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審判番号(事件番号) データベース 権利
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判例 特許
平成8ワ6677 判例 特許
平成19行ケ10017審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 使用方法 /  化学構造 /  実施料相当額 /  薬事法 /  農薬取締法 /  後発医薬品 /  存続期間 /  延長登録 /  製造承認 /  信義則 /  特許発明 /  実施 /  業として /  侵害 /  実施料 /  特許権者の許諾 /  対価 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  相当期間 /  期間の延長 / 
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事件 平成 9年 (ネ) 3498号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1998/03/31
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 本件控訴を棄却する。
二 控訴人の当審における請求を棄却する。
三 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 控訴人1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、平成一〇年一〇月二八日までは、原判決別紙目録(一)記載の物質を製造し、輸入し又は使用してはならない。
3 被控訴人は、前項記載の物質を廃棄せよ。
4 被控訴人は、平成一〇年一〇月二八日までは、原判決別紙目録(二)記載の医薬品を製造し又は販売してはならない。
5 被控訴人は、前項記載の医薬品を廃棄せよ。
6 被控訴人は、第4項記載の医薬品についてなされた原判決別紙目録(三)記載の医薬品製造承認について、厚生省薬務局長に対し承認整理届を提出せよ。
7 被控訴人は、控訴人に対し、金一六〇万円を支払え。(控訴人は、原審における損害賠償請求のうち、主位的に被控訴人の平成八年七月から九月までの期間の製造販売を理由とする一五〇万円の請求を、被控訴人の本件各特許権の満了後平成九年一一月末日までの期間の販売を理由とする三七四万円の内金一五〇万円の請求に変更し、無形損害を理由とする予備的請求及び遅延損害金の請求は減縮した。)8 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決及び仮執行宣言二 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
事案の概要は、次の一項のとおり訂正し、二項において当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決の事実及び理由「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の訂正1 二六頁二行目の「の製造により」から同頁三行目末尾までを「を製造したが、
右の実施料相当額は、少なくとも一〇万六〇八七円である。控訴人は、その内金一〇万円を請求する。」と改める。
2 二六頁九行目の「平成八年」から二七頁二行目末尾までを「本件各特許権の満了後、平成九年一一月末日までの間に、塩酸プロカテロールを有効成分とする気管支拡張剤(シロップは除く。)を合計三七四〇万円販売し、少なくともその一割の三七四万円の利益を得た。
控訴人は、その内金一五〇万円を請求する。」と改める。
二 当審における控訴人の主張1 争点1について(一) 原判決は、特許権の存続期間中に被控訴人のした医薬品の製造承認申請のための試験を、特許法69条1項に規定する「試験又は研究」に該当するとした。
しかし、右解釈は、東京地方裁判所昭和六二年三月二五日判決(判例時報一二四六号一二八頁)が、特許法69条の「規定の趣旨は、試験又は研究は本来技術を次の段階に進歩せしめることを目的としたものであって、特許に係る物の生産、譲渡等を目的としたものではないから、特許権の効力をこのような試験、研究にまで及ぼしめることは、かえって技術の進歩を阻害するということであって、同条の右立法趣旨からすれば、本件のような農薬の販売に必要な農薬登録を得るための試験は、
技術の進歩を目的とするものではなく、専ら被告除草剤の販売を目的とするものであるから特許法69条にいう「試験又は研究」に当たらない」と判示しているのを始めとする従来の裁判例の流れや通説的な学説にも反する結論である。
そして、被控訴人の右行為は、まさに技術の進歩を目的とするものではなく、専ら被控訴人のゾロ品の販売を目的とするものであるから、同条の「試験又は研究」には当たらないのである。
(二) 特許権者は、排他的独占権としての「業として特許発明実施する権利」を専有している。したがって、特許権の効力が制限されるのは、ごく例外的な場合でなければならない。
原判決は、被控訴人の右行為に特許権の効力が及ばないとした理由付けの中で、
被控訴人が「控訴人と直接競業していない」とか「直接収益を得ていない」というような被控訴人側に関する点をあげるが、これは誤りである。特許権者は事業に関連のあるもの全てについての利益を確保できるのであるから、間接の競業、間接の収益であっても、第三者がこれを得ることが許されるものではない。
さらにいえば、被控訴人側に関する点ではなく被控訴人の行為によって排他的独占権を有する特許権者が不利益を被るかどうか、
その不利益を強要してもやむを得ないかどうかを視点にすえなければならない。なぜなら、特許権の効力を制限することが許されるか否かということは、特許権者がどのような立場の変化を強要された場合にその不利益を受忍すべきかという問題だからである。
(三) 原判決は、特許期間が満了すれば何人も発明を実施できることとなり、それが特許制度の根幹の一つであるという。
しかし、特許権者は、その特許期間満了までは出願当初から実質的に排他的独占権を有することによって、経済的な利益を得られることが制度としての前提となっている。ところが、本件のような医薬品の場合には、特許出願をしても最初の数年間はかかる利益を受け得ない立場に立たされるから、その意味では、他の特許権とは異なる少な目の経済的利益、市場利益しか得られない宿命にある。もし、この状態が薬事法上の制限であってやむを得ないというのであれば、薬事法が特許期間中のゾロ品の製造承認申請のための試験を本来的に容認しているということはあり得ないから、後発者にも違法行為を奨励してはならないのである。
(四)医薬品の製造承認は、それを他の事業者に譲渡等することもでき、重要な財産的価値を有するものであるから、承認申請のために少ない侵害品が製造使用されたとしても、承認をしかるべき価額で直ちに譲渡できる結果を招来するものである。また、医薬品の価額は、健康保険制度においては、「薬価」が定められており、後発品(これは先発品に比較してはるかに安い。)が出るとたちまちに下げられ、これは直ちに製薬会社の利益に影響する。このように、特許期間中に本件行為が行われると、先発者の収益(そして開発投資費用の回収)に直ちに重大な影響が出る。これに対し、後発者は、発売が遅れることによって損失が発生するということもない。両者の利益の考量はかかる視点でもとらえられるべきである。
2 争点2について 控訴人は、特許権が所有権的側面を有しており、物権的請求権が認められていることから、所有権に基づく物権的請求権の制度を、本件のような利益状況の下における特許侵害の場合に類推適用することを求めているのである。
仮に特許権存続期間満了後も若干の期間製造販売を禁止することについて現行法に明文の規定がないというのであれば、信義則の有する「法修正的機能」や「法創造的機能」を利用して、裁判所の公正・妥当な判断が下されるべきである。
証拠(省略)
当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の本訴請求は、当審における請求も含めて理由がないと判断するところ、その理由は、次のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由「第三 当裁判所の判断」と同じであるから、これを引用する(ただし、三六頁三行目の「分量、」の次に「構造、」を「用量、」の次に「使用方法、」を加える。)。
(当審における控訴人の主張に対する判断)一 控訴人の前記第二、二1(一)の主張は、特許法69条1項にいう「試験又は研究」は、技術を次の段階に進歩せしめることを目的とするものに限られると主張する趣旨と理解される。しかし、同条項の文言上、「試験又は研究」については、
控訴人の主張するような留保は付されていないのであって、試験又は研究に藉口して、実際には特許権者又は特許権者の許諾を受けた者の実施行為と直接競業することになる行為や、譲渡の対価、使用による便益の対価及び製造物の蓄積・保存等の直接の利益を目的とする行為の如く、実際には試験又は研究ではない行為が同条項の「試験又は研究」に該当しないことは当然としても、同条項を控訴人主張のように限定的に解釈する理由はない。右にいう「試験又は研究」には、公益目的に資する「試験又は研究」に加え、薬事法の規定に基づく医薬品の製造承認申請のための試験をも含むことは、前述(本判決において引用する原判決三四頁四行ないし四二頁一行のとおりである。
この点について、甲第一六号証(A作成の鑑定書)には、医薬品の製造承認申請のために行われる生物学的同等性試験は、申請対象の医薬品を患者に投与するのではなく、健康な人間に投与し既存の医薬品と比較して有効成分の血中濃度を測定する試験であるから、患者を対象とした臨床試験とは異なり、既存の医薬品の特許性を支える薬効自体の改良につながるような資料は得られず、服用しやすい剤型の工夫などマイナーな改良の端緒となる資料が得られる可能性はあるが、かかる程度では、特許権者の利益を犠牲にしてまで適法とすべきと評価されるような改良につながるものではなく、機能性調査としても、有効成分の血中濃度を測定するだけであり、販売のための製造承認を得ることが主たる目的であることを考え併せれば、特許法69条1項により特許権の効力の範囲外とするに値するものではないとの見解が記載されている。しかし、同条項の「試験又は研究」が、医薬品の薬効等その技術の改良を目的とするものに限られるものではないことは、前示のとおりである。
また、生物学的同等性試験は、後発品である医薬品について、化学構造式においては新医薬品として承認を与えられた医薬品(又はそれに準ずる医薬品)と同じであることを前提として、生物学的に同等であることを証明するために薬事法及び同法施行規則によって要求されているものであるが、同法及び同法施行規則がこのような試験の実施を要求するのは、後発品である医薬品が、新医薬品として承認を与えられた医薬品(又はそれに準ずる医薬品)と有効成分、投与経路、効能効果、用法用量、剤型、含量が同じであるのに、何らかの未知の要因ないし副材料の出所や製法等の相違による影響等により生物学的には同等でない場合があることから、医薬品としての有効性、安全性を確保するために、そのような場合であるか否かを明らかにする必要があることによると解される(そうでなければ、生物学的同等性試験を要求する必要はない。)。そうすると、生物学的同等性試験によって、後発品である医薬品が同等であるか否かが判明することもやはり技術的進歩ということができるのであって、右試験は、後発医薬品製造承認のために行われる規格及び試験方法に関する資料、並びに加速試験に関する資料を得るための各種試験と相俟って、先発医薬品の研究開発とは程度の差はあるものの、技術的進歩の面でも社会一般の利益と結びついているということができる。したがって、これを特許法69条1項により特許権の効力の範囲外とするに値しないということはできないから、これと異なる前記見解は採用できない。
さらに、甲第一六号証には、特許法に存続期間の延長登録制度が導入された際に、アメリカでは製造の許可を得るための試験は侵害を構成しないとする規定と特許期間中には製造承認申請を行えないとする規定が新設されたのに、日本特許法では何ら措置は講じられなかったのは、当時農薬取締法に基づく農薬登録を得る目的でなされた試験について、技術の進歩を目的とするものでなく専ら販売を目的とするものである場合には、特許法69条1項にいう「試験又は研究」のための実施に当たらないとの一般論を明確に打ち出した前掲東京地方裁判所判決があり、右判決が学説の多くの賛同を得ていたから、この判決及び学説を前提としたことによると解すべきであるとの見解が記載されている。しかしながら、同条項の「試験又は研究」には、文言上何らの留保も付されていないのであるから、製造の承認を得るための「試験」を除くとする趣旨であるならば、法改正の際にこれを文言上も明らかにするのが自然である。まして、右東京地方裁判所判決は、専ら除草剤の販売を目的とする農薬登録を得るための薬効等の試験に関する地方裁判所段階のわずか一件の裁判例であり、これが確立した判例であったということは到底できないから、右裁判例の判示した一般論に従う趣旨であるのに文言上これを明らかにする措置が採られなかったとは解しがたい。したがって、右見解も採用できない。
二 控訴人は、特許権者は、排他的独占権としての「業として特許発明実施する権利」を専有しているから、特許権の効力が制限されるのは、ごく例外的な場合でなければならないと主張する。しかし、特許権は特許法によって認められたものであるから、その権利は同法によって産業政策上の見地等から制限されることがあるのは当然であって、それがごく例外的なものに限られなければならない理由はない。
また、控訴人は、薬事法に基づきいわゆる後発品の製造承認の申請に添付する目的でされた試験が特許法69条1項の「試験又は研究」に該当するか否かの判断に当たり、被控訴人が右試験のために甲発明及び乙発明を実施したことによって直接収益を得たわけでもなく、控訴人と直接競業したものでもないことを考慮することは誤りであると主張する。しかし、被控訴人の右実施は、後発品を市場において販売したり、特許権者である控訴人の営む事業と競合してこれを妨げたものでもないから、これによって直接収益も得ていないし、控訴人と直接競業したわけでもない。したがって、特許権者の特許期間中における経済的利益の独占に影響を与えていないのであるから、特許権者の利益と第三者ないしは社会一般の利益との調整を図るという観点から考量するに当たり、そのことを考慮するべきは当然である。
三 控訴人の前記第二、二1(三)の主張は、本件のような医薬品の場合には、薬事法による製造承認のための審査により、特許出願をしても最初の数年間は業としての製造が許されないため、他の特許権とは異なる少な目の経済的利益、市場利益しか得られない宿命にあることが考慮されるべきであると主張する趣旨と理解される。しかし、薬事法による製造承認の審査は、医薬品の有効性や安全性の確保を目的とするものであって、特許法とは別の目的による別の制度による制約であるから、右審査があることを特許法の解釈に反映させなければならないものではない。
そうでないと、薬事法による規制如何によって(例えば、右審査制度の変更によって)、これとは別の目的のもとに設けられた法律である特許法の解釈が変更される結果を招来することになるが、このような法解釈を正当であると認めることはできない。のみならず、特許法は、いわゆる医薬特許について、薬事法という別の目的、制度からする法規制があることによって、特許発明実施相当期間妨げられることになることを考慮し、薬事法14条1項等に規定する医薬品の製造、輸入の承認をもって、特許権存続期間の延長登録の要件となる処分と定めている(同法67条一、二項、同法施行令1条の3の2号)のであって、いわゆる医薬特許について、控訴人の主張するような事情の存することは、特許権存続期間中になされた後発品の医薬品製造承認を得るために必要な試験をもって特許権侵害に該当すると解すべき理由となるものではない(多額の研究開発費を要する医薬特許の保護の見地から、現行規定で足りるかどうかは、立法政策の問題であって、現行法の解釈問題ではない。)。
四 控訴人は、後発品が出ると先発者の収益に影響が出るのに対し、後発者は、発売が遅れることによって損失が発生するということもなく、得た医薬品の製造承認は財産的価値を有するから、かかる視点でも両者の利益考量をすべきであると主張する。しかし、控訴人の主張する先発者の収益への影響とは、特許権の存続期間経過後の収益をいうものと解されるところ、特許権の存続期間経過後は何人も特許されていた発明を実施することができるのであるから、これにより右収益に影響が出ることは制度上やむを得ないというべきである。これに対して、特許権の存続期間経過後の実施を妨げるとすれば、第三者ないし社会一般に損失がないということはできない。したがって、控訴人主張の事情を考慮したとしても、被控訴人が本件各特許権の存続期間中に行った製造承認申請に添付するための試験が、特許法69条1項に規定する「試験又は研究」に当たるとの前記判断を左右するものではない。
結論
よって、原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから棄却し、控訴人の当審における請求を棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法67条
61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 竹田稔
裁判官 持本健司
裁判官 裁判官
裁判官 山田知司
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