関連審決 | 審判1997-20037 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の判断 / 試行錯誤 / 援用権(援用) / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
10年
(行ケ)
342号
審決取消請求事件
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原告 コニカ株式会社代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁護士 井垣弘、弁理士 【B】 被告 特許庁長官【C】 指定代理人 【D】、【E】、【F】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2000/07/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が平成9年審判第20037号事件について平成10年8月14日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和62年10月30日「感光体」なる発明について特許出願をしたが(昭和62年特許願第277070号)、平成9年8月6日拒絶査定があったので、同年11月27日審判を請求し(平成9年審判第20037号)、平成10年8月14日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成10年10月7日原告に送達された。 2 本願発明の要旨 電荷発生物質と電荷輸送物質を含有する感光層を支持体上に設けた感光体であって、 該支持体に対して該感光層を設けた側の該感光体の表面領域に下記一般式〔T〕で表される構造単位及び/又は下記一般式〔U〕で表される構造単位を主要繰り返し単位として有するポリカーボネートが含有され、 かつ、下記一般式〔Va〕、〔Vb〕、〔Vc〕、〔Vd〕又は〔Ve〕で表されるヒンダードフェノール構造単位を分子内に有する化合物が前記感光体の表面領域に含有されていることを特徴とする感光体。 (但し、前記電荷輸送物質がヒドラゾン系化合物のみ若しくはヒドラゾン系化合物と感光特性等を阻害しない範囲でヒドラゾン系化合物以外の電荷輸送材料との併用で、前記ポリカーボネートがポリ(4,4’-シクロヘキシリデンジフェニル)カーボネートで、かつ、ヒンダードフェノール構造単位を分子内に有する化合物がアルキルフェノール系化合物である場合を除く。)(一般式は、別紙本願発明一般式に記載のとおり) 3 審決の理由の要点 (1) 本願発明の要旨 前項のとおりと認める。 (2) 引用例記載の発明 これに対して、原査定の拒絶の理由となった特許異議申立ての決定の理由において引用された刊行物である特開昭57-122444号公報(第1引用例)及び特開昭60-172045号公報(第2引用例)には、それぞれ以下の技術的事項が記載されている。 第1引用例: 酸化防止剤を含有する感光層を有する電子写真感光体(1頁左下欄5〜6行)について、 @ 電子写真感光体は、コロナ帯電、露光、現像、転写、クリーニングなどから成る繰返しのプロセスにおいて、感光体表面は、コロナ帯電の時に生ずるオゾンなどの酸化雰囲気に曝されるため、表面に劣化を生ずる欠点を有しており、感光体表面の劣化は、電気特性の劣化、すなわち、感度低下、電位低下及び残留電位増加の原因となり、このためコピーの画像濃度低下及びカブリ残像発生を惹き起こすことになるが、第1引用例記載の発明の目的は、酸化雰囲気による表面劣化を防止した電子写真感光体を提供することにあること(1頁右下欄1〜14行)、 A 特に、電荷発生層と電荷輸送層の積層構造から成る感光層における電荷輸送層中に酸化防止剤を含有せしめることが好ましく、酸化防止剤の添加により感度の低下を招くことなく、感光層の酸化による劣化を防止することができること(1頁右下欄17行〜2頁左上欄2行)、 B 上記酸化防止剤として、2,2′-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)等の化合物(2頁左上欄3行〜右上欄9行)が挙げられること、 C 電荷輸送層は電荷発生物質と酸化防止剤と結着剤とから成るが、結着剤としては、特にポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましいこと(2頁右下欄8〜12行及び同欄末行〜3頁左上欄1行)、 D 実施例1では、アルミシリンダー上に電荷発生層を形成し、該電荷発生層上にポリカーボネート樹脂(商品名;テイジンパンライト、帝人(株)製)及び3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエンを含有する電荷輸送層を設けたこと(3頁左下欄10行〜4頁左上欄7行)、 E 実施例3〜10では、上記実施例1で用いた3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン に代えて、以下の酸化防止剤を用いたこと(4頁右下欄1行〜5頁左上欄6行)、 3:2,2′-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール) 4:α-トコフェロール 5:ジブチルヒドロキシアニソール 6:2,5-ジ-t-オクチルハイドロキノン 7:2-t-オクチル-5-メチルハイドロキノン 8:ジラウリル-3,3′-チオジプロピオネート 9:トリフェニル化リン 10:N-フェニル-N′-イソプロピル-P-フェニレンジアミンが記載されている。 第2引用例: 感光層中に一般式〔A〕で表されるポリカーボネートと、一般式〔B〕で表されるポリカーボネートとのいずれか一方を主成分とするバインダーが含有されて成る感光体(1頁左下欄5行〜右下欄13行)において、 F ビスフェノールAの中心炭素原子に2つのメチル基が対称的に結合している構造を有しているポリカーボネートを用いて膜形成を行うと、塗膜形成時に膜表面に結晶性ポリカーボネートが析出して凸部が生じやすく、このために塗膜の尾引きが生じて収率が低下したり、あるいは感光体としての使用時に膜面の凸部にトナーが付着してクリーニングされずに残り、いわゆるトナーフィルミングによる画像欠陥が生じやすいこと(2頁左下欄下から2行〜右下欄9行)、 G 上記一般式〔A〕又は〔B〕のポリカーボネートのビスフェノールA部分の中心炭素原子には、少なくとも一方がかさ高い(バルキーな)R1、R2が結合しているか、あるいは上記Zによる環が形成されているので、これらのR1及び/又はR2あるいはZによってポリカーボネートの分子鎖が特定方向に配列することが効果的に阻止され、このため、感光層の形成時にポリカーボネートが結晶化して膜表面に析出することがなく、異常な凸部による収率の低下、及びトナーフィルミングによる画像欠陥等のような特性劣化を防ぐことができること(3頁右上欄下から9行〜左下欄9行)、 H 第2引用例記載の発明で使用するバインダーはポリカーボネート系のものであるから、ポリカーボネート系が本来奏する優れた帯電性能、繰返し特性、耐刷性等の特性を感光体に付与することができること(3頁左下欄10〜13行)、 が記載されている。 (3) 審決のした対比 そこで、本願発明と第1引用例記載の発明とを比較する。 上記@の記載から明らかなように、第1引用例には、該引用例記載の発明が、電気特性の劣化、すなわち、感度低下、電位低下及び残留電位増加の原因となる、酸化雰囲気による表面劣化を防止した電子写真感光体を提供するものであることが記載されており、一方、本願明細書には、本願発明のヒンダードフェノール構造単位を分子内に有する化合物が「酸化防止剤」であること(公告公報第21欄下から6、 5行参照)及び該ヒンダードフェノール系化合物を感光体の表面領域に含有せしめることにより、繰返し使用時の電気的特性の悪化を防止し、残留電位上昇、需要電位低下、感度劣化を防止できること(公告公報第9欄第17〜29行参照)が記載されており、これらの記載からみて、両者は、感光体の表面領域に酸化防止剤を含有せしめることにより、繰返し使用時の電気的特性の悪化を防止し、残留電位上昇、電位低下、感度劣化等を防止するものである点で一致している。 そして、第1引用例には、結着剤として特にポリカーボネート樹脂が好ましいことが記載され、実施例1として、電荷発生層上にポリカーボネート樹脂(商品名;テイジンパンライト、帝人(株)製)及び3,5′-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエンを含有する電荷輸送層を設けたことが記載されており、該「3,5′-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン」は、本願発明における一般式〔Vc〕で表されるヒンダードフェノール構造単位を有する化合物に相当するものであり、 また該「ポリカーボネート樹脂(商品名;テイジンパンライト、帝人(株)製)」は、例えば、プラスチック材料講座「ポリカーボネート樹脂」日刊工業新聞社発行、昭和44年9月30日、1〜5頁に記載されているとおり、いわゆるビスフェノールA型のポリカーボネートに相当する。 同じく第1引用例には、実施例1において用いられた酸化防止剤のみを代えた実施例3〜実施例7が記載されており、これらの実施例に記載された酸化防止剤は、 いずれも、本願発明のヒンダードフェノール構造単位を有する化合物に相当するものである。すなわち、実施例3の「2,2′-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)」は、一般式〔Vb〕で表されるヒンダードフェノール構造単位を有する化合物であり、実施例4の「α-トコフェロール」、実施例5の「ジブチルヒドロキシアニソール」、実施例6の「2,5-ジ-t-オクチルハイドロキノン」及び実施例7の「2-t-オクチル-5-メチルハイドロキノン」は、いずれも、一般式〔Va〕で表されるヒンダードフェノール構造単位を有する化合物に相当するものである。 してみると、本願発明と第1引用例に記載された発明とでは、 「電荷発生物質と電荷輸送物質を含有する感光層を支持体上に設けた感光体であって、該支持体に対して該感光層を設けた側の該感光体の表面領域にポリカーボネートが含有され、かつ、下記一般式〔Va〕、〔Vb〕又は〔Vc〕で表されるヒンダードフェノール構造単位を有する分子内に化合物が前記感光体の表面領域に含有されていることを特徴とする感光体。」である点で一致し、以下の点で相違しているにすぎない。 相違点: ポリカーボネートが、本願発明では、一般式〔T〕で表される構造単位及び/又は下記一般式〔U〕で表される構造単位を主要繰返し単位として有するポリカーボネートであるのに対し、第1引用例記載のものは、ビスフェノールA型のポリカーボネートであって、本願発明の特定の構造単位を有するポリカーボネートについては記載されていない点。 (4) 相違点についての審決の判断 上記相違点について検討する。 第2引用例に記載された、感光体に含有されている一般式〔A〕で表されるポリカーボネート及び一般式〔B〕で表されるポリカーボネートは、本願発明における一般式〔T〕で表される構造単位及び/又は下記一般式〔U〕で表される構造単位を主要繰返し単位として有するポリカーボネートに相当するのもであり、該ポリカーボネートを用いることにより、従来のビスフェノールA型のポリカーボネートを用いた場合の欠点をなくし、感光層の形成時にポリカーボネートが結晶化して膜表面に析出することがなく、異常な凸部による収率の低下、及びトナーフィルミングによる画像欠陥等のような特性劣化を防ぐことができ、ポリカーボネート系が本来奏する優れた帯電性能、繰返し特性、耐刷性等の特性を感光体に付与することができることが記載されている。 してみれば、第1引用例記載のものと第2引用例記載のものとでは、感光層の結着剤にポリカーボネート系を用いた感光体である点で一致しており、しかも、第1引用例記載のものは、第2引用例において従来技術の課題として記載されている「ビスフェノールA型のポリカーボネート」を用いているのであるから、第2引用例に記載されている「従来のビスフェノールA型のポリカーボネートに代えて、一般式〔A〕で表されるポリカーボネート及び一般式〔B〕で表されるポリカーボネートを用いることにより、従来のビスフェノールA型ポリカーボネートの有している欠点をなくし、感光層の形成時にポリカーボネートが結晶化して膜表面に析出することがなく、異常な凸部による収率の低下、及びトナーフィルミングによる画像欠陥等のような特性劣化を防ぐことができる」という技術手段を第1引用例に適用し、第1引用例に記載された従来のビスフェノールA型のポリカーボネートに代えて、第2引用例記載のポリカーボネートを用いることは当業者であれば容易になし得ることである。 本願発明では、「一般式〔T〕で表される構造単位及び/又は一般式〔U〕で表される構造単位を主要繰り返し単位として有するポリカーボネートと、一般式〔Va〕、〔Vb〕、〔Vc〕、〔Vd〕又は〔Ve〕で表されるヒンダードフェノール構造単位を有する化合物との併用により、製膜性、機械的、耐傷性、耐摩擦性に優れ、かつ繰返し使用時の帯電性、残留電位特性に優れた感光体を提供でき、全体として感光体の耐久性を飛躍的に向上せしめることができるのである。」としているが、該効果は、第1引用例記載の発明及び第2引用例記載の発明が有している効果の総和にすぎない。 すなわち、「繰り返し使用時の帯電性、残留電位特性に優れた感光体を提供できる」という効果については、第1引用例に、「酸化防止剤の使用により、感度低下、電位低下及び残留電位増加の原因となり、コピーの画像濃度低下およびカブリ残像発生を惹き起す、オゾンなどの酸化雰囲気による写真感光体表面の劣化を防止しうる」と記載されているところであり、また、「製膜性、機械的、耐傷性、耐摩擦性に優れた感光体が提供できる」という効果については、第2引用例に、一般式〔T〕で表される構造単位及び/又は一般式〔U〕で表される構造単位を主要繰り返し単位として有するポリカーボネートを用いることにより、「帯電性能、繰返し特性、耐刷性等に優れる上に、表面に異常な凸部がなくトナーフィルミング等の特性不良のない感光体を提供する」と記載されているところである。 また、本願明細書には、第1引用例において実施例8〜10として用いられている酸化防止剤である、「ジラウリル-3,3′-チオジプロピオネート」、「トリフェニル化リン」及び「N-フェニル-N′-イソプロピル-P-フェニレンジアミン」を用いた例を比較例13〜15として記載し、本願発明の一般式〔Va〕、 〔Vb〕、〔Vc〕、〔Vd〕又は〔Ve〕で表されるヒンダードフェノール構造単位を有する化合物が、これらの比較例に用いた酸化防止剤よりも優れたものであるとしているが、前述のごとく、第1引用例の実施例1〜7において記載されている酸化防止剤は、本願発明の一般式〔Va〕、〔Vb〕又は〔Vc〕で表されるヒンダードフェノール構造単位を有する化合物にほかならず、実施例として記載されている酸化剤防止剤の中から、好ましいものを選択することは、当業者であれば通常なし得ることであって、実施例1ないし実施例7に記載されたものが好ましいことを単に確認したにすぎない。 (5) 審決のむすび したがって、本願発明は上記第1引用例及び第2引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 審決は、「第1引用例には、該引用例記載の発明が、電気特性の劣化、すなわち、感度低下、電位低下及び残留電位増加の原因となる、酸化雰囲気による表面劣化を防止した電子写真感光体を提供するものであることが記載されており、」としているが、この第1引用例の発明の内容についての認定は誤りであり、その結果、本願発明と第1引用例記載の発明は「感光体の表面領域に酸化防止剤を含有せしめることにより、繰り返し使用時の電気的特性の悪化を防止し、残留電位上昇、 電位低下、感度劣化等を防止するものである点で一致している。」として一致点の認定を誤ったものである。 すなわち、第1引用例の目的記載部分には、「感光体表面の劣化は、電気特性の劣化、すなわち電位低下および残留電位増加の原因となり」(1頁右下欄7〜9行)との記載が見いだせるものの、第1引用例記載の発明が残留電位増加及び電位低下、すなわち受容電位低下を防止する効果があるということについては、実施例において何ら開示されていないし、抽象的な記載もない。第1引用例の実施例の説明では、専ら感度低下の防止のみに着目して説明をしていることから明らかなように、第1引用例記載の発明の目的は、感度低下の原因となる酸化雰囲気による表面劣化を防止した電子写真感光体を提供するというにすぎず、第1引用例記載の発明は、残留電位増加及び受容電位低下の原因となる酸化雰囲気による表面劣化を防止した電子写真感光体を提供するものではない。 (2) 被告は、「第1引用例には感度低下及びカブリ発生の防止が可能となることも記載されており、このことは、これらの原因となる電位低下及び残留電位増加が防止されていることを表すものであることは、当業者が容易に理解し得るものである。」旨主張する。 しかしながら、感度と残留電位は全く別異の概念であるから、「感度低下の発生の防止が可能となる」という記載が、「受容電位低下及び残留電位増加が防止されていることを表すもの」であると理解するのは、論理的な飛躍である。カブリ(白くなるべき箇所が、部分的に黒くなること)の原因として、例えば電位の局所的異常が十分に考えられるところであって、一義的に受容電位や残留電位によるものなのかは議論の余地があり、「カブリの発生の防止が可能となる」という記載が、 「受容電位低下及び残留電位増加が防止されていることを表すもの」であると理解するのは容易でない。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り) 審決は、「第2引用例に記載されている・・・技術手段を第1引用例に適用し、 第1引用例に記載された従来のビスフェノールA型のポリカーボネートに代えて、 第2引用例記載のポリカーボネートを用いることは当業者であれば容易になし得ることである。」と判断したが、誤りである。 すなわち、第1引用例には、第2引用例に記載された一般式〔A〕又は一般式〔B〕で示されるポリカーボネートを示唆する記載はないから、第1引用例記載のビスフェノールA型ポリカーボネートに代えて、第2引用例記載の上記ポリカーボネートを用いることが容易であるとはいえない。 第2引用例記載の特定のポリカーボネートにおいては、膜厚減耗量が少ないため感光体の新しい表面が出にくく、オゾン、NOx等による表面の電気化学的劣化がそのまま残存することを原因として、繰返し使用時の電気的特性が著しく劣る。本願発明はこの点を解決したもので、多数の実験、試行錯誤を繰り返した結果、本願発明が規定する一般式〔Va〕、〔Vb〕、〔Vc〕、〔Vd〕又は〔Ve〕で示されるヒンダードフェノール構造単位による酸化防止剤を併用することによって、 劇的に上記解決を得たものである。審決は、本願発明が新たな技術的課題を解決するものであることを看過し、課題の発見とその解決という技術の進歩、発明におけるダイナミズムから目をそらし、本願発明の技術的思想の評価を誤っている。 3 取消事由3(効果の判断の誤り) (1) 本願発明の効果についてした審決の判断も誤りである。 本願発明は、50000回の多数回繰返し使用時において、受容電位低下、残留電位上昇及び感度劣化の防止に優れた効果を奏するものであり、特に、本願明細書に記載の実施例1及び比較例1(当初明細書161頁の表)をみると、残留電位上昇の防止に優れていることが明らかである。これに対し、第1引用例においては、 実施例において感度低下の防止のみに着目して説明をしているように、電気的特性の良否を感度低下の大小、それも10000回コピー時の感度で説明しているにすぎず、第1引用例記載の発明は、上記した本願発明の効果を有してはいない。 さらに、本願明細書に記載の実施例1及び比較例1、13ないし15(当初明細書161頁の表及び平成6年3月11日付け手続補正書3頁の表)から、初期の残留電位及び白紙電位に何ら影響なく繰返し使用時の残留電位上昇を抑制できること、同時に、初期から繰返し使用時に至るまでの電位コントラスト(黒紙電位Vbと白紙電位Vwの電位差で、この電位差によって画像濃度を再現するものであり、この電位差が小さくなると画像濃度の再現性が不良となり、適切な画像濃度で画像が再現されないことになる。)の変動量を最小限に抑制できることが明らかであり、本願発明は極めて精妙かつ卓越した効果を奏するものである。 (2) 被告が援用する乙第10号証の第12図及び第15図及びその説明の文章とも、初期特性に関心を払っているとみるのは困難で、専ら多数回使用時の電気的特性に着目しているにすぎず、初期の電位コントラストに着目し、その上で、初期の電位コントラストが多数回繰返し時にどのように変動するかを精査するという視点を欠いているから、初期の電位コントラストの変動量が極めて少ないという顕著な効果が公知であったということの証左にはなり得ない。 (3) なお、審決は本願発明の効果に関連して、「第1引用例の・・・実施例として記載されている酸化剤防止剤の中から、好ましいものを選択することは、当業者であれば通常なし得ることであって、」と判断したが、誤りである。 第1引用例に、ヒンダードフェノール構造単位を有する酸化防止剤を添加する例が記載されていたとしても、第1引用例記載の発明が新たな技術的課題、すなわち、第2引用例記載の特定のポリカーボネートにおける繰返し使用時の電気的特性劣化の防止という課題を内包していない以上、その解決のために第2引用例記載のポリカーボネートに特定の酸化防止剤としてのヒンダードフェノール構造単位を有する化合物を併用するという技術的思想は、決して生まれ得ないのである。 |
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審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して 第1引用例には、オゾンなどの酸化雰囲気に曝されるため、感光体表面の電気特性の劣化、すなわち感度低下、電位低下及び残留電位増加が惹き起こされることが記載されており、第1引用例記載の発明では、酸化防止剤の添加によりオゾンによる感光体の酸化自体を防止するのであって、酸化が防止される以上、感光体の表面酸化により惹き起こされるところの繰返し使用時の感度低下、電位低下及び残留電位増加が防止されることは、直接の記載がなくとも自明の効果であり目的である。 また、第1引用例には感度低下及びカブリ発生の防止が可能となることも記載されており、このことは、これらの原因となる電位低下及び残留電位増加が防止されていることを表すものであることは、当業者が容易に理解し得る。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)に対して 第2引用例に記載された一般式〔A〕又は一般式〔B〕で示されるポリカーボネート(バルキーなポリカーボネート)は、一般にポリカーボネート樹脂としてよく知られているものの一種であって、第1引用例に記載されたビスフェノールA型ポリカーボネートと共に、「ポリカーボネート樹脂」という共通の範疇に包含され、 よく知られている(「プラスチック材料講座〔5〕ポリカーボネート樹脂」(昭和44年9月30日、日刊工業新聞社発行)17〜29頁(乙第4号証)及び特開昭61-62039号公報(乙第5号証))。 第2引用例あるいは特開昭61-62039号公報及び特開昭59-71057号公報(乙第6号証)に記載されているように、従来感光体の結着剤として用いられているビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂に代えて、バルキーなポリカーボネートを用いることが、本件出願前に公知である以上、第1引用例に記載されているビスフェノールA型ポリカーボネートに代えて、バルキーなポリカーボネートを用いた本願発明の構成自体は、当業者であれば容易になし得たものである。 3 取消事由3(効果の判断の誤り)に対して (1) 前記1の被告の主張のとおり、第1引用例に直接の記載がなくとも、第1引用例記載の発明において、繰返し使用時の感度低下、電位低下及び残留電位増加が防止されるのは、自明の効果である。 使用された感光体や複写機が同一でない以上、原告主張のように単にコピー回数のみをもって単純に比較はできない。結着剤としてポリカーボネート樹脂を用い、 かつ酸化防止剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いたことが記載されている「昭和62年度電子写真学会第59回研究討論会予稿集(昭和62年6月18、19日)184〜188頁」(乙第10号証)では、耐久性を調べるために12万回の実写テストを行っており(188頁6行及び15図)、本願発明における50000回以上の多数回使用の評価自体は新規なものではない。 (2) 感光体に必要な特性として、残留電位が少ないことは周知の事項である(「第16回電子写真学会講習会、電子写真感光体の基礎と応用」(昭和58年11月24日)の12頁2〜15行(乙第2号証)、「電子写真」(昭和48年8月1日、共立出版株式会社発行)30〜33頁(甲第9号証))。そして、酸化防止剤に限らず、感光体に添加する物質(添加剤)の性質として、添加剤の使用により感光体使用開始初期における残留電位が上昇しないものでなければならないことは、電子写真用感光体の技術分野においては、極めて当然のことである。 したがって、第1引用例に具体的な効果として初期の残留電位の上昇をもたらさないという明記がなくとも、それらの条件を満足していたと解される。しかも、第1引用例において、実施例として記載されているヒンダードフェノール系化合物は、有機感光体の好ましい酸化防止剤として周知である以上(特開昭60-129751号公報(乙第8号証)、特開昭48-75241号公報(乙第9号証)及び「昭和62年度電子写真学会第59回研究討論会予稿集(昭和62年6月18、19日)184〜188頁」(乙第10号証))、初期の残留電位の上昇をもたらさないものであることは、当然に予測されるところであり、当業者であれば、容易に確認し得る事項にすぎない。 よって、原告が主張する本願発明の効果は、感光体に用いられる酸化防止剤として周知のヒンダードフェノール系酸化防止剤が、感光体に当然に要求されるところの初期の残留電位上昇をもたらさないという効果を有することを確認したにすぎず、また、実施例1及び比較例1、13ないし15からは、初期の残留電位に関して、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加により残留電位を低下せしめるものではなく、単に残留電位を増加させないことを確認できているにすぎない。 (3) 原告は、「実施例1及び比較例1、13ないし15から、初期から繰返し使用時に至るまでの電位コントラストの変動量を最小限に抑制できることがいえ、本願発明は極めて精妙かつ卓越した効果を奏するものである」旨主張する。 しかしながら、結着剤としてポリカーボネートを用いた積層型有機感光体において、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加により、「黒紙電位」及び「白紙電位」が共に安定することが、本件出願前に公知であるから(「昭和62年度電子写真学会第59回研究討論会予稿集(昭和62年6月18、19日)184〜188頁」(乙第10号証)12図及び15図)、初期から繰返し使用時に至るまでの電位コントラストの変動量を最小限に抑制できるという効果についても、第2引用例に記載されたバルキーなポリカーボネートを用いた場合にも、第1引用例に記載されたような、バルキーでないポリカーボネートを用いた場合と同様の効果があることを、単に確認したにすぎない。 (4) 原告は、「第1引用例に、第2引用例記載の特定のポリカーボネートにおける繰返し使用時の電気的特性劣化の防止という課題を内包していない以上、その解決のために第2引用例記載のポリカーボネートに特定の酸化防止剤としてのヒンダードフェノール構造単位を有する化合物を併用するという技術的思想は、決して生まれ得ない」旨主張する。 しかしながら、そもそも、第1引用例には、ヒンダードフェノール系化合物である「3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン」と結着剤である「ビスフェノールA型ポリカーボネート」の組合せが、実施例として具体的に記載されている。そして、ビスフェノールA型ポリカーボネートに代えて、バルキーなポリカーボネートを用いることが、本件出願前公知である以上、第1引用例に記載されている上記ビスフェノールA型ポリカーボネートに代えて、バルキーなポリカーボネートを用いた本願発明の構成自体は、当業者であれば容易になし得るものである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 甲第1号証によれば、第1引用例に以下の記載があることが認められる。 (従前の)「電子写真感光体は、通常コロナ帯電、露光、現像、転写、クリーニングなどからなる繰返しプロセスに供される。ところが、こうした感光体の使用プロセスにおいて、感光体表面は、コロナ帯電の時に発生するオゾンなどの酸化雰囲気に曝されるため、表面の劣化を生じる欠点を有している。感光体表面の劣化は、 電気特性の劣化、すなわち感度低下、電位低下及び残留電位増加の原因となり、このためコピーの画像濃度低下及びカブリ残像発生を惹き起すことになる。 本発明の目的は、酸化雰囲気による表面劣化を防止した電子写真感光体を提供することにある。 本発明のかかる目的は、酸化防止剤を含有する感光層を有する電子写真感光体によって達成される。特に、本発明は、・・・酸化防止剤の添加により感度の低下を招くことなく、感光層の酸化による劣化を防止することができる。」(1頁右下欄1行〜2頁左上欄2行) これによれば、第1引用例には、「感光体は、繰り返し使用することにより、酸化雰囲気に曝されるため、表面劣化が生じること」、「感光体の表面劣化は、電気特性の劣化、すなわち感度低下、電位低下及び残留電位増加の原因となること」及び「第1引用例記載の発明は、酸化雰囲気による表面劣化を防止した電子写真感光体を提供するものであること」が記載されており、これらを総合すれば、第1引用例記載の発明が、電気特性の劣化、すなわち、感度低下、電位低下、すなわち受容電位低下及び残留電位増加の原因となる、酸化雰囲気による繰返し使用時の表面劣化を防止した電子写真感光体を提供するものであることが第1引用例に記載されていると認められる。 したがって、「第1引用例には、該引用例記載の発明が、電気特性の劣化、すなわち、感度低下、電位低下及び残留電位増加の原因となる、酸化雰囲気による表面劣化を防止した電子写真感光体を提供するものであることが記載されており、」とした審決の認定に誤りはない。 (2) 原告は、残留電位増加及び受容電位低下を防止する効果があるということについては、第1引用例の実施例に何ら開示されていないばかりか、第1引用例には抽象的にも当該効果の記載がないとして、第1引用例記載の発明の目的は、残留電位増加及び受容電位低下の原因となる酸化雰囲気による表面劣化を防止した電子写真感光体を提供するものではない、と主張するが、以下に判断するとおり理由がない。。 (2)-1 甲第9号証によれば、「電子写真」(昭和48年8月1日、共立出版株式会社)に次の記載があることが認められる。 「2.13光導電層 高い暗抵抗値と光照射に対する早いレスポンスとを合わせもつことは、光導電材料の一般的特性からはむつかしい。これは、光導電性材料が薄い均一なフィルムとして作られる必要のある場合にはなおさらのことである。ゼログラフィー感光板の電気的及び光電気的特性として次のことが重要である。 1.光感度(photosensitivity) 2.スペクトル特性(spectral response) 3.受容電位(acceptance potencial) 4.電荷保持性(retentivity) 5.残留電位(residual potential) 6.疲労(fatigue) 図14に以上の特性のいくつかが示されている。」(30頁1〜12行) また、乙第2号証によれば、「第16回電子写真学会講習会、電子写真感光体の基礎と応用(昭和58年11月24日)11〜14頁」に次の記載があることが認められる。 「2.有機感光体と無機感光体の比較通常の電子複写機用の感光体として要求される条件は、 1) 電荷受容性、および、保持性が良いこと。 2) 複写プロセス(帯電、露光、現像、除電、クリーニング)の繰り返しによる安定性が良いこと。 3) 高感度で残留電位の少ないこと。 ・・・ 11) 安価であること。 などがあげられる。」(12頁1〜15行) これらの記載によれば、感光体の持つ特性として、受容電位及び残留電位が重要であると認められるのであり、感光体を開発、設計するに当たってこれらの特性に留意し、評価することは、本件出願前に普通に行われていたものということができる。 (2)-2 一方、前記認定のとおり、第1引用例には、そこに記載の発明が受容電位低下及び残留電位増加の原因となる酸化雰囲気による繰返し使用時の表面劣化を防止した電子写真感光体を提供するものであることが記載されている。そして、上記認定のように、受容電位及び残留電位を評価することは、本件出願前においても普通に行われていたことであるから、当業者は、感光体について繰返し使用時の受容電位及び残留電位をも評価し、受容電位低下及び残留電位増加を防止する効果のあることが確認されたものとして第1引用例の上記記載を理解するものと認められる。 (2)-3 したがって、第1引用例に、受容電位低下及び残留電位増加を防止する効果について実施例における具体的な開示やそれがある旨の文言上の記載がないとしても、原告が主張するように、第1引用例記載の発明の目的が、残留電位増加及び受容電位低下の原因となる酸化雰囲気による表面劣化を防止した電子写真感光体を提供するものではない、と解することはできない。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 甲第1号証によれば、第1引用例に以下の記載があることが認められる(審決の認定中原告の争わない部分その他原告の本訴における主張も斟酌した。)。 ◇ 「2.特許請求の範囲 酸化防止剤を含有する感光層を有することを特徴とする電子写真感光体。」(1頁左下欄4〜6行) ◇ 「本発明の電荷輸送層は、電荷輸送物質と酸化防止剤と結着剤とを適当な溶剤に溶解せしめた溶液を塗布し、乾燥せしめることにより形成させることが好ましい。ここに用いる結着剤としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、・・・ポリエステル樹脂、・・・ポリカーボネート、・・・ポリウレタンあるいはこれらの樹脂の繰り返し単位のうち2つ以上を含む共重合体樹脂などを挙げることができ、特にポリエステル樹脂、ポリカーボネートが好ましいものである。」(2頁右下欄8行〜3頁左上欄1行) ◇ 実施例1では、アルミシリンダー上に電荷発生層を形成し、該電荷発生層上にポリカーボネート樹脂(商品名;テイジンパンライト、帝人(株)製)及び3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエンを含有する電荷輸送層を設けた(3頁左下欄以下の実施例1の項)。 ◇ 実施例3〜10では、上記実施例1で用いた3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエンに代えて、以下の酸化防止剤を用いた。 3:2,2′-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール) 4:α-トコフェロール 5:ジブチルヒドロキシアニソール 6:2,5-ジ-t-オクチルハイドロキノン 7:2-t-オクチル-5-メチルハイドロキノン(4頁右下欄以下の実施例3〜10の項) (2) これらの記載によれば、第1引用例には、ここに記載の発明における具体例として、酸化防止剤として本願発明に係るヒンダードフェノール構造単位を有する化合物(実施例1に記載の3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン及び実施例3〜10に記載の酸化防止剤が、ヒンダードフェノール構造単位を有する化合物に相当するものであることは原告も争わないところである。)及びビスフェノールA型ポリカーボネートを含有する感光体が記載されているものと認めることができる。 第1引用例には更に、そこに記載の発明においては、酸化防止剤を含有する感光層の結着剤として、ビスフェノールA型ポリカーボネート以外にも、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリウレタン等、各種樹脂の適用が可能であると記載されているから、この記載に接した当業者は、上記具体例に使用されているビスフェノールA型ポリカーボネートを他の樹脂に置き換えることができると理解するものと認められる。 (3) 審決は、相違点の判断において、「第2引用例に記載された、感光体に含有されている一般式〔A〕で表されるポリカーボネート及び一般式〔B〕で表されるポリカーボネート・・・を用いることにより、従来のビスフェノールA型のポリカーボネートを用いた場合の欠点をなくし、感光層の形成時にポリカーボネートが結晶化して膜表面に析出することがなく、異常な凸部による収率の低下、及びトナーフィルミングによる画像欠陥等のような特性劣化を防ぐことができ、ポリカーボネート系が本来奏する優れた帯電性能、繰返し特性、耐刷性等の特性を感光体に付与することができること」が記載されていると認定していて、この点は原告も争っていない。 この記載によれば、第2引用例には、そこにおける一般式〔A〕及び一般式〔B〕で表されるポリカーボネートを用いることにより、従来のビスフェノールA型ポリカーボネートを用いた場合の感光体の欠点をなくし、ポリカーボネート系が本来奏する優れた特性を感光体に付与することができるという利点が記載されているものということができる。そして、この記載に接した当業者は、本件出願前に知られているビスフェノールA型ポリカーボネートを含有している感光体においても、上記利点を享受すべく、該ビスフェノールA型ポリカーボネートに代えて、第2引用例記載の上記一般式〔A〕及び一般式〔B〕で表されるポリカーボネートを適用しようとするのは、極めて自然なことと認めるべきである。 (4) 以上のとおり、第1引用例には、具体例としてビスフェノールA型ポリカーボネートを含有している感光体が記載されており、しかも該ビスフェノールA型ポリカーボネートは他の樹脂に置き換え得るものと理解される記載もあり、また、第2引用例記載の一般式〔A〕及び一般式〔B〕で表されるポリカーボネートを、従来の感光体に含有されているビスフェノールA型ポリカーボネートに代えて適用しようとすることも極めて自然なことといえるから、第1引用例に記載の発明において、ビスフェノールA型ポリカーボネートに代えて上記一般式〔A〕及び一般式〔B〕で表されるポリカーボネートを適用することは、ごく自然に想到する程度のものであって容易になし得るものというべきである。 したがって、審決が、相違点について「第2引用例に記載されている・・・技術手段を第1引用例に適用し、第1引用例に記載された従来のビスフェノールA型のポリカーボネートに代えて、第2引用例記載のポリカーボネートを用いることは当業者であれば容易になし得ることである。」と判断した点に誤りがあるとすることはできない。 3 取消事由3(効果の判断の誤り)について (1) 原告は、本願明細書に記載された実施例1及び比較例1、13ないし15を根拠に、審決は本願発明の顕著な効果を看過したと主張する。 しかしながら、第1引用例に記載の発明において、ビスフェノールA型ポリカーボネートに代えて第2引用例記載の一般式〔A〕及び一般式〔B〕で表されるポリカーボネートを適用することは、ごく自然に想到する程度のものとして容易になし得るものであることは、前判示のとおりである。そして、前記判示したところに照らせば、この容易想到性は極めて高いものということができるから、原告主張の効果は、いずれも、第1引用例に記載された従来のビスフェノールA型ポリカーボネートに代えて、第2引用例記載の上記ポリカーボネートを用いることにより生じた効果を確認したにすぎないものと認めるのが相当である。 (2) なお、本願明細書には、50000回の多数回繰返し使用時の受容電位及び感度につき、具体例に基づいた効果が記載されていないので、これらの点につき、 本願発明が第1引用例記載のビスフェノールA型ポリカーボネートに代えて第2引用例記載の上記ポリカーボーネートを用いることにより生じた効果以上の特別顕著な効果を奏するものと認定することは困難である。「本願発明は、50000回の多数回繰返し使用時の受容電位及び感度劣化の防止に優れた効果を奏する」旨の原告の主張は理由がない。 また、実施例1と比較例1との対比は、本願発明の第1引用例記載の発明に対する効果の対比ではない(すなわち、比較例1は、実施例1における電荷輸送層(CTL)からヒンダードフェノール系化合物を除去して製造したものであって(甲第4号証=当初明細書158頁1〜5行)、実施例1と比較例1との対比は、ヒンダードフェノール系化合物を含有することに基づく効果を示すにすぎず、本願発明と同じくヒンダードフェノール構造単位を有する化合べきを含有する第1引用例記載の発明に対する効果の比較となっていない。)ので、実施例1及び比較例1を根拠にして「本願発明は50000回の多数回繰返し使用時の残留電位上昇の防止に優れた効果を奏する」旨の原告の主張も理由がない。 さらに、実施例1と比較例1,13ないし15を根拠に、「初期の残留電位及び白紙電位に何ら影響なく、繰返し使用時の残留電位上昇を抑制することができ、また、初期から繰返し使用時に至るまでの電位コントラストの変動量を最小限に抑制できるという効果を奏する」旨の原告主張の点についても、本願明細書に記載して触れられた効果に関するものではなく(もとより、各引用例との対比における効果に関するものでもない。)、この主張における効果をもって、本願発明の顕著な効果と認めることもできない。 |
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結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。 (平成12年7月13日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 橋本英史 |