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関連審決 審判1980-6523
関連ワード 発明の詳細な説明 /  分割出願 /  正当な理由 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  不服申立 /  異議申立 / 
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事件 昭和 57年 (行ウ) 171号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1984/03/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 一 本件の訴えのうち意見書の不受理処分の取消しを求める部分を却下する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告1 特許庁昭和五〇年特許願第四二五一九号の特許出願についての拒絶査定に対する審判事件(特許庁昭和五五年審判第六五二三号)において原告が昭和五六年八月一日付けで提出した意見書及び手続補正書に対し、被告が同年九月三〇日付けでした不受理処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告(本案前の申立て) 主文一、三項と同旨(本案に対する答弁)1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
一 原告1 請求の原因(一) 本件事案の経緯(1) 原告は、昭和五〇年四月八日、特許庁昭和四八年特許願第二〇三三九号の特許出願に関して、特許法第44条第1項の規定により分割して新たな特許出願(特許庁昭和五〇年特許願第四二五一九号)をしたところ、特許庁審査官は、昭和五五年二月二三日付け書面をもつて、右分割出願について拒絶をすべき旨の査定をした。
そこで、原告は、弁理士Aを代理人(以下「原告審判請求代理人」という。)として、昭和五五年四月二四日、右拒絶査定に対し、同法第121条第1項の規定により審判を請求し、同事件は特許庁昭和五五年審判第六五二三号拒絶査定に対する審判事件として係属した。その後、審判長は、昭和五六年六月一九日付け拒絶理由通知書をもつて原告審判請求代理人に対し拒絶の理由を通知し、意見書等提出期限として同通知書発送の日(同年七月七日)から四〇日以内と指定した。
(2) 右通知を受けた原告審判請求代理人は、昭和五六年八月一一日、被告に対し、意見書(以下「本件意見書」という。)とともに明細書の特許請求の範囲発明の詳細な説明の欄を補正した手続補正書(以下「本件手続補正書」という。)を提出した。
右各書面の「事件の表示」欄には「昭和五五年審判第六五二三号」と、「代理人」欄には審判請求代理人である弁理士Aの住所、氏名及び電話番号が正しく記載されていたが、「審判請求人」の欄の「住所東京都台東区<以下略>」「名称 株式会社佐竹製作所」との記載、また、本件手続補正書の「補正をする者」の欄の「事件との関係 審判請求人」「住所 東京都台東区<以下略>」「名称 株式会社佐竹製作所」との記載のうち住所名称の部分は誤記であつて、正しくは原告の氏名が記載されるべきであつた。
(3) 被告は、原告審判請求代理人に対し、昭和五六年九月三〇日付けの一通の書面で、本件意見書及び本件手続補正書を「請求人相違」の理由により受理しないとの処分(以下「本件不受理処分」という。)をし、右書面は同年一〇月六日原告審判請求代理人に送達された。
(4) 原告は、右弁理士Aを代理人として、昭和五六年一〇月二八日、被告に対し、本件不受理処分のうちの本件手続補正書に係る部分について行政不服審査法による異議申立てをしたところ、被告は、昭和五七年八月二三日、右申立てを棄却する旨の決定をし、その決定書謄本は同月二五日右原告代理人に送達された。
(二) 本件不受理処分の違法事由 本件意見書の「審判請求人」の欄及び本件手続補正書の「補正をする者」の欄には、いずれも「住所 東京都台東区<以下略>」、「名称 株式会社佐竹製作所」と記載され、これらは真実と相違するが、右各書面の「事件の表示」欄には、拒絶査定に対する審判事件の特定として真実に合致した「昭和五五年審判第六五二三号」と記載され、また「代理人」欄には、右審判請求代理人弁理士Aの住所、氏名及び電話番号が正しく記載されていること、本件手続補正書にあつては「補正をする者」の「事件との関係」欄には「審判請求人」と正しく記載されていること、並びに右各書類の記載内容及び右審判事件の手続の経緯等からすると、本件意見書及び本件手続補正書に記載された住所、名称が単なる誤記であることは明白である。
このような場合においては、被告は、同法第17条第2項の規定に基づき、原告に対し、相当の期間を指定して、請求人が相違することを理由に、本件意見書の「審判請求人」及び本件手続補正書の「補正をする者」の住所及び名称欄の記載につき補正を命ずべきであるにもかかわらず、右手続を行うことなく、直ちに本件不受理処分をしたことは違法である。
2 被告の本案前の主張に対する反論 原告は本件訴えで取消しを求める本件不受理処分のうち本件意見書に係る部分につき行政不服審査法による異議申立ての手続を経ていないが、本件の場合には、以下に述べるように、行政事件訴訟法第8条第2項第3号の規定に該当する事由があるので、本件訴えの右部分は、特許法第184条の2の規定に違反しない。
(一) 特許庁は、昭和五四年二月、「工業所有権方式審査便覧」を発表しているが、原告の本件意見書及び本件手続補正書の提出につき「請求人相違」との理由でなされた本件不受理処分は、いずれも右便覧の規定に従つたものであり、異議申立ての手続により本件意見書の不受理処分が是正されることは到底予測されないので、本件意見書の不受理処分について、異議申立ての手続を経ないことにつき正当な理由がある。
(二) 本件手続補正書は、従前の特許請求の範囲欄の変更とこれに併せて発明の詳細な説明欄の変更が記載され、重要な出願行為としての意味を有するのに対し、
本件意見書は、右手続補正書にて変更した記載を要約しながら単に審判官に再審査の願いを申し出ているものにすぎず、右手続補正書を受けた単なる手続行為としての意味しか有しない。また、本件手続補正書と本件意見書は同日付けで提出されており、しかも右各書面に対して一通の書面により本件不受理処分がなされている。
これらの点からすると、本件手続補正書の不受理処分と本件意見書の不受理処分とはいわゆる関連事案と考えるべきである。そして、関連事案の場合、一つの事案について行政不服申立ての手続を経れば、各事案の争点は共通するから個別に各事件を審査しても同一の結論しか得られないので、その余の事案については行政不服申立ての手続を経ることは不要であると考えられるところ、本件においては、
本件手続補正書の不受理処分につき異議申立ての手続を経ているから、本件意見書の不受理処分について異議申立ての手続を経ないことにつき正当な理由がある。
二 被告1 本案前の主張 本訴において原告が取消しを求めている不受理処分のうち、本件意見書に係る部分は、異議申立て等の不服申立ての手続を経ておらず、特許法第184条の2の規定に反し不適法であるから、本件訴えのうち本件意見書の不受理処分の取消しを求める部分は却下されるべきである。
2 請求の原因に対する認否 請求の原因(一)(1)、(2)、(3)の各事実は認める。同(2)につき本件意見書の「審判請求人」の欄及び本件手続補正書の「補正をする者」の欄の住所・名称の記載が誤記であるとの点は否認し、その余の事実は認める。
3 本案についての主張 本件意見書の「審判請求人」及び本件手続補正書の「補正をする者」の各欄に記載された住所及び名称の表示を見る限り、右各書面の提出者は、特許庁昭和五五年審判第六五二三号拒絶査定に対する審判事件の審判請求人たる原告とは全く別人の「株式会社佐竹製作所」と認めるほかなく、このような者からの意見書及び手続補正書の提出は特許法上認められていないため、被告は右各書面を不受理としたものであつて、本件不受理処分に違法はない。
また、右のように本件意見書及び本件手続補正書の提出者はいずれも株式会社佐竹製作所と認めるほかなく、右各書面の提出者を全く別人に変えてしまうような補正は認められないから、被告において補正を命ずべき場合に当たらない。
証拠(省略)
理 由一 本件訴えのうち本件意見書の不受理処分の取消しを求める部分の適否1 原告が本件意見書の不受理処分について異議申立て等の行政不服申立ての手続を経ず本件訴えを提起したことは原告の認めて争わないところである。また、本件事案の経緯についての請求の原因(一)の各事実は、本件意見書の「審判請求人」の欄及び本件手続補正書の「補正をする者」の欄の住所名称の記載が誤記であるとの点を除いて、当事者間に争いがない。
2 原告は、本件意見書の不受理処分につき異議申立ての手続をとらなかつたことについては、行政事件訴訟法第8条第2項第3号にいう「裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当する旨主張する。
しかしながら、前記争いのない事実から明らかなように、本件不受理処分は、同日付けで提出された本件意見書及び本件手続補正書を一括して不受理としたもので、この旨の通知も原告審判請求代理人に対し一通の書面でされているのであるから、原告が右不受理処分がなされた当時その処分を争う意思を有していたのであれば本件意見書及び本件手続補正書の各不受理処分につき同時に異議申立ての手続を取ることは極めて容易であり、当然これをすることができたにもかかわらず、成立に争いのない甲第一八号証によると原告の異議申立てについての代理人は、異議申立書の「異議申立ての趣旨」の欄に「昭和五六年九月三〇日付でした昭和五五年審判第六五二三号についての昭和五六年八月一一日付提出の手続補正書不受理の処分は、これを取消すとの決定を求める。」と明記し、ことさら手続補正書を特定し、
同書面の不受理処分に限つて異議申立てを行つていることが認められるのであつて、この事実からすると、原告は、被告のした不受理処分のうち本件意見書に係る分については同処分を認容し、これを確定させる意思であえて異議申立てを行わなかつたものと推認するほかなく、またそれにもかかわらず本訴において右部分につき取消しを求めるのは、原告においてその後翻意したものと推認するほかはない。
右のように、処分を認容し、確定させる意思であえて行政不服申立ての手続を経ないでおりながらその後翻意して処分の取消しを求めるに至つたという場合には、いわゆる関連事案にかかる処分についてであつても行政事件訴訟法第8条第2項第3号の規定する「裁決を経ないことにつき正当な理由」があると認められないことは、いわゆる審査請求前置を認めた同条第一項但書の規定に照らし当然といわなければならない。
仮に原告において本件意見書に対する不受理処分につきこれを認容し確定させる意思はなかつたものであり、原告の代理人が誤つて異議申立ての対象を本件手続補正書についての不受理処分に限定したものであつたとしても、それは原告がその結果を甘受せざるを得ない代理人の重大な過失に基づくものというべきであつて、前記の意識的に処分を確定させた場合と同じに評価されるべく、やはり行政事件訴訟法第8条第2項第3号の規定する「裁決を経ないことにつき正当な理由」に該当しないといわなければならない。
原告の前記主張は、採用できない。
3 右のとおり、本件訴えのうち、本件意見書の不受理処分の取消しを求める部分は、異議申立ての手続を経ていないから特許法第184条の2の規定に違反するものであつて、不適法として却下を免れない。
二 本件手続補正書の不受理処分の適否1 原告は、本件手続補正書は事件番号及び代理人の住所・氏名等が正しく記載され、また「補正をする者」欄には「事件との関係 審判請求人」と記載され、更にその記載内容及び手続の経緯等からすると、同書面に記載された住所・名称が誤記であることは明らかである旨主張する。
しかしながら、本件のように、各種の手続を書面によつて行う場合、住所・氏名もしくは名称は当該手続を行う者の特定という目的のために記載される重要な事項であつて、手続を行う者本人又は同人から依頼を受けた代理人がこれを記載するにつき、些細な誤りならばともかく、住所・氏名もしくは名称とも全く別人を記載するということは通常考えられないから、右書面の他の記載から直ちに右の住所・氏名もしくは名称の記載が誤記であると推認できる場合はともかく、そうでないならば右書面の提出を受けた者が右のように具体的に記載された住所・氏名もしくは名称により当該手続を行う者を特定することは相当といわなければならない。前項1の当事者間に争いのない事実によると、本件手続補正書は、その「事件の表示」欄の「昭和五五年審判第六五二三号」との記載に照らし、右事件番号の審判事件について提出されていることは認められるが、同書面の「補正をする者」欄には、「事件との関係 審判請求人」との記載はあるものの、補正をする者を特定する住所・名称としては「住所 東京都台東区<以下略>」「名称 株式会社佐竹製作所」と記載されているから、この本件手続補正書をみる限り同書面により手続を補正しようとする者が「東京都台東区<以下略>」に住所を有する「株式会社佐竹製作所」と認められてもしかたがない記載というほかはない。原告が主張する事件番号や「事件との関係 審判請求人」との定型的な記載その他本件手続補正書の実質的記載内容自体からは、直ちに右の記載が誤記であると判明するものとは認められず、
原告の前記主張は理由がない。
2 特許法の規定によると、拒絶査定に対する審判請求事件において願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができるのは特許出願人たる審判請求人のみであるから、被告が書面の記載上審判請求人たる原告以外の第三者から提出されたと解されてもいたしかたがない本件手続補正書を補正を命ずることなく不受理処分に付したことは相当といわざるを得ない。
三 以上のとおり、原告の本件訴えのうち意見書の不受理処分の取消しを求める部分は不適法であるからこれを却下し、原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 牧野利秋
裁判官 野崎悦宏
裁判官 一宮和夫