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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
平成14ネ711特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10051特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成13ネ2296特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ1223特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 外国の特許 /  準拠法 /  技術的範囲 /  時効 /  特許発明 /  実施 /  属地主義 /  間接侵害 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  管轄 / 
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事件 平成 11年 (ネ) 3059号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人 A右訴訟代理人弁護士 大野聖二
同 那須健人
被控訴人 株式会社ニューロン 右代表者代表取締役 B右訴訟代理人弁護士 吉原省三
同 小松勉
同 三輪拓也
同 竹田吉孝
同 尾崎英男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/01/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、原判決別紙一「物件目録一」及び同二「物件目録二」記載の各カードリーダー(以下、それぞれを「被告製品一」、「被告製品二」といい、両者を「被告製品」と総称する。)を、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)に輸出する目的で、我が国で製造してはならない。
三 被控訴人は、我が国で製造した被告製品を米国に輸出してはならない。
四 被控訴人は、子会社その他に、米国において被告製品の販売又は販売の申出をするよう、我が国で誘導してはならない。
五 被控訴人は、我が国において占有する被告製品を廃棄せよ。
六 被控訴人は、控訴人に対し、一億八〇〇〇万円及びこれに対する平成九年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
七 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
八 第二ないし第七項につき仮執行宣言
事案の概要
次のとおり、当事者双方の当審における主張を加えるほか、原判決「第二 事案の概要」(三頁九行ないし二二頁六行)のとおりである。
一 控訴人の当審における主張 1 米国特許権に基づく差止め及び廃棄請求について 原判決は、米国特許法の域外適用規定を我が国内の行為に対して適用することは我が国の法秩序の理念に反するものであるから、法例33条によりこれを適用しない旨判示するが、誤りである。
(一) 原判決は、工業所有権におけるいわゆる属地主義の原則によると、他の者の我が国における行為が米国特許権を侵害するということはあり得ない旨判示するが、本件で差止め及び廃棄請求の対象とされているのは、米国特許権である本件特許権の直接侵害行為そのものではなく、その積極的誘導又は寄与侵害である。
このような積極的誘導又は寄与侵害は、米国の領域内でなされた直接侵害行為があってはじめて成立する。そのため、国外の積極的誘導又は寄与侵害が違法とされるためにも、米国内の直接侵害行為が必須の構成要件とされる。このように、直接侵害行為が領域内で行われることを必須の要件として間接侵害行為の違法性を認めることは、属地主義に反するものではなく、属地主義との調和を図ったものである。
(二) また、法例33条で「外国法ニ依ルヘキ場合・・・其規定ノ適用カ」としているのは、単に当該外国準拠法の規定そのものが我が国と異なる制度・理念を持つとしてその適用を排除する趣旨ではなく、当該外国準拠法の規定を具体的事例に適用した結果が我が国の私法秩序に反するときにはじめて当該規定の適用を排除すべきとする趣旨である。しかも、原判決は、本件で積極的誘導ないし寄与侵害に関する米国特許法規定を具体的に適用した場合、我が国の私法秩序との関係でいかなる弊害が生ずるかという点に関し何ら審理していないものである。
我が国特許法の解釈においても、次の近時の通説的な見解は、直接侵害行為が我が国において行われていれば、教唆、幇助等の間接侵害行為が国外で行われたとしても、これを違法とすることは属地主義に反しないと解釈している。すなわち、C助教授は、属地主義の例外として、「属地主義の原則によるとしても、日本国内の侵害行為の教唆、幇助などの行為が国外で行われた共同不法行為に関しては、法例第11条1項の解釈として、直接の権利侵害が生じた地である日本の不法行為により損害賠償責任を発生せしめることになろう。日本国内の侵害行為に向けられたこれらの行為に損害賠償責任を課したところで、適用法に関し行為者を予測不可能な状況に追い込むことにはならないから、属地主義の原理に反することにはならないというべきである(D『特許権の効力についての国際的問題(1)』特許管理四三巻三号二六八頁(一九九三年)、E=F/G編『現代国際取引法講義』(一九九六年・法律文化社)一九五頁)。」(知的財産法(甲第一九号証)四三七頁)と述べ、E教授、F助教授は、「わが国における侵害を外国で教唆または幇助する行為は、わが国の権利を保護するために国内での侵害以上に規制する必要が強い場合があろう。そのために、法例11条の解釈として、侵害が行われるわが国をかかる外国での行為の結果発生地とみたうえで、不法行為地法がわが国法であるとするか(D『特許権の効力についての国際的諸問題(2・完)』)、教唆者または幇助者は共同不法行為者として直接の加害行為によって生じた損害について責任を負うものであるから、教唆または幇助としての行為地は直接の加害行為地となると解することはできないであろうか。このようにして外国行為者に不法行為責任を課しても、それはわが国国内の侵害行為に基づくものであるから、属地主義に反することにはならないと思われる」(G編「現代国際取引法講義」(甲第二〇号証)一九四頁)と述べている。
これは、近時の急速な国際化の進展の中で、特許権等の知的財産権の侵害も多様化しており、間接侵害行為が単に国外から行われているという一事だけでこれに特許権等の効力を及ぼし得ないとするのでは、余りに特許権等の効力を弱めるものであるという実質的考慮が働いていると推測される。右の我が国の通説的な見解と米国特許法の判例法とは、不法行為に基づいて域外的適用を認めるか、それとも特許権の効力として域外適用を認めるかという点については相違はあるが、いずれにしても域外適用が認められると解釈していることは共通している。したがって、我が国特許法の解釈においても認められている域外適用を公序則に反すると判断することはできない。
さらに、本件において、米国特許権の域外的効力を認めたとしても、米国特許権に対する間接侵害行為が止んだり、過去の間接侵害行為に対する損害賠償が認められるだけであり、法廷地である我が国社会において、真に忍び難い事態が生ずる可能性は皆無といってよい。そればかりでなく、本件において米国特許権の効力を認めれば、我が国国民が保有する米国特許権という財産権を保護することになり、知的財産権を保護するという法目的にも適うことになる。これに対して、本件で米国特許権に基づく間接侵害について、日本の裁判所が救済を拒否すれば、控訴人は、
我が国に管轄が認められているにもかかわらず、米国裁判所において、権利行使をすることを余儀なくされ、多大な負担を強いられることになる。仮に米国において裁判を提起したとしても、国外の企業である被控訴人に対して米国裁判所が管轄権を有するかどうかは、米国のロングアーム法の存在、内容いかんにより確実なものではないし、仮に管轄があったとしても、米国裁判所の発する差止命令の効力が被控訴人に及ぶかどうかも不確実である。また、損害賠償請求についても、被控訴人が米国に財産を有しているかどうかも定かではなく、権利の実効性は極めて不確実である。そうすると、本件の場合、控訴人は、いずれの国の裁判所からも十分に救済を受けられないという事態が発生する可能性がある。こうなると、本件のように、米国に一〇〇パーセント子会社を作り、子会社をわら人形として直接侵害行為を行わせて海外から間接侵害を行う形態を採れば、米国特許権の実効性を実質的に弱めることが可能となるばかりでなく、あたかも我が国裁判所がかかる侵害回避行為に加担することになってしまい、極めて不合理な事態を招く結果となる。したがって、本件は、公序則を適用する前提を欠くものである。
(三) 原判決は、法例33条により本件で米国特許法の適用を排除する理由として、このように解さないと、米国特許権の権利者は我が国の裁判所で米国特許権に基づく差止等を請求し得るのに対して、我が国の特許権の権利者は米国の裁判所で同様の救済を受けられないということになり、米国特許権の権利者に比べて、
我が国特許権の権利者を著しく不平等に扱うことになることを挙げている。
しかし、仮に我が国の特許権の権利者が米国の裁判所で救済を受けられないとしても、それは米国特許法にあって我が国の特許法にない積極的誘導又は寄与侵害差止めを求める場合にとどまる。原判決が指摘するような不平等が生じるのは、米国特許法にある積極的誘導又は寄与侵害を我が国特許法では差止請求の対象と明記されていないからであって、米国特許法が積極的誘導又は寄与侵害について域外適用を認めているからではない。
(四) 以上のとおり、米国特許権に基づく差止請求に対し、法例33条に基づき米国特許法の適用を排除した原審の判断は、違法なものである。
2 米国特許権の侵害を理由とする損害賠償請求について (一) 原判決は、「控訴人が不法行為に当たると主張する被告の行為は、すべて日本国内の行為である」として判断するが、これは明らかに誤りである。
前記1(一)で述べたとおり、本件で差止め及び廃棄請求の対象とされているのは、米国特許権である本件特許権の直接侵害に対する積極的誘導又は寄与侵害であり、米国特許法上、米国の領域内でなされた直接侵害行為があってはじめて成立する。そして、控訴人は、原審段階から、被控訴人以外の第三者による米国内での直接侵害行為について主張し、これに対し、被控訴人は、本訴において、被控訴人以外の第三者による実施行為、すなわち直接侵害行為を認めている。とすれば、法例11条1項で規定する「不法行為」の原因発生事実は、被控訴人が日本国内で行った行為の積極的誘導又は寄与侵害だけでなく、当事者間に争いのない事実である被控訴人以外の第三者による米国内での直接侵害行為、及び右直接侵害行為と被控訴人の右積極的誘導又は寄与侵害との因果関係も含まれるものである。その意味で、
控訴人が不法行為の原因発生事実として審理の対象として求めた行為は、被控訴人の日本国内の行為に止まるものではない。
(二) 本件のように、連結点たる原因事実発生地が複数の国にまたがる場合は、当該事件に最も密接に関係する法を選択・適用するという国際私法の理念に基づいて準拠法が決定されるべきである。
そうすると、米国特許権に基づく損害賠償請求の準拠法は、これを特許権の効力と法性決定するか、また原審のように不法行為と法性決定するかはさておき、結論としては当該特許権の保護国法である米国特許法と解すべきである。
本件において原判決のように不法行為と法性決定したとしても、前記1(二)に示した学説は、いずれも日本の特許権について、国外で行われた教唆、幇助行為に対して、法例11条の解釈として日本の不法行為を適用するとしており、その法律構成として、結果発生地である日本を「原因タル事実ノ発生シタル地」とする考えと、これを共同不法行為とみて直接侵害行為が行われた日本を「原因タル事実ノ発生シタル地」とする考えを示している。本件の場合、結果発生地も直接侵害行為地も米国であり、右いずれの考え方によっても、米国が法例11条の「原因タル事実ノ発生シタル地」と解釈されるべきである。
(三) 次に、原判決のように不法行為と法性決定したとすると、法例11条2項及び三項により日本法が累積適用されることとなる。しかし、ここで適用される具体的な条項は、原判決で説示された民法709条ではなく、教唆者及び幇助者について規定した民法719条2項である。本件で控訴人が求めた損害賠償請求の対象は、直接侵害行為ではなく、それに対する積極的誘導又は寄与侵害であるからである。民法719条2項では、教唆者及び幇助者はこれを共同行為者とみなすとしていることから、直接侵害行為者との関連性が認められれば、本件で被控訴人に不法行為責任を問うことは、法例11条2項に照らし何ら問題ない。
(四) 被控訴人は、外国特許法の適用を我が国内の行為について認めると、
我が国国民は、審査の基準も効力も一様ではない外国特許権の制約を受けることになり、属地主義をとることはこの点でも合理性がある旨主張するが、「日本国内の侵害行為に向けられたこれらの行為に損害賠償責任を課したところで、適用法に関し行為者を予測不可能な状況に追い込むことにはならない」とC助教授が述べている理由付けがここにも当てはまる。我が国での製造、販売等を越えて他国の特許権に関係する行為を行う以上、他国の法律の適用を受けることは甘受すべきである。
さらに、被控訴人は、特許制度について域外適用を認めず属地主義をとるというのが国際的にも大勢であり、我国の特許法が不合理であるということはいえない旨主張するが、古典的な体系書であるH・工業所有権法〔新版・増補〕においても「属地主義や所在地法の原則に対して疑問が持たれ、色々な修正が試みられている」とされている上(同書三六頁)、前記のとおり、C助教授、E教授らの見解は、特許権の域外適用を認めているのであり、古典的な属地主義を根拠とする被控訴人の主張は不当である。
3 不当利得返還請求について 右2に述べたことは、不当利得返還請求にも当てはまる。すなわち、連結点となる原因事実発生地は、我が国に止まらず、本件特許権の成立及び控訴人への帰属、
第三者による本件特許権に対する直接侵害行為等米国にも及んでいることから、本件に最も密接関連性のある法を準拠法として選択するという国際私法の理念に基づき考えれば、米国法を準拠法と解すべきことは自明である。
二 被控訴人の当審における主張 1 はじめに 本件は、我が国国民である控訴人が、我が国国民である被控訴人に対し、被控訴人の我が国内における行為につき差止めと損害賠償を求めているものであるから、
端的に我が国法に基づく請求権の有無を判断すべきである。
すなわち、特許権は、本質的に国家主権によって創設された通商産業政策上の権利であって、その効力は権利を付与した当該国家の主権に依拠するものである。したがって、その効力は、必然的にその国家主権の範囲内にしか及ばない。このような理解に基づき、知的所有権の分野における「属地主義の原則は、一国で認めた知的財産権の効力はその国の統治権の及ぶ領域内に限られ、その成立、変動および効力などは、条約の定める範囲外においては、総てその権利を認める国の法律によるとするものである。その結果、各国は原則として、自国の認めた知的財産権について外国の法律を適用しないし、また外国法によって認めた知的財産権を自国の領域内において承認しない。」と説明されてきた(I「知的財産権の国際的保護」国際私法の争点(新版)二五頁)。かような知的所有権についての属地主義の理解は、
今日でも国際的にみて通説的な理解であって、我が国でも広く承認されている。そして、このような理解からすれば、本件は、そもそも国際私法の問題ではなく、特許権及びその根拠である国家主権に内在する制約としての属地主義の問題と理解することができる。したがって、米国特許法が適用される余地がないことは明らかである。
2 米国特許権に基づく差止め及び廃棄請求について (一) 控訴人は、積極的誘導又は寄与侵害は米国内の直接侵害行為が必須の構成要件とされるのであり、かかる点で属地主義に反しない旨主張する。
しかしながら、控訴人の請求の対象となっている行為は、すべて被控訴人の我が国における行為であり、控訴人はこれを米国特許権の侵害であると主張するものである。したがって、米国の法廷において、米国内における直接侵害差止め等とともに権利主張をするのであればともかく、我が国において、米国特許権の効力としてその差止め等を求めることは、米国特許権を我が国内で行使しようとするものであって、属地主義の原則に反し許されないものである。
(二) 控訴人は、法例33条条で「外国法ニ依ルヘキ場合・・・其規定ノ適用カ」としているのは、外国準拠法の規定を具体的事例に適用した結果が我が国の私法秩序に反するときにはじめて当該規定の適用を排除すべきとする趣旨である旨主張する。
しかしながら、前記1に述べたとおり、特許権は本質的に国家主権によって創設された通商産業政策上の権利であって、その効力はその国家主権の範囲内にしか及ばないものであるから、仮に米国特許法の適用を認める立場をとったとしても、我が国の特許制度と相容れない事柄については公序に反することになり、米国特許法の適用が排除されるものである。したがって、米国特許法の域外適用規定に基づいて米国特許法を我が国内の行為に適用すること自体、我が国の公序則に反するものである。
また、外国特許法の適用を我が国内の行為について認めるとすると、我が国国民は、審査の基準も効力も一様ではない外国特許権の制約を受けることになる。しかも、これらの特許発明の内容は、我が国ではもちろん公開されておらず、外国においても我が国の言語で公開されているものではないから、大変な混乱を招くことになる。したがって、属地主義をとることは、この点でも合理性があるのであり、外国特許法を我が国内の行為に適用することは、法例33条の公序に反するものといわざるを得ない。
(三) 控訴人は、我が国の特許権の権利者が米国の裁判所で救済を受けられないとしても、それは米国特許法にある積極的誘導又は寄与侵害を我が国特許法では差止請求の対象と明記されていないからである旨主張する。
しかしながら、我が国特許権の権利者が米国の裁判所で救済を受けられない不平等を生じることについては、控訴人も認めているものである。そして、控訴人は、
その原因は我が国特許法の不備にあると主張するものであるが、むしろ特許制度について域外適用を認めず属地主義をとるというのが国際的にも大勢であり、我が国特許法が不合理であるということはいえない。
(四) 控訴人は、C助教授の学説を引用した主張をするが、右の学説は、我が国内において我が国特許権の侵害行為があり、その教唆等の行為が我が国外で行われた場合に、我が国特許法の適用を認めても属地主義の原理には反することにはならないというものである。そして、この考え方は、我が国の裁判所において、我が国特許法を適用する場合のことを前提としているものであり、本件とは前提が異なっているのである。
また、控訴人は、E教授らの学説を引用した主張をするが、右学説も、「教唆または幇助としての行為地は直接の加害行為地となると解することはできないであろうか。」と提案しているにすぎないのであって、この考え方が通説というわけではない。
3 米国特許権の侵害を理由とする損害賠償請求について (一) 損害賠償請求については、民法709条に基づくものであり、仮に渉外的要素があるとしても、法例11条によって「原因タル事実ノ発生シタル地」の法律によることになる。そして、本件では、控訴人は被控訴人の我が国における行為が権利侵害であると主張しているものであり、控訴人も被控訴人も、住所と居所を我が国に有する日本人であるから、いかなる説をとっても「原因タル事実ノ発生シタル地」が我が国であることは明らかである。したがって、損害賠償請求については、我が国法が適用されることとなる。
(二) さらに、控訴人は、仮に我が国法が適用されるとした場合、適用されるべきは民法709条ではなく、民法719条2項である旨主張する。
しかしながら、控訴人は被控訴人の行為を独立の不法行為として損害賠償を請求しているのであるから、民法709条による請求である。この点の控訴人の主張は、理由のないものである。
(三) 控訴人は、結果発生地である米国を不法行為地と観念すべきである旨主張する。しかし、法例11条不法行為地とは一般に原因となる行為が行われた地(行動地)を意味し、結果が発生した地ではないと考えられる。けだし、不法行為法は、過失責任の原則の具体化であり、行為者にとって行為準則となるものである以上、行動地に最も密接に関連すると考えられるからである。
争点に対する判断
一 争点1(米国特許権に基づく差止め及び廃棄請求の可否)について 1(一) 控訴人の本件差止め及び廃棄請求は、我が国に住所を有する我が国国民である控訴人が、我が国に本店を有する日本法人である被控訴人を相手方として、被控訴人の我が国内における行為が控訴人の有する米国特許権の侵害に当たることを理由とするものである。そして、本件においては、右のとおり、両当事者は住所・本店所在地を我が国とする日本人・日本法人であり、本件差止請求の対象行為地及び本件廃棄請求の対象物件の所在地並びに法廷地は、いずれも我が国である。
しかしながら、特許権については、国際的に広く承認されているいわゆる属地主義の原則が適用され、外国の特許権を内国で侵害するとされる行為がある場合でも、特段の法律又は条約に基づく規定がない限り、外国特許権に基づく差止め及び廃棄を内国裁判所に求めることはできないものというべきであり、外国特許権に基づく差止め及び廃棄の請求権については、法例で規定する準拠法決定の問題は生じる余地がない。そして、外国の特許権に基づく差止め及び廃棄請求を我が国で行使することができるとする法律又は条約は存在しないので、控訴人の米国特許権に基づく我が国内における本件差止め及び廃棄請求は理由がないといわざるを得ない。
(二) 控訴人は、本件差止め及び廃棄請求は米国特許権に基づくものであるが、米国特許法が規定する米国内における直接侵害行為に関する他国(日本国)領域内における積極的誘導又は寄与侵害の行為を対象とするものであるから、米国特許法を準拠法とすべきである旨主張し、原判決も、米国特許権に基づく請求であるという点において渉外的要素を含むので、どの国の法律を準拠法とすべきかが問題となるとした上、本件差止め及び廃棄請求の準拠法に関する限りおいては、結論として、当該特許権が登録された国の法律すなわち米国特許法が準拠法になると判断した。
しかし、仮に、右各請求が渉外的要素を含み、どの国の法律を準拠法とすべきかが問題となるとしても、法例等に特許権の効力の準拠法に関する定めはないから、
正義及び合目的性の理念という国際私法における条理に基づいて決定するほかないところ、(一)冒頭に掲記の本件の事実関係、及び一般にある国で登録された特許権の効力が当然に他の国の領域内に及ぶものとは解されていないことなどに照らすと、準拠法は我が国の特許法又は条約であると解するのが相当である。
そして、前記のとおり、我が国特許法には、他国の特許権につき積極的誘導又は寄与侵害に当たるとされる我が国領域内における行為の差止めやそのような行為によって製造された製品の廃棄を認める規定はなく、我が国と他国(米国)との間で互いに相手国の特許権の効力を自国においても認めるべき旨を定めた条約も存在しない。
控訴人は、教唆又は幇助により直接侵害行為の行われた米国を結果発生地とみる見解や、共同不法行為者の責任原理から我が国で教唆又は幇助が行われても米国が直接の加害行為地とする見解に基づき、米国特許法の適用を主張するが、右各見解は、本件においてはいずれも採用することができない。
(三) 以上のとおりであるから、控訴人の本件差止め及び廃棄請求は我が国特許法が認める差止請求及び廃棄請求の根拠となる我が国特許権に関する主張がない以上、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
2 以上によれば、被告製品が本件米国特許発明技術的範囲に含まれるかなどの点について判断するまでもなく、控訴人の差止め及び廃棄請求は、すべて理由がないというべきである。
二 争点2(米国特許権の侵害を理由とする損害賠償請求の可否)について 1 控訴人の請求は、被控訴人の行為が控訴人の米国特許権を侵害することを理由に損害賠償を求めるものであり、控訴人の主張する被侵害法益は米国特許権である。そして、控訴人の主張する損害賠償請求権は、広く我が国の不法行為に基づく損害賠償請求権の範囲に属する可能性があるので、前記差止め及び廃棄請求とは異なり、渉外的要素を含むものである。
そこで、まず、その準拠法について検討すると、特許権の侵害を理由とする損害賠償は特許権の効力と関連性を有するものではあるが、損害賠償請求を認めることは特許権特有の問題ではなく、あくまでも当該社会の法益保護を目的とするものであるから、不法行為の問題と性質決定し、法例11条1項によるべきものと解するのが相当である。法例11条1項においては、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力はその原因たる事実の発生した地の法律によるものと規定されている。そして、控訴人が不法行為に当たると主張する被控訴人の行為は、すべて日本国内の行為であるから、本件においては、日本法(民法709条以下)を適用すべきものというべきである。
2 民法709条においては、他人の権利を侵害したことが、不法行為に基づく損害賠償請求権の要件の一つとされているところ、本件においては、控訴人が被控訴人の行為によって侵害されたと主張する権利は米国特許権である。前記のとおり、我が国においては属地主義の原則を排除して米国特許権の効力を認めるべき法律又は条約は存在しないので、米国特許権は、我が国の不法行為法によって保護される権利には該当しない。したがって、米国特許権の侵害に当たる行為が我が国でされたとしても、右行為は、米国特許権侵害に当たるとの主張事実のみをもってしては、日本法上不法行為たり得ないと解するのが相当である。
3 したがって、控訴人の損害賠償請求を認めることはできない。
4 なお、控訴人は、結果発生地である米国を「原因タル事実ノ発生シタル地」とする見解又は共同不法行為とみて直接侵害行為が行われた米国を「原因タル事実ノ発生シタル地」とする見解に基づき、本件につき不法行為法の準拠法を決定する場合には、米国が法例11条の「原因タル事実ノ発生シタル地」と解釈すべきである旨主張する。しかしながら、特許侵害行為についての準拠法は、教唆、幇助行為等を含め、過失主義の原則に支配される不法行為の問題として行為者の意思行為に重点が置かれて判断されるべきであるから、本件では不法行為者とされる者の行動地である我が国が法例11条1項にいう「原因タル事実ノ発生シタル地」に当たるというべきであり、控訴人の右主張は採用することができない。
三 不当利得返還請求権に基づく請求について 控訴人は、不法行為による損害賠償請求権が時効により消滅した部分については、予備的に、不当利得返還請求権を行使すると主張している。
控訴人の右予備的請求について、これを消滅時効以外の理由により不法行為による損害賠償請求が排斥される場合を含めて、広く、不当利得の返還を予備的に求めるものと解し得るとしても、右の不当利得返還請求の準拠法については、法例11条1項により、特許権の侵害を理由とする損害賠償請求におけるのと同様、日本法(民法703条以下)を適用すべきものというべきである。そして、前に判示したとおり、属地主義の原則により、米国特許権の効力が日本国内に及ばない以上、被告が我が国の国内における行為により法律上の原因なくして控訴人の財産又は労務により利益を得て控訴人に損失が生じたということもできないから、右予備的請求を認めることもできない。
四 結論 よって、控訴人の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成一一年一一月一九日)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 市川正巳