関連審決 | 不服2002-19543 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 周知技術 / 上位概念 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / パリ条約 / 優先権 / 援用権(援用) / 参酌 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 業として / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 国際出願 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10191号
審決取消請求事件
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原告 イドロ−ケベック 同訴訟代理人弁理士 鈴江武彦 同 河野哲 同 村松貞男 同 中村誠 同 野河信久 同 須田浩史 同 佐藤立志 被告 特許庁長官 小川洋 同指定代理人 三友英二 同 安池一貴 同 小曳満昭 同 涌井幸一 同 宮下正之 同 田良島潔 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/06/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2002―19543号事件について平成15年11月17日にした審決を取り消す。 |
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争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,特許庁に対し,平成5年10月27日(パリ条約4条に基づく優先権主張1992年11月16日・米国)を国際出願日とし,発明の名称を「自動車用駆動システムおよびその駆動システムの動作方法」とする特許出願(平成6年特許願第511543号。以下「本願」という。)を行ったところ,特許庁は,平成14年7月3日,拒絶査定をした。 そこで,原告は,平成14年10月7日,拒絶査定不服審判の請求をした(不服2002―19543号)ところ,特許庁は,平成15年11月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を行い,その謄本は,同年12月2日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲 本願に係る明細書及び図面(甲5ないし7。以下,まとめて「本願明細書」という。)における「特許請求の範囲」の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。 「1. スタートキーシステム(4)と,加速器(6)と,動作モードセレクタ(8)と,自動車の駆動用電気モータシステム(2)と,この電気モータシステム(2)に接続されて供給された電力を電気モータ駆動電力に変換する電力変換器システムと,前記電気モータ駆動電力を供給する主電源として動作するバッテリ(14)と,内燃モータによって駆動され前記電力変換器システムを介して前記電気モータシステム(2)に給電する補助電源として動作しかつ前記バッテリ(14)を再充電するための電力を発生する電力発生装置(20)と,前記電力発生装置(20)とバッテリ(14)と動作モードセレクタ(8)とスタートキーシステム(4)とに接続されてそれらの状態を監視してバッテリの状態に応じて前記電力発生装置(20)を付勢あるいは消勢させるコントローラシステム(15A,15B,15C,15D,15E,15F,16)と,DC電力供給バス(12)とを具備し,前記電気モータシステム(2)は,自動車の2以上のホイールを別々に駆動制御する電気モータホイール(17)を具備している自動車の駆動システムにおいて, 前記DC電力供給バス(12)は,前記電力変換器システムを介して前記電気モータシステム(2)に接続され,また,両方向のステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)を介して前記バッテリ(14)に接続され,さらに,第1の電力変換器(22)を介して前記電力発生装置(20)に接続され, 前記電力変換器システムは,電力インバータ(18)を具備し, 前記コントローラシステム(15A,15B,15C,15D,15E,15F,16)はさらに,加速器(6)と,電力インバータ(18)と,ステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)と,第1の電力変換器(22)とに接続されてそれらの状態を監視し,さらに電力インバータ(18)およびその電力インバータ(18)を介して前記電気モータホイール(17)を制御し,ステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)を制御し,付勢された場合の電力発生装置(20)および第1の電力変換器(22)を制御することを特徴とする自動車の駆動システム。」 3 本件審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開昭63―64503号公報(甲2。以下「引用例」といい,これに記載された発明を「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。 なお,本件審決が認定した本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 (一致点) 「スタートキーシステム(4)と,加速器(6)と,動作モードセレクタ(8)と, 自動車の駆動用電気モータシステム(2)と,この電気モータシステム(2)に接続されて供給された電力を電気モータ駆動電力に変換する電力変換器システムと, 前記電気モータ駆動電力を供給する電源として動作するバッテリ(14)と,内燃モータによって駆動され前記電力変換器システムを介して前記電気モータシステム(2)に給電する電源として動作しかつ前記バッテリ(14)を再充電するための電力を発生する電力発生装置(20)とを具備し,前記電気モータシステム(2)は,自動車の2以上のホイールを別々に駆動制御する電気モータホイール(17)を具備している自動車の駆動システムにおいて, 前記電力変換器システムは,電力インバータ(18)を具備し, 前記コントローラシステム(15A,15B,15C,15D,15E,15F,16)は加速器(6)と電力インバータ(18)およびその電力インバータ(18)を介して前記電気モータホイール(17)を制御することを特徴とする自動車の駆動システム。」 (相違点1) 本願発明が,バッテリ(14)を主電源とし,内燃モータによって駆動される電力発生装置(20)を補助電源とし,これに関連する構成として,「前記電力発生装置(20)とバッテリ(14)と動作モードセレクタ(8)とスタートキーシステム(4)とに接続されてそれらの状態を監視してバッテリの状態に応じて前記電力発生装置(20)を付勢あるいは消勢させるコントローラシステム(15A,15B,15C,15D,15E,15F,16)」を備えているのに対し,引用発明では,発電機を主電源とし,バッテリを補助電源とし,演算回路はモータの制御を行っているのみで発電機の制御については明記されていない点。 (相違点2) 本願発明が,「電力供給バス(12)」を備えると共に,「DC電力供給バス(12)は,前記電力変換器システムを介して前記電気モータシステム(2)に接続され,また,両方向のステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)を介して前記バッテリ(14)に接続され,さらに,第1の電力変換器(22)を介して前記電力発生装置(20)に接続され」との構成を備えているのに対し,引用発明では「両方向のステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)」及び「第1の電力変換器(22)」を備えていないと共に,配線構造について明記されていない点。 (相違点3) 本願発明が,「コントロールシステム(15A,15B,15C,15D,15E,15F,16)」はさらに「ステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)」,「第1の電力変換器」に接続されて,それらの状態を監視し,ステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)を制御し,付勢された場合の電力発生装置(20)および第1の電力変換器(22)を制御することと規定しているのに対し,引用発明ではこの様な装置を備えていないので制御もしていない点。 |
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原告主張に係る本件審決の取消事由の要点
本件審決は,本願発明と引用発明との一致点を誤認して相違点を看過し(取消事由1),また,本願発明と引用発明との各相違点についての判断を誤った(取消事由2ないし4)結果,本願発明についての進歩性の判断を誤ったものであり,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。 1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過) 本件審決は,引用発明の「蓄電池」が本願発明の「バッテリ14」に対応すると誤って認定した(審決書4頁)ことにより,本願発明と引用発明との一致点を誤認し,相違点を看過したものである。 すなわち,本願発明では,「バッテリ14の状態に応じて電力発生装置20を付勢または消勢させる」ことにより,バッテリ14に常に十分な電力量を蓄積可能にして,バッテリ14が主電源として動作できるようにしている。 これに対し,引用発明の蓄電池12は,発電量に余剰が生じたときに蓄電されるにすぎず,主電源として機能するに足りるように常に十分な電力量が蓄積されるものではないから,主電源の役割を果たすものではない。 したがって,引用発明の「蓄電池」が本願発明の「バッテリ14」に対応するということはできない。 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り) (1) 上記のとおり,引用発明の「蓄電池12」は本願発明の「バッテリ14」に対応するものではないから,引用発明には,本願発明の「バッテリ14」に対応する構成がなく,発電機とバッテリとの間の主電源・補助電源関係の前提となる一方の電源がそもそも存在しない。このため,仮に,本件審決が引用する特公昭49-30652号公報(甲3)及び特開平4-29504号公報(甲4)において,蓄電池を主電源とし,発電機を補助電源とする技術が開示されているとしても,引用発明の蓄電池12を主電源に,発電機3を補助電源にできるものではない。したがって,「引用発明においても,必要に応じてバッテリを主電源とし,発電機を補助電源とすることは,当業者が容易に考えられるものと認められる」(審決書6頁)と本件審決が判断したのは,誤りである。 (2) 引用例(甲2)には,「内燃機関1は最も低燃費運転となる一定の回転速度で運転され,余剰電力は蓄電池12に蓄電され」(3頁右上欄16〜18行)と記載されており,内燃機関1を付勢または消勢する旨の記載はないから,仮に,蓄電池12と発電機3の主従関係を本来と逆にしたとしても,蓄電池12の充電量の不足を補うように内燃機関1を付勢して発電機3を動作させるとの技術的思想には至らない。特に,引用発明では,蓄電池12は余剰電力を蓄積するために設けられているものであるから,蓄電池12の充電量が足らないためにわざわざ内燃機関1を付勢させることによって発電機3を動作させることは本末転倒である。 したがって,仮に,引用発明においてバッテリと発電機の主従関係を逆にしたとしても,本願発明の「バッテリの状態に応じて前記電力発生装置(20)を付勢あるいは消勢させる」構成は得られない。 なお,仮に,本件審決が指摘するように,甲4に「2次電池の残存容量に応じて車載型発電器を作動,停止させる」ことが開示されているとしても,本願発明の「バッテリの状態に応じて前記電力発生装置を付勢あるいは消勢させる」構成は得られない。なぜならば,本願発明の上記構成は,単にバッテリの残存容量に応じて電力発生装置を付勢させるだけでなく,広く一般的に,残存容量とは関係なくモータホイールに供給するために補助的な電力が必要である場合にも電力発生装置20を付勢させることができる構成を意味しているからである。 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り) (1) 本願発明のステップダウン/ステップアップ電圧調整器32は,バッテリ14の充電状態またはバッテリの電流/電圧機能には関係なく所望された電圧を電力供給バス12に与えるのみならず,この電圧で電力供給バス12の電圧を定めることができ,その電圧を高電圧とするものである。また,本願発明の電力供給バス12は,「高電圧」に耐えうる構造を備えていて,電圧調整器32により高電圧に維持されるものである。このように,本願発明では,電圧調整器32により電力供給バス12を「高電圧」に維持することにより,大電力が必要となったとしても,「低電圧」の場合と比較して電流量を少なくできるようにして,電力供給ラインの大口径化やバッテリの大型化を必要としないようにしている。以上のような電力供給バス(12)と電圧調整器(32)の技術的意義,作用効果については,本願明細書の「発明の詳細な説明」の記載から明らかである。 しかるに,本件審決は,「電力供給バス(12)」について,「一般に大電流の流れる回路の配線構造として,「電力供給バス」を採用することは周知」と認定した上で,「引用発明においてもその蓄電池から大電流の流れる各部分への配線部に上記周知の電力供給バスを用いることは当業者が適宜実施し得るものと認められる」(審決書6〜7頁)と判断した。しかしながら,本願発明の電力供給バス12は,上記のとおり,電圧調整器32により,バッテリ14の充電状態等に関わらず,その電圧が「高電圧」に維持され得る構造のものであり,そのことにより,電力供給ラインの大口径化やバッテリの大型化の回避という作用効果を奏するものであるから,この点で,本件審決が認定する「大電流の流れる回路の配線構造として周知である電力供給バス」とは明らかに相違している。したがって,本件審決の上記判断は誤りである。 また,本件審決は,「電圧調整器(32)」について,「駆動時及び回生時のバッテリの電圧を一定若しくは不都合にならない程度の電圧に調整する回路を設けることは慣用手段にすぎないので,引用発明においても,蓄電池を主電源とする際,駆動時に蓄電池から得る電圧を調整すると共に回生制動時に蓄電池に加わる電圧を調整するための電圧調整手段を設けることは,その必要性に応じて適時実施し得るものと認められる」(審決書7頁)と判断した。しかしながら,本願発明の電圧調整器(32)は,前記のとおり,バッテリ(14)の充電状態や電流/電圧機能に関係なく電力供給バス(12)の電圧を定めることができ,電力供給バス(12)の電圧を「高電圧」に維持するという作用効果を奏するものであるから,本件審決のいう「一定もしくは不都合にならない程度の電圧に調整」する周知の回路とは,技術的事項として明らかに相違している。また,上記周知技術の認定の根拠となる文献も提示されていない。したがって,本件審決の上記判断も誤りである。 (2) 本件審決は,「第1の電力変換器(22)」について,「発電機を用いて蓄電池を充電する際,発電機自体の電圧を調整して充電するかあるいは発電機電圧を調整する電力変換回路を別途設けて行うかは必要に応じて適宜選択し得る程度のことにすぎないと認められる」(審決書7頁)と判断する。しかしながら,本願発明の「第1の電力変換器(22)」は「電流」を調整する機能を有するものであって,「電圧」を調整するものではないので,本件審決の上記判断は誤りである。 すなわち,一般に,二つの電圧調整器の調整電圧間に差があると,両電圧調整器間に望ましくない大電流循環を誘発し,その結果として,電圧調整器の一方又は双方に致命的な損傷を与える可能性がある。このために,二つの電圧調整器を並列に接続することはできないことは,当業者であれば容易に理解することができる。しかるに,本願発明に係る請求項に「DC電力供給バス(12)は,…両方向のステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)を介して前記バッテリ(14)に接続され,さらに,第1の電力変換器(22)を介して前記電力発生装置(20)に接続され」と記載されているように,第1の電力変換器(22)は両方向のステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)と電力発生装置(20)に対して並列に連結されている。そして,この両方向のステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)は,前述したように電圧を調整するためのものであるから,第1の電力変換器(22)が電圧を調整するものではないことは明らかである。 4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り) 本件審決は,相違点3について,「さらに相違点2についてで記した電圧調整器に関する制御や,上記(1)において記した発電機に関する制御機器もまとめて制御するように構成することは,当業者が必要に応じて適宜実施し得ることと認められる」(審決書7頁)と判断するが,誤りである。 すなわち,本願発明のコントローラシステム(15A,15B,15C,15D,15E,15F,16)の「制御」は,電力発生装置(20)を付勢あるいは消勢させることに止まらず,本願明細書に記載されているように,「必要であるときには電圧調整器32を使用して,バッテリ14,モータ電力供給装置20,モータホイール17,電圧クランプ装置24,およびコンデンサ30の間のエネルギの流れを制御し,効率を最適化する」(甲5の11頁24行〜12頁2行)という特徴的な制御も含まれる。本件審決の上記判断は,本願発明のコントローラシステムによる「制御」の有する「エネルギの流れを制御し,効率を最適化する」との作用効果を看過したものである。 |
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被告の反論の要点
本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張する本件審決の取消事由には理由がない。 1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過)について 一般に,進歩性が問題となる場合における一致点の認定は,相違点を抽出するための前提作業として行われるものであり,相違点を正しく認定することができるものであるならば,相違点に係る両技術に共通する部分を抽象化して一致点と認定することは許され,また,一致点の認定をどの程度の抽象度において行うかは,審決において,上記共通部分を考慮して,適宜なし得ることであるところ,「引用発明の蓄電池」と「本願発明のバッテリ14」とが少なくとも上位概念で共通しているのは明らかであるから,それらを対応させて一致点と認定することに何ら問題はない。また,「引用発明の蓄電池」が主電源として機能するに足りる十分な電力量を蓄積するものでない点は,相違点1として認定されているから,相違点の看過もない。 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) 引用発明の「蓄電池12」が本願発明の「バッテリ14」に対応するものでないことを前提とする原告の主張は,その前提が誤っており,失当である。 (2) 甲3,4に蓄電池の充電量等に応じて内燃機関を付勢したり消勢したりすることが記載されていることからも明らかなように,蓄電池を主,発電機を従にした周知のものにおいては,内燃機関は蓄電池の充電量等に応じて付勢されたり消勢されたりするのが普通であり,甲3,4の開示に基づき蓄電池と発電機の主従関係を引用発明と逆にすることができた場合には,当然に,蓄電池の充電量等に応じて内燃機関を付勢したり消勢したりする構成も採用されると考えることができる。 (3) 本願発明の「バッテリの状態」がバッテリの残存容量を少なくとも含んでいることはその文言から明らかであり,そうである以上,甲4記載の技術を引用発明に採用すれば,当然に,本願発明の「バッテリの状態に応じて前記電力発生装置を付勢あるいは消勢させる」構成が得られる。 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について (1) 本願発明の電力供給バスと電圧調整器については,原告の主張するような技術的意義を備える旨明細書に記載されておらず,また,原告が主張する作用効果も明細書の記載から認めることができない(特許請求の範囲の記載から当然に生じる作用効果とも認められない。)から,この点についての原告の主張は失当である。 また,本願発明の電力供給バス自体は,単なる電流の供給部材にすぎず,それ自体に特別の機能があるわけではないことは明らかであるから,この点についての原告の主張は失当である。 さらに,本願発明の電圧調整器は,本願明細書の記載によれば,電力供給バスの電圧を昇圧することもあるが,それに限らず,色々な制御(例えば,回生制動)が行えるものであるから,本件審決の認定したとおり,「一定若しくは不都合にならない程度の電圧に調整」する周知の回路と技術的に変らないものである。なお,上記「駆動時及び回生時のバッテリの電圧を一定若しくは不都合にならない程度に電圧を調整する回路」は,乙1ないし4の公知文献に記載されている。 (2) 本願明細書の記載によれば,電力変換器22は,コントローラ15Bによって動作を監視制御されるものの,単に動作・不動作とするのか,高度に制御するのか具体的な制御形態は不明である。したがって,その機能は名称(電力変換)から判断せざるを得ず,電力変換とは一般的に入力電力と出力電力の形態を異ならせるもの,例えば高電圧・小電流の形態から低電圧・大電流に変換する場合や交流電力を直流電力に変換する程度しか想起し得ないものである。よって,電力変換器(22)が「電流」を調整する機能を有するものである旨の原告の主張は,根拠を欠く。 原告が指摘する本件審決の説示の意味は,発電される電圧を発電機部分で制御するか,あるいは,発電機は単に発電するだけで,具体的な電圧制御は,他の電力変換器等を用いた電圧調整手段により行うことは,適宜実施し得ることであり(このような例は,乙5,6に記載のように周知のことにすぎない。),相違点2について,電圧調整を必要に応じて行う際,バッテリを主,発電機を補助とした場合であっても,その間に電圧調整器を設ける程度のことは,適宜実施し得るということを述べたにすぎず,誤りはない。 4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について 本願発明に係る請求項には,「コントローラシステムは,…それらの状態を監視し,…制御し,…制御し付勢された場合の…を制御する」としか記載されておらず,状態を監視した結果をどうするのか,どのような状態の時にどのように制御するのかについて何ら記載されていないから,上記構成における各「制御」は,一般的に用いられる用語としての漠然とした「制御」の意味でしか認識しようがなく,具体的な制御構成を把握することはできない。したがって,この点についての原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過)について 原告は,引用発明の蓄電池は,発電量に余剰が生じたときに蓄電されるにすぎず,本願発明のバッテリ14のように,主電源として機能するに足りるように常に十分な電力量が蓄積されるものではないから,引用発明の「蓄電池」が本願発明の「バッテリ14」に対応するとの本件審決の認定には誤りがある旨主張する。 しかしながら,一般に,「蓄電池」とは,「外部電源から得た電気的エネルギーを化学的エネルギーの形に変化して蓄え,必要に応じて,再び起電力として取り出す装置。普通に用いるのは,鉛蓄電池およびアルカリ蓄電池の二種。二次電池。バッテリー。」(広辞苑第五版1708頁)とされ,また,「バッテリー」とは,「@蓄電池。電槽。…」(同2159頁)とされており,「蓄電池」と「バッテリ」とは,一般的な語義として,相互に他方の語と同義であるとされていることが明らかである。原告自身,本願発明の「バッテリ14」及び引用発明の「蓄電池」が,いずれも電力を蓄電した上で電源として機能するものであることを自認している。したがって,本件審決が,両者が対応すると認定した上で,本願発明と引用発明との一致点を認定したことに誤りはない。 なお,原告は,本願発明がバッテリを主電源としているのに対し,引用発明の蓄電池はこれを主電源とするものではない点を指摘するが,本件審決は,相違点1として,「本願発明が,バッテリ(14)を主電源とし,内燃モータによって駆動される電力発生装置(20)を補助電源とし(ている)のに対し,引用発明では,発電機を主電源とし,バッテリを補助電源とし(ている)点。」を認定しており,原告の指摘する点を相違点として取り上げているから,相違点の看過もない。 したがって,原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用発明の蓄電池は本願発明のバッテリ14に対応するものではなく,引用発明には本願発明のバッテリ14に対応する構成がないため,仮に,甲3(特公昭49-30652号公報),甲4(特開平4-29504号公報)において,蓄電池を主電源とし,発電機を補助電源とする技術が開示されているとしても,本件審決の「引用発明においても,必要に応じてバッテリを主電源とし,発電機を補助電源とすることは,当業者が容易に考えられるものと認められる」(審決書6頁)との判断は誤りである旨主張する。 しかしながら,前記1のとおり,引用発明の「蓄電池」は本願発明の「バッテリ14」に対応するものということができるから,原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。 (2)ア 原告は,引用例には,内燃機関1を付勢または消勢する旨の記載はないから,蓄電池12と発電機3の主従関係を本来とは逆にしたとしても,本願発明のように,蓄電池12の充電量の不足を補うように内燃機関1を付勢して発電機3を動作させるとの技術的思想には至らない旨主張する。 しかしながら,甲3(特公昭49-30652号公報)には,「上記のような複合形電気自動車の駆動装置は,一般に第1図に示すように構成されている。すなわち,駆動および 停止 を自在 に制御 できる エンジン 1に直結 して 直流発電機2を設け(判決注・下線付加),この直流発電機2の出力端間に開閉自在なスイッチ3を介して充電可能な電池4を接続している。そして,上記電池4の両端に…駆動用の直流電動機7を直列に接続したものとなっている。」(2欄23〜32行)との記載がある。 また,甲4(特開平4-29504号公報)には,「以下,本発明に係る電気自動車の実施例について添付図面を参照して説明する。」(3頁左上欄14〜15行),「車載型発電器16としては例えばガスタービン発電機が用いられ,制御手段としてのコントローラ23によりその作動および停止が制御される。」(同頁右上欄11〜13行),「一定時間t1の走行後に2 次電池 15 の残存容量 が所定値 ,例えば 20 %となったとき ,車載型発電器 16 を作動 させ (判決注・下線付加),車載型発電器16からの電気エネルギにより車体を走行させる。」(同頁左下欄14〜17行)との記載がある。 これらの記載によれば,内部に複数の電源を備えた電気自動車において,主電源として蓄電池を用い,必要に応じて一時的に用いる内燃機関により駆動される発電機を従(補助)電源とすること,及びそのように蓄電池を主,発電機を従にした場合に,内燃機関を蓄電池の充電量等に応じて付勢したり消勢したりすることが,本願の出願時において周知の技術事項であると認められる。 そうであれば,上記周知の技術事項を考慮して,引用発明において,蓄電池12を主電源とし,発電機3を補助電源とするとともに,蓄電池12の充電量の不足を補うように内燃機関1を付勢して発電機3を動作させるようにして,本願発明の相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得る事項というべきであるから,原告の上記主張は理由がない。 イ なお,原告は,本願発明の「バッテリの状態に応じて前記電力発生装置を付勢させる」との構成は,単にバッテリの残存容量に応じて電力発生装置を付勢させるだけでなく,広く一般的に,残存容量とは関係なくモータホイールに供給するために補助的な電力が必要である場合にも電力発生装置20を付勢させることができる構成を意味しているから,仮に,甲4に「2次電池の残存容量に応じて車載型発電器を作動,停止させる」ことが開示されているとしても,本願発明の上記構成は得られない旨主張する。 しかしながら,電力発生装置の付勢に関して,本願発明に係る請求項には,「バッテリの状態に応じて前記電力発生装置(20)を付勢あるいは消勢させる」と記載されているにすぎないから,本願発明には,原告の主張するような「バッテリの残存容量とは関係なくモータホイールに供給するために補助的な電力が必要である場合に電力発生装置20を付勢させること」のみならず,「バッテリの残存容量に応じて電力発生装置を付勢させること」も含まれることは明らかである。 しかるところ,甲4の前記記載によれば,甲4に「2次電池の残存容量に応じて車載型発電器を作動,停止させる」ことが開示されていると認められるから,そのような技術事項をも参酌して,引用発明の構成を「バッテリの残存容量に応じて電力発生装置を付勢させる」構成とすることは,当業者が容易に想到しうることというべきである。なお,発明に複数の実施態様が含まれている場合,そのうちの1つの実施態様が当業者にとって容易に想到することができるものであれば,発明全体の進歩性が否定されることは当然である。したがって,原告の上記主張は理由がない。 (3) 以上のとおり,原告の取消事由2の主張も理由がない。 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は,本願発明では,電圧調整器32により電力供給バス12を「高電圧」に維持することで,大電力が必要となったとしても,「低電圧」の場合と比較して電流量を少なくできるようにして,電力供給ラインの大口径化やバッテリの大型化を必要としないようにしているにもかかわらず,本件審決の電力供給バス12や電圧調整器32についての判断は,このような技術的意義,作用効果を看過している旨主張する。 ア しかしながら,本願発明に係る請求項のうち電力供給バス12や電圧調整器32に関する部分は,「前記DC電力供給バス(12)は,前記電力変換器システムを介して前記電気モータシステム(2)に接続され,また,両方向のステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)を介して前記バッテリ(14)に接続され,さらに,第1の電力変換器(22)を介して前記電力発生装置(20)に接続され,…前記コントローラシステム(15A,15B,15C,15D,15E,15F,16)は…ステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)…に接続されてそれらの状態を監視し,…ステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)を制御」すると規定するのみであり,原告の主張するような,電圧調整器32により電力供給バス12を高電圧に維持することは何ら規定されていないし,また,本願発明の電力供給バス自体は,単なる電流の供給部材にすぎず,本願発明の電力供給バス自体に原告が主張するような特別の機能があるわけではないことも明らかであるから,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであり,理由がない。 イ これに対し,原告は,本願明細書の「発明の詳細な説明」の記載を援用するが,本願発明に係る請求項においては,「電力供給バス(12)」が「電力を供給するためのバス」であり,「ステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)」が「電圧を段階的に昇降(ステップダウンまたはステップアップ)調整する装置」であることは,その名称自体から明らかである上,上記のとおり,電力供給バスと電圧調整器との接続関係や電圧調整器の作用も規定されている。したがって,電圧調整器や電力供給バスに関する特許請求の範囲の記載の技術的意義は一義的に明確に理解することができるから,本願明細書の「発明の詳細な説明」の記載を参酌することは許されない。 また,仮に,「発明の詳細な説明」の記載を参酌したとしても,そこにも,電力供給バス12を「高電圧」に維持する旨の明確な記載はないし,むしろ,「電力供給バス12は500ボルトのDCバスであることが好ましいが,高電圧のACバスでもよい。」(甲5の7頁18〜19行)との記載があり,「電力供給バス12」が「500ボルトのDCバス」にも「高電圧のACバス」にも限定されないことが明らかである。したがって,電力供給バス12は必ずしも高電圧に維持されるとは限らないこととなる。 以上のとおり,本願明細書の「発明の詳細な説明」の記載を援用する原告の主張は,いずれにしても理由がない。 ウ なお,原告は,「駆動時及び回生時のバッテリの電圧を一定若しくは不都合にならない程度の電圧に調整する回路を設けることは慣用手段にすぎない」(審決書7頁)との本件審決の認定の根拠が示されていない旨も主張するが,乙1(特開平4-125099号公報),乙2(特開昭52-47694号公報),乙3(特開昭64-16205号公報)及び乙4(特開平4-145808号公報)の記載によれば,本件審決の上記認定に誤りがないことは明らかである。 (2) 原告は,二つの電圧調整器を並列に接続すると電圧調整器の一方又は双方に致命的な損傷を与える可能性があるから,本願発明の「第1の電力変換器(22)」は「電流」を調整するものであって「電圧」を調整するものではないので,本件審決が「第1の電力変換器(22)」について「発電機を用いて蓄電池を充電する際,発電機自体の電圧を調整して充電するかあるいは発電機電圧を調整する電力変換回路を別途設けて行うかは必要に応じて適宜選択し得る程度のことにすぎないと認められる」(審決書7頁)と判断したのは誤りである旨主張する。 しかしながら,発電機からの電力を調整する場合,一般に,電圧を調整することにより電力を調整する方法を用いることは,技術常識というべきであるし,本願発明に係る請求項にも,「第1の電力変換器(22)」が電流を調整する機能を有するものであると特定する記載はないから,そうであれば,本件審決の上記説示に何ら誤りはない。なお,二つの電圧調整器を並列に接続する場合に,両電圧調整器を適宜調整したり,他の電圧調整手段を採用するなどして,原告が主張するような不具合が生じないようにすることは,当業者が必要に応じて適宜行い得る程度のことにすぎないというべきである。したがって,原告の上記主張は理由がない。 (3) 以上のとおり,原告の取消事由3の主張も理由がない。 4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)」について 原告は,本願発明のコントローラシステム(15A,15B,15C,15D,15E,15F,16)の「制御」は,電力発生装置(20)を付勢あるいは消勢させることに止まらず,本願明細書に記載されているように,「必要であるときには電圧調整器32を使用して,バッテリ14,モータ電力供給装置20,モータホイール17,電圧クランプ装置24,およびコンデンサ30の間のエネルギの流れを制御し,効率を最適化する」(甲5の11頁24行〜12頁2行)という特徴的な制御も含まれるところ,本件審決は,このような特徴的な制御を看過して相違点3について判断した旨主張する。 しかしながら,本願発明に係る請求項には,コントローラシステムの作用について,「加速器(6)と,電力インバータ(18)と,ステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)と,第1の電力変換器(22)とに接続されてそれらの状態を監視し」,「電力インバータ(18)およびその電力インバータ(18)を介して前記電気モータホイール(17)を制御し」,「ステップダウン/ステップアップ電圧調整器(32)を制御し」,「付勢された場合の電力発生装置(20)および第1の電力変換器(22)を制御する」との記載しかないから,同記載から,原告が主張するような具体的な制御態様を把握することはできない。したがって,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,理由がない。 なお,原告が指摘する記載は,本願明細書の「実施例」の項の記載であって,本願発明の一実施態様を記載したものにすぎないから,本願発明の構成がこのようなものに限られるわけではないので,この観点からも,原告の上記主張は理由がない。 以上のとおり,原告の取消事由4の主張も理由がない。 5 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 若林辰繁 |
裁判官 | 沖中康人 |