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事件 平成 9年 (ワ) 28053号 特許権侵害差止請求事件
平成 11年 (ワ) 6389号 譲受債権請求事件
甲事件原告 ハウメディカ インターナショナル インコーポレー テッド(以下「原告ハウメディカ」という。) 右代表者 【A】 乙事件原告 日本ストライカー株式会社(以下「原告日本ストライ カー」という。) 右代表者代表取締役 【B】 右両名訴訟代理人弁護士 中島和雄右補佐人弁理士 【C】 両事件被告 瑞穂医科工業株式会社 右代表者代表取締役 【D】 右訴訟代理人弁護士 神谷巖
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2000/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、原告ハウメディカに対し、金一五三九万六五〇〇円及びこれに対する平成一一年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告日本ストライカーに対し、金七八四〇万九八〇〇円及びこれに対する平成一一年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用については、原告ハウメディカに生じた費用の二分の一と被告に生じた費用の五分の一を原告ハウメディカの負担とし、原告日本ストライカーに生じた費用の五分の二と被告に生じた費用の五分の一を原告日本ストライカーの負担とし、原告日本ストライカー、原告ハウメディカ及び被告に生じたその余の費用を被告の負担とする。
五 この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
一 被告は、原告ハウメディカに対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告日本ストライカーに対し、金一億四〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
一 争いのない事実等1 原告ハウメディカの特許権 原告ハウメディカは、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許請求の範囲請求項1ないし3記載の発明を「本件発明」という。)を有している。
登録番号 特許第二五九九七七七号 発明の名称 大腿骨近位部骨折固定器具 出願日 昭和六三年一二月一四日 登録日 平成九年一月九日 特許請求の範囲 別添特許公報(以下「本件公報」という。)該当欄記載のとおり。
2 構成要件の分説 本件発明の構成要件は、次のとおりに分説することができる(甲二、弁論の全趣旨)。
請求項1(以下「請求項1の構成要件@」などという。)@ 取り外し可能な取付装置(13)を使用する大腿骨近位部骨折固定器具であって、
A 大腿骨頚部ねじ(5)と、
B 近位端および遠位端を有すると共に、前記大腿骨頚部用ねじを傾斜させて受容する傾斜開口(2)並びに該近位端から伸長して該傾斜開口に連通する同軸穴(3、10)を有する骨髄内用ロッド(1)と、
C 前記同軸穴内に位置しており、前記傾斜開口内での前記頚部用ねじの回転を選択的に阻止すべく操作可能な回転止め手段(4、7)と、
D 前記取り外し可能な取付装置を受容して保持かつ位置決めすべく前記ロッドの近位端に設けられた接続手段(11)とを備えており、
E 前記接続手段は、前記取り外し可能な取付装置を受容した状態で前記回転止め手段が操作できるように前記回転止め手段から分離して構成されていることF を特徴とする大腿骨近位部骨折固定器具請求項2 前記回転止め手段は、前記頚部用ねじ(5)の外周面において長手方向に伸長する少なくとも一つの溝(7)と、前記同軸穴(3、10)内に螺合されており、先端が前記溝と選択的に係合すべく該同軸穴内を移動自在な止めねじ(4)とを含んでいる請求項1記載の骨折固定器具請求項3前記接続手段が、前記止めねじ(4)を通過させることができる前記取付装置の固定用中空ボルト(28)と螺合すべく前記同軸穴(10)に設けられた拡径雌ねじ部(11)である請求項1又は2に記載の骨折固定器具 3 被告の行為 被告は、商品名「エンネイル」及び「カイネイル」と称する二種類の大腿部骨折治療機器システム(以下、両者を合わせて「被告製品」という。)を構成する別紙物件目録一ないし九に記載する各部品を製造し、本件特許権の登録日である平成九年一月九日から平成一〇年三月一四日までの間に、
「エンネイル」 ショート製品六八〇セット、ロング製品五〇セット 「カイネイル」 ショート製品二九〇セット、ロング製品二〇セットをそれぞれ販売した。
4 別紙物件目録記載の各部品と「エンネイル」及び「カイネイル」両システムの対応関係(一) 別紙物件目録一記載のイントラメデュラリーネイル(以下「イ号物件」という。)は、「エンネイル」、「カイネイル」両システムに共通して使用される必須部品であり、別紙物件目録八記載のプラグ(以下「チ号物件」という。)及び別紙物件目録九記載のロッキングスクリュー(以下「リ号物件」という。)は、いずれも右両システムに共通して使用されることのある部品である。
別紙物件目録二記載のエンネイル用ラグスクリュー(以下「ロ号物件」という。)、別紙物件目録四記載のエンネイル用セットスクリュー(以下「ニ号物件」という。)は、いずれも「エンネイル」システムにのみ使用される必須部品である。
別紙物件目録三記載のカイネイル用ラグスクリュー(以下「ハ号物件」という。)、別紙物件目録五記載のカイネイル用セットスクリュー(以下「ホ号物件」という。)及び別紙物件目録六記載のラグスクリューサポーター(以下「ヘ号物件」という。)は、いずれも「カイネイル」システムにのみ使用される必須部品であり、別紙物件目録七記載のコンプレッションスクリュー(以下「ト号物件」という。)は、同システムに使用されることのある部品である。
(二) 「エンネイル」システムは、常にイ号物件、ロ号物件及びニ号物件を、また必要に応じてチ号物件又はリ号物件をも使用して、別紙参考図一に示す方式により患者の大腿骨部に装着するものである。
「カイネイル」システムは、常にイ号物件、ハ号物件、ホ号物件及びヘ号物件を、また必要に応じてト号物件、チ号物件又はリ号物件をも使用して、別紙参考図二に示す方式により患者の大腿骨部に装着するものである。
(三) 右両システムの患者の大腿骨部の装着に際しては、別紙参考図三に示すターゲットデバイスと称する取付用の装置を使用する。
5 被告の「エンネイル」システムの構成 被告の「エンネイル」システムの具体的構成(以下「構成A」などという。)は、次のとおりである。
A 中空のロッキングボルトを脱着することにより取り外し可能なターゲットデバイスと称する取付装置(別紙参考図三)を使用して患者の大腿骨部に取り付ける、
大腿骨近位部骨折に対する髄内固定に用いる器具である。
B ラグスクリュー(ロ号物件)は、別紙物件目録二に示す形状の大腿骨頚部装着用のねじである。先端部に数条の粗ネジ山を設けてあるほかロッド部分の外周面には長手方向に伸長する四本の溝がほぼ等間隔に設けてある。
「エンネイル」システムの構成に際しては、粗ネジ山を設けた先端部を先頭に、
後記Cに述べるイントラメデュラリーネイルに設けられた傾斜開口部を斜上方向に横断的に貫いて大腿骨頚部に装着される。
C イントラメデュラリーネイル(イ号物件)は、別紙物件目録一に示す形状の骨髄内装着用のロッドである。同ロッド内を傾斜して横断的に貫く前記ラグスクリューを受容かつ保持するための傾斜開口部を有するとともに、同ロッドの上端から伸長して右傾斜開口部に連通する同軸穴を有している。
D セットスクリュー(ニ号物件)は、別紙物件目録四に示す形状の回転止めねじである。中央ねじ山から先端方向のロッド部分が段差を設けて太さの異なる二段に構成され、先端側の細いロッド部分の最先端は半球状に形成されている。
「エンネイル」システムの構成に際しては、前記イントラメデュラリーネイルの前記同軸穴内の下方内壁に形成された雌ねじに螺合して上下移動可能に収容され、
その下降移動により右先端部が前記傾斜開口内に位置する前記ラグスクリューの前記溝のうちの適宜の一本に接してこれと係合して、ラグスクリューの前記傾斜開口部内における回転を阻止する役割を果たしている。
E 前記イントラメデュラリーネイルの前記同軸穴の上方内壁には雌ねじ部が形成されている。
「エンネイル」システムの構成に際しては、前記ターゲットデバイスに付設される前記中空のロッキングボルトと螺合してこれを受容かつ保持することにより、ターゲットデバイスをイントラメデュラリーネイルに接続する。
F 前記イントラメデュラリーネイルの同軸穴内上方内壁の径は、下方内壁の径より拡大して形成され、前記セットスクリューを自由に通過させるだけの径を有している。
右のように同軸穴上方内壁の径が拡大していることにより、「エンネイル」システムの構成に際しては、前記ターゲットデバイスの前記中空のロッキングボルトが右拡径部内壁に形成された前記雌ねじ部を螺合接続した状態で前記セットスクリューの操作ができることになる(別紙参考図四参照)。
G プラグ(チ号物件)は、別紙物件目録八に示す形状の部品である。「エンネイル」システムの構成に際しては、前記イントラメデュラリーネイルの上端と大腿骨頂部との段差を解消するための長さ調節用に必要に応じて使用される部品である。
イントラメデュラリーネイル及び前記ラグスクリューの取付け及び位置決めに次いで前記セットスクリューの操作によりラグスクリューの回転止め作業が完了した後、イントラメデュラリーネイルの上端に取り付けられる。なお、患者の骨格等により使用しない場合もある。
H ロッキングスクリュー(リ号物件)は、別紙物件目録九に示す形状の固定用ねじである。
「エンネイル」システムの構成に際しては、通常、前記イントラメデュラリーネイルを大腿骨髄内に装着する場合の固定度増強のため、その遠位端付近にこれとほぼ直角に一本ないし二本取り付けられる、なお、場合により使用しない場合もある。
I 大腿骨近位部骨折固定器具である。
6 被告の「カイネイル」システムの構成 被告の「カイネイル」システムの具体的構成(以下「構成a」などという。)は、次のとおりである。
a 中空のロッキングボルトを脱着することにより取り外し可能なターゲットデバイスと称する取付装置(別紙参考図三)を使用して患者の大腿骨部に取り付ける、
大腿骨近位部骨折に対する髄内固定に用いる器具である。
b ラグスクリュー(ハ号物件)は、別紙物件目録三に示す形状の大腿骨頚部装着用のねじである。先端部に数条の粗ネジ山が形成され、短い接続部を経て、その余の部分は外断面が略六角形のロッドをなし、中心部には全体を通じて穴が穿たれていて、この穴のロッド側端の内面には雌ねじが切られている。
「カイネイル」システムの構成に際しては、粗ネジ山を設けた先端部を先頭に、
後記cに述べるイントラメデュラリーネイルに設けられた傾斜開口部を、後記gに述べるラグスクリューサポーターを介して、斜上方向に横断的に貫いて大腿骨頚部に装着される。
c イントラメデュラリーネイル(イ号物件)は、別紙物件目録一に示す形状の骨髄内装着用のロッドである。同ロッド内を傾斜して横断的に貫く前記ラグスクリューを、後記gのラグスクリューサポーターを介して受容かつ保持するための傾斜開口部を有するとともに、右ロッドの上端から伸長して右傾斜開口部に連通する同軸穴を有している。
d セットスクリュー(ホ号物件)は、別紙物件目録五に示す形状の回転止めねじである。短小な円筒状ロッドのほぼ中央部にねじ山が形成されている。ねじ山から先端方向のロッド部はその径がやや狭められた円筒状をなし、最先端は円形に裁断されている。
「カイネイル」システムの構成に際しては、前記イントラメデュラリーネイルの前記同軸穴内の下方内壁に形成された雌ねじに螺合して上下移動可能に収容され、
その下降移動により右円形に断裁された先端部の角が、前記イントラメデュラリーネイルの傾斜開口内に位置する後記gのラグスクリューサポーターの滑り止め部に当接してラグスクリューサポーターの前記傾斜開口部内における回転を阻止することを介して、ラグスクリューサポーター内での回転が阻止されているラグスクリューの前記傾斜開口部内における回転を阻止する役割を果している。
e 前記イントラメデュラリーネイルの前記同軸穴の上方内壁には雌ねじ部が形成されている。
「カイネイル」システムの構成に際しては、前記ターゲットデバイスに付設される前記中空のロッキングボルトと螺合してこれを受容かつ保持することにより、ターゲットデバイスをイントラメデュラリーネイルに接続する。
f 前記イントラメデュラリーネイルの同軸穴内上方内壁の径は、下方内壁の径より拡大して形成され、前記セットスクリューを自由に通過させるだけの径を有している。
右のように同軸穴上方内壁の径が拡大していることにより、「カイネイル」システムの構成に際しては、前記ターゲットデバイスの前記中空のロッキングボルトが右拡径部内壁に形成された前記雌ねじ部と螺合接続した状態で前記セットスクリューの操作ができることになる(別紙参考図五参照)。
g ラグスクリューサポーター(ヘ号物件)は、別紙物件目録六に示す筒状部品であって、外面の大部分にわたり斜交差する多数の細溝が刻まれ、滑り止め部を形成している。筒内面はその一部断面が略六角形をなし、ストッパー側の内径は他側の内径に比しやや大きくなっており、これがためその境界部に段差が生じている。
このラグスクリューサポーターは、前記イントラメデュラリーネイルの傾斜開口部を貫いて同開口部に収容され、右筒内面には、前記ラグスクリューの外断面が略六角形のロッド部が回転不能かつ出入自在に収容される。
h コンプレッションスクリュー(ト号物件)は、別紙物件目録七に示すごとく頭部を有する止めねじであって、その主要部は一定径の円柱状をなし、外側には雄ねじが切られている。その頭部の径は前記ラグスクリューサポーターの内径の大きい側よりも小さく、同内径の小さい側よりも大きい。
「カイネイル」システムの構成に際しては、その雄ねじ部を前記ラグスクリューのロッド部内面の雌ねじに螺合させ、その頭部座面を前記ラグスクリューサポーター内径の段差部分に当接させることにより、ラグスクリューの大腿骨頚部方向への滑動を阻止する役割を担っている。
ただし、ラグスクリューの大腿骨頚部方向への滑動を阻止する必要のない場合は使用しないこともある。
i プラグ(チ号物件)は、別紙物件目録八に示す形状の部品である。「カイネイル」システムの構成に際しては、前記イントラメデュラリーネイルの上端と大腿骨頂部との段差を解消するため必要に応じて使用される長さ調節用の部品である。イントラメデュラリーネイル及び前記ラグスクリューの取付け及び位置決めに次いで前記セットスクリューの操作によりラグスクリューの回転止め作業が完了した後、
イントラメデュラリーネイルの上端に取り付けられる。なお、患者の骨格等により使用しない場合もある。
j ロッキングスクリュー(リ号物件)は、別紙物件目録九に示す形状の固定用ねじである。
「カイネイル」システムの構成に際しては、通常、前記イントラメデュラリーネイルを大腿骨髄内に装着する場合の固定度増強のため、その遠位端付近にこれとほぼ直角に一本ないし二本取り付けられる。なお、場合により使用しない場合もある。
k 大腿骨近位部骨折固定器具である。
7 本件発明と「エンネイル」システムの対比(一) 「エンネイル」の構成Bの前記ラグスクリュー(ロ号物件)は、大腿骨頚部装着用のねじであるから、請求項1の構成要件Aの「大腿骨頚部用ねじ」に相当する。
したがって、「エンネイル」は、請求項1の構成要件Aを充足する。
(二) 「エンネイル」の構成Cの前記イントラメデュラリーネイル(イ号物件)は、前記ターゲットデバイス側の上端を近位端、その反対側の下端を遠位端と呼ぶことができるから、請求項1の構成要件Bの「近位端及び遠位端を有する」こととなり、そのロッド内を傾斜して横断的に貫通する前記ラグスクリューを受容しかつ保持するための傾斜開口部を有する点は「大腿骨頚部用ねじを受容する傾斜開口を有する」ことに、その上端から伸長して右傾斜開口部に連通する同軸穴を有している点は「該近位端から伸長して該傾斜開口に連通する同軸穴を有する」ことに、骨髄内装着用のロッドである点は「骨髄内用ロッド」に、それぞれ相当する。
したがって、「エンネイル」は、請求項1の構成要件Bを充足する。
(三) 「エンネイル」の構成G及び構成Hは、いずれも付加的な構成で、本件発明の構成要件該当性に影響しない。
(四) 「エンネイル」は、大腿骨近位部骨折固定器具の一種であるから、請求項1の構成要件Fを充足する。
8 本件発明と「カイネイル」システムの対比(一) 「カイネイル」の構成bの前記ラグスクリュー(ハ号物件)は、大腿骨頚部装着用のねじであるから、請求項1の構成要件Aの「大腿骨頚部ねじ」に相当する。
したがって、「カイネイル」は、請求項1の構成要件Aを充足する。
(二) 「カイネイル」の構成cの前記イントラメデュラリーネイル(イ号物件)は、前記ターゲットデバイス側の上端を近位端、その反対側の下端を遠位端と呼ぶことができるから、請求項1の構成要件Bの「近位端及び遠位端を有する」こととなり、そのロッド内を傾斜して横断的に貫通する前記ラグスクリューを、前記ラグスクリューサポーターを介して受容しかつ保持するための傾斜開口部を有する点は「大腿骨頚部用ねじを受容する傾斜開口を有する」ことに、その上端から伸長して右傾斜開口部に連通する同軸穴を有している点は「該近位端から伸長して該傾斜開口に連通する同軸穴を有する」ことに、骨髄内装着用のロッドである点は「骨髄内用ロッド」に、それぞれ相当する。
したがって、「カイネイル」は、請求項1の構成要件Bを充足する。
(三) 「カイネイル」の構成i及びjは、いずれも付加的な構成で、本件発明の構成要件該当性に影響しない。
(四) 「カイネイル」は、大腿骨近位部骨折固定器具の一種であるから、請求項1の構成要件Fを充足する。
二 本件は、原告らが、被告による「エンネイル」及び「カイネイル」の販売は、
原告ハウメディカの有する本件特許権の侵害行為となり、また、本件特許権の独占的通常実施権者であるファイザー製薬株式会社に対する不法行為を構成するところ、原告日本ストライカーはファイザー製薬株式会社から損害賠償請求権の債権譲渡を受けたと主張して、被告に対し、原告ハウメディカは不当利得の返還を、原告日本ストライカーは損害賠償をそれぞれ求めている事案である。
争点及びこれに関する当事者の主張
一 「エンネイル」システムが本件発明の技術的範囲に属するかどうか 1 原告らの主張 (一) 請求項1の構成要件@について 「エンネイル」の構成Aのターゲットデバイスは、「エンネイル」システムを構成する前記各部品を患者の大腿骨部に取り付けるための装置であって、脱着自在のロッキングボルトを介してイントラメデュラリーネイルに接続される「取り外し可能な取付装置」であるから、「エンネイル」は、請求項1の構成要件@を充足する。
(二) 請求項1の構成要件Cについて 「エンネイル」の構成Dのセットスクリュー(ニ号物件)が、イントラメデュラリーネイルの同軸穴内を上下移動可能に取り付けられ、その下降移動によりその先端部が傾斜開口内に位置するラグスクリューの溝のうちの適宜の一本に接してこれと係合することにより、ラグスクリューの傾斜開口部内における回転を阻止することのできる回転止めねじである点は、請求項1の構成要件Cの「前記同軸穴内に位置しており、前記傾斜開口内での前記頚部用ねじの回転を選択的に阻止すべく操作可能な回転止め手段」の一態様である「前記回転止め手段が前記同軸穴内に螺合されており、先端が前記溝と選択的に係合すべく該同軸穴内を移動自在な止めねじ」(請求項2)に該当する。
また、「エンネイル」の構成Bのうち、ラグスクリューのロッド部の外周面に長手方向に伸長する四本の溝がほぼ等間隔に設けられている点は、その溝の適宜の一本がセットスクリューの先端部と係合することにより、請求項1の構成要件Cの「前記同軸穴内に位置しており、前記傾斜開口内での前記頚部用ねじの回転を選択的に阻止すべく操作可能な回転止め手段」の一態様である「前記回転止め手段が前記頚部用ねじの外周面において長手方向に伸長する少なくとも一つの溝とを含んでいる」(請求項2)ことに該当する。
したがって、「エンネイル」は、請求項1の構成要件Cを充足する。
(三) 請求項1の構成要件Dについて 「エンネイル」の構成Eのうち、イントラメデュラリーネイルの同軸穴の上方内壁に形成される雌ねじ部がターゲットデバイスに付設される中空のロッキングボルトと螺合してこれを受容かつ保持することにより、ターゲットデバイスとイントラメデュラリーネイルとを接続している点は、請求項1の構成要件Dの「前記取り外し可能な取付装置を受容して保持かつ位置決めすべく前記ロッドの近位端に設けられた接続手段」に該当する。
したがって、「エンネイル」は、請求項1の構成要件Dを充足する。
(四) 請求項1の構成要件Eについて 「エンネイル」の構成Fのうち、イントラメデュラリーネイルの同軸穴内上方内壁の径が下方内壁の径より拡大して形成され、ターゲットデバイスの中空のロッキングボルトが右拡径部内壁に形成された雌ねじ部と螺合接続した状態でセットスクリューの操作ができるように、セットスクリューを自由に通過させるだけの径を有している点は、請求項1の構成要件Eの「前記接続手段は、前記取り外し可能な取付装置を受容した状態で前記回転止め手段が操作できるように前記回転止め手段から分離して構成されている」場合の一態様である「前記接続手段が、前記止めねじを通過させることができる前記取付装置の固定用中空ボルトと螺合すべく前記同軸穴に設けられた拡径雌ねじ部である」(請求項3)場合に該当する。
したがって、「エンネイル」は、請求項1の構成要件Eを充足する。
(五) 以上のとおり、「エンネイル」は、請求項1ないし3の各構成要件を充足する。
2 被告の主張 原告らの主張を争う。
本件発明は、新規性及び進歩性を欠くことが明らかであるから、その技術的範囲実施例に限定して解釈すべきである。被告製品は、本件発明の実施例とは異なるから、その技術的範囲に属しない。
二 「カイネイル」システムが本件発明の技術的範囲に属するかどうか 1 原告らの主張 (一) 請求項1の構成要件@について 「カイネイル」の構成aのターゲットデバイスは、「カイネイル」システムを構成する前記各部品を患者の大腿骨部に取り付けるための装置であって、脱着自在の中空のロッキングボルトを介してイントラメデュラリーネイルに接続される「取り外し可能な取付装置」であるから、「カイネイル」は、請求項1の構成要件@を充足する。
(二) 請求項1の構成要件Cについて 「カイネイル」の構成dのセットスクリュー(ホ号物件)が、イントラメデュラリーネイルの同軸穴内を上下移動可能に取り付けられ、その下降移動によりその先端部が傾斜開口内に位置するラグスクリューサポーターの滑り止め部に当接することにより、ラグスクリューサポーターの傾斜開口部内における回転を阻止することを介してラグスクリューの回転を阻止することのできる回転止めねじである点は、
請求項1の構成要件Cの「前記同軸穴内に位置しており、前記傾斜開口内での前記頚部用ねじの回転を選択的に阻止すべく操作可能な回転止め手段」に該当する。
したがって、「カイネイル」は、請求項1の構成要件Cを充足する。
(三) 請求項1の構成要件Dについて 「カイネイル」の構成eの、イントラメデュラリーネイルの同軸穴の上方内壁に形成される雌ねじ部がターゲットデバイスに付設される中空のロッキングボルトと螺合してこれを受容かつ保持することにより、ターゲットデバイスとイントラメデュラリーネイルとを接続している点は、請求項1の構成要件Dの「前記取り外し可能な取付装置を受容して保持かつ位置決めすべく前記ロッドの近位端に設けられた接続手段」に該当する。
したがって、「カイネイル」は、請求項1の構成要件Dを充足する。
(四) 請求項1の構成要件Eについて 「カイネイル」の構成fの、イントラメデュラリーネイルの同軸穴内上方内壁の径が下方内壁の径より拡大して形成され、ターゲットデバイスの中空のロッキングボルトが右拡径部内壁に形成された雌ねじ部と螺合接続した状態でセットスクリューの操作ができるように、セットスクリューを自由に通過させるだけの径を有している点は、請求項1の構成要件Eの「前記接続手段は、前記取り外し可能な取付装置を受容した状態で前記回転止め手段が操作できるように前記回転止め手段から分離して構成されている」ことに該当する。
したがって、「カイネイル」は、請求項1の構成要件Eを充足する。
(五) 付加的構成について 「カイネイル」の構成hにおいて、場合によりコンプレッションスクリューをラグスクリューのロッド部内面の雌ねじに螺合させ、その頭部座面をラグスクリューサポーターの内径の段差部分に当接させる点は、本件発明の構成にはないが、本件発明の構成に対する付加的構成とみるべきである。
(六) 以上のとおり、「カイネイル」は、請求項1の各構成要件を充足する。
2 被告の主張 原告らの主張を争う。
本件発明は、新規性及び進歩性を欠くことが明らかであるから、その技術的範囲実施例に限定して解釈すべきである。被告製品は、本件発明の実施例とは異なるから、その技術的範囲に属しない。
三 原告らの損害又は損失 1 原告ハウメディカの主張(一) 「エンネイル」ショート製品一セットは、「¥・CHYネイル用IMネイル」、「¥ネイル用ラグスクリュー」、「¥ネイル用セットスクリュー」、「¥・CHYネイル用プラグ」各一本及び「¥・CHYネイル用ロッキングスクリュー」二本で構成され、それらの価格の合計は、二八万円となる。
「エンネイル」ロング製品一セットは、「¥・CHYネイル用IMロングネイル」、「¥ネイル用ラグスクリュー」、「¥ネイル用セットスクリュー」、「¥・CHYネイル用プラグ」各一本及び「¥・CHYネイル用ロッキングスクリュー」二本で構成され、それらの価格の合計は、三六万四〇〇〇円となる。
「カイネイル」ショート製品一セットは、「¥・CHYネイル用IMネイル」、
「CHYネイル用ラグスクリュー」、「CHYネイル用セットスクリュー」、
「¥・CHYネイル用プラグ」、「CHYネイル用ラグスクリューサポーター」、
「CHYネイル用コンプレッション用スクリュー」各一本及び「¥・CHYネイル用ロッキングスクリュー」二本で構成され、それらの価格の合計は、三一万五〇〇〇円となる。
「カイネイル」ロング製品一セットは、「¥・CHYネイル用IMロングネイル」、「CHYネイル用ラグスクリュー」、「CHYネイル用セットスクリュー」、「¥・CHYネイル用プラグ」、「CHYネイル用ラグスクリューサポーター」、「CHYネイル用コンプレッション用スクリュー」各一本及び「¥・CHYネイル用ロッキングスクリュー」二本で構成され、それらの価格の合計は、三九万九〇〇〇円となる。
(二) 被告は、「エンネイル」及び「カイネイル」を前記第二の一3のとおり販売したから、その販売価格の合計は三億〇〇六五万円となる。
医療用機器分野の特許実施料は、通常一〇パーセントを下回らないから、被告は、本件発明の実施許諾を得ずに右製造販売を行ったことにより、少なくとも実施料相当額の三〇〇〇万円の不当利得を得ており、原告は同額の損失を被った。
(三) よって、原告ハウメディカは、被告に対し、不当利得として金三〇〇〇万円及びこれに対する履行の請求の後である平成一一年四月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 原告日本ストライカーの主張(一) ファイザー製薬株式会社(以下「ファイザー製薬」という。)は、本件特許権が登録された平成九年一月九日以降、本件特許権の独占的通常実施権者たる地位において、本件発明の実施品である「ガンマAPロッキングネイルシステム」及び「ガンマAPーJロッキングネイルシステム」(以下、両者を合わせて「原告製品」という。)を輸入販売していた。
(二) 原告製品のショート製品の販売価格は一セット当たり二八万九五〇〇円であり、ロング製品の販売価格は一セット当たり三二万七〇〇〇円である。また、原告製品の輸入価格(原価)は、それぞれ右販売価格の三〇パーセントであり、一般販売管理費はそれぞれ右販売価格の二五パーセントである。
したがって、ファイザー製薬が原告製品を販売した場合の純利益額は、各一セット当たり、ショート製品は一三万四三二八円、ロング製品は一五万一七二八円となる。
(三) 原告製品は、被告の「エンネイル」及び「カイネイル」に対応する製品であるから、ファイザー製薬は、被告が前記第二の一3のとおり「エンネイル」及び「カイネイル」を販売して本件特許権を侵害したことにより、原告製品のショート製品九七〇セット分、ロング製品七〇セット分の各販売機会を喪失した。
したがって、ファイザー製薬は、被告の右侵害行為により、ショート製品につき、一億三〇二九万八一六〇円(134,328*970=130,298,160)、ロング製品につき、
一〇六二万〇九六〇円(151,728*70=10,620,960)、合計一億四〇九一万九一二〇円(130,298,160+10,620,960=140,919,120)の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を被ったから、被告に対し、一億四〇九一万九一二〇円の損害賠償請求権を有する。
(四) 原告日本ストライカーは、ファイザー製薬との間で、平成一〇年一二月二一日付けの営業譲渡契約を締結し、これに基づき、ファイザー製薬が被告に対して有する右損害賠償請求権を譲り受け、ファイザー製薬は、被告に対し、平成一一年三月二四日付けで右債権譲渡を通知した。
(五) よって、原告日本ストライカーは、右譲受にかかる損害賠償請求権に基づき、被告に対し、金一億四〇○○万円(一部請求)及びこれに対する不法行為の後である平成一一年四月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告の主張(一) 原告ハウメディカの本件不当利得返還請求と原告日本ストライカーの本件損害賠償請求は、一つの被告の行為について二重に請求するものであるから、許されない。
(二) 原告ハウメディカの請求について 本件特許権の実施料率が一〇パーセントを下らないとの主張は、否認する。
(三) 原告日本ストライカーの請求について(1) ファイザー製薬は、厚生大臣の輸入承認を得ることなく原告製品を違法に輸入販売していた。したがって、同社に逸失利益が生じる余地はない。
(2) 被告は、被告製品の販売に特段の貢献をし、これにより、被告製品は初めて売れたものである。したがって、被告が被告製品を製造販売しなければ、ファイザー製薬が原告製品を被告製品と同数販売できたということはない。
(3) 本件発明は、大腿骨骨折の治療に用いられる骨折固定装置であり、それと同じような髄内固定タイプの製品は、他に少なくとも八種類あるから、被告が被告製品を製造販売しなかったとしても、その全てが原告製品の売上増に結びつくということはない。
(4) 本件特許の公開公報の記載は極めてあいまいであり、被告は本件発明の内容が理解できなかった。しかも、公開公報では、特許請求の範囲が「大腿部ネックねじを受け入れる角張った開口を持つ骨髄内棒」と記載されており、被告製品は角張った開口を持つ骨髄内棒を有しないから、その技術的範囲に属しないことは確実であった。
このように、被告に誤った理解を与え、損害が拡大したのは、全て出願人である原告ハウメディカの行為によるものであるから、過失相殺をして、九〇パーセント以上減額すべきである。
四 原告らの請求が権利濫用となるかどうか1 被告の主張 本件特許の出願当初の特許請求の範囲請求項1には「大腿部ネックねじを受け入れる角張った開口を持つ骨髄内棒」と記載されていたが、原告ハウメディカは、その後に被告製品を見て「角張った開口」の記載を、被告製品を本件特許の権利範囲に取り込むように「傾斜開口」と補正した。このような補正は、補正を行うことができる権利の濫用である。
また、本件特許の明細書の記載はきわめて不明瞭で、当業者が理解することができない。
さらに、本件発明は、明らかに新規性及び進歩性を欠くものである。
したがって、本件請求は、権利の濫用であって、許されない。
2 原告らの主張 被告の主張を争う。
当裁判所の判断
一 争点一(「エンネイル」システムが本件発明の技術的範囲に属するかどうか)について1 請求項1の構成要件@について 「エンネイル」システムは、中空のロッキングボルトを脱着することにより取り外し可能なターゲットデバイスと称する取付装置(別紙参考図三)を使用して患者の大腿骨部に取り付ける、大腿骨近位部骨折に対する髄内固定に用いる器具である(構成A)から、請求項1の構成要件@を充足する。
2 請求項1の構成要件Cについて 本件特許に係る明細書(甲二、以下「本件明細書」という。)には、請求項1の構成要件Cの「頚部用ねじの回転を選択的に阻止すべく」について説明する記載はないが、その文言から頚部用ねじの回転を阻止するか否かが選択可能なことを意味するものと解釈することができる。
「エンネイル」のラグスクリュー(ロ号物件)が本件発明の「大腿骨頚部用ねじ」に当たることは当事者間に争いがなく(前記第二の一7(一))、「エンネイル」の構成B及び構成Dによると、ラグスクリュー(ロ号物件)は、ロッド部分の外周面に長手方向に伸長する四本の溝がほぼ等間隔に設けられていること、セットスクリュー(ニ号物件)は、イントラメデュラリーネイルの同軸穴内の下方内壁に形成された雌ねじに螺合して上下移動可能に収容されていること、セットスクリュー(ニ号物件)は、その下降移動によりその先端部が傾斜開口内に位置するラグスクリューの右四本の溝のうちの適宜の一本に接してこれと係合して、ラグスクリューの傾斜開口部内における回転を阻止する役割を果たしており、その回転を阻止するか否かが選択可能であること、以上のとおり認められる。
以上によると、ラグスクリュー(ロ号物件)の溝及びセットスクリュー(ニ号物件)は、「同軸穴内に位置しており、前記傾斜開口内での前記頚部用ねじの回転を選択的に阻止すべく操作可能な回転止め手段」に当たるものと認められるから、
「エンネイル」は、請求項1の構成要件Cを充足する。
また、右に述べたところからすると、セットスクリュー(ニ号物件)は、請求項2の「前記同軸穴内に螺合されており、先端が前記溝と選択的に係合すべく該同軸穴内を移動自在な止めねじ」に該当し、ラグスクリュー(ロ号物件)の溝は、請求項2の「前記頚部用ねじの外周面において長手方向に伸長する少なくとも一つの溝」に該当するということができる。
3 請求項1の構成要件Dについて 「エンネイル」のターゲットデバイスが本件発明の「取り外し可能な取付装置」に当たることは、前記1のとおりであり、イントラメデュラリーネイルが本件発明の「骨髄内用ロッド」に当たることは当事者間に争いがない(前記第二の一7(二))。
また、「エンネイル」の構成Eによると、イントラメデュラリーネイルの同軸穴の上方内壁には雌ねじ部が形成されていること、この雌ねじ部がターゲットデバイスに付設される中空のロッキングボルトと螺合してこれを受容かつ保持することにより、ターゲットデバイスとイントラメデュラリーネイルとを接続していることが認められる。
以上によると、イントラメデュラリーネイルの同軸穴の上方内壁の雌ねじ部は、
「取り外し可能な取付装置を受容して保持かつ位置決めすべく前記ロッドの近位端に設けられた接続手段」に当たるものと認められるから、「エンネイル」は、請求項1の構成要件Dを充足する。
4 請求項1の構成要件Eについて 前記第二の一5の「エンネイル」システムの構成からすると、本件発明の「接続手段」に当たる、イントラメデュラリーネイルの同軸穴の上方内壁に形成された雌ねじ部と、「回転止め手段」に当たるラグスクリュー(ロ号物件)の溝及びセットスクリュー(ニ号物件)とが分離して構成されていることは明らかである。
また、「エンネイル」の構成Fによると、イントラメデュラリーネイルの同軸穴内上方内壁の径は下方内壁の径より拡大して形成されていること、このため、ターゲットデバイスの中空のロッキングボルトが右上方内壁に形成された雌ねじ部と螺合接続した状態でセットスクリューを自由に通過させ、セットスクリューの操作ができるようになっていること、以上のとおり認められる。
したがって、「エンネイル」は、請求項1の構成要件Eを充足する。
さらに、右に述べたところからすると、イントラメデュラリーネイルの同軸穴の上方内壁の雌ねじ部は、請求項3の「前記止めねじを通過させることができる前記取付装置の固定用中空ボルトと螺合すべく前記同軸穴に設けられた拡径雌ねじ部」に該当するということができる。
5 以上のとおりであるから、「エンネイル」は請求項1ないし3の各構成要件を全て充足し、その技術的範囲に属するものと認められる。
なお、被告は、本件発明は新規性及び進歩性を欠くことが明らかであると主張し、乙七号証、八号証(いずれも西ドイツ実用新案公報)を提出するが、乙七号証には、請求項1の構成要件Cの回転止め手段等についての記載がなく、乙八号証には、請求項1の構成要件Eの接続手段と回転止め手段の関係についての記載がないから、これらの各公報それぞれに本件発明の構成要件のすべてが記載されているとは認められず、これらの公報の記載から容易に本件発明をすることができたことが明らかであるとも認められないから、被告の主張は採用できない。
二 争点二(「カイネイル」システムが本件発明の技術的範囲に属するかどうか)について1 請求項1の構成要件@について 「カイネイル」システムは、中空のロッキングボルトを脱着することにより取り外し可能なターゲットデバイスと称する取付装置(別紙参考図三)を使用して患者の大腿骨部に取り付ける、大腿骨近位部骨折に対する髄内固定に用いる器具である(構成a)から、請求項1の構成要件@を充足する。
2 請求項1の構成要件Cについて 前記のとおり、構成要件Cの「頚部用ねじの回転を選択的に阻止すべく」は、頚部用ねじの回転を阻止するか否かが選択可能なことを意味するものと解釈することができる。
「カイネイル」のラグスクリュー(ハ号物件)が本件発明の「大腿骨頚部用ねじ」に当たることは当事者間に争いがなく(前記第二の一8(一))、「カイネイル」の構成b、構成d及び構成gによると、セットスクリュー(ホ号物件)は、イントラメデュラリーネイルの同軸穴内の下方内壁に形成された雌ねじに螺合して上下移動可能に収容されていること、セットスクリュー(ホ号物件)は、その下降移動によりその先端部の角が、イントラメデュラリーネイルの傾斜開口内に位置するラグスクリューサポーター(へ号物件)の多数の細溝が刻まれた滑り止め部に当接して、ラグスクリューサポーターの傾斜開口部内における回転を阻止し、これによりラグスクリューサポーター内に回転不能に収容されるラグスクリューの傾斜開口部内における回転を阻止する役割を果しており、その回転を阻止するか否かは選択可能であること、以上のとおり認められる。
以上によると、ラグスクリューサポーター(へ号物件)の滑り止め部及びセットスクリュー(ホ号物件)は、「同軸穴内に位置しており、前記傾斜開口内での前記頚部用ねじの回転を選択的に阻止すべく操作可能な回転止め手段」に当たるものと認められるから、「カイネイル」は、請求項1の構成要件Cを充足する。
3 請求項1の構成要件Dについて 「カイネイル」のターゲットデバイスが本件発明の「取り外し可能な取付装置」に当たることは、前記1のとおりであり、イントラメデュラリーネイルが本件発明の「骨髄内用ロッド」に当たることは当事者間に争いがない(前記第二の一8(二))。
また、「カイネイル」の構成eによると、イントラメデュラリーネイルの同軸穴の上方内壁には雌ねじ部が形成されていること、この雌ねじ部がターゲットデバイスに付設される中空のロッキングボルトと螺合してこれを受容かつ保持することにより、ターゲットデバイスとイントラメデュラリーネイルとを接続していることが認められる。
以上によると、イントラメデュラリーネイルの同軸穴の上方内壁の雌ねじ部は、
「取り外し可能な取付装置を受容して保持かつ位置決めすべく前記ロッドの近位端に設けられた接続手段」に当たるものと認められるから、「カイネイル」は、請求項1の構成要件Dを充足する。
4 請求項1の構成要件Eについて 前記第二の一6の「カイネイル」システムの構成からすると、本件発明の「接続手段」に当たる、イントラメデュラリーネイルの同軸穴の上方内壁に形成された雌ねじ部と、「回転止め手段」に当たるセットスクリュー(ホ号物件)とが分離していることは明らかである。
また、「カイネイル」の構成fによると、イントラメデュラリーネイルの同軸穴内上方内壁の径は下方内壁の径より拡大して形成されていること、このため、ターゲットデバイスの中空のロッキングボルトが右上方内壁に形成された雌ねじ部と螺合接続した状態でセットスクリューを自由に通過させ、セットスクリューの操作ができるようになっていること、以上のとおり認められる。
したがって、「カイネイル」は、請求項1の構成要件Eを充足する。
5 「カイネイル」の構成hにおいて、場合によりコンプレッションスクリューをラグスクリューのロッド部内面の雌ねじに螺合させ、その頭部座面をラグスクリューサポーターの内径の段差部分に当接させる点は、本件発明の構成に対する付加的構成とみることができる。
6 以上のとおりであるから、「カイネイル」は、請求項1の構成要件を全て充足し、その技術的範囲に属するものと認められる。
三 争点三(原告らの損害又は損失)について1 右一、二のとおり、被告製品は本件発明の技術的範囲に属するから、被告による被告製品の販売は原告ハウメディカの有する本件特許権の侵害となる。
2 証拠(甲二、三、一一、一二、甲一五の一、二、甲一六、一八、乙一七)と弁論の全趣旨によると、原告ハウメディカとファイザー製薬はともに米国法人ファイザー・インクの一〇〇パーセント子会社であること、原告ハウメディカは人工関節等の医療機器の製造販売を主たる業務としていること、ファイザー製薬ハウメディカ事業部は原告ハウメディカの製品の輸入販売を主たる業務としていたこと、ファイザー製薬ハウメディカ事業部は、平成四年一〇月ころから原告ハウメディカの製造販売する「ガンマAPロッキングネイルシステム」を独占的に輸入販売し、平成八年六月ころから原告ハウメディカの製造販売する「ガンマAPーJロッキングネイルシステム」を独占的に輸入販売していたこと、「ガンマAPロッキングネイルシステム」及び「ガンマAPーJロッキングネイルシステム」(原告製品)は、いずれも本件発明の実施品であること、以上の事実が認められる。これらの事実に弁論の全趣旨を総合すると、原告ハウメディカはファイザー製薬に対し、本件特許権の独占的通常実施権を許諾していたものと認められる。
したがって、ファイザー製薬は、本件特許権の独占的通常実施権者として原告製品を輸入販売していたものと認められるから、本件特許権の侵害品である被告製品の販売によりファイザー製薬に対して損害を与えた場合には不法行為を構成するというべきであり、被告はファイザー製薬に対し、その損害を賠償する責任がある。
3 ファイザー製薬の損害について判断する。
(一) 前記第二の一の事実に証拠(甲三ないし五、一一、一三、甲一五の一、二、
甲一六、乙一七、二九、三三)と弁論の全趣旨を総合すると、原告製品と被告製品は、ともに大腿骨近位部骨折に対する髄内固定法に使用する固定器具である上、その構成は類似しており、医療の現場において競合する製品であること、国内における右固定器具の販売実績は、平成八年には、ファイザー製薬ハウメディカ事業部が五一〇〇ユニット(販売額一三億円、シェア七三・九パーセント)、スミス&ネフューが一三〇〇ユニット(販売額三億四〇〇〇万円、シェア一八・八パーセント)、被告が五〇〇ユニット(販売額一億三〇〇〇万円、シェア七・三パーセント)、平成九年には、ファイザー製薬ハウメディカ事業部が六〇〇〇ユニット(販売額一六億円、シェア六七・四パーセント)、スミス&ネフューが二〇〇〇ユニット(販売額五億二〇〇〇万円、シェア二二・五パーセント)、被告が九〇〇ユニット(販売額二億三〇〇〇万円、シェア一〇・一パーセント)と推定され、右三社の寡占状態となっていること、被告製品の仕切価格は、「エンネイル」ショート製品一セットが二八万円、同ロング製品一セットが三六万四〇〇〇円、「カイネイル」ショート製品一セットが三一万五〇〇〇円、同ロング製品一セットが三九万九〇〇〇円であること、原告製品の仕切価格は、「ガンマAPロッキングネイルシステム」ショート製品一セットが二八万円を下回らないこと、原告製品と被告製品の販売価格を比べると、それほど違わないこと、以上の事実が認められる。
右認定の事実を総合すると、被告が被告製品の販売という本件特許権の侵害行為を行ったことにより、ファイザー製薬は、右侵害行為がなければ原告製品を販売して得られたであろう利益を得られなかった損害を被ったものと認められ、右認定の販売実績を考慮すると、被告製品の販売数量一〇四〇セットの七〇パーセントに当たる七二八セット(ショート製品六七九セット、ロング製品四九セット)が右侵害行為によりファイザー製薬が販売できなかった数量と認めるのが相当である。
(二) 右(一)の事実によると、原告製品のうちショート製品一セットの仕切価格は二八万円を下回らないものと認められる。原告製品のロング製品一セットの仕切価格については、これを直接認めるに足りる証拠はないが、右(一)認定に係る被告製品の価格に弁論の全趣旨を総合すると、原告製品のロング製品一セットの仕切価格は三二万円を下回らないものと認められる。
証拠(甲一九)によると、公認会計士がファイザー製薬ハウメディカ事業部の一九九七年度(平成八年一二月一日から平成九年一一月三〇日)における原告製品の売上原価率について調査したところ、三五・九パーセントであったことが認められるところ、この数値は、他の証拠(甲一二、甲一五の一、二、甲一六)から認められる原告製品の販売価格と輸入価格の比率と矛盾することはなく、また、他にこの数値が不合理であるというべき事情を認めるに足りる証拠もないから、原告製品の原価率については、右の公認会計士の調査結果を採用することとし、三五・九パーセントと認める。また、証拠(甲一七)と弁論の全趣旨によると、ファイザー製薬ハウメディカ事業部の一九九七年度(平成八年一二月一日から平成九年一一月三〇日)における売上高に対する販売費・一般管理費の割合は、三二・六パーセントであること、公認会計士が右販売費・一般管理費を分析した結果によると、販売費・一般管理費のうち固定費を除いた変動費の売上高に対する割合は、二六パーセントであること、以上の事実が認められる。この数値が不合理であるというべき事情を認めるに足りる証拠はないから、原告製品に関する売上高に対する販売費・一般管理費中の変動費率については、右の分析結果を採用することとし、二六パーセントと認める。そうすると、ファイザー製薬ハウメディカ事業部における原告製品の利益率は、三八・一パーセントとなる。
以上によると、原告製品一セット当たりの利益額は、ショート製品については販売価格二八万円の三八・一パーセントに当たる一〇万六六八〇円となり、ロング製品については販売価格三二万円の三八・一パーセントに当たる一二万一九二〇円となる。
(三) 右(一)、(二)のとおりであるから、ファイザー製薬が被った損害額は、ショート製品一セット当たりの利益額一〇万六六八〇円に六七九セットを乗じた七二四三万五七二〇円とロング製品一セット当たりの利益額一二万一九二〇円に四九セットを乗じた五九七万四〇八〇円の合計七八四〇万九八〇〇円となる。
4 以上のとおり、ファイザー製薬は被告に対し、七八四〇万九八〇〇円の損害賠償請求権を有する。
弁論の全趣旨によると、ファイザー製薬はハウメディカ事業部の営業全部を原告日本ストライカーに譲渡し、それに伴って右3(三)の被告に対する損害賠償請求権も同原告に債権譲渡したこと、ファイザー製薬は被告に対し、右債権譲渡の通知をしたことが認められる。
したがって、原告日本ストライカーは、被告に対し、七八四〇万九八〇〇円の損害賠償請求権を有する。
5 被告は、ファイザー製薬は、厚生大臣の輸入承認を得ることなく原告製品を輸入販売していたと主張するが、ファイザー製薬は、右2のとおり原告製品の輸入販売を開始して以来、原告製品を輸入販売してきたものであって、弁論の全趣旨によると、そのことについて、厚生大臣から行政処分等を受けたことはないものと認められるから、被告の右主張を採用することはできない。
被告は、被告製品の販売に特段の貢献をしたこと及び原告製品には被告製品の他にも競合品があることから、被告が販売した被告製品の数量と同数の原告製品を販売できたということはできないと主張する。しかし、右3(一)のとおり、原告製品について逸失利益算定の基礎となった数量は、競合品があることを考慮した数量であり、右3(一)で認定した事実からすると、それ以上に競合品について考慮する必要があるとは認められない。また、証拠(乙一、三、九、一〇、二〇ないし三〇)によると、被告製品が「ガンマAPロッキングネイルシステム」に比べて改良された主な点は、日本人の体格に合うようになっている点であると認められるが、証拠(乙一六、一七)と弁論の全趣旨によると、「ガンマAPーJロッキングネイルシステム」は、「ガンマAPロッキングネイルシステム」を日本人の体格に合うように改良したものであると認められるから、原告製品にも日本人の体格に合うように改良された製品が存するのであって、その他右3(一)で認定した逸失利益算定の基礎となった数量を更に減らすべき事情が存するとは認められない。
さらに、被告は、過失相殺を主張するので判断するに、証拠(乙一二)により認められる本件特許の公開公報の記載内容からすると、本件特許の公開公報の記載があいまいであるために、被告が本件発明の内容を理解することができなかったとは認められない。また、証拠(甲二、乙六、一二)によると、公開公報では、特許請求の範囲の「傾斜開口」の部分が「角張った開口」と記載されていたことが認められるが、右の各証拠と弁論の全趣旨によると、原告ハウメディカは特許法の規定に基づいて適法に本件特許に係る明細書の補正をして、特許請求の範囲を本件公報の該当欄記載のとおりとしたことが認められる上、証拠(乙一)によると、被告は、
原告ハウメディカから、本件特許権の登録前に警告を受けて、特許請求の範囲が本件公報の該当欄記載のとおりとなったことを知っていたものと認められる。これらの事実からすると、被告の過失相殺の主張は採用できない。
6 原告ハウメディカは、本件特許権侵害行為によって、特許権者として実施料相当額の損失を被り、被告は、同額の利得を得たものと認められるから、原告ハウメディカは、被告に対して、実施料相当額を不当利得として返還することを求めることができる。
既に認定した本件発明の内容、本件発明の実施品である原告製品の販売実績、原告製品一セット当たりの利益額その他本件に現われた諸事情を考慮すると、本件特許権の実施料は、被告製品の販売価格の五パーセントと認めるのが相当である。
前記3(一)認定のとおり、被告製品の仕切価格は、「エンネイル」ショート製品一セットが二八万円、同ロング製品一セットが三六万四〇〇〇円、「カイネイル」ショート製品一セットが三一万五〇〇〇円、同ロング製品一セットが三九万九〇〇〇円であり、それぞれの販売数量は、「エンネイル」ショート製品が六八〇セット、同ロング製品が五〇セット、「カイネイル」ショート製品が二九〇セット、同ロング製品が二〇セットであるから、被告製品の販売価格の合計は、三億〇七九三万円となる。
したがって、本件特許権の実施料相当額は一五三九万六五〇〇円となるから、原告ハウメディカは、被告に対し、右実施料相当額の不当利得返還請求権を有する。
なお、被告は、原告ハウメディカの不当利得返還請求と原告日本ストライカーの損害賠償請求は、被告の一つの行為について二重に請求するものであると主張するが、右に認定判断したとおり、原告ハウメディカ及びファイザー製薬は、被告の本件特許権侵害行為により、それぞれ個別に損失又は損害を被っているのであるから、原告らの請求が二重の請求になるものではない。
四 争点四(権利濫用となるかどうか)について 被告は、原告ハウメディカの行った本件特許に係る明細書の補正が補正する権利を濫用するものであると主張するが、右三5認定のとおり、右補正は特許法の規定に基づいて適法に行われたものであって、その意図が被告が主張するようなものであったとしても、これをもって補正する権利を濫用したものとすることはできない。
また、被告は、本件特許の明細書の記載はきわめて不明瞭で、当業者が理解することができないと主張するが、前述のとおり被告製品が本件発明の技術的範囲に属するかどうかの判断を支障なく行うことができるのであって、本件特許の明細書の記載はきわめて不明瞭で、当業者が理解することができないということはできない。
さらに、本件発明が明らかに新規性及び進歩性を欠くとは認められないことは、前記一5のとおりである。
したがって、被告の権利濫用の主張は、採用できない。
五 以上の次第で、原告らの本訴請求は、主文掲記の限度で理由がある。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 榎戸道也
裁判官 岡口基一
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