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事件 平成 4年 (ワ) 13663号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1993/10/22
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、別紙特許目録記載の特許につき、米国特許庁に対し、原告への譲渡の登録手続をせよ。
二 被告は、原告に対し、昭和六一年一一月二七日から前項の給付を完了するまで年三〇万円の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
一 主文第一項と同旨二 被告は、原告に対し、昭和六一年一一月二七日から前項の給付が完了するまで年五〇万円の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告が、電子、電気機器の製造、販売等を目的とする会社の技術部長であった被告の職務上の発明にかかる米国特許庁に登録された特許権の譲渡を受けたと主張して、米国特許庁に対する原告への譲渡の登録手続きと損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等1 エス・アール・デー株式会社は、電子、電気機器の製造、販売等を目的とする会社であり、被告は、同社の取締役であったが、昭和五七年五月二四日取締役を辞任し、昭和五八年当時は、同社の技術部長であった(乙一九、証人A)。
エス・アール・デー株式会社は、昭和五五年ころから、電子機器の信号復調装置の開発を企画し、被告を総括責任者とする同社の技術部に担当させ、昭和五八年始めころ、信号復調装置を発明した(以下「本件発明」という。)。本件発明は、データのデコード(読み取り)及びエンコード(書き込み)用の集積回路(チップ)で、手動式カードリーダに使用される(甲一五、証人A)。
2 被告は、昭和五八年六月二二日、本件発明につき、米国特許庁へ特許の出願をし、昭和六〇年九月一〇日、被告名義で別紙特許目録記載の特許権の登録がされた(以下「本件特許」という。当事者間に争いがない。)。
二 争点 エス・アール・デー株式会社は、被告との間で、被告が本件発明について米国特許庁に特許の出願をしてその特許権を取得したならば、これをエス・アール・デー株式会社に譲渡し、登録手続きをすると合意したか否か。
争点等に対する判断
一 証拠(甲一ないし八、
九の1、2、一〇の1、2、一一ないし一三、一五、一六、乙一、二、一六、証人A、証人B、被告本人)によれば、@エス・アール・デー株式会社は、設立当時から、磁気カードリーダをメインの商品として販売しており、本件発明を用いた磁気カードリーダを米国で販売するようになって相当のシェアを占めるようになったこと、Aエス・アール・デー株式会社は、当初、本件発明について米国での特許出願をするため、東京の磯野国際特許商標事務所にその手続きを依頼し、同社名義の特許権を取得すべく準備していたが、同社のライバル会社であるシステム機器株式会社から、エス・アール・デー株式会社の磁気カードリーダの販売にクレームがついたことから、急遽、会社名より個人名によって出願し、特許権を取得したほうが得策であるとの判断により、被告の個人名に切り換えたこと、B前記のとおり、米国特許庁に出願して被告名義の特許権が取得されているが、その出願費用二五万円は、エス・アール・デー株式会社が全額負担していること、Cエス・アール・デー株式会社は、本件発明につき、同社名義で、昭和五八年七月一日日本の特許庁へ特許の出願をし、更に、昭和六〇年六月二四日イギリス、同月二六日西ドイツにおいてそれぞれ所定の特許の出願を完了し、費用も同社が負担しており、被告はこれらの出願手続きについてなんら異議を述べていないこと、D被告は、エス・アール・デー株式会社の技術部長として、本件発明の特許に関する同社の方針を十分知り得る立場にいたこと、が認められる。
以上の事実を総合すると、被告は、本件特許につき被告の名前で出願し、被告が特許権を取得し登録した後に、当然にエス・アール・デー株式会社にこれを譲渡しその登録手続きをすることを了解していたものと推認することができ、右認定に反する被告本人尋問の結果及び乙第一六号証は信用することができない。
したがって、被告は、エス・アール・デー株式会社に対し、本件特許につき、原告への譲渡証を作成するなどして、米国特許庁に対し、エス・アール・デー株式会社への譲渡の登録手続きをする義務がある。
二 エス・アール・デー株式会社は、昭和六一年九月ころ、約三〇億円の負債を抱えて倒産状態となった。そのころ、エス・アール・デー株式会社は、日立化成商事株式会社に、本件特許に関する権利等を含め営業譲渡し、更に、同社の出資により設立された原告(昭和六一年一〇月一日設立)に対し、同年一一月二七日、これが譲渡された。そして、そのころ、原告の取締役であるC、エス・アール・デー株式会社の代表取締役A、被告、日立化成商事株式会社及び日立化成工業株式会社の関係者が会談し、被告に対し、本件特許に関する権利の移転を求め、日立化成商事株式会社から被告に対して名義変更についてのいわゆる判子代として一〇〇万円を支払うとの申し出がされたが、被告はこれに応じなかった(乙七、証人A、被告本人)。
原告は、被告に対して、本件特許につき直接原告への譲渡の登録手続きを求めているが、被告は、実体上右の登録手続きを拒否する正当の事由を有しないから、原告の請求を拒否できないと解するのが相当である。
三 以上のとおり、被告は、原告に対し、本件特許につき米国特許庁に対して原告への譲渡の登録手続きをする義務があるところ、これを拒否しているので、原告の損害を賠償する義務がある。
原告の損害についてこれを立証する直接証拠はないが、前記認定のとおり、本件発明はエス・アール・デー株式会社にとって重要な価値を有していたことは明らかであって、原告自身、その価値の重要性については認めているところであり、日立化成商事株式会社から被告に対して名義変更の判子代として一〇〇万円を支払う旨の提案がされたこと、その他諸般の事情を考慮すると、原告の被る損害は、昭和六一年一一月二七日以降、少なくとも年三〇万円を下ることはないものと判断する。
四 よって、本訴請求は、請求の趣旨第一項及び第二項の内年三〇万円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、主文のとおり判決する。
別紙特許目録(省略)