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事件 昭和 58年 (ワ) 1689号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1985/04/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、別紙目録記載の電動式ストレツチヤーを製造し、販売してはならない。
二 被告は、その占有する前項掲記の製品を廃棄せよ。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨 主文同旨二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
一 請求原因1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有する。
発明の名称 物体搬送装置出願日 昭和四四年二月一〇日優先権主張 アメリカ合衆国 一九六八年二月一四日公告日 昭和四七年八月三〇日登録日 昭和四八年四月三日特許番号 第六八四三二四号2 本件発明の特許出願の願書に添附した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、別添特許公報該当欄記載のとおりである。
3(一) 右特許請求の範囲第一項の発明(以下「第一発明」という。)を構成要件に分説すると、次のとおりである。
イ 少なくとも一個の下側無端コンベヤベルトと、前記下側ベルトの上方に位置する少なくとも一個の上側無端コンベヤベルトとを含んだ搬送装置を動かすのに先立つて、該物体に接近して位置せしめる過程ロ 前記下側ベルトが前記物体の位置する表面に沿つて回転前進し、前記上側ベルトか該下側ベルトと反対の方向に回転して、前記搬送装置を該物体に向つて動かす過程ハ 前記物体が前記上側ベルトの先導縁に接し、前記下側ベルトが前記表面に沿つて前進する時に該先導縁の上方に位置する方向の回転運動が物体を該上側ベルトの上に運び上げることにより該物体を該上側ベルトに運び上げ積込む過程ニ 前記下側ベルトの回転運動を維持して前記物体を所望位置に動かす間、該物体を上側ベルト上に停止保持するために、該上側ベルトのそれ以上の回転運動を防ぐ過程ホ 所望位置に到着した時に前記上側ベルトの先導縁を下方に位置する方向に回転させることにより、前記搬送装置から前記物体を卸す過程ヘ 右イないしホの過程を含んだ物体を動かす方法(二) 前記特許請求の範囲第二項の発明(以下「第二発明」という。)を構成要件に分説すると、次のとおりである。
a 下側無端ベルト、該下側ベルトの上方に位置した上側無端ベルトとを有する少なくとも二個の無端コンベヤベルトを含んでいることb 前記各ベルトは、前記下側無端ベルトの内面に接する下側支持装置及び前記上側無端ベルトの内面に接する上側支持装置を含んでいることc 各ベルトはそれぞれの支持装置の周りを容易に回転できるように支持されていることd 該下側ベルトは移動すべき物体が載る表面に沿つて回転運動が可能で、該上側ベルトは該下側ベルトとは反対の方向に回転できることe 該上側ベルトは、該下側ベルトが前記表面に沿つて進む時に前記物体を該上側ベルト上に運び上げるように、搬送装置が前記物体に接触した時に上方向に回転する先導縁を具えていることf 前記表面に沿う下側ベルトの連続回転運動中に前記物体を所望位置に運ぶ間、
これを上側ベルト上に停止保持するために、下側ベルトに対する該上側ベルトの回転運動を阻止する装置を含んでいることg 物体搬送装置であること4 被告は、別紙目録記載の患者移動機(以下「被告製品」という。)を製造し販売している。
5(一) 被告製品による患者の移動方法を分説すると、次のとおりである(被告製品に関する番号及び記号は別紙目録記載のものを指す。以下同じ。)。
イ′ 油圧で昇降し、かつ水平方向に往復運動する可動寝台1と該可動寝台を支持して電動機で駆動される台車2とからなり、右各油圧の各駆動はスイツチ3によつて操作できる。可動寝台1は、患者を載置するに足る長方形に構成され、その上部に平面コ字状のフレーム4が設けられ、フレーム4上に、ベルト6を掛け回したスライド板5が載置されている。
スライド板は、上下二枚の長方形状の板5、5′で構成され、その長辺方向の両側端には、フレーム4内に装置された回動チエン7の適所に一端を固定したブラケツト8の他端が固定されていて、回動チエン7の動きに従つて上下スライド板5、
5′が同期して短辺方向に水平に往復動する。上スライド5の先端は、フレーム4の開放縁側においてフレーム4より突出して下方に屈曲し上ベルト6の先端縁6aを形成する。
上スライド板5の短辺方向には複数枚のベルト6が並列して掛け回され、各ベルト6の両端は、該ベルトを跨いでフレーム4の長辺方向に横設された係止杆9の裏側に固定されている。下スライド板5′の短辺方向にも、上スライド板5のベルト6に対向して、複数枚のベルト6′が並列して掛け回され、各ベルト6′の下面の両端はフレーム4の開放縁10に固定されている。
そして、患者12を固定ベツド13から搬出するに当たつては、可動寝台1を固定ベツド13に接近させる。
ロ′ ロツク機構11によつて係止杆9をフレーム4の開放縁側に固定し、上下スライド板5、5′を駆動する。
この場合、上ベルト6の上面の各両端は係止杆9の裏側に固定されており、係止杆9はフレーム4の一定位置に固定されているので、上スライド板5がフレーム4の開放縁方向に水平移動すると、これに押されて上スライド板5の下側部分の上ベルト6が同方向に移動することにより、上スライド板5の下側又は上側に位置していた上ベルト6の各部分が下から上へたくし上げられるような態様において順次上スライド板5の上側又は下側に転位し、上スライド板5の最後部が係止杆9の固定位置まで進行した時、上スライド板5の移動は停止し、上ベルト6の転位は終了する。
この上スライド板5の移動と同期して下スライド板5′も同方向に移動するが、
下ベルト6′の下面の各両端がフレーム4の開放縁に固定されているので、下スライド板5′の移動に伴い、これに押されて下スライド板5′の上側部分の下ベルト6′が同方向に移動することにより、下ベルト6′は、下スライド板5′の上側又は下側に位置していたその各部分が上から下へたくし下げられるような態様において順次下スライド板5′の下側又は上側に転位しつつ、固定ベツド13上の表面に沿つて進行し、
下スライド板5′の最後部が下ベルト6′を固定しているフレーム4の開放縁に達したときに、下スライド板5′の移動は停止し、下ベルト6′の転位は終了する。
ハ′ 下ベルト6′が固定ベツト13上の表面に沿つて進行する過程で、上ベルト6は患者12に接し、その先端縁6aを患者12の下部にもぐらせ、右ロ′に記載されているような上下ベルト6、6′の作動により患者12を持ち上げ、上ベルト6上に載せる。
ニ′ 患者12を上ベルト6上に載せた後、係止杆9のロツク機構11を解除して、上下のスライド板5、5′を前とは逆方向に移動させると、下ベルト6′の下面の両端はフレーム4の開放縁に固定されているので、下スライド板5′の復帰に伴い、下ベルト6′は前記ロ′と逆方向に転位する。また、この場合、係止杆9は、ロツク機構11が解除されており、その裏側が上ベルト6に固定されているため、上スライド板5の移動と共に移動し、かつ上ベルト6は前記の転位動作をすることなく、患者12を載置したまま、可動寝台1上の原位置に復帰する。
ホ′ 可動寝台1上に患者12が載置されている状態においては係止杆9のロツク機構は解除されており、かつ係止杆9はフレーム4の開放縁と逆の端部にある。
上下スライド板5、5′を駆動してフレーム4の開放縁方向に水平移動させると、下ベルト6′は固定ベツド13上の表面に沿つて進行し、上ベルト6は、転位動作をすることなく、患者12を載置したまま固定ベツド13上を移動する。そして係止杆9は上スライド板5の移動と共に移動し、係止杆9がフレーム4の開放縁にあるロツク機構11の位置に達すると、上下スライド板5、5′の移動は停止する。
その後、ロツク機構11により係止杆9をフレーム4の開放縁側に固定し、上下のスライド板5、5′を可動寝台1方向に移動させると、上下の各ベルト6、6′は原位置に復帰する。そして患者12は、右復帰の過程における上ベルト6の転位動作のため、上下スライド板5、5′の移動と共に移動することなく、上ベルト6が固定ベツド13から離れるにしたがつて上ベルト6の先端縁6aから次第に離脱し、上下スライド板5、5′が可動寝台1上の原位置に復帰したときには、固定ベツド13上に残留する。
ヘ′ 右イ′ないしホ′の過程を有する患者の移動方法である。
(二) 被告製品による患者の移動方法に関する右イ′ないしヘ′は、前記3(一)の構成要件イないしヘを順次充足するから、右方法は第一発明の技術的範囲に属する。また、被告製品は、第一発明にかかる方法の実施にのみ使用される装置であるから、その製造販売行為は本件特許権を侵害する。
6(一) 被告製品の構造を分説すると、次のとおりである。
a′、b′ 上スライド板5の短辺方向には複数枚のベルト6が並例して掛け回され、各ベルト6の両端は、該ベルトを跨いでフレーム4の長辺方向に横設された係止杆9の裏側に固定されている。下スライド板5′の短辺方向にも、上スライド板5のベルト6に対向して、複数枚のベルト6′が並列して掛け回され、各ベルト6′の下面の両端はフレーム4の開放縁10に固定されている。
c′ 患者12を固定ベツド13から搬出する場合、ロツク機構11によつて係止杆9をフレーム4の開放縁に固定し、上下スライド板5、5′を駆動する。
この場合、上ベルト6の上面の各両端は係止杆9の裏側に固定されており、係止杆9はフレーム4の一定位置に固定されているので、上スライド板5がフレーム4の開放縁方向に水平移動すると、これに押されて上スライド板5の下側部分の上ベルト6が同方向に移動することにより、上スライド板5の下側又は上側に位置していた上ベルト6の各部分が下から上へたくし上げられるような態様において順次上スライド板5の上側又は下側に転位し、上スライド板5の最後部が係止杆9の固定位置まで進行した時、上スライド板5の移動は停止し、上ベルト6の転位は終了する。
この上スライド板5の移動と同期して下スライド板5′も同方向に移動するが、
下ベルト6′の下面の各両端がフレーム4の開放縁に固定されているので、下スライド板5′の移動に伴い、これに押されて下スライド板5′の上側部分の下ベルト6′が同方向に移動することにより、下ベルト6′は、下スライド板5′の上側又は下側に位置していたその各部分が上から下へたくし下げられるような態様において順次下スライド板5′の下側又は上側に転位しつつ、固定ベツド13上の表面に沿つて進行し、下スライド板5′の最後部が下ベルト6′を固定しているフレーム4の開放縁に達したときに、下スライド板5′の移動は停止し、下ベルト6′の転位は終了する。
d′ 下ベルト6′は、下スライド板5′の上側又は下側に位置していたその各部分が上から下へたくし下げられるような態様において順次下スライド板5′の下側又は上側に転位しつつ、固定ベツド13上の表面に沿つて進行し、上ベルト6は、
上スライド板5の下側又は上側に位置していたその各部分が下から上へたくし上げられるような態様において順次上スライド板5の上側又は下側に転位する。
e′ 上スライド板5の先端は、フレーム4の開放縁側においてフレーム4より突出して下方に屈曲し上ベルト6の先端縁6aを形成する。下ベルト6′が固定ベツド13上の表面に沿つて進行する過程で、上ベルト6は患者に接し、その先端縁6aを患者12の下部にもぐらせてこれを持ち上げ、上ベルト6上に載せる。
f′ 患者12を上ベルト6上に載せた後、係止杆9のロツク機構11を解除して、上下のスライド板5、5′を前とは逆方向に移動させると、下ベルト6′の下面の両端は前記のとおりフレーム4の開放縁に固定されているので、下ベルト6′は、下スライド板5′の復帰に伴い、前記c′と逆の転位を経て原位置に複帰する。また、この場合、係止杆9は、ロツク機構が解除されており、その裏側が上ベルト6に固定されているため、上スライド板5の移動と共に移動し、かつ上ベルト6は前記の転位動作をすることなく患者12を載置したまま、可動寝台1上の原位置に復帰する。
g′患者移動機である。
(二) 被告製品の構造に関する右a′ないしg′は、前記3(二)の構成要件aないしgをそれぞれ充足するから、被告製品は第二発明の技術的範囲に属し、したがつて、被告製品の製造販売行為は本件特許権を侵害する。
7 よつて、原告は、被告に対し、被告製品の製造販売行為の差止め及び被告の占有する被告製品の廃棄を求める。
二 請求原因に対する認否請求原因1ないし4は認める。
同5ないし7は争う。
三 被告の主張 本件発明にいうベルトの「回転」とは、無端ベルトが直接駆動されて支持装置の移動とは無関係にそれ自体で支持装置の周りを回転すること、換言すれば該ベルトが搬送装置に対して回転する態様のみを意味していると解すべきであり、被告製品におけるベルトの作動は、右の「回転」に含まれないから、被告製品及び被告製品による患者の移動方法は本件発明の技術的範囲に属さない。
すなわち、(1)本件明細書には五つの実施例が記載されているが、そのいずれも、ベルト自体が直接駆動され、支持装置の移動とは無関係に支持装置の周りを回転し得る態様、換言すれば該ベルトが搬送装置に対して回転する態様(以下「A態様」という。)のもののみであり、ベルト自体が直接駆動されることなく、ベルトの支持装置の移動によりこれに従動してベルトが支持装置に対して相対的に移動する態様(以下「B態様」という。)のものには何ら言及されていないこと、(2)出願番号昭四六ー三〇八五号の特許出願(出願公告番号昭五一ー四〇三八号。以下「後願」といい、その発明を「後願発明」という。)は、本件発明と同一の発明者の発明にかかるものであり、また出願人も本件発明の出願人と同一であるが、同出願人は、後願の願書に添附した明細書(以下「後願明細書」という。)において、
本件発明の優先権主張の根拠をなし、本件発明と同一内容である米国特許第三四九三九七九号(以下「米国特許」といい、その発明を「米国発明」という。)を明記して特定のうえ、後願発明は、米国発明と「物体を上部エプロンに注意深く積み込み、またはこれから積卸するために無端ベルト型式の重ねたエプロンを利用する点で同等である」としながら、米国発明とは「多くの点で異なり、また改良されている」として、B態様のものを述べ、米国発明との差異について種々論及しているが、このことからすると、本件及び後願の両発明の出願人としては、本件発明においてA態様のもののみを考え、後願発明においてB態様のものを考え出したと思われること、以上の二点に鑑みれば、本件発明の発明者又は出願人としては、本件発明においては、B態様のものは本件発明にいう「回転」から除外されるものと認識していたというべきであるから、本件発明にいうベルトの「回転」の意義も前記のとおりA態様のものに限定して解すべきである。そして、被告製品における上下の各ベルトは、各支持装置の移動により支持装置に対して相対的に移動するだけであつて、直接駆動されてそれ自体で支持装置の周りを回転するようには構成されておらず、該ベルトが搬送装置に対して回転する態様のものではないから、すなわち被告製品におけるベルトの作動態様はB態様であつてA態様ではないから、本件発明にいう「回転」には当たらない。
したがつて、被告製品による患者の移動方法は第一発明の構成要件ロを、また、
被告製品は第二発明の構成要件c、dをそれぞれ充足しない。
証拠(省略)
理 由一 請求原因1、2及び4の事実は当事者間に争いがない。
二 右争いのない特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第一号証(別添特許公報と同じ。)によると、本件発明のうち第一発明については請求原因3(一)のイないしヘの、第二発明については同3(二)のaないしgの各構成要件からなるものと認められ、なお、この点は被告もこれを争わない。
三 被告製品の構成及び作動態様を表示するものであることについて当事者間に争いのない別紙目録の記載及び弁論の全趣旨によれば、被告製品による患者の移動方法は請求原因5(一)のイ′ないしヘ′のとおりであり、被告製品の構造は同6(一)のa′ないしg′のとおりであることが認められる。
四 被告製品による患者の移動方法と第一発明の構成要件を対比すると、右方法の工程イ′、ハ′、ニ′、ホ′及びヘ′は第一発明の構成要件イ、ハ、ニ、ホ及びヘをそれぞれ充足し、また被告製品の構造と第二発明の構成要件を対比すると、被告製品の構造a′、b′、e′、f′及びg′は第二発明の構成要件a、b、e、f及びgをそれぞれ充足すると認められる。
五 被告において、本件発明の発明者及び出願人は本件発明の技術的範囲からB態様のものが除外されると認識していたから、本件発明にいう「回転」とはA態様のもののみを意味し、B態様のものは除外して解すべきである旨主張するので、この点について検討する。
ところで、特許を受けようとして出願する者は、その発明について可能な限り最大限の保護を求めていると考えるのが自然かつ合理的であるから、出願人が意識してその発明の技術的範囲を限定しているというためには、明細書その他出願書類に限定している旨が明らかにされていることを要するというべきである。しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明の項において、特許請求の範囲に記載された「回転」の意義を限定するような記載を見い出すことはできない。被告は、本件明細書の発明の詳細な説明の項に記載された五つの実施例がいずれもA態様のものであつてB態様のものでないことを意識的に除外したことの根拠の一つにするが、一般に実施例は発明思想を実際上どのように具体化するかを示すための例示的な説明にすぎないものであるから、実施例にB態様のものがないからといつて、B態様のものを意識的に除外しているといえないことはいうまでもないところである。かえつて、本件明細書の発明の詳細な説明の項に「特定の実施例を参照して物体を動かす方法及び装置について記載したが、搬送装置を変更し得ることが当業者に明らかであろう。当業者に明らかなこのような変更は凡て本発明の範囲に属すると考える。」(別添特許公報第一八欄二〇行ないし同二四行)と記載していることからするならば、出願人においてA態様以外の作動態様のものも本件発明の技術的範囲に含まれると考えていることが推認されるのであつて、出願人が本件発明の技術的範囲をA態様のもののみに意識的に限定しているとは到底いえない。また、他に本件発明にいう「回転」の意義を限定する趣旨が記載された出願書類のあることを認めるに足りる証拠は見当たらない。
なお、被告において、本件及び後願の発明者としては、本件発明においてA態様の構成のみを考え、後願発明においてB態様の構成を考え出した旨主張するので、
後願明細書に記載された実施例におけるベルトの作動態様について付言しておきたい。
思うに、後願明細書の実施例におけるベルトの作動態様は、被告が主張するようなB態様のものではないと考えられる。すなわち、成立に争いのない乙第一号証によれば、後願明細書の発明の詳細な説明の項に「下部エプロンは装置の基部に一部を固定された下部の無端ベルトの一部であり、両エプロンは各連結支持装置の同時運動によつて同時に伸張および収縮される。しかし上部の無端ベルトの一部の上部エプロンは必要な時には上部エプロンの上面上で物体の転位ができるようにその支持装置に対して回転したりまたは回転しないようにすることができる。両エプロンの伸張および収縮運動は上部エプロンの上面上での物体の転位を効果的にするための運動とは別に制御されうる。」(第四欄四〇行ないし第五欄六行)、「無端ベルト34の一部の下部エプロンは支持装置自身の前進および後退運動によるほかはその支持装置40に対して別個に回転することはできない。これと対照的に無端ベルト32の一部の上部エプロンは三個のローラ104と106によつて選択的に固定または回転できる。無端ベルト32は積込み、積卸し過程中は三個のローラでロツク即ち固定され、回収および位置決め過程中は駆動ローラ104によつて回転される。無端ベルト32の回転は支持装置40が別個の駆動装置によつて移動する速度と同じ速度で行なわれる。」(第一三欄一八行ないし二九行)等と記載されていることが認められるところ、これらの各記載から明らかなように、積込み後に支持装置を収縮させるとき及びこの収縮位置から伸長させるときには、無端ベルトは、支持装置による前進及び後退と同時に駆動ローラによる回転駆動を受け、支持装置に対して相対的に移動するだけでなく搬送装置に対しても移動しているのであるから、後願発明においてB態様の構成すなわちベルトの支持装置の移動により無端ベルトに支持装置に対する相対的移動を生ぜしめるだけで搬送送置に対してはベルトは回転しない構成を考え出したとはいえない。
以上のとおり、本件明細書及びその他出願書類に、本件発明の技術的範囲をA態様のものに意識的に限定する旨が明らかにされていないのみならず、本件発明と後願発明との関係等に関する被告の主張も失当というべきであるから、本件発明にいうべルトの「回転」の意義を被告主張のように限定して解釈する理由はなく、本件発明にいうベルトの「回転」とは、ベルトがその支持装置の周囲を転位移動すること一般を指すものと解すべきである。
被告製品におけるベルトの作動態様は、前記のとおり、請求原因5(一)及び同6(一)のとおりであり、これによると被告製品のベルトは支持装置の周囲を転位移動するから、本件発明にいう「回転」にあたるということができ、被告製品による患者の移動方法の工程ロ′は第一発明の構成要件ロを、被告製品の構造c′、d′は第二発明の構成要件c、dをそれぞれ充足すると認められる。
したがつて、被告製品による患者の移動方法は第一発明の技術的範囲に、また、
被告製品は第二発明の技術的範囲にそれぞれ属するものというべきである。
六 被告製品の構造及び作動態様を表示するものであることについて当事者間に争いのない別紙目録の記載及び弁論の全趣旨によれば、被告製品は、第一発明の方法の実施にのみ使用される装置であると認められる。
七 以上の事実によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を、仮執行の宣言につき同法196条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 野崎悦宏
裁判官 安倉孝弘
裁判官 一宮和夫