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事件 昭和 59年 (ワ) 7127号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1987/11/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、別紙目録(一)―一及び(二)記載の方法を使用して寄木模様建材を生産してはならない。
二 被告は、別紙目録(一)―一、(一)―二及び(二)記載の方法を使用して生産された寄木模様建材を譲渡し、譲渡のために展示してはならない。
三 被告は、その占有にかかる前項記載の寄木模様建材を廃棄せよ。
四 被告は原告に対し、金一億三三五九万九九五九円及びこれに対する昭和五九年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告のその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
七 この判決の第一ないし第四項は仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、別紙目録(一)―一、(一)―二及び(二)記載の方法を使用して寄木模様建材を生産してはならない。
2 被告は、前項の寄木模様建材を譲渡し、譲渡のために展示してはならない。
3 被告は、その占有にかかる1項記載の寄木模様建材を廃棄せよ。
4 被告は原告に対し、金三億三六五〇万八二二七円及び内金一億四九九八万二〇〇〇円に対する昭和五九年一〇月九日から、内金一億二五八九万〇八一二円に対する昭和六〇年一一月二八日から、内金六〇六三万五四一五円に対する昭和六一年一二月五日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
一 請求原因1 原告は、左の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を単独で有していたところ、昭和五七年六月二五日訴外山陽国策パルプ株式会社、同松下電工株式会社及び同貞重特殊合板工業株式会社と共有の登録を了し、本件特許権を共有している。
発明の名称 寄木模様建材の製造法出願日 昭和四七年五月二五日出願公告日 昭和五二年二月二一日登録日 昭和五六年八月三一日登録番号 第一〇六二七五三号特許請求の範囲 別添特許公報該当欄記載のとおり2(一) 本件発明の構成要件 本件発明にかかる寄木模様建材の製造法は、次の構成要件から成る。
(1) 繊維飽和点(「における含水率」の意味である。)以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材をその相互間に水中ないし高湿度中で硬化する接着剤を介して積層しかつ冷圧一体化して積層ブロツクを形成する。
(2) 次いでこの積層ブロツクを各板材の積層断面が得られる方向に薄く切削して寄木模様化粧単板を得る。
(3) 次いでこの単板を基板に貼着する。
(二) 本件発明の作用効果 本件明細書に記載された本件発明の作用効果は次のとおりである。
(1) 積層ブロツクの切削に基づく作用効果「化粧材となる材料の板材を積層し接着一体化することによつて、実質的な寄木工程を完了し、得られた積層ブロツクをスライサー切削することによつて寄木模様化粧単板をつくり、さらにそれを基板に貼着することによつて所期する寄木模様建材を得るものであるから、前述した従来法のように小さな木片を寄木模様に組合わせる作業を不要とし、所要工数と時間の大巾な節減を達成しうる。」(2) 湿潤な板材をそのまま用いることによる作用効果「湿潤な板材をそのまま用いて積層し、切削を行うものであるから、従来法においては勿論、公知の集成材の製造技術においても必須とした最も問題の木材の乾燥工程を省略しうる実際上極めて顕著な経済的、時間的利点を有する。しかも積層する板材を乾燥させないので、それに内部応力が発生することがなく、反りや狂いを生じることがない。したがってそれを平滑にする修正作業が不要となり、材料の歩留りを向上しうると共に、同様の理由で、積層ブロツクにした場合の板材相互の接着部分の接着強度を全体に安定的に維持することができ、切削時において接着面が切削抵抗によつて剥離するというような弊害の発生を避けることができる。」3 被告は、業として別紙目録(一)―一、(一)―二及び(二)記載の方法(以下それぞれ「被告方法(一)―一」「同(一)―二」「同(二)」という。
)を使用して寄木模様建材を生産し、譲渡している。
4(一) 被告方法(一)―一の構成を分説すると次のとおりである。
(1)’ 三五%以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材をその相互間に湿気硬化型一液性ポリウレタン系樹脂接着剤を介して乱尺になるように積層しかつ冷圧一体化して積層ブロックを形成し、
(2)’ 次いでこの積層ブロツクを各板材の積層断面が得られる方向に薄く切削して寄木模様化粧単板を得、
(3)’ 次いでこの単板を基板に貼着することによる 寄木模様建材の製造方法(二) 被告方法(一)―二の構成を分説すると次のとおりである。
(1)’ 三五%以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材をその相互間に湿気硬化型一液性ポリウレタン系樹脂接着剤を介して積層しかつ冷圧一体化して積層ブロツクを形成し、
(2)’ 次いでこの積層ブロツクを各板材の積層断面が得られる方向に薄く切削して寄木模様化粧単板を得、
(3)’ 次いでこの寄木模様単板を略正方形に裁断し、
(4)’ 複数枚の寄木模様単板を市松模様になるように基板に貼着することによる 寄木模様建材の製造方法(三) 被告方法(二)の構成を分説すると次のとおりである。
(1)’ 三五%以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材をその相互間に湿気硬化型一液性ポリウレタン系樹脂接着剤を介して積層しかつ冷圧一体化して積層ブロツクを形成し、
(2)’ 次いでこの積層ブロツクを所定の寸法に切断して小積層ブロツクとなし、
(3)’ 複数の小積層ブロツクをその相互間に湿気硬化型一液性ポリウレタン系樹脂接着剤を介して市松模様になるように並べかつ冷圧一体化して集成積層ブロツクを形成し、
(4)’ この集成積層ブロツクを各板材の横断面が得られる方向に薄く切削して寄木模様単板を得、
(5) 次いでこの単板を基板に貼着することによる 寄木模様建材の製造方法 5(一) 被告方法(一)―一と本件発明とを対比すると次のとおりである。
(1) 被告方法(一)―一の構成(1)’における「三五%以上の含水率」は本件発明の構成要件(1)の「繊維飽和点における含水率以上の含水率」にあたる。
けだし、繊維飽和点における含水率は二五〜三五%だからである。
被告方法(一)―一の構成(1)’における「湿気硬化型一液性ポリウレタン系樹脂接着剤」は、本件発明の構成要件(1)’における「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」の一つである。
被告方法(一)―一の構成(1)’における「複教枚の板材をその相互間に…接着剤を介して乱尺になるように積層しかつ冷圧一体化して積層ブロツクを形成する」点は、「乱尺になるように」というのが本件発明の構成要件(1)実施態様の一つであるだけで、その余は右構成要件(1)と全く同一である。
したがって、被告方法(一)―一の構成(1)’は本件発明の構成要件(1)を充足する。
(2) 被告方法(一)―一の構成(2)’は本件発明の構成要件(2)と全く同一である。
(3) 被告方法(一)―一の構成(3)’は本件発明の構成要件(3)と全く同一である。
(4) 被告方法(一)―一は、前記の構成をとることにより、積層ブロツクの切削に基づく作用効果及び湿潤な板材をそのまま用いることによる作用効果とも本件発明の前記作用効果と同一の作用効果を奏する。
(5) よつて、被告方法(一)―一は本件発明の技術的範囲に属する。
(二) 被告方法(一)―二は、構成(1)’において「乱尺になるように」というのがなく、構成(2)’の次に構成(3)’として「寄木模様単板を略正方形に裁断し」という構成があり、構成(4)’において寄木模様単板を「市松模様になるように」基板に貼着する点で被告方法(一)―一と相違するだけで、その余は被告方法(一)―一と同一である。そして、寄木模様単板を略正方形に裁断することと市松模様になるように基板に貼着することは、本件発明の明細書の実施例に記載された実施態様にすぎない。
したがつて、被告方法(一)―二は、被告方法(一)―一と同様本件発明の技術的範囲に属する。
(三) 被告方法(二)は、その構成(2)’で「積層ブロツクを所定の寸法に切断して小積層ブロツクとなし」、同(3)’で「複数の小積層ブロツクをその相互間に湿気硬化型一液性ポリウレタン系樹脂接着剤を介して市松模様になるように並べかつ冷圧一体化してして集成積層ブロツクを形成し」というものであり、このような工程を中間に置く点で先にみた被告方法(一)とは異なつている。
しかし、本件発明は、構成要件(1)ないし(3)の三工程の中間に右のような工程を介在させることを排除しているわけではないから、被告方法(二)は本件発明の実施態様の一つにすぎない。
したがつて、被告方法(二)は本件発明の技術的範囲に属する。
6(一) 被告は、昭和五六年一〇月三日から同五九年六月二日までの間に被告方法(一)―一を使用して価額合計四三億七四六〇万六九五八円を下らない金額の寄木模様建材を生産、譲渡した。利益率は五%を下らないから、右により被告の得た利益は二億一八七三万〇三四八円を下らない。
(二) 被告は、前記期間に被告方法(一)―二を使用して価額合計一億三四六〇万三二九一円を下らない金額の寄木模様建材を生産、譲渡した。利益率は五%を下らないから、右により被告の得た利益は六七三万〇一六四円を下らない。
(三) 被告は、前記期間に被告方法(二)を使用して価額合計二二億二〇九五万四三〇一円を下らない金額の寄木模様建材を生産、譲渡した。利益率は五%を下らないから、右により被告の得た利益は一億一一〇四万七七一五円を下らない。
(四) 以上の被告の得た利益の合計は三億三六五〇万八二二七円となるところ、
特許法102条1項の規定により右金額が原告の被つた損害の額と推定される。
7 よつて、原告は被告に対し、本件特許権に基づき被告方法(一)―一、同(一)―二及び同(二)を使用して寄木模様建材を生産すること、右寄木模様建材を譲渡し、譲渡のために展示することの差止め及び右寄木模様建材の廃棄並びに不法行為による損害金三億三六五〇万八二二七円及びいずれも不法行為の後である内金一億四九九八万二〇〇〇円に対する昭和五九年一〇月九日(本件訴状送達の日の翌日)から、内金一億二五八九万〇八一二円に対する昭和六〇年一一月二八日(同年同月二六日付訴の変更(拡張)の申立書送達の日の翌日)から、内金六〇六三万五四一五円に対する昭和六一年一二月五日(同年同月二日付訴の変更(拡張)の申立書(二)送達の日の翌日)から、各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3の事実は否認する。被告が業として使用している寄木模様建材の製造方法は別紙目録(三)(以下「イ号方法」という。)、別紙目録(四)(以下「ロ号方法」という。)記載のとおりである。また、被告は、イ号方法及びロ号方法を使用して寄木模様建材を製造し、販売しているほか、昭和五六年一一月一二日から同六〇年三月二〇日までは第三者が別紙目録(五)(以下「ハ号方法」という。)記載の方法で製造した寄木模様建材を購入して販売していた。
3 同4、5は否認する。
4(一) 同6(一)は否認する。被告がイ号方法によって寄木模様建材を製造、
販売した価額合計は三六億〇七〇五万七〇二四円である。
(二) 同6(二)は否認する。被告がハ号方法によって製造された寄木模様建材を販売した価額合計は五六七三万〇八九一円である。
(三) 同6(三)は否認する。ただし、被告がロ号方法によって寄木模様建材を製造、販売した価額合計が、原告が被告方法(二)による寄木模様建材の製造販売価額合計と主張する金額のとおりであることは認める。
三 被告の主張1 本件発明の工程について(一) 本件発明は、寄木模様建材の製造法に関するものであり、原告主張の請求原因2(一)の(1)ないし(3)記載の三つの工程(第一ないし第三工程)から成ることを構成要件とするものであるが、右第一ないし第三工程を一連に構成したものであり、その連続する第一ないし第三工程に限定されているものである。
本件発明は、右の一連の工程から成る技術的構成について、特許請求の範囲に「(第一工程)…次いで(第二工程)…次いで(第三工程)…を特徴とする寄木模様建材の製造法」と記載している。したがつて、第一工程に次いで第二工程が行われる、すなわち、第一工程と第二工程とは、その間に別の工程を介在させることなく一連に構成されることを意味する。また、同様に第二工程に次いで第三工程が行われるものであるから、第二工程と第三工程も、その間に別の工程を介在させることなく一連に構成されるものである。
(二) 本件発明の目的は、明細書に次のごとく記載されている。「この発明は、
上記のような問題点に鑑み、寄木模様建材の量産性を向上するべく、とくに従来の寄木工程を簡略化し、かつ乾燥工程を省略することを基本的な技術的課題となされたものであつて、概略的には、乾燥処理を施さない湿潤な複数枚の板材を用い、これをそのまま積層し接着一体化して積層ブロツクを形成する第一工程と、これを切削して寄木模様の化粧単板をつくる第二工程と、これを基板に貼着する第三工程とよりなるものである。」(本件公報二欄八〜一七行) この記載から明らかなように、本件発明の目的は、工程を簡略化ないし省略することにより寄木模様建材の量産性を向上する点にある。
したがつて、右の目的を達成するため、本件発明は、前記第一ないし第三工程を、各工程中に煩雑な工程を介在せしめることなく、一連に構成したものである。
(三) 本件発明の効果は、明細書に次のごとく記載されている。「以上の通り、
この発明によれば所期する寄木模様建材を、湿潤な木材から出発して極めて短時間のうちに、しかも簡単かつ能率的に生産し得、量産性を向上して、製品コストの大巾な低減をはかり得るものである。」(本件公報四欄二〇〜二四行) この記載から明らかなように、本件発明は、極めて短時間のうちに寄木模様建材を簡単かつ能率的に量産する効果を奏するものである。
したがつて、右の効果を奏するためには、本件発明は、前記第一ないし第三工程を、各工程中に余計な工程を介在せしめることなく、一連に構成したものでなければならない。
(四) 公知技術参酌 本件発明の前記第一ないし第三工程は、いずれも本件発明の出願前に公知の技術である。
まず、昭和四二年一一月二〇日森北出版株式会社発行の【A】著「特殊合板」(乙第二六号証)一五八頁の「F、人工柾合板」の欄には「ラワン厚単板を積層、
堆積し、接着剤で接着して(冷圧)ブロツクを作る。このブロツクを図2、94に示すようにスライサーで切削し、単板を作る。この単板を表単板とし、裏板および心板はロータリー単板を用いて作られた合板を人工柾合板といい」と記載されている。すなわち、この人工柾合板は、本件発明の構成要件のうち、構成要件(1)中の「複数枚の板材を接着剤を介して積層しかつ冷圧一体化して積層ブロツクを形成する工程」と、同(2)の「この積層ブロツクを各板材の積層断面が得られる方向に薄く切削して寄木模様化粧単板を得る工程」と、同(3)の「この単板を基板に貼着する工程」とを組合わせて製造されるものであり、本件発明の積層ブロツクの切削に基づく作用効果を奏するための構成をすべて備えている。
また、特許出願公告昭三五―一八三九一号公報(乙第五号証)、特許第九二四二号明細書(乙第六号証)においても、前記積層ブロツクの切削に基づく作用効果を奏するための構成である、複数枚の板材を接着剤を介して積層して積層ブロツクを形成し、この積層ブロツクを各板材の積層断面が得られる方向に薄く切削して寄木模様化粧単板を製造し、この単板を基板に貼着する点が示されている。
このように、本件発明の構成要件中前記の積層ブロツクの切削に基づく作用効果を奏するための構成は、従来より広く知られた公知技術にすぎない。したがつて、
本件発明がこれらの公知技術と相違する点は、湿潤な板材をそのまま用いることによる作用効果を奏するための構成の点にすぎない。
しかし、湿潤な板材をそのまま用いることによる作用効果は、従来より広く知られている常識的なことにすぎない。すなわち、湿潤な板材を乾燥させずにそのまま接着させることができれば、木材の乾燥工程を省略することができ、経済的にも時間的にも有利になることは当然であり、また、板材を乾燥させなければ、板材に乾燥の際の内部応力によつて反りや狂いが生じることがなく、修正作業が不要となり、材料の歩留りが向上し、さらに、板材相互が平坦に接着され、接着強度が安定すること等も当然のことである。
例えば、昭和二九年四月一日社団法人日本合板検査会発行の「合格検査ノート」(乙第二七号証)や昭和四六年一月一日社団法人日本木材加工技術協会発行の「木材工業」(乙第二八号証)においては、湿つたままの生単板にそのまま接着剤を塗布して直接熱圧接着する湿式合板の利点として、乾燥を省略できるため、経済的、
時間的に有利であること、単板の収縮もなく、扱いによつてロスの少なくなることが示されている。また、特許出願公告昭四六ー八三五号公報(乙第二九号証)においては、ゴム系接着剤等の速乾性、疎水性の有機溶媒を用いた接着剤や、溶媒を含まない接着剤を用いて、含水率三〇%以上のベニヤ単板を乾燥せずに横矧ぎする方法が示されており、このように乾燥せずに接着する利点として、同公報一頁二欄二一〜三〇行に、ベニヤ単板のアバレ、クルイがなく、平坦状態で接着できるために確実に接合できることや、歩留りが向上する点等が示されている。さらに、「FOREST PRODUCTS JOURNAL1971」(乙第七号証)、「TRANSACTIONS OF THE ASAE」(乙第八号証)、「FOREST PRODUCTS JOURNAL 1960」(乙第九号証)、「FOREST PRODUCTS JOURNAL1956」(乙第一〇号証)や昭和三四年四月二五日高分子化学刊行会発行の「接着」(乙第三〇号証)においては、湿潤な板材を乾燥させずにそのまま用いるため、湿潤下においても硬化し、湿潤な板材相互を十分に接着できる接着剤として、レゾルシノール、カゼインや尿素樹脂粉末等の種々の接着剤を用いた例を検討しているのである。
このように、湿潤な板材をそのまま用いることによる作用効果は、従来より広く知られている常識的なことであり、また、
従来においては、湿潤な板材をそのまま用いるため、湿潤下においても硬化して湿潤な板材を十分に接着できる接着剤として、具体的な接着剤を種々検討しているのである。
しかるに、本件発明は、湿潤な板材をそのまま用いるための構成として、その特許請求の範囲に「繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材をその相互間に水中ないし高湿度中で硬化する接着剤を介して積層して一体化する」と記載しているだけである。すなわち、本件発明においては、従来具体的に検討されている、湿潤下においても硬化して湿潤な板材を十分に接着できる接着剤を、単に水中ないし高湿度中で硬化する接着剤として示しているだけであり、従来から検討されていることを、そのまま構成として記載しているにすぎないのである。
以上のとおり、本件発明は、その特許請求の範囲に記載されている構成がすべて出願前公知の技術にすぎない。本件発明が特許されたのは、いずれも出願前公知の技術である第一ないし第三工程を組み合わせて一連に構成したことにより「極めて短時間のうちに、ししかも簡単かつ能率的に生産し得、量産性を向上して、製品コストの大巾な低減をはかり得る」との効果を奏する点に新規性進歩性ありとされたからにほかならない。このことは、本件発明の出願経過における特許異議の決定の記載からも明らかである。
してみれば、本件発明は、前記第一ないし第三工程を一連不可分に構成したものに限定されており、右とは別の工程を中間に有するものは技術的範囲から除外していると解しなければならない。
2 本件発明の接着剤について(一) 本件発明は、第一工程において「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」を使用するものであるが、この接着剤は、水中硬化型接着剤、具体的にはエポキシ系の接着剤をいうものと解すべきである。
本件発明の接着剤が右のとおりであることは、本件発明の特許庁における出願審査経過を参照すれば明らかである。
すなわち、本件発明の原始明細書には、特許請求の範囲に「…水中硬化型接着剤を介して…」と記載され、同明細書三頁一一〜一二行に「…複数枚の湿潤状態の板材(1)を、相互間に水中硬化型接着剤(2)を介して積層し、…」、四頁八〜九行に「…具体的には例えばエポキシ系の接着剤が好適に用いられる…」と記載されていたにすぎない。右のように、本件発明の接着剤は、原始明細書に「水中硬化型接着剤」とのみ記載されていたところが、昭和四七年七月一五日付手続補正書により「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」に表現を改められた。
しかし、右補正にかかわらず、本件発明の接着剤はエポキシ系の接着剤に代表される「水中硬化型接着剤」であることに変わりはないと解すべきである。けだし、
本件発明は繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な板材を接着するために「水中硬化型接着剤」を使用することを出願当初からの構成要件とするものである。したがつて、これが単に表現を「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」に改められても、補正により明細書の要旨は変更されていないはずであるから、右補正後の「高湿度中で硬化する接着剤」とは、その「高湿度」の意味を「水中」と同義であると解しなければならない。後述するように「水中硬化型接着剤」と「湿気硬化型接着剤」とは全く異なる技術概念であるから、仮に右の補正により本件発明が前者の接着剤のみならず後者の接着剤をも包含するに至つたと解するならば、その補正は原始明細書に開示された限度を超えるものであり、明細書の要旨を変更するものとして補正を却下しなければならない(特許法53条1項)はずであり、これが却下されていないことは、補正によつても接着剤の概念に変更を生じていないからにほかならない。
(二) 本件発明の特許請求の範囲に記載された構成がすべて出願前公知の技術にすぎないことは、前記のとおりである。したがつて、本件発明の技術的範囲を解釈するにあたつては、その特許請求の範囲の記載からだけではなく、その発明の詳細な説明に記載された事項を参酌して解釈しなければならない。
本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、湿潤な板材を接着するのに使用する接着剤として、「湿潤状態の板材に対して強固な接着力を発揮し、かつ硬化後の切削が可能でその際切削刃に損傷を生じさせるおそれが少なく、しかも板材の色との関係で適当な色彩を呈するものであること等の各条件を満たす範囲内で適宜選択されるものであり、具体的には例えばエポキシ系の接着剤が好適に用いられるものである。」と記載されている。
ここで、湿潤状態の板材に対して強固な接着力を発揮するという点は、前記のとおり従来より検討されている事項であり、また、硬化後の切削が可能でその際切削刃に損傷を生じさせるおそれが少なく、しかも板材の色彩との関係で適当な色彩を呈するものであること等の点は、木材加工に利用される接着剤としての一般的条件にすぎないものである。これらの点は、例えば、昭和四一年一〇月一〇日森北出版株式会社発行の【B】著「木材の接着と接着剤」(乙第三一号証)、昭和四四年九月一五日高分子刊行会発行の「接着」九月号(乙第三二号証)・同年一〇月一五日発行の同一〇月号(乙第三三号証)に連載された【C】の論文「新しい汎用接着剤 硬化性エマルジョンの実際(T)および(U)」等の文献に開示されている。
したがつて、本件発明に特徴があるとすれば、繊維飽和点以上の含水率の板材を接着させるために、具体的にどのような接着剤を用いたかという点にすぎない。このため、本件発明の技術的範囲を解釈するにあたつては、繊維飽和点以上の含水率の板材を接着させる接着剤を、原始明細書に具体的に示されており、また、出願人が認識している範囲である水中硬化型のエポキシ系接着剤として解釈すべきである。
3 イ号方法、ロ号方法の構成(一) イ号方法は、次の工程を技術的構成とする寄木模様建材の製造法である。
(1) 第一工程 繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な板材(所定の厚さに調整し、平滑に仕上げたもの)を(第一工程(イ))、
所定の寸法になるよう、複数種の板片に切断する(第一工程(ロ))。
(2) 第二工程 右の複数種の板片を所定の厚みと模様になるように順次配列積層し、出来上り状態に仮にセツトする。
(3) 第三工程 周囲に五ミリメートルの板材をそえて右の各板片の全周面に一液性ポリウレタン樹脂接着剤を塗布し、三方向より冷圧し、接着一体化して積層板とする。
(4) 第四工程 右の積層板をスライサーにてスライスし(第四工程(イ))、
ライン模様の広幅化粧単板とする(第四工程(ロ))。
(5) 第五工程 右の広幅単板を基板に従来法で貼着し、サネ加工塗装仕上げをし、寄木フロアーとする。
(6) 右の第一工程から第四工程は繊維飽和点以上の高含水率にて行う。
(二) ロ号方法は、次の工程と技術的構成とする寄木模様建材の製造法である。
(1) 第一工程 繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な板材(所定の厚さに調整し平滑に仕上ったもの)を所定の厚みになるよう、複数枚積層し(第一工程(イ))、
一液性ポリウレタン樹脂接着剤を用い接着冷圧一体化し、積層フリツチとする(第一工程(ロ))。
(2) 第二工程 第一工程を終えた積層フリツチを所定の寸法に切断し、その表面をさらに正確な平滑面仕上、所定寸法とする。
(3) 第三工程 第二工程を終えた小フリツチを市松模様になるように順次配列し、出来上がり状態に仮にセツトする(第三工程(イ))。
周囲に五ミリメートルの板材をそえて、右の市松模様の全周面に一液性ポリウレタン樹脂接着剤を塗布し、三方向より冷圧し、接着一体化し集成フリツチとする(第三工程(ロ))。
(4) 第四工程 右の集成フリツチを、スライサーにてスライスし(第四工程(イ))、
市松寄木模様の広幅化粧単板とする(第四工程(ロ))。
(5) 第五工程 この広幅単板を基板に従来法で貼着し、サネ加工塗装仕上げし、寄木フロアーとする。
(6) 右の第一工程から第四工程は繊維飽和点以上の高含水率にて行う。
4 イ号方法、ロ号方法と本件発明との対比(一) 工程の相違(1) イ号方法は、前記のとおり第一ないし第五の各工程から成るものである。
したがつて、本件発明が第一工程において複数枚の板材を直ちに接着積層して積層ブロツクとするのに対し、イ号方法は、積層ブロツクを得るまでに「板材を切断して複数種の板片を形成する工程」(第一工程(ロ))と、「接着積層に先立って板片が適当な模様を呈するように仮にセツトする工程」(第二工程)と、「接着に際し周囲に板材をそえる工程」(第三工程)とを有するものである。本件発明は、前記のとおりいずれも公知の第一ないし第三の各工程を特許請求の範囲に記載されたとおりに選択組合わせた点にのみ新規性を有し、それ以外の工程を除外したものであるのに対し、イ号方法は、右のように本件発明とは異なる種々の工程を構成したものであるから、本件発明の構成要件を充足しない。
また、本件発明が右の特定された技術的構成により「所期する寄木模様建材を、
湿潤な木材から出発して極めて短時間のうちに、しかも簡単かつ能率的に生産し得、量産性を向上して、製品コストの大巾な低減をはかり得る」(本件公報四欄二〇〜二四行)という効果を奏するのに対し、イ号方法はかかる効果を奏しない。
(2) ロ号方法は、前記のとおり第一ないし第五の各工程から成るものである。
したがつて、本件発明が第一工程で形成した積層ブロツクを直ちに第二工程において薄く切削して寄木模様化粧単板を得るのに対し、ロ号方法は、第一工程で形成した積層フリツチを、第二工程及び第三工程を経て小フリツチを市松模様に並べた集成フリツチとし、その後に第四工程にて市松寄木模様の広幅化粧単板を得るものであり、本件発明の構成要件を充足しない。また、ロ号方法は、集成フリツチを得るまでに、「積層フリツチを所定の寸法に切断して小フリツチとする工程」(第二工程)と、「小フリツチを市松模様に配列し接着に先立って出来上がり状態に仮にセツトする工程」(第三工程(イ))と、「接着に際し周囲に板材をそえる工程」(第三工程(ロ))とを有するものであり、本件発明の構成要件を充足しない。
しかも、ロ号方法は、右の工程を構成するものであるから、前記(1)記載の本件発明の作用効果を奏しない。
(3) さらに、ロ号方法は、前記第二工程及び第三工程を備える点において本件発明とは顕著に相違している。
この点でロ号方法が本件発明と異なることは、特許庁の審査経過において原告自身が認めているところである。
すなわち、本件発明の特許庁における特許異議申立事件において、被告の特許異議申立に対して原告が提出した答弁書(乙第一二号証)三頁七行〜四頁九行には次の記載がある。
「そもそも本願発明は、寄木模様建材の量産性を向上するべく、とくに従来の寄木工程を簡略化し、かつ乾燥工程を省略することを基本的な技術的課題とするものである。
ところで、甲第一号証の一に開示されている割竹合体木口面模様を表わした薄膜成形方法は、一頁右欄三〇〜三三行の「乾燥竹材を材料として削成した偏平角●形単片(1)を接着剤により複数枚重合して正四角●形単体を形成し、この単体の重合方向が異なるものを隣接して接着剤により接着し続け、所要面積の角●体(A)を形成し、」という記載ならびに第3図および第5図をみれば明らかなように、わざわざ「所要面積の角●体(A)」を形成している。
本願発明は、寄木工程の簡略化を基本的な技術的課題の一つとしているのであり、そのためにも上記のような角●体(A)に相当するようなものを中間につくることはない。」右の記載は、該異議申立における甲第一号証の一(特公昭三五ー一八三九一号公報、本訴の乙第五号証)に開示された技術が、@板材を複数枚積層接着して正四角●形単体を形成する工程、Aこの正四角●形単体の複数を断面が市松模様となるように隣接して接着して所要面積の角●体(A)を形成する工程、B角●体(A)を各板材の断面が得られる方向に薄く切削する工程の三工程から成る点を指摘し、これが中間にAの工程を有するのに対して、本件発明はこのような中間工程をわざわざ構成するものではないから、これとは相違するというものである。換言すると、
本件発明は、右のような中間にAの工程を有する乙第五号証の技術とは異なり、このようなものを発明の対象としていないことを明言したものである。
しかして、右のことは、取りも直さずロ号方法が本件発明の技術的範囲に属しないことを意味する。けだし、ロ号方法は、
@板材を複数枚積層接着して積層フリツチを形成する工程(第一工程)、Aこの積層フリツチを所定の寸法に切断して小フリツチを得るとともに(第二工程)、該小フリツチを市松模様に配列して出来上がり状態に仮セツトする工程(第三工程(イ))、B小フリツチを周囲に五ミリメートルの板材をそえて再び市松模様に並べて接着し集成フリツチを形成する工程(第三工程(ロ))、Cこの集成フリツチをスライスする工程(第四工程)を備えており、前記乙第五号証と全く同様に、中間にAの工程(第二工程及び第三工程(イ))を有する。
原告は、本件発明の審査過程において、本件発明が寄木工程を簡略化することを目的とし、中間工程を一切介在させないことを明言したのであるから、本件特許権の行使に際して右と矛盾する主張をなすことは、禁反言により許されない。
(二) 接着剤の相違 本件発明に用いられる「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」は、エポキシ系の接着剤に代表される「水中硬化型接着剤」を意味し、「湿気硬化型接着剤」を含まないことは前記のとおりである。これに対し、イ号方法及びロ号方法で使用される接着剤は「一液性ポリウレタン樹脂接着剤」であり、これは湿気硬化型接着剤であるから、この点でもイ号方法及びロ号方法は本件発明の技術的範囲に属しない。
本件発明に用いる水中硬化型接着剤と、イ号方法及びロ号方法に用いる一液性ポリウレタン樹脂接着剤とは、硬化機構が全く異なり、全く別個の概念の接着剤とされているものである。
本件発明の水中硬化型接着剤は、その代表的なものが主成分をエポキシ系樹脂と一五〜五〇%過剰のポリアミド系樹脂とする常温硬化性二液タイプ接着剤であり、
その接着原理は「水―置換」性の手法であり、該接着剤を下地に塗装すると、水中で硬化するまでの間に、ポリアミド分子の構造物の表面に対する親和力が水のそれよりも大きいので、遊離の過剰のポリアミド硬化剤分子は、選択的に湿った面に移行して水分子と置き換わり、最終的には化学的に全く乾燥した塗装面になるものである。このように、水中硬化型エポキシ系接着剤は水とは全く反応しないものである。
これに対し、イ号方法及びロ号方法に用いる一液性ポリウレタン樹脂接着剤は、
親水性のポリエーテル鎖又はポリエステル鎖よりなる主要構成成分が適度の親水性を有して湿潤面とのなじみがよく、接着剤層が空気中の水分を吸収したり、被着材の表面の水分を吸収してポリマーとなり硬化するものである。その反面、本来この接着剤は、多量の水中では水との反応が大量に起こつて塗面及び接着面に発泡を生じ、良好な硬化物が得られないのである。
以上のとおり、イ号方法及びロ号方法に使用される接着剤は、本件発明の接着剤とは全く異なるものであることが明らかである。
(三) イ号方法、ロ号方法のうち乾燥板材を使用するものについて イ号方法によつて製造する寄木模様建材のうち商品名「マゼランオーク888L―470」はナーラを材料とするもの、ロ号方法によって製造する寄木模様建材のうち商品名「マゼランオーク8M―90」はナーラを、同「白菊M―30」(一部)はチークをそれぞれ材料とするものである。これらのチーク及びナーラは、フイリピン等の外国において製材され、板材とされた状態で日本に運ばれて来るものであり、その間に自然乾燥され、板材表面の含水率が二〇%以下に低下している。
そこで、イ号方法及びロ号方法においては、チーク及びナーラを素材とする板材は、使用に際して、煮沸軟化処理して人為的に繊維飽和点以上の高含水率とするのである。
イ号方法及びロ号方法のうち右のように乾燥板材を使用するものについては、本件発明の「繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材」の構成要件を充足しない。
すなわち、本件発明は、従来公知の方法が「材料を、長時間屋外で天然乾燥させたのち、更に乾燥炉で完全乾燥させる必要があるため、広い乾燥用敷地と大がかりな設備を要し、かつ長時間を要する等の不利を免れ得なかつた」(本件公報二欄四〜七行)のに対して、「従来の……乾燥工程を省略することを基本的な技術的課題となされたものであつて、概略的には、乾燥処理を施さない湿潤な複数枚の板材を用い、これをそのまま積層し接着一体化して積層ブロツクを形成する第一工程と、
これを切削して寄木模様の化粧単板をつくる第二工程と、これを基板に貼着する第三工程とよりなるものである。」(同二欄九〜一七行)というものであり、右の「乾燥処理を施さない」とは、「板材1は湿潤状態の原料木材を裁断して通常厚さ二〇〜三〇ミリメートル程度に形成したいずれも繊維飽和点以上の含水率を有するものをそのまま、使用する。」(同二欄二五〜二八行)との意味である。右の結果、本件発明は、「湿潤な板材をそのまま用いて積層し、切削を行うものであるから、従来法においては勿論、公知の集成材の製造技術においても必須とした最も問題の木材の乾燥工程を省略しうる実際上極めて顕著な経済的、時間的利点を有する。」(本件公報四欄六〜一一行)という効果並びに「湿潤な木材から出発して極めて短時間のうちに、しかも簡単かつ能率的に生産し得」(同四欄二一〜二二行)という効果を奏するものである。
要するに、本件発明が「繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材」を構成要件としたことの意義は、@湿潤状態の原木から製材した板材を「そのまま」用いて積層ブロツクを形成するものであること、Aしたがつて、これにより、
材料を長時間屋外で天然乾燥させる場合のような広い乾燥用敷地を必要とせず、乾燥炉で乾燥させる場合のような大がかりな設備を必要としない、B経済的、時間的利点を有し、湿潤な木材(原木)から出発して極めて短時間のうちに生産することができる、との点にあり、このような@〜Bの意義を有しない方法のものは、右の構成要件を充足しないと解しなければならない。
これに対して、乾燥板材を使用したイ号方法及びロ号方法は、
(a) 湿潤状態の原木を製材した板材を「そのまま」用いるものではなく、これが三ないし四か月経過して表面含水率を二〇%以下に低下した後に使用するものであるから、右の@とは異なる。
(b) 板材を使用するに際し、これをわざわざ煮沸して軟化処理する工程を構成し、人為的に繊維飽和点以上の高含水率とするものであり、大がかりな設備を必要とするものであり、右のAとは異なる。
(c) 右の煮沸工程を構成している結果、経済的、
時間的な利点はなく、湿潤な木材から出発して後、極めて長時間をかけて生産されるものであるから、右のBとは異なる。
以上のとおり、乾燥板材を使用したイ号方法及びロ号方法は、湿潤状態の原木から製材した板材を「そのまま」使用するものではなく、自然乾燥の後、わざわざ煮沸工程を経て生産されるものであるから、本件発明の「繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材」の構成要件を充足せず、本件発明の技術的範囲に属しない。
5 原告の損害について 原告は、特許法102条1項の規定により被告の得た利益の額が原告の被った損害の額と推定されると主張する。
しかし、本件特許権は、原告と訴外山陽国策パルプ株式会社、同松下電工株式会社及び同貞重特殊合板工業株式会社の四名の共有に係る権利であるから、被告に対する損害賠償請求権も単独所有の場合の四分の一になるべきである。しかも、本件発明は、原告だけが実施しているわけではなく、右訴外三社も実施しており、また、原告及び右訴外三社は、本件特許権について多数の第三者に対し非独占的通常実施権を設定しており、本件発明の実施者は多数存在する。したがつて、被告が本件特許権を侵害したとしても、被告の侵害行為がなければ原告の製品の売上が増加したであろうとはいえず、特許法102条1項の規定による推定は覆されたものというべきであり、同条二項の実施料相当額をもつて損害賠償の額とすべきである。
また、原告は、右訴外三社と本件特許権の外に特許第八九三一一八号、同第九五一五二二号、同第九五一五二三号、同第九八三〇九六号及び同第一〇〇一七三四号の各特許権も合わせて共有の登録をしている。そして、原告及び右訴外三社は、本件特許権を含む計六件の特許権について同業他社との間で通常実施権設定契約を締結しており、その実施料は一坪当り三〇円である。したがつて、被告が本件特許権を侵害したとしても、原告に支払うべき損害賠償金は、右実施料を六分して本件特許権の分を算出し、さらに原告の共有持分に応じてこれを四分して計算した実施料相当額になるべき筋合である。
四 被告の主張に対する原告の反論1 本件発明の工程について(一) 本件発明の特許請求の範囲の記載に使用されている「次いで」の文言は、
工程の前後関係を意味するものであつて、その間にいかなることも介在させないという直接関係を意味するものではない。現に、本件明細書の特許請求の範囲に「……この積層ブロックを各種板材の積層断面が得られる方向に薄く切断して寄木模様化粧単板を得、次いでこの単板を基板に貼着する……」と記載されているところ、
他方その発明の詳細な説明には「次に上記の寄木模様化粧単板4を正方形等の適当な大きさに裁断し、これを接着剤5によつて合板等よりなる基板に貼着して第3図に示すような寄木模様建材7を得る」(本件公報三欄一六行〜一九行)と述べられており、本件明細書中の実施例及び図面には、市松模様をつくるためスライスしてから単板を基板に貼着するまでに正方形に裁断することが明白に示されているのである。
したがつて、「次いで」という文言から、本件発明の工程が厳格な意味で限定されていると解すべきではない。
(二) 被告は、本件明細書の目的及び効果の記載から、本件発明は各工程中に煩雑な工程を介在せしめることなく一連に構成したものであると主張する。
しかし、本件明細書には、まず従来の問題点として予め板材を十分乾燥した上行う場合の欠点を掲げた上、それを受けて「この発明は上記のような問題点に鑑み寄木模様建材の量産性を向上するべく、とくに従来の寄木工程を簡略化し、かつ乾燥工程を省略することを基本的な技術的課題となされたものであつて、概略的には……」(本件公報二欄八行〜一二行)と記載され、本件発明の目的が従来の方法、すなわち予め板材を十分乾燥した上、これを裁断した後合板に貼付ける方法による場合の問題点に鑑みてそれを課題としたものであることが明示され、本件発明の目的にいう従来の寄木工程の簡略化とは単にいわゆる現場的な作業までを含めた工程数を云々するものではなく、従来全く存在しなかつた乾燥工程の省略が基本的課題であることが明らかとなっている。したがつて、工程の簡略化なる文言のみをとらえて、本件発明の目的が単なる、しかもいわゆる現場的な作業を含めての工程数のみの簡略化のように主張することは許されない。
また、本件発明は、請求原因2(二)の(1)、(2)記載の作用効果を有するものであり、このことから従来の製造法に比べて極めて短時間のうちに寄木模様建材を簡単かつ能率的に量産できるのであるから、余計な工程を介在せしめても前記のような作用効果を有する以上、本件発明の工程を限定的なものと解することはできない。
(三) 本件発明の特許請求の範囲に記載された構成は、以下のとおり本件発明の出願前に公知ではなかつた。
(1) 乙第二六号証について 被告は「積層ブロツクを……薄く切削し」ということが開示されていると主張するが、乙第二六号証においては、図294から明らかなように、積層ブロツクは薄く切削されておらず、むしろ厚く切削されている。
次に、被告は、同号証に「寄木模様化粧単板を得る」ということが開示されていると主張するが、同号証にはこの点は開示されていない。すなわち、本件発明にいう寄木模様化粧単板は、基材すなわち合板に貼着される薄い化粧単板である。これに対し、同号証で被告が寄木模様化粧単板と称するものは、人工柾合板の構成部材そのものである厚い表単板であり、本件発明にいう寄木模様化粧単板とは別異のものである。
さらに、被告は「基板に貼着」ということが同号証に開示されているかのようにいうが、同号証の表単板は、心板及び裏単板とともに同時に合着せられるものであり、本件発明における寄木模様単板を合板等の基板面上に貼着することとは全く別異のものである。
以上述べたところから明白なように、乙第二六号証には、「従来法のように小さな木片を寄木模様に組み合わせる作業を不要とし、所要工数と時間の大幅な節減を達成しうる」という本件発明の効果を奏する構成はどこにも開示されていない。
(2) 乙第五、第六号証について 乙第五号証には、寄木模様建材すなわち建材の製造法は開示されていない。同号証の特許請求の範囲の記載によれば、節部を切削した青竹を原料とする乾燥材から●状単片すなわち横断面横長方形の単片を得るものであり、最初の青竹の横断面は円筒形であるから、円筒形のものから横断面横長方形の単片を得ようとすれば、その横断面積は極めて小さいものとならざるを得ない。したがつて、乙第五号証のものは、小さな竹細工物のようなものにのみ使用可能であり、床材のような建材への使用は予定されていない。したがつて、乙第五号証には建材の基板に化粧単板を貼着する構成は示されていない。
また、乙第六号証には、そもそも化粧模様単板自体が開示されていない。すなわち、同号証の「特許法ニヨリ本発明ノ保護ヲ請求スル範囲一」には「長幅厚ヲ異ニセル木片ヲ集合シテ合成材ヲ作リコレヲ薄キ組成板ニ切割シ其二個或ハ数個ヲ縦側面ニ沿ヒ継合セテ集合板ヲ作リ更ニ該集合板ヲ側面ニテ継ギ所要ノ長ノ板心ヲ作リ該板心ノ両面ニ膠糊ヲ塗ルト同時ニ紙ヲ附着セシメ熱シツツ圧迫セシメテナル連続セル「コムポ・ボールド」製造法」と記載されている。この記載から明らかなように、切割せられた薄い組成板は、コムポ・ボールドの心板として使用され、心板の表面には紙が被覆せられるものである。また、同号証一頁一二行目の「本発明ハ生成物ノ代価ヲ可成低減センガ為メ廃物或ハ殆ンド廃物ノ木材ヲ使用スル」との記載からみても、切削された薄い組成板が建材の表面の化粧模様単板に使用されるものでないことは明白である。
(3) 乙第二七、第二八号証について 本件発明は、積層ブロツクを形成するにあたつて「冷圧」することが要件となつているのに対して、乙第二七、第二八号証は、被告が引用するように「熱圧」するものであり、この点で本件発明とは異なつている。
(4) 乙第二九号証、第七ないし第一〇号証、第三〇号証について 被告は、右各乙号証には湿潤な板材をそのまま用いることによる作用効果を奏する構成が示されていると主張する。しかし、右各乙号証に記載されているのは、まさにそのことだけにすぎず、本件発明の積層ブロツクの切削に関する作用効果を奏する構成が示されているものとみることは到底できない。本件発明は、湿潤な板材を用い、これを積層して積層ブロツクを形成し、この積層ブロツクを薄く切削して寄木模様単板を得る技術であり、だからこそ積層ブロツクにした場合の板材相互の接着部分の接着強度を全体に安定的に維持することができ、切削時において接着面が切削抵抗によつて剥離するというような弊害の発生を避けることができるという建材の製造法としての本件発明特有の効果を奏するのである。
2 本件発明の接着剤について(一) 被告は、本件発明における接着剤は水中硬化型接着剤、具体的にはエポキシ系の接着剤をいうものと解すべきであり、このことは本件発明の出願審査経過を参照すれば明らかであると主張する。
しかし、本件発明の原始明細書に記載された「水中硬化型接着剤」の意味は、水の中で接着することをいうのではなく(常識的に考えて、板材をわざわざ水槽に入れて接着するということはあり得ない。)、「水中ないし高湿度で硬化する接着剤」をいうことが明らかであるから、所論の補正は明瞭でない記載釈明をしたものにすぎない。もともと原始明細書の発明の詳細な説明には「また接着剤(2)は、湿潤状態の板材(1)に対して強固な接着力を発揮し」(同明細書四頁二〜三行)と記載されていたものであり、補正にあたつてはかかる接着剤を正確に表現したものである。
(二) 本件発明の特許請求の範囲に記載された構成のすべてが出願前公知でないことは前記のとおりであるから、被告主張のごとく本件発明の技術的範囲を解釈するにあたつて発明の詳細な説明参酌する必要はない。
被告は、本件明細書の発明の詳細な説明の「湿潤状態の板材に対し強固な接着力を発揮し、……具体的には例えば、エポキシ系の接着剤が好適に用いられる。」という部分を引用し、これに対応する公知技術として乙第三一ないし第三三号証をあげているが、本件明細書の右記載部分は、本件発明を実施するにあたり、湿潤な板材を接着するのに使用する接着剤としてどのような接着剤が好ましいかを説明しているにすぎず、被告の右各乙号証による主張は意味がない。
「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」としては、エポキシ系接着剤のほかにレゾルシン系樹脂接着剤、カゼイン接着剤、ポリウレタン系接着剤などが公知であり、「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」には硬化反応を異にするこれら多種多様な接着剤が含まれるのである。本件発明において使用される接着剤は、「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」すなわち湿潤状態の板材に対して強固な接着力を発揮する接着剤であるから、これをその一例として掲げられたエポキシ系接着剤に限定されるべきいわれはない。
3 被告方法の構成について 被告が、その主張のイ号方法及びロ号方法を使用して寄木模様建材を製造していることは争わない。しかしながら、イ号方法及びロ号方法は、本件発明との対比に必要でない、いわゆる現場的な工程まで記載したもので相当でない。なお、イ号方法は被告方法(一)―一に、ロ号方法は被告方法(二)に、ハ号方法は被告方法(一)―二に対応するものであるが、ハ号方法も、同様余事記載があり不相当である。
4 イ号方法、ロ号方法と本件発明との対比について(一) 工程の対比(1) 被告がイ号方法について本件発明と異なる工程として述べているものは、
例えば、@仮にセツトするとか、A周囲に板材をそえるとか、至極当然な現場的な所要の作業まであげているにすぎないものであつて、これらは本件発明の工程との対比にあたつてかかげられるべきものではない。
(2) 被告がロ号方法について本件発明と異なる工程として述べているものは、
本件発明の構成要件(1)にいう「積層ブロツクを形成する」にあたつて、市松模様を作る一方法としての実施態様をいうものにほかならない。一般的に特許明細書にはあらゆる実施態様についてその手順がもれなく記載されるものではないが、本件明細書の寄木模様建材の製造方法の記載にあたつても、寄木模様の様々の模様について積層ブロツクを形成するまでの細部の手順まで記載されているものではない。
(3) 被告は、ロ号方法で本件発明と異なることは、特許庁の審査経過において原告自身が認めていると主張する。
しかし、被告指摘の特許異議答弁書の記載は、もともと右審査過程において、被告が本件発明と技術分野を異にする竹材の工芸的な分野に関する証拠を提出して来たことに対応して述べたものにすぎない。そもそも本件発明の寄木模様建材の製造法における寄木工程の簡略化とは、本件明細書の発明の詳細な説明に明らかなとおり乾燥工程を省略することにより寄木工程の簡略化を果すことを中心的課題としているものであるから、右特許異議答弁書の記載は本件発明の技術的範囲の解釈にあたつて参考とすべきものではない。
(二) 接着剤の対比 本件発明の接着剤が「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」であつて、エポキシ系の接着剤に限定されるものでないことは既述のとおりである。イ号方法及びロ号方法で使用される一液性ポリウレタン樹脂接着剤は右「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」の一種であるから、本件発明と相違しない。
(三) イ号方法、ロ号方法のうち乾燥板材を使用するものについて 被告は、イ号方法、ロ号方法の一部は板材を使用するに際し、人為的に繊維飽和点以上の高含水率とする旨主張するが、右は、本件発明との対比に必要のない「『繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な複数の板材』に至る過程」をことさらあげて、イ号方法、ロ号方法の右板材が本件発明の板材と別異のものであるかのごとく主張しようとするものにすぎない。人為的に繊維飽和点以上の高含水率とする場合も、既に繊維飽和点以上の含水率にある場合も、等しく「繊維飽和点以上の含水率」に変わりはない。
また、被告は、乾燥板材を使用したイ号方法、ロ号方法は、自然乾燥の後わざわざ煮沸工程を経て生産される以上本件発明の技術的範囲に属しないと主張する。しかし、本件発明において省略し得るという乾燥工程は、従来法で必要とした乾燥工程である。すなわち、本件明細書に明記されているように、「従来、寄木模様の床材は、一般に予め表面材として用いる板材を充分乾燥し、これを鋸により厚さ3ミリメートル程度の寄木の単位となる多数の木片に裁断したのち、該木片を所定模様に組合わせて合板等の基板面上に貼付け、研磨塗装仕上を行うと共に、四周端面に本実加工を施して製作されていた。
」(本件公報一欄三二〜末行)からこそ、従来は「材料を、長時間屋外で天然乾燥させたのち、更に乾燥炉で完全乾燥させる必要があるため、広い乾燥用敷地と大がかりな設備を要し、かつ長時間を要する等の不利を免れ得なかった。」(同二欄四〜七行)のである。本件発明は、このような乾燥工程を省略することができるものである。イ号方法、ロ号方法の一部のものが外国産木材を使用しているため輸送途上で自然乾燥しているとしても、寄木模様建材を製造するにあたり、人為的であれ、繊維飽和点以上の高含水率にしたものをそのまま使用しているのであるから、
材料を長時間屋外で天然乾燥させるものではなく、したがって、広い乾燥用敷地は必要とせず、かつ乾燥炉で乾燥させる場合のような大がかりな設備も必要としない。したがつて、乾燥板材を使用するイ号方法、ロ号方法についても、乾燥工程を省略していることに変わりはない。
5 原告の損害について 本件特許権につき、その共有権者である原告及び訴外三社が多数の第三者に対し非独占的通常実施権を設定している事実は認める。
被告は、本件特許権は原告以外に共有者や実施権者も実施しているから、被告の侵害行為による原告の損害について特許法102条1項の規定による推定は覆されたと主張する。
しかし、原告は自ら本件発明を実施し、被告の製造販売と競合しているのであるから、被告の侵害行為により得べかりし利益を喪失したものであり、原・被告以外に本件発明の実施者がいたとしても、特許法102条1項の規定により、被告の利益額が原告の被つた損害の額と推定されることに変わりはない。被告主張のような解釈が許されるとすれば、特許権の侵害者が多数存在した場合には、これら侵害者の全員を被告としなければ特許法102条1項の推定を受けることができないことになり、右規定の趣旨を没却することになり、相当でない。
また、被告は、本件特許権が四名の共有であるから、原告が被告に請求できる損害賠償の額は単独で特許権を有する場合の四分の一であると主張する。しかし、特許権の共有は、物の共有とは異なり、その利用に占有を伴わないので、
他の共有者の同意を得ることなくその全部を各自利用(実施)することができる(特許法73条2項)。持分権は単なる共有者相互間の内部関係にすぎない。したがつて、原告の被告に対する本件特許権侵害による損害賠償請求がその持分権に対応する額に限られるものではない。
なお、被告は、原告及び訴外三社が本件特許権を含む六件の特許権すべてについて第三者と実施契約をした旨主張するが、右事実は否認する。原告及び訴外三社は、右六件の特許のいずれについてもこれを許諾する旨勧誘したが、技術的には右六件の特許を同時に実施できるものではなく、申込者が希望する特許を許諾することとしたものである。
証拠(省略)
理 由一 請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。
二 被告が実施している寄木模様建材の製造法の特定については当事者間に争いがあるところ、被告の主張は要するに、原告の特定では本件発明との相違をもたらす重要な工程が欠落しており、特定として不十分、不適切であるというにあるものと解される。そして、原告主張の被告方法(一)―一、同(一)―二、同(二)がそれぞれ被告主張のイ号方法、ハ号方法、ロ号方法に対応するものであることは、
原・被告の各主張の対比及び弁論の全趣旨から明らかである。
ところで、特許権に基づく侵害差止請求訴訟において審理の対象となる侵害行為の特定については、社会通念差止めの対象として他と区別できる程度に具体的に特定されることを要するとともに、原告の特許発明技術的範囲に属するか否かを判断するために特許発明の構成と対比できるように具体的に記載されることを要し、かつ、それをもって足りるものというべきである。右観点からみると、後記の判示から明らかなとおり、被告の実施する寄木模様建材の製造法の特定としては、
原告主張の被告方法(一)―一、同(一)―二、同(二)の記載をもって必要かつ十分とすべきものであると考えられる。
弁論の全趣旨によれば、被告が業として被告方法(一)―一及び同(二)を使用して寄木模様建材を生産し、譲渡していること(右各方法をより具体的、詳細に記述したものと認められるイ号方法及びロ号方法を使用して被告が寄木模様建材を製造していることは、当事者間に争いがない。)、少なくとも過去においては、被告方法(一)―二を使用して生産された寄木模様建材を被告が業として譲渡していたこと(右方法をより具体的、詳細に記述したものと認められるハ号方法を使用して生産された寄木模様建材を被告が過去において譲渡していたことは、被告の認めるところである。)が認められる。しかし、被告が被告方法(一)―二を使用して自ら寄木模様建材を生産したとの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。
被告方法(一)―一、同(一)―二及び同(二)の各構成を分説すれば、原告主張の請求原因4(一)ないし(三)記載のとおりであると認められる。
三 本件発明の工程について1 被告は、本件発明はその特許請求の範囲中の「次いで」の文言や明細書の発明の目的や作用効果の記載に照らせば、第一ないし第三工程がその間に別の工程を介在させることなく一連に構成されたものでなければならないと解すべきであると主張する。
前記のとおり、本件発明の特許請求の範囲には、本件発明が請求原因2(一)の(1)ないし(3)の三つの工程(第一ないし第三工程)から成る寄木模様建材の製造法である旨の記載があるところ、右の三つの工程が特許請求の範囲に記載された順序に従つて行われなければならないことは、その記載から明らかである。しかし、右特許請求の範囲の記載中の「次いで」という文言自体は、その前後に記載された工程の順序を明示する意味を有するにすぎない。明細書の特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならないのであるから(特許法36条4項)、本件発明の特許請求の範囲の記載からは、必須要件とされた第一ないし第三工程がその順序で行われれば足り、右各工程の前後に準備的ないしは付随的な工程が介在することを一切排除したものと解することはできない。
また、本件発明の作用効果は請求原因2(二)記載のとおりであるが、成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によれば、明細書の発明の詳細な説明において、
従来の寄木模様建材の製造法が「一般に予め表面材として用いる板材を充分乾燥し、これを鋸により厚さ三ミリメートル程度の寄木の単位となる多数の木片に裁断したのち、該木片を所定模様に組合わせて合板等の基板面上に貼付け、研磨塗装仕上を行うと共に、四周端面に本実加工を施して製作されていた」としたうえ、「このような方法によるときは、とくに多数の小さな木片を組合わせる寄木工程に多くの労力と時間を要し、生産能率が悪いのみならず、材料を長時間屋外で天然乾燥させたのち、更に乾燥炉で完全乾燥させる必要があるため、広い乾燥用敷地と大がかりな設備を要し、かつ長時間を要する等の不利を免れ得なかった。」と従来技術の問題点を指摘し、「この発明は、上記のような問題点に鑑み、寄木模様建材の量産性を向上するべく、とくに従来の寄木工程を簡略化し、かつ乾燥工程を省略することを基本的な技術的課題となされたもの」である旨記載されている(本件公報一欄三二行〜二欄一一行)ことが認められる。右記載によれば、本件発明の目的、作用効果は、右に問題点として指摘された従来の手間のかかる寄木工程を簡略化しかつ乾燥工程をも省略し、もつて寄木模様建材の量産性を向上しようとする点にあり、
本件発明が右目的達成のための現場の作業工程を簡略化し工程数を限定しようとするようなものでないことは明らかである。
したがつて、「次いで」の文言の語義、本件明細書に記載された本件発明の目的、作用効果のいずれの点からしても、本件発明はその実施工程を被告主張のように数量的に限定したものであると解することはできない。
2 被告は、本件発明の第一ないし第三の各工程はいずれも本件発明の出願前に公知の技術であるから、本件発明は第一ないし第三工程を一連不可分に構成したものに限定され、右とは別の工程を中間に有するものは技術的範囲から除外される旨主張する。
しかし、被告が挙示する公知資料は、いずれも個々的には、右第一ないし第三の工程の一部についての技術が開示されているものにすぎず、右第一ないし第三工程の全部が一体として開示されているわけではないことが、その主張自体から明らかである。本件発明は、寄木模様建材の製造法についての発明であつて、第一ないし第三の各工程を構成要件とするものであり、右各要件が不可分有機的に結合され一体として技術思想を形成しているものであるから、個々の要件について出願前公知の技術が存在したとしても、本件発明の技術的範囲を限定的に解釈しなければならないものではない(本件発明の構成のすべてを一体として開示した公知資料が本件発明の出願前に存在したことを認むべき証拠はない。)。
被告は、本件発明が特許されたのは、いずれも出願前公知の技術である第一ないし第三工程を組み合わせて一連に構成したことにより「極めて短時間のうちに、しかも簡単かつ能率的に生産し得、量産性を向上して、製品コストの大巾な低減をはかり得る」との効果を奏する点に新規性進歩性ありとされたからにほかならないと主張するが、右主張自体は肯認できるとしても、前記のとおり、公知技術の存在によつて本件発明の技術的範囲を限定的に解釈すべきものではないから、本件発明が第一ないし第三工程を一連に構成した故をもつて、右工程の中間あるいは前後に準備的ないし付随的な工程が介在することまで一切排除したものであると解することはできない。
被告の右主張は採用できない。
四 本件発明の接着剤について 被告は、本件発明における接着剤は水中硬化型接着剤、具体的にはエポキシ系の接着剤をいうものと解すべきであり、このことは本件発明の出願審査経過を参照すれば明らかであると主張する。
成立に争いのない乙第一、第二号証によれば、本件発明の原始明細書の特許請求の範囲には接着剤として「……水中硬化型接着剤を介して……」と記載され、発明の詳細な説明には「……複数枚の湿潤状態の板材(1)を、相互間に水中硬化型接着剤(2)を介して積層し……」(三頁一一〜一二行)と記載されていたこと、ところが昭和四七年七月一五日付手続補正書によって、
原始明細書の特許請求の範囲中の「水中硬化型接着剤」が「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」に、発明の詳細な説明中の「水中硬化型接着剤」が「水中ないし高湿度中で硬化する常温硬化型接着剤」に補正されたことが認められる。
被告は、「水中硬化型接着剤」と「湿気硬化型接着剤」とは全く異なる技術概念であるから、原始明細書の「水中硬化型接着剤」から「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」への補正が要旨変更にならないとするためには、補正後の「高湿度中で硬化する接着剤」の「高湿度」の意味を「水中」と同義であると解しなければならないと主張する。
しかし、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に、原始明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなされる(特許法41条)。前掲乙第一号証によれば、
本件発明の原始明細書の発明の詳細な説明中で、接着剤について「接着剤(2)は、湿潤状態の板材(1)に対して強固な接着力を発揮し、かつ硬化後の切削が可能でその際切削刃に損傷を生じさせるおそれが少なく、しかも板材(1)の色との関係で、適当な色彩を呈するものであること等の各条件を満す範囲内で適宜に選択されるものであり」と記載されていたことが認められ、弁論の全趣旨によれば、水中硬化型接着剤のみならず湿気硬化型接着剤もまた右記載の条件に適合した接着剤であることが当業者にとつて自明であると認められる。してみれば、昭和四七年七月一五日付手続補正書による前記補正は、原始明細書に記載した事項の範囲内における補正にすぎないものと認められ、要旨変更にはあたらないものというべきである。
また、被告は、本件発明の特許請求の範囲に記載された構成はすべて出願前公知の技術にすぎないから、本件発明の技術的範囲を解釈するにあたつては発明の詳細な説明に記載された事項を参酌すべきであり、接着剤は原始明細書に具体的に示され、出願人が認識している範囲である水中硬化型のエポキシ系接着剤に限られると主張する。
しかし、本件発明の技術的範囲が出願前の公知技術の存在を理由に限定的に解釈されなければならないものでないことは前記のとおりであるし、明細書の発明の詳細な説明にはなるほど水中硬化型接着剤であるエポキシ系の接着剤が開示されているが、その部分の記載をみると、「また接着剤2は、湿潤状態の板材1に対して強固な接着力を発揮し、かつ硬化後の切削が可能でその際切削刃に損傷を生じさせるおそれが少なく、しかも板材1の色との関係で適当な色彩を呈するものであること等の各条件を満す範囲内で適宜に選択されるものであり、具体的には例えばエポキシ系の接着剤が好適に用いられるものである。」(前掲甲第二号証、本件公報二欄二八〜三五行)と記載されており、エポキシ系の接着剤は、本件発明の「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」の一具体例として示されているにすぎないことが明らかである。したがって、本件明細書の発明の詳細な説明参酌しても、本件発明の接着剤を被告主張のように限定して解しなければならない理由はない。
被告の右主張は採用できない。
五 そこで、被告方法と本件発明とを対比する。
1 被告方法(一)―一(イ号方法)について(一) 被告方法(一)―一の構成(1)’と本件発明の構成要件(1)とを対比すると、被告方法(一)―一は「三五%以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材」を用いるものであるところ、同方法に使用される板材が「繊維飽和点における含水率以上の含水率を有する湿潤な板材」であることは被告の自認するところである。また、同方法で使用される接着剤は「湿気硬化型一液性ポリウレタン系樹脂接着剤」であるところ、このような湿気硬化型接着剤も本件発明の「水中ないし高湿度中で硬化する接着剤」に属することは前記のとおりである。
さらに、同方法は、複数枚の板材を「乱尺になるように」積層するものであるが、このことは本件発明の構成要件(1)の「積層ブロツクを形成し」の一実施態様にすぎないものというべきである。被告は、本件発明が第一工程において複数枚の板材を直ちに接着積層して積層ブロツクとするのに対し、同方法は、積層ブロツクを得るまでに「板材を切断して複数種の板片を形成する工程」、「接着積層に先立つて板片が適当な模様を呈するように仮にセツトする工程」及び「接着に際し、
周囲に板材をそえる工程」とを有するものであると主張するが、被告主張の右各工程は、いずれも本件発明の第一工程を具体的に実施するに際しての準備的ないしは付随的な工程にすぎないものというべきであり、本件発明がこのような工程が介在することを排除したものでないことは既に判示したとおりである。
したがつて、被告方法(一)―一の構成(1)’は、本件発明の構成要件(1)を充足する。
(二) ところで被告は、被告方法(一)のうち乾燥板材を使用するものについては、湿潤状態の原木から製材した板材をそのまま使用するものではなく、自然乾燥の後わざわざ煮沸工程を経て生産されるものであるから、本件発明の「繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材」の構成要件を充足しないと主張する。
しかし、本件発明の構成要件中の「繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材」の意義が湿潤状態の原木から製材した板材をそのまま用いるもののみに限定されるというようなことは、本件明細書の発明の詳細な説明参酌してもこれを肯認することができない。そして、被告主張の乾燥板材を使用する場合も煮沸して人為的に繊維飽和点以上の高含水率にしてから使用するというのであるから、そうなつた板材も本件発明にいう「繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材」に該当するものというべきであり、被告主張の煮沸工程は、本件発明の第一工程の準備的な工程にすぎない。また、被告主張の乾燥板材は外国から輸送する途中で自然乾燥したものというのであるから、本件明細書が従来の寄木模様建材の製材法の問題点として指摘した「材料を、長時間屋外で天然乾燥させたのち、更に乾燥炉で完全乾燥させる必要があるため、広い乾燥用敷地と大がかりな設備を要し、
かつ長時間を要する等の不利を免れ得なかつた。」(本件公報二欄四〜七行)というようなことは生じないのであり、
乾燥工程を省略できるという作用効果が生ずることに変わりはないのである。
したがつて、被告の右主張は採用できない。
(三) 被告方法(一)―一の構成(2)’は本件発明の構成要件(2)を充足する。
(四) 被告方法(一)―一の構成(3)’は本件発明の構成要件(3)を充足する。
(五) 被告方法(一)―一は、以上の構成をとることにより本件発明の作用効果と同様の作用効果を奏するものと認められる。
(六) したがつて、被告方法(一)―一は、本件発明の技術的範囲に属する。
2 被告方法(一)―二(ハ号方法)について(一) 被告方法(一)―二の構成(1)’は、被告方法(一)―一の構成(1)’中の「乱尺になるように」というのがないだけであるから、前記1(一)で述べたのと同様、本件発明の構成要件(1)を充足する。
(二) 被告方法(一)―二の構成(2)’は、本件発明の構成要件(2)を充足する。
(三) 被告方法(一)―二の構成(3)’は、積層ブロックを切削して得た寄木模様化粧単板を略正方形に裁断する工程であり、本件発明の特許請求の範囲にはかかる工程についての記載はないが、同方法の構成(4)’において市松模様を形成するための準備的工程にすぎないことが明らかであり、本件発明は右のような準備的工程を排除するものでないことは前示のとおりである。前掲甲第二号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明では、本件発明の第二工程で寄木模様化粧単板を得た後、第三工程の前に右寄木模様化粧単板を「正方形等の適当な大きさに裁断」することが示され(本件公報三欄一六〜一七行)、添付の図面第2図、第3図では寄木模様化粧単板を略正方形に裁断し、市松模様になるように基板に貼着する実施例が示されていることが認められる。
(四) 被告方法(一)―二の構成(4)’は「複数枚の寄木模様単板を市松模様になるように基板に貼着する」ことであるが、市松模様にすることは前示のとおり本件明細書に開示された実施例に実施態様の一つとして示されているから、右構成(4)は、本件発明の構成要件(3)を充足する。
(五) したがつて、被告方法(一)―二は、本件発明の構成要件をすべて充足し、その結果本件発明の作用効果と同様の作用効果を奏するものと認められる。
(六) よつて、被告方法(一)―二は、本件発明の技術的範囲に属する。
3 被告方法(二)(ロ号方法)について(一) 被告方法(二)の構成(1)’は、前記1(一)、2(一)で述べたところと同じく、本件発明の構成要件(1)を充足する。
(二) 被告方法(二)は、次に「この積層ブロツクを所定の寸法に切断して小積層ブロツクとなし」(構成(2)’)、次いで「複数の小積層ブロツクを……市松模様になるように並べかつ冷圧一体化して集成積層ブロツクを形成」(構成(3)’)するものである。
右のように、被告方法(二)は、本件発明の第一工程と第二工程の中間に、小積層ブロツクを形成し、さらに集成積層ブロツクを形成するという工程を介在させている点で本件発明の特許請求の範囲の記載とは異なつている。しかし、本件発明は、第一ないし第三工程の中間に準備的ないし付随的工程を介在させることを排除したものと解し得ないことは前示のとおりであり、右のような小積層ブロツクや集成積層ブロツクを形成する工程は、特定の模様(右の場合は市松模様)の寄木模様建材を得るための準備的工程にすぎないものと認められる。
したがつて、右のような中間工程の存在をもつて、被告方法(二)が本件発明の技術的範囲に属しないとすることはできない。
(三) ところで、被告は、被告方法(二)が本件発明と異なることは特許庁の審査経過において原告自身が認めているところであり、本件特許権の行使に際して右と矛盾する主張をなすことは禁反言により許されない旨主張する。
成立に争いのない乙第三ないし第五号証、第一二、第一三号証によれば、本件発明につき出願公告後の昭和五二年四月一九日被告から特許異議の申立がなされたこと、右特許異議申立事件において、被告は、本件発明はその出願前に頒布されていた刊行物の記載内容に基づいて当該技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから特許要件を欠き拒絶されるべきであると主張し、さらにその理由中において、本件発明の構成の第一工程中「複数枚の板材をその相互間に……接着剤を介して……一体化して積層ブロツクを形成」する点及び第二、第三工程は、被告が右異議申立事件の証拠として提出した甲第一号証の一(本訴の乙第五号証)の特許出願公告昭三五ー一八三九一号公報(割竹合体木口面模様を表わした薄膜成形方法)によつて出願前公知であつたと主張したこと、これに対し、原告は、昭和五二年一〇月三一日付特許異議答弁書(乙第一二号証)を提出したこと、右答弁書中には被告の右主張に対する反論として「そもそも本願発明は、寄木模様建材の量産性を向上するべく、とくに従来の寄木工程を簡略化し、かつ乾燥工程を省略することを基本的な技術的課題とするものである。ところで、甲第一号証の一に開示されている割竹合体木口面模様を表わした薄膜成形方法は、一頁右欄三〇〜三三行の「乾燥竹材を材料として削成した扁平角●形単片(1)を接着剤により数枚重合接着して正四角●形単体を形成し、この単体の重合方向が異なるものを隣接して接着剤により接合し続け、所要面積の角●体(A)を形成し、」という記載ならびに第3図および第5図をみれば明らかなように、わざわざ「所要面積の角●体(A)」を形成している。本願発明は、寄木工程の簡略化を基本的な技術的課題の一つとしているのであり、そのためにも上記のような角●体(A)に相当するようなものを中間につくることはない。」との記載があつたこと、右特許異議の申立に対して特許庁審査官は、異議は理由がないとの決定をしたこと、以上の事実が認められる。
右認定の事実によれば、原告は、確かに特許異議答弁書において、本件発明は右引用文献にいう「角●体(A)」に相当するようなものを中間に作ることはない旨表明しているけれども、右答弁書の記載に対応して本件発明の明細書の記載を補正したとの事実は存しないのであり、このことと右答弁書の記載部分の全体の趣旨にかんがみれば、右記載部分は、本件発明が右引用文献に開示されたような「角●体(A)」に相当するものを中間に作る工程を必須としていない点で右引用文献に開示された技術事項と異なることを主張した趣旨であると解するのが相当であり、本件発明が特許請求の範囲に記載された第一ないし第三工程のみからなり、右角●体に相当するものを中間に作る工程を含めその余の工程を一切介在させない趣旨に限定したものとは認められない。また、右特許異議の決定(乙第一三号証)の理由を検討しても、本件発明の工程が右特許異議答弁書の記載によつて限定されたことを前提として異議が排斥されたものとも認め難い。
よつて、被告の右主張は採用できない。
(四) 被告方法(二)の構成(4)’は本件発明の構成要件(2)を充足する。
(五) 被告方法(二)の構成(5)’は本件発明の構成要件(3)を充足する。
(六) 被告方法(二)は、以上の構成をとることにより、本件発明の作用効果と同様の作用効果を奏するものと認められる。被告方法(二)が中間に小積層ブロツクを作る工程や集成積層ブロツクを形成する工程を介在させているからといつて、
本件発明の作成用効果と同様の作用効果を奏する妨げとなるものではない。
(七) 被告方法(二)のうち乾燥板材を使用するものについても本件発明と相違することにならないことは、前記1(二)で述べたところと同断である。
(八) したがつて、被告方法(二)は、本件発明の技術的範囲に属する。
六 以上の認定によれば、被告が業として被告方法(一)―一及び同(二)を使用して寄木模様建材を生産すること、被告方法(一)―一、同(一)―二及び同(二)を使用して生産された寄木模様建材を業として譲渡し、譲渡のために展示する行為は、本件特許権を侵害するものであるから、原告は被告に対し右侵害の停止及び右侵害行為を組成した寄木模様建材の廃棄を請求することができる。被告方法(一)―二については、被告自らが同方法によって寄木模様建材を生産しているものとは認められないこと前示のとおりであり、これをするおそれがあることの主張、立証もないから、同方法を使用して寄木模様建材を生産することの禁止を求める原告の請求は理由がない。
七 損害について1(一) 被告が昭和五六年一〇月三日から同五九年六月二日までの間に被告方法(一)―一を使用して寄木模様建材を製造、販売した価額の合計は三六億〇七〇五万七〇二四円の限度で当事者間に争いがなく、右金額を超えるものであつたことを認めるに足りる証拠はない。
(二) 被告が前記期間に被告方法(一)―二によつて製造された寄木模様建材を販売した価額の合計は五六七三万〇八九一円の限度で被告の自認するところであり、右金額を超えるものであつたことを認めるに足りる証拠はない。
(三) 被告が前記期間に被告方法(二)を使用して寄木模様建材を製造、販売した価格の合計が二二億二〇九五万四三〇一円であることは、当事者間に争いがない。
(四) 以上の価格合計は五八億八四七四万二二一六円となるところ、成立に争いのない甲第七、第八号証及び弁論の全趣旨によれば、被告が右製造、販売によつて得た利益は右価格の五%を下らないものと認められるから、被告が右製造、販売によつて得た利益は少なくとも二億九四二三万七一一〇円であると認められる。
2 原告は、特許法102条1項の規定により被告の得た利益の額が原告の被つた損害の額と推定されると主張する。
弁論の全趣旨によれば、前記1記載の期間原告は本件特許権を実施していたことが認められるから、被告の前記侵害行為によつて損害を被つたものと認めることができ、昭和五七年六月二五日に訴外山陽国策パルプ株式会社外二名との共有の登録がなされた時点までは、特許法102条1項の規定により被告の得た利益の額が原告の被つた損害の額と推定される。しかし、右登録以後は、本件特許権は原告を含む四名の共有となつたものであるから、右規定によつて被告の得た利益の全額を原告の損害の額と推定することはできない。
原告は、特許権の共有の場合は、他の共有者の同意を得ることなくその全部を各自利用(実施)することができる(特許法73条2項)のであるから、共有者の一人が特許権侵害による損害賠償請求をする場合には、その持分権に対応する額に限られるものではないと主張する。しかし、特許権の各共有者が他の共有者の同意を得ないでその特許発明実施をすることができるとされているのは、特許権は有体物の場合と異なり、共有者の一人が実施をしたとしても他の共有者の実施の妨げとはならないことによるのであるから、特許権侵害者に対する損害賠償請求の場合を特許発明実施の場合と同一に論じることはできない。共有に係る特許権の侵害者に対する損害賠償請求権は各共有者が各自の持分に対する損害につき賠償を請求する金銭債権にほかならず、その性質上可分債権であつて共有者全員のものを一括行使しなければならないようなものではないから、各共有者はその持分に応じてのみ損害賠償請求権を行使できるものというべきである。したがつて、特許権の共有者が特許権侵害行為によつて損害を受けた場合には、特許法102条1項の規定により、
侵害者の得た利益の額を共有者の持分権の割合によつて按分した額をもって当該共有者の被つた損害の額であると推定すべきこととなる。
そして、各共有者の持分の割合は、民法264条250条の規定により、相均しいものと推定される。
被告は、原告以外に前記訴外三社も本件特許権を実施しており、そのうえ原告及び右訴外三社は本件特許権について多数の第三者に対し非独占的通常実施権を設定しており、本件発明の実施者は多数存在するから、特許法102条1項の規定による推定は覆されたと主張するところ、弁論の全趣旨によれば、右訴外三社も本件特許権を実施していることが認められるし、原告及び右訴外三社が多数の第三者に対し非独占的通常実施権を設定している事実は、当事者間に争いがない。しかし、前記のとおり、各共有者の有する損害賠償請求権は各自の持分に対する損害につき賠償を請求する権利であるから、前記訴外三社が本件発明を実施していることは原告が自己の持分に対する損害につき賠償を請求することと直接に関わりを持つものではなく、ただ右訴外三社が本件発明を実施していることにより原告の被った現実の損害額が前記推定による金額より低額である場合に前記推定が覆されることがあるにすぎない。また、非独占的通常実施権は自らの実施侵害にならないというだけの権利であつて、非独占的通常実施権者は侵害者に対し損害賠償を請求しうる立場にはないから、その存在もまた原告が自己の持分に対する損害につき賠償を請求することと直接に関わりを持つものではなく、ただ前記多数の非独占的通常実施権者も本件発明を実施していることにより原告が被った現実の損害額が前記推定による金額により低額である場合に前記推定が覆されることがあるにすぎない。ところが、本件全証拠によっても、原告が被った現実の損害額が前記推定による金額より低額である事実はこれを認めることができない。したがって、被告の前掲主張は失当である。
さらに、被告は、原告及び右訴外三社は本件特許権の外に五件の特許権についても同業他社に対し合わせて実施許諾をしている旨主張するところ、成立に争いのない乙第三五ないし第四六号証及び原告代表者本人尋問の結果によれば、本件特許権の外に被告主張の五件の特許権が原告及び訴外三社の共有として登録され、原告及び訴外三社は右六件の特許権を業界に有償で開放している事実が認められる。しかし、右のような事実があつても、少なくとも被告が実施している前記各寄木模様建材の製造法(被告方法(一)―一、同(一)―二及び同(二))が本件発明のみならず他の特許発明をも実施しているとの事実の立証はないから、被告の本件特許権侵害によつて原告が被つた損害額を算定する際に、本件発明の寄与度ないし利用率を考慮する必要があるとは認められない。したがつて、被告の右主張も失当である。
3 そこで、前示の見地から原告の被つた損害額を検討するに、昭和五六年一〇月三日から前記共有の登録がなされた日の前日である同五七年六月二四日までの間は、前記のとおり被告の本件特許権侵害行為によつて得た利益の額が原告の被つた損害の額と推定される。右期間(二六五日)に被告の得た利益の額については、直接これを示す資料はないので、前記1記載の全期間(九七四日)に被告が得た利益額二億九四二三万七一一〇円から日割計算によつて算出することとするが、それによればその金額は八〇〇五万四二四二円となる。
次に、右共有の登録がなされた日である昭和五七年六月二五日から同五九年六月二日までの間に被告の得た利益額は二億一四一八万二八六八円となるところ、本件特許権者は前記のとおり原告と前記訴外三社の計四名であるが、その各共有持分が相均しいとの推定を覆すに足りる事実の主張立証はないから、右期間は右金額の四分の一をもって原告の被った損害の額と推定されることになり、その金額は五三五四万五七一七円となる。
したがつて、被告の前記本件特許権侵害行為によつて原告が被つた損害額の合計は一億三三五九万九九五九円となる。
4 よつて、被告は原告に対し、本件特許権侵害による損害として金一億三三五九万九九五九円及びこれに対する不法行為の後であつて本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五九年一〇月九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
八 以上の次第で、原告の本訴請求は上記説示の限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法92条本文、89条を、仮執行の宣言につき同法196条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
追加
目録(一)―一三五%以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材をその相互間に湿気硬化型一液性ポリウレタン系樹脂接着剤を介して積層しかつ冷圧一体化して積層ブロツクを形成し、次いでこの積層ブロツクを各板材の積層断面が得られる方向に薄く切削して寄木模様化粧単板を得、次いでこの単板を基板に貼着することによる寄木模様建材の製造方法
目録(一)―二三五%以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材をその相互間に湿気硬化型一液性ポリウレタン系樹脂接着剤を介して積層しかつ冷圧一体化して積層ブロツクを形成し、
次いでこの積層ブロツクを各板材の積層断面が得られる方向に薄く切削して寄木模様化粧単板を得、次いでこの寄木模様単板を略正方形に裁断し、複数枚の寄木模様単板を市松模様になるように基板に貼着することによる寄木模様建材の製造方法
目録(二)三五%以上の含水率を有する湿潤な複数枚の板材をその相互間に湿気硬化型一液性ポリウレタン系樹脂接着剤を介して積層しかつ冷圧一体化して積層ブロツクを形成し、次いでこの積層ブロツクを所定の寸法に切断して小積層ブロツクとなし、複数の小積層ブロツクをその相対面間に湿気硬化型一液性ポリウレタン系樹皮接着剤を介して市松模様になるように並べかつ冷圧一体化して集成積層ブロツクを形成し、この集成積層ブロツクを各板材の横断面が得られる方向に薄く切削して寄木模様単板を得、次いでこの単板を基板に貼着することによる寄木模様建材の製造方法
目録(三)次の工程からなる寄木模様建材の製造方法である(別紙図面(一)ないし(六)参照)。
(一)第一工程(イ)繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な板材(所定の厚さに調整し、平滑に仕上げたもの)を(別紙図面(一)ないし(六)の第1工程(イ))、
(ロ)所定の寸法になる様、複数種(別紙図面(一)は9種、別紙図面(二)は7種、別紙図面(三)は8種、別紙図面(四)、(五)は14種、別紙図面(六)は12種)の板片に切断する(別紙図面(一)ないし(六)の第1工程((ロ))。
(二)第二工程右の複数種の板片を所定の厚みと模様になる様に順次配列積層し、出来上り状態に仮りに、セツトする(別紙図面(一)、(二)は10段、別紙図面(三)は6段、別紙図面(四)、(五)は4段、別紙図面(六)は3段)(別紙図面(一)ないし(六)の第2工程)。
(三)第三工程周囲に5ミリメートルの板材をそえて右の各板片の全周面に一液性ポリウレタン樹脂接着剤を塗布し、三方向より冷圧し、接着一体化して積層板とする(別紙図面(一)ないし(六)の第3工程)。
(四)第四工程(イ)右の積層板をスライサーにてスライスし(別紙図面(一)ないし(六)の第4工程(イ))、
(ロ)ライン模様の広幅化粧単板とする(別紙図面(一)ないし(六)の第4工程(ロ))。
(五)第五工程右の広幅単板を基板に従来の方法で貼着し、サネ加工塗装仕上げをし、寄木フロアーとする(別紙図面(一)ないし(六)の第5工程)。
(六)右の第一工程より第四工程は繊維飽和点以上の高含水率において行う。
別紙図面(一)<12704-001><12704-002>別紙図面(二)<12704-003><12704-004>別紙図面(三)<12704-005><12704-006>別紙図面(四)<12704-007><12704-008>別紙図面(五)<12704-009><12704-010><12704-011>別紙図面(六)<12704-012><12704-013><12704-014>目録(四)次の工程からなる寄木模様建材の製造方法である(別紙図面参照)。
(一)第一工程(イ)繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な板材(所定の厚さに調整し平滑に仕上ったもの)を所定の厚みになる様、複数枚積層し(別紙図面第1工程(イ))、
(ロ)一液性ポリウレタン樹脂接着剤を用い接着冷圧一体化し、積層フリッチとする(別紙図面第1工程(ロ))。
(二)第二工程第一工程を終えた積層フリッチを所定の寸法に切断し、その表面を更に正確な平滑面仕上、所定寸法とする(別紙図面第2工程)。
(三)第三工程(イ)第二工程を終えた小フリッチを市松模様になるように順次配列し、出来上がり状態に仮にセットする(別紙図面第3工程(イ))。
(ロ)周囲に五ミリメートルの板材をそえて、右の市松模様の全周面に一液性ポリウレタン樹脂接着剤を塗布し、三方向より冷圧し、接着一体化し集成フリツチとする(別紙図面第3工程(ロ))。
(四)第四工程(イ)右の集成フリツチをスライサーにてスライスし(別紙図面第4工程(イ))、
(ロ)市松寄木模様の広幅化粧単板とする(別紙図面第4工程(ロ))。
(五)第五工程この広幅単板を基板に従来の公知の方法で貼着し、サネ加工塗装仕上げし、寄木フロアーとする(別紙図面第5工程)。
(六)右の第一工程より第四工程は繊維飽和点以上の高含水率において行う。
<12704-015>目録(五)次の工程からなる寄木模様建材の製造方法である(別紙図面参照)。
(一)第一工程(イ)繊維飽和点以上の含水率を有する湿潤な板材(所定の厚さに調整し平滑に仕上がつたもの)を所定の厚みになる様、複数枚積層し(別紙図面第1工程(イ))、
(ロ)一液性ポリウレタン樹脂接着剤を用い接着冷圧一体化し、積層フリツチとする(別紙図面第1工程(ロ))。
(二)第二工程右の積層フリツチを板材の積層断面が得られる方向にスライサーにてスライスし、化粧単板とする(別紙図面第2工程)。
(三)第三工程右の化粧単板を所定幅に裁断して、寄木模様化粧単板を得る(別紙図面第3工程)。
(四)第四工程右の寄木模様化粧単板を、従来の公知の方法で、基板に対し市松状に貼着し、サネ加工塗装仕上げし、寄木フロアーとする(別紙図面第4工程)。
(五)右の第一工程より第三工程は繊維飽和点以上の高含水率において行う。
<12704-016>
裁判官 露木靖郎
裁判官 小松一雄
裁判官 青木亮