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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成11ネ3208補償金請求控訴事件 判例 特許
平成14ワ20521特許権持分移転登録手続等請求事件 判例 特許
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平成14ワ16635「窒素磁石」に係る発明の対価請求事件 判例 特許
平成16受781補償金請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  業務範囲 /  相当の対価(相当な対価) /  協議 /  技術的思想 /  有用性 /  発明の利用 /  時効 /  ライセンス /  援用権(援用) /  存続期間 /  特許料(維持年金) /  実施 /  侵害 /  実施料 /  実施許諾(実施の許諾) /  対価 /  クロスライセンス /  請求の範囲 /  変更 /  要旨変更 / 
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事件 平成 7年 (ワ) 3841号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1999/04/16
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、原告に対し、金二二八万九〇〇〇円及びこれに対する平成七年三月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、これを五〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は、原告に対し、金二億円及びこれに対する平成七年三月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、被告の研究開発部に勤務中にした、いわゆる職務発明について被告に特許を受ける権利承継させた原告が、特許法(以下単に「法」という。)35条3項に基づき、その相当の対価(内金)の支払を被告に対して求めた事案である。
一 前提となる事実(証拠を示した事実以外は、当事者間に争いがない。)1 当事者 原告は、昭和四四年五月に被告に入社し、昭和四八年ころから五三年まで被告の研究開発部に在籍し、ビデオディスク装置の研究開発に従事した。なお、原告は、
平成六年一一月末日、被告を退職した。
被告は、顕微鏡、写真機、精密測定器、その他光学機械の製造販売を主たる業務とする会社である。
2 本件発明 原告は、ビデオディスク装置の研究開発部に在籍していた昭和五二年に、発明の名称を「ピックアップ装置」とする別紙特許目録3記載の発明(以下「本件発明」といい、発明に係る特許を「本件特許」という。)をした。本件発明は、被告の業務範囲に属し、かつ、原告の職務に属するいわゆる職務発明であった。本件特許に係る特許請求の範囲は、別紙特許公報一のとおりである。
被告は、その「発明考案取扱規定」(以下「被告規定」という場合がある。)に基づき、本件発明について特許を受ける権利を原告から承継し、これについて特許出願をして特許権を取得した。
3 被告規定に基づく補償金の給付(一) 原告は、本件発明に関して、被告から、被告規定に基づき、次のとおり補償金、報償金合計二一万一〇〇〇円の支払を受けた。
(1) 出願補償 昭和五三年一月五日 三〇〇〇円(2) 登録補償 平成元年三月一四日 八〇〇〇円(3) 工業所有権収入取得時報償 平成四年一〇月一日 二〇万円(二) 被告規定は数度の改訂を経ているが、被告規定のうち右各支払時における根拠となる定めの内容は、次のとおりである(乙二ないし四)。
(1) 出願補償 昭和五〇年八月改正規定(2) 登録補償 昭和六三年九月三〇日改正規定(3) 工業所有権収入取得時報償 平成二年九月二九日改正規定 被告が、工業所有権収入を第三者から分割して受領した場合、受領開始日より二年間を対象として、一回限りの報償をすることとされ、また、報償金額の限度額は一〇〇万円とされていた。
二 争点1 相当対価の額はいくらか。
(原告の主張)(一) 本件発明の意義・有用性 本件発明は、別紙特許目録記載の特許1「光学的情報読取装置における情報検出ヘッド」と特許2「光学的情報読取装置における情報検出ヘッドの支持機構」に係る各発明(以下、両者を併せて発明者の氏名により「諸隈発明」といい、両者に係る特許を併せて「諸隈特許」という。)と相まって、コンパクトディスクプレーヤーの中核をなす必要不可欠の装置に係るものである。諸隈特許の各特許請求の範囲は、別紙特許公報二、三のとおりである。
本件発明は、光学的に情報を記録したディスク、主としてビデオディスクプレーヤーのピックアップの改良に関するものである。従来は、トラッキングを行うためにガルバノミラーを相当の高速度で動かしたので、大きな力が必要なため装置の機構は大掛かりとなり消費電力も大きかったが、本件発明により、この欠点を解決して小型軽量のピックアップ装置を設置することが可能になった。諸隈発明によっては、小型化は到底不可能であった。小型コンパクトディスクプレーヤーには、必ず本件発明が採用されている。
諸隈発明の実施には、基本的に二次元方向にレンズを駆動するために二組の磁界発生器が必要であるが、本件発明では、基本的に磁界発生器を一組使用すればよいから、ピックアップ装置全体としての重量や大さきの低減、部品点数の削減が実現できる。
また、諸隈発明の実施例においては、レンズに対して隔離して固定された第一、
第二コイルによってレンズが駆動されており、駆動源であるコイルと駆動対象であるレンズとの間に、ある距離を設けざるを得ない。この距離を設けたことにより妨害成分が誘導又は増大して、装置の精度は著しく劣化する。これに対し、本件発明を実施すれば、レンズに一体となって固定された第一、第二コイルによってレンズが駆動されており、ほぼ一点において二次元両方向に駆動できるため、この駆動源をレンズに接近して設けることができ、前記妨害成分の増大を大幅に減じることができるため、本件発明を実施した装置は、高精度なものとなる。
なお、本件特許に無効事由はない。
(二) 第三者の本件発明についての実施状況 ソニー、アイワ、ケンウッド、シャープ、ビクター、三洋電機、松下電器産業、
パイオニア、日立製作所各社の製品において、諸隈発明及び本件発明が実施されている。
松下電器産業、パイオニア、日立製作所の製品に使用されている光ピックアップには、マグネットから出てトラッキングコイルのレンズ光軸に対して平行に延びている部分と、レンズ光軸に対して垂直な面内において水平方向に延びているフォーカシングコイルの一部分とを貫通し、マグネットに対面するヨーク部ないしその近傍に達する磁束成分があり、この磁束成分は本件発明における「共通の磁束」に、
磁束成分に貫かれる各コイル部分は「交差部」に、それぞれ該当する。右各コイル部分の一方はレンズ光軸に対して平行に、他方はレンズ光軸に対して垂直な面内に、それぞれ配置されているから、両者はほぼ直交する。したがって、松下電器産業、パイオニア、日立製作所の製品が本件発明を実施していることは明らかである。
なお、現実には実施料支払を拒否されていても、「使用者の受けるべき利益の額」とは、ある程度の客観性と推測可能な範囲の想定利益額であると解すべきである。
(三) 被告の貢献度 被告の貢献度は、以下の事情を考慮すると六〇パーセントを超えない。
原告の作成した提案書に本件発明の技術思想の主要部分が記されていないとしても、原告は、本件発明について、補足的説明を実施している。すなわち、原告の所属していた被告の研究開発部では、発明とは発明者が装置の技術的思想を伝える行為と考えられていた。特許部はその思想を的確に把握して有効に権利化するのが職務であった。この技術的思想を伝える行為として、発明者は提案書を作成することを義務づけられていたが、これのみならず、特許部からは、提案書の内容だけでは有効権利化が困難ということで、さらに詳しい説明を求められるのが常であった。
この説明は、口述、図面、箇条書き等任意の手段によって行われていた。本件発明についても、このような補足的説明が行われた。また、公開特許公報記載の回路配置等の図面は、原告自身により作成されたものである。
被告研究開発部では昭和四九年ころ映像光学式再生装置(Video Optical Player。以下「VOP」という。)の開発が研究テーマの一つとして設定された。VOPグループは、AチームとBチームに分かれていた。Aチームの目標は、VOP装置を設計するに当たり必要となる光ピックアップ装置及び機構設計技術を開発することにあり、Bチームの目標は、Aチームの目標以外でVOP装置を設計するに当たり必要となる技術を開発することにあった。原告は、弱電系の電気技術者であり、Bチームの中でVOPの電気信号処理系に関わる技術の開発に携わっており、本件発明に関する光ピックアップのアクチュエータについてはグループの中でむしろ専門外であった。原告は、光ピックアップを開発するように指示も期待もされていなかったし、原告が光ピックアップを開発するために、予算が計上されたり、被告の組織が動いたりしたことはなかった。しかも、原告は研究員(主任格)であり、グループリーダーではなかった。原告は光ピックアップの開発担当者であったことはなかったので、本件発明に関する光ピックアップについては、研究協力者はいなかった。原告が本件発明に要した時間は僅少であった。
なお、諸隈発明と異なり、本件発明については全世界的に特許出願されていない。諸隈発明は審判請求までして権利化されたのに対し、本件発明は審査段階で権利化されている。
(四) 相当対価の額(1) 主位的主張 平成二年度のCD装置国内総生産額は七〇三八億円である。本件発明の実施料率は一パーセントを下らない。本件発明及び諸隈発明はすべてのCD装置に組み込まれている光ピックアップに実施されているから、本件発明及び諸隈発明により被告が受けるべき利益額は、七〇億三八〇〇万円である。被告が本件発明により受けるべき利益額は、諸隈発明の寄与割合を考慮して、右合計額の三分の一と考えるべきである。そして、使用者である被告の貢献度は、被告が負担した研究開発費、設備費、発明の完成に要した期間等を考慮すると、前記のとおり、六〇パーセントを超えない。したがって、被告が受けるべき利益額に、四〇パーセントを乗じると、相当対価額は、九億二七三三万円となる。
したがって、原告は、右金額から受領済みの二一万一〇〇〇円を控除した九億二七一一万九〇〇〇円の請求権を有する。
(2) 予備的主張 被告が、ソニーほかライセンシーから、本件発明及び諸隈発明の対価として受領した金額は、以下のとおりである。
平成二年四月から同三年三月まで 一四億〇一〇〇万円 平成三年四月から同四年三月まで 一八億六七〇〇万円 平成四年四月から同五年三月まで 二〇億七四〇〇万円 平成五年四月から同六年三月まで 二二億〇四〇〇万円 以上合計 七五億四六〇〇万円 被告が本件発明により受けるべき利益額は、諸隈発明の寄与割合を考慮して、右合計額の三分の一と考えるべきである。そして、使用者である被告の貢献度は、被告が負担した研究開発費、設備費、発明の完成に要した期間等を考慮しても、六〇パーセントを超えない。したがって、被告が受けるべき利益額に四〇パーセントを乗じると、相当対価額は、一〇億〇六一二万円となる。したがって、原告は、これから受領済みの二一万一〇〇〇円を控除した一〇億〇五九〇万円余の請求権を有する。
(被告の反論)(一) 本件発明の意義・有用性 コンパクトディスクプレーヤーの小型化は、諸隈発明により実現された。
これによりピックアップ装置を従来の一〇分の一の重量に小型化できた。本件発明は、ピックアップ装置の細部の更なる改良のための技術の一つであり、諸隈発明のように基本特許としてこの形式の小型装置について不可避のものではない。諸隈発明は、レンズを二次元に駆動する小型装置において必ず採用しなければならないパイオニア発明であるのに対し、本件発明は、この原理を用いて、更に限定要件を加えることにより光学的ピックアップ装置の小型化に寄与する任意選択可能な発明の一つにすぎない。なお、諸隈発明については、社会的にも高い評価を受けている。
すなわち、平成五年に科学技術庁長官から科学技術功労者の表彰がされ、諸隈発明を含む諸隈肇の発明について、同年、発明協会から発明協会会長賞が授与された。
(二) 第三者の本件発明についての実施状況 ピックアップ装置の製造各社は、諸隈特許についてライセンスを受ける必要性を認識し、被告とライセンス契約を締結した。もっとも、実際のライセンス契約においては、ピックアップに関して被告の有する特許権のすべてについて実施許諾するという内容であった。ところで、諸隈特許は、平成七年一〇月三一日に存続期間が満了した。被告は、既契約者とは本件特許を含む諸隈特許以外の特許権について、
また、未契約者とはこれに加え諸隈特許を含む過去の清算について交渉を進めているが、各社とも、諸隈特許の実施は認めるが、本件発明の実施を否定している。各社とも、本件発明については、公知資料ないし要旨変更を根拠に特許が無効であるとし、仮に有効であったとしても、限定解釈をすることにより、本件発明を実施していることにはならない旨主張している。このように侵害の有無について争いがあり、現実には実施料の支払を拒否されているものについては、使用者の受ける利益の額として考慮すべきではない。
各社との具体的な契約状況は、以下のとおりである。
被告はソニーと平成二年一〇月一日ライセンス契約を締結した。アイワ及びケンウッドは、ソニー製品を使用している。ソニーとの交渉の大半は、実施料の料率に関するもので、諸隈特許(対応外国特許も含む。)以外の関連特許権については全く言及されなかった。しかし、契約書作成段階になり、他の特許により実施が妨げられるようなことがないように、関連特許等はすべて実施できることになったにすぎない。ソニーは、ライセンス料の支払は諸隈特許に対するものであると主張し、
諸隈特許の満了後は実施料支払をしない状況にある。もっとも、被告は、ソニーについては、本件発明を実施していると考えている。
被告は、シャープ、ビクター、松下電器産業とライセンス契約交渉中であるが、
まだ契約締結に至っていない。シャープ、ビクターは、諸隈特許満了後の交渉では、本件特許については無効と主張し、支払対象に入れることを拒否している。被告は、シャープ、ビクターについては、本件発明を実施していると考えるが、松下電器産業については、本件発明を実施していないと考えている。
被告は、平成七年一二月六日、パイオニアとクロスライセンス契約を締結した。
被告は、パイオニアについては、本件発明を実施していないと考えている。
被告は、平成六年四月一日、日立製作所とクロスライセンス契約を締結した。被告は、日立製作所については本件発明を実施していないと考えている。
被告は三洋電機と光磁気再生装置及び光磁気記録再生装置について平成四年三月一九日ライセンス契約を締結している(平成五年五月三一日に覚書を追加した。)が、そのライセンス交渉の際に中心的かつ重要な地位を占めたのは諸隈特許であった。三洋電機がピックアップについてすべて一パーセントの実施料を支払っているのは、諸隈特許が存在していたからである。諸隈特許満了後、契約期限は自動延長しているため、特に本件発明について意見を交わしたことはない。現在三洋電機は二三種類のピックアップを製造しているが、中には他社製品においてのみ使用されているものもあるので、本件発明の実施の有無の調査は困難である。被告が購入した七機種のうち二機種で本件発明が実施されていることが判明した。
なお、被告が本件発明を実施していないと解した理由は以下のとおりである。すなわち、これらの製品は、フォーカシングコイルがトラッキングコイルと交差しないように傾斜させられており、「一部が互いにほぼ直交状態で交差するコイル部分」を有していないし、「前記交差部を貫く共通の磁束」も存在しない。
(三) 被告の貢献度(1) 原告は、「光学式ビデオディスクピックアップ」の名称で発明の提案をし、その中で「リレーレンズの駆動」という案を出した。特許部は、原告の原案では特許取得は困難と判断し、原告の提案に含まれていなかったコイルについてアドバイスをし、昭和五三年一月五日に出願した。
原告の提案は、従来の光ピックアップの対物レンズ駆動方式と異なり、対物レンズは固定し、リレーレンズを加え、それを駆動するというものであり、リレーレンズをいかにして駆動するかは示されていなかった。そこで、駆動方式を記載することにより実施可能性を示して出願すれば、特許取得は可能と思われたので、特許部担当者の意見で、本件特許公報の図に相当する図を書き加えて出願に至った。
原告の提案には、実用性の点で疑問があった。特に、対物レンズの他にリレーレンズを加えることは、機構が複雑化し、小型化とは逆の考えであったので、事業部の開発担当者は、この出願について審査請求をせず放棄する旨の決定を特許部に伝えた。これに対し、特許部担当者は、特にリレーレンズと限定せず、レンズ駆動方式として、出願時追加されていた駆動方式に焦点を当てれば、特許権の利用価値があると考え、登録された特許の明細書どおりに変更をした上、特許取得に成功した。
しかし、特許は、原告提案はもちろん、出願時の明細書とも相当変更されていたため、他社から要旨変更の問題点を指摘されている。
また、原告の提案では、従来技術の欠点として、対物レンズを動かすことが消費電力や大きさの点で問題があるとしていたが、ライセンシー各社の光ピックアップではフォーカシング及びトラッキングは対物レンズを動かすことにより実現しているから、もしこれらが本件発明の実施になるとすれば、これは特許担当者の提案で追加された構成によるものである。
(2) 被告のVOPグループでは、昭和五一年から、その研究テーマをビデオ動画全体ではなく光ピックアップに集中することとし、研究対象を、レーザーなどを含む光学関係、レンズ、ピックアップの駆動装置、フォーカスやトラッキングの制御信号等に限定した。これらの研究対象は複数の技術分野にわたり、相互に密接な関連を有したので、研究員は頻繁に相互の研究結果を報告していた。原告は、昭和五一年以降は、フォーカス、トラッキングの面を担当していた。これらの研究は、
その制御方法、そのための信号処理の方法にとどまらず、これと密接不可分のレンズやその駆動装置の研究にまで及んだ。原告が光ピックアップのアクチュエータについて、専門外であったということはないし、本件発明は、原告の本来の研究テーマに関するものである。
2 発明考案規定により、原告の対価請求権が制約されるか。
(被告の主張) 職務発明は、あらかじめ定める勤務規則その他により使用者たる会社に譲渡の予約をすることが認められているが、対価についても勤務規則その他の社則であらかじめ定めたところに従って処理することができると解すべきであり、これに従って処理されたものについて、改めて個別的に請求することは許されない。
今日、日本の多くの企業は、職務発明の会社への譲渡とその対価の支払をあらかじめ社内規則で定め、これに従った処理をしている。これは極めて合理的であるし、法35条の趣旨にも合致する。すなわち、会社は従業員に対し公平な処遇をする必要から、従業員との契約を画一的なルールにより処理する必要がある。多数の発明がされている企業においては、個々の発明について具体的に対価額を算出することは不可能であり、ある程度類型的に処理せざるを得ない。従業員の発明の業績も会社の方針や他の部門の協力で大きく左右されるから、個別案件につきあまりに具体的妥当性を求めるとかえって従業員間の不公平を拡大する。また、社則等であらかじめ職務発明の譲渡を定める以上、同時に対価の決定方法を定めておくことも当然許されるべきであり、法35条でもこれを許さないと解する根拠はない。
職務発明対価は、通常の独立当事者間の取引における対価と異なる特殊性を有する。研究開発に従事する社員の労務の対価は、基本的には給与である。職務発明は、会社から設備、テーマ、資料、試験材料、他技術者の指導・助言、他部門の助力等を受け、特許出願に際しても特許担当者の助力がある。これらのために、被告は、多額の支出を行っている。また、相当対価は、会社が負担している失敗のリスクも考慮して定める必要がある。
被告規定は、当時の日本の主要企業の規定と比べても同等ないしそれ以上の水準を有するものであるから、これに基づく支払は、相当対価の支払と認められるべきである。
被告は、被告規定に基づく支払をしており、原告はこれを異議なく受領したから、相当の対価の支払は履行済みである。被告規定の内容は、従業員に周知されており、入社時の誓約書には被告規定を順守する旨の記載があるから、原告は、被告規定の所定額を受取ることによりこれを承諾したものである。被告規定は譲渡契約と同等に扱われるべきである。なお、原告に対する工業所有権収入取得時報償の支払については、被告規定による上限の総額一〇〇万円を支給することとし、対象となる諸隈特許二件と本件特許のうち、ソニーが実施を認めた諸隈特許の比重を高くし、四対四対二の割合で分配し、本件特許には二〇万円が支給された。
(原告の反論) 原告は、法35条に定める請求をしており、同条は強行規定であるから、被告規定に基づく支払がされても、さらに差額を請求できることは明らかである。原告が、被告規定に基づく支払を受領したとしても、原告はその余の差額について放棄の意思表示をしたと解すべきではない。被告規定が、他社の規定と比べて同等水準にあるかどうかは結論を左右しない。
発明者主義に立脚する法35条の趣旨からすれば、被告が原告に支払った給与、
諸手当は、対価の相当性と直接影響を与えるものではない。被告が原告の研究開発を支えるために有形無形のものを提供してきたことは認めるが、これは「使用者の貢献した程度」として考慮すれば足りる。職務発明に対する対価は、労働の対価とは全く異なる。
3 原告の請求権は時効により消滅したか。
(被告の主張) 被告は、昭和五二年一二月八日、本件発明について特許を受ける権利の譲渡を原告から受けたから、相当対価請求権は右時点で発生し、既に一〇年が経過している。よって、被告は、消滅時効援用する。
(原告の反論) 被告規定によれば、職務発明の被告への承継対価としての支払は、出願補償、
登録補償、工業所有権収入取得時補償に分けて支払われる旨定められており、このような分割払方式も有効である。そうすると、消滅時効の起算点は、分割された各報償金の請求が可能となった時点であるというべきであるところ、工業所有権収入取得時補償金の請求が可能となった時点から本訴の提起までに一〇年経過していない。したがって、消滅時効は完成していない。
争点に対する判断
一 争点1(相当対価の額)について1 争いのない事実に証拠(甲七ないし二〇(枝番号省略、以下同じ)、二四、二九ないし三二、乙二ないし八、一二ないし一九、二一ないし二五、二九ないし三二、検甲一ないし九)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、これを覆す証拠はない。
(一) 本件発明の意義・有用性(1) 本件発明に係る特許請求の範囲は、別紙特許公報一のとおりである。他方、諸隈発明に係る特許請求の範囲は、別紙特許公報二、三のとおりである。本件発明及び諸隈発明は、共に光学的記録媒体に記録された情報を光学的に読み取るための検出ヘッドに関する発明である。
本件発明は、諸隈発明を前提とした利用発明である。本件発明は、光学的に情報を記録したディスク、主としてビデオディスクプレーヤーのピックアップの改良に関するものである。従来は、トラッキングを行うためにガルバノミラーを相当の高速度で動かしたので、大きな力が必要なため装置の機構は大掛かりとなり消費電力も大きかったが、本件発明により、この欠点を解決して小型軽量のピックアップ装置を設置することを可能とするものである。本件発明は、昭和六一年五月一二日に出願公告され、平成一〇年一月五日に満了した。
なお、諸隈発明については、平成五年に科学技術庁長官から科学技術功労者の表彰がされ、諸隈発明を含む諸隈肇の発明について、同年、発明協会から発明協会会長賞が授与されている。諸隈特許は、昭和六二年一一月一八日に出願公告され、平成七年一〇月三一日に満了した。
(2) 本件発明について、原明細書における特許請求の範囲は、「光学的に情報を記録したディスク再生装置において、ディスク上に読取り光束を収束させるための対物レンズの手前に配置した軽量のリレーレンズと、このリレーレンズを光軸方向に動かして上記読取り用光束のフォーカシングを行なう手段と、上記リレーレンズを光軸と直角な方向に動かして上記読取り用光束のトラッキングを行なう手段とを設けたことを特徴とするピックアップ装置」とされている。そして、詳細な説明欄において、「従来フォーカシングは対物レンズを光軸方向に動かし、トラッキングはガルバノミラーを動かして・・・行なっていた」、「このようなビデオディスクプレーヤーにおいては・・・フォーカシング、トラッキングを行なうために対物レンズ、ガルバノミラーを相当の高速度で動かすためには大きな力が必要となり、
装置の機構は大がかりなものとなり、消費する電力も大きくならざるを得なかった。本発明の目的は簡単な構成でかつ小型軽量、低消費電力のピックアップの構造を提供することにある」とされている。また、図面は、対物レンズを固定し、ミラーレンズを可動としてフォーカシング及びトラッキングを行うことを前提として表示されていた。
特許部担当者を中心に検討がされて、その特許請求の範囲の記載は、別紙特許公報一のとおりに補正され、当初「リレーレンズ」とされていた点が「レンズ」とされた。また、図面についても、対物レンズを固定した部分が削除された。
以上の手続補正の経緯によれば、出願当初の明細書には、対物レンズを固定し、
リレーレンズを動かす技術思想が開示されていたが、手続補正により、対物レンズを動かす構造を含むかのような表現がされたため、このような補正が、要旨変更に当たる可能性も否定できない。
(3) 本件特許については、平成七年八月四日、パイオニアから無効審判請求がされた。その理由の骨子は手続補正書による補正は、出願当初の原明細書の要旨を変更するものであるから、出願日が繰り下がり、原明細書の公開特許公報等と同一ないしこれから容易推考であるというものである。その後、右請求は取り下げられている。
(二) 第三者の実施状況(1) ピックアップ装置の製造各社は、被告とライセンス契約を締結した。各社との具体的な契約状況は、以下のとおりである。なお、各社との交渉では、被告の有する特許権のうち諸隈特許が中心的な交渉の対象となった。別紙各社製品目録記載の製品について、諸隈発明はすべての製品に用いられている(当事者間に争いがない)。
ア 被告は、平成二年一〇月一日、ソニーとライセンス契約を締結した。なお、アイワ及びケンウッドは、ソニー製品を使用している。ソニーとの契約書の添付書面には、契約対象特許権として別紙特許目録記載の一五件の特許権が記載されていたほか、「上記に掲げる物の他、一九八九年一二月三一日迄に甲が出願した再生専用光学ピックアップであって、対物レンズを一次元または二次元方向に駆動させるピックアップに関する内外国特許および実用新案」が対象とされていた。具体的な対象権利の件数は、国内特許五二八件、外国特許九三件の合計六二一件であった。もっとも、ソニーとの交渉においては、諸隈特許二件のみが念頭に置かれ、その実施料の料率について協議され、契約書の作成の段階になって、実施料を支払う以上は、他の特許権により実施が妨げられるようなことがないようにとの趣旨で、網羅的にピックアップ関連の特許・実用新案を契約対象とすることとなった。契約は、
平成七年九月三〇日に終了した。なお、諸隈特許の満了後、ソニーは、ライセンス料の支払は諸隈特許に対するものである旨主張して、被告に対して実施料を支払わない。
イ 被告は、シャープ、ビクター、松下電器産業とライセンス契約交渉中であるが、まだ契約締結に至っていない。なお、シャープ、ビクターは、諸隈特許満了後の交渉において、本件特許には無効事由があると主張し、支払対象に入れることを拒否している。
ウ 被告は、平成四年三月一九日、三洋電機と光磁気再生装置及び光磁気記録再生装置についてクロスライセンス契約を締結し、平成五年五月三一日に覚書を追加した。被告が三洋電機に対して許諾した対象特許権及び実用新案権の件数は、七一八件である。三洋電機はピックアップの売上に対して一パーセントの実施料を支払っている。諸隈特許終了後においても、右契約は自動延長された。
エ 被告は、平成六年四月一日、日立製作所とクロスライセンス契約を締結した。
本件特許も対象となっている。
オ 被告は、平成七年一二月六日、パイオニアとクロスライセンス契約を締結した。本件特許も対象となっている。
(2) 本件発明の実施状況は、別紙各社製品目録記載の製品について、以下のとおりである。
ア 三洋電機は、本件発明を実施している(当事者間に争いがない)。
イ ソニー(アイワ、ケンウッド)、シャープ、ビクターについては、右各社製品のフォーカシングコイルとトラッキングコイルは交差し、その交差部をマグネットとヨークに基づく磁束が貫いているので、本件発明を実施している可能性が高い。
なお、原告及び被告は、本件発明が実施されていると認識しているが、右各社は、これを争い、非侵害の主張(各社製品のフォーカシングコイルの交差部の導線に作用する力は無視し得るものであるとの主張)ないし特許無効の主張をしている。
ウ 松下電器産業、パイオニア、日立製作所については、右各社製品は、フォーカスコイルとトラッキングコイルにそれぞれ別個の単独の磁束が作用するものであるから、本件発明の「前記交差部を貫く共通の磁束」を充足しない可能性が高い。
この点について、原告は、磁束密度ベクトルのベクトル総和の方向に接して描かれた磁束線がフォーカスコイルとトラッキングコイルとを共通に貫通していないように見えても、各磁束密度ベクトルの中にこれらを共通に貫通しているものが存在し得るのであり、右各社製品には、「前記交差部を貫く共通の磁束」が存在する旨主張する。しかし、現実の各社製品におけるコイルに作用する力は、すべての磁極による総磁界により決まり、「前記交差部を貫く共通の磁束」も総磁界についての磁束のみを意味すると解すべきであるから、原告の右主張は採用できない。
(3) 被告がライセンス契約の対価として受領した特許権実施料収入の額は、昭和六三年度(会計年度。以下同じ。)及び平成元年度には計上されていなかったが、平成二年度には一四億〇一〇〇万円、平成三年度には一八億六七〇〇万円、平成四年度には二〇億七四〇〇万円、平成五年度には二二億〇四〇〇万円、平成六年度には二七億三一〇〇万円、平成七年度には二八億九五〇〇万円、平成八年度には九億八七〇〇万円である。平成七年度の収入には、平成六年度下半期に支払われた実施料分が計上されている。
平成八年度の収入が大幅に減少しているのは、諸隈特許が、平成七年一〇月三一日に満了し、ソニーが実施料を支払わなかったことによるものと推認される。また、前記ライセンス契約の時期と照らし合わせると、右収入の大半はソニー及び三洋電機からの実施料であると考えられる。
(三) 被告の貢献度(1) 原告は、「光学式ビデオディスクピックアップ」の名称で発明の提案をした。原告の提案は、従来、フォーカシングは対物レンズを光軸方向に動かし、トラッキングはガルバノミラーを動かして行っていたが、対物レンズ、ガルバノミラーを相当の高速度で動かすためには大きな力が必要となり、装置の機構は大がかりなものとなり、消費する電力も大きくならざるを得なかったので、対物レンズを固定し、ミラーレンズを可動としてフォーカシング及びトラッキングを行うという内容のものであった。リレーレンズをいかにして駆動するかは示されていなかった。そこで、特許部担当者の意見で、本件特許公報の図面に相当する図面が追加され、前記のとおりの内容の出願がされた。
その後、事業部の開発担当者は、対物レンズの他にリレーレンズを加えることは、機構が複雑化する等の理由から、右出願については審査請求をしない旨の決定を特許部に伝えた。これに対し、特許部の担当者を中心として、リレーレンズという限定を外し、レンズ駆動方式に注目すれば利用価値があると考え、前記のとおり、登録された明細書のように変更を加えた上、特許を取得した。
以上のとおり、原告の当初の提案では、対物レンズを固定することを前提としていたが、製造各社のピックアップ装置においては、対物レンズの駆動によりフォーカシング及びトラッキングを行うものであるから、各社のピックアップ装置は、原告の当初の提案内容の構成を充足せず、むしろ、特許担当者を中心とした提案で特許請求の範囲を大幅に変更した結果、本件特許を侵害する可能性が生じたものと評価できる。
(2) 被告の研究開発部では、昭和四九年ころから、映像光学式再生装置(VOP)の開発をテーマの一つとして研究開発に取り組んできた。当初は、VOPグループは、AチームとBチームに分かれており、Aチームは、VOPの設計に必要な光ピックアップ装置及び機構設計技術の開発を担当し、Bチームは、それ以外に必要な技術の開発を担当していた。原告は、Bチームの中でVOPの電気信号処理系に関わる技術の開発に携わっていた。昭和五一年までには諸隈発明が完成し、グループの研究テーマをビデオ動画全体ではなく光ピックアップに集中することとし、
研究対象を、レーザーなどを含む光学関係、レンズ、ピックアップの駆動装置、フォーカスやトラッキングの制御信号等に限定した。原告は、昭和五一年以降、本件発明をした昭和五二年当時まで、フォーカス、トラッキングの開発を担当していた。以上のとおりの経緯に照らすならば、本件発明は、右担当分野と密接な関係を有するものというべきである。
(3) 原告は昭和四八年ころから五三年まで被告の研究開発部に在籍したが、当時被告が原告に支給した給与、賞与、社会保険費用等の人件費負担額は、毎年約五〇〇万円程度に上る。また、当時被告が支出した研究者一人当たりの研究開発費は四〇〇万円を上回る。
2 以上認定した事実を基礎として、相当対価の額について検討する。
(一) @本件発明は、諸隈発明の利用発明であり、本件発明の実施には、諸隈発明の実施が前提となること、A被告とピックアップ装置の製造各社との間のライセンス契約においては、本件特許も対象とされているが、各社との交渉では、被告の有する特許権の中で諸隈特許が中心的な交渉の対象となり、本件特許は重きが置かれていなかったこと、B本件特許に関しては各社は実施を否定しており、現に、対象となる期間の特許料収入の多くを占めるソニーは、諸隈特許の満了後は、ライセンス料の支払は諸隈特許に対するものである旨主張して、被告に対して実施料を支払っていないこと、C別紙各社製品目録記載の各社製品について、諸隈発明はすべての製品に用いられているが、本件発明は、松下電器産業、パイオニア、日立製品については、実施されておらず、必ずしも、CD装置の多くに確実に組み込まれているとはいえないこと、D本件発明については、当初出願の記載が変更されているため、要旨変更を理由として、本件特許が無効とされる可能性も否定できないこと、E仮に当初出願の記載が変更されないままであれば、各社のピックアップ装置は、これを実施したと評価される可能性が低いこと等の諸点を総合すると、本件発明によって被告が受けるべき利益額としては五〇〇〇万円と解するのが相当である。
なお、原告は、CD装置の国内総生産額を基礎として被告の受けるべき利益額を算定すべきであると主張するが、右主張を採用するに足りる証拠はない。
(二) さらに、原告の当初の提案内容は、各社のピックアップ装置には採用されていないものであったが、これを被告特許担当者を中心とした提案で大幅に変更した結果、各社のピックアップ装置の一部がこれを侵害する可能性が高い状況になったこと、本件発明は、原告が発明当時に職務上担当していた分野と密接な関係を有するものであること、その他の事情を考慮すると、本件発明がされるについて被告が使用者として貢献した程度は九五パーセントと評価するのが相当である。
(三) そうすると、本件発明により被告が受けるべき利益額五〇〇〇万円から被告の貢献度(九五パーセント)に相当する金額四七五〇万円を控除すると、原告が受けるべき職務発明対価は二五〇万円となるところ、右金額から既に被告が原告に支払済みの二一万一〇〇〇円を控除した残額は、二二八万九〇〇〇円となる。
二 争点2(被告規定の性質)について 被告は、職務発明について、勤務規則等により、発明者が使用者たる会社に譲渡する場合の対価を、あらかじめ定めているところ、これに従って処理されたものについては、改めて個別的に請求することはできない旨主張する。
しかし、被告規則については、被告が一方的に定めた(変更も同様である。)ものであるから、個々の譲渡の対価額について原告がこれに拘束される理由はない。
この点、被告は、原告が、被告の諸規則等を遵守する旨の誓約書を提出していることから、原告が相当対価の請求権を放棄したものとみるべきであると述べるが、原告が、就職時に、このような包括的な内容の記載された書面を提出したからといって、個々の譲渡に関して、譲渡対価に関する何らかの合意が形成された、あるいは、相当対価の請求権の放棄がされたと解する余地はない。その他、被告は、被告規則が原告を拘束する根拠を何ら明らかにしていないので、原告の前記主張は失当である。結局、法35条が、職務発明に係る特許権等の譲渡の対価は、発明により使用者等が受けるべき利益の額及び使用者が貢献した程度を考慮して定めるべきことを規定した趣旨に照らすならば、勤務規則等に発明についての報償の規定があっても、当該報償額が法の定める相当対価の額に満たないものであれば、発明者は、
使用者等に対し、不足額を請求できるものと解するのが相当である。
また、被告は、被告規則を設けて処理したことの合理性、必要性を云々するが、
そのような点は、前記の解釈を左右するものとはなり得ない。
三 争点3(消滅時効の成否)について 争いのない事実及び証拠(甲二ないし四)によれば、被告規定においては、原告が本件発明をした昭和五二年当時から、職務発明について、出願時、登録時及び工業所有権収入取得時等に分けて、報償を行う旨定められていたこと、被告規定は数回にわたり変更されていること、被告は、平成二年から同七年までの間に、ソニー外数社とライセンス契約を締結したこと、被告は、平成二年から、本件発明も含めて実施料に係る収入を得ていること、本件発明については、平成二年九月二九日改正後の規定に基づき、工業所有権収入取得時報償が、平成四年一〇月一日に支払われたことが認められる。
以上によれば、原告が、工業所有権収入取得時報償を受領した平成四年一〇月一日より前においては、算定の基礎とする工業所有権収入の額は、必ずしも明らかでなく、また、原告が被告からいくらの報償額を受け取ることができるか不確定であったということができるから、右同日までは、原告が法に基づく相当対価請求権を行使することについて現実に期待し得ない状況であったといわざるを得ない(なお、被告規定は、法律上、原告を拘束するものではないが、この点は、相当対価請求権を行使することについて現実に期待し得る状況となった時期についての前記判断に影響を与えるものではない。)。そして、本件訴訟が提起されたのは、平成七年であるから、未だ右時点から一〇年が経過していない。したがって、法に基づく相当対価請求権については消滅時効は完成していないと解すべきである。
四 よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 八木貴美子
裁判官 沖中康人