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関連審決 異議2003-71899
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10326号 特許取消決定取消請求事件
原告 富士写真フイルム株式会社
訴訟代理人弁理士 香取孝雄,串田幸一,鈴木大介
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 原光明,橋本恵一,高橋泰史,井出英一郎,高木彰
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/06/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が異議2003-71899号事件について平成16年7月26日にした決定中,特許第3372289号の請求項1及び5に係る特許を取り消すとの部分を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,特許異議の申立てを受けた特許庁から請求項1及び5に係る特許を取り消す旨の決定を受けたため,同決定の取消しを求めた事案である。 1 特許庁における手続の経緯 本件特許第3372289号「ディジタルカメラ」は,平成5年4月28日に原告により特許出願され,平成14年11月22日に特許権の設定登録がなされた(甲7)。その後,本件特許について,特許異議の申立て(異議2003-71899号)がなされ(甲8),原告は平成16年6月15日に訂正請求を行った(甲15)。
上記異議申立てについて,平成16年7月26日,「訂正を認める。特許第3372289号の請求項1,5に係る特許を取り消す。同請求項2ないし4に係る特許を維持する。」との決定があり,その謄本は同年8月16日原告に送達された。
2 本件発明の特許請求の範囲の記載(下線部は訂正部分。以下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「本件発明1」などという。請求項2ないし4の記載は省略。)【請求項1】 被写体 を表わす 光学像 を撮像手段 にて 電気信号 に変換 し,該電気信号を表わす 画像 データ を情報記録媒体 に記録 する ディジタルカメラ において ,該ディジタルカメラ は, 前記撮像手段にて 撮像 されて 得られた 画像 データ を格納 する 格納手段 と, 該格納手段 に格納 された 画像 データ を前記情報記録媒体 に記録 するための 処理 を行なう 処理手段 と, 該処理手段 にて 処理 された 画像 データ を前記情報記録媒体 に記録 する 記録手段と, 該ディジタルカメラ の操作状態に応じた第1の段階にて 第1の処理開始を前記処理手段に通知し,該第1の段階に続く第2の段階にて 第2の処理開始を前記処理手段に通知する入力手段とを 含み, 前記処理手段は, 前記入力手段 から 通知 される 第1の処理開始及 び第2の処理開始 を検出 する 状態検出手段 と, 該状態検出手段 にて 検出 された 第1の処理開始及 び第2の処理開始 のそれぞれに応じて ,前記格納手段 に格納 された 画像 データ を読出 す読出手段 と, 該読出手段 にて 読出 された 画像 データ を圧縮 する 圧縮手段 と, 該圧縮手段 にて 圧縮 された 画像 データ を前記記録手段 に出力 する 書込手段 と, 前記状態検出手段 にて 検出 された 第1の処理開始及 び第2の処理開始 のそれぞれに応じて ,第1の動作 モード 及び第2の動作 モード のいずれかの 動作 モード を選択して 設定 する 切替手段 と, 該切替手段 にて 選択 された 動作 モード に応じて ,前記撮像手段 への 駆動方法 を決定し,該撮像手段 を駆動 する 駆動手段 とを 含み, 前記圧縮手段 は,前記切替手段 にて 選択 された 第1の動作 モード にて 前記被写体像の静止画像 を表わす 1コマ の画像 データ を圧縮 する 第1の圧縮手段 と,前記切替手段 にて 選択 された 第2の動作 モード にて 前記被写体像 の動画像 を表わす 複数 コマの連続 した 画像 データ を圧縮 する 第2の圧縮手段 とを 含むことを特徴とするディジタルカメラ。 【請求項5】 請求項1に記載のディジタルカメラにおいて,前記情報記録媒体は,画像データなどの情報の書き換えが可能な光ディスクであることを特徴とするディジタルカメラ。
3 決定の理由の要点 決定は,本件訂正を認めた上で,本件発明1及び5は,いずれも刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 (1) 引用刊行物 刊行物1:特開昭64-65990号公報(審判甲1,本訴甲10) 刊行物2:特開昭61-98080号公報(審判甲2,本訴甲11) 刊行物3:特開平4-329772号公報(審判甲3,本訴甲12) 刊行物4:特開平4-345292号公報(審判甲4,本訴甲13) (2) 刊行物1記載の発明(以下「刊行物発明」という。) 「(ア) 「カメラ一体型VTRの普及に従い,(中略)動画として記録・再生するだけでなく,その一部を静止画として再生し,更には動画の記録に混在して静止画の記録を行いたいとする要望が聞かれるようになった。しかし現在のVTRでは,(中略)高画質の静止画を観察できるようにはなっていない。(中略)これに対しては,(中略)当該記憶画像をディジタル信号化して数トラックにわたって記録する方法などが本出願の出願人により提案されている。これらの方法によれば,良好な静止画をVTRに記録・再生できる。」(1頁右下欄10行〜2頁左上欄13行) (イ) 「本発明は,そのような静止画/動画の両方の記録が可能な画像記録装置にあって,撮影画像及び記録画像を簡単に確認できるシステムを提示することを目的とする。」(2頁右上欄1行〜4行) (ウ) 「以下,図面を参照して本発明の一実施例を説明する。第1図は,本発明の一実施例としてのカメラ一体型VTRの構成ブロック図を示す。第1図において,撮像管又は固体撮像素子及びその周辺回路で構成される撮像回路10は,クロック発生回路12からのクロックによって駆動され,R,G,B信号を出力する。」(2頁左下欄4行〜10行,第1図) (エ) 「34は1フィールド分の記憶容量のフィールド・メモリ,36はメモリ34の書込及び読出並びにそのアドレスを制御するメモリ制御回路(中略)40は,第1図の各回路を統括的に制御するシステム・コントローラであるが,具体的には,スイッチ26,30の切換及びメモリ制御回路36を制御する。8は静止画記録を命令する操作スイッチ,(中略)スイッチ30はシステム・コントローラ40の制御下で,動画記録モード時にはa接点側に接続し,静止画記録モード時にはb接点側に接続する。ただし,(中略)信号劣化が問題にならない場合には,単に,メモリ34の書込及び読出の制御で動画記録と静止画記録を制御してもよい。この場合にはスイッチ30は不要になる。」(2頁右下欄12行〜3頁左上欄14行) (オ) 「まず,第1図の装置により動画を記録する通常の場合を説明する。システム・コントローラ40は,フィールド・メモリ36を書込モードにし,スイッチ30をa接点に接続する。(中略)撮像回路10から混合器24までの経路は上記のとおりであり,混合器24から出力されるコンポジット映像信号は,スイッチ30を介してY/C分離回路に入力され,Y信号はFM変調器44でFM変調され,C信号は周波数変換回路46で低域に変換され,混合器48で周波数多重され,磁気ヘッド56,58により磁気テープ60に記録される。この処理手順は公知である。次に静止画を記録する場合を説明する。例えば,電子スチル・カメラのシャッタ操作に類似したスイッチ8の操作による静止画記録命令により,システム・コントローラ40は,メモリ制御回路36に指令してメモリ34を読出モードにし,スイッチ30をb接点側に接続する。そして,1/60秒毎にフィールド・メモリ34の内容を繰り返し読み出させる。これにより,Y/C分離回路42には全く同じフィールド画像(すなわち,静止画像)が繰り返し印加され,このフィールド画像は動画の場合と同様にして磁気テープ60に記録される。このように静止画を繰り返し印加することにより,再生時にランダム・ノイズを抑圧でき,良好な静止画を得ることができる。第2図は磁気テープ60の記録トラックを示し,MVは動画の記録領域,SVは静止画の記録領域である。どちらの記録フォーマットも全く同じである。」(3頁右上欄3行〜左下欄16行) (カ) 「なお,本発明は,上述の実施例に限定されるものではなく,動画の記録フォーマットと静止画の記録フォーマットとが異なるシステムであっても適用可能である。例えば,更に良好な再生静止画を得るため,静止画はディジタル記録するものとし,フィールド・メモリ34の記憶信号を一旦バッファ・メモリに供給し,これを記録可能な速度で読み出し,1フィールド分のビデオ信号を多数のトラックにわたって記録する構成とすることも可能である。」(4頁左上欄13行〜右上欄2行) (3) 本件発明1と刊行物発明との対比及び判断 ア 一致点 「本件発明1と刊行物発明を対比すると, 上記3(3)ア(イ)(ウ)(エ)(オ)(判決注:上記(2)(イ)(ウ)(エ)(オ))によれば,刊行物発明は,カメラ一体型VTRであって,固体撮像素子及びその周辺回路で構成される撮像回路は,R,G,B信号を出力し,1フィールド分の記憶容量のフィールド・メモリ,メモリの書込及び読出並びにそのアドレスを制御するメモリ制御回路,メモリ制御回路を制御するシステム・コントローラを有し,メモリの書込及び読出の制御で動画記録と静止画記録を制御してもよいものであり,コンポジット映像信号は,スイッチ30を介してY/C分離回路に入力され,Y信号はFM変調器でFM変調され,C信号は周波数変換回路で低域に変換され,混合器で周波数多重され,磁気ヘッドにより磁気テープに記録されるものであるから,刊行物発明と本件発明1とは「被写体を表わす光学像を撮像手段にて電気信号に変換し,該電気信号を表わす画像データを情報記録媒体に記録するカメラ」である点で一致し,「カメラは,前記撮像手段にて撮像されて得られた画像データを格納する格納手段と,該格納手段に格納された画像データを前記情報記録媒体に記録するための処理を行う処理手段と,該処理手段にて処理された画像データを前記情報記録媒体に記録する記録手段と,を含」む点で一致している。
さらに,上記3(3)ア(エ)(判決注:上記(2)(エ))によれば,刊行物1には,システム・コントローラ40が,メモリ制御回路36を制御し,メモリ34の書込及び読出の制御で動画記録と静止画記録を制御してもよい点が記載されており,電子スチル・カメラのシャッタ操作に類似したスイッチ8の操作による静止画記録命令によりシステム・コントローラ40が静止画を記録・再生するようにメモリ制御する点が示唆されており,刊行物発明は,スイッチ8及びシステム・コントローラ40が,第1の処理(静止画記録)開始を入力手段として通知するものであって,システム・コントローラ40がそれにより状態検出している処理手段といえ,システム・コントローラ40及びメモリ制御回路36により,第1の処理開始に応じて,動作モードに即して,画像データをメモリから読み出しているものといえるから,刊行物発明と本件発明1とは「処理手段は,入力手段から通知される処理開始を検出する状態検出手段と,該状態検出手段にて検出された処理開始に応じて,前記格納手段に格納された画像データを読出す読出手段と」を含む点で一致しているとともに,動作モードの切替もおこなわれるといえるから,「状態検出手段にて検出された処理開始に応じて,動作モードを選択して設定する切替手段と含むことを特徴とするカメラ。」である点で一致している。 してみると,両者は「被写体を表わす光学像を撮像手段にて電気信号に変換し,該電気信号を表わす画像データを情報記録媒体に記録するカメラにおいて,該カメラは,前記撮像手段にて撮像されて得られた画像データを格納する格納手段と,該格納手段に格納された画像データを前記情報記録媒体に記録するための処理を行なう処理手段と,該処理手段にて処理された画像データを前記情報記録媒体に記録する記録手段と,を含み,前記処理手段は,前記入力手段から通知される処理開始を検出する状態検出手段と,該状態検出手段にて検出された処理開始に応じて,前記格納手段に格納された画像データを読出す読出手段と,前記状態検出手段にて検出された処理開始に応じて,動作モードを選択して設定する切替手段と,を含むことを特徴とするカメラ。」である点で一致…しているものと認められる。」 イ 相違点 〈相違点(ア)〉 「本件発明1が,「第1の処理開始及び第2の処理開始」を検出し,「第1処理開始及び第2の処理開始のそれぞれに」応じて読み出し,「第1の動作モード及び第2の動作モードのいずれかの動作モードを選択して」切り替えるものであるのに対し,刊行物発明は,処理開始を検出し,処理開始に応じて読み出し,動作モードを選択して切り替えるものである点 」 〈相違点(イ)〉 「本件発明1が,「ディジタルカメラの操作状態に応じた第1の段階にて第1の処理開始を前記処理手段に通知し,該第1の段階に続く第2の段階にて第2の処理開始を前記処理手段に通知する入力手段」を含むものであるのに対し,刊行物発明は「電子スチル・カメラのシャッタ操作に類似したスイッチ8の操作による静止画記録命令により,システム・コントローラ40は,メモリ制御回路36に指令してメモリ34を読出モードに」するものである点 」 〈相違点(ウ)〉 「本件発明1が,「切替手段にて選択された動作モードに応じて,撮像手段への駆動方法を決定し,撮像手段を駆動する駆動手段」を含むのに対し,刊行物発明はそのようなものではない点」 〈相違点(エ)〉 「本件発明1が,「読出手段にて読出された画像データを圧縮する圧縮手段と,該圧縮手段にて圧縮された画像データを記録手段に出力する書込手段」を有し,「圧縮手段は,切替手段にて選択された第1の動作モードにて被写体像の静止画像を表わす1コマの画像データを圧縮する第1の圧縮手段と,前記切替手段にて選択された第2の動作モードにて前記被写体像の動画像を表わす複数コマの連続した画像データを圧縮する第2の圧縮手段とを含む」ものであるのに対し,刊行物発明は,画像情報を圧縮しないで画像データをアナログ記録(FM記録)で磁気テープに書き込むものである点 」 〈相違点(オ)〉 「本件発明1が,「ディジタルカメラ」であるのに対し,刊行物発明は,カメラ一体型VTRを一実施例とする画像記録システムである点」 ウ 相違点についての検討(相違点(ウ)以下についての記載省略) (ア) 相違点(ア)について 「上記3(3)ア(エ)(判決注:上記(2)(エ))によれば,刊行物1には,システム・コントローラ40が,メモリ制御回路36を制御し,メモリ34の書込及び読出の制御で動画記録と静止画記録を制御してもよい点が記載されており,電子スチル・カメラのシャッタ操作に類似したスイッチ8の操作による静止画記録命令によりシステム・コントローラ40がメモリ制御する点が示唆されているのであって,しかも,電子スチル・カメラにおいてはシャッタスイッチを押すとそれに基づいて所定時間露光し,その後は自動的に露光終了となると解される。してみると,スイッチ8を押すと,通常の(動画録画モードの)状態から静止画記録が開始され,そして所定時間後に自動的に静止画録画が終了し,静止画が記録され,また通常の動画記録(モード)に戻るという動作を行うと解するのが自然である。 また,そうでないとしても,動画記録をするものにおいては動画記録を開始するスイッチは常套であり,結局,上記スイッチ8あるいは別のスイッチによって動画記録が開始されると解するのが自然である。 だとすれば,刊行物1には,スイッチ8及びシステム・コントローラ40あるいはそれらとさらに加えられる別のスイッチによって,動画記録の処理開始についての処理が行われることが示唆されているといえるので,第1の処理(静止画記録)開始及び第2の処理(動画記録)開始を入力手段として通知し,「第1の処理開始及び第2の処理開始」を検出し,「第1処理開始及び第2の処理開始のそれぞれに」応じて読み出し,第1の動作モードと第2の動作モードを切り替えるようにすることは当業者が容易に推考し得るものといえる。」 (イ) 相違点(イ)について 「第1段階及びそれに続く第2の段階を有するスイッチ(入力手段)自体は,例えば半押しでAF等を起動させ全押しでシャッタ動作をするスイッチのごとく周知技術であって,適宜採用できるものである。 してみると,上記周知のスイッチを採用して,ディジタルカメラの操作状態に応じた第1の段階にて第1の処理開始を前記処理手段に通知し,該第1の段階に続く第2の段階にて第2の処理開始を前記処理手段に通知する入力手段を含むごとくすることは,当業者が容易に推考し得たものといえる。」 (4) 本件発明5について 「本件発明5は,本件発明1に「前記情報記録媒体は,画像データなどの情報の書き換えが可能な光ディスクである」点を付加したものであると解されるところ,画像データなどの情報の書き換えが可能な光ディスクは周知技術にすぎないし,また,その採用も当業者にとって容易に推考し得るものである。 したがって,本件発明1についての考察を勘案すれば,本件発明5は刊行物に記載された発明から当業者が容易に推考し得たものであり,また,上記相違点に基づく本願発明の効果に格別顕著なものは認められない。」 (5) 結論 「以上のとおりであるから,本件発明1及び5は,いずれも刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 … 一方,特許異議申立ての理由及び証拠によっては,本件発明2ないし4に係る特許を取り消すことができない。」
原告の主張の要点
決定は,本件発明1と刊行物発明との相違点(ア)(イ)の判断を誤った結果,本件発明1の進歩性を否定するとともに,本件発明1の構成を引用する本件発明5の進歩性も否定したものであるから,取り消されるべきである。
1 本件発明1について (1) 取消事由1(相違点(ア)の判断の誤り) 決定は,相違点(ア)の判断において,刊行物1(甲10)には1つ又は2つのスイッチにより静止画記録の開始と動画記録の開始が行われることが示唆されており,本件発明1の第1の処理(静止画記録)開始及び第2の処理(動画記録)開始を入力手段として通知することは同刊行物に基づいて容易に推考できるとしている。
しかしながら,刊行物1には,「(スイッチ)8は静止画記録を命令する操作スイッチ」(3頁左上欄2行〜3行)という記載があるのみであって,スイッチ8が静止画記録から動画記録への切替えを指示し,動画記録が開始される旨の記載はない。
この点,決定は,スイッチ8を押すと,通常の動画記録の状態から静止画記録が開始され,所定時間後に自動的に動画記録に戻るという動作を行うと解するのが自然であるとするが,シャッタスイッチは撮影動作の開始を指示するのみで,撮影動作の終了を指示するものではないから,電子カメラの通常のシャッタ操作において,撮影記録動作が終了したならば,電子カメラは動作を終了するのであって,動画記録に戻ると解釈するのは不適切である。刊行物発明のスイッチ8は,動画記録から静止画記録への切替えを指示しているだけであって,入力手段が第1及び第2の処理を通知する本件発明1とは異なる。
仮に,刊行物発明において,自動的に動画記録に戻る構成が示唆されているとしても,動画記録,静止画記録,動画記録という順番で記録状態が変わるのであって,入力手段により静止画記録から動画記録に切り替わる本件発明1とは異なる。
さらに,決定は,別のスイッチにより動画記録が開始されるとも解されると説示しているが,刊行物1にはそのような記載はなく,全くの推測にすぎない。
被告は,静止画記録から動画記録への移行に関連すると思われる刊行物1の図2に,テープ上で静止画記録領域に続いて動画記録領域があることが図示されていると指摘するが,これは静止画記録と動画記録で記録フォーマットが同じであることを説明するために記載されているにすぎず,実施例の動作とは関連付けられていない。
被告は,周知技術を示す文献として,後記のとおり,乙1ないし3を挙げるが,乙1,2は動画記録開始スイッチを備えることを開示しているにすぎず,動画に戻るためのスイッチではなく,乙3は,静止画記録の後に動画の再生が行われるものであって,静止画記録の後に動画記録が行われるものではない。また,刊行物2(甲11)における「ビデオカメラモード」は動画を表示するモードであり,本件発明1のような動画を記録するためのモードではない。したがって,被告が周知技術の存在を示すものとして提出する文献はいずれも不適切である。
このように,静止画記録から動画記録へ切り替えるための入力手段及び入力方法については,刊行物1に記載も示唆もなく,第1の処理(静止画記録)開始及び第2の処理(動画記録)開始を入力手段として通知する2段階の入力手段を開示しているとはいえないのであるから,刊行物発明に基づいて相違点(ア)に係る構成を当業者が容易に推考し得たとはいえない。
(2) 取消事由2(相違点(イ)の判断の誤り) 決定は,相違点(イ)の判断において,「半押し,全押し」が可能な2段階を有する1つのシャッタスイッチは,本件特許出願当時には周知の技術であるとしている。
確かに,物理的構造として第1段階,第2段階の独立した状態を表す2段階のスイッチを設けること自体は,周知の技術である。しかしながら,刊行物1に記載されたものから自動あるいは手動にかかわらず2回目の通知を行う入力手段が想起されるとの被告の主張が誤りであることは,上記(1)のとおりである。また,決定が相違点(ア)の判断において示唆する刊行物発明のスイッチは,いずれも相違点(イ)に係る本件発明1のスイッチとは異なるのであるから,刊行物発明に係る画像記憶システムに相違点(イ)に係るスイッチを組み合わせることは物理的にできない。したがって,相違点(イ)に係る構成を発明することが容易であるとした決定の判断は,誤りである。
2 本件発明5について 請求項5は,請求項1に従属するものであるから,本件発明1に関する決定が取り消されるべきものである以上,本件発明5に関する決定も取り消されるべきである。
被告の主張の要点
本件発明1と刊行物発明との相違点(ア)(イ)についての決定の判断には何ら誤りはないのであるから,決定が本件発明1及びこれを引用した本件発明5の進歩性を否定したことに誤りはない。
1 本件発明1について (1) 取消事由1(相違点(ア)の認定の誤り)に対して 刊行物1(甲10)には,スイッチ8に関し,「例えば電子スチル・カメラのシャッタ操作に類似したスイッチ8の操作による静止画記録命令により」(3頁右上欄20行〜左下欄2行)との記載があり,静止画を記録するスイッチ8の操作が電子スチル・カメラのシャッタ操作に類似したものである点が示唆されており,電子スチル・カメラのシャッタと類似した動作をするものといえる。電子スチル・カメラのシャッタは,シャッタスイッチを押してから所定の時間がくれば動作を終了することも周知であり,上記スイッチ8も同様の動作をすると解される。刊行物発明は動画記録が通常の状態であるから,その通常状態に戻るものと解することは,何ら不自然ではない。
また,刊行物発明は,刊行物1に「カメラ一体型VTRの普及に従い・・・動画として記録・再生するだけでなく,その一部を静止画として再生し,更には動画の記録に混在して静止画の記録を行いたいとする要望が聞かれるようになった。」(1頁右下欄10行〜15行)と記載されているように,動画と静止画を混在して記録したいという要望のもとに発明されたものであり,その第2図に示されているように,動画記録と静止画記録が混在しているものといえる。そして,刊行物1には,「第2図は磁気テープ60の記録トラックを示し,MVは動画の記録領域,SVは静止画の記録領域である。」(3頁左下欄13行〜15行)と記載されており,同図面には,MVに動画が記録され,スイッチ8によりSVに静止画が記録され,その後MVに再び動画が記録されている様子が図示されている。このことからも,刊行物1には,静止画記録の後に動画記録に戻る操作が自動的にあるいは手動的になされて動画記録に戻ることが示唆されているといえる。
刊行物発明のようなカメラ一体型VTRにおいて,手動による動画記録開始スイッチを備えることは本件出願前において周知・慣用技術である。すなわち,特開平3-289774号公報(乙1)には録画スイッチ釦(図面中の記号32,52,62,72,82)が,特開平4-150679(乙2)には録画スイッチ(図面中の記号24)が開示されている。刊行物2(甲11)にも「シャッタボタンを押せば自動的にビデオカメラモードから電子カメラモードに変更されてフレーム画記録が行われるとして説明したが,不図示のスイッチなどの操作により電子カメラモードからビデオカメラモードに変更されてフィールド面記録が行なわれるようにしてもよい。」(6頁左上欄4行〜10行)と記載されているように,電子カメラモード及びビデオカメラモードとするためのスイッチを設けることが示唆されている。さらに,特開平4-54078号公報(乙3)には,「静止画挿入モードが解除されると,ステップ200に戻り,再びVTR(動画)の再生が行われる。なお,静止画挿入モードの解除は,スイッチ操作によって手動で行うようにしてもよいし,一定時間(例えば5秒程度)静止画を再生した後,自動的に解除されるようにしてもよい。」(4頁右上欄16行〜左下欄2行)と記載されている。
上記周知・慣用技術を考慮すれば,刊行物1には,動画記録に戻るのがスイッチ8によるか,あるいは別のスイッチ(動画記録開始スイッチ)によるかは別として,スイッチ8の操作による静止画記録の後に何らかの手段により動画記録に戻ることが示唆されているといえる。
以上によれば,決定が,刊行物発明に基づき,「第1の処理(静止画記録)開始及び第2の処理(動画記録)開始を入力手段として通知し,「第1の処理開始及び第2の処理開始」を検出し,「第1処理開始及び第2の処理開始のそれぞれに」応じて読み出し,第1の動作モードと第2の動作モードを切り替えるようにすることは当業者が容易に推考し得るものといえる」と判断したことに誤りはない。
(2) 取消事由2(相違点(イ)の認定の誤り)に対して 上記のとおり,刊行物発明によれば,自動あるいは手動にかかわらず,2回目の通知を行う入力手段が自然に想起されるのであって,その入力手段からの通知としては,静止画記録がスイッチ8により開始された時点での通知と静止画記録が終了する時点での通知により動画記録に戻ることが自然に想起されるとともに,動画記録を開始するスイッチが周知であるのでそれを使用して動画記録を開始する手動スイッチの状態を検知して通知して動画記録を開始することも自然に想起される。
本件発明1のシャッタ機構のような,第1段階及び第2段階の独立した状態を表す2段階のスイッチは決定がいうように周知であり,このことは特開昭63-261337号公報(乙4),特開平2-113675号公報(乙5)からも明らかである。すなわち,乙4には,(ビデオカメラ部の)スタート/ストップスイッチ及び(スチルカメラ部の)シャッタレリーズスイッチを段階的に操作する単一の操作ボタンが開示されており(2頁左下欄1行〜7行,第2〜4図),乙5には,半押しで被写体までの距離を測り(2頁右下欄15行〜19行),全押しで本測光が開始されるシャッタボタン30が開示されている(3頁右上欄16行〜19行,第1,3,4図)。
そして,このような周知のスイッチを刊行物発明のスイッチとして用いることに阻害要因もないのであるから,かかるスイッチを採用して本件発明1と同様の構成にすることは当業者が容易に推考し得た程度のものといえる。
2 本件発明5について 請求項1に係る本件発明1に関する決定は取り消されるべきものではないので,請求項1を引用した請求項5に係る本件発明5に関する決定も取り消されるべきものではない。
当裁判所の判断
1 本件発明1について 原告は,決定は,本件発明1と刊行物発明との相違点(ア)(イ)についての判断を誤った結果,本件発明1の進歩性を誤って否定したものであると主張する。そこで,以下,検討する。
(1) 取消事由1(相違点(ア)の判断の誤り)について ア 決定は,前記のとおり,相違点(ア)を「本件発明1が,「第1の処理開始及び第2の処理開始」を検出し,「第1処理開始及び第2の処理開始のそれぞれに」応じて読み出し,「第1の動作モード及び第2の動作モードのいずれかの動作モードを選択して」切り替えるものであるのに対し,刊行物発明は,処理開始を検出し,処理開始に応じて読み出し,動作モードを選択して切り替えるものである点 」と認定した。
その上で,決定は,同相違点について,「刊行物1には,スイッチ8及びシステム・コントローラ40あるいはそれらとさらに加えられる別のスイッチによって,動画記録の処理開始についての処理が行われることが示唆されているといえる」のであるから,刊行物発明に基づき,「第1の処理(静止画記録)開始及び第2の処理(動画記録)開始を入力手段として通知し,「第1の処理開始及び第2の処理開始」を検出し,「第1処理開始及び第2の処理開始のそれぞれに」応じて読み出し,第1の動作モードと第2の動作モードを切り替えるようにすることは当業者が容易に推考し得るものといえる」と判断した。原告は,決定のこの認定判断が誤りであると主張する。
イ そこで,検討するに,刊行物1には,静止画記録及び動画記録に関して次の記載がある。
(ア) 「本発明は画像記録システムに関し,より具体的には,静止画記録と動画記録の双方が可能な画像記録システムに関する。」(1頁左下欄18〜20行) (イ) 「カメラ一体型VTRの普及に従い映像作成の楽しさが広く認識されるようになり,動画として記録・再生するだけでなく,その一部を静止画として再生し,更には動画の記録に混在して静止画の記録を行いたいとする要望が聞かれるようになった。しかし,現在のVTRでは,スチル再生モードにより動画の一部を実質的に静止させて観察することが可能であるが,静止させて観察したい画像の時点でスチル・キーを操作しなければならず,煩わしい操作になりがちである。更には,ノーマル再生からスチル再生に移る際のキャプスタン・モータの停止に伴い画質が少なからず劣化し,ヘッド走査軌跡の傾きの違いによりジャスト・トレースしないことによる画面上下でのS/Nの低下等の問題があり,高品質の静止画を観察できるようにはなっていない。」(1頁右下欄10行〜2頁左上欄5行) (ウ) 「カメラ一体型VTRでは,撮影画像又は記録画像の観察・確認のために電子ビュー・ファインダ(EVF)というモニタ装置を具備するのが一般的である。
上記の如く静止画/動画の両方の記録が可能な装置では,撮影している画像(例えば動画)と,記録している画像(例えば静止画)とを適宜に確認したいという状況が生じうる。そこで本発明は,そのような静止画/動画の両方の記録が可能な画像記録装置であって,撮影画像及び記録画像を簡単に確認できるシステムを提示することを目的とする。」(2頁左上欄14行〜右上欄4行) (エ) 「次に静止画を記録する場合を説明する。例えば電子スチル・カメラのシャッタ操作に類似したスイッチ8の操作による静止画記録命令により,システム・コントローラ40は,メモリ制御回路36に指令してメモリ34を読出モードにし,スイッチ30をb接点側に接続する。そして,1/60秒毎にフィールド・メモリ34の内容を繰り返し読み出させる。これにより,Y/C分離回路42には全く同じフィールド画像(即ち,静止画像)が繰り返し印加され,このフィールド画像は動画の場合と同様にして磁気テープ60に記録される。このように静止画を繰り返し印加することにより,再生時にランダム・ノイズを抑圧でき,良好な静止画を得ることができる。第2図は磁気テープ60の記録トラックを示し,MVは動画の記録領域,SVは静止画の記録領域である。どちらの記録フォーマットも全く同じである。」(3頁右上欄20行〜同頁左下欄16行) (オ) 「静止画記録している状態で,次の静止画記録,又は動画の撮影のためのフレーミングを行いたい場合には,表示指示スイッチ9によりシステム・コントローラ40に指示して,スイッチ26をa接点側に接続させる。すると,表示装置28には,混合器24からのコンポジット映像信号が印加され,現に撮像回路10により撮影されている被写体像が表示される。」(3頁右下欄3〜10行) (カ) 「また,表示指示スイッチ9にて合成画面の表示を命令すると,システム・コントローラ40は,クロックHCLを用いてメモリ制御回路36を以下の如く制御する。…これによって,表示装置28には第4図に示すように左端の部分には記録中の静止画が表示され,他の部分には撮像中の動画が表示されることになる。この表示によれば,記録中に静止画を確認しつつ,次に記録する静止画又は動画のフレーミングを行うことが可能になる。」(3頁右下欄14行〜4頁左上欄12行) ウ 以上の記載によれば,確かに,刊行物1には,静止画記録モードから動画記録モードへ切り替えるための具体的な操作方法についての記載はないが,刊行物発明に係る画像記録システムは,「動画の記録に混在して静止画の記録を行いたいとする要望」を踏まえた「静止画/動画の両方の記録が可能な画像記録装置」であり,「記録中に静止画を確認しつつ,次に記録する静止画又は動画のフレーミングを行うことが可能」であるというのであるから,スイッチ8により動画記録モードから静止画記録モードに移行するばかりではなく,何らかの操作手段により静止画記録モードから動画記録モードに移行することが当然に想定されているというべきである。また,刊行物1の第2図で例示された磁気テープ60の記録トラックには,動画,静止画,動画が順に途切れることなく記録されている様子が図示されている。したがって,刊行物発明は,操作者が意図する何らかの操作により,録画を停止することなく静止画記録モードから動画記録モードに移行することが可能なものであるというべきである。
エ 上記ウで判示した「何らかの操作手段」について,決定は,スイッチ8を押すことによって開始された静止画記録が終了すると,電子スチル・カメラのように自動的に動画記録に戻るか,あるいは別のスイッチにより動画記録が開始されると解するのが自然であるとしている。決定の認定のうち,スイッチ8を押した後,所定時間経過とともに静止画記録モードから動画記録モードに自動的に移行すると解するのが自然であるとの点については,電子スチル・カメラと刊行物発明1の画像記録システムを単純に比較できないことから,必ずしも明確な根拠があるとはいい難い。しかしながら,静止画記録モードから動画記録モードへ移行するための操作手段としては,スイッチ8の操作解除あるいは再操作や他のスイッチによる操作など種々のものが当然に想定されるところであり,決定の「動画記録を開始するスイッチは常套であり,結局,上記スイッチ8あるいは別のスイッチによって動画記録が開始されると解するのが自然である」との認定判断は,かかる趣旨をいうものとして誤りがないというべきである。
オ これに対し,原告は,刊行物1には「電子スチル・カメラのシャッタ操作に類似したスイッチ8」と記載されているところ,電子カメラの通常のシャッタ操作では撮影記録動作が終了すると電子カメラは動作を終了するのであるから,刊行物発明に係る画像記録システムにおいて静止画記録モードから動画記録モードに戻るとは考えられないと主張する。しかしながら,刊行物発明の静止画記録モードは,メモリから全く同じ画像を繰り返し読み出すことにより静止画像を動画と同様に磁気テープに記録する(上記イ(エ)参照)ものであるから,電子スチル・カメラの静止画撮像モードとは異なるものであり,電子スチル・カメラの通常のシャッタ操作において撮影記録動作が終了すると電子カメラが動作を終了することをもって,刊行物発明が静止画記録モードから動画記録モードに直接移行できないとはいえない。
また,原告は,仮に,刊行物1に静止画記録から動画記録に戻る構成が示唆されているとしても,刊行物発明では,動画記録,静止画記録,動画記録という順番で記録状態が変わるのに対し,本件発明1は入力手段により静止画記録から動画記録に切り替えるのみであるから,静止画記録の前に動画記録をするものではない点において刊行物発明とは異なると主張する。しかしながら,刊行物発明においても,スイッチ8又は別のスイッチによって静止画記録モードから動画記録モードへの切替えが行われていると認められるのであるから,その前に動画記録がなされていたかどうかは相違点(ア)に係る構成を発明することが容易かどうかの判断を左右しないというべきである。
さらに,原告は,刊行物1の第2図は,静止画記録と動画記録の記録フォーマットが同一であることを説明しているにすぎないと主張するが,「磁気テープ60の記録トラックを示し」た同図面には動画記録,静止画記録,動画記録が順に記録されている様子が図示されているのであるから,静止画記録から動画記録に移行することが示唆されているというべきである。
カ 以上によれば,刊行物発明においては,スイッチ8を押すことによって動画記録モードから静止画記録モードに移行し,スイッチ8あるいは別のスイッチの操作によって静止画記録モードから動画記録モードに移行する処理を開始することが指示され,システムコントローラがいずれの処理を開始すべきかを検出し,それぞれの処理開始に応じた読出しがメモリ制御回路36等により行われて,指示された動作モードに切り替わるものということができる。そうすると,相違点(ア)に係る本件発明1の構成,すなわち「「第1の処理開始及び第2の処理開始」を検出し,「第1処理開始及び第2の処理開始のそれぞれに」応じて読み出し,「第1の動作モード及び第2の動作モードのいずれかの動作モードを選択して」切り替える」との構成は,当業者であれば,刊行物発明に基づいて容易に想到し得たということができる。
キ したがって,原告の主張する取消事由1は,理由がない。
(2) 取消事由2(相違点(イ)の判断の誤り)について 相違点(イ)は,「本件発明1が,「ディジタルカメラの操作状態に応じた第1の段階にて第1の処理開始を前記処理手段に通知し,該第1の段階に続く第2の段階にて第2の処理開始を前記処理手段に通知する入力手段」を含むものであるのに対し,刊行物発明は「電子スチル・カメラのシャッタ操作に類似したスイッチ8の操作による静止画記録命令により,システム・コントローラ40は,メモリ制御回路36に指令してメモリ34を読出モードに」するものである点」というものである。
前記認定のとおり,刊行物発明においては,スイッチ8を押すことによって動画記録モードから静止画記録モードに移行するための処理が開始されてモードが切り替わり,スイッチ8あるいは別のスイッチの操作によって静止画記録モードから動画記録モードに移行するための処理が開始されてモードが切り替わることが示唆されているということができるのであるから,刊行物発明には,「第1の段階にて第1の処理開始を前記処理手段に通知し,該第1の段階に続く第2の段階にて第2の処理開始を前記処理手段に通知する入力手段」が示唆されているということができる。
原告は,相違点(ア)の判断において認定された刊行物発明のスイッチ8あるいは別のスイッチは,相違点(イ)の判断で認定された半押し,全押しが可能な2段階を有する一つのシャッタスイッチとは異なると主張する。しかしながら,そもそも本件特許の請求項1には「該ディジタルカメラの操作状態に応じた第1の段階にて第1の処理開始を前記処理手段に通知し,該第1の段階に続く第2の段階にて第2の処理開始を前記処理手段に通知する入力手段とを含み」と記載されているにすぎず,その入力手段を「半押し,全押し」が可能な一つのシャッタスイッチに限定しているものではないところ,前記判示のとおり,刊行物発明は2段階の入力手段を備えているのであるから,請求項1と実質的に同じ入力手段であるということができる。
また,この点はおくとしても,「半押し,全押し」が可能な一つのスイッチについては,乙4,5にも示され,原告も認めるように周知の技術であって,刊行物発明の入力手段としてかかるスイッチを採用することについて特段の阻害要因が存在するということもできない。
そうすると,相違点(イ)に係る本件発明1の構成は,当業者であれば刊行物発明に基づき容易に想到し得たとの決定の判断には誤りはないというべきである。
2 本件発明5について 本件発明5の進歩性の判断に関する決定の誤りをいう原告の主張の根拠は,決定が本件発明1の進歩性の判断を誤ったという点に尽きるところ,本件発明1についての決定の判断に誤りがないことは上記のとおりである。したがって,本件発明5の判断の誤りをいう原告の主張は採用することができない。
3 結論 よって,原告の請求は理由がないので,棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文