離し(第12図)、次に第1ピストン(14)を後退させてカシメツール(20)を初期の位置に戻す(第13図)。それから図示しない装置でフツク(32)を持上げてヘツド(9)を初期の位置に戻し、下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)を解除する。
二自動作業形式(U)〔第2ピストン(15)の後端部とストツパ(16)のフランジ面との間の間隔(S)を零になるように締切つておいて作業する〕この形式の工程(一)、(二)、(四)、(五)は、自動作業形式(T)の工程(一)、(二)、(四)、(五)と同じである。(三)の工程が次のように変わる。
(三)′送りピストン(29)を再び前進させてヘツド(9)を(一)の工程、
すなわち第8図に相当する位置まで前進させる。次にフツク連結レバー(31)を下降させ、第2ピストン(15)を後方に弱い圧力で後退させてフツク(32)を二叉腕(1)の内面に当接させた後、更に油圧を高めて所定の圧力に上昇させる。
この際第2ピストン(15)の後退移動によりストツパ(16)がともに後退する。このようにして二叉腕(1)が拡開される。その後ロツク及びロツク解除シリンダ(13)内の係止機構(17)によつてストツパ(16)を固定する。
三手動作業形式(T)〔この作業形式では第2ピストン(15)の後端部とストツパ(16)のフランジ面との間の間隔(S)を零に締切つて作業が行われる〕前述の(一)、(二)の工程は、この作業形式でも同一である。ただし、間隔(S)が零に調整されているので、その初期位置の状態は第14図に示すようになり、案内パンチ(19)の先端面に軸受(6)の底面を沿わせて、案内パンチ(19)の軸線とカルダン継手の二叉腕の軸受孔の軸線を一致させた(一)の工程の状態は第15図に示すようになる。その後の工程は次のようになる。
(三)″送りピストン(29)を再び前進させて、ヘツド(9)を(一)の工程の第15図に示す位置まで前進させる。この場合、
下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)はカルダン継手を固定しているのでその状態は第16図に示すようになる。次にフツク連結レバー(31)を下降させ、第2ピストン(15)を油圧により後方に弱い圧力で後退させ、フツク(32)を二叉腕(1)の内側面に当接させる。次にストツパ(16)をロツク及びロツク解除シリンダ(13)内の係止機構(17)によつて固定する。それから第2ピストン(15)の左端面に作用する油圧を更に増加する(第17図)。
(四)″(三)″の状態において第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン(14)を前進させて、カシメツール(20)を前進させる。この際所定距離前進するとスペーサリング(22)の前端が案内パンチ(19)の後端に当接して、これによつて案内パンチ(19)は軸受ケース(7)の端面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込み、かつこの位置でカシメツール(20)によるカシメ作業が終了する(第18図)。
(五)″その後ロツク及びロツク解除シリンダ(13)にストツパ(16)を固定している係止機構(17)の固定作用を油圧路(43)を介してロツク及びロツク解除シリンダ(13)内の油圧を低下することによつて解除する。その結果第2油圧シリンダ(12)の油圧路(36)を介して加わる所定の高圧に依存して第2ピストン(15)は後方に後退する。それとともに第2ピストン(15)に連結されたフツク連結レバー(31)に固定されたフツク(32)は後方に移動して二叉腕(1)を拡開する。この場合カシメ作業が付加的に進行する。この拡開終了位置を第19図に示す。
(六)″その後第2ピストン(15)を前進させ、フツク(32)を二叉腕(1)から前へ離し、次に第1ピストン(14)を後退させてカシメツール(20)を初期位置に戻し、図示していない装置でフツク(32)を持上げてヘツド(9)を初期位置に戻し、下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)を解除する。
第7図<12342-005>第8図<12342-006>第9図<12342-007>第10図<12342-008>第11図<12342-009>第13図<12342-010>第14図<12342-011>第15図<12342-012>第16図<12342-013>第17図<12342-014>第18図<12342-015>第19図<12342-016>取扱説明書5操作方法5―1稼動準備(1)機械制御装置のメインノーヒユーズブレーカをONする。
〈状態〉電源表示ランプON(白色)(2)運転準備釦を押す。
〈状態〉運転準備表示ON(緑色)○油圧用モータ起動しポンプが作動します。
○全ての油圧回路が作動可能となります。
(3)圧力計の読みで回路設定圧力を定めます。
圧力計(A)……140kg/cm3圧力計(B)……30kg/cm3KD―280Aの油圧圧力計(C)……70kg/cm3ユニツトを参照のこと。
(4)エア源コツクを開く。
圧力計(F)……4kg/cm3〈自動の場合〉1サイクルスイツチで”自動“を選択します。
2サイクル起動釦を押します(キノコ型2個両手押し)。
〈手動の場合〉4―2操作パネルの説明により操作して下さい。
4―2操作パネル(付録の14番140050参照)(1)(白色)表示ランプ(2)運転準備(黒色)釦この釦を押すと油圧タンク部のポンプ1、2が作動します。
(3)運転準備(緑色)表示ランプ運転準備釦を押すと点灯します。
(4)自動運転中(橙色)表示ランプサイクル用セレクターSWを自動に選択し、サイクル起動釦を押すと点灯します。
(5)サイクル動作を手動、自動させる場合に選択するスイツチです。
(6)起動ベツド上にある2個のキノコ型の押し釦を両手で押すと、一サイクルの動作を終えて停止します。
(7)全停止(赤色)釦この釦を押すと停止状態となり、すべての機能は動作できません。
(8)ヘツド寸動ヘツド部、動作を寸動させたい場合、このスイツチを”入“に選択させ、ヘツド釦を押すと、押している間のみ動作します。
寸動させない場合は、このスイツチを”切“に選択します。
(9)ヘツドヘツド部、動作を前進、後退させたい場合、このスイツチで選択し、押釦を押して動作させます。
(10)バイス上部、下部固定装置で動作を、前進、後退させたい場合、このスイツチで選択します。
また自動を選択しておけば、この動作は自動的に動作します。
(11)チヤツクチヤツク部で動作を前進、後退させたい場合、このスイツチで選択します。
(12)チヤツクチヤツク1とは、コレツトチヤツク用で、バルブが励磁すればチヤツクします。
またチヤツク2とは、フインガーチヤツク用で、バルブが切れるとチヤツクします。
(13)フツクフツク上下位置で動作を上昇、下降及び引張りさせたい場合、このスイツチで選択します。
(14)フツクロツクフツクロツク部でロツクしたい場合、このスイツチを”入“に選択させます。ロツクしない場合に”切“を選択します。
(15)かしめツール寸動かしめツールを寸動させたい場合、このスイツチを”入“に選択させ、かしめツール釦を押すと、押している間のみ動作します。
寸動させない場合は、このスイツチを”切“に選択します。
(16)かしめツールかしめツールの動作を前進、後退させたい場合、このスイツチで選択し、押釦を押して動作させます。
<12342-017><12342-018>作動目録(二)一被告装置の組立機にセツトされるのは、予備組立されたカルダン継手である。
この予備組立されたカルダン継手は、第1図に示されたように、一対の被結合軸の先端に設けられた二叉腕(1)に貫通状に形成された軸受孔(4)内に、十字軸のトラニオン(5)が挿入配置されるとともに、前記各軸受孔(4)内に外方から半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受(6)が挿入されて、十字軸のトラニオン(5)を軸受孔(4)内で回動自在に支持しているものであり、軸受(6)の軸受ケース(7)は、十字軸のトラニオン(5)の周面にころがり接触する複数個の円筒状ニードル(8)を収容している。
予備組立は次の順序で行う。ハンドプレスのテーブル上に取付けられた下方の圧入治具に、
被結合軸の二叉腕(1)は、その軸受孔(4)を基準にして第1図の(2)ように取付けられる。次に軸受(6)を第1図の(3)のように上部の軸受孔(4)に置き、第1図の(4)のようにハンドプレスのラムに取付けた上方の圧入治具により軸受(6)を軸受孔(4)内に約半分程度押込む。この状態で被結合軸をハンドプレスから取出し、軸受(6)を押込んだ方を下方にして第1図の(5)に示すように十字軸を軸受孔(4)内に挿入する。そして再びこの状態で被結合軸をハンドプレスに第1図の(6)に示すようにセツトし、第1図の(3)と同様に、上方の軸受孔(4)に軸受(6)を置き、上方の圧入治具により軸受(6)を軸受孔(4)内に押込む。その結果、第1図の(7)に示すように、軸受ケース(7)の底面とトラニオン(5)の端面との間に僅かな隙間が残された状態に予備組立されたカルダン継手が得られる。この隙間は十字軸の位置決め工程のため必要となる。軸受(6)の軸受孔(4)内への圧入は、第1図の(8)に示した圧入治具の角度θの斜面が第1図の(9)に示した軸受孔(4)内の角度αの斜面に当接するまで行う。このようにして一方の被結合軸の二叉腕(1)の軸受孔(4)に軸受(6)の押込み、十字軸の挿入が完了する。他方の被結合軸の二叉腕(1)の軸受孔(4)内への軸受(6)の押込み、十字軸の挿入も前記作業を繰返すことによつて行われる。予備組立されたカルダン継手は第1図のようになる。
二被告装置の組立機でカルダン継手を組立てる工程は、次のとおりである。
(一)カルダン継手の配置工程(第2図、第3図、第4図、第13図、第14図及び第15図)一項で述べた予備組立されたカルダン継手を、組立機の下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)に、カルダン継手の二叉腕(1)の各軸受孔(4)の中心軸線X軸Y軸が平面十字形に配置された各装置の軸受押込作業線X軸Y軸にほぼ一致するよう、目視によつて配置する。この段階では、カルダン継手の各被結合軸は開放された下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)に装入されただけで固定されていない。
(二)X軸Y軸の軸線合わせ工程(第5図)この工程では、前記(一)の工程で組立機の下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)に配置されたカルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の中心軸線X軸Y軸を軸受孔(4)に挿入された軸受(6)の軸受ケース(7)の底面を利用して組立機の軸受押込作線X軸Y軸に一致させる。すなわち、送り油圧シリンダ(28)内に油圧路(39)から圧油を供給し、送りピストン(29)を送り油圧シリンダ(28)の前壁に当接しない範囲で前進させ、ヘツドボデー(10)を同体的に案内レール(40)に沿つて前進させる。このとき案内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)は送りピストン(29)内にあるばね(41)によりフランジ(46)が押されている緩衝用押軸(45)の先端で押された状態でヘツドボデー(10)とともに前進する。かくして、案内パンチ(19)の先端は軸受ケース(7)の底面をばね(41)の作用で緩かに押し、軸受ケース(7)の底面を案内パンチ(19)の先端に正しく沿わせることにより、その結果として二叉腕(1)の向きを矯正し、カルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の中心軸線X軸Y軸を案内パンチ(19)による軸受押込作業線X軸Y軸に一致させる。
(三)継手の保持工程(第6図)この工程では、前記(二)の工程で組立機の軸受押込作業線X軸Y軸に二叉腕(1)の軸受孔(4)の中心軸線を一致させたカルダン継手を下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)で保持し、組立作業中この状態を維持する。すなわち、送り油圧シリンダ(28)内に油圧路(38)から圧油を供給して前進位置にある送りピストン(29)を後退させ、これによつてヘツドボデー(10)案内パンチ(19)、案内パンチ押軸(18)を後退させる。この場合の後退は、前記(二)の工程で軸受ケース(7)の底面を緩かに押している案内パンチ(19)の先端が軸受ケース(7)の底面から離れる位置までである。その後、カルダン継手の下方の被結合軸は組立機の作業中心に配置された下部チヤツク(2)で掴持され、
継手の上方の被結合軸は機台(52)上で水平にY軸方向に僅かに移動し得るように設けられた上部バイス(3)でX軸方向に把持され、この状態は組立工程中維持される。
(四)十字軸の位置決め工程(第7図)この工程では、カルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)内に挿入された軸受(6)を、その軸受ケース(7)の底面が十字軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込み、これにより十字軸をその中心が組立機の軸受押込作業線X軸Y軸の交点に一致するように位置決めする。すなわち、送り油圧シリンダ(28)内に油圧路(39)から再び圧油を供給し、送りピストン(29)を送り油圧シリンダ(28)の前壁に当接するまで前進させ、ヘツドボデー(10)を案内レール(40)に沿つて前進させる。この送りピストン(29)の前進により案内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)は、前記(二)の工程の場合と同様に緩衝用押軸(45)の先端で押された状態でヘツドボデー(10)と一緒に前進する。案内パンチ(19)の先端が軸受ケース(7)の底面に当接すると、前進する送りピストン(29)は緩衝用押軸(45)及び案内パンチ押軸(18)を介して案内パンチ(19)を押しているばね(41)を圧縮しながら前進し、送りピストン(29)の先端に螺着された調節ナツト(26)の端面を案内パンチ押軸(18)の後端面に当接させて送り油圧シリンダ(28)内の油圧で案内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)を押進め、これにより案内パンチ(19)が二叉腕(1)の軸受孔(4)内の軸受(6)を押込み、軸受ケース(7)の底面を十字軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させる。そして、送りピストン(29)の前進とともに前進する案内パンチ押軸(18)、したがつて案内パンチ(19)は、軸受ケース(7)の底面を十字軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させたときに十字軸の中心が組立機の軸受押込作業線X軸Y軸の交点に一致するように、その最大前進位置を調節ナツト(26)で調整されており、組立機の各装置は交叉するX軸Y軸に沿つて配置されているので、
二叉腕(1)の軸受孔(4)内の十字軸は、案内パンチ(19)が四方から同時に軸受(6)を押込み、軸受ケース(7)を十字軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させることにより、十字軸の中心を組立機の軸受押込作業線X軸Y軸の交点に一致させる。そして、この状態は組立て完了まで維持される。
(五)二叉腕の一次拡開工程(第8図)かくして、十字軸の中心が、組立機の軸受押込作業線X軸Y軸の交点に一致した後、フツク(32)の部分(33)を二叉腕(1)の端部に引掛けて、低油圧により二叉腕(1)を僅かに一次拡開させる。すなわち、フツク(32)は第7図の状態で昇降装置(44)の作動により降下させられて、その部分(33)を二叉腕(1)の端部に引掛ける位置においた後、第2油圧シリンダ(12)内に油圧路(36)から低圧油を供給して第2ピストン(15)を後退させ、この第2ピストン(15)の側部にピン(51)で枢着されたフツク連結レバー(31)をを介してフツク(32)の部分(33)を二叉腕(1)の端部に当接させ二叉腕(1)を僅かに一次拡開させる。この場合、油圧路(36)から供給される低圧油は第2ピストン(15)だけでなく、ストツパ(16)をも一緒に後退させるが、この第2ピストン(15)とストツパ(16)とは、その間にばね(23)が設けられており、調節ナツト(24)によつて、あらかじめ定められた間隔(S)を保持したまま後退するのである。
(六)ロツク工程(第8図)次いでストツパ(16)を軸方向にロツクする。すなわち、ロツク及びロツク解除シリンダ(13)内へ油圧路(43)から圧油を供給して係止機構(17)の径を収縮させてストツパ(16)の外周を緊縛して軸方向に固定する。かくして、第2ピストン(15)及びストツパ(16)は間隔(S)を保つて後退した第8図の状態で軸方向に固定され、二叉腕(1)は一次拡開の状態に維持されるのである。
(七)二叉腕の二次拡開工程(第9図)前記(六)の工程で第一次拡開状態に保たれた二叉腕(1)は、更に間隔(S)だけ二次拡開される。すなわち、
第2油圧シリンダ(12)内へ油圧路(36)から更に高圧油を供給して第2ピストン(15)を、ばね(23)を圧縮しながらストツパ(16)に当接するまで、
すなわち間隔(S)を零にするまで後退させ、これにより二叉腕(1)はフツク(32)によつて引張られて拡開させられ、この状態は第2油圧シリンダ(12)内へ油圧路(36)から引続き供給される圧油によつて維持される。
(八)軸受固定の工程(第10図及び第11図)このように二叉腕(1)を二次拡開した状態においてカシメツール(20)を前進させて、軸受(6)を二叉腕(1)の軸受孔(4)内にその軸方向に固定する。
すなわち、カルダン継手の二叉腕(1)をフツク(32)で二次拡開させた第9図の状態で、第1油圧シリンダ(11)内へ油圧路(35)から圧油を供給して、第1ピストン(14)を前進させ、この第1ピストン(14)の先端にナツト(21)で結合されたカシメツール(20)の先端を案内パンチ(19)と同心的に二叉腕(1)の軸受孔(4)内に圧入させる。この場合のカシメツール(20)の前進は、第1ピストン(14)の先端に設けられたスペーサリング(22)が案内パンチ(19)の後端に当接することによつて制限される。この前進位置はあらかじめスペーサリング(22)の厚さによつて調節される。カシメツール(20)の先端部外周には第11図に示す如く軸受孔(4)内の内径寸法より大きい寸法の突起(20′)が複数個形成されており、圧入時にこの突起(20′)によつて軸受孔(4)の内壁を部分的に冷間塑性変形させて軸受ケース(7)の外底面上に複数個の突起(4′)を形成させ、この突起(4′)により軸受(6)をカルダン継手の二叉腕(1)の軸受(4)内に軸方向に固定する。
(九)軸受固定後の工程(第12図)軸受固定の後、第2油圧シリンダ(12)内の油圧を中立状態とすることにより二叉腕(1)に対する拡開力を停止し、油圧路(43)からロツク及びロツク解除シリンダ(13)内の圧油を抜いて係止機構(17)のストツパ(16)に対するロツクを解除し、
同時に第2油圧シリンダ(12)内へ油圧路(37)から圧油を供給して第2ピストン(15)を前進させ、二叉腕(1)に対する拡開力を解除する。次いで、圧油を油圧路(34)から第1油圧シリンダ(11)内へ供給することにより、第1ピストン(14)及びカシメツール(20)を後退させる。更に、昇降装置(44)を作動させることによりフツク(32)を上昇させて、二叉腕(1)の端部から外すほか、下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)を開放するなど各装置についてそれぞれ作業解除の操作を施したうえ、組立完了したカルダン継手を組立機から取出す。
第1図<12342-019>第1図の(2)<12342-020>第1図の(3)<12342-021>第1図の(4)<12342-022>第1図の(5)<12342-023>第1図の(6)<12342-024>第1図の(7)<12342-025>第1図の(8)<12342-026>第1図の(9)<12342-027>第2図<12342-028>第5図<12342-029>第6図<12342-030>第7図<12342-031>第8図<12342-032>第9図<12342-033>第10図<12342-034>第12図<12342-035>第13図<12342-036>第14図<12342-037>第15図<12342-038>第16図<12342-039>第17図<12342-040>
裁判官 金田育三
裁判官 鎌田義勝
裁判官 若林諒