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関連審決 無効2002-35432
関連ワード 承継 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  出願公開 /  技術常識 /  パリ条約 /  優先権 /  特許出願日 /  容易に想到(容易想到性) /  設定登録 /  請求の範囲 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10289号 審決取消請求事件
原告 ザウラーゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (審決の表示) ノイマーク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
訴訟代理人弁護士 加藤義明,三留和剛,木村育代,久野琢也
被告 ティーエスコーポレーション株式会社(旧商号帝人製機株式会社)訴訟承継人ナブテスコ株式会社 (審決の表示) 帝人製機株式会社
訴訟代理人弁護士 冨永博之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/05/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2002-35432号事件について平成15年8月15日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。
本件は,本件第1,第4及び第5特許(後記)について,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁がいずれの特許権をも無効とするとの審決をしたため,原告がその取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件特許(甲2) 特許権者:原告(原告は,ノイマーク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト(審判時の被請求人)から審判後に合併等により本件特許権を承継した。) 発明の名称:「ワインダ」 特許出願日:平成7年7月8日(特願平8-504664号,パリ条約による優先権主張1994年7月15日,ドイツ連邦共和国) 設定登録日:平成10年4月17日 特許番号:第2771333号 (2) 本件手続 審判請求日:平成14年10月11日(無効2002-35432号) 訂正請求日:平成15年4月22日(全文訂正明細書(甲12)を以下「本件明細書」という。) 審決日:平成15年8月15日 審決の結論:「訂正を認める。特許第2771333号の請求項1,4ないし5に記載された発明についての特許を無効とする。」 審決謄本送達日:平成15年8月27日(原告に対し。出訴期間として90日付加。) 2 本件発明の要旨(下線部は訂正部分。以下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「第1発明」などという。)「1.パッケージ管(2)用の緊締装置(1)とトラバース装置(4)と,前記の緊締装置(1)とトラバース装置(4)との間に配置されている接触ローラ(6)とからそれぞれなる少なくとも3つの巻成部(A,B)を備え,しかも 前記トラバース装置(4)が,伝動装置によって連結された2つの互いに逆向きに駆動可能なロータ(7,8)を備え, 前記の両ロータ(7,8)が,プロペラ状に配置された少なくとも2枚の羽根(13,14;13A,14A;13B,14B)をそれぞれ有し,かつ,前記の一方のロータ(7)の羽根(13,13A,13B)が下位回転平面(15,15A,15B)内で回転し,また他方のロータ(8)の羽根(14,14A,14B)が,前記下位回転平面より上方に短い間隔dをおいて位置している上位回転平面(16,16A,16B)内で回転し, トラバース運動の両反転点(29,30)間に間隔Hが存在し, トラバース運動三角形の平面が反転点(29,30)において,前記回転平面(15,16;15A,16A;15A,16B)に対して角度αを形成しており,かつ 隣り合った巻成部(A,B)の前記ロータ(7,8)の回転円が互いに交差している形式の ワインダにおいて, 巻成部(A,B)における両回転平面(15A,16A,15B,16B)とトラバース運動三角形の平面との交線が,下位のロータ(7)の羽根(13A,13B)が両反転点(30,29)間を運動する方向(28)で,同一方向及び同一角度βで上り勾配を成し,前記角度が次の関係式: 0<β<2 arctan(d/H・sinα)を満たし, 回転平面(15A,16A)の交線が隣接した他方の巻成部(B)の方へ向かって上り勾配を成すところの,一方の巻成部(A)の下位回転平面(15A)が,前記他方の巻成部(B)の回転平面(15B,16B)間に位置し,かつ前記他方の巻成部(B)の上位回転平面(16B)が,一方の巻成部(A)の回転平面(15A,16A)間に位置しており,かつ回転平面(16A,16B,15A,15Bの順序で)が,全ての羽根(13A,14A,13B,14B)を互いに独立して回転させ得るような間隔をおいて配置されていることを特徴とする,ワインダ。
2.各巻成部(A,B)で回転平面(15A,16A;15B,16B)間に直定規部材(17A,17B)が配置されており,かつ両側で,回転円の範囲外で機械架台に固定された接合板(33)を有している,請求項1記載のワインダ。
3.個々の巻成部(A,B)が,別個の駆動装置を装備している,請求項1又は2記載のワインダ。
4.パッケージ管(2)用の緊締装置(1)とトラバース装置(4)と,前記の緊締装置(1)とトラバース装置(4)との間に配置されている接触ローラ(6)とからそれぞれなる少なくとも3つの巻成部(C,D)を備え,しかも前記トラバース装置(4)が,伝動装置によって連結された2つの互いに逆向きに駆動可能なロータ(7,8)を備え, 前記の両ロータ(7,8)が,プロペラ状に配置された少なくとも2枚の羽根(13,14;13C,14C;13D,14D)をそれぞれ有し,かつ,前記の一方のロータ(7)の羽根(13,13C,13D)が下位回転平面(15,15C,15D)内で回転し,また他方のロータ(8)の羽根(14,14C,14D)が,前記下位回転平面より上方に短い間隔dをおいて位置している上位回転平面(16,16C,16D)内で回転し, トラバース運動の両反転点(29,30)間に間隔Hが存在し, トラバース運動三角形の平面が反転点(29,30)において,前記回転平面(15,16;15C,16C;15D,16D)に対して角度αを形成しており,かつ 隣り合った巻成部(C,D)の前記ロータ(7,8)の回転円が互いに交差している形式の ワインダにおいて, 巻成部(C,D)における両回転平面(15C,16C,15D,16D)とトラバース運動三角形の平面との交線が,下位のロータ(7)の羽根(13C,13D)が両反転点(30,29)間を運動する方向(28)で,同一方向及び同一角度βで上り勾配を成し,前記角度が次の関係式: 0<β<2 arctan(d/H・sinα)を満たし, 回転平面(15C,16C)の交線が隣接した他方の巻成部(D)の方へ向かって上り勾配を成すところの,一方の巻成部(C)の下位回転平面(15C)の羽根 (13C)が,前記他方の巻成部(D)の上位回転平面(16D)の羽根(14D)と噛み合っていることを特徴とする,ワインダ。 5.パッケージ管(2)用の緊締装置(1)とトラバース装置(4)と,前記の緊締装置(1)とトラバース装置(4)との間に配置されている接触口一ラ(6)とからそれぞれなる少なくとも3つの巻成部(E,F)を備え,しかも 前記トラバース装置(4)が,伝動装置によって連結された2つの互いに逆向きに駆動可能なロータ(7,8)を備え, 前記の両ロータ(7,8)が,プロペラ状に配置された少なくとも2枚の羽根(13,14;13E,14E;13F,14F)をそれぞれ有し,かつ,前記の一方のロータ(7)の羽根(13,13E,13F)が下位回転平面(15,15E,15F)内で回転し,また他方のロータ(8)の羽根(14,14E,14F)が,前記下位回転平面より上方に短い間隔dをおいて位置している上位回転平面(16,16E,16F)内で回転し, トラバース運動の両反転点(29,30)間に間隔Hが存在し, トラバース運動三角形の平面が反転点(29,30)において,前記回転平面(15,16;15E,16E;15F,16F)に対して角度αを形成しており,かつ 隣り合った巻成部(E,F)の前記ロータ(7,8)の回転円が互いに交差している形式の ワインダにおいて, 全ての巻成部(E,F)における両回転平面(15E,16E,15F,16F)とトラバース運動三角形の平面との交線が,下位のロータ(7)の羽根(13E,13F)が両反転点(30,29)間を運動する方向(28)で,同一方向及び同一角度βで上り勾配を成し,前記角度が次の関係式: 0<β<2 arctan(d/H・sinα)を満たし, 回転平面(15E,16E)の交線が隣接した他方の巻成部(F)の方へ向かって上り勾配を成すところの,一方の巻成部(E)の下位回転平面(15E)が,前記他方の巻成部(F)の上位回転平面(16F)よりも上方に位置し,かつ 回転平面(15E,16F)が,該回転平面内で回転する羽根(13E,14F)を互いに独立して回転させ得るような間隔をおいて配置されていることを特徴とする,ワインダ。」 3 審決(甲1)の要旨 被告は,第1,4,5発明を無効とする旨の審判を求めたところ,審決は,前記訂正を認めた上,第1,4,5発明は,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,第1,4,5発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,無効とすべきものであるとした。
(1) 引用刊行物 @ 引用例1(審判甲2の1及び2,本訴甲6の1及び2):ドイツ連邦共和国特許出願公開1,710,068号明細書 A 引用例2(審判甲1,本訴甲5):特開平5-24740号公報 B 引用例3(審判甲3,本訴甲7):特開昭59-143869号公報 (2) 引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。) 「ボビン(B)用の緊締装置とトラバース装置と,前記の緊締装置とトラバース装置との間に配置されている駆動シリンダ(4)とからそれぞれなる巻成部を備え,しかも前記トラバース装置が,伝動装置によって連結された2つの互いに逆向きに駆動可能な糸ガイド(t1,t2)を備え,前記の両糸ガイド(t1,t2)が,プロペラ状に配置された2枚の羽根をそれぞれ有し,かつ,前記の一方の糸ガイドt1の羽根が下位回転平面内で回転し,また他方の糸ガイドt2の羽根が,前記下位回転平面より上方に短い間隔をおいて位置している上位回転平面内で回転し,トラバース運動の両反転点間に有効ストローク長が存在し,トラバース運動三角形の平面が反転点において,前記回転平面に対して角度を形成している形式のワインダであって,糸ガイドt1と駆動円筒(4)との距離と糸ガイドt2と駆動円筒(4)との距離とが等しい距離Dとなるようにした発明」 (3) 第1発明について ア 引用発明との対比 (ア) 一致点 「パッケージ管用の緊締装置とトラバース装置と,前記の緊締装置とトラバース装置との間に配置されている接触ローラとからそれぞれなる巻成部を備え,しかも前記トラバース装置が,伝動装置によって連結された2つの互いに逆向きに駆動可能なロータを備え,前記の両ロータが,プロペラ状に配置された少なくとも2枚の羽根をそれぞれ有し,かつ,前記の一方のロータの羽根が下位回転平面内で回転し,また他方のロータの羽根が,前記下位回転平面より上方に短い間隔dをおいて位置している上位回転平面内で回転し,トラバース運動の両反転点間に間隔Hが存在し,トラバース運動三角形の平面が反転点において,前記回転平面に対して角度αを形成している形式のワインダである点。」 (イ) 相違点 @ 相違点1 「第1発明においては,両回転平面の上り勾配角度βが,0<β<2 arctan(d/H・sinα)の式を満たすように設定されているのに対し,引用発明においては,両回転平面の上り勾配角度βは,β=arctan(d/H・sinα)で定義される角度である点。」 A 相違点2 「第1発明においては,巻成部は少なくとも3つからなり,隣り合う巻成部のロータの回転平面が交差するように配置するとともに,一方の巻成部の下位回転平面が,前記他方の巻成部の回転平面間に位置し,かつ前記他方の巻成部の上位回転平面が,一方の巻成部の回転平面間に位置しており,かつ回転平面が,全ての羽根を互いに独立して回転させ得るような間隔をおいて配置されているものであるのに対し,引用発明においては,巻成部は1つしかないので隣り合う場合の配置に関しては何ら触れられていない点。」 イ 相違点についての判断 (ア) 相違点1について 「第1発明において,両回転平面の上り勾配角度βが,0<β<2 arctan(d/H・sinα)の式を満たすように設定することの意義を考察する。 一般に回転平面のトラクト長さをできるだけ短くすることが,均一な構造のパッケージを巻くために必要であることはよく知られた事実である。しかしながら,いかに短くしても,従来よく知られたワインダにおいては,「トラバース運動三角形の平面と両回転平面との間の交線は,公知のワインダの場合には接触ローラ面とトラバース運動三角形との接線に対して平行に位置し,要するに接触ローラの軸線に対しても平行に位置している。前記接線からの両交線の距離が異なることに応じて,上位回転平面の羽根が糸を供給する反転点におけるトラクト長さは,下位回転平面の羽根が糸を供給する反転点におけるトラクト長さよりも大である。…両反転点におけるトラクト長さ間の差は,操業中にパッケージの両端部におけるパッケージ構造の品質を異ならせることになる。」(本件明細書2頁18〜26行)問題があったので,本件発明においては,その問題を解決するために,接触ローラの軸線に対して回転平面を傾斜する(すなわち,βの角度をつける)ことによって,トラクト長さの差をなるべく短くしようとするものである。差が全くなければ品質が異なる問題は解決するのであるが,第1発明は,差が全くなくならなくとも,βが零の公知例よりもよりその長さの差を短くすればパッケージ構造の品質の不均一がより少なくなるというものである。そして,トラクト長さの差が零の場合は,β=arctan(d/H・sinα)で定義されるので,βが零の場合を中心に傾斜角を設定するものであると認められる。 以上の考察を踏まえれば,引用発明の場合は,両反転点におけるトラクト長さの差を零とし,製品間の品質のバラツキを全くなくそうとするものであるのに対し,第1発明の場合は,従来公知のものよりも引用発明のものに近づくようにトラクト長の差を(零の場合も含めて)より短くしようとするものであるといえる。 しかしながら,両反転点におけるトラクト長さの差が少なければ,パッケージ品質の不均一が少なくなることは引用例からも容易に予測できることであるから,トラクト長の差が従来のものよりも少ない範囲をとって,相違点1に係る構成のようにすることに格別の困難があったとは認められない。」 (イ) 相違点2について 「一般に,ワインダは,複数の巻成部を並列配置したものを一台として設計するが,いわゆる羽根型トラバース装置をもったワインダにおいても,そのことは同様である。そして,羽根型トラバース装置をもったワインダは,トラバース装置が巻取幅よりも左右に張り出す構造であるために,並列配置したとき横幅が不必要に長くなるので,隣接する巻成部のロータの回転平面が交差するようにトラバース装置を配置して,横幅を詰め,コンパクトにすることが,引用例3にも見られるように周知である。従来から近接配置されているトラバース装置はロータの回転平面が水平なもの(すなわち,βが零であるもの)であるのに対し,引用例1記載のものは,ロータの回転平面が傾斜している羽根型トラバース装置をもつワインダであるが,このようなものにおいても,通常の羽根型トラバース装置を持つもの同様,複数の巻成部を並列配置し,並列配置にあたっては,巻成部の配置をコンパクトにしようとすることは,当業者が当然考慮することである。そして,傾斜があることにより,ロータの回転平面が交差するような巻成部の配置が困難となる事情も認められないので,引用発明において,少なくとも3つの巻成部を近接配置し,隣り合う巻成部のロータの回転平面が交差するように配置した点には格別のものがないというべきである。 そもそも,ロータの回転平面が交差するように二つ以上の巻成部を近接配置する場合,一つのロータの回転平面に着目してみれば,一つのロータの回転平面を,隣接する巻成部のロータの回転平面と同一平面上にするか,あるいは,異なった平面上にするかの二つに一つの選択しかなく,一つの巻成部の上下二つのロータの回転平面のいずれの回転平面も,隣接する巻成部のロータの回転平面とは異なった平面に配置することは,必要に応じて適宜選択できる程度の事項であると認められる。
そして,そうした選択を採用した場合,隣り合うトラバース装置間のトラクト長の違いを小さくすべき必要があることを考慮すれば,隣接する上下の回転平面の間に一つの回転平面が位置するように配置することは当業者が容易に選択できたものと認められる。
よって,第1発明は,引用発明および周知の技術事項から当業者が容易に発明できたものである。」 (4) 第4発明について ア 引用発明との対比 「第4発明は,「…0<β<2 arctan(d/H・sinα)を満たし,」までは第1発明と同じであり,隣接する巻成部の上位回転平面と下位回転平面の配置関係に関して第1発明と異なるものである。 」 (ア) 一致点 「パッケージ管用の緊締装置とトラバース装置と,前記の緊締装置とトラバース装置との間に配置されている接触ローラとからそれぞれなる巻成部を備え,しかも前記トラバース装置が,伝動装置によって連結された2つの互いに逆向きに駆動可能なロータを備え,前記の両ロータが,プロペラ状に配置された少なくとも2枚の羽根をそれぞれ有し,かつ,前記の一方のロータの羽根が下位回転平面内で回転し,また他方のロータの羽根が,前記下位回転平面より上方に短い間隔dをおいて位置している上位回転平面内で回転し,トラバース運動の両反転点間に間隔Hが存在し,トラバース運動三角形の平面が反転点において,前記回転平面に対して角度αを形成している形式のワインダである点。」 (イ) 相違点 @ 相違点1 「第4発明においては,両回転平面の上り勾配角度βが,0<β<2 arctan(d/H・sinα)の式を満たすように設定されているのに対し,引用発明においては,両回転平面の上り勾配角度βは,β=arctan(d/H・sinα)で定義される角度である点。」 A 相違点3 「第4発明においては,巻成部は少なくとも3つからなり,隣り合う巻成部のロータの回転平面が交差するように配置するとともに,一方の巻成部の下位回転平面の羽根が,他方の巻成部の上位回転平面の羽根と噛み合っているのに対し,引用発明においては,巻成部は1つしかないので隣り合う場合の配置に関しては何ら触れられていない点。」 イ 相違点についての判断 「相違点1については,すでに検討したので相違点3について検討する。 複数のトラバース装置を配置するために,隣り合う巻成部のロータの回転平面が交差するようにトラバース装置を近接配置することは従来から広く行われていることである。従来から近接配置されているトラバース装置はロータの回転平面が水平なもの(すなわち,βが零であるもの)であるのに対し,第4発明のものはロータの回転平面が傾斜しているものであるが,傾斜が設けられているか否かによって隣り合う巻成部ロータの回転面が交差するような近接配置が困難となるものでもないので,第4発明のものにおいて,少なくとも3つの巻成部を近接配置し,隣り合う巻成部のロータの回転平面が交差するように配置した点には格別のものがないというべきである。 ところで,引用例2には,回転平面が交差するように配置した場合,一つの巻成部のロータの二つの回転平面のうち,一つの回転平面は隣接する巻成部の回転平面とは同一平面上にならない位置に配置し,他の一つの回転平面は隣接する巻成部の回転平面と同一の平面上に配置したものが記載されている。 してみると,第4発明において,一方の巻成部の下位回転平面の羽根が,他方の巻成部の上位回転平面の羽根と噛み合うように配置した点は,引用例2に記載された事項から当業者が容易に想到できたものである。
よって,第4発明は,引用発明および引用例2に記載された技術事項から当業者が容易に発明できたものである。」 (5) 第5発明について ア 引用発明との対比 「第5発明は,「…0<β<2 arctan(d/H・sinα)を満たし,」までは第1発明と同じであり,隣接する巻成部の上位回転平面と下位回転平面の配置関係に関して第1発明と異なるものである。」 (ア) 一致点 「パッケージ管用の緊締装置とトラバース装置と,前記の緊締装置とトラバース装置との間に配置されている接触ローラとからそれぞれなる巻成部を備え,しかも前記トラバース装置が,伝動装置によって連結された2つの互いに逆向きに駆動可能なロータを備え,前記の両ロータが,プロペラ状に配置された少なくとも2枚の羽根をそれぞれ有し,かつ,前記の一方のロータの羽根が下位回転平面内で回転し,また他方のロータの羽根が,前記下位回転平面より上方に短い間隔dをおいて位置している上位回転平面内で回転し,トラバース運動の両反転点間に間隔Hが存在し,トラバース運動三角形の平面が反転点において,前記回転平面に対して角度αを形成している形式のワインダである点。」 (イ) 相違点 @ 相違点1 「第5発明においては,両回転平面の上り勾配角度βが,0<β<2 arctan(d/H・sinα)の式を満たすように設定されているのに対し,引用発明においては,両回転平面の上り勾配角度βは,β=arctan(d/H・sinα)で定義される角度である点。」 A 相違点4 「第5発明においては,巻成部は少なくとも3つからなり,隣り合う巻成部のロータの回転平面が交差するように配置するとともに,一方の巻成部の下位回転平面が,前記他方の巻成部の上位回転平面よりも上方に位置し,かつ回転平面が,該回転平面内で回転する羽根を互いに独立して回転させ得るような間隔をおいて配置されているのに対し,引用発明においては,巻成部は1つしかないので隣り合う場合の配置に関しては何ら触れられていない点。」 イ 相違点についての判断 「相違点1については,すでに検討したので相違点4について検討する。 複数のトラバース装置を配置するために,隣り合う巻成部のロータの回転平面が交差するようにトラバース装置を近接配置することは,引用例3に見られるように,従来から広く行われていることである。従来から近接配置されているトラバース装置はロータの回転平面が水平なもの(すなわち,βが零であるもの)であるのに対し,第5発明のものはロータの回転平面が傾斜しているものであるが,傾斜が設けられているか否かによって隣り合う巻成部ロータの回転平面が交差するような近接配置が困難となるものでもないので,第5発明のものにおいて,少なくとも3つの巻成部を近接配置し,隣り合う巻成部のロータの回転平面が交差するように配置した点には格別のものがないというべきである。 そもそも,ロータの回転平面が交差するように二つ以上の巻成部を近接配置する場合,一つのロータの回転平面に着目してみれば,一つのロータの回転平面を,隣接する巻成部のロータの回転平面と同一平面上にするか,あるいは,異なった平面上にするかの二つに一つの選択しかなく,一つの巻成部の上下二つのロータの回転平面のいずれの回転平面も,隣接する巻成部のロータの回転平面とは異なった平面に配置することは,必要に応じて適宜選択できる程度の事項であると認められる。
してみると,第5発明において,一方の巻成部の下位回転平面が,前記他方の巻成部の上位回転平面よりも上方に位置するように配置した点に格別のものがあるとは認められない。 そして,隣接する巻成部のロータの回転平面が互いに同一平面上にないのであるから,回転する羽根を互いに独立して回転できるようにした点にも格別のものはない。 よって,第5発明は,引用発明および周知の技術事項から当業者が容易に発明できたものである。」 (6) 結論 「以上のとおりであるから,本件の請求項1,4及び5に係る発明の特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条に該当し,無効とすべきものである。」
原告の主張の要点
審決は,第1発明について相違点2の認定及びその判断を誤り,第4発明について相違点3の認定及びその判断を誤り,第5発明について相違点4の認定及びその判断を誤った結果,各発明につき進歩性を誤って否定したものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 第1発明について (1) 相違点2の認定の誤り 審決は,第1発明と引用発明との相違点2を前記のとおり認定したが,誤りである。
本件特許請求の範囲請求項1の記載によれば,第1発明は,少なくとも3つの巻成部を備えるとともに,隣り合った巻成部のロータの回転円が互いに交差している形式のワインダであって,一方の巻成部における回転平面とトラバース運動三角形の平面との交線が,隣接した他方の巻成部の方へ向かって上り勾配をなすところの,当該一方の巻成部の下位回転平面が,当該他方の巻成部の回転平面間に位置し,当該他方の巻成部の上位回転平面が,当該一方の巻成部の回転平面間に位置し,かつ回転平面が,全ての羽根を互いに独立して回転させ得るような間隔をおいて配置されているワインダである。すなわち,第1発明は,隣り合った巻成部のロータの回転円を互いに交差させる際に,巻成部における回転平面とトラバース運動三角形の平面との交線の勾配に関連して,隣接する各巻成部の回転平面相互の配置関係を特定しているのであるが,審決認定の相違点2には,隣接する各巻成部の回転平面相互の配置関係が,上記勾配の方向との関連付ける形で特定されていない。
したがって,審決の相違点2の認定は誤りである。
(2) 相違点2の進歩性判断の誤り 審決は,相違点2を誤って認定した上で,相違点2に係る構成は当業者が容易に発明できたものであると結論付けている。
しかしながら,例えば,引用例3(甲7)に記載されているような周知のワインダは,巻成部(あや振り装置1,2,3)における回転平面(I,II)が,ガイドローラ又はボビンの軸線に対して平行に配置されていることを前提として,巻成部の回転平面が交差するように巻成部を隣接配置したものである。これに対し,引用発明及び第1発明では,巻成部の回転平面をガイドローラ又はボビンの軸線に対して傾斜させている。引用例3記載の発明においてかかる構成をとると,隣接する巻成部間においてトラクト長さに著しい差異が発生してしまい,もはや許容できるパッケージ構造の品質を得ることができない。したがって,引用例3に記載されたワインダにおいて,各トラバース装置を傾斜させることは,当業者の技術常識に反する。
また,審決は,巻成部の回転平面が交差するように2つ以上の巻成部を近接配置する場合,一つの巻成部の回転平面を,隣接する巻成部の回転平面と同一平面上にするか,あるいは異なった平面上にするかの2つに1つの選択しかなく,1つの巻成部の上下2つの回転平面を,いずれも隣接する巻成部の上下2つの回転平面とは異なる平面に配置することは必要に応じて適宜選択できる事項であるとする。しかしながら,例えば,引用例3には,隣接するトラバース装置(あや振り装置1,2,3)のロータ(羽根5,6)が,2つの水平な回転平面(I,II)内に近接配置された構成が開示されているにすぎず,第1発明のように,隣接する一方の巻成部の2つの回転平面のいずれもが,他方の巻成部の2つの回転平面とは異なる平面に配置されるとの技術事項は記載されていない。隣り合うトラバース装置間のトラクト長さの違いを小さくするという必要性を考慮しても,引用例3からは,せいぜい2つの回転平面(I,II)の相互間隔をできる限り狭くするという発想が生ずるにすぎない。
したがって,当業者であれば,引用発明及び周知の技術事項に基づき,相違点2に係る構成を容易に発明することができるとした審決の結論は,誤りである。
2 第4発明について (1) 相違点3の認定の誤り 審決は,第4発明と引用発明との相違点3を前記のとおり認定したが,第4発明は,一方の巻成部の下位回転平面の羽根が,他方の巻成部の上位回転平面の羽根と噛み合っている点で第1発明と異なるのみであり,第1発明の場合と同様の理由から,審決の相違点3の認定は誤りである。
(2) 相違点3の進歩性判断の誤り 審決は,相違点3を誤って認定した上で,相違点3に係る構成は当業者が容易に発明できたものであると結論付けている。
しかしながら,巻成部の回転平面が交差するように巻成部を隣接して配置した周知のワインダは,巻成部の回転平面が水平であるものに限定されており,引用発明のように巻成部の回転平面を傾斜させたならば,トラバース装置とタッチローラとの間隔は,隣接するトラバース装置間で連続的に変化し,それに伴ってトラクト長さも隣接するトラバース装置間で次第に変化するため,許容できる品質のパッケージ構造を得ることができなくなるという問題が必然的に生じる。
また,引用例2には,隣り合うトラバース装置のうち,一方のトラバース装置の第1のロータ(トラバースブレード)と他方のトラバース装置の第2のロータ(トラバースブレード)とを同一の平面内で回転させるとともに,上記一方のトラバース装置の第1のロータ(トラバースブレード)及び上記他方のトラバース装置のロータ(トラバースブレード)を,上記平面を間にして回転軸芯方向に偏位した第2及び第3の平面内でそれぞれ回転させるように配置する構成が開示されているにすぎず,巻成部の回転平面は3つの平面に限定されている。したがって,引用例2記載の発明において各トラバース装置ごとに形成されるパッケージの巻姿をほぼ同一にするためには,この3つの平面を水平にしなければならない。
以上によれば,巻成部の回転平面が水平であることを前提とした引用例2記載の技術事項を,巻成部の回転平面が傾斜している形式の引用発明に適用することについては阻害要因があるというべきであり,引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基づき,第4発明の相違点3に係る構成を容易に発明することができるとした審決の判断は,誤りである。
3 第5発明について (1) 相違点4の認定の誤り 審決は,第5発明と引用発明との相違点4を前記のとおり認定したが,第5発明は,一方の巻成部の下位回転平面が,上記他方の巻成部の上位回転平面よりも上方に位置している点で第1発明と異なるのみであり,第1発明の場合と同様の理由から,審決の相違点4の認定は誤りである。
(2) 相違点4の進歩性判断の誤り 審決は,相違点4を誤って認定した上で,相違点4に係る構成は当業者が容易に発明できたものであると判断しているが,第1発明の場合と同様の理由から,審決の判断は誤りである。
4 結論 第1,第4及び第5発明は,引用例1及び2に記載された技術事項と周知の技術事項から当業者が容易に発明することができるとした審決の判断は,誤りである。
被告の主張の要点
1 第1発明について (1) 相違点2の認定の誤りに対して 原告は,審決が,相違点2において,巻成部の回転平面の傾斜の方向と隣接する各巻成部の回転平面相互の配置関係を全く特定しなかったのは誤りであると主張する。しかしながら,本件特許の特許請求の範囲第1項の記載によれば,上記傾斜の上向きの方向に順に一方の巻成部(A)と他方の巻成部(B)が配置されていることは明らかであり,審決も当然そのことを前提としているのであるから,相違点2の認定が誤っているとはいえない。
(2) 相違点2の進歩性判断の誤りに対して 本件発明に係る少なくとも3個以上の巻成部を有するワインダの製造技術においては,各巻成部ごとに形成されるパッケージの巻姿をほぼ同一にする要請から,隣り合うトラバース装置間のトラクト長さの違いを小さくすべき必要がある。したがって,水平に配置された引用例3記載の各トラバース装置を傾斜させる際に,原告が主張するように,隣り合う巻成部の回転平面の配置を変化させずにそのまま傾斜させることは,各巻成部ごとに形成されるパッケージの巻姿をほぼ同一にしなければならないとの本件特許出願当時の当業者の技術常識に反する。
審決が説示するように,巻成部の回転平面が交差するように2つ以上の巻成部を近接配置する場合,1つの巻成部の回転平面を隣接する巻成部の回転平面と同一平面上にするか,あるいは異なった平面上にするかの2つに1つの選択しかない。隣接する巻成部の回転平面を同一平面上にした場合には第4発明となり,異なる平面上とした場合に,一方の巻成部の上下2つの回転平面が互いに挟み合う形にすれば第1発明となり,一方の巻成部の上下2つの回転平面が他方の巻成部の回転平面の上方に配置される形にすれば第5発明となる。
引用例3には,隣接する巻成部の回転平面が交差する形式が開示されており,引用例1には,左右のトラクト長さを同一にすべく単独のトラバース装置を傾斜させる技術思想が開示されている。複数のトラバース装置を有するワインダにおいて,各トラバース装置を傾斜させて,交差する形式とする際には,本件特許出願当時において技術常識であった各巻成部間においてトラクト長さをできるだけ同一とするとの要請を満たすべく,トラバース装置の傾斜角に応じて,第1,第4,第5発明のトラバース装置を配置する構成が必然的に導き出される。したがって,相違点2についての審決の判断に誤りはない。
2 第4発明について (1) 相違点3の認定の誤りに対して 上記1(1)と同様の理由から,相違点3についての審決の認定に誤りはない。
(2) 相違点3の進歩性判断の誤りに対して 本件発明に係る少なくとも3個以上の巻成部を有するワインダの製造技術においては,各巻成部ごとに形成されるパッケージの巻姿をできるだけ同じにする要請から隣り合う巻成部間のトラクト長さの違いを小さくすべき必要がある。したがって,複数の巻成部を有するワインダにおいて,水平に配置された引用例3記載の各トラバース装置を傾斜させる際に,原告が主張するように,隣り合う巻成部の回転平面の配置を変化させずにそのまま傾斜させることは,当業者の技術常識に反する。
原告は,引用例2記載の発明について,隣接する巻成部の回転平面が特定の3つの水平な平面(S1,S2,S3)内に一定の配列関係に従って配置されていることを根拠に,巻成部の回転平面が水平であるものに限定されると主張する。しかしながら,引用例2には,回転平面が水平か否かにかかわらず,一方の巻成部の下位回転平面の羽根が,他方の巻成部の上位回転平面の羽根と噛み合うように配置された構成が開示されているのであり,引用例2記載の発明を,引用発明のように巻成部の回転平面を傾斜させた単独のトラバース装置に適用することについて阻害要因があるとはいえない。引用例2記載の発明を引用発明に適用した上で,各巻成部ごとに形成されるパッケージの巻姿をほぼ同一にするという要請を満たそうとすれば,第4発明の構成が導き出されるのである。
したがって,相違点3についての審決の判断に誤りはない。
3 第5発明について (1) 相違点4の認定の誤りに対して 上記1(1)と同様の理由から,相違点4についての審決の認定に誤りはない。
(2) 相違点4の進歩性判断の誤りに対して 上記1(2)と同様の理由から,相違点4についての審決の判断に誤りはない。
4 結論 第1発明,第4発明及び第5発明は,引用例1及び2に記載された技術事項と周知の技術事項から当業者が容易に発明することができるとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
審決は,前記のとおり,引用発明との相違点を,第1発明につき相違点2,第4発明につき相違点3,第5発明につき相違点4(以下,これらの相違点を各発明との関係を挙示しないで単に「相違点2」などという。)と認定した上,その各相違点について判断し,上記各発明は進歩性がないと判断したのであるが,原告はその認定及び判断の誤りを主張する。これらの相違点の認定判断は基本的なところで共通したものを含むので,以下一括して検討する。
1 第1,第4及び第5発明について (1) 相違点2ないし4の認定の誤りについて 審決は,前記のとおり,相違点2ないし4を認定しているところ,原告は,これらの相違点において,隣接する各巻成部の回転平面相互の配置関係が,巻成部の回転平面とトラバース運動三角形の平面との交線が傾斜する方向と関連付けて特定されていないのであるから,審決の同認定は誤りであると主張する。
確かに,本件特許の特許請求の範囲請求項1に「他方の巻成部(B)の方へ向かって上り勾配をなすところの,一方の巻成部(A)」と記載されているように,請求項1,4,5においては,上り勾配の上側に位置する「他方の巻成部」の回転平面と下側に位置する「一方の巻成部」の回転平面の位置関係が特定されているのに対し,審決が認定した相違点2ないし4においては,勾配方向に関連して「一方の巻成部」と「他方の巻成部」の位置関係が記載されていないので,相違点2ないし4に記載された「一方の巻成部」の回転平面と「他方の巻成部」の回転平面との位置関係は,必ずしも明確ではない。
しかしながら,審決は,請求項1,4,5に記載された構成を前提として相違点2ないし4を認定していると考えるのが自然であり,相違点2ないし4についての審決の判断内容にも照らせば,相違点2ないし4における「一方の巻成部」「他方の巻成部」は,それぞれ請求項1,4,5の「一方の巻成部」「他方の巻成部」に対応していることは明らかである。すなわち,相違点2ないし4の「一方の巻成部」の回転平面は「他方の巻成部」に向かって上り勾配をなしていることが前提となっているということができる。したがって,相違点2ないし4の認定が,隣接する各巻成部の回転平面相互間の位置関係が上記勾配方向に関連付けて特定されていないため誤りであるとの原告主張は,採用することができない。
(2) 相違点2ないし4の判断の誤り 審決は,相違点2ないし4について,相違点2及び4に係る構成は,引用発明及び周知技術から,相違点3に係る構成は,引用発明及び引用例2に記載された技術事項から,いずれも当業者が容易に想到することができたものであると判断した。
これに対し,原告は,「引用例2及び3のような周知のワインダは,巻成部の回転平面がガイドローラ又はボビンの軸線に対して平行に配置されており,これを,引用発明のように巻成部の回転平面がガイドローラ又はボビンの軸線に対して傾斜しているワインダに適用しても,隣接する巻成部間でトラクト長さに著しい差異が発生してしまうのであるから,周知のワインダを引用発明に適用することについては阻害事由がある」旨の主張をする。
なるほど,引用例2及び3に記載された発明では,隣接する巻成部の回転平面がいずれもガイドローラ又はボビンの軸線に対して平行に配置されていると認められ,これを,各巻成部の回転平面相互間の位置関係を変えずにそのまま引用発明に適用した場合には,各巻成部間のトラクト長さに著しい差異が生じると考えられる。
しかしながら,本件発明及び引用発明に係るワインダにおいて,巻成部の回転平面とトラバース運動三角形の平面との交線が,水平線に対し角度βを形成しており,角度βが一定の関係式を満たすように構成されている技術的な意義は,審決も説示するように,「接触ローラの軸線に対して回転平面を傾斜する(すなわち,βの角度をつける)ことによって,トラクト長さの差をなるべく短くしようとする」ことにある。また,羽根型トラバース装置を有するワインダは,トラバース装置が巻取幅よりも左右に張り出す構造であるために,隣接する巻成部の回転平面が交差するようにトラバース装置を配置することにより,横方向にコンパクトにすることも周知の技術課題である。以上の技術課題については,原告も争うところではない。
そうすると,巻成部の回転平面がガイドローラ又はボビンの軸線に対して平行に配置されている従来のワインダを,引用発明のように,巻成部の回転平面がガイドローラ又はボビンの軸線に対して傾斜しているワインダに適用する場合,従前のワインダの各巻成部相互の配置関係のまま回転平面を傾斜させたのでは隣接する巻成部のトラクト長さに著しい差異が生じることは明らかであるから,当業者であれば,横方向のコンパクト化を図りつつ,トラクト長さの差をできるだけ小さくするとの技術課題を念頭において,隣接する巻成部の配置を適宜工夫するのは当然というべきであり,そうすることについて阻害要因があるとは認められない。
巻成部の上下回転平面が交差するように2つ以上の巻成部を近接配置する場合,一方の巻成部の回転平面を隣接する他方の巻成部の回転平面と同一平面とするか,あるいは異なる平面上にするかの2つに1つの選択しかないことは審決の説示するとおりである。より具体的には,隣接する巻成部の構成が同じであることを前提とすれば,@一方の巻成部の上下の回転平面の間に,他方の巻成部の上下いずれかの回転平面が位置するように配置するか,A当該一方の巻成部の上下回転平面の上方あるいは下方に当該他方の巻成部の上下回転平面のいずれもが位置するように配置するか,B当該一方の巻成部の上下回転平面と当該他方の巻成部の上下回転平面の双方又はいずれかが同一平面となるように配置するか,のいずれかの選択肢が存在し得ることとなる。
上記選択肢のうち,一方の巻成部の回転平面が他方の巻成部に向かって上り勾配を形成している場合において,個々の巻成部のトラバース装置の両端のトラクト長さの差を最小限にしつつ,巻成部間のトラクト長さの差についてもできるだけ小さくするというワインダの周知の技術課題を満たすのは,@当該一方の巻成部の上下回転平面の間に,当該他方の巻成部の上位回転平面を配置する構成(第1発明),A当該一方の巻成部の下位回転平面を,当該他方の巻成部の上位回転平面と同一平面上に配置する構成(第4発明),B当該一方の巻成部の上下回転平面の下方に,当該他方の巻成部の上下回転平面がいずれも位置するように配置する構成(第5発明)のいずれかであり,そのことは,当業者であれば容易に想到し得るというべきである。
これに対し,原告は,引用例3のような公知のワインダでは,隣接する巻成部ののロータの羽根が2つの水平な回転平面内に近接配置された構成が開示されているにすぎず,隣接する巻成部の2つの回転平面のいずれもが,他方の巻成部の2つの回転平面とは異なる平面に配置されるとの技術事項は記載されていないのであるから,公知のワインダからは,せいぜい2つの回転平面の相互間隔をできる限り狭くするという発想が生ずるにすぎないと主張する。
しかしながら,巻成部の回転平面が交差するように2つ以上の巻成部を近接配置する場合,1つの巻成部の回転平面を隣接する巻成部の回転平面と同一平面とするか,異なる平面にするかの2つの選択肢があり,前者の選択肢に限定されないことは,前記のとおりである。当業者であれば,一方の巻成部の上下回転平面を,他方の巻成部の上下回転平面とそれぞれ異なる平面に配置することは,容易に想到し得るというべきである。
引用例2の図4には,一方の巻成部の上位回転平面と隣接する他方の巻成部の下位回転平面が同一平面上に位置し,当該一方の巻成部の下位回転平面と当該他方の巻成部の上位回転平面が異なる平面上に位置するワインダが図示されており,回転平面を3つの平面に配置する構成が開示されている。これについて,原告は,巻成部の回転平面は3つの平面に限定されており,巻成部間のトラクト長さをほぼ同一にするにはこの3つの平面を水平にしなければならないなどと主張するが,一方の巻成部の上下回転平面と隣接する他方の巻成部の上下回転平面を異なる平面に配置する場合に,3つの平面に限定されない(4つの平面をなし得る)ことは当然である。そして,各巻成部の上下回転平面とガイドローラ又はボビンの軸線と平行な公知のワインダを引用発明に適用し,巻成部の回転平面をガイドローラ又はボビンの軸線に対し傾斜したワインダとすることについて阻害事由があるとはいえないことは,前記判示のとおりである。
以上によれば,第1,第4及び第5発明について,相違点2ないし4に係る構成は,引用発明及び引用例2記載の技術事項に基づき,当業者であれば容易に想到できたものであるというべきである。
2 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文