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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13ワ24051特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成8ワ4216特許権侵害行為差止等請求事件 判例 特許
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平成18ネ10069特許権侵害差止請求権不存在確認等請求控訴事件 平成19ネ10023同附帯控訴事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  製造方法 /  加工方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  公知技術 /  技術的範囲 /  出願公開 /  遡及 /  発明の利用 /  警告 /  時効 /  援用権(援用) /  権利の濫用(権利濫用) /  存続期間 /  特許出願日 /  参酌 /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  権原 /  社会通念 /  加工 /  間接侵害 /  構成要件 /  汎用品 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  逸失利益 /  販売数量(販売数) /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  実施許諾(実施の許諾) /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 7年 (ワ) 4290号 特許権侵害行為差止等請求事件
原告 株式会社イソワ右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 中村稔
同 富岡英次右訴訟復代理人弁護士 田中伸一郎右補佐人弁理士 【B】
同 【C】
被告 株式会社梅谷製作所右代表者代表取締役 【D】 右訴訟代理人弁護士 本渡諒一
同 鎌田邦彦右訴訟復代理人弁護士 「薫
同 外川裕
同 木島喜一
同 伊藤孝江右補佐人弁理士 【E】
裁判所 名古屋地方裁判所
判決言渡日 1999/12/22
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は原告に対し、金六〇七三万二五〇〇円及び1 うち四七八八万一五〇〇円に対し平成七年九月二六日から、
2 うち一四八万九五〇〇円に対し平成八年六月一五日から、
3 うち二〇八万五〇〇〇円に対し同年八月三日から、
4 うち一七八万一〇〇〇円に対し同年九月七日から、
5 うち一五二万三五〇〇円に対し平成九年一月一八日から、
6 うち一二〇万四五〇〇円に対し同年三月一九日から、
7 うち一九三万一〇〇〇円に対し同年四月五日から、
8 うち一四九万二五〇〇円に対し同年五月一六日から、
9 うち一三四万四〇〇〇円に対し同年七月二〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
被告は原告に対し、金一億二二四七万一二〇〇円及びこれに対する平成七年九月二六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
一 本件は、片面段ボールの製造装置における中芯保持装置に関する特許権を有する原告が、被告が片面段ボールの製造装置の一部を構成する上部下部段ロールの再生加工を行ったとして、間接侵害による特許権侵害に基づく損害賠償を請求する事案である。
二 争いのない事実等1 当事者 原告は、肩書地に本店を有し、段ボール機械及び段ボール機械に関する諸機械製造加工販売等を業とする会社であり、被告は、肩書地に本店を有し、段ボール機械に関する諸機械製造加工販売等を業とする会社である。
2 特許権 原告は、左の特許権(以下「本件特許権」といい、同特許権にかかる発明を「本件発明」という。)の特許権者であった(甲一)。
(一) 名 称 片面段ボールの製造装置における中芯保持装置(二) 出 願 昭和五二年一〇月三日(特願昭五二ー一一九八一七号)(三) 出願公開 昭和五四年四月二六日(特開昭五四ー五三〇九六号)(四) 出願公告 昭和五七年一二月二二日(特公昭五七ー〇六〇九四三号)(五) 登 録 昭和五八年九月八日(特許第一一六六四五二号) 本件特許権は、存続期間満了により、平成九年一〇月三日に消滅した。
3 本件発明の技術的範囲(一) 特許請求の範囲 本件発明の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)に記載された「特許請求の範囲」(1項)は、次のとおりである(甲二)。
互いに噛み合った一対の上部および下部段ロールの間に中芯を通して中芯に波形を形成し、前記下部段ロールと協働するプレスロールを設け、前記下部段ロールが、その周面に形成された複数個の長さ方向に隔たった環状吸引溝を備え、波形の形成された中芯が前記上部段ロールと前記プレスロールとの間で前記下部段ロールのまわりを走行する間前記波形の形成された中芯を前記下部段ロールに吸着させるため、大気圧以下の圧力即ち負圧を前記環状吸引溝を通して前記波形の形成された中芯に加える吸引装置を設けて成る片面段ボールの製造装置における中芯保持装置において、前記吸引装置は前記波形の形成された中芯で覆われていない前記下部段ロールの局面の部分を覆い、両端が閉鎖されていて、吸引源に連なりかつ内側に開口する吸引孔を有する吸引箱装置からなることを特徴とする中芯保持装置。
(二) 構成要件 本件発明の構成要件を分説すると、次のとおりである。
A(1) 互いに噛み合った一対の上部および下部段ロールの間に中芯を通して中芯に波形を形成し、
(2) 前記下部段ロールと協働するプレスロールを設け、
(3) 前記下部段ロールが、その周面に形成された複数個の長さ方向に隔たった環状吸引溝を備え、
(4) 波形の形成された中芯が前記上部段ロールと前記プレスロールとの間で前記下部段ロールのまわりを走行する間前記波形の形成された中芯を前記下部段ロールに吸着させるため、大気圧以下の圧力即ち負圧を前記環状吸引溝を通して前記波形の形成された中芯に加える吸引装置を設け、
(5) 以上から成る片面段ボールの製造装置における中芯保持装置であることB 前記片面段ボールの製造装置における中芯保持装置において、前記吸引装置は前記波形の形成された中芯で覆われていない前記下部段ロールの局面の部分を覆い、両端が閉鎖されていて、吸引源に連なりかつ内側に開口する吸引孔を有する吸引箱装置からなることC 以上を特徴とする中芯保持装置(三) 本件発明の作用効果 本件発明は、次のとおりの作用効果を奏する。
(1) 中芯は、波形形成後、遠心力の影響を受けて段ロールから離れようとする傾向があるが、この傾向を段ロールの環状吸引溝を通して加えられる吸引作用によって完全に阻止することができる。
(2) 中芯が吸引作用によって段ロールの局面に確実に吸着保持されるから、中芯の波形の段頂に常に均一に糊付けを行うことができる。
(3) 中芯の表面上には糊付けを妨げる要素がないから、波形の段頂に端から端まで万遍なく糊付けが可能である。
4 被告の行為 被告は、業として、昭和六三年一月ころから平成九年七月ころまで、別紙「被告段ロール売上げ、費用、利益一覧表」の各「出荷日」欄記載の日に、各「客先名」記載の者に対し、別紙原告装置目録における中芯保持装置用の上部段ロール及び下部段ロール(以下、併せて「被告段ロール」という。)合計四四対(機種、幅寸法は、「機種」、「幅寸法」欄記載のとおりである。)について、上部段ロール及び下部段ロールの各価格を、「一本の価格」欄記載の価格として、肉盛溶接再生加工をし、これらを納入した。
5 原告装置 原告装置の構成及び作用効果は、別紙「原告装置目録」記載のとおりである(以下、同目録のモデル1とモデル2を単に「モデル1」「モデル2」という。)。
6 原告の別件発明 原告は、左の特許権(特許第一三五六四五五号。以下「別件特許権」といい、同特許権にかかる発明を「別件発明」という。)の特許権者であったが(乙三〇)、
モデル1は、別件発明の実施品である。
(一) 名 称 片面段ボールの製造装置における中芯保持装置(二) 出 願 昭和五四年二月一四日(特願昭五四ー一五八五四号)(三) 出願公開 昭和五五年八月一八日(特開昭五五ー一〇七四五三号)(四) 出願公告 昭和六一年六月一三日(特公昭六一ー二四九九〇号)(五) 特許請求の範囲 互いに噛み合った第一および第二段ロールと、第二段ロールと協働するプレスロールとからなり、前記第二段ロールの外周面にその長さ方向に間隔をへだてた複数個の環状吸引溝を設け、第一段ロールとプレスロールとの間で中芯によって被覆されない第二段ロールの部分と対向して、前記環状吸引溝に負圧を生じさせる、吸引装置を設けて成る中芯保持装置において、前記吸引装置が本体下面に形成された円弧面と第二段ロールの周面との間の狭い吸引室からなり、前記本体は、その両側縁に隣接して、布々共通の吸引ダクトと連通し、且つ段ロールの環状吸引溝と各々一線をなして吸引室と連通した吸引孔を有し、本体にはその両側に沿って、支持体が環状吸引溝と一線をなす案内溝を構成するように間隔をへだてて設けられ、前記案内溝内にインサートプレートを上限位置と下限位置との間で上下に移動可能に設けて成ることを特徴とする片面段ボールの製造装置における中芯保持装置。
7 被告は、モデル2が本件発明の実施品であり、本件特許権の技術的範囲に属するものであることを認めている。
三 請求の概要1 主位的請求 本件特許権に基づく、別紙「原告装置目録」(モデル1及びモデル2)の生産にのみ使用する被告段ロールの製造、販売行為により、特許法102条2項によって原告が被った損害額と推定される、右製造販売により被告が得た利益(限界利益)相当額金一億二二四七万一二〇〇円の損害賠償請求2 予備的請求(その一) 本件特許権に基づく、前記被告の特許権侵害行為により、特許法102条2項によって原告が被った損害額と推定される被告が得た利益(純利益)相当額金七一九三万七二〇〇円の損害賠償請求3 予備的請求(その二) 本件特許権に基づく、前記被告の特許権侵害行為により、特許法102条3項によって原告が被った損害額と推定される前記特許発明実施に対し受けるべき金銭相当額金二一一八万九〇〇〇円の損害賠償請求四 争点及び争点に対する当事者の主張1 本件発明の技術的範囲は、被告段ロールに及ぶか。被告段ロールの肉盛溶接再生は、本件発明の実施である生産(製造)に該当するか。
(原告の主張)(一) 特許法70条1項は、「特許請求の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と定め、同法36条5項には、「(明細書の)特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」とされている。よって、特許発明技術的範囲の確定に当たっては、まず、明細書の特許請求の範囲を基準とすべきであり、その記載の解釈に当たって、公知技術等を参酌することができることは当然のことであるが、特許請求の範囲に規定された各個の要件が個別的に公知であることが判明したとしても、これら公知部分を除いた構成部分が技術的範囲であるというような限定解釈をする理由とはならない。特許権者が直接侵害に基づいて特許権侵害を主張する場合には、明細書の特許請求の範囲に記載された文言に忠実に従って分説された各構成要件のすべてを充足する必要があるのである。
特定の特許権の技術的範囲は、特許権者が直接侵害に基づいて特許権侵害を主張する場合であろうと間接侵害に基づく場合であろうと画一的に定められるべきであり、直接侵害によるか、あるいは間接侵害によるかによって、特定の構成要件の具備を要求し、あるいはこれを要求しないという解釈はない。
(二) 発明の基本的部分以外の構成要素に該当する部分の製造が間接侵害を構成しないという主張自体根拠がない。
本件発明の吸引箱は、特定の寸法、形状を有する吸引溝を有する下部段ロールと組み合わされることにより、初めてその特徴的な作用効果を発揮することができるものであり、下部段ロールに設けられた吸引溝は、本件発明の基本的部分の一部を構成する。
(三) 本訴請求が権利の濫用に該当するとか、包袋禁反言に反するとの被告の主張は、いずれも否認する。
原告は、本件特許権の出願審査過程で「本件特許発明の発明思想は従来公知の環状溝を有する下部段ロールにあるものではなく」と述べたことはなく、本件発明の特徴的部分が吸引箱によって下部段ロールの周面を全体に覆うことにより複数の環状溝に負圧を生じさせていることにあることを強調したものであり、下部段ロールを技術的範囲から除いていない。
(四) 上部段ロールと下部段ロールの噛み合わせは、段ボールの波形を正確に形成するために極めて精密に調整されなければならなず、両者の再生加工は、本件中芯保持装置の製造に当たって、密接不可分な行為であり、下部段ロールを再生加工する場合には、必ず上部段ロールと併せて再生加工される。
(被告の主張)(一) 本件発明の技術的範囲は「吸引箱装置」に限定される。
(1) 本件発明の構成要件中には、作用効果などの不要な記載があるから、これらを取り除いて、本件発明の構成を解釈すべきであり、次のように整理される。
@ 上部段ロールと噛み合う下部段ロール並びに下部段ロールと協働関係にあるプレスロールを備えた片面段ボール製造装置において、
A 下部段ロールの周面に複数個の環状吸引溝を設け、
B 両端が閉鎖され、吸引源に連なり、内側に開口する吸引孔を有する吸引箱装置を下部段ロールの中芯非接触領域に覆わせてなる中芯保持装置 右@の片面段ボール製造装置は、本件発明の特許出願日以前から存在する従来技術であり、かつ、吸引箱装置の実施客体を示すものであって、この部分は技術的範囲に属さない。
右Aの環状吸引溝の構造は、後記米国特許及び乙四考案により公知となっており、かつ、吸引箱装置の実施客体を示すものであって、この部分は技術的範囲に属さない。
残るBの「両端が閉鎖され、吸引源に連なり、内側に吸引孔を有する吸引箱装置」という吸引箱装置の構造部分が、本件発明の技術的範囲である。
(2) 以上から、本件発明の技術的範囲が、『(下部段ロールと中芯との間の空間の空気を吸引する為に、下部段ロールに装着する装置として)両端が閉鎖され、吸引源に連なり、内側に開口する吸引孔を有する吸引箱装置』に限られ、上下部段ロールに及ばない以上、被告が被告段ロールを製造する行為は本件特許権を侵害しない。
(3) よって、直接侵害が成立しないので、間接侵害になることはない。
(二) 下部段ロールは、本件発明の基本的部分ではない。
発明の本質的構成要素以外の要素が部品として文理上「のみ」に該当するとしても、その部品は間接侵害の対象とならない。
(一)で述べたように、本件発明は、中芯と下部段ロールの関係、下部段ロールの形状において、後記米国特許及び乙四考案と同一であり、その基本的発明思想は、
吸引箱にあるから、下部段ロールは、従来公知であり、かつ、本件発明の基本的部分ではない。よって、上下段ロールを製造することは間接侵害に該当しない。
(三) 権利濫用など(1) 下部段ロールは、公知物であり、公知物の修理は間接侵害に該当しない。
(2) 本件発明の創作の対象でなかった環状溝を有する下部段ロールの修理あるいは製造を間接侵害であると主張するのは、権利の濫用である。
(3) 法が間接侵害を認めたのは、衡平の観点から例外的に特許権の効力の拡大を許したものであり、環状溝を有する下部段ロールの構造について何らの工夫創作をしていない原告が、その補修を間接侵害であると主張することは、衡平性を欠き許されず、間接侵害にならないか、権利の濫用として許されない。
(4) 包袋禁反言に反する。
原告は、出願当時、本件発明の発明たる部分は「下部段ロールの外周面にその長さ方向に間隔を隔てた複数個の環状吸引溝を設けた」部分であると理解し、吸引装置については何らの特定もなかった。特許庁から、右記載の発明は、既に乙四考案に示されているとして、拒絶理由を受け、原告は吸引箱を前面に押し出して特許査定を得ようとして意見書を提出し、発明の対象を下部段ロールの環状溝から、吸引箱に変更した。よって、原告が下部段ロールも技術的範囲に属すると主張することは包袋禁反言に反する。したがって、下部段ロールは本件発明の技術的範囲に属さない。
(四) 上部段ロールについて 本件特許発明技術的範囲は、吸引箱に限られるので、上部段ロールについても、技術的範囲に属さない。
(五) 修理の承諾及び権利濫用 本件発明の実施品である原告装置は六〇〇〇万円ほどする機械であり、上下部段ロール及びプレスロールはそれぞれ三〇〇万円ほどはするものであること、上下部段ロール及びプレスロールは、使用による摩耗により取り替えあるいは修理して段山を再生することが当然に予定されていることからすると、原告装置のユーザーが上下部段ロール及びプレスロールを補修することは自由であり、原告から補修修理する権限を与えられていたというべきである、よってユーザーの依頼によって被告が補修をしても、適法な行為である。実際、いずれの段ボール製造機械メーカーにおいても、段ロールの取り替えについて、当該メーカーの段ロールを使用してもよく、段ロールだけ他社から購入してもよいとするのが通例である。
仮に、被告段ロールの製造が本件特許権の侵害に該当するとしても、右事実に照らすと、原告の本訴請求は権利の濫用になる。
2 原告装置モデル1は、本件発明の技術的範囲に属するか。
(原告の主張)(一) モデル1と本件発明の構成要件とを対比すると以下のとおりである。
(1) モデル1の構成a(1)は、構成要件A(1)を、モデル1の構成a(2)は、構成要件A(2)を、モデル1の構成a(3)は、構成要件A(3)を、モデル1の構成a(4)は、
構成要件A(4)を、モデル1の構成a(5)は、構成要件A(5)をそれぞれ充足する。
(2) モデル1の構成bは、構成要件Bを充足する。
(3) モデル1の構成cは、構成要件Cを充足する。
(二) また、モデル1は、別紙「原告装置目録」三1ないし3のすべての効果を奏するものである。
(三) したがって、モデル1は、本件発明の技術的範囲に属する、本件特許権の実施品である。
(四) 被告の主張に対する反論 モデル1は、被告の主張する後記米国特許及び乙四考案に開示されている発明を特徴づける段ロールの環状吸引溝に挿入されるサンクションパイプという構成を有しないものであり、吸引箱内は一つの空間として形成され、同空間に面する環状吸引溝の全体にわたって空気を吸引し、負圧をかけるものであり、モデル2と変わらない。
原告は、モデル1の技術思想について、別件特許権の特許査定を受けているが別件発明は、本件発明の特許出願の後に、本件特許の吸引室を狭いものとし、吸引孔の数を増やして環状吸引溝とそれぞれ一線をなすように設け、かつ、大気に露出される部分の環状吸引溝が吸引室と連通して吸引ロスが発生することを防止するインサート部材を設けるという、本件発明の技術的思想を利用しながら、吸引装置の吸引効率を高める工夫をしたものであり、本件特許の構成及び作用効果をそっくりそのまま利用し、これを改良する構成を付加したものであって利用発明に該当する。
別件特許権の特許請求の範囲には、「・・・前記環状吸引溝に負圧を生じさせる吸引装置を設けてなる中芯保持装置において、前記吸引装置が、本体の下面に形成された円弧面と第二段ロール(本件発明にいう「下部段ロール」)の周面との間の狭い吸引室からなり・・・」と記載され、詳細な説明においても「第二段ロールの多数の環状吸引溝と連通する一つの共通な吸引室を吸引装置の本体の円弧面と段ロールの周面との間に構成し」と記載し、「吸引室」の構成、効果について、詳細に記載されている。したがって、別件発明の技術思想は、「各環状吸引溝から一つの吸引室(吸引箱)に吸引する技術思想」であり、本件発明の技術思想をそのまま利用するものである。
(被告の主張)(一) モデル1の構成要件aが本件発明の構成要件Aにそれぞれ該当すること、構成要件cが本件発明の構成要件Cに該当することは認めるが、モデル1の構成要件bが本件発明の構成要件Bに該当することは否認する。
(二) モデル1は、側壁に複数の空気吸引孔を縦に設けた孔板方式で、本件出願当時公知であったパイプ吸引方式である米国特許第二〇六八一五五号(特許日一九三七年一月一九日。乙三。以下「米国特許」という。)及び日本実用新案(糊付け装置。公告日昭和四二年一月一六日。乙四。以下「乙四考案」という。)と同一の技術的思想のものであり、吸引箱方式を採用する本件発明の技術的範囲に属さない。
本件発明は、下部段ロールに対し、中芯と反対側の全体を吸引箱で覆い、吸引しようとするものであるのに対し、モデル1は、環状溝の各溝に吸引装置に配備された各吸引孔を連通するように配設して、まず、下部段ロールの段部と中芯とで形成される狭い空間の空気を環状溝及び吸引孔を通じて吸引しようとするものである。
原告は、モデル1の技術思想について、乙三〇の特許査定を受けており、モデル1とモデル2が別異の技術思想であることを認めている。本件特許と乙三〇は技術的思想が全く異なるから、「そっくりそのまま利用」という関係にはない。
3 被告段ロールは、原告装置について「のみ」生産されるものであるといえるか。
(原告の主張)(一) ある物が、その一般的な構造、形状が周知のものである場合においても、その具体的な形状、寸法等の流通におかれた態様により、特許発明実施品以外に使用され得ないと認められる場合には、間接侵害と認めるべきであり、「おおよそその物一般」が他の用途に供せられることが知られていない物であることを要すると解すべきではない。「のみ」の認定に当たって、問題となっているものが、特許権の実施品に対して果たす役割、実施品に対して適合するために要求される当該物の寸法、形状の部位、程度等の当該物の流通に置かれた態様、流通形態なども考慮される。
(二) 被告段ロールは、本件発明の実施品である原告装置の吸引箱装置と結合されて、本件発明の特徴である吸引装置を有効に作用させる枢要部分である。しかも、
被告段ロールは、吸引溝の幅という、吸引機能に大きな影響を与える部分の寸法において、別の構成を有する他メーカーの吸引装置には現在までのところ全く適合しないし、また、段ロール全体の寸法、吸引溝の位置、各軸部の寸法及び形状といった重要な点において、各別にも、まして、これらを組み合わせた全体としても、ことごとく、他メーカーの吸引装置には使用できないものである(被告主張のドイツのベーハーエス(BHS)が製造している段ボール製造機械の下部段ロールに設けられている環状吸引溝は、本件発明の下部段ロールの環状吸引溝とは、幅が異なり、その結果、被告の下部段ロールは、ドイツのベーハーエス社の段ボール製造装置には、使用できない。)。
更に、被告段ロールは、市場に転々流通するような量産品ではなく、取り付けられる段ボール製造機を特定して注文生産がなされるものであり、汎用品には全く該当しない。
(三) 下部段ロールは、上部段ロール、プレスロール、糊付けロール及び吸引箱に囲まれるように設置されるものであり、これら全体の寸法、形状、配置によって、
その長さ、直径、形状が定められるものである。
下部段ロールの環状吸引溝の配置、数、溝の深さ、幅、形状は、段ボール用の中芯を下部段ロールに密着させるための負圧に重大な影響を与えるものであり、この溝にかかる負圧は、吸引方式、吸引箱装置の長さ・幅・形状と吸引源の性能とに依存するものであり、吸引ポンプの性能のみに依存するものではない。
下部段ロールの環状吸引溝の配置、数、溝の深さ、幅、形状は、吸引箱装置に設けられた上部及び下部制限部材の取付位置、寸法によっても定められるが、この上部及び下部制限部材は、吸引箱装置方式による吸引を有効に作用せしめるための構成である。
(四) モデル1は本件発明の実施品であるから、「のみ」であるといえる。
原告は、モデル1の技術思想について、別件発明の特許査定を受けているが、別件発明は、本件発明の特許出願の後に、本件発明の吸引室を狭いものとし、吸引孔の数を増やして環状吸引溝とそれぞれ一線をなすように設け、かつ、大気に露出される部分の環状吸引溝が吸引室と連通して吸引ロスが発生することを防止するインサート部材を設けるという、本件発明の技術的思想を利用しながら、吸引装置の吸引効率を高める工夫をしたものであり、本件発明の構成及び作用効果をそっくりそのまま利用し、これを改良する構成を付加したものであって利用発明に該当する。
(被告の主張)(一) 下部段ロールに設けられた環状溝は、吸引箱に空気を吸引するためのものであり、吸引箱の長さ、幅、深さなどの寸法とは直接の関係にないこと、モデル1とモデル2では吸引構造が全く異なるにもかかわらず下部段ロールの環状溝の数とその各寸法とが同一であることからすると、下部段ロールは、吸引箱の長さ・幅・形状等によってその寸法・形状等が特定されるものではなく、上部段ロール、プレスロールの長さ・幅・形状、下部段ロールを受ける軸受け等によって特定されるのであるから、本件発明の吸引箱に「のみ」使用されるものではない。被告の補修する下部段ロールは、ベーハーエス製品、内田製作所製品にも使用されているものであるから、本件発明の実施品に「のみ」使用されるものではない。
(二) 被告の下部段ロールは、別件特許の実施品であるモデル1にも使用されており、また、現実にモデル2にも使用することができるものである。このように、被告の下部段ロールは、本件特許発明実施品にのみ使用されるものではないから、
間接侵害を構成する「のみ」の物ではない。
4 原告は、被告が本件発明を使用する許諾をしたか。
(被告の主張) 原告は、平成元年五月、本州製紙株式会社に対し、同社が被告から本件下部段ロールのスペアロールを購入することを許可した。
(原告の主張) 否認する。原告は、本州製紙株式会社の要請を受け、被告から二組の予備の段ロールに限りこれ(再生品)を購入することに目をつぶったことがあることは認めるが(当該段ロールについては請求していない。)、右二組以外については、段ロールの再生時期には、同社に対して原告に再生依頼するように勧告している。
5 消滅時効は成立するか。
(被告の主張) 原告は、遅くとも平成四年五月一一日には、被告が段ロールを顧客に納品していたことを知っていた。したがって、原告が本訴を提起した平成七年八月二五日から三年遡及した平成四年八月二五日以前において、被告が納品した被告段ロールに関しては、損害賠償請求権は、時効により消滅している。
被告は、平成一一年五月一三日、第七回弁論準備手続において、右消滅時効援用した。
(原告の反論ー消滅時効に対する再抗弁・時効の中断) 原告は、被告に対し、平成七年五月二日付「請求及び警告書」と題する書面で、
被告による段ロールの製造販売及び再加工行為が本件特許権を侵害するものであり、右行為の中止と損害賠償一億三三一四万円の支払を催告する旨の内容証明郵便を送付し、右書面は同月八日、被告に到達した。原告は、右催告日である平成七年五月八日から六か月以内の同年八月二五日訴えを提起したので、裁判上の請求により、時効は中断している。
6 損害額はどのくらいか。
(原告の主張)(一) 主位的請求(限界利益説による損害額)(1) 被告は、本件発明の出願公告後である昭和六三年一月ころから平成九年七月ころまで、原告装置の中芯保持装置に使用する上部及び下部段ロールの周面の溶接再生加工を行って、本件特許権を侵害する被告段ロールを、別紙「被告段ロール売上げ、費用、利益一覧表」記載のとおり、合計四四対(八八本)製造、販売してきた。
(2) 原告は、本件特許権者として、被告の前記製造、販売を上回る規模で、本件特許を実施した原告片面段ボール製造装置の中芯保持装置に使用する上部及び下部段ロールの周面の再生加工用装置の開発、設置を完了し、現実に同各段ロールの営業的製造、販売を行っている。
したがって、原告において、既に工場設備や直接当該装置の製造販売に従事する従業員の慣熟のための訓練や管理部門の従業員の雇用は確定したものとなっており、被告による被告段ロールの前記製造販売数量は、新たな設備投資や従業員の雇用、訓練を要さず、そのままの状態で製造販売ができる数の範囲内の数である。
よって、原告の損害と推定される被告の利益は、被告製品の売上高から、その製造販売のための変動経費(原材料費、梱包費及び運送費)のみを控除した額と考えるのが相当である。
(3) 被告の支出した被告段ロールの製造に係る変動費用は、別紙「被告段ロール売上げ、費用、利益一覧表」の「肉盛加工費」、「メッキ費用」、「運送費」、「社内加工費1」欄記載のとおりである。
変動費のうち、「社内加工費1」には、別紙「被告社内加工費明細書」中の人件費を除いたE溝入用ホイール、Gクリープ用ホイール、I精研用ドレッサ、J精研用砥石の合計額とし、梱包及び運送費用は、一律五万円として計算した。
(4) 被告は、被告段ロールの製造に際し、同行為が、原告の本件特許権を侵害し、
原告に前記の損害を被らせることを認識し、あるいは少なくとも過失により認識していなかったものである。
(5) よって、被告の得た限界利益は、総売上高二億一一八九万円から変動費用を差し引いた金一億二二四七万一二〇〇円となる。
(6) したがって、特許法102条2項の規定に基づき、被告は、原告に対し、被告が前記被告段ロールの製造販売により得た利益合計相当の金一億二二四七万一二〇〇円の損害賠償金を支払う義務がある。
(二) 予備的請求その一(純利益による損害額) 仮に、前記(一)の主位的請求が認められないとしても、
(1) 原告は、前記(一)(2)記載のとおり、原告段ボール製造装置を製造、販売して本件特許権を実施し、被告は、前記(一)(1)のとおり、本件発明の実施品である中芯保持装置の製造にのみ使用する被告段ロールを製造している。
(2) 被告段ロールの販売に対する直接原価は、別紙「被告段ロール売上げ、費用、
利益一覧表」の「肉盛加工費」、「メッキ費用」、「運送費」、「社内加工費1」、「社内加工費2」(別紙「被告社内加工費明細書」中、「社内加工費1」で計上した費用及び「水圧テスト費」以外の費用)、「水圧テスト費」欄記載の各費用の合計である。また、販売管理費及び一般管理費は、同表の「管理費」欄記載のとおりである。
ただし、被告の主張する人件費は、その時間当たり単価が異様に高いものと考えられ、これを適正な金額である約五分の一とするのが相当である。
(3) 被告は、被告段ロールの製造、販売行為に際し、同行為が、原告の本件特許権を侵害することを認識し、あるいは少なくとも過失により認識していなかったものである。
(4) したがって、被告の段ロールの製造販売による純利益は、前記記載の総売上高二億一一八九万円から、前記(2)の原価、販売管理費、一般管理費等を控除した金七一九三万七二〇〇円となる。
(5) よって、被告は、原告に対し、特許法102条2項に基づき、被告の本件特許権侵害行為により、被告が得た利益相当額金七一九三万七二〇〇円を、原告が右侵害行為により被った損害として賠償する責任がある。
(三) 予備的請求その二(実施料相当損害金) 仮に、前記(一)(二)の請求が認められないとしても、
(1) 原告は、前記(一)(2)記載のとおり、原告段ボール製造装置を製造、販売して本件特許権を実施し、被告は、前記(一)(1)記載のとおり、本件発明の実施品である中芯保持装置の製造にのみ使用する被告段ロールを製造している。
(2) 原告段ボール製造装置において、上下段ロールは、極めて重要な部分であり、
この機能は、同装置全体の機能に係わるものであるから、原告の段ボール製造装置の機能を十分に発揮する状態でユーザーに使用させ、同装置及び原告の信用を維持するためにも、原告は、段ロールが消耗して原告段ボール製造装置を再生する際には、自社が責任をもって行うことは当然と考えており、これを第三者に任せておく意思は全くない。
(3) また、この再生行為による売り上げは、前記のとおり、かなりの高額になるものであり、原告としては、これらを考慮したうえ、当初の装置全体の販売額を決定し、その後のサービスを続けるものであるから、他社に段ロールの製造又はこれを設置することによる原告段ボール製造装置の再生について、本件特許権を実施許諾することは、本来あり得ない。このことは、同業者である被告も十分に認識していたはずである。これらの事情に鑑みれば、仮に原告が第三者に対し、本件特許権の実施を許諾するとすれば、その実施料率は、総売上高の一〇パーセントを下回るようなことはあり得ない。
(4) よって、被告は、特許法102条3項により、原告が被った損害と推定される本件特許発明実施に対し受けるべき金額である、総売上高二億一一八九万円の一〇パーセントに該当する二一一八万九〇〇〇円の損害を賠償する責任がある。
(被告の主張) いずれも争う。
(一) 限界利益について(1) 特許法102条2項に定める「利益の額」とは、当該製品の売上高から、売上原価、販売費、運送費を除外した粗利益から更に一般管理費、営業外費用から営業外収益を差し引いた営業外損益及び特別損益などの諸費用を総売上高に対する当該製品の売上高の割合で按分したものを除外した純利益を指すものである。
(2) 原告による下部段ロールの製造方法は、被告の下部段ロールの製造方法と異なる。被告は、昭和六三年に乙二五の特許出願をし、特許権を取得したが、この技術を使用しているのである。原告方法は、焼き入れによって波形の段の表面層だけに硬度が保たれているが、被告方法は、波形の段の全体に特殊処理がされ、硬度が保たれている。これにより二倍程寿命が長くなっている。よって、限界利益説を採用する前提事実が欠けている。
(3) 別紙「被告段ロール売上げ、費用、利益一覧表」の「肉盛加工費」欄及び「メッキ費用」欄及び「管理費」欄の各金額は認める。
(4) 被告において、下部段ロール一本当たりに要する各種費用の明細は、別紙「被告社内加工費明細書」のとおりであり、限界利益説を採用するとしても、同書中のK水圧テストは変動費に含まれる。
(二) 純利益について 被告において、下部段ロール一本当たりに要する各種費用の明細は、別紙「被告社内加工費明細書」のとおりである。
原告は、同書中の@からD、F、H、Lの人件費について五分の一が妥当であると主張するが、算定根拠となる作業時間が異なるし、これらの作業は機械を使用するから、工作機械の減価償却費、機械リース費用、機械修繕費用、光熱費用、消耗品費用、消耗工具費用を考慮して算定すべきである。
当裁判所の判断
一 本件発明の技術的範囲は、被告段ロールに及ぶか。
1 特許請求の範囲は、特許権の及ぶ技術的範囲を定める基準であり、その記載は明確でなければならず、発明と従来技術等との関係を分かりやすくし、発明の特徴部分を明確にするために、「……(従来技術)……において、……することを特徴とする……(発明の名称)」という、「おいて形式」(いわゆるジェプソンタイプ)により、記載されることが多い。
「おいて」形式により特許請求の範囲が記載されている場合、その前提技術自体が独立して発明の要旨となることはなく、前提事実の構成のみを有する従来技術が、発明の技術的範囲に属さないことは明らかである。
これに対し、前提技術の構成並びに発明の特徴部分の構成を併せ持つもの、すなわちその物が発明の構成要件のすべてを有する場合に、前提技術の構成が、その発明の技術的範囲に属することもまた明らかである。
2 本件発明の特許請求の範囲の記載は、「(構成要件A)からなる片面段ボールの製造装置における中芯保持装置において、吸引装置は(構成要件B)の吸引箱装置からなることを特徴とする中芯保持装置」というものであり、「おいて」形式によりなされており、当該特許請求の範囲に記載された構成要件のすべてを有する装置は、当然本件発明の技術的範囲に属するものである。すなわち、本件発明の構成要件の一部でもある「下部段ロール」、「上部段ロール」が、本件発明の技術的範囲に属するものとなるか否かは、本件発明の特徴部分である構成要件に「下部段ロール」、「上部段ロール」が該当するか否かによって決定されるものではなく、属否判断の対象とされる装置が、本件発明の前提技術はもとより、「下部段ロール」、「上部段ロール」を含めた本件構成要件のすべてを充足するか否かによって決定されるべきものである。
被告は、本件発明の特許請求の範囲構成要件から、作用効果などの不要な記載を除き、かつ、出願時において公知公用の技術ないしはその進歩性のある技術部分を除いた「(下部段ロールと中芯との間の空間の空気を吸引する為に、下部段ロールに装着する装置として)両端が閉鎖され、吸引源に連なり、内側に開口する吸引孔を有する吸引箱装置」という吸引箱装置の構造部分のみが、本件発明の技術的範囲であると主張するが、前記1に反する右主張は採用できない。
したがって、本件発明の構成要件のすべてを充足する装置は、本件発明の技術的範囲に属するものであり、その結果として、その装置が有する前提技術である従来技術部分の構成はもとより、「下部段ロール」、「上部段ロール」も当然本件発明の技術的範囲に属するものとなるのである。
3 そして、特定の特許権の技術的範囲は、特許権者が直接侵害に基づいて特許権侵害を主張する場合であろうと間接侵害に基づく場合であろうと画一的に定められるべきであり、直接侵害によるか、あるいは間接侵害によるかによって、差異はない。
被告は、発明の本質的構成要素以外の部品が文理上「のみ」に該当するとしても、その部品は間接侵害の対象とならないところ、上下段ロールは、従来から公知であり、かつ、本件発明の基本的部分ではないから、それを製造することは間接侵害に該当しないと主張する。
前記1のとおり、「おいて」形式により特許請求の範囲が記載されている場合、
その前提技術自体が独立して発明の要旨となることはなく、前提事実の構成のみを有する従来技術が、発明の技術的範囲に属さないことは明らかであるから、発明の基本的部分以外の構成要素に該当する部分が製造されただけで、発明の構成要件を充足する物が製造されなかったという場合には、その部分の製造は間接侵害を構成しないといえるとしても、製造された当該部分をその構成の一部として製造された物が、当該発明の構成要件を充足する場合には、右部分の製造は間接侵害を構成することになるから、被告の主張するように、発明の本質的構成要素以外の部品であるか否かだけでは、直ちにその製造が間接侵害に該当しないということはできない。
よって、仮に、被告の主張するように被告段ロールが、従来から公知であり、かつ、本件発明の基本的部分でないとしても、そのことのみをもって、被告段ロールの製造が、いかなる場合においても間接侵害に該当しないということはできない。
4 被告は、(一)下部段ロールは、公知物であり、公知物の修理は間接侵害に該当しない、(二)本件発明の創作の対象でなかった環状溝を有する下部段ロールの修理あるいは製造を間接侵害であると主張するのは、権利の濫用である、(三)法が間接侵害を認めたのは、衡平の観点から例外的に特許権の効力の拡大を許したものであり、環状溝を有する下部段ロールの構造について何らの工夫創作をしていない原告が、その補修を間接侵害であると主張することは、衡平性を欠き許されず、間接侵害にならないか、権利の濫用として許されないと主張するが、(一)ないし(三)の主張が、いずれも理由がないことは、これまでに述べたところから明らかである。
また、被告は、本件特許権の出願、登録の経緯からして、原告が被告段ロールも本件発明の技術的範囲に属すると主張することは包袋禁反言に反すると主張する。
証拠(乙一一、三一、四二)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、昭和五二年一〇月三日、本件特許出願した際の、明細書には、特許請求の範囲として、「一対の互いに噛み合った上部段ロールと下部段ロールとの間に中芯を供給して波形を形成し、下部段ロールの周面の下側に糊付け装置を配設して中芯に形成された波形の段頂に糊を塗布し、糊付け装置の下流で下部段ロールに並設されたプレスロールにより前記中芯にライナを圧接して中芯とライナを貼合せる片面段ボールの製造装置において、下部段ロールの外周面にその長さ方向に間隔をへだてた複数個の環状吸引溝を設け、下部段ロールの糊付け装置の反対の側の略半面に、上部段ロールと下部段ロールの噛合部から下部段ロールとプレスロールとの接合部に亘って波形の形成された中芯を下部段ロールに吸着させるため前記環状吸引溝を通して中芯に吸引作用を及ぼす吸引装置を設けたことを特徴とする中芯保持装置。」と記載されていたが、その後、特許庁審査官から拒絶通知を受けて、原告は、昭和五六年一二月二一日付け手続補正書により、本件登録に係る特許請求の範囲に補正したことが認められる。
右事実からすると、当初の明細書では、「下部段ロールに環状吸引溝を設け、これを通して中芯に吸引作用を及ぼす吸引装置を設けたこと」を新規性が認められる発明の特徴的部分としていたが、「吸引箱装置からなる吸引装置」を発明の特徴的部分とするものに補正したことが認められるが、補正後の本件特許請求の範囲の記載にも、「上部段ロール」、「環状吸引溝を備えた下部段ロール」が記載されており、本件発明の構成要件の一部であることは明らかであるから、原告が被告段ロールをもって技術的範囲に属すると主張することが、包袋禁反言に反する余地はない。
二 原告装置モデル1は、本件発明の技術的範囲に属するか。
1 モデル2が、本件発明の実施品であり、本件発明の技術的範囲に属することは当事者間に争いがない。
2 モデル1の構成要件aが本件発明の構成要件Aにそれぞれ該当すること、構成要件cが本件発明の構成要件Cに該当することは当事者間に争いがないので、モデル1の構成要件bが本件発明の構成要件Bに該当するかどうか判断する。
なお、被告は、モデル1が本件発明の技術的範囲に属するかどうかについて、モデル1が別件発明の実施品であることを理由として主張するが、この争点に関する限り、端的に、被告段ロールが設置された原告装置が本件発明の技術的範囲に属するかどうか判断すれば足りるものであり、別件発明の実施品であるかどうかは関係がないものであって右主張は失当である。
3 証拠(甲二七)及び弁論の全趣旨によれば、モデル1の吸引装置の構成は、別紙「原告装置目録」三b記載のとおりであることが認められ、これによれば、吸引装置10は、(1)波形の形成された中芯Aで覆われていない下部段ロール5の周面中、
プレスロール6に近接する部分(中芯Aで覆われていない周面の約一〇分の一)を除くその余の部分を、上部段ロールと下部段ロールが接する側にロールの軸線方向に沿って上部支持部材17に取り付けられた前壁18、後壁19、下部段ロールとプレスロールが接する側に取り付けられた後壁19及び上部支持部材17の上部に設けられたフード25により覆い、(2)両端が端壁26で閉鎖されていて、(3)その内側に開口する吸引孔を有し、この吸引孔を端部とする吸引ダクト21を介して吸引源と連なる、(4)吸引箱装置であり、(5)前記下部段ロール5の周面中、プレスロールに近接する中芯あるいは前記吸引箱装置により覆われていない部分においては、下部段ロールの吸引溝が外気と連通しないように、下部制限部材23が同吸引溝に挿入されているものであって、本件発明の構成要件Bの「前記片面段ボールの製造装置における中芯保持装置において、前記吸引装置は前記波形の形成された中芯で覆われていない前記下部段ロールの局面の部分を覆い、両端が閉鎖されていて、吸引源に連なりかつ内側に開口する吸引孔を有する吸引箱装置からなること」に該当するものと認められる。
4 被告は、モデル1は、側壁に複数の空気吸引孔を縦に設けた孔板方式で、環状溝の各溝に吸引装置に配備された各吸引孔を連通するように配設して、下部段ロールの段部と中芯とで形成される狭い空間の空気を環状溝及び吸引孔を通じて吸引しようとするものであり、米国特許及び乙四考案と同一の技術的思想のものであり、
中芯と反対側の全体を吸引箱で覆い、吸引しようとする吸引箱方式を採用する本件発明の技術的範囲に属さないと主張する。
しかし、「原告装置目録」の第4図ー1、第5図ー1、第7図ー1及び第8図ー1のように、モデル1は、下部段ロール5の中芯Aで覆われていない部分が、前壁18、後壁19及び端壁により側面が閉鎖され、上部はフード25により覆われ、その全体が、吸引孔を通じて吸引ダクト21を介して吸引源と連なる一つの空間として形成される、「吸引箱」であると評価できるものである。すなわち、甲二八によると、
上部支持部材17の円弧状の下面と下部段ロールの周面との間には、多数の環状溝と連通する吸引室20が形成されており、下部段ロールの環状溝から吸引された空気は、そのすべてがそのまま吸引孔に流入せず、一部が吸引室にも流入し、一体となって吸引孔を介して吸引ダクトへ吸引されるものである。そして、吸引室の高さは、安定的かつ効率的な吸着を可能とするためには、四ミリメートルから八ミリメートルが適当であるとされているが、それより高くするとそれぞれの吸引孔の近くで渦状の空気の流れが生じて、中芯を吸着する負圧が不安定になり、中芯が段ロールから剥離する現象が生じ、低くすると、吸引室での空気の流れが遮断され、上流側の吸引孔からは環状吸引溝の略上半分の負圧を維持し、下流側の吸引孔からは環状吸引溝の略下半分の負圧を維持するための吸引が行われるという現象が生じ、負圧バランスの維持ができないためである。
以上のとおり、モデル1は、米国特許や乙四考案のように、環状吸引溝からサンクションパイプと呼ばれるパイプを複数設けてそれぞれ別個の空間を形成するものではなく、中芯と反対側の全体を吸引箱で覆い、吸引しようとする吸引箱方式を採用する本件発明の技術的範囲に属するものである。
5 以上のように、モデル1は、本件発明の構成要件のすべてを充足する実施品であるものと認められる。
三 被告段ロールの肉盛溶接再生は、本件発明の実施である生産(製造)に該当 するか。
1 本件で原告が間接侵害であると主張するのは、被告が、本件発明の実施品である原告装置の一部である上下段ロールを肉盛溶接再生する行為である。
段ボールに使用される中芯には、一般的に再生紙が使用されるため、粗悪な素材が多く、上下段ロールの噛み合せ部を通過させ、波形を形成するときに、上下段ロールの波形の頂部をやすりでこすり続けるのと同じ状態になり、段ロールの波形頂部が次第に削られ、摩耗する。そこで、一定程度摩耗すると、研磨再生して段山を再生するが、更に摩耗した場合には、新たに肉盛溶接して、再生加工することになる。
弁論の全趣旨によれば、被告における段ロールの肉盛再生加工方法は、被告が有する特許(乙二五)を実施したものであり、@摩耗段ロールを焼鈍する、A外周面を旋削して凹凸段模様を除去する、B外周面に肉盛り溶接する、C調質熱処理により表面硬度をHs八〇から八四にする、D外径を仕上げ旋削する、E周溝を旋削する、F砥石の重研削によって凹凸段模様を1条一パスで形成する、G凹凸段模様に仕上げ研削する、H表面に硬質クロームメッキを施すという各工程を経て行われるものである。
以上のとおり、被告の行う肉盛溶接再生は、段ロールの修理ではあるが、一旦失われた段ロールとしての機能を回復するものであり、その加工方法、内容からすると、新たな段ロールを製造したものというべきである。このことは、被告も争わない。
2 ところで、特許法101条1号で定める間接侵害における「生産」は、特許法2条3項1号の「生産」と同義であって、物を作り出す行為を指し、工業的生産物の生産のほか、組立て、部品を機械本体に装着することがこれに含まれるが、修埋又は改造の内容によっては、特許品を再生産したと評価すべき場合があり、特許権者に無断で業としてそのような修理、改造を行うことは「生産」に該当し、特許権の侵害になるものというべきである。そして、発明の特徴を具備する構造部分を修理する場合は、その程度と内容により、特許品を再生産したと評価されることになる。これに対し、発明の特徴的部分以外の部分の修埋は、特許権の侵害にならないというべきである。なぜなら、特許部分以外の部分は通常公知部分であるが、公知部分の修理は、本来何人にも許される行為であり、特許権者にのみ独占されるべきものではないからであり、発明の特徴的部分は、そのような部分の修理とは無関係に、修理の前後を通じて存在しているのが通常であり、特許品を再生産したとは言い難いからである。
3 そこで、本件における被告段ロールの再生加工について検討する。
下部段ロールは、本件発明の実施品である原告装置の吸引箱装置と結合されて、
本件発明の特徴である吸引箱装置による吸引装置を有効に作用させる枢要部分であり、下部段ロールに設けられた環状溝の寸法は、吸引箱を介した空気の吸引量に影響し、吸引するためのポンプの能力設定はこの吸引量に基づいて決定される。
このように、本件発明の吸引箱は、特定の寸法、形状を有する吸引溝を有する下部段ロールと組み合わされることにより、初めてその特徴的な作用効果を発揮することができるものであり、下部段ロールに設けられた吸引溝は、吸引装置と相互に密接に関連する構造を有するものであり、本件発明の基本的部分の一部を構成する。
さらに、甲二の本件発明の特許公報の詳細な説明には、「吸引箱装置は、下部段ロールとプレスロールとの接合部において、下部段ロールに吸着された中芯が下部段ロールから容易に離れるようにするセパレータをもった調節可能な制限部材を備え、該制限部材は、セパレータが段ロールの少なくとも両端部の環状吸引溝内に位置するように後壁と同一平面をなして後壁の縦溝内に設置される。制限部材はセパレータに隣接して環状吸引溝の底と協働するようになっている弧状面を有し、而して制限部材を下方に変位させたとき、対応する吸引溝の下半部が吸引室と連通するのを阻止する。吸引箱装置は、この制限部材と対応する上部制限部材を備え、この上部制限部材は環状吸引溝の底と協働するようになっている弧状面を有し、下方に変位されたとき、環状吸引溝に入り込んで、下部制限部材におけると同様に吸引溝の下半部と吸引室との連通を阻止する。」、「段ロールの巾よりも狭い巾の片面段ボールを製造しようとするときには、外方に位置する上下部制限部材18、19を押し下げてそれぞれの弧状面21、25を環状吸引溝7の底に係合させる。しかるときは上下部制限部材18、19は環状吸引溝7の下半部と吸引室13との連通を阻止し、・・・これによって吸引室内の吸引能力の低下を防止することができる。」と記載されており、これらの記載によると、下部段ロールの環状吸引溝は、吸引箱の吸引能力の低下を防止するための技術手段の一部を構成しており、本件発明の吸引箱と密接に関連する構成を備えた技術手段であるということができる。
このような環状吸引溝を有する下部段ロールは、本件発明の特徴を具備する構造部分に該当するものということができる。
4 被告は、本件発明の実施品である原告装置は六〇〇〇万円ほどする機械であり、上下部段ロール及びプレスロールはそれぞれ三〇〇万円ほどはするものであること、上下部段ロール及びプレスロールは、使用による摩耗により取り替えあるいは修理して段山を再生することが当然に予定されていることからすると、原告装置のユーザーが上下部段ロール及びプレスロールを補修することは自由であり、原告から補修修理する権限を与えられていたというべきである、よってユーザーの依頼によって被告が補修をしても、適法な行為である、実際、いずれの段ボール製造機械メーカーにおいても、段ロールの取り替えについて、当該メーカーの段ロールを使用してもよく、段ロールだけ他社から購入してもよいとするのが通例であると主張する。
被告の右主張は、原告装置を販売した段階で、本件特許権が用尽されたから、ユーザーがその後に行う行為について特許権の追求効は認められないとの主張を前提とするものと解されるが、使用による摩耗により取り替えが行われることが前提となっているような上下部段ロール、プレスロールについては、販売された当座の本数についてのみ用尽的効果が認められるにすぎず、その後の取り替え分については、なお特許権者の権利は残存しているとみるべきであり、被告が肉盛溶接再生した下部段ロールの修理代金が二〇〇万円を超えることからしても、そのように解するのがメーカーなり販売者の意思に合致するものと思われる。被告は、ユーザーが自由に補修できるとするのが業界の通例であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、被告の前記主張は採用できない。
なお、被告は、主張のような取引が通例であるとして、原告の本訴請求は権利の濫用であると主張するが、被告が前提とするそのような事実は認められず、右主張は理由がない。
5 上部段ロールは、下部段ロールにおける環状吸引溝のように、吸引手段と直接関連する構成が見あたらないから、本件発明の吸引箱と密接に関連する構成を有しているものではなく、本件発明の特徴を具備する構造部分に該当するものとは認められない。
原告は、下部段ロールの段山を再生させれば、これに噛み合うべき上部段ロールも同様に肉盛溶接再生させることが必須となると主張するが、そのような関係が認められることを理由として「修理」を「生産」と認めるとすると、その因果関係を画する線を引き難くなるうえ、公知部分の修理が本来は自由であることの例外を設けることになり、そのような関係があることをもってしては、上部段ロールの修理を「生産」と認めることはできない。
四 被告段ロールは、原告装置について「のみ」生産されるものであるといえるか。
1 特許法101条1号における「その物の生産にのみ使用する物」にいう「のみ」とは、その物が「他の用途」に使えば使い得るといった程度の実験的又は一時的な使用の可能性では足りず、「他の用途」が商業的、経済的にも実用性のある用途として社会通念上通用し承認されたものであることが必要であると解される。
2 そこで、被告段ロールが、右要件を満たし、原告装置による片面段ボールの生産にのみ使用する物であるといえるか判断する。
被告製造に係る段ロールが、現在、原告装置のみに使用できる物であることは被告も争わない。
被告段ロールは、吸引箱装置と結合されて、本件発明の特徴である吸引装置を有効に作用させる枢要部分であること、被告下部段ロールは、吸引溝の幅という、吸引機能に大きな影響を与える部分の寸法において、いわゆる吸引孔板方式を採る他メーカー(内田製作所及びベーハーエス)の吸引装置には現在までのところ全く適合しないこと、段ロール全体の寸法、吸引溝の位置、各軸部の寸法及び形状といった重要な点において、各別にも、まして、これらを組み合わせた全体としても、ことごとく、他メーカーの吸引装置には使用できないこと、被告段ロールは、取り付けられる段ボール製造機を特定して注文生産がされるものであり、汎用品ではないことを考慮すれば、原告製品に使用される段ロールは、他のメーカーの製品に使用できるものではなく、原告製品にのみ使用できるものであり(被告は、被告がベーハーエス製品、内田製作所製品の下部段ロールを補修していることをもって、本件発明の実施「のみ」に使用されるものではないと主張するが、乙八ないし一〇の各一と二によれば、ベーハーエス製品、内田製作所製品の下部段ロールは、原告製品の下部段ロールとは吸引溝の幅及び深さが異なることは明らかである。)、かつまた、当該段ロールが単体で市場に流通する量産品でもないと判断されるから、結局、本件発明の実施品に対して適合するために要求される当該物の寸法、形状の部位、程度等の当該物の流通に置かれた態様、流通形態なども考慮すると、原告製品に使用されている段ロールを再生加工した被告下部段ロールは、原告段ボール製造装置の中芯保持装置にのみ使用されるものであり、原告装置の生産にのみ使用するものであると認められる。
3 被告は、被告の下部段ロールは、本件発明の実施品であるモデル2のみならず、別件特許の実施品であるモデル1にも使用することができるから、間接侵害を構成する「のみ」の物ではないと主張する。
たしかに、被告の下部段ロールはモデル1にもモデル2にも使用することができることは当事者間に争いがない。
原告は、モデル1の技術思想について、別件発明の特許査定を受けているが、別件発明は、本件発明の特許出願の後に、本件発明の吸引室を狭いものとし、吸引孔の数を増やして環状吸引溝とそれぞれ一線をなすように設け、かつ、大気に露出される部分の環状吸引溝が吸引室と連通して吸引ロスが発生することを防止するインサート部材を設けるという、本件発明の技術的思想を利用しながら、吸引装置の吸引効率を高める工夫をしたものであり、本件発明の構成及び作用効果をそっくりそのまま利用し、これを改良する構成を付加したものであって利用発明に該当する。
このことは、別件発明の明細書に本件発明が先行発明として記載されていないとしても、変わらない。
そして、別件発明が本件発明の利用発明である以上、別件発明の実施品であるモデル1は、本件発明の実施品でもあり(前記二で認定したとおりである。)、被告下部段ロールは、本件発明の実施品である原告装置にのみ使用される物であることが認められるから、被告の主張は理由がない。
五 原告は、被告が本件発明を使用する許諾をしたか。
被告は、原告が本州製紙株式会社に対し、被告が下部段ロールのスペアロールを購入することを許可したと主張する。
原告が、本州製紙株式会社の要請を受け、被告から二組の予備の段ロールの再生品を購入することを認めたことは当事者間に争いがないが(原告は本訴において右段ロールについて損害賠償請求をしていない。)、その余の段ロールについて、原告が被告に使用することの許諾を与えた事実を認めるに足る証拠はない。
よって、原告は、右二組に限り被告が製造することを許可したものと認められ、
他の段ロールについて使用許諾は認められない。
六 消滅時効は成立するか。
1 証拠(甲六の一と二、乙四一)によれば、原告が被告に対し、平成四年五月一一日、被告が製造販売する段ロールが本件特許権侵害に該当する旨の警告書を送ったこと、原告代理人が被告に対し、平成七年五月二日付「請求及び警告書」と題する書面で、被告による段ロールの製造販売及び再加工行為が本件特許権を侵害するものであり、右行為の中止と損害賠償一億三三一四万円の支払を催告する旨の内容証明郵便を送付し、右書面は同月八日、被告に到達したことが認められ、本訴が平成七年八月二五日提起されたこと、被告が、平成一一年五月一三日、第七回弁論準備手続において、右消滅時効援用したことは当裁判所に顕著な事実である。
2 以上の事実によれば、原告は、不法行為による損害賠償請求権の起算日である平成四年五月一一日から三年以内の平成七年五月八日に催告をし、催告から六か月以内の同年八月二五日、本件訴えを提起したので、裁判上の請求により、時効は中断している。よって、消滅時効の主張は理由がない。
損害額はどのくらいか。
1 被告が、本件発明の出願公告後である昭和六三年一月ころから平成九年七月ころまで、原告装置の中芯保持装置に使用する下部段ロールの周面の肉盛溶接再生加工を行って、本件特許権を侵害する被告下部段ロールを、別紙「被告段ロール売上げ、費用、利益一覧表」記載のとおり、合計四四本を製造、販売したこと、各下部段ロールの販売価格が同表記載の「下部段ロール一本の価格」欄記載の金額であること、以上の事実は当事者間に争いがない。
2 特許法102条2項所定の「侵害により利益を受けているとき」における「利益」とは、特許権者が現実に特許権を実施しており、かつ、設備投資や従業員の雇用を新たに必要としない状態で製造、実施等が可能な範囲内では、侵害行為者の製品の売上額から、その製造、実施等のための変動経費のみを控除した額(限界利益)をいうものと解するのが相当である。
被告は、いわゆる純利益として人件費や一般管理費も控除すべきであると主張する。
しかし、同条項において推定規定が設けられた政策的目的は、被害者が侵害行為による損害賠償請求を求めようとする場合、損害の中心となることの多い得べかりし利益の喪失による損害(逸失利益)の範囲の認定及び損害額の算定については、
侵害者の特許権侵害行為がなかったならば得られたであろう利益という現実に生じた事実と異なる仮定の事実に基づく推論という事柄の性質上から、侵害行為の因果関係の存在、損害額の算定の基礎となる各種の数額等を証明することに困難がある場合が多いので、現実に侵害行為をしたものがその侵害行為により得た利益の額をもって被害者の逸失利益と推定することによって、被害者の損害証明の方法の選択肢を増やして被害者の救済を図るとともに、特許権侵害者に推定覆滅のための証明をする余地を残して、被害者に客観的に妥当な逸失利益の回復を得させることにあるものと解される。そして、右推定規定の前提には、被害者と競争関係にある侵害者が侵害行為によって現実にある販売収支実績を上げている以上、被害者にも同じ販売収支実績を上げ得る蓋然性があるとの推定を裏付ける社会的事実の認識があるものと解される。したがって、推定の前提事実である侵害者が侵害行為により受けた利益の意味も、財務会計上の利益概念にとらわれることなく、推定される事実との関係で定めるべきである。よって、前記のとおり特許権者が現実に特許権を実施しており、かつ、設備投資や従業員の雇用を新たに必要としない状態で製造、実施等が可能な範囲内では、侵害行為者の製品の売上額から、その製造、実施等のための変動経費のみを控除した額をもって侵害行為により受けた利益というべきであり、被告の主張は理由がない。
3 弁論の全趣旨によれば、原告は、段ボール製造機械及び段ボール製造機械に関する諸機械製造加工販売等を業とする会社であること、被告段ロールはすべて原告が製造、販売した原告片面段ボール製造装置の中芯保持装置に設置されるものであり、原告において設置した同装置の一部である段ロールの再生については、原告がすべて行っていたものであると認められるから、本件特許権者として、被告の前記製造、販売を上回る規模で、本件特許を実施した原告片面段ボール製造装置の中芯保持装置に使用する上部及び下部段ロールの周面の再生加工用装置の開発、設置を完了し、現実に同各段ロールの営業的製造、販売を行っていることが認められる。
したがって、原告において、既に工場設備や直接当該装置の製造販売に従事する従業員の慣熟のための訓練や管理部門の従業員の雇用は確定したものとなっており、被告による被告段ロールの前記製造販売数量は、新たな設備投資や従業員の雇用、訓練を要さず、そのままの状態で製造販売ができる数の範囲内の数であると認められる。
よって、原告の損害と推定される被告の利益は、被告製品の売上高から、その製造販売のための変動経費(原材料費、梱包費及び運送費)のみを控除した額と考えるのが相当である。
4 被告は、原告による下部段ロールの製造方法は、被告の下部段ロールの製造方法と異なるので、限界利益説を採用する前提事実が欠けていると主張する。
弁論の全趣旨によれば、被告における段ロールの肉盛再生加工方法は、被告が有する特許(乙二五)を実施したものであり、@摩耗段ロールを焼鈍する、A外周面を旋削して凹凸段模様を除去する、B外周面に肉盛り溶接する、C調質熱処理により表面硬度をHs八〇から八四にする、D外径を仕上げ旋削する、E周溝を旋削する、F砥石の重研削によって凹凸段模様を1条一パスで形成する、G凹凸段模様に仕上げ研削する、H表面に硬質クロームメッキを施すという各工程を経て行われるものであり、他方、原告の行う段ロールの肉盛再生加工方法は、@摩耗段ロールを焼鈍する、A外周面を旋削して凹凸段模様を除去する、B外周面に肉盛り溶接する、C焼鈍して表面を軟化させる、D素材の外径を仕上げ旋削する、E周溝を旋削する、Fボブ盤によって凹凸段模様を切削する、Gロール表面に焼き入れ、調質熱処理をする、H凹凸段模様に仕上げ研削する、H表面に硬質クロームメッキを施すという各工程を経て行われるものと認められる。
以上によれば、被告の肉盛再生加工方法は、調質熱処理により表面硬度をHs八〇から八四にするという特徴を有するものではあるが、原告の方法においても、方法が異なるとはいえ、調質熱処理の工程があり、その工程はほぼ同様であること、
弁論の全趣旨によれば、原告が肉盛溶接再生した製品の方が被告の製品より高額で販売されていると認められることからすると、被告が製造した場合の原材料費と原告が製造した場合の原材料費とでさほど大きな差はないものと推測されるのであって、限界利益説を採用する前提事実がないとまで評価することはできない。
5 被告は、社内加工費として、別紙「被告社内加工費明細書」のとおりの費用がかかると主張している。
以上に基づき、被告の利益を算定するために控除すべき変動経費を検討する。
別紙「被告段ロール売上げ、費用、利益一覧表」の「肉盛加工費」及び「メッキ費用」欄の金額は当事者間に争いがなく、原材料費に相当するものと認められる。
被告が直接経費であると主張する別紙「被告社内加工費明細書」に掲げられているもののうち、@受入検査、A山落し加工、B旋盤加工、Cキー溝加工、D溝入加工、Fクリープ加工、H精研加工、L製品検査(別紙「被告段ロール売上げ、費用、利益一覧表」の「社内加工費2」は、以上の合計額である。)は、いずれも人件費又は工作機械の減価償却費、機械リース費用、機械修繕費用、光熱費用、消耗品費用、消耗工具費用を考慮して算定した額であると認められるから、変動経費として控除すべき対象とならない。
弁論の全趣旨によれば、K水圧テストは、社団法人ボイラ協会によるテスト(検定)に関する申請費用五〇〇〇円であり、右テストは労働安全衛生法44条に従ったもので、生産された下部段ロールを出荷するために必須のものと認められるから、変動経費に含まれる。
そして、別紙「被告社内加工費明細書」中の、E溝入用ホイール、Gクリープ用ホイール、I精研用ドレッサ、J精研用砥石は、原材料費と同視できるものであるから、変動経費となる。別紙「被告段ロール売上げ、費用、利益一覧表」の「社内加工費1」は、以上の合計額である。
また、弁論の全趣旨によれば(被告は明らかに争わない。)、梱包及び運送費用としては、一律五万円とすることが相当であると認められる。
6 被告が、売上高を得るために支出した変動費用合計額は、別紙一覧表の「合計」中の肉盛加工費三〇〇六万一〇〇〇円、メッキ費用七七九万九〇〇〇円、運送費二二〇万円、水圧テスト費用二二万円、社内加工費1五一三万二五〇〇円の合計四五四一万二五〇〇円であると認められる。
7 被告は、被告下部段ロールの製造に際し、同行為が、原告の本件特許権を侵害し、原告に前記の損害を被らせることを認識し、あるいは少なくとも過失により認識していなかったものである。
8 よって、被告の得た限界利益は、下部段ロールの総売上高一億〇六一四万五〇〇〇円から前記の変動費用四五四一万二五○○円を差し引いた金六〇七三万二五〇〇円と認めることが相当である。
八 結論 以上によれば、原告の請求は、金六〇七三万二五〇〇円及びこれに対する損害発生の日である別紙「被告段ロール売上げ、費用、利益一覧表」の各「出荷日」(ただし、右出荷日が平成七年九月二六日以前であるものについては、訴状送達の日の翌日である平成七年九月二六日)から民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから認容することとし、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法61条64条本文、仮執行宣言について民事訴訟法259条1項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 野田武明
裁判官 佐藤哲治
裁判官 達野ゆき
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