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事件 |
平成
10年
(ワ)
8477号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 大同ほくさん株式会社右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 小坂 志磨夫 同 小池 豊 同 櫻井彰人 右補佐人弁理士 【B】 被告 日本エア・リキード株式会社右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 勝田裕子 同 高橋 勲 同 鼎 博之 同 神山達彦 右補佐人弁理士 【D】 同 【E】 同 【F】 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1999/11/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 原告の請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は、原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
一 被告は、別紙第一目録記載の窒素ガス製造装置を製造し、販売し、貸与し、使用してはならない。 二 被告は、その所有する前項記載の装置を廃棄せよ。 |
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事案の概要
一 争いのない事実等1 原告及び被告は、いずれも酸素、窒素等の製造、販売などを目的とする株式会社である。 2 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する。 特許番号 第一五六六五六二号発明の名称 高純度窒素ガス製造装置出願日 昭和五九年七月一三日公告日 昭和六一年一〇月一五日登録日 平成二年六月二五日3 本件発明に係る明細書(特許法17条の3による補正後の明細書、以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲は、別紙公報(以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおりである。 4 本件発明の構成要件は、次のとおりに分説できる(以下「構成要件T@」、 「構成要件U」などという。)。 T(前提)@ 外部より取り入れた空気を圧縮する空気圧縮手段と、 A この空気圧縮手段によって圧縮された圧縮空気中の炭酸ガスと水分とを除去する除去手段と、 B この除去手段を経た圧縮空気を超低温に冷却する熱交換手段と、 C この熱交換手段により超低温に冷却された圧縮空気の一部を液化して底部に溜め窒素のみを気体として上部側から取り出す精留塔を備えた窒素ガス製造装置であって、 U(分縮器) 精留塔の上部に設けられた凝縮器内蔵型の分縮器と、 V(液体空気導入パイプ) 精留塔の底部の貯溜液体空気を上記凝縮器冷却用の寒冷として上記分縮器中に導く液体空気導入パイプと、 W(放出パイプ) 上記分縮器中で生じた気化液体空気を外部に放出する放出パイプと、 X(第1の還流液パイプ) 精留塔内で生成した窒素ガスの一部を上記凝縮器内に案内する第1の還流液パイプと、 Y(第2の還流液パイプ) 上記凝縮器内で生じた液化窒素を還流液として精留塔内に戻す第2の還流液パイプと、 Z(液体窒素貯蔵手段) 装置外から液体窒素の供給を受けこれを貯蔵する液体窒素貯蔵手段と、 [(導入路) この液体窒素貯蔵手段内の液体窒素を冷熱発生用膨脹器からの発生冷熱に代え圧縮空気液化用の寒冷として連続的に上記精留塔内に導く導入路と、 \(液面制御手段) 上記分縮器内の液体空気の液面の変動にもとづき上記精留塔に対する上記液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御し上記液体空気の液面を設定液面位に保つ液面制御手段と、 ](窒素ガス取出路) 上記精留塔から気体として取り出される窒素および上記精留塔内において寒冷源としての作用を終え気化した上記液体窒素を上記熱交換手段を経由させその内部を通る圧縮空気と熱交換させることにより温度上昇させ製品窒素ガスとする窒素ガス取出路を備えたことを特徴とする高純度窒素ガス製造装置5 被告は、窒素ガス製造装置を製造販売している。 (右4の事実は、甲三と弁論の全趣旨により認め、その余の事実は争いがない。)二 本件は、原告が、「被告は、別紙第一目録記載のとおりに特定される窒素ガス製造装置を製造販売しているところ、同窒素ガス製造装置は、本件発明の技術的範囲に属するから、その製造販売は、本件特許権を侵害する。」と主張して、被告に対し、別紙第一目録記載の窒素ガス製造装置の製造販売等の差止め及び廃棄を求める事案である。 三 争点 被告は、別紙第一目録記載のとおりに特定される窒素ガス製造装置を製造販売しているかどうか及び被告の製造販売する窒素ガス製造装置が本件発明の技術的範囲に属するかどうか。 |
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争点に関する当事者の主張
一 原告の主張1 被告は、別紙第一目録(以下「原告目録」という。)記載のとおりに特定される窒素ガス製造装置を製造販売している(以下、原告目録記載の窒素ガス製造装置を「原告主張装置」という。)。 2 原告主張装置は、次のとおり本件発明の構成要件をすべて充足するから、本件発明の技術的範囲に属する。 (本項では、原告目録の図面の符号及び符号の説明を用いて表記する。)(一)(1) 原告主張装置は、外部より取り入れた空気を圧縮する手段として、空気圧縮機9を有するから、構成要件T@を充足する。 (2) 原告主張装置は、空気圧縮機9によって圧縮された圧縮空気中の炭酸ガスと水分とを除去する手段として、ドレン分離器10、吸着塔12を有するから、構成要件TAを充足する。 (3) 原告主張装置は、右除去手段を経た圧縮空気を超低温に冷却する熱交換手段として、熱交換器13を有するから、構成要件TBを充足する。 (4) 原告主張装置は、この熱交換手段により超低温に冷却された圧縮空気の一部を液化して底部に溜め、窒素のみを上部側から気体として取り出す精留塔15を備えた窒素ガス製造装置であるから、構成要件TCを充足する。 (二) 原告主張装置では、第1の分縮器21は、精留塔15とは別個独立に設置されているが、構成要件Uの「精留塔の上部に設けられた」とは、分縮器が精留塔内の上部に一体として配置されていると限定して解釈する理由はない。 本件発明において、精留塔は、その底部に投入された圧縮空気を、それが上昇する過程で精留棚を下降する液体窒素と接触させて、窒素のみを精留塔内の上部に気体として溜める働きをし、また、分縮器は、精留塔内上部に溜まった窒素ガスを第1の還流液パイプにより分縮器内の凝縮器に導き、液化した後、第2の還流液パイプを通って液体窒素としての自重により精留塔に戻す働きをすることから、本件発明では、分縮器を精留塔の上方に設けるとの構成を採用したものである。 原告主張装置において、第1の分縮器21は、精留塔15の上方に設けられていて、 精留塔内の上部に溜まった窒素ガスが同分縮器に導入され、液化された後、第2の還流液パイプ21cを通って自重により精留塔に戻されるのであるから、「精留塔の上部に設けられた」との要件を充たす。 したがって、原告主張装置は、精留塔15の上部に設けられた凝縮器21aを内蔵した第1の分縮器21を有するから構成要件Uを充足する。 (三) 原告主張装置は、精留塔15の底部の液体空気18を凝縮器21a冷却用の寒冷として第1の分縮器21中に導くパイプ19を有するから構成要件Vを充足する。 (四) 原告主張装置は、第1の分縮器21中で生じた気化液体空気を外部に放出する放出パイプ29を有するから構成要件Wを充足する。 (五) 原告主張装置は、精留塔15内で生成した窒素ガスの一部を凝縮器21a内に案内する第1の還流液パイプ21bを有するから構成要件Xを充足する。 (六) 原告主張装置は、凝縮器21a内で生じた液化窒素を還流液として精留塔15内に戻す第2の還流液パイプ21cを有するから構成要件Yを充足する。 (七) 原告主張装置は、装置外から液体窒素の供給を受けこれを貯蔵する液体窒素貯蔵手段として、液化窒素貯槽23を有するから構成要件Zを充足する。 (八) 原告主張装置は、液化窒素貯槽23内の液体窒素を、圧縮空気液化用の寒冷として連続的に精留塔15内に導く導入路パイプ24aを有するから構成要件[を充足する。 (九)(1) 原告主張装置は、第1の分縮器21内の液体空気の液面の変動に基づき、液化窒素貯槽23と精留塔15の間の導入路パイプ24aに設けられたバルブ26を調節して精留塔15に対する液化窒素貯槽23からの液体窒素の供給量を制御し、右液体空気の液面を設定液面位に保つ液面制御手段として、液面計25を有するものと認められるから、原告主張装置は、構成要件\を充足する。 (2) 仮に、後記二(被告の主張)2(三)のとおり、液面計25は、第1の分縮器21内の液体空気の液面の変動に基づき、パイプ19に設けられたバルブ19aを調節して精留塔底部の液体空気から右分縮器21に対する液体空気の供給量を制御するものであり、液面計44は、精留塔底部の液体空気の液面の変動に基づき、導入路パイプ24aに設けられたバルブ26を調節して液化窒素貯槽23から精留塔に対する液体窒素の供給量を制御するものであるとしても、第1の分縮器21の液面が変動すると液面計25の信号によりバルブ19aが調節されて分縮器21への液体空気の供給量が変動し、 これにより精留塔底部の液面が変化し、その結果、液面計44の信号によりバルブ26が調節されて、液化窒素貯槽23からの液体窒素の量が制御されており、また、安定的な操業を行っている場合には、両液面は一定に保たれている。したがって、右のような構成を有する装置は、分縮器内の液面と精留塔底部の液面の変動とが密接に関連し、両液面が一定に保たれることにより、液化窒素貯槽23からの液体窒素の供給量を制御するものであるから、分縮器内の液面の変動に基づき、液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御するものということができる。よって、構成要件\を充足する。 (一〇) 原告主張装置においては、精留塔15の上部に溜まった窒素ガスは、取出パイプ27を通って、第1の還流液パイプ21bと第1の窒素取出パイプ27aに分岐する。そして、第1の窒素取出パイプ27aに分岐した窒素ガスは、液化窒素戻りパイプ27b、第2の窒素取出パイプ27c及びパイプ27fを通り、熱交換器13内で圧縮空気と熱交換され、メインパイプ28から製品窒素ガスとして取り出される。 したがって、原告主張装置は、精留塔15から気体として取り出される窒素及び精留塔15内において寒冷源としての作用を終え気化した液体窒素を、熱交換器13を経由させ、その内部を通る圧縮空気と熱交換させることにより温度上昇させ、製品窒素ガスとする窒素ガス取出路である、取出パイプ27、第1の窒素取出パイプ27a、 液化窒素戻りパイプ27b、第2の窒素取出パイプ27c、パイプ27f及びメインパイプ28を有するから、構成要件]を充足する。 なお、原告主張装置では、窒素ガスを精留塔15上部から取り出す取出パイプ27と製品窒素ガスとして取り出すメインパイプ28の間に、第2の分縮器7→液化窒素戻りパイプ27b→第2の窒素取出パイプ27c→液化窒素セパレータ51という工程を経るが、これは、単に精留塔15上部から取り出された窒素ガスを一旦液化して液体窒素とした後、再度気化して窒素ガスに戻しているだけであって、技術的に無意味な工程であるから、この工程の存在は、原告主張装置が構成要件]を充足することを左右するものではない。 (一一) 以上のとおり、原告主張装置は、本件発明の構成要件をすべて充足するから、本件発明の技術的範囲に属する。 二 被告の主張1 被告が、原告主張装置を製造販売していることは、否認する。 被告が製造販売している窒素ガス製造装置は、別紙第二目録(以下「被告目録」という。)記載のとおりに特定されるものである(以下、被告目録記載の窒素ガス製造装置を「被告主張装置」という。)。 2 被告主張装置は、本件発明の技術的範囲に属さない。 (本項では、被告目録の図面の符号及び符号の説明を用いて表記する。)(一) 構成要件TC及び構成要件]について 本件発明では、精留塔から気体として取り出される窒素は、「熱交換手段を経由させ、その内部を通る圧縮空気と熱交換させることにより温度上昇させ、製品窒素ガスとする」(構成要件])ものであるが、被告主張装置では、精留塔から第一の還流液パイプ7aを通って気体として取り出される窒素は、凝縮器7により熱交換されて液体窒素となり、第二の還流液パイプ7bを通って精留塔に戻されるのであり、「熱交換器を経由させ、その内部を通る圧縮空気と熱交換させることにより温度上昇させ製品窒素ガス」として取り出されるものではない。 したがって、被告主張装置は、本件発明の「窒素のみを上部側から気体として取り出す精留塔」(構成要件TC)を備えておらず、また、本件発明の「精留塔から気体として取り出される窒素を熱交換器を経由させ、その内部を通る圧縮空気と熱交換させることにより温度上昇させ、製品窒素ガスとする」との構成(構成要件])も備えていない。 よって、被告主張装置は、構成要件TC及び構成要件]を充足しない。 (二) 構成要件Uについて 本件発明の「精留塔の上部」とは、精留塔の一部分である精留塔の上の部分を示すものであるところ、被告主張装置の凝縮器21a内蔵型の分縮器21は、精留塔の上方に精留塔とは別個独立に設けられている。 したがって、被告主張装置は、構成要件Uを充足しない。 (三) 構成要件\について 本件発明の液面制御手段は、「分縮器内の液体空気の液面の変動にもとづき、精留塔に対する液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御し、液体空気の液面を設定液面位に保つもの」である。 これに対し、被告主張装置では、第一の液面制御計25は、分縮器21内の液体空気の液面の変動に基づき、液体空気導入パイプ19に設けられたバルブ19aを調節して精留塔底部の液体空気から分縮器21に対する液体空気の供給量を制御し、分縮器21内の液体空気の液面を設定液面位に保つものであり、第二の液面制御計44は、精留塔底部の液体空気の液面の変動に基づき、導入路パイプ24aに設けられたバルブ26を調節して液体窒素貯蔵タンク23から精留塔に対する液体窒素の供給量を制御し、精留塔底部の液体空気の液面を設定液面位に保つものである。 このように、被告主張装置では、第一の液面制御計25と第二の液面制御計44とがそれぞれ独立して制御を分担しており、第一の液面制御計25は、液体窒素貯蔵タンク23から精留塔に対する液体窒素の供給量を制御していない。 したがって、被告主張装置は、構成要件\を充足しない。 |
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当裁判所の判断
一 原告は、原告主張装置について、第1の分縮器21内の液体空気の液面の変動に基づき、液化窒素貯槽23と精留塔15の間の導入路パイプ24aに設けられたバルブ26を調節して精留塔15に対する液化窒素貯槽23からの液体窒素の供給量を制御し、 右液体空気の液面を設定液面位に保つ液面計25を有すると主張する(前記第三の一2(九)(1))ので、判断する。 1 証拠(甲一〇)と弁論の全趣旨によると、@被告は、昭和六〇年七月八日付けで「空気分離装置(TCN・α型)見積仕様書」と題する高純度窒素ガス製造装置の仕様書を作成したこと、A同仕様書に記載された高純度窒素ガス製造装置は、原料空気を塔頂の純窒素ガスと塔底の液体空気に分離する窒素精留塔と、この精留塔の頂部に設置された窒素凝縮器と、装置外から供給を受けた液体窒素を貯蔵する液体窒素貯蔵手段と、この窒素貯蔵手段内の液体窒素を窒素精留塔内に導くパイプを備えたものであり、窒素凝縮器に設けられた液面計により液体窒素貯蔵手段の液体窒素を精留塔に導くパイプに設けられたバルブを制御するようになっていること、 B右仕様書に記載された高純度窒素ガス製造装置と原告主張装置は、ともに型番がTCN・α型であること、以上の事実が認められる。 2 しかし、証拠(甲一〇、乙八)と弁論の全趣旨によると、右仕様書に記載された高純度窒素ガス製造装置の窒素凝縮器は、円筒直管型の凝縮器であり、精留塔頂部に設置されているのに対し、原告主張装置の凝縮器(凝縮器21a)はプレートフィン型の凝縮器であり、精留塔の上方に別個独立に設置されていること、被告は右仕様書を作成しただけで、この高純度窒素ガス製造装置を実際には製造していないことが認められ、これらの事実に照らすと、同一の型番の装置であっても必ずしも同一の構成を備えているとは限らず、しかも、被告は右仕様書に記載された高純度窒素ガス製造装置を実際には製造していないのであるから、右1@ないしBの事実から、直ちに、被告が、液面計25が右仕様書に記載された高純度窒素ガス製造装置の窒素凝縮器に設けられた液面計と同様の制御を行っており、かつ、他の原告主張装置の構成を備えた装置の製造販売を行っていると認めることはできず、他に、被告が、液面計25が第1の分縮器21内の液体空気の液面の変動により、導入路パイプ24aに設けられたバルブ26を調節して精留塔15に対する液化窒素貯槽23からの液体窒素の供給量を制御しており、かつ、他の原告主張装置の構成を備えた装置の製造販売を行っていることを認めるに足りる証拠はない。 3 したがって、原告主張装置について、第1の分縮器21内の液体空気の液面の変動に基づき、液化窒素貯槽23と精留塔15の間の導入路パイプ24aに設けられたバルブ26を調節して精留塔15に対する液化窒素貯槽23からの液体窒素の供給量を制御し、右液体空気の液面を設定液面位に保つ液面計25を有するとの構成(前記第三の一2(九)(1))を備えているとは認められない。 二 原告は、仮に、液面計25が第1の分縮器21内の液体空気の液面の変動に基づき、パイプ19に設けられたバルブ19aを調節して精留塔底部の液体空気から右分縮器21に対する液体空気の供給量を制御し、液面計44が精留塔底部の液体空気の液面の変動に基づき、導入路パイプ24aに設けられたバルブ26を調節して液化窒素貯槽23から精留塔に対する液体窒素の供給量を制御するものであるとしても、構成要件\を充足すると主張する(前記第三の一2(九)(2))ので、判断する。 1 証拠(甲二、三)によると、 (一) 本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の実施例の説明として、 @「25は液面計であり、分縮器21内の液体空気の液面が一定レベルを保つようその液面に応じてバルブ26を制御し液体窒素貯槽23からの液体窒素の供給量を制御する。」(本件公報、訂二三、一一行、一二行)との記載、A「この装置では、製品窒素ガスの需要量に変動が生じても液面計25のような制御手段がバルブ26の開度等を制御し、精留塔15に対する液体窒素の供給量を制御することにより分縮器21内の液体空気の液面を一定に制御するため、需要量の変動に迅速に対応でき、かつこのときにも先に述べた理由により純度ばらつきを生じない。」(本件公報、訂二五、 一三行ないし一七行)との記載及びB「上記液面計25による制御は、液面計が取付けられた部分に供給される液体窒素の供給量をその部分の液面で制御する(直接液面制御)のではない。すなわち精留塔15に対する液体窒素の供給量を精留塔15内の液面ではなく、分縮器21内の液面で制御する(間接液面制御)ため、精留塔内の還流液の総量を常時一定量に制御でき(精留塔内の液面で制御する場合には、精留塔の底部に新たに液面計を設けてこれでバルブ26を制御するとともに、現行の液面計25でバルブ19aを制御することとなり、制御系が2系列になるため、精留塔内の還流液《分縮器からの還流液+供給液体窒素》の総量は常時一定にならない。)、それによって、製品窒素ガスの純度を需要変動に関係なく一定に保持できるようになる。」(本件公報、訂二五、二九行ないし三六行)との記載があること、本件発明の効果として、C「特に、この発明の装置は、精留塔の上部に凝縮器内蔵型の分縮器を設け、この凝縮器へ精留塔の窒素ガスの一部を常時導入して液化還流液化し、 還流液が常時精留塔内へ戻るようにすると同時に、液面制御手段によって、分縮器内の液体空気の液面の変動にもとづき精留塔に対する液体窒素の供給量を制御し液体空気の液面を設定液面位に保つという間接液面制御を行うため、負荷変動に対して極めて迅速に対応でき、その際、製品窒素ガスの純度ばらつきを生じないのである。」(本件公報、訂二七、一四行ないし一九行)との記載があること、 (二) 構成要件\は、公告後の補正によって補正されたものであるが、補正前の特許請求の範囲のこの部分は、「上記精留塔に対する上記液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御することにより上記分縮器内の液体空気の液面を一定に制御する制御手段と、」というものであって、精留塔に対する液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量の制御が何に基づいてされるかの記載はなく、また、補正前の明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の実施例として、右(一)@及びAの記載はあったが、Bの記載はなく、さらに、発明の効果についてのCの記載は、「特に、 この発明の装置は、精留塔の上部に凝縮器内蔵型の分縮器を設け、この凝縮器へ精留塔の窒素ガスの一部を常時導入して液化還流液化し、還流液が常時精留塔内へ戻るようにすると同時に、」の部分は同一であるが、「液面制御手段によって、分縮器内の液体空気の液面の変動にもとづき精留塔に対する液体窒素の供給量を制御し液体空気の液面を設定液面位に保つという間接液面制御を行うため、負荷変動に対して極めて迅速に対応でき、その際、製品窒素ガスの純度ばらつきを生じないのである。」の部分は、「制御手段によって上記精留塔に対する液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御して分縮器の液面を一定に制御するため、負荷変動に対して極めて迅速に対応でき、その際、製品窒素ガスの純度ばらつきを生じないのである。」(本件発明に係る補正前の特許公報(甲二)一〇欄一行ないし六行)と記載されていたこと、 (三) 本件発明に係る図面(第1図ないし第3図)に示された本件発明の実施例の構成図においては、分縮器21に設けられた液面計25と、導入路パイプ24aに設けられたバルブ26とが破線で結ばれていること、 以上の事実が認められる。 2 右1認定の事実に照らすと、構成要件\にいう「上記分縮器内の液体空気の液面の変動にもとづき、上記精留塔に対する上記液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御し」とは、分縮器内の液体空気の液面のみによって精留塔に対する液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御する制御方式を意味するものと解され、分縮器内の液体空気の液面によって分縮器に対する精留塔底部からの液体空気の供給量を制御するとともに、精留塔底部の液体空気の液面によって液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御するという二系列の制御方式は、構成要件\にいう「制御」には含まれないものと解される。 なお、右1(一)Bのかっこ内に記載されている「制御系が2系列になる」ものについて、原告は、液体窒素が精留塔15に供給された部分の液面で液体窒素貯留手段23からの液体窒素の供給量を制御すると、精留塔15の底部の液面にも液面計を設け、当該液面計で液体窒素貯留手段23からの供給量を制御することが必要になるから、制御系が二系列になるということを述べたものであると主張するが、右の「制御系が2系列になる」という記載は、「液面計25が分縮器21内の液体空気の液面の変動に基づき、バルブ19aを調節して分縮器21に対する精留塔15からの液体空気の供給量を制御すること」と「精留塔15の底部に設けられた液面計が精留塔15内の液体空気の液面の変動に基づき、バルブ26を調節して精留塔15に対する液体窒素貯槽23からの液体窒素の供給量を制御すること」を二系列と表現したものであることは、本件明細書のその前後の記載から明らかであるから、原告の右主張を採用することはできない。 しかるところ、液面計25が第1の分縮器21内の液体空気の液面の変動に基づき、 パイプ19に設けられたバルブ19aを調節して右分縮器21に対する精留塔底部からの液体空気の供給量を制御し、液面計44が精留塔底部の液体空気の液面の変動に基づき、導入路パイプ24aに設けられたバルブ26を調節して精留塔に対する液化窒素貯槽23からの液体窒素の供給量を制御しているものは、右の二系列の制御方式に当たるというべきであるから、構成要件\の「上記分縮器内の液体空気の液面の変動にもとづき、上記精留塔に対する上記液体窒素貯蔵手段からの液体窒素の供給量を制御し」に該当しない。 3 したがって、 構成要件\を充足しない。 三 以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 榎戸道也 |
裁判官 | 岡口基一 |