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関連審決 不服2002-14654
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ11007不当利得返還等請求事件 判例 特許
平成16ワ26092特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成18ネ10077特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ653特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成12ワ20029特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  上位概念 /  技術常識 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10092号 審決取消(特許)請求事件
原告 セイコーエプソン株式会社
訴訟代理人弁護士 生田哲郎
同 山田基司
同 森本晋
同 美和繁男
訴訟代理人弁理士 松本雅利
被告 特許庁長官 小川洋
指定代理人 末政清滋
同 瀬川勝久
同 立川功
同 伊藤三男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/05/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-14654号事件について平成16年7月13日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,発明の名称を「眼鏡フレーム」とする特許の出願人である原告が,特許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,特許庁が審判請求不成立の審決をしたため,原告がその取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,平成4年12月9日,発明の名称を「眼鏡フレーム」とする発明につき特許出願(以下「本件出願」という。)をしたところ,特許庁は,平成14年7月2日,本件出願につき拒絶査定をした。
原告は,これを不服として,平成14年8月1日,拒絶査定不服審判の請求をしたが,同年8月29日付け手続補正書(甲3。以下「本件補正書」という。)で,本件出願における特許請求の範囲を補正した。
特許庁は,上記審判事件について審理した上,平成16年7月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年7月23日原告に送達された。
(2) 発明の内容 本件補正書により補正された特許請求の範囲は,以下のとおりである。
【請求項1】少なくともテンプル部表面に出光石油化学株式会社製マティロをコーティングした微粉化天然皮革繊維含有表面層を有することを特徴とする眼鏡フレーム。
【請求項2】請求項1記載の眼鏡フレームにおいて,更にパッド部表面に前記微粉化天然皮革繊維含有表面層を有することを特徴とする眼鏡フレーム。
【請求項3】請求項1又は2記載の眼鏡フレームにおいて,更にフロント部に前記微粉化天然皮革繊維含有表面層を有することを特徴とする眼鏡フレーム。
【請求項4】請求項1記載の眼鏡フレームにおいて,前記マティロが,微粉化された天然皮革繊維であるコラーゲン繊維とベースレジンから構成されることを特徴とする眼鏡フレーム。
【請求項5】請求項4記載の眼鏡フレームにおいて,前記ベースレジンが,一液常乾タイプのアクリル樹脂塗料であることを特徴とする眼鏡フレーム。
【請求項6】請求項4記載の眼鏡フレームにおいて,前記ベースレジンが,二液型ウレタン塗料であることを特徴とする眼鏡フレーム。
【請求項7】請求項1〜6いずれか記載の眼鏡フレームにおいて,フレームを構成する機材が,メタル,プラスチック又は複合樹脂であることを特徴とする眼鏡フレーム。
(3) 本件審決の内容 ア 本件審決の内容の詳細は,別紙のとおりである。その理由の要旨は,前記特許請求の範囲の請求項1ないし7のうち,請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は,後記引用例1に記載された発明と引用例2ないし4に記載された発明とに基づいて,当事者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない,としたものである。
記 ・引用例1 実願昭54-184759号(実開昭56-99523号)のマイクロフィルム(甲4) ・引用例2 特開昭62-257973号公報(甲5) ・引用例3 特開昭64-70599号公報(甲6) ・引用例4 特開平1-193400号公報(甲7) イ なお,本件審決は,本願発明と引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)の「つる(3)」,「眼鏡枠」はそれぞれ,本願発明の「テンプル部」,「眼鏡フレーム」に相当し,本願発明の「出光石油化学株式会社製マティロをコーティングした微粉化天然皮革繊維含有表面層」は,引用例1の「擬革製品」の概念に包含されるものとした上,本願発明と引用発明1は,次のような一致点と相違点があるとした。
(一致点) 「少なくともテンプル部表面に擬革製品の表面層を有する眼鏡フレーム。」である点 (相違点) 擬革製品の表面層が,本願発明は「微粉化された天然皮革繊維であるコラーゲン繊維とベースレジンから構成されるマティロをコーティングした微粉化天然皮革繊維含有表面層」であるのに対して,引用例1にはそのような記載がない点 (4) 本件審決の取消事由 しかしながら,本件審決は,以下のとおり,本願発明と引用発明1との一致点及び相違点に関する認定判断を誤り,その結果,本願発明の進歩性の判断を誤ったものであるから,違法として取消しを免れない。
ア 取消事由1(一致点の認定の誤り) 引用例1の眼鏡枠は,外周部分に皮革を被着させているもので,光沢感があるが,本願発明のマティロが塗布された眼鏡フレームのような表面の艶消し感がなく,また,短時間で汗を吸放湿するという吸放湿特性を有していないため,発汗時におけるさらさら感やべたつかないという特性がなく,このように本願発明と引用発明1とは特性が異なること,擬革製品とは,本物の皮革ではないが本物の皮革に擬制できるほど近いものをいい,本願発明の「天然皮革の風合いを持つ」程度では擬革製品には当たらないことからすれば,本願発明も引用発明1も等しく擬革製品の概念に包含され,本願発明と引用発明1が擬革製品の表面層を有する点で一致するとした本件審決の認定は誤りである。
イ 取消事由2(相違点の容易想到性に関する判断の誤り) 本件審決は,本願発明と引用発明1と同じような目的を有していること,マティロは,引用例2ないし4に記載されている皮革様を現出できる皮革粉を含有する塗料,コーティング材の範疇に入ることを前提として,引用例1の擬革製品の表面層としてマティロをコーティングした微粉化天然皮革繊維含有表面層を採用し,本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たと判断するが,以下に述べるとおり,誤りである。
(ア) まず,引用例1が眼鏡枠に皮革をそのまま被着させたものであるのに対し,本願発明はマティロでコーティングしたものであり,本願発明には,引用例1にはない「べたつきのない装用感」や「光沢を抑えた落ち着いた外観」などがあり,表面層の外観,特性が全く異なるから,本願発明と引用発明1が同じような目的を有するものとはいえない。
(イ) 次に,マティロは,「コラーゲン皮革繊維(天然タンパク質)を表面改質技術と微粉化技術を用いて形成した,12μm以下の粒度分布,最頻粒径値約5μm,かつ,最頻粒径値を中心とする左右ほぼ均一な粒径分布を有するパウダー」と「ウレタンあるいはアクリルといった樹脂(プラスチック)」とからなる塗料であり,その塗布表面層は,引用例2ないし4に記載のない艶消し感,吸放湿特性を有し,また,天然皮革の全皮を単に微粉化した場合と大きく異なり,「手に柔らかいソフト感人肌感覚」を持つものであるから,皮革様を現出するものではない。
したがって,マティロは,引用例2ないし4に記載されている皮革様を現出できる皮革粉を含有する塗料,コーティング材の範疇には入らない。
(ウ) 本件審決は,本願発明に進歩性がないことの判断を補強するため,本願発明においては使用するベースレジンの材料が特定されておらず,また,使用するベースレジン材料に基づく微粉化天然皮革繊維の含有割合も特定されていないから,粒径分布が12μm以下の微粉化天然皮革繊維を用いることをもって,本願発明が,原告主張のマティロを眼鏡フレームの表面層に選択したことによる予測できない顕著な効果(優れた吸放湿性による発汗時のずり落ち防止効果及び肌との摩擦力が大きくなることによるずり落ち防止効果)を奏するものとも認められないと判断するが,マティロにおいては,マティロの製品カタログ(甲8等)に記載のあるように使用されるレジンの種類のみならず,その含有割合もグレードにより差はあるものの,いずれも特定されているのであるから,本願発明においてレジン又は微粉化天然皮革繊維の含有割合が不特定ということはできず,上記判断は,その前提を欠き,誤りである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)ないし(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論 以下に述べるとおり,本件審決には,原告主張のような取消事由はない。
(1) 取消事由1に対して 本願明細書(甲2)には,本願発明は「滑らかなソフトな落ち着いた外観と滑らかなソフトな触感を有する天然皮革の風合いを持つ優れた装用感とファッション性を与える眼鏡フレームを得るものである。」との記載(段落【0005】)があること,本願発明の構成も「微粉化された天然皮革繊維であるコラーゲン繊維とベースレジンから構成される」ことから,本件審決は,本物の皮革でないという意味で,マティロをコーティングした微粉化天然皮革繊維含有表面層は,引用例1の「擬革製品」の概念に包含されるものと認定したものであり,また,マティロも本物の皮革に似せて作られた点で相違はなく,本件審決の一致点の認定に誤りはない。
(2) 取消事由2に対して ア 本願発明は,「滑らかなソフトな落ち着いた外観と滑らかなソフトな触感を有する天然皮革の風合いを持つ優れた装用感とファッション性を与える眼鏡フレーム」に関するものであり,引用例1には,「本考案の眼鏡枠は外観,肌触り等がよく,使用感が良好である」との記載があることからすれば,「外観」,「装用感(使用感)」を良くするという点で,本願発明と引用発明1が同じような目的を有するものといえるから,本件審決の認定に誤りはない。
イ 本願発明のマティロは,「微粉化された天然皮革繊維であるコラーゲン繊維とベースレジンから構成される塗料」である点で,引用例2ないし4の構成と一致する。
そして,本願明細書(甲2)の「天然皮革の風合いを持つ優れた装用感」の記載(段落【0005】),実施例1ないし4に関する記載(段落【0010】〜【0013】)等から,マティロは,本物の皮革ではないが天然皮革に似た風合いを持つものであるといえるから,マティロが引用例2ないし4に記載されている皮革様を現出できる皮革粉を含有する塗料,コーティング材の範疇に入るとした本件審決の認定に誤りはない。
ウ 本願発明のマティロは,補正後の請求項4に記載のとおり「微粉化された天然皮革繊維であるコラーゲン繊維とベースレジンから構成される」ことを限度とするもので,本願明細書に記載のないマティロの製品特性自体は本願発明の構成に直接関係がなく,また,マティロの製品カタログに記載された製品特性などは随時変更される可能性のあるものであり,そのような特性,数値のすべてを本願発明の構成と理解することはできない。
また,本願発明の効果は本願発明の構成から奏される効果のみを対象とすべきであって,マティロの製品カタログに記載された製品特性から原告主張のマティロを眼鏡フレームの表面層に選択したことによる予測できない顕著な効果を論ずることは失当である。仮に原告主張の効果があるとしても,眼鏡フレームに塗布した結果,マティロの持つ効果を奏するというだけでは,本願発明が進歩性を有するということはできない。
当裁判所の判断
1 請求の原因(1)ないし (3)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,原告主張に係る本件審決の取消事由(請求の原因(4))について,以下において判断する。
2 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 原告は,引用発明1には本願発明のマティロが塗布された眼鏡フレームのような艶出し感,吸放湿特性等がなく,本願発明と引用発明1とは,特性が異なり,また,擬革製品とは,本物の皮革ではないが本物の皮革に擬制できるほど近いものをいい,本願発明の「天然皮革の風合いを持つ」程度では擬革製品には当たらないから,本願発明も引用発明1も等しく擬革製品の概念に包含され,本願発明と引用発明1が擬革製品の表面層を有する点で一致するとの本件審決の認定は誤りである旨主張する。
(1)ア そこで検討するに,まず,引用例1(甲4)の明細書(マイクロフィルム分)には「実用新案登録請求の範囲」として「フレーム(1)およびつる(3)等の外周部分に皮革(5),(5′)を被着してなる眼鏡枠。」(1頁3行目ないし5行目),「本考案は枠体外周部に皮革を被せ,使用により肌触り,光沢等が良好となるようにした眼鏡枠に関するものである。」(1頁7行目ないし9行目),「本考案の眼鏡枠は上述のように,外周部分に皮革(2)を被せてあるので外観,肌触り等がよく,使用感が良好であり,かつ使用により肌触り,光沢等が益々良好となる利点があり,また衝撃力等に対し強く,さらに静電気による塵埃の附着が防止される等の実用的な効果を有している。」(2頁4行目ないし9行目)との記載がある。また,その昭和55年5月12日付け手続補正書(自発)2頁には,前記明細書2頁9行目の末尾に,「皮革(5)には天然および合成皮革等を使用することができ,またレザー・クロス等の擬革製品なども使用可能である。」を加入する旨の記載がある。
一方,本願明細書(甲2)には,「本発明に係る眼鏡フレームは,少なくともテンプル部に微粉化天然皮革繊維含有表面層を有しせしめることにより,滑らかなソフトな落ち着いた外観と滑らかなソフトな触感を有する天然皮革の風合いを持つ優れた装用感とファッション性を与えることを可能としたものである。」との記載(段落【0007】)がある。
イ そして,本件審決は,本願発明は,眼鏡フレームのテンプル部に微粉化された天然皮革繊維であるコラーゲン繊維とベースレジンから構成されるマティロをコーティングしたものを表面層として有せしめており,一方,引用発明1は,その眼鏡フレームに天然,合成皮革又はレザー・クロス等の擬革製品による表面層を有せしめていることから,「少なくともテンプル部表面に擬革製品の表面層を有する眼鏡フレーム。」である点で両者は一致するとしたもののようである。
(2) ところで,擬革とは「人造皮革」のことであり(広辞苑第五版628頁参照),本願発明にいう前記マティロでコーティングしたものと引用発明1にいう天然,合成皮革又はレザー・クロスの上位概念として,「擬革」なる表現をすることが適切であるかは疑問であるが,本願発明と引用発明1が,少なくともテンプル部表面に皮革様の表面層を有する眼鏡フレームである点では一致しているものと認められるから,本件審決の前記誤りは,本願発明と引用発明1との相違点の判断に影響を及ぼすものではなく,ひいては本件審決の結論に影響を及ぼすものとは認められない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告主張の前記一致点に関する本件審決の認定の誤りは,本件審決の取消事由に該当しないというべきである。
3 取消事由2(相違点の容易想到性に関する判断の誤り)について (1) 前記のとおり,本願発明は「少なくともテンプル部表面に出光石油化学株式会社製マティロをコーティングした微粉化天然皮革繊維含有表面層を有することを特徴とする眼鏡フレームにおいて,前記マティロが,微粉化された天然皮革繊維であるコラーゲン繊維とベースレジンから構成されることを特徴とする眼鏡フレーム。」(請求項1,4)であり,引用発明1は「フレーム(1)およびつる(3)等の外周部分に皮革(5),(5′)を被着してなる眼鏡枠。」のことであるが,本件審決は,本願発明と引用発明1とは,擬革製品の表面層が,本願発明は「微粉化された天然皮革繊維であるコラーゲン繊維とベースレジンから構成される出光石油化学株式会社製マティロをコーティングした微粉化天然皮革繊維含有表面層」であるのに対して,引用例1にはそのような記載がない点で相違すると認定している。
そして,本件審決によれば,上記相違点について,@本願明細書(甲2)の段落【0017】の【発明の効果】の項に「本発明は眼鏡フレームのフロント部,テンプル部,パッド部等の表面に微粉化天然皮革繊維含有表面層を形成せしめることにより,滑らかなソフトな触感を有する天然皮革の風合いを持つ優れた装用感とファッション性を付与することができる。さらに,吸放湿性に優れるため肌触りの良さを有し,難帯電性のためゴミなどの付着が防止できる。また,柔らかい微粉化天然皮革繊維と強靱なベースレジンとの複合により傷付きにくい強靱な表面を形成することができる。」と記載されていること,A引用例2ないし4に示されるように,天然の皮革に近く,膨潤特性を有し,肌触りが良好で,静電位分散機能を有する堅牢且つ緩衝性のある塗膜の形成が可能である皮革様塗料として,コラーゲン繊維からなる微細天然皮革繊維と合成樹脂材の塗膜形成要素とを含むものは,普通に知られていること,Bこのように,本願発明及び引用例1と同じような目的のために,コラーゲン繊維からなる微細天然皮革繊維と合成樹脂材の塗膜形成要素とを含むものを皮革様塗料として使用することが知られており,そして,マティロは,微粉化された天然皮革繊維であるコラーゲン繊維とベースレジンとから構成されるものであるから,マティロは,引用例2ないし4に記載されている皮革様を現出できる皮革粉を含有する塗料,コーテング材の範疇に入るものであることは明らかであること,Cマティロ自体は,原告も知るように,既に知られたものであることを認定した上,上記@ないしCからすれば,少なくともテンプル部表面に施す引用例1の擬革製品の表面層として,微粉化された天然皮革繊維であるコラーゲン繊維とベースレジンから構成されるマティロをコーティングした微粉化天然皮革繊維含有表面層を採用して本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるから,本願発明に進歩性がないと判断したものである。
(2) 原告は,本件審決の上記(1)@,A及びCの認定を認めた上で(原告準備書面(1)の第3の4),上記Bについて,本願発明と引用発明1が同じような目的を有しているとの認定及びマティロが引用例2ないし4に記載されている皮革様を現出できる皮革粉を含有する塗料,コーティング材の範疇に入るとの認定はいずれも誤りであり,これらの誤った認定を前提として,本件審決が引用発明1ないし4を組み合わせて本願発明を当業者が容易に想到できたと判断したものであるから,その判断も誤りである旨主張する。
ア そこで検討するに,前記2(1)アで認定したとおり,引用例1の明細書には「本考案は枠体外周部に皮革を被せ,使用により肌触り,光沢等が良好となるようにした眼鏡枠に関するものである。」,「本考案の眼鏡枠は上述のように,外周部分に皮革(2)を被せてあるので外観,肌触り等がよく,使用感が良好であり,かつ使用により肌触り,光沢等が益々良好となる利点があり」との記載があることからすると,引用例1は,眼鏡枠の使用による肌触りを良好とすることを目的の一つとした発明であることが認められる。
イ 次に,甲15(塗料新聞社・平成元年1月25日発行の「塗料報知」)記載の出光石油化学製品販売部製品課Aの記事には,見出しに「「見る塗装」から「触れる塗装」へ」との記載があり,その本文に,「マティロの特長・用途」として「プロテインペイント「マティロ」は天然コラーゲン繊維のファインパウダーであるプロテインパウダーと,強く粘りのある特殊ウレタン樹脂とを複合化した天然・本物志向の新感覚塗料である。天然皮革を原料とし,ミクロンオーダーに超微粉化したプロテインパウダーを塗膜の中に均一に分散させることにより,人工の素材に天然皮革の持つ良感触性・吸放湿性・難帯電性を与え,従来の塗膜にはない新しい質感・触感の表現が可能となった。「見る塗装」から「触れる塗装」へと塗料の概念を変える画期的な塗料である。」,特長のまとめとして「(1) 目にやさしく,均一な艶消し効果」,「(2) 手に柔らかいソフト感・人肌感覚」,「(3) 吸放湿性を持ち,温かい感触」,「(4) 指紋の跡が残らない」,「(5) 傷付きにくく強靱な塗膜」,「(6) 塗装性に優れる」との記載があり,さらに,「「マティロ」には「マティロI」と「マティロU」の二つのグレードがある。「マティロI」はソフト感に加えドライタッチ感を持たせたもので,言わば男性的タッチ感が得られる。「マティロU」はソフト感に加え,ぬめり感を持たせたもので,しっとりとした風合いが表現できる,言わば女性的タッチ感が得られる。「マティロ」は幅広い分野への適用が可能であるが,特長の活かせる分野,即ち,目で見て,手で触れる部分が主な対象となる。・・・(中略)・・・自動車ではインスツルメントパネル,コンソールボックス,ハンドル等の内装部材が,家電・OA機器関係ではハウジング,キャビネット,把手等があげられる。文具,家具・調度品,化粧品容器等も「マティロ」の特性を活かせる用途である。」との記載がある。
このような甲15の上記各記載,及びマティロ自体は既に知られた存在であったこと(前記(1)C)からすると,マティロは,微粉化された天然皮革を原料とした天然コラーゲン繊維とベースレジンから構成された良感触性,吸放湿性等の特性を有する塗料であって,目で見て,手で触れる部分を主な対象とする塗料として幅広い分野に適用できるものであることが,本願出願前に当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとって技術常識となっていたことが認められる。
ウ 前記ア及びイに加えて,引用例2ないし4に示されるように,天然の皮革に近く膨潤特性を有し肌触りが良好で静電位分散機能を有する堅牢且つ緩衝性のある塗膜の形成が可能である皮革様塗料として,コラーゲン繊維からなる微細天然皮革繊維と合成樹脂材の塗膜形成要素とを含むものは,普通に知られていたこと(前記(1)A)を考慮すると,引用例1の目的の一つである眼鏡枠の使用による肌触りを良好とするため,微粉化された天然皮革を原料とした天然コラーゲン繊維とベースレジンから構成された良感触性・吸放湿性等の特性を有する塗料であるマティロを,引用例1に記載された眼鏡フレームのテンプル部表面に表面層として採用し,本願発明の構成に至ることは,当業者が容易になし得たものと認められる。
なお,原告主張のマティロを眼鏡フレームの表面層に選択したことによる効果(優れた吸放湿性による発汗時のずり落ち防止効果及び肌との摩擦力が大きくなることによるずり落ち防止効果)も,前記イのとおり,マティロ自体が吸放湿性に優れることが知られていた以上,当業者が容易に予測できたものと認められる。
エ そうすると,本願発明と引用発明1とが同じような目的を有しているかどうか及びマティロが引用例2ないし4に記載されている皮革様を現出できる皮革粉を含有する塗料,コーティング材の範疇に入るかどうかについて検討するまでもなく,引用発明1ないし4に基づいて本願発明を当業者が容易に想到できたと判断した本件審決に誤りはないというべきである。
したがって,原告の取消事由2の主張も,採用することができない。
結論
以上によれば,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 大鷹一郎
裁判官 早田尚貴