関連審決 |
審判1974-2302 |
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関連ワード | 発明者 / 製造方法 / 新規性 / 公知技術 / 発明の詳細な説明 / 数値限定 / 技術的意義 / 実施 / 構成要件 / 発明の範囲 / 目的の範囲 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 減縮 / 変更 / 要旨変更 / |
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事件 |
昭和
53年
(行ケ)
169号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1985/02/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が昭和五三年八月二四日に同庁昭和四九年審判第二三〇二号事件についてした補正の却下の決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 原告は、主文同旨の判決を求めた。 二 被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。 |
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原告主張の請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四五年一月二八日、特許庁に対し、名称を「ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物並びにその製法」(後に補正により「並びにその製法」を削除)とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(特願昭四五ー七〇〇七号)をしたが、拒絶査定を受けたので、昭和四九年四月一〇日審判の請求(同年審判第二三〇二号)をし、昭和五二年四月二八日に手続補正書を提出したところ、特許庁は、昭和五三年八月二四日、右手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する旨の決定(以下「決定」という。)をし、その決定謄本は、同年九月六日原告に送達された。 二 本件補正前の特許請求の範囲 ポリエチレンテレフタレート九〇〜五〇重量%と長さ〇・〇五mm以上のガラス繊維一〇〜五〇重量%とから成り、該ガラス繊維のうち長さが〇・四mm以上のものが全組成物に対し一〇重量%以下であることを特徴とする、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物三 決定の理由の要点 本件補正によつて、本願発明の成形用のガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物は、長さ〇・四mm以上のガラス繊維が全組成物に対して一・六重量%以上(一〇重量%未満)含むことが必要の要件となつた。 ところが本願発明の特許出願の願書に最初に添付された明細書(以下「出願当初明細書」という。)には長さ〇・四mm以上のガラス繊維が一〇重量%以上含まれてはならないとする理由は説明されているものの、一・六重量%以上必ず含まれなければならないとする理由や、一・六重量%含むか含まれないかによりガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物で製造された成形品の物性が大きく変わる、すなわち一・六重量%の値が臨界的意義を有することを教示する記載はない。 なるほど、請求人(原告)の主張するように、本願発明の実施例1にはベレツト中に〇・四mm以上のガラス繊維が一・六重量%含まれた成形品の物性を示す記載はあるが、実施例は本来飽くまで本願発明の実施の態様の好ましい一例であつて、 実施例1は一・六重量%含む組成物を用いてある一つの条件の下で成形品を製造した場合にどのような結果を収めたかを示しているものにすぎず、それをもつて組成物中に〇・四mm以上のガラス繊維が一・六重量%以上含まれていなければならないとすることまで示しているとは到底いうことはできない。 してみると、本件補正は、願書に最初に添付された明細書の要旨を変更するものであるから、特許法53条1項の規定によりこれを却下する。 四 決定を取り消すべき事由 決定は、後記のとおり、本件補正が明細書の要旨を変更するものではないのに、 誤つて要旨を変更するものと判断し、本件補正を却下したものであるから、違法としてこれを取り消すべきものである。 1 本件補正は、「約一・六重量%」が臨界的意義を有すると否とにかかわらず、 明細書の要旨を変更するものではない。 特許法41条は、出願公告決定の謄本送達前に、出願当初明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増減変更する補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなすと規定する。本件補正は、出願公告決定謄本送達前の補正であつて、長さ〇・四mm以上のガラス繊維含有量が出願当初「一〇重量%以下」であつたのを「約一・六重量%ないし一〇重量%未満」とするもので、この補正は、以下に述べるとおり、出願当初明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を減少し又は変更したにすぎないものであるから、同条の規定により、明細書の要旨を変更しないものとみなされるべきである。 (一) 出願当初明細書に記載された発明の目的は、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を成形材料として成形品を製造する際に、その得られた成形品を、強度において優れ、異方性少なく、外観光沢良好であるようにすることのできる、右成形材料としてのガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることである。 (二) 右発明の目的を達成する発明の構成として、出願当初明細書は、補強材として加えるガラス繊維につき、長さ〇・四mm以上のものと〇・四mm未満〇・〇五mm以上のものとを混在せしめ、その〇・四mm以上のものを一〇%以下とするガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を提案している。 (三) 右長さ〇・四mm以上のガラス繊維一〇%以下について、出願当初明細書は、その含有量が九・四三%から一・六%にわたる一八の実施例(うち一〇実施例につき物性記述)と含有量一〇%以上の比較例一〇(うち四につき物性記述)をあげ、右一〇%以下を根拠づける事実として記載している。 すなわち、出願当初明細書は、長さ〇・四mm以上のガラス繊維の含有量が一〇%以下一・六%までの組成物については根拠づける事実記載を伴つて、組成物が前記発明の目的において期待される効果を奏すると記載している。 (四) しかして、本件補正により特許請求の範囲に記載された発明は、発明の目的、効果において、前記出願当初明細書に記載されたところとなんら変わることなく、ただ構成において、基本的には同じであるが、組成物中の長さ〇・四mm以上のガラス繊維含有量を一〇%未満一・六%までのものとし、一・六%以下のものを含まないこととしただけである。 (五) してみれば、本件補正による発明は、出願当初明細書に記載された事項が包含していた組成物のうち一部を除いたものに相当するから、この補正された発明が包含する組成物は出願当初明細書に記載されていた事項である。 したがつて、本件補正による特許請求の範囲の補正は、出願当初明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を減少し又は変更する補正であるから、明細書の要旨を変更しないものとみなされるべきである。 (六) 原告は、本件補正において、特許請求の範囲を訂正するとともに、実施例19と比較例11ないし16を追加し、その結果から、〇・四mm以上のガラス繊維含有量が一・六%より少ない成形品は、外観及び異方性の点では良好であるが、 曲げ強度、曲げ弾性率、熱変形温度などの物性値が悪いという記述を追加する補正をした。 この補正は、出願当初明細書に記載された事項である一・六%を特許請求の範囲に加入するにあたつて、その範囲外の組成物がどうであるかを追試した結果を述べただけで、補正された特許請求の範囲からみれば要旨外に属する事項であり、一・六%の組成物が出願当初明細書に記載された事項であることになんらの影響をも及ぼすものではないから、この補正によつて明細書の要旨が変更されたものということはできない。 (七) 特許請求の範囲を数値をもつて限定する場合、その数値は必ず臨界的意義を有しなければならないとする規定はなく、また、その数値は臨界的意義を有するものとみなすとの規定もない。仮に、出願当初明細書に記載された事項であつて補正によつて特許請求の範囲に加えられた数値が臨界的意義を有しないために、発明の範囲を明確にできないとかあるいは他の発明との間に明確な区別ができないなどのことがあつても、それは特許法36条5項又は同法29条の拒絶理由の根拠となるか、同法64条により準用する同法126条2項の実質変更の問題であり、同法41条が適用される場合の要旨変更による補正却下の問題ではない。 要旨変更による補正却下は、本件の場合、補正された特許請求の範囲が出願当初明細書に記載した事項の範囲内であるかないかだけが問題であり、一・六%が臨界的意義を有するか否かは関係がない。 そして、前記のとおり、本件補正は、出願当初明細書に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲を減少又は変更するものであるから、明細書の要旨の変更にあたらず、却下されるべき筋合いのものではない。 2 仮に、「約一・六重量%」を下限とする特許請求の範囲の補正が、右一・六%が出願当初明細書において臨界的意義ある数値として記載されていなければ要旨の変更にあたるとしても、本件補正は要旨の変更にはあたらない。 すなわち、この「約一・六重量%」は、出願当初明細書において、補強効果上の強度の好ましい範囲の実用的限界を示すものであることが示唆されているから、そのような意味で臨界的意義を有する数値として記載されていたともいえるのである。 (一) 原告が「約一・六重量%」を本件組成物の長さ〇・四mm以上のガラス繊維含有量の下限として特許請求の範囲に付加したのは、補強効果をあげるという目的上必要な強度という物性を基準として好ましい範囲に限界づけるためである。 出願当初明細書には一・六%が強度上の実用的限界であることを明示する記載はないが、この明細書に記載された長さ〇・四mm以上のガラス繊維含有量一・六%のものと、改良対象の公知技術として引用した公報記載の長さ〇・四mm以上のガラス繊維が全然混入されていないものとの強度を比較することによつて、当業者は、長さ〇・四mm以上のガラス繊維を一・六%混入するときは、それから得られる成形品の強度は右長さのガラス繊維の混入されていない場合にくらべて著しく改善されることを理解でき、実施例中最も含有量が少なくかつ実験の仕方からいつて実用上下限といつてもよい数値であることがわかるから、この「約一・六重量%」という数値は、本件発明の発明者が補強効果上必要な強度の好ましい範囲の実用的限界として記載したものであろうと容易に推察することができる。したがつて、 「約一・六重量%」が長さ〇・四mm以上のガラス繊維含有量の強度上の好ましい範囲の下限ということは出願当初明細書に示唆されているということができる。そこで、原告は「約一・六重量%」を強度上の下限として特許請求の範囲に付加する補正をしたのであり、上限の一〇%と同じ異方性という物性を基準として付加したものではない。 そして、本件補正において付加した比較例11ないし15は、〇・四mm以上のガラス繊維含有量が一・〇%又は〇・九%のものも、また、それが〇%のものも異方性はほぼ1であるが、その強度は一・六%の含有量のものにくらべて著しく小さく、前記の異方性において特に下限というべききものはないこと、さらに、強度上の好ましい範囲の実用的限界としては「約一・六重量%」が相当であることを示している。 (二) 「一・六%の値が臨界的意義を有することを教示する記載」が、上限についてと同じく異方性という物性が大きく変わる限界であることを示す記載を意味するとみれば、出願当初明細書にそのような記載はない。 しかしながら、長さ〇・四mm以上のガラス繊維含有量が一・六%であるとき、 右含有量が〇%のものにくらべて明らかに強度という物性が大きく変わつているから、「約一・六%」は、そこにおいて成形品の物性が大きく変わる限界であり、この意味で、一・六%の値が臨界的意義を有するということができるのである。 以上のとおり、この「約一・六%」は補強効果上の強度の好ましい範囲の実用的限界を示すものであることが出願当初明細書において示唆されているとみることができるから、この「約一・六%」を下限として付加することは、異方性という物性上の限界を変えたということではなく、右出願当初明細書に記載された発明の範囲内で、補強効果目的上必要な強度の実用的限界づけをしたにすぎないということができる。 したがつて、右「約一・六%」を付加する補正は、出願当初明細書の記載を逸脱するものではなく、この補正を要旨の変更にあたるとして却下した決定は違法である。 |
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請求の原因に対する被告の認否及び主張
一 原告主張の請求の原因一ないし三の事実は認める。 二 決定を取り消すべきものとする同四の主張は争う。原告主張の決定取消事由は、後記のとおり、いずれも理由がなく、決定にはこれを取り消すべき違法はない。 1 本件補正によつて加えられた「一・六%」なる数値は、臨界的意義のあるものでなければならない。もし、一・六%に臨界的意義がないとするならば、それは、 本来発明の構成に欠くことのできない事項ではないから、敢えて特許請求の範囲で規定することすら必要なかつたのである。 しかるに本件補正をして一・六%の数値を加えたこと自体が、補正後の発明において一・六%以上なる事項が発明の構成に欠くことのできない事項であることを原告自ら認めている証拠である。 仮に、本件補正が、特許請求の範囲の減縮すなわち出願当初明細書に記載されていた組成物のうち一部を単に除いたものにすぎないとするならば、実施例19と比較例11ないし16の補充は必要のないことであるし、昭和五三年六月二七日付意見書(甲第六号証)記載の主張、特に本件補正により加入された第九表に基づく効果の主張は、本来成り立たなかつたはずである。 2 決定が本件補正を却下した理由は、一・六%以上なる事項が本願発明の構成に欠くことができない事項であることが出願当初明細書に記載されていなかつたことによるものであるが、その記載がなかつたといいうることは以下のとおりである。 本願発明の組成物の製造方法は、出願当初明細書の発明の詳細な説明中四頁末行ないし五頁七行等に記載されてはいるが、それらの記載も、〇・四mm以上のガラス繊維が全組成物に対して一・六重量%以上必ず含まれなければならないとする根拠とはなりえないものである。同明細書一二頁九ないし一九行の記載においても、 「この場合は、あらかじめ〇・四mm以上の長さを持つたガラス繊維の重量が全混合物の一六重量%、好ましくは一四重量%以下で」と最大限度を規定してはいるものの、最小限度については規定しておらず、そして、それを受けて長さが〇・四mm以上のガラス繊維が一六重量%を超えると最終的に〇・四mm以上の長さのガラス繊維が一〇重量%を超えるから好ましくないと説明されている。すなわち、ガラス繊維の混合にあたつては、煎断力により切断されるのでそれを考慮して、どの程度の長さのガラス繊維を原料として用いるべきであるか、また、最大限度量の一〇重量%を超えないようにするにはどうすべきか、を教えているのみで、一・六重量%なる数値とは関係がないのである。 3 本件補正によつて一・六重量%の値が〇重量%の値とは勿論、〇・九重量%や一・〇重量%の値とも異なる技術的意義をもつに至つたのである。 したがつて、出願当初明細書にあつては、〇・四mmのガラス繊維含有量の一〇重量%以下の任意の単なる一例であつた一・六重量%の数値が、本件補正により技術的に臨界的意義を有しそれ以上と以下とではガラス繊維含有組成物の物性が顕著に異なるとされたのであつて、本願発明は、〇・四mm以上のガラス繊維が単に一〇重量%以上含まれていてはならないとの要件に加えて、一・六重量%の点に臨界的意義を見出したことにも本願発明の重要な意義を置くことになつたのである。 このように、本件補正の結果、出願当初明細書には記載されていなかつた新たな技術的知見が加わり、それに基づいて一・六重量%以上とする新しい構成要件が生じたものである。したがつて、本件補正の前後では発明が変更されたものであり、 本件補正後の発明は出願当初明細書に記載されていなかつたというべきものであるから、本件補正を却下した決定の判断は正当である。 |
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証拠関係(省略)
理 由一 原告主張の請求の原因一ない三の各事実(特許庁における手続の経緯、本件補正前の特許請求の範囲及び決定の理由の要点)については、当事者間に争いがない。 二 そこで、決定取消事由の存否について検討する。 1 右当事者間に争いのない本件補正前の特許請求の範囲と成立に争いのない甲第二号証の一ないし四によれば、出願当初明細書における特許請求の範囲第一項の記載は「ポリエチレンテレフタレート九〇〜五〇重量%と長さ〇・〇五mm以上のガラス繊維一〇〜五〇重量%とから成り、該ガラス繊維のうち長さが〇・四mm以上のものが全組成物に対し一〇重量%以下であることを特徴とする、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物」であるが、その後の補正により、特許請求の範囲第二項以下が削除され、右記載のうち「一〇重量%以下」が「一〇重量%未満」と訂正されたところ、本件補正により右「一〇重量%末満」の前に「約一・六重量%ないし」と加入されたものであることが認められる。そうすると、本件補正は、長さ〇・四mm以上のガラス繊維の含有量を出願当初明細書記載の「一〇重量%以下」から「約一・六重量%ないし一〇重量%未満」に改めるだけであるから、特許請求の範囲の減少であることが明らかであり、右減少は特段の事由がない限り出願当初明細書に記載された事項の範囲内であると認めるのが相当である。 2 ところで、前記争いのない決定の理由の要点によれば、その理由の骨子は、本件補正の対象となつている補正内容すなわち本件補正後の本願発明における長さ〇・四mm以上のガラス繊維含有量の下限を「約一・六重量%」と限定した理由や右限定にかかる数値に臨界的意義があることが出願当初明細書に記載されていなかつたというところにあることが明らかである。 しかしながら、本願発明のように特許請求の範囲において構成要件に数値の限定が付されている場合においてそのように数値で限定された理由については、特許出願前の公知技術との相違が右数値限定の点のみに存する発明であるような場合を除いては、必ずしも常に技術的事項を根拠とする限定理由がなければならないものではなく、まして、これが明細書中に記載されていなければならないものということはできない。すなわち、右数値限定以外の点でも新規性を認めることのできる発明については、特許請求の範囲を数値で限定した理由としては、必ずしも技術的なものに限らず、例えば、その数値外のところでは実験を行つていないとか、その数値を超えると経済性が伴わない等のことでも右限定の理由となりうるものであり、右の限定をするか否かは結局出願人の意思によつて選択すべきものというべきである。 これを本件についてみると、前記決定の理由の要点によれば、本願発明のうち前記長さ〇・四mm以上のガラス繊維含有量の下限を「約一・六重量%以上」と限定した点を除く構成が本願発明の特許出願前公知であつたとの事実は決定の理由とされていないことが明らかであるばかりでなく、前記甲第二号証の一によれば、本願発明において長さ〇・四mm以上のガラス繊維を一〇重量%以下としたことは、出願前公知の技術に比し異方性等の物性に優れている関係で臨界的意義を有し、この点でも、本願発明に新規性があることが認められるから、右「約一・六重量%」の数値限定について、これが技術上臨界的意義を有することその他の技術的な理由が要求されるものではないとするのが相当である。そうだとすると、決定の理由が指摘する前記の事由は前叙の特段の事由とはならないものといわなければならない。 3 被告は、本件補正の結果出願当初明細書には記載されていなかつた新たな技術的知見が加わつたのであるから、本件補正の前後で発明が変更された旨主張する。 そして、前記甲第二号証の四によれば、本件手続補正書には〇・四mm以上のガラス繊維含有量の下限を「約一・六重量%」と限定する理由の説明として、右含有量が一・六%より少ない場合の成形品は、外観及び異方性の点では良好であるが、曲げ強度、曲げ弾性率、熱変形温度などの物性値が悪い旨の記載があることが認められる。 しかし、前記甲第二号証の一によれば、出願当初明細書に記載された発明の目的は、外観及び異方性のほかに強度において優れた成形品を得ることにあることが認められ、前記本件補正による数値限定の理由は、成形品の強度の劣る組成物を排除することに帰するから、出願当初明細書記載の発明の目的の範囲内であることが明らかである。さらに、右甲号証によれば、前記曲げ強度、曲げ弾性率、熱変形温度などの物性値が、長さ〇・四mm以上のガラス繊維の添加量減少により悪化するということは、出願当初明細書に記載された実施例、比較例及び公知技術との対比によつて推測することが可能と認められるので、補正後の発明における一・六重量%の限定理由としてこれらの点を補充したことが直ちに新たな技術的知見を加えるものに相当するということはできない。したがつて、被告主張の前記事由をもつて前叙の特段の事由があるとすることはできない。 4 以上のとおりで、本件補正は特許法41条により明細書の要旨を変更しないものとみなされるといわなければならないから、これに反する決定の判断は誤りであり、決定を違法としてその取消を求める原告の請求は理由があるものというべきである。 三 よつて、決定の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、 訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 瀧川叡一 |
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裁判官 | 楠賢二 |
裁判官 | 牧野利秋 |