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関連審決 不服2002-19479
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術的手段 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10003号 審決取消請求事件
原告 ドイチエトムソン−ブラント ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
訴訟代理人弁護士 加藤義明
同 三留和剛
同 弁理士 アインゼル・フェリックス=ラインハルト
同 矢野敏雄
訴訟復代理人弁護士 町田健一
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 新宮佳典
同 橋爪正樹
同 小曳満昭
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/06/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-19479号事件について平成15年9月9日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,1992年(平成4年)1月22日にドイツ連邦共和国においてした特許出願に基づく優先権を主張して,平成5年1月21日,発明の名称を「色副搬送波振幅調整回路」とする発明について特許出願(以下「本件出願」という。)をしたが,平成14年7月10日付けで拒絶査定を受けたので,同年10月4日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2002-19479号事件として審理した結果,平成15年9月9日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月19日にその謄本を原告に送達した。
2 平成13年12月18日付け及び平成14年10月4日付けの各手続補正書により補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の要旨 再生時に,色同期信号の振幅から導出される調整電圧(Ur)が,時定数素子(14)を介して色副搬送波増幅器(8)の増幅度を調整し,電子ビームが,オーバスキャンのため画像スクリーン上には可視表示されない,画像のスタート時における時間間隔(A)の間,時定数(T)は,可視画像の期間に有効な大きな値(T1)から該大きな値より小さな値(T2)に切り換えられる,ビデオレコーダにおける色副搬送波振幅調整回路において, 時定数素子(14)がヘッド切換信号(Us)の供給されるパルス形成器(17)において生成された制御電圧(UT)により制御されており, 抵抗(R1)およびコンデンサ(C1)を有するフィルタ部が調整電圧(Ur)の経路に設けられており,かつ別のコンデンサ(C2)は,スイッチ(20,21)を用いて前記コンデンサ(C1)に並列に接続することができ, 前記スイッチは,トランジスタ(20)または電界効果トランジスタ(21)によって形成されている, ことを特徴とする色副搬送波振幅調整回路。
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明が,特開昭49-51816号公報(甲4,審決の「刊行物1」,以下「引用例1」という。),特開昭57-83989号公報(甲5,審決の「刊行物2」,以下「引用例2」という。)及び特開昭62-219792号公報(甲6,審決の「刊行物3」,以下「引用例3」という。) に記載された各発明(以下,順に「引用発明1」,「引用発明2」,「引用発明3」という。)並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,引用発明1の認定及びこれと本願発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),また,本願発明と引用発明1との相違点についての判断を誤り(取消事由2及び3),その結果,当業者が引用発明1ないし3並びに周知技術に基づいて容易に本願発明に想到し得たとの誤った結論を導いたものであり,違法であるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用発明1の認定及びこれと本願発明との一致点の認定の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明1とは,「再生時に,色同期信号の振幅から導出される調整電圧が,時定数素子を介して色副搬送波増幅器の増幅度を調整し,画像のスタート時における時間間隔の間,時定数は,可視画像の期間に有効な大きな値から該大きな値より小さな値に切り換えられる,ビデオレコーダにおける色副搬送波振幅調整回路において,時定数素子がパルス形成器において生成された制御電圧により制御されており,抵抗およびコンデンサを有するフィルタ部が調整電圧の経路に設けられている色副搬送波振幅調整回路。」(審決謄本5頁第5段落)であるという点で一致し,他方 @ 「『画像のスタート時における時間間隔』が,本願発明では,『電子ビームが,オーバスキャンのため画像スクリーン上には可視表示されない』時間間隔であるのに対して,刊行物1にはその旨の記載はない点」(相違点1) A 「『パルス形成器において生成された制御電圧』が,本願発明では,『ヘッド切換信号(Us)の供給されるパルス形成器(17)において生成された』ものであるのに対して,刊行物1には『ヘッド切換信号』との記載があるだけで,信号の生成由来については記載はない点」(相違点2) B 「時定数を大きな値から小さな値に切換えるために『フィルタ回路』に追加する構成が,本願発明では,『別のコンデンサ(C2)は,スイッチ(20,21)を用いて前記コンデンサ(C1)に並列に接続することができ,』る構成であり,さらに『前記スイッチは,トランジスタ(20)または電界効果トランジスタ(21)によって形成されている』のに対して,刊行物1記載の発明では,『別の抵抗R2’をトランジスタスイッチ(7)を用いて抵抗R 2に並列に接続することができる』構成である点」(相違点3) で相違する(同5頁下から第2段落〜6頁第2段落)と認定したが,一致点の認定について,時定数素子を制御する制御電圧が「パルス形成器において生成された」とする点,切り換えられる時定数の元の値を「可視画像の期間に有効な大きな値」とする点において誤っている。その余の認定部分は認める。
(2) 審決は,引用発明1において,本願発明の「時定数素子がパルス形成器において生成された制御電圧により制御されて」(審決謄本5頁下から第3段落)いるという構成が存在し,本願発明と同様の制御がされていると認定した。
しかし,引用例1には,「ヘッド切換信号」という表現はあっても,この信号がパルス形成器を用いて生成されるとは記載されていない。したがって,審決が,本願発明と引用発明1との一致点として,「パルス形成器」を用いることを挙げているのは,明らかな誤りである。
本願発明は,上記「パルス形成器」を用いることで,時定数を切り換える制御電圧を効率的に発生させることに成功しているのであって,ここでの判断の誤りは,本願発明の実現した顕著な効果を看過することになる。本願発明の「切換電圧Usが供給される」パルス形成器は,効率よく,安価に約25本の走査線の時間間隔を有するパルスUTを発生させることに貢献している。このパルス形成器の意義に照らせば,刊行物1のパルスと本願発明のパルス形成器により形成されるパルスが大きく異なることは明らかである。
(3) 審決は,本願発明にいう,切り換えられる時定数の元の値を「可視画像の期間に有効な大きな値」とする構成が,引用例1にも記載されているとして,これを一致点として認定しているが,引用例1には,上記構成は開示されていない。したがって,引用発明1に引用発明2を結び付け得る素地はないものといえる。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り) (1) 審決は,相違点1について,「刊行物2の『テレビ画面はヘッドの切換えから20H後ぐらいから始まるから,放電もこの程度の時間で終らせる必要がある』旨,『フィールド間の色信号レベル差(6dB)を20Hぐらいの間で補償する必要がある』旨の前記各記載によれば,刊行物2には,テレビ画面が始まるまでに放電が終了するように時定数を小さくすることが開示されている。そうすると,本願発明の『電子ビームが,オーバスキャンのため画像スクリーン上には可視表示されない,画像のスタート時における時間間隔』とすることは,刊行物1の『ヘッドの切換直後の所定時間』を刊行物2を参照して『テレビ画面が始まるまで』とすることにより,当業者が容易になし得ることである。」(審決謄本6頁第3段落〜第4段落)と判断したが,誤りである。
(2) 審決は,引用発明1の認定において,「ヘッドの切換直後の所定時間の間,ホールド回路(5)と別の抵抗R2’(8)とからなる回路部の放電時定数を,常時の大きな値T2から該大きな値T 2より小さな値T 2’に切り換える自動利得制御回路」(審決謄本5頁第1段落)として,時定数を小さくする時間幅を「ヘッドの切換直後の所定時間」と表現していることからすると,20H程度の時間幅(1Hは,1水平走査期間に対応する時間(約63μ秒)である。262.5Hで1フィールドであり,1フィールドでヘッドが切り換わる。)を含み得るとしているようであるが,この認定は誤っている。
引用例1は,時定数を小さくする時間幅について,「ヘッド切換時」や「直ちに」と記載しているから,上記の語句の通常の意味どおり,相当程度短い期間を指しているものであり,具体的には,引用例1の第4図等を参照し,図面上の寸法測定値から時間を算出すると,引用例1は,時定数を小さくする時間幅として6.25H前後の時間を示しているものと認められる。そうすると,引用発明1においては,上記のとおり,時定数を小さくするためのヘッド切換後の時間幅が短く,具体的には6.25Hとされているのであるから,そこでは,画像のスタート時における時間間隔の間,時定数を小さな値に切り換えるという問題意識はないはずである。
一方,引用例2は,画像のスタート時における時間間隔の間,時定数を小さな値に切り換えるという問題意識を有するものである。
このように,引用発明2においては,画像のスタート時における時間間隔の間,時定数を小さな値に切り換えるという問題意識を有するのに対し,引用発明1においてはこれがないから,引用発明2の問題意識を引用発明1に結びつけることは困難である。
(3) また,引用発明1は,大きな時定数の期間から小さな時定数の期間に切り換えるといった時定数切換の技術的手段を用いているのに対し,引用発明2は,バーストゲート信号があるとき(1H期間の10分の1以下)には時定数を設定するが,同信号がないとき(1H期間の10分の9強)にはこれを設定しないという技術であるので,信号があるかないかであって,時定数の「切換」という機能は存在しない。したがって,引用発明1と引用発明2には質的な相違があって,両者を結び付けるべき動機付けはない。
(4) そうすると,相違点1について,引用発明1と引用発明2とを組み合わせることを前提とした審決の相違点1についての判断は,誤っていることが明らかである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り) (1) 審決は,相違点2について,「本願発明の『ヘッド切換信号(Us)』は,フィールド毎に交番する信号であり(段落(0012),(0013)及び図2),本願発明は,これがパルス形成器(17)に供給されその縁においてパルス形状の制御電圧(UT)が生成されるものである。刊行物1の『ヘッド切換信号は,その他ヘッド切換信号に関連した信号の任意のところから取ることができる』との記載によれば,刊行物1の『ヘッド切換信号』はヘッドの切換直後の所定時間の間のパルス形状の信号でありさえすれば,その生成由来にはよらない旨開示されている。他方,刊行物3には,タイミングパルスQとして,ヘッドの切換毎に交番するスイッチングパルスPの立上り又は立下りを基準として,所定の時間Tだけ遅れた所定の時間幅Wを有するパルスを使用することが開示されている。そうすると,本願発明の『ヘッド切換信号(Us)の供給されるパルス形成器(17)において生成された』とすることは,刊行物1の『ヘッド切換信号』を刊行物3を参照して『ヘッドの切換毎に交番するスイッチングパルスPの立上り又は立下りを基準とする所定の時間幅Wを有するパルス』とすることにより,当業者が容易になし得ることである。」(審決謄本6頁下から第3段落〜7頁第1段落)と判断したが,誤りである。
(2) 上記1(2)のとおり,そもそも,引用例1には,「時定数素子がパルス形成器において生成された制御電圧により制御されて」いるとの構成は開示されていないから,審決は,引用発明1の認定において既に誤っている。
(3) 次に,引用例3(甲6)においては,「所定の時間幅Wを有するパルスを使用でき」(3頁右下欄4行目)と記載され,パルス形成器に関する記載があるといえるが,この「所定の時間幅Wを有するパルス」は時定数の切換えに関するものではなく,コンデンサの充電電流を大きくする期間を定めるものにすぎないのであり,時間幅Wの値として例示されている0.7m秒についても本願発明の約1.6m秒(本件明細書6頁4行目参照)とは大きく異なっている。また,引用例3からは,その目的が必ずしも明らかではないが,一定時間Tだけ遅れて一定の時間幅を有するパルスが生じるとされている。
一方,引用例1によれば,「ヘッド切換信号」は,「ヘッド切換信号」と「関連した」任意の信号からとることができるとされるが,上記「関連」の意味は,例示されている信号がヘッド切換と同時ないし近接した時期になるべきディテクションヘッドの信号であることからすると,時間的に近接したものを指していると解される。そうすると,引用発明3にいうパルス(タイミングパルス)を引用発明1に適用するには,引用発明3においてあえて生じさせている遅延時間Tをゼロに近づける必要があることになる。このような変更は,時間Tを前提としてパルスを形成しようとする引用発明3の発想とは別のものであるということとなる。したがって,引用発明3を引用発明1に適用することは困難である。
被告の反論
審決の認定判断は正当であって,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(引用発明1の認定及びこれと本願発明との一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,引用例1には,「ヘッド切換信号」という表現はあっても,この信号がパルス形成器を用いて生成されるとは記載されていないから,審決が,本願発明と引用発明1との一致点として,「パルス形成器」を用いることを挙げているのは,明らかな誤りである旨主張する。
確かに,引用例1には,本願発明の「パルス形成器」に相当する事項についての明示的な記載はない。しかし,当業者は,引用発明1においても,「パルス形成器」と呼ぶべきものが当然に使用されていると理解するので,審決がパルス形成器を用いる点を一致点と認定したことに誤りはない。
すなわち,引用例1に記載されている「ヘッド切換信号」の技術的意義は,ヘッド切換信号がハイレベルにある期間にのみトランジスタ7を導通させ,その期間にのみ放電時定数を常時の値よりも小さくすることである。また,放電時定数がいかに常時の値よりも小さくされるといっても,所望レベルに放電するまでにはある程度の時間を必要とすることは自明のことである。したがって,上記「ヘッド切換信号」は,当然に,引用発明1の目的に合致するように,適正な立上りタイミングと適正なハイレベル期間(パルス幅)が設定されるべきものである。このことは,引用例1の記載から当業者が直ちに理解し得ることであり,同引用例に明示されていないとしても,引用例1に接した当業者は,同引用例において,「パルス形成器」と呼ぶべきものが当然に存在し,それにより「適正な立ち上がりタイミングと適正なパルス幅を有するパルス」が生成されるようになっていると理解するのである。
原告は,本願発明が,上記「パルス形成器」を用いることで,時定数を切り換える制御電圧を効率的に発生させることに成功しているのであって,ここでの判断の誤りは本願発明の実現した顕著な効果を看過することになるなどと主張する。しかし,本件明細書の記載をみても,通常のパルス発生器の作用・効果を示すにとどまるものであり,また,引用例3の記載からも予測できるものである。
なお,本願発明の特許請求の範囲において,時定数が「小さな値(T2)」に切り換えられるのが「電子ビームが,オーバスキャンのため画像スクリーン上には可視表示されない,画像のスタート時における時間間隔(A)の間」と記載されていることからすると,本願発明においては,「切り換える時定数の元の値」は,事実上「可視画像の期間」のみで有効な値であると解することができ,その意味においては,本願発明は刊行物1記載の発明と相違するということもできるが,審決は,その点は,相違点1の中で実質的に取り上げている。
(2) 原告は,審決が,本願発明にいう,切り換えられる時定数の元の値を「可視画像の期間に有効な大きな値」とする構成が,引用例1に記載されているとして,これを一致点として認定しているが,引用例1には,上記構成は開示されていない旨主張する。
しかし,引用例1においても,「切り換える時定数の元の値(大きな値 T2)」が少なくとも本願発明でいう「可視画像の期間」に相当する期間において有効であることは明らかであり,そうである以上,引用例1の「切り換える時定数の元の値(大きな値T2)」を「可視画像の期間に有効な大きな値」といい得ることも明らかであるから,その点を一致点と認定することに何ら問題はない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用例1の「ヘッドの切換直後の所定時間」が6.25H前後の時間を指していると主張する。
しかし,原告は,特許公報の図面(特許出願の図面)が発明の説明上必要な事項を概念的に表現することを主たる機能としており,一般の設計図面のように物の形状を忠実に描画したり正確な寸法を記入したりして作成されるものでないことを無視し,このような図面上の寸法測定値を用いて「6.25H」という数値を算出しているのであって,全く根拠のないものである。
また,「ヘッド切換信号」の技術的意義にかんがみれば,引用例1に記載の「ヘッド切換信号」が幅を有する概念であることは明らかであり,これをテレビ画面が始まるまでの時間(20H〜25H)とすることができないとする理由はない。
そして,引用例1には,ヘッド切換直後の所定時間の間,時定数を小さな値T2’に切り換えることが開示されており,引用発明1において,時定数を小さな値とする所定時間が所期の目的と合致するように設定されることも前記のとおりである。
そうすると,引用発明1においても,画像のスタート時における時間間隔の間,時定数を小さな値に切り換えるという問題意識が存在していることが明らかである。
(2) 原告は,引用発明1は,大きな時定数の期間から小さな時定数の期間に切り換えるといった時定数切換の技術的手段を用いているのに対し,引用発明2は,バーストゲート信号があるとき(1H期間の10分の1以下)には時定数を設定するが,同信号がないとき(1H期間の10分の9強)にはこれを設定しないという技術であるので,信号があるかないかであって,時定数の「切換」という機能は存在しないから,引用発明1と引用発明2には質的な相違があって,両者を結び付けるべき動機付けはない旨主張する。
確かに,引用例2の第4図における「キャパシタの放電」は,バーストゲート信号が存在する期間(1H期間の10分の1以下)にだけ行われるものである。しかし,この放電は,引用例2が提供しようとする発明にいう放電である。審決が引用例2から引用したのは,従来技術に関して「テレビ画面が始まるまでに放電が終了するように時定数を小さくする」との技術であるから,そもそも,原告は,審決が引用例2から引用した技術を誤解しているのである。
審決は,上記のとおり,引用例2の従来技術に関する記載箇所に開示された「テレビ画面はフィールドの切換りから20H後・・・ぐらいから始まるから,放電の過渡状態・・・もこの程度の時間で終わらせる必要がある」(甲5,2頁右上欄7行目〜10行目)という知見を引用し,その知見を知っている当業者であれば,フィールドの切換時に時定数を小さくするようにした引用発明1の「時定数を小さくする期間」を,「電子ビームが,オーバスキャンのため画像スクリーン上には可視表示されない,画像のスタート時における時間間隔(A)の間」とする程度のことは容易に想到し得るものと判断したものである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用例1には,「時定数素子がパルス形成器において生成された制御電圧により制御されて」いるとの構成は開示されていないから,審決は,引用発明1の認定において既に誤っていると主張するが,その前提が誤っていることは上記1(1)のとおりである。
(2) 原告は,引用例3の「所定の時間幅Wを有するパルスを使用でき」(甲6,3頁右下欄4行目)との記載の時間幅が本願発明と相違することを問題にしているが,時間幅の相違は設計上の相違にすぎず,技術目的が異なることによるものではない。また,パルス遅延幅やパルス時間幅は,パルス形成器の設計上の主要パラメータであり,これらの値がパルス形成器に供給されるパルス信号の性状とは関係なく独立して設定可能であることは,パルス回路技術において自明であるから,パルスの時間幅の相違が,ヘッド切換毎に交番する信号を刊行物1に採用する際の技術的障害となるものではない。
審決が引用例3から引用した趣旨は,「所定の時間幅Wを有するパルス」を生成するパルス形成器に供給される信号が,ヘッド切換毎に交番する信号(スイッチングパルスP)である点にある。「所定の時間幅Wを有するパルス」は「ACC回路の応答速度を,ヘッド切換えの直後のみ早め」(甲6,2頁右下欄5行目〜6行目)るために用いる信号であり,その目的は本願発明の制御電圧(UT)と同じである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明1の認定及びこれと本願発明との一致点の認定の誤り)について (1) 本願発明と引用発明1の一致点及び相違点についての審決の認定は,一致点について,時定数素子を制御する制御電圧が「パルス形成器において生成された」とする点,切り換えられる時定数の元の値が「可視画像の期間に有効な大きな値」とする点を除いて,当事者間に争いがない。
(2) 引用例1(甲4)に,次の記載があること(審決謄本2頁最終段落〜下から第2段落)は,当事者間に争いがない。
@ 「本発明は複数個のヘッドを有し,各ヘッドを切換えて連続した信号を得る記録再生装置における各ヘッドの出力レベル差を補償するための自動利得制御回路(AGC)に関し,・・・カラーVTRの再生カラー信号のAGC等に用いてその応答を速やかにすることができる特徴を有する」(1頁左下欄11行目〜17行目) A 「M方式カラーVTRでは,色信号は低域周波数帯に変換され,周波数変調された白黒信号に重畳して直接記録されるため,ヘッドの出力差がそのまま色信号のレベル差となって現われる。これを補償するため従来は第1図に示すようなカラーAGC回路が使用されている。」(1頁左下欄18行目〜右下欄3行目) B 「第1図において,端子(1)に入った再生カラー信号はAGC制御増巾器(2)で利得制御して増巾され,バーストゲート(3)に導かれる。バーストゲート(3)で分離されたバースト信号は整流器(4)で整流され,その電圧がホールド回路(5)によって次のバースト信号が来るまでの間保持される。この電圧でAGC増巾器(2)の利得が制御され,出力レベルのそろった信号が端子(6)に得られるのである。・・・バースト信号がある期間に時定数T1=R 1Cでホールド回路(5)の容量Cが充電され,バースト信号がない期間の保持は時定数T2=R 2・Cで放電が行われる。」(1頁右下欄4行目〜12行目,15行目〜18行目) C 「第3図の基本的な構成は第1図・・・と同様である。・・・(7)は本発明によって付加されたトランジスタスイッチ,(8)は抵抗R2’,(9)はヘッド切換信号入力端子である。」(2頁左上欄13行目〜19行目) D 「本発明の特徴は,ヘッド切換時にヘッド切換信号(第4図d)を端子(9)よりスイッチングトランジスタ(7)に導き,トランジスタ(7)を導通させ,放電時定数をT2’=(R 2・R 2’)/(R 2+R 2’)・Cにするものである。」(2頁左上欄19行目〜右上欄3行目) E 「このようにするときは,一水平走査期間内での放電を第1図に示した回路の場合よりはるかに小さく抑えるように時定数T1=R 1・Cを大きくとり,且つR2’を適当に決めることにより,ヘッド切換時の応答を速くすることができる。」(2頁右上欄3行目〜8行目) F 「ヘッド切換信号は・・・ヘッド切換信号に関連した信号の任意のところから取ることができる。」(2頁右上欄11行目〜14行目) G 「本発明は・・・複数個のヘッドを有する記録再生装置において,各ヘッドの出力レベル差を補償するような場合に広く利用することができ,常時の時定数を充分大きくとり,ヘッド切換時には時定数を小さくしてその応答を速くすることができる特徴を有する。」(2頁左下欄4行目〜9行目) H パルス信号として短いパルス幅を持つ「パルス波形」が図示されている図面第4図(d) (3) 原告は,引用例1には,「ヘッド切換信号」という表現はあっても,この信号がパルス形成器を用いて生成されるとは記載されていないから,審決が,本願発明と引用発明1との一致点として,「パルス形成器」を用いることを挙げているのは,明らかな誤りである旨主張する。
ア 「パルス形成器」は,一般的な用語方法に従えば,文字どおり,パルスを形成する機器という意味であると理解されるところ,本願発明の特許請求の範囲の記載によれば,「時定数素子(14)がヘッド切換信号(Us)の供給されるパルス形成器(17)において生成された制御電圧(UT)により制御されており,」と記載されているから,「パルス形成器」は,ヘッド切換信号が入力され,制御電圧を出力し,その制御電圧によって時定数素子を制御するというものである。
イ 引用例1の上記記載,特にDないしFの記載及びHの図示によると,ヘッド切換時に自動利得制御回路の放電時定数を小さくするための制御信号として「へッド切換信号」が,短いパルス幅を持つ「パルス波形」として開示されており,「へッド切換信号」は,ヘッド切換信号に関連した信号の任意のところから取ることができるというのであるから,「へッド切換信号」を形成する何らかの回路が存在することが明らかというべきである。
そうすると,「パルス形成器」を有する点で本願発明と引用発明1とが一致しているとするとともに,相違点2として,「パルス形成器において生成された制御電圧」が,本願発明では,「ヘッド切換信号(Us)の供給されるパルス形成器(17)において生成された」ものであるのに対して,刊行物1には「ヘッド切換信号」との記載があるだけで,信号の生成由来については記載はない点で相違するとした審決の認定に誤りはない。
(4) 原告は,審決は,本願発明にいう,切り換えられる時定数の元の値を「可視画像の期間に有効な大きな値」とする構成が,引用例1に記載されているとして,これを一致点として認定しているが,引用例1には,上記構成は開示されていないと主張する。
ア 本願発明の特許請求の範囲には,「電子ビームが,オーバスキャンのため画像スクリーン上には可視表示されない,画像のスタート時における時間間隔(A)の間,時定数(T)は,可視画像の期間に有効な大きな値(T1)から該大きな値より小さな値(T2)に切り換えられる」との記載がある。
また,上記構成の作用について,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明をみると,「画像のスタート時またはヘッド切換パルス後でも既に,フライバックまたはオーバスキャンのためスクリーン上に電子ビームが可視表示されない期間にいずれの場合にも,切換えにより比較的迅速な調整,即ち比較的小さな時定数または高い充電電流が生じる。これにより,近似的に20本の走査線の期間の画像のスタート時に可視画像が記録されずかつ,それにより,場合によるカラーフリッカまたは過渡現象が可視状態にならないという事実が常時有利に利用される。」(段落【0008】及び【0009】)との記載がある。
これらの記載によれば,本願発明においては,走査線の期間の画像のスタート時の,オーバスキャンのため画像スクリーン上に画像が可視表示されない期間に時定数が小さな値をとり,その後の画像が可視表示される期間には時定数が大きな値をとることが認められる。
イ 一方,引用例1の上記(2)の記載によると,一水平走査期間内での放電について,ヘッドの切換直後のバースト信号が,ある期間で放電時定数が小さな値をとり,バースト信号がない期間で放電時定数が大きな値をとることが記載されていることが認められる。
したがって,本願発明と引用発明1とは,一水平走査期間内のある期間において,放電時定数が大きな値をとる点で一致しており,その期間が,本願発明においては,画像が可視表示される期間であるのに対して,引用発明1においては,バースト信号がない期間である点で相違しているものである。
ウ そうすると,引用発明1の,バースト信号がない期間の時定数T2について,本願発明の「可視画像の期間に有効な大きな値」に相当するとした上で,相違点1として,「画像のスタート時における時間間隔」が,本願発明では,「電子ビームが,オーバスキャンのため画像スクリーン上には可視表示されない」時間間隔であるのに対して,引用発明1にはその旨の記載はない点で相違するとした審決の認定に誤りはなく,原告の上記主張は理由がない。
(5) 以上のとおり,原告の取消事由1の主張は採用することができない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) 引用例2(甲5)に,「本発明は家庭用VTRの色信号処理回路のACC回路に用いるのに好適な検波回路に関するものである。」(1頁左下欄14行目〜16行目),「2つのヘッドの特性の不揃いのため,フィールド間でレベル差が生じる。・・・フィールド間のレベル差を吸収するため,やはりACC回路が必要となる。」(1頁右下欄12行目〜17行目),「フィールドの切換りから一定時間以上たつとレベルは揃うことになるが,放電,充電の行なわれている過渡時にはフィールド間でレベルが異なることになる。テレビ画面はフィールドの切換りから20H後・・・ぐらいから始まるから,放電の過渡状態・・・もこの程度の時間で終らせる必要がある」(2頁右上欄3行目〜10行目),「ここで,フィールド間の色信号レベル差は6dBぐらいは生じる。この6dBを20Hぐらいの間で補償する必要があるわけで,かなり早い放電が要求される」(3頁左上欄3行目〜6行目)との記載があること(審決謄本3頁最終段落〜4頁第1段落)は,当事者間に争いがない。
上記記載によると,引用例2には,2つのヘッドの特性の不揃いのためフィールド間でレベル差が生じるところ,テレビ画面はフィールドの切り換わりから20H後付近から始まるので,フィールドの切り換わりからテレビ画面が始まるまでに放電の過渡状態を終了させるようにするとの技術が開示されていることが認められる。
一方,引用例1には,「ホールド回路(5)と別の抵抗R2’(8)とからなる回路部が,パルス形状のヘッド切換信号により制御され,ヘッドの切換直後の所定時間の間,ホールド回路(5)と別の抵抗R2’(8)とからなる回路部の放電時定数を,常時の大きな値T2から該大きな値T2より小さな値T2’に切り換える」(審決謄本4頁最終段落〜5頁第1段落)構成を有する引用発明1が開示されていると認められるところ,引用発明1と同一技術分野に属する引用発明2に接した当業者が,引用発明1の「ヘッドの切換直後の所定時間」を引用発明2の「テレビ画面が始まるまで」とし,相違点1に係る本願発明の「電子ビームが,オーバスキャンのため画像スクリーン上には可視表示されない,画像のスタート時における時間間隔」との構成にすることは,容易になし得ることというべきである。
(2) 原告は,引用例1は,時定数を小さくする時間幅について,「ヘッド切換時」や「直ちに」と記載しているから,上記の語句の通常の意味どおり,相当程度短い期間を指しているものであり,具体的には,引用例1の第4図等を参照し,図面の寸法から時間を割り出すと,引用例1は,時定数を小さくする時間幅として6.25H前後の時間を示しているとし,これを前提として,引用発明1においては,上記のとおり,時定数を小さくするためのヘッド切換後の時間幅が短く,具体的には6.25Hとされているのであるから,そこでは,画像のスタート時における時間間隔の間,時定数を小さな値に切り換えるという問題意識はない旨主張する。
原告は,引用例1の特許公報の図面に記載されたヘッド切換信号の記載されている図面の信号の寸法を実測して計算し,時定数を小さくする時間幅として「6.25H」という数値を算出しているのであるが,特許公報の図面が,同公報に記載されている技術を忠実に描画しているものでないことは周知の事実であるから,上記「6.25H」という数値を前提とする原告の主張は失当である。
上記1(2)のとおり,引用例1には,「このようにするときは,一水平走査期間内での放電を第1図に示した回路の場合よりはるかに小さく抑えるように時定数T1=R 1Cを大きくとり,且つR 2’を適当に決めることにより,ヘッド切換時の応答を速くすることができる。」,「常時の時定数を充分大きくとり,ヘッド切換時には時定数を小さくしてその応答を速くすることができる特徴を有する。」との記載があることからすると,引用発明1においては,ヘッド切換時に時定数を小さくしようとするものであり,引用発明2と同様の問題意識が存在しているということができる。
したがって,原告の上記主張は,すべて理由がない。
(3) 原告は,引用発明1は,大きな時定数の期間から小さな時定数の期間に切り換えるといった時定数切換の技術的手段を用いているのに対し,引用発明2は,バーストゲート信号があるとき(1H期間の10分の1以下)には時定数を設定するが,同信号がないとき(1H期間の10分の9強)にはこれを設定しないという技術であるので,信号があるかないかであって,時定数の「切換」という機能は存在しないから,引用発明1と引用発明2には質的な相違があって,両者を結び付けるべき動機付けはないと主張する。
しかし,審決謄本6頁第3段落の記載から明らかなとおり,審決が,引用例2において引用しているのは,「テレビ画面が始まるまでに放電が終了するように時定数を小さくする」という技術であり,時定数切換えの技術的手段を引用しているわけではないから,原告の上記主張は,前提において誤っているものであり,採用の限りでない。
(4) その他,本件全証拠を検討しても,引用発明1に上記引用例2の技術を組み合わせることを妨げる特段の事情を見いだすことができない。
したがって,刊行物1の「ヘッドの切換直後の所定時間」を引用例2の「テレビ画面が始まるまで」とし,本願発明の「電子ビームが,オーバスキャンのため画像スクリーン上には可視表示されない,画像のスタート時における時間間隔」との構成にすることは,当業者が容易になし得ることということができるとした審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由2の主張は採用の限りではない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について (1) 引用例3(甲6)に,「本発明は,ビデオテープレコーダに適用して好適なカラービデオ信号の再生装置に関する。」(1頁左下欄14行目〜15行目),「本発明は・・・ACC回路の応答速度を,ヘッドの切換えの直後のみ早め,その他の期間は通常の遅い速度に切換えるようにしたものである。」(2頁右下欄5行目〜8行目),「タイミングパルスQとしては第2図Cに示すように,第5図で説明したスイッチングパルスPの立上り又は立下りを基準として,これより所定の時間T丈け遅らせ,かつ所定の時間幅Wを有するパルスを使用でき,この場合,時間幅Wは例えば0.7m秒程度に選ぶことができる。」(3頁左下欄末行〜右下欄6行目)との記載があること(審決謄本4頁8行目〜20行目),第5図には,「スイッチングパルスPはヘッドの切換毎に交番する信号であること」が図示されていることは,当事者間に争いがない。
上記記載によると,引用例3には,「タイミングパルスQとして,ヘッドの切換毎に交番するスイッチングパルスPの立上り又は立下りを基準として,所定の時間Tだけ遅れた所定の時間幅Wを有するパルスを使用すること」(審決謄本6頁下から第2段落)との技術が開示されていることが認められる。
(2) そして,引用例1の「ヘッド切換信号は,その他ヘッド切換信号に関連した信号の任意のところから取ることができる」との記載によれば,引用発明1の「ヘッド切換信号」は,ヘッドの切換直後の所定時間の間のパルス形状の信号でありさえすればよく,その生成由来にはよらないことが認められる。
そうすると,引用発明1の「ヘッド切換信号」については,既存の適宜のパルス生成の技術を組み合わせればよいのであるから,引用発明1に引用発明3を組み合わせ,本願発明の「ヘッド切換信号(Us)の供給されるパルス形成器(17)において生成された」信号とすることは,当業者が容易になし得ることというべきである。
なお,原告は,引用例1には,「ヘッド切換信号」という表現はあっても,この信号がパルス形成器を用いて生成されるとは記載されていないから,審決は,引用発明1の認定において既に誤っていると主張するが,その前提が誤っていることは,前記1(3)判示のとおりである。
(3) 原告は,引用例3(甲6)においては,「所定の時間幅Wを有するパルスを使用でき」(3頁右下欄4行目)と記載され,パルス形成器に関する記載があるといえるが,この「所定の時間幅Wを有するパルス」は時定数の切換えに関するものではなく,コンデンサの充電電流を大きくする期間を定めるものにすぎないのであり,時間幅Wの値として例示されている0.7m秒についても本願発明の約1.6m秒(本件明細書6頁4行目参照)とは大きく異なっているとし,これを前提に,引用例3の技術を引用発明1に適用することは困難である旨主張する。
しかしながら,審決は,引用例3から,「タイミングパルスQとして,ヘッドの切換毎に交番するスイッチングパルスPの立上り又は立下りを基準として,所定の時間Tだけ遅れた所定の時間幅Wを有するパルスを使用すること」(審決謄本6頁下から第2段落)との技術を引用しているのであるから,審決の引用していない技術事項をもってする原告の上記主張は,失当というほかない。
(4) そうすると,原告の取消事由3の主張は採用することができない。
4 以上によれば,原告が審決取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,他にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 青柳馨
裁判官 宍戸充
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