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事件 平成 10年 (ワ) 4406号 特許権移転登録手続請求事件
原告 日本レーザ電子株式会社 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 奥村哲司右補佐人弁理士 【B】
被告 【C】 右訴訟代理人弁護士 明賀英樹
同 黒田一弘
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1999/09/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
事実及び理由については、別紙「事実及び理由」記載のとおりであり、それによれば、原告の請求は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(平成一一年六月二二日口頭弁論終結)
追加
(別紙事実及び理由)第1請求被告は、原告に対し、別紙目録1記載の特許権について、平成4年5月22日契約を原因とする移転登録手続をせよ(以下、別紙目録1の特許権を「本件特許権」、この特許権に係る発明を「本件発明」という。)。
第2事案の概要1基礎となる事実(争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨より明らかに認められる。なお、書証番号は甲1などと略称し、枝番のすべてを示すときは枝番の記載を省略する。)(1)当事者ア原告は、電子計測機器、精密機器の製造、販売及び輸出入等を主な業務とする株式会社である。
イ被告は、従前から、電子顕微鏡の検体用薄膜に関する研究に従事していた者であり、別紙目録2記載の特許権に係る発明の発明者である(甲5、15。以下、この特許権を「旧特許権」、この特許権に係る発明を「旧発明」という。)。
(2)技術顧問委嘱契約の締結原告と被告は、平成4年5月22日付けで、技術顧問委嘱契約(以下「本件技術顧問契約」という。)を締結した。この契約には、次の条項があった。
第2条(目的)乙(原告)は、甲(被告)の発明したグロー放電によるプラズマ重合膜レプリカ法によるレプリカ膜作成装置…を製造するにあたり、技術顧問として以下の項目を委託し、甲(被告)はこれを受諾する。
第6条(工業所有権)本契約を履行する過程での発明、考案、工業所有権は乙(原告)に帰属するものとする。
(3)原告製品の開発本件技術顧問契約の締結後、原告では、被告の技術指導の下に、旧発明の実施品である「プラズマ製膜装置」(甲24の1)、旧発明及び本件発明の実施品である「プラズマ製膜装置NL型」(甲24の2)、本件発明の実施品である「オスミウム・プラズマコーター」(甲24の3)の開発が順次行われ、原告ではそれらの製品を製造、販売した。
(4)被告による本件特許権の取得被告は、平成5年5月24日に本件発明の特許出願を行い、平成9年9月19日に登録を得、現在、本件特許権を保有している。
2原告の請求本件は、原告が被告に対し、本件発明は、被告が本件技術顧問契約を履行する過程で得られたものであるから、本件特許権は同契約6条によって原告に帰属すべきものであるとして、本件特許権の移転登録手続を求めた事案である。
3争点本件発明は、被告が本件技術顧問契約を履行する過程で得られたものか。
第3争点に関する当事者の主張【原告の主張】1旧発明と本件発明とでは、真空化された反応容器中に生成されたプラズマによるグロー放電を利用して導入された薄膜原料ガスを陽イオン化し、陰極上の負グロー層領域に配置された試料表面に非結晶薄膜を作製するという点で技術的特徴を共通にしており、ただ、作製される薄膜の種類が相違することから、導入される薄膜原料ガスの種類及びこれに伴う放電条件が相違するにすぎない。したがって、本件発明は、旧発明を応用したもので、その延長線上にある関連技術である。
2原告では、平成4年5月22日に被告との間で本件技術顧問契約を締結した後、オスミウム・プラズマコーターの開発にとりかかり、設計、製作、実験及び評価を原告が行い、被告はこの開発に当たって技術顧問として関与した。本件発明は、旧発明の応用であり、オスミウム・プラズマコーターを開発する過程で生まれたものであるから、本件技術顧問契約6条の適用がある。
【被告の主張】1本件発明において、プラズマ装置を使っている点は旧発明と同様である。しかし、旧発明が直流グロー放電装置を使って、有機単量体ガスの軽い分子を陽イオン化して重合膜を作るのに対し、本件発明は、有機金属化合物ガスから金属原子だけを陽イオン化して抽出し、負グロー相領域に送り込んで、原子レベルで高純度の非結晶、多結晶金属薄膜を作るものであり、基本的に生成機構が異なっている。したがって、両者は理論的に全く異なるものである。
2本件発明は、平成4年4月初めころに、被告が、従前旧発明の実施品を製造、
販売していた訴外ウシオ電機株式会社(以下「ウシオ電機」という。)から同実施品の貸与を受けて実験を行い、同月23日ころに実験に成功したことにより完成したものである。したがって、本件発明は、本件技術顧問契約とは関係がない。
第4争点に対する当裁判所の判断1基本的な事実経過後掲各証拠、甲20、28、乙13ないし15、原告代表者本人及び被告本人の各供述並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)旧発明とその実施品の製造・販売被告は、昭和51年から同61年までの間、財団法人東京都臨床医学総合研究所に勤務し、研究生活を送っていたが、その間に旧発明を完成した。
旧発明は、発明者を被告、名称を「電子顕微鏡の検体用レプリカ薄膜の作製装置」として、昭和53年12月19日に同研究所から出願され、同63年8月10日に登録された(甲5、15)。
旧発明については、ウシオ電機が実施許諾を受けて実施品(以下「ウシオ電機製品」という。)を製造、販売し、そのために被告は昭和61年から同社との間で技術顧問契約を締結した。しかし、ウシオ電機は平成4年3月末にこの実施品の製造、販売を中止し、それに伴い被告も同社の技術顧問を辞した。
(2)本件技術顧問契約の締結被告は、財団法人東京都臨床医学総合研究所を辞した昭和61年から、東京慈恵会医科大学に非常勤講師として勤務していたが、平成3年12月ころ、同大学に助教授として勤務していた【D】から原告代表者を紹介された。
当時、原告は、大学や研究機関での研究成果を基礎として、開発即商品になるような製品を中心に新製品の開発を進めるという開発手法を採用しており、優れた発明をした研究者を技術顧問として迎えることにより、その指導を受けて新製品開発を行い、その対価として販売協力費を支払うというやり方で新製品の開発を行っていた。
原告は、ウシオ電機が旧発明の実施品の製造、販売を中止することとなったのを機に、旧発明の実施品の製品化に注目し、財団法人東京都臨床医学総合研究所から旧特許権の実施許諾を得るとともに(甲16)、平成4年5月22日、被告との間で、本件技術顧問契約を締結した(甲2)。
本件技術顧問契約は、原告が被告の発明した旧発明の実施品を製品化するに当たって、実際の発明者ならではの技術的ノウハウについて指導を受けることを主たる目的としているものであった。
この契約を締結した当時、被告が本件発明を行った旨の話は原告になされなかった。
(3)原告製品の開発本件技術顧問契約の締結後、原告では、被告の指導の下、まず、旧発明の実施品であるTEM(透過電子顕微鏡)用の「プラズマ製膜装置」(甲24の1。大型機とも呼ばれる。)の開発を行った。具体的には、被告において、平成4年7月ころに本体の原図を作製し、同年8月ころに新型の凍結用カッターの設計図を作製して、
原告に交付した。この製品は、同年10月ころに製造図面が出来上がり、同年12月から翌平成5年1月にかけて製造が行われ、最終的には同年3月28日に長崎大学歯学部に納品された(甲11)。
原告は、この製品開発のために、平成4年6月18日から8月3日までの間、被告からウシオ電機製品の貸出しを受けた。この機械は、被告が東京慈恵会医科大学において、ウシオ電機から、同年4月15日付けで貸出しを受けていたものであった(乙1の2)。
続いて、被告は、筑波の物質工学工業技術研究所の【E】教授からの発注に係る「プラズマ製膜装置NL型」(甲24の2。中型機とも呼ばれる。)の設計を行った。これについて、被告は、【E】教授から広範な有機材料をすべて処理できるものが欲しいと要望されたのを受けて、旧発明と本件発明の双方の実施品としての機能及び構造(TEM用の高分解プラズマ重合レプリカ膜作成能及びSEM〔走査電子顕微鏡〕用のオスミウム金属導電被膜作製能)を具備するものとして設計し、平成4年9月ころに設計図を原告に交付した。この製品は、平成5年6月に仕様についての承認がなされ(甲25)、最終的には同年9月16日に物質工学工業技術研究所に納品された(甲11)。この設計は、被告が特に原告と相談することなく行ったもので、被告から原告に対して本件発明についての具体的な話がされたのは、この装置の製作を行うときが初めてであった。
装置にSEM用のオスミウム金属導電性被膜を作製する機能を持たせることについては、その原理や構造はすべて被告が考案したものであり、原告の技術者が携わったのは、もっぱら製品開発の部分であった。
(4)被告による学会での講演被告は、本件発明について、平成5年3月29日から4月1日にかけて青山学院大学で開催された第40回応用物理学関係連合講演会において、東京慈恵会医科大学の走査電子顕微鏡専任担当者であった【F】と共に、「直流グロー放電によるOSO4ガスからのOS金属薄膜(SEM試料表面のOS金属導電被膜)」の演題で講演を行い、遅くとも同年1月11日までに講演予稿を提出した(甲17、乙3、
4)。
また、被告は、同年5月26日から28日にかけて神戸で開催された日本電子顕微鏡学会平成5年度総会・第49回学術講演会においても、本件発明について、
「直流グロー放電によるOSO4ガスからのSEM試料表面のOS金属導電被膜」の演題で講演を行った(乙5)。被告がこの講演を行うに際しては、原告代表者も同行した。
(5)本件発明及び原告発明の出願被告は、平成5年5月24日、本件発明について特許出願を行い、平成9年9月19日に登録を得た(甲3、4)。
他方、原告も、平成5年5月24日、被告を発明者の一人として、別紙目録3記載の発明について特許出願を行い、平成10年2月20日に登録を得た(乙12。以下、この特許権を「原告特許権」、この特許権に係る発明を「原告発明」という。)。
本件発明は、SEMやTEMなどの電子線照射による帯電や熱ダメージを受けることなく、また不純物によるコンタミネーションを起こすことのない、均質で、均一薄膜の高純度金属被膜を基板上に堆積させる方法を提供することを目的とする方法の発明であるのに対し、原告発明は、本件発明とほぼ同様の目的を有し、基本的な薄膜堆積の原理を同じくするプラズマ製膜装置という物の発明であり、両者は基本的な技術思想を共通にしている。
原告がこの出願を行うに当たっては、事前に被告に連絡し、出願書類も見せたが、被告からは原告が出願することについて格別の異論はなかった。他方、被告は、原告から出願に関する連絡を受けた際、自分も本件発明の出願を行う意図を表明した。これに対して原告は、本件技術顧問契約の6条を指摘して出願を控えるよう求めたが、被告は、本件発明は自分が発明したものであるからなどとして、この求めを断り、両者は同日にそれぞれの出願を行うこととなった。
(6)オスミウム・プラズマコーターの開発本件発明及び原告発明の出願後、原告では、被告の設計及び指導の下、それらの実施品であるSEM用「オスミウム・プラズマコーター」(甲24の3。小型機とも呼ばれる。)の開発が行われ、平成6年10月ころから同装置の製造、販売を行った。
ここでも装置の原理や構造はすべて被告の考案に係るものであり、原告の技術者が携わったのは、もっぱら製品開発の部分であった。そして、その過程で原告が最も苦労したのは、真空装置を製造する外注先とうまく連携をとっていくことであった。
(7)原告から被告への技術顧問料等の支払原告は、平成4年5月から平成9年11月までの間に、本件技術顧問契約(3条)に基づき、月額20万円の技術顧問報酬(合計1340万円)を支払った(ただし、平成9年10月までは、技術手数料名目で10万円、旅費交通費名目で10万円とされた。)(甲8、9)。
また、原告は、被告が技術指導や営業活動等に要した出張費用について、本件技術顧問契約(5条)に基づき、合計152万5831円を支払った(甲9、10)。
さらに原告は、本件技術顧問契約(4条)に基づき、原告製品の売上金額の5%を売上協力費として被告に支払い、その額は合計1069万1816円に上った(甲8、11)。前記のとおり、本件技術顧問契約は、当初は旧発明の実施品の製品化に関する技術指導等を目的としたものであったが、その後、本件発明の実施品であるオスミウム・プラズマコーターの開発についても、同契約と同様の条件で技術顧問料や売上協力費が支払われることになったものである。
2争点について(1)本件発明の開発経過について、被告は、次のとおり述べている(乙13ないし15〔陳述書〕、被告本人の供述)。
アそもそも有機金属ガスからの金属薄膜作製法の開発を検討するきっかけになったのは、@平成元年にウシオ電機が旧発明の実施品を製品化したころ、その購入者である日本電気基礎研究所の【G】所長から、有機金属化合物ガスを使って金属薄膜ができるかと質問を受けたこと、A平成3年6月に松下電子工業株式会社京都研究所にウシオ電気製品を納品したときに、同研究所の【H】研究員から、特定の試薬について有機金属化合物を使用して金属薄膜を作製するための放電条件について質問を受けたことである。
このうちAについてはウシオ電気製品を使って簡単な実験をしたところ、汚い膜ではあるが一応理論的にはできると思われたので、その旨回答し(乙11)、さらに研究を進めようとしたが、ウシオ電機が製品製造の中止を検討していたので、なかなか研究ができなかった。
イ最終的にウシオ電機は、平成4年3月をもって旧発明の実施品の製造を中止し、被告もウシオ電機技術顧問を辞したことから、被告は、研究継続のためにウシオ電機から東京慈恵会医科大学にウシオ電気製品を貸し出してもらった(乙1の2)。従来から同大学にあった機械は、初期の試作品で性能が悪く、十分な実験ができなかったためである。
ウシオ電機製品は同年4月6日に同大学に届いたが、真空状態のセットや試運転等に一週間を要し、正式に借用書を出したのは同月15日である。そして、同月13日から16日にかけて実験を行い、試行錯誤を繰り返して、オスミウム金属の薄膜を得ることができた。この過程で困難だったのは、オスミウムガスの真空昇華量の抑制とそれに伴う過放電であった。そのためオスミウム結晶を凍結冷却して昇華を抑える必要があった。そうして、何度か失敗する間に一応同月16日に薄膜ができたので、共同研究者であった【D】助教授に見せたところ、【D】助教授は成功を喜んでくれた。
同月17日には、薄膜を分離できるようにしてTEM電子顕微鏡で検鏡したところ、良好であった。
同月20日から23日にかけて(なお、同月18日と19日は土曜及び日曜である。)は、SEM電子顕微鏡用の試料を作製し、東京慈恵会医科大学の電子顕微鏡専任担当者であった【F】にSEM電子顕微鏡の操作を依頼して検鏡したところ、
結果は良好であった。また、他の金属についても実験を行った。
ウこの時点で更に検討する必要があったのは、@膜厚を薄くするための諸条件の調整、A薄膜の酸化の有無を検証するための時間を置いた元素分析、Bオスミウムを使用する際の安全対策であった。これらのうち、@Bについては同年5月6日に得た着想によってほぼ解決し、Aについては同年9月に東京工業大学の【I】教授に元素測定(ESCA)をしてもらって良好な結果を得た。また、同じ頃に@について筑波物質研究所の【J】教授に膜厚を測定してもらって、膜厚の調整について誤差数パーセントまで追い込むことが可能となった。
エ被告は、学会発表をするなら追試も行って、細部も詰めた上で、充実した内容のものとしたいと考えたため、すぐには発表はせず、更に研究を重ねることとした。もっとも、同年6月18日から8月3日まではウシオ電気製品を原告に貸し出したので、研究をすることはできなかった。
オ被告は、同年5月22日に原告と技術顧問契約を締結し、製品の開発や営業活動を行う一方で、東京慈恵会医科大学で研究を続け、資料が整ったので、学会発表を行うとともに、本件発明の特許出願をした。
カ本件技術顧問契約では、旧発明の実施品を作ることになっていたが、それだと装置が大型になって高額になり、原告の営業上も芳しくなかったので、小型の安い装置だが性能の良いものとして、「オスミウム・プラズマコーター」を作ることを考え、開発した。
キしたがって、本件発明の開発は、本件技術顧問契約とは関係なくなされたものである。
(2)これに対して、原告代表者は、次のとおり供述する(甲20、28〔陳述書〕、原告代表者の供述)。
ア被告は、平成4年5月22日に本件技術顧問契約を締結する際にも、本件発明のことについて原告に何も言わなかった。それどころか、原告代表者は、プラズマ製膜装置のパンフレット(甲24の1、平成4年8月付け)を用いて被告と共に同装置の営業活動を行っていた際、被告に対し、旧発明がTEM電子顕微鏡用の試料の前処理に係るものであるところ、世上、SEM電子顕微鏡の方が多数使用されていることから、SEM用の試料の導電性薄膜が実現できないかと提案したところ、被告は、それはやっていないからわからないけれども是非考えておきましょう、早い機会にそういう実験もしたいと返事をしたにすぎなかった。そして、その後、プラズマ製膜装置NL型を製品化する過程で、被告の方から、SEM用の試料の導電性薄膜を作製する具体的な方法についての話が出るようになった。したがって、平成4年4月の時点で被告がいうような実験がなされていたとは考えられない。
イ平成4年4月に本件発明が完成していたのであれば、特許出願が1年以上も経過した平成5年5月となっているのは不合理である。
ウ本件発明は、旧発明の延長線上にある関連技術であって、実際にも、プラズマ製膜装置、プラズマ製膜装置NL型、オスミウム・プラズマコーターの順に製品開発が展開する過程で生まれてきた技術であるから、本件技術顧問契約6条の適用がある。
(3)そこで検討するに、まず、前記1で認定したとおり、もともと本件技術顧問契約は、旧発明の実施品を製品化するに当たって、被告が原告に技術指導をすることを主眼として締結されたものである。そして、旧発明の実施品であるプラズマ製膜装置は、直流グロー放電によってハイドロカーボンガスを陽イオン化した後に、負グロー相内に置かれた試料又は基板表面にこのイオン化したガス分子が分子レベルで均一に堆積して高重合膜を作り、表面の微細構造を高分子重合膜により精密に形取りするという原理を利用するものである(甲24の1)。これに対して、本件発明の実施品であるオスミウム・プラズマコーターは、直流グロー放電によってオスミウムを陽イオン化し、負グロー相内に置かれた試料又は基板表面に瞬時に付着堆積して、非結晶オスミウムの金属超薄被膜を作製するという原理を利用するものである(甲24の3)。このように、両者は、薄膜作製の材料において有機単量体と金属という相違があるために、薄膜の生成原理が異なり、作製された薄膜も高重合膜と金属薄膜という性質の相違があるのであって、このような相違を有する本件発明が、旧発明の実施品の製品化の過程で生み出されていくことは、必ずしも自然ななりゆきとはいえない。
また、前記1で認定したとおり、本件発明に係る金属薄膜の堆積法の原理を開発したのは被告であり、原告側はそれを使った製品化の過程に携わったにすぎない。
また、最初にプラズマ製膜装置NL型に本件発明の機能が付加されるに至ったのも、被告が発注者である【E】教授と仕様を打ち合わせる中で決めたことによるものであり、その設計図も被告が作成したものである(その後のオスミウム・プラズマコーターの開発も被告の発案に係るものである。)。そして、被告は(1)のとおり、その開発の過程について、きっかけ、実験経過、各時点での完成度と残された課題、課題が克服された過程、協力者の存在等、極めて具体的に述べているのに対し、原告代表者は、開発過程について具体的に述べるところがない。これらからすれば、本件発明の技術思想は、原告における製品開発に被告が技術顧問として関与する過程で開発されていったものというよりは、製品開発の際に、被告から原告に対し、完成された形で持ち込まれたものと考えるのが相当である。
さらに、開発時期の点を考えると、前記1で認定したとおり、被告がプラズマ製膜装置NL型の設計図を原告に交付したのは平成4年9月ころである(発注者の【E】教授との仕様の打ち合わせ及びそれに基づく設計はそれ以前であると考えられる。)が、この時点ではまだ原告のプラズマ製膜装置は製品化されておらず、また、被告がウシオ電機から貸出しを受けた装置は同年6月18日から8月3日までの間、プラズマ製膜装置を製作する参考に原告に貸し出されていたのであるから、
被告は、この貸出し(6月18日)までには本件発明をほぼ完成させていたと考えられる。これに、被告が4月15日付けでわざわざウシオ電機から東京慈恵会医科大学に旧発明の実施品の貸出しを受けていることを併せ考えれば、この間に被告による本件発明の開発がなされたものと推認するのが合理的である。
以上の検討を踏まえれば、本件発明の開発経過に関する被告本人の前記供述は、
その具体性とも相俟って、基本的に信用し得るものと考えられる。
そして、被告本人の供述による本件発明の開発経過からすれば、被告は、本件技術顧問契約を締結する前に、本件発明の基本的な部分の開発を終えていたものと認められ、その後に残された課題を解決する過程においても、特段原告の技術者と協議・連繋したことは窺われず、東京慈恵会医科大学の研究室での研究をベースに、
被告の個人的な知己を頼って元素測定等の試験を行う等して本件発明を完成させたものであるから、本件発明は、原告の技術顧問としての立場を離れて、一研究者としての立場でなされたものであるというべきであり、したがって、本件技術顧問契約を履行する過程でなされた発明であるとはいえない。
(4)アもっとも、本件技術顧問契約を締結する時点で、本件発明に関する話は何ら被告からなされなかったことは原告指摘のとおりである。
しかし、平成4年5月の時点では、更に検討を要する点も残されていたこと、原告と本件技術顧問契約を締結したとはいっても日が浅いこと、本件技術顧問契約の対象はあくまで旧発明の実施品の開発に関する指導であり、本件発明の内容についてあえて言及する必要もないことからすれば、学会に発表していない段階で原告に口外することは控えた旨の被告の供述は不合理とはいえない。
イまた、原告代表者は、原告代表者が被告に対して、SEM用の試料の導電性薄膜が実現できないかと持ちかけたところ、被告は、それはまだやっていないけれども是非考えておきましょう、早い機会にそういう実験もしたいと返事をしたにすぎなかったと供述する。
原告代表者がこのような話をしたか否かについては争いがあるが、まず、原告代表者がこの発言をした時期は平成4年夏ころという趣旨であると解されるところ、
先に(3)で述べた開発時期の検討からして、被告が原告代表者のこの発言に触発されて初めて本件発明の開発にとりかかったとは見難い。また、原告代表者の発言に対して被告が原告代表者が供述するような返事をして、本件発明のことを話さなかったとしても、先と同様に不合理とはいえない。
ウさらに、原告代表者は、被告が平成4年4月の時点で本件発明を完成させていたならば、それから1年以上も後に特許出願がなされたのは不合理であると述べる。
しかし、被告は、学会発表のために遅くとも平成5年1月初旬には講演予稿を提出しているところ、オスミウム薄膜の酸化の有無の検証と薄膜の厚さの測定ができたのは平成4年9月ころだというのであるから、講演に必要な顕微鏡撮影映像の準備なども含めれば、学会発表までの間に時間が経過したことはあながち不合理とはいえない。また、講演予稿に基づいて学会発表をした場合には、新規性喪失の例外が認められるから(特許法30条1項)、学者である被告が学会発表を優先したことも不合理とはいえない。
エさらに原告代表者は、本件発明は原告の製品開発が進められる中で登場し、原告製品に組み込まれていったものであり、オスミウム・プラズマコーターについての売上協力費が被告に支払われている点を指摘する。
しかし、前記のとおり、本件発明の技術思想は、被告によって開発され、原告製品に導入されていったと見られるのであり、各製品の開発に当たって被告が技術顧問として関与したとはいえても、本件発明自体の開発が技術顧問としての立場でなされたと見ることができないことは前記のとおりである。また、被告がオスミウム・プラズマコーターについても売上協力費を受け取っていることは、本件技術顧問契約が当初に念頭に置いていたことと同じく、製品開発に当たっての技術指導に対する対価として見れば、合理的なことである。しかも、原告は、オスミウム・プラズマコーターについては原告特許を取得しているのであり、被告も、製品化したのは原告であるからとして、原告が原告特許権を有することについては肯認しているのであって、さらには、被告の特許出願と原告の特許出願とが共に特許されるように、あえて同日出願とすることまでしたものである。
したがって、原告代表者のこの指摘は、本件発明が本件技術契約6条の適用を受ける根拠となり得ない。
オさらに、原告は、本件技術顧問契約締結の時点では、本件発明は完成していなかったと主張する。
確かに、先に認定した被告による本件発明の開発経過からすれば、厳密にはその時点で本件発明が完成していたとはいえない。しかし、本件において問題なのは、
本件発明が、本件技術顧問契約6条にいう「本契約を履行する過程で」生まれたものか否かという点であるから、特許法的な意味で発明が完成したのはどの時点かということは必ずしも重要ではない。また、特許法的な意味で発明が完成したのが本件技術顧問契約の締結後であるとしても、それだけで直ちに本件発明の開発が本件技術顧問契約を履行する過程でなされたものといえないことはもちろんであり、本件発明は、原告の技術顧問としての立場を離れて一研究者として被告が完成させたものであると見るべきことは、先に述べたとおりである。
なお、原告代表者は、本件発明の特許出願後も、被告がオスミウム・プラズマコーターの第1号機を知人の研究者において試用してもらうことを希望していたことを指摘するが(甲28)、それは商品としての完成度の問題であって、本件発明の完成とは別次元の問題である。
カ以上よりすれば、原告又は原告代表者が指摘する諸点は、本件発明について本件技術顧問契約6条が適用される根拠となり得るものではない。
3したがって、本件発明が、本件技術顧問契約6条の適用を受けるとはいえない。
(別紙目録1)発明の名称直流グロー放電による金属被膜の堆積法出願日平成5年5月24日(特願平5-142497号)登録日平成9年9月19日登録番号第2697753号特許請求の範囲「基板上に金属被膜を堆積するにあたり、内部に陽極板と陰極板を対向させて配置したガス反応器内において、反応器内を真空にした後、前記金属の化合物をガス状で反応器内に導入してガス圧を0.01〜0.1Torrとし、前記金属化合物から金属成分のみを選択的にイオン化させるグロー放電条件下で、両電極間に直流電圧を印加して直流グロー放電を行わせることによって、金属成分を陽イオン化せしめ、そして陰極板近傍の負グロー相内において基板上に分子レベルの均一な非結晶又は結晶金属被膜を堆積させることを特徴とする金属被膜の堆積法。」(別紙目録2)発明の名称電子顕微鏡の検体用レプリカ薄膜の作製装置出願日昭和53年12月19日(特願昭53-155782号)公告日昭和62年11月18日(特公昭62-55095号)登録日昭和63年8月10日登録番号第1453066号発明者被告特許権者財団法人東京都臨床医学総合研究所特許請求の範囲(第1項)「基盤上の真空槽内において規定した2つの電極板が規定した間隔で上下に対向して平行に設置し、前記基盤および真空槽に対し電気的、熱的にも絶縁されていて、
直流高電圧電源の陰極は、前記電極板の下方に、陽極は他方に接続されて規定の放電条件によるグロー放電を行わしめるようにし、且つ、これら両電極に漏洩微小放電防止筒を設け、前記陰極板上に置かれた検体用試料表面に有機単量体重合被膜層を付着せしめる機構を有し、前記被膜層を電子顕微鏡の検体用レプリカ薄膜とする作製装置。」(別紙目録3)発明の名称プラズマ製膜装置出願日平成5年5月24日(特願平5-121595号)登録日平成10年2月20日登録番号第2748213号発明者原告代表者、【K】、被告特許権者原告特許請求の範囲(第1項)「気密容器内の一方端部側に配置される陽電極と、気密容器内にて前記陽電極に相対し、被製膜体を両電極間に発生するグロー放電の負グロー相領域内にて電気的絶縁状態で支持する陰電極と、前記気密容器内を真空状態にする排気手段と、前記排気手段により気密容器内を真空状態にしながら単一金属の化合物をガス化した原料ガスを、気密容器内のガス圧が約0.05Torrになるように導入するガス導入手段と、陰電極-陽電極間に1kV〜3kVの直流電圧を印加してグロー放電を発生させる高電圧印加手段とを備え、陰電極上の負グロー相領域内に電気的絶縁状態で配置された被製膜体の表面に対し、グロー放電により陽イオン化した金属分子を堆積させて非結晶の導電性金属薄膜を製膜するプラズマ製膜装置。」
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 高松宏之
裁判官 安永武央
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