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関連審決 審判1983-23809
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  特定承継 /  名義変更 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  異議申立 /  職権調査 / 
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事件 昭和 60年 (行ケ) 184号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1987/05/07
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和五八年審判第二三八〇九号事件について昭和六〇年八月一四日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告主文同旨の判決二 被告「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯1 訴外Aは、昭和五二年一一月四日、名称を「ロツクナツト及びロツクボルト及びロツクネジ」(後に「セルフロツクねじ部材」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和五二年特許願第一三一五二七号、以下「本件特許出願」という。)をし、昭和五六年五月八日出願公告(昭和五六年特許出願公告第一九四九二号)された。
2 訴外Bは、昭和五五年七月一日訴外Aから特許を受ける権利を譲り受け、昭和五六年五月二五日特許庁長官に対し特許出願人名義変更届出をした。
3 前記出願公告後、特許異議の申立てがなされたが、特許庁審査官は昭和五七年三月一六日特許異議申立ては理由がないとの決定とともに本件特許出願につき特許をすべき旨の査定(以下「本件特許査定」という。)をし、その謄本は同年六月一五日訴外Bの代理人Cに送達された。
4 原告は、本件特許査定後その謄本の送達前である昭和五七年四月一六日訴外Bから特許を受ける権利を譲り受け、同月二七日特許庁長官に対し特許出願人名義変更届(以下「本件名義変更届」という。)を提出し、右届出は同年七月二八日受理されてその効力を発生した。
5 その後、特許庁は、昭和五七年一〇月二三日本件特許出願について拒絶理由通知をしたので、原告は昭和五八年一月一三日付手続補正書(以下「第一次補正書」という。)を提出したが、同年九月五日拒絶査定(以下「本件拒絶査定」という。)を受けた。
そこで、原告は、昭和五八年一一月三日審判を請求し、昭和五八年審判第二三八〇九号事件として審理され、その間同年一二月二三日付手続補正書(以下「第二次補正書」という。)を提出したが、昭和六〇年八月一四日「昭和五八年一月一三日付けの手続補正を却下する」との決定及び「昭和五八年一二月二三日付けの手続補正を却下する」との決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は昭和六〇年九月二八日原告に送達された。
二 本願発明の要旨 螺旋状に形成された第一ねじ山を有し、この第一ねじ山は根元部と先端部、及び前記根元部から先端部に向つて所定のフランク角で集束する二つの側面とからなり、前記第一ねじ山には前記先端部から半径方向に切り込まれたスリットが形成された第一ねじ部材と、前記第一ねじ部材の第一ねじ山に係合する第二ねじ山を有し、この第二ねじ山は根元部と先端部、及び前記根元部から前記先端部に向つて所定のフランク角で集結する二つの側面とからなる第二ねじ部材との組合わせであつて、前記第一ねじ部材のねじ山のスリツト部分におけるフランク角は、前記第二ねじ部材の第二ねじ山のフランク角より小さく、前記第一及び第二ねじ部材が互に係合したとき前記第一ねじ部材のねじ山のスリツトを有する部分は前記スリツトを狭める方向に弾性変形させられるようになつたことを特徴とする第一、第二ねじ部材の組合わせ。
(別紙図面(一)参照)三 審決の理由の要点 本願は、昭和五二年一一月四日に出願され、昭和五六年五月八日に出願公告(昭和五六年特許出願公告第一九四九二号公報)され、昭和五七年一〇月二三日付けのその後発見した拒絶理由により昭和五八年九月五日付けで拒絶査定をされたものであつて、その発明の要旨は、請求人(出願人)が昭和五八年一月一三日付け及び昭和五八年一二月二三日付けで提出した手続補正がいずれも当審において補正却下の決定を受けたので、出願公告された明細書と図面の記載からみて、その特許請求の範囲第一項に記載された前項記載のとおりのものと認める。
これに対して、原審において出願公告後に発見した拒絶理由として引用された米国特許第七九三、八二四号明細書(以下「引用例」という。)には、螺旋状に形成されたねじ山を有し、このねじ山は根元部と先端部、及び前記根元部から先端部に向つて所定のフランク角で集束する二つの側面とから成り、前記ねじ山には前記先端部から半径方向に切り込まれたスリツトが形成されたボルトあるいはナツトと、
前記ボルトあるいはナツトのねじ山に係合するねじ山を有し、このねじ山は根元部と先端部、及び前記根元部から前記先端部に向つて所定のフランク角で集結する二つの側面とから成るナツトあるいはボルトとの組合せであつて、前記ボルトとナツトが互いに係合したとき、一方のねじ山のスリツトを有する部分は前記スリツトを狭める方向に弾性変形させられるようになつているボルトとナツトの組合せという構成が図面とともに記載されており、かつ、ボルトのねじ山のスリツト部分におけるフランク角をナツトのねじ山のフランク角より小さくした構成は図面第四図に明示されているものと認められる。
そこで、本願発明と引用例に記載されたものを比較してみると、本願発明における第一、第二ねじ部材が引用例に記載されたものにおけるボルトおよびナツトのそれぞれいずれかに該当することは明らかであつて、両者の間に構成上の差異があるものとは認められない。
したがつて、本願発明は、引用例に記載されたものと同一であつて、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
四 審決の取消事由1 本件特許出願についての特許庁における手続の経緯は、前記一のとおりであつて、本件特許出願については、本件特許査定謄本が昭和五七年六月一五日訴外Bの代理人Cに送達されたことにより特許査定の効力を生じた。
被告は、特許出願後における特許を受ける権利承継は、特許庁長官に対する届出によつてその効力を生じるのであり、本件においては、昭和五七年四月二七日付けの本件名義変更届によつて権利承継の効力を生じ、特許出願人の地位は原告に移り、訴外Bはその地位を喪失したから、本件特許査定謄本の送達は正当な受領権限のない訴外Bの代理人Cを受送達者としてなされたものであつて、無効であり、特許査定の効力を生じない旨主張する。
しかしながら、原告が昭和五七年四月二七日付けで特許庁長官に対して提出した本件名義変更届について、特許庁長官は特許法施行規則第5条の規定にのつとり届出の合式性及び内容充足性について審査し、同年七月二八日これを認容して届出を受理した。したがつて、本件名義変更届は同日その効力が発生したものであるから、それ以前に訴外Bの代理人Cを受送達者としてなされた本件特許査定謄本の送達は正当な受領権限を有する者に対してなされたものであつて、有効であり、本件特許出願についてなされた一連の手続の効力ないし本件特許査定の効力は特許法第20条の規定により承継人たる原告に及ぶことが明らかである。
仮に、本件名義変更届が昭和五七年四月二七日にその効力を生じ、訴外Bの代理人Cが本件特許査定謄本を受領する正当な権限を有していなかつたとしても、原告は同年六月二五日訴外Bから本件特許査定謄本を受領したから、本件特許査定謄本は同日正当な受領権者に送達されたことになり、特許査定の効力が生じたものである。
したがつて、本件特許査定により、本件特許出願について特許査定の効力が生じた後になされた本件拒絶査定は違法であり、右拒絶査定の適法であることを前提としてなされた審決は違法として取り消されるべきである。
2 被告は、仮に本件特許査定がその効力を生じ、本件拒絶査定が違法であるとしても、原告において、本件特許査定謄本が訴外Bの代理人Cに送達された後も本件特許出願についての手続を続行し、拒絶査定不服審判において本件拒絶査定の違法を主張することができたのに何ら主張しなかつたから、本件特許査定謄本送達が無効であることを容認し、本件拒絶査定の違法に対する質問権を放棄したものである旨主張する。
しかしながら、原告は審判請求書(乙第三号証)において、本件特許出願について本件特許査定がなされたこと、ところがそれは誤送との名のもとに拒絶理由通知及び本件拒絶査定がなされたことを主張しているのであつて、質問権を放棄したものではない。また、本件特許査定がなされ、右謄本の送達によつて特許査定の効力が生じ、したがつて、本件拒絶査定が違法でないかどうかは職権調査事項であつて、責問権の対象となるものではない。
請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一の事実のうち、本件名義変更届の効力が昭和五七年七月二八日に生じたことは否認し、その余は認める。
二 同二及び三の事実は認める。
三 同四は争う。
1 審査官によつてなされる特許査定は、文書をもつて行い、かつ、理由を付さなければならず(特許法第63条第1項)、その文書には特許法施行規則第35条各号に定める事項を記載し、査定をした審査官が記名し、印を押さなければならない。右記載事項のうち、特許出願人及び代理人の氏名又は名称(同条第四号)は、
特許出願を特定する重要な事項であり、さらに、送達に関して重大な影響を与えるものであるから、その記載の誤りは査定の記載要件の欠陥があるものとして、査定を無効にする。
また、特許査定があつたときは、特許庁長官は特許査定の謄本を特許出願人に送達しなければならず(特許法第63条第2項)、特許査定は特許出願人を相手方とする行政処分であるから、右送達により特許査定を告知しなければ効力を生じない。
これを本件についてみると、本件特許査定は、本件名義変更届が提出される以前の昭和五七年三月一六日付けでなされたものであつて、その時点においてはいつたん内部的に成立した行政処分ということができるが、本件特許査定謄本が訴外Bに送達される以前の昭和五七年四月二七日付けの本件名義変更届によつて同人から原告に対する特許を受ける権利承継の効力を生じ、特許出願人の地位は原告に移り、訴外Bはその地位を喪失したから、訴外Bを特許出願人と記載してなされた本件特許査定は特許法施行規則第35条に規定する記載要件を欠き、無効である。
また、本件特許出願については、本件特許査定謄本の送達前に本件名義変更届がなされ、訴外Bは出願人の地位を喪失したにもかかわらず、本件特許査定謄本の送達は正当な受領権限のない訴外Bの代理人Cを受送達者としてなされたものであるから無効であり、本件特許査定は行政処分としての効力を生じない(特許庁長官は、同年八月二三日C宛に本件特許査定謄本の送達が誤送である旨通知した。ただし、右通知による法律上の効果を主張するものではない。)。
したがつて、本件特許査定が行政処分としての効力を生じていない以上、その後本件特許出願についてなされた本件拒絶査定は有効であり、これを前提としてなされた審決には何ら違法はない。
原告は、本件名義変更届は、昭和五七年七月二八日に効力が生じた旨主張する。
しかしながら、特許法第34条第4項第五項、特許法施行規則第9条に規定する届出については、民法の一般原則が適用された民法第97条の規定により特許庁に当該書類が到達したときに届出の効力を生じる。原告主張の日は、特許庁内部において本件名義変更届の事務処理(方式審査)が完結した日であつて、その日をもつて効力が生じたものではない。
また、原告は、特許法第20条の規定により、本件特許出願についてなされた一連の手続の効力ないし本件特許査定の効力が承継人たる原告に及ぶと主張するが、
同条は権利の移転前にした手続が適法かつ有効になされたことを前提とするものであつて、本件特許査定が有効に成立していない以上、同条にいう手続に含まれないことは明らかである。
2 仮に本件特許査定がその効力を生じ、本件拒絶査定が違法であるとしても、原告は、訴外Bの代理人Cに本件特許査定謄本が送達された後も請求の原因一5のとおり本件特許出願についての手続を続行し、拒絶査定不服審判において本件拒絶査定の違法を主張することができたのに何ら主張しなかつたから、本件特許査定謄本の送達が無効であることを容認し、本件拒絶査定の違法に対する責問権を放棄したものというべきであり、もはや本訴においてこれを主張することは許されない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)の事実のうち、本件名義変更届の効力が生じた年月日を除くその余の事実、同二(本願発明の要旨)、同三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
前記当事者間に争いのない事実によれば、本件特許出願については、昭和五六年五月八日出願公告(昭和五六年特許出願公告第一九四九二号)されたところ、特許異議の申立てがなされたが、特許庁審査官は昭和五七年三月一六日特許異議の申立ては理由がないとの決定とともに本件特許出願につき特許をすべき旨の本件特許査定をしたものである。
ところで、特許査定は、当該特許出願について特許権を付与すべきことを定める行政処分であつて、文書をもつて行い、かつ、理由を附することを要する(特許法第63条第1項)が、特許査定には、理由のほかに特許出願の番号、発明の名称、
特許請求の範囲に記載された発明の数、特許出願人及び代理人の氏名、査定の結論、査定の年月日を記載し、審査官がこれに記名押印しなければならず(特許法施行規則第35条)、特許庁長官は特許査定があつたときは、右査定の謄本を特許出願人に送達しなければならないと定められている(特許法第63条第2項)。一般に相手方の受領を要する行政処分については、処分の告知が相手方に到達することによつて処分の効力が発生するのを本則とするから、特許査定は特許出願人に対しその謄本の送達がなされたときに効力が発生するものと解すべきである。
これを本件についてみるに、成立に争いのない乙第二号証によれば、本件特許査定には、「特許出願の番号」特願昭五二ー一三一五二七、「特許庁審査官」D、
「査定の年月日」昭和五七年三月一六日、「発明の名称」セルフロツクねじ部材、
「特許請求の範囲に記載された発明の数」一、「特許出願人」B、「代理人」C、
「出願公告」昭和五六年五月八日(特公昭五六―一九四九二号)と記載され、かつ「この出願については、拒絶の理由を発見しないから、この出願の発明は、特許をすべきものと認める。」と記載され、D名下にDの印が押捺されていることが認められ、本件特許査定謄本が昭和五七年六月一五日特許出願人である訴外Bの代理人Cに送達されたことは、当事者間に争いがない。
そこで、本件特許査定謄本が特許出願人に送達されたことによつて特許査定の効力を生じたかについて検討すると、原告が本件特許査定後その謄本の送達前である昭和五七年四月一六日訴外Bから特許を受ける権利を譲り受け、同月二七日特許庁長官に対し本件名義変更届を提出したことは前示のとおりである。
原告は、昭和五七年四月二七日付けで特許庁長官に対して提出した本件名義変更届について特許庁長官は特許法施行規則第5条の規定にのつとり右届の合式性及び内容充足性について審査し、同年七月二八日これを認容して右届を受理したから、
本件名義変更届は同日その効力が発生した旨主張する。
なるほど、成立に争いのない乙第一号証によれば、本件名義変更届の第一頁には、主査の「本件の名義変更は差支えないかお伺する昭和五七年七月二八日」との伺文言が存し、体裁上伺に対する決裁印と目される「課長●●」なる印が押捺されていることが認められる。
しかしながら、特許出願後の特許を受ける権利承継は、意思表示のみでは効力を生じず、特許庁長官への届出が効力発生の要件とされており(特許法第34条第4項)、その届出は、特許法施行規則様式第七に定める「特許出願人名義変更届」によりしなければならず(同規則第12条)、特許庁長官はこれが適法になされたものであるかについて審査し、その届出に重大な瑕疵又は方式上の不備があり、それが補正によつて治癒され得ないような場合に、その届出を却下する意味において不受理処分をし、当該書類を返却することができるが、届が適法になされたものと認められたときは、格別の措置はとられず、特許庁に当該書類を提出したときに、
届出の効力を生じるものというべきである。けだし、この届出の効力発生時期については、特許法に特別の規定が設けられていないから、民法の意思表示の効力発生時期に関する一般原則(同法第97条第1項)を準用し、当該名義変更届に関する書類が特許庁に到達したときにその効力を生じると解するのを相当とするからである。
したがつて、本件名義変更届第一頁に存する前記の文言及び押印は、特許庁における審査の経過を示すものにすぎず、本件名義変更届につき不受理処分がなされていないことは、弁論の全趣旨に徴し明らかである以上、本件名義変更届は昭和五七年四月二七日に届出の効力を生じたものというべきである。これに反する原告の前記主張は失当とすべきである。
ところで、特許出願後審査あるいは審判の手続中に特許を受ける権利特定承継があつた場合に、右承継は手続に影響を及ぼさず、旧権利者は右承継によつて手続を追行する権能を失わないとしてそのまま手続を追行させ、査定あるいは審判の効力を権利の承継人に及ぼさせることとするか、あるいは、特許を受ける権利特定承継に伴い該承継人を手続に関与させ、出願人の地位を引き継がせて、これに対して査定、審判をすることとするか、及び後者の立場を採る場合、どのような方法によつて権利の承継人に手続を引き継がせるかは、民事訴訟における当事者恒定主義又は訴訟承継主義の採否と同じく、立法政策によつて決定されるべき問題であるところ、特許法は、第21条に、「特許庁長官又は審判長は、特許庁に事件が係属している場合において、特許権その他特許に関する権利の移転があつたときは、特許権その他特許に関する権利の承継人に対し、その事件に関する手続を続行することができる。」と規定し、基本的に後者の立場を採用し(右規定は、成立した特許権をめぐる事件の手続中に権利が承継された場合をも対象とするが、その規定部分はもとより本件に係りがない。)、特許庁長官又は審判長が権利の承継人に手続を引き継がせるかどうかを決定し得るものと定めた。このように特許庁長官又は審判長がその裁量に基づき権利の承継人に手続を引き継がせるかどうかを決定し得るものとしたのは、例えば、審査又は審判が終結に熟していて権利の承継人を手続に関与させる具体的必要に乏しいとか、権利の特定承継の届出についての方式審査が未了で旧権利者にそのまま手続を追行させるのが適当であるなど当該事件に対する審査又は審判の状況に応じて事宜に適すると認めるときは旧権利者を出願人の地位にある者として手続を追行させることができ、他方において、特許庁長官又は審判長が相当と認めるときは権利の承継人に手続を引き継がせることもできるとしたものであり(権利の承継人に手続を引き継がせるときは、特許法施行規則第17条により当事者にその旨を通知しなければならないと定められている。)、このことは比較的広般な範囲の職権主義を採用している特許法の建前にも適合するものと考えられる。そして、特許庁長官又は審判長が旧権利者にそのまま手続を追行させることとした場合、旧権利者は手続追行の権能を保有するとともに、旧権利者に対する査定又は審決など特許を受ける権利についてなされた処分の効力は権利の承継人にも及ぶのであり、特許法第20条の規定は右の趣旨を含むものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、特許を受ける権利は、昭和五七年三月一六日になされた特許査定の謄本を特許出願人に送達する前である同年四月二七日原告に承継されたものであるが、特許庁長官は権利の承継人である原告に対し、手続を続行することなく、同年六月一五日従前の権利者である訴外Bの代理人Cに本件特許査定謄本を送達したものであるから、右送達は、その裁量により前記特許を受ける権利承継後における従前の権利者に対する手続の続行としてなされたものというべきである。したがつて、右送達には何ら手続上の瑕疵はなく、本件特許査定は右送達により効力が生じ、その効力は承継人である原告に及ぶことが明らかである。
被告は、本件特許査定は、昭和五七年三月一六日付けでなされたものであつて、
その時点においてはいつたん内部的に成立した行政処分であるが、同年四月二七日付けの本件名義変更届によつて特許を受ける権利承継の効力を生じ、特許出願人の地位は原告に移り、訴外Bはその地位を喪失したから、訴外Bを特許出願人と記載してなされた本件特許査定は特許法施行規則第35条の規定する要件を欠き、無効である旨主張する。
しかしながら、本件名義変更届がなされたことにより原告に特許を受ける権利承継されても、従前の権利者に対し手続を続行することができ、その場合、右手続においては従前の権利者は特許出願人の地位を有すること、前述のとおりであるから、権利承継前になされた本件特許査定に、前記認定のとおり「特許出願人」B、
「代理人」Cと記載されているからといつて、右査定が無効となることはあり得ず、被告の右主張は理由がない。
また、被告は、本件特許査定謄本の送達は正当な受領権限のない訴外Bの代理人Cを受送達者としてなされたから無効である旨主張するが、特許庁長官が特許を受ける権利承継後も従前の権利者に対する手続の続行として特許査定謄本を送達する場合、右手続については従前の権利者が特許出願人の地位を失わない以上、右送達について従前の権利者の代理人はこれを受領する権限を有することが明らかであるから、この点についての被告の主張も採用することができない。
被告は、原告は、訴外Bの代理人Cに本件特許査定の謄本が送達された後も請求の原因一(特許庁における手続の経緯)5のとおり本件特許出願についての手続を続行し、拒絶査定不服審判において本件拒絶査定の違法を主張することができたのに何ら主張しなかつたから、本件特許査定謄本の送達が無効であることを容認し、
本件拒絶査定の違法に対する責問権を放棄したものというべきである旨主張する。
前記当事者間に争いのない事実によれば、特許庁は昭和五七年一〇月二三日本件特許出願について拒絶理由通知をしたのに対し、原告は昭和五八年一月一三日付第一次補正書を提出したが、同年九月五日本件拒絶査定を受けたことが明らかである。
しかしながら、本件特許査定は、その査定謄本の送達によつて効力を生じたものであつて、その手続に何らの瑕疵も存せず、既に本件特許出願について特許すべきものとした特許査定が確定しているのであるから、その後において拒絶理由通知をしてもその通知自体が無効であり、これに対する応答してなされた第一次補正書の提出、本件拒絶査定はいずれもその効力を生じないことは明らかであるから、その後の審判手続において本件拒絶査定の違法を主張しなかつたからといつて、その違法について責問権を放棄したものということはできない。しかも、成立に争いのない乙第三号証によれば、原告は本件審判請求書において、請求の理由として、
「(@)昭和五七年三月一六日第二次出願人に対し、特許異議申立人について(この特許異議の申立は、理由がないものと決定する)結論の特許異議の決定をすると共に本件出願について特許査定謄本を発したのである。(A)ところが、それは誤送との名のもとに下記の点を挙げた拒絶理由通知がされ(中略)本件出願については下記理由のもとに拒絶査定が発せられ」(第四頁第三行ないしは第五頁第四行)と主張していたことが認められるから、審判手続において本件拒絶査定が本件特許査定謄本送達後になされたことを審判を請求する理由中に指摘していたことが明らかであり、本件特許査定謄本の送達が無効であることを容認していたものということはできないから、被告の右主張は理由がない。
以上のとおりであるから、本件拒絶査定は本件特許査定の確定後になされたものであつて無効であり、これが有効であることを前提としてなされた審決は違法として取消しを免れない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 蕪山嚴
裁判官 竹田稔
裁判官 濱崎浩一