関連審決 | 異議2003-70718 |
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関連ワード | 製造方法 / 容易に発明 / 相違点の認定 / 周知技術 / 技術常識 / 発明の概要 / 援用権(援用) / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 設定登録 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / 釈明 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10219号
特許取消決定取消請求事件
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原告 株式会社ニコン 訴訟代理人弁護士 飯田秀郷 同 栗宇一樹 同 早稲本和徳 同 七字賢彦 同 鈴木英之 同 隈部泰正 同 大友良浩 同 戸谷由布子 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 林茂樹 同 西川惠雄 同 岡田孝博 同 宮下正之 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/06/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が異議2003-70718号事件について平成16年7月28日にした決定中「特許第3326443号の請求項1ないし16に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文同旨 |
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当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「ウエハ研磨方法及びその装置」とする特許第3326443号の特許(平成5年8月10日出願。平成14年7月12日設定登録。以下「本件特許」という。設定登録時の請求項の数は27,後記訂正後の請求項の数は16である。)の特許権者である。本件特許に対して特許異議の申立てがされ,特許庁は,これを異議2003-70718号事件として審理した。その過程において,原告は,平成16年4月20日,願書に添付した明細書の訂正(特許請求の範囲の訂正を含む。以下「本件訂正」という。)の請求をした(以下,この訂正後の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成16年7月28日,「訂正を認める。特許第3326443号の請求項1ないし16に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年8月16日,決定の謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲(本件訂正後) 「【請求項1】 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて膜を研磨する際に,定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に設けられた,透明窓材を有する窓を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定することを特徴とするウエハ研磨方法。【請求項2】 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて膜を研磨する際に,定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に設けられた,透明窓材を有する窓から,前記透明窓材及びウエハの間に形成される研磨液の膜を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定することを特徴とするウエハ研磨方法。 【請求項3】 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて膜を研磨する際に,定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に設けられた,透明窓材を有する窓を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく予め求めておいた研磨終了時の光反射状態の特徴と研磨中にモニタして得られた光反射状態の特徴が一致した時点を研磨終了点と判定することを特徴とするウエハ研磨方法。 【請求項4】 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,研磨液を供給しながら,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて膜を研磨する際に,定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に設けられた窓であって,前記研磨布から露出して,かつ研磨中にウエハ研磨面と接触しないよう配置された透明窓材を有する窓から,前記透明窓材及びウエハの間に形成される研磨液の膜を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定することを特徴とするウエハ研磨方法。 【請求項5】 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて膜を研磨する際に,定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に設けられた,透明窓材を有する窓を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態を分光反射率によりモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定することを特徴とするウエハ研磨方法。 【請求項6】 請求項5記載のウエハ研磨方法において,予め求めておいた研磨終了時の分光反射率特性の特徴と,研磨中にモニタして得られた分光反射率特性の特徴が一致した時点を研磨終了点と判定することを特徴とするウエハ研磨方法。 【請求項7】 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて膜を研磨する際に,定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に設けられた,透明窓材を有する窓を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で,研磨中のウエハ上の膜面の特定場所の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定することを特徴とするウエハ研磨方法。 【請求項8】 請求項7記載のウエハ研磨方法において,前記特定場所が前記ウエハの中心部分であることを特徴とするウエハ研磨方法。 【請求項9】 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて研磨するウエハ研磨装置において,前記定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に透明窓材を有する窓が設けられ,該窓を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定するモニタ装置を有することを特徴とするウエハ研磨装置。 【請求項10】 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて研磨するウエハ研磨装置において,前記定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に透明窓材を有する窓が設けられ,前記透明窓材及びウエハの間に形成される研磨液の膜を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定するモニタ装置を有することを特徴とするウエハ研磨装置。 【請求項11】 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて研磨するウエハ研磨装置において,前記定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に透明窓材を有する窓が設けられ,該窓を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく予め求めておいた研磨終了時の光反射状態の特徴と,研磨中にモニタして得られた光反射状態の特徴が一致した時点を膜の研磨終了点と判定するモニタ装置を有することを特徴とするウエハ研磨装置。 【請求項12】 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,研磨液を供給しながら,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて研磨するウエハ研磨装置において,定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に設けられた窓であり,前記研磨布から露出して,かつ研磨中にウエハ研磨面と接触しないよう配置された透明窓材を有する窓から,前記透明窓材及びウエハの間に形成される研磨液の膜を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定するモニタ装置を有することを特徴とするウエハ研磨装置。 【請求項13】 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて研磨するウエハ研磨装置において,前記定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に透明窓材を有する窓が設けられ,該窓を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定するモニタ装置を有し,該モニタ装置が少なくとも分光反射率測定装置を有することを特徴とするウエハ研磨装置。 【請求項14】 請求項13記載のウエハ研磨装置において,前記モニタ装置は,予め求めておいた研磨終了時の分光反射率特性の特徴と,研磨中にモニタして得られた分光反射率特性の特徴が一致した時点を研磨終了点と判定することを特徴とするウエハ研磨装置。 【請求項15】 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて研磨するウエハ研磨装置において,前記定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に透明窓材を有する窓が設けられ,該窓を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で研磨中のウエハ上の膜面の特定場所の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定するモニタ装置を有することを特徴とするウエハ研磨装置。 【請求項16】 請求項15記載のウエハ研磨装置において,前記特定場所が前記ウエハの中心部分であることを特徴とするウエハ研磨装置。」 (以下,順に「本件発明1」,「本件発明2」などという。) 3 決定の理由 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件訂正を認めた上で,本件発明1ないし16は,特開平3-234467号公報(以下,決定と同様「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)と特開昭60-246637号公報(以下,決定と同様「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)あるいはこれらの発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,とするものである(なお,決定は,本件発明1についての認定判断を,本件発明2ないし16についての各判断にいずれも援用している。)。 決定が上記結論を導くに当たり認定した引用発明1の構成,本件発明1と引用発明1との一致点・相違点は,次のとおりである。 (引用発明1の構成) 「回転する研磨定盤6の研磨クロス5が張り付けられた面に,研磨ホルダ7により支持した保護盤2に被着されたスタンパ1を回転させつつ押し付けてスタンパ1を研磨する際に,研磨定盤6及び研磨クロス5の回転中心と周縁との間に設けられた,ガラス板4を有する取付孔6bを通して,前記研磨定盤6及び前記スタンパ1が共に回転している状態で,研磨中の,保護盤2上の測定面2aの変位量の測定値を常時演算して求め,途中スタンパ1の回転を停止させることなくスタンパ1の研磨終了点を判定するスタンパ1の研磨方法。」 (一致点) 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,支持板により支持した研磨対象物を回転させつつ押し付けて研磨対象物を研磨する際に,定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に設けられた,透明窓材を有する窓を通して,前記定盤及び前記研磨対象物が共に回転している状態で,途中研磨対象物の回転を停止させることなく研磨対象物の研磨終了点を判定する研磨対象物研磨方法である点。 (相違点) 研磨対象物及びその研磨終了点の判定について,本件発明1は「膜付きウエハ」であり,「研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタ」しているのに対し,引用発明1は「スタンパ1」であって,スタンパ1を被着している保護盤2上の測定面2aの変位量の測定値を常時演算し,間接的に研磨加工量を検出している点。 |
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原告主張の取消事由の要点
決定は,引用発明1の認定を誤ったことによって本件発明1と引用発明1との一致点・相違点の認定を誤り(取消事由1),引用発明2の認定を誤り,顕著な効果を看過するなどした結果,本件発明1の容易想到性についての判断を誤った(取消事由2)ものである。そして本件発明2ないし16についても,この本件発明1についての誤った判断を前提にした判断をしているのである(取消事由3)。 これらの誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。 1 取消事由1(一致点・相違点の認定の誤り) (1) 決定は,引用発明1を前記第2の3(引用発明1の構成)のように認定しているが,次のように正確に認定されるべきである(下線部は,付加した部分,は改めた部分)。 「回転する研磨定盤6の研磨クロスが貼り付けられた面に,研磨ホルダ7により支持された保護盤22に接着剤で,又は保護盤2に電着により接合された金属を介して 被着されたスタンパ21(スタンパ1,以下「スタンパ」という)を回転させつつその金型取付面を押しつけて当該 スタンパを研磨する際に,定盤6及び研磨クロスの回転中心と周縁との間でスタンパの周縁よりも外側の位置に設けられたガラス板4を有する取付孔6bを通して,前記研磨定盤6及び前記スタンパが共に回転している状態で,途中スタンパの回転を中止させることなくスタンパの研磨終了点を判定するスタンパの研磨方法」 (2) 本件発明1と引用発明1の一致点と相違点は,次のように認定されるべきである。(下線部は,決定の認定と異なる部分である。) (一致点) ア 回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,支持板により支持した支持物を回転させつつ押し付けて支持物の対抗面 を研磨するものである点 イ 定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に透明窓材を有する窓が設けられている点 ウ 上記研磨をする際,上記窓を通して光学式測定器による測定により,前記定盤及び前記支持物 が共に回転している状態で,途中支持物 の回転を停止させることなく支持物の研磨対象の研磨終了点を判定する支持物の研磨対象 の研磨方法である点 (相違点) ア 本件発明1の支持板により支持された支持物は「ウエハ」であり,その研磨対象は,「膜付きウエハの膜」であるのに対し,刊行物1のそれは,いずれも「スタンパ」である点 イ 本件発明1の研磨の終了点の判定は,「研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタ」し,直接的に研磨終了点の判定(一例として研磨対象の膜付きウエハの研磨加工量の検出)をしている のに対し,刊行物1発明の研磨の終了点の判定は,スタンパを被着している保護盤(支持板)上の外周に設けられた 測定面の変位量を光学式変位計の測定値により間欠的に演算し,間接的に研磨対象のスタンパの 研磨加工量を検出している点 2 取消事由2(本件発明1の容易想到性についての判断の誤り) 決定は,まず判断の前提たる引用発明2の認定を誤り,さらに引用発明1と引用発明2の組み合せに関する判断を誤り,本件発明1から生ずる顕著な効果を看過することにより,本件発明1の容易想到性の判断を誤ったものである。 (1) 引用発明2の認定の誤り 決定は,引用発明2について,「刊行物2には,膜付きウエハを研磨対象物とし,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定することが記載されている(上記摘記事項(2)イ参照)。」(決定書12頁4〜6行)としている。 ア 決定の摘記事項(2)イには,ウエハが回転していることを示す記載は全くない。引用発明2においては,膜厚測定装置は固定されているから,特定部位の絶縁膜の膜厚を測定するために,支持板(不図示)及びこれに載置された膜付きウエハは固定されていると解するのが通常であり,これが回転していると解する根拠はない。したがって,引用発明2において,膜付きウエハが回転しているという決定の認定は誤りである。 イ また,引用発明2では,研磨対象物(本来の研磨対象は,あくまでもエビタキシヤル単結晶層であるが)である膜付きウエハ上の絶縁膜の特定の位置の光反射状態を当該特定位置に対する研磨を停止して測定しているが,本件発明1のように研磨を停止することなく膜付きウエハの膜面の任意の位置を測定してその光反射状態(例えば膜の分光反射率や反射光強度等)を観測しているわけではない。 引用発明2における膜の研磨終了点を測定する方法は,「グラインダで研磨するたびにその都度研磨を一旦停止して特定の絶縁膜位置の光反射状態を測定し,絶縁膜が所望の膜厚に達したか否かを判断して,達していないときは再びグラインダで研磨をすることを繰り返して本来の研磨対象であるエビタキシヤル単結晶層の平坦化が達成できたか否かの判断をし,間接的に研磨終了点を測定する」というものである。 したがって,引用発明2においては,「研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタ」していると認定することはできない。したがって,決定が,刊行物2には,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタしている記載があると認定している点は誤りである。 (2) 引用発明1と引用発明2の組み合せについて ア 決定は,引用発明2について上記(1)のような誤った認定を前提として,これを引用発明1に採用して相違点に関する判断をしているのであり,適切な認定を前提とした判断を遺脱しているものである。 イ 仮に,決定の判断が,上記1(2)相違点イを前提に,引用発明1の窓を介した任意の測定面に対する間接的な測定を研磨中の研磨対象物の任意の膜面の直接的な測定に置き換えるとともに,引用発明1の研磨定盤に埋め込まれた光学変位計を引用発明2の膜厚測定装置に置き換えるというものであったとしても,このような置き換えは不可能である。引用発明2は,絶縁膜の膜厚を測定することによって本来の研磨対象であるエビタキシヤル単結晶層が平坦化する研磨終了点を間接的に測定するものであり,またその膜厚の測定をする絶縁膜は特定の位置のものであるが,膜付きウエハが回転しているときに,その特定の位置の膜厚を測定する技術は全く開示していないからである。 すなわち,引用発明2に基づく固定している膜付きウエハの特定の位置の絶縁膜の光反射状態の測定方法を引用発明1と組み合せても,回転している膜付きウエハの任意の位置の膜面の光反射状態の測定をする本件発明1に至らない。そして,引用発明2の発明事項である固定している膜付きウエハの特定位置の膜面の測定を回転する膜付きウエハの任意の位置の測定方法にまで変化させるためには解決すべき技術的課題が存する,つまり技術的障害があるのである。 仮に,引用発明2が,ウエハが回転するものであると解すると,この置き換えによっては,そのように回転するウエハ上の特定の絶縁膜の位置を研磨するたびに測定しなければならないから,ウエハの回転と定盤(窓)との回転を同期せざるを得なくなるが,この場合,ウエハの研磨を行う定盤上研磨布の同一部分による研磨が周期的に繰り返されることとなり,膜面の均一的な研磨を行うという引用発明2の要請に反することとなる。 ウ 決定は,引用発明1のスタンパ(またはベアウエハ)の研磨は,鏡面に仕上げるための工程であって,その研磨精度は前記のとおり2〜4μmの仕上がり精度である。これに対して,これよりも研磨糖度が2桁も高い,すなわち研磨糖度が0.02μmであることが要求される本件発明1のような膜付きウエハの研磨方法に至るために,引用発明1はそもそも考慮される対象ではなく,ましてや引用発明1に引用発明2のような膜付きウエハの膜厚測定方法を組み合せることに当業者は想到しないというべきである。 (3) 顕著な効果の看過について 決定は,本件発明1の採用する事項によってもたらされる効果が,引用発明1及び刊行物2記載の事項から予想することができる程度であると認定するが誤りである。前記のように,引用発明1では,その研磨精度は2〜4μmである。そして,刊行物2記載の研磨方法でどの程度の精度が出せるかは記載がないから不明であるが,研磨工具であるグラインダを研磨面から離して研磨を停止しなければ,特定位置の絶縁膜の膜厚の測定ができないことは前記のとおりであり,グラインダによる研磨の停止により,研磨が非定常状態となり,本件発明のような定常状態による研磨(測定時に研磨を停止させない研磨)と研磨条件が異なることになる。したがって,刊行物2記載の研磨方法とその研磨終了点の測定によっては,本件発明1のような精度の研磨加工量が得られず研磨制御性が悪化する。これに対して,本件発明1では,研磨工具に設けた窓を通して研磨中の研磨対象付置(ウエハ上の任意の膜面)を計測しており,計測位置及び周辺の研磨対象部位に対する研磨を中断することなく定常状態で研磨できるので,研磨の高精度な制御が効率よくできる。 引用発明2にはない顕著な効果を本件発明1は奏することができるのである。 3 取消事由3(本件発明2ないし16についての認定判断の誤り) 本件発明2ないし16について,決定は,本件発明1と引用発明1の相違点と同様の相違点があるとして判断している。この相違点に関する判断は上記のように誤りであることが明らかである以上,他の相違点に関する点について論じるまでもなく,決定の判断は誤りであり,その誤りは結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,取り消されるべきである。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(一致点・相違点の認定の誤り)に対して 原告は,引用発明1の認定に誤りがあるとした上で,本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定に誤りがあると主張する。しかしながら,その誤った認定がどのように誤った結論を導いたのかについては,何ら主張していない。引用発明1は,刊行物1から本件発明1との対比の限度で必要な事項のみを抽出して認定すればよいのであって,原告主張のように認定する必要はない。そして,原告が主張する相違点は,決定が認定した相違点と実質的な差異はない。 2 取消事由2(本件発明1の容易想到性についての判断の誤り)に対して (1) 引用発明2の認定の誤りについて ア 原告は,決定の摘記事項(2)イには,「膜付きウエハが回転している」ことを示す記載は全くないと主張している。確かに,刊行物2には,「膜付きウエハが回転している」ことが明記されていないが,逆に,膜付きウエハが回転しないものとも記載されていない。ところで,本件特許の出願時において,膜付きウエハの研磨の際に膜付きウエハを回転させながら研磨することは技術常識というべきものである。そうすると,当該技術常識を踏まえて,決定が,「刊行物2には,・・・途中ウエハの回転を停止させることなく・・・」と認定したことに誤りはない。 イ 原告は,決定中で,「研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,膜の研磨終了点を判定することも刊行物2記載の事項のとおりである」と認定しているのは誤りであると主張している。 しかし,刊行物2には,「この発明は,・・・膜厚測定装置により半導体基板上の絶縁膜の膜厚を測定しながら,単結晶層及び絶縁膜の表面研磨を行い,所要の絶縁膜厚になったところで研磨をやめるようにし,・・・」と記載されている。してみると,決定が「研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,膜の研磨終了点を判定することも刊行物2記載の事項のとおりである」と認定した点に誤りはない。 (2) 引用発明1と引用発明2の組み合せについて ア 決定が認定した相違点と原告が主張する相違点とに実質的な差異はなく,また,決定の引用発明2の認定も誤りはないのであるから,決定が相違点についてした判断に誤りはない。 イ 原告は,本件発明1が,ウエハの任意位置の膜面の光反射状態を測定するものであり,また,刊行物2記載の事項は,ウエハの特定位置の絶縁膜を測定するものという前提で主張している。 しかしながら,本件発明1が任意位置の膜面の光反射状態を測定するものであるとする点は,特許請求の範囲の記載に基づく主張でないので,失当である。また,刊行物2記載の事項が,ウエハの特定位置の絶縁膜を測定するものであるという事項は,刊行物2に記載されていないので,刊行物2記載の事項がウエハの特定位置の絶縁膜を測定するものであるという誤った前提に基づくものであるから失当である。 ウ 求められる研磨精度が,刊行物1記載のスタンパと,本件発明1及び刊行物2記載の膜付きウエハとで異なるとしても,その相違は,技術上の問題ではなく研磨対象によって適宜選択した結果によるものであり,さらに,膜付きウエハの研磨において研磨精度が100分の1μmのオーダーであることは周知である。そして,引用発明1と刊行物2記載の事項とは,決定中の「相違点1についての検討」に記載したように共通の技術であり,さらに,刊行物1記載の研磨対象物は,スタンパに限られたものでなくシリコンウエハを対象とするものであるから,両者を組み合せることに格別の困難性はない。 (3) 顕著な効果の看過について 原告の主張中の「刊行物2には・・・研磨工具であるグラインダを研磨面から離して研磨を停止しなければ・・・」との前提そのものが誤りである。してみると,誤った前提に基づく原告の主張も誤りというべきである。また,研磨精度の点については,上記のとおりである。 いずれにしても,格別に顕著な効果があるものとはいえない。 3 取消事由3(本件発明2ないし16についての認定判断の誤り)に対して 本件発明1に関する認定判断に誤りがないのであるから,原告の主張は失当である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点・相違点の認定の誤り)について 原告は,まず引用発明1の認定の誤りを主張し,これに基づく一致点・相違点の認定の誤りを主張している。しかしながら,これらの誤りがいかなる意味で決定の取消事由,すなわち決定の結論に影響を及ぼすべき違法に結びつくのかについては必ずしも明確ではない。そこでまず,相違点の看過に結びつくと思われる相違点の認定の誤りについての主張を検討する。 (1) 本件発明1と引用発明1の相違点について,原告は,次のア及びイのように認定すべきであると主張する。 ア 本件発明1の支持板により支持された支持物は「ウエハ」であり,その研磨対象は,「膜付きウエハの膜」であるのに対し,刊行物1のそれは,いずれも「スタンパ」である点(以下「相違点ア」という。) イ 本件発明1の研磨の終了点の判定は,「研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタ」し,直接的に研磨終了点の判定(一例として研磨対象の膜付きウエハの研磨加工量の検出)をしている のに対し,刊行物1発明の研磨の終了点の判定は,スタンパを被着している保護盤(支持板)上の外周に設けられた 測定面の変位量を光学式変位計の測定値により間欠的に演算し,間接的に研磨対象のスタンパの研磨加工量を検出している点(以下「相違点イ」という。) まず,上記相違点アについて検討するに,前記争いのない事実のとおり,本件明細書には,本件発明1について「ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて膜を研磨する際に」「研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定する」という記載があることが明らかであり,これによれば,決定が「研磨対象物」としているものについても「支持物」と「研磨対象」に分けることが可能であって,そのような認定をする方が研磨対象物をより明確にすることができる。しかしながら,決定は,相違点1の検討において,「刊行物2には,膜付きウエハを研磨対象物とし,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定することが記載されている(上記摘記事項(2)イ参照)。刊行物1記載の発明と刊行物2記載のものは,研磨を停止させることなく研磨終了点を判定する技術の分野で共通し,また,刊行物1記載の発明の研磨対象物は,スタンパ1に限られたものでもない(上記摘記事項(1)エ参照)。してみると,刊行物1記載の発明の研磨対象物を膜付きウエハとすることに格別の想到困難性はなく,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,膜の研磨終了点を判定することも刊行物2記載の事項のとおりであるから,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を採用し,上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者であれば容易になし得たことである。」(甲1号証12頁4〜16行)と判断していることが認められ,これによれば,本件発明1における「支持物」である「膜付きウエハ」と「研磨対象」である「膜付きウエハの膜」とを実質的に区別して検討していることが明らかである。 そうすると,決定が相違点アのように認定していない点が明確さを欠くものであったとしても,そのことは審決の結論に影響を及ぼすものではない。 次に原告は,相違点イのように,@本件発明1においては「直接的に研磨終了点の判定(一例として研磨対象の膜付きウエハの研磨加工量の検出)をしている」との構成に,A引用発明1においては「保護盤(支持板)上の外周に設けられた測定面の変位量を光学式変位計の測定値により演算する」という構成に,それぞれ認定すべきであると主張し,さらにB引用発明1について決定が「常時演算して」と認定した部分を「間欠的に演算して」と認定すべきである旨主張している。 しかしながら,その@については本件発明1の請求項に記載されているものではなく,また,Aの点に対応する本件発明1の構成も,やはり請求項に記載されているものではない。したがって,相違点をこれら原告が主張するようなものに認定する必要はない。また,刊行物1には,「演算部3bは,前記センサ3aの測定信号に基づいて・・・変位量の測定値を常時演算して求め,」(第3頁右下欄第13〜16行,第4頁左上欄第20行〜右上欄第3行)と「常時演算して」が明記されていることからすると,Bの決定における認定(「常時演算して」との部分)に誤りはない。 (2) 原告が引用発明1の認定に誤りがあると主張する部分のうち,上記相違点の認定にも影響しない部分については,これが決定の結論に影響を及ぼすものであると認めることは困難である。したがって,各点について検討するまでもなく理由がない。 2 取消事由2(本件発明1の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 引用発明2の認定の誤りについて ア 刊行物2(甲3号証の6)には「膜付きウエハが回転していること」について何らの記載がないことは原告の主張するとおりである。そして,決定は,「刊行物2には,膜付きウエハを研磨対象物とし,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく膜の研磨終了点を判定することが記載されている」(決定書12頁4〜6行)と認定しており,この認定によれば,刊行物2の膜付きウエハは回転しているかのようであり,その意味で決定のかかる認定は相当とはいえない。 しかしながら,決定が認定した本件発明1と引用発明1との一致点には,「前記定盤及び前記研磨対象物が共に回転している状態で,途中研磨対象物の回転を停止させることなく研磨対象物の研磨終了点を判定する研磨対象物研磨方法」である点が含まれているのである。したがって,研磨対象物たる膜付きウエハが回転していること,その回転を停止させることなく研磨終了点を判定することという構成については,本件発明1と主引用例たる引用発明1においてともに備わっているのであり,引用発明2を適用することによって得られる構成ではない。 この点について決定は,「刊行物1記載の発明の研磨対象物を膜付きウエハとすることに格別の想到困難性はなく,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,膜の研磨終了点を判定することも刊行物2記載の事項のとおりであるから,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を採用し,上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者であれば容易になし得たことである。」(決定書12頁11〜16行)と判断しているのであって,引用発明2において研磨対象物が「膜付きウエハ」であることと,研磨終了点の判定を「研磨を停止させないで,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして」行うことという構成を引用発明1に適用するとしているのである。したがって,上記のような相当とはいえない認定があったとしても,そのことが結論に影響を及ぼすものではないことが明らかである。 イ 引用発明2の研磨終了点の測定に関する認定の誤りをいう原告の主張は,引用発明2においては,@膜付きウエハ上の絶縁膜の特定の位置を測定しているのであって,任意の位置を測定しているものではなく,A研磨を一旦停止して測定しているのであって,研磨を中断しないで測定しているのではなく,B間接的に研磨終了点を測定しており,直接的に測定しているのではないのであるから,決定が刊行物2には研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタしている記載があると認定している点は誤りであるというものである。 そこで,刊行物2(甲3号証の6)には次の記載がある。 (ア)「従来の方法では,単結晶層(3)の研磨量の制御が時間設定によっており,研磨量の多過ぎや不足の場合ができていた。これに対処し,少量宛研磨し,研磨ごとに単結晶層(3)の表面の凹凸を測定し,凹凸がなくなるまで研磨を繰返す方法もあるが手間がかかり過ぎ生産性を阻害し,実用的ではない。」(2頁左上欄3〜9行) (イ)「〔発明の概要〕 この発明は,上記従来の方法の欠点をなくするためになされたもので,膜厚測定装置により半導体基板上の絶縁膜の膜厚を測定しながら,単結晶層及び絶縁膜の表面研磨を行い,所要の絶縁膜厚になったところで研磨をやめるようにし,研磨の制御性がよく,所要の厚さで表面平たんな単結晶層が得られる,半導体装置の製造方法を提供することを目的としている。」(2頁左上欄10〜18行) (ウ)「〔発明の実施例〕 以下,この発明の一実施例による半導体装置の製造方法を,第3図に示すシリコン基板部の要部断面図により説明する。(4)は光学的に薄膜の厚さを測る膜厚測定装置で,シリコン基板(1)上面の絶縁膜(2)の厚さを測定する。」(2頁左上欄19行〜右上欄4行) (エ)「膜厚測定装置(4)により絶縁膜(2)の膜厚を測定しながら,絶縁膜(2)及び単結晶層(3)の表面を研磨し,実線で示すように所要の絶縁膜(2)厚さになったところで,研磨をやめる。このときは,始めは絶縁膜(2)から突出していた単結晶層(3)の表面は,絶縁膜(2)面と同一に平たんに研磨されてある。このように,膜厚測定装置(4)により絶縁膜(2)厚を測定しながら,所要厚さに至るまで研磨することにより,単結晶層(3)の表面は絶縁膜(2)と同一面になっており,研磨が過ぎることも不足することもなく,適量に研磨でき,単結晶層(3)の表面が精度よく平たんにされる。」(2頁右上欄7〜18行) (オ)「〔発明の効果〕 以上のように,この発明の方法によれば,膜厚測定装置により半導体基板上の絶縁膜の膜厚を測定しながら,絶縁膜及び単結晶層の表面研磨を行ない,所要の絶縁膜に至ったところで研磨をやめるようにしたので,精度よく研磨の制御ができ,所要の厚さで表面平たんな単結晶層が得られる。」(2頁左下欄11〜17行) (カ) 刊行物2の第3図は別添のとおりであり,膜厚測定装置(4)で,シリコン基板(1)上面の右から2番目に位置する絶縁膜(2)の厚さを測定していること,及び,実線により全ての絶縁膜(2)面と全ての単結晶層(3)面が同一に平たんに研磨されていることが図示されている。 まず,上記(ア)(イ)(エ)(オ)の記載によれば,研磨を中断することなく測定することを含んでいることが明らかであるところ,第3図によれば,絶縁膜と単結晶層とが同一平面になるよう研磨されることが示されている。この絶縁膜と単結晶層とは,ウエハ上で同一面のパターンを形成するものであり,ここに光が照射されて測定するものであるから,任意の位置で直接的に膜厚を測定することが可能な構成であると解することができる。そして,上記(エ)の「所要の絶縁膜(2)厚さになったところで,研磨をやめる。」「膜厚測定装置(4)により絶縁膜(2)厚を測定しながら,所要厚さに至るまで研磨する」との記載,(オ)の「絶縁膜及び単結晶層の表面研磨を行ない,所要の絶縁膜に至ったところで研磨をやめるようにした」との記載などによれば,刊行物2には研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタしていることを前提としていることが明らかである。したがって,この点に関する決定の認定に誤りはない。なお,以上のうち,測定する位置が任意なものか特定のものかという点については,本件発明1においても,請求項1の記載上は任意の位置に限っているものではないことが明らかである。したがって,仮に,引用発明2の構成が「任意の位置」で測定するものではないとしても,そのことが本件発明1の発明事項ではないから,結局決定の結論には影響を及ぼさないことになる。 (2) 引用発明1と引用発明2の組み合せについて ア まず,原告が引用発明2の認定の誤りを前提にして判断の誤りを主張する点は,前示のとおり,その前提を欠くことになるので採用の限りではない。 イ 原告は,引用発明2を引用発明1に適用することが困難であると主張する。 しかしながら,原告の主張は,刊行物2には研磨中の研磨対象物の任意の位置を直接的に測定することが開示されていないことを前提にするものであって,刊行物2にはそのような構成が開示され,原告の主張は前提を欠くものであることは前示のとおりである。 また,原告は,引用発明2には膜付きウエハが回転しているときに膜厚を測定する技術は開示されていないというが,そもそも本件発明1は,本件訂正前の特許請求の範囲が「回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて膜を研磨する際に,定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に設けられた,透明窓材を有する窓から,研磨中のウエハ研磨面の光反射状態をモニタして,膜の研磨終了点を判定することを特徴とするウエハ研磨方法」であったのを,「回転する定盤の研磨布が張り付けられた面に,ウエハ支持板により支持した膜付きウエハを回転させつつ押し付けて膜を研磨する際に,定盤及び研磨布の回転中心と周縁との間に設けられた,透明窓材を有する窓を通して,前記定盤及び前記膜付きウエハが共に回転している状態で,研磨中のウエハ上の膜面の光反射状態をモニタして,途中ウエハの回転を停止させることなく 膜の研磨終了点を判定することを特徴とするウエハ研磨方法」に訂正することを請求し(下線部分が訂正に係る部分),特許請求の範囲の減縮を目的とするもの,又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって,新規事項の追加に該当せず,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないとして,訂正が認められたものである。上記訂正前の本件発明1においては,「研磨状態の判定は,研磨中に行っても,研磨を一時中断して行ってもよい。」とされていたものを(本件明細書【0014】。なお,この記載は,本件訂正後においても残置されている。),上記のとおり,ウエハの回転を停止することなく判定する内容に変更したものである。仮に,ウエハの回転を停止することなく膜厚を測定するためには,そうでない状態(研磨中又は研磨を一時中断した状態)で膜厚を測定する方法とは異なる新たな技術事項を要するとすれば,そもそも本件発明1についての本件訂正は,単なる特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明ということはできず,実質上特許請求の範囲を変更するものに該当するものとして許されないはずである。原告は,本件発明1における特許請求の範囲のうち,本件訂正により追加された記載部分に係る本件発明1と引用発明1との相違部分について,上記のように主張するが,原告の当該主張は,本件発明1について本件訂正が許されたことに反するものであり,また,本件訂正請求を特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明に該当するものとした審判手続における自らの主張とも矛盾するものであって,採用の限りでない。 したがって,研磨を停止させることなく研磨終了点を判定するという技術分野において共通することは明らかである。そうすると,当業者が引用発明1に引用発明2の構成を組み合せるに至る動機付けは十分に存在し,しかもその組み合せを阻害する事由が存在することを認めることもできない。 ウ 原告は,引用発明1のスタンパと引用発明2の膜付きウエハの研磨精度の違いをもって,その組み合せを想到することは困難であると主張する。 まず,刊行物1(甲3号証の2)には「なお,第1および第2実施例では,スタンパの代りにガラス板やシリコンウエハー等を研磨することも可能であり,同様の仕上寸法精度が確保できる。」(5頁左上欄19行〜右上欄2行)との記載が,そして本件明細書には「【0002】【従来の技術】半導体ウエハ研磨では,上面に研磨布が張り付けられた定盤を回転させ,研磨布上に研磨液を滴下しながら,研磨布にウエハ支持板に固定したウエハを,ウエハ支持板により回転させつつ押し付けて,ウエハと研磨布との摩擦により研磨を進行させる方法が広く用いられている。この方法において,研磨加工量は通常,定盤の回転速度,研磨荷重,研磨液の供給量及びその温度,ウエハの回転及び揺動,等が厳しく管理された条件下で,研磨時間によって調節される。」「【0004】膜付きウエハにもこの研磨方法が適用される。通常のウエハの研磨と比較すると,研磨加工量の変動の許容幅が小さいので,研磨時間で加工量を制御しようとすれば,加工速度のわずかな変動も許さないような厳しい工程管理が必要となる。この種の研磨では膜の厚さの調節がその主な目的であって,研磨加工量の制御はその手段に過ぎない。・・・」との記載がある。 これらの記載によれば,引用発明1は,スタンパだけではなく,少なくともウエハの研磨にも適用することができることが明記され,本件発明以前の従来技術において,通常のウエハの研磨方法は,膜付きウエハの研磨にも適用されていたことが明記されていることが明らかである。 そうすると,研磨精度の違いがあったとしても,スタンパの研磨だけではなく,ウエハ研磨にも適用される引用発明1に膜付きウエハの研磨方法である引用発明2を適用することを想到することに困難はないものというべきである。 (3) 効果について 引用発明1に引用発明2を適用して本件発明1の構成を想到することが容易であることは前示のとおりである。そして,そのような構成を採ることによって本件発明1の効果を奏することは通常予測しうることである。原告が主張する効果は,そのような予測を超えるようなものであるとはいえず,格別顕著なものということはできない。 3 取消事由3(本件発明2ないし16についての認定判断の誤り)について 原告が本件発明2ないし16について主張する取消事由は,本件発明1と引用発明1の相違点に関する判断を援用したものであるからというものである。 したがって,決定の本件発明1に関する判断に誤りがないことは前示のとおりであるから,取消事由3は理由がない。 4 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,決定には,これを取り消すべき誤りはない。 よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 若林辰繁 |
裁判官 | 沖中康人 |