審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成12ワ11471特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ11470特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ10511特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ17601特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15ネ3746特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 承継 / 発明者 / 製造方法 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / クレーム / 存続期間 / 特許発明 / 実施 / 差止請求(差止) / 侵害 / 請求の範囲 / 減縮 / 変更 / |
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事件 |
昭和
54年
(ネ)
2813号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1984/07/17 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
本件控訴を棄却する。 控訴費用は、控訴人の負担とする。 この判決に対する上告についての附加期間を九〇日と定める。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金九億四七五〇円及びこれに対する昭和五二年七月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、なお、右金員の支払いを求める部分以外の訴えを、当審において取り下げた。 被控訴人は、主文第一、二項同旨の判決を求めた。 |
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当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正、変更するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。 一 原判決二枚目裏一〇行目ないし三枚目表一行目を次のとおり変更する。 1 控訴人は、昭和五五年九月一〇日存続期間の満了によつて消滅した次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件特許発明」という。)の特許権者であつた。 二 同七枚目表二行目の「被告の使用している」を「後記の合併による解散前被控訴人であつた旭ダウ株式会社(以下「解散会社」という。)の使用していた」と、 同七枚目表末行から同裏一行目及び同裏八行目から同九行目の各「被告の使用している」を「解散会社の使用していた」と、同裏一行目から同二行目の「訴外旭化成工業株式会社」、同裏二行目から同三行目の「同訴外会社」及び同裏九行目の「右旭化成工業株式会社」をいずれも「被控訴人」と、同八枚目表二行目、同七行目、 同一〇行目から同一一行目、同裏三行目及び同九行目の各「被告」を「解散会社」と、同八枚目表四行目の「している。」を「していた。」と、同裏四行目から同五行目の「義務がある。」を「義務があるところ、昭和五八年七月八日、被控訴人は解散会社を合併したので、被控訴人において右不当利得返還義務を承継した。」とそれぞれ訂正し、同八枚目裏九行目の「したがつて」の次に「、被控訴人において」と付加し、同九枚目表四行目の「本件特許権」から同八行目の「廃棄並びに」までを削除する。 三 同一四枚目表三行目、同一九枚目表三行目、同二一枚目裏一行目から同二行目、同一〇行目から一一行目、同二三枚目裏九行目、同二四枚目表一行目から二行目、同三行目、同九行目及び同裏三行目の各「被告の使用している」を「解散会社の使用していた」と、同一四枚目表六行目の「被告」を「解散会社」と、同二四枚目表四行目から同五行目の「訴外旭化成工業株式会社」を「被控訴人」とそれぞれ訂正する。 四 同二九枚目裏七行目の「被告方法において使用されている」並びに同三一枚目裏一〇行目から同一一行目、同三二枚目表六行目から七行目、同三三枚目裏一〇行目、同三四枚目表一行目、同一〇行目から一一行目及び同裏三行目から同四行目の各「被告の使用している」をいずれも「解散会社の使用していた」と、同三二枚目表一行目の「被告」を「解散会社」とそれぞれ訂正する。 五 控訴人の補足した主張 特定のポリブタジエンをとらえてこれを分析する場合、分析法を特定しないと結果が異なるという理由が成立するためには次の前提が必要である。 (イ) 分析法が異なれば結果は必ず異なり、その異なり方は分析法によつて一定の相違が現れ、これを矯正する手段がない。 (ロ) 特定の分析法を使用する限り結果は必ず同じである。したがつて、客観的数値はともかく前後の同定は可能である。 しかし、本件訴訟においては第一に分析法の相違で必ず一定の差が出るということは立証されていない。 被控訴人は、いわゆる吸光係数決定法と文献値吸光係数借用法の二つに赤外法を大別することができるという。しかし借用法については、巻尺、三角法等で距離を測る正統な方法に対して、人が歩数でおよその距離を測ることや、目測で測ることもあるからそれも測定法の一つに入るというのと同じことであり、確かにそれは存在するけれども、正確な分析法として二つに大別されるうちの一つというような種類のものではない。そしてしかもこの場合、被控訴人の主張は特定人の歩幅によらず、ある人の歩幅とそれと別の人の歩数だけを掛合わせて一〇〇歩は一〇〇メートルというがごときのもので、到底正当な意味での測定法とはいえないのである。 さらにNMRはすでに本件特許出願当時存在したのであり、又これをポリマーの分析に用いたことも知られている。そのためたとえNMRを使つて分析した報告が文献になかつたとしても、これを単独又は赤外法と併用して用いることが可能であることは当時すでにわかつていたことである。いずれにしてもこのビニル含量の問題は現在における事実確認の問題であり、いかなる手段を用いようと最も正確な手段により確認することが正しい態度であつて、これを排斥するのは根本的に誤つている。 解散会社の使用していたポリブタジエンを分析するについては事実確認の問題として信頼できる方法を用いればよいのであり、それは本件特許出願当時の分析法に限られるものではない。このことは他の技術的な問題でも事実が問題になり、ある物資の状態、組成その他が問題になつた場合、分析や学識経験者の鑑定を得る場合にその学識経験者は最新の知識を駆使してその事実を確定するのと同じであり、かような事実の確定は過去の時における分析法に限定される理由は見当らないのである。 被控訴人は同一の吸光係数を用いることをもつて同一の方法としている。これは全く科学常識に反する見解である。そして被控訴人は【A】、【B】、【C】、 【D】及び【E】によつて報告された分析は異なつた分析方法であるとしている。 これらは、本件特許出願前のポリブタジエンの分析に関する主要な文献発表である。しかしこれらは基本的に同一の標準的赤外方法である。操作上の及び計算上の技法においていくらかの異なつた点はあるけれども、すべてこれらは最初に吸光係数を決定するために使用される分光器を最初に検定し、そして分析を行つたという点においてすべて基本的に同一なのであり、操作技法においていくらか異なつた点があつてももし誤差を適当に補正するならば原則的には結果は同一になるはずなのである。 これに対して例えば【E】の文献に報告されている分析方法、すなわち標準的赤外方法と、被控訴人のいわゆる「モレロ法」(すなわち、【E】の文献に報告されている吸光係数を借用することによる分析)とは全く異なつたものである。 控訴人はこれら借用法をもつて科学的な分析方法とは考えていないものである。 特定の波長における吸光係数はその特定の分光器においてのみ当てはまるものである。現在【E】の手法を行うことはできても、【E】が二〇年以前に行つたと全く同一の条件の下に分析を行うことはできない。特に同一の分光器を用いることはできない。 六 被控訴人の補足した主張(一) 本件特許の出願当時の明細書(乙第七号証)によれば、出願人は、シス約八〇%、トランス八%、及びビニル五%の高シス1・4ポリブタジエンを用いた場合、GRーS(スチレン、ブタジエン共重合体)を用いた場合に比較してポリスチレンの耐衝撃性の改良効果が高いことを実験的に見出し、この事実を唯一の実験的基礎として明細書を作り上げたものである(したがつて(シス二五〜九五%、トランス〇・五〜七〇%、一〜一〇ビニルという記載は(単なるスペキユレーシヨンである)。 元来ゴムの存在下においてスチレンを重合し、耐衝撃性の改良されたポリスチレンを製造することは公知であり(乙第一号証)、かかるゴムとしてポリブタジエンを使用し得ることも公知であつた(乙第一号証)が、シス成分を二三%以上含むポリブタジエンは、リチウム系触媒によるポリブタジエンや(例えば一九五九年八月六日公表の乙第一〇号証添付A)、チーグラー触媒によるポリブタジエン(例えば一九五七年四月一七日公表の乙第二八号証)が発表される迄は何人も入手不能であり、当然、この種のポリブタジエンを用いてその耐衝撃性改良効果を確認する者は存在しなかつた。しかし、いつたん、かかるポリブタジエンが発表されると、これを用いての耐衝撃改良効果を試してみることはポリスチレン業界の当業者一般が当然行うことであつた。 本件特許の先願であるシエルの出願(乙第三一号証の一)、及びデイストレエンの出願(乙第三二号証の一)はその例である。 本件特許は、甲第三号証にみられるように、乙第七号証の明細書につき、あるいは実施例四を追加し、あるいはクレームを減縮(シスを九〇%以下と限定しかつビニルも一〇%以下と限定)するなどの補正を加えて、これら先願の網をくぐり抜けて成立したものである。したがつて、一〇%以下というビニル含量の限定は「臨界的」(出願人の意見書中の用語、乙第一七号証)な意義を有する重要な限定である。 ところが、控訴人は、事実の問題としてこの限定がいかなる分析法によつて見出した数値であるかについて何ら主張していない。本件特許に対応する英国特許第一〇〇二九〇一号明細書(乙第八号証)によれば「標準的な赤外法によつて決定することができる」というのであるが、更に具体的にどのような手順で分析して得た数値であるかについては、主張がないのである。 これは、奇怪なことといわなければならない。最初の明細書に具体的に記載された唯一のポリブタジエンが「シス約八〇%、トランス八%、及びビニル五%」であると判定した根拠、並びに後に追加された実施例四のフアイヤーストン製のジエン35NFが「七・八%のビニル含有量と三五・九%のシス含有量とを有する」と判定した根拠がない筈はないのであつて、事実の問題として、そのような判定がどのようにしてなされたかは当然主張し得る筋合であるからである。にもかかわらず、 その主張がないということは、事実が明らかになると、クレームの数値は分析法に無関係の、客観的に正しい数値を意味するという控訴人の主張と矛盾することになることを示しているといわざるを得ない。 (二) ポリブタジエンの分析法の如何によつてその分析値が相違することは、本件特許出願時の技術常識であり、【D】、【A】、【C】、【B】、【E】と次々と新しい分析法が研究された経過自体がこの事実を示している。 控訴人は、【E】の吸光係数を使用する分析法は本件特許出願当時の標準的な方法とはいえないとし本件特許出願当時ポリブタジエンの微細構造の分析については吸光係数決定法が標準的方法であつたと主張する。 しかし、吸光係数の文献値を使用する分析法が一般の分析法であつた事実は、新しい構造のポリブタジエンの代表的発明の全てがその発明のポリブタジエンの同定のための吸光係数を明細書中に記載している事実から明らかである(乙第一〇号証添付A、乙第二八号証、乙第二九号証)。吸光係数決定が普通であつたのであれば、そしてそれがどのようにやつても同一の分析値を与えることが常識であつたのであれば、発明者は単に数値を示すだけで足りたのであるが、発明者はポリブタジエンの技術分野にそのような常識は存在せず、文献値の吸光係数を使用するのが一般であると認識していたからこそ、吸光係数を記載したのである。 |
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証拠関係(省略)
理 由一 控訴人が、昭和五五年九月一〇日存続期間の満了によつて消滅した本件特許権の特許権者であつたこと、本件特許の願書に添附した明細書の特許請求の範囲の欄の記載が控訴人主張のとおりであること、解散会社の製造・販売していた耐衝撃性ポリスチレンの製造方法が、使用するポリブタジエンのシス及びビニルの各含有量の点を除き、原判決添付別紙目録記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。 二 右当事者間に争いのない明細書の特許請求の範囲の欄の記載によれば、本件特許発明は、そのモノビニル芳香族重合体組成物の製造に用いる1、4ポリブタジエンのビニル含有量が一〇%以下であることを要件の一つとするものであると認められる。 三 控訴人は、右特許請求の範囲の欄に記載されている一〇%以下のビニル含有量という場合の一〇%とは、一〇分の一という割合を示す概念であつて、他に何らの基準、尺度も必要としない数値、すなわち客観的事実を意味し、1、4ポリブタジエンの特定のビニル定量分析法と関係づけて限定した数値ではなく、いかなる定量分析法であつても、それが客観的に正確な結果をもたらすものでありさえすれば、 当該定量分析法は本件特許出願当時に用いられていたかどうかを問わず、ビニル含有量の確認を行うために用いることができる旨主張する。 一〇%とは、原告が主張するように、一〇分の一という割合を示す概念であることはいうまでもない。しかし、一〇分の一という量を計る客観的な基準、つまり何人がこれを計つてもその結果が同一になるというような計測の基準及びその基準に従つて計測する方法が一定していなければ、一〇分の一という割合を計るにしても、果してそれが客観的に一〇分の一の割合になつているかどうかということは保証されず、原告が主張するように、ある定量分析法が客観的に正確な結果をもたらすものであるかどうかも確知され得ない。これを長さに例をとつていえば、一メートルという長さを確定するためには、メートル原器あるいは特定の光の波長という客観的に確定した一定の基準を用いて始めてこれを計り得るのであり、尺、メートル、フイート等長さの単位はいずれもでよいが、ある長さを計るにはそれを計り得る客観的な基準がなければならず、そのような基準なしに長さを計るというようなことはおよそ無意味である。 控訴人は、NMR法(核磁気共鳴スペクトル法)によればポリブタジエンのビニル含有量を客観的に正確な値をもつて計り得ることを前提として、NMRはすでに本件特許出願当時存在しており、これをポリマーの分析に用いることも知られていたところ、解散会社が製造・販売していた耐衝撃性ポリスチレンの製造に用いるポリブタジエンのビニル含有量はNMRで計つても一〇%以下である旨主張する。 成立について争いのない甲第五三号証(【D】の宣誓供述書)には、NMRは本件特許出願(昭和三五年)前に知られており、これをポリブタジエンのビニル含有量を決定するのに用いられ得ることは当業者に自明であつた旨が記載されていることが認められる。しかし、成立について争いのない甲第二九号証の一ないし四、第三〇号証の一、二によれば本件特許出願前にNMRを用いて特定の有機化合物の微細構造の分析を行なうことは知られていたものと認められるがポリブタジエンのビニル含有量を測定するのにNMRが使用されていたことを認めるに足る立証は前掲甲第五三号証を含めても未だなされていない。原審証人【F】の証言によれば、NMRによりポリブタジエンのシス、トランス、ビニルの微細構造が分析できるようになつたのは、本件特許出願後である昭和三七年(一九六二年)頃のことであると認められる。そして、NMR法が現在においては比較的正確な分析値を出し得るものであると言えるにしても、その方法によつて測定した量が客観的にも正確なものであると必らずしも言えないことは、おのおのNMR法で計つたと各自が主張する、解散会社で使用していたポリブタジエンのビニル含有量が八・七%ないし九・四%(成立について争いのない甲第七、第一一、第一七号証)、一一・一%(成立について争いのない乙第一六号証)となつていることからも明らかであるということができる。 以上のとおり本件特許出願前NMR法はポリブタジエン中のビニル含有量を測定する方法としては行なわれておらず、証拠によれば、当時行なわれていた測定方法はいわゆる赤外法であつた。すなわち、成立について争いのない甲第二三ないし第二七号証、乙第二〇号証、証人【F】の証言によりその成立を認め得る乙第二一号証の一、原審証人【F】、同【G】の各証言を綜合すると、次のような事実を認めることができる。いわゆる赤外法によるポリブタジエンの微細構造の決定は、まず標準物質について赤外分光器を用いてシス、トランス及びビニル単位の特定の吸収帯における吸光係数を決定し、次に試験試料のポリブタジエンについて右特定の吸収帯における吸収の強さを測定し、前記吸光係数を用いてシス、トランス及びビニル単位の含有量を算出するものであるところ、吸光係数を決定するのに既に【D】、【A】、【C】、【B】、【E】等が用いた方法が発表されていたが、前三者の用いた方法は標準物質として低分子オレフインを用いたものであり、又【B】が用いた方法は、標準物質としてポリブタジエンを用いるものではあるが、 いずれもそれらの方法によつて決定された吸光係数は信頼性があまり高いものとはみなされていなかつた。一九五九年に至つて【E】が発表した方法は、標準物質として純度の高い各構造のポリブタジエンを用いて吸光係数を算出したものであり、 その吸光係数は信用度が高いものと評価されるようになつた。しかしながら、 【E】の用いた方法によつて吸光係数を決定するにしても、標準物質として用いるポリブタジエンの不飽和度をいかなる方法で求めるかによつて分析結果は異なつてくるのであつた。すなわち、不飽和度を塩化沃素を反応させて実験的に求めるにしても、その方法は不確定要素が多くその不飽和度は必らずしも正確なものではないとされ、不飽和度を一〇〇%と設定して吸光係数を求めることも行なわれていたが、この方法の不自然さを攻撃する考え方ももちろんあつた。いずれにしても不飽和度の求め方の相違により分析結果も異なつてくるものであつた。そして、前記【E】の論文が発表されてからは、【E】が決定した吸光係数そのものを借用してポリブタジエンのシス、トランス、ビニル成分含有量を決定する方法(いわゆる吸光係数借用法)を推奨するような論文が本件特許出願後のことではあるが、多く現われるようになつてきた。右のような事実が認められる。一方前掲証拠に、成立について争いのない甲第一三号証、第一四号証の一、二、第二二号証の一ないし三、 第三二号証の一ないし四、第四三号証の一、二、第四四号証の一、二、第四六号証の一、二を綜合すると、吸光係数を借用して成分決定をすることは誤差が多く、実験者が自分で吸光係数を求めないで他人の吸光係数を借用することは誤りであるとする考えも少なくなかつたこと、吸光係数は使用する機器の差や手法の相違により差異が出て来るものであることを認めることができる。 右のように認めることができる。 ところで、本件特許の明細書の特許請求の範囲中における1、4ポリブタジエンの中に含まれるビニル含有量の一〇%以下という一〇%がいかなる方法によつて計量された一〇%であるかについては、特許請求の範囲においてはもちろん発明の詳細な説明中にも、これを示唆するものは何も見当らない。右に見てきたようにビニル含有量が一〇%であることを客観的に確定する方法は、本件特許発明の出願当時見当らなかつたのであるから、いかなる測定方法に従つて測定した一〇%であるということすら記載されていない本件特許発明においては一〇%という割合を決めるに由なく、その点において既にこれを実施することが不可能であつたものといわざるを得ず、本件特許権が権利として成立しているとの理由をもつて、本件特許権に基づいて他人にその権利を侵害することの差止め及び侵害を理由とする損害賠償の請求をすることはできないものといわなければならない。 本件特許発明においては、出願人はすべからく成立について争いのない乙第二八号証(ベルギー特許第五五一八五一号明細書)、第二九号証(英国特許第八七三〇四六号明細書)におけるごとく、赤外法におけるポリブタジエンのシス、トランス及びビニルの、自分で計つた吸光係数を記載して、ビニル成分の一〇%とはこれによる一〇%として一〇%の基準を明らかにすべきものであつた(なお、測定機器の特定及び測定方法を記載することも必要であろう。)。 控訴人は、本件特許出願前のポリブタジエンの分析に関する主要な文献を発表した【A】、【B】、【C】、【D】、【E】らの採つた方法は基本的に同一の標準的赤外方法であり、操作上の及び計算上の技法においていくらかの異なつた点はあるけれども、もし誤差を適当に補正するならば原則的にそれらの結果は同一になるはずであると主張するが、控訴人のこの主張は、疑いを容れないほどに真実の値を測定することが既に知られていて、前記の人らの採つた方法による結果がそれに基づいて修正され得るものであることを前提としたものであるところ、そのように客観的真実な値を測定する方法が現在に至るもなお確定されていないこと前記のとおりである以上控訴人のこの主張は採るを得ない。 四 右のとおりであつて、控訴人の被控訴人に対する請求は、解散会社が耐衝撃性ポリスチレンの製造に使用していたポリブタジエンのビニル含有量が一〇%以下であつたかどうかを確定することを要せずして、理由がないことが明らかであり、控訴人の請求を棄却した原判決は結局において正当であり、控訴人の控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人の負担とし、上告についての附加期間を九〇日と定めるのを適当と認めて主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 高林克巳 |
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裁判官 | 杉山伸顕 |
裁判官 | 八田秀夫 |