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事件 |
平成
9年
(ワ)
9112号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 株式会社ウエスタン・アームス右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 宗万秀和 同 荒木和男 同 近藤良紹 同 早野貴文 同 川合晋太郎 同 川合順子 同 高橋隆二 同 山枡幸文 同 田伏岳人 同 小泉妙子 右補佐人弁理士 【B】 被告 有限会社タニオ・コバ右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 安原正之 同 佐藤治隆 右補佐人弁理士 【D】 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1999/08/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 原告の請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
一 被告は、別紙物件目録記載の製品を製造、販売してはならない。 二 被告は、その占有する前項記載の製品及びそれを製造するための金型を廃棄せよ。 三 被告は、原告に対し、金三五四〇万円及びこれに対する平成九年五月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)が後記一1記載の発明の技術的範囲に属するものであって、被告によるその製造・販売が原告の有する後記一1記載の特許権を侵害するものであると主張して、右特許権に基づき被告製品の製造・販売の差止め並びに被告製品及びその金型の廃棄を求めるとともに、特許法65条1項に基づく補償金として一九二〇万円、 不法行為による損害賠償として一六二〇万円及び右各金員に対する平成九年五月二一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 一 争いのない事実 1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲請求項1の特許発明を「本件発明」という。)を有している。 特許番号 第二五六一四二九号 発明の名称 自動弾丸供給機構付玩具銃 出願日 平成五年一〇月八日 出願番号 特願平五ー二五二八八一号 公開日 平成七年四月一八日 公開番号 特開平七ー一〇三六九四号 登録日 平成八年九月一九日 本件発明の特許請求の範囲 別紙特許公報(以下「本件公報」という。)の該当欄「請求項1」記載のとおり(ただし、第一欄一三行目の「受圧部」の前に「部材である」との文言が挿入される(甲第九号証)。) 2 本件発明の構成要件を分説すると、次のとおりである。 A グリップ部内に配される弾倉部と、 B 上記グリップ部内にガス導出通路部が連結されて配される蓄圧室と、 C 銃身部の後端部に設けられ、上記弾倉部における一端の近傍に配される装弾室と、 D 該装弾室に供給された弾丸を発射させるべく操作されるトリガに連動して上記ガス導出通路部を開閉制御する開閉弁部と、 E 上記銃身部に対して設けられ、該銃身部に沿って移動し得るものとされたスライダ部と、 F 該スライダ部における上記銃身部の後方となる部分内に設けられ、上記スライダ部と一体的に移動する部材である受圧部と、 G 上記装弾室と上記受圧部との間に配され、上記スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能とされた可動部材と、 H(1) 該可動部材内において移動可能に設けられ、 (2) 上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記装弾室に至る第1のガス通路及び上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記受圧部に至る第2のガス通路の夫々を開閉制御し、 (3) 上記開閉弁部により上記ガス導出通路部が開状態とされている期間において、上記第1のガス通路を開状態として、上記蓄圧室からのガスを上記装弾室に供給する第1の状態から、上記第2のガス通路を開状態として、上記蓄圧室からのガスを上記受圧部に作用させて上記スライダ部を後退させ、それに伴う上記可動部材の後退を生じさせて、上記弾倉部の一端から上記装弾室への弾丸の供給のための準備を行う第2の状態に移行する(4) ガス通路制御部とI を備えて構成される自動弾丸供給機構付玩具銃 3 被告は、被告製品を製造し、販売している(ただし、被告は、別紙物件目録の構成の記載のうち、f一行目の「後方となる部分の内に」との部分を「後方のシリンダー6内に」と変更すること及びg二行目の「後方に位置し、」の後に「ピストンカップ8及びピストン9の外周に設けられて」との文言を挿入することを、 主張している。)。 4 被告製品は、本件発明の構成要件AないしFをいずれも充足する自動弾丸供給機構付玩具銃である。 5 原告は、被告に対し、平成七年六月一日到達の書面により本件発明につき、発明の内容及び出願公開された旨を示して、警告を行った。 二 争点1 被告製品が本件発明の構成要件Gを充足するかどうか(被告製品のシリンダー6が構成要件Gの可動部材に該当するかどうか)2 被告製品が本件発明の構成要件Hを充足するかどうか(被告製品のフローティングバルブ5が構成要件Hのガス通路制御部に該当するかどうか)3 補償金の額4 損害の額三 争点に関する当事者の主張1 争点1(構成要件Gの充足性)について(一) 原告の主張 被告製品のラバーチャンバー4、ピストンカップ8、スライドカバー7は、それぞれ本件発明の装弾室、受圧部、スライダ部に相当するところ、被告製品のシリンダー6は、ラバーチャンバー4とピストンカップ8との間に配され、スライドカバー7の移動方向に沿う方向に移動可能とされたものであるから、構成要件Gの可動部材に該当する。 (二) 被告の反論 被告製品のシリンダー6は、バレル側通気孔部6a、中央部6b、ピストン摺動部6cからなるところ、このうちピストン摺動部6cは、ピストンカップ8がその最前進位置にあるときに、ピストンカップ8とシリンダー6の内壁とが接する部分からシリンダー6の後端までに相当する部分であり、右部分は、ラバーチャンバー4(本件発明の「装弾室」に相当)とピストンカップ8(本件発明の「受圧部」に相当)との間に配されているとはいえないから、被告製品のシリンダー6は、構成要件Gの可動部材に該当しない。 (三) 原告の再反論 本件発明の構成要件Gにおいて、可動部材が装弾室と受圧部との間に配されるものとされた理由は、構成要件Hにおいて、可動部材が、蓄圧室から装弾室にガスを供給する第1のガス通路と、蓄圧室から受圧部にガスを作用させる第2のガス通路に共通に使われる空間を形成するものとされたためであるから、可動部材のうち第1のガス通路と第2のガス通路に共通に使われる空間を形成する部分が装弾室と受圧部との間にあるように可動部材が設けられていれば、構成要件Gにいう「装弾室と受圧部との間に配され」るとの要件を充足すると解される。 被告製品のシリンダー6については、第1のガス通路と第2のガス通路に共通に使われる空間を形成する部分に相当するシリンダー中央部6bが、ラバーチャンバー4とピストンカップ8との間に配されているから、構成要件Gにいう「装弾室と受圧部との間に配され」るとの要件を充足する。 2 争点2(構成要件Hの充足性)について(一) 原告の主張(1) 被告製品の作動状況は、次のとおりである。 (ア) 弾丸が未装填である状態(別紙第1図)から、 (イ) スライドカバー7を手で後退させることでシリンダー6も後退し、弾丸押し上げスプリング24の付勢により弾丸11を押し上げる。ハンマー10は後方に回転し、ハンマー10に連動するバルブノッカー23の先端が放出バルブ15を打つ準備をする(別紙第2図)。 (ウ) スライドカバー7及びシリンダー6が前進し、弾丸11がラバーチャンバー4に装填される(別紙第3図)。 (エ) トリガー12を引くとハンマー10が回転を開始し(別紙第4図)、 (オ) ハンマー10に連動するバルブノッカー23の先端が放出バルブ15の頭部を打つと、インナータンク16とガス通路14との間が開口し、インナータンク16内のガスは、ガス通路14内に入り、次いでシリンダー中央部6b内に入る。このときフローティングバルブ5は、フローティングバルブスプリング20により常に後方に付勢されているため、フローティングバルブ5の後端の径大部5aはシリンダー中央部6b内にある。そのため、シリンダー中央部6b内と同バレル側通気孔部6a内とを連通させているので、同バレル側通気孔部6a内にもガスが流入する(別紙第5図)。 (カ) インナータンク16からガス通路14及びシリンダー中央部6b内を通って同バレル側通気孔部6a内に流入したガスの圧力により、弾丸11は、ラバーチャンバー4内から前方に押し出されてインナーバレル2内に移動する(別紙第6図)。 (キ) ガス圧により弾丸11はインナーバレル2内を移動し、インナーバレル2の先端部2aから発射される。弾丸11がインナーバレル2の先端部2aを通過するときにおいて、スライドカバー7は別紙第1図の位置から約一ミリメートル後退した位置にある。弾丸11がインナーバレル2の先端部2aを通過すると、インナーバレル2内の圧力は下がり、フローティングバルブスプリング20の付勢に抗しフローティングバルブ5が前方に移動し、フローティングバルブ5の径大部5aがシリンダー6のバレル側通気孔部6a内と同中央部6b内との連通を遮断する。放出バルブ15がガス通路14とインナータンク16を連通しているので、ガスはガス通路14を経て、フローティングバルブ5の前進により拡大したシリンダー中央部6b内に入り、ガス圧はピストンカップ8を押圧して、ピストン9を後方に移動させ、ガスをシリンダー6のピストン摺動部6c内に流入させながら、スライドカバー7を後方に移動させる(別紙第7図)。 (ク) スライドカバー7とともにピストン9が後方に移動すると、ハンマー10が後方に回転し、バルブノッカー23も後方に移動して放出バルブ15との接触を解放するので、バネの付勢により放出バルブ15は閉じインナータンク16とガス通路14との間を遮断し、ガス通路14、シリンダー中央部6b内及び同ピストン摺動部6c内へのガスの流入が停止する(別紙第8図)。 (ケ) スライドカバー7は慣性により更に後退を続けてシリンダー6を後退させ、次弾が弾倉13の上端部から押し出されて次弾を装填する準備がなされる。このとき、シリンダー中央部6b内及び同ピストン摺動部6c内のガスは外部に漏れ、 シリンダー中央部6b内及び同ピストン摺動部6c内は減圧されるので、シリンダー6のバレル側通気孔部6a内と、同中央部6b及び同ピストン摺動部6c内との圧力差はなくなる。そのため、フローティングバルブスプリング20により後方に常に付勢されるフローティングバルブ5は後方に移動し、同径大部5aはシリンダー中央部6b内に移動し元の位置に戻る(別紙第9図)。 (コ) スライダ7が元の位置に復し、次弾がラバーチャンバー4に装填され、次弾を発射する準備が完了する(別紙第10図)。 (2) 被告製品の右のような作動状況によると、被告製品のフローティングバルブ5は、以下のとおり、本件発明の構成要件Hを充足するガス通路制御部である。 (ア) 被告製品のフローティングバルブ5は、本件発明の可動部材に相当するシリンダー6内に、移動可能に設けられている。 (イ) 別紙第5図及び第6図中の赤線矢印で示される線は、インナータンク16(本件発明の「蓄圧室」に相当)からガスが流れる道筋を示したものであって、 ガス通路14(本件発明の「ガス導出通路部」に相当)からシリンダー6(本件発明の「可動部材」に相当)内を通じてラバーチャンバー4(本件発明の「装弾室」に相当)に至る通路であり、構成要件H(2)の第1のガス通路に相当する。 そして、別紙第5図及び第6図に示されるフローティングバルブ5の位置は、右第1のガス通路を開状態として蓄圧室からのガスを装弾室に供給する構成要件H(3)の第1の状態にある。 (ウ) 次に、別紙第7図中の青線矢印で示される線は、インナータンク16からのガスが流れる道筋を示したものであって、ガス通路14からシリンダー6内を通じてピストンカップ8(本件発明の「受圧部」に相当)に至る通路であり、構成要件H(2)の第2のガス通路に相当する。 そして、別紙第7図に示されるフローティングバルブ5の位置は、右第2のガス通路を開状態として蓄圧室からのガスを受圧部に作用させ、それに伴う可動部材の後退を生じさせ、次弾供給のための準備を行う構成要件H(3)の第2の状態にある。 (エ) 以上によると、被告製品のフローティングバルブ5は、可動部材内に移動可能に設けられ、第1のガス通路と第2のガス通路をそれぞれ開閉制御して、第1の状態から第2の状態に移行するものであるから、構成要件Hのガス通路制御部に該当する。 (二) 被告の反論 本件発明においては、開閉弁部によりガス導出通路部が開状態とされている期間において、ガス導出通路部から装弾室に至る第1のガス通路を開状態にし蓄圧室からのガスを装弾室に供給し弾丸を発射する状態(第1の状態)から、弾丸の発射後に、ガス導出通路部から受圧部に至る第2のガス通路を開状態として蓄圧室からのガスを受圧部に作用させてスライダ部を後退させ可動部材も後退させて次弾の供給のための準備を行う状態(第2の状態)に移行する構成をとっている。 これに対し、被告製品においては、放出バルブ15が開状態の期間において、ガス通路14からシリンダー6の中央部6bに流入したガスは、銃の前後両方向に同時に進行し、一方はシリンダー6のバレル側通気孔部6aからラバーチャンバー4に供給され弾丸11を前進させると同時に、他方はピストンカップ8に作用してピストン9及びスライドカバー7を後退させる構成となっている。この点は、被告製品において、わずかではあるが弾丸の発射より前にスライドカバー7が後退する現象があることからも確認できる。 被告製品は、右の点において本件発明と根本的に構成を異にしているから、本件発明の技術的範囲に属しない。 (三) 原告の再反論 被告製品においては、インナータンク16からのガスが第1のガス通路を経てラバーチャンバー4に供給される第1の状態において、右ガスがピストンカップ8の方にもかかっており、弾丸11がラバーチャンバー4から前方に移動する際に、スライドカバー7(本件発明の「スライダ部」に相当)がわずかに後方に微動する事実が認められる。しかしながら、この程度のスライドカバー7の微動は、装弾室から発射される弾丸がスライダ部の移動による影響を受けてその弾道に狂いが生じることとなる事態を回避するという本件発明の作用効果を害するものではなく、本件発明の明細書にも、第1の状態において、受圧部に何某かのガス圧がかかることやスライダ部が微動することを否定する旨の記載はないから、右のようにピストンカップ8にガス圧がかかることやスライドカバー7が微動することは、このときフローティングバルブ5が構成要件H(3)の第1の状態にあることを否定する理由になるものではなく、本件発明とは無関係なことにすぎない。そして、構成要件H(3)の第2の状態における「スライダ部の後退」は、それに伴って可動部材の後退を生じさせて次弾供給のための準備を行うためのものであるから、被告製品における前記のようなスライドカバー7の微動のように、可動部材の後退を生じさせる作用のないスライダ部の動作は、第2の状態における「スライダ部の後退」には該当しない。被告製品においては、弾丸が発射され、フローティングバルブ5が前方に移動して、ガスが前方へ流出することを止め、第2のガス通路のみを通ってピストンカップ8に作用するようになって初めて、可動部材の後退を生じさせる作用のあるスライダ部の後退が生じ、第2の状態となるのであるから、被告製品のフローティングバルブ5は、蓄圧室からのガスを装弾室に供給する第1の状態から、蓄圧室からのガスを受圧部に作用させて前記のようなスライダ部の後退をさせる第2の状態に移行することにより、第1及び第2の各ガス通路におけるガスの流れを制御しているものということができる。したがって、被告製品のフローティングバルブ5は、 構成要件Hを充足する。 3 争点3(補償金の額)について(一) 原告の主張 被告は、前記一5記載の警告が到達した日の翌日である平成七年六月二日から本件特許権の登録日の前日である同八年九月一八日までの間に、被告製品を製造・販売し、少なくとも一億九二〇〇万円を売り上げた。そして、本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額としては、右売上額の一〇パーセントが相当である。 したがって、原告は、被告に対し、補償金として一九二〇万円の支払を請求する。 (二) 被告の主張 原告の主張を争う。 4 争点4(損害の額)について(一) 原告の主張 被告は、本件発明の登録日である平成八年九月一九日から同九年一月末日までの間に、被告製品を製造・販売し、少なくとも五四〇〇万円を売り上げ、一六二〇万円を下回らない利益を得た。そして、被告の右利益の額は、原告が受けた損害の額と推定される。 したがって、原告は、被告に対し、損害賠償として一六二〇万円の支払を請求する。 (二) 被告の主張 原告の主張を争う。 |
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当裁判所の判断
一 争点2(構成要件Hの充足性)について(一) 構成要件H(2)における「第1のガス通路及び第2のガス通路の夫々を開閉制御し」の意義について(1) 本件発明の構成要件H(2)は、ガス通路制御部の構成について、「ガス導出通路部から可動部材内を通じて装弾室に至る第1のガス通路(以下「第1ガス通路」という。)及びガス導出通路部から可動部材内を通じて受圧部に至る第2のガス通路(以下「第2ガス通路」という。)の夫々を開閉制御」するものであることを定めるところ、ここでいう「夫々を開閉制御」するとの文言を字義どおりに解釈すると、本件発明のガス通路制御部は、第1ガス通路と第2ガス通路の双方について、ある時は「開状態」とし、また、ある時は「閉状態」とするように制御する構成を有するものであるということになる。 (2) そして、本件発明のガス通路制御部による第1ガス通路及び第2ガス通路それぞれの「開閉制御」の具体的な内容を、構成要件H(3)及び本件発明の明細書(平成九年一一月一二日付訂正請求書による訂正後のもの。以下「本件明細書」という。)の「発明の詳細な説明」の記載に基づいて検討すると、次のとおりである。 まず、第1ガス通路については、開閉弁部によりガス導出通路部が開状態とされている間において、まずこれが開状態とされ、蓄圧室からのガスがここを通って装弾室に供給されて、そのガス圧によって装弾室に装填された弾丸が発射されることになり(ここまでが構成要件H(3)の「第1の状態」(以下「第1状態」という。)に当たる。)、次いで、第2ガス通路が開状態とされ、蓄圧室からのガスが第2ガス通路を通じて受圧部に作用してスライダ部の後退とそれに伴う可動部材の後退が生じ、弾倉部から装弾室への弾丸供給のための準備が行われる間(これが構成要件H(3)の「第2の状態」(以下「第2状態」という。)に当たる。)には、ガス圧による右スライダ部の後退を可能とするための必然的な制御として、第1ガス通路は閉状態とされて装弾室側へのガスの流出が止められることになる。このようにして、本件発明のガス通路制御部は、第1ガス通路を、第1状態において開状態に、第2状態において閉状態に制御する構成を有するものとされていることは明らかである。 次に、第2ガス通路については、第2状態において開状態とされていることは明らかである。他方、第1状態における第2ガス通路の制御状況については、構成要件H(3)の記載自体からは必ずしも一義的に明確であるとはいえず、また、本件明細書の「発明の詳細な説明」中にも、後記(3)(イ)の実施例に関する記載を除き、これを具体的に明示した記載はない。しかしながら、前記(1)のような構成要件H(2)についての文言解釈を前提とすれば、本件発明のガス通路制御部は第2ガス通路を少なくとも何れかの時点において閉状態にするものであることが不可欠なのであり、かつ、第2ガス通路が第2状態で開状態とされていることは明らかであるから、結局のところ、本件発明のガス通路制御部は、第2ガス通路を、第1状態において閉状態に制御する構成を有することが必要ということになる。 (3) 右のとおり、本件発明において、ガス通路制御部が、第1状態において第2ガス通路を閉状態に制御する構成を有する必要があることは、次のような点からも裏付けられる。 (ア) 本件明細書の「発明の詳細な説明」には、本件発明が目的とする作用効果の一つとして、「装弾室に装填された弾丸の発射後にスライダ部の移動が開始されるものとすることで、装弾室から発射される弾丸がスライダ部の移動による影響を受けてその弾道に狂いが生じることになる事態を回避する」という点が挙げられている(本件公報五欄二四行目ないし二七行目、七欄四行目ないし一三行目、二〇欄一八行目ないし三二行目)。そして、このような作用効果を達成するためには、装弾室から弾丸が発射されるに至るまでの第1状態において、弾道の狂いの原因となり得るスライダ部の後退が生じることのないような構成にすることが必要であり、 そのためには、ガス通路制御部が第2ガス通路を閉状態に制御することにより、蓄圧室からのガスが受圧部に流れ込まないようにすることが効果的で確実な方法であるということができる。 このように、ガス通路制御部が第1状態において第2ガス通路を閉状態に制御するという構成は、本件発明の前記のような作用効果の達成に寄与するものといえるのであり、したがって、ガス通路制御部に関する前記のような解釈は、本件発明の目的とされる作用効果との関係からみても、合理的なものということができる。 (イ) 本件明細書の「発明の詳細な説明」には、本件発明の二つの実施例が示されている。そこで、これらの実施例におけるガス通路制御部が、第1状態において第2ガス通路をどのように制御しているかについて、本件明細書の記載に基づいて検討する。 まず第一の実施例においては、「連結ガス通路36の他端部が開状態とされてガス導出通路部が開状態とされることにより、ガス通路制御部25の弁部材27によって開状態とされた弾丸発射用ガス通路21とケース30内に設けられた蓄圧室33とが連通状態とされ、蓄圧室33からのガス圧が、直ちに下方ガス通路37、連結ガス通路36及び上方ガス通路38によって形成されるガス導出通路部、可動筒状シール部材47により形成される連結部分、共通ガス通路23、中央空間部20及び弾丸発射用ガス通路21を通じて装弾室4a内に供給される状態が得られる。その結果、図3に示される如くに装弾室4aに装填された弾丸BBが、蓄圧室33からのガス圧によって、図4に示される如く、環状突出部4bを越えて、銃身2内と弾丸発射用ガス通路21とを遮断する状態をもって環状部材4の前方側部分に移動せしめられる。斯かる際、弾丸供給用ガス通路22を閉状態となす弁部材27に作用する蓄圧室33からのガス圧により、 ロッド26のコイルスプリング24の付勢力に従う移動が阻止されるので、弁部材27の弾丸供給用ガス通路22を閉状態となす位置が維持される。」(本件公報一二欄三六行目ないし一三欄五行目)とされており、右記載によると、第一の実施例のガス通路制御部25は、その一部である弁部材27により、第1状態において第2ガス通路(弾丸供給用ガス通路22)を閉状態に制御する構成となっていることが認められる。 また、第二の実施例においては、「図14に示される如く、第1の例におけるガス通路制御部25の場合と同様にして、ガス通路制御部62が、その弁部材27によって弾丸供給用ガス通路22が閉塞されるとともに弾丸発射用ガス通路21が開状態とされる状態をとるものとされ、さらに、ピストン部材35の弁部35aが、連結ガス通路36の他端部を開状態となす位置におかれて、弾丸発射用ガス通路21とケース30内に設けられた蓄圧室33(図13)とが連通状態とされ、蓄圧室33からのガス圧が、下方ガス通路37、連結ガス通路36、上方ガス通路38、コイルスプリング48により付勢された可動筒状シール部材47により形成される連結部分、共通ガス通路23、中央空間部20及び弾丸発射用ガス通路21を通じて装弾室4a内に供給される状態が得られる。 その際、共通ガス通路23を通じて中央空間部20に供給されるガス圧が、中央空間部20から微小ガス通路61を通じて弾丸供給用ガス通路22における段部に供給されるが、ガス通路制御部62がその弁部材27によって弾丸供給用ガス通路22を閉塞するもとにあっては、ガス通路制御部62におけるロッド63の端部63bが、弾丸供給用ガス通路22に設けられた段部内における弾丸供給用ガス通路22の端部に当接するものとされ、それにより、弾丸供給用ガス通路22に設けられた段部に供給されたガス圧が、段部を経てさらに弾丸供給用ガス通路22内に供給される事態が阻止される。」(本件公報一七欄三四行目ないし一八欄八行目)、「蓄圧室33からのガス圧が弾丸発射用ガス通路21を通じて装弾室4a内に供給されることにより、図14に示される如くに装弾室4aに装填された弾丸BBが、蓄圧室33からのガス圧によって、図15に示される如く、環状突出部4bを越えて、銃身2内と弾丸発射用ガス通路21とを遮断する状態をもって環状部材4の前方側部分に移動せしめられる。斯かる際、 弾丸供給用ガス通路22を閉状態となす弁部材27に作用する蓄圧室33側のガス圧は、 弁部材27に作用する弾丸供給用ガス通路22における段部側のガス圧より、ロッド63のコイルスプリング24の付勢力に従う移動を阻止するに充分とされる程度に高く、従って、弁部材27の弾丸供給用ガス通路22を閉状態となす位置が維持される。」(本件公報一八欄一三行目ないし二六行目)とされており、右記載によると、第二の実施例のガス通路制御部62は、いずれもその一部である弁部材27及びロッド63の端部63bにより、第1状態において第2ガス通路(弾丸供給用ガス通路22)を閉状態に制御する構成となっていることが認められる。 このように、本件明細書で示された二つの実施例のいずれにおいても、そのガス通路制御部は、第1状態において第2ガス通路を閉状態に制御する構成となっているのであり、したがって、ガス通路制御部に関する前記のような解釈は、本件発明の各実施例との関係からみても首肯すべきものである。 (4) 以上を総合すると、構成要件H(2)を充足するガス通路制御部というためには、第1状態において第2ガス通路を閉状態に制御する構成を有することが必要であるというべきである。 (二) 被告製品のフローティングバルブ5が構成要件H(2)を充足するか否かについて(1) 被告製品におけるガス通路の制御状況について、被告製品の作動状況に関する原告の主張(前記第二、三2(一)(1))を前提にして検討すると、放出バルブ15によってインナータンク16からのガス通路が開状態とされる当初の時点(別紙第5図)においては、ガス通路14、シリンダー中央部6b内、同バレル側通気孔部6a内を経てラバーチャンバー4に至るガス通路(本件発明の「第1ガス通路」に相当するもの)のみならず、ガス通路14、シリンダー中央部6b内を経てピストンカップ8に至るガス通路(本件発明の「第2ガス通路」に相当するもの)も開状態とされており、その後、インナータンク16からラバーチャンバー4へのガス圧により弾丸11が発射されるに至るまで(別紙第6図及び第7図)、右第2ガス通路に相当するガス通路は終始開状態のままとされていることが明らかである。 したがって、被告製品のフローティングバルブ5は、本件発明の第1状態において第2ガス通路を閉状態に制御するものではないことになるから、前記(一)で述べたところに照らせば、本件発明の構成要件H(2)を充足するガス通路制御部ということはできない。 (2) 原告は、被告製品につき、第1状態において、第2ガス通路が終始開状態とされ、インナータンク16からのガスがピストンカップ8にかかっているとしても、これによる影響は、ラバーチャンバー4からの弾丸移動時にスライドカバー7がわずかに後方に微動する程度のことであり、これによって、装弾室から発射される弾丸がスライダ部の移動による影響を受けてその弾道に狂いが生じることとなる事態を回避するという本件発明の作用効果を害することはないから、被告製品が構成要件Hを充足することが妨げられることはない旨を主張する。 しかしながら、ここで問題となるのは、被告製品の構成が、本件発明の目的とされる作用効果を現に害しないものであるかどうかではなく、本件発明が右作用効果を達成するための構成として特許請求の範囲において採用した構成を、被告製品が具備しているかどうかであるところ、前記(一)で述べたとおりの諸事情を総合すれば、本件発明は、その構成要件H(2)において、右のような作用効果を達成するためのガス通路制御部の具体的な構成として、第1状態において、スライダ部の移動の原因となり得る受圧部へのガス圧を排除するために、第2ガス通路を閉状態に制御するという構成を採用したものと解するのが相当というべきであるから、前記(1)記載のとおり、右構成を有しない被告製品のフローティングバルブ5が構成要件H(2)を充足しないことは明らかであり、仮に、原告が主張するとおり、 被告製品における弾丸移動時の具体的なスライドカバー7の動きが弾道の狂いを生じさせる程のものではないとしても、それによって、右の結論が左右されるものではない。 (3) 以上のとおり、被告製品のフローティングバルブ5は、原告の主張に係る被告製品の作動状況を前提にしても、構成要件H(2)を充足しないのであるから、被告製品が本件発明の技術的範囲に属するとの原告の主張が認められないことは明らかである。 二 以上によると、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 大西勝滋 |
裁判官 | 中吉徹郎 |