関連審決 | 不服2002-20319 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 技術的範囲 / 技術常識 / 発明を特定する事項 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10311号
審決取消請求事件
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原告 株式会社フロウエル 訴訟代理人弁理士 笹井浩毅,鈴木秀昭 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 岡千代子,會田博行,橋本康重,高木進, 井出英一郎,岡田孝博 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/04/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-20319号事件について平成16年5月25日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
本件は,拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,平成9年12月24日,発明の名称を「チューブ材の継手」とする特許出願をした。 (2) 原告は,平成14年9月9日付けの拒絶査定を受けたので,同年10月17日,拒絶査定に対する審判を請求する(不服2002-20319号事件として係属)とともに,明細書を補正(以下「本件補正」という。)した。 (3) 特許庁は,平成16年5月25日,本件補正を却下するとともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年6月14日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件補正前のもの(平成13年8月20日付け手続補正書による補正後のもの) 「【請求項1】ナット部材のねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部を継手本体に外嵌し,継手本体にナット部材を螺着して,チューブ材の一端部を支持するようにしたチューブ材の継手において,前記ナット部材は,奥壁,雌ねじ部および差込孔を有し,前記奥壁は,そのねじ孔の奥側にねじ軸に直交するよう形成されており,前記雌ねじ部は,そのねじ孔の孔内周壁に形成されており,前記差込孔は,前記奥壁に前記ねじ軸方向に穿設されていて,チューブ材が挿通しており,前記継手本体は,被外嵌部,雄ねじ部および貫通孔を有し,前記被外嵌部は,前記ナット部材のねじ孔の奥側へ挿入される継手本体の先端部に形成され,前記差込孔を挿通して前記ねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部が拡径した状態で外嵌し,前記雄ねじ部は,前記継手本体の先端部に形成される被外嵌部に連続して基端側に形成されていて,前記雌ねじ部に螺合しており,前記雌ねじ部の山の径および,前記ナット部材の孔内周壁の内径は,前記被外嵌部に外嵌するチューブ材の外径に対して同じまたは,わずかに大きく設定されており,前記貫通孔は,チューブ材の内径とほぼ同じ孔径で,ねじ軸方向へ貫通しており,前記貫通孔の口縁部には面取り斜面部が形成されており,前記面取り斜面部は,前記貫通孔の内部から外部へ向かって該貫通孔の孔軸から離れる方向へ傾いた傾斜面に成っており,前記雄ねじ部は,前記面取り斜面部の形成される前記継手本体の先端から前記被外嵌部の長さ分を隔てた前記継手本体の基端側に配されていることを特徴とするチューブ材の継手。 【請求項2】ナット部材のねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部を継手本体に外嵌し,継手本体にナット部材を螺着して,チューブ材の一端部を支持するようにしたチューブ材の継手において,前記ナット部材は,奥壁,雌ねじ部および差込孔を有し,前記雌ねじ部は,そのねじ孔の孔内周壁に形成されており,前記差込孔は,前記奥壁に前記ねじ軸方向に穿設されていて,チューブ材が挿通しており,前記奥壁は,前記ねじ軸の軸心に向かって,前記ねじ孔の入口方向へ傾斜することにより,前記差込孔の周縁部に鋭角断面形状の食込み部を有しており,前記継手本体は,被外嵌部,雄ねじ部および貫通孔を有し,前記被外嵌部は,前記ナット部材のねじ孔の奥側へ挿入される継手本体の先端部に形成され,前記差込孔を挿通して前記ねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部が拡径した状態で外嵌し,前記雄ねじ部は,前記継手本体の先端部に形成される被外嵌部に連続して基端側に形成されていて,前記雌ねじ部に螺合しており,前記雌ねじ部の山の径および,前記ナット部材の孔内周壁の内径は,前記被外嵌部に外嵌するチューブ材の外径に対して同じまたは,わずかに大きく設定されており,前記貫通孔は,チューブ材の内径とほぼ同じ孔径で,ねじ軸方向へ貫通しており,前記貫通孔の口縁部には面取り斜面部が形成されており,前記面取り斜面部は,前記貫通孔の内部から外部へ向かって該貫通孔の孔軸から離れる方向へ傾いた傾斜面に成っており,前記雄ねじ部は,前記面取り斜面部の形成される前記継手本体の先端から前記被外嵌部の長さ分を隔てた前記継手本体の基端側に配されていることを特徴とするチューブ材の継手。 【請求項3】前記食込み部は,前記ねじ孔の入口方向へ25度から35度の角度で傾斜していることを特徴とする請求項2に記載のチューブ材の継手 【請求項4】ナット部材のねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部を継手本体に外嵌し,継手本体にナット部材を螺着して,チューブ材の一端部を支持するようにしたチューブ材の継手において,前記ナット部材は,奥壁,雌ねじ部および差込孔を有し,前記雌ねじ部は,そのねじ孔の孔内周壁に形成されており,前記差込孔は,前記奥壁に前記ねじ軸方向に穿設されていて,チューブ材が挿通しており,前記奥壁は,前記ねじ軸の軸心に向かって,前記ねじ孔の入口方向へ25度から35度の角度で傾斜することにより,前記差込孔の周縁部に鋭角断面形状の食込み部を有しており,前記継手本体は,被外嵌部,雄ねじ部および貫通孔を有し,前記被外嵌部は,前記ナット部材のねじ孔の奥側へ挿入される継手本体の先端部に形成され,前記差込孔を挿通して前記ねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部が拡径した状態で外嵌し,前記雄ねじ部は,前記継手本体の先端部に形成される被外嵌部に連続して基端側に形成されていて,前記雌ねじ部に螺合しており,前記雌ねじ部の山の径および,前記ナット部材の孔内周壁の内径は,前記被外嵌部に外嵌するチューブ材の外径に対して同じまたは,わずかに大きく設定されており,前記貫通孔は,チューブ材の内径とほぼ同じ孔径で,ねじ軸方向へ貫通しており,前記貫通孔の口縁部には面取り斜面部が形成されており,前記面取り斜面部は,前記貫通孔の内部から外部へ向かって該貫通孔の孔軸から離れる方向へ傾いた傾斜面に成っていることを特徴とするチューブ材の継手。」 (2) 本件補正後のもの 本件補正は,(1)の請求項1を削除し,請求項2以下の項数を繰り上げた上,次のとおり変更したものである(下線部分が変更した箇所である。)。 「【請求項1】ナット部材のねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部を継手本体に外嵌し,継手本体にナット部材を螺着して,チューブ材の一端部を支持するようにしたチューブ材の継手において,前記ナット部材は,奥壁,雌ねじ部および差込孔を有し,前記雌ねじ部は,そのねじ孔の孔内周壁に形成されており,前記差込孔は,前記奥壁に前記ねじ軸方向に穿設されていて,チューブ材が挿通しており,前記奥壁は,前記ねじ軸の軸心に向かって,前記ねじ孔の入口方向へ傾斜することにより,前記差込孔の周縁部に鋭角断面形状の食込み部を有しており,前記継手本体は,被外嵌部,雄ねじ部および貫通孔を有し,前記被外嵌部は,前記ナット部材のねじ孔の奥側へ挿入される継手本体の先端部に形成され,前記差込孔を挿通して前記ねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部が拡径した状態で外嵌し,前記雄ねじ部は,前記継手本体の先端部に形成される被外嵌部に連続して基端側に形成されていて,前記雌ねじ部に螺合しており,前記雌ねじ部の山の径および,前記ナット部材の孔内周壁の内径は,前記被外嵌部に外嵌するチューブ材の外径に対して同じまたは,わずかに大きく設定されており,前記貫通孔は,チューブ材の内径とほぼ同じ孔径で,ねじ軸方向へ貫通しており,前記貫通孔の口縁部には面取り斜面部が形成されており,前記面取り斜面部は,前記貫通孔の内部から外部へ向かって該貫通孔の孔軸から離れる方向へ傾いた傾斜面に成っており,前記雄ねじ部は,前記面取り斜面部の形成される前記継手本体の先端から前記被外嵌部の長さ分を隔てた前記継手本体の基端側に配され,前記ねじ 孔の孔内周壁 から 前記 ねじ 軸の軸心方向 で前記食込 み部に至る距離 である 前記奥壁 の丈は,前記雄 ねじ 部の被外嵌部 の肉厚 の寸法 とほぼ 同じ長さに 設定 され ていることを特徴とするチューブ材の継手。 【請求項2】前記食込み部は,前記ねじ孔の入口方向へ25度から35度の角度で傾斜していることを特徴とする請求項1 に記載のチューブ材の継手 【請求項3】ナット部材のねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部を継手本体に外嵌し,継手本体にナット部材を螺着して,チューブ材の一端部を支持するようにしたチューブ材の継手において,前記ナット部材は,奥壁,雌ねじ部および差込孔を有し,前記雌ねじ部は,そのねじ孔の孔内周壁に形成されており,前記差込孔は,前記奥壁に前記ねじ軸方向に穿設されていて,チューブ材が挿通しており,前記奥壁は,前記ねじ軸の軸心に向かって,前記ねじ孔の入口方向へ25度から35度の角度で傾斜することにより,前記差込孔の周縁部に鋭角断面形状の食込み部を有しており,前記継手本体は,被外嵌部,雄ねじ部および貫通孔を有し,前記被外嵌部は,前記ナット部材のねじ孔の奥側へ挿入される継手本体の先端部に形成され,前記差込孔を挿通して前記ねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部が拡径した状態で外嵌し,前記雄ねじ部は,前記継手本体の先端部に形成される被外嵌部に連続して基端側に形成されていて,前記雌ねじ部に螺合しており,前記雌ねじ部の山の径および,前記ナット部材の孔内周壁の内径は,前記被外嵌部に外嵌するチューブ材の外径に対して同じまたは,わずかに大きく設定されており,前記貫通孔は,チューブ材の内径とほぼ同じ孔径で,ねじ軸方向へ貫通しており,前記貫通孔の口縁部には面取り斜面部が形成されており,前記面取り斜面部は,前記貫通孔の内部から外部へ向かって該貫通孔の孔軸から離れる方向へ傾いた傾斜面に成っており,前記 ねじ 孔の孔内周壁 から 前記 ねじ 軸の軸心方向 で前記食込 み部に至る距離 である 前記奥壁 の丈は,前記雄 ねじ 部の被外嵌部 の肉厚 の寸法 とほぼ 同じ長さに 設定されて いることを特徴とするチューブ材の継手。」 3 審決の理由の要旨 審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正後発明」という。)は,刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであって,本件補正は,特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものであり,また,本件補正前の請求項2に記載された発明(以下「本願発明」という。)は,刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 (1) 補正却下の決定の理由 ア 引用刊行物に記載された発明 (ア) 拒絶査定の中で引用された特開平5-312285号公報(本訴甲10,以下「刊行物1」という。)には,次のa〜dの記載がある。 a 「【0005】本発明は,破損やクリープなしに広範囲の温度変化に耐えられるセラミックナットを提供することにより従来技術の課題を解決するものである。」 b 「【0013】【課題を解決するための手段】本発明によれば,継手本体を半導体処理装置の所定の位置に配置し,前記継手本体上にフレア管をスライドさせ,前記フレア管上にセラミックナットを係合せしめ,前記継手本体上で前記セラミックナットをねじ止めし ,前記フレア管と継手本体の回りで前記セラミックナットを締めて前記フレア継手を固定する工程よりなり,ウエハまたは基板の半導体フロントエンド処理における化学的方法に使用されるフレア管をフレア継手に固定することを特徴とする高温セラミックナットの締付方法が得られる。」(なお,下線は審決が付した。以下同じ。) c 「【0017】図3はセラミックナット10が槽または容器30から延在するフレア継手28にフレア管26を結合する作用を示している。フレア管26は,環状部34を外方へと 張り出し始める フレア32を有する。フレア管26は係合するセラミックナット10とともにフレア継手28の円筒部36 の上および回 りに 配置される。セラミックナット10のねじ切り内部面20はフレア継手28のねじ切り部38に摩擦により係合,締結されて環状クランプ面25を環状部34に押圧する。これにより,フレア管26とフレア継手28の円筒部36との間を密封する。」 d 「【0019】【実施例】図1は,本発明のセラミックナット10の断面図を示し,一般に円筒形の本体12と,上面14と,下面16と,上面14および下面16間にある,縦溝のついた側面18と,ねじ切り部を有して中央に配置されたねじ切り内部面20と,前記ねじ切り内部面20に整列した第1の滑らかな環状面22と,滑らかな環状面22とねじ切り内部面20との間にある第2の滑らかな内部面24とよりなる。滑らかな環状面22の下端には環状クランプ面25が配置される。縦溝のついた側面18は面取りされているが,ギザギザ,六角頭形その他所望の幾何学形状とすることができる。セラミックナットは90〜99%の酸化アルミニウムよりなる。」 これらのa〜dの記載及び図1〜3の図示するところによれば,刊行物1には次のとおりの発明が記載されている。 「セラミックナット10内部空洞内に差し込まれたフレア管26の一端部をフレア継手28に外嵌し,フレア継手28にセラミックナット10をねじ止めして,フレア管26の一端部を支持するようにしたフレア管26の継手において, 前記セラミックナット10は,第2の滑らかな内部面24から環状クランプ面25までの壁,ねじ切り内部面20,および第1の滑らかな環状面22内側の穴を有し, 前記ねじ切り内部面20は,セラミックナット10内部空洞の内周壁に形成されており, 前記第1の滑らかな環状面22内側の穴は,前記第2の滑らかな内部面24から環状クランプ面25までの壁に,前記ねじ切り内部面20のねじ軸方向に穿設されていて,フレア管26が挿通しており, 前記第2の滑らかな内部面24から環状クランプ面25までの壁は,前記第1の滑らかな環状面22内側の穴の周縁部に環状クランプ面25を有しており, 前記フレア継手28は,円筒部36,ねじ切り部38および内部流路を有し, 前記円筒部36は,前記セラミックナット10の内部空洞の上面14側へ挿入されるフレア継手28の先端部に形成され,前記第1の滑らかな環状面22内側の穴を挿通して前記セラミックナット10の内部空洞内に差し込まれたフレア管26の一端部が外方に張り出した(拡径した)状態で外嵌され(回りに配置され), 前記ねじ切り部38は,前記フレア継手28の先端部に形成される円筒部36に連続して基端側(容器30側)に形成されていて,前記ねじ切り内部面20に螺合しており, 前記ねじ切り内部面20の山の径および,前記セラミックナット10内部空洞の内周壁の内径は,前記円筒部36の回りに配置されるフレア管26の外径に対して同じまたは,わずかに大きく設定されており, 前記内部流路は,フレア管26の内径とほぼ同じ流路径で,ねじ軸方向へ貫通しており, 前記ねじ切り部38は,前記フレア継手28の先端から前記円筒部36の長さ分を隔てた前記フレア継手28の基端側(容器30側)に配され, 前記セラミックナット10内部空洞の内周壁から前記ねじ軸の軸心方向で前記環状クランプ面25に至る距離である,前記上第2の滑らかな内部面24から環状クランプ面25までの壁の丈は,前記円筒部36の肉厚の寸法とほぼ同じ長さに設定されていることを特徴とするフレア管26の継手。」 (イ) 拒絶査定の中で引用された実用新案登録第3041899号公報(本訴甲11,以下「刊行物2」という。)には,次のa〜dの記載がある。 a 「【0001】【考案の属する技術分野】 この考案は,高密度半導体チップ製造現場等におけるクリーンルーム内で用いる純水等洗滌液,その他一般薬液等の流管路を司るフッ素樹脂製チューブの継手として好適なチューブ継手に関する。」 b 「【0008】 この考案は,前記した各問題点を除去するために,継手本体の溝環に挿入したチューブ拡径部を袋ナットで継手本体にきつく締め付けることで,前記チューブ拡径部に連接したチューブ屈折部を袋ナットの鋭角孔縁で継手本体の筒状部の鋭角尖端にきつく圧接してチューブ抜け止め部と気密保持部とし,かつ,前記筒状部尖端5Aの内周面を液溜り防止用面取 り斜面 5Bとすることで,死水溜りをなくすることを目的とする。」 c 「【0010】【考案の実施の形態】 本考案の実施の形態例について図面を参照して説明する。 先ず,この考案の基本形態は,図1から図5までの各図に示すように,ポリ・テトラ・フルオロ・エチレン(PTFE)とか,通常PFAと称するフッ素樹脂製チューブ1の端部付近を加熱した拡径治具Aに図2のように強引に圧入してチューブ拡径部2を作る。 【0011】 そして,このチューブ拡径部2の内周面に図3のように溝環3を有するフッ素樹脂やポリプロピレン等の硬質樹脂製継手本体4の筒状部5を図4のように挿入すると同時に前記チューブ拡径部2の大部分を前記溝環3内に挿入する。 【0012】 次いで,この溝環3の外側における継手本体4の雄ねじ部4aに図4,図5のように螺入したフッ素樹脂やポリプロピレンなどで作った硬質の袋ナット6で前記チューブ拡径部2に連接したチューブ屈折部2aをその外面から袋ナット6の肩部6Aに鋭角形成した 孔縁 6aで継手本体4の筒状部5の鋭角尖端5Aに同図5および図1のようにきつく圧接して,チューブ抜け止め部と気密保持部とを形成する。 【0013】 また,前記筒状部尖端5Aの内周面には,予じめ,変形防止用面取り斜面5Bを形成して,尖端5A付近に薄肉部が生じないようにすることで,その内側曲り変形を防ぎ,チューブ間とのスキマの発生を防いで液溜りが生じない図1のような本考案によるチューブ継手を構成できた。」 d 「【0015】【考案の効果】 この考案は,以上のような形態を採用したので,以下に記載の効果を奏する。 継手本体4の溝環3に挿入したチューブ屈折部2aをその外面から袋ナット6で継手本体4の筒状部5にきつく締め付けることで,前記チューブ屈折部2aを袋ナット6の肩部6Aに鋭角形成した孔縁6aで継手本体4の筒状部5の尖端5Bにきつく圧接して厳重なチューブ抜け止め部と気密保持部を形成できたので,チューブ1は,継手本体4に対し,気密・液密を厳重に保ち,継手本体4に密着結合しており,妄りに緩んだり,引き抜けることがなく,長期に亘り安全に使用できたという第1の効果が有る。 【0016】 また,特に本発明では,継手本体4の筒状部尖端5Aの内周面に変形防止用面取り斜面5Bを形成したので,高温下で使用しても,その温度サイクル等で筒状部尖端付近の内向き曲り変形を防止でき,いわゆる死水溜りをなくすることができたので,純水等洗浄液を汚染もなく,超高密度LSIチップ成品の洗滌ルートに安心して適用できたという工業的効果も有る。」 イ 対比・一致点・相違点 本願補正後発明と,刊行物1に記載された発明とを対比する。 刊行物1に記載された発明における,・セラミックナット10,・セラミックナット10内部空洞,・セラミックナット10内部空洞の内周壁,・第2の滑らかな内部面24から環状クランプ面25までの壁,・ねじ切り内部面20,・第1の滑らかな環状面22内側の穴,・フレア管26,・フレア継手28,・円筒部36,・ねじ切り部38,・(フレア継手28の)内部流路,は,本願補正後発明の,・ナット部材,・ナット部材のねじ孔,・ねじ孔の孔内周壁,・奥壁,・雌ねじ部,・差込孔,・チューブ材,・継手本体,・被外嵌部,・雄ねじ部,・貫通孔,にそれぞれ相当する。 《一致点》 したがって,両発明は,「ナット部材のねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部を継手本体に外嵌し,継手本体にナット部材を螺着して,チューブ材の一端部を支持するようにしたチューブ材の継手において, 前記ナット部材は,奥壁,雌ねじ部および差込孔を有し, 前記雌ねじ部は,そのねじ孔の孔内周壁に形成されており, 前記差込孔は,前記奥壁に前記ねじ軸方向に穿設されていて,チューブ材が挿通しており, 前記継手本体は,被外嵌部,雄ねじ部および貫通孔を有し, 前記被外嵌部は,前記ナット部材のねじ孔の奥側へ挿入される継手本体の先端部に形成され,前記差込孔を挿通して前記ねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部が拡径した状態で外嵌し, 前記雄ねじ部は,前記継手本体の先端部に形成される被外嵌部に連続して基端側に形成されていて,前記雌ねじ部に螺合しており, 前記雌ねじ部の山の径および,前記ナット部材の孔内周壁の内径は,前記被外嵌部に外嵌するチューブ材の外径に対して同じまたは,わずかに大きく設定されており, 前記貫通孔は,チューブ材の内径とほぼ同じ孔径で,ねじ軸方向へ貫通しており, 前記雄ねじ部は,前記継手本体の先端から前記被外嵌部の長さ分を隔てた前記継手本体の基端側に配され, 前記ねじ孔の孔内周壁から前記ねじ軸の軸心方向で前記食込み部に至る距離である前記奥壁の丈は,前記雄ねじ部の被外嵌部の肉厚の寸法とほぼ同じ長さに設定されていることを特徴とするチューブ材の継手。」で一致し,次の相違点A,Bを有するものである。 《相違点A》 本願補正後発明では,「前記奥壁は,前記ねじ軸の軸心に向かって,前記ねじ孔の入口方向へ傾斜することにより,前記差込孔の周縁部に鋭角断面形状の食込み部を有しており,」とされているが,刊行物1に記載された発明では,このような食込み部を有していない。 《相違点B》 本願補正後発明では,「前記貫通孔の口縁部には面取り斜面部が形成されており, 前記面取り斜面部は,前記貫通孔の内部から外部へ向かって該貫通孔の孔軸から離れる方向へ傾いた傾斜面に成っており,」とされているが,刊行物1に記載された発明では,このような面取り斜面部を有していない。 ウ 判断《相違点Aについての判断》 相違点Aにおける本願補正後発明の構成の内,「鋭角断面形状の食込み部」は,刊行物2に記載された「鋭角形成した孔縁6a」に相当する。 また,相違点Aにおける本願補正後発明の構成の「前記奥壁は,前記ねじ軸の軸心に向かって,前記ねじ孔の入口方向へ傾斜することにより,」については,この「奥壁」には,刊行物2に記載された「袋ナット6の肩部6A」がこれに相当しており,この「肩部6A」が「袋ナット6」の中心軸に向かって図1,3〜5の左方へ傾斜するのは明らかであり,このように傾斜することにより,「孔縁6a」は「鋭角形成」されている。 このように,相違点Aにおける本願補正後発明の構成に相当するものが刊行物2に記載されており,そして,これらの刊行物2の記載事項を,刊行物1に記載された発明に組み合わせることは容易である。 《相違点Bについての判断》 相違点Bにおける本願補正後発明の構成の内,「面取り斜面部」は,刊行物2に記載された「液溜り防止用面取り斜面5B」に相当する。 また,相違点Bにおける本願補正後発明の構成の「前記面取り斜面部は,前記貫通孔の内部から外部へ向かって該貫通孔の孔軸から離れる方向へ傾いた傾斜面に成っており,」については,刊行物2に記載された上記「面取り斜面5B」も,同刊行物図1,3〜5の図示するところによれば左から右方へ向かって継手本体4の中心軸から離れる方向へ傾いた傾斜面に成っているのは明らかである。 このように,相違点Bにおける本願補正後発明の構成に相当するものが刊行物2に記載されており,そして,これらの刊行物2の記載事項を,刊行物1に記載された発明に組み合わせることは容易である。 さらに,本願補正後発明の効果は,上記の刊行物1及び2に記載された発明より当業者が容易に想到できたと認められる。 なお,審判請求人は,「引用文献1に記載の発明は,・・・円筒部36の先端部に斜面である面取り部が施されていて,・・・クランプ面25をフレア32に押し付けて行ったときに,フレア32側からの反力が面取り部の面直方向 になり,セラミックナット10の奥壁を変形させ,反らせるような大きなモーメント力がかかることがなく,・・・すなわち,引用文献1に記載の発明は,モーメント力によってセラミックナット10の奥壁を変形させない・・・本願発明の・・・構成・・・を採る必要性のないものです。」と述べている。 しかし,刊行物1(引用文献1)第3図から明らかなように,セラミックナット10は,フレア継手28との螺合により,フレア継手28側に引き寄せられ,その結果,セラミックナット10は,クランプ面25で,フレア管26を軸方向に押す。その反力として,押されたフレア管26(フレア32)からは,軸方向反対向きに押し返す力が発生する。セラミックナット10の奥壁には,この「軸方向の反力」によりモーメントが生じ,このモーメントの大きさは, 軸方向の反力の大きさ×奥壁の丈である。 審判請求人が,「フレア32側からの反力が面取り部の面直方向になり,」と主張するように,フレア管26(フレア32)からの反力としては,上記の「軸方向の反力」の他にも,「軸に垂直な方向への反力」が生じると考えられる。すなわち,上記のように,セラミックナット10がクランプ面25でフレア管26を軸方向に押せば,このセラミックナット10が円筒部36の先端部の斜面に乗り上げ,拡径されるので,フレア管26(フレア32)からは「軸に垂直な方向への反力」が発生し,これら2つの反力の合力は,その向きが確かに審判請求人の言うように「面直方向」に近いものになるのかもしれない。 しかし,この「軸に垂直な方向への反力」による(奥壁に生じる)モーメントの大きさは0である(なぜなら,モーメントを計算するための「腕の長さ」が0である)から,結局,セラミックナット10の奥壁に生じるモーメントの大きさは,上記のように, 軸方向の反力の大きさ×奥壁の丈である。そして,この式の前半の「軸方向の反力の大きさ」は,上記の“セラミックナット10が螺合により引き寄せられる力”の大きさと同一であるので,このモーメントの大きさは,この“螺合により引き寄せられる力”が変化しない限り一定であり,上記の「反力の合力」の向きには左右されない。 したがって,審判請求人の上記の,“反力が面直方向になるので ,大きなモーメントが生ぜず,引用文献1に記載の発明は本願発明の構成を採る必要性がない”という旨の主張は採用できない。 エ まとめ 以上のように,本願補正後発明は,刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 したがって,本件補正は,特許法17条の2第5項において準用する同法126条4項に違反するから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 (2) 本願発明についての検討 ア 対比・判断 本願発明と,刊行物1に記載された発明とを対比すると,本願発明は,上記(1)で検討した本願補正後発明の「前記ねじ孔の孔内周壁から前記ねじ軸の軸心方向で前記食込み部に至る距離である前記奥壁の丈は,前記雄ねじ部の被外嵌部の肉厚の寸法とほぼ同じ長さに設定されている」を省いたものである。 そうすると,本願発明を特定する事項のすべてと,さらに付加された他の事項によっても特定される本願補正後発明が,上記(1)に記載したとおり,刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様に,刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 イ むすび 以上のように,本願発明は,刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 よって,本願の請求項1,3及び4に係る各発明については判断するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本願補正後発明の認定を誤り,本願補正後発明と刊行物1に記載された発明との一致点の認定を誤って,相違点を看過し(取消事由1),また,本願補正後発明と引用発明1との相違点A及びBの判断を誤り(取消事由2及び3),その結果,本願補正後発明が,刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をして,本件補正を却下したものであって,この認定判断の誤りは審決の結論に影響を及ぼすから,審決は,取り消されるべきである。 1 取消事由1(本願補正後発明の認定の誤り,本願補正後発明と刊行物1に記載された発明との一致点の認定の誤り,相違点の看過) 審決は,本願補正後発明と刊行物1に記載された発明との一致点を第2の3(1)イの《一致点》に記載のとおり認定したが,本願補正後発明の認定を誤り,相違点を看過したものであるから,誤りである。 (1) 補正明細書(甲8)の特許請求の範囲の請求項1には,「前記奥壁は,・・・差込孔の周縁部に鋭角断面形状の食込み部を有しており,」,「前記被外嵌部は,・・・チューブ材の一端部が拡径した状態で外嵌し,」と記載されている。ところで,チューブ材の一端部が拡径した状態になるためには,チューブ材は,弾性変形しやすい材質でなければならない。また,「食込み部」は,チューブ材に食い込むことによってチューブ材の抜けを防止するための形態として,鋭角断面形状であることが特定されているが,これが弾性変形しやすい材質のチューブ材に食い込むためには,チューブ材の切断を防ぐという観点からみて,チューブ材と同様に弾性変形しやすい材質でなければならない。そうであるから,本願補正後発明の継手が合成樹脂製であることは,特許請求の範囲の記載からみて,一義的に明確である。 また,補正明細書の発明の詳細な説明をみても,発明の属する技術分野として,「チューブ材の樹脂継手に関する。」(段落【0001】)と記載され,これを受けてその後の記載がされている上,発明が解決しようとする課題として,「従来のチューブ材Tの継手では,継手にフッ素樹脂が使用されていて,・・・このような継手を用いた装置においては,装置全体が大型になり,また,継手が全体的に大径になった分だけ,材料コストが嵩むという問題点がある。」(段落【0005】)と記載されているところ,この問題を解決したのが本願補正後発明であるから,本願補正後発明は,継手が合成樹脂製であることを当然の前提としている。 (2) したがって,本願補正後発明の継手は合成樹脂製であるといわなければならないが,刊行物1の継手のナット部材はセラミック製であるから,この点において,本願補正後発明と刊行物1に記載された発明とは相違する。 審決は,本願補正後発明の認定を誤り,その結果,本願補正後発明と刊行物1に記載された発明との相違点を看過し,一致点の認定を誤ったものである。 2 取消事由2(相違点Aの判断の誤り) 審決は,相違点Aについて,「相違点Aにおける本願補正後発明の構成に相当するものが刊行物2に記載されており,そして,これらの刊行物2の記載事項を,刊行物1に記載された発明に組み合わせることは容易である。」と判断したが,誤りである。 刊行物1の継手のナット部材はセラミック製であるのに対し,刊行物2の継手は合成樹脂製であるところ,セラミックで鋭角断面形状の食込み部を形成すれば,チューブが切断されるおそれがあるから,セラミックのように弾性変形しない高硬度の材質で食込み部を形成することは技術常識上あり得ない。したがって,刊行物2の記載事項を刊行物1に記載された発明に組み合わせて,相違点Aに係る構成に想到することはできない。 3 取消事由3(相違点Bの判断の誤り) 審決は,相違点Bについて,「相違点Bにおける本願補正後発明の構成に相当するものが刊行物2に記載されており,そして,これらの刊行物2の記載事項を,刊行物1に記載された発明に組み合わせることは容易である。」と判断したが,誤りである。 相違点Bに係る「面取り斜面部」は,相違点Aに係る「食込み部」との対応関係が重視されるべきであって,個別の斜面部をもって技術的に共通であるということはできないところ,刊行物1と刊行物2とでは材質を異にするので,刊行物2の記載事項を刊行物1に記載された発明に組み合わせて,相違点Bに係る構成に想到することはできない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本願補正後発明の認定の誤り,本願補正後発明と刊行物1に記載された発明との一致点の認定の誤り,相違点の看過)について (1) 本件補正による請求項1は,前記第2の2(2)のとおりのものであるが,継手の材質を合成樹脂製のものに限定する旨の文言はなく,かつ,これを合成樹脂製のものに限定して理解しなければならないような特段の事情があることも認められない。そうであれば,本願補正後発明の継手が合成樹脂製のものに限定されると解することはできないというべきである。 (2) 原告は,チューブ材の一端部が拡径した状態になるためには,チューブ材は,弾性変形しやすい材質でなければならないし,また,「食込み部」は,チューブ材に食い込むことによってチューブ材の抜けを防止するための形態として,鋭角断面形状であることが特定されているが,これが弾性変形しやすい材質のチューブ材に食い込むためには,チューブ材の切断を防ぐという観点からみて,チューブ材と同様に弾性変形しやすい材質でなければならないから,本願補正後発明の継手が合成樹脂製であることは,特許請求の範囲の記載からみて,一義的に明確であると主張する。 補正後の特許請求の範囲の請求項1には,「前記被外嵌部は,・・・チューブ材の一端部が拡径した状態で外嵌し,」と規定されているが,この構成において,被外嵌部に外嵌する際のチューブ材の一端部の形状については,格別規定されていない。そうであれば,上記の構成は,チューブ材の一端部が拡径した状態で被外嵌部に外嵌していることを規定するにとどまるから,特許請求の範囲の記載からは,被外嵌部に外嵌する際において,チューブ材の一端部が拡径していない状態でなければならないとは認めることができない。したがって,被外嵌部に外嵌する際に,チューブ材の一端部の形状が既に拡径した状態であっても,上記の構成にいう「前記被外嵌部は,・・・チューブ材の一端部が拡径した状態で外嵌し,」に該当する。 そうであれば,原告が主張するように,チューブ材が弾性変形しやすい材質でなければならないということにはならない。また,補正後の特許請求の範囲の請求項1には,「前記奥壁は,・・・差込孔の周縁部に鋭角断面形状の食込み部を有しており,」とあるところ,上記のとおり,チューブ材が弾性変形しやすい材質でなければならないということにはならないから,「食込み部」が弾性変形しやすい材質でなければならないということにもならない。 したがって,本願補正後発明の継手が合成樹脂製であることが特許請求の範囲の記載からみて,一義的に明確であるということはできず,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして,これを採用することはできない。 (3) また,原告は,補正明細書の発明の詳細な説明をみても,本願補正後発明は,継手が合成樹脂製であることを当然の前提としていると主張する。上記のとおり,継手が合成樹脂製であることは特許請求の範囲に規定されているとはいえないので,本願補正発明の継手が合成樹脂製に限定されるとの原告の主張は既に理由がない。 なお,念のために,補正明細書(甲8)の発明の詳細な説明の記載についても検討を加えることとする。 ア 補正明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。 (ア) 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,ナット部材のねじ孔内に差し込まれたチューブ材の一端部を継手本体に外嵌し,継手本体にナット部材を螺着して,チューブ材の一端部を支持するようにしたチューブ材の継手に関する。特に,本発明は,高密度半導体チップの製造現場におけるクリーンルーム内で用いる純水洗浄液,その他薬液等の流管路を司るチューブ材の樹脂継手に関する。」 (イ) 「【従来の技術】・・・【0004】空調,プラント関係等で使用される継手には,ナット部材1や継手本体3に金属材が多く使用されているが,半導体チップ製造での純水洗浄液その他薬液を使用するラインには耐クリーン性,耐食性,耐薬品性等の関係からフッ素樹脂が一般に使用されている。継手本体3にフッ素樹脂を用いた場合に,フッ素樹脂が金属材と比べて強度が低いため,締め付け力や長期使用により変形し易く,継手本体3の剛性を確保すべく,金属材に比して太径の軸体形状のものを用いる必要がある。継手本体3,チューブ材T内には,純水洗浄液や各種薬液さらに研磨用の微細粒子が含まれる液体などの移動媒体が流れる。 【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,このような従来のチューブ材Tの継手では,継手にフッ素樹脂が使用されていて,金属材に比して太径の軸体形状の継手本体3を用いる必要が有る上に,貫通孔14の周りに溝環5を設けている分だけ,継手本体3をさらに太径の軸体形状にする必要があるため,継手本体3の雄ねじ部6にその雌ねじ部7が螺合するナット部材1の外径が大きくなり,継手が全体的に大径になり,隣り合う継手同志の径方向の間隔を広くする必要があることから,このような継手を用いた装置においては,装置全体が大型になり,また,継手が全体的に大径になった分だけ,材料コストが嵩むという問題点がある。継手を小径にして,材料コストを低減すべく,図4に示すようなものもあるが,チューブ材Tと継手本体3とのつぎ目に溝が生じるようになる。そのチューブ材Tと継手本体3とのつぎ目に生じる溝が大きければ大きいほど,僅かな液などの移動媒体が長期間滞留し,いわゆる死水溜まりとなり,汚染の要因となったり,移動媒体に含まれる微細粒子が堆積して成長し,チューブ材Tが径小化してしまうという問題もある。 【0006】また,図3に示すような形状の継手では,ナット部材1の奥壁が平らなフラット面であるため,ナット部材1を締め付けた場合,チューブ材Tが食い込みにくく,大きなトルクで締め付ける必要があり,締め付けが不十分な場合に,特に高温になるとチューブ材が抜け易くなるという問題がある。 【0007】本発明は,このような従来の技術が有する問題点に着目してなされたもので,継手を全体的に小径にして,隣り合う継手同志の径方向の間隔を可能な限り狭くして,小型の装置を実現可能にし,継手の材料コストを低減することができ,さらには,移動媒体などの長期間滞留を防止して,汚染の要因をなくし,微細粒子の堆積成長をなくして,チューブ材の径小化を防止することができるチューブ材の継手を提供することを目的としている。」 (ウ) 「【発明の実施の形態】・・・【0017】図1および図2に示すように,本チューブ材Tの継手は,フッ素樹脂製の継手本体10と,同じく,フッ素樹脂製のナット部材20とから成る。フッ素樹脂としては,耐薬品性に優れた特性を有する「PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)」と「PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)」とが挙げられる。・・・」 イ 以上の記載に基づき検討する。 (ア) 【発明の属する技術分野】の項の記載について 段落【0001】は,「本発明は,・・・チューブ材の継手に関する。」とし,これに続いて,「特に,本発明は,・・・チューブ材の樹脂継手に関する。」と記載しているから,段落【0001】の記載があることをもって,継手の材質が合成樹脂製のものに限定されるということはできない。 (イ) 【従来の技術】,【発明が解決しようとする課題】の項の記載について 段落【0004】ないし【0007】は,半導体チップ製造での純水洗浄液その他薬液を使用するラインに一般に使用されるフッ素樹脂の継手等の問題点を挙げ,本願補正後発明が,従来の技術が有する問題点に着目してされたものであって,「継手を全体的に小径にして,隣り合う継手同志の径方向の間隔を可能な限り狭くして,小型の装置を実現可能にし,継手の材料コストを低減することができ,さらには,移動媒体などの長期間滞留を防止して,汚染の要因をなくし,微細粒子の堆積成長をなくして,チューブ材の径小化を防止することができるチューブ材の継手を提供することを目的としている。」と記載している。ところで,ここに記載されている目的は,性質上,合成樹脂製の継手に限定されるというものではないし,(ア)の【発明の属する技術分野】の項を受けて記載されているのであるから,段落【0004】ないし【0007】の記載があることをもって,継手の材質が合成樹脂製のものに限定されるということはできない。 (ウ) 【発明の実施の形態】の項の記載について 段落【0017】は,チューブ材Tの継手が,フッ素樹脂製の継手本体とフッ素樹脂製のナット部材とからなることを記載している。しかし,(ア)の【発明の属する技術分野】の項の記載にあるように,本願補正後発明は,チューブ材の継手,特にチューブ材の樹脂継手に関するものであって,「発明の実施の形態は,特許出願人が最良と思うものを少なくとも一つ掲げて記載する。」(特許法施行規則様式第29)というものであるから,より好適な実施の態様として合成樹脂製の継手が考えられるというにとどまる。そうであれば,段落【0017】に,フッ素樹脂製の継手が記載されているとしても,このことから,継手の材質が合成樹脂製のものに限定されるということはできない。 ウ 以上のように,補正明細書の発明の詳細な説明を参酌しても,本願補正後発明の継手が合成樹脂製のものに限定されるとは認めることができない。 (4) そうすると,本願補正後発明の継手は,合成樹脂製のものに限定されないのであって,この点に関する審決の認定に誤りはない。なお,審決は,刊行物1に記載された発明の「セラミックナット10」が本願補正後発明の「ナット部材」に相当すると認定しているところ,ここにいう「相当する」との趣旨は,チューブ材の継手における部品あるいは構成部分としての対応関係が成立することを意味しているにすぎないと解されるのであって,材質をも含めて,両者が全く同一であることを意味しているとは考え難いから,審決の一致点の認定に誤りはない。 原告主張の取消事由1は,理由がない。 2 取消事由2(相違点Aの判断の誤り)について (1) 刊行物2(甲11)には,次の記載がある。 「この考案は,前記した各問題点を除去するために,継手本体の溝環に挿入したチューブ拡径部を袋ナットで継手本体にきつく締め付けることで,前記チューブ拡径部に連接したチューブ屈折部を袋ナットの鋭角孔縁で継手本体の筒状部の鋭角尖端にきつく圧接してチューブ抜け止め部と気密保持部とし,かつ,前記筒状部尖端5Aの内周面を液溜り防止用面取り斜面5Bとすることで,死水溜りをなくすることを目的とする。」(段落【0008】) 「【考案の実施の形態】 本考案の実施の形態例について図面を参照して説明する。 先ず,この考案の基本形態は,図1から図5までの各図に示すように,ポリ・テトラ・フルオロ・エチレン(PTFE)とか,通常PFAと称するフッ素樹脂製チューブ1の端部付近を加熱した拡径治具Aに図2のように強引に圧入してチューブ拡径部2を作る。 そして,このチューブ拡径部2の内周面に図3のように溝環3を有するフッ素樹脂やポリプロピレン等の硬質樹脂製継手本体4の筒状部5を図4のように挿入すると同時に前記チューブ拡径部2の大部分を前記溝環3内に挿入する。 次いで,この溝環3の外側における継手本体4の雄ねじ部4aに図4,図5のように螺入したフッ素樹脂やポリプロピレンなどで作った硬質の袋ナット6で前記チューブ拡径部2に連接したチューブ屈折部2aをその外面から袋ナット6の肩部6Aに鋭角形成した孔縁6aで継手本体4の筒状部5の鋭角尖端5Aに同図5および図1のようにきつく圧接して,チューブ抜け止め部と気密保持部とを形成する。 また,前記筒状部尖端5Aの内周面には,予じめ,変形防止用面取り斜面5Bを形成して,尖端5A付近に薄肉部が生じないようにすることで,その内側曲り変形を防ぎ,チューブ間とのスキマの発生を防いで液溜りが生じない図1のような本考案によるチューブ継手を構成できた。」(段落【0010】ないし【0013】) 「【考案の効果】 この考案は,以上のような形態を採用したので,以下に記載の効果を奏する。 継手本体4の溝環3に挿入したチューブ屈折部2aをその外面から袋ナット6で継手本体4の筒状部5にきつく締め付けることで,前記チューブ屈折部2aを袋ナット6の肩部6Aに鋭角形成した孔縁6aで継手本体4の筒状部5の尖端5Bにきつく圧接して厳重なチューブ抜け止め部と気密保持部を形成できたので,チューブ1は,継手本体4に対し,気密・液密を厳重に保ち,継手本体4に密着結合しており,妄りに緩んだり,引き抜けることがなく,長期に亘り安全に使用できたという第1の効果が有る。 また,特に本発明では,継手本体4の筒状部尖端5Aの内周面に変形防止用面取り斜面5Bを形成したので,高温下で使用しても,その温度サイクル等で筒状部尖端付近の内向き曲り変形を防止でき,いわゆる死水溜りをなくすることができたので,純水等洗浄液を汚染もなく,超高密度LSIチップ成品の洗滌ルートに安心して適用できたという工業的効果も有る。」(段落【0015】,【0016】) そして,図面として,図1には,実施の形態例を示す拡大縦断側面図が,図3ないし5には,チューブ継手の組立途中又は組立済成品の一例を示す縦断側面図がある。 (2) 以上の記載によれば,刊行物2(甲11)には,本願補正後発明と技術的範囲を同じくするチューブの継手に関して,袋ナット6の肩部6Aが,袋ナット6の中心軸に向かって,袋ナット6の入口方向に傾斜し,孔縁6aが鋭角に形成されていることが記載されているところ,これは,相違点Aにおける本願補正後発明の構成に相当するものであるということができる。そうであれば,これらの刊行物2の記載事項を刊行物1に記載された発明に組み合わせて,相違点Aに係る構成に想到することは容易であると認められる。 (3) 原告は,刊行物1の継手のナット部材はセラミック製であるのに対し,刊行物2の継手は合成樹脂製であるところ,セラミックで鋭角断面形状の食込み部を形成すれば,チューブが切断されるおそれがあるから,セラミックのように弾性変形しない高硬度の材質で食込み部を形成することは技術常識上あり得ないのであって,刊行物2の記載事項を刊行物1に記載された発明に組み合わせて,相違点Aに係る構成に想到することはできないと主張する。 しかし,上記1に判示したように,本願補正後発明の継手は,合成樹脂製のものに限定されないから,本願補正後発明の特許請求の範囲は,物としての「チューブ材の継手」の形状をどのようにするかを規定したものであるということができる。 そして,刊行物2には,相違点Aにおける本願補正後発明の構成に相当するものが記載されているところ,刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された事項を適用するに当たり,適宜の材料を選択し,選択した材料との兼ね合いにより,相違点Aに係る食込み部の断面形状を適宜のものとすることは,設計事項の範囲に属すると認められるのであって,その際に,あえて,刊行物1及び刊行物2にそれぞれ記載された材質を選択し,かつ,明らかに切断などの破損を招くものと予測されるような形状を採用するとは考え難い。原告の上記主張は,採用することができない。 (4) 以上のように,刊行物2の記載事項を刊行物1に記載された発明に組み合わせて,相違点Aに係る構成に想到することは容易であると認められるから,審決の判断に誤りはない。 原告主張の取消事由2は,理由がない。 3 取消事由3(相違点Bの判断の誤り)について (1) 上記2(1)に引用した刊行物2(甲11)の記載によれば,刊行物2(甲11)には,本願補正後発明と技術的範囲を同じくするチューブの継手に関して,継手本体4の筒状部尖端5Aの内周面に変形防止用面取り斜面5Bが形成され,変形防止用面取り斜面5Bが,継手本体4の筒状部の内部から外部へ向かって継手本体4の中心軸から離れる方向へ傾いた傾斜面に形成されていることが記載されているところ,これは,相違点Bにおける本願補正後発明の構成に相当するものであるということができる。そうであれば,これらの刊行物2の記載事項を刊行物1に記載された発明に組み合わせて,相違点Bに係る構成に想到することは容易であると認められる。 (2) 原告は,相違点Bに係る「面取り斜面部」は,相違点Aに係る「食込み部」との対応関係が重視されるべきであって,個別の斜面部をもって技術的に共通であるということはできないところ,刊行物1と刊行物2とでは材質を異にするので,刊行物2の記載事項を刊行物1に記載された発明に組み合わせて,相違点Bに係る構成に想到することはできないと主張する。 原告の上記主張は,結局のところ,刊行物1と刊行物2とでは材質を異にするので,刊行物2の記載事項を刊行物1に記載された発明に組み合わせて,相違点Bに係る構成に想到することはできないということに帰着するのであり,そうであれば,上記2に判示したのと同じ理由により,これを採用することはできない。 (3) 以上のように,刊行物2の記載事項を刊行物1に記載された発明に組み合わせて,相違点Bに係る構成に想到することは容易であると認められるから,審決の判断に誤りはない。 原告主張の取消事由3は,理由がない。 |
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結論
したがって,本願補正後発明については,原告主張の審決取消事由は理由がなく,本願発明については,原告は審決取消事由として主張するところがないから,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塩月秀平 |
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裁判官 | 田中昌利 |
裁判官 | 野輝久 |