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関連審決 審判1980-14345
関連ワード 有用性 /  新規性 /  周知技術 /  上位概念 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  実質的に同一 /  置換 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 56年 (行ケ) 45号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1983/06/23
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告は、「特許庁が昭和五五年一二月二五日、昭和五五年審判第一四三四五号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、
被告は、主文同旨の判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 本件特許出願は、原告が昭和四五年一月七日に出願した昭和四五年特許願第二四五六号を、特許法第44条第1項の規定によつて昭和四九年一二月二七日に昭和五〇年特許願第四〇二二号(特公昭五三-三二六〇号公報、特許第九二九五二五号)として分割出願し、右分割出願した出願をさらに昭和五二年七月一一日に分割出願した昭和五二年特許願第八一九六二号の、名称を「露光量制御装置」とする発明(以下「本願発明」という。)についての出願であつて、昭和五三年八月九日に特許出願公告(特公昭五三-二七六〇九号特許公報)されたが、特許異議の申立後、
昭和五五年五月一六日拒絶査定があつたので、原告は、同年八月六日審判の請求をし、昭和五五年審判第一四三四五号事件として審理されたが、昭和五五年一二月二五日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は昭和五六年一月二一日原告に送達された。
二 本願発明の要旨 一定周期のパルスを基準パルス信号として用いて、被写体光量に対応したアナログ的電気信号を被写体光量に対応したデジタル信号に変換し、該デジタル信号をデジタル的に記憶し、この記憶値に相応して露光量を制御する様にしたことを特徴とする一眼レフカメラの露光量制御装置。
三 審決理由の要点本願発明の要旨は前項記載のとおりである。
ところで特許第五八四二一六号(特願昭四〇-五八四〇九号、特公昭四五-四九〇三号特許公報)は、昭和四〇年九月二四日の出願であつて、その特許請求の範囲の第一番目に記載された発明(以下「先願発明」という。)は、撮影光の強さに対して直線的関係で発生するパルス数を計数し、記憶する回路と、記憶値を選択検出してシヤツター制御用時定回路を作動させる選択回路とを具えていることを特徴とするカメラの電気シヤツターであることが認められる。また昭和四二年七月一日株式会社産報発行「トランジスタDA・AD変換器」の第一〇三頁ないし第一一〇頁(以下「周知例」という。)には、AD変換器として電圧を時間に変換し基準パルス列をその時間だけ取出す、所謂電圧-時間変換形と、電圧をその大きさに比例した周波数のパルス列に変換する、所謂電圧-周波数変換形とがあること、さらに、
前記電圧-時間変換形AD変換器の一例として、一定周期のパルス列を発生する基準パルス発生器、経時的にそのレベルを変位するのこぎり波発生回路、入力アナログ信号電圧と前記のこぎり波電圧とを比較する比較回路及び前期基準パルスを該比較回路の出力によつてゲートするゲート回路からなる具体的な構成が記載されている。
そこで、本願発明と先願発明とを比較してみると、両者は、被写体光量に対応して発生した出力をデジタル信号(パルス数)に変換し、これを該デジタル信号(パルス数)の形で記憶し、該記憶値に相応して露光量を制御する様にした一眼レフカメラの露光量制御装置であるという基本的構成では一致し、ただ、被写体光量に対応したアナログ的電気信号をこれに対応するテジタル信号に変換する際、前者(本願発明)では一定周期のパルスを基準パルス信号として用い、これを被写体光量に対応したアナログ的電気信号によつて時間的にゲートするものであり、かつ、この点を構成要件の一つとしているのに対し、後者ではこの様な具体的な構成を必らずしもその要件とせず、その実施例として、被写体光量に対応したアナログ的電気信号(電圧)をその大きさに比例した周波数のパルス列に変換する、所謂電圧-周波数変換形のAD変換器が開示されている点で相違する。
そこで前記相違点について検討すると、前者が構成要件の一つとしている「一定周期のパルスを基準パルス信号として用いてアナログ的電気信号をデジタル信号に変換する」技術手段は、後者がその実施例として開示しているようなアナログ的信号電圧をその大きさに比例した周波数に変換する所謂電圧-周波数変換形AD変換器と共に、古くから周知かつ相互に置換可能な技術手段であるから、前記の相違点によつて両者がそれぞれ別個の発明を構成するものとは認められない。
したがつて、本願発明は先願発明と実質的に同一なものと認められるので、特許法第39条第1項の規定によつて特許を受けることができない。
四 審決取消事由 審決は、本願発明と先願発明との、次のような本質的な差異を看過し、同一発明としたものであり、判断を誤つた違法があるから、取消されねばならない。
(一) 具体的構成上の相違 本願発明では、AD変換器として、電圧-時間変換形AD変換器を採用しその構成要件の一つとしているのに対し、先願発明では、電圧-周波数変換形AD変換器に限定されたものを構成要件とするに過ぎず、両者の間には、AD変換器利用技術のカメラの露光量制御装置への応用という点において本質的な相違がある。
すなわち、本願発明はその出願時点でカメラ用露光量制御装置への応用が決して周知とはいえなかつた「AD変換器」、特に「電圧-時間変換形AD変換器」を利用し、その比較的簡単な回路構成にも拘わらず、従来の露光量制御装置のもつ欠点である記憶精度の低さ、露光量制御精度の低さを大幅に改善するに至つたのである。
ところで、本願発明が解決せんとする課題としてのアナログ記憶方式の露光量制御装置のもつ欠点を排除せんとする提案は、本願発明の出願前において皆無だつたわけではなく存在していたことは事実である。しかしながら、かかる提案は先願発明が唯一のものとしてあげられるだけであつて、カメラ用露光量制御装置に対するAD変換器の応用技術は未だ確立されておらず、少なくともカメラの露光量制御技術に関していえば、「AD変換器」そのもの、種類、それらの構成及びそれぞれの特徴が極めて周知であるからといつて、その種類を選択してカメラの有用性を高めうるとすれば、それをもつて新規な発明を構成するに足るものといわねばならない。
AD変換器利用技術は、本願発明とは異なる技術分野、例えばデジタル電圧計の分野あるい分光機器、例えば光電式発光定量分光分析装置の分野において知られていたことは認めるが、カメラの技術分野、特に露光量制御技術への応用は、先願発明おいて唯一その例を見るのみで、本願発明の出願時点でのカメラ技術の水準からすれば、決して周知、樌用の事項とはいえない状況にあつた。
先願発明はその特許請求の範囲の記載によれば、「直線的関係で発生するパルス数を計数し、」とする技術手段をその構成要件の一つとしており、文言上AD変換器の種類を問わないかの如くであるが、その発明の詳細な説明にはAD変換器のうち電圧-周波数変換形AD変換器を用いる唯一の実施例が記載されているにすぎず、種類を異にするAD変換器を用いることについての記載は勿論のことこれを示唆するところさえないのである。したがつて、先願発明は、カメラの露光量を制御するのに電圧-波数変換形AD変換器を利用するものに限定して解釈されるべきなのである。
しかるに、審決は、本願発明と先願発明とを比較し、「被写体光量に対応したアナログ的電気信号をこれに対応するデジタル信号に変換する際、前者では一定周期のパルスを基準パルスして用い、これを被写体光量に対応したアナログ的電気信号によつて時間的にゲートするもの(電圧-時間変換形AD変換器)であり、かつこの点を構成要件の一つとしているのに対し、後者ではこの様な具体的な構成を必らずしもその要件とせず、その実施例として、被写体光量に対応したアナログ的電気信号(電圧)をその大きさに比例した周波数のパルス例に変換する、所謂電圧-周波数変換形のAD変換器が開示されている点で相違する。」として両者の相違を認めながら、計数方式のAD変換器として電圧-時間変換形も電圧-周波数変換形も共に従来周知であることのみを理由に、「計数方式のAD変換器」のなかで「電圧-時間変換形」に限定した点に技術的な意味は何もないとして両者を実質的に同一なものと認めているのであるが、かかる認定判断は、カメラの露光量制御の技術分野におけるAD変換器の応用技術が前記の如く周知、慣用とはいえない本願発明の出願当時の技術水準からすれば明らかに飛躍があり発明の同一性の判断を誤つたものといわざるをえない。
(二) 作用効果の顕著な相違右構成上の相違により本願発明と先願発明との間には、作用効果に顕著な相違がある。
すなわち、前者の電圧-時間変換形AD変換器は、後者の電圧-周波数変換形AD変換器に比して、より簡単な構成でありながら広範囲に変化する被写体光量の全領域に亘つて直線的な関係を保つて正確に変換することが回路設計上極めて容易となり、ひいては露光量の制御の精度も高精度としうる効果が生じるのである。一般に写真撮影の対象となる被写体上の輝度は、低輝度と高輝度とで明るさにおいて約●倍(約二六万倍)も広範囲に亘つて変化するものであるが本願発明では、輝度がそのように広範囲に亘つて変化しても、簡単な構成でありながら被写体光量を常に正確にデジタル量に変換することができ、適正な露光量の制御が可能となるのに対し、先願発明では広範囲の被写体輝度を正確にデジタル量に変換し同じ精度を得ようとする時には電圧-周波数変換形AD変換器の構成上、機構は極めて複雑となり、高価となつて、一眼レフカメラヘの応用という点からすれば広範囲の被写体輝度を正確にデジタル量に変換することは実際問題としてほとんど不可能といつてもよい。
このように両者は、それぞれの要旨の一部であるAD変換器の構成上の相違により、一眼レフカメラヘの応用という点からみて作用効果上顕著な差異が存するのである。
以上のとおり、本願発明が電圧-時間変換形AD変換器を用いたことによる特有の作用効果を看過し、実質的に同一なものと認めた審決の判断は、発明の同一性の判断を誤つた違法なものである。
(三) 本願発明における構成要件の看過 本願発明は、「記憶値に相応して露光量を制御する」ことを新規な構成として具備するものであるが、先願発明にはかかる要件はなく、「記憶値に基づいて露光量の制御をするのにシヤツター制御用時定回路と、該時定回路を作動させる選択回路とを用いている」ものである。
被告の答弁
一 請求の原因一ないし三の事実は認める。
二 同四の取消事由の主張は争う。審決の判断は次のとおり正当であつて、何ら違法の点はない。
(一) 具体的構成上の相違について 先願発明は、特許請求の範囲に「………パルス数を計数し、記憶する……」とあるように、AD変換器として「計数方式のAD変換器」を使用したことを特徴とするものであり、この「計数方式のAD変換器」のなかの実施例として示した「電圧-周波数変換形」をその構成要件としているものでもなければ、その点に特色を有するものでもない。
そもそも、計数方式のAD変換器を具現化したものとして「電圧-時間変換形」と「電圧-周波数変換形」とがあるが、いずれも計数方式のAD変換器の典型例として従来から極めてよく知られたものであり、その上、両者は技術文献上でも常に一緒に説明されており、相互に置換可能な互換性のある極めて周知の技術手段である。
そして本願発明は、計数方式のAD変換器とし特に「電圧-時間変換形」に限定した点に技術的意味はなく、計数方式のAD変換器の典型例として周知の「電圧-時間変換形」を例示的に一定周期のパルスを基準パルス信号として用いて」として特許請求の範囲中に記載したにすぎない。
だから、本願発明と先願発明とは、いずれも「計数方式のAD変換器を使用した点にだけ特徴をもつもつであり、実質的に同一である。
(二) 作用効果の相違について 計数方式のAD変換器のなかで、「電圧-時間変換形」と「電圧-周波数変換形」とを比較した場合、それぞれの基本的な動作原理からみていずれの方がより「回路が簡単ある」とか、より「精度がよい」といつた本質的な違いはない。
そして「電圧-時間変換形」と「電圧-周波数変換形」とを比較して、同じ精度を得ようとすれば、一般に「電圧-周波数変換形」の方が機構が複雑になるということは必ずしもいえない。AD変換器の精度は出力コードの桁数で決まり、各部分回路はその桁数のAD変換に意味ををもたせる程度の精度のものでよいからである。
つまり、精度は出力コードの桁数と各回路を構成する部品自体の精度によつて決まるからである。
しかも、本願発明及び先願発明のいずれも計数方式のAD変換器の具体的な回路構成そのものをその要旨とした発明ではないから、その精度と機構の複雑さとをハカリにかけて比較すること自体意味のないことである。
(三) 構成要件の看過について原告がその主張(三)において述べている本願発明の構成は、先願発明の構成のなかにそのまま存在しているものである。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。
(一) 具体的構成上の相違について 成立に争いのない甲第二号証及び第三号証により本願発明と先願発明とを比較すると、両者は、被写体光量に対応して発生したアナログ的電気信号(具体的には電圧の大きさ)を、これに対応するデジタル信号(具体的にはパルス数)に変換(AD変換)して、この記憶値に基づいて露光量をデジタル的に制御するようにした一眼レフカメラの露光量制御装置であるという基本的構成を同じくするが、被写体光量に対応して発生したアナログ的電気信号を、これに対応したデジタル信号に変換することについて、先願発明が、その特許請求の範囲において「撮影光の強さに対して直線的関係で発生するパレス数を計数し……」という表現により、これを上位概念的に規定しただけで、そのために必要なAD変換器の具体的種類について特に限定がないのに対し、本願発明は、その特許請求の範囲において「一定周期のパルスを基準パルス信号として用いて、被写体光量に対応したアナログ的電気信号を被写体光量に対応したデジタル信号に変換し、」という表現によつて、電圧-時間変換形のAD変換器を用いることに限定している点に一応の差異が認められ、なおまた先願発明の明細書には、前記AD変換を行うことについて、電圧-周波数変換形のAD変換器を用いる実施例しか示されていないことが認められる。
しかしながら、成立に争いのない甲第四号証、第七号証、乙第一号証及びそれらが一般的な解説書であること、それらの発行年月日など弁論の全趣旨によれば、先願発明出願前に、所謂計数方式のAD変換器の典型例として、電圧-時間変換形と電圧-周波数変換形とがあり、相互に置換可能な互換性のある周知の技術手段として知られ、これらのAD変換の技術を光学技術に利用することも同じく周知であつたことが認められる。従つて右周知事項及び前掲甲第三号証によつて認められる先願発明の目的を考慮すると、前記認定の、所謂AD変換することについての先願発明における構成要件の規定は、前期認定の実施例に限定されるものではなく、計数方式のAD変換器として、本願発明のように電圧-時間変換形のAD変換器を用いる場合も包含し、その利用も要件を充足するものとすべきことが認められる。
そうすると本願発明が、計数方式のAD変換器として電圧-時間変換形を用いることに限定した点を把えて先願発明と別発明を構成するものと認めることはできず、これと実質的に同一した審決の判断に誤りはなく、この点に関する原告の主張は採用できない。
(二) 作用効果の相違について 前掲甲第四号証、第七号証、乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、計数方式のAD変換器として、電圧-時間変換形と電圧-周波数変換形とを比較した場合、その基本的な動作原理体からみて、いずれがより回路が簡単であるとか、より精度がよい、といつた本質的な相違は見出し難く、また具体的回路構成としては種々のものが想定できるから、特定の回路構成に限定しない限り、原告が主張するような回路構成の簡単さ、変換精度の対比は不可能であるし、また仮に電圧-周波数変換形に比し電圧-時間変換形による方が変換精度の向上が期待し易いとしても、そのためには、それなりの具体的な回路構成上の条件が前提として必要であり、しかもその程度の概念的なことは、電圧-時間変換形のAD変換器が一般的に有する性質として本願発明の出願前に普通に知られていた(例えば甲第七号証第二五頁右欄参照)ことが認められる。
しかも前記認定のとおり電圧-時間変換形のAD変換器を用いる場合も周知技術として先願発明の構成要件に包含されるものであるし、前掲甲第二号証、第三号証によれば、本願発明及び先願発明のいずれもAD変換器の具体的な回路構成そのものは、その発明の構成要件とはしていないことが認められるから、結局、本願発明においてAD変換器として電圧-時間変換形に限定したことにより格別の作用効果を生ずるとする原告の主張は当を得ないものであつて採用できない。
(三) 構成要件の看過について 前記認定のとおり、本願発明も先願発明も、計数したパルス数の記憶値に相応して露光量を制御するようにした構成として共通しており、前掲甲第二号証、第三号証及び弁論の全趣旨によれば、先願発明は原告主張のように記憶値に基づいて露光量の制御をするのにシヤツター制御用時定回路と、該時定回路を作動させる選択回路とを用いているが、これは前記のような露光量の制御をする具体的手段として、
普通に採用されるシヤツター速度の制御手段を単に規定したに過ぎず、本願発明における「記憶値に相応して露光量を制御する」構成は、当然先願発明の構成にそのまま具備されていることが認められ、この点において両者の間に実質上の相違があるものとはみることはできず、従つてまたこの点について同一性判断の上で本願発明の新規性を看過したとの原告の主張も採用できないところである。
三 そうすると、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本件請求は、失当として棄却するほかはない。よつて、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 舟本信光
裁判官 竹田稔
裁判官 舟橋定之