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関連審決 審判1992-15993
関連ワード アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  同一の発明 /  優先権 /  実質的に同一 /  特許発明 /  構成要件 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  国際出願 / 
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事件 平成 10年 (行ケ) 250号 審決取消請求事件
原告 ユニシスコーポレーション 代表者 【A】
訴訟代理人弁理士 【B】
同 【C】
同 【D】
被告 特許庁長官【E】
指定代理人 【F】
同 【G】
同 【H】
同 【I】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1999/09/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた判決
1 原告 特許庁が、平成4年審判第15993号事件について、平成10年3月16日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文1、2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、1987年9月30日にアメリカ合衆国でした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和63年9月23日、名称を「ディスクアクセス時間に基づくコマンド選択機能をもつキャッシュ/ディスク・システム」とする発明(以下「本願特許発明」という。)につき、国際出願(PCT/US88-03272、特願昭63-508501号)をしたが、平成4年4月28日に拒絶査定を受けたので、同年8月24日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を、平成4年審判第15993号事件として審理した上、平成10年3月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月2日、原告に送達された。
21 本願特許発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願第1発明」という。)の要旨 ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、キャッシュメモリと、前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、
前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行し、前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを、コマンド優先度と共に前記コマンドキューに記憶させ、前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースヘの前記ディスクキャッシュ内のデータの転送を命令するコマンドを作成し、作成された該コマンドをコマンド優先度と共に前記コマンドキューに格納し、前記制御手段は、所定の優先度レベルよりも高いコマンド優先度を有するコマンドに遭遇した場合には、前記コマンドキューの複数のコマンドからこのコマンドを次に実行すべきコマンドとして選択し、前記制御手段は、所定の優先度レベルよりも高いコマンド優先度を有するコマンドに遭遇しなかった場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。
2 同請求項3に記載された発明(以下「本願第2発明」という。)の要旨 ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、キャッシュメモリと、前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、
前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行し、前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを前記コマンドキューに記憶させ、前記制御手段は、所定の回数選択されなかったコマンドに遭遇した場合には、このコマンドを次に実行すべきコマンドとして選択し、前記制御手段は、所定の回数選択されなかったコマンドに遭遇しなかった場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。
3 同請求項5に記載された発明(以下「本願第3発明」という。)の要旨 ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、キャッシュメモリと、前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、
前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行し、前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを前記コマンドキューに記憶させ、前記制御手段は、前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。
3 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1〜第3発明が、いずれも、特開昭55-112664号公報(以下「引用例1」といい、そこに記載された発明を「引用例発明1」という。)、特開昭59-66755号公報(以下「引用例2」という。)及び米国特許第4523206号明細書(以下「引用例3」という。)に記載された各発明並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の取消事由の要点
1 審決の理由中、本願第1〜第3発明の要旨の認定、引用例1〜3の記載事項の認定、本願第1〜第3発明と引用例発明1との各相違点の認定、これらの相違点に関する判断は、いずれも認める。
2 本願特許発明は、平成5年4月14日付け手続補正書(甲第8号証)によって、第4回目の補正が行われたものであるところ、特許庁は、平成8年1月18日付け拒絶理由通知書(甲第9号証)において、上記補正書の特許請求の範囲の請求項(以下「最終補正前請求項」という。)1、2、6、7、8、10、11、15、16、17及び18に係る発明に対して、拒絶理由を通知し、同請求項3、
4、5、9、12、13、14及び19に係る発明に対しては、拒絶理由を通知していない。
原告は、平成8年8月2日付け手続補正書(甲第10号証)において、最終の補正を行い(以下「最終補正」という。)、最終補正前請求項1、2及び3に係る発明を合体させて本願第1発明とし、同請求項1及び4に係る発明を合体させて本願第2発明とし、同請求項5に係る発明と実質的に同一又はこれを限定した発明を本願第3発明としたものである。
これに対し、審決は、上記拒絶理由を通知していない最終補正前請求項3、4及び5に係る発明を含む、本願第1〜第3発明について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したものであるから、同法159条2項が準用する同法50条の規定に違反し、違法として取り消されなければならない。
3 被告は、本願第3発明の「前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合には、」という構成要件が、コマンドキューに格納された複数のコマンドから次のコマンドを選択する際に当業者が必要に応じて任意になし得る設計的事項にすぎないから、本願第3発明は、上記設計的事項を適用して、最終補正前請求項1に係る発明をより限定した発明にすぎないと主張する。
しかし、本願第3発明が、設計的事項を適用して最終補正前請求項1に係る発明をより限定した発明と解する余地があるとしても、それと同時に本願第3発明は、
「コマンド数が所定数以上の場合に」基準を使用するものであり、最終補正前請求項5に係る発明と同様に、当然、「コマンド数が所定数以上でない場合に」基準を使用することがない旨が明確に表現されているから、本願第3発明と拒絶理由が通知されていない同請求項5に係る発明とは、互いに異なる発明ではなく、本願第3発明は、同請求項5に係る発明と実質的に同一の発明であるか、あるいは、同発明に包含されるものである。
すなわち、最終補正前請求項5に係る発明は、同請求項1に係る発明である、
「ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、キャッシュメモリと、前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、
前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行させ、前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを、コマンド優先度と共に前記コマンドキューに記憶させ、前記制御手段は、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。」を前提として、「前記制御手段は、幾つのコマンドが実行待ちになっているかに基づいて複数のコマンドから実行すべき次のコマンドを選択するが、前記コマンドキューに実行待ちであるコマンド数が所定数より少ない場合には、次に実行すべきコマンドを選択するための基準を使用しないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のキャッシュ/ディスク・サブシステム。」としたものである。
したがって、最終補正前請求項5に係る発明の「次に実行すべきコマンドを選択するための基準」とは、同請求項1に係る発明の、コマンド数の全範囲で(言い換えれば、コマンド数による条件なしに)「基準」を使用する構成について、「コマンドキューに実行待ちであるコマンド数」による条件として、「所定数より少ない場合には、」「基準」を使用しない条件を追加したものである。しかし、この点が必ずしも明確な記載となっておらず、どの場合に基準を使用するのか疑義が生じるおそれがあったことから、不明瞭な記載部分をより明確化すべく、最終補正において、「前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合」「基準」を使用するものと補正し、本願第3発明としたものである。
被告の反論の要点
1 特許庁が、平成8年1月18日付け拒絶理由通知書において、最終補正前請求項1、2、6、7、8、10、11、15、16、17及び18に係る発明に対して、拒絶理由を通知し、同請求項3、4、5、9、12、13、14及び19に係る発明に対しては、拒絶理由を通知していないこと、原告が、平成8年8月2日付け手続補正書による最終補正において、最終補正前請求項1、2及び3に係る発明を合体させて本願第1発明とし、同請求項1及び4に係る発明を合体させて本願第2発明としたことは、いずれも認める。
したがって、審決が、上記拒絶理由を通知していない最終補正前請求項3及び4に係る発明を含む、本願第1、第2発明について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したことに、手続上の違法があることは認める。
しかし、本願第3発明の「前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合には、」という構成要件は、コマンドキューに格納された複数のコマンドから次のコマンドを選択する際に当業者が必要に応じて任意になし得る設計的事項にすぎないから、本願第3発明は、上記設計的事項を適用して、拒絶理由を通知した最終補正前請求項1に係る発明をより限定した発明にすぎない。したがって、審決が、本願第3発明について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したことに、手続上の違法はない。
2 原告は、本願第3発明と最終補正前請求項5に係る発明とが互いに異なる発明ではなく、本願第3発明が、同請求項5に係る発明と実質的に同一の発明であるか、あるいは、同発明に包含されるものであると主張する。
しかし、最終補正前請求項1に、上記「コマンド数が所定数以上の場合には」という事項を加えた本願第3発明は、「待ちコマンド数が所定数」「以上」以外の選択肢を全く含まないものである。
これに対して、最終補正前請求項5の、「次に実行すべきコマンドを選択するための基準を使用しない」という事項は、「待ちコマンド数が所定数」「未満」である場合に対応するものである。
以上のように、最終補正前請求5に係る発明は、「待ちコマンド数が所定数」「未満」である処理を全く含まない本願第3発明とは、その構成を異にする発明である。
したがって、審決の認定判断は結論において正当であって、原告主張の取消事由は理由がない。
当裁判所の判断
1 審決の理由中、本願第1〜第3発明の要旨の認定、引用例1〜3の記載事項の認定、本願第1〜第3発明と引用例発明1との各相違点の認定、これらの相違点に関する判断は、いずれも当事者間に争いがない。
また、特許庁が、平成8年1月18日付け拒絶理由通知書において、最終補正前請求項1、2、6、7、8、10、11、15、16、17及び18に係る発明に対して、拒絶理由を通知し、同請求項3、4、5、9、12、13、14及び19に係る発明に対しては、拒絶理由を通知していないこと、原告が、平成8年8月2日付け手続補正書による最終補正において、最終補正前請求項1、2及び3に係る発明を合体させて本願第1発明とし、同請求項1及び4に係る発明を合体させて本願第2発明としたこと、したがって、審決が、上記拒絶理由を通知していない最終補正前請求項3及び4に係る発明を含む、本願第1、第2発明について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したことに、手続上の違法があることも、当事者間に争いがない。
そこで、審決が、本願第3発明について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したことに、手続上の違法が存するか否かを検討する。
2 最終補正前請求項1に係る発明が、「ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、キャッシュメモリと、前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行させ、前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを、コマンド優先度と共に前記コマンドキューに記憶させ、前記制御手段は、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。」であり、同請求項5に係る発明が、同請求項1に係る発明を前提として、
「前記制御手段は、幾つのコマンドが実行待ちになっているかに基づいて複数のコマンドから実行すべき次のコマンドを選択するが、前記コマンドキューに実行待ちであるコマンド数が所定数より少ない場合には、次に実行すべきコマンドを選択するための基準を使用しないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のキャッシュ/ディスク・サブシステム。」であることは、当事者間に争いがない。
他方、本願第3発明の要旨は、前示のとおりであり、この本願第3発明と最終補正前請求項1に係る発明とを対比してみると、最終補正前請求項1に係る発明の「前記制御手段は、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。」について、本願第3発明では、「前記制御手段は、『前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合には、』次のコマンドにより指定された・・・」として、『前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合には、』との構成要件を追加するものである。この追加された構成要件は、コマンドキューに格納された複数のコマンドから次のコマンドを選択する際に、実行待ちであるコマンド数が所定数以上あればこれを選択するというものであって、当業者が必要に応じて任意になし得る設計的事項にすぎないことが明らかである。
したがって、本願第3発明は、最終補正前請求項1に係る発明について、上記設計的事項を適用して、同請求項1に係る発明をより限定したものと認められる。
原告は、最終補正前請求項1に係る発明の、コマンド数の全範囲で「基準」を使用する構成を前提として、最終補正前請求項5に係る発明においては、「所定数より少ない場合には、」「基準」を使用しない条件を追加したものであり、さらに、
どの場合に基準を使用するのかをより明確化するために、本願第3発明において、
「前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合」「基準」を使用するものと補正したのであるから、本願第3発明と同請求項5に係る発明とは、互いに異なる発明ではなく、本願第3発明は、同請求項5に係る発明と実質的に同一の発明であるか、あるいは、同発明に包含されるものであると主張する。
しかし、最終補正前請求項5に係る発明では、「次に実行すべきコマンドを選択するための基準」の使用について、「所定数より少ない場合」にこれを使用しないことを特定しているのみであって、「所定数以上の場合」における基準使用の有無は何ら記載されていないから、「所定数以上の場合」に、基準を使用する構成と基準を使用しない構成の双方が含まれることになる。
これに対し、本願第3発明では、「次に実行すべきコマンドを選択するための基準」の使用について、「所定数以上の場合」にこれを使用する旨を特定しているのみであって、「所定数より少ない場合」における基準使用の有無は何ら記載されていないから、「所定数より少ない場合」に、基準を使用する構成と基準を使用しない構成の双方が含まれることになる。
そうすると、最終補正前請求項5に係る発明と本願第3発明とが一致しないことは明らかであり、しかも、本願第3発明では、「所定数より少ない場合」において、当該基準を使用する可能性が加わることとなるので、この点において最終補正前請求項5に係る発明とは相違するものであるから、本願第3発明が、最終補正前請求項5に係る発明を実質上減縮したものということもできない。
したがって、原告の主張は理由がなく、到底採用することができない。
3 以上のとおり、審決が、本願第1、第2発明について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したことには手続上の違法があるものの、本願第3発明についての判断に関しては、手続上の違法が認められず、原告主張の取消事由に理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中康久
裁判官 石原直樹
裁判官 清水節