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関連審決 審判1980-10787
関連ワード 公然知られ(29条1項1号) /  出願公開 /  遡及 /  援用権(援用) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  要旨変更 / 
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事件 昭和 57年 (行ケ) 273号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1985/03/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者双方の求めた裁判
原告は「特許庁が昭和五五年審判第一〇七八七号事件について昭和五七年九月三〇日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四七年三月八日名称を「電子式点滅装置」とする考案につき実用新案登録の出願をし(以下「原出願」という。)、昭和五三年九月二〇日、特許法46条1項により原出願を同名称(後日「電子点滅器」と訂正)の発明(以下「本願発明」という。)として特許出願に変更したが、昭和五五年三月二八日拒絶査定を受けたもので、同年六月一七日これに対する審判の請求をした。特許庁は右請求を昭和五五年審判第一〇七八七号事件として審理し、昭和五七年九月三〇日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年一一月二九日原告に送達された。
二 本願発明の要旨 積分回路および無安定マルチ発振器を備え、上記の積分回路からの出力信号をクリアパルスとしてリセツト端子に接続されかつ上記の無安定マルチ発振器からの出力信号をクロツクパルスとして入力端子に接続された複数の縦続接続した数段のフリツプ・フロツプより成る電子点滅器であつて、上記の縦続接続したフリツプ・フロツプの適当の段からの出力(正信号および反転信号)を初段のフリツプ・フロツプに帰還するように選択する手段を設け、この手段により選択された各フリツプ・フロツプの出力をそれぞれのフリツプ・フロツプに対応して設けられた交流負荷としての白熱電球、ネオンサインあるいはイルミネーシヨン等に接続することを特徴とする電子点滅器。
三 審決理由の要点1 本願の出願日(一) (イ)上記本願発明の要旨とする構成における「縦続接続したフリツプ・フロツプの適当の段から出力を初段のフリツプ・フロツプに帰還するように選択する手段を設け、」という構成要件(以下「甲構成要件」という。)については、原出願の出願当初の明細書又は図面のいずれによつても開示されておらず、また、
(ロ)この構成要件を具備することによつて、昭和五七年五月四日付け手続補正書(以下「第三補正書」という。)により追加された第4図(c)ないし(h)に示された如き点滅パターンを得ることができ、またその手続補正書四頁一一行ないし二〇行に記載されているように、これら点滅パターンの変更が容易となる、という原出願の出願当初の明細書又は図面に開示されていなかつた作用効果を達成し得るものと認められる。
(二) したがつて、本願発明は、原出願の出願当初の明細書又は図面により開示されていた発明の要旨を変更しているものと認められるから、本願は原出願を特許法46条1項の規定により変更した出願とは認められず、したがつて、本願は、その現実の出願日である昭和五三年九月二〇日の出願として取り扱うべきものと認める。
なお、当審は、上記と同旨の理由によつて本願について出願日の遡及を認めることができない旨を昭和五六年九月一七日付け拒絶理由通知書に併記して請求人に宛て通知したところ、請求人はこの拒絶理由通知書に対する意見書において、『甲構成要件の技術思想は、原出願の出願当初の明細書には記載されていないけれども、
原出願についての昭和五三年二月一八日付け手続補正書(以下「第一補正書」という。)には明確に記載されており、しかもこの重大な補正は、原審において補正の却下の決定はなされず、原査定においてもこの補正についての言及はなされなかつたものであり、本願の発明は上記手続補正書を提出した昭和五三年二月一八日には完成しているものと考えるのが妥当であるから、「原出願の考案の要旨を変更するものである」という認定は理解し難い。』旨主張する。
しかしながら、この主張は、本願の発明が原出願の出願当初の明細書又は図面により開示されていたことを主張するものではなく、また、本願の発明が原出願の審査過程において開示されたとしても、その開示の日まで出願日が遡及すべきことを定めた規定は特許法に存在しないから、この請求人の主張は採用に由ない。
2 本願発明の拒絶理由 原出願は、昭和四八年一二月五日に出願公開され、その日以後その出願書類は公衆の閲覧に供せられており、前記第一補正書もその提出後公衆の閲覧に供せられたものであるから、本願の明細書又は図面に記載された事項は、本願の出願日である昭和五三年九月二〇日以前に日本国内において公知であつたものと認めるの外ない。
よつて、本願発明は、特許法29条1項1号の規定により特許を受けることができない。
四 審決を取消すべき事由 審決は、本願発明が原出願の当初の明細書又は図面(以下「原明細書」という。)の要旨を変更するものではないのにこれを変更するものであると判断して、
特許法46条5項44条2項本文による出願日の遡及を否定したうえ、本願発明が第一補正書記載の考案と異なるのにこれと同一であると判断し、同法29条1項1号により本願を拒絶したものであるから、違法なものとして取消を免れない。
1 本願発明の要旨変更の認定の誤り(取消事由(1))(一) 審決摘出に係る本願発明の特許請求の範囲のうち甲構成要件は、原出願の出願当時周知であつたから、原出願の考案に甲構成要件を適用することによつて得られる審決の理由の要点1(一)(ロ)に認定された点滅パターンの効果は後記(二)に述べるように自明な事項であつた。このように、原明細書に甲構成要件及びこれを付加したことによる効果についての明示的な記載がなくとも、それが自明事項に関するものである以上、原明細書の記載の範囲内のものというべきであるから、本願発明は原明細書の要旨を変更するものではない(特許庁編著発明協会発行「明細書の要旨変更《甲第一〇号証》参照)。
(二) 平井宏作成の鑑定書(甲第五、第六号証)によれば、シフトレジスタの数段縦続接続された初段以外のフリツプ・フロツプの出力端を切換スイツチを通してその任意の一つを選択切換してとり出し、右選択出力を初段フリツプ・フロツプの入力へ帰還するようにすると実験に便利であること、縦続接続したフリツプ・フロツプについて、右のように初段以外の適当な段のフリツプ・フロツプの出力を初段のフリツプ・フロツプへ入力するように選択する手段を設けた選択帰還回路と原出願の考案のように終段のフリツプ・フロツプの出力を初段のフリツプ・フロツプへ入力する固定帰還回路とは、単にフリツプ・フロツプの段数が相違するのみで、回路構成理論上、動作原理上及び動作の実体上特段の相違がないことはいずれも原出願時における当業者の常識的事項であつた。
したがつて、原明細書の第二、第三図記載の固定帰還回路及び同第四、第五図記載の動作パターンの真理値表から、右回路を選択帰還回路とする構造や段数を三、
二、五段などに変えれば、審決が指摘する第三補正書の第四図(c)ないし(f)のような動作パターンが生ずるということは、原出願時において当業者が予想できる自明な事項ということができる。
(三) 原出願の考案に当業者にとつて自明な事項を付加してこれを特許発明として変更出願する場合において、被告主張のように、原明細書中にその事項を付加することについての示唆、或はその付加により作用効果を達成し得ることを推測させるに足りる記載を求めることは、前記甲第一〇号証の趣旨から逸脱している。
のみならず、原明細書は第二図及び第三図において二つの異なる回路例を示すとともに、両者の構成、作用を記載し、かつそれぞれの回路での白熱電球の点滅に対応する真理値表を第四図(a)、(b)として記載して複数の点滅パターンを開示している。更に、その三枚目右欄二行ないし五行には、「以上には四段点滅を例にとりのべたが、JーK・マスタ・スレイプ・フリツプ・フロツプを同様に接続して行くことにより、多段の点滅方式が容易に得られる。」との記載がある。即ち、原明細書は、フリツプ・フロツプの段数を変化させて種々の段数のもの得、それにより各種の点滅方式のものを容易に得ることができる旨を明瞭に開示しているものということができる。
2 本願発明と第一補正書記載の考案との同一性の認定の誤り(取消事由(2))(一) 本願発明の特許請求の範囲と第一補正書記載の実用新案登録請求の範囲を対比すると、前者は「選択する手段を設け」及び「交流負荷としての」を構成要件としているが、後者にはこれに対応する構成要件はない。したがつて、この点で本願発明は同補正書の考案より狭く限定されている。一方後者は「トランジスタのベースに加え同トランジスタのコレクタにトライアツクならびに」及び「直例接続してなる」という前者にない構成要件を有している。また、審決は、本願発明が前記「選択する手段を設け」という構成要件を具備したことによつて、「点滅パターンの変更が容易になる」という新たな作用効果を認定しているが、第一補正書に右構成要件の開示がない以上、右のような作用効果の開示もないことになる。
このように、本願発明と第一補正書記載の考案と同一とは認められないのに、審決はこの両者を同一のものとして特許法29条1項1号を適用して本願を拒絶しているのであるから、右拒絶は違法というべきである。
(二) 仮に第一補正書に開示された考案を公然知られたものとして、本願発明を拒絶するに当つて、「選択する手段を設け」という構成と「点滅パターンの変更が容易となる。」という効果が第一補正書に記載されていても記載されていなくても、拒絶理由の認定に影響がないというのであれば、甲構成要件が周知であることが争いない以上、審決の認定は右の構成と作用の有無を重要と認めていないことになる。そうであれば、審決の要旨変更の認定の理由には矛盾があることになるから、この点においても審決は違法である。
請求原因の認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三は認める。同四のうち1(一)の甲構成要件が原出願時において周知であつたことは認めるが、その余は争う。
二 主張(取消事由(1)に対して)1 原告が援用する甲第五、第六号証に添付された資料はシフトレジスタ、計数回路に関するもので、甲構成要件を原出願の考案及び本願発明に係る電子式点滅器に適用することについては示唆するところもなく、ましてやその適用によつて、審決が指摘した点滅パターンの効果を達成し得ることを推測させるに足りる記載もない。
してみれば、甲構成要件それ自体が原出願時に周知の技術であつたとしても、この要件を原明細書に開示されていた電子点滅器に適用することが自明のものとは直ちに認めがたく、ましてや原明細書に開示されておらず、しかも甲構成要件のみからは直ちに予測できない電子点滅器として、前記のような点滅パターンの効果を達成し得るものである以上、甲構成要件を原明細書に開示されていた構成に付加することは原明細書の要旨を変更するものというほかないから、この点に関する審決の判断に誤りはない。
2 原告が引用する原明細書の記載はフリツプ・フロツプの段数を増加し得ることを開示しているにすぎず、原告主張のような事項を開示しているものではない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 右争いのない事実と成立に争いのない甲第二号証の一ないし五、七、八、一〇によれば、原出願及び本願の出願及びその後の手続上の経緯は、次のとおりであると認められる。
1 昭和四七年三月二八日原出願(実用新案)(甲第二号証の一)2 昭和四八年一二月五日原出願出願公開(同号証の二)3 昭和五三年二月一八日原出願補正(同号証の三)(第一補正書)4 同年七月一八日原出願拒絶査定(同号証の一〇)5 同年九月二〇日原出願を本願発明として特許出願(同号証の四)6 昭和五四年一〇月八日本願補正(同号証の七)(以下「第二補正書」という。)7 昭和五五年三月二八日拒絶査定(同号証の八)8 同年六月一七日審判請求9 昭和五七年五月四日本願補正(同号証の五)(第三補正書)10 同年九月三〇日審決三 取消事由(1)について1 原明細書記載の考案と本願発明の対比(一) 前掲甲第二号証の一(原明細書)によれば、原明細書には、その第二図の四段接続のフリツプ・フロツプにおいて最終段のフリツプ・フロツプの出力Dを初段のフリツプ・フロツプに帰還させるようにした場合クロツクパルスと各フリツプ・フロツプとの出力との関係はその第四図(a)の真理値表のとおりとなり、その第五図のように各フリツプ・フロツプの出力をIC、トライアツク及びトランジスタを通じて白熱電球等の交流負荷に接続すると、右第四図(a)の出力パターンに応じた三回路点灯、一回路消灯の白熱電球の周期的な点滅パターンが生じ、その第三図の四段接続のフリツプ・フロツプにおいて最終段のフリツプ・フロツプの出力Dを初段のフリツプ・フロツプに帰還させるようにした場合の真理値表は第四図(b)のとおりであり、その各出力を前同様白熱電球等に接続すると、右第四図(b)の出力パターンに応じた白熱電球の周期的な点滅パターンが生じることを内容とする電子式点滅装置に関する技術が記載されていることが認められる。
(二) 前記本願発明の要旨のうち、「縦続接続したフリツプ・フロツプの適当の段からの出力を初段のフリツプ・フロツプに帰還するように選択する手段を設け」との甲構成要件は原明細書の実用新案登録請求の範囲には記載がなく、第三補正書によつて本願発明の特許請求の範囲に付加されたことは前記甲第二号証の一、五により明らかであるところ、右甲構成要件が原出願当時周知の技術であつたことは当事者間に争いがなく、右甲構成要件を前記(一)の原明細書記載の電子式点滅装置に関する技術に付加することによつて、第三補正書により追加された同補正書の第4図(c)ないし(f)に示された如き点滅パターンを得ることができ、また、同補正書四頁一一行ないし二〇行に記載されているようにこれら点滅パターンの変更が容易となることは原告においても明らかに争わないところである。
右の甲構成要件を付加したことによる点滅パターンの変更の一、二の例とその効果について検討すると、前掲甲第二号証の五(第三補正書)、同号証の七(第二補正書)によれば、第三補正書には、第二補正書の第二図記載の五段接続装置において、最終段のフリツプ・フロツプの出力Eに代え、四段目のフリツプ・フロツプの出力Dを初段のフリツプ・フロツプに帰還させるようにすれば、第二補正書第四図(a)の出力E欄を除いたA、B、C、Dの各出力パターンに応じた三回路点灯、
一回路消灯の白熱電球の点滅パターンが生じることが記載されているほか、前記第三補正書第四図(c)ないし(h)の点滅パターン変更の各場合についての説明が記載されており、例えば、前記五段接続装置において、第三段目のフリツプ・フロツプの出力Cを初段のフリツプ・フロツプに帰還させるようにすれば、第二補正書の第四図(a)の出力D、E欄を除いたA、B、Cの各出力パターンに応じた二回路点灯、一回路消灯の白熱電球の点滅パターン(第三補正書第四図(c))が生ずることの説明が記載されていること、そして、甲構成要件と点滅パターンの変更について、「任意の適当な段のフリツプ・フロツプの出力を初段のフリツプ・フロツプの入力に帰還するように選択する一つの制御手段を設け、この制御手段により所望のフリツプ・フロツプの出力を帰還することによつて、点滅のパターンの変更が電子回路作製上容易に得られ、これによつて、単純な流れの点滅および順次点滅のくり返しという大きい作用効果をきわめて簡単な構成により得ることができる。」(四頁一一行ないし二〇行)と記載されていることが認められる。
(三) ところで、甲第二号証の一(原明細書)の一枚目右一〇行ないし二〇行、
三枚目右五行ないし一三行の記載によれば、従来の電子式点滅装置に使用されていたモーター式のもの或はバイメタルのものは、接点の摩耗により寿命が短く、また、火花が生じて故障が多いため保守点検を必要とし、モーター及び接点ドラムなどは小型化が困難とされていたが、原出願の考案は従来技術のかかる問題点の解決を課題とし、同装置にIC、トライアツク及びトランジスタを使用することにより、その無接点化、小型化、長期寿命化、耐湿性、耐振性を実現したものと認めることができる。しかし、右甲第二号証の一によるも、原明細書の記載からは、原出願の考案における前記(一)のような点滅の段数、点滅のパターン、周期はいずれも固定的に選定されていることが認められるにとどまり、原出願の考案がこれらの点滅の段数、点滅のパターン、周期を任意に変更し得るようにすることを課題としたこと及びそのような効果を奏し得るものであることをうかがうことは全くできないし、原明細書中の原告指摘箇所も右のような効果を予測せしめるものではない(同記載箇所はフリツプ・フロツプを増すことにより、多段の固定的な点滅パターンを得ることができるとの趣旨に解すべきである。)。
(四) そうであれば、甲構成要件が周知の技術であつても、本願発明は、原明細書記載の考案にそれを付加することによつて、右考案自体が課題とせず、また、奏し得ない効果を奏することになるのであるから、原明細書上自明の範囲にあるものとは認めがたく、その要旨を変更し、原出願の考案とは同一性を有しないものというべきである。
2 これに反し、甲第五、第六、第一〇号証に依拠する原告の主張は、甲構成要件の付加及びこれによる点滅パターンの変更の効果の開示が原明細書上自明と認められない以上採用することはできない(なお、右甲第一〇号証に記載された事例は、
本件にとつて適切なものとは認めがたい。)。
3 よつて、取消事由(1)は理由がなく、原明細書に記載のない構成の本願発明には特許法46条5項44条2項本文による出願日遡及の適用がないとした審決の判断に誤りはない。
四 取消事由(2)について 前掲甲第二号証の三(第一補正書)によれば、第一補正書には、原告主張のように「………初段のフリツプ・フロツプに帰還するように選択する手段を設け」との直接的記載はないが、@考案の詳細な説明として「必要により最終段のフリツプ・フロツプ以外の初段を除く適当な段の一個あるいは複数個のフリツプ・フロツプの出力を初段に帰還させることも実施される。」(三頁一三行ないし一六行)、A実用新案登録請求の範囲として「縦接続された最終段の、あるいは他の適当な段のフリツプ・フロツプの出力を初段のフリツプ・フロツプに帰還させ」(五頁七行ないし一〇行)との記載があることが認められる。そして、右@Aの記載のように、適当な段のフリツプ・フロツプの出力を初段のフリツプ・フロツプに帰還させるためには、適当な段を選択する手段を必要とすることは明らかであるというべきであるから、第一補正書には右「選択する手段」を含む電子式点滅装置が開示されているものと認めるのが相当である。
次に、前掲甲第二号証の三(第一補正書)によれば、第一補正書には「各フリツプ・フロツプの出力の一つを各フリツプ・フロツプに対応して設けられたトランジスタのベースに加え同トランジスタのコレクタにトライアツクならびに白熱電球、
螢光灯、ネオン管等の表示灯を直列接続してなる電子式点滅装置」との記載(五頁一〇行ないし一五行)があることが認められるところ、右記載に係る「表示灯」は交流、直流のいずれによつても点灯されるものであるから、交流負荷、直流負荷のいずれのものとも認めることができる。したがつて、第一補正書には本願発明の構成要件である「交流負荷としての」との記載があるものということができる。
しかして、前掲甲第二号証の三、同号証の五によれば、本願発明の他の構成は、
第一補正書に記載されているものと認めることができるから、結局本願発明の構成及び効果は、第一補正書に開示されているものということができる。したがつて、
原出願の考案に「選択する手段を設ける」という要件を含む甲構成要件を具備することによつて奏せられることになる「点滅パターンの変更が容易になる。」という作用効果についても、同補正書に開示されているものと認めるのが相当である。
ところで、前記三において述べたように、本願発明については出願日遡及の適用はないから、その出願日は前記二5の昭和五三年九月二〇日であり、他方、前記二2のとおり原出願は昭和四八年一二月五日出願公開されたのであるから、実用新案法13条の2第3項により同日以後出願書類は公衆の縦覧に供せられ、昭和五三年二月一八日に提出された第一補正書もその提出後公衆の縦覧に供せられたものと認められる。そして、本願発明が第一補正書に開示されていることは前記のとおりであるから、特段の反証がない以上、本願発明はその出願前において、第一補正書が公衆の縦覧に供せられたことにより公知となつたものというべきである。
したがつて、本願発明につき特許法29条1項1号を適用した審決に違法はなく、取消事由(2)はその余の点を判断するまでもなく理由がない。
五 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 瀧川叡一
裁判官 松野嘉貞
裁判官 牧野利秋