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関連審決 審判1983-6902
審判1990-23494
関連ワード 公知技術 /  上位概念 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  明瞭でない記載 /  援用権(援用) /  参酌 /  技術的意義 /  禁反言 /  実施 /  侵害 /  設定登録 /  発明の範囲 /  審判制度 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  釈明 /  訂正明細書 /  審決確定(審決が確定) / 
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事件 平成 5年 (行ケ) 151号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1994/10/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた判決
1 原告 特許庁が、平成2年審判第23494号事件について、平成5年3月30日にした審決を取リ消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告主文1、2項同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等(1)原告は、昭和47年11年30日に特許出願(特願昭47―119445号)、昭和52年6月2日に出願公告(特公昭52―20240号)、昭和54年4月27日に設定登録された、名称を「クリップ」とする特許第950343号発明(以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
(2)被告は、昭和54年10月3日、原告を被請求人として、本件特許を無効とする旨の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を同年審判第11967号事件として審理したうえ、昭和57年4月21日、本件特許を無効とする旨の審決(以下「別件無効審決」という。)をした。
原告は、別件無効審決に対し、審決取消訴訟を提起した(東京高等裁判所昭和57年(行ケ)205号)が、昭和62年4月30日に原告の請求を棄却する旨の判決がされたので、これに対し、上告を提起した。
(3)原告は、他方、昭和58年4月8日、特許庁に対し、本件特許明細書及び図面の訂正を求める訂正審判を請求した(昭和58年審判第6902号)ところ、昭和62年3月31日、審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおりに訂正することを認める旨の審決(以下「訂正審決」という。)がなされ、その謄本は、
同年5月20日、原告に送達された。
(4)最高裁判所は、上記審決取消訴訟事件の上告事件(最高裁判所昭和62年(行ツ)第109号)において、本件特許につき訂正審決が確定したことにより、
原判決の基礎となった行政処分は後の行政処分により変更されたとして、平成3年3月19日、「原判決を破棄する。本件を東京高等裁判所に差し戻す。」との判決をした。
(5)被告は、平成2年12年28日、訂正審決で認められた明細書及び図面の訂正(以下「本件訂正」という。)を無効とする旨の訂正無効審判の請求をした。
特許庁は、同請求を同年審判第23494号として審理したうえ、平成5年3月30日、「昭和58年審判第6902号審決で認められた第950343号特許明細書の訂正を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、平成5年5月12日、原告に送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲の記載 目的物Oと係合させられるように各々適合させられた複数の一緒に固定された取付け具から成るクリップであって、該取付け具の各々が目的物貫通部分2と、拡大部分4と、該両部分を結合している該貫通部分2から伸長した細長い区分材6と、
該貫通部分2を相互に平行的に間隔を置いて結合している切断されうる部材8、10とから成るクリップにおいて、該拡大部分間に介在してそれらを結合している容易に切断されうる固定部材22を備え、該固定部材は該切断されうる部材より隣接する該拡大部分がねじり力により相互に手操作で分離されうる程充分に弱いことを特徴とするクリップ。
3 本件訂正の内容 本件訂正の内容は、本件審決の理由冒頭に記載されている(別添審決書写し2頁2〜20行)ように、訂正前の本件明細書及び図面(以下、図面を含め、「原明細書」という。)につき、その特許請求の範囲の記載はそのままとし、発明の詳細な説明、図面の簡単な説明及び図面の部分から、接着剤及び接着剤層ないし接着層(以下、これらを総称する場合には、「接着剤等」という。)についての記載及び図面を削除して訂正明細書及び図面(特許審判請求公告第576号掲載、以下、図面を含め、「訂正明細書」という。)のとおりとするものである。
4 本件審決の理由 本件審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件訂正は、原明細書の「明瞭でない記載釈明」にも、「特許請求の範囲減縮」にも当たらず、特許法第126条1項(平成5年法律26号による改正前のもの、以下同じ。
)1号及び3号のいずれの規定にも違反して認められたものであるから、無効とすべきものとした。
原告主張の審決取消事由の要点
本件審決の本質的な誤りは、本件訂正により原明細書を訂正しても、特許請求の範囲の「固定部材」から接着剤等を除いたことにならないという判断にある。
本件審決はこの点において誤っており、そうである以上、本件訂正が、明瞭でない記載釈明、特許請求の範囲減縮のいずれに該当するかを明らかにするまでもなく、本件審決は違法として取り消されなければならない。
1 本件審決が上記のような判断をし、これに基づき本件訂正が特許請求の範囲減縮に該当しないとした理由を要約すると、原明細書においては、「固定部材」は接着剤等を含む上位概念であったので、特許請求の範囲の記載を訂正することなく、接着剤等の実施態様を削除しても、特許請求の範囲減縮にならない、ということに尽きると思われる。
しかし、この審決の理由は、原明細書における意味によれば、特許請求の範囲減縮にならないというだけであって、訂正明細書の記載に基づけば、どう解釈されるかを検討していない。訂正明細書においては、接着剤等の記載が全くなく、本件発明の「固定部材」については、これに必要な一般的機能を説明し、その機能を満たすものは薄くて短小なフィラメントであるとし、実施例において短小なフィラメントによる拡大部分の固定の態様をいくつか例示しており、それ以外に固定部材に関する開示はない。したがって、ここに原明細書の記載に基づく特許請求の範囲の解釈をいれることは誤りであり、訂正明細書の「固定部材」に接着剤等が含まれると解する余地はない。
上記上告審判決は、「本件特許につき訂正を認容する審決が確定したことにより、本件発明の特許請求の範囲の固定部材の構成は、出願の当初に遡ってこれに接着剤(接着層)を含まないものに減縮されたものと認められる」と判示し、本件訂正に関し、特許請求の範囲の記載文言の技術的意義が一義的に明確とはいえない場合、特許請求の範囲の記載を訂正しなくても、原明細書から接着剤等に関する記載を削除することにより、特許請求の範囲の「固定部材」に接着剤等が含まれると認定する余地はなくなったことを明示的に判示し、原判決を破棄しているのである。
このように、上告審判決が本件訂正審決には特許請求の範囲減縮する(特許請求の範囲に接着剤等は含まれなくなる)効果があると認定したことは、本件訂正審判請求が特許法126条1項1号に該当する適法な審判請求であることの判断を含むものといわなければならない。なぜなら、訂正審判請求が適法でなければ、有効な訂正審決をなしえないし、また、もし本件訂正によっては特許請求の範囲の解釈に影響を与えないと判断したのなら、上告を棄却したはずであるからである。
したがって、右判示と正反対の理由に基づく本件審決が取消しを免れないことは明らかである。
2 本件審決は、原明細書の特許請求の範囲の「固定部材」が接着済等を含むことが明らかであることを前提として、本件訂正が不明暸な記載の釈明に該当するかどうかの点につき、不明暸な記載は存在しないから、本件訂正は認められないとしている。
しかし、本件審決自体、「単に、『接着剤』について一般的な概念は、『2種類以上の個体を結合させるために用いる物質』と考えられており、被請求人の主張どおり『接着剤が切断されるという表現は馴染まない表現』とも解される」(審決書7頁14〜18行)、「通常使用される技術用語として解釈する場合には、接着剤を適用して形成されるような『接着層』は、『固定部材』という概念のものに含まれ得るか否かという点には技術的にも検討を要する」(同8頁11〜15行)としているのであるから、もし特許請求の範囲の文言の通常の意味により技術的範囲を定めれば、原明細書の特許請求の範囲においても、「固定部材」に接着剤等は含まれず、発明の詳細な説明中の接着剤等に関する実施例は本件発明と関連性のない無用な記載であるとの解釈も成り立ちうる。ところが、発明の詳細な説明及び図面を参照すると、原明細書の特許請求の範囲の「固定部材」には接着剤等が含まれうるという解釈が成り立つのである。
そうすると、特許請求の範囲の文言の通常の意味を重視すれば、原明細書の「固定部材」は不明暸な記載とみられることになり、本件訂正は不明暸な記載の釈明として適法であるということになる。他方、明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌することを重視すれば、原明細書の「固定部材」は明白に接着剤等を含むことになり、接着剤等に関する記載を除く本件訂正は特許請求の範囲減縮として適法なものとなる。
したがって、本件審決の判断はいずれにしても誤りである。
被告主張の要点
本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
1「固定部材」とは固定するものを指すことは明らかであり、本件審決の述べているとおり、本件発明の「固定部材」なるものは、材料や構造を特定しているものではなく、クリップ部分の拡大部分に介在して、それを結合する機能又は特性を備えているものであればよいのであるから、その実施例として、「薄くて短小のフィラメント状接続材」とともに「比較的弱めな接着剤層」とが示されていようと、単に「薄くて短小のフィラメント状接続材」だけが示されていようと、特許請求の範囲の「固定部材」の解釈が変更される理由のないことは明らかである。したがって、
原明細書から接着剤等に関する記載を削除しても、特許請求の範囲の「固定部材」から接着剤等が自動的に除外されることにはならず、本件訂正は特許請求の範囲減縮とはならない。
原告は、本件審決の判断が上告審判決の判断と矛盾するものであると主張するが、これは上告審判決を誤解した主張というべきである。
すなわち、上告審判決は、「訂正審決が確定したことが認められる。」、「訂正を認容する審決の確定により、……」、「本件特許につき訂正を認容する審決が確定したことにより、……」と判示しているように、訂正審決が確定したことを前提として、その理由を述べているのである。上告審判決は、訂正審決を支持したのではなく、訂正審決が確定状態にある以上、その認定を前提として判断せざるをえないとしたものにすぎない。
本件審決は、本件訂正それ自体の効力を争う訂正無効審判についての判断であるから、本件審決が訂正審決の確定を前提としている上告審判決と対立するところはどこにもない。
2 上記のとおり、「固定部材」とは固定するものを指すことが明らかであり、その実施例としてフィラメントや接着剤層が開示されており、これらフィラメントや接着剤層がクリップ部分の拡大部分を固定するものであることが明らかなときに、
「固定部材」の意味が不明であるとする根拠はどこにもない。
したがって、本件訂正は、明瞭でない記載釈明にも該当しない。
証拠関係(省略)
当裁判所の判断
1 原告の主張1について 原告は、訂正明細書においては本件発明の「固定部材」について薄くて短小なフィラメントの記載があるだけであって、接着剤等の記載が全くないから、訂正明細書の記載に基づけば、本件発明の「固定部材」に接着剤等が含まれると解する余地はないと主張するので、この点につき判断する。
(1)甲第3号証により認められる訂正明細書によれば、その発明の詳細な説明の項において、次のとおりに、本件発明を説明していることが認められる。
冒頭に、
@「この発明は、普通2つの目的物をいつしよに固定するため、目的物内に挿入されるようにした形式の取付具に関し、タグやラベルを衣服等に固定するためにかなり広く用いられかつ、これらを使用する方法に関する。とくに、取付具を、これらと掛り合う目的物にきわめて容易に適用しうるような取付具のアセンブリに関する」(甲第3号証1頁左欄16行〜右欄6行)として、本件発明の対象を明らかにし、次いで、この形式の取付具の先行発明として、米国特許第3444597号、同第3380122号、同第3103666号の各発明を挙げて、その概要を述べ、特に同第3103666号に開示されている複数個の取付具からなるアセンブリすなわちクリップはきわめて広く産業界で用いられているのであるが、このクリップは、個々の取付具を目的物貫通部分に隣接して一端のみで互いに固定させているため、操作時あるいは梱包時にもつれが生ずるという問題があり、
種々の不便があったことを指摘し(同1頁右欄7行〜2頁右欄22行)、本件発明は、このもつれの問題を解消した取付具アセンブリ構造を提供することを目的とするとして、本件発明の目的を次のとおり、述べている。
A「本発明の第1の目的は、もつれの問題を解消した取付具アセンブリ構造を提供することにある。
本発明の他の目的は、取付具を、それらがクリツプの1部である間、互いに所定方向に確実に保持し、取付具をそれらの所望の関係位置から動かそうとするかなり強い力に耐える一方、何ら大きな力を加えないで所定の時間に個々の取付具をクリツプから安全に分離させる使用が容易になしうるようにした取付具から成るクリツプすなわちアセンブリ構造を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、引き切ることはきわめて難しいが、ねじれをとくことがかなり容易になしうる仕方で、クリツプの個々の取付具をいつしよに固定することにある。
本発明のさらに他の目的は、個々の取付具が従来技術の仕方で目的物貫通部分に隣接していつしよに固定されるだけでなく、それらの他端に近接し、好ましくはそれらの拡大部分で容易に砕けやすい仕方でいつしよに固定される。
本発明のさらに他の目的は、相付着させた取付具から成るクリツプを操作して、
使用される取付具をその目的物貫通部分のクリツプから分離するようにし、従来技術にみられるように、取付具が掛り合う目的物に貫通部分が突き入り、ついでクリツプを操作して部分的に分離した取付具にたいしてクリツプをねじるようにし、それによつて、取付具をクリツプから完全に分離させることにある。」(同2頁右欄23行〜3頁左欄6行) この記載に続いて、これらの目的を達成するために、本件発明が採用した手段について、次のとおり説明している。
B「基本的には、これらの目的を達成するためなさるべきことは、従来技術にみられるように、目的物貫通部分に隣接するだけでなく、目的物貫通部分から引き延し区分材の対向端で、拡大部分に隣接して取付具をいつしよに固定する部材を提供することであり、この拡大部分に隣接して取付具をいつしよに固定する部材は、普通の貯蔵および操作条件のもと取付具を拡大部分端部で所定方向に維持するための十分な強さを有するが、一方容易に砕けやすくしてありそれで、これが所期の目的に使用された場合に、1つの取付具がその拡大部分端でクリツプから分離でき、そのとき他の取付具を互いに堅く固定したままに保持する。…… かなり強く引張り力に耐えるがねじり力にはかなり弱くなるような仕方により、
取付具を互いにそれらの拡大部分端で固定することがきわめて有利であることが分つた。薄くて短小のフイラメント状接続材はこの特性を有している。拡大部分端に隣接してこれら取付具間にこのような接続材を設けると、取付具は通常、クリツプの部分として所定位置にきわめて確実に維持され、もつれを確実に防止するが、個々に用いると各取付具は、いつの場合にも通常の取付動作として行う連続的運動の他にオペレータが何ら特別な動作を用いることなく、クリツプから容易に分離することができる。」(同3頁7〜43行) 以上のように、従来技術の欠点であるもつれの問題を解決するために本件発明が採用した手段について総論的に説明した後、以下、図面(本判決に別紙図面として添付する。)を参照して、本件発明を実施例によって、より具体的に説明している。
まず、図面第5〜第8図に示す実施例(以下「実施例1」という。)につき、第1〜第4図により、ボーンの米国特許第3103666号に明示された取付装置(取付ガン)を用いて取付具を目的物に取り付ける操作を説明し、本件発明の特徴を次のように述べている。
C「本発明によれば、クリツプにおける個々の取付具はネツク10とロツド8によつて、それらの目的物貫通部2に隣接する個所をいつしよに固定するだけでなく、
符号22で示す折れやすい固定部材によつて個々の取付具間に拡大部分4を隣接して固定する。したがつて、固定部材22は取付具を、それらがクリツプにとどまつている間所定方向に保持し、先取付具の貫通部分がクリツプから分離され目的物と作動的に掛り合うようになると、固定部材22が任意な仕方で破れて、クリツプに残存する取付具を現に目的物0(原文の「10」は「0」の誤記と認める。)と作動的に掛り合つている先取付具から移動させるようにする。
目的物0と掛り合つた後に先取付具がクリツプからきわめて容易に切り離しできることがもつとも望ましい。しかしながら、取付け部材22は、クリツプの1部に残存し取付具がうける転移力に耐えるような十分な強さがなければならない。それで、固定部材22は弱くもありまた強くなければならず、これが1つの問題点である。
本発明の特有な特徴によれば、上記の問題は、引張力とねじり力を区分することによつて解決した。取付具の目的物貫通部分2はいつしよに固定されているが、取付具は互いに本質的に平行にしておかねばならず、そのため、それらがうける転移力は本来、縦またはシヤー(ここで、シヤーは引張力と同じように考えられる)のいづれかの引張力となる。しかし、先取付具の目的物貫通部分2がそのネツク10から切り離されると、クリツプは、第3図および第4図で示すように、先取付具にたいしてねじられ、すなわち回動することができる。先取付具にたいするクリツプの回動は、取付け動作の1部として、取付装置の目的物からの継続的移動の単に1部として行うので、固定部材22がねじり力によって容易に破壊されれば、先取付具は、取付け操作の1部としてクリツプから容易に分離される。
この特性を有する固定構成体の1つは、このようにして生ずる引張力すなわち曲げ力に十分耐えうる材料で作られた薄い短小フイラメントである。しかし、このフイラメントは短いので、これがねじられると、きわめて容易に破れる。」(同4頁左欄28行〜右欄24行) このように述べた後、第6図及び第7図を示して、この薄い短小なフイラメントを、拡大部分4の間に設ける具体的構造を説明している。
D「クリツプの取付具間の普通の間隔は、通常約0.1センチメートルであり、これは前記特性を有する接続部材とするにはかなり大きすぎる。従って、第6図および第7図に示すように、クリツプを成形または形成する場合、拡大部分4は、図示のように0.1センチメートルの距離aをおいて互いに離して設けた接面24に対向突起部26を備え、これら突起部の端部は、たとえば約0.013センチメートルの狭い距離bをおいて互いに離れており、薄いネツクすなわちフイラメント28がそれら突起部間に設けられ、一実施例では、このフイラメント28はその直径が長さ0.013センチメートルと等しく0.013センチメートルである。(これらの値は成形ナイロンで形成される取付具にたいするものであり、…使用材料、適用方法、使用中、個々の取付具がうける力等によつて、寸法および形状を異ならせることが可能である。) 突起部26およびフイラメント状ネツク28は、単一成形中に取付クリツプの他の部分と一体に形成することまたはそのようにすることが好ましいが、これは、クリツプの他の部分のためにすでに設けてある空胴に加えて、突起部26およびネツク28のため成形体に空胴を設ける場合にのみ必要である。」(同4頁右欄25行〜5頁左欄6行) ついで、実施例1の応用として、突起部26ダッシュが拡大部分4の下半分にのみに形成された第8図のものを説明し、続いて、第9図に示す実施例(以下「実施例2」という。)及び第10図、第11図に示す実施例(以下「実施例3」という。)について述べ、さらに、固定部材22は拡大部分4自身と掛り合い直接これらを接続するものでなくとも、たとえば、固定部材22を拡大部分4近くの引き延し区分材6間に位置させたものでもよいことを説明し、実施例の説明の最後に、本件発明の形式の取付具は、その引き延し区分材6、貫通部分2、拡大部分4の形状及び大きさ等は大幅な変更が可能であることを述べている(同5頁左欄7行〜右欄26行)。
そして、本件発明の作用効果について、以下のとおりに説明している。
E「本発明の構造によれば、取付具から成るクリツプは、現在市場で入手しうる同じような取付具と同じ容易さと安価さで作ることができるが、それでもなお、このようにして形成されたクリツプは、個々の取付具のもつれが完全に除去され、さらに、本形式のものでは、このことが、取付具を目的物に取付ける行程において取付具の普通の操作方法と協同するようにとくに設計され、それで取付具が一度目的物に掛り合うと、いかなる場合にも取付け操作と通常関係のある動きを有する他はオペレータに何ら特別の操作を行わせずにクリツプから完全に離すことができるような構成によって達成しうるという、従来得られなかったすぐれた特徴を有している。
実際に、固定部材22を設けたので目的物0に先取付が適当に固定されたか否かを調べることができ、もし固定されていなければ、取付具には動きにたいする十分な抵抗がなく、固定部材22は破れず、先取付具は取付ガン12およびクリツプの残部といつしよに目的物0から引つぱられ、それでオペレータが取付不良に気づく。」(同5頁右欄27行〜6頁左欄3行) そして、最後に、次のように述べて、その発明の詳細な説明を終えている。
F「以上本明細書では、本発明について限られた数の実施例を説明してきたが、特許請求の範囲に記載した本発明の範囲内で他の多くの変型が可能である。」(同6頁左欄15〜18行)(2)以上認定の訂正明細書発明の詳細な説明及び図面の記載をみれば、本件特許請求の範囲の「該拡大部分間に介在してそれらを結合している容易に切断されうる固定部材22を備え、該固定部材は該切断されうる部材より隣接する該拡大部分がねじり力により相互に手操作で分離されうる程充分に弱いこと」の記載に示されている固定部材22は、「拡大部分間に介在してそれらを結合している容易に切断されうる」部材をいい、それが容易に切断されうるために、クリツプの貫通部分2を相互に結合している切断されうる部材8、10より隣接している「拡大部分がねじり力により相互に手操作で分離されうる程充分に弱い」ものであること、すなわち、具体的には、取付装置(取付ガン)を用いて目的物に取付具を取り付ける際の人の手による一連の連続的動作によって生じるねじり力によって拡大部分が容易に分離されうる程度に弱いものであることを要件とするものであり、これに該当する部材であれば、その素材、形状、寸法等につき、特段の限定はないものであることが理解される。
なお、訂正明細書には、上記E、Fの記載の間(同頁4〜14行)に、一層強い材料を用いた固定部材22の例が記載され、これにつき「固定部材22を破り、たとえば、ナイフまたは、はさみでこれを切断して目的物0を前記束から個々に分離することができる」と記載されているが、この「ナイフまたは、はさみでこれを切断して」の例示は、上記本件特許請求の範囲の「拡大部分がねじり力により相互に手操作で分離されうる程充分に弱い」の要件を満たすものかどうか、きわめて疑問であるといわなければならないが、仮にこれを本件発明の実施例としても、上記理解に影響を及ぼさないことは明らかである。
(3)訂正明細書には、上記にように、「固定部材」として、薄い短小フィラメントを用いる例が挙げられているが、一般に「固定部材」との用語は、「固定」が「ひと所に定まって移動しないこと。また、動かないようにすること」(広辞苑第四版)を意味する言葉であるという顕著な事実からして、部材のうちそれ自体が移動しないものという意味と、2個以上の被固定部材を互いに結合して固定するために用いられる部材の意味を持つと認められるところ、この後者の固定部材において、固定のため用いる手段は当該固定部材が用いられる各技術分野において各種のものがあって一義的に定められているものではないことが自ずから明らかであるから、後者の意味で用いられていることが明白な本件発明の「固定部材」は、固定手段として複数の態様を包含するものであり、上記要件を備えているものである限り、上記実施例にのみに限られないことは、上記Fの記載をまたずとも明らかなところである。
上記Dの記載及び図面第6、第7図によれば、実施例1における固定部材を構成する突起部26とフィラメント28は、クリツプとともに一体成形されて形成されたナイロン製(合成樹脂製)のものであるが、これらの部材をクリツプとともに一体成形により形成することは、本件特許請求の範囲に記載された要件ではないから、突起部26とフィラメント28とが一体となった部材をクリツプとは別に製造して、これを各拡大部分間に、例えば合成樹脂接着剤により固着した場合、あるいは、フィラメント28のみを別個の部材として製造して、対向する突起部26間に同様に固着した場合、これをもって、本件発明の固定部材に当たらないとする理由は、本件特許請求の範囲の記載のみならず、本件明細書のいずれの記載からも存在しないことが、明らかである。
ところで、上記Dの記載によれば、実施例1において、対向する突起部間の間隔は僅か0.013センチメートルであり、フィラメント28の長さもこれと等しいとされているのであり、また、この突起部間の間隔をこれよりも狭いものとすることも可能であるから、上記のようにフィラメント28のみを別個の部材として製造して対向する突起部26間に接着剤で固着することに替えて、対向する突起部26間に直接、取付具を拡大部分端部で所定方向の維持するための十分な強さを有する接着剤層を形成できる性能を持つ接着剤を添加し、0.013センチメートルもしくはこれ以下の厚みを持つ接着剤層を形成して、対向する突起部26を互いに結合させた場合、この接着剤層は、2個以上の被固定部材を互いに結合して固定するために用いられる部材に該当し、このような部材を「固定するための部材」すなわち「固定部材」と表現しても、通常使用される技術用語として特に難点があるといえないことは、上述のところからも明らかであるから、この接着剤層が、「拡大部分がねじり力により相互に手操作で分離されうる程充分に弱い」ものであり、したがって、「容易に切断されうる」性質を有していれば、これをもって、本件発明の「拡大部分間に介在してそれらを結合している容易に切断されうる固定部材」に当たらないとする理由は、本件特許請求の範囲の記載のみならず、本件明細書のいずれの記載からも存在しないと認められる。
すなわち、このような構成を持つクリツプは、上記Aの記載に示された本件発明の目的を、上記Bの記載に示された基本的手段により達成し、上記Eの効果を有するものであって、これが、本件発明を実施したクリツプであることは、明らかである。
本件審決が、「通常使用される技術用語として解釈する場合には、接着剤を適用して形成されるような「接着層」は、「固定部材」という概念のものに含まれ得るか否かという点には技術的にも検討を要するものの、」と述べながら、本件発明の「固定部材」の意味する実体を考察して、「接着層は固定部材に包含されることは明かであり、固定部材の一実施態様として機能していることも明瞭であると解するのが相当である」と判断したこと(審決書8頁11項〜9頁11行)は、上記説示に照らし、結局において正当といわなければならない。
(4)甲第5号証によれば、訂正審決において、本件特許請求の範囲の「容易に切断されうる固定部材22」の記載につき、「接着剤によって固定したものを分離する場合に、普通接着剤が切断されると表現しないこと」を理由の一つとして、「容易に切断されうる固定部材(22)に接着剤が含まれないと解するのが相当であると認められる」と述ベている。
しかし、訂正明細書発明の詳細な説明において、この固定部材の「切断」あるいは「容易に切断されうる」に関しては、次のように記載されていることが明らかである。
(a)「本発明のさらに他の目的は、個々の取付具が従来技術の仕方で目的物貫通部分に隣接していつしよに固定されるだけでなく、それらの他端に近接し、好ましくはそれらの拡大部分で容易に砕けやすい仕方でいつしよに固定される。」(甲第3号証2頁右欄37〜41行)(b)「クリツプをねじるようにし、それによつて、取付具をクリツプから完全に分離させる」(同3頁左欄4〜5行)(c)「この拡大部分に隣接して取付具をいつしよに固定する部材は、……容易に砕けやすくしてありそれで、これが所期の目的に使用された場合に、1つの取付具がその拡大部分端でクリツプから分離でき……」(同頁左欄12〜18行)(d)「符号22で示す折れやすい固定部材によつて個々の取付具間に拡大部分4を隣接して固定する。……先取付具の貫通部分がクリツプから分離され目的物と作動的に掛り合うようになると、固定部材22が任意な仕方で破れて……(同4頁左欄31〜37行)(e)「固定部材22がねじり力によって容易に破壊されれば、先取付具は、取付け操作の1部としてクリツプから容易に分離される。」(同頁右欄16〜19行)(f)「この特性を有する固定構成体の1つは、このようにして生ずる引張力すなわち曲げ力に十分耐えうる材料で作られた薄い短小フイラメントである。……このフイラメントは短いので、これがねじられると、きわめて容易に破れる。」(同頁右欄20〜24行)(g)「固定部材22が目的物貫通部分2にたいするネツク10よりも容易に砕けるという点で異なつている。ネツク10は取付装置12の操作によつて切り離されるようになつているが、固定部材22は手で切り離されるようになつている。」(同5頁左欄29〜34行)(h)「もし固定されていなければ、……固定部材22は破れず……」(同頁右欄43行〜6頁左欄1行)(i)「この固定部材22をさらに堅く一体とする取付具とし、目的物0を束に結合することができ、つぎに所望により対応する固定部材22を破り、たとえば、ナイフまたは、はさみでこれを切断して目的物0を前記束から個々に分離することができる。」(同6頁左欄9〜14行) これらの記載から明らかなように、「容易に切断されうる固定部材」の「切断」あるいは「容易に切断されうる」は、発明の詳細な説明において、これを説明するものとして用いられている、「砕けやすい」、「分離」、「折れやすい」、「任意な仕方で破れて」、「容易に破壊されれば」、「容易に破れる」、「容易に砕ける」、「手で切り離される」、「破れ」、「破り」の文言で表現されているところを総称する文言として用いられていることが明らかである。なお、上記(i)の記載中の「ナイフまたは、はさみでこれを切断して」の例示が本件発明の固定部材に該当する例示として適切であるかどうかがきわめて疑問であることは上述のとおりであるが、少なくとも上記(i)の記載は、「切断」との語が、訂正明細書において、「破り」の一態様を示す語として用いられており、「切断」という語を「破り」と区別して用いているものではないことを端的に示しているということができる。
そして、本件発明の固定部材の最適な例であるフィラメントを用いた固定部材を当然に想定して説明している上記(a)〜(c)の記載、また、この固定部材につき具体的に用いられている上記(d)〜(h)の記載は、これを接着剤層による固定部材の説明としての記載としてみても、何ら技術的に不当な点はないことが明らかである。かえって、上記「砕けやすい」以下の文言は、「折れやすい」を除き、
フィラメントを用いた固定部材よりも、むしろ接着剤層を用いた固定部材に適した文言といってよいほどのものである。
したがって、特許請求の範囲に「切断」との用語が用いられていることを理由の一つとして、本件発明の固定部材に接着剤等が含まれないとした訂正審決の判断は、本件発明の実体をみることなく、容易にしたものとのそしりを免れず、この見解は採用することができない。
(5)以上のとおりであるから、原告主張のように訂正明細書自体の記載からして本件の特許請求の範囲の「固定部材」に接着剤等が含まれないことが明らかであると解することはできず、したがって、原明細書の特許請求の範囲の記載をそのままとし、発明の詳細な説明及び図面から接着剤等の記載及び図面を削除したにとどまる本件訂正は、特許請求の範囲減縮に当たらない訂正というほかはなく、特許法126条1項1号の要件に違反するものといわなければならない。
もし、原告が真実、接着剤等を用いる固定部材を備えたクリツプを本件発明のクリツプから除外するために、特許請求の範囲減縮を目的として原明細書の訂正をしようとするならば、特許請求の範囲の記載自体にこれを明示し、あるいは、発明の詳細な説明中において、本件発明における固定部材には接着剤等を用いる固定部材は含まれない旨を明文をもって規定し、訂正明細書に接する当業者に疑義の生じないようにするべきであり、また、これをすることに格別の困難性は認められないのに、これをせず、漫然と上記のような訂正に及んだことは、訂正審判を認めた特許法126条の規定する趣旨に反するものといわなければならない。
けだし、同条が訂正審判制度を設けた趣旨は、明細書の特許請求の範囲の記載が広義に過ぎ、そのままでは公知技術を包含する瑕疵があるとして、特許無効の原因がある等と解されるおそれがある場合、あるいは、明細書又は図面に誤記や明瞭でない記載があって、そのままでは疑義が生じ、紛争の原因となる等のおそれがある場合に、主として特許権者の救済のため、不備な記載を特許権者が自発的に取り除いて、このような瑕疵のない明瞭な記載からなる明細書及び図面とするためであると解するのが相当であり、同条が、特許権者と第三者との利害の調和という理念の下にあることに照らせば、特許権者の請求に係る訂正が、同条1項各号のいずれを目的とするかが一義的に明らかでなく、これらに疑問が生ずるような訂正は、本来これを認めるべきではないからである。
(6)原告は、前示上告審判決の判断を援用して、本件審決の判断を論難する。
しかし、上告審判決の判断は、あくまでも、原判決後にされた訂正審決が本件訂正を特許請求の範囲減縮を目的とするものとして適法と判断したものと解し、この訂正審決が上告審判決の時点で確定状態にあることを前提に、そうである以上、
原判決の基礎となった行政処分は後の行政処分により変更されたものとして、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背があったものとしたものである。
本件訂正無効の審判は、訂正審決で認められた本件訂正が特許法126条1項から3項までの規定に違反しているかどうかをあらためて審理し、違反しているときはこれを無効とする審判手続であって、訂正審決の判断に拘束されるいわれはないから、訂正審決の判断を前提とせざるをえなかった時点での上告審判決の判断に依拠して、本件判決の判断を論難することは、許されない。
また、訂正審決が確定状態にあるときに、特許侵害訴訟等において、本件発明の技術的範囲を確定するに当たっては、本件訂正に至った経緯を考慮にいれて、接着剤等を用いた固定部材が本件発明の固定部材に含まれないと解釈されるであろうことも、上記判断を覆すものではない。
けだし、このように解釈される場合があるのは、一般に、訂正前の明細書の記載からすると当該特許に無効原因を含むような事例において、これを避けるために、
特許権者自らが特許請求の範囲減縮等を目的として訂正審判の請求に及びながら、第三者に対しては減縮ではないと主張するような場合であって、このような事情が明らかにされたときに、特許権者の主張を禁反言の原則から許されないとして、当該特許の技術的範囲を確定する場面であり、侵害訴訟を担当する裁判所が当該訂正の適否、ひいては、当該特許の無効を直接判断することは許されない制度の下での解釈手法にすぎず、訂正審決で認められた本件訂正の適否そのものを判断する本件訂正無効の審判において、これと同じ解釈手法を採用しなければならない理由はないからである。
(7)以上のとおりであるから、本件訂正が特許請求の範囲減縮を目的とする訂正に当たらないとした本件審決の判断は正当であり、原告の主張1は理由がない。
2 原告の主張2について 本件の特許請求の範囲の「容易に切断されうる固定部材」に接着剤等を用いた固定部材が含まれないと解することができないこと、「切断」の語は、発明の詳細な説明において用いられている「砕けやすい」以下の文言で表現されているところを総称する文言として用いられており、また、本件発明の固定部材の最適な例であるフィラメントを用いた固定部材に関して用いられている記載は、これを接着剤層による固定部材の説明に関する記載としてみても、何ら技術的に不当な点はないことは、上述のとおりである。
これを前提に、原明細書(甲第2号証)の記載をみれば、その接着剤等に関する記載及び図面を含め、全体の記載が本件発明の実体を明瞭に示しており、そこに、
明瞭でない記載釈明を特段に必要とする記載はないものと認められる。
したがって、本件訂正は、明瞭でない記載釈明に当たらず、これを特許法126条1項3号の規定により許される明細書及び図面の訂正として適法のものと認める余地はないものというべきである。
これと同旨の本件審決の判断は正当であり、原告の主張2は採用することができない。
3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他本件審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条158条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 牧野利秋
裁判官 山下和明
裁判官 芝田俊文