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事件 平成 6年 (ワ) 8190号 貸金請求事件
平成 6年 (ワ) 22696号 詐害行為取消請求事件
平成 8年 (ワ) 7181号 特許権実施料請求事件
甲、乙事件原告兼丙事件被告(以下「甲事件原告」という。) 株式会社ヒ ューネット 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 鈴木一郎
同 吉田瑞彦甲事件被告 【B】 乙事件被告 株式会社協
同宣伝 右代表者代表取締役 【C】 右両名訴訟代理人弁護士 丸山和也
同 柴田正人
同 吉澤敏行
同 井垣弘丙事件原告 株式会社エ フ・アイ・シー 右代表者代表取締役 【D】 右訴訟代理人弁護士 丸山和也
同 井垣弘
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2000/04/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 甲事件被告は、甲事件原告に対し、金二九四五万四三一四円及び内金二六四五万四三一四円に対する平成六年四月一九日から支払済みまで年一割四分(年三六五日日割計算)、内金三〇〇万円に対する同年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
二 甲事件被告の乙事件被告に対する平成六年三月一四日付け金銭消費貸借契約に基づく同年八月一〇日付け金三〇〇〇万円の弁済は、甲事件原告と乙事件被告との間においてこれを取り消す。
三 乙事件被告は、甲事件原告に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成八年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 甲事件被告と乙事件被告との間において別紙「物件目録」三ないし五記載の各不動産についてされた別紙「抵当権登記目録」記載の抵当権設定契約は、甲事件原告と乙事件被告との間においてこれを取り消す。
五 乙事件被告は、甲事件原告に対し、別紙「物件目録」三ないし五記載の各不動産についてされた別紙「抵当権登記目録」記載の各抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
六 甲事件原告のその余の請求を棄却する。
七 丙事件原告の請求を棄却する。
八 訴訟費用は、甲事件、乙事件及び丙事件を通じ、甲事件原告に生じた費用の六分の一と甲事件被告に生じた費用の二分の一を甲事件原告の負担とし、甲事件原告に生じた費用の六分の一と甲事件被告に生じたその余の費用を甲事件被告の負担とし、甲事件原告に生じた費用の三分の一と乙事件被告に生じた費用を乙事件被告の負担とし、甲事件原告に生じたその余の費用と丙事件原告に生じた費用を丙事件原告の負担とする。
九 この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
一 甲事件 甲事件被告は、甲事件原告に対し、金五三四九万八六三〇円及び内金五〇〇〇万円に対する平成五年一一月六日から支払済みまで年一割四分(年三六五日日割計算)、内金三〇〇万円に対する平成六年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
二 乙事件 主文二項ないし五項と同旨三 丙事件 甲事件原告は、丙事件原告に対し、金四〇四三万二五四二円及びこれに対する平成六年八月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
事案の概要
一1 甲事件は、甲事件原告(以下「ヒューネット」という。)が甲事件被告(以下「【B】」という。)に対し、貸金元本計五三〇〇万円、うち三〇〇万円に対する平成六年五月一三日(訴状送達の日の翌日)以降の年五分の割合による遅延損害金、うち五〇〇〇万円に対する平成五年八月七日から同年一一月五日までの年四分(年三六五日日割計算)の割合による利息四九万八六三〇円及び同月六日以降の年一割四分(年三六五日日割計算)の割合による遅延損害金の各支払を求めている事案である。
これに対して、【B】は、丙事件原告(以下「エフ・アイ・シー」という。)が遅くとも平成六年三月の時点においてヒューネットに対し一億〇〇四三万二五四二円の金銭債権(実施料等支払請求権)を有しており、【B】は遅くとも平成六年四月一八日までにエフ・アイ・シーから右債権のうち六〇〇〇万円を譲り受け、その後これを自働債権として相殺したから、ヒューネットの【B】に対する貸金債権はすべて消滅している旨の抗弁を主張している。
2 乙事件は、ヒューネットが乙事件被告(以下「協同宣伝」という。)に対し、
【B】と協同宣伝との間の五〇〇〇万円の平成六年三月一四日付け金銭消費貸借契約に基づく債権の担保のために【B】が協同宣伝に対してした別紙「物件目録」三ないし五記載の各不動産についての同月一六日付け抵当権設定及び右金銭消費貸借契約に基づいて【B】が協同宣伝に対してした同年八月一〇日付けの三〇〇〇万円の弁済がいずれも詐害行為に当たるとして、その取消しを求めるとともに、右抵当権の設定登記の抹消登記手続、並びに三〇〇〇万円及びこれに対する平成八年一〇月二五日以降の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
これに対して、協同宣伝は、ヒューネットの【B】に対する貸金債権は、前記のとおり、【B】がエフ・アイ・シーから譲り受けた六〇〇〇万円の債権をもって相殺したことによって消滅したから、ヒューネットは被保全債権を有さず、詐害行為取消権を行使し得るものではない旨、及び、協同宣伝には詐害の認識がなかった旨を主張している。
3 丙事件は、エフ・アイ・シーがヒューネットに対し、四〇四三万二五四二円(一億〇〇四三万二五四二円のうち【B】に譲り渡した六〇〇〇万円を除いた残額)の実施料等及びこれに対する平成六年八月一一日以降の年六分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
二 前提となる事実(争いのない事実並びに摘示した証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定し得る事実)1 ヒューネットは、土木建築工事の設計、監理及び請負、不動産の売買、賃貸及び管理、金融業、並びに電子制御機器の企画、開発、製造及び販売等を目的とする株式会社である。エフ・アイ・シーは、特許権の取得、保有及び運用などを目的とする株式会社である。協同宣伝は、新聞及び雑誌等の広告業務、並びに宣言業務に関する一切の企画立案、調査及び図案作成等を目的とする株式会社である。
【B】は、エフ・アイ・シーの代表取締役であり、平成四年一二月からヒューネットの技術顧問を務め、平成五年六月二九日からはヒューネットの取締役兼技術部長を同年一〇月二七日付けで辞任するまで務めていた。(甲第三号証及び乙第一六号証) 協同宣伝の代表者である【C】(以下「【C】」という。)は、平成四年一〇月一九日から平成五年一月二〇日までエフ・アイ・シーの監査役を務めていた(同月二七日付けで辞任登記済み)。また、協同宣伝の従業員である【E】は、平成六年一月二〇日、エフ・アイ・シーの取締役に就任した(同月二七日付けで就任登記済み)。(甲第二〇号証)2 【B】とエフ・アイ・シーは、平成四年一二月ころ、【B】が平成三年一一月二六日に特許出願していた「インバーターで駆動される誘導モーターの負荷トルク追従制御方法」の特許発明(出願番号平成三-三三六〇二一号。以下「本件発明」という。)について、【B】がエフ・アイ・シーに対し実施を許諾し、その対価としてエフ・アイ・シーが本件発明の実施品の製造・販売によって生じた利益の一部を【B】に分配することなどを内容とする契約を締結した。ただし、契約書については、平成五年二月一日付けで作成した。(乙第一号証)3 ヒューネットは、平成四年一二月二九日、エフ・アイ・シーとの間で、エフ・アイ・シーがヒューネットに対し電磁場解析に関する技術を供与し、これから生じる発明等について実施を許諾することなどを内容とする契約を締結し、同日から平成五年二月一九日までの間に、エフ・アイ・シーに対し、右契約に基づく契約金として合計一億円を支払った。(甲第六号証及び第七号証)4 ヒューネットは、株式会社松村エレクトロニクス(以下「松村」という。)との間で、平成五年二月八日、秘密保持契約を締結し、同月二四日には、本件発明に係る誘導モーターの負荷トルク追従制御装置(以下「本件装置」という。)に電力変換部(インバーター)を取り付けた商品(商品名「アルゴス」。以下「本件商品」という。)の製造について、別紙「製造委託契約書」記載のとおりの製造委託契約を締結した(以下、この契約を「本件製造委託契約」という。)。(甲第三号証及び第一二号証)5 平成五年二月二四日、ヒューネットの一〇〇パーセント出資により、株式会社アルゴス(以下「アルゴス社」という。)が設立され、ヒューネットが本件商品の製造を、アルゴス社がその販売を担当するという役割分担で、本件商品の製造・販売事業を進めることとなった。(甲第三号証及び乙第一六号証)6 ヒューネットは、【B】に対し、マンション購入資金として、平成五年五月二一日、三〇〇万円を弁済期を定めずに貸し付け、また、同年八月六日、五〇〇〇万円を弁済期同年一一月五日、利息年四分(年三六五日の日割計算)、遅延損害金年一割四分(年三六五日の日割計算)の約定で貸し付けた。
7 ヒューネット、【B】及びエフ・アイ・シーの三者は、平成五年七月一三日、
本件発明について、別紙「契約書一」記載のとおりの契約を締結した(以下、この契約を「本件三者契約」という。)。(乙第二号証)8 松村は、ヒューネットからの注文に基づき、平成五年八月三一日までに本件商品を合計一四七〇台製造し、これを遅くとも同年九月六日までにヒューネットに納品した(なお、右一四七〇台の外に本件商品がヒューネットに納品された事実はない。)。ヒューネットは、本件三者契約に基づき、エフ・アイ・シーに対し、同年八月一〇日までに、本件商品三六〇台分の対価として合計九〇八万二四五八円(消費税込額から振込手数料を控除した額)を支払った(なお、これ以上に本件商品の対価が支払われた事実はない。)。
9 ヒューネットは、平成五年九月一日、松村に対し、本件商品の製造を停止することを申し入れ、松村は、これに応じた。
10 【B】は、平成五年一〇月二七日付けで、ヒューネットの取締役兼技術部長の職を辞した。
11 エフ・アイ・シーは、ヒューネットに対し、平成五年一一月九日到達の書簡(乙第六号証)で、本件三者契約に基づいて支払うべき対価の未払分として、九三九五万九五〇〇円を支払うよう催告したが、ヒューネットは、これを支払っていない。そこで、エフ・アイ・シーは、ヒューネットに対し、同年一一月末日到達の通知書(乙第七号証の一及び二)で、右契約を将来に向かって解除する旨の意思表示をした。
12 【B】には、当時、別紙「物件目録」一ないし五記載の不動産(以下、それぞれ「本件不動産一」などといい、これらを合わせて「本件各不動産」と総称する。)以外にめぼしい財産がなく、これが唯一の財産であったところ、【B】と協同宣伝は、平成六年三月一四日付けで、協同宣伝を貸主、【B】を借主とする五〇〇〇万円の金銭消費貸借契約を締結し、同日、本件各不動産について、右契約に基づく協同宣伝の【B】に対する五〇〇〇万円の貸金債権を被担保債権とする抵当権を設定する旨の契約を締結し、同月一六日付けで、別紙「抵当権登記目録」記載の抵当権設定登記手続をした。
13 ヒューネットは、【B】に対し、平成六年四月一五日到達の内容証明郵便で、
貸金元金合計五三〇〇万円及びうち五〇〇〇万円に対する約定利息及び遅延損害金を同日から五日以内に支払うよう催告したが、【B】はこれを支払っていない。
14 エフ・アイ・シーは、遅くとも平成六年四月一八日までに、【B】に対し、本件三者契約に基づいて生じたとされるヒューネットに対する六〇〇〇万円の債権を譲渡し(ただし、ヒューネットは、この債権の存在を争っている。)、平成六年四月一九日、ヒューネットに右債権譲渡の通知が到達した。そして、【B】は、ヒューネットに対し、同年五月三一日到達の通知書(乙第九号証)において、右のエフ・アイ・シーから譲り受けた六〇〇〇万円の債権のうち五三〇〇万円を自働債権とし、ヒューネットの【B】に対する元本合計五三〇〇万円の貸金債権を受働債権として、相殺する旨の意思表示をし、次いで、同年七月一九日の甲事件口頭弁論期日において、右譲受債権の残額七〇〇万円を自働債権とし、ヒューネットの【B】に対する貸金債権の残額を受働債権として、相殺する旨の意思表示をした(ただし、ヒューネットは、自働債権の存在を争っている。)。
15 【B】は、平成六年八月一〇日、その所有に係る本件不動産一及び二を裕和興産株式会社に代金三〇〇〇万円で売却し(同日付けで土地持分及び建物所有権の移転登記手続済み)、右売買代金三〇〇〇万円を、協同宣伝に対し、前記貸金債務の一部弁済として、支払った。
16 現在、本件不動産三及び四につき別紙「抵当権登記目録」一記載の、本件不動産五につき同目録二記載の各抵当権設定登記がされている。
三 ヒューネットの主張1 【B】は、ヒューネットに対し、平成五年五月二一日及び同年八月六日に締結した各貸金契約に基づき、貸金元本計五三〇〇万円、うち三〇〇万円に対する弁済期到来後(返還催告後相当期間経過後)である平成六年五月一三日(訴状送達の日の翌日)からの支払済みまでの年五分の割合による遅延損害金、うち五〇〇〇万円に対する貸付日の翌日である平成五年八月七日から弁済期日である同年一一月五日までの年四分(年三六五日日割計算)の割合による利息四九万八六三〇円及び弁済期日の翌日である同月六日から支払済みまでの年一割四分(年三六五日日割計算)の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務がある。
2 【B】、協同宣伝及びエフ・アイ・シーは、遅くとも平成六年三月の時点において、ヒューネットがエフ・アイ・シーに対し、本件三者契約4条に基づき、一億〇〇四三万二五四二円を支払うべき義務があった旨を主張する。
しかし、右契約にいう「本製品」とは、本件商品を意味し(当初は、本件装置を意味するものとされていたが、右契約締結の際、ロイヤリティの額とともにその定義自体が変更された。)、また、一台当たり二万四五〇〇円の支払義務は、本件商品の製造のみならず、ヒューネットへの納品、更にはその販売、設置後の正常な稼働をもって、初めて発生するものと解すべきである(【B】は、その陳述書〔乙第一六号証〕の中で「本製品」が本件商品を意味することを認めていたものであり、
また、商品として完成しておらず、納品も検収もされていない段階では、ヒューネットが製造の事実を確認することすらできないのであるから、製造された時点で対価支払義務が発生すると考えるのは不合理である。)。しかるに、松村が一四七〇台の外に本件商品を製造してヒューネットに納品した事実はない(なお、納品済みの一四七〇台については、松村に対して既に代金を支払っている。)。
仮に本件三者契約にいう「本製品」が本件装置を意味し、本件装置一台が製造された時点で二万四五〇〇円の支払義務が生じるとしても、納品済みの一四七〇台の外にヒューネットが松村に対して製造を発注した分は、平成五年八月二三日付けで発注書を送付した三〇〇台にすぎず、それ以上に製造を発注した事実はなく、発注済みの三〇〇台については、同年九月一日に製造停止を指示し、後日その部材を引き取るとともに部材の費用を支払っている(ヒューネットの松村に対する発注は、
毎月二〇日までに翌月製造の製品の数量、銘柄、製品の荷造量等を指示する方法で行われている。本件商品三〇〇〇台を生産する計画はあったものの、それが示されたのは同年八月二〇日であり、松村には同日行われた打合せの席上、三〇〇〇台についての正式発注の連絡は同年九月二三日の予定である旨が伝えられている。)。
松村が本件装置三〇〇〇台を製造したということも考え難く(生産計画が示されてからわずか一〇日間で三〇〇〇台を製造することは不可能である。)、仮にいくらか製造していたとしても、それは注文に基づかない見込製造にすぎないものである。
また、本件三者契約4条は、「本製品」の製造のみについての対価を定めたものではなく、エフ・アイ・シー及び【B】がヒューネットに対して供与すべき「一切のサービス等」の対価を定めたものであり、右「一切のサービス等」とは、製品の改良・完成、必要とされるノウハウの供与、関連技術についての指導助言等を意味する。しかるに、エフ・アイ・シー及び【B】は、右「一切のサービス等」を供与する義務を、遅くとも平成五年一〇月二七日以降一切履行しなかったのであるから、「本製品」一台当たり二万四五〇〇円の支払を請求し得るものではなく、既に発生した実施料等支払請求権についても、同日以降の右「一切のサービス等」の供与の停止により消滅したというべきである。
したがって、ヒューネットは、平成六年三月当時、エフ・アイ・シーに対し、本件三者契約4条に基づく一億〇〇四三万二五四二円の支払義務を負っていなかったものであるから、【B】の相殺の抗弁、協同宣伝の被保全債権不存在の主張、エフ・アイ・シーの実施料等の支払請求は、いずれも失当である。
3 ヒューネットは、平成六年二月八日から、【B】との間で貸金の返済について交渉を続けており、そのような最中に、【B】が協同宣伝に対し、本件各不動産以外にめぼしい財産がないにもかかわらず、新たに締結した金銭消費貸借契約に基づいて本件不動産三ないし五に抵当権を設定することは、詐害行為に当たるというべきである。
また、ヒューネットの【B】に対する貸金請求訴訟の提起日の後である平成六年八月一〇日に、【B】が、本件不動産一及び二を売却し、右売買代金をもって協同宣伝に対する前記貸金債務の一部を弁済することも、詐害行為に当たるというべきである。
平成六年三月一四日当時、協同宣伝の代表取締役がエフ・アイ・シーの前監査役、協同宣伝の従業員がエフ・アイ・シーの取締役であり、エフ・アイ・シーが協同宣伝にマーケティングを依頼したり、協同宣伝がエフ・アイ・シーに資金援助をしているなど、協同宣伝と【B】との間には極めて密接な関係があり、また、協同宣伝は、ヒューネットによる貸金請求について【B】から相談を受け、その過程で【B】から本件各不動産の権利証を預かるなどして、【B】の本件不動産三ないし五についての抵当権設定や本件不動産一及び二の売却を容易にさせた。したがって、協同宣伝は、【B】の右各詐害行為について悪意の受益者であり、ヒューネットは、協同宣伝に対して詐害行為取消権を行使し得る。
四 【B】、協同宣伝及びエフ・アイ・シーの主張1 ヒューネットは、エフ・アイ・シーに対し、本件三者契約4条に基づき、本製品一台につき二万四五〇〇円を支払う義務を負うが、ここで「本製品」とは、本件装置自体をいい、本件装置一台が製造される都度、その製造の時点で、ヒューネットに二万四五〇〇円の支払義務が生じるものである(当初は、本件装置の製造原価の一六パーセントの実施料を本件商品の販売台数に応じて支払うことが提案されていたが、エフ・アイ・シーがヒューネットの販売姿勢及び能力に疑問を感じて反対し、同年春ころまでに、前記のような内容の合意が成立した。そして、エフ・アイ・シーがヒューネットに対して催促をした末、最終的な合意として右契約の締結にこぎつけたものであり、「本製品」の定義自体は、何ら変わるところはない。また、その支払時期についても、本件装置の毎月の製造台数に応じて月末締めで翌月一〇日に支払われるべき旨が合意された。
ヒューネットは、平成五年三月一二日、松村に対し、本件商品八〇〇〇台の製造を発注した(右の事実は、同日付けの発注書〔乙第一二号証〕、同年六月二五日付けの受領書〔乙第三四号証〕から明らかである。)。松村は、右発注に基づき、同年八月三一日までに、既に本件商品として納品済みの一四七〇台のほか、本件装置を少なくとも三〇〇〇台製造した(右の事実は、証人【F】が三〇〇〇台を製造した旨を証言していること、エフ・アイ・シーが平成一〇年四月三日、本件装置が多数残存している状況を直に把握していること、ヒューネットが三〇〇〇台分のインバーターを第三者から購入していることから明らかである。)。そして、これらについて、ヒューネットからのインバーターの供給を待っていたところ、平成五年九月一日、本件商品の製造の停止の申入れを受けたものである。
したがって、ヒューネットは、遅くとも平成六年三月の時点において、エフ・アイ・シーに対し、一億〇九五一万五〇〇〇円(一台当たり二万四五〇〇円×合計四四七〇台)から支払済みの金額を控除した一億〇〇四三万二五四二円(四四七〇台分の実施料等の元本未払分)を支払うべき義務があった。
なお、ヒューネットは、本件三者契約4条が「本製品」の製造のみについての対価を定めたものではなく、エフ・アイ・シー及び【B】がヒューネットに対して供与すべき義務を有する「一切のサービス等」の対価を定めたものである旨を主張するが、右「一切のサービス等」とは、本件装置の製造に至るまでの技術指導を意味し、本件装置の製造後になされるべきものは含まれていない。エフ・アイ・シー及び【B】は、本件装置の製造に至るまでの技術指導義務を既に履行しており、「本製品」一台当たり二万四五〇〇円の実施料等の支払を請求し得えないものではない。
2 エフ・アイ・シーは、遅くとも平成六年四月一八日までに、右一億〇〇四三万二五四二円の金銭債権(四四七〇台分の実施料等の元本未払分)のうち六〇〇〇万円を【B】に譲渡したので、ヒューネットは、エフ・アイ・シーに対し、残額四〇四三万二五四二円及びこれに対する弁済期到来後の同年八月一一日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
3 【B】は、エフ・アイ・シーから譲り受けたヒューネットに対する六〇〇〇万円の金銭債権を自働債権として、ヒューネットの【B】に対する貸金債権と相殺しており、ヒューネットに対して貸金元金五三〇〇万円及びこれに対する利息・損害金を支払うべき義務はない。また、ヒューネットは、被保全債権を有さず、協同宣伝に対して詐害行為取消権を行使し得るものではない。
4 平成六年三月一四日当時、協同宣伝の代表取締役である【C】は、【B】のヒューネットに対する貸金債務の存在について、全く知らなかった。【C】がかつてエフ・アイ・シーの監査役を務めていたのは、【B】との個人的関係によるものではなく、同じくエフ・アイ・シーの代表取締役である【D】との個人的関係によるものであり、また、名目的な監査役にとどまり、エフ・アイ・シーの内実に関与していたものではない。したがって、協同宣伝は、詐害の認識を有していない善意の受益者であり、ヒューネットは、協同宣伝に対して詐害行為取消権を行使し得るものではない。
五 争点1 ヒューネットが平成六年三月の時点において、エフ・アイ・シーに対し一億〇〇四三万二五四二円の支払義務を負担していたかどうか(ヒューネットの【B】に対する貸金債権の相殺による消滅の有無、及びエフ・アイ・シーのヒューネットに対する実施料等支払請求権の有無)。
(一) 本件三者契約にいう「本製品」とは、本件装置自体を意味するのか、それとも本件商品を意味するのか。
(二) ヒューネットには「本製品」の製造の時点で一台当たり二万四五〇〇円の支払義務が生じるか。
(三) 松村がヒューネットの発注に基づいて平成五年八月三一日までに製造した本件装置は、本件商品として既に納品済みの一四七〇台のほか、何台あるか。
(四) エフ・アイ・シー及び【B】が本件三者契約4条の「一切のサービス等」の供与義務を履行したか。
2 協同宣伝は詐害の認識を有していなかったかどうか(ヒューネットの協同宣伝に対する詐害行為取消権行使の可否)。
当裁判所の判断
一 争点1について1 甲第三号証、第六号証、第一〇号証、第一三号証の一ないし一一、乙第一号証、第二号証、第三号証の一ないし五、第四号証の一及び二、第五号証、第一五号証、第一六号証、第二六号証、第二七号証、証人涌井弘行、同【G】及び同【D】の各証言、甲事件被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、争いのない事実を含めて、次の事実が認められる。
(一) ヒューネット、【B】及びエフ・アイ・シーの間では、平成四年夏ころから、【B】がエフ・アイ・シーに本件発明の実施を許諾し、エフ・アイ・シーがヒューネットに対しその再実施を許諾し、ヒューネットがこれを実施するという態様で、本件発明を利用した省エネルギー機器を共同して商品化する事業計画が進められていた。そして、【B】とエフ・アイ・シーは、同年一二月ころ、【B】がエフ・アイ・シーに対し、本件発明の実施を許諾することなどを内容とする契約を締結した。また、ヒューネットは、同月から【B】を技術顧問として迎え入れるとともに、同月二九日、エフ・アイ・シーとの間で、エフ・アイ・シーがヒューネットに対し電磁場解析に関する技術を供与し、これから生じる発明等について実施を許諾することなどを内容とする契約を締結した。
その後、平成五年初めころ、ヒューネットと【B】は、本件発明について、別紙「契約書二」記載の契約書を作成日付を空欄として作成した。同契約書4条には、
ヒューネットが【B】に対し、本製品の製造原価格の一六パーセントのランニングロイヤリティを支払う(支払方法等の詳細は別途協議の上定める)旨が記載され、
同契約書1条には、「本製品」の定義として、本技術(本件発明及びその改良技術並びに右発明・技術を実施するための装置に関する技術)の利用を目的とし、又は本技術を使用して、ヒューネット、ヒューネットの関連会社又はヒューネットの製造委託先、下請先、再実施先が製造した本技術を利用・実施するための誘導モーターの負荷トルク追従装置自体をいい、いかなる場合にもこれを組み込んだモーターその他の商品を意味しないと記載されていた。
(二) ヒューネットが本件発明の利用についてエフ・アイ・シーに支払うべき実施料等の具体的金額については、ヒューネット、【B】及びエフ・アイ・シーの三者間で協議が重ねられ、まず、ヒューネットから本件装置の製造原価の一六パーセントとする旨の提案があり、平成五年初めころにヒューネットと【B】との間で作成された前記契約書には、その旨が記された。しかし、エフ・アイ・シーは、製造原価の定め方次第で金額が左右されるおそれがあることなどから、金額算定を簡易・明確にするために実施品の台数に応じた金額によることを希望した。そこで、
ヒューネットから一台当たり二万四五〇〇円とする旨の提案があり、ヒューネット、【B】及びエフ・アイ・シーとの間で、その旨が合意されるに至った。
(三) その後、ヒューネット、【B】及びエフ・アイ・シーは、平成五年七月一三日、本件発明についてのこれまでの合意を総括する趣旨で、本件三者契約を締結したが、同契約4条には、本製品一台につき二万四五〇〇円の対価を支払う(支払方法等の詳細は別途協議の上定める)旨が定められ、また、同契約1条には、「本製品」の定義として、本技術(本件発明及びその改良技術並びに右発明・技術を実施するための装置に関する技術)の利用を目的とし又は本技術を使用して、ヒューネット、ヒューネットの関連会社又はヒューネットの製造委託先、下請先、再実施先が製造した生産物をいう旨が定められていた。
(四) ヒューネットは、平成五年三月一二日から同年七月一九日までの間に、松村に対し、型式、数量、納期、禀議番号等が記載された発注書を順次送付して、本件商品の製造を少なくとも合計一四七〇台発注した。松村は、送付された発注書に従って本件商品を製造し、ヒューネットに対し、本件商品を同年六月までに二一〇台、同年七月までに一五〇台それぞれ納品し、同年九月六日までに合計一四七〇台を納品した。ヒューネットは、松村に対し、納品された一四七〇台分の製造委託料を支払った。
(五) ヒューネットは、エフ・アイ・シーに対し、本件三者契約に基づき、平成五年七月一二日(この日は月曜日である。)、右二一〇台分の対価として五二九万八六二九円を、同年八月一〇日、右一五〇台分の対価として三七八万三八二九円を(いずれも消費税込みで、振込手数料を除く。)、それぞれエフ・アイ・シーの銀行口座に振り込んで支払った。
(六) ヒューネットは、平成五年八月二三日、松村に対し、型式、数量、納期、
禀議番号等が記載された発注書を送付して、本件商品三〇〇台の製造を発注した。
しかし、同年九月一日、松村に対し、本件商品の製造の停止を指示し、後日、松村から右三〇〇台分の部材を引き取るとともに、松村にその部材の費用を支払った。
2 争点1(一)について 前記認定の事実関係に加えて、本件装置も本件発明等を使用して製造した「生産物」に変わりはなく、単に「生産物」というだけではそれが本件装置ではなく本件商品を意味すると断定することはできないこと、平成五年初めころに別紙「契約書二」記載の契約書が作成された後、同年七月一三日までの間に、ヒューネット、
【B】及びエフ・アイ・シーが実施料等の額のほか本製品の定義自体をも改めることについて殊更に協議をしたという事実をうかがわせる証拠がないことなどをも考慮すると、本件三者契約における「本製品」とは、具体的には本件装置自体を意味するものというべきである。
ヒューネットは、【B】がその陳述書(乙第一六号証)の中で本件三者契約における「本製品」が本件商品を意味することを認めていたと主張するが、松村の出荷時の台数をロイヤリティ台数の基準に一台当たり二万四五〇〇円として契約を締結した旨の陳述書の記載だけから、直ちに右契約における「本製品」の意味がヒューネットの主張どおりであると認めることはできない。
3 争点1(二)について 前記認定の事実関係、殊に、本件三者契約においては、実施品の製造をヒューネットが自ら行う場合に限らず、その関連会社や製造委託先、下請先等が行う場合も想定されていること、ヒューネットがエフ・アイ・シーに対して実際に納入された本件商品の台数に応じて対価の支払をしていることなどに加え、元来、実施料は、
実施許諾を得た者が当該特許発明実施によって利益を得ることを前提として、その一部を特許権者に還元するという性質のものであって、殊に、実施許諾対価について、一定額として定めたり、最低保証額の合意をすることなく、その額を被許諾者が製造・販売した数量に対応して定めている場合には、そのような性質が顕著であると考えられるところ、本件においては、ヒューネットとエフ・アイ・シーとの間で実施料について最低保証額の合意がなく、むしろ実施品の台数に応じて金額が定められていること、実施品の製造をヒューネットが自ら行うのではなく、その関連会社や製造委託先、下請先等が行う場合には、ヒューネットが実際に実施品の納品を受けて、その実施品に対する支配を収めたときに、初めて本件特許の実施によって利益を得る現実的可能性が生じるものと考えられることなどを併せ考えれば、本件装置がそのままあるいは本件商品となって松村からヒューネットに納品された時点で、本件発明等の使用の対価たる一台当たり二万四五〇〇円の支払義務が生じるものであって、本件装置の製造の時点で生じるものではないというべきである。
ただし、その対価の具体的な支払時期については、前記認定の事実関係に照らせば、ヒューネットとエフ・アイ・シーとの間で当該月までに納品のあった分を翌月の一〇日(同日が土曜日若しくは日曜日の場合には次の月曜日)に支払う旨の合意があったものと認められる。
4 松村は、ヒューネットからの注文に基づき、平成五年八月三一日までに本件商品を合計一四七〇台製造し、これを遅くとも同年九月六日までにヒューネットに納品したが、右の外に本件商品がヒューネットに納品された事実がないことは、当事者間に争いがなく、これまでに判示したところによれば、平成六年三月の時点において、ヒューネットは、エフ・アイ・シーに対し、本件商品として平成五年九月六日までに納品済みの本件装置一四七〇台から既に実施料等が支払われた三六〇台を控除した残余の一一一〇台分について、一台当たり二万四五〇〇円、合計二七一九万五〇〇〇円の実施料等(元本)を支払うべき義務を負担しており、また、その支払期限も到来していたというべきである。しかし、ヒューネットがエフ・アイ・シーに対し、右を超える実施料等の支払義務を負っていたことを認めることはできない。
5 争点1(三)について 仮に本件装置一台が製造される都度、その製造の時点で二万四五〇〇円の支払義務が生じるとしても、以下に詳述するとおり、松村がヒューネットの発注に基づいて平成五年八月三一日までに製造した本件装置は、本件商品として既に納品済みの一四七〇台以外にこれを認めることができないというべきであるから、いずれにしろ、ヒューネットがエフ・アイ・シーに対する実施料等の支払義務を二七一九万五〇〇〇円を超えて負担していたということはできない。
なお、後記のとおり、ヒューネットが松村に対して最低発注台数の保証をしたと解する余地もあるが、仮にそのように解した場合であっても、ヒューネットと松村との間で債務不履行の問題が生じ得るにとどまるものであり、ヒューネットのエフ・アイ・シーに対する実施料等の支払義務の有無については、ヒューネットとエフ・アイ・シーとの間で実施料の最低保証額の合意がない本件においては、発注に基づいて実際に製造された台数に従って判断すべきであるから、何ら影響されるものではない。
(一) 【B】、協同宣伝及びエフ・アイ・シーは、ヒューネットが平成五年三月一二日に松村に対して本件商品八〇〇〇台の製造を発注し、松村が右発注に基づいて同年八月三一日までに既に本件商品として納品済みの一四七〇台に加えて本件装置を少なくとも三〇〇〇台製造したと主張する。
(二) まず、本件商品の製造の発注については、証人【F】は、松村がヒューネットから平成五年三月一二日に本件商品八〇〇〇台の製造の発注を受け、前金として一億円を受領しており、八〇〇〇台の製造が終了したときに清算するとの覚書もある旨を証言し、これを裏付けるような発注書(乙第一二号証)や受領書(乙第三四号証)もある。
しかし、乙第一二号証には、本体型式がアルゴスについて「七・五Kw〜三七Kw」、アルゴスSについて「三・七五Kw〜五・五Kw」、納期がアルゴスについて「一九九三年四月〜一九九三年一二月末」、アルゴスSについて「一九九三年五月末〜一九九三年一二月末」などと記載されているにとどまり、具体的にどの型式のものを何台、いつまでに納品するのかについては全く明らかにされいないから、これに従って本件装置を製造することはできないものである。そして、前記認定のとおり、ヒューネットと松村との間の本件製造委託契約には、ヒューネットが松村に対し、毎月二〇日までに翌月製造の製品の数量、銘柄等を指示することが定められており、実際の発注においては、型式、数量、納期、禀議番号等が記載された発注書が送付され、これに従って本件商品の製造が行われていたこと、ヒューネットは、平成五年八月二三日、松村に対し、型式、数量、納期、禀議番号等が記載された発注書を送付して、本件商品三〇〇台の製造を発注したが、同年九月一日にその製造の停止を指示し、松村から右三〇〇台分の部材を引き取るとともに、松村に対しその部材の費用を支払っていること、一般に、製造委託契約関係にある当事者間において、正式な発注の前に代金の一部前払がされる余地があり得ることなどを併せ考えれば、乙第一二号証及び第三四号証は、これによって最低発注台数の保証があったものと解することはできても、本件商品八〇〇〇台の製造の発注があった事実を認めるに足りるものではない。
また、松村がヒューネットから平成五年三月一二日に本件商品八〇〇〇台の製造の発注を受けた旨の同証人の証言についても、陳述書(乙第一五号証)においては、同年八月二〇日に本件商品三〇〇〇台の受注を受けて、同日以降にこれに必要な部材を発注したかのように述べているにもかかわらず、尋問の際には、同年五月に発注書をもらった段階で既にこれに必要な部材を発注していた旨の矛盾する内容の供述をしたり、製造台数について毎月機種毎に具体的な指示を受けていたのかという質問に対して、覚えていない旨の供述を繰り返すなどの同証人の供述態度に照らせば、これをにわかに採用することはできない。
したがって、ヒューネットが松村に対し、これまでに本件商品一七七〇台の製造を発注したことは認められるものの、平成五年三月一二日に本件商品八〇〇〇台の製造を発注した事実を認めることはできない(なお、ヒューネットが平成五年八月二〇日、松村に対して本件商品の製造を発注したと認めることもできないことは、
甲第一四号証の「正式には9/23に御連絡頂く」という記載等から明らかである。)。
(三) 仮にヒューネットが松村に対して本件商品八〇〇〇台の製造を発注した事実が認められるとしても、松村が右発注に基づき、平成五年八月三一日までに、本件装置を既に本件商品として納品済みの一四七〇台以外に少なくとも三〇〇〇台を製造したことを認めることはできない。
【B】、協同宣伝及びエフ・アイ・シーは、証人【F】が三〇〇〇台を製造した旨を証言していること、エフ・アイ・シーが平成一〇年四月三日、本件装置が多数残存している状況を直に把握していること、ヒューネットが三〇〇〇台分のインバーターを第三者から購入していることから、松村が右発注に基づいて本件装置三〇〇〇台を製造したことは明らかであると主張する。
しかし、同証人は、本件装置三〇〇〇台を製造したことについて、単に「三〇〇〇台の在庫がある」、「それ以上あるが三〇〇〇台と書いた」などと曖昧な供述を繰り返すにとどまり、これを裏付けるような具体的事情を何ら明らかにするものではない。また、同証人は、一か月で三〇〇台から五〇〇台のペースで本件装置を生産していた旨を供述するが、そのペースでは平成五年三月以降八月三一日までに四四七〇台を生産することは相当困難である。これらの点に、同証人の尋問を実施した当時、松村とアルゴス社との間では、平成六年一月に締結した本件商品の売買等に関する特約店基本契約に基づく売掛代金債権の存否をめぐって訴訟が係属しており、松村はアルゴス社の親会社であるヒューネットとの間でも利害が対立する関係にあったこと(乙第三六号証によって認められる。)などを併せ考えれば、同証人の右証言は、直ちに採用し得るものではない。
また、エフ・アイ・シーが装置の残存状況を直に把握していることについては、
その装置が本件装置であったことを裏付けるに足りる証拠はなく、それが単なる部材にすぎない可能性も高いといえ、残存された装置の台数についても証拠上何ら明らかにされていないことなどに照らせば、本件装置三〇〇〇台の製造を認めるに足りるものとはいえない。
さらに、ヒューネットが三〇〇〇台分のインバーターを第三者から購入していることについても、ヒューネットが松村に対しインバーターの供給義務を負っていたことに照らせば、これに備えてある程度の数量のインバーターを前もって購入することは当然にあり得ることであって、これをもって本件装置三〇〇〇台の製造を認め得るものではない。
(四) したがって、松村がヒューネットの発注に基づいて平成五年八月三一日までに製造した本件装置は、本件商品として既に納品済みの一四七〇台以外にこれを認めることができないというべきである。
なお、乙第一六号証及び第二六号証、証人【G】及び同【D】の各証言並びに甲事件被告本人尋問の結果によれば、平成五年九月ころ、当時ヒューネットの代表者であった【G】(以下「【G】」という。)がエフ・アイ・シーの代表者である【D】(以下「【D】」という。)及び【B】に対し、ロイヤリティの支払の猶予を求めたことが認められるが、それまでにヒューネットがエフ・アイ・シーに支払った本件商品の対価が三六〇台分にすぎなかったことに照らせば、右事実から松村がヒューネットの発注に基づいて平成五年八月三一日までに本件装置を納品済みの一四七〇台の外に三〇〇〇台製造した事実を直ちに認めることはできない。また、
乙第三六号証も、これを認めるに足りるものではない。
6 争点1(四)について ヒューネットは、エフ・アイ・シー及び【B】が製品の改良・完成、必要とされるノウハウの供与、関連技術についての指導助言等の「一切のサービス等」を供与する義務を遅くとも平成五年一〇月二七日以降履行しなかったのであるから、「本製品」一台当たり二万四五〇〇円の支払を請求し得るものではなく、既に発生した実施料等支払請求権についても、同日以降の右「一切のサービス等」の供与の停止により消滅したと主張する。
しかし、前判示のとおり、ヒューネットが支払義務を負う実施料等は、平成五年九月六日までに既に納品済みの本件装置についてのものであるところ、ヒューネットの主張する義務違反とは、同日より後の「一切のサービス等」の供与義務違反であって、同年九月六日までに義務違反があったことをいうものではないから、ヒューネットに対する右実施料等の支払請求が否定されるものではない。また、既に発生した実施料等支払請求権について、平成五年一〇月二七日以降の右「一切のサービス等」の供与の停止により消滅するという主張も、何ら法的根拠を伴うものではなく、その主張自体失当であるといわざるを得ない。
7 ヒューネットが平成六年三月の時点において、エフ・アイ・シーに対して支払義務を負っていた実施料等(元本)の額が二七一九万五〇〇〇円であるとすると、
【B】がエフ・アイ・シーから譲り受けた金銭債権の額も、右同額ということになる。他方、エフ・アイ・シーは、ヒューネットに対して有していた実施料等支払請求権の全部を【B】に譲渡したということになり、自らヒューネットに対して実施料等の支払を請求し得るものではない。そして、【B】は、ヒューネットからの貸金返還請求に対し、平成六年五月三一日到達の通知書により、右譲受債権全額を自働債権、元本合計五三〇〇万円の貸金債権を受働債権として対当額で相殺したのであるから(相殺適状は平成六年四月一八日)、右貸金債権のうち弁済期が先に到来した元本五〇〇〇万円の貸金債権の利息・損害金、元本の順に弁済充当され(民法489条491条参照)、五〇〇〇万円に対する平成五年八月六日から同年一一月五日までの利息五〇万四一〇九円、五〇〇〇万円に対する同年一一月六日から平成六年四月一八日までの年一割四分(年三六五日日割計算)の割合による遅延損害金三一四万五二〇五円、貸金元本二三五四万五六八六円の限度でヒューネットの貸金債権は消滅する。しかし、依然として、【B】は、ヒューネットに対し、元本五〇〇〇万円の貸金債権の残元本二六四五万四三一四円及びこれに対する平成六年四月一九日から支払済みまで年一割四分(年三六五日日割計算)の割合による遅延損害金、元本三〇〇万円の貸金債権の元本及びこれに対する弁済期到来後(返還催告後相当期間経過後)である同年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務を負っているものと認められる。
二 争点2について1 甲第三号証、乙第二四号証及び第二六号証、証人【D】の証言、甲事件被告本人尋問及び乙事件被告代表者尋問の各結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 【B】と【D】は、本件発明の商品化を目指して一緒に事業を始めることになったが、協同宣伝の代表者である【C】は、平成三年初めころ、学生時代からの友人であった【D】から【B】を紹介され、本件発明の商品化事業についての協力を依頼された。その後、同年八月、【D】及び【B】らが本件発明の商品化事業を目的としてエフ・アイ・シーを設立し、協同宣伝は、以後、エフ・アイ・シーから相応の報酬を受ける約束の下、本件発明の商品化に向けてエフ・アイ・シーと協力し、多数の企業に対しプレゼンテーションを実施するなどした。しかし、これに要する費用については、本来事業主として負担すべきエフ・アイ・シーが資金不足であったことから、協同宣伝がこれを立て替えていた。協同宣伝としては、エフ・アイ・シーの事業が軌道に乗った後、立替金の回収を図るとともに、右協力に係る相応の報酬の支払を受けるつもりであった。
(二) その後、エフ・アイ・シー及び【B】は、ヒューネットと共同して本件発明を利用した省エネルギー機器を商品化する事業を始めたが、右事業は一向に軌道に乗る様子がなかった。そして、エフ・アイ・シーは、【B】に対して報酬ないし給与を支払うことすらできない状況に陥り、【B】は、平成五年一〇月二七日付けでヒューネットの取締役兼技術部長を辞任して以降、収入の途が閉ざされることとなった。そこで、協同宣伝は、【B】の生活を守るべく、【B】を顧問として迎え入れ、【B】に対し月額一〇〇万円の顧問料を支払うようになった。当時の【B】の収入は、協同宣伝から支払われる顧問料のみであり、【C】は、これを十分認識していた。
(三) 平成六年二月ころ、【B】は、ヒューネットの従業員から、平成五年五月二一日及び同年八月六日に借り受けた合計五三〇〇万円の貸金の返済と本件各不動産についての抵当権設定を求められた。右従業員は、債務支払確認書、抵当権設定契約書及び委任状を持参し、【B】に対し、これらに署名捺印するよう依頼したが、【B】は、これらの書類を受領したものの、署名捺印はしなかった。
(四) 平成六年三月ころには、協同宣伝の立替金の累積額は、約七〇〇〇万円に及び、協同宣伝は、今後エフ・アイ・シーの事業が好転することに期待しつつも、
これ以上何らの担保なくして立替金の支払を続けることに不安を感じるようになった。そこで、まず、エフ・アイ・シー及びその代表者であった【D】に対し担保提供を依頼したが、これを断られたため、【B】に対して担保提供を依頼した。
【B】は、これを承諾し、【B】が協同宣伝から五〇〇〇万円を借り受ける形式を採って、エフ・アイ・シーの協同宣伝に対する立替金債務のうち五〇〇〇万円を引き受け、あるいはこれについて保証をし、それとともに、これに基づく債務の担保として、協同宣伝のために自ら所有する不動産に抵当権を設定することとした。
(五) 協同宣伝は、当初、【B】所有の不動産は【B】が現住している本件不動産一及び二のみであると考え、これに抵当権を設定するつもりであったが、実際に抵当権を設定する段になって、【B】が本件不動産一及び二の外に本件不動産三ないし五を所有していることを了知した。その際、【C】は、【B】から、本件不動産三ないし五を他人から借金をして購入した旨を聞かされたが、収入が限られている【B】が現住マンション以外に不動産を所有していたことに驚きはしたものの、
協同宣伝にとっては好都合であると考え、その借入先などの詳しい事情について尋ねることはしなかった。協同宣伝は、本件不動産三ないし五についても抵当権を設定することとし、必要書類を整えた上、平成六年三月一六日、本件各不動産について抵当権設定登記を了した。
2 前記認定の事実からすれば、平成六年三月一四日付けで協同宣伝を貸主、
【B】を借主として締結された五〇〇〇万円の金銭消費貸借契約の実体は、エフ・アイ・シーが協同宣伝に対して有していた金銭債務のうち五〇〇〇万円を【B】が引受け、あるいはこれについて保証をしたものであり、【B】は、ヒューネットに対する元金合計五三〇〇万円もの貸金債務の存在を十分認識していたにもかかわらず、協同宣伝との間で、実質において単に債務を負担するだけの右金銭消費貸借契約を締結し、その債権担保のために本件各不動産に抵当権を設定したものであるから、右当時、【B】には本件各不動産以外にめぼしい財産がなかった以上、【B】による本件各不動産についての抵当権設定行為は、詐害行為に該当するというべきであり、【B】が平成六年八月一〇日に、本件不動産一及び二を売却し、右売買代金をもって協同宣伝に対する右金銭消費貸借契約に基づく債務の一部を弁済したことも、詐害行為に該当するというべきである。
3 そこで、ヒューネットが協同宣伝に対して詐害行為取消権を行使し得ないものかどうか、すなわち、協同宣伝が詐害の認識を有していなかったかどうかについて判断する。
前記認定の事実からすれば、協同宣伝代表者【C】は、遅くとも本件各不動産に抵当権を設定する時点において、【B】には他にめぼしい財産も収入もないこと、
及び【B】が協同宣伝以外の第三者から多額の借入をしていることを十分認識していたものと認められるものであって、本件各不動産につき抵当権の設定を受けること、本件不動産一及び二を売却させて右売買代金をもって債務の一部である三〇〇〇万円の弁済を受けることがいずれも他の債権者を害するものであることを知りながら、【B】と意を通じてあえてこれを行ったものといわざるを得ず、協同宣伝が詐害の認識を有していなかったと認めることはできない。
したがって、ヒューネットは、協同宣伝に対して詐害行為取消権を行使し得るものというべきであり、協同宣伝に対し、【B】と協同宣伝との間の五〇〇〇万円の平成六年三月一四日付け金銭消費貸借契約に基づく債権担保のために【B】が協同宣伝に対してした本件不動産三ないし五についての同月一六日付け抵当権設定の取消し、右金銭消費貸借契約に基づき【B】が協同宣伝に対して同年八月一〇日付けでした三〇〇〇万円の弁済の取消し、右抵当権の設定登記の抹消登記手続、並びに三〇〇〇万円及びこれに対する平成八年一〇月二五日以降の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる(なお、前記一7において判示したところによれば、平成六年八月一〇日当時、ヒューネットの【B】に対する債権額が三〇〇〇万円を超えることは明らかである。)。
三 以上によれば、ヒューネットの請求は、主文一項ないし五項記載の限度で理由があり、エフ・アイ・シーの請求は、理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論の終結の日 平成一二年二月二二日)
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 中吉徹郎
裁判官 長谷川浩二