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事件 昭和 57年 (ワ) 1396号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1986/12/22
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告株式会社諏訪精工舎は、別紙物件目録記載の物品を製造、譲渡してはならない。
2 被告株式会社服部セイコーは、別紙物件目録記載の物品を販売してはならない。
3 被告らは、その占有に係る別紙物件目録記載の物品を廃棄せよ。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁主文と同旨
当事者の主張
一 請求の原因1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する。
発明の名称 可変漸進集束力を有する光学レンズ出 願 日 昭和四八年七月二五日(フランス国一九七二年七月二六日出願の優先権主張)出願公告日 昭和五二年六月二日登 録 日 昭和五三年一月一八日登録番号 第八九三四三一号2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「可変漸進集束力を有する眼鏡用レンズにして、該レンズはほぼ垂直の臍点曲線を有する屈折面を含み、この臍点曲線の曲率半径は少くとも遠用中心と称する該臍点曲線の第一の点と近用中心と称する該臍点曲線の第二の点との間で所定の法則に従つて漸進的に変化して、該遠用中心と近用中心の間の臍点曲線にそつて所望の付加力を与えるようになつており、前記屈折面は該臍点曲線上のいずれの各点においてもその二つの主要曲率半径は等しく、さらに該屈折面は前記臍点曲線と直交し、
かつ該臍点曲線に直角な平面内に延在する曲線を含むものであり、前記直交曲線は該臍点曲線と直交する点での臍点曲線曲率半径と等しい値の曲率半径を有するほぼ円形の曲線であり、前記屈折面を下記第一の表面部分と第二の表面部分にわけて、
すなわち第一の表面部分:前記臍点曲線の曲率半径の値が前記直交する点から遠ざかる方向は減少する表面部分、第二の表面部分:前記臍点曲線の曲率半径の値が前記直交する点から遠ざかる方向に増大する表面部分の第一の表面部分と第二の表面部分に分けると、
前記第一の表面部分の臍点曲線と直角な平面で切つた断面はそれぞれの交点で臍点曲線と交わる非円形曲線であり、各該非円形曲線は臍点曲線と交わる各点での曲率半径の値が、該交わる各点の臍点曲線の曲率半径の値と等しく、該曲率半径は該交わる各点から遠ざかる方向では該交わる各点の曲率半径の値より増加し、
一方前記第二の表面部分の臍点曲線に直角な平面で切つた断面は交わる各点において臍点曲線と交わる異なる非円形曲線であり、各該非円形曲線は臍点曲線と交わる各点での曲率半径の値が、該交わる各点の臍点曲線の曲率半径の値と等しく、該曲率半径は該交わる各点から遠ざかる方向では該交わる各点の曲率半径の値より減少するようになつている眼鏡用レンズにおいて、
その改良として前記非球状曲面の各点Bijで臍点曲線MM1の平面πと平行なほぼ垂直な平面πjを通る前記非球状曲面の断面は前記点Bijにおいて次の関係、すなわち、
|CBij-CAi|●Nを満たす曲率CBijを有する曲線Σjであり、この場合CAiはレンズが使用位置にある時に前記非球状曲面の前記点Bijと同じ水平断面Si上に位置する前記臍点曲線の点Aiにおける前記臍点曲線MM1の曲率を示し、Nは次の関係、すなわち、
N●3.5Aを満たす規定値であり好ましくはN=3Aであり、Aは前記遠用中心A1と前記近用中心A3との間において、ジオプトリーで表わした付加力であることを特徴とする前記可変漸進集束力を有する眼鏡用レンズ。」(なお特許公報中〔CBij=CAi〕●Nと記載されているのは印刷上の誤記によるものである。)3(一) 本件発明の構成要件を分説すれば次のとおりである。
(1) 可変漸進集束力を有する眼鏡用レンズにして、
(2) 該レンズはほぼ垂直の臍点曲線を有する屈折面を含み、
(3) この臍点曲線の曲率半径は少なくとも遠用中心と称する該臍点曲線の第一の点と近用中心と称する該臍点曲線の第二の点との間で所定の法則に従つて漸進的に変化して該遠用中心と近用中心の間の臍点曲線にそつて所望の付加力を与えるようになつており、
(4) 前記屈折面は該臍点曲線上のいずれの各点においてもその二つの主要曲率半径は等しく、
(5) さらに該屈折面は前記臍点曲線と直交し、かつ該臍点曲線に直角な平面内に延在する曲線を含むものであり、前記直交曲線は該臍点曲線と直交する点での臍点曲線曲率半径と等しい値の曲率半径を有するほぼ円形の曲線であり、
(6) 前記屈折面を下記第一の表面部分と第二の表面部分にわけてすなわち第一の表面部分:前記臍点曲線の曲率半径の値が前記直交する点から遠ざかる方向は減少する表面部分、第二の表面:部分前記臍点曲線の曲率半径の値が前記直交する点から遠ざかる方向に増大する表面部分、の第一の表面部分と第二の表面部分に分けると、
(7) 前記第一の表面部分の臍点曲線と直角な平面で切つた断面はそれぞれの交点で臍点曲線と交わる非円形曲線であり、
(8) 各該非円形曲線は臍点曲線と交わる各点での曲率半径の値が、該交わる各点の臍点曲線の曲率半径の値と等しく、
(9) 該曲率半径は該交わる各点から遠ざかる方向では該交わる各点の曲率半径の値より増加し、
(10) 一方前記第二の表面部分の臍点曲線に直角な平面で切つた断面は交わる各点において臍点曲線と交わる異なる非円形曲線であり、
(11) 各該非円形曲線は臍点曲線と交わる各点での曲率半径の値が該交わる各点の臍点曲線の曲率半径の値と等しく、
(12) 該曲率半径は該交わる各点から遠ざかる方向では該交わる各点の曲率半径の値より減少するようになつている眼鏡用レンズにおいて、
(13) その改良として前記非球状曲面の各点Bijで臍点曲線MM1の平面πと平行なほぼ垂直な平面πjを通る前記非球状曲面の断面は前記点Bijにおいて次の関係、すなわち|CBij-CAi|●Nを満たす曲率CBijを有する曲線Σjであり、
この場合CAiはレンズが使用位置にある時に前記非球状曲面の前記点Bijと同じ水平断面Si上に位置する前記臍点曲線の点Aiにおける前記臍点曲線MM1の曲率を示し、
(14) Nは次の関係、すなわちN●3.5Aを満たす規定値であり好ましくはN=3Aであり、Aは前記遠用中心A1と前記近用中心A3との間において、ジオプトリーで表わした付加力であることを特徴とする、
(15) 前記可変漸進集束力を有する眼鏡用レンズ。(別添特許公報(一)の特許請求の範囲の欄参照)(二) 本件発明の作用効果は次のとおりである。
本件発明の前記構成をとることによつて、眼鏡使用者に対して、静的視覚(目がレンズを通して目的点を見た時に、目的像を形成するために目に入る光線束が常にレンズ表面の同一点と交叉する場合を意味する。)に加え、動的視覚(目がレンズを通して目的点を見た時に、目とレンズの相対運動のために目的像の形成に有効な光線束がレンズ表面を走過するようなあらゆる場合を意味する。)においても充分満足する、使い易い漸進集束力を有するレンズを提供することができる。
4(一) 被告株式会社諏訪精工舎は、別紙物件目録記載の構成からなる眼鏡用レンズ(以下「被告製品」という。)を製造し、被告株式会社服部セイコーは、右被告製品を購入して販売している。
(二) 被告製品の作用効果は前記3(二)のとおりである。
5 被告製品は、以下に述べるとおり、本件発明の構成要件をすべて充足し、作用効果も同一であるから、本件発明の技術的範囲に属する。
(1) 「可変漸進集束力を有する眼鏡用レンズ」 被告製品は、レンズの遠用部領域と近用部領域の中間に「中間部領域」((1)′)を設け、この中間部領域では、経線上の曲線半径を上方にいくにつれて漸増させ、下方にいくにつれて漸減させている((2)′の(V)′)のであるから、この要件を満している。
(2) 「該レンズはほぼ垂直の臍点曲線を有する屈折面を含み」 ここで「臍点曲線」とは曲線の各点における該曲線に沿う曲率半径とその各点における垂直な平面で切つた断面により形成される曲線に沿う該点の曲率半径がほぼ等しくなる曲線であるから、臍点曲線附近のレンズ表面は曲率半径を半径とするほぼ球面の包絡面となる。そして被告製品は、遠用部((3)′の(T)′の(i)′)及び近用部((3)′の(U)′の(i)′)はもとより中間部領域でも経線との交差点で経線に沿う曲率半径とほぼ同一曲率半径の緯線を有し((3)′の(V)′の(i)′)ているからこの要件も満たしている。
(3) 「この臍点曲線の曲率半径は少くとも遠用中心と称する該臍点曲線の第一の点と近用中心と称する該臍点曲線の第二の点との間で所定の法則に従つて漸進的に変化して該遠用中心と近用中心の間の臍点曲線にそつて所望の付加力を与えるようになつており」 被告製品は、その経線が中間部領域において、上方から下方に漸進的に曲率半径が減少している((2)′の(V)′)のでこの要件を満たしている。
(4) 「前記屈折面は該臍点曲線上のいずれの各点においてもその二つの主要率曲率半径は等しく」 右は臍点曲線の定義に相当し、被告製品においても中間部領域でほぼこの要件を満たしている((3)′の(V)′の(i)′)。この点については、眼鏡用レンズが像の収差を少なく形成するため経線と緯線が交差している附近で双方の焦点距離を等しくしなければならないところから当然導びかれる必要要件であることが容易に理解できるところと思われる。
(5) 「さらに該屈折面は前記臍点曲線と直交し、かつ該臍点曲線に直角な平面内に延在する曲線を含むものであり、前記直交曲線は該臍点曲線と直交する点での臍点曲線曲率半径と等しい値の曲率半径を有するほぼ円形の曲線であり」 被告製品の中間部領域における緯線の中、遠用部に近い領域においては経線との交差点から左右に一部の範囲内で曲率半径はほぼ同一であり、その範囲を越えて左右に離れるにつれて曲率半径は漸減し、また近用部に近い領域では交差点から左右に一部の範囲内で曲率半径はほぼ同一であり、その範囲を越えて左右に離れるにつれて曲率半径は漸増し、これら漸減する緯線と漸増する緯線の中間附近がほぼ円形の曲線となつている((3)′の(V)′の(ii)′)。したがつて、この点でも被告製品は右要件を満している。
(6) 「前記屈折面を下記第一の表面部分と第二の表面部分にわけて、すなわち第一の表面部分:前記臍点曲線の曲率半径の値が前記直交する点から遠ざかる方向は減少する表面部分、第二の表面部分:前記臍点曲線の曲率半径の値が前記直交する点から遠ざかる方向に増大する表面部分、の第一の表面部分と第二の表面部分に分けると」 右要件は可変漸進集束力を有するレンズの記述方法を第一の表面部分と第二の表面部分として表わし、第二の表面部分の中の上部を遠用部、第一の表面部分の中の下部を近用部とし、第二の表面部分の中の下部から第一の表面部分の中の上部を本件発明の要件(3)の中の第一の点、第二の点の区間とし、可変漸進集束力を有するレンズとするため臍点曲線にそつて所望の付加力を与えるようにしたものである。
これに対し、被告製品は遠用部、近用部、中間部の三つの領域に分けている((1)′)が中間部は本件発明の要件(3)の中の第一の点及び第二の点との間のレンズの表面部分に当り、遠用部は第一の点より上方のレンズ表面部分、近用部は第二の点より下方のレンズ表面部分に対応するものである。そして経線上の曲率半径は中間部領域で上方にいくにつれて漸増し、下方にいくにつれて漸減している((2)′の(V)′)から、この点でも右要件を満たしている。
(7) 「前記第一の表面部分の臍点曲線と直角な平面で切つた断面はそれぞれの交点で臍点曲線と交わる非円形曲線であり」 被告製品は、近用部及び中間部の中、近用部に近い部分における経線と直角な平面で切つた断面は経線と交わる非円形曲線(交差点より離れるにつれて曲率半経が漸増する曲線、(3)′の(U)′の(ii)′及び同(V)′の(ii)′)であるから、これまたこの要件を満たす。
(8) 「各該非円形曲線は臍点曲線と交わる各点での曲率半径の値が、該交わる各点の臍点曲線の曲率半径の値と等しく」 右要件は、前記において「臍点曲線」を被告製品において確認しているので、この要件もまた満たされている。
(9) 「該曲率半径は該交わる各点から遠ざかる方向では該交わる各点の曲率半径の値より増加し」 被告製品は、前記(7)においてみたとおり、近用部及び中間部の中、近用部に近い部分における経線と直角な平面で切つた断面は経線と交わる非円形曲線で、交差点より離れるにつれて曲率半径が漸増している((3)′の(U)′の(ii)′及び同(V)′の(ii)′)から、これまたこの要件を満たしている。
(10) 「一方前記第二の表面部分の臍点曲線に直角な平面で切つた断面は交わる各点において臍点曲線と交わる異なる非円形曲線であり」 被告製品は、遠用部及び中間部の中、遠用部に近い部分における経線と直角な平面で切つた断面は経線と交わる非円形曲線(交差点より離れるにつれて曲率半径が漸減する曲線、(3)′の(T)′の(ii)′及び(V)′の(ii)′)であるから、この点でも右要件を満たす。
(11) 「各該非円形曲線は臍点曲線と交わる各点での曲線半径の値が該交わる各点の臍点曲線の曲率半径の値と等しく」 右の要件は、前記(2)において「臍点曲線」を被告製品において確認しているので、この要件もまた満たされる。
(12) 「該曲率半径は該交わる各点から遠ざかる方向では該交わる各点の曲率曲径の値より減少するようになつている眼鏡レンズにおいて」 被告製品は、前記(10)においてみたとおり、遠用部及び中間部の中、遠用部に近い部分における経線と直角な平面で切つた断面は経線と交わる非円形曲線で、
交差点より離れるにつれて曲率半径が漸減している((3)′の(T)′の(ii)′及び同(V)′の(ii)′)から、これまた右要件を満たす。
(13)、(14)、(15) ここでの要件は本件発明が原告の有する特許第七四三〇六〇号、特公昭四九-三五九五号発明の改良に係ることを明記したところの要件で(本件特許公報三欄三四行参照)、レンズのほぼ中央を走る垂直子午線に沿う曲率とその水平断面上にある左右のレンズ表面上の他の径線上各点における曲率の差の絶対値が該レンズの有する付加力の三・五倍以下の眼鏡用レンズ、を定義しており、被告製品も右要件を備えている。
6 よつて、原告は被告らに対して、本件特許権に基づき、請求の趣旨記載の判決を求める。
二 請求の原因に対する認否1 請求の原因1ないし3はいずれも認める。
2(一) 同4(一)のうち、被告らが取り扱つている眼鏡用レンズの構成につき、別紙物件目録(3)′の(V)′の(ii)′は否認するが、その余の構成は認める。
同4(二)の事実は認める。
(二) 被告製品につき、別紙物件目録(3)′の(V)′の(ii)′に対応する構成は、次のように特定されるべきである。
中間部領域は、
(1) 別紙第一図面(被告製品の各領域のとり方)記載のとおり、C1及びC2として示された形状の境界線によつて遠用部領域及び近用部領域と区画されており(遠用部領域と中間部領域との境界線は、主子午線曲線から左右に離れる方向に全体として斜めに立上り、近用部領域と中間部領域との境界線は右方向に全体として斜めに下降しているが、前者は中間において緩徐に上方にわん曲し、後者は中間において緩徐に下方にわん曲しており)、
(2) 主子午線曲線上の各点は、遠用部領域から近用部領域に達するまでの間、
曲率が直線的に変化するように、漸次曲率半径が小さくなつており、
(3) 主子午線曲線上の各点において右曲線を当該各点の法線の方向から直角に切る面が屈折面と交わる線(本件特許請求の範囲にいう臍点曲線と直交する曲線ないし直交曲線)は、大まかにいえば、
(A) 遠用部領域に近い個所では、主子午線曲線から左右に離れるにつれて下降し、中間で一旦立上つてから下降する形状であり、
(B) 近用部領域に近い個所では、主子午線曲線から左右に離れるにつれて、一旦立上つてから下降する形状であり、
(C) 前記(A)と(B)の如何なる中間の個所にも主子午線曲線から左右方向に水平に走る線(すなわち本件発明にいう円形曲線)を有していない。
3 同5のうち、被告製品が本件発明の構成要件(1)、(2)、(4)、
(8)、(11)、(13)、(14)、(15)を備えていることは認める。その余の事実は否認する。
本件発明と被告製品の相違点は、被告らの主張において詳細に主張するが、以下の三点である。
(一) 要件(3)、(6)(以下「争点1」という。)に関して 本件発明にいう遠用中心とは遠方視帯域の中の中心部の点であり、また近用中心とは近方視帯域の中の中心部の点であつて、これらの遠用中心と近用中心との間に所望の付加力が与えられている。つまり、遠用部中の一部から近用部中の一部まで累進的な変化がみられる。
ところが、被告製品においては、遠用部にも近用部にも、本件発明にいう遠用中心と近用中心に相当する一点を選ぶことができず、所望の付加力は遠用部の下端の点(被告製品にいう遠用中心)と近用部の上端の点(被告製品にいう近用中心)との間にのみ与えられている。
よつて、被告製品は、本件発明の要件(3)、(6)に合致しない。
(二) 要件(5)(以下「争点2」という。)に関して 本件発明は、臍点曲線と直交する曲線として、ほぼ円形の曲線を有する。
被告製品は、前記のほぼ円形の曲線を有しない。
よつて、被告製品は、本件発明の要件(5)に合致しない。
(三) 要件(9)、(12)、(以下「争点3」という。)に関して 本件発明は、臍点曲線と直交する曲線の曲率半径が、前記ほぼ円形の直交曲線より下方の第一の表面部分では臍点曲線との交点から遠ざかる方向に増大し、同上方の第二の表面部分では反対に減少することを要件としている。
被告製品では、レンズの屈折面を円形の直交曲線で二分できないが、中間部だけに着目しても、各直交曲線は、一旦増加してから減少したり、一旦減少してから増大し再び減少するなどの複雑な変化をしている。
よつて、被告製品は、本件発明の要件(9)、(12)に合致していない。
三 被告らの主張1 本件発明について 本件発明は、原告が昭和四五年九月一一日に出願し、昭和四九年一月二六日に特許出願公告(特公昭四九-三五九五号)され、昭和四九年九月二五日に特許登録された第七四三〇六〇号特許発明(以下、「先行発明」という、別添特許公報(二)参照)の利用発明である。
その理由は次のとおりである。
即ち、本件発明の構成要件(1)ないし(12)に関する限り本件明細書には殆んど説明がない反面、右明細書中に先行発明に係る明細書を六回にわたつて引用し、本件発明が先行発明の改良であると述べていること及び両発明の特許請求の範囲を比較してみると、本件発明は改良点である構成要件(13)、(14)を除いて、構成要件(1)ないし(12)について先行発明と実質的に同一であることに照らすならば、本件発明は先行発明の利用発明とみるのが妥当である。
ところで本件明細書中には、本件発明の基礎となる発明思想が必ずしも十分に説明されておらず、右発明思想は先行発明に係る特許公報中の説明によつて初めて明らかとなる。
従つて本件発明の解釈にあたつては先行発明に係る特許公報の記載を参酌すべきである。
以下の各争点に関しては、右の点を前提として主張する。
2 争点1に関して(一) 本件発明の発想は次のようなものである。
即ち、レンズの屈折面は適宜分けて考えることができるが、本件発明は遠方視帯域と近方視帯域とに二分して考える設計思想に基づいている。
本件発明は、例えば別紙第二図面(眼鏡用レンズ平面図)記載のAc点を横切る線Sc線から上方部分を遠方視帯域、下方部分を近方視帯域と二分する前提に立つており、Ac点付近は遠方視帯域から近方視帯域へと移る過渡的帯域ではあるが、
明確な中間部を遠用部及び近用部から区別して考えていない。
このような思想に立つならば、Sc線から上であればA1点を中心にして上方も下方も遠方視帯域であり、A1点が遠用部の中心と観念でき、また近方視帯域も、
同じ理由からA2点が近用部の中心と観念することができる。
このように考える所以は、本件発明の明細書には遠用中心、近用中心という語が用いられるだけで、屈折面を三つに分けて考えたときに用いる遠用部、中間部(累進部)、(近用部という語が用いられていないことにある。
これに対して、被告製品は遠用部と近用部を両者の中間部でつなぎ主子午線曲線上で中間部にのみ付加力を付与する思想で設計されている。レンズの全屈折面についてみても、中間部のみについてみても、これらを上下に二分する思想はない。
従つて、これを具体的に本件発明の要件(3)、(6)との関係でいえば、被告製品における第一の点は遠用部の中央下端に位置し、第二の点は近用部の中央上端に位置しているところ、遠用部及び近用部は、どこも同様に、それぞれ遠用及び近用に適しており、第一、第二の点がそれぞれ遠用中心、近用中心であるということはできないので、被告製品は、右各要件を充足しない。
3 争点2に関して(一) ほぼ円形の曲線の意義について(1) 前記被告の主張1において主張したとおり、本件明細書中には本件発明の基本的な事項について充分説明されておらず、先行発明の改良点と称される事項が示されているにすぎない。そこで改良とされている点以外の要件について理解するためには、先行発明に係る特許公報の記載を参酌すべきである。
先ず、本件明細書においては「ほぼ円形の曲線」と表現されているが、先行発明に係る明細書の「円形形状の曲線」との異同及び円形度を直接説明する記載はない。しかし、先行発明の明細書の詳細な説明の欄には、「ほぼ円形」(四欄三行)、「事実上円と同じもの」(六欄二七行)、「ほとんど円形」(一三欄四四行)という表現が使用されていることや本件発明が先行発明の利用発明であること(被告の主張1のとおり)からみて、本件発明の「ほぼ円形の曲線」の内容は、先行発明の特許請求の範囲にある「円形形状の曲線」と同一であるといつてよい。
(2) そこで先行発明の明細書によつて右円形形状の曲線の意義について数値上明らかにする。
先行発明の明細書のFig.22にはミリメートル単位で小数点以下二桁にわたる直交曲線の曲率半径値が示されている。
(イ) 前記Fig.22上で、三度(長さで四ミリメートル程度に相当する。)ごとにきざんだVy欄上のマイナス一度一二分の欄の数値を横に追うと、主子午線上の曲率半径が七〇・三〇ミリメートルであつて最大値を示し、主子午線曲線から最も遠ざかつた点が最小値である七〇・○八ミリメートルを示しており、右最大値と最小値の差は○・二二ミリメートルである。
これを曲率にすると、一四・二二から一四・二七まで変化しており、その差は○・〇五である。ジオブトリで示すと、○・〇二五Dの届折力の漸進変化が与えられている。
このような直交曲線がほぼ円形の曲線とされていることに照すと、加入度一・五Dのレンズで曲率半径値が主子午線曲線上の数値から○・二二ミリメートル、曲率にして○・〇五、漸進変化度にして○・〇二五D程度の差があつても、これを無視してほぼ円形の曲線といつてよいことが先行発明に係る明細書から明らかとなるといえよう。
しかし、これだけでは、どの程度以上の変化があれば非円形曲線ということになるのかは判然としない。
(ロ) そこで、前記ほぼ円形の直交曲線の直近上下の直交曲線についてみると、
前記ほぼ円形の曲線の一つ上のVy○度の欄には、非円形曲線とされている直交曲線について、その曲率半径値の変化が示されている。
これによると、前記非円形曲線においては主子午線曲線上の曲率半径が最大であつて七一・二九ミリメートルを示し、横方向に単調に漸減して最小値である六八・九七ミリメートルに終り、その差は二・三二メートルである。
これを曲率にする主子午線曲線上で一四・〇三から一四・五〇へと○・四七の変化をし、これを屈折力の変化の面でとらえると、横方向にジオブトリで〇・二四D弱の漸進的変化を与えている。
また、Vyマイナス三度の非円形曲線の欄でみると、主子午線曲線上の曲率半径が最小であつて六八・三五ミリメートルを示し、横方向に単調に漸増して最大値七二・〇七ミリメートルに達しており、その差は三・七二ミリメートルである。
これを曲率にすると、主子午線曲線上の一四・六三から側端の一三・八七五へと約○・七六の変化をし、屈折力としてみれば〇・三八Dの漸進的変化を与えている。
(ハ) 次に、前記Fig.22のVx○度(M、M’)の欄をみると、そこには主子午線曲線上の各点の曲率半径値が上下三度(約四ミリメートル)きざみに示されている。この数値と曲率及び上下相隣る二点間の屈折力の変化を示すと別紙第三、表のとおりである。
この全区間のうちA2からA3までは曲率半径の漸減する区間であり、A2からA1までは曲率半径の漸増する区間である。
この欄の上下に互いに相隣る各数値を検討すると、第一の表面部分のVyマイナス一・一二度の点と同三度の点との間では曲率半径が七〇・三〇ミリメートルから六八・三五ミリメートルに減少しており、その差は一・九五ミリメートルである。
これを曲率にすると一四・二二から一四・六三へと○・四一の増加で、この区間の屈折力の変化ないし累進加入度はジオプトリにして約○・二〇Dである。
また、第二の表面部分のVyマイナス一・一二度の点と〇度の点との間では曲率半径が七〇・三〇ミリメートルから七一・二九ミリメートルに増加しており、その差は○・九九ミリメートルである。
これを曲率にすると約○・二〇の減少であり、したがつて、○・一〇Dの屈折力の変化ないし累進加入度を与えているといえよう。
なお、vyプラス九度と六度の間では変化が最小であるが、その曲率半径値は七五・五七ミリメートルから七六・四〇ミリメートルヘと変化し、その差は〇・八三ミリメートルである。これを曲率にすると一三・二三から一三・〇九へと○・一四減じており、この間では屈折力〇・〇七Dの累進加入度を与えている。
以上のとおり先行発明の明細書からは、円形曲線としては臍点曲線との交点の曲率半径に対して○・二ミリメートル程度の差しかないものが示されており、曲率半径に少なくとも二ミリメートルを超える変化があれば非円形曲線であることが示されている。
(3) 更に、本件明細書により「ほぼ円形の曲線」につき数値上の明確化を試みると、以下のとおりである。
(イ) 本件明細書中には実施例のレンズ屈折面上の各点の曲率を示したFig.7b及び同11b.が掲げられている。
右曲率は、レンズ表面の垂直断面方向における曲率である。
しかし、主子午線曲線は臍点曲線であり各点での主要曲率半径が同一であるから、右垂直断面方向の曲率半径値は主子午線とその直交曲線との交点上での直交曲線の走る方向への曲率半径をも示している。そこで、これらの曲率半径値、曲率、
その上下相隣る点間における差及び右両点間の届折力の変化値を求めると別紙第四の表1及び2のとおりとなる。
(ロ) 別紙第四の表1によると、A1からA3まで累進加入度一・五Dのレンズにおいては、A1-A3点間の上下に各二・八度ずれて相隣る点間の曲率半径値の差が○・八六ミリメートル、曲率の差が○・一三であり、屈折力の累進度が○・〇六D程度であれば、この二点間で曲率半径したがつて屈折力が変化しているものと評価されている。表1で累進変化の標準的な数値は、二点間の届折力の変化が○・二D台の場合であり、この程度の変化があれば曲率半径ないし屈折力が変化していると断定してよいはずである。
別紙第四の表1と第三の表とをくらべると、ひとしく累進加入度約一・五Dを与えているが、主子午線曲線上の曲率半径したがつて屈折力の累進変化の程度は同様であるから、直交曲線上の曲率半径の変化のし方も同様であることが窺える。
以上のとおり本件明細書からは、曲率半径で少くとも一ミリメートル変化していれば円形とはいえず、まして曲率半径の差が二ミリメートルを超え、屈折力の差が○・二Dないし○・三あれば非円形曲線であるというべきである。
(二) しかるに被告製品において原告が「ほぼ円形の曲線」と主張する曲線の曲率半径の最大値と最小値との間に加入度一・〇〇Dでは二・九ミリメートル、加入度二・〇〇Dでは三・七ミリメートル、加入度三・〇〇Dでは五・一ミリメートルの最大差がある。従つてこのような曲線を「ほぼ円形の曲線」であるということはできない。
従つて、被告製品は、本件発明の要件(5)を充足しない。
(三) 原告の主張する標準円の設定は本件発明の技術思想を無視したもので不適当である。
本件明細書及び先行発明の明細書には直交断面曲線の状態を示すにあたつて、主子午線曲線上の各点の曲率半径を基準とし、第一の表面部分では直交曲線上の曲率半径が、主子午線曲線から遠ざかるに従い増加し、第二の表面部分ではこれと反対に減少し、両者の中間ではほぼ円形ないし円形形状の曲線であると記載されている。換言すれば、右各明細書には円形曲線とは主子午線上の基準となるべき曲率半径と比較して主子午線曲線から左右に離れても曲率半径が増加または減少の変化をせず主子午線曲線上の曲率半径と同一である直交曲線であると述べられている。即ち、円形の曲線とは、直交曲線上の各部分曲線が主子午線曲線との交点における円孤の半径中心点と共通同一の半径中心を有していることを意味しているものと解すべきである。
従つて、原告の主張する標準円の設定は本件発明の技術思想を無視したものである。
4 争点3に関して(一) 本件発明における主子午線曲線の円形直交曲線の曲率半径の変化のしかたにつき、第一の表面部分では臍点曲線との交点から遠ざかる方向に単調に増大し、
また第二の表面部分では臍点曲線との交点から遠ざかる方向に単調に減少することを要件とする、と理解すべきである。
その理由は次のとおりである。
(1) 本件特許請求の範囲には、主子午線曲線上の円形直交曲線との交点よりも下部及び上部の累進部について、
「前記臍点曲線の曲率半径の値が前記直交する点から遠ざかる方向は減少する表面部分」 「前記臍点曲線の曲率半径の値が前記直交する点から遠ざかる方向に増大する表面部分」と記載されている。
尤もこれは、臍点曲線である主子午線曲線上における曲率半径値の変化のしかたを述べたもので、直交曲線上での主子午線曲線から左右に水平に遠ざかる方向への変化のしかたを述べたものではない。
けれども、主子午線曲線と直交円形曲線との交点を基準点として、それから「遠ざかる方向は減少する」とか「遠ざかる方向に増大する」という表現の意味するところは、
単調な漸増又は漸減の累進的変化である。このことは、臍点曲線をなめらかにつないで累進焦点レンズにするという本件発明の技術的思想に照して疑いの余地がない。
ところで、本件特許請求の範囲には、主子午線曲線に対する直交曲線上の曲率半径の変化についても、
第一の表面部分では「該曲率半径は該交わる各点から遠ざかる方向では該交わる各点の曲率半径の値より増加し、」 第二の表面部分では「該曲率半径は該交わる各点から遠ざかる方向では該交わる各点の曲率半径の値より減少する」と記載されている。
これは主子午線曲線上と直交曲線との交点の上部及び下部についての曲率半径の変化についての前記の規定と軌を一にした表現であつて、主子午線曲線を基準線にして、それから「遠ざかる方向」への増減をあらわしている。その意味するところは、同様に単調な漸増又は漸減の漸進的変化にほかならないと解するのが至当である。
仮にそうでないならば、「直交曲線の曲率半径は臍点曲線との交点から離れた点においては少なくとも該交点上の曲率半径より大(又は小)であり、」と記載するはずであり、わざわざ主子午線曲線上の累進変化と同様に「遠ざかる方向」という表現を用いるはずがない。
(2) 本件明細書の四頁の八欄一一行以下には、先行発明における「点A2から離れる方向にはその曲率半径が増加(曲率は減少)するような曲線・・・・・・では不充分であることが判明した」ので、これを改善したのが本発明であると説明されている。
ここでも、「離れる方向には・・・・・・増加(又は減少)」と述べているが、
これは漸進的な増減をあらわしているのであつて、本件発明も右の構成を踏襲しているのである。
(3) 先行発明の明細書には、先行発明について(イ) その二頁四欄四行から九行にかけて、ほぼ円形の曲線以外の「その他のいかなる直交平面の場合にも、その直交平面の通る点をもつへそ状曲線の曲率半径が円形断面の曲率半径よりも小さくなつたり、大きくなつたりするのに従がつてへそ状曲線から離れるにつれて増減する曲率半径をもつ曲線となることを特徴とする。」と説明している。
「離れるにつれて」という表現が漸増又は漸減の変化の傾向をあらわしていることは明らかである。
(ロ) また、その三頁六欄六行から一一行には、子午線に対する直交断面(直交曲線)の形についての従来技術の欠点を述べたのに続いて、
「本発明によれば、これらの欠点は子午線M、M′上の所定点において接触円に内接するものと、この接触円に外接するというはつきり区別された2つ断面群の間を漸進的に変化する子午線M、M′に直交する断面をもつレンズ表面を採用することによつて、広範囲に減少することができる。それ故、決定されたレンズ表面は第5図のようになる。」と述べ、それ以下にくわしく主子午線曲線に対する直交曲線の変化のしかたを説明している。
前記引用文中の「漸進的に変化する」の語は、「子午線M、M′」を修飾するものではなく、「主子午線M、M′に直交する」の語によつて限定された「断面」を修飾する語である。このことは、前記引用文の前後の文章からみて疑いの余地がない。
(二) 原告は、本件発明の実施例における直交断面曲線の曲率半径の変化は下方域において、全体として増加の傾向を有しているが、その中に減少変化を示すものも含んでいる旨主張する。
しかしながら、本件発明においては、少なくともレンズの有効部分において、単調に増加又は減少している。
その理由は次のとおりである。
先ず、原告は本件特許出願当時の眼鏡レンズ(ブランク)は径五五ないし六〇ミリメートルが主流で、本件特許公報に掲げられている実施例11aでは、径五五ミリメートル、このブランクから周辺を切除した眼鏡レンズを考えると、本件発明のレンズの有効部分は中心から約二〇ないし二五ミリメートルまでで、側方二五ミリメートルは除外して考えるべきだと述べている。また、原告は、先行発明の明細書を引用して、レンズの側方は収差が大であるか視点通過頻度が少なく、そこが多少乱れていても、実質的な影響は無視できる、と述べている。
そこで、先行発明の明細書のFig.23の図をそのまま写して別紙第五図の一とし、直径五五ミリメートル、
六〇ミリメートル及び七二ミリメートル(被告製品)のものを実寸法で第五図の二ないし四として示す。
これらの図から明らかなとおり、直交円形曲線の下方の第一の表面における直交曲線の曲率半径の変化を考えるに当つては、レンズブランクの大きさに応じて、直径五五ミリメートルのものでは左右に二〇ミリメートル、直径六〇ミリメートルのものでは同じく二五ミリメートル、直径七二ミリメートルのものでは二五ミリメートルないし三〇ミリメートルをレンズの有効部分とみてよいであろう。
そうすると、原告が例示した本件発明の実施例である、明細書Fig.11aの直径五五ミリメートルのレンズにおいては、第一の表面上のVy-5.6°(-8ミリメートル)の直交曲線の曲率半径はレンズの有効部分とみてよい左右二〇ミリメール位までは単調に増加し、その外側の有効でないと認められる部分において、
第二・四ミリメートルの減少をみせているといえる。その他の直交曲線をみても、
一旦曲率半径が漸増した後に反転して減少している個所は、いずれもレンズの有効部分以外の部分にあらわれている。
以上のとおりであつて、先行発明の明細書のFig.22その他の実施例は有効部分から外側にかけてまで単調な変化をしているが、本件明細書に示された実施例においても、原告が指摘する有効部分外において曲率半径値が一旦増加した後に反転減少している点を除けば、すべて被告ら主張のとおり単調な増減である。
(三) そこで被告製品についてみると、被告製品には臍点曲線から左右一〇ないし二〇ミリメートルまでの部分に曲率半径の変化を示す起伏が存する。
従つて、被告製品は本件発明の要件(9)及び(12)を充足しないことは明らかである。
四 被告らの主張に対する原告の反論1 争点1に対して(一) 本件発明の要件(3)は、「この臍点曲線の曲率半径は少なくとも遠用中心と称する該臍点曲線の第一の点と近用中心と称する該臍点曲線の第二の点との間で所定の法則に従つて漸進的に変化して」と記載されているとおり、漸進的変化区間は第一の点から第二の点までの区間だけでもよいし、また第一の点と第二の点を超えた区間でも良い。
即ち、本件特許発明は、
臍点曲線全体≧漸進的変化区間≧所望の付加力を与える漸進的変化区間(第一の点から第二の点までの区間)となる式の態様の全てを技術的に含む。
従つて被告製品は本件発明の一態様にすぎない。
(二) 第一の点(遠用中心)と第二の点(近用中心)は、臍点曲線上に位置し、
所望の付加力を与える二点として定義されているものであつて、設計事項として適宜設定できる。
被告製品においても右定義を満足させる二点は存在する。
2 争点2に対して(一) 被告製品には「ほぼ円形の曲線」が存在する。
被告製品三点について調査したところ、別紙第六、表(被告製品の直交断面曲線の曲率半径)で示すとおり、サンプル(A)(加入度一D)では主子午線曲線上マイナス4ミリメートルからマイナス8ミリメートルの間、サンプル(B)(加入度二D)では主子午線曲線上マイナス2ミリメートルとマイナス6ミリメートルの間、サンプル(c)(加入度三D)では主子午線曲線上ゼロとマイナス4ミリメートルの間にそれぞれほぼ円形曲線が存在することが明らかである。なお、ほぼ円形曲線の存在は主子午線曲線上の一点上にあるべきであるが、ほぼ円形曲線の隣接曲線もまた円形曲線要素からなるため、主子午線曲線上の4ミリメートル幅の中に存在するものとした。
(二) 仮りに右(一)で主張するとおりの「ほぼ円形の曲線」が存在しないとしても、被告製品には、次のような意味において、「ほぼ円形の曲線」が存在する。
先ず、ある適当な曲率半径及び中心位置を持つた円を仮定する。その円と直交断面曲線との偏差を求める。偏差がより小さくなる様に曲率半径及び中心位置を変更する。この繰返しにより、これ以上偏差を減らすことができない収束値としての円の曲率半径及び中心位置を求めることができる。この円を「標準円」と呼ぶ。
被告製品について、直交断面曲線と右標準円との偏差を各点において求め、最も小さな偏差を有する直交断面曲線のY座標値、標準円の曲率半径、標準円からの偏差について示すと別紙第七、表(標準円からの偏差表)のとおりである。
被告製品中、加入度一D(サンプル(A))、加入度二D(サンプル(B))、
加入度三D(サンプル(c))の三点について、水平方向五八ミリメートルの長さにわたつて標準円からの偏差を計算した結果は、最大の場合でも○・○〇四ミリメートルしか離れていない断面曲線が存在するのであるから、被告製品には「ほぼ円形の曲線」が存在するといつてさしつかえない。
(三) 被告は、「ほぼ円形の曲線」であるためには、曲率半径がほぼ一定であることが必要であることを前提として論じているが、右は誤りである。例えば、正多角形の角を丸くしたものを想定してみると、辺では曲率半径が大きく、角部分は小さい。この多角形の角の数を増加させるとほぼ円形の形状となるが、一定の曲率半径には近づかない。従つて単に曲率半径の最大と最小の差をもつて円形度を論ずるのは誤りである。
3 争点3に対して(一) 被告は本件発明における直交曲線の曲率半径の変化のしかたについて単調な「漸増」又は「漸減」という漸進的変化が必要である旨主張する。
しかしながら、右主張は以下のとおりの理由から失当である。
即ち、本件発明の特許請求の範囲に用いられている文言中、曲率半径の変化のしかたを表現した用語は二種類存在し、各々的確に矛盾なく使い分けられている。
いまこの点を明らかにすると、単調な漸次増加(又は減少)を表現する場合は、
「漸進的に変化する。」という用語を用いており、(臍点曲線に関する要件(3)参照)、一方、全体として増加(又は減少)の傾向にあることを表現する場合は、
よりゆるい「方向」の要素を織りまぜた「遠ざかる方向に増大(又は減少)する。」という用語を用いている(曲率半径に関する要件(9)、及び(12)参照)。従つて、特許請求の範囲におけるこのような用語の使い分けを無視して常に「漸増」又は「漸減」の意味に解釈しなければならないとする被告の主張は正しい解釈ではない。
このように要件(9)及び(12)における「遠ざかる方向に増大(又は減少)する」曲率半径は、例えば、本件明細書一一欄五-一九行に記載されているところから必然的に生ずる結果である。即ち、一例としてそこに記載のとおり、半径八二・〇二ミリメートルの基準球を基本にし、非球状曲面を規則的に隔置し、かつ球座標Vx・Vyによつて符標した多数の点を通過する該球に対する偏差表によつて決定され、それから更に収差、プリズム効果及びそれらからのゆがみ等を修正し、
その結果水平曲線Siが円錐曲線でなくなつてしまう変化をすることを明らかにしている。してみると、要件(9)及び(12)で「遠ざかる方向に増大(又は減少)する」としているのは、臍点曲線に関する要件(3)における「漸進的変化」と異り、それより広い範囲、即ち、「全体として増加(又は減少)の傾向にあること」を規定しているものと解することができ、又そのように解することが正しい技術的範囲の把握である。
(二) また、本件明細書中に、以下に述べるとおり、単調な漸増及び漸減以下の曲率半径の変化のしかたを示す実施例があり、右実施例からも、被告の主張は失当であることが明らかである。
本件発明の主要な要件の一つに、上下方向の断面曲線の曲率に係わる要件があるが、これは本件発明の実施例中、Fig.7b及びFig.11bに示されている。即ち、同実施例のFig.7a及びFig.11aではレンズ表面の設計置を示しているので、それに基づいて左右方向の断面曲線の曲率半径を算出することができる。
本件明細書一三欄三-四行及び一〇-一五行に記載のとおり、Fig.11aは付加力(加入度)二・五Dの実施例のレンズ表面を半径八二・〇二ミリメートルの基準球からの偏差(単位ミリメートル)として表わした設計値である。この偏差表は球座標Vx、Vyによつて表わされているが、以後の計算の便宜のため基準球の中心を原点としてXYZ座標で表わすと、別表第八、表(実施例のXYZ値)となる(なお、同表中、Vx、Vyに対し、()を付した数値は、それぞれX、Y座標のおおよその値を示す参考値である。)。
次に、同表において等しいVxを持つ点を通る曲線を求める。
この曲線はYZ平面とVxの角度をなす平面(基準球の中心を通る。)による断面曲線であり、別紙第一一図において実線で表わした曲線である。
次いで同図のP1、P2、P3・・・・・・P5の座標値を求め、更に、P1、
P2、P3・・・・・・P5を通る曲線の曲率半径を求め別紙第九、表(実施例の直交断面曲線の曲率半径)とし、グラフ化して別紙第一〇、表(実施例の直交断面曲線の曲率半径グラフ)とした。
同表によれば、Yが負、即ち、レンズの下方域における曲率半径の変化が全体として中央から側方にかけて増加傾向を有していながら、被告主張のとおりの単純な「漸増」ではなく側方で減少に転じていることがわかる。したがつて、被告の主張が誤りであることは既に明白である。
次に、この曲率半径の変化を具体的な数値で調べてみると、別紙第九、表のVY=マイナス八・四度における断面曲線上の曲率半径はVX=〇・〇度即ち、主子午線との交点において六二・九〇ミリメートルであり、側方に行くにつれて増加し、
VX=一一・二度において最大値八一・三二ミリメートルになり、更に側方では減少に転じ、VX=一六・八度では七五・二一ミリメートルとなつている。グラフの形や中央での曲率半径(六二・九〇ミリメートル)よりも最外側での曲率半径(七五・二一ミリメートル)の方が大きいことから、この断面曲線の曲率半径が増加傾向を有することは明らかであるが、八一・三二-七五・二一=六・一一ミリメートルの減少変化が含まれていることを知ることができる。
又、ここで最外側に当る七五・二一ミリメートルの曲率半径を有する点のX座標は約二三ミリメートルである(繁雑となるため個々の点のX座標の表示は省略したが、直交断面曲線上である為、別紙第八、表のX座標とわずかに異なる。)。
以上をまとめると「本件発明の実施例における断面曲線の曲率半径の変化は、下方域側方二三ミリメートルまでの範囲において、全体として増加の傾向を有しているが、その中には少くとも最大六・一一ミリメートルの減少変化をも含めている。」ということができる。
被告製品は、側方二三ミリメートルまでの範囲において最大でも三・一〇ミリメートルという曲率半径の減少変化が認められる。
従つて、被告製品における断面曲線の曲率半径の変化は下方域側方二三ミリメートルまでの範囲において、全体として増加の傾向を有しており、その中には減少変化が認められるものの、その量は最大でも三・一〇ミリメートルしかなく、右は本件発明の実施例の約半分の量でしかない。
してみると、被告製品における直交断面曲線の曲率半径の逆の傾向変化は本件発明における変化の域を超えるものではないことが明らかであるから、この点から被告製品が本件発明の技術的範囲に属するのは明白である。
証拠(省略)
理 由一 請求原因1、2(本件特許権の帰属、本件発明の内容)は当事者間に争いがない。
右争いのない特許請求の範囲の記載と、成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)によれば、本件発明は、請求原因3(一)の(1)ないし(15)の各構成要件から成り、その作用効果は同3(二)のとおりであることが認められる。
二 同4(一)のうち、被告らが取り扱つている眼鏡用レンズの構成について、別紙物件目録(3)′の(V)′の(ii)′(緯線の中間部領域における曲率半径の変化)を除くその余の構成及び同4(二)の事実は当事者間に争いがない。
原本の存在及び成立に争いのない乙第四号証の一によれば、被告らの取り扱つている眼鏡用レンズの構成のうち、緯線の中間部領域における曲率半径の変化のしかたは、概ね別紙物件目録(3)′の(V)′の(ii)′とおりであること(但し、遠用部、近用部に近い領域における、曲率半径の変化はそれぞれ単調な漸減又は漸増ではない。)が認められ、これに反する証拠はないので、被告製品の構成は原告主張のとおり特定して差し支えない(なお、被告は、緯線の曲率半径の変化のしかたにつきより詳細に表現しており、これは、前記証拠によれば、必ずしも誤りではないが、一応原告の主張した特定方法によつて以下進めることとする。)。
三 そこで、進んで、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かの点について判断する。
被告製品が本件発明の構成要件(1)、(2)、(4)、(8)、(11)、
(13)、(14)、(15)を充足していることは当事者間に争いがない。
1 構成要件(5)にいう「ほぼ円形の曲線」の存否について(一) 成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)及び乙第三号証(先行発明の特許公報)によれば、本件発明と先行発明を対比してみると、本件発明の構成要件(1)ないし(12)は、構成要件(3)の中「少なくとも」との記載がある点を除いては先行発明の特許請求の範囲実質的に同一であること、本件発明は先行発明において開示されている技術を前提としてこれを改良したものである旨が本件明細書中に明示されていること、本件発明も先行発明もレンズの屈折面を上下に二分する思想によつて構成され、右の二つの屈折面を区分するのが正に「ほぼ円形の曲線」及び「円形形状の曲線」であること等が認められ、これらの点に照すならば、本件発明における「ほぼ円形の曲線」は先行発明における「円形形状の曲線」と技術上同義であるとみるのが相当である。
従つて、「ほぼ円形の曲線」の意義について先行発明の明細書の記載を参酌することができるというべきである。
そこで、「ほぼ円形の曲線」について数値の上から具体的な範囲を求めていくことにする。
もつとも本件発明における「ほぼ円形の曲線」の定義或いは円形度等について、
本件明細書において直接、説明はされていないのみならず、先行発明における「円形形状の曲線」の定義についても、先行発明の明細書において、直接説明する記載がない。
しかし、それぞれの明細書中に記載されている実施例には数値が示されており、
とりわけ先行発明の明細書のFig.22の実施例の数値を手掛りに「ほぼ円形の曲線」の内容を一応数値上確定することが可能である。
前掲乙第三号証によれば、先行発明の明細書のFig.22のVy一度一二分の欄に円形曲線の曲率半径値が示されているが、これによると、その曲率半径は七〇・三〇ミリメートルから七〇・〇八ミリメートルの間にあり、その最大差は〇・二二ミリメートルであり、また、右Fig.22の円形曲線の欄の上のVy〇度の欄には非円形曲線が示され、右曲線の曲率半径は七一・二九ミリメートルから六八・九七ミリメートルの間にあり、その差は二・三二ミリメートルであり、更に円形曲線の欄の下のVyマイナス三度の欄にも非円形曲線が示され、右曲線の曲率半径は六八・三五ミリメートルから七二・〇七ミリメートルの間にあり、その差は三・七二ミリメートルであることが認められ、これに反する証拠はない。
実施例によれば、円形曲線の例としては、最大曲率半径と最小曲率半径の差が〇・二ミリメートル程度の差しかないものが示され、非円形曲線の例として、右の差が少なくとも二・三二ミリメートルの差のあるものが示されていることになる。
従つて臍点曲線と直交する曲線の曲率半径の差が二ミリメートル程度を超えるものは、本件発明にいう「ほぼ円形の曲線」には当らないということができる。
(二) ところで成立に争いのない甲第四号証によれば、同号証は、被告製品の測定の結果を記載するものであるところ、このうち原告において「ほぼ円形の曲線」と主張する曲線の曲率半径の最大値と最小値との間にサンプルAでは二・九ミリメートル、サンプルBでは三・七ミリメートル、サンプルCでは五・一ミリメートルの最大差があることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
そうすると被告製品は、緯線の曲率半径の最大値と最小値の差が少なくとも二・九ミリメートル程度開いており、先行発明の明細書のFig.22の円形曲線の曲率半径の値が約七〇ミリメートルであるのに比較してサンプルAでは曲率半径の値が七七ミリメートルないし七九・九ミリメートルと約一〇パーセントないし一四パーセント大きい点を考慮しても、なおかつ右二・九ミリメートルの差は非円形曲線における最大値と最小値の差に相当するものと解せられ、したがつて被告製品は本件発明にいう「ほぼ円形の曲線」を有していないものということができる。
従つて被告製品は本件発明の構成要件(5)を充足しない。
(三) なお、原告は、標準円(ある適当な曲率半径及び中心位置を持つた円を想定し、右円と直交断面曲線との偏差を求め、その偏差がより小さくなる様に曲率半径を変更する。右の繰り返しによつて、これ以上偏差を減らすことができない収束値としての円の曲率半径及び中心位置を求め、この結果得られた円を標準円と呼ぶ。)と被告製品との偏差を各々の直交断面曲線に対して求め、最も小さな残存偏差を有する「直交断面曲線のY座標値、標準円の曲率半径、残存偏差」は、別紙第七、表のとおりであつて最大でも〇・〇〇四ミリメートル程度にすぎないのであるから、被告製品には、このような意味で「ほぼ円形の曲線」が存在する旨主張する。
しかしながら、前掲甲第二号証によれば、本件明細書には、直交曲線の曲率半径を示すにあたつて、主子午曲線線上の各点の曲率半径を基準として、第一の表面部分では直交曲線上の曲率半径が主子午線曲線から遠ざかるに従い増加し、第二の表面部分では反対に減少し、右第一、第二の表面部分を区別するのが「ほぼ円形の曲線」である旨記載されていることが認められ、そうすると、「ほぼ円形の曲線」の曲率半径は、主子午線曲線との交点における曲率半径と同一でなければならないとする構成要件(5)の記載は、円形度を論ずるにあたつても前提とすべきであるのは当然である。
従つて、主子午線曲線との交点の曲率半径と離れて任意の中心半径をもつて描いた真円との偏差の大小をもつて円形度を論ずる方法は適切でないというべきである。
原告の主張は採用できない。
2 構成要件(9)及び(12)にいう直交断面曲線の曲率半径の変化のしかたについて(一) 本件発明の特許請求の範囲には、主子午曲線と直交する曲線の曲率半径が、第一の表面部分では「該曲率半径は該交わる各点から遠ざかる方向では該交わる各点の曲率半径の値より増加し、」また第二の表面部分では「該曲率半径は該交わる各点から遠ざかる方向では該交わる各点の曲率半径の値より減少する」と記載されている(右は当事者間に争いがない。)。
本件発明の構成要件(9)及び(12)における曲率半径の変化のしかたは、以下に述べる理由からレンズの有効部分において、単調な増加または減少に限定されると解すべきである。
前掲甲第二号証によれば、「臍点曲線の曲率半径の値が前記直交する点から遠ざかる方向は減少する(に増大する)表面部分」と記載があることが認められ、直交断面曲線の曲率半径の変化とほぼ同一の表現がなされているところ、臍点曲線の曲率半径の変化のしかたに関する右「遠ざかる方向は減少する(に増大する)」の表現が単調な漸進的な減少または増大を意味することは明らかであることからみて、
直交断面曲線の曲率半径の変化も単調な増加または減少を意味していると解するのが相当である。
原告は、右の点につき、本件発明の実施例に、単調な増加(または減少)以外の変化を示す直交断面曲線が存在するので、本件発明の構成要件(9)及び(12)における曲率半径の変化のしかたは、単調な増加または減少に限定されず、全体として増加または減少の傾向にあれば足りる旨主張する。
なるほど前掲甲第二号証によれば、本件発明の実施例に、レンズの下方域における曲率半径の変化が、中央から側方に向かつて増加した後、減少を示している部分が認められるが、右の減少傾向はレンズの側方周辺部においてのみ認められるので、直交曲線の曲率半径の変化のしかたは、全体としては単純な増加または減少であるといつて差し支えないものということができる。
(二) そこで被告製品について直交曲線の曲率半径の変化のしかたをみてみると、前掲甲第四号証及び成立に争いのない乙第七号証によれば、被告製品の下方領域の臍点曲線から左右一〇ミリメートルないし二〇ミリメートルまでの間において、一旦増大した後に減少に転ずるものや、増大と減少とを繰り返すもの等複雑な曲率半径の変化を示していることが認められ、これに反する証拠はない。
そうとすると、被告製品における直交曲線の曲率半径の変化のしかたは、本件発明の構成要件(9)、(12)にいう全体として単純な増加または減少には該当しないので、構成要件を充足しないということになる。
四 以上のとおり、被告製品は、本件発明の構成要件(5)、(6)及び(12)を充足しないから、本件発明の技術的範囲に属さない。
よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
物件目録(1)′レンズのほぼ中央を走る経線(主子午線)上の中間点(遠用中心点)で経線と交差し、左右方向にのびる区画線よりも上部の遠用部領域と、経線上の他の点(近用中心点)で経線と交差し、左右にのびる区画線よりも下部の近用部領域と、右両領域面に介在する中間部領域の三領域に区画され、
(2)′経線上の各点における経線に沿う曲率半径は、
(T)′遠用部領域では、全体として同一(円形)であり、
(U)’近用部領域では、遠用部領域における曲率半径より小でかつ全体として同一(円形)であり、
(V)′中間部領域では、上方にいくにつれて漸増(下方にいくにつれて漸減)しており、
(3)′経線上の各点と直角に交差する各緯線は、
(T)′遠用部領域では、いずれも(i)′経線との交差点で該交差点における経線に沿う曲率半径と同一の曲率半径を有し、
(ii)’右交差点より左右に一部の範囲内で曲率半径は同一であり、前記範囲を越え左右に離れるにつれて漸減する曲率半径を有し、
(U)′近用部領域では、いずれも(i)′経線との交差点で該交差点における経線に沿う曲率半径と同一曲率半径を有し、
(ii)′右交差点より左右に一部の範囲内で曲率半径は同一であり前記範囲を越え左右に離れるにつれて漸増する曲率半径を有しており、
(V)′中間部領域では、
(i)′経線との交差点で該交差点における経線に沿う曲率半径とほぼ同一曲線半径の緯線を有し、
(ii)′経線上の各点と直角に交差する各緯線が隣接する遠用部及び近用部の各領域のとり方、両領域の変化の仕方及び経線上での曲率の変化の仕方により規定され、
遠用部に近い領域では交差点より左右に一部の範囲内で曲率半径はほぼ同一であり、前記範囲を越え左右に離れるにつれて漸減する曲率半径を有し、また近用部に近い領域では交差点より左右に一部の範囲内で曲率半径はほぼ同一であり、前記範囲を越え左右に離れるにつれて漸増する曲率半径を有し、
(4)′レンズのほぼ中央を走る経線に沿う曲率(曲率半径の逆数)と該経線を除く他の経線に沿う曲率との関係は、右二つの経線上の同じ水平断面上に位置する二点の曲率の差の絶対値が該レンズの有する付加力の三・五倍以下である眼鏡用レンズ。
裁判官 元木伸
裁判官 飯村敏明
裁判官 高林龍