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関連審決 補正審判1985-50006
関連ワード 周知技術 /  発明の詳細な説明 /  特許出願日 /  同一の作用効果 /  実施 /  発明の範囲 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 昭和 60年 (行ケ) 91号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1987/02/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が、昭和六〇年四月二日、同庁昭和六〇年補正審判第五〇〇〇六号事件についてした審決を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
特許庁における手続の経緯 原告は、昭和五七年一一月二四日、名称を「開缶用摘み片の取付方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和五七年特許願第二〇五七七二号)をし、昭和五八年一二月一日付手続補正書をもつて明細書及び図面の各一部を補正した(以下「本件補正」という。)ところ、昭和五九年八月八日本件補正を却下する旨の決定があり、その謄本は同年一二月四日原告に送達されたので、同月二八日これを不服として審判の請求(昭和六〇年補正審判第五〇〇〇六号事件)をしたが、昭和六〇年四月二日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年五月一五日原告に送達された。
二 本願発明の特許請求の範囲(本件補正前のもの)1 缶用仕切板の中空凸起に摘み片の取付孔を嵌装すると共に、前記凸起内に中空体を嵌挿して、次いで前記中空凸起と中空体とを共に偏平に成形して摘み片と仕切板とを固着することを特徴とした開缶用摘み片の取付方法2 中空体は合成樹脂製又は金属製の有頂筒状とし、該筒状の下端縁部は外側又は内側へカールさせた特許請求の範囲第1項記載の開缶用摘み片の取付方法3 成形は、加圧成形又は加熱・加圧成形とした特許請求の範囲第1項記載の開缶用摘み片の取付方法4 仕切板は合成樹脂フイルム製とした特許請求の範囲第1項記載の開缶用摘み片の取付方法(本件補正後のもの) 本件補正前の特許請求の範囲第2項を次のように補正した(特許請求の範囲第1項、第3項及び第4項は、本件補正前と同じ。)。
2 中空体は合成樹脂製又は金属製の有頂筒状又は管状とし、その端縁部は外側又は内側へカールさせた特許請求の範囲第1項記載の開缶用の摘み片の取付方法三 本件審決理由の要点 本件補正についてなされた補正の却下の決定の理由の要領は、缶用仕切板の中空凸起内に嵌挿する中空体として、「管状とし、その端縁部は外側又は内側へカールさせた」ものを含むものとする実施態様は、本願発明の特許出願当初の明細書(以下「原明細書」という。)及び図面(以下「原図面」(別紙図面(一)参照)といい、原明細書と併せて「原明細書等」という。)に記載されていないとともに自明な事項とも認められないので、本件補正は明細書の要旨を変更するものであつて、
特許法第53条第1項の規定により却下すべきものであるというにある。
これに対して、請求人(原告)は、原明細書において、中空体は有頂筒体でなくても中空球体その他の中空形状でもよいとしているので、中空体は有頂筒体に限定されることなく管状のものも含み、管状のものについて、その端縁部は外側又は内側へカールさせることは、原明細書において、有頂筒体の下端部に外向きのカールを形成させることも内向きのカールを形成させることも記載されているので、実施例に包含されるものである旨主張するが、(1)中空球体も有頂状のものと解するのが相当であり、したがつて、「有頂筒体」、「中空球体」及び「その他の中空形状」のものはすべて有頂状のものを列記して中空体の概念を形成しているものとする見解が成立し、本願発明において中空体がいかなる作用及び効果を有するものか、原明細書には何ら記載されていないので、かかる見解を否定する根拠は見いだせないこと、及び(2)中空体の作用及び効果が明らかにされていないので、中空体を有頂筒体に代えて管状のものとした場合の作用及び効果の差異も明らかではないが、実施態様にみられるように缶用仕切板が合成樹脂フイルム製である場合、その中空凸起と共に中空体がかしめられる際には、中空体が単に筒状のものであれば、その端縁部が合成樹脂フイルムに損傷をきたす危険性が存在することが推定され、もしそうであれば端縁部を外側又は内側へカールさせることによつて、かかる危険性を回避できることであり、このように、端縁部を外側又は内側へカールさせる点には創意工夫がみられ、自明の事項とすることはできないこと、これら(1)及び(2)の点を勘案するとき、中空体を「管状とし、その端縁部は外側又は内側へカールさせた」点は、原明細書の記載の範囲内のものとすることはできない。
したがつて、本件補正は、明細書の要旨を変更したものであつて、原決定は妥当なものと認める。
四 本件審決を取り消すべき事由 本件補正の却下の決定の理由及び審判における請求人(原告)の主張の要領が本件審決認定のとおりであることは争わないが、本件補正は、原明細書等に記載された本願発明を実質上拡大するものではなく、単に原明細書等に特定された発明の範囲を明確にするものであり、本件補正によつて明確にされた本願発明の構成及び該構成によつて得られる効果は、いずれも原明細書等に記載されたところから自明なものにすぎず、本件補正は原明細書の要旨を変更するものではないにかかわらず、
本件審決は、本件補正は原明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものでなく、明細書の要旨を変更するものであるとの誤つた結論を導いたものであるから、違法として取り消されるべきである。すなわち、
1 本件審決における認定(1)について(一) 原明細書の「中空形状」のものについて 原明細書では、缶用仕切板の中空突起内に嵌挿する中空体について、特許請求の範囲第1項においては「中空体」と、また、原明細書の発明の詳細な説明の項中、
本願発明の必須要件に対応した個所では、すべて単に「中空体」と表現され(第二頁第一六行及び第一七行並びに第六頁第一〇行及び第一一行)、これに反する記載はない。もつとも、実施態様項である特許請求の範囲第2項には「中空体は・・・・有頂筒状」と例示され、また、実施例には「有頂筒体5」を例に説明がなされているが、「有頂筒体でなくても中空球体その他の中空形状でもよい」(第五頁第九行ないし第一〇行)旨の記載があり、右にいう「中空球体」は、
球体はいずれが頂でいずれが底又は側であるか特定し得ないから、実施例に示されたような、下側が開口した開放空間として中空部が与えられた「有頂筒体」に対し、閉塞空間として中空部が与えられた形態の一例としての「中空球体」を意味するものとして理解することができる。してみると、一側が開口した中空部を有する「有頂筒体」、閉塞された中空部を有する「中空球体」に対して、「その他の中空形状」のもの(第五頁第九行ないし第一〇行)は、両側が開口した中空部を有するものとしての「管体」を含むことは明白である。したがつて、「中空球体」が有頂状のものに限られるとした本件審決の認定は失当というべきである。
(二) 中空体の作用効果の記載について 原明細書には「中空凸起内に・・・・中空体を嵌挿(「乾燥」とあるのは誤記と認める。以下同じ。)し、次いで前記中空体を仕切板の表裏両面側より加圧成形して摘み片の取付部をかしめ止め(「かし止め」とあるのは誤記と認める。以下同じ。)する」(第二頁第一五行ないし第一八行)、「有頂筒体5の上部が前記摘み片2の環状段部7を覆うように変形させる」(第四頁第四行ないし第五行)及び「有頂筒体5の材質は・・・・容易に変形し得るものであれば同様に使用し得る」(第五頁第五行ないし第八行)と記載され、原図面第3図には、有頂筒体5の変形によつて摘み片がかしめ止めされた状態が図示されており、これらの記載を総合すれば、中空体は、変形により摘み片の上下を押さえつける作用を有し、摘み片を固着する効果を有することが明らかである。被告は、原明細書には、有頂筒状の中空体以外の中空体についてのかしめ作用及びかしめの成形状態について記載がなく、
不明である旨主張するが、原明細書においては「(中空体を)変形させて(摘み片の)上下を押さえつけて固着すること」を「かしめ止め」と表現しており、このことは、原明細書の記載から明らかである。そして、端縁部がカールされた中空体を上下方向から加圧すれば、上下両端部が押し潰されて変形することは当然のことであり、摘み片の上下は押さえつけられて固着されることとなるのであつて、かしめ作用が不明ということはない。本願発明において、中空体は単に押し潰されて変形した状態さえ得られれば摘み片の固着には十分である。原明細書等に記載された中空体の作用効果は以上の点に尽き、その余の作用効果は必須とされていない。また、被告は、かしめ止めの成形状態が中空体の上部と下部とで相違する旨主張し、
確かに上部と下部とでは中空体が薄板で覆われるかどうかという点で異なることは被告主張のとおりであるが、有頂でない中空体を使用した場合においても、上部は「かしめ型ー薄板ー中空体ー摘み片」の順に配置され、その順序において有頂のものと有頂でないものとの相違は存しないから、前記相違は有頂以外の中空体について原明細書中に記載があることを否定する根拠とはならず、有頂以外のものの上部のかしめ止めが明らかでない旨の被告の主張は失当である。しかも、かしめ固着の技術において、頂部が開口した中空筒体を用いることは、本願発明の特許出願日前から広く知られたところである。すなわち、両端開口の筒状体である「中空リベツト」は一般的な部材として認識されており(昭和五五年九月二五日発行の特許庁編集に係る特許からみた機械要素便覧「固着」第四〇頁参照。甲第四号証の一ないし三)、同書第四一頁一七二図及び一七六図には、中空リベツトのかしめられた状態が図示され、右の各図によると、その端部が拡開されるものであることは明らかであり、本願発明における中空体も、同書におけるリベツトと同様に、端部が加圧変形される点において差異はない。このような周知技術を前提とすれば、本願発明における頂部が開口した中空筒体においても、中空リベツトと同様に端部が拡開された状態でかしめられること、及び拡開されたときにカール部がどのように変形するかはいずれも自明のことである。したがつて、本件補正によつて追加された中空体の態様は、原明細書等の記載から自明というべきである。
2 本件審決における認定(2)について(一) 中空体における作用効果の差異について 本願発明において、中空体は、有頂筒体であつても管状のものであつて、
原図面第3図のように変形により摘み片を上下から挟み込む作用効果を奏することは自明である。すなわち、中空体を有頂筒体とすれば管状のものとは異なる格別の作用効果が得られるとしても、本願発明の特許請求の範囲第1項記載の発明との関係においては、同一の作用効果を得ることができるものである。
(二) 端縁部を外側又は内側へカールさせる点について 原明細書等には、その実施例に示された有頂筒体5の下端部には外向きのカール8が形成される旨の記載があり(原図面第6図)、また、内側にカールを形成することも示され(原図面第7図)、カールの形成により「有頂筒体5の下部のテーパー面6への圧接力を強くすることができ(該部が二重となる)」(第五頁第一〇行ないし第一三行)と記載されているところ、本願発明において、中空体の上下ともに摘み片の上面又は下面に強く圧接し得ることが好ましいことは自明のことであり、実施例に示す有頂筒体においては、上部に頂板が存するため必然的に上部は二重となり大きな圧接力が得られるのである。したがつて、中空体を管状にした場合においては、下縁部にカールを設けることは、原明細書の実施例及び原図面に明らかに開示されていることということができ、また、実施例において下縁部にカールが設けられていることから、中空体を管状にした場合には上縁部にも同様のカールを設けることは、当業者にとつて自明のことである。本願発明において頂端縁部のカール部は、摘み片の環状段部への圧接力を強くする作用を有するものであつて、
有頂筒体の下部カール部と頂端縁部のカール部とは、共に圧接部への圧接力を強くするという同様の作用を有する。この点に関し、被告は、原明細書では上部のカール部が下部のカール部と同様の作用を奏するかどうかは明らかでない旨主張するが、カール部によつて圧接力が向上するのは、カール部の存在によつて該部バネ力が生じることによるのであつて、カール部によりバネ力が働くことは下部と上部とで異なるところはない。前述のとおり、原明細書等には、実施例として中空体を有頂筒状としたものが開示され、特に原図面第3図にはかしめ状態が明示されているところ、右第3図において有頂筒体5の上部変形部分の周縁は曲面をなしてフイルムに接しているから、当業者は、同図により、中空体によつて合成樹脂フイルムが損傷する危険性がないとの効果を自明のものとして認識することができる。しかも、原明細書において実施例として有頂筒体を採用し、その下端部をカールさせたのは、中空体が単に筒状のものであれば、その端縁部で合成樹脂フイルムの損傷をきたす危険性があることを考慮したものと理解することができる。中空体の上端とフイルムの接触のみならず、中空体の下端とフイルムの接触部においても損傷の危険性は考えられるところ、下端における損傷の危険性は、原図面第2図及び第7図におけるカール8によつて回避されているのであつて、本件補正によつて加入されたカール18(図面第8図及び第9図)によつて初めて回避されたものではない。
したがつて、中空体によつて合成樹脂フイルムが損傷する危険性がないとの効果も原明細書等から自明の事項である。
被告の答弁
被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。
一 請求の原因一ないし三の事実は、認める。
二 同四の主張は、争う。本件審決の認定判断は正当であつて、原告主張のような違法の点はない。
1 原告主張四1について 原明細書等には、中空体が有頂筒状である具体的形態が示され、その場合のかしめ作用及びかしめの成形状態が具体的に示されている。しかし、有頂筒状以外の中空体については、単に「中空球体その他の中空形状」という記載があるのみで、その具体的形態、かしめ作用及びかしめの成形状態を示す記載はない。そして、その有頂筒状の中空体は、表裏両面から加圧成形されてかしめ止めをなすことが明らかであり、この有頂筒状の中空体の頂部のかしめ作用については、かしめ型によつて表面側から加圧成形されるものである。しかしながら、頂部が開口され、その端縁部がカールされた中空体については有頂筒状のかしめ止めに用いたと同様のかしめ型を用いたとしても、そのかしめ作用及びかしめの成形状態が不明であつて、これを有頂筒状の中空体と同等のものとすることができない。したがつて、原明細書等には、中空体として、頂部が開口され、その端縁部がカールされたものは実質上記載されておらず、有頂筒状のものだけが記載されていたものと解される。この点を詳述するに、原明細書には、中空体について、(1)「有頂筒体でなくても中空球体その他の中空形状でもよい。」(第五頁第九行ないし第一〇行)(2)「中空体は合成樹脂製又は金属製の有頂筒状とし、該筒状の下端縁部は外側又は内側へカールされた」(特許請求の範囲第2項)(3)「有頂筒体5は前記凸起4の内部に密嵌し得る大きさとしてある」(第三頁第一〇行ないし第一一行)(4)「有頂筒体5の上部が前記摘み片2の環状段部7を覆うように変形させる」(第四頁第四行ないし第五行)(5)「前記テーパー面6へ仕切り板1および変形した有頂筒体5の一部が食い込み、有頂筒体の下部が仕切板の裏面に突出することがない」(同頁第一一行ないし第一四行)(6)「有頂筒体5の材質はアルミニウムの他、アルミニウム合金等の軟質金属であつて」(第五頁第五行ないし第七行)などの記載があるところ、右(1)の記載は、「有頂」でない中空体が原明細書中に存在しているようにも見られるが、右(2)ないし(6)の中空体についての記載は、いずれも「有頂」の中空体に関するものであつて、原明細書の他の記載からみて「有頂」でない中空体については何らの示唆もない。そして、後述するように「かしめ止め」は、中空体の上部と下部とで同じものとは解されないから、下部の「かしめ止め」が「有頂」でないものについて行われているとしても、それをもつて上部が「有頂」でない中空体まで示唆しているとは解されない。してみると、原明細書の右(1)の記載は、有頂以外の中空体についても意図して記載されていたものとは解されない。また、「かしめ止め」について、原明細書には、(7)「前記凸起内に中空体を嵌挿して、次いで前記中空凸起と中空体とを共に偏平に成形して摘み片と仕切板とを固着する」(特許請求の範囲第1項)(8)「前記薄板1の凸起4の下部を下型9の凸部10に嵌挿して摘み付の薄板1を下型9上へ載置し、次で前記摘み片2の上側に上型11を位置させる」(第三頁第一三行ないし第一六行)(9)「前記かしめ型13を第3図中矢示14のように下降し、有頂筒体5の上部が前記摘み片2の環状段部7を覆うように変形させる」(第四頁第三行ないし第五行)(10)「上下型の構造は前記実施例に示したものに限定されることなく、用(「要」の誤記と認める。)は有頂筒体5を加圧成型し得るものであればよい。」(第五頁第一八行ないし第六頁第一行)などの記載があるが、右(7)の「共に偏平に成形して……固着する」とは、右(8)ないし(10)の記載から、上部はかしめ型13が接するところが薄板1であり、中空体は薄板とともに変形して摘み片2を固着するものであり、これに対して下部は、薄板1の中空凸起4の開放された部分で、下型9は中空体の下端(例えばカール部)を押圧して、摘み片を固着している。すなわち、上部は、かしめ型ー薄板ー中空体ー摘み片と配置しているのに対し、下部は、下型の接するところが中空体下端であり、上部と下部は「かしめ止め」の成形状態が相違し、原明細書の右(10)の記載からみても、上部と下部が同じとは解されない。してみれば、中空体について「有頂」以外のものの、上部の「かしめ止め」については明らかでないといわざるを得ない。したがつて、原告主張の本願発明の作用効果及び「かしめ止め」の意味でいうところの「中空体」は、
「有頂以外の中空体」をも含むものとは解されない。なお、かしめ固着の技術に関する原告提出の甲第四号証の二に記載されている技術的事項は、リベツトに関するもので、結合すべき二つの部材にリベツト穴をあけ、そのリベツト穴にリベツトを挿入して固着するものである。すなわち、同号証の一七二図では、二つの結合すべき部材3と4に穴5を設け、ここにスリーブ1を挿入し、リベツト2を圧入するものであり、また、一七六図は、結合部材9・9′に引抜き棒を設けた中空管2を打ち込み、結合部材9・9′に穿孔して、かしめを行うものである。これに対し、原明細書には「この発明は仕切板に穿孔することなく、溶着又は溶接剤を用いずに摘み片を固定することにより」(第二頁第一一行ないし第一三行)と記載されており、結合部材の一方が摘み片で穴があるが、もう一方の結合部材の仕切板には穿孔しないで「かしめ止め」するもので、同号証のリベツトに関する技術とは相違する。また、同号証の右の記載以外の説明にも、結合部材に穿孔しないで、「かしめ止め」をする技術は示されていない。してみれば、本願発明におけるかしめ固着の技術において、頂部が開口した中空筒体を用いることは、その特許出願日前から広く知られていたということができず、また、カール部がどのように変形するのかも自明でない。
2 原告主張四2(二)について 原明細書等には、有頂筒体以外の中空体について、前記のとおりその具体的形態やかしめ作用を示す記載も、頂端縁部にカールを設けることを示す記載もない。カール部の作用に関し、原明細書には、「カール部8を仕切薄板1を介して摘み片2のテーパー面6へ圧接させて摘み片の段部を堅固に挟着させ、摘み片2を薄板1に固着する。」(第四頁第五行ないし第八行)と記載されているが、前記のように、
原明細書等に「有頂以外の中空体」について記載がなく、また、かしめ止めの成形状態が上下で相違するものであるから、右記載は、下部のカールにのみ関するものである。そして、かしめ型によつて摘み片と仕切板を固着する場合には、頂端縁部のカール部は、そのかしめの状態が不明であるから、原明細書等に示された有頂筒体の下部カールと同様の作用をするか明らかでなく、有頂筒体のカール部と同等のものとすることができない。原告は、原明細書の実施例、特に原図面第3図により、当業者にとつて、「中空体によつて合成樹脂フイルムが損傷する危険性がない」との効果が自明のものであると主張するが、原明細書の記載からみて、前記のとおり、(1)有頂以外の中空体について記載されているといい得ないこと、
(2)上下でかしめ止めの成形状態が相違しているので、有頂以外の中空体の上部のかしめ止めの成形状態が明らかでないこと、(3)本願発明におけるかしめ固着技術において、頂部が開口した中空部を用いることは自明でないことからすれば、
原告主張の右効果が自明であつたとすることができない。
証拠関係(省略)
理 由(争いのない事実)一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の本件補正前及び本件補正後の特許請求の範囲の記載並びに本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)二 本件審決は、以下に説示するとおり、本件補正は原明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものであるにもかかわらず、明細書の要旨を変更したものであるとの誤つた結論を導いたものであり、違法として取り消されるべきである。
前記争いのない本願発明の本件補正前及び補正後の特許請求の範囲の記載に成立に争いのない甲第一号証(本件補正の手続補正書)並びに第二号証の二(原明細書)及び同号証の三(原図面)を総合すれば、原明細書等に開示された本願発明は、缶の仕切板、特に合成樹脂フイルムのように保形剛性の小さい仕切板に開缶用摘み片を堅固かつ容易に取り付けることを目的とした開缶用摘み片の取付方法に関するものであつて、缶の仕切板に穿孔することなく、溶着又は溶接剤を用いずに開缶用摘み片を固定することにより、作業性良好で強度的信頼度の高い取付方法を提供することを目的とし、その方法として特許請求の範囲第1項の特徴を有する開缶用摘み片の取付方法を採用することにより、所期の目的を達し、仕切板(特に合成樹脂フイルム製のもの)に開缶用摘み片を堅固かつ容易に取り付けることができる作用効果を奏し得たものであり、特許請求の範囲第2項ないし第4項には本願発明の実施態様が示されているところ、本件補正は、前示のとおり特許請求の範囲第1項の発明の実施態様項である特許請求の範囲第2項中「有頂筒状とし、該筒状の下端縁部は外側又は内側へカールさせた」とあるを「有頂筒状又は管状とし、その端縁部は外側又は内側へカールさせた」と補正したほか、原明細書の発明の詳細な説明の項中に、実施例として、中空体として管体15(第8図及び第9図)あるいは裾広がりとなつた柱状体16に中空穴17を設けたもの(第10図及び第11図)を用いる例を加入し、原図面に第8図ないし第11図(別紙図面(二)参照)を追加し、これに伴い原明細書の図面の簡単な説明の項にも第8図ないし第11図に関する所要の記載を加入したものであることを認めることができる。
そこで、本件補正が原明細書等に記載された事項の範囲内でされたものであるかどうかについて検討するに、前認定のとおり本件補正前の特許請求の範囲第2項には、本願発明における中空体の一実施態様として、有頂筒状のもので、その下端縁部が内側又は外側へカールさせたものの使用が明記されているが、原明細書の発明の詳細な説明の項中には、中空体について「有頂筒体でなくても中空球体その他の中空形状でもよい。」旨の記載(甲第二号証の二第五頁第九行ないし第一〇行)があり(原明細書に右記載があることは当事者間に争いがない。)、右記載文言に前示の本願発明の目的及び特許請求の範囲第1項の記載を総合すれば、原明細書記載の発明における中空体は「有頂筒体」のみに限定されず、「中空球体」及び「その他の中空形状」のものを包含し、本件補正による管状のものをも含むものというべきである。この点について、本件審決は、「中空球体も有頂状のものと解するのが相当であり、したがつて、「有頂筒体」、「中空球体」及び「その他の中空形状」のものはすべて有頂状のものを列記して中空体の概念を形成している」旨認定し、
その根拠として、本願発明において中空体の果たす作用効果の記載がないこと等を挙げ、被告は、これを敷えんし、原明細書等には、有頂筒状以外の中空体について、その具体的形態、かしめ作用及びかしめの成形状態を示す記載がなく、有頂筒体の頂部のかしめ作用はかしめ型によつて表面側から加圧成型されるものであるところ、管体であつて、
その端縁部がカールしたものに対し、有頂筒体と同様のかしめ型を用いたとしても、そのかしめ作用及びかしめの成形状態が不明であつて、管体を有頂筒体と同等のものとすることができないから、原明細書等には、中空体として端縁部がカールした管体が実質上記載されているといえない旨主張する。しかし、「中空球体」は、通常「有頂」の概念に含まれないのみか、「その他の中空形状」が両端を開口した中空部を有する管体ないし管状のものを含むものであることは明らかであり、
また、被告の主張するかしめ作用やかしめ型等についても、前示本件補正前の特許請求の範囲第1項の記載に徴すれば、本願発明においてかしめ型については何ら特定されていないことは明らかであるところ、本願発明において両端部が開口され、
端縁部がカールした管体を上下方向から加圧すれば、上下両端部が押し潰されて変形し、有頂筒体の場合と同様になることは自明のことであり、しかも、原明細書に示された本願発明における中空体の作用効果は、次に認定するとおり変形により摘み片の上下を押圧し、摘み片を固着する作用効果を生ぜしめるにすぎず、その作用効果は、有頂筒体、中空球体及びその他の中空形状のものに包含される管体の区別によつて異なるものと認めることはできない。すなわち、前掲甲第二号証の二及び三によれば、原明細書には、「仕切板用薄板に成形した中空凸起内に合成樹脂又は金属製の中空体を嵌挿し、次いで前記中空体を仕切板の表裏両面側より加圧成形して摘み片の取付部をかしめ止めする」(第二頁第一五行ないし第一八行)、及び「仕切板用薄板に成形した中空凸起内に中空体を嵌挿し、次いで前記中空体を仕切板の表裏両面より加圧成形したので、摘み片を仕切板、特に合成樹脂フイルム製の仕切板に摘み片を堅固かつ容易に取り付けることができる効果がある。」(第六頁第九行ないし第一四行)との記載があるほか、中空体の実施例として記載されている有頂筒体の作用効果について「有頂筒体5の上部が前記摘み片2の環状段部7を覆うように変形させる」(第四頁第四行ないし第五行)、「テーパー面6へ仕切板1および変形した有頂筒体5の一部が食い込み、有頂筒体の下部が仕切板の裏面に突出することがない」(同頁第一一行ないし第一四行)、及び「有頂筒体5の材質は……かしめ型13によつて容易に変形し得るものであれば同様に使用し得る」(第五頁第五行ないし第八行)旨の記載があり、また、原図面第3図には、有頂筒体5の変形によつて摘み片がかしめ止めされた状態が図示されていることを認めることができるところ、これら記載事項に前認定の本願発明の目的及び作用効果を総合すれば、原明細書等に記載された本願発明において中空体は、変形により摘み片の上下を押圧し、摘み片を固着する作用を果たすものであり、かつ、その作用効果は、右の点に尽きるものであつて、右作用効果は、中空体の実施例としての有頂筒体5の作用効果として記載されている分を含めて、有頂筒体に特有のものではなく、中空球体やその他の中空形状のものであつても同様の作用効果を奏するものということができる。したがつて、本件審決の右認定は誤りというほかなく、被告の右主張は採用することができない。
そうであるとすれば、本願発明の缶用仕切板の中空凸起内に嵌挿する中空体が管状のものを含むことは、原明細書等に記載されたところであり、原明細書記載の中空体の前記作用効果からみても「管状のもの」を除外すべき理由はない。なお、本件審決は、原明細書等に記載の中空形状に管状のものを含まない理由として、「中空体が単に筒状のものであれば、その端縁部が合成樹脂フイルムに損傷をきたす危険性が存在することが推定され、もしそうであれば、端縁部を外側又は内側へカールさせることによつて、かかる危険性を回避できることであり、このように端縁部を外側又は内側へカールさせる点には創意工夫がみられ、自明な事項とすることはできない」と認定するが、本件補正は、前認定したところから明らかなように原明細書記載の作用効果について、補正をするものではないのみか、筒状のもので端縁部にカール部を有するものが本件審決の認定するような作用効果を奏するとしても、それは、本件補正前の特許請求の範囲第2項に記載されている筒状の端縁部を外側又は内側へカールさせるという構成を採用することによつてもたらされる自明の効果にすぎないものというべきである。この点に関し、被告は、中空形状の上部端縁部のカール部の作用は、原明細書等に記載がなく、本件審決指摘の前示の効果は自明でない旨主張するが、中空形状の上端縁部のカール部と同下端縁部のカール部の奏する作用効果に格別の差異はなく、その奏する被告主張の作用効果は前説示のとおり自明のものであるから、被告の右主張も採用するに由ないものといわざるを得ない。
してみると、本件補正は、原明細書等に記載された事項の範囲内でされたものといわなければならず、したがつて、本件補正は、原明細書の要旨を変更するものでないというべきである。
(結語)三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 武居二郎
裁判官 高山晨
裁判官 川島貴志郎