審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成6ネ2857 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 特許を受ける権利 / 技術的思想 / 製造方法 / 技術的範囲 / 試行錯誤 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 単一性 / 優先権 / 実施料相当額 / 参酌 / 特許発明 / 実施 / 交換 / 構成要件 / のみ用いる / 差止請求(差止) / 侵害 / 実施料 / 不法行為(民法709条) / 発明の範囲 / 請求の範囲 / 変更 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
2年
(ワ)
16740号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1994/03/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告大塚製薬株式会社は、別紙物件目録(一)記載の注射用乾燥インターフェロン―α製剤(商品名「オーアイエフ五〇〇万IU」)を製造し、販売してはならない。 2 被告持田製薬株式会社は、別紙物件目録(二)記載の(商品名「IFNαモチダ五〇〇」)注射用乾燥インターフェロン―α製剤を製造し、販売してはならない。 3 被告株式会社林原生物化学研究所は、別紙物件目録(三)記載の注射用乾燥インターフェロン―αの原液を製造し、右両被告に対して供給してはならない。 4 被告大塚製薬株式会社と被告株式会社林原生物化学研究所は、連帯して、原告に対し、金三億四〇〇〇万円及びこれに対する平成五年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 5 被告持田製薬株式会社と被告株式会社林原化学研究所は、連帯して、原告に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成五年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 6 訴訟費用は被告らの負担とする。 7 仮執行宣言二 被告らの請求の趣旨に対する答弁主文と同旨 |
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当事者の主張
一 請求原因1 当事者 原告は、肩書地に主たる営業所を有するスイス法人であり、医薬品、化学品等を製造、販売している。 被告大塚製薬株式会社(以下「被告大塚製薬」という。)及び被告持田製薬株式会社(以下「被告持田製薬」という。)は、いずれも主として医薬品を製造、販売している会社である。 被告株式会社林原生物化学研究所(以下「被告林原研究所」という。)は、食品原料、医薬品原料等を製造販売している会社である。 2 本件発明にかかる権利 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、本件特許権にかかる発明を「本件発明」という。)を有するとともに、本件特許権が登録される平成四年三月三〇日前においては、本件発明にかかる特許出願が公告されていたことに基づくいわゆる仮保護の権利を有していた。 なお、出願人は、当初エフ・ホフマン・ラ・ロシュ・ウント・コンパニー・アクチェンゲゼルシャフトであったが、その後グループ会社の組織変更に伴い、新たに設立された原告に特許を受ける権利が譲渡されたものである。 また、本件出願は、昭和五四年一一月二二日に出願された特願昭和五四年第一五〇八〇三号が昭和五八年二月二五日に分割されたものである。 (一) 出願日 昭和五四年一一月二二日(二) 出願番号 昭和五八―二九六三二号(三) 優先権主張日 一九七八年一一月二四日(四) 公告日 昭和六三年七月二九日(五) 公告番号 昭六三―三八三三〇号(六) 登録日 平成四年三月三〇日(七) 登録番号 第一六五二一六三号(八) 発明の名称 インターフェロン(九) 特許請求の範囲 左記のとおり記「ウシ細胞MDBKの場合、比活性0.9×10の8乗〜4.0×10の8乗単位/mgタンパク質を有し、ヒト細胞系AG1732の場合、比活性2×10の6乗〜4.0×10の8乗単位/mgタンパク質を有し、分子量約16000±1000〜約21000±1000であり、アミノ糖分が一分子当り一残基未満であり、 順相および(または)逆相高速液体クロマトグラフィーにおいて単一のピークを示すとともに、ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で単一バンドを示す均質タンパク質であるヒト白血球インタフェロンを含有し、ドデシル硫酸ナトリウムおよび非インタフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないことを特徴とする、ヒト白血球インタフェロン感受性疾患治療用医薬組成物。」3 本件発明のパイオニア性について インターフェロンとは、ウイルスに感染した動物の細胞が作り出す蛋白質であり、抗ウイルス作用を有するものであるが、一九五四年右のような物質が存することは発見されていたところ、一九五七年に、英国の【A】、【B】両博士の論文で、その存在が確認され、その主成分が蛋白質であることが見出されてから世界の科学者の注目を浴びることとなったものである。その後、インターフェロンは、本件発明が出願されるまでの二〇年間にわたり、研究が重ねられたが、細胞が培養液中に放出するインターフェロンの量が極めて微量であるため、また、人に投与して効果のあるインターフェロンは人体が産生したものでなければならず、これを得るためには人の細胞を集めることを要し、試験に供しうるインターフェロンの量は限定されざるを得ないため、その研究は困難をきわめた。その点からも、大量生産への道を開くため、インターフェロンを単離し、その実体を解明することが望まれていた。したがって、世界の研究者は、インターフェロンの単離に精力を傾けていたのであるが、本件発明に至るまで、沈澱、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、親和性クロマトグラフィー、その他の方法が試みられたが、その試みはことごとく失敗していた。インターフェロン―αが客観的には天然に存在していたことは確かであったが、その実体は、これを単離してみなければ解明することができず、多くの科学者の努力が傾注されたことからしても、インターフェロンの単離がいかに困難なことであったかがわかる。もっとも、それまでに、インターフェロンをかなりの程度に精製する試みもあり、かなり濃縮されたものもあったが、大量の他物質に混じった状態で用いたのでは、インターフェロン自体の働きは判明しないから、医薬として用いても、インターフェロン自体の薬効は判明しないし、副作用が発生しても、何に起因するかも判明しないし、副作用を避けるための適量も知りえず、医薬品といえる状況ではない。更に、物として単離できれば、その構造を確認することができ、構造が確認できればその性質もよく判ると同時に、 現代のバイオテクノロジーの技術によれば、その量産の道も開くことができるのである。本件発明は、このような状況において、インターフェロンそのものを初めて純粋に単離したものである。 本件発明は、インターフェロン単離方法と併せて出願され、方法については先に特許が成立しているものであるが、インターフェロンの単離に成功した原因は、精製の手段として高速液体クロマトグラフィーなる手法を適用したことにある。高速液体クロマトグラフィーという手法をただ用いればよいというものでもなく、試行錯誤のすえ、粒子の表面を疎水性の基を持つ物質で蔽い、洗い落とす液体として水とnプロパノールを混ぜたものを使い、nプロパノールの濃度を順次上げたり下げたり、これを繰り返したりした結果、インターフェロンを単離に成功したのである。当時、インターフェロンという複雑な蛋白質高分子にこの手法が適用しうるとはまったく予想されていなかったが、本件発明においては、この手法を何度も繰り返すことにより、インターフェロンを単離することを可能としたものである。 そして、本件発明により得られたインターフェロン―αは、本来の抗ウイルス作用により、B型慢性肝炎に効果があることが判明し、医薬品として用いられているほか、ガン細胞の増殖を抑制する効果のあることも確認され、一般の制ガン剤のような強い副作用のない優れた医薬として、現在、腎ガン、多発性骨髄腫に対する医薬としても用いられ、更には、非A非B型肝炎に対する医薬としても用いられことが期待されている。また、本件発明の過程において、ヒト白血球インターフェロンが分子量その他の性状の異なる幾つものグループから成っていることが見出されたが、これも、インターフェロンが単離しえなければ判明しなかった事実であり、また、インターフェロンには多くの種類があることの発見にも寄与しているのである。 なお、右インターフェロンの単離方法は、どのインターフェロンの不純液にも適用することができる。 このように、本件発明は、インターフェロンを臨床治療に利用する途を開き、世界の科学、医学に寄与し、社会に貢献したものであって、このような本件発明は、 まさにパイオニア発明といって差し支えないのである。 4 本件発明の構成要件の分説(一) 本件発明の構成要件を分説すると、本件発明は、先ず、以下の(1)ないし(3)の構成を具備する場合すべてを技術的範囲としている。 (1) ヒト白血球インターフェロン感受性疾患治療用医薬組成物であること。 (2) ドデシル硫酸ナトリウム及び非インターフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないこと。 (3) ヒト白血球インターフェロンを含有すること。 (二) そして、本件発明に含有されるインターフェロンはどのようなものであるかに関しては、以下の(4)ないし(9)で規定されている。 (4) ウシ細胞MDBKの場合、比活性0.9×10の8乗〜4.0×10の8乗単位/mgタンパク質を有し、ヒト細胞系AG1732の場合、比活性2×10の6乗〜4.0×10の8乗単位/mgタンパク質を有すること。 (5) 分子量約16000±1000〜約21000±1000であること。 (6) アミノ糖分が一分子当り一残基未満であること。 (7) 順相及び(または)逆相高速液体クロマトグラフィーにおいて単一のピークを示すこと。 (8) ドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で単一バンドを示すこと。 (9) 均質タンパク質であること。 5 本件発明の構成要件の解釈(一) 「ヒト白血球インターフェロン感受性疾患治療用医薬組成物であること」との要件について 右要件は、単に、本件発明が医薬に用いられる組成物を対象としていることを示し、その中に、含有していいものと、含有してはならないものとを特定しているだけである。 (二) 「ドデシル硫酸ナトリウム及び非インターフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないこと」との要件について 右要件のうち、「ドデシル硫酸ナトリウム」が掲げられているのは、本件発明以前の技術でインターフェロンを純粋に得ようとして、右電気泳動においてドデシル硫酸ナトリウムを含むゲル中での電気泳動法を用いてこれを分離しようとしたため、その結果得られたものの中に、右ドデシル硫酸ナトリウムが不純物として残存していたからこれと区別するためであり、本件発明以後の技術においては、インターフェロンを得るのに、右ドデシル硫酸ナトリウムを用いることはほとんど考えられない。 次に、「非インターフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないこと」は、本件発明の眼目であり、天然に産出されるインターフェロンが大量の種々の蛋白質の中で、インターフェロン活性を有しない蛋白質、すなわち非インターフェロン活性タンパク質に混じっており、本件発明の医薬組成物は、これを含まないことを示すものである。「夾雑物」は、それが何であるか、その割合がどの位であるか判明していないものをいい、医薬とするために意図的、意識的に混入させた蛋白質をいうものではなく、例えば、インターフェロンだけでは扱いにくいし、安定性を保ち難いので、これを安定化するため、わざわざ大量に混ぜたものは「夾雑物」には当たらない。 (三) 「ヒト白血球インターフェロンを含有すること」との要件について 右要件は、インターフェロンの種類を指す本件発明当時の用語であり、現在でいえば、インターフェロン―αである。 「ヒト白血球インターフェロン」という用語は、本件特許請求の範囲において、 「白血球より産生される」とも、「白血球由来の」とも記載されておらず、一つの名詞として記載されているのであるから、この用語が本件発明においてインターフェロンの種類を示す語として用いられたことは明らかである。本件発明の特許出願当時、人のインターフェロンは、細胞によって生成するものが異なり、大別すると、@白血球が作るもの、A線維芽細胞が作るもの、B免疫細胞が作るものの三種類に分けられると認識されていた。なお、@、AとBとは酸安定性等の性質においてかなり異なっていたので、@、AをT型と、BをU型と呼ばれたこともある。そして、@が「ヒト白血球インターフェロン」と、Aが「ヒト線維芽細胞インターフェロン」と、Bが「ヒト免疫インターフェロン」と呼ばれていた。このそれぞれがインターフェロンの種類ないし型の呼称であった。インターフェロンの研究が進むにつれて、インターフェロンにもいくつかの種類があることが判明し、各研究者が右各インターフェロンについて適宜な名称を用いたりし、また、白血球が産生するものも、「白血球インターフェロン」以外のものも含み、逆に「白血球インターフェロン」が白血球以外のものからも産生されることが判明してきたため、その命名が不適切であることから、一九八〇年、IFN命名委員会が、インターフェロンに関して統一名称を定め、従来「白血球インターフェロン」と称されていたものは、 その抗原性の特異性に基づき、「インターフェロン―α」に分類され、従来の名称が変更された。この名称変更は、明らかに従来の呼称がインターフェロンの種類ないし型の呼称であることを前提としたものである。そして、現在では、@に関するものはインターフェロン―αと、A、Bはそれぞれ同β、同γと呼ばれている。そして、本件発明は、一九七八年出願であり、「ヒト白血球インターフェロン」との用語はまさに旧名称に当たるものであり、右のうちの@に関するものである。したがって、本件発明における「ヒト白血球インターフェロン」なる旧名称のものは、 今日「インターフェロン―α」と呼ばれるものであるから、本件発明の「ヒト白血球インターフェロン」とインターフェロン―αとは、その実体は同一である。 (四) 「ウシ細胞MDBKの場合、比活性0.9×10の8乗〜4.0×10の8乗単位/mgタンパク質を有し、ヒト細胞系AG1732の場合、比活性2×10の6乗〜4.0×10の8乗単位/mgタンパク質を有すること」との要件について 右要件にいう比活性とは、インターフェロン又はインターフェロンを含む混合物の抗ウイルス作用の程度のことであるが、比活性は、インターフェロンの種類ごとに特有の数値を有し、純粋なものであればあるほど当該インターフェロンの本来の活性の程度を示すものである。 本件発明においては、比活性値を得るのに、テスト細胞として牛の細胞に由来する「MDBK」と命名されている細胞と、人に由来し「AG1732」と命名されている細胞を用い、ウイルスとしては水疱性口内炎ウイルス(VSV)が用いられており、本件発明により得られた各インターフェロンの比活性は、牛の細胞の場合の最小値はγ5の0.9×10の8乗、最大値はα2等の4.0×10の8乗であり、人の細胞の場合の最小値はγ5の2×10の6乗、最大値はγ4の4.0×10の8乗である。このように、それぞれの単独の下位種のものの比活性値は一定であるから、本件特許請求の範囲に記載された比活性値の範囲は、ある特定種のインターフェロンがそのものだけでそれだけの幅の比活性値を持つということではなく、本件発明の範囲に属するインターフェロンの比活性値は、右に規定された数値範囲内のものであることになる。 (五) 「分子量約16000±1000〜約21000±1000であること」との要件について 右要件は、本件発明により得られた各インターフェロンの分子量に関するものであり、右比活性値と同様に、本件特許請求の範囲に記載された分子量の範囲は、個々のインターフェロンがそれだけの数値範囲を持つということではなく、本件発明の範囲に属するインターフェロンの分子量が右の範囲に収まるものであることを示すものである。 (六) アミノ糖分が一分子当り一残基未満であること」との要件について 右要件は、もともと、アミノ糖は、糖の水酸基(―OH)がアミノ基(―NH2)に置き換わったものであり、また、インターフェロンが糖を必須構成要素とするものではないものの、その側鎖に糖の分子が付くこともあるところ、本要件におけるアミノ糖は、その側鎖に付いた糖の分子のうちの水酸基がアミノ基に置き換わったものを指し、インターフェロン―αの分子ごとにアミノ糖が付いていたりいなかったりするので、平均すれば一分子について一個は付いていないことをいうものである。 (七) 「順相及び(または)逆相高速液体クロマトグラフィーにおいて単一のピークを示すこと」との要件について 右要件については、高速液体クロマトグラフィーが物の分離、同定に用いる手段であるが、本要件は、物の同定の基準を示したものではなく、単一のピークを示すという表現により、試料が一つの物質から成り、混じり物がないことを意味するものである。本件発明に属する数種のインターフェロンは、それぞれが別の位置にピークを示すこととなる。 (八) 「ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で単一バンドを示すこと」との要件について 右要件については、高速液体クロマトグラフィーと同様、電気泳動も物の分離、 同定に用いられる手法であり、ドデシル硫酸ナトリウムは右電気泳動に用いられる試薬であって、電気泳動で単一バンドを示すということは、試料が純粋であることをいうものである。 (九) 「均質タンパク質であること」との要件について 右要件は、均質、すなわち性質が揃っていることの内容は前記各要件から定められているから、独立した要件というほどのものではない。 (一〇) 総括 本件発明の対象は、ある種の疾患、すなわち、ヒト白血球インターフェロン感受性疾患の治療用の医薬組成物であり、含有すべからざるものと含有すべきものとによって特徴づけられており、両者については前述の説明のとおり、それぞれ各要件で規定している。したがって、右含有すべきものとしては、特許請求の範囲に掲げられている数値範囲内の比活性、分子量を有し、アミノ糖残基を満たす種類のインターフェロンであれば、本件発明の構成要件を満たすこととなる。 6 被告らの製造販売するインターフェロン製剤等(一) 被告林原研究所は、昭和六三年から、別紙物件目録(三)記載のインターフェロン原液を製造し、これを被告大塚製薬及び被告持田製薬に供給している。 (二) 被告大塚製薬は、右原液を用いて別紙物件目録(一)記載の「オーアイエフ五〇〇万IU」との商品名を付した注射用乾燥インターフェロン―α製剤を製造し、販売している。 (三) 被告持田製薬も、右原液を用いて別紙物件目録(二)記載の「IFNαモチダ五〇〇」との商品名を付した注射用乾燥インターフェロン―α製剤を製造し、 販売している。 7 被告大塚製薬及び被告持田製薬の製剤品の構成 被告大塚製薬及び被告持田製薬の製剤、販売するインターフェロン製剤の構成は以下のとおりである。 (一) ヒト白血球インターフェロン感受性疾患治療用医薬組成物である。 (二) ドデシル硫酸ナトリウム及び非インターフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まない。 (三) ウシ細胞MDBKの場合、比活性0.9×10の8乗〜4.0×10の8乗単位/mgタンパク質を有し、ヒト細胞系AG1732の場合、比活性2×10の6乗〜4.0×10の8乗単位/mgタンパク質を有する。 (四) 分子量約16000±1000〜約21000±1000の範囲である。 (五) アミノ糖分はインターフェロン一分子当たり一残基未満である。 (六) 順相及び(または)逆相高速液体クロマトグラフィーにおいて単一のピークを示す。 (七) ドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で単一バンドを示す。 (八) 均質タンパク質であるヒト白血球インターフェロンを含有している。 8(一) 本件発明の各構成要件と、被告大塚製薬及び被告持田製薬の右各製剤とを対比すると、両者が一致していることは一見して明らかであるから、被告大塚製薬及び被告持田製薬による右各製剤の製造販売行為が本件特許権を侵害することは明らかである。 (二)(1) 被告林原研究所は、被告大塚製薬及び被告持田製薬の製品の原料であるインターフェロン―α原液を製造し、これに人血清アルブミン糖の添加物を加えて右両被告にこれを提供しているから、被告林原研究所の右行為は本件特許権を侵害するものである。 (2) 仮に、被告林原研究所が右添加物を加えずに右両被告にインターフェロンーα原液を提供しているとしても、右は、本件特許権を侵害することにのみ用いるものを製造販売する行為であるから、本件特許権を間接に侵害するものであるといわなければならない。 9 共同不法行為 被告林原研究所は、被告大塚製薬の「オーアイエフ五〇〇万IU」の製造販売に関し、被告大塚製薬の右侵害行為を共同してなしたものであり、被告持田製薬の「IFNαモチダ五〇〇」の製造販売に関し、被告持田製薬の右侵害行為に共同してなしたものである。 10 損害 被告らによるインターフェロン―α製剤及びその原液の製造販売が、平成四年三月三〇日までは、本件発明にかかる仮保護の権利を、その後は本件特許権を侵害することは以上に延べたとおりであるところ、被告らの右侵害行為により原告が被った損害は以下のとおりである。 (一) 被告大塚製薬 被告大塚製薬による同製剤(商品名「オーアイエフ五〇〇万IU」)の各年別の販売額は、左記のとおりとなり(合計九八億二三〇〇万円)、右製剤の実際の販売価格は薬価基準の七〇%であるから、実際の売上は約六八億七六〇〇万円である。 したがって、原告は、右売上に関し、平成二年四月一三日以前の分については、 法律上の原因なくして原告の損失により被告の利益が獲得されたものであるから、 不当利得により、平成二年四月一四日から平成四年三月三〇日までの期間については、特許法52条2項、102条2項により、平成四年三月三一日以後の分については特許法102条2項により、いずれも通常の実施料相当額の金額の支払いを請求することができるところ、右製剤品の通常の実施料は、実際の売上の五%を下らないから、右実施料相当額は合計三億四三八〇万円となるが、原告は、その内金三億四〇〇〇万円の支払いを求める。 記(1) 昭和六三年 二〇〇〇万円 (なお、同年一二月一二日に販売を開始している。)(2) 平成元年 一九億二七〇〇万円(3) 平成二年 二二億四六〇〇万円(4) 平成三年 二五億八九〇〇万円(5) 平成四年 二六億八二〇〇万円(6) 平成五年一月、二月 三億五九〇〇万円(二) 被告持田製薬 被告持田製薬による同製剤(商品名(IFNαモチダ五〇〇」)の各年別の販売額は、左記のとおりとなり(合計一五億九〇〇〇万円)、右製剤の実際の販売価格は薬価基準の七〇%であるから、実際の売上は約一一億一三〇〇万円である。 したがって、原告は、右売上に関し、平成二年四月一三日以前の分については、 法律上の原因なくして原告の損失により被告の利益が獲得されたものであるから、 不当利得により、平成二年四月一四日から平成四年三月三〇日までの期間については、特許法52条2項、102条2項により、平成四年三月三一日以後の分については特許法102条2項により、いずれも通常の実施料相当額の金額の支払いを請求することができるところ、右製剤品の通常の実施料は、実際の売上の五%を下らないから、右実施料相当額は合計五五六五万円となるが、原告は、その内金五〇〇〇万円の支払いを求める。 記(1) 昭和六三年 三〇〇万円 (なお、同年一二月一二日に販売を開始している。)(2) 平成元年 二億三〇〇〇万円(3) 平成二年 三億五〇〇〇万円(4) 平成三年 四億六二〇〇万円(5) 平成四年 四億七五〇〇万円(6) 平成五年一月、二月 七〇〇〇万円10 よって、原告は、被告らに対し、本件仮保護の権利又は本件特許権に基づき、別紙物件目録(一)ないし(三)のインターフェロン製剤品の製剤、販売の差止めを求めるとともに、被告持田製薬と被告林原研究所に対し、連帯して、原告に対し、金三億四〇〇〇万円、被告持田製薬株式会社と被告株式会社林原化学研究所は、連帯して、原告に対し、金五〇〇〇万円、及び右各金員に対する不当利得後又は不法行為後である平成五年四月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 二 請求原因に対する認否等1 請求原因1の事実は認める。 2 請求原因2の事実は認める。 3 請求原因3の事実は否認する。 原告は、本件発明はインターフェロンを純粋なものとして単離したパイオニア発明であり、社会的貢献度は多大なものである旨主張するが、インターフェロンが一九五四年に発見されてから、世界の多くの研究者が大量の取得方法を確立するため、あるいは、重篤な副作用をおこさずに癌患者の治療に役立てるため、大変な努力をしてきたのである。白血球を産生細胞とし、センダイウイルスにより誘導生産したインターフェロンで、10の6乗単位(IU)/mgにまで精製したものを癌患者に投与する試みも報告される等、本件発明の特許出願がなされるまでに、種々の精製技術が開発され、インターフェロンは電気泳動に単一にまで精製され、その比活性は5×10の7乗単位(IU)/mg蛋白質から、2×10の8乗単位(IU)/mg蛋白質にまで精製されており、本件発明の各分子種の比活性と比較しても決して遜色のないものであり、また、分子量も15000、16000、17500、20000、21000、23000等の種々の分子量のインターフェロンが報告され、同定されていたのである。このように、ヒト白血球インターフェロンの分子種の単離は本件発明以前に先人により行われていたのであり、その精製手段としての高速液体クロマトグラフィーという手法も、右手法が蛋白質一般の精製に使用しうることも、本件発明の第一の基礎出願時において既に公知であった。本件発明は、このような先行技術の上に立脚しているのであって、その特異性は、一定の精製方法によって特定の物性を有するヒト白血球由来の個別の分子量を取得した点に存するにすぎない。したがって、本件発明は、原告主張のようなパイオニア発明ということは到底できないし、本件発明以前の先人の業績を無視しうる程に大きな社会的かつ科学的貢献をしたものでもない。 4 請求原因4は、その分説の仕方を争う。本件発明の構成要件は、以下のように分説されるべきである。 (一) ヒト白血球インターフェロンを含有すること。 (二) 右インターフェロンは、 (1) 測定系として、ウシ細胞MDBKの場合、比活性0.9×10の8乗〜4.0×10の8乗単位/mgタンパク質を有し、ヒト細胞系AG1732の場合、比活性2×10の6乗〜4.0×10の8乗単位/mgタンパク質を有し、 (2) 分子量約16000±1000〜約21000±1000であり、 (3) アミノ糖分が一分子当り一残基未満であり、 (4) 順相及び(または)逆相高速液体クロマトグラフィーにおいて単一のピークを示し、 (5) ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で単一バンドを示す均質タンパク質であること。 (三) ドデシル硫酸ナトリウム及び非インターフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないこと。 (四) 以上を特徴とするヒト白血球インターフェロン感受性疾患治療用医薬組成物5 請求原因5は争う。 本件明細書に開示された技術思想も、明細書中に使用されている用語も、本件優先権主張日である一九七八年(昭和五三年)一一月二四日当時の基準によって理解され、解釈されるべきである。殊に本件発明にいう「ヒト白血球インターフェロン」が、当時の技術思想に照らせば、後記第三項のとおり、正常な人及び慢性骨髄性白血病患者から採取した人の白血球を産生細胞とし、ニューカッスル病ウイルスを誘導物質として、産生したインターフェロンをいうことは明らかである。 また、「ドデシル硫酸ナトリウム及び非インターフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まない」との要件は、本件発明にかかる医薬組成物の中に、ドデシル硫酸ナトリウム及び非インターフェロン活性タンパク質夾雑物を含まないことを規定し、非インターフェロン活性タンパク質の典型例である人血清アルブミン等は含んではならないことを示したものである。 比活性値の要件については、一定の数値の上限と下限の間に連続的に存在するかのようであるが、実際には、ヒト白血球インターフェロンの単離精製は、一定の工程を踏み、ある特定の比活性値を有するものとして単離同定されたものであって、 右単離同定されたヒト白血球インターフェロンの個々のものが有する特定の比活性値が本要件の数値枠の範囲内におさまるというものである。すなわち、本件発明にかかるヒト白血球インターフェロンとして単離同定されたものは、明細書の表1及び表4に記載されたピークγ並びにα1、α2、β2、γ1、γ2、γ4のインターフェロンとなり、各ピークを示すインターフェロンの比活性値が要件とされた数値枠内におさまっていることを意味している。 また、分子量やアミノ糖分の要件についても単離同定されたヒト白血球インターフェロンであるピークγ並びにα1、α2、β2、γ1、γ2、γ4は、いずれも要件とされた数値の範囲内にあることを意味している。 6(一) 請求原因6(一)のうち、被告林原研究所が、昭和六三年から、インターフェロン原液を製造し、これを被告大塚製薬及び被告持田製薬に販売していることは認めるが、同被告が製造しているインターフェロン原液が別紙物件目録(三)に記載のとおりであることは否認する。 (二) 請求原因6(二)のうち、被告大塚製薬が、右原液を用いて商品名「オーアイエフ五〇〇万IU」の注射用乾燥インターフェロンーα製剤を製造し、販売していることは認めるが、同被告が製造しているインターフェロン製剤が別紙物件目録(一)に記載のとおりであることは否認する。 (三) 請求原因6(三)のうち、被告持田製薬が、右原液を用いて商品名「IFNαモチダ五〇〇」の注射用乾燥インターフェロン―α製剤を製造し、販売していることは認めるが、同被告が製造しているインターフェロン製剤が別紙物件目録(二)に記載のとおりであることは否認する。 (四) なお、以下において、被告林原研究所が製造し、被告大塚製薬及び同持田製薬に販売しているインターフェロン原液、被告大塚製薬が右原液を用いて製造し、「オーアイエフ五〇〇万IU」との商品名で販売している注射用乾燥インターフェロン―α製剤及び被告持田製薬が右原液を用いて製造し、「IFNαモチダ五〇〇」との商品名で販売している注射用乾燥インターフェロン―α製剤を総称して「被告らの製品」という。 7 請求原因7は否認する。 8 請求原因8は争う。 9 請求原因9は争う。 10 請求原因10は争う。 三 被告らの主張1 本件発明における「ヒト白血球インターフェロン」について(一) 本件特許請求の範囲を解釈したり、本件明細書に表された本件発明の技術的思想を理解するに当たっては、本件優先権主張日当時における技術水準に立って、これを行わなければならないところ、本件優先権主張日である一九七八年(昭和五三年)一一月二四日当時において、インターフェロンはpH2の酸に対して安定なT型と不安定なU型とに分類され、T型インターフェロンは、ウイルス等を誘導物質としているが、産生細胞の別によって、白血球インターフェロン、リンパ芽球インターフェロン、線維芽細胞インターフェロンに区別されていた。したがって、本件特許請求の範囲における「ヒト白血球インターフェロン」は、 当時の用語法に従い、ウイルスを誘導物質とし、ヒトの白血球を産生細胞として産生される限定されたインターフェロンをいうものと理解しなければならない。そして、その後の昭和五五年三月七日、インターフェロンの名称に関する委員会において、それまでに判明していたインターフェロンを新しい観点から分類し直し、取り敢えずインターフェロン―α、β、γの名称が定められ、ヒト白血球インターフェロンはインターフェロン―αに分類されることになった。 しかしながら、ヒト白血球インターフェロンがインターフェロン―αに分類されるからといって、インターフェロン―αに属するものすべてが本件発明にいう「ヒト白血球インターフェロン」とはならないのである。インターフェロン―αには、 一般的な意味におけるヒト白血球インターフェロンのほかに、リンパ芽球インターフェロン、線維芽細胞インターフェロンの中のある種のものが含まれるし、また、 ヒト白血球インターフェロンの中のある種のものはインターフェロン―βに属するのであり、更に、一般的なヒト白血球インターフェロンと本件発明における「ヒト白血球インターフェロン」とは必ずしも同一ではないから、「インターフェロン―α」イコール本件発明における「ヒト白血球インターフェロン」ではないのである。したがって、本件発明における「ヒト白血球インターフェロン」を「インターフェロン―α」と読み換えることは許されない。 (二) 本件優先権主張日当時において、インターフェロンは、その細胞起源に基づいて呼称され、白血球という用語は新鮮な血液白血球の短期培養物中に産生されるインターフェロンを意味していたから、「ヒト白血球インターフェロン」という用語は、人の白血球を産生細胞として取得された、特定の物性を有する、その存在を認識し確認され、記載された特定の分子種を意味するものであり、「ヒト白血球インターフェロン」がインターフェロンの型ないし種類を指すものではないことは明白である。 (三)本件発明の技術的範囲を確定するに当たり、本件優先権主張日当時の技術水準に基づいて、「ヒト白血球インターフェロン」という用語を、発明の詳細な説明欄の記載、及び出願過程での原告自身の意見を参酌して、合理的に解釈すれば、@本件発明は人の白血球を産生細胞とするインターフェロンであり、A本件発明は、 人の白血球を産生細胞とするインターフェロンのうち、特定の比活性及び分子量を有し、アミノ糖分が一分子当たり一残基本満であって、高速液体クロマトグラフィーにおいて単一のピークを示し、ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミドゲル電気泳動で単一バンドを示すような均質性を有する特定の物性を有するα1、α2等の特定の分子種を特定の精製方法によって単離し、医薬組成物の有効成分としているものであって、したがってB本件特許請求の範囲の記載によって解釈、確定しうる本件発明の「ヒト白血球インターフェロン」は、その存在を認識し、確認され、実施例として記載された特定の分子種(ピークγ並びにα1、α2、β2、γ1、γ2、γ4)に限定されるものである。 (四)本件発明は、インターフェロンの下位種を基準とした構成要件から成るものであって、「それらが幾つか集まってα2等のサブタイプを構成するもの」を構成要件の一つとはしていない。すなわち、本件発明は、正常な人又は慢性骨髄性の白血病患者の白血球を産生細胞とし、ニューカッスル病ウイルスを誘導物質として、 高速液体クロマトグラフィーを繰り返し行うことによって、単一のピークのヒト白血球インターフェロンの分子種(ピークγ、α1、α2、β2、γ1、γ2、γ4)を単離精製して取得し、ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミドゲル電気泳動において、それぞれ単一バンドを示したので、それぞれのものは「均質タンパク質」であると認定するという方法で、特定のヒト白血球インターフェロンを取り出し、右産生され、存在が認識された各分子種(ピークγ、α1、α2、β2、 γ1、γ2、γ4)の物性を、比活性値、分子量、アミノ糖残基、高速液体クロマトグラフィーにおける単一のピーク、ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミドゲル電気泳動での単一バンドという基準で表現することとし、これを特許請求の範囲記載のとおりに表示したものである。 これを要するに、本件発明における「ヒト白血球インターフェロン」にあっては、 高速液体クロマトグラフィーによって単一ピークを示す特定の分子種を取得するまで精製を繰り返すのであるから、右インターフェロンには、最終的に取得された特定の物性を有する特定の分子種しか含まれないことになる。したがって、本件発明の医薬組成物に含有される「ヒト白血球インターフェロン」には、そもそも分子種とか下位種という概念などは存在しないのであり、要件とされているのは、医薬組成物に適合する右物性の明らかな「均質タンパク質」としての「ヒト白血球インターフェロン」が有効成分として含まれているということだけである。 2 被告らの製品について(一) 被告林原研究所が製造し、被告大塚製薬及び被告持田製薬に販売しているインターフェロン原液は、別紙被告製品目録(三)記載のものであり、被告大塚製薬が製造販売しているインターフェロン製剤は別紙被告製品目録(一)記載のものであり、被告持田製薬が製造販売しているインターフェロン製剤は別紙被告製品目録(二)記載のものである。 (二) 被告らの製品におけるインターフェロン―αは、急性リンパ性白血病患者から採取した細胞を培養株化したヒトリンパ芽球BALL―1細胞を新生児ハムスターの体内で増殖させる方法で得られた常に均質な産生細胞に、センダイウイルスを誘導剤として加えてインターフェロンを誘発し、これをモノクローナル抗体で取り出すという方法で取り出された均質蛋白質である、ヒトリンパ芽球BALL―1細胞由来のインターフェロン―αである。このインターフェロン―αは、高速液体クロマトグラフィーにおいて複数のピークを示し、ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミドゲル電気泳動で複数バンドを示す特性を有するものであって、α2及びα8の混合物として存在するものではなく、かつ、そのような状態で医薬組成物中に含有されるものでもない。インターフェロン―α(ヒトリンパ芽球BALL―1細胞由来)における右複数ピークを示すものを分析すると、被告製品目録(一)ないし(三)に記載の分子量とアミノ糖残基を有するα2及びα8としては認識されるが、α2及びα8を単離精製して混合した混合物ではない。 このように、被告らの製品中のインターフェロン―αは、白血球とは異なるリンパ芽球BALL―1細胞を産生細胞とし、その物性も別紙被告製品目録(一)ないし(三)記載のとおりであり、分子種としても未分離の状態で存在する医薬組成物の有効成分である。 3 対比について 本件発明の構成要件と被告らの製品とを対比すると、以下のとおりであって、被告らの製品は本件発明の構成要件を充足しない。 (一) 「ヒト白血球インターフェロンを含有する」との要件との対比 本件発明は、右要件において、本件発明にかかるインターフェロンの産生細胞を正常な人から採取した白血球及び慢性骨髄性白血病患者の白血球(好中球、好酸球、好塩球、リンパ球、単球からなる)と規定しているが、被告らの製品にかかるインターフェロン―α(ヒトリンパ芽球BALL―1細胞由来)は、急性リンパ性白血病患者から採取したリンパ芽球(白血球ではない)から採取した細胞を培養株化されたリンパ芽球BALL―1細胞を産生細胞とし、誘導剤としてセンダイウイルスを作用させることにより産生されたリンパ芽球由来の特定のインターフェロン―αであり、ヒト白血球由来の特定のインターフェロン―αではない。この点において、本件発明の「ヒト白血球インターフェロン」と被告らの製品のインターフェロン―αとはすでにまったく別異のインターフェロンということになるから、被告らの製品は、いずれも右要件を充足しない。 原告は、白血球インターフェロンと称されていたものが、その抗原性の特異性に基づき、インターフェロン―αに分類されたのであるから、本件発明にいう「ヒト白血球インターフェロン」は即ちインターフェロン―αである等と主張するが、白血球インターフェロンといわれていたものがインターフェロン―αに分類されたからといって、直ちに原告主張のように考えるのは論理の飛躍がある。 インターフェロン―αと呼ばれるものがすべて同一のインターフェロンを意味するものではなく、「インターフェロン―α」が本件発明の「ヒト白血球インターフェロン」であることにはならない。本件発明の「ヒト白血球インターフェロン」が特定の産生細胞に特定の誘導剤を作用させ、特定の製造方法で得られた、特有の性質を有するインターフェロンを意味するものであって、産生細胞、誘導剤、製法を異にし、医薬組成物としての物性において異なる物性を有する被告らの製品のインターフェロン―α(ヒトリンパ芽球BALL―1細胞由来)とは、まったく別異のものである。したがって、後に、インターフェロン―αに分類されたからといって、 その別異のものが同じものになるわけはない。 (二) 比活性、分子量、アミノ糖分含有量、ピーク及びバンドの各単一性並びに均質タンパク質の要件との対比 被告らの製品は、高速液体クロマトグラフィーにおいて複数のピークを示すとともに、ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミドゲル電気泳動で複数バンドを示すインターフェロンであって、複数のインターフェロンを混合したものではなく、また、サブタイプであるα2のアミノ糖分は一分子当り一残基以上であり、α8の分子量は、24400±1000ダルトンであるから、いずれも右各要件の数値枠内には含まれないものであり、したがって、被告らの製品は、いずれも右各要件を充足しない。 本件発明の「ヒト白血球インターフェロン」は、医薬組成物の有効成分としてのレベルにおいて、本件明細書記載の精製法によって、高速液体クロマトグラフィーにおいて単一のピークを示し、ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミドゲル電気泳動で単一バンドを示す均質タンパク質になるまで単離精製された特定のペプチド分子種であるのに対し、被告らの製品中の「インターフェロン―α(ヒトリンパ芽球BALL―1細胞由来)」は、本件発明とは全く異なる製法によって得られた医薬組成物の有効成分たるインターフェロン―αのサブタイプα2及びα8からなるものであって、そもそも、下位種なる概念で考えるべきものではなく、また、 精製を完了した最終的成果物であって、本件発明の「ヒト白血球インターフェロン」とはまったく異なる医薬組成物の有効成分である。 (三) 「ドデシル硫流ナトリウム及び非インターフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないこと」との要件との対比 本件特許請求の範囲と、その医薬組成物に、非インターフェロン活性タンパク質夾雑物を含まないことを規定しているのに対し、被告らの製品には非インターフェロン活性タンパク質である人血清アルブミンが含まれているから、被告らの製品は、いずれも右要件を充足しない。因みに、本件発明の出願前に、「ヒト白血球インターフェロン」と人血清アルブミンとからなる組成物を治療を目的として投与することは公知の事柄であり、その場合の人血清アルブミンが夾雑物であることは明確に認識されていた。 原告は、人血清アルブミンを意図的に混合させた場合には夾雑物とならず、当初から含まれていれば夾雑物となる旨主張するが、使用時の形態を見る限り、組成物中に、意図的に混合させようと、当初から含まれようと、医薬組成物としては何ら異なることはない。本件発明は、特許請求の範囲の記載からも明らかなように、右のような夾雑物を敢えて除外することを構成要件としたと考えざるを得ない。 (四) 「以上を特徴とするヒト白血球インターフェロン感受性疾患治療用医薬組成物」との要件との対比 右(一)ないし(三)から明らかなように、被告らの製品は、ヒト白血球インターフェロンを含有する医薬組成物ではないという点において、そもそも、本件発明とはまったく別異のものというべきであるが、被告らの製品にかかるインターフェロン―α(ヒトリンパ芽球BALL―1細胞由来)は、本件発明にかかるヒト白血球インターフェロンの有する各特徴を有せず、また、本件発明の医薬組成物においてて好ましからざるものとして排斥されている組成物を有するものであるから、この点においても、本件発明とはまったく別異のものというべきである。 (五) 以上のとおり、いずれにしても、被告らの製品は、本件発明の技術的範囲に属さないものである。 四 被告らの主張に対する原告の認否・反論1 被告らの主張1について(一)本件優先権主張日である一九七八年(昭和五三年)一一月二四日当時、ヒト白血球インターフェロンと呼ばれていたインターフェロンが、その後名称変更され、インターフェロン―αと呼ばれるようになったのであるから、本件発明にいう「ヒト白血球インターフェロン」は、インターフェロン―αと同一のものであることは明らかである。名称が変わったからといって、実体が変わるわけではない。また、従来、「白血球インターフェロン」と称されていたものが「インターフェロン―α」に分類され、名称が変更されたのであるから、これは従来の呼称である「白血球インターフェロン」がインターフェロンの種類ないし型であったことを示すものである。 (二) 発明の要旨の認定は、特許請求の範囲の記載のみによるべきであるところ、本件特許請求の範囲における「ヒト白血球インターフェロン」は、現在の名称における「インターフェロン―α」であり、このことは当業者にとって自明のことであり、その意味は一義的に確定しているから、明細書の発明の詳細な説明の記載を参照する特段の事情は本件にはない。 (三) 被告らは、本件発明においては、本件明細書の実施例の欄に記載されているα1、α2等に限定されるべきである旨主張する。 しかしながら、発明における技術思想は特許請求の範囲に表現され、その技術的範囲は特許請求の範囲によって決定されるのであって、実施例は例にすぎない。本件では、すでに「ヒト白血球インターフェロン」という語によって特許請求の範囲が表され、この語によって技術的範囲が画されている以上、この範囲を強いて狭めて実施例に限定すべき理由はない。 また、本件発明は世界で初めてインターフェロンを単離し、その実体を世に明らかにしたものであるから、正義衡平の見地からも、本件特許請求の範囲は限定されるべきではない。 (四) 本件発明は、対象物を「ヒト白血球インターフェロン感受性疾患治療用医薬組成物」とし、その特徴を@ある性状のヒト白血球インターフェロンを含有すること、Aドデシル硫酸ナトリウムを実質的に含まないこと、B非インターフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないこと、としている。また、右@の特徴であるヒト白血球インターフェロンは、高速液体クロマトグラフィーで単一ピークを有し、電気泳動で単一バンドを有するから、インターフェロン―αの下位種ということになり、右A、Bは、要するに実質的に純粋なインターフェロン―αということである。したがって、本件特許の対象は、実質的に純粋なインターフェロン―αを有効成分とする医薬であり、それが別に規定する性状の下位種を含んでいるということである。換言すれば、そこに規定する性状の下位種が含まれている限りという条件のもとで、実質的に純粋なインターフェロン―αを有効成分として用いる薬剤は、すべてこの特許発明の技術的範囲に属するものである。 そして、インターフェロン―αは下位種のみから成るか、あるいは複数の下位種から成るものであるから、結局、実質的に不純物を含まないインターフェロン―αを用いさえすれば、本件特許請求の範囲に含まれることになる。 2 被告らの主張2について 被告らの主張する被告製品目録(一)ないし(三)について、次のとおり認否又は主張する。 (一) ヒトリンパ芽球BALL―1細胞由来の点について 原告は、被告らの製品におけるインターフェロン―αの産生細胞がヒトリンパ芽球BALL―1細胞由来であることについては、認めることはしないが争わない。 原告としては、被告らの生産現場の確認ができないから積極的に認めることはできない。しかし、この点について、被告らも、一般に頒布している販売資料中に、由来細胞についての偽りは書かないであろうし、この点についての立証を要するとすると時間も要する。原告は、被告らの細胞の由来についての主張については、本件特許の技術的範囲とは関係がないと考えているのであって、必ず認否する必要があるとは考えない。当事者が明らかに争っていなければ、裁判所は民事訴訟法140条1項によって処理すればよいのである。 (二) 比活性値について 被告製品目録(一)ないし(三)においては、比活性値を得るのに用いたテスト細胞が本件特許請求の範囲の要件となっている細胞ではないから、主張自体意味をなさない。したがって、その認否も意味がない。 (三) 分子量について α2については認める。 α8については認否をするつもりはない。 (四) 塩化ナトリウム及びリン酸緩衝剤を含有する点について 不知。 (五) アミノ糖分含有量について α2については否認する。 α8については認否の必要がない。 (六) ピークとバンドの各単一性について 複数の下位種を含むものが複数ピーク、複数バンドを示すことは当然である。 3 被告らの主張3について(一) 本件発明は、単離された下位種のみではなく、下位種が単離され、その存在と性質が確認される限りにおいて、それを含有するインターフェロン―αをもその対象とし、技術的範囲に含むということである。そして、被告らの製品中のインターフェロン―αは、そのままでは高速液体クロマトグラフィーで複数のピークを示し、ドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミド電気泳動において複数のバンドを示すが、右は、均質蛋白質である幾つかのインターフェロンの下位種の混合物であることを意味し、これらを分離すれば、高速液体クロマトグラフィーで単一ピークを示し、ドデシル硫酸ナトリウム―ポリアクリルアミド電気泳動で単一バンドを示す均質インターフェロンが含有されていることが明らかであるから、被告らの製品中のインターフェロン―αが本件発明の「ヒト白血球インターフェロン」であることは疑いがない。 なお、被告らの製品中のインターフェロン―αは、均質な各種インターフェロンの下位種を得た後に混合したものではないと思われるが、そうであったとしても、 本件特許請求の範囲の文言を充足することは明らかである。 (二) 仮に、本件特許請求の範囲の「ヒト白血球インターフェロン」が人の白血球から産生されるインターフェロンという意味であったとしても、被告らの製品のインターフェロンは、リンパ芽球も白血球であるから、字義上特許請求の範囲の記載に含まれるものである。リンパ球は白血球であり、リンパ芽球はリンパ球であるから、リンパ芽球が白血球であることは自明である。また、被告らの用いるBALL―1株は、B細胞由来のものであり、B細胞はBリンパ球と同じであり、Bリンパ球は白血球なのである。なお、リンパ芽球細胞はインターフェロン―αのほか、 βも産生するとされているが、被告らが使用しているのはインターフェロン―αのみであるから、「ヒト白血球インターフェロン」であるということができる。 また、最近では、インターフェロンのアミノ酸配列もつきとめられており、インターフェロン―αについてもそのサブタイプ毎に配列が発表されている。したがって、リンパ芽球由来のものであろうと、その故に配列が異なるなどということはない。 (三) 更に、仮に、本件特許請求の範囲が実施例に限られるとしても、被告らの製品に含有される下位種が実施例に含まれていないとはいえない。本件発明の明細書中の下位種を指す符号は今日のものと異なっているから基準にはならないし、明細書記載の各下位種の比活性、分子量の値は必ずしも被告らの製品中のそれと完全には一致しないが、このような具体的数値は、測定方法、実験誤差によって異なりうるから、これのみで異なるということはできない。むしろ、インターフェロン―αを精製している以上、下位種の組合せにおいて差はあり得るとしても、同一下位種も含まれていたであろうと考える方が自然である。そして、被告らの用いるインターフェロン―αが本件特許請求の範囲に属する以上、被告らが実施例と異なることを自ら立証すべきであるが、その立証はない。 |
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証拠(省略)
理 由一 請求原因1及び2の事実、並びに「『ヒト白血球インタフェロンを含有』すること」が本件特許権の構成要件の一つであることは当事者間に争いがない。 原告は、被告らの製品におけるインターフェロンがヒトリンパ芽球BALL―1細胞をその産生細胞とすることについて、これを明らかに争っていないから、右事実を自白したものとみなされる。 二 まず、本件特許請求の範囲にいう「ヒト白血球インタフェロン」の意義について、検討する。 1 甲第一号証、第一〇号証の一ないし五、第一二、第一三、第二一、第二七号証、乙第一、第一〇、第一五、第一九、第二四、第三〇、第三三、第三四、第三七号証並びに弁論の全趣旨によると、本件優先権主張日当時のインターフェロンに関する知見ないし技術水準は、次のとおりであったと認めることができる。 (一) インターフェロンは、ウイルス等の刺激を受けて動物の細胞が作り出す微量の蛋白質であって、抗ウイルス作用等を有するが、いわゆる種特異性があるので、人に有効なインターフェロンは、原則として人の細胞でなければ作ることができず、また同じ動物であっても、産生する細胞によって作られるインターフェロンの種類は異なる。 (二) 人に投与するインターフェロンは原則として人の細胞から作らなければならず、また一個の細胞から産生されるインターフェロンはごく微量であるため、大量のインターフェロンを作るためには大量の細胞が必要となるが、その細胞を入手する方法としては、通常の輸血では必要とされない白血球を利用する方法、持続的に産生する細胞株を利用する方法及び正常な染色体を保ちつつ分裂・増殖するヒト二倍体細胞を用いる方法とに大別することができる。 (三) 白血球は、赤血球、血小板とともに哺乳類の血球成分の一つであり、多数集めると肉眼的に白色を呈する血球であり、核を有する細胞であって、いくつかの細胞種の集合体である。そして、好中球、好酸球、好塩基球、単球及びリンパ球に分けられ、このうちリンパ球は、大リンパ球と小リンパ球とがあり、成熟するにつれて、大型のもの(リンパ芽球)から小型のものになる。また、リンパ球は、機能の相違から、組織及び細胞性免疫を司る群であり長命であるTリンパ球と、外部からの細菌に対する免疫抗体を産生分泌する群であり短命なBリンパ球とに分けられる。 (四) 白血球は、通常の輸血では不必要であるというより、原理的にはむしろ有害であるといわれ、一部の国では血液を各成分に分離、保存する体制がとられているので、これを産生細胞とするならば、いわば廃物利用の形でインターフェロンを作ることができ、このため白血球を産生細胞とするインターフェロンは、フィンランド、ソ連などで昭和四一年ごろから大規模に生産され、当時臨床的に使用されている唯一のインターフェロンであった。 (五) 白血球は増殖能力のない細胞であって、インターフェロン生産に用いることのできる白血球の量は供血量により必然的に限界があることから、インターフェロンの大量生産のためには、多量のインターフェロンを持続産生する新しい細胞株を樹立することが必要とされ、そのような細胞株としてリンパ芽球様細胞株が昭和四〇年以来数多く研究報告されてきた。 (六) リンパ芽球様細胞は、トランスフォームしたリンパ芽球を実験用培地で培養株化して得られる均質な細胞群であり、正常な血液中には存在しない悪性の細胞であるが、一定の条件下で無限に増殖する。報告された持続産生細胞のほとんど全てはリンパ球由来のリンパ芽球様細胞株であり、またその多くは白血病のようながん細胞であって、このため、少なくとも我が国ではこれらの細胞を用いて生産したインターフェロンを人に投与することは許されないと考えられていた。 (七) リンパ芽球様細胞を産生細胞とするインターフェロンの特性は、物理的、 化学的あるいは免疫学的に白血球を産生細胞とするインターフェロンに類似するが、両者は特定のアミノ酸が相違すると考えられていた。 (八) 当時、一般的には一つの細胞が一つの特定のインターフェロンを産生するものと考えられ、そのためインターフェロンは、細胞起源を接頭辞に付けて呼称されていたものであって、白血球インターフェロン、リンパ芽球様細胞インターフェロン、線維芽細胞インターフェロン、免疫インターフェロンの四種類、又はこれらに羊膜細胞インターフェロンを加えた五種類に分類されていた。 (九) 本件優先権主張日の後である一九八〇年(昭和五五年)三月、インターフェロンの定義と分類に関する混乱を避けるため、国際的なインターフェロン命名委員会が開かれた。同委員会により、白血球や線維芽細胞が二つのタイプのインターフェロンを産生し、また免疫インターフェロンが免疫認識反応よりもミトーゲンで誘導されることが多いため、従来の「白血球インターフェロン」「線維芽細胞インターフェロン」及び「免疫インターフェロン」との用語は、明らかに不適切であるとされ、今後抗原特異性に基づいて分類することとされた。そして、白血球を産生細胞とするインターフェロンのうちの主なタイプをインターフェロン―α、線維芽細胞を産生細胞とするインターフェロンのうちの主なタイプをインターフェロン―β、また、通常酸に弱く、これまで「タイプU」と呼ばれていたものをインターフェロン―γと命名することになった。インターフェロン調製物は、複数タイプのインターフェロンを含むことがあり、例えば、リンパ芽球様細胞由来のインターフェロンは、インターフェロン―αとインターフェロン―βを含んでいるとされた。以上の事実を認めることができる。 2 そこで、右認定のような知見ないし技術水準に立脚して作成された本件明細書の記載を検討する。 (一) 本件特許請求の範囲の記載は、前記一のとおりであるところ、ここには「均質タンパク質であるヒト白血球インタフェロンを含有し」と記載され、また「…を特徴とするヒト白血球インタフェロン感受性疾患治療用医薬組成物」と記載されているものであって、「ヒト白血球」との用語が、前記認定のようなインターフェロンに関する一般的な知見ないし技術水準と異なり物理的、化学的又は免疫的な観点等から示される特定の型や種類であることを窺わせるような記載は全くないから、この本件特許請求の範囲に記載された「ヒト白血球インタフェロン」は、ヒトの白血球を産生細胞とするインターフェロンを意味するものと認められる。そして、この「ヒト白血球インタフェロン」との用語は、ヒトの末梢血に存する白血球を意味するものであり、また個々の特定の血球を指しているものではなく、前記のような五つの細胞種の集合体を指しているものと認められる。 (二) また、本件明細書の発明の詳細な説明をみても、本件発明の意義について、「本発明の医薬組成物におけるヒト白血球インタフェロンは、この医薬として重要な物質の化学的特性づけを初めて可能にする純すいなインタフェロンを十分な量で提供する新規製造方法により得られた。本発明の組成物におけるインターフェロンの化学的特性づけを可能にしたことは、この物質の開発における有意な進歩を表わす。」と記載され(本件公報5欄6ないし12行)、また、精製方法や得られたインターフェロンの性質について、「このようにして、人の白血球のインターフェロンの3つの別々の形態(α、βおよびγ)の各々は均質なタンパク質を表わす別々の鋭いピークに分割することができる。」(同7欄35ないし38行)、「人の白血球のインターフエロンの精製法の特定の態様において、・・・そして微量のn―ヘキサンを工程Cへ進む前に水相から除去する。」(同7欄末行ないし8欄4行)、「この新規方法により得られる均質な人の白血球のインターフェロンの種の各々は、前述のHPLCカラム上の鋭いピークと、2―メルカプトエタノールの存在下のドデシル硫酸ナトリウム(NaDodso4)ポリアクリルアミドゲル電気泳動上の単一の狭い帯とを示した。このゲルを抽出すると、タンパク質帯と一致する抗ウイルス活性の単一の鋭いピークが得られた。」(同8欄5ないし12行)と記載されている。また本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明の組成物におけるインタフェロンの製造を以下の例により詳細に示す。」としたうえ、実施例1として、「正常の提供者(donor)からの均質な人の白血球のインターフェロン」が、実施例2として「白血病の患者の白血球からの均質な人の白血球のインターフェロン」が記載されている。このように、本件明細書の発明の詳細な説明における記載からも、「ヒト白血球インターフェロン」との用語がヒトの白血球を産生細胞とするインターフェロンを意味していることが明らかである。 3(一) 原告は、本件特許請求の範囲にいう「ヒト白血球インタフェロン」は、 現在のインターフェロンーαであって、同一のものである旨主張する。 しかしながら、前記の国際的な命名委員会がインターフェロンの新しい命名法について提言した経緯、内容等は前記1(九)で認定したとおりであって、白血球が二つのタイプのインターフェロンを産生するなど、「白血球インターフェロン」等の産生細胞を接頭辞に付けた従来の用語が明らかに不適切であるからこそ、抗原特異性という分類基準が採用されたのであり、その結果「インターフェロン―α」との用語によって、白血球が産生する主たるタイプのインターフェロンの種類が表わされることになったのであって、それまでの「白血球インターフェロン」との用語が抗原特異性の観点からは二つのタイプを含むものであり、「インターフェロン―α」と同一でないことは明らかである。 (二) 原告は、本件特許請求の範囲にいう「ヒト白血球インタフェロン」の「白血球」は、インターフェロンの産生細胞を示すものではなく、インターフェロンの型ないし種類を示すものであり、本件優先権主張日当時、「リンパ芽球インターフェロン」という分類は存せず、それはとりもなおさず、「白血球インターフェロン」に属するものであり、それは、現在の「インターフェロン―α」である旨主張する。 しかしながら、そもそも型ないし種類を示すものであるという以上、同一の型ないし種類であることを示す物理的、化学的又は免疫学的な特性、あるいは用途的な特徴等が記載される必要があるところ、本件明細書をみても、「ヒト白血球インターフェロン」との用語が特定の型ないし種類を示していることを窺わせる記載は全くないといわざるをえない。また、甲第一七号証等の証拠の中には、「白血球インターフェロン」との語が「インターフェロン―α」との語に対応する形で表記されたものも存するけれども、前記認定のような新しい分類方法等が採用されるに至った経緯からして、これらに記載された「白血球インターフェロン」との用語が白血球を産生細胞とするインターフェロンのうちの主なタイプを意味していることは明らかであって、「白血球インターフェロン」と「インターフェロン―α」とをそのまま対応させた記載も、提唱にかかる新しいインターフェロンの型ないし種類についての理解の便宜を図ったにすぎないものと考えられるのである。したがって、原告の右主張も理由がない。 三 被告らの製品について、検討する。 1 前記のとおり、原告は、被告らの製品中の「インターフェロン―α」が「ヒトリンパ芽球BALL―1細胞に由来するものであることを明らかに争っていないから、この点を自白したものとみなされている。 2 右1の事実に加えて、前記一、二の各事実に、前掲甲第三七号証、乙第一号証、成立に争いのない甲第二六、第二八、第二九号証、乙第二四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二九号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、 (一) 「BALL―1細胞」は、B細胞型急性リンパ芽球性白血病(Acute Lymphoblastic Leukemia)由来の培養株である。すなわち、急性白血病は、白血球の特定の細胞が悪性化し、急速に増殖する等の異常な状態になる疾患であり、正常な血球の成育を阻害するなど、造血機能を妨げ、重篤な貧血、出血、感染による発熱等の激烈な症状を引き起こすものであるところ、そのうち、「BALL」は、B細胞が悪性腫瘍化した急性リンパ芽球性白血病(Acute Lymphoblastic Leukemia)を略記したものであり、 「BALL―1細胞」は、右B細胞型急性リンパ芽球性白血病由来の培養株であって、ALL患者から採取したB型のリンパ芽球を継代培養して安定均一な株として樹立された細胞であり、リンパ芽球様細胞(lymphoblastoid)に当たるとされている。 (二) 昭和五三年当時、ヒトの血液(末梢血)から単離された白血球は、増殖能力を有しない細胞であり、培養によって増殖させることができないため、これを利用した大量生産には限界があると認識され、リンパ腫や白血病等の悪性腫瘍患者から採取したヒトリンパ芽球を培養株化し、これを産生細胞としてインターフェロンを産生させる試みがなされていた。この右培養株化したヒトリンパ芽球細胞は、リンパ芽球様細胞(lymphoblastoid)と呼ばれ、一定条件の下では生体外で無限に増殖することができるため、インターフェロンの大量生産への道を開くものとして期待されていた。 (三) 右の当時から、リンパ芽球様細胞は白血球とは別のものとして区別されており、また培養株化されたリンパ芽球細胞から産生されたインターフェロンは、その由来を接頭辞として付し、「リンパ芽球インターフェロン」又は「リンパ芽球様インターフェロン」と呼ばれ、「ヒト白血球インターフェロン」とはまったく別の種類のものと考えられていた。 以上の事実を認めることができる。ところで、甲第三九号証には、「リンパ芽球様細胞が本質的に白血球であると理解され、またリンパ芽球様細胞が実際に白血球インターフェロンを産生することが知られていたから、『ヒト白血球インターフェロン』は『ヒトリンパ芽球様インターフェロン」を包含するものと認識されていた」旨の記載部分が存するが、前掲乙第三三及び第三四号証の記載に照らし、また前記認定のとおり、インターフェロンの製造においては、当時既に大規模に生産され臨床的に唯一使用されていたものの増殖能力がなく大量生産に限界のある白血球を産生細胞とするインターフェロンと、悪性の細胞である点に難があるとされていたものの無限に増殖するため大量生産に適したリンパ芽球様細胞を産生細胞とするインターフェロンとは明確に区別されていたとの事実に照らし、採用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。 3 右認定の事実によれば、昭和五三年当時の用法では、BALL―1細胞は、リンパ芽球様細胞として、白血球とはまったく別種の細胞であると分類されていたのみならず、BALL―1細胞は、B細胞型ALL患者から採取した、悪性化したB型リンパ芽球を継代培養した株化細胞であり、一定の条件のもとで増殖する人為的な細胞であって、それ自体として、血液中の白血球を組成する細胞ではないといわざるを得ない。 本件特許請求の範囲にいう「ヒト白血球」が人の血液中の好中球、リンパ球等の血球の不均質な血球群ないし集合体をいうものであることは、先に判示したとおりであるから、BALL―1細胞は、本件特許請求の範囲にいう「白血球」には該当しないものである。 4(一) 原告は、血液学的にはリンパ芽球も白血球の一種であり、BALL―1細胞はBリンパ球由来であるから、BALL―1細胞は白血球由来ということができ、インターフェロン―α(ヒトリンパ芽球BALL―1細胞由来)は本件特許請求の範囲における「ヒト白血球インタフェロン」と同一のものである旨主張する。 しかしながら、前記判示のとおり、白血球は、好中球等の血球の不均質な集合体を指し、増殖能力がないのに対し、BALL―1細胞は株化細胞であって、両者は全く別種の細胞であると分類されていたのであって、本件特許請求の範囲にいう「ヒト白血球」には当たらないから、原告の右主張は理由がない。 (二) また、原告は、本件明細書においては、その実施例2の欄で、産生細胞として慢性骨髄性白血病患者の血液から単離した白血球によるインターフェロンの製造例が開示されており、この病気は急性リンパ芽球性白血病(ALL)に転化するから、異常細胞を産生細胞としている点では同様であって、BALL―1細胞を除外する理由はない旨主張する。 しかしながら、右実施例における白血球も、当該患者から採取した血液から単離したものであり、生体外において、無限に増殖することができるリンパ芽球様細胞とは、別のものであることは明らかであるから、原告の右主張も採用することができない。 5 結局、被告らの製品中の「ヒトリンパ芽球BALL―1細胞」由来のインターフェロンは、本件特許請求の範囲にいう「ヒト白血球」から産生されたインターフェロンではないこととなるから、被告らの製品中のインターフェロンは、本件特許請求の範囲における「ヒト白血球インタフェロン」に該当しないことに帰着する。 四 以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、 いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用につき、民訴法89条を適用して、主文のとおり、判決する。 別紙 省略 |