関連審決 | 審判1996-15456 |
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関連ワード | 産業上利用(29条1項柱書) / 自然法則 / 技術的思想 / 創作性(創作) / 使用方法 / 発明の詳細な説明 / 技術的特徴 / 分割出願 / 置き換え / 置換 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 異議申立 / 追認 / |
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事件 |
平成
9年
(行ケ)
206号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1999/05/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が、平成8年審判第15456号事件について、平成9年5月14日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた判決
1 原告主文と同旨2 被告原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和57年3月17日にした特許出願(特願昭57-40901号)を原出願とする分割出願として、平成2年11月30日、名称を「ビデオ記録媒体」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、特許出願をした(特願平2-330750号)が、平成8年5月21日に拒絶査定を受けたので、同年9月19日、これに対する不服の審判の請求をした。 特許庁は、同請求を、平成8年審判第15456号事件として審理した上、平成9年5月14日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年7月22日、原告に送達された。 2 本願発明の要旨 歌うべき曲の伴奏となる音声情報と、該曲の歌詞となる文字情報および映像情報とが記録されたビデオ記録媒体において、前記文字情報のうちの前記音声情報の進行に伴なった歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて記録したことを特徴とするビデオ記録媒体。 3 審決の理由の要点 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、技術的思想でないものであるから、特許法2条に定義されている発明とは認められず、特許法29条1項柱書きに規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができないとした。 |
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原告主張の取消事由の要点
審決の理由中、本願発明の要旨の認定、請求人(本訴原告)の主張の記載、請求人の主張1についての判断、請求人の主張2についての判断の一部(審決書6頁16行〜7頁14行)は、いずれも認める。 審決は、本願発明が技術的思想ではないと誤って判断し(取消事由)、産業上利用できる発明とは認められないとしたものであるから、違法として取り消されなければならない。 1 本願出願当時の「発明の成立性」に関する産業別審査基準として、紙を情報の記録媒体とする「紙せん」についての特許庁編「産業別審査基準」(甲第4号証)が存在し、これは、紙を記録媒体とする考案を、実用新案法3条1項柱書きの「考案」として肯定するものであるが、この基準からも、記録された情報に技術的特徴があれば、その記録媒体についての「発明の成立」が肯定されていたことが明らかである。また、本願出願当時の特許庁編「一般審査基準」(甲第6号証)にも、柱書きの発明として成立することができないもの、柱書きの発明としていまだ完成していないものなどの判断の指針が示されているが、「技術的特徴がある情報を記録した記録媒体」について、その「発明の成立」を否定したと解される記載は存しない。 以上のように、本願出願当時、「記録された情報の提示それ自体に技術的特徴を有する記録媒体、情報の提示手段あるいは情報の提示方法などに特徴を有する記録媒体」は、特許法2条1項、同法29条1項柱書きに規定された発明として扱うことが慣行として定着していた。 しかも、平成5年に改訂された審査基準であり、本願発明でも考慮されるべき、 特許庁編「特許・実用新案 審査基準」(平成5年7月20日発行、審判甲第2号証、本訴甲第7号証、以下「本件基準」という。)の「第U部 特許要件」の「第1章 産業上利用することができる発明1.1「発明」に該当しないものの類型 (5) 技術的思想でないもの」の項には、「A 情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するもの)例:機械の操作方法又は化学物質の使用方法についてのマニュアル、音楽を録音したCD、コンピュータプログラムを記録した記録媒体など。」に続いて、「ただし、情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など)に技術的特徴があるものは、「発明」に該当する。例1:テレビ受信機用のテストパターン(テストパターンそれ自体に技術的特徴がある。)例2:文字、数字、記号からなる情報を凸状に記録したプラスチックカード。(プラスチックカードをエンボス加工して印字し、カードの印字情報を押印することにより写しとることができ、情報の提示手段に技術的特徴がある。)」と規定されており、従前からの取扱いを明文をもって追認又は確認したものであるところ、本願発明は、 以下に述べるとおり、「情報の提示」に技術的特徴を有するものであるから、産業上利用できる発明といえる。 2 本願発明における「情報」とは、歌うべき曲の伴奏となる「音声情報」、該曲の歌詞となる「文字情報」、及び該曲の背景となる「映像情報」であるが、本願発明が、これらの情報に技術的特徴を有するものでないことは認める。なお、被告は、更にこれらの「混合情報」及び「最終的な混合情報」を「情報」に含めているが、明細書中には「混合情報」及び「最終的な混合情報」なる用語は用いられていないから、「情報」把握に当たり当該「混合情報」を含ませることは誤りである。 また、一般的な情報記録媒体における「提示」とは、ある種の情報を、ある種の記録媒体に、ある種の手段や方法を用いて、ある種の態様で記録し、記録された態様の性質に応じて、情報に起因する結果を提供することと解される。そして、本願発明における「提示」とは、「前記文字情報のうちの前記音声情報の進行に伴った歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて記録した」との構成要件であり、当該構成は、前記3つの「情報」をビデオ記録媒体に記録するに際しての一連の信号処理について規定したものであり、本願発明は、 この点に技術的特徴を有するものである。 具体的に述べると、本願明細書(甲第2号証)に、「文字情報は音声情報と同期するように記録される〔提示の仕方〕。例えば曲「城ヶ島の雨」を記録する場合においては、『雨が降る降る城ヶ島の磯に』という歌詞〔文字情報〕に対応する伴奏〔音声情報〕が始まる直前から終わる直前(又は直後)まで『雨が降る降る』という歌詞〔文字情報〕が映し出されるように混合される〔信号処理〕と共に、伴奏〔音声情報〕が進むにつれて歌うべき歌詞〔文字情報〕の色が変化する〔信号処理〕ように記録される〔提示の仕方〕。すなわち『雨が降る降る城ヶ島の磯に』という例えば白色の文字〔文字情報〕が映し出されると伴奏〔音声情報〕の進行に伴い、最初は『雨』の文字〔文字情報〕が、次に『が』の文字〔文字情報〕が、さらに『降』の文字〔文字情報〕がと、以下順に『に』の文字〔文字情報〕まで順に赤くなるように〔信号処理〕記録される」と記載されているように、本願発明は、情報をビデオ記録媒体上に記録するに際して、所期の作用効果を奏するために、音声の進行に伴い、色調変化器により、歌うべき文字の色を異ならしめるように「文字情報」に信号処理を行ってビデオ記録媒体に記録することを具体的に特定するものであって、その記録(提示)に技術的特徴を有するものである。 被告は、本来「提示」と認定すべき構成要件である、「前記文字情報のうちの前記音声情報の進行に伴った歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて記録した」構成を、「混合情報」等の情報を特定する構成要件であると誤って認定し、「提示」には技術的特徴がないと誤って判断したものである。 したがって、審決が、「本願発明の如き記録内容を列挙したに過ぎない記録媒体、すなわち、提示される情報の内容にのみ特徴を有する記録媒体は、自然法則を利用しているか否かに拘わらず、技術的思想でないものであるから『発明』に該当せず、特許法第29条第1項柱書に規定する『産業上利用することができる発明』の要件を満たしていない」(審決書7頁14行〜8頁1行)と判断したことは誤りである。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。 1 本願発明の発明としての成立性を検討するに当たり、原告の主張のとおり、本件基準に開示された考え方が実質的に適用され、「情報の単なる提示」は、たとえその「情報」に係わる技術的内容や表現内容等に特徴があっても、その「提示」が単なるものであれば発明に該当しないが、「情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など)に技術的特徴があるもの」は、発明に該当するものであることは認める。 ただし、情報の提示に技術的特徴があるものとは、特許請求の範囲に技術的・具体的に記載されていることが必要であり、本件基準の「例1」についていえば、通常、特許請求の範囲に提示それ自体の構成が技術的・具体的に記載されることから、冗長な例示記載を避けて「(テストパターンそれ自体に技術的特徴がある。)」を付記したものである。 したがって、本件基準を前提としても、提示それ自体や提示手段や提示方法等の提示の仕方が、技術的・具体的に特許請求の範囲に記載されていなければ、通常、 「単なる提示」となる意味と解される。 2 本願発明における「情報」が、原告の主張するとおり、「歌うべき曲の伴奏となる音声情報と、該曲の歌詞となる文字情報および映像情報」であることは明らかである。そして、「前記文字情報のうち前記音声情報の進行に伴った歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて」の記載は、形式的には、「記録」に懸かるような記載であるが、これも情報と解すべきである。 すなわち、本願明細書における、映像情報供給装置1からの映像情報と、色調変化器4により歌の進行に伴い着色された文字情報供給装置3からの文字情報とが、 混合器2で混合されて混合情報とされ、この混合情報と、音声情報供給装置5からの音声情報とが、さらに、混合器6で混合されて最終的な混合情報とされ、その後、この最終的な混合情報が記録再生装置7のビデオ記録媒体に記録されているとの記載(甲第2号証第3欄19〜34行)を参照すれば、上記の「・・・色調変化器によって異ならしめて」の記載は、情報を提示する「記録」や「ビデオ記録媒体」へ技術的な影響を与えるものではなく、記録する情報の内容を、音声情報と文字情報の色との関係で更に特定したものであって、「情報」についての内容を具体的に記載したものとみるべきである。 さらに、詳細に述べると、映像情報と色調変化器により着色された文字情報とは、ビデオ記録媒体に記録される前に混合器で混合され、表示画面を構成する混合情報となるのであり、この混合情報をビデオ記録媒体に記録するときに、映像情報と色調変化器により着色された文字情報を記録するための信号が、混合情報の他の情報を記録するための信号と異なる形態であることについては記載がない。また、 着色文字情報と未着色文字情報との時間経過に応じた置換えは、混合器による映像情報と文字情報との混合までに既になされているのであり、ビデオ記録媒体に記録するときには、既に順次置き換えられた文字情報を単に記録しているだけである。 そして、その記録状態は、通常の文字入りビデオ映像を通常どおり記録することと変わりないものであり、これらによって、情報を提示する「記録」や「ビデオ記録媒体」を技術的・具体的に記載しているとはいえないから、本願発明の情報の提示に技術的特徴があるともいえない。 したがって、この点に関する審決の判断(審決書7頁14行〜8頁1行)に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 審決の理由中、本願発明の要旨の認定、請求人(本訴原告)の主張の記載、請求人の主張1についての判断、請求人の主張2についての判断の一部(審決書6頁16行〜7頁14行)は、いずれも当事者間に争いがない。 また、特許庁における「特許・実用新案」に関する審査基準である本件基準(平成5年7月20日発行、審判甲第2号証、本訴甲第7号証)において、「産業上利用することができる発明」に該当しないものの類型として、「情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するもの)」は、「技術的思想」でないことから当該「発明」に該当しないが、「情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など〉に技術的特徴があるもの」は、当該「発明に該当する旨が開示されており、本願発明が産業上利用することができる発明に該当するか否かを検討する際にも、この基準に開示された考え方が基本的に適用されるべきことも、当事者間に争いがない。 ところで、特許法2条に定義される発明とは、その定義からも明らかなように、 「技術的思想であること」をその要件の1つとするものであるが、 この要件に示された「技術」については、「技術は一定の目的を達成するための具体的手段であって実際に利用できるもので、技能とは異なって他人に伝達できる客観性を持つものである」(最高裁判所昭和52年10月13日第1小法廷判決・判例タイムス335号265頁)ことが必要とされるものと認められるところ、この観点からみて、本件基準が、「情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するもの)」を、「技術的思想」でないことから「産業上利用することができる発明」に該当しないものとし、「情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など)に技術的特徴があるもの」を、当該「発明」に該当する旨を開示したことは、いずれも相当と認められる。そして、この発明における技術的特徴は、特許法36条5項「特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。」(昭和60年法律第41号による改正前のもの)の規定の趣旨から見て、特許請求の範囲に記載された構成から把握できるものでなければならない。また、この本件基準に開示された考え方は、従前からの発明の成立性に関する客観的理解を具体的に明記したものと解されるから、当事者間に争いがないとおり、上記基準の発行前に出願された本願発明が産業上利用することができる発明に該当するか否かを検討する際にも、当然適用されるべきものと認められる。 ところで、一般的に「提示」とは、文理上、「提出して示すこと」、あるいは「差し出して見せること」と解釈されるから、情報記録媒体における情報の「提示」とは、記録媒体に、当該情報を特定の手段や方法を用いて記録し、記録された態様の性質に応じて、人の五感に対して情報に起因する結果を提供することと解される。そうすると、記録媒体における「情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など)に技術的特徴があるもの」とは、情報の記録の仕方それ自体や、記録手段及び記録方法等に技術的特徴があることから、その結果として、提供された情報にその特徴が反映されたものといわなければならない。 2 そこで、本願発明に則して検討するところ、本願発明のビデオ記録媒体に記録した、歌うべき曲の伴奏となる「音声情報」、該曲の歌詞となる「文字情報」、及び該曲の背景となる「映像情報」は、いずれも上記「情報の単なる提示」における「情報」に該当するものであり、これらの情報自体に技術的特徴を有するものでないことは、当事者間に争いがない。 原告は、本願発明が、情報をビデオ記録媒体上に記録するに際して、所期の作用効果を奏するために、音声の進行に伴い、色調変化器により、歌うべき文字の色を異ならしめるように「文字情報」に信号処理を行ってビデオ記録媒体に記録することを具体的に特定するものであって、その記録(提示)に技術的特徴を有するものであると主張するので、以下検討する。 まず、前示本願発明の要旨の前段、「歌うべき曲の伴奏となる音声情報と、該曲の歌詞となる文字情報および映像情報とが記録されたビデオ記録媒体において」によれば、本願発明は、歌うべき曲の伴奏となる「音声情報」、該曲の歌詞となる「文字情報」及び該曲の背景となる「映像情報」を、それぞれ音声、文字及び映像の形式によりビデオ記録媒体に記録したものであると認めれる。そして、この記録媒体について、要旨の後段では、「前記文字情報のうちの前記音声情報の進行に伴なった歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて記録したことを特徴とする」ものとされており、これによれば、歌うべき曲の歌詞である文字情報に基づく文字について、一定の色を付すことを前提として、伴奏となる音声情報の進行、すなわち時間の経過に伴い、色調変化器によって、この文字の色を、順次、異なる色に着色せしめて記録したことを特徴とするものと認められ、この記録媒体を表示装置において再生した場合には、歌唱者に対して、伴奏となる音声情報の進行に伴って、歌うべき文字の色が、順次、異なって表示されていくという結果を提供するものである。このように歌うべき歌詞を文字として記録するようにし、しかも、その文字のうち現に歌うべき文字を他の文字と区別できるように色を変化させて記録するという構成を採用し、これに相当する結果を提供する以上、本願発明は、文字に関する「情報の提示」に技術的特徴を有するものといわなければならない。 被告は、本願明細書における、映像情報供給装置1からの映像情報と、色調変化器4により歌の進行に伴い着色された文字情報供給装置3からの文字情報とが、混合器2で混合されて混合情報とされ、この混合情報と、音声情報供給装置5からの音声情報とが、さらに、混合器6で混合されて最終的な混合情報とされ、その後、 この最終的な混合情報が記録再生装置7のビデオ記録媒体に記録されているとの記載を参照すれば、本願発明の要旨である「前記文字情報のうち前記音声情報の進行に伴った歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて」の記載は、情報を提示する「記録」や「ビデオ記録媒体」へ技術的な影響を与えるものではなく、記録する情報の内容を、音声情報と文字情報の色との関係で更に特定したものであって、「情報」についての内容を具体的に記載したものとみるべきであると主張する。 この点について、本願明細書(甲第2号証)には、「従来の斯かるカラオケ装置は、歌詞が印刷された歌詞集を用意し、該歌詞集から該当する歌詞を探し出し、それを見ながら伴奏曲に合わせて歌うのであるが、歌詞集を保管する必要から、該歌詞集を紛失したりすることがあり、またうろ覚えの曲等の場合には歌い始めのタイミングがずれたりして、上手に歌うことができなかつた。また一方で、ビデオテープレコーダの普及からカラオケビデオテープが市販されるようになった。これは歌うべき曲の伴奏となる音声情報と、該曲の歌詞となる文字情報と、該曲の背景となる映像情報とが記録されているもので、これを再生すれば、伴奏は勿論歌詞およびその曲に合った背景がブラウン管上に映し出される。従つて歌詞カードがなくとも歌うことができ、歌詞カードの保管が不要で取扱い易く、また背景から歌に情感がこもる等の利点は有するものの、歌詞は数小節分が表示されるので、現在の伴奏がどの歌詞であるのか判らなくなることがあり、特にうろ覚えの曲の場合には伴奏に対する歌詞の個所が判らず一人で練習するには適さないものであつた。本発明は斯かる状況に鑑みてなされたもので、歌詞を見ずとも歌うことができ、また伴奏とのタイミングがずれたとしても歌うべき個所がすぐに判るビデオ記録媒体を提供することを目的とする。」(同号証1頁2欄4行〜2頁3欄18行)、「以下図を参照して本発明の一実施例を説明する。・・・映像情報と文字情報及び上記色調変化器によつて文字情報のうちの前記音声情報の進行に伴なつた歌うべき文字に着色された文字情報は、混合器2にて混合された後、音声情報供給装置5が発生する伴奏曲としての音声情報と混合曲6により混合され、ビデオテープレコーダ等の記録再生装置7にて記録される。この場合文字情報は音声情報と同期するように記録される。例えば曲「城ケ島の雨」を記録する場合においては、『雨が降る降る城ヶ島の磯に』という歌詞に対応する伴奏が始まる直前から終わる直前(又は直後)まで『雨が降る降る』という歌詞が映し出されるように混合されると共に、伴奏が進むにつれて歌うべき歌詞の色が変化するように記録される。すなわち『雨が降る降る城ケ島の磯に』という例えば白色の文字が映し出されると伴奏の進行に伴い、最初は『雨』の文字が、次に『が』の文字が、さらに『降』の文字がと、以下順に『に』の文字まで順に赤くなるように記録される。」(同号証2頁3欄19行〜4欄6行)と記載されている。 これらの記載によれば、本願発明は、従来のカラオケ装置において、歌い始めのタイミングがずれたり、伴奏に対する歌詞の箇所が判らないという状況が生じたことから、歌詞を見ずとも歌うことができ、伴奏とのタイミングがずれたとしても歌うべき個所がすぐに判るビデオ記録媒体を提供することを技術課題としており、その解決のための実施例として、映像情報と文字情報及び歌の進行に伴い着色された文字情報とが混合され、これに対し音声情報が更に混合されて記録される旨が記載されているものと認められる。しかし、これらの混合されて記録されたものが、情報の1態様である旨は記載されておらず、しかも、上記の記載はいずれも本願発明の要旨に基づく1実施例の説明にすぎないところ、本願発明の要旨においては、前示のとおり、「文字情報のうち前記音声情報の進行に伴った歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて記録した」とされており、特許請求の範囲において文字情報に関する記録の仕方、すなわち、情報の提示の仕方を明確に規定し、これを発明の特徴と明記しているのであって、単なる情報の内容を記載したものではないから、「情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するもの)」を行うものではないことは明らかであり、被告の上記主張を採用する余地はない。 また、被告は、上記混合情報をビデオ記録媒体に記録するときに、映像情報と色調変化器により着色された文字情報を記録するための信号が、混合情報の他の情報を記録するための信号と異なる形態であることについては記載がなく、着色文字情報と未着色文字情報との時間経過に応じた置換えは、混合器による映像情報と文字情報との混合までに既になされているのであり、ビデオ記録媒体に記録するときには、既に順次置き換えられた文字情報を単に記録しているだけであるから、この記録状態は、通常の文字入りビデオ映像を通常どおり記録することと変わりないものであり、これらによって、情報を提示する「記録」や「ビデオ記録媒体」を技術的・具体的に記載しているとはいえないから、本願発明の情報の提示に技術的特徴があるといえないと主張する。 たしかに、本願発明の実施例において、映像情報と色調変化器により着色された文字情報を記録するための信号が、他の情報を記録するための信号と異なる形態であることについては記載がなく、順次異なる色に置き換えられた文字情報を記録する状態は、通常の文字入りビデオ映像を記録する場合と異なるものではないと推測されるが、本願発明の技術的特徴は、前示のとおり、音声情報の進行に伴い歌うべき文字の色を異なる色に着色して記録する点にあり、その記録の状態に特徴を有するものではなく、また、異なる色に着色して記録することが具体的でないともいえないから、被告の上記主張は失当というほかない。 したがって、審決が、「本願発明の如き記録内容を列挙したに過ぎない記録媒体、すなわち、提示される情報の内容にのみ特徴を有する記録媒体は、自然法則を利用しているか否かに拘わらず、技術的思想でないものであるから『発明』に該当せず、特許法第29条第1項柱書に規定する『産業上利用することができる発明』の要件を満たしていない」(審決書7頁14行〜8頁1行)と判断したことは、誤りというほかない。 3 以上のとおり、審決は、本願発明が、特許法29条1項柱書きに規定する要件を満たしていないと誤って判断したものといわなければならず、このことが審決の結論に重大な影響を及ぼすことは明らかであり、その余の特許要件について更に検討する必要があることから、審決は取消しを免れない。 よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
平成8年審判第15456号審決請求人東芝イーエムアイ株式会社代理人弁理士A代理人弁理士B平成2年特許願第330750号「ビデオ記録媒体」拒絶査定に対する審判事件(平成5年8月24日出願公告、特公平5-57595)について、次のとおり審決する。 結論本件審判の請求は、成り立たない。 理由(手続の経緯、本願発明の要旨)本願は、昭和57年3月17日に出願した特願昭57-40901号の出願を、 平成2年11月30日に特許法第44条第1項の規定により分割して新たな特許出願としたものであって、その発明の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの、 「歌うべき曲の伴奏となる音声情報と、該曲の歌詞となる文字情報および映像情報とが記録されたビデオ記録媒体において、前記文字情報のうちの前記音声情報の進行に伴なった歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて記録したことを特徴とするビデオ記録媒体。」にあるものと認める。 (原査定の拒絶の理由)これに対して、原査定の拒絶理由である特許異議の決定の理由は、この出願の発明である「ビデオ記録媒体」は、記録された情報を単に提示するものに過ぎず、自然法則を利用した技術的思想ではないから、特許法第2条に定義されている発明とは認められず、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、 特許を受けることができない、というものである。 (審判講求人の主張)審判請求人の主張の主旨は概ね次の2点である。 1.原査定の拒絶理由は出願人に通知されたものではない。 2.原査定がいう“記録内容を表明したに過ぎないビデオ記録媒体は、自然法則を利用した技術的思想ではない”という点についての納得できる説明がなく、この説示は誤りである。 (当審の判断)上記審判請求人の各主張について検討する。 主張1について審判請求人は、「異議申立人は、“本願発明のビデオ記録媒体は、自然法則を利用した技術的思想ではない”という異議申立の理由は述べておらず、また、審査官は、このような趣旨の拒絶理由を出願人に通知していないので、原査定は特許法第50条の規定に違反してなされたものである」旨主張している。 そこで検討するに、原審において理由があると決定された特許異議の申立は、特許異議申立人東映ビデオ株式会社の特許異議申立であり、その申立の理由の一に特許法第29条第1項柱書の発明の成立性の要件がある。これに関して、特許異議理由補充書には、 「本願発明は「ビデオ記録媒体」に関する発明であるところ、その特許請求の範囲には、「ビデオ記録媒体」の「構造」や「記録技術」に関する記載は全く見当たらず、単に、出願人が「ビデオ記録媒体」への記録を希望する「記録内容」を列挙したものに過ぎない。」(第4頁第10行〜第14行)こと、および「本願発明の課題が、前者すなわち「歌うべき文字に色調変化器で着色を施して記録すること」にあるならば、本願発明の特許請求の範囲は、単に、「記録内容」に関する出願人の「希望」を表明したものであって、「創作」に該当しないことは明白」(第5頁第1行〜第4行)であることが記載されており、この特許異議申立理由補充書副本が出願人代理人Aに送付され、出願人東芝イーエムアイ株式会社から、上記の部分を含め、特許異議申立人の主張に答弁する特許異議答弁書が提出されている。 それ故、拒絶の理由として出願人に通知されたのは“本願発明のビデオ記録媒体は、記録内容を列挙したものに過ぎず、特許法第29条第1項柱書の発明の成立性の要件を満足していない”というものであるが、発明の成立性の要件は特許法第2条の「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」か否かということであるから、これと審判請求人が拒絶の理由として通知されていないと指摘する“本願発明のビデオ記録媒体は、自然法則を利用した技術的思想ではない”という理由との間に相違があるとすることはできない。 そして、原査定の拒絶理由である特許異議の決定の理由は、この出願の発明である「ビデオ記録媒体」は、記録された情報を単に提示するものに過ぎない、すなわち、記録内容を列挙したものに過ぎないから、自然法則を利用した技術的思想ではない、とするものであり、原査定は出願人に通知した特許異議申立理由に基づいてなされたものであって、この点に何等違法性はない。 主張2について審判請求人は、原査定がいう“記録内容を表明したに過ぎないビデオ記録媒体は、自然法則を利用した技術的思想ではない”という点について、甲第1号証として特許庁編「工業所有権逐条解説」を、 甲第2号証として特許庁編「特許・実用新案審査基準」の「第U部特許要件」を提出し、これらを見ても、本願発明が「自然法則を利用していない」とする原査定の理由は誤りである旨主張している。 しかしながら、審判請求人が甲第2号証として提出した特許庁編「特許・実用新案審査基準」の「第U部特許要件」の「第1章産業上利用することができる発明1.1「発明」に該当しないものの類型(5)技術的思想でないものA情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するもの)」の項には、機械の操作方法又は化学物質の使用方法についてのマニュアル、音楽を録音したCD、コンピュータブログラムを記録した記録媒体などが例示されており、本願発明の如き記録内容を列挙したに過ぎない記録媒体、すなわち、提示される情報の内容にのみ特徴を有する記録媒体は、自然法則を利用しているか否かに拘わらず、 技術的思想でないものであるから「発明」に該当せず、特許法第29条第1項柱書に規定する「産業上利用することができる発明」の要件を満たしていないことが記載されている。 それ故、原査定の理由においてなされた説示、“記録内容を表明したに過ぎないビデオ記録媒体は、自然法則を利用した技術的思想ではない”は、特許法第29条第1項柱書および特許法第2条の規定の適用にあたって、審査における統一的な判断基準に基づいてなされたものであり、妥当なものである。 (むすび)したがって、本願発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 平成9年5月14日審判長特許庁審判官(略)特許庁審判官(略)特許庁審判官(略) |
裁判長裁判官 | 田中康久 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 清水節 |