審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成14ワ20521特許権持分移転登録手続等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成3ワ292 | 判例 | 特許 |
平成15ネ4867「窒素磁石」に係る発明の対価請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成5ネ723 | 判例 | 特許 |
平成13ワ17772特許権持分確認等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 特許を受ける権利 / 承継 / 発明者 / 職務発明 / 業務範囲 / 相当の対価(相当な対価) / 技術的思想 / 創作性(創作) / 製造方法 / 新規性 / 公知技術 / 技術的範囲 / 共有 / 着想 / 模倣 / 時効 / 援用権(援用) / 存続期間 / 特許出願日 / 置換 / 特許発明 / 実施 / 加工 / 実施料 / 実施権 / 専用実施権 / 通常実施権 / 実施許諾(実施の許諾) / 対価 / 請求の範囲 / 変更 / 異議申立 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
昭和
54年
(ワ)
11717号
|
---|---|
裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1983/12/23 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 被告は、原告【A】に対し金一七〇万円、原告【B】に対し金一六〇万円、及び右各金員に対する昭和五四年八月二四日から支払ずみまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。 二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 三 訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの、その一を被告の各負担とする。 四 この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
---|---|
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、原告【A】に対し、金一六二〇万円、原告【B】に対し、金九一〇万円、及びこれらに対する昭和五四年八月二四日から支払ずみまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
|
当事者の主張
一 請求の原因1 原告らは、いずれも、昭和三九年四月一日頃、被告の取締役に就任し、被告の主たる業務である金属加工の技術の開発、従業員の指導、時計バンド材料、眼鏡材料、その他工業材料の製造に携わつてきたものであるが、その在任中、次の(1)ないし(4)の職務に属する発明(以下、(1)の発明を「金張発明」、(2)の発明を「線素材発明」、(3)の発明を「クラツド板発明」、(4)の発明を「連続クラツド発明」という。)をした。 (1) 発明の名称 ステンレス金張製造法発明の時期 昭和四〇年一〇月発明の内容 別紙(一)のとおり発明者 原告両名(2) 発明の名称 複合金属線素材の製造法発明の時期 昭和四二年夏発明の内容 別紙(二)のとおり発明者 原告【A】、【C】、【D】(3) 発明の名称 異質クラツド板の製造法発明の時期 昭和四四年末発明の内容 別紙(三)のとおり発明者 原告両名、【C】、【E】(4) 発明の名称 連続クラツド装置発明の時期 昭和四八年一月発明の内容 別紙(四)のとおり発明者 原告両名、【E】、【C】、【F】2 線素材発明及びクラツド板発明が発明の実質を備えていたことは、後にこれらが特許されたことにより明らかであるが、金張発明及び連続クラツド発明も次のとおり、それぞれ発明の実質を備えていた。 (一) 金張発明について(1) 戦後、金張材料業界で指導的立場にあつたのは株式会社山本金属研究所の【G】社長であつたが、その製作する金張材料は、主として各種銅合金と金合金を複合したものであつて、高価な材料を使用するにもかかわらず、その銅合金が腐触変色する欠陥を避けえなかつた。このため、業界からは、腐触のないステンレス鋼と金合金との複合材料の作成が希望されていた。 (2) 原告両名は、このような材料が作成できない理由を調査し、障害となる次のような数点の条件を発見した。 @ ステンレス鋼は総じて焼鈍温度が摂氏一一〇〇度であり、この温度ではほとんどすべての金合金が溶けて流れる。 A ステンレス鋼は、表面が極めて緻密で透明なクロム酸化物の被膜に覆われているため、在来の金張製作方法だけでは、被膜が支障となつて複合ができない。 B ステンレス鋼を酸化させないために、非酸化性の各種熱処理炉が不可欠である。 C ステンレス鋼の鋼種は比較的耐触性のよいオーステナイト系のもので、かつ、 加工し易いものを選ばねばならない。フエライト系のものだと、加工し易く金張には楽であるが腐触し易い欠点がある。 (3) これらの点から、ステンレス金張を行うには、「金合金の融点以下の熱処理を行つてもその耐触性を劣化しないステンレス鋼の組成を決定し、ステンレス鋼の表面被膜を除去した後、金合金と複合せしめ、金属再結晶の理論を活用して熱処理温度と圧延率の適正条件を定めることが必須であり、熱処理温度はすべて金合金の融点以下に制御しなければならず、またこの金合金の融点以下の熱処理でも、当該ステンレス鋼の耐触性が劣化しないものでなければならない」という技術的条件を満たす必要があつた。 (4) 金張発明は、以上の各条件を原告両名が克服充足して完成させたものであり、完成時の昭和四〇年一〇月頃には、現実に被告において実施が開始されたものであり、特許を受けることができる技術内容を有していた。 (5) このことは、株式会社山本金属研究所が被告に追随しようとして生産技法を誤まり倒産したこと、同社を吸収合併した株式会社徳力金属研究所(後に株式会社徳力本店と商号変更)が、昭和四一年三月一一日特願昭四一―一四六四二号をもつて金合金とステンレス鋼との張合わせ板金の製造法について特許出願し、特公昭四五―四六一一号をもつて出願公告されたが、被告が、既に金張発明を使用して略同一の製品を製造、販売していたので、右特許出願はその内容の九〇パーセントは右製品と同一であり、右出願に係る製造法は公知のものであるとして異議の申立てをし争つたところ、同社は右出願を放棄するに至つたことからも明らかである。 (二) 連続クラツド発明について 原告らが連続クラツド発明を完成する以前は、長尺の複合材料の製造方法は静的に金属を張りつけ圧延する方法しかなく、これにより得られる長さは約一〇メートル程度にすぎなかつた。業界では更に長尺物の生産が期待されていたため、原告らは、黒鉛板の摺動特性が非酸化性雰囲気の中では劣化しない点に着眼し、材料の異質金属条を傷がつかない程度に黒鉛板に密着させ、加熱して熱を吸収させながら黒鉛板間を通過させる技術を開発して、四〇ないし五〇メートルにも達する長尺のクラツド板の製作に成功した。この連続クラツド発明は、オートメーシヨン化もできる利用価値の大なるものであり、製品の市場価値も高かつたものである。 3(一) 各発明者の各発明に係る権利の共有持分は、発明者の技量、当該発明に関する着想・発案、提供した技術、労力等、各発明者が当該発明に寄与した程度によつて決定すべきものである。 (二) 各発明者の経歴、関係は、以下のとおりである。 (1) 原告【A】 原告【A】は、昭和二〇年、東京府立化学工業学校化学機械科を卒業し、次いで昭和二六年、千葉工業大学治金科を首席で卒業した。同年、株式会社科学研究所(昭和三三年特殊法人理化学研究所に改組)に入所し、昭和三一年一一月からは、 被告の技術顧問を兼務した。 昭和三九年四月、被告常務取締役に就任の際に、理化学研究所嘱託となつた。昭和五〇年四月、被告専務取締役となつた後、昭和五四年四月、退任し、同年五月、林精器製造株式会社顧問となり、同年七月、株式会社アイ・ビーを創立して、金張技術の向上開発に努めている。 (2) 原告【B】 原告【B】は、昭和二〇年、東京府立化学工業学校化学機械科を卒業し、昭和二三年、株式会社山本金属研究所に入社し、貴金属加工の業務に携わつた。昭和三一年、被告の設立に当たり、工場長として入社し、貴金属加工技術の向上に努め、昭和三九年四月、被告取締役製造部長、昭和五二年、常務取締役製造部長となつた後、昭和五四年一月、退任した。 (3) 【E】 【E】は、小学校から大学に至るまで、原告【A】の三年後輩に当たる。同人は、大学卒業後、鋳鋼部門を専門としてきたが、所属会社が倒産したので、昭和四〇年、原告【A】の紹介で被告に入社した。同人は、技術者としての基本的な素養はあつたので、入社後直ちに研究室勤務となつた。しかしながら、鋳鋼と被告の扱う貴金属とでは、取扱い方が全く異なるので、数年間は研究室を主宰するには至らず、すべて原告【A】の指導を受けながら研究活動を行い、後に研究室長となつた。 (4) 【C】 【C】は、原告両名の工業高等学校の一二年後輩(定時制)であり、同校卒業後は、原告【B】のいた株式会社山本金属研究所に勤務し、原告【B】が被告に移るとともに被告に入社したもので、右各社を通じて原告【B】から特に貴金属の加工技術面について指導育成を受けた。同人は、金属学等の理論的素養は未熟で、専ら現場技術面の改良に携わつてきたもので、昭和四〇年、被告の研究室員となつてからは、主として原告【A】の指導を受けてきたものである。 (5) 【F】 【F】は、原告【A】の大学の一六年後輩であり、専攻は電子工学である。被告の将来に具えて、原告【A】が採用入社させたもので、弱電回路系統ではかなり役に立つた。 (6) 【D】 【D】は、昭和三〇年、広島工業高等学校を卒業し、昭和三二年頃、被告に入社した中堅機械技術者である。 特に得意とする分野はないが、原告【B】の助手的存在として、生産管理業務を補佐してきたものである。 (7) 以上のとおり、原告両名を除くその余の発明者らは、いずれも、原告らの指導の下に研究活動を行つてきたものであつて、原告らの指導なくしては、本件各発明について、着想から完成に至るまでの総合的な発明をするに足る資質は乏しかつたものである。 (三) 本件各発明は、その全過程を統轄指導していた原告【A】が、発明の主宰であるが、各発明ごとの発明分担は、以下のとおりである。 (1) 金張発明イ オーステナイト系ステンレス鋼の熱処理と耐触性の研究(耐食性劣化の主因解析)=原告【A】ロ オーステナイト系ステンレス鋼の加工硬化と再結晶=原告【A】ハ 金張用オーステナイト系ステンレス鋼の組成決定(組成を炭素量〇・〇三パーセント以下、一二パーセントニツケル―一二パーセントクロム鋼、又は炭素量〇・〇三パーセント以下、一二パーセントニツケル―一五パーセントクロム鋼に決定し、これは後にJIS規格三八五Lとして採用された。)=原告【A】ニ 金張実験計画立案=原告両名ホ ステンレス鋼の試験発注(メーカーの選定、仕様の提示)=同右ヘ ステンレス鋼の研削ならびに電解研磨(研削機、電解研磨槽およびニツケルメツキ槽の製作)=同右ト 銀鑞材の選定試作(銀―銅共晶鑞……JIS規格BAg-8)=原告【A】チ 非酸化性熱処理炉(複合および焼鈍)の検討=原告両名リ ステンレス鋼の圧延試験(現場指導)=原告【B】ヌ 試作実験(現場指導)=原告【B】ル 試作金張材の実用試験(得意先数社に依頼)=原告【A】オ 試作金張材の検査指導(機械的性能、金厚分布等について)=原告【A】ワ ステンレス金張屑から純金の回収指導=原告【B】(2) 線素材発明イ 棒状金属体の軸方向衝撃荷重に対する塑性変形の考察=原告【A】ロ 割型治具の考察=同右ハ 多層金属複合板の試作=原告【A】、【C】ニ 多層金属複合薄板の深絞り(パイプの製作)=原告【A】、【C】、【D】ホ 棒状金属体の表面仕上げ=原告【A】、【D】ヘ 複合実験=同右ト 設備計画の立案、実施=原告両名、【D】チ 線引加工実験(加工率と焼鈍の関係)=原告【A】、【D】リ 試作材の検査=原告【A】、【D】ヌ 特許申請書の作成、審査に対する応答=原告【A】(3) クラツド板発明イ 在来の輻射加熱加圧方式クラツド法の欠陥を指摘し、改善方を指示した。(熱効力、生産性、およびクラツド品質の改善)=原告【A】ロ 直接通電法によるクラツド方式の提案(電熱帯の作用機構に注目したもの)=【C】ハ 前記イ、ロ項の詳細な検討(直接通電法の欠陥すなわち大電力による作業の危険性、温度調節の至難、クラツド品質の不均一等から不採用とす。)=原告両名、 【E】、【C】ニ 熱伝達方式によるクラツド法の研究=同右ホ 雲母を以て被覆せる薄板状金属電熱帯の試作を指示=原告【A】ヘ 実験計画、設備計画の大要立案=原告両名、【E】ト 予備実験(熱電達昇温状況の観察、電熱帯の寿命測定等)=【E】、【C】チ 温度調節法の研究(熱電対―温度計―自動通電切換装置)=原告両名、【E】リ 電気回路の設計=原告【B】、【C】ヌ 非酸化性雰囲気炉体の加圧構造=原告【B】、【E】、【C】ル 特許申請書の作成、審査に対する応答=原告【A】(4) 連続クラツド発明イ 連続クラツド方式の研究指示=原告【A】ロ コイル状異質金属重ね合せ体に直接通電クラツドする方法の実験(失敗、不可能を確認)=【C】ハ 非酸化性雰囲気高温炉中における黒鉛の摺動特性の研究=原告両名、【E】ニ 連続クラツド装置の構造大要提示=原告【A】ホ 実験装置の製作=【E】、【C】、【F】ヘ 温度分布の計測=【E】、【F】ト 電熱帯端部構造の改良=【F】チ 試作材の検査および実用試験=原告両名、【E】、【C】、【F】リ 生産用装置(付帯設備共)の設計製作=同右ヌ 特許申請文案の作成指示=原告【A】(四) 以上の点を考慮すれば、各発明者の各発明に係る権利の共有持分は、次のとおりであるというべきである。 (1) 金張発明 原告【A】 七〇パーセント 原告【B】 三〇パーセント(2) 線素材発明 原告【A】 八〇パーセント 【C】 一〇パーセント 【D】 一〇パーセント(3) クラツド板発明 各自 二五パーセント(4) 連続クラツド発明 原告【A】 五〇パーセント 原告【B】 一〇パーセント その他三名 四〇パーセント4(一) 原告らは、被告に対し、線素材発明及びクラツド板発明について、特許を受ける権利を譲渡し、被告は、これらにつき特許出願をし、前者につき次の(1)の、後者につき次の(2)の特許権を取得した。 (1) 特許番号 第六七七八一九号出願日 昭和四二年九月二二日公告日 昭和四七年八月一九日登録日 昭和四八年二月一三日特許請求の範囲 別紙(二)のとおり(2) 特許番号 第八九五六二六号出願日 昭和四五年二月一二日公告日 昭和五二年三月八日登録日 昭和五三年一月三〇日特許請求の範囲 別紙(三)のとおり(二) 原告らは、被告との間で、金張発明をノウ・ハウとして公開しないこととし、被告において独占的に実施することを合意し、また、連続クラツド発明については、被告の研究室に所属していた【E】、【C】及び【F】の三名において特許出願のため明細書の草案の作成に着手したが、連続クラツド装置の製作に忙殺され特許出願するに至らず、金張発明と同様ノウ・ハウとされた。 5(一) 被告は、線素材発明及びクラツド板発明について特許を受ける権利を譲り受けた上、これらにつき特許を受けたので、原告らに対しその実施によつて受けた利益に比例した相当の対価を支払う義務がある。この相当の対価は、製品売上高に対する割合を示す実施料率によるのが相当である。 (二) また、被告は、金張発明及び連続クラツド発明については、営業上これを秘匿して他に模倣されることを防止し、公開による後発メーカーの誘発を阻止して多額の利潤を得るため特許出願をせず、ノウ・ハウとしてこれらを実施し、これによつて後記のような製品売上高をあげていたのであるから、特許された権利に準じ、これらを実施することによつて受けた利益に比例した相当の対価を支払う義務がある。この相当の対価は、ノウ・ハウにより生じた権利が、原告ら被告間においては、特許権と実質を同じくし、単に特許出願をしていないものであり、被告がその実施により受けた利益が莫大なことから、やはり、製品売上高に対する割合を示す実施料率によるのが相当である。 (三) 前記実施料率は、被告の利益率が一〇〇分の二以上であることから、理化学研究所の職務発明規程による職務発明に対する所内実施補償金を定めた推定特許実施料の最低額が、売上金から製造原価を引いた金額が売上金に対し一割以上のときに、売上金の一〇〇分の二とされていることを参考として定めるのが適当である。 6 被告は、金張発明を時計バンド材料の製造に、線素材発明を眼鏡材料の製造に、クラツド板発明を時計バンド材料と工業材料の製造に、連続クラツド発明を工業材料の製造に、それぞれ使用し、右製造に係る製品を販売したところ、昭和四九年三月一日から昭和五四年二月二八日までの売上高は、別紙(五)のとおりであつた。 7 各発明の完成につき被告が負担した設備、資材及び労力は、次のとおりであつた。 (一) 金張発明(1) 実験のため利用した既存設備 切削機、研磨機、表面処理装置、熱処理炉、圧延機、切断機、羽布研磨機、金属顕微鏡、硬度計を、一日の稼働時間を八時間と総計して一日一時間の割で一週間合計七時間利用した。 (2) 実験資材ステンレス鋼 五〇〇キログラム 価格三〇万円金合金 八〇グラムのもの二枚 価格六万円 ただし、これは後に純金として自家設備により回収した。 (3) 労力 原告両名が一カ月の実験期間をかけたもので、他に工員二名各七時間。 (二) 線素材発明(1) 実験設備@ 設計型保持治具試作費 五万円A フリクシヨンは、原告両名が東洋精器株式会社に材料を持ち込み、借用し、無償で済ませた。 B 深絞金属パイプは、同じく葛飾プレス株式会社に製作を依頼し、無償で済ませた。 (2) 実験資材ステンレス鋼丸棒 二〇キログラム 価格二万円丹銅板、ニツケル板、銀鑞(Bag-8) 若干 価格一〇〇〇円(3) 労力 発明者のみで一カ月の実験期間を要した。 (三) クラツド板発明(1) 実験設備設計型複合炉試作費 二〇万円雲母被覆加熱板試作費 三万円(2) 実験資材ステンレス鋼板、丹銅板、銀鑞(Bag-8) 若干 価格五〇〇〇円(3) 労力発明者のみで三カ月の実験期間を要した。 (四) 連続クラツド発明(1) 実験設備設計型装置一式試作費 五〇万円(2) 実験資材洋白条 三キログラムリン青銅条 二〇キログラム 価格合計三万円(3) 労力 発明者及び工作員一名で六カ月の実験期間を要した。 8 前記6の被告の製品売上高及び前記7の本件各発明がされるについて被告が貢献した程度に、被告の利益率が一〇〇分の二以上であること、本件各発明が製品に使用された割合、更に、金張発明については、同発明の使用により生産されたステンレス金張製品が被告の主力製品となり、現在総売上高の約八〇パーセントを占めるまでに成長していること、金張発明はこの種複合金属材料としては画期的な世界初の商品開発といつても過言ではなく、当時金張材料の先発メーカーとして自負していた株式会社山本金属研究所が前記のとおり追随しようとして失敗したこと、その後このステンレス金張の生産は久しい間被告の独占するところとなつていたことを、連続クラツド発明については、現在板材金張生産量の四〇パーセント以上がこの装置の使用により賄われており、単純なクラツド装置の使用に比し数倍の生産性を有することを考慮すると、前記5の実施料率は、各発明につき、次のとおりとするのが相当である。 (1) 金張発明 一パーセント(2) 線素材発明 一パーセント(3) クラツド板発明 〇・五パーセント(4) 連続クラツド発明 〇・一パーセント9 以上によれば、原告らは、被告に対し、前記6の各発明を使用して製造した製品の売上高に前記7の各実施料率を乗じて得た額のうち、前記3(四)の各共有持分に応じた額の対価の支払を求める権利を有する。 右の額を発明ごとに計算すると、次のとおりとなる。 (1) 金張発明原告【A】 5,967,626,000円×0.01×0.7=41,773,382円原告【B】 5,967,626,000円×0.01×0.3=17,902,878円(2) 線素材発明原告【A】 914,361,000円×0.01×0.8=7,314,888円(3) クラツド板発明原告各自 (5,967,626,000+1,055,487,000)円×0.005×0.25=8,778,891円(4) 連続クラツド発明原告【A】 1,055,487,000円×0.001×0.5=527,743円(一円未満切捨)原告【B】 1,055,487,000円×0.001×0.1=105,548円(一円未満切捨)10 原告らは、被告に対し、昭和五四年七月二〇日、内容証明郵便により前記9の職務発明についての対価を同書面到達後三〇日以内に支払うよう催告し、同書面は、同月二四日、被告に到達した。 11 よつて、原告らは、被告に対し、前記9の職務発明についての対価のうち、 原告【A】については、9の(1)の内金八〇〇万円、(2)の内金三〇〇万円、 (3)の内金五〇〇万円及び(4)の内金二〇万円の合計金一六二〇万円、原告【B】については、9の(1)の内金四〇〇万円、(3)の内金五〇〇万円及び(4)の内金一〇万円の合計金九一〇万円、並びにこれらに対する弁済期の翌日である昭和五四年八月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 二 請求の原因に対する認否1 請求の原因1のうち、原告らが昭和三九年四月一日頃被告の取締役に就任したことは認め、原告らが(1)ないし(4)の発明をしたことは否認する。 原告【A】の在任中の職務は、技術担当の取締役で技術関係の総責任者であり、 原告【B】の在任中の職務は、取締役製造部長で製品製造の責任者であつた。 (なお、原告が発明と主張する請求の原因1の(1)及び(4)記載の技術につき、後記のとおり、被告は、発明であることを争うが、以下、被告の主張中でも「金張発明」「連続クラツド発明」ということとする。)2 同2の冒頭の事実のうち、原告の主張する金張発明及び連続クラツド発明が発明の実質を備えていたことは否認する。 同2(一)の(1)は認める。(2)及び(3)は誤りとはいえないが、抽象的条件の主張にとどまり、具体的手段が主張されていない。(4)は否認する。 (5)のうち株式会社山本金属研究所が倒産したこと、株式会社徳力本店の特許出願に対し被告が異議の申立てをしたことは認める。 同2(二)のうち、連続クラツド発明をするに至つた動機は認め、その余の事実は否認する。 3 同3(二)のうち、各人の学歴及び社歴は認め、その余は否認する。 同3(三)及び(四)は否認する。 4 同4(一)のうち、被告が線素材発明及びクラツド発明について特許出願をし、(1)及び(2)の特許権を取得したことは認め、その余の事実は否認する。 同4(二)のうち、連続クラツド発明につき被告の研究室員が特許出願のため明細書の草案を作成したこと、特許出願するに至らなかつたことは認め、その余の事実は否認する。 金張発明について特許出願しなかつたのは、当時、被告の研究室は特許出願するように原告【A】に具申したが、原告【A】が、この程度の発明ではレベルが低いため特許は取れない旨述べ、見送つたからである。また、連続クラツド発明につき、被告が特許を受ける権利を譲り受けたり、専用実施権の設定を受けた事実はない。一般に、営利を目的とする会社が特許を受ける権利を譲り受けるのは、出願準備が整つた段階であるのが通常であるのに、連続クラツド発明については、明細書の草案を作成した状態のまま、時を過ごして出願に至らなかつたのであるから、譲渡があつたものとは考えられない。 5 同5は否認する。 6 同6は認める。ただし、別紙(一)のうち炭素量〇・〇三パーセント以下の一二パーセントニツケル、一五パーセントクロムステンレス鋼は使用していない。 7 同8のうち、ステンレス金張製品が被告の主力製品であること、株式会社山本金属研究所が倒産したこと、連続クラツド装置が単純なクラツド装置の使用に比し数倍の生産性を有することは認め、金張発明がこの種複合金属材料としては画期的な世界初の商品開発といつても過言でないこと、ステンレス金張の生産が久しい間被告の独占するところとなつていたことは不知、その余の事実は否認する。 8 同9は否認し、同10は認める。 三 請求の原因に対する反論1 原告が金張発明、連続クラツド発明と主張する技術は、以下のとおり、発明の実質を備えていない。 金張発明の内容とされる別紙(一)の記載のうち、「炭素量〇・〇三パーセント以下の一二パーセントニツケル、一二パーセントクロムステンレス鋼」は、一般に作成されていたステンレス鋼であり、「銀銅共晶鑞を介在させて非酸化性雰囲気炉中で加熱加圧し金属複合体をつくる」こと及び「非酸化性雰囲気炉中で金属が軟化する程度(この場合摂氏七八〇度程度)の温度で焼鈍を繰返し、所望の厚み硬さの金属金張を製造する」ことは、いずれも一般に行われていた公知技術であつて、全体としても、公知公用の技術であり、新規性がなく、発明とはいえないものであつた。このことは、金張発明完成のわずか数カ月後に、株式会社山本金属研究所が「金合金とステンレス鋼との張合せ板金の製造法」について特許出願をしたところ、その九〇パーセント以上が金張発明と同じ技術であり、公知の技術であつたこと、そのことが、原告【A】自身が作成に当たつた被告の右出願に対する特許異議申立理由補充書において主張されていることからも明らかである。 また、連続クラツド発明の内容とされる別紙(四)の記載のうち、金属電熱帯とクラツドすべき異質金属板(条)により積重ね体を構成し、これを狭圧状態の下で、金属電熱帯に通電して発熱させ、その発熱をクラツドすべき異質金属板(条)に伝達させ、異質金属板をクラツドすることは、クラツド板発明の技術的範囲に属する。 2 本件各発明は、以下のとおりの経過によりなされたもので、いずれも被告の研究室員が開発した技術であり、原告らは発明者ではない。 (一) 金張発明(1) ステレンス金張の製造法は、昭和三八年頃設置された被告の研究室の最初の研究テーマであつた。 研究に着手する段階では、ステンレスに貴金属をクラツド(接合)するのに、従来の様に単純に共晶鑞を介し加熱加圧する手法を用いたところ、接合状態が極めて悪く、クラツドした金属板を圧延する前提として、貴金属が融解しない摂氏七五〇度程度の温度で焼鈍するのでは、ステンレスが十分に軟化せず、被告に備付けの圧延機械では圧延が困難であつた。 研究室員は、右の点につき、実験し、文献を参照し、あるいは日本ステンレス株式会社へ行つて、ステンレスの化学特性を研究し、以下の点を究明して、障害を一つ一つ克服した。 (2) ステンレス鋼は、鉄、炭素、クロム、ニツケルの合金であるが、ステンレス鋼の特徴である錆びない性質は、ステンレス鋼の表面に鉄、ニツケル、クロムの酸化物と考えられる不動体被膜が形成され、これが酸化の進行を食い止めるからである。 (3) 不動体被膜が形成される条件として、含有クロムが一二パーセント以上(ただし、一八パーセントまでは、クロム含有量が増加するにしたがい、不動体被膜の形成は促進されるが、これを超えると、ほぼ横ばい状態となる。)であることを要する。 (4) しかし、ステンレスに異質金属をクラツドする場合、ステンレス表面の不動体被膜により、クラツドが妨害される。したがつて、何らかの方法により不動体被膜を除去し、その形成を食い止めながらクラツドする工夫が必要となる。 (5) また、ステンレス鋼の加工硬化性(一定程度の加工をした場合、金属が硬化する度合)は、ステンレス鋼の化学成分によつて異なる。ところが、昭和三八、 九年ごろは、ステンレス鋼は一般に一八-八ステンレス(クロム一八パーセント、 ニツケル八パーセント含有ステンレス)が通常販売されていたので、一八―八ステンレスをもつてステンレスと考えられており、このため被告研究室も一八―八ステンレスを用い圧延の実験をしたが、貴金属クラツド板の圧延の前提としての焼鈍温度は、摂氏七五〇度前後が適温であつて、あまり高温にすると貴金属が融解してしまうところ、七五〇度前後程度の焼鈍では、一八―八ステンレスは、わずかな加工に対し、急激にその硬化度を増加し、被告の有する圧延機械では圧延加工ができなかつた。研究室員は、文献を参照したり、日本ステンレス株式会社に教示を受けに行つたりして、ステンレスにも色々な種類のあること、また、種類によつて金属特性が異なること、その他ステンレスの性質につき知識を得た。当時、日本ステンレス株式会社では、鋲材として一二―一二ステンレス(クロム、ニツケルとも一二パーセント)を製作していたが、一二―一二ステンレスは、変形量に対する加工硬化性の上昇は、割合少ないとの教示を受けた。また、日本冶金株式会社においては、 一二―一五ステンレス(クロム一二パーセント、ニツケル一五パーセント)を鋲材として製作していたので、これらを購入し、種々実験したところ、圧延加工には一二―一五ステンレスが適していることが判明した。 (6) しかし、一二―一五ステンレスを採用するには、次の障害があつた。すなわち、摂氏七五〇度程度でステンレスを焼鈍すると、ステンレス中に含まれる炭素が粒界にクロム炭化物となつて析出し、いわゆる粒界析出現象が起きる。その結果、一二―一五ステンレスでは、ステンレスの耐食性の条件であるクロム含有量が一二パーセントの限界を割つてしまい、耐食性が劣化する。また、より重大な問題は、クロム炭化物がステンレスの粒界面に形成されることにより、その部分についてステンレス表面の不動体被膜の形成が妨げられ、この部分より腐食が進行し、いわゆる粒界腐食現象が起きることであつた。これを防止するには、ステンレス鋼に含有される炭素の量を低下させる以外なく、低炭素の(〇・〇三パーセント以下のいわゆるL材)一二―一五ステンレスを、日本ステンレス株式会社に発注して製作させ、これを素材とすることにした。 (7) 右のとおり、ステンレス素材を決定した後、加熱時間加熱温度、一回の圧延率を決定し、ステンレス金張の製造法を確立した。 (8) 以上の過程を通じて、原告両名は具体的考案に従事していない。原告らの請求の原因2(一)の(2)及び(3)の主張が抽象的条件の指摘にとどまり、その抽象的条件がいかなる具体的物理、化学的法則から成立しているのか、また、各障害条件をいかなる手段によつて克服したのか、すなわち、具体的研究過程と障害を克服した工夫の内容が全く主張されていないのは、そのためである。 (二) 線素材発明(1) 当時、被告は、複合金属線素材は製造しておらず、新たにこの分野の製品(現実には貴金属張の線素材)を製作すべく、被告の研究室が機械の開発に取り組んだのが発明の動機である。 研究開発に従事したのは、【E】、【C】、【F】であるが、【D】もこれに参加した。 (2) 当時、複合金属線素材は、一般的に、クラツドすべき金属管の内側に芯となる金属円柱を挿入し、この両金属の間に共晶鑞を介在させ、周囲から冶具(外部よりボルト等で締め、金属板を強圧する道具)により静加重を加えながら、冶具ごと加熱し、共晶鑞を両金属の間に均一な状態に溶融させ、これを冷却し接合する方法(第一二二五七六号特許。同特許権は、当時既に存続期間が満了していた。)が用いられていた。 (3) これに対し、研究開始当初、原告【A】より研究室に対し、予め内側の芯金属に動加重を加え、芯金属を挫屈させ、冶具を用いず加熱し、共晶鑞を融解させ、接合する方法につき示唆があつた。 右の方法は、加熱する際外圧が加わらず、また、表面の管を形成する金属が内側の芯を形成する金属よりも膨張率が大きいため、両金属間に間隙ができ、融解した鑞が下に溜るなど均一に分布せず、接合状態が悪くなるという欠点もあつたが、他方、冶具ごと加熱する必要がないから、熱効率が良いという長所もあつた。 (4) 研究室は、原告【A】の右示唆に基づき、管金属、芯金属を製作し、また、フレキシヨンプレスを用い実験を重ね、プレス機械を試作した。 また、クラツドした素材を線状にするため、焼鈍の機械を新たに開発試作し、伸線の機械もメーカーに作らせた。 (5) 原告【A】は、芯金属に動加重を加え、これを拡散させ外周金属と密着させる方法を示唆した。しかし、この発想を現実化し、実際に複合金属線素材を製造するには、各種の実験のほか、プレス機械、焼鈍機械、伸線機械を新たに開発しなければならず、原告【A】の提供した右示唆は、線素材発明の技術面における解決としては、極めて抽象的かつ不完全なものであり、同人は発明者とはいえない。 発明者は、研究室員、具体的には【C】と【D】である。 (6) このことは、昭和四八年二月一三日、線素材発明が特許登録されたので、 原告【A】の意を受けた原告【B】の提案により、同年一一月一七日の取締役会決定をもつて、右発明功労者八名をA、B二クラスに分け、表彰し、賞品(Aクラス一万円、Bクラス五〇〇〇円程度の電気カミソリ)を授与したが、Aクラスとして、右発明外一発明を理由に【C】、右発明の開発と実施化を理由に【D】が対象とされたことからも明らかである。 原告【A】の名が特許出願において発明者に加えられているのは、同人が【C】、【D】の上司であつたためにすぎない。 (三) クラツド板発明(1) 従来用いられていた方法では、クラツドした複合異種金属板の長さが、使用する電気炉の容器に制約された。被告の研究室員は、商品の説明のため需要家の間を回る際に、需要家からより長尺の製品を製作することを要望され、研究を始めたものである。 研究開発は、被告の本社とは別の場所に在る研究室で【E】、【C】、【F】が討論をし、図面を作成し、また、研究室付属作業所で試作品を製作し行つた。 (2) 最初は、研究室員の右三人も、従来の製法を用い、容量の大きい電気炉を製作することを考えた。しかし、場所的制約、炉を大きくすることによる作業の危険性、クラツドの状態にむらができ、品質が劣悪化する虞れ等の障害が考えられたので、断念した。 (3) 次に、【C】が、発熱体をクラツドすべき異質金属板に直接接触させて熱を伝達し、同時に加圧する方法を考案した(クラツド板発明の原点)。しかし、実際に右方法によるクラツド装置を製作するには、次の点に工夫を要した。 @ 最初は、発熱体等の内部積重ね体が、熱のため五、六回の使用により破損してしまい、採算に合わないため、これの寿命を延す工夫(雲母の種類と厚さの決定、 電極の形、大きさ、発熱体の種類、大きさの決定)A 右考案の方法によると、クラツドすべき異種金属板の両端において、放熱面積が他の部分より大きくなり、 他の部分より温度が低下して、クラツドの適温より外れてしまう欠点があるため、 加熱温度を均一にする工夫B 積み重ね体をパツク状態にし、簡易に全部を取り替え可能にする工夫C 非酸化性雰囲気にするため、水素置換法を用いるのであるが、水素置換装置の工夫D 電熱帯に流す電圧、電流に関する実験最適量の決定、変電器の容量の決定E 試作品の製作F 通電切換装置の製作G 熱電対による温度計の製作(4) 原告【B】は、クラツド板発明当時、取締役製造部長として、工場における生産活動の責任者であり、右発明も含め、研究開発には一切タツチしていなかつた。したがつて、右発明と原告【B】とは無関係である。原告【B】の名が右発明の特許出願において発明者中に加えられているのは、当時の技術系最高決定権者である原告【A】が、原告【B】の技術系役員としての地位を考慮して、発明者の名を与えたにすぎない。 (5) 右発明は、研究室において長尺クラツド板の研究をしているときに、 【C】が、熱伝達方式により加圧加熱して金属板をクラツドできないかと思いつき、二カ月程の間、右思いつきが実現可能なものか否か、一人で理論的研究、計算をしたり、実験したりして、見通しがついた段階で、原告【A】に前記考案を研究室の正式テーマとしたい旨申し出て、許可を受け、また、当時研究室長だつた【E】や他の研究室員に構想を話し、具体的な研究、製作に取りかかつた。また、 【C】は、その後も、しばしば、研究、製作の進捗状況につき、原告【A】に報告していた。 右のとおり、原告【A】は、【C】が中心となつて研究室全体でクラツド板発明を開発することを許可したにすぎない。発明者は【C】である。 (6) このことは、原告【A】の提案により、昭和四五年一一月二五日、【C】をクラツド板発明により会社に与えた貢献が大であるとして表彰し、金一封(一〇万円)を授与したことからも明らかである。 結局、原告【A】の名が特許出願において発明者に加えられているのは、同人が【C】の上司であつたためにすぎない。 (四) 連続クラツド発明(1) 従来の電気炉により加熱加圧する方法では、長さ約二〇センチメートル程度のクラツド板しか製造できなかつたが、クラツド板発明により三倍の約六〇センチメートルのクラツド板が製造できるようになつた。現実の製品は、一六ミリメートル程度の圧さでクラツドしたクラツド板を圧延加工して、〇・一ないし〇・五ミリメートルの各種規格のクラツド板にする。したがつて、完成した製品の長さは、 厚さによつて異なるが、例えば、〇・五ミリメートルの規格であれば、二〇メートル弱の長さの製品となる。しかし、被告の研究室員は、需要家から更にもつと長尺の製品が欲しい旨要望され、研究に入つた。 (2) 研究室では、最初は、薄いクラツドすべき金属条を重ね合わせて巻き込み、これを外側から強く締め付け加熱する方法を考えたが、この方法では熱が均一に分布せず失敗した。 次に、クラツド板発明の応用として、クラツドすべき金属を移動させれば連続的にクラツドできるのではないかという点がヒントになり、連続クラツド発明を思いついた。ただし、クラツド板と熱伝達面との接触面に金属を用いると、クラツドすべき金属が摺動する際、製品に傷がつくので、黒鉛を用いることにした。黒鉛だと摺動により粉末となつて金属表面を覆い、潤滑剤の役割を果し、傷がつかないからである。 また、クラツドは大気中で行つてもよいのであるが、非酸化性雰囲気の方がクラツド状態も良好で、また、熱伝達体となるカーボンの酸化が押さえられるので、非酸化性雰囲気下でクラツドした方がよい。 他に工夫を要した点は、次のようなものがある。 @ カーボンの設定位置、カーボンの種類、厚さ(厚すぎると、熱伝達の状態が悪くなり、薄すぎると、割れたり、摩耗によりすぐ取り替えなければならなくなる。)の選定A 非酸化性雰囲気を作り出すのに水素をもつて置換する方法を用いるが、クラツドすべき金属の出入口より大気が混入しないようにする工夫B クラツドすべき金属の入口と出口とでは、温度に違いができるが、温度の分布状態を適正にする工夫(3) 連続クラツド発明により、原理的には無限の長さのクラツド板が製作できるわけであるが、現実には、材料の長さに制約され、被告は、厚さ一・五ミリメートル、長さ五〇メートルのステンレス条を素材に使い、〇・五ミリメートルの規格のクラツド板の場合、約一五〇メートルの製品を製作していた。 3 特許出願をしなかつた金張発明及び連続クラツド発明については、原告らが対価請求権を有するとする法的根拠がない。 仮に、職務発明の規定の適用があるとしても、被告は無償の法定通常実施権を有することになるから、原告らに対価請求権はない。 4 仮に、原告らに職務発明についての対価を請求する権利があるとしても、その額は、原告らの主張するような大きなものとはならない。 特許法第35条第3項の規定する相当の対価の支払請求権は、特許権を受ける権利の譲渡又は専用実施権の設定の際に、一括的に発生する債権であり、当該発明につき特許権を得たり、これを実施することによつて利益を得たことに対する実績補償を内容とするものではない。同条第四項の規定する使用者の「受けるべき利益の額」も、譲受又は設定の時における事情の下で考えなければならないものであるから、本件においても、特許を受ける権利を譲り受けた時の被告の生産、営業状況を基準に、同時点の貨幣価値に従つて算定されるべきである。 被告は、昭和四七年以降、売上高、経常利益共、大きく増加したが、これは、日本の時計業界の需要が大きく伸びたことに起因しており、クラツド板発明までの発明に関する相当の対価の算定の基礎事情とすることはできない。 本件の各発明が被告に与えるべき利益は、測定しようがないというのが現実である。例えば、線素材発明については、これが被告にとつて有用であつたか否か甚だ疑問がある。 すなわち、線素材発明がされた当時、被告は線素材の製造をしていなかつたから、その時点では種々の方法を選択しえた。線素材発明の方法は、当時はわからなかつたことであるが、前記のとおり、接合状態が悪く、伸線段階で、又は納品先で、表面のクラツドした金属が剥れる危険が大であつた。したがつて、右方法を採用したことが、他の製法を採用した場合に比較し、総合的に見て被告に有利であつたか否かは、一概に断定はできない。 以上のような観点から考慮すれば、むしろ、前記のとおり、原告ら自身の提案により、線素材発明及びクラツド板発明について、発明者である【C】らに対し、就業規則第36条第1項第3号により、職務発明に対する表彰として、金一封一〇万円又は一万円相当の電気カミソリを与えたが、これらの額こそ、相当な対価額というべきである。これは、我国の企業における職務発明に対する補償の実態とも合致している。 なお、原告らは、理化学研究所の規定を根拠としているが、理化学研究所は、いわば、発明を売る会社であり、発明を源泉とすることが割合明確であるから、被告のように、その利益が会社の社歴、過去及び現在の会社構成員全員の力、その他外部事情一般等の事実が渾然一体として源泉となつた場合の職務発明の対価の根拠にはなりえない。 原告の主張のように、一件の発明で何百万円という対価が請求できるものとすれば、事務系の従業員の数年分の退職金に相当する報酬が研究者には与えられることになり、従業員の間に不公平観が生まれ、企業は成立しえなくなる。また、他方、 企業は、人件費の高騰に対処するため、研究者には請負的賃金体系をとらざるをえなくなり、ひいては、研究者自身の経済的基盤をおびやかすことになる。 四 抗弁1 自己取引による無効 金張発明及び連続クラツド発明については、特許を受けておらず、前者については特許出願をあえてしないことが被告の利益となるか否かが不明の段階(前記のとおり、わずか数カ月後に株式会社山本金属研究所が同様の技術につき特許出願をしたことからすれば、むしろ不利益であつたといえる。)、また、後者については特許出願をするか否かが不明の段階で、対価支払義務を負担するような特許を受ける権利の譲渡を受けたとすると、取締役たる原告らと会社との自己取引に該当し、取締役会の承認を受けなければ、無効である。 2 消滅時効の援用 仮に原告らの職務発明の対価請求権が発生したとしても、金張発明については、 被告の実施時期であると原告の主張する昭和四〇年一〇月から、線素材発明については、特許出願日である昭和四二年九月二二日以前に特許を受ける権利の譲渡を受けたので、遅くとも同日から、各一〇年の経過をもつて、右権利は時効により消滅した。よつて、被告は、右消滅時効を援用する。 五 抗弁に対する認否及び反論1 抗弁1、2は否認する。 2 特許を受ける権利の承継があつた場合の職務発明の対価請求権は、特許登録がされ特許権形成されたことに対して支払われる登録報酬と、特許発明の実施により生じた利益について支払われる実施報酬とに大別することができる。 このうち、登録報酬については、特許登録時に請求権が発生するから、消滅時効起算日も登録日となる。 次に、実施報酬については、登録後実施の場合は、登録日が時効起算日であり、 出願前実施の場合は、登録後のものは登録日、登録前は実施により利益の発生した日である。 3 ノウ・ハウについては、特許出願をしない以上、登録報酬請求権は発生しない。 実施報酬については、実施により使用者が利益を享受した時に請求権が発生するから、その日が消滅時効の起算日である。 金張発明の実施により利益の発生したのは、昭和四八年四月からであり、連続クラツド発明の実施により利益の発生したのは、昭和四九年一月からである。 4 特許を受ける権利又はノウ・ハウとすることを当事者間で特に合意した権利の承継があつたときは、これにより生じた報酬請求権については、譲渡人である発明者は、譲受人である使用者と同様に保護されるべきであり、また、他の通常の債権と異なり特別の保護を受けさせるのが、発明者を保護し、発明を奨励する特許法の趣旨に合致するから、時効期間は、特許権の存続期間と同じ一五年と解すべきである。 六 再抗弁―抗弁1に対し 金張発明及び連続クラツド発明についての権利譲渡に際しては、そのつど被告取締役会において承認を得ている。 七 再抗弁に対する認否 再抗弁事実は否認する。 |
|
証拠(省略)
理 由一 証人【H】、同【I】、同【C】の各証言及び原告【A】、同【B】各本人尋問の結果によれば、遅くとも昭和四〇年一〇月ころまでに、当時被告の技術担当の取締役(常務)で技術関係の総責任者であつた原告【A】、被告の製造担当の取締役(製造部長)で製品製造の責任者であつた原告【B】(原告らが在任中を通じこれらの役職にあつたことは被告の自認するところである。)、被告の研究室員であつた【C】らが何らかの形で関与することによつて、別紙(一)のとおりの技術的思想の創作すなわち金張発明が完成されたこと、これについて、原告【A】は、特許出願すれば必ず特許されるとの確信を得たが、当時ステンレス金張の技術を有していた企業は他に全くなかつたし、当時の被告は技術面においてはまだまだ弱体であつたから、これを特許出願して公開すると、競争企業にヒントを与える結果になり、必ず追い抜かれることになると考え、これをノウ・ハウとして秘匿することが被告の利益になると判断し、被告の役員会においてその趣旨を説明し、あえて特許出願をしないものとしたこと、その後、金張発明は被告において実施されたことが認められ、以上の認定を覆すに足りる証拠はない。 また、成立に争いのない甲第二号証、証人【I】、同【C】の各証言及び原告【A】本人尋問の結果によれば、前記役職にあつた原告【A】、【C】及び被告の従業員で原告【B】の補佐役であつた【D】の三名が関与して別紙(二)のとおりの技術的思想の創作すなわち線素材発明が完成され、これについての特許を受ける権利が発明者らから被告に譲渡されたことが認められ、線素材発明が、被告により、昭和四二年九月二二日特許出願され、昭和四八年二月一三日特許登録されたことは、当事者間に争いがない。 二 そこで、次に、抗弁2(消滅時効の援用)について検討する。 1 職務発明について、特許を受ける権利を使用者に承継させたときは、発明者である従業者は相当の対価の請求権を取得するが、特許法第35条第3項の解釈上、 右請求権の発生するのは、特許を受ける権利の承継の時であると解するのが相当である。これは、同法において、「特許を受ける権利」が特許権とは別個の独立した権利とされており(同法第33条)、右の対価が「特許を受ける権利」を承継させることに対する対価である以上、当然のことであるというべきである。したがつて、右請求権についての消滅時効は、その行使をすることができる時、すなわち承継の時から進行する。 原告は、この点に関し、対価を登録報酬と実施報酬とに分けて、種々論じているが、特許を受ける権利を承継した使用者が、特許出願するか否か、これを実施するか否かは、譲受人たる使用者の自由であるから、原告のような解釈をとると、出願も実施もしない場合には対価の請求をすることができなくなり、不合理である。また、特許を受ける権利という一個の権利の一回的譲渡の対価は、譲渡時において一定の額として算定しうるはずのものであるから、後に登録になつたか否か、実施により利益を生じたか否か等の事情によつて、対価の額がその時点で初めて定まると解するのは、相当でない。これらの事情は、後日になつてから譲渡時における「相当の対価」を評定するに当たり参考とすることはできるが、これを直接の算定根拠とすることは妥当でない。特許法第35条第4項は、対価の額の算定につき、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」を考慮すべきことを定めているが、 右利益は、「受けるべき利益」とされていることから、その発明により現実に受けた利益を指すのではなく、受けることになると見込まれる利益、すなわち、使用者等が当該権利承継により取得しうるものの承継時における客観的価値を指すものであることが明らかである。 なお、原本の存在及び成立について争いのない乙第五号証及び成立に争いのない乙第八号証によれば、職務発明に関する規程を有する我国の企業においては、一般に、特許等の出願時に出願補償として、特許等登録時に登録補償として、又は実施をしたときに実績補償として、金員を支払うこととしているものが多いことが認められるが、これらはあくまで、社内規程による具体的取決めがある企業における実態を示すものにすぎず、このような規程を持たない場合に、特許法第35条第3項、第四項の規定に基づいて対価の請求をする場合についての解釈を左右するものではない。 2 次に、原告は、いわゆるノウ・ハウに関しては、対価請求権の消滅時効期間は、実施により利益を生じた時から進行する旨主張するので、これについても検討する。 特許法第35条の職務発明は、特許発明に限定されてはいないから(同条第一項)、発明でありさえすれば、特許されたものであろうとなかろうと、同条の適用があるものと解される。したがつて、いわゆるノウ・ハウについても、その内容が発明の実質を備えるものであれば、同条の職務発明となりうる。 ところで、従業者のした発明を、使用者の営業上の利益を守るため、ノウ・ハウとして秘匿し、使用者においてのみ独占的に実施する旨の使用者と従業者間の合意は、いわば、当該発明についての特許を受ける権利を使用者の支配下におき、これを使用者の意思によつてあえて特許出願をしないものとするのであるから、通常の場合には、右合意のときに特許を受ける権利の承継があるもの又はこれと同視してよいものというべきである。したがつて、特段の事情のない限り、右合意の時に、 特許を受ける権利の承継があり、その対価の請求権が発生するものというべく、対価請求権の消滅時効期間も、通常の特許を受ける権利の譲渡の場合と同じく、右の時から進行するものというべきである。 3 原告は、また、対価請求権の消滅時効期間は一五年である旨主張するが、そのような規定は存在せず、右主張は原告独自の見解というのほかはなく、右主張は採用しない。 4 前記認定の事実によれば、金張発明は遅くとも昭和四〇年一〇月ころには完成し、これを被告の利益のため特許出願しない旨の合意が発明者らと被告との間で成立したものであるから、そのころ、発明者らから被告へ特許を受ける権利が譲渡されたものと推認され、右認定を左右するに足りる特段の事情は認められない。また、前記認定の事実によれば、線素材発明については、遅くともその特許出願のされた昭和四二年九月二二日までに、発明者らから被告に対し特許を受ける権利が譲渡されたものと認められる。そして、本件訴訟の訴状が当裁判所に提出されたのが昭和五四年一一月二七日であることは、本件記録上明らかであり、 また、請求の原因10については当事者間に争いがないから、原告らが金張発明及び線素材発明に関する対価の支払を被告に対し催告したのは昭和五四年七月二四日であつたことになる。そうすると、金張発明が発明の実質を備えたものであるか否か、原告らがその発明者であるか否か、また、原告【A】が線素材発明の発明者であるか否か等の点について、原告らが請求の原因において主張する事実がすべて認められるとしても、これらの発明に関する原告らの各対価請求権は、右催告時には、いずれもその権利を行使しうる時から各一〇年を経過していることが明らかであるから、被告の消滅時効の援用により、時効消滅したものといわざるをえない。 したがつて、被告の消滅時効援用の抗弁は理由がある。 5 以上のとおりであるから、金張発明及び線素材発明に係る原告らの請求は、その余の点について検討するまでもなく、失当であることに帰する。 三 クラツド板発明についての原告らの対価請求権の存否について検討する。 1 成立に争いのない甲第一号証、証人【F】、同【E】、同【C】の各証言及び原告【A】本人尋問の結果を総合すると、前記の役職にあつた原告両名、当時の被告研究室長【E】、【C】に、当時の被告研究室員【F】及び【J】も加えた六名が、何らかの形で関与することによつて、昭和四四年末ないし昭和四五年初めごろ、別紙(三)のとおりの技術的思想の創作すなわちクラツド板発明がされ、これについての特許を受ける権利が、発明者らから被告に譲渡されたことが認められ、 被告が、昭和四五年二月一二日、クラツド板発明について特許出願し、これが、昭和五三年一月三〇日、特許登録されたことは、当事者間に争いがない。 2 前記甲第一号証によれば、クラツド板発明の特許出願の願書においては、同発明の発明者は、【C】、【E】、原告【B】及び原告【A】の四名とされていることが認められる。そして、証人【F】、同【E】、同【C】の各証言及び原告【A】本人尋問の結果を総合すると、クラツド板発明が完成されるに至つた手順等について、次の各事実が認められる。 (一) 原告【A】が全体の作業を総括指揮した。 (二) 具体的な実験、研究等の作業は、研究室に任され、【C】を中心として作業が行われた。 (三) 主として【C】が提案したアイデアについて、研究室内で、また時に原告【A】及び同【B】も加わつて、討議をした。 (四) 研究室における討議とは別に、原告両名及び【E】研究室長による討議が、原告【A】を中心に行われた。 (五) 研究室での研究、討議等の結果は、【E】がとりまとめて原告【A】及び同【B】に報告し、これに対し、研究開発の大筋に関する事項について、原告らから【E】に具体的な意見、指示が出され、これを【E】が研究室に持ち帰るということが繰り返された。 (六) また、【C】は、原告【B】に相談を持ち掛け、具体的な指示を受けた。 (七) 特許出願に際し、発明者を前記四人と表示することは、原告【A】が裁定したが、これについては、右四人共、当時も現在も特に異存がない。 そして、原告両名、【E】、【C】の学歴及び社歴が、請求の原因3(二)の(1)ないし(4)のとおりであることについては、当事者間に争いがない。 以上の各事実と弁論の全趣旨を総合考慮すれば、クラツド板発明の発明者は、原告両名、【E】、【C】の四名であり、同発明についての特許を受ける権利の共有持分は、同発明完成のための寄与の程度に従い、各人が二五パーセントを取得したものと認めるのが相当である。この認定を左右するに足りる証拠はない。 3 被告の主たる業務が金属加工であることは、被告が明らかに争わないから、自白したものとみなされ、また、原告【A】が被告の技術担当の取締役で技術関係の総責任者であつたこと、原告【B】が被告の取締役製造部長で製品製造の責任者であつたことは、前記のとおりである。したがつて、別紙(三)のとおりのクラツド板発明は、被告の業務範囲に属することが明らかであり、また、新規なクラツド板の製造方法の開発は、技術又は製造の責任者である原告らの職務範囲というべきであるから、クラツド板発明は、原告らの職務に属する発明と認められる。 4 したがつて、原告らは、右各持分に応じて、 クラツド板発明について、特許を受ける権利を前記認定のとおり被告に譲渡したことに対して、相当の対価の支払を受ける権利を有する。 四 次に、連続クラツド発明についての原告らの対価請求権の存否について検討する。 1 成立に争いのない甲第一九号証、証人【F】、同【E】、同【C】の各証言及び原告【A】本人尋問の結果によれば、前記の役職にあつた原告両名、【E】、 【C】及び【F】の五名が関与することによつて、昭和四九年末ころまでに、別紙(四)のとおりの技術的思想の創作すなわち連続クラツド発明が完成されたことが認められる。なお、原告【A】本人尋問の結果中には、発明完成の時期について昭和四八年暮ころとの部分が存し、原告【B】の尋問結果中にもこれに沿う部分があるが、後記認定のとおり、発明完成後間もなく、実験用に試作した連続クラツド装置を生産用に転じたこと、その時期が昭和五〇年九月であること、被告の第二〇期(昭和五〇年三月から昭和五一年二月まで)決算報告書(甲第一九号証)の当期営業概況の欄に「ようやく完成の域に達した新技術」と記載されていることから、発明完成時期は、昭和四九年暮ごろと認むべきである。 2 連続クラツド発明については、発明の実質を備えていたか否かにつき争いがあるから、この点につき検討する。右各証拠によれば、連続クラツド発明の完成により、クラツド板発明においては製造されるクラツド板の長さが炉の大きさに限定され、被告においては約六〇センチメートルのものまでしか製造することができなかつたものを、理論上は無限に長いものを製造することが可能となり、生産性及び商品価値が飛躍的に増大したこと、連続クラツド発明のほかには、このように長尺のクラツド板を作成する技術がなく、需要者においてこのような製品が切望されていたこと、被告研究室において文献を研究したり、中外電工株式会社の線材を連続的にクラツドする装置を見学したりしてヒントを得たが、クラツド板についての技術ではなかつたこと、連続クラツド発明については、線素材発明及びクラツド板発明と同様に特許出願をするために、原告【A】が【E】に指示して、同人及び【C】が明細書の草案を作成したが、実験用に試作した連続クラツド装置によりそのまま実際の生産を開始することになつたり、生産用の装置を作成しなければならなくなつたことから、研究室員が多忙となり、時期を失したため、遂に特許出願するに至らなかつたこと(被告の研究室員が明細書の草案を作成したが、出願するに至らなかつたことは、当事者間に争いがない。)が認められる。そして、別紙(三)と(四)とを対比すれば、連続クラツド発明がクラツド板発明と全く別個の技術的思想の創作であることが明らかである。これらの事実に、前記のとおり、クラツド板発明が昭和四五年二月一二日に出願され特許登録されたこと及び弁論の全趣旨を総合すれば、連続クラツド発明は、発明の実質を備えていたものと認めるのが相当である。 3 そして、原告【A】本人尋問の結果によれば、被告においては、右発明完成当時、新しく開発した技術について特許出願するか否かは、技術面に関する最高責任者であつた原告【A】が決めて取締役会に報告する慣行であつたこと、連続クラツド発明についても特許出願準備中である旨を原告【A】が取締役会に報告したことが認められ、この事実と、前記認定の原告【A】の指示により【E】、【C】が明細書草案を作成した事実、線素材発明及びクラツド板発明についてはいずれも出願前に特許を受ける権利が被告に譲渡された事実によれば、連続クラツド発明についても、その完成の直後ごろに、特許を受ける権利が発明者から被告に譲渡されたものと推認することができ、これを覆すに足りる証拠はない。 被告は、この点に関し、まず、特許出願の準備が整つていない段階で被告が特許を受ける権利を譲り受けたとは考えられないと主張するが、特許を受ける権利の譲渡がいつなされるかについて、原則的時期があるものと認めることはできず、証人【F】、同【E】、同【C】の各証言、原告【A】本人尋問の結果によれば、本件の四つの発明を通じて、特許出願をするか否かの決定は、発明者らにおいてなされたものではなく、被告においてされたものと認められるから、前記のとおり、連続クラツド発明についても、線素材発明及びクラツド板発明についてと同様、特許出願をする予定で明細書作成の作業にとりかかつた等の事実から、被告が特許を受ける権利を自己の支配下に移し、特許出願をする方針であつたことを推認することができるものというべきであり、前記のとおり特許を受ける権利の譲渡があつたものと推認するのが適当である。 また、被告は、抗弁1において、連続クラツド発明についての特許を受ける権利を原告らから被告が譲り受けたとすると、それは取締役と会社間の自己取引に当たり、取締役会の承認がなければ無効である旨主張する。しかし、前記認定の事実によれば、原告【A】が連続クラツド発明につき出願準備中である旨の報告をした時点で、取締役会の承認があつたと認むべきであるから、結局、右主張も理由がない。すなわち、前記のような慣行の存在の下で、原告【A】が出願準備中との報告をした場合、当該出願が、線素材発明及びクラツド板発明と同様、特許を受ける権利を譲り受けた上、被告名義によりされるものであることを当然意味すると見られ、既に出願準備を進めているということは、近く被告名義で出願することを予定している旨の報告と解されるから、特許出願に関する事項につき事実上の判断権限を有し、最高責任者である担当取締役が、その旨の報告をし、これに対し何らかの異議が他の取締役から述べられたことを認むべき証拠はないから、これが承認されたものと推認すべきである。 4 証人【F】、同【E】、同【C】の各証言及び原告【A】本人尋問の結果を総合すると、連続クラツド発明が完成されるに至つた手順等について、次の各事実が認められる。 (一) 原告【A】が全体の作業を総括指揮した。 (二) 研究室において研究開発にとりかかる前に、当時入院中の【E】研究室長に対し、原告【A】が、原理図を示しながら、連続的にクラツドする装置の構想を語つた。その後、研究室において種々検討し、他の手段についても研究したが、結局、原告【A】の語つたものに極めて近い原理を用い、それを簡素化したものとして完成されるに至つた。 (三) 中外電工株式会社において線材を連続的にクラツドする技術を開発していることを知つて、【E】、【C】、【F】が同社を訪れ、細かな説明はノウ・ハウであるとして受けられなかつたものの、その概略についての知識を得、また外国の参考文献をもらい、カーボンの間をクラツドすべき金属を移動させながら加熱加圧するという発明の重要なヒントを得て、これを板材に応用することにした。 (四) 具体的な実験、研究、討議の手順及び分担は、クラツド板発明の場合とほぼ同様であつた。 (五) 装置の完成に至るまでの細かい工夫は、【C】が中心となり、【E】、 【F】の三名で行つた。 (六) 原告【B】は、主として工場における製造に際しての安全性の面と、クラツド板の品質の面から、討議の場で、また個々的に原告【A】、【C】等に意見を述べ、指示をした。 そして、【F】の学歴及び社歴が請求の原因3(二)(5)のとおりであることは、当事者間に争いがない。 以上の各事実と、前記原告両名、【E】、【C】の学歴及び社歴並びに弁論の全趣旨とを総合考慮すれば、連続クラツド発明の発明者は、原告両名、【E】、 【C】及び【F】の五名であり、同発明についての特許を受ける権利の共有持分は、同発明完成のための寄与の程度に従い、原告【A】が五〇パーセント、原告【B】が一〇パーセント、【E】が二〇パーセント、【C】、【F】が各一〇パーセントを取得したものと認めるのが相当である。この認定を左右するに足りる証拠はない。 5 別紙(四)のとおりの連続クラツド発明が、被告の業務範囲に属し、原告らの職務に属する発明であると認められることは、クラツド板発明について判示したところと同様である。 したがつて、原告らは、右各持分に応じて、連続クラツド発明についても、特許を受ける権利を前記認定のとおり被告に譲渡したことに対して、相当の対価の支払を受ける権利を有する。 五 三及び四において認定した事実に基づき原告らが取得した各対価請求権によつて原告らが請求しうる対価の額は、各発明により被告が受けるべき利益の額と、各発明がされるについて被告が貢献した程度を考慮して定めなければならない。 ところで、職務発明については、これが特許されたときに、使用者は、法律上当然に、無償かつ無制限の通常実施権を有する(特許法第35条第1条)。当該発明について特許がされる前、また、特許を出願しなかつた場合には、実施権という観念は法律上存在しないが、右規定の理は、この場合にも同様に適用されるべきである。すなわち、発明について特許を出願しない場合は、理論上は万人が実施しうるわけであるが、これがノウ・ハウとして秘匿されるときは、事実上、これを知つている使用者のみが実施しうることとなるところ、この実施も、当然に無償かつ無制限のものというべきであると解される。 右の点を考慮すると、職務発明がされた場合、当該発明を無償で実施する権限を有するという点においては、使用者が従業員から特許を受ける権利を譲り受けた場合と譲り受けなかつた場合とにおいて差異はなく、職務発明について従業者から特許を受ける権利を譲り受けることにより、使用者は当該発明につき特許出願をして登録を受ければ、あるいは、これをノウ・ハウとして秘匿すれば、発明の実施を排他的に独占しうる地位を法律上又は事実上取得できる点において、右権利を譲り受けない場合との差異が生ずるというべきである。したがつて、譲渡の対価の額を定めるに当たり考慮すべき「発明により使用者が受けるべき利益」とは、使用者が発明を実施することにより受けることになると見込まれる利益を指すのではなく、右のような地位を取得することにより受けることになると見込まれる利益を指すものと解するのが相当である。 そして、右のような地位は、未だ特許を受けておらず、排他的独占権が現実のものとなつていない点、及び特許を受けることができるか否かが不確実であるという点等において、発明者である従業者により特許出願がされ、特許を受けた後に、特許権を譲り受けることによつて使用者が取得する地位とは、異なるものであり、これに従つて、前記の利益の額も、それぞれの場合ごとに異なるものといわなければならない。 そして、職務発明についての特許を受ける権利の譲渡の対価請求権は、前判示のとおり、譲渡時において発生し、その額も客観的に確定するものであるから、その時を基準時として、以上のような観点から、その額を算定すべきである。 六 そこで、まず、クラツド板発明について原告らが請求しうる対価の額について判断する。 1 原告らが被告に対しクラツド板発明について特許を受ける権利の共有持分を譲渡したのは、前記認定のとおり、昭和四四年末ないし昭和四五年初めころであつたところ、前記甲第一、第一九号証、成立に争いのない甲第一二ないし第一八号証、 第二〇、第二一号証、乙第一、第二号証の各一・二、原本の存在及び成立に争いのない乙第六号証、証人【F】、同【E】及び同【C】の各証言並びに原告【A】、 同【B】各本人及び被告代表者各尋問の結果を総合すれば、次の各事実が認められる。 (一) 被告は、従来用いていた方法では、約二〇センチメートルの長さのクラツド板の製造しかできず、これを圧延して約五ないし六メートルの長さのクラツド板製品を製作することができるにすぎなかつたのに、クラツド板発明を実施することにより、約三倍の約六〇センチメートルの長さのクラツド板の製造ができ、これを圧延することによつて約一五ないし一八メートルの長さのクラツド板製品を製作することが可能となつた。製品の長さが約三倍になることにより、より長尺のクラツド板を求めていた需要者の要望にある程度応えることができた。 (二) また、クラツド板発明の方法によれば、従来の方法に比し、熱効率がよいため、生産に要する時間を短縮することができ、長尺化と相まつて、生産性が高くなつた。 (三) 更に、従来の方法に比し、加圧方式が安定したこと等により、製品の品質も向上した。 (四) 被告は、昭和四五年一一月に、クラツド板発明を実施するための装置を備えた工場を完成し、稼動を開始した。 (五) その後、クラツド板発明を基礎にして連続クラツド発明がされ、更に長尺のクラツド板が製造可能となり、昭和五〇年九月に実験用の連続クラツド装置が生産の分担を開始し、昭和五一年ころから本格的に連続クラツド装置が稼動するようになつた。 (六) 被告は、クラツド板発明を時計バンド材料と工業材料であるステンレス金張等の板材の生産に使用した(クラツド板発明を時計バンド材料及び工業材料の生産に使用したことは、当事者間に争いがない。)ところ、昭和四五年ころから昭和五〇年ころにかけては、日本経済界全体としては、それまでの好況から、景気が下向きに転じ、また、昭和四八年四月一日に金が自由化されたという状況下にあつて、工業材料の売上高は増減をくり返したが、時計バンド材料の売上高は、時計業界が輸出が堅調なこともあつて、総じて安定した伸びを示した。昭和四五年度から昭和五〇年度まで(年度は、三月一日から翌年二月末日まで)の被告の時計バンド材料及び工業材料の売上高は、別紙(六)及び別紙(五)の該当欄のとおりであり(別紙(五)については、当事者間に争いがない。)右(四)、(五)の事実から被告がクラツド板発明を実施した主要な時期を昭和四五年一一月から昭和五一年二月までと見ると、この間の時計バンド材料及び工業材料の売上高の合計は、三〇億二九二〇万七〇〇〇円となる(昭和四五年一一月から昭和四六年二月までの売上額は、昭和四五年度の売上額の三分の一として、千円未満を四捨五入する。)。右各年度における右両材料の売上高の合計が被告の全売上高に占める割合は、平均約八六パーセントであり、この間の被告の売上総利益から一般管理販売費を差引いた営業利益は、別紙(七)の該当欄のとおりであつた。 (七) 被告と競争関係にあつた株式会社山本金属研究所が、昭和四五、六年ごろに倒産し、それ以降、被告は、主要な競争会社が存在しない状況下で、加工用ステンレス金張材料について九〇パーセント以上の市場占有率を有していた。 (八) 被告が金張業界で確固たる地位を築いていたのは、ステンレスに金張を施すことを初めて可能にした金張発明によるところが大きく、これに比較すれば、クラツド板発明が被告に与えた利益は相対的に小さいといつてよい(原告の主張する実施料率が、金張発明は一パーセントであるのに対して、クラツド板発明は〇・五パーセントであることも、このことを示している。)。 (九) 被告の研究室は、昭和四〇年ころに新設されたが、当初はほとんど試験、 研究のための機器がなかつたところ、クラツド板発明がされるころまでには、除々に設備が充実し、ビツカース硬度計、金属顕微鏡、引張試験機、環境試験機、電気炉等が装備されていた。クラツド板発明は、すべて、勤務時間中に、これらの機器及び被告の工場の製造用設備を使用し、工場の製造担当の従業員の協力を得、また、被告の提供したマイカ、ステンレス鋼等の資材を用いて、実験、装置等の試作が行われた結果、完成されたものである。ただし、資材等に要した費用は、それほど多くはなかつた。 (一〇) 被告の昭和四四年度から昭和五〇年度までの従業員数の推移は、別紙(八)の該当欄のとおりであつた。 (一一) クラツド板発明に関し、【C】が、昭和四五年一一月二五日、被告の従業員就業規則第36条第1項第3号(業務上有益な発明改良又は考案のあつた場合の表彰)による特別功労者として表彰を受け、賞金一〇万円を授与されたが、他にクラツド板発明に関し表彰、賞金の授与、その他何らかの優遇措置を受けた発明者はいなかつた。 そして、原告両名を含む発明者の被告における地位、職務が請求の原因3(二)のとおりであつたことは、前記のとおり、当事者間に争いがない。 2 以上のとおり、被告はクラツド板発明について特許を受ける権利を原告らから譲り受けてこれにつき特許権を得、時計バンド材料と工業材料の製造のために同発明を自ら実施し、これを実施した主要な期間と認められる昭和四五年一一月から昭和五一年二月までの間に右両材料の販売により合計三〇億二九二〇万七〇〇〇円の売上を得たのであるが、前示のとおり職務発明について特許を受ける権利を譲渡した対価の額を定めるに当たり考慮すべき「その発明により使用者等が受けるべき利益」とは、使用者等が発明を実施することにより受けることとなると見込まれる利益を指すのではなく、発明の実施を排他的に独占しうる地位を取得することにより受けることになると見込まれる利益を指すと解すべきであるので、右売上額自体もしくは右売上額から材料費、一般管理費等の必要経費を差引いた営業利益をもつて、職務発明により使用者が受け取つた利益としこれに基づいて譲渡の対価を算定することは、相当でない。これに対し、職務発明について特許を受ける権利を従業者から譲り受けてこれにつき特許権を得た使用者が、この特許発明を他者に有償で実施許諾し実施料を得た場合、得た実施料は、職務発明の実施を排他的に独占しうる地位を取得したことによりはじめて受け取ることができた利益であるから、この額を基準に使用者の貢献度その他諸般の事情を考慮して譲渡の対価を算定することは十分に合理的であるといえる。 そこで、本件において、被告がクラツド板発明を自らは実施せず第三者に実施許諾し、この第三者が同発明を実施して時計バンド材料と工業材料を製造しこれを販売したと仮定すると、右第三者は少くとも被告と同額の売上を得ることができたと推認でき、また、前記認定の諸事実に照らし、その実施料率は売上高の二パーセントを相当とすると認められるから、前記の三〇億二九二〇万七〇〇〇円に一〇〇分の二を乗じて得られる六〇五八万四一四〇円をもつて、クラツド板発明について被告がその実施を排他的に独占しうる地位を得たことにより受けることになると見込まれる利益と推認することができる。そして、このことと前記認定の諸事実から認められるところの同発明がされるについて被告が貢献した程度その他諸般の事情を考慮すると、発明者らが被告に対しクラツド板発明について特許を受ける権利を譲渡したことに対する対価は、全体で右六〇五八万四一四〇円の約一〇パーセント弱に当たる六〇〇万円とするのが相当であり、原告両名は右の対価のうち各二五パーセントの支払を受ける権利を有するから、各一五〇万円の対価請求権を有するものと認められる。 そして、原告らが被告に対し昭和五四年七月二四日到達の内容証明郵便によりクラツド板発明についての原告主張の対価を同書面到達後三〇日以内に支払うよう催告したことは、当事者間に争いがない。 七 次に、連続クラツド発明についての原告らの対価請求権の額について判断する。 1 原告らが被告に対し連続クラツド発明について特許を受ける権利の共有持分を譲渡したのは、前記認定のとおり、昭和四九年末ころであつたところ、前記甲第一九ないし第二一号証、成立に争いのない甲第二二号証、乙第三号証の一・二、第四号証の一ないし三、第九ないし第一一号証、証人【F】、同【E】及び同【C】の各証言並びに原告【A】、同【B】各本人及び被告代表者各尋問の結果を総合すれば、次の各事実が認められる(一部既述したものと重複)。 (一) 被告は、クラツド板発明の実施によつては、約一五ないし一八メートルの長さのクラツド板製品しか製作することができなかつたのに、連続クラツド発明を実施することにより、理論的には無限に長いクラツド板を、実際にも約一八〇メートルの長さの製品を製作することができるようになり、より長尺のクラツド板を求めていた需要者の要望が満たされた。 (二) 右の製品の長尺化により、生産性が飛躍的に向上した。 (三) 連続クラツド発明を実施することにより、生産工程をオートメーシヨン化することが可能となつた。 (四) 前記のとおり、連続クラツド発明の構成のうち、カーボンの間をクラツドすべき金属を移動させながら加圧加熱するという点は、既に中外電工株式会社が線材に関して実施していたもので、これを参考にして、板材に応用したものであり、 また、電熱体に生じた熱を伝達させることによりクラツドすべき金属を加熱するという点は、既にクラツド板発明において開発していたものを応用したものである。 (五) 前記のとおり、被告は、昭和五〇年九月に実験用の連続クラツド装置を生産用に転用し、昭和五一年ころから本格的に連続クラツド装置による生産を開始して、その後も継続的に同装置を使用している。もつとも、最近では需要が減つたため、その使用もひところよりは減つている。 (六) 被告は、連続クラツド発明を時計バンド材料と工業材料であるステンレス金張等の板材の製造に使用した(連続クラツド発明を工業材料の製造に使用したことは、当事者間に争いがなく、同発明が板材金張生産量の四〇パーセント以上に使用されていることは、原告らの自認するところである。)ところ、昭和五〇年ころ以降、日本経済界全体としては、全般に景気が低迷し、昭和五二年ころからは円高による輸出の不調、昭和五四年には金価格の暴騰等の状況であつたが、時計に関しては対米輸出の好調等から、時計バンド材の需要が大幅に増加し、クラツド板発明による生産性向上と相まつて、昭和五一年から急速に売上高を伸ばし、昭和五二年度には、売上高、利益とも過去最高を示した。しかし、昭和五三年からは、時計の輸出も不調に転じ、金の暴騰等もあつて、需要が大幅に減少している。この間、工業材料の売上高は、やや上向きながら、一進一退を続けた。そして右(五)の事実から認められるところの被告が連続クラツド発明を本格的に実施した昭和五一年度から昭和五六年度までの被告の時計バンド材料及び工業材料の売上高は、別紙(五)及び別紙(六)の該当欄のとおりであり(別紙(五)については、当事者間に争いがない。)、その合計は、九九億五五五七万五〇〇〇円となる。右各年度における右両材料の売上高の合計が被告の全売上高に占める割合は、平均約八四パーセントであり、この間の被告の売上総利益から一般管理販売費を差引いた営業利益は、別紙(七)の該当欄のとおりであつた。 (七) 被告は、右の時期も、金張業界で独占的地位を保つていたが、根本的には、やはり、金張発明がこれをもたらしたものであり、連続クラツド発明が被告に与えた利益は金張発明に比し相対的に小さいといつてよい(原告の主張する実施料率が、金張発明は一パーセントであるのに対して、連続クラツド発明は〇・一パーセントであることも、このことを示している。)。 (八) 連続クラツド発明は、すべて、勤務時間中に、被告の研究室及び工場の前記のような機器、設備を使用し、また、被告の提供した資材を用いて、実験、試作が行われた結果完成されたものである。特に、熱処理装置の試作には、相当の費用を要した。 (九) 被告の昭和五一年度から昭和五六年度までの従業員数の推移は、別紙(八)の該当欄のとおりであつた。 (一〇) 連続クラツド発明に関し、【F】が、昭和四八年一一月二三日、他の事項と合わせて、職務発明等功労者として表彰を受け、五五〇〇円相当の電気カミソリを授与されたが、他に連続クラツド発明に関し表彰、賞品の授与、その他何らかの優遇措置を受けた発明者はいなかつた。 そして、原告両名を含む連続クラツド発明の発明者の被告における地位、職務が請求の原因3(二)のとおりであつたことは、前記のとおり、当事者間に争いがない。 2 以上の事実を前提に、連続クラツド発明についてもクラツド板発明について述べたと同様に、連続クラツド発明を自らは実施せず第三者に実施許諾し、この第三者が同発明を実施して時計バンド材料と工業材料を製造しこれを販売したと仮定すると、右第三者は少くとも被告と同額の売上を得ることができたと推認でき、また、連続クラツド発明はクラツド板発明の改良にかかる発明である点、その他前記認定の諸事実に照らし、その実施料率は売上高の〇・二パーセントを相当とすると認められるから、前記の九九億五五五七万五〇〇〇円に一〇〇〇分の二を乗じて得られる一九九一万一一五〇円をもつて、連続クラツド発明について被告がその実施を排他的に独占しうる地位を得たことにより受けることになる利益と推認することができる。そして、このことと前記認定の諸事実から認められるところの同発明がされるについて被告が貢献した程度その他諸般の事情を考慮すると、発明者らが被告に対し連続クラツド発明について特許を受ける権利を譲渡したことに対する対価は、全体で右一九九一万一一五〇円の約七パーセント強に当たる一四〇万円と認めるのが相当であり、原告【A】は右の対価のうち五〇パーセントの支払を受ける権利を有するから、七〇万円の対価請求権を有し、原告【B】は右の対価のうち一〇パーセントの支払を受ける権利を有するから、一四万円の対価請求権を有するものと認められる。 そして、原告らが被告に対し昭和五四年七月二四日到達の内容証明郵便により連続クラツド発明についての原告主張の対価を同書面到達後三〇日以内に支払うよう催告したことは、当事者間に争いがない。 八 以上の事実によれば、原告らの本訴請求は、原告【A】については、クラツド板発明に係る対価一五〇万円と連続クラツド発明に係る対価七〇万円につき請求の限度である二〇万円の合計一七〇万円と、原告【B】については、クラツド板発明に係る対価一五〇万円と連続クラツド発明に係る対価一四万円につき請求の限度である一〇万円の合計一六〇万円と、これらに対する履行期の翌日である昭和五四年八月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の部分は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条、第92条本文の規定を、仮執行の宣言につき同法第196条第1項の規定を、各適用して、主文のとおり判決する。 |
|
追加 | |
別紙(一)炭素量〇・〇三パーセント以下の一二パーセントニツケル、一二パーセントクロムステンレス鋼又は炭素量〇・〇三パーセント以下の一二パーセントニツケル、一五パーセントクロムステンレス鋼と金合金の間に、銀銅共晶鑞を介在させて、非酸化性雰囲気炉中で加熱加圧し、当該金属の複合体をつくり、これに適当な加工度の圧延と非酸化性雰囲気炉中摂氏七八〇度程度の焼鈍を繰返して、所望の厚み硬さのステンレス金張を製造する方法別紙(二)貴金属単体又は合金の均一内径の管に、該管よりその長さが長く、かつ該管内径より僅かに小なる外径のステンレス鋼、ニツケル、ベリリウム銅又はその他の銅合金を芯材として挿入し、これを高衝撃荷重に耐える治具内に該芯材が該管の両端より突出するよう固定し、該芯材にその軸方向に衝撃加圧を加えて該芯材を軸芯に対し放射方向に膨張せしめて、管と芯材を密接一体化し、該一体化した組立体を治具から取外して加熱し、管構成金属と芯材構成金属とを互いに拡散密着せしめてなる貴金属の複合線素材の製造法別紙(三)クラツドすべき異質金属板を積み重ねた一対の積重ね組を各組それぞれ耐熱性電気絶縁材で被覆せる薄板状の発熱用金属電熱帯の両側で前記電気絶縁材に接して配置してこれらで積重ね体を形成し、前記積重ね体の両側から断熱体を介して積重ね体を均一に挟圧した状態で前記電熱体に通電せしめ前記電熱帯からの発熱を前記金属板に熱伝達させ且つ前記挟圧状態で所要時間電熱帯を金属板間が均一に固相接着又は融着するに要する温度に保持し然る後加熱を止めて狭圧状態で放冷することを特徴とした圧延のための異種金属クラツド板の製造法別紙(四)二枚の長方形黒鉛板を重ね、それぞれの外側にほぼ同形の雲母を以て被覆せる薄板状金属熱電帯を配し、これらを左右に開口部を有する耐熱鋼板製上下割型炉体に収納、上部炉体には重錘又はバネ機構により内部積重ね体に荷重のかかる構造とし、炉内は非酸化性雰囲気として上下電熱帯に通電し所定の炉温に保持、炉体開口部より二ないし三種の異質金属条を重ね合せながら二枚の黒鉛板間を通過せしめ、 伝達加熱方式により該異質金属条を連続的にクラツドする装置別紙(五)年度時計バンド材料工業材料眼鏡材料昭和四九年度五九〇、九六六、〇〇〇一八九、七四三、〇〇〇一四七、七二〇、〇〇〇昭和五〇年度六一三、一七〇、〇〇〇一七三、五九一、〇〇〇一〇四、三九二、〇〇〇昭和五一年度一、一〇一、九一六、〇〇〇二七一、一七九、〇〇〇二〇八、八六六、〇〇〇昭和五二年度二、〇〇〇、七六三、〇〇〇一七五、五七七、〇〇〇二四一、八五五、〇〇〇昭和五三年度一、六六〇、八一一、〇〇〇二四五、三九七、〇〇〇二一一、五二八、〇〇〇合計五、九六七、六二六、〇〇〇一、〇五五、四八七、〇〇〇九一四、三六一、〇〇〇(単位円)別紙(六)年度時計バンド材料工業材料昭和四五年度二一四、一五八、〇〇〇一三二、六八九、〇〇〇昭和四六年度二〇四、一四四、〇〇〇七八、七五三、〇〇〇昭和四七年度四一二、七七七、〇〇〇八六、〇二〇、〇〇〇昭和四八年度四〇五、一二一、〇〇〇一五九、三〇六、〇〇〇昭和五四年度一、二九一、四三五、〇〇〇二六〇、八九八、〇〇〇昭和五五年度一、四四五、四七四、〇〇〇四一八、九九二、〇〇〇昭和五六年度七八八、二九三、〇〇〇二九四、八四〇、〇〇〇(単位円)別紙(七)年度営業利益昭和四四年度三六、一〇二、九五〇昭和四五年度六五、三六九、一五一昭和四六年度四六、二七六、五三五昭和四七年度一一一、〇三二、五六六昭和四八年度一一六、一八四、九八七昭和四九年度一〇三、〇九五、七九一昭和五〇年度一〇八、四七〇、二〇一昭和五一年度二一四、六五一、五四三昭和五二年度二八九、七〇五、五六〇昭和五三年度二三五、八九〇、六〇五昭和五四年度▲四五三、一八二、八七八昭和五五年度一二〇、八八八、九六八昭和五六年度▲二七、三四〇、六二二▲は損失(単位円)別紙(八)被告従業員数年度44454647484950515253545556男39444650474848516080706058女141111101013131515151197計53555760576161667595816965 |
裁判官 | 牧野利秋 |
---|---|
裁判官 | 川口貴志郎 |
裁判官 | 大橋寛明 |