関連審決 | 異議1997-73550 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 出願公開 / 技術常識 / 設定登録 / 請求の範囲 / 減縮 / 独立特許要件 / 訂正明細書 / 取消決定 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
10年
(行ケ)
351号
特許取消決定取消請求事件
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原告 ソニー株式会社代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁理士 【B】 同 【C】 被告 特許庁長官【D】 指定代理人 【E】 同 【F】 同 【G】 同 【H】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2000/03/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が平成9年異議第73550号事件について平成10年9月28日にした決定を取り消す。 |
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前提となる事実(当事者間に争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は、発明の名称を「ディジタル信号記録再生装置」とする特許第2576532号(昭和62年10月15日特許出願、平成8年11月7日設定登録。以下、 「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。 【I】は、平成9年7月29日、本件特許につき特許異議の申立てをした。 特許庁は、この申立てを平成9年異議第73550号事件として審理し、原告は、平成10年2月9日訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をしたが、特許庁は、同年9月28日、本件特許を取り消す旨の決定をし、その謄本は、同年10月12日原告に送達された。 2 本件発明の要旨 (1) 本件発明(本件訂正請求前)の要旨 蒸着テープ及び回転ヘッドを使用したディジタル信号記録再生装置において、 記録ディジタル信号をM系列によりスクランブルするスクランブル処理部と、 スクランブルされた前記記録ディジタル信号に同期信号を付加する同期信号付加部と、 前記同期信号付加部の出力をプリコードするクラスIVパーシャル・レスポンスプリコーダと、 前記クラスIVパーシャル・レスポンスプリコーダの出力を前記回転ヘッドに供給する記録部と、 前記回転ヘッドにより前記蒸着テープから信号を再生する再生部と、 前記再生信号をデコードするクラスIVパーシャル・レスポンスデコーダと、 前記クラスIVパーシャル・レスポンスデコーダの出力信号を3値検出する3値検出部と、 3値検出された再生ディジタル信号より同期信号を検出するとともに、抽出された該同期信号に基づいてM系列を生成し、該M系列により前記再生ディジタル信号をデスクランブルするデスクランブル処理部とを備えることを特徴とするディジタル信号記録再生装置。 (2) 本件訂正請求後の本件発明(以下、「本件訂正発明」という。)の要旨(下線部は訂正部分である。) ※ HPでは下線部は〔 〕で表示 蒸着テープ及び回転ヘッドを使用し〔てディジタルビデオ信号を含む記録ディジタル信号を記録再生する〕ディジタル信号記録再生装置において、 記録ディジタル信号をM系列によりスクランブルするスクランブル処理部と、 スクランブルされた前記記録ディジタル信号に同期信号を付加する同期信号付加部と、 前記同期信号付加部の出力をプリコードするクラスIVパーシャル・レスポンスプリコーダと、 前記クラスIVパーシャル・レスポンスプリコーダの出力を前記回転ヘッドに供給する記録部と、 前記回転ヘッドにより前記蒸着テープから信号を再生する再生部と、 前記再生信号をデコードするクラスIVパーシャル・レスポンスデコーダと、 前記クラスIVパーシャル・レスポンスデコーダの出力信号を3値検出する3値検出部と、 3値検出された再生ディジタル信号より同期信号を検出するとともに、抽出された該同期信号に基づいてM系列を生成し、該M系列により前記再生ディジタル信号をデスクランブルするデスクランブル処理部とを備えることを特徴とするディジタル信号記録再生装置。 3 決定の理由 決定の理由は、別紙決定書の理由の写し(以下「決定書」という。)のとおりであり、決定は、本件訂正発明は、刊行物1(【J】ら「PCM-VTR実験機の試作」社団法人電子通信学会「電子通信学会技術研究報告MR79-4〜8」(1979年(昭和54年)6月26日)。甲第3号証)及び刊行物2(【K】「8ミリビデオの標準化規格案について」テレビジョン学会誌38巻3号219頁ないし225頁 昭和59年3月20日発行。甲第4号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるので、本件訂正請求は認められないところ、本件発明(本件訂正請求前)は、上記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるのであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである旨判断した。 (ただし、決定書3頁12行、13行の「ディジタル信号」は「再生ディジタル信号」の、6頁17行の「8行目」は「12行目」の、14頁2行の「特許受ける」は「特許を受ける」の、同頁4行の「2-4」は「U-4」の、それぞれ誤記である。) |
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決定の取消事由
1 決定の認否 (1) 決定の理由T(手続きの経緯)は認める。 (2) 同U(訂正の適否)中、U-1(訂正明細書の請求項1に係る発明(本件訂正発明)。決定書2頁10行ないし3頁15行)及びU-2(引用刊行物記載の発明。同3頁17行ないし8頁2行)は認める。 U-3(対比・判断。決定書8頁4行ないし14頁3行)中、刊行物1の記載事項のまとめ(同8頁4行ないし9頁16行)のうち、刊行物1に「テープ及び回転ヘッドを使用」したディジタル信号記録再生装置が記載されていると認定した点(8頁18行)は争い、その余は認める。本件訂正発明と刊行物1に記載された発明との対比(決定書9頁17行ないし10頁11行)は認める。U-3-(1)の相違点@についての判断(決定書10頁13行ないし11頁11行)のうち、刊行物1の記載部分の認定(10頁13行ないし16行及び11頁3行ないし7行)は認め、その余は争う。U-3-(2)の相違点Aについての判断(決定書11頁13行ないし13頁17行)のうち、11頁13行から12頁12行「周波数特性であり、」まで、及び12頁13行「そして」から17行「低下するが、」までは認め、その余は争う。本件訂正発明についてのまとめ(決定書13頁18行ないし14頁3行)は争う。 U-4(むすび。決定書14頁5行ないし7行)は争う。 (3) V(特許異議申立てについての判断)中、V-1(本件発明。決定書14頁10行ないし15頁14行)は争う。 V-2(特許法第29条2項違反について。決定書15頁16行ないし18頁17行)中、刊行物1、2の記載事項の認定(15頁16行ないし19行)は認める。刊行物1の記載事項のまとめ(決定書15頁末行ないし17頁11行)のうち、刊行物1に「テープ及び回転ヘッドを使用」したディジタル信号記録再生装置が記載されていると認定した点(16頁14行)は争い、その余は認める。本件発明と刊行物1に記載された発明との対比(決定書17頁12行ないし18頁6行)は認める。相違点についての判断及びまとめ(決定書18頁7行ないし17行)は争う。 V-3(むすび。決定書18頁19行ないし19頁1行)は争う。 2 取消事由 決定は、本件訂正発明の進歩性についての判断を誤ったため、独立特許要件を欠くから本件訂正請求は認められないと誤って判断し(取消事由1、2)、また、本件発明の進歩性の判断を誤ったものであるから(取消事由3)、違法なものとして取り消されるべきである。 (1) 取消事由1(本件訂正発明の進歩性の判断の誤り-相違点@) 決定は、本件訂正発明の進歩性の判断において、相違点@につき、「記録ディジタル信号に対して、実際に使用したM系列の種類を示すスクランブル表示のデータを付加した後にスクランブルを行い、更にその後ブロック同期のデータ(同期信号)を付加するようにすることは、当業者が適宜なし得ることと認められる。」(決定書10頁18行ないし11頁3行)、「再生時には、再生ディジタル信号中のブロック同期信号を検出し、その直後のスクランブル表示によりM系列を生成することは、当業者が必要に応じ適宜なし得ることと認められる。」(同11頁7行ないし11行)と判断するが、誤りである。 ア(ア) 刊行物1には、その記載全体からすると、本件訂正発明のようにスクランブルの後にブロック同期データ(同期信号)を付加することの開示又は示唆はない。 すなわち、刊行物1(甲第3号証)には、「1/2水平走査期間のPCM化映像信号280サンプル(840ビット)に、パリティ48ビット、ブロック同期27ビット、スクランブル表示2ビット、ブロック番号7ビット、予備18ビットを図示の順に付加したもので1ブロックを構成している。」(40頁左欄20行ないし25行)と記載されているが、第6図(39頁)では、1ブロックの最後の位置にパリティ48ビットが示されており、上記記載ではこのパリティ48ビットが最初に付加されることになり、刊行物1に記載された「図示の順」を、決定がいう「付加する」順序と解すると技術的な矛盾を生じる。 また、刊行物1の第5図(37頁)には、パリティ発生器がスクランブラの前段に設けられた構成が記載されている一方で、第6図(39頁)には、パリティ発生器から発生するパリティ48ビットが1ブロックの最後に位置していることが示されており、第5図の構成を前提とすれば、スクランブラの前で、1ブロックの構成が完成していることにほかならず、決定のいう「スクランブルを行い、更にその後ブロック同期のデータ(同期信号)を付加する」(決定書10頁末行ないし11頁2行)ことにはならない。 さらに、刊行物1の第6図に示す記録ディジタル信号の構成では、1ブロックの信号構成(942ビット)がパリティブロックの配置中の1ブロックに対応するものとして示されている。この記載を前提とすれば、スクランブラの前段において、 1ブロックの信号構成に含まれるブロック同期、スクランブル表示、ブロック番号、予備を付加することになり、本件訂正発明のように、スクランブルの後で同期信号を付加する手段を示すものではない。 (イ) 被告は、乙第1号証に基づく主張をするが、乙第1号証に記載のものは、衛星放送の音声系を前提とするものであり、本件訂正発明の周知技術・技術水準等を示すものとしては不適当であり、被告の上記主張は失当である。 イ したがって、決定の相違点@についての判断は、刊行物1に記載されていない点を引用して進歩性の判断をしたものであり、誤りである。 (2) 取消事由2(本件訂正発明の進歩性の判断の誤り-相違点A) 決定は、本件訂正発明の進歩性の判断において、相違点Aにつき、「回転ヘッドを使用したディジタル信号記録再生装置のような直流分を伝送しにくい伝送系において、高密度記録を行うために、また蒸着テープの出力の周波数特性とクラスWパーシャルレスポンスのスペクトラムがよく適合することにより良好なS/N比を得るために、クラスWパーシャル・レスポンス方式と蒸着テープを組み合わせることは、当業者が容易になし得ることと認められる。」(決定書13頁9行ないし17行)と判断するが、誤りである。 ア 決定は、上記判断の理由として、蒸着テープは「高域側の減衰量が小さくなっており、また出力特性のピーク値が高域側になっており、本件訂正発明の第4図のような周波数-レベルのグラフを描いたときに、従来テープの場合に比べて、蒸着テープの周波数特性のピーク値が高域側に移り、クラスWパーシャルレスポンスの識別点スペクトラムのピーク値側に移ると認められ、そしてその結果、蒸着テープの出力の周波数特性とクラスIVパーシャルレスポンスのスペクトラムが従来テープに比べてよく適合するようになることは予測可能な範囲であると認められる」旨(決定書12頁17行ないし13頁8行)と認定するが、この認定は、根拠を欠く。 (ア) 第1に、刊行物2(甲第4号証)の記載事項は、「アナログビデオ信号」を記録再生する信号記録再生装置について記載されたものである。これに対し、本件訂正発明及び刊行物1で適用されたクラスIVパーシャル・レスポンス方式は、「ディジタルビデオ信号」の記録再生のための技術である。したがって、アナログビデオ信号を記録再生する点についてのみ記載された刊行物2をもって、「蒸着テープの出力の周波数特性とクラスIVパーシャルレスポンスのスペクトラムが従来テープに比べてよく適合するようになることは予測可能な範囲」と認めることはできない。 (イ) 第2に、刊行物2(甲第4号証)の「3.5 記録信号の構造と周波数配置」(222頁右欄15行ないし223頁左欄13行)及び「図7 記録信号の周波数スペクトラム」(223頁)には、記録信号の周波数スペクトラムについて記載されているが、この図7によれば、FM変調されたアナログビデオ信号の帯域は白先頭で5.4MHzであり、せいぜい約5〜6MHzまでの周波数特性しか示していない。これに対し、本件訂正発明の特性は、実際にディジタル映像信号を記録する時に必要な周波数特性を示しており、約0ないし15MHzの特性が示されており(甲第2号証第4図参照)、本件訂正発明における高域側は約6ないし14MHzである。 磁気テープの周波数特性は、実際に記録再生しようとする信号の周波数に対応して重要であるものであるから、周波数の値が全く相違する刊行物2の記載は、本件訂正発明におけるようなディジタルビデオ信号を記録再生する場合の周波数特性の判断の前提とすることはできない。 (ウ) 第3に、刊行物2(甲第4号証)は、「メタル粉テープ、メタル蒸着テープなどの新記録媒体を中心とするVTRの基本技術は、」(220頁左欄1行、2行)、「(3) 幅8mmのメタル粉テープおよびメタル蒸着テープ」(220頁右欄17行、18行)と記載されているように、メタル粉テープとメタル蒸着テープとを区別せずに扱っている。したがって、決定における「蒸着テープは・・・高域側の減衰量が小さくなっており、また出力特性のピーク値が高域側になっており、」(決定書12頁17行ないし19行)との認定は、刊行物2の記載を逸脱した認定、判断である。 (エ) 被告は、乙第2号証に基づく主張をするが、乙第2号証に示す蒸着テープに関する特性についての記載は、刊行物2の図2に示されていること以上のものを何ら開示するものではない。 イ そして、本件訂正発明は、クラスIVパーシャルレスポンス方式の識別点のスペクトラムとヘッド出力の周波数特性とをよく適合させるために、周波数特性をイコライザで補償する場合、蒸着テープを使用すれば、他の酸化物テープ、メタル塗布テープを使用した場合に比較して、高域の補償量が少なくてすみ、S/N比が悪くなることを防止することができるという特有の効果を奏するものである。 (3) 取消事由3(本件発明の進歩性についての判断の誤り) 前記(1)及び(2)に述べたことからすると、決定のした本件発明の進歩性の判断も誤りである。 |
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決定の取消事由に対する認否及び反論
1 認否 原告主張の取消事由は争う。 2 反論 (1) 取消事由1(本件訂正発明の進歩性の判断の誤り-相違点@)について ア データにスクランブルを行い、その後に同期信号を付加して送信し、受信側では、同期信号を検出してからデスクランブルを行うことは、技術常識である(乙第1号証参照)。 映像信号をテープに記録する際には、同期信号も記録させるものであり、同期信号はどこにどのように配置するかは、当業者が適宜なし得ることであり、本件訂正発明のようにスクランブル後に同期信号を付加するようにすることは、当業者が適宜なし得ることと認められる。また、記録する際にM系列でスクランブルしたものを再生する場合には、デスクランブルしなければならず、「記録ディジタル信号をM系列によりスクランブルするスクランブル処理部と、スクランブルされた前記記録ディジタル信号に同期信号を付加する同期信号付加部、前記同期信号付加部の出力をプリコードするクラスWパーシャル・レスポンスプリコーダ」の順で記録されたものを再生する場合には、その逆をたどるものである。したがって、再生ディジタル信号より同期信号を検出し、抽出された同期信号に基づいてM系列を生成し、 該M系列により再生ディジタル信号をデスクランブルすることは、当業者が適宜なし得ることである。 イ 刊行物1(甲第3号証)には、「1/2水平走査期間のPCM化映像信号280サンプル(840ビット)に、パリティ48ビット、ブロック同期27ビット、スクランブル表示2ビット、ブロック番号7ビット、予備18ビットを図示の順に付加したもので1ブロックを構成している。」(40頁左欄20行ないし25行)と記載されているが、この記載の前に、「ブロック構造は第6図中に示した様に映像信号の1/2水平走査期間分を中心に構成する。」(40頁左欄16行、 17行)と記載されていることからすると、「図示の順に付加した」とは、第6図(39頁)の構成のことである。そして、上記第6図によれば、1ブロックの構成として、ブロック同期27ビット、スクランブル表示2ビット、ブロック番号7ビット、予備18ビット、映像840ビット、パリティ48ビットの順としたと構成が記載されている。 これに対し、刊行物1の第5図(37頁)によれば、デジタル化した映像信号を時間軸圧縮し、パリティを付加し、スクランブルした後、変調器で変調し、磁気ヘッドを介し磁気テープに記録することが記載されているが、この第5図の構成では、ブロック同期、スクランブル表示、ブロック番号、予備がどこで付加されるかその構成は示されておらず、明瞭でない。 したがって、この第5図の構成を前提として、スクランブルの前で1ブロックの構成が完成しているとか、スクランブルの前段において、1ブロックの信号構成に含まれるブロック同期、スクランブル表示、ブロック番号、予備を付加することになるとする原告の主張は失当である。 (2) 取消事由2(本件訂正発明の進歩性の判断の誤り-相違点A)について ア(ア) 刊行物1(甲第3号証)には、「変調及び検出方式の選択に際しては、ビットレート、必要帯域幅、アイパターンの開口、信号スペクトル中の直流分の処理、隣接トラックからの漏洩信号などについて考慮した。高記録密度の観点から、信号帯域が比較的狭いNRZ記録方式を取りあげ、積分検出、振幅検出、パーシャルレスポンス方式などの比較検討を行ない、その結果、インターリーブドNRZI記録により、パーシャルレスポンス(1、0、-1)方式を構成するディジタル信号の変調及び検出方式を採用した。」(40頁左欄40行ないし右欄8行)、 「SN比に関しては、本方式と積分検出方式の差はほとんどないが、データー識別点の信号の低周波成分に大きな差があり、低周波成分の非常に少ない本方式はトラック間漏洩が少なくトラック密度を高くする場合に有利であり、また回転トランスによる低域遮断がある場合にも都合が良い。」(40頁右欄25行ないし31行)と記載されており、刊行物2(甲第4号証)には、8ミリビデオの標準化案について記載され、記録媒体として蒸着テープが使用され、その第2図によれば、従来の記録媒体であるテープ(メタル粉テープ、Co-γ-Fe2O3テープ)に比べ、蒸着テープは、低域成分は低下するが、高域側の減衰量が小さいこと、また、周波数特性のピーク値が高域側に移っていることが記載されている。 (イ) また、蒸着テープは、従来のテープに比べ、低域成分が低下するが、 高域側の減衰量が小さくなっており、出力のピーク値が高域側になっており、画像信号やPCM音声記録に適していることは、乙第2号証(「別冊エクレトロニクスライフ 最新のビデオ 8ミリビデオからハイファイビデオまで」1985年(昭和60年)発行)にも記載されている。 (ウ) 以上のとおり、刊行物1記載のパーシャルレスポンス(1、0、-1)方式(本件訂正発明の「クラスWパーシャルレスポンス」に相当)は、低周波成分が非常に少ないものであり、刊行物2の第2図は、蒸着テープが従来テープに比べ高密度に適した媒体であるが、低域成分の記録再生が十分にできない特性を有しているものであり、その周波数特性のピーク値が高域側に移っていることを定性的に示していることからすると、刊行物2の第2図に記載された周波数-相対出力レベル特性がアナログ記録再生時のものであり、刊行物2の第2図に記載された特性と本件訂正発明の第4図に記載された特性とはその周波数領域が異なっている点を考慮しても、ディジタル記録再生する際に、パーシャルレスポンス(1、0、-1)方式と蒸着テープとの適合性がよいのではないかと両者を組み合わせてみることは当業者なら当然試みることである。 (エ) 原告は、刊行物2では、メタル粉テープとメタル蒸着テープを区別せずに扱っている旨主張するが、刊行物2の図2の「ビデオテープの特性例」の記載によれば、メタル蒸着テープ、メタル粉テープ、通常のCo-γ-Fe2O3テープと明確に区別しており、原告の上記主張は失当である。 イ そして、パーシャルレスポンス(1、0、-1)方式と蒸着テープとを組み合わせた場合に、酸化物テープ等を使用した場合と比較して、高域の補償量が少なくてすみ、S/N比が悪くなることを防止することができるとの効果を奏することは、予想し得るものである。 (3) 取消事由3(本件発明の進歩性についての判断の誤り)について 前記(1)及び(2)によれば、決定のした本件発明の進歩性の判断にも誤りはない。 理 由1 争いのない事実 (1) 訂正の適否の判断のうち、U-1(訂正明細書の請求項1に係る発明。決定書2頁10行ないし3頁15行)、U-2(引用刊行物記載の発明。決定書3頁17行ないし8頁2行)は、当事者間に争いがない。 そして、U-3(対比・判断。決定書8頁4行ないし14頁3行)中、刊行物1の記載事項のまとめ(同8頁4行ないし9頁16行)のうち、刊行物1に「テープ及び回転ヘッドを使用」したディジタル信号記録再生装置が記載されていると認定した点(同8頁18行)を除く事実も、当事者間に争いがなく、本件訂正発明と刊行物1に記載された発明との対比(同9頁17行ないし10頁11行)は、当事者間に争いがない。 2 取消事由1(本件訂正発明の進歩性の判断の誤り-相違点@)について (1) 同期信号の付加、検出等に関する相違点@についての決定の判断(決定書10頁13行ないし11頁11行)のうち、刊行物1の記載部分の認定(同10頁13行ないし16行及び11頁3行ないし7行)は、当事者間に争いがない。 (2) 相違点@の判断の点 ア 刊行物1(甲第3号証)に「第6図に記録ディジタル信号の構成の概要を示した。」(40頁左欄2行、3行)との記載があること(決定書4頁9行、10行)、及び「1/2水平走査期間のPCM化映像信号280サンプル(840ビット)に、パリティ48ビット、ブロック同期27ビット、スクランブル表示2ビット、ブロック番号7ビット、予備18ビットを図示の順に付加したもので1ブロックを構成している。」(40頁左欄20行ないし25行)との記載があること(決定書4頁19行ないし5頁4行)は、前記のとおり、当事者間に争いはない。 そして、刊行物1に記載された発明においても、「記録ディジタル信号をM系列によりスクランブルするスクランブル処理部」(決定書9頁1行、2行)を備えていることは、前記のとおり、当事者間に争いがなく、甲第3号証及び弁論の全趣旨によれば、上記スクランブル表示ビットは、PCM-VTR実験機の設計、試作の中で、4種類のM系列のうち実際に使用されたM系列の種類を示すものであることが認められる。 イ(ア) 弁論の全趣旨によれば、再生側の同期信号の抽出は、通常、同期信号のビット(0又は1)のパターンを既知で特異なもの(データ中には現れないもの)としておき、それを抽出することによりされるが、送信時に同期信号を付加してからスクランブルを行うと、同期信号のビットパターンがどのように変化するか分からず、再生側において同期信号を抽出することが不可能となるものであり、この点は、本件発明の出願時において、技術常識に属することが認められる。 (イ) なお、この点は、乙第1号証(特開昭61-141231号公報)の記載からも裏付けられる。すなわち、乙第1号証によれば、同号証(昭和59年12月13日特許出願、昭和61年6月28日出願公開)には、「本発明は、M系列符号で、デジタルデータ信号をスクランブルして送信する送信方式に関する。」(1頁左下欄12行、13行)、「第1図は送信系を示しており、・・・このエンコーダ(5T)の出力信号は・・・インターリーブされたのち、スクランブル回路を構成するイクスクルーシブオア回路(7T)の一方の入力側に供給される。」(2頁左上欄15行ないし右上欄13行)、「第1図に戻って、イクスクルーシブオア回路(7T)より得られるスクランブルされた信号SSCはオア回路(12T)の一方の入力側に供給され・・・他方の入力側にはパルス発生器(10T)よりフレーム同期信号FSが供給され、信号SSCにフレーム同期信号FSが付加される。」(3頁右下欄1行ないし7行)、「次に、第4図は受信系を示すものである。・・・この復調器(13R)で復調された信号はフレーム同期分離回路(12R)に供給され、この分離回路(12R)で分離されたフレーム同期信号FSは、 M系列符号発生器(8R)・・・に供給される。・・・M系列信号SMはデスクランブル回路を構成するイクスクルーシブオア回路(7R)の一方の入力側に供給され・・・他方の入力側には・・・フレーム同期信号FSが分離された残りの信号、 即ちスクランブルされている信号SSCが供給される。」(3頁右下欄13行ないし4頁右上欄1行)と記載されていることが認められる。これらの記載によれば、 M系列符号で、デジタルデータ信号をスクランブルして送信する送信方式という点で、刊行物1に記載された発明と技術分野を同じくする乙第1号証に記載された発明においても、送信時には、スクランブルを行った後にフレーム同期信号を付加し、再生時には、フレーム同期信号を検出した後にデスクランブルを行うという処理を行っているものである。 ウ 以上のア、イからすると、刊行物1に記載された発明においても、映像信号にブロック同期等の信号が付加されており、送信時には、記録ディジタル信号をM系列によりスクランブルを行った後にフレーム同期信号を付加し、再生時には、 再生ディジタル信号よりフレーム同期信号を検出した後にM系列によりデスクランブルを行うという処理を行っているものであり、このことは、刊行物1に接する当業者に自明のことと認められる。 これに反する原告の主張は採用することができない。 エ そうすると、記録ディジタル信号に対して、実際に使用したM系列の種類を示すスクランブル表示のデータを付加した後にスクランブルを行い、更にその後にブロック同期のデータ(同期信号)を付加するようにすることは、当業者が適宜なし得ることであり、再生時には、再生ディジタル信号中のブロック同期信号を検出し、その直後のスクランブル表示によりM系列を生成することは当業者が必要に応じて適宜なし得ることと認められる。 (3) よって、決定の相違点@についての判断に誤りはなく、原告主張の取消事由1は理由がない。 3 取消事由2(本件訂正発明の進歩性の判断の誤り-相違点A)について (1) 蒸着テープに関する相違点Aについての決定の認定、判断のうち、決定書11頁13行から12頁17行「低下するが、」までは、訂正明細書第4図の曲線42は「蒸着テープそのものの周波数特性とは認められない」との認定部分(決定書12頁12行、13行)を除いて、当事者間に争いがない。 弁論の全趣旨によれば、周波数特性とは、主としてヘッドとテープとの相対速度により変化するものであることが明らかであるから、本件特許公報(甲第2号証)第4図の曲線42は回転ヘッドと蒸着テープとを総合した周波数特性であり、「蒸着テープそのものの周波数特性とは認められない」(決定書12頁12行、13行)との決定の認定に誤りはない。 (2)ア 刊行物2(甲第4号証)に、「8ミリビデオの標準化規格案について記載され、蒸着テープが使用されることが、そして従来のテープ(メタル粉テープ、Co-γ-Fe2O3テープ)に比べ、蒸着テープは低域成分が低下するが、高域側の減衰量が小さくなっており、また出力特性のピーク値が高域側になっていること(図2参照)が記載されている。」(決定書7頁16行ないし8頁2行)ことは、 前記のとおり、当事者間に争いがない。 イ したがって、記録ディジタル信号の低域成分が少なくなる刊行物1記載のクラスIVパーシャルレスポンス方式と、刊行物2記載の上記蒸着テープの出力の周波数特性とがよく適合することを予測し、両者を組み合わせることは、当業者が容易になし得ることと認められる。 なお、この点は、刊行物1に記載された発明のテープが酸化物系のテープであったとしても、同様に成り立つものである。 ウ また、高域の補償量が少なくて済み、S/N比が悪くなることを防止することができるという効果は、上記のように構成することから当然予測し得る程度のものであり、これをもって格別なものということはできない。 (3)ア 原告は、刊行物2には、クラスWパーシャルレスポンスの方式が適用される「ディジタル」ビデオ信号についての記載がなく、図2の特性も「アナログ」ビデオ信号の記録の場合であり、蒸着テープに固有の特性を考慮する点が示されていない旨主張する。 しかし、刊行物2に示されたものがアナログビデオ信号の記録の場合であり、クラスWパーシャルレスポンス方式のディジタルビデオ信号の例が示されていないとしても、刊行物2にその特性が示された蒸着テープを直ちにクラスWパーシャルレスポンス方式等のディジタルビデオ信号の記録に用いることができないとの技術的理由も見いだせないから、原告の上記主張は採用することができない。 イ また、原告は、周波数の値が全く相違する刊行物2の記載は、本件訂正発明におけるようなディジタルビデオ信号を記録再生する場合の周波数特性の判断の前提とすることはできない旨主張する。 しかしながら、刊行物2記載の第2図と本件訂正発明の第4図との周波数の値の相違は、主としてヘッドとテープ間の相対速度の違いにより生ずるものであるから(前記(1)参照)、原告が主張するように、周波数特性の違いから、周波数の値が全く相違する刊行物2の記載を、本件訂正発明におけるようなディジタルビデオ信号を記録再生する場合の周波数特性の判断の前提とすることはできないものと解することはできない。 ウ さらに、原告は、刊行物2は、メタル粉テープとメタル蒸着テープとを区別せずに扱っているから、決定における「蒸着テープは・・・高域側の減衰量が小さくなっており、また出力特性のピーク値が高域側になっており、」(決定書12頁17行ないし19行)との認定は、刊行物2の記載を逸脱した認定、判断である旨主張するが、刊行物2の「図2 ビデオテープの特性例」の記載によれば、刊行物2がメタル蒸着テープ、メタル粉テープ、通常のCo-γ-Fe2O3テープと明確に区別してその特性を記載していることは明らかであるから、原告の上記主張は理由がない。 (4) よって、決定の独立特許要件の判断のうち、相違点Aについての判断に誤りはなく、原告主張の取消事由2も理由がない。 4 取消事由3(本件発明の進歩性の判断の誤り)について 本件訂正発明は、「蒸着テープ及び回転ヘッドを使用したディジタル信号記録再生装置において、」との本件発明の特許請求の範囲の記載を「蒸着テープ及び回転ヘッドを使用し〔てディジタルビデオ信号を含む記録ディジタル信号を記録再生する〕ディジタル信号記録再生装置において、」と減縮するものであるが、前記1ないし3によれば、決定のした「V.特許異議申立てについての判断」(決定書14頁9行ないし19頁1行)にも誤りがないことは明らかである。 5 結論 以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結の日 平成12年3月23日) |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 市川正巳 |