関連審決 |
審判1986-14030 |
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関連ワード | 発明者 / 考案者 / 新規性 / 進歩性(29条2項) / 出願公開 / 発明の詳細な説明 / 実質的に同一 / 文言解釈 / 実施 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 審理終結通知 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 減縮 / 変更 / 釈明 / |
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事件 |
昭和
62年
(行ケ)
141号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1989/03/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 原告 「特許庁が、同庁昭和六一年審判第一四〇三〇号事件について、昭和六二年六月二日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決二 被告 主文同旨の判決 |
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請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和五二年一〇月七日、名称を「熱遮断フイルムを有する冷凍シヨーケース」とする発明(以下、「本願発明」という。)につき特許出願をした(昭和五二年特許願第一一九九六四号)ところ、昭和六一年五月一四日拒絶査定を受けたので、同年七月一〇日、これに対し審判の請求をした。 特許庁は、同請求は同庁同年審判第一四〇三〇号事件として審理し、同年六月二日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年七月六日原告に送達された。 二 本願発明の要旨 「金属及び/又は金属酸化物の薄膜が積層されたプラスチツクフイルムから主としてなる熱線反射透明積層体を熱遮断シートとした冷凍・冷蔵シヨーケース。」(別紙(一)参照)三 本件審決の理由の要点1 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。 2 これに対し、実願昭五一ー七三一四三号(昭和五二年実用新案出願公開第一六二五六三号公報)の願書に最初に添附した明細書及び図面(以下、「引用例」という。)には、「本考案は冷蔵庫等の貯蔵庫に関し、透明板を嵌合した窓を設けたもので、庫外から庫内に透過しようとする熱線や紫外線を遮つて庫内温度の上昇を抑制する」、「(10)は半透明の遮光膜で、例えばポリエステルフイルムにアルミニウムを真空蒸着してあり、このフイルム透明板群の最も庫外側の透明板(8)の庫内側面即ち断熱空間側に接着剤にて接着している。従つて断熱箱体(1)の窓即ち前面開口部(3A)に嵌合された透明板群を透過しようとする光の殆どを遮る。 この場合遮光膜(10)は最も庫外側の透明板(8)に設けたから、熱線は透明板(8)を通過した後遮光膜(10)によつて反射されるので内方の透明板(8)に熱線が及ぶ事が少くなくなり従つて庫内空気の温度上昇を抑制できる。」(別紙(二)参照)旨の記載がある。 3 そこで、本願発明と引用例に記載された考案とを比較すると、本願発明の「金属」、「プラスチツクフイルム」、「熱線反射透明積層体」、「冷凍・冷蔵シヨーケース」はそれぞれ引用例に記載された考案の「アルミニウム」、「ポリエステルフイルム」、「半透明の遮光膜」、「冷蔵庫等の貯蔵庫」に相当するものであるということができ、そうすると、本願発明は、引用例に記載された考案であるというほかはない。 4 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載されたものと同一であり、しかも本願の発明者又は出願人が引用例に記載された考案の考案者又は出願人と同一の者であるとも認められないから、特許法29条の2の規定により、特許を受けることができない。 四 本件審決を取り消すべき事由 本願発明の要旨が本件審決認定のとおりであること(但し、後述のように、本願発明の要旨を当初の明細書の特許請求の範囲の記載によつて認定した点につき、手続上の瑕疵がある。)、引用例に本件審決認定の記載があること及び本願発明の「金属」と「プラスチツクフイルム」が引用例に記載された考案(以下、「引用考案」という。)の「アルミニウム」と「ポリエステルフイルム」に相当することは争わないが、本件審決には、引用考案の「貯蔵庫」に用いられる「半透明の遮光膜」と本願発明の「冷凍・冷蔵シヨーケース」に用いられる「熱線反射透明積層体」とを同視した事実誤認があり(取消事由(1))、また、本件審決は、昭和五三年六月二一日付手続補正書によつて補正された明細書(即ち、結局のところ願書に添付された当初の明細書)に基づいて本願発明の要旨を認定し、これを引用考案と比較しているが、原告はその後昭和六二年四月一三日付審判請求理由補充書(甲第七号証)において特許請求の範囲の減縮補正案を提示しており、審判官はこの審判請求理由補充書に記載した特許請求の範囲の補正案を十分に審理し、原告に対し手続補正をする機会を与えたうえで判断すべきであつたし、更にその後原告が昭和六二年五月一九日に提出した審理再開申立書(甲第九号証。ここにおいて原告は再び審判請求理由補充書(甲第七号証)に示した特許請求の範囲の補正案を掲げている。)を十分に検討して審理を再開すべきであつたのにかかわらず、これをいずれも怠つたもので、本件審決には審理不尽の違法があり(取消事由(2))、取り消されなければならない。 1 取消事由(1)(事実誤認)(一) 本願発明は、冷凍・冷蔵食品(例えばアイスクリーム)を展示しながら販売する方式の普及に伴い、そのシヨーケースには、太陽光等から発せられる熱線を通さず、しかも商品が外から見えるという一見矛盾した性質が要求されるところ(甲第二号証の明細書一頁下から六行ないし四頁六行)、これを金属及び/又は金属酸化物の薄膜が積層されたプラスチツクフイルムを熱遮断シートとして用いることにより解決したものである(同四頁七行ないし一四行)。即ち、本願発明の「熱線反射透明積層体」とは、「熱線を反射し」かつ「透明である(可視光線を透過する)」という二つの作用を有する材料を意味する。換言すれば熱線領域の波長は透過させず、可視光線領域の波長は透過させるという、波長に対する選択性を有する積層体を本願発明は採用しているのである。引用考案の「遮光膜」はポリエステルフイルムにアルミニウムを真空蒸着した膜である。プラスチツクフイルムと金属を積層した膜という限度では、引用考案の膜の構成は本願発明の膜に該当する。しかし、本願発明はプラスチツクフイルムに金属を積層した総ての膜を対象とするものではない。即ち、金属層が厚くなれば熱線も光線も透過させない全くの不透明膜になる。金属層をある程度薄くすれば透視可能性と熱線遮断性を達成することができるが、金属膜が存在するのであるから、一般的には透明性はあまり高くならない(引用考案の膜はこのレベルのものである)。このような膜が本願の特許請求の範囲の要件を満足しないことは既に説明したところから明らかである。即ち、本願発明は、金属又は金属酸化物の膜の厚さをコントロールすると、意外にも熱線に対しては十分な反射特性を有しつつ、シヨーケースとしての高い透視性を有する膜が得られることを見出したものである。本願明細書(甲第二号証)四頁下から二行ないし五頁一一行にこの点の説明があり、金属薄膜の場合には、その適切な厚さを「五〇〜三〇〇●」と説明し、更に場合を分かつて詳しく説明している。このように、 本願発明の特許請求の範囲における「熱線反射透明積層体」なる要件は、金属又は金属酸化物層の厚さを特定したことによる反射又は透過する波長の選択性を包含しているのであり、このような金属膜の厚さを特定する技術思想は引用例に全く記載されていない。 これに対し引用考案は薬品等を貯蔵する(甲第一一号証の一明細書の一頁下から七行)貯蔵庫(もともとどちらかと言えば暗所に置かれるものであろう)に関する考案であり、その貯蔵庫は少くとも二枚以上の透明板により形成される断熱扉を有し、その断熱扉の庫外側透明板に遮光膜を設けることを特徴とするものである(図面上貯蔵庫は、その透明板と共に縦方向に置かれるものとして描かれ、下部には機械室が備わつている。ー同三頁一一行ないし一三行)。即ち、引用考案にあつては、冷蔵庫内部が見えることは本願発明におけるような絶対的要請ではない。したがつて、登録請求の範囲においても「遮光膜」は「半透明」であるとし、考案の詳細な説明によれば、熱の遮断は光を遮することによつて行われるのである(同二頁下から七、六行)。それどころか、この膜は赤外領域の熱線のみならず、可視光部を越えて更に紫外線をも遮るとされている(同三頁二、三行)。即ち光全体を遮断することによつてその中の熱線も遮るのであつて、熱線のみ選択的に遮ろうというのではない。したがつて、「庫内に達する光は殆ど無くなるので庫内にどんな貯蔵物品が入ているかわかりにくくなる」というのである(同三頁七行ないし九行)。 引用考案では暗くなつた庫内の貯蔵物品が何かを判別するために庫内に照明具を設けるというのであるが(同三頁九、一〇行)、そのようなやり方が本願発明の意図するところに全く反していることは言うまでもない(引用考案の明細書の末尾には透視不可能であつてもよいとまで記載されている)。 被告は、本願明細書中に、五五〇nmの可視光透過率(以下、事実摘示欄において、文章を括弧を用いて引用する場合の文中を除き、単に「透過率」という。)四〇%及び五五%のものが記載されているとして、これに基づき、本願発明の積層体も透過率が半分以下のものもあり、更に膜の厚さをもつと厚くすれば、透過率は更に少なくなる筈だから、本願発明でいう「透明」も引用発明でいう「半透明」も実質的に同じであると主張する。しかし、透過率が四〇%という例は、ただ単に明細書にそういう数値も現れているというだけであつて、本願発明で期待しているものではない。そのことは、この数値のある箇所の前後を合せて引用すると「……可視光の透過率即ち透視性が不十分になることがある。このような場合は、金属薄膜を高屈折率誘電体層ではさんでやると多重干渉の効果によつて透視性を向上させることが出来る。例えば一四〇●のAg層の場合、両側に三〇〇●のT@o2の層を設けることによつて五五〇nmの透過率を四〇%から八四%に向上することが出来る。」(甲第二号証一一頁七行ないし一四行)とあることからして明らかである。 即ち、四〇%は適当でないものの例なのである。したがつて、実施例に示されている透過率の最低値は五五%であり、前記のように四〇%は適当でないとの認識が示されているところを合せ考えれば、本願発明にいう「透明」とは、もし透過率の数値で表すならば、おおよそ五〇%以上のものを指すということが出来よう。したがつて半分以下ということはない。ところで「透明」という言葉は日常語であつて、 被告の言うように、可視光が全部又は大部分透過する場合を言うのではない。その下に物(例えば印刷された紙)を置き、ほぼ支障なくそれが見える場合を言うのである。透過率五五%のシートは、実物を見れば明らかであるが、「透明」と称して差支えないものである。他方、引用考案の意図している膜は「半透明」であり、 「遮光膜」である。 概念として「半透明」は「透明」とは範ちゆうを異にする。「遮光」に至つては「透明」とは相反する概念だと言つてよい。にもかかわらず、被告は、その定義が必ずしも厳密でないことに頼つて、「半透明」や「遮光」の概念が、その外延において「透明」と重なる部分があるように論じ、更には「透明」と実質的に同じだとまで言う。引用考案は、もともと精緻な技術を開示してはいないので、その遮光膜における可視光の透過率を数値で表していない。しかしながら「(10)は半透明の遮光膜で、……透明板(8)の庫内側面……に接着している。従つて……透明板郡(群)を透過しようとする光の殆どを遮る」との説明(甲第一一号証の一の二頁九行ないし一五行)を見れば、透過率は本願発明のものより遥かに低いことは明らかである。それはまた「庫内に達する光は殆ど無くなる」同三頁七行との説明からも明白である。これでは到底「透明」とは言えず、数値で表した透過率も本願発明において望ましくないとされている四〇%にも達するとは思われない。右のように、元来特許(登録)請求の範囲に用いられた概念(それは出願人の認識を示す)が異つているにもかかわらず、しかも引用考案における膜の実質的内容を吟味することなく、単に言葉の上だけから、「半透明」とは可視光が若干透過することを意味するとし、他方では本願発明の「透明」な膜につき、ただ可視光が一〇〇%は透過しない故を以てやはり「半透明」であるとし、したがつて両者は実質的に同じだとする被告の議論は誤っている。 (二) また、本願発明の「冷凍・冷蔵シヨーケース」とは、単に冷蔵容器であるにとどまらず、同時に「シヨーケース」であることをも必要としているのである。 「シヨーケース」とは、商品の陳列に使用されるケースであつて、引用考案の「貯蔵庫」とは商品として異質なものである。その機能は単に物品を冷蔵できればよいというものではなく、売ろうとする商品を顧客に見せるためのものである。だから顧客が容易に内部の商品を観察し得るようなものでなければならない。 被告は引用考案にも「透明板を嵌合した窓」があるから、「透明窓」のある点は本願発明と同じであると言う。しかし、引用考案における透明板とは、半透明の遮光膜とは別の、ガラス等の本当に透明の板のことであり、それに半透明の遮光膜を接着したものが「窓」なのである。そのことは「透明板の内面に半透明の遮光膜を設けた」との登録請求の範囲の記載からも明らかであり、また引用例二頁四行ないし三頁六行で透明板(8)、(′8)と半透明の遮光膜(10)とを区別して図面の構成を説明していることによつても疑いがない。したがつて「窓」の透明度はこの遮光膜によつて決定されるのであり、透明板があるからと言つて窓が全体として「透明窓」になるものではない。引用考案の貯蔵庫の窓の効用は「庫内に設けた照明具にて貯蔵物品が庫外より判別できる」という程度のものであり、買物客が容易に商品を観察できる「シヨーケース」とは全く次元の異なる製品なのである。 2 取消事由(2)(審理不尽) 原告は、本願発明は出願当初の形のままでも特許に値すると信じているが、審査において拒絶されたことに鑑み、特許の取得をより確実にしようと考え、審判の段階で特許請求の範囲を減縮しようとした。審査官が引用し、また審判官も後に引用した引用考案の実用新案登録出願の公開日は昭和五二年一二月九日であるから(甲第一一号証の二参照)、これが本願を拒絶する根拠となるのは特許法29条の2の適用ある場合、即ち本願発明が引用考案の出願に記載された考案と「同一」である場合に限られる。そこで原告は、仮に審査官の言うように本願発明の積層体が引用考案の半透明遮光膜と同じであるとしても、なお本願発明と引用考案とが同一であると言われないように、昭和六二年四月一三日付審判請求理由補充書において、特許請求の範囲を、「金属及び/又は金属酸化物の薄膜が積層されたプラスチツクフイルムから主としてなる熱線反射透明積層体を、冷凍・冷蔵シヨーケースのシヨーケース内に面したガラスに、プラスチツクフイルムがガラス面に向くように接着した、熱遮断フイルムを有する冷凍・冷蔵・シヨーケース」と補正する機会を与えるよう求めた(甲第七号証二頁下から四行ないし三頁下から五行。特に補正の機会を求める記載ー同三頁一一行以下ーは見落されないように「 」を付して強調している)。しかるに右審判請求理由補充書の提出より間もなく同年五月一一日に審理終結通知(甲第八号証)が送達されたので、原告は審判官が審判請求理由補充書の趣旨を十分理解しなかつたのではないかと恐れ、直ちに審理再開申立書(同月一九日付。甲第九号証)を提出し、添付の技術説明書により再度本願発明の趣旨を説明すると共に、同月二九日審判官に面接する機会を得て本願発明の内容を口頭で詳細に説明した(甲第一〇号証)。しかし、審判官は、右のような原告の説明と提出証拠を全く考慮することなく、昭和六二年六月二日をもつて本件審決を作成し、同審決謄本は同年七月六日原告に送達された(前記口頭説明の後、原告はその説明内容を書面化した物件提出書(甲第一〇号証)を提出したが、これは本件審決謄本の送達と入れ違いに提出されたことになつた。)。ところで本願発明を右補正案のように補正することは、その機会さえあれば適法に為し得たことであることは明らかである。即ち本願発明は公告されていないから、右補正については特許法41条が適用され、当初の明細書に記載された事項の範囲内における特許請求の範囲の変更は許容されるところ、シヨーケース内のガラスに積層体を貼ることは当初明細書の実施例五のうちの表1の(1)(二〇頁)に記載されているし、その貼り方の態様がプラスチツクがガラス面に向くようにして為すこともこの実施例についての説明として一九頁一一行ないし一四行に記載されているからである。また、この貼り方については、実施例一においても一三頁六行ないし下から三行で説明されている。なお実施例五の表を見れば、(3)の二枚貼つた場合を除き(これが最も効果のあるのは当然である)、一枚ずつ貼つた(1)、(2)、(4)の三つのケースにおいて、右のような貼り方をした(1)の場合が一番効果のあることが示されている(表においてガラス板表面温度は高い方がよく、節約電力量はもちろん多い方がよい。)。さて原告が提案したように特許請求の範囲の記載が補正された場合には、 仮に本願発明のシヨーケースと積層体とを、夫々引用考案における貯蔵庫と遮光膜に相当すると解したとしても、引用例に基づく本願の拒絶理由が解消することは極めて明らかであつた。即ち、「熱線反射透明積層体を、冷凍・冷蔵シヨーケースのシヨーケース内に面したガラス面にプラスチツクフイルムがガラス面に向くように接着した」構成は引用例に開示されていないからである。即ち、引用例中の記載においては、本件審決自ら引用しているように(甲第一号証二頁末尾二行)、遮光膜を「透明板群の最も庫外側の透明板(8)の庫内面即ち断熱空間側に」接着すると明記されている(甲第一一号証の一の二頁一一、一二行)。したがつて補正案におけるように、シヨーケース内(引用例における貯蔵庫内)の冷気に直接接するガラス面に積層体を貼るという構成とは明確に異なることは言うまでもない。また、引用例はプラスチツクフイルム面をガラスに接着することをも開示していない。したがつて、本願発明の特許請求の範囲がこの補正案のようになれば、それが引用考案と「同一」でないことは明らかである。元来この補正は特許法17条の2第4号により審判請求の日から三〇日以内に行えば問題なかつたのであり、原告がこの期間内に補正をしなかつたことは事実である。しかし、同条の規定は出願人が権利としてなし得る手続補正の期間を定めたものにすぎない。同条が、それ以上に、特許法1条に宣言された「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、以て産業の発達に寄与する」という特許法の目的を実現する義務を負い、かつ裁判所に準ずる公正妥当な法の運用の責任を委ねられている審判官に対し、審理を十分尽して審決をすべき責任を軽減する趣旨までを含むものではあり得ない。拒絶査定不服審判手続において、出願人が実質的に保護に値する発明をしたと認められるとき、審判官が拒絶理由通知を発することにより出願人に特許法17条の2第3号に基づく補正の機会を与え、手続上の原因により出願人が権利を喪失することのないように図る処理は実務上普通に行われている。これは発明を保護し、奨励するため審判官に委ねられた職権の行使の一場面に外ならない。しかして、審判官の職権行使は審判官の全くの自由裁量に委ねられるものではない。審判官は特許法1条の目的を達するための執行官であり、また、公正妥当な審決を下すという義務を負つていることも当然である。審判官の職権が、このような目的若しくは義務の履行に適するよう行使されなければならないことは、明文の規定を待つまでもなく明らかなことである。 原告が主張している手続上の瑕疵は、審判官において適正な審理を行うべき一般的な義務を根拠とするものであり、単に特許法17条の2や159条2項あるいは156条2項の文言解釈を争つているのではない。被告は、審査官による査定の理由と審決の理由が同一であるから、新たに拒絶理由を発する必要はなかつたという。しかし、原告が問題にしているのは、補正案に従えば本願発明は特許性があると認められるならば、審判官は拒絶理由通知を発することにより原告に補正の機会を与えるべきではなかつたかということである(例えば特許法36条に基づく拒絶理由を形式的に通知することにより、出願人(原告)に補正をなさしめることは適法かつ容易な処分であり、しかも現に特許庁において日常的に行われている手続である。)。しかして、本件においては、審理を尽すために拒絶理由を発することは、審判官の法的義務に属するのである。 東京高等裁判所昭和六一年一月一六日判決(「特許と企業」二〇七号五一頁掲載)は、本件に類似した審決取消請求事件において、請求人が特許請求の範囲の補正案を示して審理再開申立をした場合、審判官において審理の完全を期するため必要であるとの合理的理由を認めた場合には再開すべきであるとの前提の下に、その合理的理由の存否を検討している。この事件においては、問題の補正により出願発明が新規性、進歩性を有するに至るとの根拠がないとの理由で審決は維持されたが、もし補正により出願が新規性、進歩性を有するに至るならば、審判官が審理を再開して補正を許すべきだつたとの結論になつた筈である。本件においてはまさに補正案に従えば新規性、進歩性が肯定されることが明白な場合であるから、右判決に従えば、審判官は、審判請求理由補充書に基づき補正の機会を与えるか、若しくは審理再開申立書に対して審理を再開して審理を尽すべきだつたのであり、これを怠つた点に審理不尽の違法があり、本件審決は取り消されなければならない。なお、次のような判決例も参考になろう。東京高等裁判所昭和五四年二月二二日判決(特許庁編・参考審判決集(4)一六七頁掲載)は、請求人の主張する特許無効理由が特許法29条1項1号の公知を主張しているのか、二号の公用を主張しているのか明瞭でないとき、公用の主張でないものとして請求を退けるのは違法であり、 請求人に釈明して主張を明確にする必要があると判示している。また、東京高等裁判所昭和四一年一二月二〇日判決(行裁例集一七巻一二号一三六六頁登載)も、 「審決の結論に影響を及ぼすやもしれない証拠の存在を容易に推知しえたにかかわらず、その調査を怠り、結局本件審判事件における申立理由につき十分な審理を尽くさなかつた違法があるものというべく、……取消をまぬがれない」と判示している。右いずれの事例に関しても、審判官が釈明をすべき義務、若しくは職権により証拠を収集すべき義務は特許法上明記されていないにもかかわらず、判決は、審理が不十分であるとして審決を取消している。このように、審判官は単に具体的に規定された義務を履行すれば足りるのではなく、適正な結果を得るために審理を尽くす一般的義務が存することは判例上認められているのである。 |
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請求原因に対する認否及び反論
一 請求の原因一ないし三の事実は認める。同四の主張は争う。 二 本件審決の認定判断は正当であり、原告主張のような違法はない。 1 取消事由(1)について(一) 本願発明の「透明」と引用考案の「半透明」について 本願明細書(甲第二号証)には、 「金属及び/又は金属酸化物の薄膜は、金、銀、銅、パラジウム及びアルミニウムからなる群から選ばれた一種あるいはそれ以上の金属の薄膜及び/又はIn2O3,SnO2,CdSnOなどの金属酸化物の薄膜である。この場合、薄膜の膜厚は良好な透視性と熱線反射特性を得るために重要な因子であり、次のような値が望ましい。即ち金属の薄膜の場合は五〇A●〜三〇〇A●、金属酸化物の薄膜の場合は、二〇〇〇●〜四〇〇〇●である。いずれの場合も、この範囲よりも小さい膜厚では十分な熱線反射特性は得られず、またこの範囲より大きい膜厚では透視性に問題が生じる。」と記載されている。具体的には厚さ一四〇●銀では、五五〇nmの可視光透過率四〇%、厚さ一五〇●銀と銅の合金では、五五〇nmの可視光透過率五五%が記載されている。可視光の透過率により、全部又は大部分透過するものを透明といい、全部又は大部分透過しないものを不透明といい、その中間を半透明というのであるから、透過率が半分又はそれ以下のものは半透明というべきであろう。膜厚が大きくなれば透過率は少くなるものであり、本願発明においては、具体例よりもさらに厚い三〇〇●まで含まれるものであるから、可視光の透過率は半分以下であり、この意味で引用考案の「半透明」と実質的に同じものである。 (二) 本願発明の「熱線反射」と引用考案の「遮光」について 光は、可視光だけでなく、紫外線、赤外線を含んだ電磁波であり、赤外(熱)線はその一部ではあるけれども、それを遮る目的をもつて、目的に着目していう場合遮光という言葉を使うものである。引用考案も可視光を遮ることは目的としていない。引用考案は、赤外線や紫外線を遮つて庫内温度の上昇を抑制し貯蔵品の変質を防ぐことを目的としていて、可視光線が部分的に遮れてしまつたものである。本願発明においても可視光の透過率は、八〇%を最良のものとして五〇%以下のものも含むものであり、可視光においても部分的に遮られているものである。 また本願発明が赤外線を全部遮断するものではなく一部分遮るものであつてもそれを目的としているために「熱遮断」という言葉を使つたのであろう。ちなみに五〇●金属膜では熱線透過率が八〇%以上になるであろう。この点で引用考案の「遮光膜」は実質的に本願発明の薄膜と同じものであり、「熱線反射」といつても「遮光」といつてもそれは単なる表現の相違にすぎない。 (三) 本願発明の「冷凍・冷蔵シヨーケース」と引用考案の「冷蔵庫等の貯蔵庫」について 引用例には「本考案は冷蔵庫等の貯蔵庫に関し、透明板を嵌合した窓を設けたもので、」と記載されており、一方、本願明細書中には「本発明は省エネルギ型冷凍・冷蔵シヨーケースに関する。」(甲第二号証明細書一頁一〇、一一行)、「冷凍シヨーケースは、牛乳・ジユース・アイスクリームなどを店頭で販売するクローズドタイプシヨーケースと、スーパーマーケツトなどで魚肉類・冷凍食品などを販売するオープンタイプシヨーケースの二種に大別出来る(JISB八六一一)。前者の場合、ケースは断熱材で構成されるが、商品を展示するために側面や上面に透明窓が設けられる。」(同一頁末行ないし二頁七行)と記載してあることから、引用考案の「冷蔵庫等の貯蔵庫」も本願発明の「冷凍・冷蔵シヨーケース」も庫体は断熱材で構成され透明窓を設けた冷蔵庫である点で一致しているから、本件審決において、本願発明の「冷凍・冷蔵シヨーケース」は引用考案の「冷蔵庫等の貯蔵庫」に相当するとした認定に誤りはない。 2 取消事由(2)について(一) 本願については、原告は、特許法第17条の2第1項4号の規定により、 その審判請求の日から三〇日以内に明細書又は図面を補正することができたにもかかわらず、原告はこの期間を徒過し、何らの補正をもしなかつたものである。 (二) 原告は、審判官が原告に対して手続補正をする機会を与えたうえで判断すべきであつたのにこれを怠つた原審手続に違法がある旨主張しているが、審判請求の日から三〇日経過後に補正の機会を与えるためには、新たな拒絶理由を通知するほかはない。しかし、審判において拒絶理由通知を発しなければならないのは、査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合に限られる(特許法159条2項)ところであり、本件審決が特許を受けることができないとした理由が査定の拒絶理由と同一であるから、新たに拒絶理由を発することなく原告に補正の機会を与えずにした本件審決に違法はない。 (三) 原告は、審理を再開すべきであつたのを怠つた点に違法がある旨主張しているが、特許法第156条2項で規定されている審理の再開は、審理の完全を期するためのものであつて、重大な証拠の取調べが未済であつたとか、審理の終結の通知と入れ違いに適法に明細書の補正がなされていた場合といつた審理手続に瑕疵があるときに、審判長は、審理の再開を認めるものであるが、本件の場合は審理再開申立書を検討しても上記いずれにも該当せず、その他の手続にも瑕疵がないものであるから、審理の再開を認めずにした本件審決に違法はない。 |
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証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。 二 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき理由について判断する。 1 取消事由(1)について(一) 本願発明の「熱線反射透明積層体」と引用考案の「半透明の遮光膜」について 成立に争いのない甲第二号証(本願願書)及び第三号証(昭和五三年六月二一日付手続補正書)(以下、右手続補正書による補正後の明細書を「本願明細書」という。)によれば、本願発明の「熱線反射透明積層体」について、本願明細書の特許請求の範囲の欄には、「金属及び/又は金属酸化物の薄膜が積層されたプラスチツクフイルムから主としてなる熱線反射透明積層体」と記載されているのみであつて、右薄膜の膜厚についてこれを限定する規定がないことが認められ、また、右特許請求の範囲の記載は不明瞭な記載とも認められない。したがつて、右甲第二、第三号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には、「薄膜の膜厚は良好な透視性と熱線反射性を得るために重要な因子であり、次のような値が望ましい。即ち、金属の薄膜の場合は五〇●〜三〇〇●、金属酸化物の薄膜の場合は、二〇〇〇●〜四〇〇〇●である。いずれの場合も、この範囲よりも小さい膜厚では十分な熱線反射特性は得られず、またこの範囲より大きい膜厚では透視性に問題が生じる。」(甲第二号証四頁一九行ないし五頁七行)と記載されていることは認められるけれども、本願発明の「熱線反射透明積層体」を構成する金属及び/又は金属酸化物の薄膜(以下、「本願発明の」薄膜」」という。)の膜厚は、本願明細書の発明の詳細な説明の欄記載の右「望ましい値」に限定されるものではない。換言すれば本願発明の「薄膜」は、その膜厚に限定はない。しかして、熱線反射に利用される金属又は金属酸化物の薄膜が積層されたプラスチツクフイルムにおいては、金属等の薄膜の膜厚が透視性及び熱線反射性を決定する重要な因子であることは、前記本願明細書の発明の詳細な説明の欄の記載及び本件口頭弁論の全趣旨から明らかであるから、本願発明の「透明」は、透視性の高い透明から透視性の低い透明までを包含するものと解することができる。原告は、本願発明の「熱線反射透明積層体」なる要件は、金属又は金属酸化物層の厚さを特定したことによる反射又は透過する波長の選択性を包含していると主張するが、前叙のとおり、本願発明の「薄膜」に膜厚の限定はないのであるから、原告の右主張は本願発明の要旨に基づかない主張であるので、採用できない。また、原告は、本願発明にいう「透明」とは、可視光透過率の数値で表すと、おおよそ五〇%以上のものを指す旨主張するが、右「透明」が技術用語であるとも認められず(「透明」が日常語であることは原告の自認するところである。)、他に、右主張事実を認めるに足りる証拠はないので、採用できない。 これに対し、引用例に本件審決認定のとおりの記載があること及び本願発明の「金属」と「プラスチツクフイルム」が引用考案の「アルミニウム」と「ポリエステルフイルム」に相当することは原告の自認するところであり、成立に争いのない甲第一一号証の一(実願昭五一ー七三一四三号の願書に最初に添附した明細書及び図面。即ち、引用例)によれば、引用例には、前記本件審決認定の事実のほか、 「前記断熱扉の庫外側の透明板の内面に半透明の遮光膜を設けてなるものである。 従つて、遮光膜は庫外から庫内に透過する光を遮るので庫内の温度上昇を抑制でき」(同号証三頁一七行ないし二〇行)と記載されていることが認められ、これらの事実によれば、引用考案は、「金属(アルミニウム)の薄膜が積層されたプラスチツクフイルム(ポリエステルフイルム)からなる半透明の遮光膜を熱遮断シートとした冷蔵庫等の貯蔵庫」であること及び引用考案の「半透明の遮光膜」は熱線を反射するものであることが認められる。そして、前掲甲第一一号証の一によれば、 引用例には、引用考案の「半透明の遮光膜」を構成する金属薄膜の膜厚について限定する記載がないこと、「なお庫内(3C)に達する光は殆ど無くなるので庫内(3C)にどんな貯蔵物品が入つているかわかりにくくなるが、この場合庫内(3C)に設けた照明具(11)にて貯蔵物品が庫外より判別できる。」(同号証三頁七行ないし一〇行)と記載されていることが認められ、右事実によれば、引用考案の「半透明の遮光膜」は、可視光をある程度透過させるものであることが認められる。 そうすると、本願発明の「熱線反射透明積層体」と引用考案の「半透明の遮光膜」とは可視光の透過率が、ある範囲において一致する即ち本願発明の「熱線反射透明積層体」を構成する金属薄膜の膜厚と引用考案の「半透明の遮光膜」を構成する金属薄膜の膜厚が、ある範囲において一致すると認めることができるから、本願考案の「熱線反射透明積層体」には、引用考案の「半透明の遮光膜」と熱線を反射し可視光を透過させるという機能において実質的に同一のもの即ち金属薄膜の膜厚が実質的に同一のものが含まれるといわざるを得ない。したがつて、本願発明の「熱線反射透明積層体」が引用考案の「半透明の遮光膜」に相当するとした本件審決の認定判断に誤りはない。 (二) 本願発明の「冷凍・冷蔵シヨーケース」と引用考案の「冷蔵庫等の貯蔵庫」について 本願発明の「冷凍・冷蔵シヨーケース」と引用考案の「冷蔵庫等の貯蔵庫」とは、冷蔵保存という機能において共通することは、原告の明らかに争わないところである。ところで、前掲甲第一一号証の一によれば、引用考案の「冷蔵庫等の貯蔵庫」は、いわゆる「陳列棚」という意味での「シヨーケース」を意図したものではないという点では原告主張のとおりであることが認められるが、同号証によれば、 引用考案は、透明板を嵌合した窓を設けたものであり、遮光膜により、可視光をある程度透過させるものの、庫内に達する光が殆どなくなり、庫内の貯蔵物品がわかりにくくなるけれども、この場合は庫内に照明具をつけることによつて貯蔵物品を庫外より判別できるものであることが認められるから、引用考案の「冷蔵庫等の貯蔵庫」も「シヨーケース」としての機能を果たすものと認められる。原告は、引用考案の「冷蔵庫等の貯蔵庫」の窓の効用は庫内に設けた照明具によつて貯蔵物品が庫外より判別できる程度のもので、「シヨーケース」とは異なる旨主張するが、外部から顧客が庫内の商品(貯蔵物品)を見ることができれば「シヨーケース」としての機能を果たすものであることは見易い道理であり、「シヨーケース」としての機能を果たすために庫内に照明具を必要とするか否かによつて別異に解すべき理由はないから、原告の右主張は採用できない。そうすると、本願発明の「冷凍・冷蔵シヨーケース」と引用考案の「冷蔵庫等の貯蔵庫」とは実質的に同一と認められ、 本願発明の「冷凍・冷蔵シヨーケース」が引用考案の「冷蔵庫等の貯蔵庫」に相当するとした本件審決の認定判断に誤りはない。 (三) 本件審決の判断について 本願発明の「金属」と「プラスチツクフイルム」が引用考案の「アルミニウム」と「ポリエステルフイルム」に相当するものであることは原告の自認するところであること、本願発明の「熱線反射透明積層体」、「冷凍・冷蔵シヨーケース」と引用考案の「半透明の遮光膜」、「冷蔵庫等の貯蔵庫」とが実質的に同一と認められることは前叙のとおりであるから、本願発明は引用考案と実質的に同一のものということができ、同旨の本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の事実誤認はないから取消事由(1)は採用できず、これをもつて本件審決を違法として取消すに由ない。 2 取消事由(2)について(一) 明細書又は図面の補正について 特許法17条1項によれば、特許出願人は、出願公告決定の謄本の送達前は、同条同項、17条の2各号所定の時期又は期間内に限り、願書に添附した明細書又は図面について補正をすることができるが、右時期又は期間以外はその補正をすることができないことは明らかである。原告は、審判官は昭和六二年四月一三日付審判請求理由補充書(甲第七号証)に基づき原告に補正の機会を与えて審理を尽すべきであつた旨主張するが、右補充書に基づく補正が特許法17条1項、17条の2各号の規定に該当することの主張立証はない(原告が主張する補正の申立が同法17条の2第4号に規定する審判請求の日から三〇日以内に行われなかつたことは原告の自認するところである。)から、審判官が原告に対し、右審判請求理由補充書に基づき補正の機会を与えなかつたとしても何ら違法とすべき点は認められない。また、原告は、審判官において適正な審理を行うべき一般的な義務を根拠に、審判官が拒絶理由通知を発することにより出願人(原告)に補正の機会を与えるべきであつたのに、これを怠つた旨主張するが、同法159条2項、50条によれば、審判において拒絶理由通知を発しなければならないのは、査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に限られるところ、本件審決が、本願発明の特許を受けることができないとした理由が査定の拒絶理由と異なることの主張立証はなく、原告が主張する、審判官に課せられた適正な審理を行うべき一般的義務からなぜ審判官において原告に対し拒絶理由通知を発すべき法的義務が生じるのか根拠が明らかでないから、原告の右主張は採用の限りでない。 (二) 審理の再開について 特許法156条2項によれば、審判長は、必要があるときは審理の再開をすることができると規定されているのであるから、本来、審理の再開をするか否かは審判長の自由裁量に委ねられており、重要な証拠の取調べを看過していたとか、審理の終結の通知と入れ違いに適法に明細書の補正がなされていた場合等の特段の事由があるときに審理の再開が審判長の義務となり得ると解されるところ、原告が審理を再開すべき事由として主張する事情は右特段の事由に該当するとは認められない。 したがつて、審判長が審理の再開を認めなかつた手続に違法はないといわなければならない。 (三) 原告は、東京高等裁判所昭和六一年一月一六日判決(「特許と企業」二〇七号五一頁に掲載)を引用して、右判決に従えば、審判官は審判請求理由補充書に基づき補正の機会を与えるか、若しくは審理再開申立書に対して審理を再開して審理を尽すべきであつたのにこれを怠つた点に審理不尽の違法がある旨主張するが、 右判決は、審理を再開すべき合理的理由は存在しないと認定判断したものであつて、それ以上に、審判手続において請求人が特許請求の範囲の補正案を示して審理再開申立をした場合、その補正により出願について拒絶の理由を発見することができないならば、審判長は常に審理を再開して補正を許さなければならない法的義務があるとしたものとは解されないから、原告の右主張は採用できない。 東京高等裁判所昭和五四年二月二二日判決(特許庁編・参考審判決集(4)一六七頁掲載)及び東京高等裁判所昭和四一年一二月二〇日判決(行裁例集一七巻一二号一三六六頁登載)は本件と事案を異にし本件に適切でない。 (四) 以上検討したところによれば、取消事由(2)は採用できないから、これをもつて、本件審決を違法として取消すことはできない。 三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、 主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 秋吉稔弘 |
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裁判官 | 西田美昭 |
裁判官 | 木下順太郎 |