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関連審決 審判1995-7337
関連ワード 発明者 /  相違点の認定 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  出願公開 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  異議申立 / 
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事件 平成 10年 (行ケ) 116号 審決取消請求事件
原告 パイオニア株式会社代表者代表取締役 【A】
原告 マツダ株式会社代表者代表取締役 【B】
原告ら訴訟代理人弁護士 中村稔松尾和子
同 弁理士 【C】 【D】 【E】
同 弁護士 宮垣聡
被告 特許庁長官【F】
指定代理人 【G】 【H】 【I】 【J】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1999/07/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成7年審判第7337号事件について平成10年3月12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、昭和60年12月26日、名称を「情報表示装置」とする発明(本願発明)につき特許出願(昭和60年特許願第295524号)をし、平成8年3月6日出願公告されたが(特公平第8-23497号)、特許異議の申立てがあり、
平成7年3月14日拒絶査定を受けたので、同年4月14日審判の請求をし、平成7年審判第7337号として審理された結果、平成10年3月12日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月25日原告らに送達された。
2 本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項の記載) 地図情報をディジタル化して所定の記憶媒体に記憶させ、前記記憶媒体から読み出され、画像信号に変換された前記地図情報を表示装置に表示する情報表示装置において、
前記画像信号により所定の施設を当該施設が存在する位置に他の前記地図情報に重畳して表示するに際し、前記所定の施設を施設の種類毎に異なるシンボルとして表示する表示制御手段と、
前記シンボルに基づいて所望の施設を選択するための選択メニューを有し、当該選択メニューにより所望の前記施設を選択する選択手段と、
前記選択手段を介して選択された前記施設に対応する詳細情報を前記記憶媒体の前記地図情報から読み出し、表示する詳細情報表示手段と、
を備え、
前記選択手段は、前記施設の選択が終了したとき前記メニューを前記表示装置上から消去するとともに、
前記表示制御手段は、前記シンボルを前記地図情報に重畳して前記表示装置に表示した後、前記詳細情報を表示するための表示指標を表示することを特徴とする情報表示装置。
3 審決の理由の要点 (1) 本願発明の発明の要旨は前項のとおりと認める。
(2) これに対し、本件出願前の昭和60年2月25日に出願され、本件出願後の昭和61年8月28日に出願公開された特願昭60-35710号(特開昭61-194473号)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下一括して「先願明細書」と略称する。審判において特許異議申立人佐藤一良が提出したもの)には、地図情報等をディジタルオーディオディスクプレーヤー等の記録媒体プレーヤーから成る外部記憶装置10における記録媒体に記録し、外部記憶装置10により得られて画像メモリM1に記憶されている地図情報等の画像を表示装置1に表示する車載用ナビゲーション装置であって、画像信号により選択されたレジャー施設を当該施設が存在する位置に他の地図情報に重畳して表示するに際し、選択されたレジャー施設を施設の種類ごとに温泉マーク等の異なるシンボルとして表示する手段(特に、第6図の地図部分に関する記載を参照)と、前記シンボルに基づいて所望の施設を選択するためのレジャー施設選択キーを表示装置1上に有し、当該選択キーにより所望のレジャー施設を選択する手段(特に、第5図のシンボルマーク部分に関する記載を参照)と、外部記憶装置10により得られて画像メモリM3に記憶されている選択されたレジャー施設に対応する詳細リストを表示する手段(特に、
第7図の詳細リスト部分に関する記載を参照。)とを備え、シンボルを地図情報に重畳して表示した画面上に引き続き表示される第6図におけるレジャー施設選択キーが詳細リストを表示するための選択キーとなっている(特に、公開公報3頁右下欄16行〜4頁左上欄3行参照)車載用ナビゲーション装置、に関する発明が記載されている。
(3) そこで、本願発明と先願明細書に記載された発明とを対比すると、先願明細書に記載の発明の車載用ナビゲーション装置も、本願発明同様、ディジタル化して記憶させた地図情報を読み出して表示する情報表示装置に関するものであり、先願明細書に記載の発明の、上記「……シンボルとして表示する手段」、「レジャー施設選択キー」、「……レジャー施設を選択する手段」、「……詳細リストを表示する手段」、「……第6図におけるレジャー施設選択キー」は、それぞれ、本願発明の「表示制御手段」、「選択メニュー」、「選択手段」、「詳細情報表示手段」、「表示指標」に相当することから、両者は、地図情報をディジタル化して所定の記憶媒体に記憶させ、前記記憶媒体から読み出され、画像信号に変換された前記地図情報を表示装置に表示する情報表示装置において、前記画像信号により所定の施設を当該施設が存在する位置に他の前記地図情報に重畳して表示するに際し、
前記所定の施設を施設の種類ごとに異なるシンボルとして表示する表示制御手段と、前記シンボルに基づいて所望の施設を選択するための選択メニューを有し、当該選択メニューにより所望の前記施設を選択する選択手段と、前記選択手段を介して選択された前記施設に対応する詳細情報を前記記憶媒体の前記地図情報から読み出し、表示する詳細情報表示手段とを備え、前記表示制御手段は、前記シンボルを前記地図情報に重畳して前記表示装置に表示したとき、前記詳細情報を表示するための表示指標を表示することを特徴とする情報表示装置、である点で一致し、次の点で一応相違する。
シンボルを地図情報に重畳して表示した画面において、本願発明は、選択メニューを消去し、代わって、表示指標を表示するのに対して、先願明細書に記載の発明は、選択メニューを表示指標として兼用し、引き続き表示する点。
(4) 上記相違点について検討するに、先願明細書に記載の発明の、選択メニューに相当するレジャー施設選択キーは、シンボルと地図情報との重畳前においては重畳すべきシンボルの選択キーとして機能し、重畳後においては詳細情報の表示を選択するための表示指標として機能するものであることから、重畳の前後において、表面上は同じ表示であるが、機能的には全く別物とみるべきである。
すなわち、先願明細書に記載の発明においても、重畳に伴い、重畳すべきシンボルの選択キーとしてのレジャー施設選択キーは実質的に消去され、代わって、表示指標としての別物のレジャー施設選択キーが表示されるのであり、上記相違点には実質的差異はないものと認められる。
(5) 以上のとおり、本願発明は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であると認められ、しかも、本願発明の発明者が先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、本件出願時にその出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法29条の2の規定により、特許を受けることができない。
原告ら主張の審決取消事由
審決は、本願発明と先願明細書に記載の発明との間の相違点に関する判断を誤ったものであり、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから、審決は違法であり取り消されるべきである。
審決は、先願明細書に記載の発明につき、レジャー施設選択キーの機能が変化したことをもって、「重畳に伴い、重畳すべきシンボルの選択キーとしてのレジャー施設選択キーは実質的に消去され、代わって、表示指標としての別物のレジャー施設選択キーが表示されるのであり」と認定し、本願発明と先願明細書に記載の発明との間の相違点には実質的差異はないと判断した。この審決の判断は、レジャー施設選択キーから表示指標への機能の変化(先願明細書に記載の発明)と、同キー自体が表示装置に表示されなくなり、新たに表示指標が表示されたこと(本願発明)との間に存する重大な違いについての判断を誤ったものである。
1【本願発明の作用効果】 本願発明は、その構成を採用したことにより、次の作用効果を奏することができる。
@ 所望の施設を、各施設の種類ごとに異なったシンボルにより地図上に表示させるので、当該施設の地図上の位置情報を直観的に得ることができ、操作性が向上する。また、地図上に表示されたシンボルがどの種類の施設を示しているのかが、
直ちに認識することができる。
A 所望の施設の選択が終了したときにはメニューが消去されるので、上記シンボルを地図上に重畳して表示する際に表示装置上に表示できる地図の領域が広くなり、一つの画面で認識できる施設の表示数が多くなる。これにより、地図画面をスクロールさせる頻度も減少し、操作性の更なる向上が図れる。
B 選択された所望の施設の詳細情報を地図情報から読み出して表示装置に表示するので、地図上に表示されている施設の詳細情報を迅速に取得することができる。
C シンボルを地図情報に重畳して表示装置に表示した後、詳細情報を表示するための表示指標を表示するので、詳細情報を表示させることが容易で操作性が向上するとともに、各施設の位置の確認と、その施設のより詳細な情報の確認を独立に行うことができるので、操作性を向上させることができ、かつ、地図を表示する領域を縮小化することなく詳細情報を表示可能とすることができる。
D 施設を選択するためのメニューを表示装置上に表示するため、入力装置上に各施設の種類の数に対応する数のキーを設ける必要がなく、入力装置を小型化することができる。
2【本願発明において、シンボルと地図情報の重畳後に選択メニューを表示装置から消去することの意義】 本願発明の構成要件のうち「前記選択手段は、前記施設の選択が終了したとき前記メニューを前記表示装置上から消去するとともに」との規定によって、所望の施設の選択が終了したとき、選択手段により選択メニューを前記表示装置上から消去するとの構成を採用したことに伴う作用効果は、前記作用効果のA及びCである。
すなわち、所望の施設を選択メニューから選択して、表示装置上に当該施設のシンボルが表示されたときに、選択メニューを表示装置上から除去することによって、表示装置の面積を、地図の表示のために最大限に利用することが可能となるのである。これによって、まず、画面上に表示できる施設のシンボルの数が多くなり、次に、これに伴って、もし、選択メニューが残存していたのであれば、それに隠されて表示できなかったシンボルも表示できることから、無用な地図画面のスクロールが不要になり、操作性が向上する。
したがって、本願発明において、シンボルと地図情報の重畳後に選択メニューを表示装置から消去することによる作用効果は、表示装置上から選択メニューの表示そのものが消失することによって達成されるのであり、選択メニューとしての機能が喪失する点に存するのではない。
本願発明において、シンボルと地図情報の重畳後に選択メニューを表示装置から消去することの意義は、以上のとおりであり、本願発明において選択メニューそのものを実際に表示画面上から消去することと、先願明細書に記載の発明においてレジャー施設選択キーが、地図画面上に残存しつつも選択メニューとしての機能を喪失することとは、車両用ナビゲーション装置としてみた場合、本質的に相違する。
3【本願発明において、シンボルと地図情報の重畳後に表示指標を表示することの意義】 本願発明の構成のうちの「前記表示制御手段は、前記シンボルを前記地図情報に重畳して前記表示装置に表示した後、前記詳細情報を表示するための表示指標を表示することを特徴とする」との規定によって、シンボルを地図情報に重畳して表示装置に表示した後、詳細情報を表示するための表示指標を表示するとの構成を採用したことに伴う作用効果は、前記作用効果のB及びCである。
先願明細書に記載の発明では、選択メニューを表示指標として兼用するため、操作者が、いまだ施設を選択する状態なのか、施設選択後の詳細情報を表示させる状態なのかを画面上判別するのが困難なのに対し、本願発明では、施設選択により選択メニューが消去されて表示指標が表示されるため、詳細情報を表示させる状態になっているか否かを、操作者が一瞥して把握することが可能になる。
以上のとおり、先願明細書に記載の発明において、レジャー施設選択キーが地図画面上に残存しつつ表示指標として兼用されることと、本願発明において、選択メニューそのものを実際に表示画面上から消去した後、表示指標を表示することとは、車両用ナビゲーション装置としてみた場合、本質的に相違する。
審決取消事由に対する被告の反論
1 本願発明の特許請求の範囲の記載によれば、選択メニューについては「前記シンボルに基づいて所望の施設を選択するための」と規定されているだけであって、その表示形態は規定されていないから、画面表示が実施例として示されているものに限定して解釈することはできないし、本願明細書の発明の詳細な説明にもそのように限定して解釈すべきものとすべき記載はない。
したがって、本願発明には、先願明細書に記載の発明と同じ表示形態の選択メニューを採用した態様が含まれる。
2 本願発明の特許請求の範囲の記載によれば、表示指標については、「前記詳細情報を表示するための表示指標」と規定されているだけであって、本願発明の表示指標の表示形態は規定されていない。したがって、表示指標が選択された一つのシンボルのみに対応するものであるとも、あるいは、一つの枠のみが表示されるものであるとも限定して解釈することはできないし、本願明細書の発明の詳細な説明にもそのように限定して解釈すべきものとすべき記載はない。
さらに、選択メニューを消去し、その後表示指標を表示することをもって、表示指標から選択メニューで用いた表示形態は除外されるものであると限定して解釈することもできない。
したがって、本願発明には、選択メニューで用いた表示形態を表示指標の表示形態としても兼用した態様が包含される。
3 原告主張の本願発明の作用効果も、格別のものではない。
当裁判所の判断
1 甲第2号証(本願発明の特許出願公告公報)によれば、本願明細書に、本願発明の技術的課題として、
(1) 「本願発明は、地図に付随して施設に関する情報を表示装置に出力表示する情報表示装置に関する。」(甲第2号証2欄9及び10行)。
(2) 「各施設の名称等を道路とともに表示装置に常時表示すると、各施設の所在地を知ることができる反面、地図そのものが見難くなる欠点があった。また種々の施設が同時に表示されているので所定の1つの施設、例えばガソリンスタンドを捜すとき、ガソリンスタンド以外の施設の表示も行われているため、それらの中からガソリンスタンドの表示を区別して捜し出すのに時間がかかる欠点があった。従って、地図の見易さを確保するためには各施設の詳細な情報を省略しなければならず、また逆に各施設により詳細な情報を表示するためには地図の見易さを犠牲にしなければならなかった。」(甲第2号証3欄6〜17行) との記載があること、そして、本願発明は、この技術的課題の解決を目的として本願発明の要旨の構成を採択したものであることが認められる。
2 次に、甲第2号証及び第3号証(本願発明の平成8年12月24日付け手続補正書)によれば、本願明細書には、
「 所望の施設の選択が終了したときにはメニューが消去されるので、上記シンボルを地図上に重畳して表示する際に表示装置上に表示できる地図の領域が広くなり、一の画面で認識できる施設の表示数が多くなる。また、地図画面をスクロールさせる頻度も減少させることができ、操作性の更なる向上が図れる。」(甲第3号証3頁12行目〜15行目) と記載されていることが認められ、上記構成を採択したことにより奏する効果の一つとして、この記載に係る事項が本願明細書に明記されていることが認められる。
そして、この効果は、本願発明の構成のうち、「前記選択手段は、前記施設の選択が終了したとき前記メニューを前記表示装置上から消去するとともに」との規定によって達成されるものであることは、上記記載から明らかである。
3 また、本願発明は、以上のとおり、施設選択により選択メニューが消去されて表示指標が表示されていることから、「前記表示制御手段は、前記シンボルを前記地図情報に重畳して前記表示装置に表示した後、前記詳細情報を表示するための表示指標を表示する」との構成により、詳細情報を表示させる状態になっているか否かを、操作者が一瞥して把握することが可能になるとの効果を奏することは自明のことと認められる。 4 そして、先願明細書に記載の発明においては、審決が相違点の認定において認めたとおり(原告もこの点を争っていない。)、選択メニューを表示指標として兼用し、引き続き表示する構成を採用している。
しかるに、審決は、上記相違点に係る本願発明の上記構成が奏する効果を看過し、また、先願明細書に記載の発明が上記2及び3で認定した本願発明の効果を奏するものか否かについての認定判断を加えることなく(甲第4号証(先願明細書)によれば、先願明細書に記載の発明がこのような効果を奏するものとは、容易には認めることができない。)、相違点についての判断において、先願明細書に記載の発明につき、「重畳後においては詳細情報の表示を選択するための表示指標として機能するものであることから、重畳の前後において、表面上は同じ表示であるが、
機能的には全く別物とみるべきである。」として、「先願明細書に記載の発明においても、重畳に伴い、重畳すべきシンボルの選択キーとしてのレジャー施設選択キーは実質的に消去され、代わって、表示指標としての別物のレジャー施設選択キーが表示されるのであり、上記相違点には実質的差異はないものと認められる」と認定判断したものである。
この認定判断は、相違点に関する先願明細書に記載の発明の構成が奏する効果と本願発明の構成が奏する効果との相違を看過してした誤ったものであり、この看過は、本願発明が先願明細書に記載の発明と実質的に同一であるとした審決の結論に影響を及ぼすものであることが明らかである。
結論
よって、原告の主張は理由があるから審決を取り消すべく、主文のとおり判決する。
(平成11年6月29日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 市川正巳