関連審決 | 異議2002-72594 訂正2003-39185 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 技術的手段 / 技術常識 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 構成要件 / 設定登録 / 拒絶理由通知 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 独立特許要件 / 訂正明細書 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10294号
審決取消請求事件
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原告 アドバンス電気工業株式会社 訴訟代理人弁護士 植村元雄,弁理士 後藤憲秋 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 島愼二,大野覚美,岡田孝博,井出英一郎 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/05/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が訂正2003-39185号事件について平成16年2月9日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
本件は,原告が,後掲の訂正審判請求について,審判請求不成立の審決を受けたため,同審決の取消しを求めた事案である。 1 特許庁における手続の経緯 本件特許第3276936号「流量コントロールバルブ」は,平成10年12月25日に特許出願され,平成14年2月8日に特許権の設定登録がなされ,その後,本件特許について,特許異議の申立て(異議2002-72594号)がなされた。 異議申立てについて,平成15年5月27日,「特許第3276936号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定(甲10)があり,原告はその取消訴訟を提起した(当庁平成17年(行ケ)10282号(提起時の事件番号は東京高裁平成15年(行ケ)第298号))。 原告は,その取消訴訟の係属中である平成15年9月2日,本件特許につき訂正審判の請求をしたが(訂正2003-39185号,甲11),平成16年2月9日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり,その謄本は同年2月19日原告に送達された。 2 本件訂正発明の特許請求の範囲の記載(下線部分が訂正箇所。以下「訂正発明」という。)【請求項1】 一側に被制御流体の流入部(12)を有し弁座(16)を介して他側に被制御流体の流出部(15)が形成されたチャンバ(20)を有するボディ本体(11)と,前記弁座を開閉する弁部(41)と前記流入部側に配された第一ダイヤフラム部(50)と前記流出部側に配された第二ダイヤフラム部(60)とを有する弁機構体(40)とからなり, 前記各ダイヤフラム部は,それらの外周部が前記ボディ本体に固定されて前記チャンバ内に取り付けられていて,該チャンバを第一ダイヤフラム部外側の第一加圧室(21),前記第一ダイヤフラム部及び第二ダイヤフラム部に囲まれ前記流入部及び弁座並びに流出部を有する弁室(25),及び第二ダイヤフラム部外側の第二加圧室(30)に区分しており,前記第一加圧室及び第二加圧室に設けられた第一加圧手段(M1)及び第二加圧手段(M2)によって前記第一ダイヤフラム部及び第二ダイヤフラム部を常時弁室方向に一定圧力を加えるようにしてなる流量コントロールバルブ(10)において, 前記弁機構体(40)の第一ダイヤフラム部(50)に弁部(41)を有する第一部材(51)を一体に設けるとともに,前記第二ダイヤフラム部(60)には前記第一部材と分離自在に遊嵌結合された第二部材(61)を一体に設け,前記第一部材 と第二部材 の分離 によって 前記弁部 と弁座 との 間の微細 な塵の発生 を防止 し得るようにし た ことを特徴とする流量コントロールバルブ。 【請求項2】 請求項1において、前記弁機構体の第一部材と第二部材の結合部が円台錐形状の凸部(52)と凹部(62)によって形成されている流量コントロールバルブ。 【請求項3】 請求項1または2において、前記第一加圧室の加圧手段がバネ(S1)よりなる流量コントロールバルブ。 【請求項4】 請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記第二加圧室の加圧手段が加圧気体(A1)よりなる流量コントロールバルブ。 3 審決の理由の要点 審決(甲1)は,訂正発明は,引用例1及び2(下記)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項により,特許出願の際独立して特許を受けることができないと判断した。 (1) 引用刊行物 引用例1:特開平6-295209号公報(本訴甲3) 引用例2:特開平7-19370号公報(本訴甲4) (2) 引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。) 「一側に被制御流体の流入口87を有し流量制御部82に対向する弁室内壁面を介して他側に被制御流体の流出口88が形成されたチャンバを有するバルブ本体78と,前記弁室内壁面に接近離間する流量制御部82と前記流入口87側に配された第二ダイヤフラム76と前記流出口60側に配された第一ダイヤフラム74とを有する弁体71とからなり, 前記各ダイヤフラムは,それらの外周部が前記バルブ本体78に固定されて前記チャンバ内に取り付けられていて,該チャンバを第二ダイヤフラム76外側の加圧室80,前記第二ダイヤフラム76及び第一ダイヤフラム74に囲まれ前記流入口87及び流量制御部82に対向する弁室内壁面並びに流出口88を有する弁室81,及び第一ダイヤフラム74外側の加圧室79に区分しており,前記加圧室80及び加圧室79に設けられた第一の加圧気体及び第二の加圧気体によって前記第二ダイヤフラム76及び第一ダイヤフラム74を常時弁室81方向に一定圧力を加えるようにしてなる流量コントロールバルブ70において, 前記弁体71の第二ダイヤフラム76に流量制御部82を有するロッド部72の下側の半体を一体に設けるとともに,前記第一ダイヤフラム74には前記ロッド部72の下側の半体と螺合により結合されたロッド部72の上側の半体を一体に設けた流量コントロールバルブ。」 (3) 引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。) 「一側に被制御流体の流入部である一次通路6を有し弁座3を介して他側に被制御流体の流出部である二次通路8が形成された弁本体1と,弁座3を開閉する弁体10を固着して弁座孔4を貫通し上方へ延びる弁体ステム11と,ダイヤフラムステム21が固着され二次通路8に配されたダイヤフラム19と,弁体ステム11の上方に結合されダイヤフラムステム21が嵌入するピストン13とを有する流体制御弁であって,弁体ステム11とダイヤフラムステム21の分離によって,弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらないようにした流体制御弁。」 (4) 本件訂正発明と引用発明1の対比 ア 一致点 「一側に被制御流体の流入部を有し弁座を介して他側に被制御流体の流出部が形成されたチャンバを有するボディ本体と,弁部と前記流入部側に配された第一ダイヤフラム部と前記流出部側に配された第二ダイヤフラム部とを有する弁機構体とからなり, 前記各ダイヤフラム部は,それらの外周部が前記ボディ本体に固定されて前記チャンバ内に取り付けられていて,該チャンバを第一ダイヤフラム部外側の第一加圧室,前記第一ダイヤフラム部及び第二ダイヤフラム部に囲まれ前記流入部及び弁座並びに流出部を有する弁室,及び第二ダイヤフラム部外側の第二加圧室に区分しており,前記第一加圧室及び第二加圧室に設けられた第一加圧手段及び第二加圧手段によって前記第一ダイヤフラム部及び第二ダイヤフラム部を常時弁室方向に一定圧力を加えるようにしてなる流量コントロールバルブにおいて, 前記弁機構体の第一ダイヤフラム部に弁部を有する第一部材を一体に設けるとともに,前記第二ダイヤフラム部には第二部材を一体に設けた流量コントロールバルブ。」 イ 相違点 (ア) 相違点1 「訂正発明の弁部は弁座を開閉できるものであるのに対し,引用発明1の流量制御部82は弁室内壁面に接近離間するものの,弁室内壁面を開閉できるものであるかどうかについては言及がない点。」 (イ) 相違点2 「訂正発明では,第二ダイヤフラム部と一体の第二部材が,弁部を有する第一部材と分離自在に遊嵌結合され,第一部材と第二部材の分離によって前記弁部と弁座との間の微細な塵の発生を防止し得るようにされているのに対し,引用発明1では,第一ダイヤフラム74と一体のロッド部72の上側の半体が,流量制御部82を有する下側の半体と分離自在に遊嵌結合されたものでなく,それゆえ,弁部(流量制御部82)と弁座(流量制御部82に対向する弁室内壁面)との間の微細な塵の発生を防止し得るようにされたものではない点。」 (5) 相違点の検討 ア 相違点1について 「引用発明1で,弁部である流量制御部によって,弁座である弁室内壁面を開閉できるようにしておくことは,上記周知技術から当業者が容易に行うことができたものである。」 イ 相違点2について 「流量コントロールバルブ等の制御弁を,半導体製造装置のようなクリーンな環境に適用する場合,微細な塵(パーティクル)の発生を極力抑えなければならないことは当業者において技術常識であるとともに,このような環境で使用される弁が,弁体と弁座との間に過大な力が加わることによって,この部分にパーティクルが発生しやすいことも当業者において周知である(例えば,特開平9-217845号公報(本訴甲5)の【0004】,特開平10-153268号公報(本訴甲6)の【0014】,特開平9-72435号公報(本訴甲7)の【0004】,特開平8-75017号公報(本訴甲8)の【0037】,特開平8-92726号公報(本訴甲9)の【0009】等の記載を参照されたい。)。 してみれば,制御弁を半導体製造装置のようなクリーンな環境に適用する場合,弁体と弁座との間に加わる過大な力を避けて該部分に微細な塵(パーティクル)が発生しないようにすることは,当業者における周知の技術課題というべきところ,引用例2には,引用例1に記載された流量コントロールバルブと同様,二次側に設けられたダイヤフラムによって弁体が弁座に接触して弁口を開閉し得る制御弁において,弁体と弁座との間に過大な力が加わらないようにするために,該ダイヤフラムと一体のダイヤフラムステムを,弁体を有する弁体ステムと分離自在に遊嵌結合しておく発明が記載されている。そして,この発明は,二次側に設けられたダイヤフラムによって弁体が弁座に接触して弁口を開閉し得る制御弁に等しく適用可能であって,この発明を引用発明1に適用することには何ら困難性が存在しないから,引用例1に記載された流量コントロールバルブをクリーンな環境に適用するに当たり,当業者における周知の技術課題である弁体と弁座との間に加わる過大な力を避けて該部分における微細な塵(パーティクル)の発生を抑えるため,二次側に設けられた第一ダイヤフラム74と一体のロッド部72の上側の半体(第二ダイヤフラムと一体の第二部材)を,流量制御部82を有する下側の半体(弁部を有する第一部材)と分離自在に遊嵌結合して,該部分に過大な力が加わらないようにすることは,引用発明1に引用発明2を適用することにより,当業者が容易に行うことができたものである。」 ウ 作用効果について 「訂正発明が奏する作用効果は,上記引用例1,2の発明に示唆された事項から予測し得る程度以上のものでないから,訂正発明は,上記引用発明1に上記引用発明2を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (6) 結論 「本件の訂正後における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により構成されている発明は,上記特許出願の出願前に頒布された引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。」 |
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原告の主張の要点
審決は,相違点2の判断を誤った結果,訂正発明の進歩性を否定し,また訂正発明の予期し得ない顕著な効果を看過したものであり,さらにその手続には瑕疵があるから取り消されるべきである。 1 取消事由1(相違点2の判断の誤り) (1) 引用発明2の認定 審決は,引用発明2について,「弁体10と一体に動く弁体ステム11及びダイヤフラム19と一体に動くダイヤフラムステム21とが,ピストン13の部分で互いに嵌合して別体に動くように構成されていることにより,ダイヤフラム19に大きな背圧が加わってダイヤフラムステム21に多大な負荷がかかっても,その力が弁体10にかかることがなく,弁体10の弁座3へ喰込みや衝撃の発生のないもの,すなわち,弁体ステム11とダイヤフラムステム21とを分離することによって,弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらないようにしているもの」と認定した。 しかしながら,「弁体10の弁座3へ喰込みや衝撃の発生がない」との技術事項と,「弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらないようにしている」との技術事項とは同一ではない。引用発明2の「弁体の弁座への喰込みや衝撃の発生がない」ことは,「弁体と弁座との間に過大な力が加わらない」ことにより生じる結果の一つにすぎず,「弁体と弁座との間に過大な力が加わらない」との構成は他の結果(例えば,微細な塵の発生防止)をも導き得る広い技術概念であるからである。 したがって,審決が,「すなわち」という表現を用いて,「弁体の弁座への喰込みや衝撃の発生がない」との技術事項を「弁体と弁座との間に過大な力が加わらない」との技術事項に置き換えた上,引用発明2を「…弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらないようにした流体制御弁」と認定したのは,誤りである。 (2) 引用発明1及び2の組合せの容易性 仮に,引用発明2の認定に誤りがないとしても,引用発明1と2を組み合わせることが当業者にとって容易であるとはいえない。 ア 訂正発明は,引用例1に開示されている従来の流量コントロールバルブ(一次側の圧力変動に対応して二次側の流量を一定に保つことができる制御弁)では解決されなかった,弁部と弁座間における微細な塵の発生の防止という課題を実現しようとするものであり,半導体製造分野等の超純水や薬液等が使用される分野におけるナノメートル(nm)単位の微細な塵の発生防止を目的としている。 上記課題を実現するため,訂正発明では,弁室が第一ダイヤフラム部及び第二ダイヤフラム部に囲まれ,弁室を流通する流体と加圧手段とが接触しない構造となっており,それにより加圧手段との接触により生ずる発塵が防止されている(加圧手段との非接触)。また,訂正発明では,チャンバが弁室,第一加圧室及び第二加圧室とに区分され,弁室内に隔壁部がない構造となっており,それにより弁軸の摺動により生ずる発塵が防止されている(弁軸の非摺動)。訂正発明は,このような非接触・非摺動構造を不可欠の前提とした上で,第一部材(51)と第二部材(61)とを分離自在に遊嵌結合することにより(弁部弁座無発塵構造),弁部と弁座との間の微細な塵の発生を防止しようとするものである。訂正発明は,上記非接触・非摺動構造により大きな発塵や汚れを防止するとともに,弁部弁座無発塵構造により弁部と弁座との間の微細な塵の発生を防止し,もってバルブ製品全体を清浄に保つことができる構成となっている。 イ これに対し,引用発明2の流体制御弁は,戸別給水・給湯設備に使用されるところの一般家庭向きの民生用の機器であって,流体制御弁の弁座に固形異物を引掛からせることなく通水を行うことを課題とするものであり,半導体製造装置等のように清浄な環境で使用される工業用の機器ではなく,微細な塵の発生を防止することを課題とする制御弁でもない。したがって,訂正発明と引用発明2とは,その課題・目的が異なる。 また,引用例2記載の流体制御弁は,流体が流通する二次室7内に,「弁体10から二次室7を貫通して下方に延びる案内棒14が弁本体1の下ふた体15の案内孔16に挿入されて」(段落【0013】)いて,弁体10の移動とともに案内棒14が案内孔16を摺動するとともに,「弁体10と下ふた体15との間に圧縮コイルばねからなる閉弁ばね17が装入されて」(同段落)いて,二次室7内を流通する流体と閉弁ばね17とが直接接触する構造であるため,案内棒14の摺動部及び閉弁ばね17から生ずる塵が二次室7内を流通する流体に混入することを容認する構造となっている。すなわち,訂正発明と異なり,引用例2の流体制御弁は,微細な塵の発生を防止するとの技術思想に基づくものではない。 さらに,引用発明2の流体制御弁は,弁体と弁座との間に喰込みや衝撃が生じないとの効果を有するとしても,「喰込み」や「衝撃」は相当大きな強い力が加わる場合であり,それより小さな力が加わることにより弁体と弁座との間に微細な塵が発生することを防止できるものでない。したがって,訂正発明と引用発明2とは,発明の効果も異なる。 ウ このように,引用例2の流体制御弁は,少なくとも,訂正発明の非接触・非摺動構造を備えておらず,用途,目的,構造,技術思想,利用分野等の面でも訂正発明とは異なる。他方,引用例1の発明は,訂正発明の前提要件である非接触・非摺動構造を有するが,弁部弁座無発塵構造を備えていない。そうすると,引用発明2の流体制御弁を引用発明1と組み合わせることにより訂正発明に係る構成とすることは,当業者の技術常識上到底考えられず,容易に想到し得るものではないというべきである。 エ なお,審決は,甲5ないし9を引用して,「制御弁を半導体製造装置のようなクリーンな環境に適用する場合,弁体と弁座との間に加わる過大な力を避けて該部分に微細な塵(パーティクル)が発生しないようにすることは,当業者における周知の技術的課題」であると認定している。原告はこの点を争うものではない。しかしながら,弁体と弁座との間に加わる過大な力を避けて当該部分に微細な塵が発生しないようにすることが当業者における周知の技術的課題であるとしても,これを解決する技術的手段には種々の構成があり得るが,甲5ないし9には訂正発明の構成を示唆する記載は全く存在せず,訂正発明は同じ課題を解決するものとしてより簡単で優れた確実な効果を実現するものである。したがって,甲5ないし9の記載を考慮しても,当業者が引用発明1及び2に基づき訂正発明を容易に発明し得たとはいえない。 2 取消事由2(予期し得ない顕著な効果の看過) 仮に,引用発明1と引用発明2の組合せが容易であるとしても,訂正発明には,予期し得ない顕著な効果の発現がある。 訂正発明は,@弁室を流通する流体が加圧手段と接触せず,接触から生じる発塵を回避できる,A弁室内には隔壁部がなく,弁軸が摺動することから生じる発塵を回避できる,B弁部と弁座との間の微細な塵の発生を防止できる,との各効果を同時的かつ相乗的に奏するものである。これにより,訂正発明は,甲23ないし25の試験報告書及びその拡大写真に示されているとおり,弁室全体として塵が発生せず,超純水や薬液等の制御に高い適用性を有する流量コントロールバルブを提供することができるという画期的で格別かつ顕著な効果を有するのであり,国内外の半導体製造及び薬液製造分野からも絶大な評価を得ている。これに対し,引用発明1は,弁体と弁座との間の微細な塵の発生を防止することができず,引用発明2は,案内棒の摺動部や閉弁ばねから生ずる塵が流体に混入することを容認するものであって,訂正発明とはその技術思想が全く異なる。したがって,訂正発明の奏する効果は,引用例1,2に示唆された事項から予測し得るものではない。 3 取消事由3(手続違背) (1) 被告は,審決において甲5ないし9を引用した理由について,弁体と弁座との間に過大な力が加わることにより当該部分に微細な塵が発生しやすいことが当業者に周知であることを例示するためであると主張している。しかしながら,原告は,甲5ないし9に基づく周知の技術課題の認定について意見を述べる機会を与えられていない。平成15年10月15日付け訂正拒絶理由通知書(甲13)には,弁部と弁座間の塵の発生を解消することは,引用発明1に内在する課題であると記載されているにすぎないのであるから,審決において,甲5ないし9に基づいて上記技術課題が周知であると認定するのは原告に対する不意打ちである。 (2) さらに,審決は,甲5ないし9を,引用例1及び2に基づいて訂正発明を発明することが容易であることを立証するための直接的な証拠として使用しているのであり,この点でも違法である。 |
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被告の主張の要点
訂正発明は引用発明1,2に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとした審決の判断に誤りはなく,審判手続にも何ら違法な点はない。 1 取消事由1(相違点2の判断の誤り)に対して (1) 引用発明2の認定 原告は,審決が,引用発明2について,「弁体10の弁座3への喰込みや衝撃の発生のないもの,すなわち,弁体ステム11とダイヤフラムステム21とを分離することによって,弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらないようにしているもの」と認定したのは誤りであると主張する。 しかしながら,審決は,引用例2における「弁体10はこのダイヤフラム19に引張られることなく閉弁ばね17のばね力のみで弁座3に接触し」(段落【0015】)との記載,及び「正常な閉弁時においても閉弁終期には閉弁ばね17のばね力のみで弁座3に着座し」(段落【0016】)との記載に基づき,引用発明2を「弁体10と一体に動く弁体ステム11及びダイヤフラム19と一体に動くダイヤフラムステム21とが,ピストン13の部分で互いに嵌合して別体に動くように構成されていることにより,ダイヤフラム19に大きな背圧が加わってダイヤフラムステム21に多大な負荷がかかっても,その力が弁体10にかかることがなく,弁体10の弁座3へ喰込みや衝撃の発生のないもの」と認定し,その中でも特に「ダイヤフラムステム21に多大な負荷がかかっても,その力が弁体10にかかることがなく」との記載に基づいて,「すなわち,弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらないようにしているもの」と認定したものである。原告の主張は審決を正解しないものであり,失当である。 (2) 引用発明1及び2の組合せの容易性 原告は,引用発明1及び2の組合せには阻害要因があると主張する。 しかしながら,甲5ないし9が示すとおり,流量コントロールバルブ等の制御弁を半導体製造装置のような清浄な環境に適用する場合,微細な塵の発生を極力抑えなければならないことは当業者に技術常識であるとともに,このような塵が弁体と弁座との間に過大な力が加わることによって発生しやすいことも当業者において周知である。したがって,流量コントロールバルブ等の制御弁を,半導体製造装置のような清浄な環境に適用する場合,弁体と弁座との間に加わる過大な力を避けて当該部分に微細な塵が発生しないようにすることは,当業者に周知の技術課題といえる。 引用発明2は,上記技術課題に対し,弁体10と一体に動く弁体ステム11と,ダイヤフラム19と一体に動くダイヤフラムステム21とを分離することによって,二次通路側のダイヤフラム19に高圧流体が働いても弁体10がこのダイヤフラム19に引張られて弁体10と弁座3との間に過大な力が加わることがないようにする発明である。引用発明2は,二次通路側に設けられたダイヤフラムに引張られて弁体と弁座との間に過大な力が加わる可能性のある制御弁であれば,どのような制御弁にも適用可能であることは当業者が容易に想到し得るところである。 引用発明1は,引用発明2と同様,流量コントロールバルブに関するものであり,同発明にも,弁体と弁座との間に加わる過大な力を避けて当該部分に微細な塵が発生しないようにするという技術課題が存在するのであるから,この課題を解決するために引用発明2を適用することは,当業者が何らの困難もなくなし得たものということができる。 2 取消事由2(予期し得ない顕著な効果の看過)に対して 原告は,訂正発明の奏する顕著な効果は,引用例1及び2に示された技術事項から予測し得ないものであると主張する。 しかしながら,前記のとおり,引用発明2の流体制御弁を半導体製造装置のような清浄な環境に適用する場合には,弁体と弁座との間に過大な力が加わらないことによって,弁体と弁座との間の塵の発生を防止できることは明白であるから,引用発明1に引用発明2を適用すれば,弁室全体として塵が発生しないという効果を奏することは当業者が容易に予測し得るところである。 したがって,「訂正発明が奏する効果は,上記引用例1,2の発明に示唆された事項から予測し得る程度以上のものでない」とした審決の認定に誤りはない。 3 取消事由3(手続違背)に対して (1) 原告は,審決が周知技術の存在を示すものとして甲5ないし9を挙げたことを問題とするが,周知技術は,本来,当業者が熟知しているべき事項であるため,審決においても周知技術であることの根拠を示す必要はないとされているものであって,あたかも訴訟における裁判所に顕著な一般的経験則のごとく,当業者の常識ともいうべきものである(東京高裁平成11年12月28日判決・平成10年(行ケ)第218号 最高裁HP)。甲5ないし9は,半導体製造装置のような清浄な環境で使用される弁において,弁体と弁座との間に過大な力が加わると塵が発生しやすいということが周知であることを示すために例示したものであり,原告に対する不意打ちとはいえない。したがって,甲5ないし9に示された周知技術について,原告に意見書提出の機会が与えられなかったとしても,何ら違法な点はない。 訂正拒絶理由通知書では,弁部と弁座間の塵の発生を解消することが引用発明1に内在する課題である旨記載されているが,これは,引用例1には弁部と弁座間における微細な塵の発生という問題点に対する認識が示唆されていないとの原告主張に対し,引用発明1も同様の課題を抱えていることを述べたにすぎず,この課題が周知であることを否定する趣旨ではない。 (2) 甲5ないし9が,訂正発明を容易に発明できることを直接立証するための証拠ではないことも明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点2の判断の誤り)について (1) 引用発明2の認定について 審決は,引用発明2について,「弁体10と一体に動く弁体ステム11及びダイヤフラム19と一体に動くダイヤフラムステム21とが,ピストン13の部分で互いに嵌合して別体に動くように構成されていることにより,ダイヤフラム19に大きな背圧が加わってダイヤフラムステム21に多大な負荷がかかっても,その力が弁体10にかかることがなく,弁体10の弁座3へ喰込みや衝撃の発生のないもの,すなわち,弁体ステム11とダイヤフラムステム21とを分離することによって,弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらないようにしているもの」と認定しているところ,原告は,上記認定のうち「弁体10の弁座3への喰込みや衝撃の発生のない」ことは結果であり,「弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらない」ことは原因であるから,審決が両者を同等のものと理解して「すなわち」という表現を用いて言い換えているのは,誤りであると主張する。 しかしながら,原告の主張は,審決の上記記載のうち,「弁体10の弁座3への喰込みや衝撃の発生のない」との記載のみをことさらに取り上げて,「すなわち,…弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらない」との記載と対比しようとするものであり,失当である。審決の「すなわち,…弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらないようにしているものと認められる」との記載は,「すなわち」より前の部分全体,とりわけ「ダイヤフラム19に大きな背圧が加わってダイヤフラムステム21に多大な負荷がかかっても,その力が弁体10にかかることがなく,弁体10の弁座3へ喰込みや衝撃の発生のないもの,」との記載を踏まえたものであり,そこには「弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらないようにしている」との内容が記載されているということができる。審決が「すなわち」より前の内容を「弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらないようにしている」と言い換えたことが誤りであるということはできない。 したがって,審決の引用発明2の認定に誤りがあるとはいえない。 (2) 引用発明1及び2の組合せの容易性 原告は,仮に審決の引用発明2の認定に誤りがないとしても,引用発明1,2と訂正発明の用途,課題,構造,技術思想,作用効果等における差異に照らせば,引用発明1に引用発明2を組み合わせることは容易ではないと主張する。そこで,検討する。 ア 訂正明細書(甲12),引用例1(甲3),引用例2(甲4)によれば,訂正発明に係る流量コントロールバルブ,引用発明1に係る流体コントロールバルブ,引用発明2に係る流体制御弁は,いずれも流入側の流体圧力の変動に対応して弁口(弁座と弁体の間の領域)を開閉することにより流出側の流量を制御できる制御弁に関する発明であると認められる。したがって,訂正発明,引用発明1及び2は,いずれも同一ないし極めて近接した技術分野に関する発明であるということができる。 イ 原告は,引用発明2の流体制御弁は,戸別給水・給湯設備に使用される一般家庭向きの民生用機器であって,流体制御弁の弁座に固形異物を引掛からせることなく通水を行うことを課題とするものであるのに対し,訂正発明は,半導体製造装置等のように清浄な環境で使用される工業用機器であり,微細な塵の発生を防止することを課題とする制御弁であるから,訂正発明と引用発明2とはその適用分野,課題,目的が異なると主張する。 なるほど,訂正発明に係る流量コントロールバルブは「弁部と弁座との間の微細な塵の発生を防止し得るようにした」(請求項1)ものであり,適用分野については訂正明細書に必ずしも明確な記載はないが,段落【0007】の記載等によれば,半導体製造装置のような清浄な環境における超純水や薬液等の用途に用いられることが想定されていると理解することができる。他方,引用発明2に係る流体制御弁は戸別給水,給湯設備等に使用される民生用機器であり(引用例2の段落【0001】),必ずしも半導体製造装置で問題となるような微細な塵の発生を防止することを目的とするものではないと認められる。 しかしながら,訂正発明,引用発明1及び2のような流体制御弁は,弁体と弁座との間に加わる過大な力を避けて当該部分に微細な塵が発生しないようにすることが周知の技術課題であり,このことは,原告も争わず,甲5ないし9にも示されているとおりである。そして,前記判示のとおり,引用発明2は「弁体ステム11とダイヤフラムステム21との分離によって,弁体10と弁座3との間に過大な力が加わらないようにした流体制御弁」であるから,上記技術課題の解決を図ったものであるということができ,「弁体10は・・・閉弁ばね17のばね力のみで弁座3に接触し喰込みを生じることがなくなる」(段落【0015】)との記載によれば,弁体と弁座の接触による塵の発生を防止し得るとの効果を奏するものと認められる。 他方,訂正発明も「流出側(二次側)の負荷の増大に伴う弁部と弁座間の塵の発生を解消すること」(段落【0008】)を目的とするものであるから,上記技術課題を解決しようとするものであり,弁部と弁座間に塵が発生することを防止するとの効果を奏する。そうすると,訂正発明と引用発明2はその技術課題,目的,効果を共通にするということができ,その適用分野の差異や発生を防止する塵の大きさの差異があるとしても,当業者であれば,引用発明2を引用発明1に組み合わせることは困難ではないというべきである。 ウ 原告は,訂正発明では,弁室を流通する流体と加圧手段とが接触せず(非接触構造)かつ弁軸の摺動により生ずる発塵が防止される構造となっている(非摺動構造)ために,より大きな塵や汚れの発生を防止することができるのに対し,引用発明2では,弁室を流通する流体と加圧手段とが接触し,かつ弁軸の摺動による発塵を防止できない構造となっているのであるから,両発明は基礎となる技術思想を異にするとも主張する。 なるほど,引用例2(甲4)の段落【0013】によれば,引用発明2の流体制御弁では,案内棒14の摺動部及び閉弁ばね17から生ずる塵が二次室7内を流通する流体に混入することが避けられない構造となっていると認められ,この点では訂正発明及び引用発明1とは異なるということができる。 しかしながら,審決は,引用発明1(引用発明1は原告のいうところの非接触構造・非摺動構造を備えている。)を主引用例とした上で,引用発明1と訂正発明との相違点2の構成,すなわち第二ダイヤフラム部と一体の第二部材が,弁部を有する第一部材と分離自在に遊嵌結合された構成について引用発明2を適用しているのであるから,引用発明2が上記非接触・非摺動構造を備えていないからといって,引用発明1に引用発明2を組み合わせることが困難となるものではなく,引用発明1の上記非接触・非摺動構造を維持したまま引用発明2を適用することを阻害する事情が存在するとも認められない。また,原告は,引用発明2は大きな塵や汚れの発生を容認していると主張するが,引用例2にはそのような記載はなく,訂正発明と引用発明2の上記技術課題に照らしても,両発明の技術思想が相違しているということができない。したがって,引用発明2が上記非接触・非摺動構造を有しないことを理由にして引用発明2を引用発明1に適用することが困難であるとする原告主張は採用できない。 エ 以上のとおり,訂正発明,引用発明1及び2の技術分野,技術課題,目的,構造,効果等を考慮すれば,引用発明2を引用発明1に適用することには何ら困難ではないとの審決の認定に誤りはないというべきである。したがって,原告の主張する取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(予期し得ない顕著な効果の看過)について 原告は,訂正発明は,@弁室を流通する流体が加圧手段と接触せず,接触から生じる発塵を回避できる,A弁室内には隔壁部がなく,弁軸が摺動することから生じる発塵を回避できる,B弁部と弁座との間の微細な塵の発生を防止できる,との各効果を同時的かつ相乗的に奏するものであり,その効果は予期し得ない格別かつ顕著なものであると主張する。 しかしながら,上記@Aの効果は引用発明1が備えている構成から生じるものであり,上記Bの効果は引用発明1に引用発明2を適用することにより生じ得るものであるから,引用発明1に引用発明2を適用した場合に弁室全体として塵が発生しないという効果を奏することは当業者が容易に予測し得るというべきであり,原告の提出した証拠(甲23ないし25)を考慮しても,その効果は予期し得ない格別かつ顕著なものとは認められない。したがって,「訂正発明が奏する効果は,上記引用例1,2の発明に示唆された事項から予測し得る程度以上のものでない」との審決の判断に誤りはない。 したがって,原告の主張する取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(手続違背)について 原告は,@審決が甲5ないし9に基づいて周知事項を認定したのは,原告に対する不意打ちであり,原告はそれについて意見を述べる機会も与えられていない,A審決は甲5ないし9を訂正発明を発明することが容易であることを立証するための直接的な証拠として使用している,などと主張する。 しかしながら,審決の記載によれば,甲5ないし9が,「流量コントロールバルブ等の制御弁を,半導体製造装置のようなクリーンな環境に適用する場合,微細な塵(パーティクル)の発生を極力抑えなければならないことは当業者において技術常識であるとともに,このような環境で使用される弁が,弁体と弁座との間に過大な力が加わることによって,この部分にパーティクルが発生しやすいことも当業者において周知である」ことを示すために例示されているにすぎないことは明らかである。このような周知事項は,審判官も当業者も当然の前提として熟知しているべき事柄であるから,審決において初めてかかる周知事項が摘示され,その存在を示すための文献が例示されたとしても,原告に対する不意打ちとはいえず,原告がそれについて意見を述べる機会を与えられなくとも審判手続が違法とはいえない。また,審決が,訂正発明の容易性を判断するための直接的な証拠として甲5ないし9を用いているものではないことも明らかである。したがって,原告の主張する取消事由3は理由がない。 なお,本件訂正後の特許請求の範囲請求項2ないし4は,請求項1の構成要件を直接,間接に引用しているところ,審決は,請求項1に記載された発明(訂正発明)の独立特許要件についてのみ明示的判断を示している。しかし,請求項2ないし4については,上記請求項1を引用する部分以外には訂正事項はない。そして,審決の判断は,その前提として,前記異議の決定が本件訂正前の請求項2ないし4についてした進歩性がないとの判断を含む趣旨でなされたものと理解することができるので,上記の点を理由に審決を取り消すべき事案であるとは解されない(原告も,異議決定の認定判断を争っておらず,本訴において,請求項2ないし4の請求項1を引用する部分以外の構成を理由とする審決取消事由を主張しているものではない。)。 4 結論 以上のとおり,原告の主張する審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 田中昌利 |
裁判官 | 佐藤達文 |