関連審決 |
審判1985-8713 |
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関連ワード | 容易に発明 / 技術的手段 / 技術常識 / 発明の概要 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 追認 / |
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事件 |
昭和
61年
(行ケ)
266号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1988/12/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 原告 「特許庁が同庁昭和六〇年審判第八七一三号事件について、昭和六一年八月一五日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決二 被告主文同旨の判決 |
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請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 被告は、発明の名称を「結晶気相成長装置」とする登録第一二三〇〇二五号特許発明(昭和四七年九月一二日特許出願、昭和五九年九月一九日設定登録、以下、 「本件発明」といい、この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。原告は、昭和六〇年四月二四日本件特許について特許無効審判を請求した。特許庁はこれを同庁昭和六〇年審判第八七一三号事件として審理した上、昭和六一年八月一五日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は同年九月二七日原告に送達された。 二 本件発明の要旨 「石英ガラス製の支持台に載置されたシリコン基板の気相成長側表面に光を照射して上記表面を加熱するヨウ素ランプと、このヨウ素ランプにより表面加熱された前記シリコン基板上に結晶気相成長に供される原料ガスを導く手段とを具備したことを特徴とする結晶気相成長装置」(別紙(一)参照)三 本件審決の理由の要点1 本件発明の要旨は、前項記録のとおりである。 2 請求人(原告)は、米国特許第三六二三七一二号明細書(甲第二号証。以下、 「第一引用例」という。)、特公昭五四-二四九九〇号公報(以下、「第二引用例」という。)、一九六九年に米国において開催された電気化学会会議において発行された論文集「SEMICONDUCTOR SILICON」二〇八頁ないし二一三頁所載の「THEGROWTH OF EPITAXIAL SILICON FILMS IN A RADIANTLY HEATED REACTOR」(甲第三号証。以下、「第三引用例」という。)及び「電子材料」(一九七〇年臨時増刊)六一頁ないし六七頁及び七八頁所載の「CVD装置」(甲第四号証。 以下、「第四引用例」という。)を引証して、本件発明は、第一引用例ないし第四引用例記載の発明に基づいて、当業技術者であれば容易に発明をすることができたものである旨主張した。 3 そこで、右主張について検討する。 (一) 本件明細書(昭和五八年七月四日付手続補正書(甲第六号証)により補正された後の明細書をいう。なお、本件特許請求の範囲(甲第五号証・本件特許公報の当該欄参照)は右補正書により補正された。)に、「高周波加熱装置では基板の表面だけを加熱するわけにはいかず、全体が加熱されてしまうため基板内の不純物が気相成長層内に拡散するといういわゆるオートドーピングの現象を生じる。したがつて、例えばn+の基板上にn層を成長させた時、理想的には第1図のような階段状の濃度分布が望ましいのであるが、実際には第2図のごとき濃度分布になつてしまう。」(本件明細書二欄二行目から九行目まで参照)と、気相成長させる場合に、基板全体が加熱されていると好ましくないオートドーピングの現象が生じることを記載し、「この発明に係る気相成長装置は基板加熱源としてヨウ素ランプを用い、結晶成長せんとする基板表面のみを効果的に加熱するようにした点に特徴がある。」(同二欄二三行目から二六行目まで参照)と、結晶成長させる基板の表面のみを加熱することに特徴があることを記載し、「ヨウ素ランプの出力光波長がシリコン等半導体製品の吸収効率の高い波長帯域にあるので熱エネルギであるヨウ素ランプ光が結晶に効率良く吸収される。従つて結晶はその光照射面で高温化され、裏面側に近付くに従つて徐々に温度が低下する濃度勾配を持つので上記したオートドーピングの減少効果が顕著に現れる。」(同三欄二九行目から四欄五行目まで参照)と、基板の厚み方向に温度差をつけることにより、オートドーピングの減少結果が現れることを記載していること等からすると、本件発明は、シリコン基板の表面のみを加熱し、シリコン基板の厚み方向に温度差をつけ、それによつてオートドーピングの減少効果をもたらすという技術思想に基づくものであり、本件発明における「ヨウ素ランプのより表面加熱された」の要件は、ヨウ素ランプにより表面のみから加熱することを意味していることは明らかである。 (二) そこで第三引用例及び第四引用例をみるに、請求人(原告)が主張するように、第三引用例には、「シリコン基板は、高強度の放射熱によつてエピタキシヤル成長温度まで加熱される。シリコン基板は熱吸収をするサセプタを用いることなしに直接に反応温度にまで加熱される。」との記載があり、その第2図には、シリコン基板が、石英製反応管内で熱吸収することのない石英スタンド上に配置され、 このシリコン基板を外部から赤外線ランプによつてその気相成長側表面を直接照射する構成の結晶気相成長装置が記載され、また、第四引用例の第10図にも、第三引用例の第2図に記載されたと同じ結晶気相成長装置が記載されていることは認められるが、第三引用例の第2図及び第四引用例の第10図に示された結晶気相成長装置には、基板を載置した石英スタンドの下に反射ボツクスが配置されており、上から照射された光は、この反射ボツクスにより反射され、基板を下からも加熱することは明らかであるから、第三引用例の第2図及び第四引用例の第10図は、本件発明の「表面加熱」の要件を示しているとはいえない。また 第三引用例の「シリコン基板は熱吸収をするサセプタを用いることなしに 直接反応温度まで加熱される。」との記載も、第三引用例の第2図を勘案すると、基板を裏側から加熱することなく表面のみを加熱し、結晶気相成長させることを開示しているとすることはできない。また、第三引用例及び第四引用例のいずれにも、シリコン基板を加熱するのにヨウ素ランプを用いることは開示されていない。 (三) また、請求人(原告)は、第三引用例の第3図には、実験炉ではあるが、 反射板を用いていない装置が開示されている旨主張するが、同図の装置は、ランプで加熱された基板の温度勾配を測定するための装置であつて、結晶気相成長装置ではないから、同図は、基板の表面のみを加熱して結晶気相成長させることを開示するものではない。 (四) 次に、第一引用例をみるに、第一引用例には、請求人(原告)が主張するように、結晶気相成長装置において、加熱手段としてヨウ素ランプを用いることは示されているが、基板の表面のみを加熱して結晶気相成長させることを開示していない。 (五) なお、第二引用例は、本件特許の出願後に頒布されたものであるから、本件判断の資料にはなり得ない。 4 そして、本件発明は、基板の表面を加熱し、結晶気相成長させるようにしたことにより、第一、第三及び第四引用例から予測されない、オートドーピングを減少させるという効果を奏するものと認められる。 5 したがつて、本件発明を第一、第三及び第四引用例記載の発明に基づいて、当業技術者であれば容易に発明をすることができたものとすることはできない。 6 以上のとおりであるから、請求人(原告)の主張する理由及び証拠方法によつては、本件特許を無効にすることはできない。 四 本件審決の取消事由 本件発明は、第三引用例の第3図に示される装置と第一引用例に記載のものとから容易に発明をすることができたものである。 しかるに、本件審決は、第三引用例に記載の発明(以下、「第三引用発明」という。)の構成の認定判断を誤つたため、本件発明と第三引用発明との間に存する一致点を看過誤認し、ひいて本件発明の奏する効果を特段のものと誤認し、その結果、本件発明は第三引用発明及び第一引用例、第四引用例に記載のものから容易に発明をすることができたものとすることはできないとの誤つた結論に至つたものであるから、違法として取消されなければならない。 1 第三引用例(甲第三号証)の第3図(別紙(二))には、実験装置ではあるが、基板裏面側に反射ボツクスを用いていない結晶気相成長装置が開示されている。この装置は、赤外線ランプを用いている点のみが本件発明と異なり、他の構成は全て本件発明と同一である。すなわち、石英ガラス製の支持台上に基板が載置され、原料ガスを導く手段を有し、基板表面を直接加熱する赤外線ランプを有している。 本件審決は、右第三引用例の第3図に示される装置(以下、「第3図の装置」という。)は、ランプで加熱された基板の温度勾配を測定するための装置であつて、 結晶気相成長装置ではないとしているが、誤りである。すなわち、第3図の装置は、「GAS FLOW」と矢印で示されているように、原料ガスを導く手段を備えた結晶気相成長装置であることは明らかである。またこのことは第三引用例の第5図に、得られた結晶皮膜の厚み分布が示されていることからも明らかである。 2 第一引用例(甲第二号証)には、結晶気相成長装置において、加熱手段としてランプ加熱方式を採用しているものが示されており、そのランプの種類として、第一引用例の四欄六五行ないし六八行に、「本装置に使用することが望ましい図示のランプは透明な石英套をもつ非常に強力なタングステンフイラメントランプである。このランプはその中にハロゲンガス、好ましくは沃度ガスを入れてある。」(甲第二号証訳文一一頁二行ないし五行参照)との記載があることから明らかなように、本件発明と同様にヨウ素ランプを用いている。また、その第6図には、石英製のベルジヤーを介してシリコン基板表面をランプにて直接照射して加熱する実施例が示されている。したがつて、第一引用例は、結晶気相成長装置において基板表面を加熱する手段としてヨウ素ランプが本件出願前に公知であつたことを示している。なお、第一引用例の結晶気相成長装置が基板の表面のみを加熱して結晶気相成長させることを開示していないことは認める。 被告は、第一引用例の第6図の実施例で使用されているランプが果たしてヨウ素ランプを使用しているか否か不明であるとしている。しかし、第一引用例記載の請求の範囲第1項で明らかなように、この第一引用例全体として、放射熱源として短波長の放射熱エネルギーを発生するものを用いることを一つの特徴としているのである。短波長の放射熱エネルギーを発生する放射熱源としてヨウ素ランプが挙げられ、また第6図の実施例においてもランプの種類が特に限定されていないのであるから、当該実施例においてヨウ素ランプが用いられることは特に記載されていなくても当業技術者には自明の事項といえる。 次に、被告は、そもそも第一引用例においては、基板の加熱は基本的には基板を支持しているサセプタの加熱によつて行われるものであり、表面のランプ照射によつて行われるものではないとしている。しかし、第一引用例の第1図ないし第5図に示される実施例ではサセプタの下方にランプ群が配置されていることから、被告の主張するようにランプによりサセプタが加熱され、このサセプタを介して結果的に基板が加熱されるのであるが、第一引用例の第6図に示される装置では、基板及びサセプタに向けて放射線が照射されるのであり、第一引用例の第1図ないし第5図に示されている実施例とは相違するものである。第一引用例の第6図に示される装置では、サセプタも加熱されるが基板表面も直接ランプによつて加熱されるのである。実際この装置では、ランプで直接照射される基板の表面の温度がやはりランプで直接照射されるサセプタの表面温度よりも高くなることが確認されている。 そして、第一引用例明細書一欄三二行ないし四三行には「化学的析出法において、析出反応を冷壁型反応室で行うことが強く望まれている。反応室の壁を非加熱状態に保つことにより、これらの壁は基質のコーテイング中、ほとんど、もしくは全くフイルムの定着を受けない。冷壁法は基質上に酸化シリコン等のフイルムを高純度で形成するので、更に望ましい方法である。不純物は加熱された反応室の壁から発生し、もしくは反応室の壁に浸透する。このような不純物は基質のコーテイングに影響すると共に、純度を落とすので、このような不純物の発生、浸透を防止すべく冷壁反応室が用いられる。」(甲第二号証訳文三頁一二行ないし二一行参照)と記載されている。そして、第一引用例では、従来このような冷壁法のうち最も成功した方法は、高周波誘電加熱法であることを挙げ、しかしこの高周波誘電加熱法にあつても、スペースを要し、装置が高価で大型化するなどの問題点があることを挙げている(第一引用例明細書一欄四四行ないし七〇行)(同訳文三頁二二行ないし四頁一七行参照)。そこで第一引用例では、従来の高周波誘電加熱法に代えて放射熱源を採用し、しかも反応室の壁を冷たいままに保てるエピタキシヤル装置を提供することを目的としている。またそのための構成として、第一引用例明細書二欄四二行ないし五四行には、「この方法で好んで使用し得る進歩した熱源は、例えば、二七五〇℃ないし三三〇〇℃の範囲のフイラメント温度で作動する強力高温ランプを持つものである。実際に選ばれるランプは短波長範囲、好ましくは約一ミクロンまたはそれ以下での最大放射熱を生じるものから選ばれることが望ましい。このように短波長の放射エネルギーは反応室の壁を区画するのに好適な材料、好ましくは石英を透過する。石英壁は上記の波長で非常によく放射エネルギーを伝達する特性を持ち、しかも放射線は殆どまたは全くこの壁に吸収されない。したがつて前述のように壁は冷たい状態に保たれ、著しく有利である。」(同訳文六頁三行ないし一三行参照)と記載されている。 このように、第一引用例では、放射熱源(具体的にはヨウ素ランプ)を用いても、反応室の壁が加熱されず、冷壁法の利点がそのまま維持される。すなわち、反応室の壁にフイルムの定着も受けないし、また壁から不純物が発生して、基質のコーテイングに影響を及ぼすことがないのである。つまり基質のコーテイングに対する壁からの不純物のドーピングが抑制される。第一引用例におけるこの反応室の壁からのドーピングが抑制されるという認識のもとに、シリコン基板からのオートドーピング抑制を目的として、第3図の装置にヨウ素ランプを適用することは当業技術者にとつて容易なことであると言わざるを得ない。 3 本件発明は、その効果として、シリコン基板表面を直接ヨウ素ランプにて照射加熱することによつて、シリコン基板表面と裏面側とで、表面側の方が温度が高くなる温度勾配が生じ、シリコン基板からの不純物のオートドーピングが減少する点を挙げている。 しかし、一般にシリコン基板は数百μの薄肉のものであり、またシリコンそのものが熱伝導性の良好なものであるので、ヨウ素ランプにより表面のみから加熱したとしても、シリコン基板の厚み方向に効果的な温度差がつくとは考えられず、したがつてまた、オートドーピングの減少効果をもたらすという効果には疑問がある。 そして、もし本件発明がこのような効果を奏するとすれば、本件発明とその構成がほぼ同じである第3図の装置においても同じくシリコン基板に温度勾配が生じている筈であるから、赤外線ランプとヨウ素ランプとの相違はあるにしても本件発明と同様オートドーピングの減少効果は生じている。したがつて、本件発明は、いわばこの第3図の装置による効果を追認したにすぎず、また右装置の赤外線ランプを公知のヨウ素ランプに置き替えたにすぎない。 被告は、本件発明の効果として、「@基板からのオートドーピングを抑制すると共に、A明細書に記載されたように従来の黒鉛製支持台からの不純物が基板に混入するおそれもなく、B更にその光照射によつて原料ガスの分解、活性化が加速される効果も奏し、Cしかも、この原料ガスの分解、活性化においてもヨウ素ランプは赤外線ランプに比較して促進作用が著しい特徴を有している。」としている。しかしB、Cの効果はヨウ素ランプを用いる効果であるがこれは第一引用例の第6図の装置でも当然に生じている効果であり、Aの効果も第3図の装置でも当然に生じており、いずれも本件発明の奏する特段の効果であるとは認められない。@の効果は、第3図の装置においても構成がほとんど同一なのであるから、特に記載されてはいないがやはり当然に生じている効果にすぎず、本件発明の奏する特段の効果であるとは認められない。 |
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請求の原因に対する認否、反論
一 請求の原因一ないし三の事実は認める。同四の主張は争う。 二 本件審決の認定判断は正当であり、原告主張のような違法はない。 1 第3図の装置は、ランプで加熱された基板の温度勾配を測定するための装置であつて結晶気相成長装置ではない。原告は第三引用例の第3図に「GAS FLOW」と矢印で示されているからこのガスは原料ガスであるとしているが、ガスが全て原料ガスであることにはならない。第3図の装置の説明では、「測定は乾燥した気体窒素中でおこなわれた」(甲第三号証二一〇頁八、九行)と記載されている。 したがつて、ガスが原料ガスでなく窒素であることは明白であり、それ故第3図の装置が結晶気相成長装置ではなく、温度勾配を測定するための装置であることも明白である。更に、原告の根拠とする第三引用例の第5図について検討すると、この第5図の説明は、第三引用例の第3図の説明部分とは別の項である第2項で「気相成長」について説明されている部分に厚さについての説明として記載されているものであり、気相成長は第三引用例の第2図の装置で行つているのであるから、これは当然右第2図の装置を使用した結果とみるべきものである。更に、第3図の装置では、「ライトパイプは6mmの石英棒をアルミフオイルで覆つたものである」ことが記載されている。第3図の装置を気相成長に使用するとすれば容器内に反応ガスが導入される。その場合アルミニウムは反応ガスと反応して腐蝕されてしまうから、反応ガスが導入される容器内にアルミニウムを使用することは技術常識から考えられない。このことからも第3図の装置が窒素ガスを使用するだけの測定装置であつて気相成長装置でないことは明白である。 2 第一引用例の四欄六五行ないし六八行に原告指摘の記載があること及び第一引用例の第6図に石英製のベルジヤーを介してシリコン基板表面をランプにて直接照射して加熱する実施例が記載されていることは認める。しかし、右第6図の実施例については第一引用例の第1図と同じヨウ素ランプを使用している旨の記載がなく果たしてヨウ素ランプを使用しているか否か不明である。更に、右第6図の装置が仮にヨウ素ランプを使用したものであつたとしてもその結果得られた装置は本件発明とは異なるものである。そもそも第一引用例に記載された装置は基板を支持するサセプタを放射エネルギーに対して不透過の石墨で構成し、放射エネルギーをこのサセプタで吸収してサセプタを加熱しそれによつて基板を加熱するものであり、したがつて、基板の加熱は基本的には基板を支持しているサセプタの加熱によつて行われるものであり、表面のランプ照射によつて行われるものではない。したがつて、本件発明のようなオートドーピングの防止効果は生じない。 オートドーピングの防止のために基板の加熱を防止するためには、支持台(サセプタ)を放射エネルギーを透過するような材料で作り、支持台が加熱されないようにする必要がある。本件発明においてはそのために支持台として石英ガラスを使用している。第一引用例の装置においては石墨サセプタを使用しているためにヨウ素ランプを使用したとしても、本件発明のように基板の表面だけを加熱することは不可能である。したがつて、第一引用例には基板表面を加熱する手段は示されておらず、前記のように第一引用例の発明はサセプタの加熱により基板を裏面側から加熱することを前提とした発明であり、表面だけを加熱する手段については何ら示唆するところがないから、第一引用例の記載から本件発明の構成が容易に想到されるものではない。 また、原告は、第一引用例には、ヨウ素ランプを用いても反応室の壁が加熱されず、それによつて壁からの不純物の基質のコーテイングヘのドーピングが抑制される旨の記載があり、このことから、シリコン基板からのオートドーピングの抑制を目的として第三引用発明にヨウ素ランプを適用することは当業技術者にとつて容易なことである旨主張するが、本件発明で問題とする基板からのオートドーピングの抑制については第一引用例には何の記載もなく、前述のように、第一引用例記載の発明はこのような基板からの不純物の拡散を問題にしない基板全体を加熱する方式の装置である。したがつて、このような第一引用例の記載から、基板からのオートドーピングを抑制する目的で基板の表面のみを加熱する手段を考えることが容易なものではない。 3 本件発明は、特許請求の範囲に記載された技術的手段を採用することにより、 @基板からのオートドーピングを抑制すると共に、A明細書に記載されたように従来の黒鉛製支持台からの不純物が基板に混入するおそれもなく、B更にその光照射によつて原料ガスの分解、活性化が加速される効果も奏するものである。Cしかも、この原料ガスの分解、活性化においてもヨウ素ランプは赤外線ランプに比較して促進作用が著しい特徴を有しているものである。 原告は、第3図の装置でも本件発明と同様に基板に温度勾配が生じているはずであり、オートドーピングの減少の効果は生じている旨主張するが、第3図の装置が単なる温度測定用の装置であつて気相成長装置ではないことは前述のとおりである。 |
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証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。 二 そこで、原告主張の本件審決の取消事由について検討する。 1 第3図の装置について 成立に争いのない甲第三号証によれば、第三引用例は、「放射加熱型反応器内でのエピタキシヤルシリコンフイルムの成長」と題し、「高品質のエピタキシヤルフイルムを製造すべく構成装置や基板の幾何学的な配置に関して」行われた研究論文であるところ、その「1.放射加熱法」の項に、「シリコンウエハーは高強度の放射熱を利用したエピタキシヤルデポジシヨン装置内で反応温度まで加熱される。この際、熱吸収物質やサセプターを使わずに一気に反応温度にまで加熱される。」(甲第三号証二〇八頁二〇行ないし二四行)(同号証訳文二頁二行ないし五行参照)、「本報告書に記載されている方式では、目標物は、大型の無焦点ランプ群により加熱される大きな物を用いた。ランプ装置の詳細は図1に示すとおりである。 熱源は水と空気で冷却された反射装置に搭載された管球式の石英タングステンランプである。」(同二〇八頁二九行ないし二〇九頁三行)(同訳文二頁一〇行ないし一四行参照)、「シリコンウエハーの温度は、図2に使用状態を示すイルコンパイロメーターにより直接読み取り、測定が可能である。……温度測定はシリコンウエハーの下面を臨む水冷アルミニウム反射板の穴を通して測定される。……反応チユーブの下部は水及び空気で冷却されたアルミニウム製反射板で囲んだ。シリコンウエハーの温度測定の精度はランプ自身の散乱光が有るため、それ程高いものではなかつた。温度の測定は、直接シリコンウエハーの下面で測定した。理由は処理中におけるランプの散乱光の影響を最少限度に押さえるためである。実験は石英の『ライトパイプ』を使い、シリコンウエハーの横断方向での温度勾配を求める方法で行われた。実験装置の構成は図3に示すとおりである。ライトパイプは6mmの石英棒をアルミフオイルで覆つた物である。……温度勾配の測定は乾燥した気体窒素中で行われた。その結果は図4に示すとおりである。」(甲第三号証二〇九頁一一行ないし二一〇頁一〇行)(同号証訳文二頁末行ないし四頁一行参照)と、「2.気相成長」の項に、「平均成長率は一枚のシリコンウエハーでは〇・五ミクロン/分であつた……シリコンウエハーは、従来のエピタキシヤル成長で得たウエハーと同様の外観を呈した。……図5に示すように、一般的に見られるフイルムの厚さの相違も見られた。フイルムは、薄いガス流の中ではウエハーの前縁部分では薄く形成された。しかしフイルムの厚さの相違は、ガスの流れを僅かに乱すことにより最小限に押さえられた。」(同一二〇頁二〇行ないし末行)(同訳文四頁一四行ないし五頁三行参照)と、「3.結論」の項に、「エピタキシヤル成長用として、シリコンウエハーを直接放射加熱する方法の実用性は実証された。」(同二一一頁二、三行)(同訳文五頁五、六行参照)とそれぞれ記載されていることが認められる。右記載及び第三引用例の第1図ないし第5図によれば、第三引用例には、第2図の装置で温度測定を行つた結果ランプの散乱光により精度が高くなかつたこと、そのため、第3図の装置に改良して温度測定を行つたこと、その結果第4図のとおりの横断方向の温度勾配が測定されたこと、実際に結晶気相成長を行つたところ第5図に示すような厚さの相違のあるフイルムが得られたこと、このことにより、結晶気相成長装置における直接放射加熱方法の実用性が実証されたことがそれぞれ記載されていることが認められる。右事実によれば、結晶気相成長実験そのものは第3図の装置によつて行われたと認めるのが相当である。そうすると、第3図の装置は、温度勾配の測定装置としてだけでなく、結晶気相成長装置としても使用できるものと認めることができる。したがつて、前記当事者間に争いのない本件審決の理由の要点3(三)中の第3図の装置が結晶気相成長装置ではない旨の認定判断は誤りといわなければならない。 被告は、第三引用例に、「測定は乾燥した気体窒素中で行われた」との記載及び同第3図の説明中に「ライトパイプ6mmの石英棒をアルミフオイルで覆つたものである」との記載があることから、第3図の装置は温度勾配の測定装置であつて結晶気相成長装置ではない旨主張するところ、先に認定したところによれば、第三引用例に被告の指摘する各記載があることは認められるものの、被告指摘の右各記載は、第3図の装置において基板の温度勾配を測定した時の条件の記載であることが明らかであり、第3図の装置において結晶気相成長を行う場合には、それに適した条件により行われなければならないことは技術常識上自明のことと認められるから、被告指摘の右各記載は第3図の装置が結晶気相成長装置であることの前記認定を左右するものではない。 そうすると、前掲甲第三号証によれば、第3図の装置は、石英ガラス製の支持台に載置されたシリコン基板の気相成長側表面に光を照射して上記表面を加熱する赤外線ランプ(第三引用例に記載された石英タングステンラソプが赤外線ランプとして使用されるものであることは技術常識に属する。)と、この赤外線ランプにより表面加熱された前記シリコン基板上に結晶気相成長に供される原料ガスを導く手段とを具備した結晶気相成長装置であることが認められるから、本件審決は、本件発明の構成と第3図の装置の構成とが、本件発明の構成のうち加熱手段がヨウ素ランプである点を除き一致することを看過誤認したものといわなければならない。 2 第一引用例について 原告は、第一引用例の四欄六五行ないし六八行に原告主張の記載があること及び第一引用例の第6図に原告主張の実施例が示されていることを主たる根拠に、第一引用例は結晶気相成長装置において基板表面を加熱する手段としてヨウ素ランプが本件出願前に公知であつたことを示している旨主張するところ、第一引用例の四欄六五行ないし六八行に原告指摘の記載があること及び第一引用例の第6図には、原告指摘のとおり、石英製のベルジヤーを介してシリコン基板表面をランプにて直接照射して加熱する実施例が示されていることは、当事者間に争いがない。そして、 成立に争いのない甲第二号証(米国特許第三六二三七一二号明細書)によれば、その第6図(別紙(三))、第7図に一実施例として、「(1)石墨等の円筒形のサセプター93がシヤフト92の上端に支えられており、(2)サセプター93の外側周辺にウエハー載置用のくぼみ94が付いており、(3)サセプター93は石英ベルジヤー98で覆い区画され、反応室を構成し、(4)ベルジヤー98を囲んで円筒形環状のランプ取付けブロツク101があり、ここに強力ランプ102が間隔を置いて設けられており、(5)シヤフト92によりサセプター(そのくぼみ94にコーテイング用ウエハーが置かれている。)が回転され、ランプ102に対し相対的に動くよう構成された結晶気相成長措置」(以下、「第6図の装置」という。)が記載されていることが認められる。もつとも、同号証によれば、「右ランプ102がヨウ素ランプであることの明示の記載はないこと、前記当事者間に争いがない四欄六五行ないし六八行の記載は直接的には第一引用例の第1図、第2図に記載された一実施例の説明として記載されていること」が認められるけれども、同号証によれば、第一引用例における第6図に図示のものは、同第1図から始まる一連の記載の一環として記載されているものであることが認められ、同引用例には第6図の装置についてランプ102がヨウ素ランプである場合を排除する旨の記載も認められないから、第一引用例は、第6図の装置においてヨウ素ランプを使用する場合をも示していると解するのが相当であつて、これに反する被告の主張は採用できない。そうすると、第一引用例は、結晶気相成長装置において基板の表面を加熱するヨウ素ランプを開示しているものと認めることができる。 しかしながら、前掲甲第二号証によれば、第一引用例に記載された発明は、「エピタキシヤル放射加熱反応装置およびその反応方法」に関するもので、第一引用例明細書には、「発明の概要」の欄に、「被覆される基質がサスセプターにより吸収されたエネルギーで適当に加熱された時にガス状の反応混合物を反応装置の中に入れ、基質と接触させ、周知の様にしてそのエピタキシヤルコーテイングが行われる。」(同二欄三五行ないし三八行)(同訳文五頁二三行ないし末行参照)、「本発明の目的は、……反応装置でその上に置かれた基質を加熱するため不透明なサスセプターを使用し、反応室の壁は放射熱エネルギーに対し透過性の物質でできており、またそのサスセプターはそのエネルギーに対し不透過性であつてこれを吸収し、したがつてこのサスセプターが加熱されるように進歩した装置および方法を得ること、」(同二欄五五行ないし七一行)(同訳文六頁二二行ないし七頁一行)と、「権利を請求する範囲」の欄1項に、「前記熱エネルギーに対し不透過性であつて、前記熱エネルギーを吸収して加熱され、前記反応装置の稼働中は前記基質の温度を実質的に均一に保つと共に、前記反応装置の稼働中、前記基質を支持し、反応装置内部において前記熱源に加熱されるサスセプターとを有する冷却型放射加熱反応装置」(同八欄三六行ないし六三行)(同訳文一九頁二五行ないし二〇頁四行参照)とそれぞれ記載されていることが認められる。右記載及び前掲甲第二号証の第1図ないし第7図によれば、第6図の装置での基質(substrates)としてのウエハーは、ランプから照射される放射熱エネルギーにより直接加熱されると共に、それを載置するサセプタ(サスセプター)によつても加熱されることは明らかである。もつとも、第一引用例の結晶気相成長装置が基板の表面のみを加熱して結晶気相成長させることを開示していないことは原告の自認するところである。 更に、原告は、第6図の装置では、ランプで直接照射される基板の表面の温度がランプで直接照射されるサセプタの表面温度よりも高くなることが確認されていると主張するがその事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、第一引用例は、結晶気相成長装置において基板表面を加熱する手段としてヨウ素ランプを開示しているものの、このヨウ素ランプによる加熱は、基板全体を加熱する手段としての技術を開示しているにすぎないといわなければならない。 3 本件発明の技術思想について 当事者間に争いのない本件発明の要旨及び成立に争いのない甲第五号証(本件特許公報)、第六号証(昭和五八年七月四日付手続補正書)によれば、本件明細書には、結晶気相成長させる場合に基板全体が加熱されていると好ましくないオートドーピングの現象が生じること、本件発明は結晶気相成長させる基板の表面のみを加熱することに特徴があること、基板の厚み方向に温度差をつけることによりオートドーピングの減少結果が現れることがそれぞれ説明されていることが認められ、右認定事実によれば、本件審決が認定判断しているとおり、本件発明は、シリコン基板の表面のみを加熱し、シリコン基板の厚み方向に温度差をつけ、それによつてオートドーピングの減少効果をもたらすという技術思想に基づくものであるということができる。 4 本件発明の容易推考性について 原告は、本件発明は、第3図の装置と第一引用例に記載のものから容易に発明をすることができたものである旨主張する。本件発明の構成と第3図の装置の構成とが、本件発明の構成のうち加熱手段がヨウ素ランプである点を除き一致することは、前叙のとおりである。しかしながら、本件発明は、シリコン基板の表面のみを加熱し、シリコン基板の厚み方向に温度差をつけ、それによつてオートドーピングの減少効果をもたらすことを技術思想とするものであることは前叙のとおりであるところ、第一引用例は、基板の表面のみからだけでなく基板全体をヨウ素ランプにより加熱する技術を開示するにすぎないものであることも前叙のとおりである。原告は、第一引用例明細書一欄三二行ないし四三行、同一欄四四行ないし七〇行及び同二欄四二行ないし五四行に原告主張の各記載があることを根拠に、シリコン基板からのオートドーピング抑制を目的として第3図の装置にヨウ素ランプを用いることは当業技術者にとつて容易なことである旨主張するところ、前掲甲第二号証によれば、第一引用例明細書の原告指摘部分に原告指摘の記載があることが認められるが、これらの記載は、反応室壁からの不純物が基質(基板)のコーテイングに影響し、純度を落とすこと及び一ミクロン以下の短波長の放射エネルギーは反応室の石英壁を透過するので、壁は冷たい状態に保たれ著しく有利であることを指摘しているにすぎず、右の指摘からシリコン基板からのオートドーピング抑制を目的としてヨウ素ランプを適用することを想到することが当業技術者にとつて容易であると即断することはできず、他に、本件出願当時、基板の表面のみを加熱し、シリコン基板の厚み方向に温度差をつけ、それによつてオートドーピングの減少効果をもたらすという技術思想を示唆することを認めるに足る資料はない。そうすると、基板からのオートドーピング抑制を目的として第3図の装置にヨウ素ランプを適用することを想到することが容易であるということはできない。 5 本件発明の効果について 前掲甲第五、第六号証によれば、本件発明は、基板の加熱法として光照射による加熱構成を採用したことにより、従来の高周波加熱構成に比し被告主張のA、Bの効果を奏し、また、光照射手段としてヨウ素ランプを採用したことにより被告主張の@の効果を奏するものであることが認められる。 原告は、本件発明が右@の効果を奏することを争つているので検討するのに、前掲甲第五号証によれば、本件明細書三欄九行ないし一八行に、実施例として「ウエハ3a、3b・・・として比抵抗0.001Ω-cmのn型siを用い原料ガスとしてSiCl4、キヤリアガスとしてH2、ドーピングガスとしてH2で希釈されたAsH3をそれぞれ用いてn型siを成長させた。条件はH2とSiCl4の割合をモル比で一対〇・〇二とし、ウエハ温度は裏面で一一八五℃の時表面は一二〇〇℃で二〇分である。要するに表面側温度を高くする。成長層界面を調べた結果、 オートドーピング層は約〇・五μであつた。」と記載され、これと対比して、同三欄一九行ないし二三行に、「ちなみに、ウエハ支持台として黒鉛製支持台を用い、 高周波加熱によりウエハを加熱しながら成長させた場合について検討したところ、 上記実施例と同様の製造条件において常に2μ程度のオートドーピング層が見られた。」と記載されていることが認められる。右認定事実によれば、本件発明は、ヨウ素ランプを用いた基板の表面加熱により基板の厚み方向に所定の温度差を生じさせ、所定のオートドーピング減少効果を奏していることは明らかであるから、右@の特段の効果を奏するものということができる。 また、原告は、右@の効果は第3図の装置においても当然に生じている旨主張するが、前叙のとおり第3図の装置は基板の加熱手段として赤外線ランプを用いた構成のもので、本件発明のようにヨウ素ランプを用いた構成のものではないから、他に特段の証拠のない本件では、右@の効果が当然生じているとはいえず、前掲甲第三号証によつても、第三引用例には本件発明でいうオートドーピングに関する何らの記載も認められないのであるから、第3図の装置においても右@の効果を奏すると認めることはできず、原告の右主張は採用できない。 6 結び 以上のとおり、本件審決は、第3図の装置が結晶気相成長装置ではないと認定判断した点に誤りがあり、ひいて本件発明と第三引用発明との間に存する一致点の看過誤認があるが、第3図の装置に第一引用例に記載のものを適用し本件発明を発明することが容易とは認められず、本件発明の奏する効果が特段のものであることは前叙のとおりであるから、結局、本件発明は第三引用発明及び第一引用例、第四引用例に記載のものから当業技術者であれば容易に発明をすることができたものとすることはできないとした本件審決の認定判断は結論において相当であり、原告主張の本件審決の取消事由は採用できない。 三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、 主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 秋吉稔弘 |
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裁判官 | 西田美昭 |
裁判官 | 木下順太郎 |