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関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  製造方法 /  共同研究 /  権利移転 /  名義変更 /  共有 /  利害関係人 /  不存在 /  信義則 /  業として実施 /  実施 /  業として /  実施料 /  同意 /  実施権 /  専用実施権 /  通常実施権 /  設定登録 /  対価 /  変更 /  利害関係人 / 
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事件 昭和 55年 (ワ) 2439号
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裁判所 横浜地方裁判所
判決言渡日 1985/03/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 別紙(一)記載の1ないし4の特許を受ける権利は原告がこれを有することを確認する。
二 出願公告のあつた別紙(二)記載の権利につき、被告が業としてこれを実施する権利を専有しないことを確認する。
三 原告の被告に対する別紙(一)記載の1ないし3の特許を受ける権利につき、
昭和五三年六月八日になされた出願人をAとする名義変更の抹消手続を求める訴はこれを却下する。
四 訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
一 請求の趣旨1 主位的請求(一) 主文第一、第二項と同旨(二) 被告は別紙(一)記載の1ないし3の特許を受ける権利につき、昭和五三年六月八日になされた出願人をAとする名義変更の抹消手続をせよ。
2 予備的請求 別紙(一)記載の1ないし4の特許を受ける権利につき、またこれらの権利が特許登録されたときはその特許権につき、原告が職務発明による通常実施権を有することを確認する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
一 請求原因1 原告は別紙(一)記載の1ないし4の特許を受ける権利(以下「本件各権利」という)の権利者であり、最初の出願名義人である。
2 被告は昭和五三年六月五日原告代表者として本件各権利につきこれを原告から被告に譲渡する旨の譲渡証書を作成し、別紙(一)記載の1ないし3の特許を受ける権利(以下「本件1ないし3の権利」という)につき同年同月八日同(一)記載の4の特許を受ける権利(以下「本件4の権利」という)につき昭和五五年五月二七日特許庁長官に対し特許出願人名義を原告から被告に変更する旨の届出をした。
3 本件4の権利は昭和五六年二月二七日出願公告すべき旨決定され、同年七月二〇日特許庁長官により別紙(二)記載のとおり出願公告された。
4 被告は本件各権利につき原告の権利を争つている。
5 前記2の原告から被告への譲渡が仮に存在するとしても、右譲渡は原告の取締役会の承認を経ないでなされたものであるから、商法第265条に違反し無効である。
6 仮に本件各権利が被告の発明にかかるとしても、原告はセメント及び建設資材の製造販売を目的とする会社で、被告は昭和四四年九月頃から昭和五三年六月二一日まで原告の代表取締役として会社を統括するとともに、その職務として製品の開発・改良にたずさわり、その間に発明したもので、これらはいわゆる職務発明である。従つて本件各権利につき、また、本件各権利が特許登録されたときにはその特許権につき、原告は通常実施権を有することになる。
7 しかるに、被告は原告が右発明につき通常実施権を有することも争つている。
8 よつて、原告は被告に対し、主位的に原告が本件各権利につき、その権利者であることの確認、本件1ないし3の権利につき、昭和五三年六月八日になされた出願人をAとする名義変更の抹消手続、出願公告のあつた別紙(二)記載の権利につき、被告がこれを業として実施する権利を専有しないことの確認を求め、予備的に本件各権利につき、また、これらが特許登録されたときはその特許権につき、原告が職務発明による通常実施権を有することの確認を求める。
二 請求原因に対する認否 請求原因事実1につき、本件各権利が被告名義へ変更されるまでは原告に帰属したことは認める。
同2は認める。ただし、本件4の権利については、被告は昭和五三年六月五日頃B弁理士に対して名義変更届の手続を委任したのであり、同弁理士はこれに基づき、書類不備の補正を経て昭和五五年五月右手続をしたのである。
同3及び4は認める。同5は争う。同6は争い、同7は認める。
三 抗弁1(一) 被告は昭和四七年四月二四日C(以下「C」という)との間で、セメント製品の製法及び開連技術について特許権ノウハウの利用に関し、株式会社を設立する旨の会社設立契約(乙第九号証)を締結し、右契約に基づき、昭和四七年五月一〇日株式会社ニユーハードン(以下「ニユーハードン」という)を設立した。
(二) 被告は昭和四七年六月一九日C及びニユーハードンとの間で特許権、出願中の特許を受ける権利及びノウハウ(以下「特許権等」という)の実施契約(乙第二号証、以下「契約(一)」という)を締結した。
(三) 被告は昭和四七年八月八日ニユーハードンとの間で、被告の所有する急結急硬性セメントの製法、使用法及び関連技術についての特許権等についての実施契約(乙第三号証、以下「契約(二)」という)を締結し、同契約において次のとおり約定した。
(1)(ア) ニユーハードン設立より六か月後に行う被告の発明にかかる特許出願権はニユーハードンに帰属するものとし、登録は同社の名義による。ただし、ニユーハードン設立後六か月ないし一年の間は後記(2)の規定にかかわらず、被告にランニングロイヤルテイーとしてその特許を使用して製造される製品の純販売高の二パーセントの割合の対価を支払う。
ニユーハードン設立より一年後は、別にその社内規定として設ける報償規程の定めに基づき、被告に対しその補償をするものとする。
ニユーハードン設立後被告の取得するノウハウについてはニユーハードンに対し独占的実施権を許諾する。その対価は後記(2)で定めるところによる。
(イ) 前項の支払はロイヤルテイー収入のあるまで延期することができる。
(2)(ア) ニユーハードンは本契約発効後一か月内に被告に対して金一〇〇〇万円を一時金として支払う。
(イ) ニユーハードンは本契約発効日から六か月以後はランニングロイヤルテイーとして被告製品純販売高の二パーセントの割合の対価を被告に支払う。
(ウ) 昭和四八年四月一日より開始する年度以降各年度において金一〇〇万円を最小実施料とする。
(エ) ニユーハードンは毎年四月一日より九月三〇日まで及び一〇月一日より翌年三月三一日までの各期間のランニングロイヤルテイーをそれぞれ一〇月三一日及び翌年四月三〇日までに被告に対して支払うものとする。その際にニユーハードンはそのロイヤルテイー算出の基礎となつた被告製品の販売の詳細を記載した計算書を交付する。
(オ) 毎年一〇月一日より翌年三月三一日までの期間のランニングロイヤルテイーの支払に際して、それまでの一年間のランニングロイヤルテイーの合計額が最小実施料に充たないときは、最小実施料に達する金額を支払うものとする。
(カ) 被告の同意を得てニユーハードンが第三者に被告の特許権等の再実施権を設定した場合、ニユーハードンが第三者より受ける一時金の一〇〇〇万円まではニユーハードンがこれを取得し、それを超える分については被告とニユーハードンがその二分の一宛を取得する。ランニングロイヤルテイーについては、被告とニユーハードンがその二分の一宛を取得する。
(3)(ア) 被告及びニユーハードンのいずれかに本契約の違反が存する場合には、他の当事者は九〇日の予告期間をおいて違反者に対して解除の通知をなし、本契約を解除することができる。
(イ) 被告または被告の指定する者がニユーハードンの経営の主体性を失つた時、または被告がニユーハードンの経営の主体性を失つたと判断した時には、本契約を解除することができる。
(ウ) 前項に基づき本契約が解除された時は、ニユーハードンは特許権等に関する期限の利益を失い、それらの専用実施権と独占実施権の設定を即時かつ無条件に解除し被告に無償返還する登録手続をしなければならない。
(エ) 前記(イ)により被告が本契約を解除した時には、ニユーハードンは本契約日以降五年以内に被告が第一発明者として出願した特許を受ける権利や特許権を被告に即時無償譲渡する登録手続をしなければならない。ただし、被告は前記手続終了後、ニユーハードンにこれらの権利の通常実施権を許諾しまたは設定登録手続をするものとする。
2 ニユーハードンは昭和四七年九月原告との間で、口頭により、ニユーハードンが有する契約(二)上の地位を原告に移転する旨の合意をした。右契約によつてニユーハードンが被告に対し特許出願権の移転の対価を支払うべき債務は原告に承継された。ただし、このとき被告はニユーハードンとの間で、右支払をそれが可能となる時期が到来するまで猶予する旨合意した。被告、原告、ニユーハードン及びCは昭和四八年四月二七日右契約につき書面(乙第四号証、以下「契約(三)」という)を作成した。
3 被告はニユーハードンが設立(昭和四七年五月一〇日)されてから六か月以後に本件各権利に関する発明をし、前記地位移転契約に基づき出願人名義を原告とした。
4 原告は昭和五一年一二月九日大阪セメント株式会社(以下「大阪セメント」という)との間で、本件3及び4の権利につきその実施契約を締結した。そして原告は大阪セメントから契約金二九〇〇万円及び契約締結後六か月経過した時から被告が原告会社を辞任する昭和五三年六月までの間にランニングロイヤルテイーとして毎月金五〇万円宛合計金六〇〇万円の支払を受けた。
5 原告は契約(二)における前記1・(三)・(1)・(ア)及び(三)・(2)・(ア)ないし(オ)に基づく一時金及びランニングロイヤルテイーの支払をしないし、また(三)・(2)・(カ)に基づき大阪セメントに実施権を設定したことによつて支払を受けた金員を被告に分配することもしない。
6 中部工業株式会社(以下「中部工業」という)は昭和五一年四月二〇日原告の株式の七五パーセントを取得して経営参加をし、中部工業代表取締役D(以下「D」という)が原告の代表取締役に就任した。被告も原告の代表取締役であつたが、原告の経営権はDに掌握され、被告は名目的な存在にしかすぎなかつた。昭和五三年五月三〇日Dは被告に対し、代表取締役の辞任を要求し、かつ同年五月分以後の役員報酬の支払拒絶を通告してきた。そこで、被告はDの右要求を承諾した。
7 被告は右同日Dに対し、契約(二)における前記1・(三)・(3)・(ア)及び(イ)の約定解除権に基づき、契約(一)ないし(三)を解除する旨の意思表示をした。
8 右解除の意思表示により本件各権利は被告に復帰したので、前記1・(三)・(3)・(エ)に基づき、被告は原告代表者として被告に本件各権利を譲渡し、特許出願人の名義を被告に変更する手続をしたものである(契約解除による出願人名義変更の手続は原告の当然の義務であつて、もとより取締役会の承認を必要とするものではない)。
四 抗弁に対する認否1 抗弁事実1及び2は知らない。原告は被告から契約(一)ないし(三)の各契約書を見せられたことはもとより右契約の存在自体を知らなかつた。
2 同3のうち、本件各権利の最初の出願人名義が原告であることは認めるが、その余は否認する。本件各権利に関する発明は日本スチレンペーパー株式会社(以下「スチレンペーパー」という)と原告の昭和四七年九月三〇日付共同研究開発契約(甲第一四号証の二)に基づく共同研究の結果生じたもので、この発明はEを中心とする右共同研究開発事業の研究員らによつてなされたものである。被告もその発明者の一人とされているが、これは原告がEらからその権利を承継し、特許出願名義人となつたため、出願当時、原告の代表取締役であつた被告を発明者に加えたにすぎないのである。
3 同4は認める。
4 同5のうち、原告が被告に対しその主張の金員の支払をしないことは認める。
原告が被告に権利移転対価や分配金を支払う旨の約定は存在しない。
5 同6は認める。
6 同7は否認する。また、原・被告間には契約(一)ないし(三)自体存在しないのであるから、被告の解除の主張は前提を欠くもので意味がない。
7 同8のうち、被告が原告の代表者として本件各権利を被告に譲渡する旨の書面を作成して、特許出願の名義人を被告に変更する旨の手続をしたことを認め、その余を否認する。
五 再抗弁(信義則違反)1 被告は昭和四四年九月頃から昭和五三年六月二一日まで原告の代表取締役であつたが、昭和四七年九月三〇日原告代表者としてスチレンペーパーとの間で、常温硬化法によるセメント表面化粧板の共同研究開発契約を結び、右共同研究の期間を昭和四九年三月末日までと予定したが、右期日までに所期の目的を達成できなかつたので、同年一〇月二九日スチレンペーパーとの間で、右研究を昭和五〇年三月三一日まで続行すること、右共同研究開始の昭和四七年一〇月一五日以降研究終了までにその共同研究により得られた工業所有権(出願中のもの及びノウハウを含む)をすべて原告とスチレンペーパーの共有とすること、右同日以降出願の工業所有権は右共同研究により得られたものとみなすことなど合意し、従前出願人を原告としていた本件各権利がスチレンペーパーとの共有であることを確認し、出願人の名義を両名とするよう変更手続をすることを約した。
右合意に基づき、被告は原告代表者として本件2ないし4の権利につき前記両名を共願者として名義変更届をしたが、本件1の権利についてはその手続を遅滞していた。
スチレンペーパーから昭和五〇年九月三日本件原・被告を共同被告として訴訟が提起され(東京地方裁判所昭和五〇年(ワ)第七四五六号)、昭和五一年六月一七日裁判上の和解が成立したが、右和解において、被告は当時の原告代表者として以上の事実関係を内容とするスチレンペーパーの主張を全部認め、同会社から共願の権利の持分を金六〇〇万円で買取ることを約した。
2 中部工業は被告から本件各権利に関する権利関係が以上のとおりであると聞かされて、これを信じ、右金員を原告に代つて支払つた外多額の投資をして原告の経営に参加したのである。
3 Dは、同人が昭和五一年四月原告の代表取締役に就任する前はもとより就任後も契約(一)ないし(三)の存在を全く知らず、被告から何らの説明を受けていない。
4 原告の資産は本件各権利以外に見るべきものはなく、もし中部工業がこれらの契約の存在を知つていたならば、多額の出捐をして原告の株式を取得し、その経営に参加することはなかつた。
5 中部工業が昭和五三年七月一九日被告から原告の残株式を取得した際も、原告代表者兼中部工業代表者Dと被告との間で本件各権利が原告に帰属することを確認し合つたのである。
6 従つて、今更被告が契約(一)ないし(三)の存在を主張し、これに基づいて本件各権利が被告に帰属していると主張することは信義則上許されない。
六 再抗弁に対する認否 再抗弁事実1は認める。3は否認する。
原告代表者Dは昭和五一年一二月以降しばしば被告に対し、大阪セメントから受領した本件3及び4の権利の実施料の分配を約束した。また被告は昭和五三年春頃Dに対し契約(一)ないし(三)の各契約書(乙第二ないし第四号証)を幾度となく閲覧させた。6の主張は争う。
証拠(省略)
理 由
主位的請求について
一 請求原因事実1のうち、本件各権利が被告名義に変更されるまでは原告に帰属したこと、同2ないし4は当事者間に争いがない。
二 そこで抗弁について判断する。
1 成立に争いのない乙第一一号証、証人Bの証言により成立を認める乙第二ないし第四号証、乙第九号証、証人Bの証言及び被告本人尋問の結果を総合すると次の事実を認めることができる。
(一) 被告は昭和四四年に急結急硬セメントの製造方法を発明してその特許権を取得し、同年九月八日その製造、販売を目的とする原告会社を設立し、自らその代表取締役に就任した。
(二) 昭和四六年頃、被告はセメント化粧建材の製法技術を有するCと知合い、
昭和四七年四月二四日セメント製品の製法及び関連技術に関して両名が有する特許権等の利用を目的とする新会社を設立する旨の契約を締結し、昭和四七年五月一〇日のニユーハードンを設立し、旧友のFを代表取締役として迎えた。
(三) 昭和四七年六月一九日、C、被告及びニユーハードンはCがその所有の特許権等につきニユーハードンに専用実施権を、ノウハウにつき独占的実施権を許諾し、ニユーハードンは対価としてCに一時金及びランニングロイヤルテイーを支払うこと、被告の特許権等に関しては別途定めることなどを内容とする契約(一)を締結した。
(四) 昭和四七年八月八日、被告は右契約に基づきニユーハードンとの間で、抗弁事実1・(三)記載の約定などを内容とする契約(二)を締結した。
(五) 昭和四八年四月二七日、C、被告、ニユーハードン及び原告の四者間で契約(二)におけるニユーハードンの地位を原告に移転する旨合意した。
2 成立に争いのない甲第九号証の一、二、甲第一五ないし第一八号証、乙第一二号証、証人Bの証言及び被告本人尋問の結果によれば、ニユーハードン設立から半年以上経過した昭和四八年一月二三日本件1の権利に関する発明につき、発明者を被告外二名、出願人を原告とする特許願書が特許庁長官宛に提出され、その後順次本件2ないし4の権利に関する発明につき、発明者を被告外二ないし三名とする特許願書が提出されたことが認められる。
3 抗弁事実4ないし6は当事者間に争いがない。
4 ところで、被告は昭和五三年五月三〇日原告代表者Dに対し契約(一)ないし(三)を解除する旨の意思表示をしたと主張し、その本人尋問でこれに副う供述をするが、証人G及び原告代表者Dの反対趣旨の供述に照らしてにわかに信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
5 そうすると、被告の抗弁はこの点において既に理由がないことに帰するが、本件の場合なお次の事情が認められる。
三 1 原告とスチレンペーパーとの関係 再抗弁事実1は当事者間に争いがなく、この他原本の存在並びに成立に争いがない甲第六号証、証人Gの証言及び被告本人尋問の結果によれば、原告とスチレンペーパーとの裁判上の和解において、被告は当時の原告代表者として原告がスチレンペーパーから研究開発のため提供を受けていた機械装置を金二〇〇〇万円で買受けること、本件各権利が特許登録されたときは原告はスチレンペーパーに通常実施権を設定すること、原告がその設定登録を怠つたときは違約金として金三〇〇〇万円を支払うことなどを約したこと、中部工業は右和解に利害関係人として参加して右違約金の支払につき連帯保証し、また、原告がスチレンペーパーに払うべき金二六〇〇万円を代りに支払つたことなどを認めることができる。
2 中部工業の原告への経営参加の経緯 成立に争いのない甲第一号証、第二ないし第四号証の各一ないし三、第五号証、
第一〇号証の一ないし四、第一一号証の二、三、第一二号証の三、第一三号証、乙第八号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一一号証の一、四、前記甲第一二号証の一、二、証人B、同Gの各証言、原告代表者D及び被告本人の各尋問の結果を総合すると次の事実を認めることができる。
(一) 中部工業は旭硝子株式会社の物流部門を請負つている会社であるが、昭和五〇年一二月頃右同会社のさる従業員の紹介で、取締役G(以下「G」という)及び監査役H(以下「H」といい、以上二人を「Gら」という)が被告と会つたところ被告から同人のセメント技術についての説明を受けると共に原告が近く不渡手形を出しそうなので至急金二〇〇万円の資金援助をして欲しいとの依頼を受けたので、とりあえず右資金を融通した。
そして、Gらがその後原告の業務内容を調査したところ、製品の売上が微々たるもので、入金の大半はスチレンペーパーからの研究開発費で占められており、資産としては本件各権利を含む工業所有権のみであり、しかもこれについては前記のとおりスチレンペーパーとの間で紛争が生じているなどの事情が判明したので、中部工業としては原告への援助を断ることに一旦は決定した。
(二) そこでGらは昭和五〇年一二月末被告から再度手形決済資金として金一六〇万円の融通を依頼されたが、これを断つた。しかし被告から再三の懇請を受けると共にスチレンペーパーとの訴訟も和解で解決しそうな情勢であると聞かされたので、Gらは個人で各金八〇万円を出し合い、計金一六〇万円を被告に融通した(これは後日中部工業からGらに支払われ、右貸金は中部工業から原告に対するものとして扱われることになつた)。
その後、中部工業はGらの調査により、大阪セメントが原告の特許出願中の発明につきかなりの評価をしていることや原告とスチレンペーパーとの訴訟も原告に資金的援助をする者があれば和解が成立する可能性があることなどを知り、右事件が和解で解決するならば、原告の経営を引継いでもよいと考え、昭和五一年三月被告から原告の総株式の七五パーセントにあたる三万株を代金二五〇万円で買受けた。
(三) その後まもなく中部工業の代表取締役のDが原告の代表取締役に就任した。被告は引続き原告の代表取締役として止まると共に中部工業の技術部長としても処遇され、原告から月額金一〇万円の報酬を、中部工業から月額金三〇万円の給料を受取ることになつた。
(四) 同年六月一七日前記のとおりスチレンペーパーとの訴訟が和解により解決したので、同年一一月頃原告の工場を平塚から名古屋へ移転したが、その際中部工業はその移転費用及び設備追加費用として金約一億円の出捐を余儀なくされた。
(五) 前記のとおり原告は昭和五一年一二月九日大阪セメントとの間で本件3及び4の権利の実施契約を締結し、その要請を受けて被告を大阪セメントに技術指導のため数回出向させたが成果が上らなかつたため昭和五三年一、二月頃同会社から被告の出向を断わつてきた。
(六) その後被告は原告及び中部工業社内でも他の従業員との折合が悪く欠勤勝ちになつたので、同年五月末頃Gは被告に対してセメント研究から手を引き中部工業の仕事をしてもらいたいと勧めたが、被告の態度が改まらなかつたので、原告代表取締役の辞任及び中部工業からの退職を求めた。被告がこれを承諾したので、同年六月二一日原告の臨時株主総会が開催され、被告は取締役に選任されず、同月二八日退任の登記が経由された。
(七) その後の昭和五三年六月五日被告はDら不知の間に原告代表者として本件各権利を原告から被告に譲渡する旨の譲渡証書を作成し、同日特許出願人の名義人を原告から被告へと変更する届出手続を弁理士Bに依頼した。山崎は同月八日本件1ないし3の権利につき、右の届出をし、本件4の権利については書類不備補正の手続を経て昭和五五年五月二六日にこれをした。
(八) 昭和五三年七月一九日中部工業は被告所有の原告の株式一万株を代金一五〇万円で買受け、貸金債権等と相殺して債権債務を清算した。そして中部工業兼原告代表者Dと被告は互いに債権債務が一切存在しないことを確認したが、その際も被告から契約(一)ないし(三)の存在が主張されたことはなかつた。
(九) D及びGはかねて被告から契約(一)ないし(三)の存在を聞いたことがなく、まして右各契約に基づいて本件各権利の譲渡の対価の支払請求を受けたことや原告が大阪セメントに本件3及び4の権利の実施権を許諾し同会社から契約金及びランニングロイヤルテイーの支払を受けたときも右金員の分配請求を受けたことがなかつた。ただGは被告が原告の代表取締役を退任する頃の昭和五三年五、六月頃話合の途中で被告からこのようなものがあるとして契約書らしい書類を一寸見せられたことがあつたが、格別その内容の説明を受けなかつたので、その書類が何であるか意に介しなかつた。
(一〇) D及びGが契約(一)ないし(三)の存在を初めて知つたのは、被告辞任後の昭和五三年一〇月頃、大阪セメントから、被告が右各契約に基づいて本件3及び4の権利についてランニングロイヤルテイーの請求をしてきた旨の連絡と右各契約書のコピーの送付を受けたときであつた。
以上の事実を認めることができ、被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
3 以上1・2の事実によれば、中部工業は被告の懇請によつて原告の倒産阻止のための融資を行つたのを手始めとして、その事業再建のため原告の株式を取得して経営に参加し、スチレンペーパーとの紛争解決及びその後の事業経営のため多額の投資をしてきたが、これは、右紛争解決によつて本件各権利が完全に原告に帰属するものと信じていたからであり、その間、契約(一)ないし(三)の存在を全く知らず、これに基づき事情の推移によつては前記各権利を失うことになることを知らなかつたからであること、被告はDやGに対して右各契約の存在を話したことがなく、同人達と紛争を生じるようになつてから右各契約に基づく権利を主張するようになつたこと(本件各権利の出願人名義の被告への変更届も、当時被告が形式的には未だ原告代表者の一人の地位にあつたのを利用して、Dの不知の間に、原告から被告への譲渡証書を作成し、これを資料としてなしたものであり、前記昭和五三年七月一九日中部工業兼原告代表者のDとの間で被告の残持株全部を中部工業へ譲渡した上互いの債権債務を清算してその不存在を確認したのも本件1ないし3の権利について名義変更届済であることを秘してこれをしたものである)、原告にとつて本件各権利は主要な財産であり、これを失うことは会社存立の基礎を失うものであつて、その損害は甚大であることが認められ、以上の事情に照らすと、被告が契約(一)ないし(三)について解除権を行使し、本件各権利の権利を主張することは、原告の信頼を裏切るもので、信義則上許されない行為であるといわなければならない。
右によれば、いずれにせよ被告の抗弁は採用できない。
四 よつて、被告が本件各権利の出願名義人を被告に変更する届出をしたのは実体関係を伴わない無効の行為であつて、その権利は依然として原告に帰属するものというべきであるから、本件各権利の確認を求める請求は正当としてこれを認容すべきである。
また本件4の権利について別紙(二)記載のとおり出願公告がなされたが、これも被告についてその効力を生じるに由ないから、被告が右権利を専有しないことの確認を求める請求も正当としてこれを認容すべきである。
五 ところで、原告は本件1ないし3の権利につき、特許出願人をAとする名義変更の抹消手続を求めているが、出願名義人の変更手続は新名義人が特許庁長官に届け出れば足り(特許法第34条)、旧名義人の協力を必要とするものではないから、名義変更の抹消手続を求める訴は利益がないので、この点に関する原告の訴は却下を免れない。
六 よつて、予備的請求については判断の必要がなく、訴訟費用につき、民事訴訟法第89条第92条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 佐藤安弘
裁判官 澁川滿
裁判官 太田武聖
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