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関連審決 審判1998-1264
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成9行ケ38審決取消請求事件 判例 特許
平成9行ケ58審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 物の発明 /  新規性 /  29条1項3号 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  優先権 /  数値限定 /  技術的意義 /  実施 /  発明の範囲 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 158号 審決取消請求事件
原告 エクソンリサーチ アンド エンジニアリング コムパニー 代表者 【A】
訴訟代理人弁護士 中村稔
同 熊倉禎男
同 田中 伸一郎
同 岩瀬吉和
同 弁理士 【B】
被告 特許庁長官【C】
指定代理人 【D】
同 【E】
同 【F】
同 【G】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/05/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が、平成10年審判第1264号事件について、平成10年12月16日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和60年12月17日(優先権主張・1984年12月17日、
英国)にした、発明の名称を「ゼオライトLの製造および触媒作用に於けるその使用」とする特許出願(特願昭60-284185号)の一部を分割して、平成8年4月11日、名称を「炭化水素転化用触媒」とする発明につき特許出願をした(特願平8-89194号)が、平成9年10月17日に拒絶査定を受けたので、平成10年1月26日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成10年審判第1264号事件として審理したうえ、
同年12月16日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成11年2月3日、原告に送達された。
2 明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨 水と珪素源とアルミニウム源とからなり、かつ下記モル比(酸化物として示す) 2.63-2.67M2/nO:Al2O3:8.8-9.7SiO2:145-160H2O (上記モル比中、Mは原子価nの陽イオンまたは陽イオンの混合物であり、M2/nO/SiO2のモル比は少なくとも0.275である) の組成を有するアルカリ性反応混合物を少なくとも75℃の温度に加熱して製造された、少なくとも 0.4のアスペクト比を有する円柱形微結晶からなるゼオライトLと1種以上の触媒活性金属を含有することを特徴とする炭化水素転化用触媒。
3 審決の理由の要点 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、特開昭58-223614号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)と同一であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由の要点
1 審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例記載事項の認定(審決書3頁6行〜6頁4行)、本願発明と引用例発明との一致点及び相違点の認定は認める。
相違点についての判断は争う。
審決は、相違点についての判断を誤って(取消事由)、本願発明が、引用例発明と同一であるとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
2 取消事由(相違点についての判断の誤り) (1) 審決は、本願発明と引用例発明との一応の相違点として認定した「アルカリ性反応組成物のモル比が、本願発明は、『2.63-2.67M2/nO:Al2O3:8.8-9.7SiO2:145-160H2O(上記モル比中、Mは原子価nの陽イオンであり、M2/nO/SiO2のモル比は少なくとも0.275である)』であるのに対し、引用例発明では、『2.62-2.75M2/nO:Al2O3:9-10SiO2:160H2O(上記モル比中、Mは原子価nの陽イオンであり、M2/nO/SiO2のモル比は0.275-0.291である)』である点」(審決書7頁8〜15行)につき、「本願発明と引用例発明におけるアルカリ性反応混合物のゲル組成比は、『2.63-2.67M2/nO:Al2O3:9-9.7SiO2:160H2O(M2/nO/SiO2のモル比は0.275-0.291である)』の範囲で重複しており、この点において差異はない。」(同7頁19行〜8頁3行)としたうえ、「本願発明のようにアルカリ性反応混合物のゲル組成比の範囲に限定したことによって、物の発明として格別の効果が生じたとは認められない。してみると、前記アルカリ性反応混合物のゲル組成の範囲は本願発明と引用例発明とで重複し、また、本願発明のようにアルカリ性反応混合物のゲル組成の範囲に限定したことにより、格別の作用効果を生じるわけでもないから、上記相違点は実質的な差異とは認められない。」(同9頁3〜11行)と判断した。
しかして、審決が、本願発明のアルカリ性反応混合物のゲル組成比の限定に格別の効果が生じないとしたのは、本願明細書の第1表(甲第3号証7頁、以下「本願第1表」という。)に示された、9例のゲル組成比が異なるゲル混合物(アルカリ性反応混合物)と、各ゲル混合物より製造されるゼオライトLの結晶化度及びゼオライトW含量(W/L比)との関係例(以下、個々の例を示すときは、その例が本願第1表の上から何番目に記載されているかに従い、「第1表1例」、「第1表2例」などのようにいう。)のうち、いずれもゲル組成比が本願発明の限定範囲外である第1表4例及び第1表6例(以下、順次「参考例1」、「参考例2」ともいう。)のゼオライトLが、いずれもゲル組成比が本願発明の限定範囲内である第1表2例及び第1表3例(以下、順次「本願例1」、「本願例2」ともいう。)のゼオライトLと比較して、下記のとおり、結晶化度が多少良好で、ゼオライトW含量(W/L比)が同一値であることを根拠とするものである。
参考例1 モル比:2.66M2/nO:Al2O3:10.1SiO2:160H2O、
結晶化度:100%、ゼオライトW含量:<0.03 参考例2 モル比:2.64M2/nO:Al2O3:10.3SiO2:161H2O、
結晶化度:95%、ゼオライトW含量:<0.03 本願例1 モル比:2.65M2/nO:Al2O3:8.8SiO2:149H2O、
結晶化度:85%、ゼオライトW含量:<0.03 本願例2 モル比:2.67M2/nO:Al2O3:9.3SiO2:156H2O、
結晶化度:93%、ゼオライトW含量:<0.03 (2) 本願発明と引用例発明におけるアルカリ性反応混合物のゲル組成比が、審決認定の範囲で重複していることは認める。
しかしながら、審決が、本願例1、2のゼオライトLの結晶化度及びゼオライトW含量と、参考例1、2のゼオライトLの結晶化度及びゼオライトW含量とを比較して、本願発明のアルカリ性反応混合物のゲル組成比の限定に格別の効果が生じないとしたことは誤りである。
すなわち、参考例1、2のモル比(ゲル組成比)は、本願発明における限定の範囲に入らないだけでなく、引用例発明における限定の範囲にも入らないものである。しかるところ、審決が、本願発明と対比して実質的な差異がないとするのは引用例発明であるから、引用例発明と無関係のアルカリ性反応混合物である参考例1、2の結晶化度及びゼオライトW含量がどのような値であろうと、それは、本願発明のアルカリ性反応混合物のゲル組成比の限定に格別の効果が生じないことの根拠となるものではない。
のみならず、本願第1表に示された内容は、本願出願前に公知であったわけではないから、本願発明に含まれないもののうちに、これ含まれるものよりも、
若干良好な効果を有するものが存在したとしても、そのことによって、本願発明の新規性が失われるものではない。
したがって、審決の上記判断はいずれにせよ誤りである。
(3) 被告は、審決における相違点の判断において、本願発明のM2/nO及びSiO2の組成の限定の技術的意義を検討した結果、引用例発明の実施例1、7、9の結晶化度が、本願発明の範囲内のものとほぼ同程度であるから、本願発明が引用例発明に比べ格別な効果を有するものとはいえず、選択発明としての特許性がないと判断したものである旨主張する。
しかしながら、引用例は、本願発明における「ゼオライトLのための合成ゲル中のK2O対SiO2のモル比に対する生成物の結晶化度の感受性」という視点(甲第2号証5頁8欄37〜39行)も、「K2O対SiO2比が0.25に向かって減少するにつれて生成物の結晶化度は急激に減少する」という知見(同欄41〜43行)も、ともに欠いているため、その実施例中には、本願発明よりもゼオライトLの結晶化度の点で劣るものが含まれている。たとえ、引用例発明の実施例中に、本願発明より良好な効果を奏するものが存在するとしても、本願発明は、アルカリ性反応混合物のゲル組成比を限定することにより、ゼオライトLの結晶化度ないしゼオライトW含量が劣悪な生成物を予め避けることを可能にしているのである。
被告の反論の要点
1 審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は、参考例1、2のモル比(ゲル組成比)が、本願発明及び引用例発明のいずれの限定の範囲にも入らないから、その結晶化度及びゼオライトW含量がどのような値であろうと、本願発明と引用例発明との対比において、本願発明のアルカリ性反応混合物のゲル組成比の限定に格別の効果が生じないとする根拠となるものではないと主張する。
しかしながら、審決は、本願発明が選択発明として特許性が認められる余地があるか否かを検討するため、本願発明の範囲内のものと引用例発明の実施例とを比較すると、結晶化度及びゼオライトW含量(W/L比)の値のいずれにおいても、本願発明のものと引用例発明のものとがほぼ同程度であることが判明したことにより、「本願発明のようにアルカリ性反応混合物のゲル組成比の範囲に限定したことによって、物の発明として格別の効果が生じたとは認められない。」と判断したものであって、原告の上記主張は失当である。
(2) すなわち、本願発明においては、引用例発明に比べ、特にM2/nO及びSiO2の組成において、より小さい範囲に設定されているため、この限定の技術的意義を検討する必要がある。
そこで、各成分の使用量及び使用割合の意義を分析するに、本願明細書には、本願第1表に、Al2O31モルに対する、各成分(M2/nO、SiO2、H2O)のモル比が異なる9例のゲル混合物と、各ゲル混合物より製造されるゼオライトLの結晶化度及びゼオライトW含量(W/L比)との関係例が示されており(第1表1〜9例)、添付の図1(甲第2号証、以下「本願図1」という。)に、
合成ゲル(ゲル混合物)のM2/nO/SiO2モル比の関数としてのゼオライトLの結晶化度のグラフが示されている。そして、本願第1表及び本願図1によれば、
M2/nO/SiO2モル比が0.25に向かって減少するにつれて、ゼオライトLの結晶化度が急激に減少することが理解される(このことは、本願明細書にも記載されている(甲第2号証8欄41〜43行)。)。すなわち、ゲル混合物より製造されるゼオライトLの結晶化度は、ゲル混合物のM2/nO、SiO2、H2Oの個々の量にではなく、M2/nOとSiO2のモル比によってのみ左右されるものであるから、引用例に記載された各実施例に係る結晶化度の値も、そのM2/nO/SiO2比を参照すれば、本願第1表及び本願図1から読み取ることができるものである。
すなわち、引用例の実施例1、7、9のM2/nO/SiO2モル比はそれぞれ0.262、0.291、0.275であるから、これを本願図1のグラフ上にプロットすると、本判決添付別紙1のとおりとなり、引用例の実施例1、7、9の各結晶化度と、本願発明の範囲にある第1表2例(本願例1)及び第1表3例(本願例2)の各結晶化度との間に、有意な差が見られないことが判明するのである。
また、本願第1表に基づいて第1表1〜9例のM2/nO/SiO2比とゼオライトW含量(W/L比)との関係をグラフ化し、前同様、そのグラフ上に引用例の実施例1、7、9の各M2/nO/SiO2モル比をプロットすると、本判決添付別紙2のとおりとなり、引用例の実施例1、7、9の各W/L比と、本願発明の範囲にある第1表2例(本願例1)及び第1表3例(本願例2)の各W/L比との間に、やはり有意差が見られないことが判明する。
このように、本願発明の範囲内のものと引用例発明の実施例とでは、結晶化度、ゼオライトW含量のいずれの値も、ほぼ同程度であるといえるから、本願発明が、M2/nO、SiO2のモル比を、引用例から導かれるモル比範囲より狭い範囲に限定することによって、本願発明が引用例発明に比べ格別な効果を奏するものとはいえず、本願発明は、選択発明として特許性がないというべきである。
なお、審決には、参考例1、2の結晶化度やゼオライトW含量に言及した部分があるが、これは、本願発明の限定の範囲が、本願明細書に開示されたゲル混合物のうち、格別効果のあるものに特に限定しているわけでもないことが明細書の上からも確認でき、審判における、本願発明の範囲内のゲル組成が特に効果を奏する旨の原告の主張が、明細書の内容とも矛盾することを示す趣旨で例示したのであって、参考例1、2の存在のみをもって、本願発明の効果に対する評価の根拠としたものではない。
(3) 原告は、本願第1表に示された内容が、本願出願前に公知であったわけではないから、これによって、本願発明の新規性が失われるものではないと主張するが、上記のとおり、審決は、本願発明の数値限定が格別な技術的意義を有するか否かを判断するに当たって、本願第1表を参照したものであり、本願発明の効果に対する評価を、その明細書の記載に基づいて行うのは、当然のことである。
当裁判所の判断
1 取消事由(相違点についての判断の誤り)について (1) 別添審決書写し記載のとおり、審決は、「相違点判断」として、
「 上記相違点について検討する。
本願発明と引用例発明におけるアルカリ性反応混合物のゲル組成比は、『2.63-2.67M2/nO:Al2O3:9-9.7SiO2:160H2O(M2/nO/SiO2のモル比は0.275-0.291である)』の範囲で重複しており、この点において差異はない。
そして、アルカリ性反応混合物のゲル組成比を本願発明のように限定したことによる効果について検討する。
本願明細書段落番号25〜26には、アルカリ性反応組成物のモル比が2.65M2/nO:Al2O3:8.8SiO2:149H2Oのもの及び2.67M2/nO:Al2O3:9.3SiO2:156H2Oのもの(注、本願例1、2を指す。)から製造したゼオライト(本願発明である)と、アルカリ性反応組成物のモル比が2.66M2/nO:Al2O3:10.1SiO2:160H2Oのもの及び2.64M2/nO:Al2O3:10.3SiO2:161H2Oのもの(注、参考例1、2を指す。)から製造されたゼオライト(本願発明ではない)の結晶化度が、それぞれ、85%、93%、100%、95%であること及びゼオライトW含量はすべてのゼオライトとも0.03未満であることが記載されている。
この記載からみて、本願発明のようなアルカリ性反応混合物のゲル組成比の範囲のものから製造したゼオライトであっても、それ以外のゲル組成比の範囲のものから製造したゼオライトであっても、最終的に製造されたゼオライトの構成は実質的に変わらないから、本願発明のようにアルカリ性反応混合物のゲル組成比の範囲に限定したことによって、物の発明として格別の効果が生じたとは認められない。
してみると、前記アルカリ性反応混合物のゲル組成の範囲は本願発明と引用例発明とで重複し、また、本願発明のようにアルカリ性反応混合物のゲル組成の範囲に限定したことにより、格別の作用効果を生じるわけでもないから、上記相違点は実質的な差異とは認められない。」(審決書7頁18行〜9頁11行) と説示したものである。
この説示に照らして、審決が、アルカリ性反応混合物のゲル組成比が本願発明の限定の範囲に属する本願例1、2と、それが本願発明の限定の範囲に属さない参考例1、2とを対比し、それぞれのゼオライトLの結晶化度及びゼオライトW含量(W/L比)に有意差がないことを根拠として、「本願発明のようにアルカリ性反応混合物のゲル組成比の範囲に限定したことによって、物の発明として格別の効果が生じたとは認められない」と認定・判断したものであることは明白である。
しかしながら、前示のとおり、審決は、本願発明と引用例発明とが同一であるから、特許法29条1項3号に該当するものとして、本願発明が特許を受けることができないとするものであり、該判断は、本願発明と引用例発明におけるアルカリ性反応混合物のゲル組成比が、前示審決認定の範囲で重複していること(このこと自体は、当事者間に争いがない。)に基づくものである。そして、そうであれば、本願発明の効果、すなわち、その結晶化度及びゼオライトW含量(W/L比)を、引用例発明のそれと対比した結果において、「本願発明のようにアルカリ性反応混合物のゲル組成比の範囲に限定したことによって、物の発明として格別の効果が生じたとは認められない」と認定し得なければならないことは明らかである。
しかるところ、本願発明と引用例発明とが、「アルカリ性反応組成物のモル比が、本願発明は、『2.63-2.67M2/nO:Al2O3:8.8-9.7SiO2:145-160H2O(上記モル比中、Mは原子価nの陽イオンであり、M2/nO/SiO2のモル比は少なくとも0.275である)』であるのに対し、引用例発明では、『2.62-2.75M2/nO:Al2O3:9-10SiO2:160H2O(上記モル比中、Mは原子価nの陽イオンであり、M2/nO/SiO2のモル比は0.275-0.291である)』である点」(審決書7頁8〜15行)で相違することは、当事者間に争いがなく、該相違点の認定で示されている引用例発明の構成に照らして、前示参考例1、2が引用例発明に属さないことは明らかであるから、審決が、
本願発明の効果を引用例発明の効果と対比した結果において、本願発明におけるアルカリ性反応混合物のゲル組成比の範囲の限定により、物の発明として格別の効果が生じないことを認定したということはできず、したがって、審決には、理由齟齬の誤りがあるといわなければならない。
(2) 被告は、審決が、本願発明が選択発明として特許性を認められる余地があるか否かを検討するため、本願発明の範囲内のものと引用例発明の実施例とを比較すると、結晶化度及びゼオライトW含量(W/L比)のいずれの値においても、本願発明のものと引用例発明の実施例とがほぼ同程度であることが判明したことにより、「本願発明のようにアルカリ性反応混合物のゲル組成比の範囲に限定したことによって、物の発明として格別の効果が生じたとは認められない。」と判断したものであると主張し、具体的には、本願第1表及び本願図1に示された第1表1〜9例に係る各ゲル混合物のM2/nO/SiO2モル比と、各ゼオライトLの結晶化度及びW/L比の値との関係に、引用例の実施例1、7、9を、その各M2/nO/SiO2モル比に応じて当てはめると、本判決添付別紙1、2のとおり、引用例の実施例1、7、9に係る結晶化度及びW/L比と、本願例1及び本願例2に係る結晶化度及びW/L比との間に、有意差がみられないと主張する。
しかしながら、審決の「相違点判断」は、前示したところに尽きるものであって、被告主張のような判断が審決においてなされているものとは到底認めることができない。
それのみならず、被告の該主張自体、直ちに首肯できるものではない。
すなわち、被告主張は、本願発明が、引用例発明に比べ、特にM2/nO及びSiO2の組成において、より小さい範囲に設定されている(この主張が、本願発明のゲル混合物における2.63-2.67M2/nO:Al2O3:8.8-9.7SiO2とのモル比、すなわち、Al2O3のモル数を1としたときのM2/nO及びSiO2の各モル数が、引用例発明と比べ、より小さい範囲に設定されているという趣旨であることは明白である。)ため、この限定の技術的意義を検討する必要があるとしながら、ゲル混合物より生成されるゼオライトLの結晶化度は、ゲル混合物のM2/nO、SiO2、H2Oの個々の量にではなく、M2/nOとSiO2のモル比によってのみ左右されるとし、実際には、ゲル混合物のM2/nO/SiO2モル比と、ゲル混合物より生成されるゼオライトLの結晶化度及びW/L比との関係から、本願例1、2と引用例発明の実施例1、7、9に係る各結晶化度及びW/L比に有意差がみられないとの結論を導き出すものである。
しかしながら、Al2O3のモル数を1としたときのM2/nO及びSiO2の各モル数、すなわち、Al2O3とM2/nOのモル数の関係及びAl2O3とSiO2のモル数の関係と、M2/nO/SiO2モル比、すなわち、M2/nOとSiO2のモル数の関係とが、本願発明及び引用例発明の構成上、同一の技術的意義を有しており、後者とゼオライトLの結晶化度及びW/L比との関係が、直ちに前者とゼオライトLの結晶化度及びW/L比との関係を示すものであるとする根拠は、本件各証拠上、見当たらない。したがって、前示被告主張は、畢竟、引用例発明に比べ、本願発明においてより小さい範囲に設定されているM2/nO及びSiO2の組成(Al2O3のモル数を1としたときのM2/nO及びSiO2の各モル数)の限定の技術的意義を明らかにしたものとはいい得ないといわなければならない(因みに、前示争いのない本願発明と引用例発明との相違点によれば、ゲル混合物のM2/nO/SiO2のモル比の限定の範囲は、本願発明のものが引用例発明のものを包含する関係にあるから、引用例発明の効果に対する関係において、本願発明のM2/nO/SiO2のモル比の限定の効果を検討する意義ないし必要性は、そもそも存在しない。)。また、被告主張によれば、引用例の実施例1のM2/nO/SiO2モル比は0.262であるところ、これは、前示相違点の認定で示されている引用例発明の構成に係るM2/nO/SiO2モル比の限定の範囲外であるから、該実施例1は、審決の認定した引用例発明に含まれないものであり、この点においても、前示被告主張は齟齬があるといわざるを得ない。
(3) したがって、審決の相違点についての判断は、いずれにせよ誤りであるというべきである。
2 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中康久
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利