関連審決 | 審判1997-2869 |
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関連ワード | 頒布された刊行物 / 容易に発明 / 技術的手段 / 発明の概要 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
10年
(行ケ)
368号
審決取消請求事件
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原告 株式会社日立製作所代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁理士 【B】 同 【C】 同 【D】 同 【E】 被告 特許庁長官【F】 指定代理人 【G】 同 【H】 同 【I】 同 【J】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2000/02/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた判決
1 原告 特許庁が、平成9年審判第2869号事件について、平成10年10月12日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和61年11月25日、名称を「面実装型半導体パッケージ包装体」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭61ー278610号)が、平成8年12月2日に拒絶査定を受けたので、平成9年2月26日、これに対する不服の審判の請求をした。 特許庁は、同請求を平成9年審判第2869号事件として審理したうえ、平成10年10月12日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月26日、原告に送達された。 2 本願発明の要旨 樹脂封止された面実装型半導体パッケージと、マガジンまたはトレーと、吸湿剤と、透湿度2.0g/u・24hrs以下の包装用袋体とからなり、上記袋体内に、上記面実装型半導体パッケージを収納した上記マガジンまたはトレーと、上記吸湿剤とを入れ、上記包装用袋体を密封することにより構成されたことを特徴とする面実装型半導体パッケージ包装体。 3 審決の理由の要点 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、いずれも本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である「第14回信頼性・保全性シンポジウム発表報文集」303〜306頁所収報文(以下「引用例1」という。)、特開昭61ー178877号公報(以下「引用例2」という。)及び実公昭55ー52681号公報(以下「引用例3」という。)にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができないとした。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例2に「DIP型半導体(2)と、 シリカゲルと、筒体(3)と、キャップ(6)とからなり、防湿を配慮して、上記筒体内に、上記DIP型半導体と上記シリカゲルとを入れ、上記筒体を上記キャップで密封することにより構成されるDIP型半導体包装体」(審決書5頁17行〜6頁2行、以下「引用例2発明B」という。)が記載されていること、引用例3に「集積回路の吸湿による性能低下防止を考慮した包装体であって、集積回路(5)と、透湿度の低いフイルム(3)から形成された袋体(A)とからなり、上記袋体内に、上記集積回路を入れ、上記袋体を密封することにより構成される集積回路包装体」(同6頁15〜18行、以下「引用例3発明」という。)が記載されていること、本願発明と後記引用例2発明Aとの一致点及び相違点(2)の認定、並びに相違点(2)についての判断は認める。 引用例2に「フラットパッケージ型半導体(22)と、トレー(23)と、袋状のビニールシート(24)とからなり、防湿を配慮して、上記袋状のビニールシート内に、 上記フラットパッケージ型半導体を収納した上記トレーを入れ、上記袋状のビニールシートを密封することにより構成されるフラットパッケージ型半導体包装体」(同5頁4〜10行、以下「引用例2発明A」という。)が記載されているとの認定は、引用例2発明Aの構成上不可欠である、袋状ビニールシート内部を真空化する点を看過したとの限度で争い、その余の部分は認める。 引用例1の記載事項の認定、本願発明の課題についての認定(同7頁3〜10行)、本願発明と引用例2発明Aとの相違点(1)の認定及びそれについての判断、 並びに本願発明の効果についての判断は争う。 審決は、引用例2発明Aに係る技術事項を誤認して、本願発明と引用例2発明Aとの相違点(1)の認定及びそれについての判断を誤り、更に、本願発明の作用効果についての判断を誤った結果、本願発明が、引用例1〜3にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。 1 取消事由1(相違点(1)の認定・判断の誤り) (1) 審決は、本願発明と引用例2発明Aとの相違点(1)として、「本願発明は『吸湿剤』を包装用袋体に入れる点」(審決書8頁3〜4行)との認定をしたが、 引用例2発明Aが袋状ビニールシート内部を真空化する点を看過した誤りがある。 すなわち、引用例2に、その実施例2(引用例2発明A)につき、「本実施例2の収納具21による収納方法を説明する。まず、トレー23の上に所定数の製品22を載置したのち、該トレー23を袋状のビニールシート24で覆う。その後、該ビニールシートで覆われた内部の空気を機械的に抜き取り真空状態にする。 この真空状態を維持しながら、ビニールシート24の開口端部24a、24bを熱もしくは超音波を印加しつつ圧着して内部を密封する。このように、本実施例2によれば、収納具21の内部を真空状態で維持することができるため、製品22を長時間保存する場合にも製品22が吸湿することなく高い信頼性を維持することができる。」(甲第6号証3頁左上欄10行〜右上欄3行)と記載されているとおり、 引用例2発明Aは、袋状のビニールシートの内部を真空化しているところ、この真空化は、内部の湿気を含む空気を除去し、それによリパッケージの吸湿を防ぐのであるから、吸湿防止包装としての構成上不可欠のものである。しかるに、審決は、 引用例2発明Aの認定に当たり、この真空化を看過した結果、相違点(1)の認定を誤ったものであり、相違点(1)は、正しくは、「引用例2発明Aは包装用袋体の内部を真空化するのに対し、本願発明は吸湿剤を包装用袋体に入れる点」と認定すべきであった。 (2) 審決は、その認定に係る相違点(1)につき、「引用例1に記載されているとおり、面実装型半導体パッケージである電子部品においてはドライボックス等に保管してパッケージの吸湿を防止することが広く知られており、また、引用例2発明Bに記載されているとおり、一般に電子部品の保管においてはパッケージ内部への吸湿を防止するため包装体内にシリカゲル等の吸湿剤を入れることも広く知られている以上、引用例2発明Aにおいて面実装型半導体パッケージとトレーと吸湿剤を袋状のビニールシートで覆い密封することは、当業者が容易に想到し得る」(審決書8頁14行〜9頁4行)と判断したが、該判断には、引用例1の記載事項を誤認したうえ、相違点(1)の認定を誤ったことによる誤りがある。 すなわち、引用例1は、実装時のパッケージクラックの原因が、ハンダ付けのための赤外線加熱時におけるエポキシ樹脂部の異常な温度上昇による熱応力であって、高温化を防ぐ手段(低温実装)を講じることにより、パッケージクラックの防止が可能であることを示し、その上で、パッケージクラックに対してより一層のマージンを有する(つまり、同じ高温化防止策の下でパッケージクラックがより一層生じにくい)ようにするための手段として、パッケージの吸湿の防止が有用である旨を付言したものであって、パッケージクラック対策としては、低温実装を必須のものとし、吸湿防止を必ずしも必要ではない単なるマージン向上のための手段としているにすぎないから、引用例1によって、面実装型半導体パッケージをドライボックス等に保管してパッケージの吸湿を防止することが広く知られていたとはいい難い。 また、審決は、相違点(1)を、単に吸湿剤を入れるか否かの相違と誤認した結果、引用例2発明Bを勘案することにより、引用例2発明Aに吸湿剤を入れることは容易に想到し得たものとしたものであるが、上記(1)のとおり、相違点(1)は、 「引用例2発明Aは包装用袋体の内部を真空化するのに対し、本願発明は吸湿剤を包装用袋体に入れる点」と認定すべきものであったから、相違点(1)については、引用例2発明Aにおいて、包装用袋体内部の真空化に加えて、あるいは真空化に代えて、吸湿剤を入れることを、容易に想到し得たか否かが判断されなければならない。 しかるところ、上記(1)のとおり、引用例2には、引用例2発明Aが包装用袋体内部を真空化することにより、「製品22を長時間保存する場合にも製品22が吸湿することなく高い信頼性を維持することができる」との効果が記載されており、また、審決が相違点(2)について判断したように、引用例2発明Aにおいて、面実装型半導体パッケージとトレーとを覆う袋状部材を、透湿度の低い2.0g/u・24hrsに設定する点に困難性が認められないのであれば、それを使用することによって、吸湿防止力が一段と強化されることが明白であるから、更に加えて、吸湿剤を封入することは考え及ばないところである。 また、引用例2発明Aにおいて、真空化と透湿度の低い袋状部材の使用により、上記のとおり、強力な吸湿防止力が得られることに加え、包装用袋体内部の真空化は、袋体を形成するビニールシートが、トレーとその上に載置された面実装型半導体パッケージに上下両面から密着してこれらを押さえ、輸送中にパッケージがトレー上を移動したりそこからこぼれたりするのを防ぐという特別の利点を有することが当業者には明らかであるから、殊更に真空化に代えて吸湿剤を封入する必要は全く見い出せない。 さらに、引用例2発明Bは、もともと透湿度の低い筒体内にDIP型半導体を入れてキャップで密封することにより簡便に密封構造を実現することに主眼があり、その際、内部に残留することになる空気中の湿気を除くために、吸湿剤を封入するものであるから、吸湿剤の封入は、筒体にキャップを嵌めるという密封形態と不可分の関係にあって、密封形態の全く異なる引用例2発明Aにおいて、包装用袋体内部の真空化に加えて、あるいは真空化に代えて、吸湿剤を入れることを示唆するものではない。なお、審決は、上記(2)のとおり、引用例2発明Bに依拠して、 「一般に電子部品の保管においてはパッケージ内部への吸湿を防止するため包装体内にシリカゲル等の吸湿剤を入れることも広く知られている」とするが、そのようなことが広く知られているということはないのみならず、それが広く知られている事実を相違点(1)についての判断の根拠とするのであれば、本願に対する拒絶理由通知にその事実を挙げておく必要があるところ、該拒絶理由通知にその記載はなかった。 したがって、引用例2発明Aにおいて、包装用袋体内部の真空化に加えて、あるいは真空化に代えて、吸湿剤を入れることを、容易に想到し得たということはできない。 2 取消事由2(本願発明の作用効果についての判断の誤り) 審決は、「本願発明の効果は、各引用発明から予測し得る程度の効果であって、格別顕著なものとは認められない。」(審決書10頁10〜12行)と判断したが、それは誤りである。 本願発明の作用効果は、平成9年3月26日付手続補正書(甲第3号証)及び平成10年5月8日付手続補正書(甲第4号証)による各補正後の本願明細書(甲第2号証)(以下、上記各補正後の本願明細書を、単に「本願明細書」という。)に記載されているとおり、「外気の侵入が阻止され、面実装型半導体パッケージは外部の湿気の影響を受けず、さらに、万が一密封状態で湿気が入り込んでも吸湿剤で湿気を吸収するため、面倒なベーク作業を要せずして、ハンダリフローしてもパッケージ界面剥離およびクラックを生じない」(甲第4号証補正の内容(5))ことである。すなわち、本願発明は、引用例2発明Aとの対比でいえば、袋体の透湿度を一段と低くするという尋常な改善に止まることなく、さらに、万が一漏入した湿気を吸湿剤で吸収するという、二重に強化された吸湿防止力を有し、その結果、吸湿防止包装のみによって実装時のパッケージクラックを防止することを可能にしたのである。 これに対し、引用例1は、上記1の(2)のとおり、パッケージクラック対策として、低温実装を必須のものとし、吸湿防止を必ずしも必要ではない単なるマージン向上のための手段としているのであるから、引用例1の記載から、吸湿防止包装のみによって実装時のパッケージクラックの防止が可能であると予測することはできない。 引用例2、3は、それぞれ、吸湿に起因する電極部分の腐食及び性能低下を防止するための吸湿防止技術を示すに止まるから、引用例2発明A、引用例2発明B及び引用例発明3から、吸湿防止包装のみによって実装時のパッケージクラックの防止が可能であると予測することも到底できない。 したがって、本願発明の作用効果が、各引用発明から予測し得る程度であって、格別顕著なものとは認められないとした審決の判断は誤りである。 |
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被告の反論の要点
審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(相違点(1)の認定・判断の誤り)について (1) 審決が、引用例2発明Aの認定に当たって袋状ビニールシート内部を真空化する点を看過した結果、本願発明と引用例2発明Aとの相違点(1)の認定を誤ったことは認める。すなわち、引用例2発明Aは「フラットパッケージ型半導体(22)と、トレー(23)と、袋状のビニールシート(24)とからなり、防湿を配慮して、上記袋状のビニールシート内に、上記フラットパッケージ型半導体を収納した上記トレーを入れ、真空状態にした後上記袋状のビニールシートを密封することにより構成されるフラットパッケージ型半導体包装体」と認定すべきであり、本願発明と上記引用例2発明Aとの相違点(1)は、原告主張のとおり、「引用例2発明Aは包装用袋体の内部を真空化するのに対し、本願発明は吸湿剤を包装用袋体に入れる点」と認定すべきものであった。 しかしながら、次に述べるとおり、引用例2発明Aにおいて、包装用袋体の内部を真空化することに代えて、吸湿材を包装用袋体に入れる構成とすることは、当業者が容易になし得ることであったから、審決の相違点(1)についての判断には、結局誤りがなく、上記誤認は審決の結論に影響を及ぼすものではない。 (2) すなわち、引用例1は、昭和59年5月29〜31日に開催された「第14回日科技連信頼性・保全性シンポジウム」において配布された発表報文集中の報文である。そして、引用例1には、「電子機器の高密度実装化に伴ない小型薄型パッケージであるフラットパッケージ(F.P.P:F1at Plastic Package)の適用が急速に進展している。」(甲第5号証303頁「はじめに」欄1〜2行)、 「パッケージを260℃以上に加熱しパッケージをクラックさせ、パッケージ全体から発生するガスを分析すると95%以上が水分である。この結果からパッケージクラックが発生する直前はタブとレジン界面の隙間に第7図の内圧:Pに相当する高圧の水蒸気が発生するものと考えられる。」(同号証306頁4〜9行)、「エポキシ樹脂は必ず吸湿するため、例えば、ドライボックス保管などを行ない吸湿を防止すれば実装時のパッケージクラックに対しより一層のマージンを有することができる。」(同頁17〜20行)との各記載があるところ、この記載に係る「フラットパッケージ」、「パッケージ」は、本願発明における面実装型半導体パッケージに相当するものである。 そうすると、面実装型半導体パッケージは、上記シンポジウムにおいて引用例1に係る発表がなされた当時において、既にその適用が急速に進展していたものであるから、その後約2年半が経過した本願出願当時においては、広い技術分野で利用されるに至っていると同時に、これに携わる多くの者が、引用例1の上記記載に係る、面実装型半導体パッケージの吸湿に起因する問題について認識していたことは、容易に推認できるところであり、審決が認定したとおり、「面実装型半導体パッケージのクラックは、パッケージ内の水分が加熱により急激に体積膨張を起こし生じるものであるという問題点、および、このようなクラックを防止するためには面実装型半導体パッケージの吸湿を防止する保管を行うことが必要であるという本願発明の課題、はいずれも引用例1に記載されているように従来より広く知られている」(審決書7頁3〜10行)ものである。 また、引用例2に「本発明の目的は、電子部品の保管・輸送時における収納具内への水分の侵入を防止して、収納される電子部品の腐食による製品不良の発生を防止することができる技術を提供することにある。」(甲第6号証2頁左上欄13〜16行)との記載があるように、引用例2発明A、引用例2発明Bとも、半導体パッケージの防湿に関する技術である。 しかるところ、物を包装体内に入れて保管するに当たり、防湿を配慮して、包装体内を真空状態にしたり、吸湿材を包装体内に入れたりすることは、例えば、乾燥食品や薬品の保管等の場合にみられるように、いずれも普通に用いられる技術事項にすぎないものであり、加えて、引用例2発明Bは、筒体内に半導体とシリカゲル(吸湿剤)を入れ、該筒体をキャップで密封しているものであるから、本願発明の課題を解決するために、引用例2発明Aにおいて、防湿に配慮して、包装用袋体の内部を真空化することに代え、吸湿材を包装用袋体に入れる構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の事項にすぎないものというべきである。 2 取消事由2(本願発明の作用効果についての判断の誤り)について 原告は、吸湿防止包装のみによって実装時のパッケージクラックの防止が可能であることは、引用例1の記載並びに引用例2発明A、引用例2発明B及び引用例発明3から予測することはできないと主張するが、引用例1に記載されているように、面実装型半導体パッケージのクラックがパッケージ内の水分が加熱により急激に体積膨張を起こし生じるものであるという問題点と、このようなクラックを防止するためには面実装型半導体パッケージの吸湿を防止する保管を行うことが必要であるという本願発明の課題が、本願出願当時、広く知られていたことは、上記1の(2)のとおりである。 そうすると、本願明細書に「外部の湿気の影響を受けないので、面実装型半導体パッケージをベークなしでハンダリフローしてもパッケージ界面剥離クラックなどの問題を生じない」(甲第2号証8頁4〜6頁、甲第3号証補正の内容6項)と記載されている本願発明の効果は、引用例2発明Aに引用例2発明B及び引用例3発明を適用することによって、当業者が当然に予測し得る程度のものであって、 格別なものではない。 したがって、審決の「本願発明の効果は、各引用発明から予測し得る程度の効果であって、格別顕著なものとは認められない。」との判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 本願発明の概要 本願明細書には、「産業上の利用分野」として、「本発明は、面実装型半導体パッケージのプリント基板などの実装用基板への実装に際しての当該パッケージ界面剥離及びクセララックを防止することができる面実装型半導体パッケージ包装体に関する。」(甲第2号証1頁20行〜2頁3行、甲第3号証補正の内容3、甲第4号証補正の内容(3))との、「従来の技術」として、「面実装型半導体パッケージ・・・にあっては、・・・パッケージ強度が低下する傾向にある。そして、当該パッケージをプリント基板などの実装用基板に面装着するに、例えばハンダリフロー時に、パッケージに熱がかかると、パッケージ内に侵入した水分が急激に体積膨脹を起こし、パッケージ界面剥離及びクラックを生ぜしめる。従来その対策の一つとして、ハンダリフロー前に、例えば125℃で長時間一般に16〜24hrsもの間ベークすることが行われているが、ベークのための炉を用意しなければならないし、なによりも、長時間のベークを要するために、作業能率の悪いものであった。」(甲第2号証2頁5行〜3頁2行)との、「発明が解決しようとする課題」として、「本発明は面実装型パッケージのパッケージ界面剥離クラックを防止する面実装型半導体パッケージ包装体を提供することを目的とする。」(甲第2号証3頁8〜10行、甲第3号証補正の内容4、甲第4号証補正の内容(4))との、「作用」として、「外気の侵入が阻止され、面実装型半導体パッケージは外部の湿気の影響を受けず、さらに、万が一密封状態で湿気が入り込んでも吸湿剤で湿気を吸収するため、面倒なベーク作業を要せずして、ハンダリフローしてもパッケージ界面剥離およびクラックを生じない。」(甲第2号証4頁7行〜5頁2行、甲第3号証補正の内容5、甲第4号証補正の内容(5))との、「発明の効果」として、「本発明によれば外部の湿気の影響を受けないので、面実装型半導体パッケージをベークなしでハンダリフローしてもパッケージ界面剥離クラックなどの問題を生じない。」(甲第2号証8頁4〜6行、甲第3号証補正の内容6)との各記載があり、これらの記載と、前示争いのない本願発明の要旨とによれば、本願発明は、面実装型半導体パッケージをハンダリフロー等の方法で実装用基板に装着する際、加熱によりパッケージ内に侵入した水分が急激な体積膨脹を起こしてパッケージ界面剥離及びクラックを生じさせることを防止するために、パッケージを保管するための面実装型半導体パッケージ包装体において、内部に保管中のパッケージが湿気(水分)の吸収をしないようにすることを課題として、本願発明の要旨のとおりの構成を採用することにより、ベーク作業を要せずして、ハンダリフローによる装着時のパッケージ界面剥離及びクラックを生じさせないとの作用効果を奏するものと認められる。 2 取消事由1(相違点(1)の認定・判断の誤り)について (1) 審決の引用例2発明Aの認定が、袋状ビニールシート内部を真空化する点を看過したものであること、その余の点では、引用例2発明Aが審決の認定した前示のとおりのものであることは、いずれも当事者間に争いがなく、このことによれば、引用例2発明Aは、「フラットパッケージ型半導体(22)と、トレー(23)と、袋状のビニールシート(24)とからなり、防湿を配慮して、上記袋状のビニールシート内に、上記フラットパッケージ型半導体を収納した上記トレーを入れ、真空状態にした後上記袋状のビニールシートを密封することにより構成されるフラットパッケージ型半導体包装体」であることが認められる。 また、審決が、前示引用例2発明Aの誤認によって、本願発明と引用例2発明Aとの相違点(1)の認定を誤り、相違点(1)が「引用例2発明Aは包装用袋体の内部を真空化するのに対し、本願発明は吸湿剤を包装用袋体に入れる点」とすべきものであることも当事者間に争いがない。 (2) 引用例1(甲第5号証)の303頁冒頭に「第14回日科技連信頼性・保全性シンポジウム」、「昭和59年5月」との記載があること及び弁論の全趣旨によれば、引用例1は、昭和59年5月に開催された第14回日科技連信頼性・保全性シンポジウムにおいて配布された発表報文集中の報文であることが認められるところ、引用例1には、「本報では、樹脂部肉厚=2.7oのパッケージで半田付実装時の熱応力を有限要素法により解析し、上述の温度でパッケージがクラックする可能性を検討し、さらにその対策として低温実装方式の可能性についても検討した。またパッケージクラックの加速要因となる水分の影響についても1考察を付け加えた。」(同号証304頁14〜18行)、「パッケージを260℃以上に加熱しパッケージをクラックさせ、パッケージ全体から発生するガスを分析すると95%以上が水分である。この結果からパッケージクラックが発生する直前はタブとレジン界面の隙間に第7図の内圧:Pに相当する高圧の水蒸気が発生するものと考えられる。」(同号証306頁4〜9行)、「この水分による影響も実装時の過熱が主因であるため実装温度の低温化が必要であると同時に、エポキシ樹脂は必ず吸湿するため、例えば、ドライボックス保管などを行ない吸湿を防止すれば実装時のパッケージクラックに対しより一層のマージンを有することができる。」(同頁15〜20行)との各記載があり、さらに3項目からなる「結論」の1項目として、 「パッケージが吸湿を防止する保管などを行うことによりパッケージクラックに対しより一層のマージンを有する実装ができる。」(同頁28〜29行)と記載されていることが認められる。 これらの記載によれば、引用例1には、面実装型半導体パッケージにおいて、実装時の加熱に伴うパッケージ内の水分の膨張圧によるパッケージクラックという問題点の指摘がなされたうえ、パッケージクラック防止のため、面実装型半導体パッケージの保管において、保管中のパッケージが湿気(水分)の吸収をしないようにするという本願発明の技術課題が示されていることが明らかである。 原告は、引用例1が、パッケージクラック対策としては、低温実装を必須のものとし、吸湿防止を必ずしも必要ではない単なるマージン向上のための手段としているにすぎないと主張するところ、引用例1(甲第5号証)において、主として記載されたパッケージクラックを生じさせないための具体的技術的手段が、実装温度を低下させることに係るものであって、吸湿の防止は、実装時のパッケージクラックに対し、より一層のマージンを有する手段として記載されているという限度では、原告主張のとおりであるが、前示のとおり、パッケージ内の水分とクラックとの関係につき具体的に説明したうえで、パッケージ保管時の吸湿防止に言及し、 さらに、これを報文としての結論の一つに掲げていることに照らせば、技術課題の開示として十分な記載があるというべきである。 (3) 引用例2(甲第6号証)には、「本発明の目的は、電子部品の保管・輸送時における収納具内への水分の侵入を防止して、収納される電子部品の腐食による製品不良の発生を防止することができる技術を提供することにある。」(同号証2頁左上欄13〜16行)、「本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。すなわち、電子部品収納具を製品収納部と該製品収納部を密封する部材とからなる構造とすることにより、収納される製品が外気にさらされることなく保管・輸送を行なうことができるため、保管・輸送時の電子部品の腐食による製品不良の発生を防止し、信頼性の高い電子部品を提供することができる。」(同頁右上欄1〜9行)との各記載があり、また、実施例1(引用例2発明B)につき、「本実施例1の電子部品収納具1はポリ塩化ビニール樹脂からなる断面略四角形の筒体3に該筒体とほぼ同尺の仕切部材4が挿入され、 さらに筒体3の両端開口部5に同じくポリ塩化ビニール樹脂からなるキャップ6が取付けられたものである。・・・このように、筒体3にキャップ6を取付けることにより、筒体3の内部は外気と遮断される。したがって、外部の湿気を製品2が吸湿し、製品不良が生じることを防止することができる。さらに、仕切部材4により仕切られた乾燥剤収納部1bにシリカゲルを充填することにより、筒体3の内部の湿度を下げることができ、製品2の保管・輸送途中における製品内部への吸湿を防止することができ、製品の腐食を防止することができる。」(同頁右上欄17行〜右下欄17行)との、実施例2(引用例2発明A)につき、「本実施例2の電子部品収納具21は製品22としていわゆるフラット・パッケージ型の半導体装置を収納するものであり、・・・本実施例2の収納具21による収納方法を説明する。まず、トレー23の上に所定数の製品22を載置したのち、該トレー23を袋状のビニールシート24で覆う。その後、該ビニールシートで覆われた内部の空気を機械的に抜き取り真空状態にする。この真空状態を維持しながら、ビニールシート24の開口端部24a、24bを熱もしくは超音波を印加しつつ圧着して内部を密封する。このように、本実施例2によれば、収納具21の内部を真空状態で維持することができるため、製品22を長時間保存する場合にも製品22が吸湿することなく高い信頼性を維持することができる。」(同号証3頁左上欄1行〜右上欄3頁)との各記載がある。 引用例2のこれらの記載に、前示(1)の引用例2発明Aの構成及び前示争いのない引用例2発明Bの構成を併せ考えれば、引用例2発明A及び引用例2発明Bは、いずれも、パッケージ型半導体等の電子部品を保管・輸送するための収納具において、密封して収納具内に湿気(水分)を含む外気が侵入することを遮断するとともに、収納具内部においても水分を排除することにより、収納される電子部品の吸湿、すなわち電子部品内部への水分の侵入を防止する技術であることが認められる。 (4) そうすると、引用例1に示された、パッケージクラック防止のため、面実装型半導体パッケージの保管において、保管中のパッケージが湿気(水分)の吸収をしないようにするという本願発明の技術課題を達成するために、引用例2発明Aにおいて、収納具内部の水分を排除するための手段である包装用袋体の内部を真空化する技術に代えて、同一引用例に記載された同一目的の手段である引用例2発明Bの吸湿剤を入れる技術を採用し、本願発明の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものであると認められる(なお、審決は、該技術課題及び吸湿剤を入れる技術が「広く知られている」とするが、引用例1、2に開示されている以上、必ずしも周知でなければならないとする理由はない。)。 (5) 原告は、引用例2発明Aにおいて、真空化と透湿度の低い袋状部材の使用により、強力な吸湿防止力が得られることに加え、包装用袋体内部の真空化には、 袋体を形成するビニールシートが、トレーとその上に載置された面実装型半導体パッケージに密着してこれらを押さえ、輸送中にパッケージがトレー上を移動したりそこからこぼれたりするのを防ぐという特別の利点があるから、当業者が、殊更に真空化に代えて吸湿剤を封入する必要は全く見い出せないとし、また、引用例2発明Bにおける吸湿剤の封入は、密封形態の全く異なる引用例2発明Aにおいて、包装用袋体内部の真空化に代えて吸湿剤を入れることを示唆するものではないとして、それが当業者にとって容易に想到し得るものではないと主張する。 しかしながら、吸湿材を入れることが包装用袋体の内部を真空化することに比べより簡便な技術手段であること等に鑑みれば、包装用袋体内部の真空化が、 強力な吸湿防止力を有し、あるいはビニールシートが面実装型半導体パッケージ等に密着することによる主張の利点があるからといって、これを吸湿材を入れる構成に代える必要を見い出せないとはいえず、このことに、前示のとおり、包装用袋体の内部を真空化する技術と吸湿剤を入れる技術とが、同一引用例に記載された同一目的の手段であることを併せ考えれば、真空化に代えて吸湿剤を入れることが、当業者にとって容易に想到し得るものであることは明らかであり、原告の前示主張を採用することはできない。 (6) なお、審決が本願発明と引用例2発明Aとの相違点(1)の認定を誤ったことは前示のとおりであるが、該誤りが、いわゆる主引用例において従引用例の構成により置換される構成の特定を欠いたにすぎず、かつ、以上のとおり、該誤りを正した場合においても、従引用例である引用例2発明Bの吸湿剤を入れる構成を採用することの容易想到性に何ら変わりがないから、前示誤りは審決の結論に影響を及ぼすおそれのあるものということはできない。 3 取消事由2(本願発明の作用効果についての判断の誤り)について 本願発明は、前示のとおり、パッケージ界面剥離及びクラックを生じさせることを防止するため、パッケージを保管する面実装型半導体パッケージ包装体において、内部に保管中のパッケージが湿気(水分)の吸収をしないようにすることを課題とし、本願発明の要旨のとおりの構成を採用することにより、ベーク作業を要せずして、ハンダリフローによる装着時のパッケージ界面剥離及びクラックを生じさせないとの作用効果を奏するものと認められる。 しかるところ、原告は、本願発明は、引用例2発明Aとの対比でいえば、袋体の透湿度を一段と低くするという尋常な改善に止まることなく、さらに、万が一漏入した湿気を吸湿剤で吸収するという、二重に強化された吸湿防止力を有し、その結果、吸湿防止包装のみによって実装時のパッケージクラックを防止することを可能にしたもので、引用例1〜3の記載から、吸湿防止包装のみによって実装時のパッケージクラックの防止が可能であると予測することはできないと主張する。 しかしながら、引用例2発明Aにおいて、包装用袋体の内部を真空化する技術に代え、引用例2発明Bの吸湿剤を入れる技術を採用して、本願発明の構成とすることにより、袋体の透湿度を一段と低くする(認定及び判断につき当事者間に争いのない相違点(2)に係る技術手段によるものである。)だけでなく、漏入した湿気は吸湿剤で吸収するという、二重に強化された吸湿防止力を有するに至ることは明らかである。そして、前示のとおり、引用例1に、実装時の加熱に伴うパッケージ内の水分の膨張圧によるパッケージクラックという問題点の指摘がなされたうえ、 パッケージクラック防止のため、面実装型半導体パッケージの保管において、保管中のパッケージが湿気(水分)の吸収をしないようにするという技術課題が示されていることに、該構成の二重に強化された吸湿防止力を併せ考えれば、この構成を採用した結果、吸湿防止包装のみによって、実装時のパッケージクラックを防止し得ることは、当業者にとって、当然に予想することのできる範囲内のものであると認めることができる。 したがって、「本願発明の効果は、各引用発明から予測し得る程度の効果であって、格別顕著なものとは認められない。」とした審決の判断に誤りはなく、原告の前示主張を採用することはできない。 4 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 田中康久 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 清水節 |