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関連審決 審判1996-3363
関連ワード 容易に発明 /  一致点の認定 /  上位概念 /  均等 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 10年 (行ケ) 221号 審決取消請求事件
原告 コニカ株式会社代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士古城春実
被告 特許庁長官B
指定代理人 C
同D
同 E
同 F
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/05/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成8年審判第3363号事件について平成10年5月29日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和61年3月8日、発明の名称を「静電記録装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和61年特許願第50982号)をしたが、拒絶査定を受けたので、平成8年3月14日、拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、これを平成8年審判第3363号事件として審理した結果、平成10年5月29日に、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、平成10年6月29日、その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲 静電潜像が形成される像担持体と、
現像域に現像剤を搬送して前記静電潜像を現像するための回転可能な現像剤搬送手段、および、前記像担持体と前記現像剤搬送手段との間隔を前記現像域にて一定に維持するための一対の現像間隔維持手段を有する現像ユニットと、
前記現像ユニットを支持する支持手段と、
前記現像ユニットを前記像担持体方向に移動させるための複数のバネと、
前記バネの付勢力を介して前記現像ユニットを前記像担持体方向に移動させるための押圧手段と、
前記押圧手段の押圧を解除して前記現像ユニットを前記像担持体から離間する方向に移動するための解除手段とを備え、
前記現像剤搬送手段の回転軸方向の複数箇所で付加されるバネの付勢力によって、前記現像ユニットは前記支持手段に支持されながら前記像担持体方向に滑動移動され、前記一対の現像間隔維持手段の各々が前記像担持体の両端部に各々接触するように構成されており、
かつ、前記現像ユニットは前記解除手段によって前記像担持体から離間する方向に滑動移動され、前記一対の現像間隔維持手段の各々が前記像担持体の両端部から各々離間した状態で静電記録装置に対して着脱可能であることを特徴とする静電記録装置。(別紙図面(一)参照) 3 審決の理由 審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、特開昭59-64862号公報(以下「引用例1」という。)に記載された技術(以下「引用発明1」という。)の回転軸を使用した回動移動手段に代えて、特開昭56-155952号公報(以下「引用例2」という。)に記載された技術(以下「引用発明2」という。)にあるような滑動移動手段を採用することは、当業者であれば格別創意を要することではなく、また、本願発明の効果は、引用発明1及び同2から当業者が予測できる程度のものであると認定判断し、その結果、本願発明は、
引用発明1及び同2に基づいて当業者が容易に発明をすることができた、としているものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由T及びUは認める。同Vは、本願発明と引用発明1が、「現像ユニットを支持する手段」を有する点で一致するとの認定を争い、その余を認める。
上位概念でとらえれば、引用発明1の「案内レール兼現像器傾動軸9、載置台兼案内11」も「現像ユニットを支持する支持手段」ではあるが、同発明は、現像ユニットを案内レール兼現像器傾動軸9(回動軸)に懸架して支持する構造であり、この点に本件発明との重要な相違点がある。同Wは争う。
審決は、本願発明と引用発明1との一致点の認定を誤り(取消事由1)、本願発明の推考困難性の判断を誤り(取消事由2)、本願発明の顕著な作用効果を看過し(取消事由3)、その結果、本願発明は、引用発明1及び同2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの、誤った判断をしたものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) 審決は、本願発明にいう「支持手段」を上位概念でとらえて、引用発明1の「出入案内兼傾動軸9、載置台兼案内11」(審決書7頁1行)と一致すると認定しているが、この認定は、誤っている。
(1) 引用発明1の「出入案内兼傾動軸9」(以下「傾動軸9」という。)は、
現像ユニットの出し入れ時に案内軸となると同時に、現像ユニットが感光ドラム方向に押圧されるときには傾動軸となるものであり、傾動軸9、押し板24、バネ22及びコロ20が一体となって、現像ユニットの出し入れ時の感光ドラムの損傷回避及び現像位置への正確な位置決めという目的を達成しているのであるから、引用発明1の「傾動軸9」を本願発明の「支持手段」という上位概念に一般化することはできない。そして、引用発明1においては、傾動軸9、押し板24、バネ22及びコロ20という各要素が一体不可分に組み合わされて、現像ユニットの移動、押圧及び押圧時における正確な現像間隔維持、押圧解除が実現されるのであるから、
このような一体不可分の組合せの中から、傾動軸9だけを取り出し、これを支持手段という形に抽象化して、その代替可能性を論じることは誤りである。(別紙図面(二)第1図〜第4図参照) (2) 被告は、現像ユニットを出し入れ位置と現像位置間で案内移動して現像ユニットを像担持体に押圧するためには、「現像ユニットを支持するための支持手段」、「現像ユニットを像担持体方向に移動させるための押圧手段」、「押圧手段の押圧を解除して現像ユニットを像担持体から離間するための解除手段」が必要であることが明らかであり、これらの各手段は、その各手段特有の機能を奏するものであればその範囲内において適宜な手段を採用することができるものである、と主張する。
しかし、具体的にどのような手段を採用するかによって、現像ユニットを出し入れする際の操作の簡便性や接触による他の隣接機器の損傷の可能性、現像位置における現像間隔の正確な制御可能性、構造の簡易性等は大きく左右される。それゆえ、複写機の現像ユニットを着脱可能な構造にしようとする場合には「支持手段」、「押圧手段」及び「解除手段」としていかなる具体的手段を採択して組み合わせるかがまさに問題なのである。被告の主張は、複写機の現像ユニットを着脱可能な構成にする場合の上述のような課題を実質上無視しているに等しい。
2 取消事由2(推考困難性について判断の誤り) 審決は、引用発明1の回転軸を使用した回動移動手段に代えて引用発明2のような滑動移動手段を採用することは、当業者であれば格別創意を要することではない旨認定判断したが、この認定判断は、誤っている。
(1) 引用発明1は、傾動軸9、押し板24、バネ22及びコロ20が一体不可分の構成となって、現像ユニットの出入れ時の感光ドラムの損傷回避及び現像位置への正確な位置決めという目的を達成している。
一方、引用発明2は、現像ユニットの出し入れ及び現像位置への移動と押圧・押圧解除がカムとバネによって受部材上でなされるようにした着脱機構であって、この機構における現像ユニットの現像位置への位置決めは、現像ユニットを滑動移動可能に支持する受部材、現像ユニットを感光ドラムと反対方向に現像器を引っ張るバネ及び一対のカムという三つの要素が一体になって実現されるものである(別紙図面(三)第4図参照)。
このように、引用発明1及び同2は、いずれも、特定の要素の一体不可分の組合せによって、現像ユニットの着脱及び現像位置への位置決めという所期の目的を達成しており、その目的達成に当たって互いに切り離すことのできないものであるから、一体不可分の組合せ一部の要素(引用発明2の滑動移動手段)だけを取り出して他の一体不可分の組合せの要素(引用発明1の回動移動手段)と入れ替えることはできない。引用発明1に引用発明2を組み合わせて本件発明の構成に想到することは、当業者が容易になし得たことではない。
(2) 引用発明2のようなカムを用いた機構は、現像間隔の精度維持という点において引用発明1よりもはるかに精度が劣るものであるから、引用発明2のような位置決め精度の低い機構の一部を引用発明1における支持手段に代えて採用するということは、当業者の通常の思考のむしろ逆をいくものである。
(3) 仮に、引用発明1から傾動軸9を取り除いた構成を考える者がいたとしても、引用発明1と引用発明2とでは、バネの付勢方向が反対になっているから、原理の違うものを組み合わせることは、当業者の通常の思考を超えるものである。
3 取消事由3(顕著な作用効果) 本件発明は、簡単な構造で、高精度に、現像間隔を現像剤搬送手段(現像スリーブ)の回転軸方向全域にわたって一様に維持することを可能とするものである。
すなわち、本件発明は、引用発明1のように、現像器が傾動軸に懸架される構造ではないため、現像器の感光体ドラムに対する位置が傾動軸によって規制されることがなく、その結果、引用発明1のように傾動軸9に対し現像器の水平揺れを許容するための構造を特別に設けなくても、現像スリーブの両端に一対の突き当てコロを設けるという簡単な構造で現像間隔を感光ドラムの軸線方向全域にわたって高精度に維持することができるものである。
これは、引用発明1や同2では得られない本願発明の効果であり、この効果は引用発明1及び引用発明2から予測できるものではない。
被告の反論の要点
原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がなく、審決の認定判断に誤りはない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 本願発明における「現像ユニットを支持する支持手段」は、出し入れ位置と現像位置との間で現像ユニットを支持して移動させる機能を有する、現像ユニットの支持手段として設けられたものであり、一方、引用発明1は、現像ユニットを支持する支持手段として傾動軸9を採用し、現像ユニットを支持して出し入れ位置と現像位置の間で現像ユニットを回動するものであり、この支持手段が、「現像ユニットを支持して出し入位置と現像位置の間を移動させる」との機能を有するものとして設けられた支持手段であることは明らかであるから、このような「支持手段」を有している点で両発明が一致しているとした審決には、何らの誤りもない。
2 取消事由2(推考困難性についての判断の誤り)について (1) 現像ユニットを出し入れ位置と現像位置の間で案内移動して現像ユニットを像坦持体に押圧するためには、「現像ユニットを支持するための支持手段」、
「現像ユニットを像坦持体方向に移動させるための押圧手段」及び「押圧手段の押圧を解除して現像ユニットを像坦持体から離間する方向に移動するための解除手段」が必要であること、及び、これらの各手段は、その各手段特有の機能を奏するものであれば、その範囲内において適宜な手段を採用することができるものであることは明らかである。
(2) 引用発明2は、出し入れ位置と現像位置との間で現像ユニットを滑動移動させる支持手段を有するものである。そして、引用発明1及び同2の支持手段は、
いずれも、出し入れ位置と現像位置の間で現像ユニットを支持して移動させる機能を有する現像ユニットの支持手段として設けられたものであるから、引用発明1の現像ユニットの支持手段に代えて引用発明2の現像ユニットの支持手段を採用することは、当業者にとって格別創意を要することではない。
(3) 審決が引用発明2から引用した事項は、「支持手段」としての「滑動移動手段」であって、「押圧手段」としての「カム」や「解除手段」としての「感光ドラムと反対方向に付勢されたバネ」を引用したものではない。
(4) 原告は、引用発明1及び同2は、いずれも、特定の要素の一体不可分の組合せによって、現像ユニットの着脱及び現像位置への位置決めという所期の目的を達成しており、その目的達成に当たって互いに切り離すことのできないものであるから、一体不可分の組合せの一部の要素(引用発明2の滑動移動手段)だけを取り出して他の一体不可分の組合せの要素(引用発明1の回動移動手段)と入れ替えることはできない旨主張するが、現像ユニットの「支持手段」、「押圧手段」及び「解除手段」は、その各手段特有の機能を奏するものであればその範囲内において適宜な手段を採用することができるものであるから、一体不可分の組合せとはいえない。原告の主張は、失当である。
3 取消事由3(顕著な作用効果)について 引用発明1でも、操作レバー5による解除操作によって、一対のコロ20(現像間隔維持手段)を像坦持体の両端部から離間させた状態で、現像装置に対する現像ユニットの着脱を可能とするものであり、また、引用発明1の支持手段に代えて引用発明2の支持手段を採用した際には、現像ユニットは現像剤搬送一方向の回転軸方向に離間した複数箇所で付加されるバネの付勢力によって滑動移動されて、一対のコロ20(現像間隔維持手段)の各々が確実に像坦持体の両端部に各々接触されるので、本願発明と同様に、簡易な構造で、高精度に現像間隔を現像剤搬送手段の回転軸方向にわたって一様に維持することが可能となるものである。したがって、原告が主張する本願発明の効果は、引用例1に記載された現像ユニットの支持手段に代えて引用例2に記載された支持手段を採用することによって奏される当然の効果にすぎないものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 本願発明にいう「支持手段」について 本願発明の特許請求の範囲中には、「・・・前記現像ユニットを支持する支持手段と・・・を備え、前記現像剤搬送手段の回転軸方向の複数箇所で付加されるバネの付勢力によって、前記現像ユニットは前記支持手段に支持されながら前記像担持体方向に滑動移動され、前記一対の現像間隔維持手段の各々が前記像担持体の両端部に各々接触するように構成されており、かつ、前記現像ユニットは前記解除手段によって前記像担持体から離間する方向に滑動移動され、前記一対の現像間隔維持手段の各々が前記像担持体の両端部から各々離間した状態で静電記録装置に対して着脱可能である」という記載がある。同記載によれば、本願発明の「支持手段」は、像担持体方向又は像担持体から離間する方向に滑動移動する現像ユニットを支持するものであることが認められる。
(2) 引用発明1の「支持手段」について (イ) 引用例1に、次の記載があることは、当事者間に争いがない。
「現像器を感光ドラムの軸線と平行に出し入れする形式のものにおいて、
現像器2は、案内レール兼現像器傾動軸9を中心に現像位置(第1図の位置)と出し入れ可能位置(第2図の位置)との間を操作レバー5を回動操作することによって回動移動可能に構成されており、操作レバー5を第1図の位置へ回動することにより、軸12に設けた押板24が、押子21を介してばね22を押圧することにより、現像スリーブ3の軸19上の両端のコロ(保隔子)20が感光ドラム1に当接し、現像スリーブ3と感光ドラム1の間隔を一定に保持した現像位置に現像器2を回動移動する。また、操作レバー5を第2図の位置へ回動することにより、軸12に設けた押板24による押子21の押圧を解除するとともに、支え部材14が下部案内10を載置した状態で出し入れ可能位置へ現像器2を回動移動する。さらに、
間隔保持用コロ20と感光ドラム1に若干の偏心や微細な凹凸があっても、現像器2は回動軸9を中心に感光ドラム側にばね22で常に押されドラム1と現像スリーブ3の間隔を一定に保つことができるが、現像器2の手前側と奥側との重心位置に対する不均衡、手前・奥の押子21の押圧力の不均等によって感光ドラム1に対する押圧度に誤差を生じるおそれがあるので、現像器2の出入案内兼傾動軸9と案内レール6とをその懸架軸線に対して現像器2の水平捩れを許容する構造とする。」(審決書3頁18行〜5頁4行参照) また、甲第1号証(引用例1)によれば、第1図には、傾動軸9を中心に回転運動できるようにされた現像器2が、感光ドラム1に、コロ(保隔子)20(第4図参照)により一定の微小間隔を保って当接している状態が記載されており、第2図には、上記現像器2が、感光ドラム1から離間している状態が記載されていることが認められる。
(ロ) 上記事実によれば、引用発明1の「傾動軸9」(「案内レール兼現像器傾動軸」、「回動軸」、「出入案内兼傾動軸」とも称する。)は、感光ドラム方向又は感光ドラムから離間する方向に回転移動する現像器2を支持するものであることが認められる。
(3) 本願発明の「支持手段」と、引用発明1の「傾動軸9」とを対比すると、
いずれも、像担持体(感光ドラム)方向又は像担持体(感光ドラム)から離間する方向に移動する現像ユニットを支持するものである点で共通し、他方、前者が、直線運動をする現像ユニットを支持するのに対し、後者が、回転運動をする現像器2を支持する点で相違しているものであることが認められる。
したがって、「本願発明では、現像ユニットを像担持体方向或いは像担持体から離間する方向に滑動移動されるものであるのに対して、引用例1に記載された発明では、現像ユニット(現像器2)を像担持体(感光ドラム1)方向或いは像担持体から離間する方向に回動軸9を中心に回動移動されるものである点。」(審決書8頁3行〜9行)を相違点として明確にしたうえで、その余の点では一致しているとした審決の認定には、「支持手段」に関しても誤りはないものというべきである。
(4) 原告は、引用発明1の「傾動軸9」は、現像ユニットの出し入れ時に案内軸となると同時に、現像ユニットが感光ドラム方向に押圧されるときには傾動軸となるものであり、傾動軸9、押し板24、バネ22及びコロ20が一体となって、
現像ユニットの出入れ時の感光ドラムの損傷回避及び現像位置への正確な位置決めという目的を達成しているのであるから、引用発明1の「傾動軸9」を本願発明の「支持手段」という上位概念に一般化することはできない旨主張する。
しかしながら、本願発明の「支持手段」は、前記認定のとおり、像担持体方向又は像担持体から離間する方向に滑動移動する現像ユニットを支持するものであり、それ以上のものではなく、また、仮に、引用発明1が、傾動軸9、押し板24、バネ22及びコロ20が一体となって、現像ユニットの出し入れ時の感光ドラムの損傷回避及び現像位置への正確な位置決めという目的を達成しているものであるとしても、同発明の「傾動軸9」が像担持体方向又は像担持体から離間する方向に移動する現像ユニットを支持するものであることに変わりはないから、審決が、
上記相違点を明確にしたうえで、引用発明1の「傾動軸9」を本願発明の「支持手段」という上位概念でとらえたことには何らの誤りもなく、これを論難する原告の主張は、失当というほかない。
2 取消事由2(推考困難性についての判断の誤り)について (1) 引用例2(特開昭56-155952号公報)に、次の記載があることは、当事者間に争いがない。
「ユニットの引出し動作に連動して感光体に近接配置される装置を感光体表面から離隔せしめ、ユニットの装着動作に連動して該装置を感光体表面に近接した正規の作動位置に移動せしめるに際し、現像装置30は、第4図に示すように、現像剤槽32の突起33を取付板92に固定した受け部材93に載置するとともに受け部材106に退避部材107を載置し、受け部材93、106上で第4図中左右方向に移動自在とし、退避部材107に設けたコイルばね108にて常時左方向すなわち感光体ドラム10から離隔するように付勢されている。この現像装置30は支軸111に設けたセットレバー109のカム部110が現像剤槽32の左側に当接することにより、コイルばね108に抗して感光体ドラム10に対する近接位置に位置決めされる。そして、セットレバー109を起立せしめることによってカム部110による押圧力が解除され、現像装置30はコイルばね108の付勢力によって左方に移動し、感光体ドラム10から離隔することとなる。」(審決書5頁8行〜6頁7行。なお、甲第2号証4頁右上欄15行目〜左下欄11行目及び別紙図面(三)第4図参照) (2) 上記記載及び別紙図面(三)第4図によれば、引用発明2の「受け部材」は、感光体ドラム方向へ又はそれから離隔する方向へ左右移動する現像装置を支持するものであることが認められる。
(3) また、甲第1号証(引用例1)には、従来技術について、「現像器2は内部に微細な現像液(トナー)を有し、周囲が汚れ易く清掃のため、その他保守点検のために複写機本体から容易に着脱できることが必要である。その着脱に当り、感光ドラム1から現像器2を離す必要があるので、従来現像器を感光ドラムの放射方向に移動させるものが知られているが、隣接他機器との関係上大型化し、各機器の構成・配置にも制約を受ける。そこで現像器を感光ドラムの軸線と平行に出し入れするものもあるが、感光ドラム近傍に沿って出入りする関係上傷付け易く、位置決めが不正確になり易い。位置決めの不正確により、現像機能の低下、他の隣接機器との接触・破損も生じ易い等の問題が多い。本発明は上記後者の形式に於てその問題点を解消した現像器着脱装置を提供することを目的とする。」(1頁右下欄15行〜2頁左上欄13行)との記載があることが認めらる。
(4) 以上によれば、引用発明1の「傾動軸9」を用いた回動移動手段に代えて、引用発明2の上記「受け部材」を用いた滑動移動手段を採用し、本願発明とすることは、当業者が、ごく容易に想到し得るものであることが明らかである。
(5) 原告は、引用発明1及び同2は、いずれも、特定の要素の一体不可分の組合せによって、現像ユニットの着脱及び現像位置への位置決めという所期の目的を達成しており、その目的達成に当たって互いに切り離すことのできないものであるから、一体不可分の組合せ一部の要素(引用発明2の滑動移動手段)だけを取り出して他の一体不可分の組合せの要素(引用発明1の回動移動手段)と入れ替えることはできない旨主張する。
原告の主張でまず問題なのは、「一体不可分の組合せ」とはいかなる意味かということが明確でないことである。
原告のいう「一体不可分の組合せ」によって、所期の目的を達成しているということが、その中のどの要素にせよ、それを除きそのままにしておいたのでは所期の目的を達成し得ないということであるならば、そのこと自体は正しいものの、いわば当然のことを述べたまでであり、そのことから、直ちに、引用発明2の一体不可分の組合せの一部の要素(滑動移動手段)だけを取り出して同1の一体不可分の組合せの一部の要素(回動移動手段)と入れ替えることができないと決めてしまうのは、はなはだしい論理の飛躍というべきである。この場合、このような代替が不可能であると決めてしまえるのは、引用発明1の上記要素以外の要素が、上記要素との結び付きによってのみ、その機能を発揮でき、それ以外のものとの結び付きによってはその機能を発揮し得ない場合、あるいは、引用発明2の上記要素が、同発明の他の要素との結び付きによってのみその機能を発揮でき、それ以外のものとの結び付きによってはその機能を発揮できない場合に限られ、それ以外の場合には、代替が検討の対象になり得ることは、論ずるまでもないことだからである。
次に、原告のいう「一体不可分」の意味が、引用発明1における上記回動移動手段以外の要素(例えば、間隔保持手段としての「コロ」や押圧手段としての「バネ」)が、同手段との結び付きによってのみその機能を発揮するものであること、あるいは、引用発明2の上記滑動移動手段が同発明の他の要素(例えば、「カム」)との結び付きによってのみその機能を発揮するものであるということであるならば、「一体不可分」であるか否かこそが問題であるのに、原告は、その主張を「一体不可分」という表現によってするだけで、それ以上のことは何ら明らかにしようとしていないのである。
もちろん、上記置換えに伴い付随的な問題が発生し、その問題の解決自体が新たな課題となって、これが解決されない限り実用に供し得ないということもあり得ようが、本願発明は、「現像剤搬送手段の回転軸方向の複数箇所で付加されるバネの付勢力によって、前記現像ユニットは前記支持手段に支持されながら前記像担持体方向に滑動移動され、前記一対の現像間隔維持手段の各々が前記像担持体の両端部に各々接触するように構成されており、かつ、前記現像ユニットは前記解除手段によって前記像担持体から離間する方向に滑動移動され、前記一対の現像間隔維持手段の各々が前記像担持体の両端部から各々離間した状態で静電記録装置に対して着脱可能であることを特徴とする」ものにすぎず、それ以上のものではないのであるから、推考困難性についての判断において、上記の点を考慮する余地がないことは明らかである。
原告の上記主張は、失当である。
原告のその余の主張も、審決の認定判断の適否に関係しないものというほかなく、採用の限りでない。
3 取消事由3(顕著な作用効果)について 甲第4号証(本願発明に係る特許願)及び第8号証(平成10年4月6日付けの手続補正書)によれば、本願明細書に記載されている発明の効果は、「本発明によれば、解除手段によって一対の現像間隔維持手段を像担持体の両端部から離間させた状態で、静電記録装置に対する現像ユニットの着脱を可能とするので、一対の現像間隔維持手段の確実な離間と現像ユニットの容易な着脱操作を可能とする。
また、現像ユニットが静電記録装置内に装着された状態では、現像ユニットは現像剤搬送手段の回転軸方向に離間した複数箇所で付加されるバネの付勢力によって滑動移動されて、一対の現像間隔維持手段の各々が確実に像担持体の両端部に各々接触されるので、簡易な構造で、高精度に現像間隔を現像剤搬送手段の回転軸方向に渡って一様に維持することが可能である。」(甲第8号証3頁21行目〜末行)というものであることが認められる。
しかしながら、本願発明の構成を採用した場合に、それが、上記「解除手段によって一対の現像間隔維持手段を像担持体の両端部から離間させた状態で、静電記録装置に対する現像ユニットの着脱を可能とするので、一対の現像間隔維持手段の確実な離間と現像ユニットの容易な着脱操作を可能とする」、あるいは、「簡易な構造で、高精度に現像間隔を現像剤搬送手段の回転軸方向に渡って一様に維持することが可能である」という効果を奏することは、その構成自体から明らかである。もし、原告の主張しようとする作用効果が、本願発明の構成自体から明らかな範囲を超えるものであるとするなら、それは、本願明細書に明示されてもおらず、
また、明示されたものとみなすことのできるものでもないから、それをもって特許性の根拠とすることはできない。
原告は、本件発明は、簡単な構造で、高精度に現像間隔を現像剤搬送手段(現像スリーブ)の回転軸方向全域にわたって一様に維持することを可能とするものであり、これは、引用発明1や同2では得られない本願発明の効果であり、この効果は引用例1及び引用例2から予測できるものではない旨主張するが、上記認定判断に照らし、採用の限りでない。
4 以上によれば、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がなく、その他、
審決の認定判断にはこれを取り消すべき瑕疵が見当たらない。よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 宍戸充