運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1992-22279
関連ワード 特許を受ける権利 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  発明の概要 /  優先権 /  名義変更 /  着想 /  容易に想到(容易想到性) /  構成要件 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 10年 (行ケ) 201号 審決取消請求事件
原告 フォーサイトプロダクツ エルエルシー 代表者 A
訴訟代理人弁理士 BC
被告 特許庁長官D
指定代理人 EFGH
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1999/09/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成4年審判第22279号事件について平成10年2月23日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 アメリカ合衆国法人フォーサイト インダストリーズ インコーポレーテッドは、名称を「地中用アンカ」とする発明(本願発明)につき、1987年10月29日アメリカ合衆国においてした特許出願第113828号に基づく優先権を主張して、昭和63年10月28日に特許出願(昭和63年特許願第272845号)をしたが、平成4年7月15日に拒絶査定があったので、平成4年11月24日審判を請求し、平成4年審判第22279号として係属し、平成7年6月21日出願公告(特公平7-57949号)がされたが、特許異議があり、平成10年2月23日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年3月11日上記アメリカ合衆国法人に送達された。
原告は、1996年(平成8年)9月6日、同法人から本願発明の特許を受ける権利を譲り受け、平成11年4月9日、その旨、被告に特許出願人名義変更の届出をした。
2 本件発明の要旨(1)長手方向の管状中心本体部(11)と、長手方向に沿って本体部から横方向に放射状に伸びる翼(12)と、本体部から翼の前方に突き出て伸び、翼の前方に鋭く尖った先端部のある脚部(13)と、脚部から目穴部に向け本体部の後方に長手方向に隆起して伸び、本体部の側面に向けて、土を掘るのに効果的な鋭く尖った先導部を持ち、後方端に横方向に貫通し引っ張り用部品がはめこまれる目穴と前記目穴の前方の放射状の肩部とを持つリブ(15)と、前記本体部に設けられ、アンカを地中に打ち込むための駆動棒を受けるのに適した丸い底部を持ち、翼の終端から後方に向かって突き出した傾斜したリムのある上部開口部がある、軸受け管(18)と、前記リムおよび前記翼の先導部及び終端部は、アンカが地中で回転し易くするために鋭く尖っている、全体に長方形をした固形平板部品から構成される地中用アンカ(10)において、
前記翼(12)は、前記管状中心本体部(11)両側面の長手方向中央付近から伸びており、前記脚部(13)は突き出した十字型の脚として構成され、翼(12)と同じ平面にある一対の側辺(13a)と、翼(12)の平面に垂直に伸びる一対の側辺(13b)とからなり、長手方向後方に伸び、前記管状中心本体部(11)に合流している、地中用アンカ。
(別紙本願発明図面参照) 3 審決の理由の要点 本願発明の要旨は前項のとおりと認める。
これに対して、平成9年4月8日付けで拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、請求人(原告)からは何らの応答もない。
そして、上記の拒絶理由は妥当なものと認められるので、本件出願は、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。
4 審決が引用する拒絶理由の内容(甲第4号証) 本願発明は、その出願前に米国内において頒布された「DUCKBILL MANTA RAY(本件特許異議の甲第1号証第89〜96頁)」(引用例)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
本件平成8年9月30日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された発明のうち、固定平板部品から構成される地中用アンカは引用例の92/110頁(右上の図面)に記載されており、十字型の脚は引用例の96/110頁(右上の図面及びその下の図面)に記載されている。これらからみて、本願発明は、引用例の地中用アンカに十字型の脚を適用することにより、容易に発明をすることができたものと認められる。
原告主張の審決取消事由
引用例に記載された地中用アンカは不明瞭な写真又は図面であって、審決が、本願発明と引用例との対比において「本件発明は、引用例の地中用アンカに十字型の脚を適用することにより、容易に発明することができたものと認められる」と判断したのは誤りである。以下、詳述する。
1 軸受け管の底部の形状(内部構造)について 本願発明は、構成要件「アンカを地中に打ち込むための駆動棒を受けるのに適した丸い底部を持ち、……上部開口部がある、軸受け管(18)」を備えるが、引用例に記載の発明は、軸受け管の内部構造が不明であり、上記構成要件について開示されていない。
被告は「アンカを地中に打ち込むための駆動棒を受けるのに適した丸い底部を持つ」構造とした点は、一般に駆動棒等の部材を受ける構造として、具体的にどのような構成を採用するかは、適宜選択し得る設計的事項に属する事項であると主張するが、本願明細書には、「地中アンカに、丸い先端を持つ駆動棒によって衝撃される丸い底面を持つ軸受け管をつけ、底面の全領域で衝撃を受けるようにして、アンカが必要な打ち込み線上を突き進むようにすることは、特定の改善となる。」(甲第2号証3頁5〜7行)、「駆動棒の丸い先端と、軸受け管の丸い底面が、拡がった接触領域を作るので、駆動棒は駆動動作中に変形する事はなく、軸受け管から容易に取り出せて、アンカの中心部が作った丸い穴を通じて、地中から引き出される。」(甲第2号証7頁4〜7行)と記載されているように、アンカを地中に打ち込むための駆動棒を受け入れる軸受け管の底部を丸くしたことにより、駆動棒の軸芯と軸受け管の軸芯が少しずれても、常に両者は面接触し、駆動棒の先端の変形が防止できると共に、必要な打ち込み線に沿ってアンカを打ち込むことができる、という格別の作用、効果が得られるものであって、被告の主張は失当である。
2 翼の取付位置について 本願発明では「翼(12)は、管状中心本体部(11)両側面の長手方向中央付近から伸びて」いるが、引用例記載のものでは、地中用アンカの背面図がなく、さらに図面全体が不明瞭なため、本体部に対する翼の取付位置は不明である。
3 脚部の下側垂直側辺の形状について 本願発明では「脚部(13)は……翼(12)と同じ平面にある一対の側辺(13a)と、翼(12)の平面に垂直に伸びる一対の側辺(13b)とからなり、長手方向後方に伸び、管状中心本体部(11)に合流している」が、引用例記載のものでは、地中用アンカの背面図がないので、アンカの脚部を構成する下側の垂直側辺が本体部に対してどのように形成されているのか不明である。
引用例の96/110頁の記載から、アンカの脚部を構成する十字型の脚のうち上側の垂直側辺が後方に伸び本体部に合流していることは理解し得るが、下側垂直側辺の実際の後部形状を認定することは不可能である。
また、この十字型の脚が長手方向後方に伸び管状中心本体部(11)に合流しているか否かは、図面からは確認することができず記載されてもいない。
審決取消事由に対する被告の反論
審決の認定判断は正当であって、審決に原告主張の誤りはない。
1 引用例に記載の技術事項 別紙参考図1、2(a)、(b)は引用例のうち、特に拒絶理由通知書(甲第4号証)において引用されている図面の内容を理解しやすくするために、引用例の当該図面を拡大し、本願発明の構成に対応する個所に符号を付けたものである。
引用例の92/110頁には、参考図1に示すように本願発明の構成のうち、
「長手方向の管状中心本体部(11)と、長手方向に沿って本体部から横方向に放射状に伸びる翼(12)と、本体部から翼の前方に突き出て伸び、翼の前方に鋭く尖った先端部のある脚部(13)と、脚部から目穴部に向け本体部の後方に長手方向に隆起して伸び、本体部の側面に向けて、土を掘るのに効果的な鋭く尖った先導部を持ち、後方端に横方向に貫通し引っ張り用部品がはめこまれる目穴と前記目穴の前方の放射状の肩部とを持つリブ(15)と、前記本体部に設けられ、アンカを地中に打ち込むための駆動棒を受ける、翼の終端から後方に向かって突き出した傾斜したリムのある上部開口部がある、軸受け管(18)と、前記リム及び前記翼の先導部及び終端部は、アンカが地中で回転し易くするために鋭く尖っている、全体に長方形をした固形平板部品から構成される地中用アンカ(10)において、前記翼(12)は、前記管状中心本体部(11)両側面の長手方向中央付近から伸びており、前記脚部(13)は突き出した脚として構成され、翼(12)と同じ平面にある一対の側辺(13a)と、翼(12)の平面に垂直に伸びる側辺(13b)とからなり、長手方向後方に伸び、前記管状中心本体部(11)に合流している、地中用アンカ。」が記載されていることは明らかである。
引用例の96/110頁には、参考図2(a)、(b)に示すように、本願発明の構成のうち、「突き出した十字型の脚として構成され、翼と同じ平面にある一対の側辺と、翼の平面に垂直に伸びる一対の側辺とからなる脚部」が記載されていることは明らかである。
2 本願発明と引用例に記載された発明との対比 そして、本願発明と、引用例の92/110頁に記載された発明とを比較すると、次の2点で相違している。
(i) 本願発明では本体部に設けられた軸受け管(18)が、「アンカを地中に打ち込むための駆動棒を受けるのに適した丸い底部を持つ」のに対して、引用例の92/110頁に記載された発明では本体部に設けられた軸受け管(18)の内部の構造が不明である点。
(ii) 本願発明では脚部(13)は「突き出した十字型の脚として構成され、翼(12)と同じ平面にある一対の側辺(13a)と、翼(12)の平面に垂直に伸びる一対の側辺(13b)とからなり、長手方向後方に伸び、前記管状中心本体部(11)に合流している」のに対して、引用例の92/110頁に記載された発明ではアンカ本体の裏面の構造が不明であり、また脚部は突き出した脚として構成され、翼と同じ平面にある一対の側辺と、翼の平面に垂直に上方に伸びる側辺とを備えているものの、翼の平面に垂直に伸びる側辺が上方のみに伸びるのか、一対で上下に伸びて十字型の脚として構成されるのか、また、下方に伸びる側辺の後方が管状中心本体部(11)に合流しているのか不明である点。
3 本願発明と引用例に記載された発明との相違点の検討 相違点(i)のように「アンカを地中に打ち込むための駆動棒を受けるのに適した丸い底部を持つ」構造とした点は、一般的に、駆動棒等の部材を受ける構造として、
具体的にどのような構成を採用するかは、適宜選択し得る設計的事項に属する事項であり、特に相違点(i)における本願発明の構成とするようなことは、当業者が必要に応じて容易になし得た程度のことである。
次に、相違点(ii)については、引用例の96/110頁には突き出した十字型の脚として構成され、翼と同じ平面にある一対の側辺と、翼の平面に垂直に伸びる一対の側辺とから成る脚部が記載されている。
原告は引用例の96/110頁の記載では「この脚が長手方向後方に伸び、前記管状中心本体部(11)に合流しているか否か図面からは確認できない。」と主張するが、翼の平面に垂直に上方に伸びる側辺からなる脚部が長手方向後方に伸び管状中心本体部に合流している構造は引用例の92/110頁に明瞭に記載されており、さらにアンカ本体の裏面の構造及び裏面の下方に伸びる側辺(13b)の構造も、アンカ本体の表面の構造を適用することにより同様に構成することは、格別の困難性を伴うことなく容易になし得た程度のことである。
したがって、引用例の96/110頁に記載された十字型の脚部を、引用例の92/110頁に記載された翼の平面に垂直に上方に伸びる側辺から成る脚部に適用することにより、前記相違点(ii)における本願発明の構成とすることも、当業者が必要に応じて容易になし得たことである。そして、全体として本願発明の効果も、
引用例に記載された事項から、当業者であれば予測することができる程度のものであって格別顕著なものとはいえない。
4 以上のとおり、本願発明はその出願前に米国内において頒布された刊行物である引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
当裁判所の判断
1 本願発明の概要 甲第2号証によれば、本願明細書に本願発明に関して以下の記載があることが認められる。
〔産業上の利用分野〕 「本発明は、地中に縦長の形で打ち込み、適切な深さに達した時に引っ張って、
張り棒や張り用ケーブル等を固定するために、水平な横方向の位置に回転させる、
平板型の、あるいは翼型の地中あるいは大地アンカに関する。」(2頁3〜5行) 〔従来の技術〕 「従来知られている、駆動棒受け入れ部を持つ、平板型のあるいは翼型の地中アンカは、広い先導端を持ち、それは、堅い地層あるいは障害物に遭遇した時、簡単に曲げられ、したがって、平板が駆動棒に対して捻じれたり、反ったりする。そのようなアンカの軸受け管は、駆動棒の平らな終端部によって打たれる平らな底面を持っている。・・・接触面が小さくなって、軸からずれた衝撃をあたえ、真っ直ぐな駆動路からさらにアンカをずらせていく。・・駆動棒の終端をへたばらせ、・・・軸受け管に噛み合い、引き抜けなくなる。
さらに、従来の平板型あるいは翼型の地中アンカでは、目穴のために必要な隆起したリブあるいは峰部は、打ち込み動作中、地中に侵入するのを妨害する幅の広い鈍な障害物であり、それがさらに必要な駆動エネルギを増大させていた。」(2頁15〜26行) 〔発明が解決しようとする課題〕 「したがって、この種の技術では、従来の地中アンカの前述の欠点を避けるか、
もしくは最小限にすることは、ひとつの改善となる。
特に、アンカが地中に真っ直ぐ突き進みやすくし、駆動エネルギを保つために、
平板または翼の先に、切削用あるいは星状のキリ状先導端を持つ、翼型のあるいは平板型の地中アンカを提供することは、この種技術に於けるひとつの改善である。
さらに、地中アンカに、丸い先端を持つ駆動棒によって衝撃される丸い底面を持つ軸受け管をつけ、底面の全領域で衝撃を受けるようにして、アンカが必要な打ち込み線上を突き進むようにすることは、特定の改善となる。
この技術での更にもうひとつの改善は、地中に侵入しやすくし、目穴にはめこまれたシャックルまたはケーブルのループ状終端が、自由に回転出来るようにするために、鋭く尖った先導端と、目穴部分にへこんだ側面がある、目穴用の峰部を、平板型あるいは翼型の、軸受け管を持つアンカに取り付けることである。」(2頁末行〜3頁11行) 2 取消事由の当否の検討 (1) 引用例における軸受け管の底部の形状(内部構造)の検討 原告は、本願発明の軸受け管(18)が駆動棒を受けるのに適した丸い底部を持つのに対して、引用例記載のものではその内部構造が不明であるから、本願発明の構成は容易に発明することができるものではない旨主張するので、これについて検討する。
(a) 本願発明の軸受け管(18)は、その発明の要旨に「本体部に設けられ、
アンカを地中に打ち込むための駆動棒を受けるのに適した丸い底部を持ち、」と規定され、これによって本願明細書(甲第2号証)に「底面の全領域で衝撃を受けるようにして、アンカが必要な打ち込み線上を突き進むようにすること」(3頁6〜7行)、「軸受け管18のまるい底面18aは、望ましい形は部分球面であるが、
円い底面を持つ駆動具の自由な捻じれ運動を可能にする凸面形であれば満足できる。」(6頁5〜6行)、及び、「駆動棒の丸い先端と、軸受け管の丸い底面が、
拡がった接触領域を作るので、駆動棒は駆動動作中に変形する事はなく、軸受け管から容易に取り出せて、アンカの中心部が作った丸い穴を通じて、地中から引き出される。」(7頁4〜7行)と記載されるように、本願発明の軸受け管(18)は、底面の全領域で駆動棒の衝撃を受けるように丸い底部を持つことで、アンカが打ち込み線上を曲がらずに直進でき、かつ駆動棒が変形して抜けなくなることもない作用効果を奏するものであることが認められる。
(b) 一方、引用例(甲第5号証)においては、その92頁(右上図及び左上図)に軸受け管が図示され、これによれば、「本体部に設けられ、アンカを地中に打ち込むための駆動棒を受ける円筒穴を持(つ)」軸受け管が認められるが、この軸受け管の底部がいかなる形状をしているかは不明である。
(c) ところで、一般に、軸線上に位置する2物体の力学的相互作用において、
駆動物体と被駆動物体との応力作用部について、駆動物体に対して被駆動物体を凹状にへこんだ面接触形状にすると、被駆動物体の軸心に応力が集中して軸線方向に応力が作用すること、そして、丸い面をもって駆動物体と被駆動物体とが面接触すれば、駆動物体の力学的変形作用が少なくなることは、機械工学上の技術常識と認められる。
(d) してみれば、駆動物体である駆動棒の力学作用を受ける被駆動物体である軸受け管の底部を(凹んだ)丸い形状にすることは、運動の力学的作用及び力学的変形作用に係る機械工学上の上記技術常識に従って、当業者が容易に想到するものというべきである。したがって、引用例記載のアンカでは、その軸受け管の底部の形状(内部構造)が具体的には示されていないが、駆動棒を受けるのに適した丸い底部とすることは当業者は容易になし得るものと認められる。
よって、原告の上記主張は失当である。
(2) 引用例における翼の取付位置の検討 原告は、本願発明の翼(12)が管状中心本体部(11)両側面の長手方向中央付近から伸びているのに対して、引用例記載のものでは地中用アンカの背面図がなく、さらに図面全体が不明瞭なため、本体部に対する翼の取付位置が不明である旨主張する。
(a) 本願発明の翼(12)は、その発明の要旨に「翼(12)は、前記管状中心本体部(11)両側面の長手方向中央付近から伸びており」と規定され、これによって、本願明細書(甲第2号証)に「地中の抵抗をへらし、打ち込み動作時には迅速に突きすすんで行けるように、中心軸受け本体部から薄くなった外側の端に放射状に向かって、先細になっている。」(4頁1〜2行)、「このアンカは、中心部に、縦型の、あるいは軸状の管体部11を持ち、この管体部から翼12、12が放射状に拡がる。これらの翼12、12は、管体部に隣接する分厚い部分から外側の薄い端縁部にむかって、先細りになっている。」(5頁3〜6行)と記載されるように、アンカ中心部の管体部11管体部から翼が放射状に拡がる形状によって地中に侵入する作用効果を奏するものと認められる。
(b) 一方、引用例(甲第5号証)の92/110頁によると、審決(その引用に係る拒絶理由)が引用する右上図では、確かに、地中用アンカの背面の構成が示されておらず、管状中心本体部(11)に対する翼の取付位置が不明である。
しかしながら、同一物品を示す同92頁の左上図には地中用アンカの斜視図が示されており、そこには翼が管状中心本体部の両側面の長手方向中央付近から伸びている構成が明示されている。
(c) したがって、アンカの翼の取付位置について、本願発明と引用例に記載された発明とに相違がないものと認められる。
よって原告の上記主張は失当である。
(3) 引用例における脚部の下側垂直側辺の形状の検討 原告は、引用例では、アンカの脚部を構成する十字型の脚部のうち下側の垂直側辺が本体部に対してどのように形成されているのか不明であり、下側垂直側辺の後部形状が長手方向後方に伸び管状中心本体部(11)に合流しているか否か図面からは確認できず、記載されてもいないから、本願発明の構成は容易に発明できるものではない旨主張する。
(a) 本願発明の脚部は、その発明の要旨に「脚部(13)は突き出した十字型の脚として構成され、翼(12)と同じ平面にある一対の側辺(13a)と、翼(12)の平面に垂直に伸びる一対の側辺(13b)とからなり、長手方向後方に伸び、前記管状中心本体部(11)に合流している」と規定され、これによって、
本願明細書(甲第2号証)に「アンカが地中に真っ直ぐ突き進みやすくし、駆動エネルギを保つために、平板または翼の先に、切削用あるいは星状のキリ状先導端を持つ、翼型のあるいは平板型の地中アンカを提供することは、この種技術に於けるひとつの改善である。」(3頁2〜4行)、「そのような望ましいサイズのアンカは、翼から軸方向の前方に突き出した5センチメートルの長さの十字星型の脚部を持つ。この十字型脚部は、鋭く尖った前方端を持ち、小さな岩やシェール、砂岩などに突き当たった時にも、アンカがその進路を保てるようにしている。この突き出した中心軸上の星状の先端は、固い地層に侵入し、平板の翼が地中の固い地層に遭遇する前に、障害物を砕き破壊する。翼または平板が突き進む前に地層を切削するこの動作機能は、また、アンカが地中を進むのに必要な駆動エネルギを軽減させる。」(3頁21〜27行)、「星状の先端の十字形の側面部あるいは脚部の一対は、翼の前方端と合流している。星状の先端のもう一方の対は、翼に直角に伸びて、後方でアンカの中心軸の軸受け管に合流している。」(4頁3〜5行)と記載されるように、アンカの十字型の脚部は、平板の翼が地中の固い地層に遭遇する前に地中の障害物を砕きアンカを直進させる作用効果を奏するものであり、このときに、翼の平面に垂直に伸びる一対の側辺(13b)が管状中心本体部(11)に合流する構造によって、地中への侵入時の抵抗を軽減するためであることは明らかである。
(b) 一方、甲第5号証によれば、引用例の92/110頁における審決引用の右上図では、アンカの脚部の構成として、翼と同じ平面にある一対の側辺と、翼の平面に垂直に上側に伸びる側辺とが示され、この上側に伸びる側辺が長手方向後方に伸び管状中心本体部に合流している構成が示されていることが認められるが、原告主張のように、地中用アンカの背面の構成が示されておらず、脚部の下側垂直側辺の形状が不明である。
しかしながら、甲第5号証によれば、同一物品を示す92/110頁の左上図には地中用アンカの斜視図が示されており、また、同じく同一物品を示す96/110頁の右上図にも、地中用アンカが図示されていることが認められ、いずれにおいてもアンカの脚部が翼の前方に突き出した十字型の脚として構成され、翼の平面に垂直に伸びる一対の側辺の垂直構造については、そこに開示された先端部分の範囲に限っても、翼の平面上側と平面下側とで対称(同一)の形状をもって構成されていることが認められる。
そして、十字型の脚部によって地中の障害物を砕きアンカを直進させるという作用を奏させるためには、脚部の垂直部の構造を、その掘削機能からして、翼の平面上側と平面下側とで作用を同じくする同一形状のものとすることが最も自然な考え(着想)と認められ、脚部の垂直部については、翼の平面上側と同様に、平面下側においても「垂直に伸びる一対の側辺とからなり、長手方向後方に伸び、管状中心本体部に合流している」構造とすることが、技術的に普通の着想であると認められる。
(c) 以上によれば、引用例のアンカでは翼の平面下側の脚部の垂直構造が具体的には示されていないものの、これを「垂直に伸びる一対の側辺とからなり、長手方向後方に伸び、管状中心本体部に合流している」構造とすることは、当業者が容易に理解し想到し得るものと認められる。
結論
以上のとおり原告主張の審決取消事由はすべて理由がなく、本訴請求は棄却すべきである。
(平成11年9月16日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 市川正巳