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関連審決 不服2002-18877
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  発明の要旨認定 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10287号 審決取消請求事件
原告 後藤砕石販売株式会社
訴訟代理人弁理士 廣田浩一
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 藤原伸二,高木進,大橋信彦,井出英一郎,岡田孝博,山田忠夫
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/05/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-18877号事件について平成15年11月4日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。
本件は,原告が,本願発明の特許出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたが,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願発明(甲2) 出願人:後藤砕石販売株式会社(原告) 発明の名称:「透水式水路用建材」 出願番号:特願平11-243947号 出願日:平成11年8月30日 (2) 本件手続 手続補正:平成14年6月26日(甲3) 拒絶査定日:平成14年9月10日 審判請求日:平成14年9月27日(不服2002-18877号) 審決日:平成15年11月4日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成15年11月26日(原告に対し) 2 本願発明の要旨(請求項2以下の記載は省略。以下,平成14年6月26日付け手続補正書(甲3)により補正の加えられた当初明細書(甲2)を「本願明細書」という。)【請求項1】断面が凹形状の水路を形成するために用いられ,骨材と,該骨材を収容し,該骨材の粒径よりも小さな径の網目を有する袋体と,を少なくとも有することを特徴とする透水式水路用建材。 3 審決の要点 (1) 引用刊行物 ア 特開平6-280296号公報(以下「刊行物1」という。本訴甲4) イ 特開平11-147010号公報(以下「刊行物2」という。本訴甲5) (2) 刊行物1に記載された発明 (以下「刊行物1発明」という。) 「断面がV形状の排水溝を形成するために用いられ,合成繊維の素材で構成した透水性の織物,又は,不織布。」 (3) 本願発明と刊行物1記載の発明の対比 本願発明と刊行物1に記載の発明とを対比すると,刊行物1に記載の発明の「V形状」,「排水溝」は,それぞれ,本願発明の「凹形状」,「水路」に相当する。
また,刊行物1に記載の発明の「合成繊維の素材で構成した織物,又は,不織布」も本願発明の「骨材と,該骨材を収容し,該骨材の粒径よりも小さな径の網目を有する袋体」も共に,透水性を有する部材であるから,「透水性部材」といえ,さらに,該織物,又は不織布は,その一側面を法面に接するように配設されており,法面が土である場合には,土中に水を浸透させる水路を形成する部材でもあるから,「透水式水路用建材」といえる。 〈一致点〉 「断面が凹形状の水路を形成するために用いられ,透水性部材を少なくとも有する透水式水路用建材。」 〈相違点〉 「本願発明では,透水性部材が,骨材と,該骨材を収容し,該骨材の粒径よりも小さな径の網目を有する袋体から構成されているのに対して,刊行物1に記載の発明では,透水性部材が,合成繊維の素材で構成した織物,又は,不織布から構成されている点。」 (4) 相違点についての判断 「そこで,上記相違点について検討すると,刊行物2には,断面が凹形状の河川(本願発明の「断面が凹形状の水路」に相当。以下,同様に記載する。)の曲がり箇所42に配置される(一部を「形成する」)ために用いられ,濾材22(「骨材」)と,該濾材(「骨材」)を充填(「収容」)し,該濾材22(「骨材」)の大きさ(「粒径」)よりも小さな大きさ(「径」)の目(「網目」)を有する包装容器10(「袋体」)を少なくとも有する嚢が記載されており,該嚢は,…透水性で,一部の水を地面に吸収させる機能を有しているものと認められるから,水を地面に吸収させるために,刊行物1に記載の発明の透水式水路用建材を構成する透水性部材として,刊行物2に記載の発明の上記構成のものを適用して,上記相違点に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得ることである。 そして,全体として本願発明によりもたらされる効果も,刊行物1及び2に記載の発明から当業者が当然に予測できる程度のものであって顕著なものではない。 したがって,本願発明は,刊行物1及び2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」
原告の主張の要点
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り) (1) 本願明細書の特許請求の範囲請求項1のうち,「断面が凹形状の水路」とは,本願発明に係る透水式水路用建材が,素掘側溝を補強しつつ断面が凹形状の水路を形成するためのものであることに照らすと(本願明細書の段落【0003】,【0034】,図1,2),「山間地に設けた素掘側溝」を意味すると解すべきである。
また,同請求項の「水路を形成する」との文言は,水路の全部を形成することを意味するのか,あるいは水路の一部のみを形成することを意味するのか明確ではなく,透水用水路用建材が,補強フック板やアンカーを用いて宙に浮いた状態で水路を形成することを意味するのかどうかも明らかではない。そこで,本願明細書及び図面の記載(特に図1,2)を参酌すると,本願発明に係る透水式水路用建材は,素掘側溝を覆うようにして当該素掘側溝上に接した状態で配設されて(これにより素掘側溝を補強することができる。),それ自体で水路の全部を形成するものということができる。したがって,本願明細書の特許請求の範囲請求項1にいう「水路を形成する」とは,「水路の全部を透水式水路用建材のみで,かつ素掘側溝上(地面)に接した状態で形成すること」を意味すると解すべきである。
(2) 審決は,刊行物1発明の「排水溝」は,本願発明の「水路」に相当すると認定した。しかしながら,本願発明の「水路」は「山間地に設けた素掘側溝」を意味するのに対し,刊行物1発明の「排水溝」は一方の側面が宙に浮いた状態で補強フック板やアンカーを用いて形成されるものであるから(甲4の図1,2),本願発明の「水路」とは全く異なる。したがって,刊行物1発明の「排水溝」が本願発明における「水路」に相当するとした審決の認定は誤りである。
(3) 本願発明の透水式水路用建材は,素掘側溝を覆うようにして当該素掘側溝上に接した状態で配設され,それ自体で水路の全部を形成するのに対し,刊行物1発明の透過性部材は,その一側面が法面に接するようにして配設され,他方の側面が宙に浮いた状態で補強フック板やアンカーにより配設されて用いられる。このように,本願発明の透水式水路用建材と刊行物1発明の透過性部材は,その用いられ方が相違するのであるから,審決はこの点を相違点と認定すべきであったにもかかわらず,誤って看過したものである。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り) 審決は,当業者であれば,刊行物1及び2に記載された発明に基づき,本願発明を容易に発明できたとするが,誤りである。
審決は,刊行物2記載の発明(以下「刊行物2発明」という。)における「河川」は,本願発明の「断面が凹形状の水路」に相当すると認定した。しかしながら,前記のとおり,本願発明における「断面が凹形状の水路」は「山間地に設けた素掘側溝」を意味するのであるから,「河川」とは全く異なる。
また,刊行物2には,侵食防止のために嚢を河川の曲がり箇所の周囲に積み上げて用いることが単に記載されているにすぎず(段落【0021】),本願発明のように嚢自体を河川の上に河川を覆うように接した状態で配設して用いること,すなわち断面が凹形状の水路の一部ではなく,その全部を嚢のみで形成することが全く記載も示唆もされていない。したがって,刊行物2発明の嚢を刊行物1発明に適用して,本願発明の構成とすることは,当業者に想到し得ないことである。
仮に,刊行物2における嚢を,刊行物1発明の織物又は不織布に代えて適用しても,素掘側溝を覆うようにして当該素掘側溝の上に接した状態で配設され,素掘側溝を補強しつつ,それ自体で断面が凹形状の水路の全部を形成する本願発明に係る「透水式水路用建材」とはならない。
被告の主張の要点
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)に対して (1) 原告は,本願の特許請求の範囲請求項1の「断面が凹形状の水路」とは「山間地に設けた素掘側溝」を意味し,「水路を形成する」とは「水路の全部を透水式水路用建材のみで,かつ素掘側溝上(地面)に接した状態で形成すること」を意味すると主張する。
しかし,この解釈は,特許請求の範囲の記載を離れ,実施例として記載されたものを本願発明とするものであって許されない。出願に係る発明の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らし明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきである。
「水路」とは,「@水の流れるみち。A水を送る通路。送水路。導水路。」(広辞苑第四版など)を意味し,その意味は極めて明確であるから,「透水式水路用建材」,「断面が凹形状の水路」の技術的意義はその字句通りの意味として一義的に明確である。したがって,「断面が凹形状の水路」を「山間地に設けた素掘側溝」,「水路を形成する」を「水路の全部を透水式水路用建材のみで,かつ素掘側溝上(地面)に接した状態で形成すること」と認定すべき特段の事情は存在しない。
(2) 原告は,刊行物1発明の「排水溝」が本願発明の「水路」に相当するとの審決の認定は誤っていると主張する。
しかし,前記のとおり,原告の主張は,「断面が凹形状の水路」の意味を特許請求の範囲の記載から離れて理解するものであり,その前提において誤っている。
「水路」を「@水の流れるみち。A水を送る通路。送水路。導水路。」と理解すれば,本願発明の「水路」は刊行物1発明の「排水溝」に相当するとの審決の認定に誤りはない。
(3) 原告は,本願発明の「透水式水路用建材」と刊行物1発明の「織物又は不織布」とでは用いられ方が全く相違しており,審決は,この相違点を看過したものであると主張する。
しかしながら,本願発明は,断面が凹形状の水路を形成するために用いられる「透水式水路用建材」であって,当該建材の具体的な配置の仕方や用いられ方は,特許請求の範囲に何ら記載されていない。また,「水路を形成する」の意味についての原告の解釈が誤りであることは前記のとおりである。
したがって,相違点の看過をいう原告の主張には理由がない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)に対して (1) 原告は,刊行物2発明の「河川」が本願発明の「断面が凹形状の水路」に相当するとの審決の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,原告の主張は,前記のとおり,特許請求の範囲の記載から離れ,本願発明の「透水式水路用建材」が山間地に設けた素掘側溝を覆うようにして当該素掘側溝上に接した状態で配設されて用いられると理解するものであり,その前提において誤っている。河川は,地表の水が集まって流れる水路を意味し,その断面が通常凹形状であることは周知の事項であるから,審決が刊行物2記載の「河川」が本願発明における「断面が凹形状の水路」に相当するとしたことに誤りはない。
(2) 原告は,審決が,当業者であれば,刊行物1発明及び2に基づき,相違点に係る本願発明の構成は容易に想到し得ると判断したのは誤りであると主張する。
しかしながら,審決は,「骨材と,該骨材の粒径よりも小さな径の網を有する袋体」が,河川の曲がり箇所に用いられる透水性部材として本件特許出願前に公知であったことを示すために,刊行物2を引用したものである。刊行物1発明の透水式水路用建材と刊行物2に記載された袋体とは,ともに水路に用いられ,透水性を有するという点で共通することから,刊行物1発明に同2発明を適用することについて阻害要因もない。そうすると,刊行物1発明の透水式水路用建材に代えて刊行物2記載の袋体を適用し,上記相違点に係る構成とすることは,当業者であれば容易になし得るというべきであり,本願発明について進歩性を否定した審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)について (1) 原告は,本願明細書の特許請求の範囲請求項1の「断面が凹形状の水路」とは「山間地に設けた素掘側溝」を意味し,「水路を形成する」とは「水路の全部を透水式水路用建材のみで,かつ素掘側溝上(地面)に接した状態で形成すること」を意味すると解すべきであると主張する。原告の主張する取消事由は,いずれも同解釈を前提としているので,この点についてまず判断する。
ア 特許出願にかかる発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されると解すべきである(最二小判平成3年3月8日民集45巻3号123頁)。
前記のとおり,本願明細書(甲2,3)の特許請求の範囲の請求項1には,「断面が凹形状の水路を形成するために用いられ,骨材と,該骨材を収容し,該骨材の粒径よりも小さな径の網目を有する袋体と,を少なくとも有することを特徴とする透水式水路用建材。」と記載されている。一般に「水路」とは「水の流れるみち」「水を送る通路」(広辞苑第五版)を意味するところ,請求項1の上記記載によれば,同項の「凹形状水路」は「凹形状をした水の流れるみち」,「水路を形成する」は「水の流れるみちを形作ること」と一義的に明確に理解することができ,これらの文言の意味が曖昧であるとはいえない。
イ これに対し,原告は,本願発明における「断面が凹形状の水路」,「水路を形成する」の意味について,本願明細書及び図面の記載を参酌すべきであると主張する。そこで,本願明細書及び図面の記載を参酌すべき特段の事情があるかどうかをさらに検討する。
原告が参酌すべきと主張する本願明細書の段落【0003】及び【0034】には,以下の記載がある。
「【0003】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は,かかる現状に鑑みてなされたものであり,前記従来における諸問題を解決し,以下の目的を達成することを課題とする。即ち,本発明は,山間地での素掘側溝の補強に特に好適であり,構造が簡単で,量産可能であり,設置性・取扱性に優れ,透水式の水路,排水路等を低コストかつ短時間で容易に施工することができる透水式水路用建材を提供することを目的とする。
【0034】 【発明の効果】 本発明によると,前記従来における諸問題を解決することができ,山間地での素掘側溝の補強に特に好適であり,構造が簡単で,量産可能であり,設置性・取扱性に優れ,透水式の水路,排水路等を低コストかつ短時間で容易に施工することができる透水式水路用建材を提供することができる。」 上記記載によれば,山間地での素掘側溝は,本願発明の「透水式水路用建材」の用途としての一つの好適例として挙げられているにすぎず,また,「発明の詳細な説明」において「断面が凹形状の水路」という文言に通常の用例とは異なる定義が与えられているなどの特段の事情も見当たらない。
また,同様に,原告が参酌すべきと主張する図1及び図2に関し,本願明細書の段落【0026】には,「以下に本発明の透水式水路用建材の実施例につき,図面を参照しながら説明するが,本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。」と記載され,【図面の簡単な説明】【図1】にも「図1は,本発明の透水式水路用建材を用いて形成した透水式水路の一例を示す」と記載されている。図1,2に示された「透水式水路用建材」の配置態様は,あくまで実施例にすぎないというべきであり,これらの図面に基づいて,本願発明の請求項1の「水路を形成する」という文言が「水路の全部を透水式水路用建材のみで,かつ素掘側溝上(地面)に接した状態で形成すること」を意味するということはできない。
そうすると,本願発明の「断面が凹形状の水路」,「水路を形成する」の意味については,その通常の意味に基づいて,上記アのとおり理解すべきであり,本願明細書の記載や図面を参酌して,原告が主張するような解釈をすべき特段の事情は見当たらない。
(2) 以上の判示を前提として,原告の主張する刊行物1発明と本願発明の一致点及び相違点の認定の誤りについて,検討する。
ア 原告は,本願発明の「断面が凹形状の水路」は「山間地に設けた素掘側溝」を意味するのに対し,刊行物1発明の「排水溝」は一方の側面が宙に浮いた状態で補強フック板やアンカーを用いて形成されるものであるから,刊行物1発明の「排水溝」が本願発明の「水路」に相当するとの審決の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,原告が前提とする,本願発明の「断面が凹形状の水路」は「山間地に設けた素掘側溝」を意味するとの主張が採用できないことは,前記判示のとおりである。
刊行物1(甲4)には,「法面小段の法尻に織物,又は,不織布で樋形状に構成した,法面小段排水溝。」(【請求項1】),「側溝の補助や簡易水路としての利用効果が高い。」(段落【0005】),「法面小段排水溝は,不織布シートを図1明示に加工して,法尻に勾配を取りアンカーにて固定する。」(段落【0006】),「法面小段の勾配に関係なく,自在に排水方向を選択でき…。多降雨水の処理にも高い効果を発揮する。又,少降雨水の場合も水流の勾配が取れているため,汚泥の堆積が少ない。」(段落【0010】)と記載されており,また,刊行物1の第1図,第2図には,断面がV形状の法面小段排水溝がその一側面を法面に接するように配設されている状況が記載されている。
これらの記載からすると,織物又は不織物から構成される刊行物1の「排水溝」は,側溝の補助や簡易水路としても利用することができ,V形状の断面内は雨水等の水が流れるみちとなっているものと認められる。したがって,刊行物1発明の「排水溝」は,「凹形状をした水の流れるみち」であるということができ,本願発明の「水路」に相当すると認められる。
イ 原告は,本願発明の透水式水路用建材は,素掘側溝を覆うようにして当該素掘側溝上に接した状態で配設され,それ自体で水路の全部を形成するのに対し,刊行物1発明の透過性部材は,その一側面が法面に接するようにして配設され,他方の側面が宙に浮いた状態で補強フック板やアンカーにより配設されて用いられるのであるから,審決はこの点を相違点と認定すべきであったと主張する。
しかしながら,本願発明の請求項1には,透水式水路用建材の具体的な配置の仕方や用途は記載されておらず,同項にいう「水路を形成する」が「水路の全部を透水式水路用建材のみで,かつ素掘側溝上(地面)に接した状態で形成すること」を意味するとは認められないことは前記判示のとおりである。原告の主張は,請求項1に記載のない事項に基づいて,刊行物1発明との相違点の看過をいうものであり,採用できない。
(3) 以上のとおりであるから,原告の主張する取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り) 原告は,審決が,当業者であれば,刊行物1及び2発明に基づき,相違点に係る本願発明の構成は容易に想到し得ると判断したのは誤りであると主張する。
(1) 原告は,本願発明の「断面が凹形状の水路」は「山間地に設けた素掘側溝」を意味するのであるから,刊行物2発明の「河川」とは異なると主張する。
しかしながら,本願発明の「断面が凹形状の水路」が「山間地に設けた素掘側溝」を意味するとの原告の解釈が採用できないことは,前記判示のとおりである。
「河川」は,「地表の水が集まって流れる水路」(広辞苑第五版)を意味し,その断面は通常凹形状であるということができるから,審決が刊行物2記載の「河川」が本願発明における「断面が凹形状の水路」に相当するとしたことに誤りはない。
(2) 原告は,刊行物1発明の織物又は不織布に代えて,刊行物2発明の水質浄化嚢を適用できるとの審決の判断について,刊行物2には,侵食防止のために嚢を河川の曲がり箇所の周囲に積み上げて用いることが単に記載されているにすぎず,当該嚢自体を河川の上に河川を覆うように接した状態で配設して用いることは記載されていないのであるから,刊行物2発明の嚢を刊行物1発明に適用して,本願発明の構成とすることは当業者に想到し得ないことであると主張する。
しかしながら,本願発明の請求項1の「水路を形成する」が「水路の全部を透水式水路用建材のみで,かつ素掘側溝上(地面)に接した状態で形成すること」を意味するとの原告主張が採用できないことは,前記判示のとおりである。原告の主張は,その前提において失当である。
刊行物2(甲5)記載の水質浄化嚢は,「水質の浄化(環境保全),水際の防護,水流統御,衝突水の衝撃緩和」(段落【0006】)などを目的とし,「水質浄化嚢を浸透したり通過したりするときに水が濾材で水質浄化される」(段落【0010】)ものである。他方,刊行物1記載の織物又は不織布も,水路を形成して水流を制御するとともに,その中を水が透過し「雨水の適度な浸透保水を兼ね浄化する」(段落【0009】)ものである。このように,刊行物1の織物又は不織布及び刊行物2の水質浄化嚢は,いずれも水流制御,保水浸透という機能を同じくするものであり,「河川」において水流制御,保水浸透の機能を発揮する水質浄化嚢であれば,「排水溝」においても同様に利用可能であることは当業者であれば容易に理解できるというべきである。しかも,刊行物2の水質浄化嚢は,「土嚢に準じた変形自在性を有する」(段落【0011】)のであるから,「排水溝」の表面に沿って配置するような態様が可能なことも,当業者ならば容易に理解できることである。したがって,刊行物1発明の織物又は不織布に代えて,刊行物2発明の水質浄化嚢を適用できるとの審決の判断は是認できる。
(3) 原告は,仮に,刊行物1発明の織物又は不織布に代えて,刊行物2発明の水質浄化嚢を適用したとしても,本願発明のように素掘側溝を覆うようにして当該素掘側溝の上に接した状態で配設され,それ自体で断面が凹形状の水路の全部を形成する本願発明に係る「透水式水路用建材」には到達し得ないと主張する。
しかしながら,本願発明の請求項1の「水路を形成する」が「水路の全部を透水式水路用建材のみで,かつ素掘側溝上(地面)に接した状態で形成すること」を意味するとの原告主張が採用できないことは,前記判示のとおりである。
刊行物2の段落【0015】ないし【0021】によれば,刊行物2には,相違点に係る本願発明の構成,すなわち,「骨材と該骨材を収容し,該骨材の粒径よりも小さな径の網目を有する袋体から構成される透水式建材」が開示されていると認めることができる。そして,前記のとおり,刊行物1の織物又は不織布は,断面が凹形状の水路を形成するために用いられるということができる。そうすると,刊行物1発明の織物又は不織布に代えて,刊行物2発明の水質浄化嚢を適用することにより,本願発明の「断面が凹形状の水路を形成するために用いられ,骨材と,該骨材を収容し,該骨材の粒径よりも小さな径の網目を有する袋体と,を少なくとも有することを特徴とする透水式水路用建材」の構成に至ることは明らかである。
(4) 以上のとおりであるから,当業者であれば,刊行物1及び2発明に基づき,相違点に係る本願発明の構成は容易に想到し得るとした審決の判断は是認し得る。
原告の主張する取消事由2は,理由がない。
3 結論 よって,原告の請求は理由がないので,棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文