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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成7オ1988特許権侵害差止等 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  物の発明 /  頒布された刊行物 /  技術的範囲 /  同一の発明 /  パリ条約 /  ライセンス /  抵触 /  商標権 /  消尽 /  特許発明 /  実施 /  交換 /  並行輸入 /  真正商品 /  属地主義 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施料 /  同意 /  実施権 /  変更 /  同盟国 / 
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事件 平成 6年 (ネ) 3272号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1995/03/23
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。
被控訴人の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 控訴人(第一審被告)ら主文1ないし3項と同旨の判決二 被控訴人(第一審原告)「本件各控訴をいずれも棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決
事案の概要
事案の概要は、次に訂正、付加する他は、原判決「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
一 訂正1 原判決四頁九行目の「ヨーロッパ特許出願」を「欧州特許機構(EP)への特許出願」と改める。
2 原判決八頁一〇行目ないし九頁四行目までを次のとおり訂正する。
「6(一)被控訴人は、本件特許発明と同一発明につき次のドイツ連邦共和国特許権(以下「ドイツ連邦共和国特許権」という。)を有する。
発明の名称 自動車の車輪出願日 一九八三年五月二七日指定国 オーストリア、ベルギー、スイス、リヒテンシュタイン、ドイツ連邦共和国、フランス、イギリス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、スウェーデン特許出願番号 第八三一〇五二五九・二号登録年月日 一九八七年四月二二日(二)イ号製品及びロ号製品(いずれについても既に販売済みのもの及び将来販売予定ものを含む。以下「本件各製品」という。)は、いずれも、ドイツ連邦共和国特許権の効力発生後に、その実施品として被控訴人によって製造販売されたものである(以上、(一)、(二)はいずれも争いない事実)。」3 原判決一三頁一〇行目冒頭の「(3)」を「(4)」と改める。
二 付加1 原判決一三頁九行目の次に行を改めて次のとおり付加する。
「(3)我が国は、経済大国として飛び抜けた購買力を有しながら、市場が閉鎖的であることから、根強い内外価格差が存在しているため、特許製品の並行輸入は極めて広範に行われている。特許の塊ともいえる自動車についてみても、年間約二〇万台の輸入車のうち、並行輸入車は約一割近くに達しており、被控訴人の製造するホイールも完成したBMW社製の並行輸入車に取り付けられて輸入されているのであって、本件各製品のようにホイールのみでは輸入できないとすれば、この上もなく不合理であるというべきである。このように、我が国における特許に係る真正品の並行輸入は、商標商品の並行輸入を容認した大阪地裁昭和四五年二月二七日判決(いわゆる「パーカー事件判決」・無体集二巻一号七一頁)以来、大量かつ頻繁に行われてきたもので、このような状態が既に四分の一世紀の間、格別の変動もなく実施されてきた。このことからすると、特許に係る真正品の並行輸入に対しては、
国内特許権を行使しないという慣習が法的確信として成立したものというべきである。」2 原判決二〇頁四行目の次に行を改めて次のとおり付加する。
「(4)被控訴人が本件特許権に基づいて本件各製品の輸入差止め等を求める趣旨は、本件各製品の品質を維持し、もって製品の安全を図るためである。すなわち、
高速走行する自動車に装着されるホイールは、安全性確保のため、厳格な品質管理を必要とする製品である。特に、海外から並行輸入される場合、輸送中の取扱いの乱雑さ等により梱包が破損し、ホイール自体も損傷する場合がある。ホイールは自動車の高速走行中巨大なそして複雑な応力がかかる部分であり、僅かな傷でも予期せぬ大事故につながる可能性が存在する。また、自動車メーカーの仕様の変更等によりホイールの仕様の変更が必要となる場合もある。正規代理店であれば、登録ユーザーにアフターサービスの一貫としてその旨通知したり、在庫品も含めて新仕様に対応するように改良を加えるのが通常である。これは、自動車メーカーやホイールメーカー自身と密接に製品や技術についての情報交換が可能であり、かつ、常にホイールの部品等の在庫を充分に抱えている正規代理店だから可能となるのである。
これに対して、並行輸入業者は、販売したユーザーの把握さえしていないことが多いのであり、品質管理の甘さにより、ユーザーが予期せぬ損害を被る可能性も存在する。」三 証拠(省略)
当裁判所の判断
一 被控訴人が本件特許権及び本件発明と同一の発明についてドイツ連邦共和国特許権を有すること、本件各製品は、ドイツ連邦共和国特許権の効力発生後にドイツ連邦共和国内において被控訴人によって製造販売されたものであること、並びに、
本件各製品が本件特許権の技術的範囲に属すること、の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 控訴人らは、本件各製品についての本件特許権は、被控訴人がドイツ連邦共和国内で本件各製品を適法に拡布したことにより、その効力を失ったから、控訴人らの本件各製品の我が国への輸入及び我が国における販売行為は本件特許権の侵害に当たらない、と主張するので、以下、この点について検討する。
ところで、この争点に関する法律問題は、いわゆる特許権の国際的消尽(「用尽」又は「消耗」とも呼ばれている。)の可否の問題として従来論じられてきた問題であるところ、被控訴人は、国際的消尽は特許独立の原則及び属地主義の原則に反するものであるから、肯定する余地はないと主張するので、まず、この点から検討する。
1 千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約(以下「パリ条約」という。)4条の2が、各国の特許の独立、すなわち、いわゆる特許独立の原則を定めた規定であることはその規定内容に照らして明らかである。すなわち、この特許独立の原則は、特許権の成立、効力、消滅等は全て各国ごとに独立であり、自国の特許権に対して、他国における特許権の変動が何らの影響をも与えるものではないことを規定したものであることは、その規定内容に照らして明らかなところである。したがって、甲国における特許権が同国内における特許製品の適法な拡布によって当該製品について消尽したことにより、同一人が有する甲国における右特許権と同一内容の乙国における特許権も当該製品について当然に消尽するとの理由で特許権が国際的に消尽すると解するならば、かかる見解は特許独立の原則に反することは明らかである。
また、属地主義の原則についてみると、同盟国の国民に対する内国民待遇の原則を規定するパリ条約2条や前記4条の2の規定等に照らすと、我が国の特許法も、
同法の適用及び効力範囲を我が国の領域内に限って認める旨のいわゆる属地主義の原則を採用していることは明らかである。したがって、他国における特許権の消尽による当該製品についての特許権の消滅が当然に同一製品に関する自国特許権の消尽による消滅をもたらすとの理由で特許権が国際的に消尽すると解するならば、かかる見解は属地主義の原則に反することになる。
このような意味での特許権の国際的消尽論は誤りであって、当裁判所の採用するところではない。
しかしながら、特許独立の原則及び属地主義の原則に照らすと、我が国の特許法によって成立した特許権の効力は我が国の特許法の解釈によって決せられるべき問題であるから、我が国で成立した特許権の効力範囲を定めるに当たって、外国で行われた特許製品の適法な拡布の事実を考慮することが許されるか否かの問題は、正に、我が国特許法の解釈問題であり、このことは前記の各原則に沿うものではあっても、何ら、これらに抵触するものでないことは明らかである。そこで、以下に項を改めて、外国における特許製品の適法な拡布の事実を考慮に入れて、我が国における特許権の効力範囲を定めることを特許法が許容しているか否かについて検討する。
2 特許権者は、業として特許発明実施を行う権利を専有する(特許法68条)ところ、同法2条3項は、物の発明についてみると、当該特許に係る物の業としての使用や譲渡は発明の実施に該当する旨規定している(同項一号)。このため、特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者から当該特許に係る製品を適法に譲渡を受けた者が、業として、自らこれを使用し、あるいはこれを第三者に譲渡した場合も、前記条項にいう使用や譲渡、すなわち発明の実施に該当することになり、
特許権者の前記専有権を侵害するかの如き観を呈する。しかしながら、特許権者等から一旦適法に当該特許に係る製品の譲渡を受けた後の業としての使用や譲渡等の行為については、これを前記の実施行為から除外する旨の明文の規定はないが、右使用や譲渡が特許権侵害を構成しないとすることについて、その理論構成には差異こそあるが、特許法の立法当初から当然の前提とされていた結論であり、このような結論を採ることについては全く異論をみないところである。
そして、当裁判所は、右のような場合における業としての使用や譲渡が特許権侵害を構成しない理由としては、特許権者等が当該特許に係る製品を適法に拡布したことにより、当該製品に関する限り、当該特許権は目的を達成して消尽したものと解するのが正当であると考える。そこで、かかる見解を裏付ける実質的な根拠について更に検討すると、特許法は、「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする。」(1条)とし、発明の保護及び利用を図ることを通じて、産業の発達に寄与することを目的とする旨定めていることから、発明者の利益の保護と産業の発達という社会公共の利益の保護との適切な調和を念頭においていることは明らかである。この両者の利益の調和について、前記のように、特許権者等による特許に係る製品の適法な拡布があった場合についてみると、特許権の効力が適法な拡布の後にまで当該特許に係る製品について及ぶとすると、当該製品の移転にはその都度特許権者等の同意を要することになり、かかる事態は、取引の安全を害することはなはだしく、特許に係る製品の流通を妨げ、ひいては、産業の発達を著しく阻害することは明白である。
このように特許権の効力が適法な拡布の後にまで及ぶとすることは、特許権を過度に偏重するものであって、産業の発達を通して実現されるべき社会公共の利益の保護との適切な調和を欠くというべきである。ところで、特許権者等が特許に係る製品を拡布する際には、当該製品価格を、特段の法的規制がない限り、その自由な意思に基づいて決定することができ、したがって、特許権者等は、右拡布の際に、当該発明を公開した代償も合わせて製品価格に含めることが可能となり、拡布後の製品の流通過程において、特許権者に二重の利得の機会を認めるべき合理的な根拠は存しない。そこで、以上のような特許に係る製品の価格決定過程を踏まえ、特許権者等の利益と産業の発展という社会公共の利益の調和という観点からみた場合、特許権者等には、特許に係る製品を拡布する際に、発明公開の代償を確保する機会が保障されている以上、その保護は右機会の保障をもって足りるものとすることが、
両者の利益保護の調和点として最も合理的であるとの判断に基づくものと解され、
この点にこそ前記の特許権の国内消尽論の実質的な根拠が見いだされるものである。
3 そこで、進んで、外国において特許権を有する者ないしはその許諾を得て実施する者が製造販売した右特許に係る製品が当該国において適法に拡布された後、第三者が当該製品を我が国に業として輸入する場合(いわゆる真正品の並行輸入の場合)にも、右輸入及び輸入品の販売行為が前記特許権者が我が国において有する同一発明に関する特許権の侵害に当たるとみるべきか否か、すなわち、当該特許製品についての我が国の特許権の効力を判断するに当り、当該製品についての国外における同一特許権者等による適法な拡布の事実を考慮すべきか否かについて検討する。
かかる国外における事実を考慮して我が国における特許権の効力を判断することが、特許独立の原則や属地主義の原則に何ら反するものでないことは前に説示したとおりであるし、既に特許法29条1項3号においては、国外において生じた事実(特許出願に係る発明が出願前に外国において頒布された刊行物に記載されている事実)を特許権の成立に関する法律要件(特許障害要件)の一つとして取り入れているところでもある。そこで、右の場合においても、前項に述べたような、特許権者の保護と産業の発展という社会公共の利益の保護との調和点を図るべき実質的な考慮事由が存在するか否かを検討してみると、特許権者は、国外においてではあっても、拡布の際に、発明公開の代償を含めて特許に係る製品価格を自由な意思に基づいて決定することができる場合においては、発明公開の代償を確保する機会が保障されているということができるから、前記の国内における消尽の場合とその利益状況は何ら異なるところはない。すなわち、特許権者等による発明公開の代償の確保の機会を一回に限り保障し、この点において産業の発展との調和を図るという前記の国内消尽論の基盤をなす実質的な観点からみる限り、拡布が国内であるか国外であるかによって格別の差異はなく、単に国境を越えたとの一事をもって、発明公開の代償を確保する機会を再度付与しなければならないという合理的な根拠を見いだすことはできないというべきである。そして、このことは、我が国の経済取引において、取引の国際化が極めて広範囲、かつ、高度に進展しつつあるとの公知の現代の国際経済取引の実情を踏まえると、より一層の強い妥当性を有することは明らかなところである。
付言すると、特許権の国際的消尽を認めないことが特許法の立法当時における我が国の社会共通の認識であったとする証拠は存しないのみならず、裁判所が紛争解決の前提として明文の規定を欠く事項について特許法の解釈適用をするに当たっては、特許法の目的、関連規定等を検討し、我が国における経済取引の実情を踏まえて適切妥当な紛争解決を図る解釈適用を目指すべきであって、社会的経済的諸条件の変動を無視した、立法当初の社会共通の認識なるものに固定された解釈適用が妥当性を有するとはいえない。
また、外国において商標登録をしている商標権者が、我が国においても同一商標につき商標登録を受けている場合における真正商品並行輸入については、商標の機能の保護を重視し、商標機能が実質的に害されないことを理由に、商標権侵害に当たらないとする考えは、基本的に容認されているところであるが、特許権の効力について国外における同一権利者等による適法な拡布の事実を考慮しないと、当該商品の全部又は一部が特許権の保護対象となっている場合には、実質的に商標商品の並行輸入を禁止するのと同一の結果を招来する。
もとより、特許権と商標権は、知的財産権としての機能、保護対象、権利期間等を共通とするものではないが、知的財産権者の保護の要請と社会公共の利益の保護、特に商品の市場における自由な流通を保障して産業の発達を図ることの要請との調和という観点からみた場合、商標商品の並行輸入を認め、特許製品の並行輸入を否定すべき理由はない。
なお、前述したところからも明らかなように、特許権者等による発明公開の代償確保の機会が、価格規制、強制実施等によって法的に制約されている場合には、当該製品についての特許権の消尽を肯定する前述したような実質的な根拠が失われるおそれがあるから、かかる場合を一律に論じ得ないことはもとより当然のことというべきである。
そこで、これを本件についてみると、被控訴人は、本件発明と同一発明につきドイツ連邦共和国特許権を有すること、及び、ドイツ連邦共和国内において本件各製品を適法に拡布した事実はいずれも当事者間に争いがなく、この事実によれば、被控訴人に発明公開の代償を確保する機会が既に一回保障されていたことは明らかである以上、拡布の際に、右代償確保の機会を法的に制約されていたとの事実を認めるに足りる証拠のない本件においては、ドイツ連邦共和国内における適法な右拡布の事実によって、本件特許権は本件各製品に関して消尽したものと解するのが相当というべきである。
4 被控訴人は、国際的消尽説はパリ条約4条の2及び属地主義の原則から認めることはできないと主張するが、ここでいう国際的消尽説とは、甲国において、特許権が当該特許に係る製品の適法な拡布により消尽したが故に乙国においても同一発明に係る特許権が同一製品について消尽するとの理論をいうものであることは被控訴人の主張に照らして明らかなところ、このような意味での国際的消尽説を当裁判所が採用しないことは既に1において説示したとおりであるから、この点に関する被控訴人の主張は前提を欠くものであって、採用できない。
また、被控訴人は、実施料は国内市場を基準として決定されているから、国外に輸出することまで右実施料には含まれておらず、国際的消尽を認めると特許権者に予期せぬ不利益をもたらすと主張する。そこでこの点を検討すると、右主張は、まず、特許権の国際的消尽は一切認められないとの前提に立つものであるが、かかる前提自体に誤りがあることは既に説示したところから明らかであるし、右主張にいう実施料なる概念自体必ずしも明確ではないが、本件各製品に限ってみた場合、被控訴人が本件各製品の並行輸入によっていかなる予期せぬ不利益を受けたのかを認めるに足りる何らの証拠もないから、この点に関する被控訴人の主張も採用できない。
次に、被控訴人は、特許に係る真正品の並行輸入を容認することは、ライセンスの動機付けを弱め、市場の特性に応じた多様な技術の出現を阻害し、最終的には、
大企業による世界市場の独占を招来すると主張する。そこで、この点を検討すると、確かに、並行輸入の容認がライセンスの動機付けを弱める側面を有することは被控訴人の指摘するとおりであろう。しかしながら、ライセンスを得て特許発明の技術の導入を図るか否かの問題は、より基本的には、当該特許発明の技術的価値、
競争関係にある技術の開発状況、代替製品の存否、導入した場合の生産コスト等の諸条件を考慮して決定される問題であるのに対し、特許に係る真正品の並行輸入は、外国において一旦適法に拡布された後の特許に係る製品の輸入である以上、その数量及び価格にも自ずと一定の限界があることは明らかであることを考慮すると、特許に係る真正品の並行輸入の容認が、ライセンスの動機付けを弱め、多様な技術の出現の阻害する主要な要因をなすとは到底認め難い。のみならず、我が国において、現在に至るまで、長年にわたって特許に係る真正品の並行輸入は相当広範囲の品目につき、相当量実施されてきたことは公知の事実であるところ、本件全証拠を精査しても、かかる並行輸入の事実が、我が国への技術導入の障害となり、我が国における多様な技術の出現を妨げたとの事実を認めるに足りる何らの証拠もない。この点に関する被控訴人の主張は、具体的な裏付けを欠く抽象的な見解に依拠するものであって、採用することができない。
さらに、被控訴人は、特許に係る真正品の並行輸入を容認しては、特許製品の品質の保持は困難であり、ひいては消費者に不測の損害を与えるおそれがあると主張する。しかしながら、このような問題は、本来的に営業者の信用に関する問題であって、技術的思想の保護を目的とする特許権の効力の問題とはおよそ次元の異なる問題であることは明らかであるから、右主張はそれ自体失当であるといわざるを得ない。
なお、特許に係る製品の並行輸入を容認するか否かに関する世界各国の法的な対応が国により、また、地域によって異なり、一致していないこと、特許権を含む知的財産権の分野においては、国際的調和の観点から統一的な法制度の確立を目指しての国際的合意ないし条約の採択等が行われていることは、当裁判所にとって顕著な事実であるが、各国の置かれた経済的状況はそれぞれの歴史的、経済的環境や技術力等の差に応じて様々に異なるのであって、世界の各国における並行輸入に対する法的な対応が一致せず、またこの点に関する国際的合意が成立していないからといって、我が国の特許法において、前記の真正品の並行輸入が特許権侵害に当たらないとする解釈が左右されるものではないというべきである。
5 以上の次第であるから、本件各製品に関する本件特許権は、被控訴人が本件各製品をドイツ連邦共和国において適法に拡布したことによって、消尽したものと解するのが相当であるから、被控訴人の控訴人両名に対する本件特許権に基づく差止請求権及び損害賠償請求権はいずれも存在しないというべきである。
三 よって、本訴請求はいずれも理由がないからこれを失当として棄却すべきところ、これと異なる原判決は相当ではないから、民事訴訟法386条によりこれを取り消すこととし、訴訟費用の負担及び附加期間の定めについて同法96条89条158条2項を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 竹田稔
裁判官 関野杜滋子
裁判官 田中信義
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