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事件 平成 7年 (ワ) 5978号 不正競争行為差止等請求事件
原告 カーマン株式会社右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 山田勝利
同 小川憲久
被告 レッツ有限会社右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 鈴木久義
被告 株式会社化粧賓館右代表者代表取締役 【C】
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1999/08/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
請求
一 被告らは、別紙第一物件目録記載の商品(以下「被告商品」という。)を製造し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。
二 被告らは、被告商品を廃棄せよ。
三 被告株式会社化粧賓館は、原告に対し、金一一六五万円及びこれに対する平成七年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告レッツ有限会社は、原告に対し、金一八六七万二七五〇円及びこれに対する平成七年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告が被告らに対し、被告商品の製造販売は、@原告が有する特許権を侵害する、A不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たるとして、特許権侵害を理由とする被告商品の製造等の差止め及び廃棄並びに不正競争行為を理由とする損害賠償を求めた事案である。
当事者の主張
一 本件特許権侵害を理由とする差止め等の請求1 原告の主張(一) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。
特許番号 第二五一二三七九号発明の名称 リンパドレナージュ用のマット出願日 平成五年九月九日(特願平五・二二四七八〇)公開日 平成七年三月二八日(特開平七・八〇〇八三)登録日 平成八年四月一六日特許請求の範囲 別紙特許公報記載のとおり。
(二) 本件特許権の特許請求の範囲請求項3は、次のとおりである。
「マット本体(1)は発泡ウレタン材料の芯材と塩化ビニール等の合成樹脂のカバー材料の表面で構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマット。」(以下、請求項3のうち、「マット本体(1)は発泡ウレタン材料の芯材と塩化ビニール等の合成樹脂のカバー材料の表面で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のマット」の発明を「本件発明」という。) (三) 本件発明の構成要件は、次のとおりに分説することができる(以下、「構成要件A」などという。)。
A リンパドレナージュ用のマットであること。
B マット本体は、発泡ウレタン材料の芯材と塩化ビニール等の合成樹脂のカバー材料の表面で構成されていること。
C マット本体の表面上に、横臥した人体の所望部位が導電接触するためにある導電性材料の柔軟な帯状の親電極が少なくとも一つ設けてあり、かつ、同様の構造の子電極が複数設けてあること。
D 親電極と子電極は、それぞれマット本体内に設けた導線を介して、外部電源に接続するための接続端子と接続し、該接続端子はマット本体の一部に設けてあること。
(四) 被告株式会社化粧賓館(以下「被告化粧賓館」という。)は、平成六年八月ころから被告商品を製造して被告レッツ有限会社(以下「被告レッツ」という。)及び有限会社ファット・ビーケーに販売し、被告レッツは、被告商品を販売している。
(五) 被告商品は、リンパドレナージュ用マット(以下「被告マット」という。)及びコントロールボックスからなる商品であるところ、被告マットは、次の構成を有する。
a マット本体1はリンパドレナージュ用の仰臥マットである。
b マット本体1は発泡ウレタン材の芯材と塩化ビニール系の表面材で構成されている。
c マット本体1の表面にアルミ箔の貼られた柔軟な帯状の薄いゴムシート2が親電極として三枚設けられ、更に同様の構造の子電極3が腕用電極又は腰用電極として四枚以上設けられている。
d 親電極2と子電極3は、いずれもそれぞれマット本体1に設けられた導線を介して接続端子であるシート入力ホック4と接続しており、シート入力ホック4は、
マット本体1の中央部に設けられている。
(六) 被告商品は、次のとおり、本件発明の構成要件をすべて充足し、その技術的範囲に属する。
(1) 被告商品のマット本体1はリンパドレナージュ用の仰臥マットであり、構成要件Aを充足する。
(2) 被告商品のマット本体1は発泡ウレタン材の芯材と塩化ビニール系の表面材で構成されており、構成要件Bを充足する。
(3) 被告商品のマット本体1の表面に設けられたアルミ箔の貼られた柔軟な帯状の薄いゴムシート2は、横臥した人体の所望部位が導電接触するための導電性材料であり、かつ、三枚が親電極として用いられ、四枚が子電極として用いられており、
構成要件Cを充足する。
(4) 被告商品の親電極2はマット1本体中の導線を介して接続端子であるシート入力ホックの一つと接続し、子電極3もまたマット本体1中の導線を介して接続端子であるシート入力ホックの別の一つと接続している。そして、接続端子であるシート入力ホック自体は、マットの一部に設けられている。したがって、構成要件Dを充足する。
(七) 以上のとおり、被告商品は本件発明の技術的範囲に属するから、その製造販売は本件特許権の侵害となるところ、被告らは将来被告商品を製造販売し、本件特許権を侵害するおそれがある。
(八) よって、原告は、被告らに対し、被告商品を製造し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しのために展示することの差止めと被告商品の廃棄を求める。
2 被告らの主張(特に明示しない主張は、被告らに共通の主張である。)(一) 右1(一)ないし(三)は認める。
(二) 被告マットの構成(右1(五))について、本体1が「マット」であること、
親電極2と子電極3と表示される部分が「シート」であることは否認し、その余は認める。
本体1は「マット」ではなく、「シート」であり、また、親電極2と子電極3と表示される部分は「シート」ではなく「プレート」である。
(三) 被告化粧賓館が、右(二)のような構成を有する商品を製造して被告レッツ及び有限会社ファット・ビーケーに販売し、被告レッツが右商品を仕入れて販売又は無償譲渡したことは認める。
(被告化粧賓館) 被告化粧賓館は、平成六年八月限りで、右商品の製造を中止し、同年末までに販売も中止した。
(被告レッツ) 被告レッツが右商品を販売又は無償譲渡したのは、平成六年末までである。
(四) 被告商品が本件発明の技術的範囲に属するとの主張は争う。
(五) 仮に、被告商品が本件発明の技術的範囲に属するとしても、被告らは、将来被告商品を製造販売する意思も計画もないから、本件特許権を侵害するおそれはない。
二 不正競争行為を理由とする損害賠償請求1 原告の主張(一) 原告は、平成五年九月二一日から平成七年六月ころまで別紙第二物件目録記載の低周波痩身美容器具「リンパドレナージュ『やせる君』」(以下「原告商品」という。)を製造販売した。
原告商品は、低周波によりリンパの流れをよくし、基礎代謝を上げて体脂肪の燃焼を促進するとともに、筋機能を高めることで、体重に占める体脂肪の割合を減少させることを目的とする痩身美容器具である。
従前の同種器具は、電極を使用者の身体の必要部位に貼り付け又は巻き付けて使用するものであったが、原告商品は、仰臥マット上に電極シートを配置し、使用者は仰臥マット上に仰臥して使用することにより効果を発揮できるようにしたものである。
(二) 原告商品のリンパドレナージュ用のマット(以下「原告マット」という。)は、別紙第二物件目録の外形図面記載のとおり、次の形態を有する。
(1) マット全体はうすい長方形で、その短辺と長辺の長さの比は約一対二・四(実寸五八センチメートル×一四〇センチメートル)である。
(2) マットを床の上に縦長に置いて観察した場合、その上半部に相当する部分の表面に接続端子を兼ねたホックが取り付けられており、これらのホックに七枚の電極シートAを装着するようになっている。マット表面のホックとホックの間には帯状の金属箔が張り付けてある。
(3) 電極シートAは、すべて同じ短冊形の形状で、その短辺と長辺の長さの比は約一対六(実寸五センチメートル×二八センチメートル)であり、マットの短辺に対する電極シートAの長辺の長さの比は約一対〇・五である。
各電極シートAの両端部にはマット上のホックに対応した接続端子兼用のホックが付いている。ホック間の隔たりは二六センチメートルである。
(4) 電極シートAのうち五枚は、マットの上半部中央に横向きに並べて取り付ける。この五枚のうち、上の三枚と下の二枚の間には、電極シート一枚分のスペースが空いている。残りの二枚は、五枚の電極シートAの両端部に、縦向きに取り付ける。電極シートAを取り付けると、金属箔は電極シートの下に隠れて見えない。
(5) マット中央左端近くには、外部電源接続用の円形の電極端子(電極ホック)がマットの長辺に沿って三個並んでいる。
(6) マットの裏面は無地である。
(7) 電極シート(移動可能)は、脚用電極プレート及び腹用電極プレートであり、
そのうち脚用電極プレートは、表面がアルミ金属、裏面が黒色ゴムシートよりなり、短辺一九センチメートル、長辺三九センチメートルの短冊形の形状で、表面短辺端中央にバナナジャックが設置され、電極コードに接続して、マット下部中央に表面上向きにし、横向きに置いて使用する。
また、腹用電極プレートは、表面がアルミ金属、裏面が黒色ゴムシートよりなり、短辺一三センチメートル、長辺六〇センチメートルの短冊形の形状で、裏面短辺端中央にバナナジャックが設置され、電極コードに接続して、表面を腹部に巻き付けて使用する。
以上のような原告マットにおけるマットの形状並びに電極シートの配置及び形状は、それまで同種の形態を有する商品がなかったため、原告において人体のつぼの位置等を研究のうえ、選択、判断して決めたものであり、原告商品と機能・効果の類似する商品が通常有する形態ではない。
(三) 被告化粧賓館は、平成六年八月ころから、被告商品を製造して被告レッツ及び有限会社ファット・ビーケーに販売し、被告レッツは、被告商品を販売している。
被告商品のうち被告マットは、別紙第一物件目録の外形図面記載のとおり、次の形態を有する。
(1) マット全体はうすい長方形で、その短辺と長辺の長さの比は約一対二・三(実寸六〇センチメートル×一三八センチメートル)である。
(2) マットを床の上に縦長に置いて観察した場合、その上半部に相当する部分の表面に接続端子を兼ねたホックが取り付けられており、これらのホックに七枚の電極シートaを装着するようになっている。
(3) 電極シートaは、すべて同じ短冊形の形状で、その短辺と長辺の長さの比は約一対六(実寸五センチメートル×二八センチメートル)であり、マットの短辺に対する電極シートaの長辺の長さの比は約一対〇・五である。
各電極シートaの両端部にはマット上のホックに対応した接続端子兼用のホックが付いている。ホック間の隔たりは二六センチメートルである。
(4) 電極シートaのうち五枚は、マットの上半部中央に横向きに並べて取り付ける。この五枚のうち、上の三枚と下の二枚の間には、電極シート一枚分のスペースが空いている。残りの二枚は、五枚の電極シートaの両端部に、縦向きに取り付ける。
(5) マット中央左端近くには、外部電源接続用の円形の電極端子(電極ホック)がマットの長辺に沿って三個並んでいる。
(6) マットの裏面は無地である。
(7) 電極シート(移動可能)は、脚用電極プレート及び腹用電極プレートであり、
そのうち脚用電極プレートは、表面がアルミ金属、裏面が黒色ゴムシートよりなり、短辺一九センチメートル、長辺三八センチメートルの四隅を切り落とした短冊形の形状で、裏面短辺端中央にスナップ端子が設置され、電極コードに接続して、
マット下部中央に表面上向きにし、横向きに置いて使用する。
また、腹用電極プレートは、表面がアルミ金属、裏面が黒色ゴムシートよりなり、短辺一三センチメートル、長辺六五センチメートルの四隅を切り落とした短冊形の形状で、裏面短辺端中央にスナップ端子が設置され、電極コードに接続して、
表面を腹部に巻き付けて使用する。
(四) 以上のとおり、原告マットと被告マットの形態は、マットの短辺及び長辺の長さ、脚用電極プレート及び腹用電極プレートの四隅の形状及び長辺の長さが異なるほかは全く同一であり、右の相違も微細なものに過ぎず、全体として極めて類似した形態をしており、被告マットは原告マットを模倣したものであるから、被告らの被告商品の販売は、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当する。
(五) 被告らは、故意又は過失により右不正競争行為を行い、これにより原告は営業上の利益を侵害され、次のとおり少なくとも一八六七万二七五〇円の損害を被ったから、被告らは、右損害を賠償する責任がある。
(1) 国内で販売されている原告商品と同種の製品は、原告商品を除いては被告商品だけであるから、被告商品の販売は、直ちに原告商品の販売数の減少をもたらすものといえる。したがって、原告は、被告らの被告商品の販売により、その販売数だけ得べかりし利益を喪失し、損害を被った。
(2) 原告は、原告商品を一台当たり一四万二五〇〇円から二九万円の価格で販売しており、原告商品の平均販売価格は一六万七五〇〇円である。また、原告商品の製造原価は、一台当たり四万三〇一五円である。したがって、原告の原告商品一台当たりの利益は、平均一二万四四八五円である。
(3) 被告らは、被告商品を少なくとも一五〇台販売したから、これにより原告が被った損害は一八六七万二七五〇円を下らない。
@124,485×150=18,672,750(六) よって、原告は、被告レッツに対しては、右損害金一八六七万二七五〇円及びこれに対する不正競争行為の後である平成七年九月二五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告化粧賓館に対しては、右損害金の一部として一一六五万円及びこれに対する不正競争行為の後である平成七年九月二五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
2 被告らの主張(特に明示しない主張は、被告らに共通の主張である。)(一)(被告レッツ) 原告が原告商品を製造販売したことは否認する。原告商品を製造販売していたのは原告ではなく、ヤーマン株式会社(以下「ヤーマン」という。)である。
(被告化粧賓館) 原告が原告商品を製造販売したことは知らない。
(二) 原告マットの形態は知らない。
(三) 被告マットが右1(三)(1)ないし(7)の形態を有することは、以下の点を除き認める。この商品の製造販売についての認否は、前記一2(三)のとおりである。
(被告レッツ)(1) 別紙第一物件目録の外形図面記載の本体1は「マット」ではなく、「シート」であり、その実寸は五八センチメートル×一四三センチメートルである。
(2) 同図面の電極「シート」(固定)a及び電極「シート」(移動可能)はいずれも「プレート」であり、両電極プレート(移動可能)はその両短辺端にマジックテープが付けられ、脚用電極プレートは大腿部に、腹用電極プレートは腹部に巻き付けて使用するものである。
(被告化粧賓館)(1) 別紙第一物件目録の外形図面記載の本体1は「マット」ではなく、「シート」であり、その実寸は六〇センチメートル×一三九センチメートルである。
(2) 同図面の電極「シート」(固定)a及び電極「シート」(移動可能)はいずれも「プレート」である。
(3) 脚用電極プレートの長辺は四五・五センチメートルであり、その両短辺中央にマジックテープが付けられ、大腿部に巻き付けて使用するものである。
(4) 腹用電極プレートの長辺は六七センチメートルであり、その両短辺中央にマジックテープが付けられている。
(四) 原告マットと被告マットの形態が類似するとの主張は争う。
仮に両者の形態が類似するとしても、原告商品は、イタリア国のボラーニ社の商品である「ウィリー」を模倣したものであるから、原告マットの形態は他の同種商品を原告商品とを識別させる独自性を有するものではない。また、原告マットの形態は、体脂肪割合の減少を目的とする痩身美容器具として通常有する形態である。
(五) 原告の損害(右1(五))については、被告化粧賓館が右(三)の商品を一五〇台製造販売し、そのうち三五台を被告レッツが仕入れて販売又は無償譲渡したことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
仮に、原告が原告商品を製造販売していたとしても、平成六年八月当時にはすでに販売を中止していたから、原告に損害が生じる余地はない。
(被告レッツ) 仮に、国内で販売されている原告商品と同種の製品が原告商品を除き被告商品だけであるとしても、被告商品の販売が直ちに原告商品の販売数の減少をもたらすとはいえない。
当裁判所の判断
一 不正競争行為を理由とする損害賠償請求について1 前記第三の一1(一)の争いがない事実に証拠(甲三、甲七の二、甲一三の一ないし一三、甲一六の一ないし二三、甲二〇、二四、乙三二、三三)と弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
(一) ヤーマンは、同社の現在の代表取締役である【D】(以下「【D】」という。)が昭和五三年五月二七日に電子機械・電子機器の製造及び販売等を目的として設立した会社であり、原告は、同じく【D】が電子計測機、光学計測機等の電子機械・電子機器の製造及び販売並びに輸出入等を目的として昭和六一年一二月一七日に設立した会社である。原告の株式は全て【D】が所有している。原告とヤーマンは、その目的が実質的に同じであり、原告代表者は【D】の親族である。また、
原告には固有の事務所がなく、その本社、支社はヤーマンの本社、支社と同じところとされており、両者の電話番号も同一である。
(二) 平成五年九月から、別紙第二物件目録記載の低周波痩身美容器具(原告商品)が、「リンパドレナージュ『やせる君』」の名称で、製造販売された。
原告商品の取扱説明書(甲三)には製造元として原告が表示されている。
(三) 原告商品のリンパドレナージュ用のマット(原告マット)の本体1の表面上には、別紙第二物件目録の外形図面記載のとおり、七枚の親電極2及び子電極3が固定されており、これと電極ホック4とが本体1の内部に設けられた導線で接続されている。
(四) ヤーマンは、平成六年一月一三日、リンパドレナージュ用のマットに関する考案の実用新案登録出願(実願平六・六〇)をし、同年五月二五日、その実用新案登録(登録番号第三〇〇〇一四三号)を得たが、その明細書の考案の詳細な説明には、【0002】に従来の技術として本件特許権に係るリンパドレナージュ用のマットを記載したうえ、【0003】にその問題点として、「このリンパドレナージュ用のマットを実際に作製および使用するに従い、種々の難点が見い出された。例えば、印加電極がマットに貼り付け固定されているため、身体の大きさの異なる人に対して使用が全て一定に行き届かず、身体の所望位置からずれたところに電位を印加せざるを得ない場合が往々あった。その外、各電極に外部から電流を接続するためにある導線をマット内に埋め込んでいるため、断線あるいは接続箇所での接触不良を簡単に見付けだすことが困難であった。また、それ等の不良箇所を発見した場合、マットを破って不良箇所を直接修理する必要があった。更に、印加電圧用の導電接触面は可撓性材料のゴム等の表面に金属層を被覆したものであるため、金属層が破損したり、あるいは皺や折れ曲がりが生じることが多かった。」との記載がある。
右考案のリンパドレナージュ用のマットにおいては、身体に接触させる電極はマット表面の任意の位置に移動可能に接着されるものであり、しかも電極に接続される導線は、マットの内部に埋め込まれていない。
(五) 原告商品は、本件発明の実施品であるところ、本件特許権は、ヤーマンが平成五年九月九日に特許出願(特願平五・二二四七八〇)したものであり、平成七年三月二八日に右特許出願が公開された時点でも出願人はヤーマンであった。
(六) ヤーマンは、平成六年一月一三日、美容処理用のマットに関する考案の実用新案登録出願(実願平六・五九)をし、同年五月二五日、その実用新案登録(登録番号第三〇〇〇一四二号)を得たが、その明細書の考案の詳細な説明の【0002】には、「この種の美容処理に使用する電極は、本出願人が既に提唱しているリンパドレナージュ用の電極マット(特願平5・224780号明細書)の中で既に使用されている。このマットをやせる君(商標登録申請中)として製造・販売もしている。」との記載がある。
2(一) 原告は、原告商品を製造販売していたのは原告であると主張し、原告代表者の陳述書(甲二〇)にはこれに沿う記載があるほか、入出庫連絡表(甲一の一ないし一四)には「やせる君」の出庫が記載されており、また、右1(二)認定のとおり、原告商品の取扱説明書には製造元として原告が表示されている。
(二) しかし、原告が本件において原告商品の納品書として提出している納品書(甲一三の一ないし一三、甲一六の一ないし二三)は、全てヤーマン名義である。
これについて、右陳述書には、原告とヤーマンとは実体的に明確な営業区分がなく、原告には固有の納品書用紙がなかったので、ヤーマンの納品書用紙を使用した旨の記載があるが、右1(一)認定のとおり、原告の設立は昭和六一年一二月であることからすると、右納品書が作成された平成五、六年当時、原告が実際に営業活動を行っていたのであれば、原告固有の納品書用紙がないのは極めて不自然であるから、納品書用紙に関する右陳述書の記載を信用することはできない。
また、入出庫連絡表(甲一の一ないし一四)には作成者の表示がないから、原告作成の文書であるかどうか明らかでない上、原告商品の納品書(甲一三の一ないし一三)と対比してみると、平成五年九月二八日出庫に係る「やせる君」(甲一の一)に対応する納品書がないなど右入出庫連絡表の記載は右納品書と一致していないから、その内容も信用性に欠けるものである。
さらに、原告が原告商品を製造したのであれば、それを裏付ける原告名の帳簿や取引書類などの証拠があってしかるべきであるが、そのような証拠も全く提出されていない。
(三) 右(二)で述べたところに右1認定の事実を総合すると、右(一)の原告代表者の陳述書、入出庫連絡表及び取扱説明書の記載から、原告が原告商品を製造販売していたものと認めることはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
3(一) 被告らが製造販売していた商品が原告が主張する形態(前記第三の二1(三))を有するとしても、証拠(甲四、乙二の一ないし七、乙三の一ないし七、乙六の一、二、乙七の一、二、乙九、乙一〇の一ないし七、乙二〇の一ないし六、乙二一の一ないし四、乙二三、二四)と弁論の全趣旨によると、被告らが右商品(被告商品)を製造販売していたのは、平成六年八月以降であると認められる。
(二) 仮に原告が原告商品を製造販売していたことがあるとしても、次のとおり、
平成六年八月以降において原告が原告商品を製造販売していたとは認められない。
(1) 甲第一三号証の納品書の品名欄には、「やせる君」、「個人用リンパドレナージュ やせる君」、「やせる君 プロフェッショナル」、「個人用リンパドレナージュ やせる君 プロフェッショナル」、「やせる君 スタンダード」との記載があるが、これらの納品書は、平成五年九月二七日から同年一二月二二日までのものであるから、被告らが被告商品を製造販売する前のものである。
(2)ア 甲第一六号証の納品書は、平成六年六月一八日から平成八年二月一六日までのものであり、その品名欄には、「リンパインピーダンス」、「やせる君 フリーダム」との記載がある。
そして、原告は、原告商品の正式名称は「リンパドレナージュ」であったが、発売当初に「やせる君」の名称を一時的に使用し、その後、平成六年ころからマット上の電極シートの位置を変更したものを「リンパドレナージュ プロフェッショナル」として販売し、これと並行して従来の原告商品を「やせる君」として販売し、
その後、「リンパドレナージュ プロフェッショナル」に体脂肪測定機能を追加したものを「リンパインピーダンス」として販売した旨主張する。
イ 証拠(甲二一、二二)によると、「リンパドレナージュ プロフェッショナル」の専用シート(原告マットに相当するもの)には、電極ベルト(原告マットの電極シートに相当するもの)が固定されておらず、電極ベルトを専用シート上の必要な位置に置いて使用するものであること、電極ベルトに接続される導線は専用シートの内部に設けられていないこと、「リンパインピーダンス」の専用シート(原告マットに相当するもの)と電極ベルト(原告マットの電極シートに相当するもの)も「リンパドレナージュ プロフェッショナル」と同様のものであることが認められ、これらの事実によると、原告商品の原告マットに相当する「リンパドレナージュ プロフェッショナル」及び「リンパインピーダンス」の各専用シートの形態は、原告マットの形態とは異なるものと認められるから、平成六年六月一八日から平成八年二月一六日までの間における甲第一六号証の納品書の品名欄に「リンパインピーダンス」と記載された商品は原告商品とは異なるものであるということができる。
ウ 右納品書のうち品名欄に「やせる君 フリーダム」との記載のあるもの(甲一六の二〇ないし二三)の日付は、平成六年九月六日から平成七年五月三一日までであるところ、右イで述べたところに前記1の事実を総合すると、原告商品の原告マットには種々の難点があったことから、ヤーマンは平成六年一月一三日にこれを改良したリンパドレナージュ用のマットに関する考案を実用新案登録出願し、遅くとも同年六月には、右考案を実施した製品「リンパインピーダンス」が販売されていたことが認められるから、前記1の事実と証拠(甲二〇)によるとヤーマンと極めて密接な関係にあったことが認められる原告が、難点のある原告マットを製造販売することは不自然であること、証拠(甲二一)によると、「リンパドレナージュ プロフェッショナル」の取扱説明書には、専用シート(原告マットに相当するもの)が「フリーダム」と記載されていることが認められること、「やせる君 フリーダム」の取扱説明書など「やせる君 フリーダム」の形態についての原告の右主張を裏付ける証拠は提出されていないことからすると、右納品書にある「やせる君 フリーダム」は、原告商品と同じものであるとの原告の主張を採用することはできない。したがって、右納品書にある「やせる君 フリーダム」は、原告商品であるとは認められない。
(3) 以上のとおりであるから、納品書(甲一三の一ないし一三、甲一六の一ないし二三)により、原告が平成六年八月以降、原告商品を製造販売していたとは認められず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
4 以上のとおり、原告が原告商品を製造販売していたとは認められないから、被告マットが原告マットの形態を模倣したものであるとしても、被告らが被告商品を販売したことにより原告が営業上の利益を侵害されたとは認められない。また、仮に、原告が原告商品を製造販売していたことがあるとしても、被告らが被告商品の製造販売を開始した平成六年八月以降において原告商品を製造販売していたとは認められないから、被告マットが原告マットの形態を模倣したものであるとしても、
被告商品の販売により原告が営業上の利益を侵害されたとは認められない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の不正競争行為を理由とする損害賠償請求は理由がない。
二 特許権侵害を理由とする差止め等の請求について1 被告らが製造販売していた商品が原告が主張する構成(前記第三の一1(五))を有するとしても、証拠(乙三〇の一、二)と弁論の全趣旨によると、被告らは、
遅くとも平成七年九月二五日以降現在まで、右商品を製造販売していないと認められる。
2 そこで、まず、被告らが将来右商品(被告商品)を製造販売して、本件特許権を侵害するおそれがあるかどうかについて判断する。
(一) 右1のとおり、被告らは、本件特許権が登録された平成八年四月一六日より後は、被告商品の製造販売をしていないから、被告らが被告商品の製造販売により本件特許権を侵害したというべき事実は存しない。
(二) 右1のとおり、被告らは、既に三年半以上もの間、被告商品を製造販売しておらず、本訴において、将来被告商品を製造販売する意思がない旨表明している。
また、右一3(二)(2)アで述べたところに前記一1の事実を総合すると、原告マットは、本体1の表面上に電極が固定され、これと電極ホック4とが本体1の内部に設けられた導線で接続されるとの構造を有することから、前記一1(四)のような種々の難点があり、そのため、原告商品を改良した「リンパドレナージュ プロフェッショナル」及び「リンパインピーダンス」が販売されるようになったことが認められるところ、弁論の全趣旨によると、被告商品についても、原告マットと同様の難点があるものと認められる。
(三) 以上述べたところを総合すると、被告らが被告商品を将来製造販売して、本件特許権を侵害するおそれがあるとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件特許権侵害を理由とする差止め等の請求は理由がない。
三 以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 榎戸道也
裁判官 岡口基一
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