関連審決 |
審判1998-35076
審判1997-19472 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の認定 / 相違点の判断 / 周知技術 / 技術的意義 / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 独立特許要件 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
216号
審決取消請求事件
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原告 株式会社島津製作所代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁理士 【B】、【C】、【D】、【E】 被告 理学電機工業株式会社代表者代表取締役 【F】 訴訟代理人弁護士 井坂光明、弁理士 【G】、【H】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2000/08/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が平成10年審判第35076号事件について平成11年5月18日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「蛍光X線分析装置」とする特許第2027807号発明(昭和61年5月28日出願(昭和61年特許願第124293号)、平成7年7月5日出願公告(特公平7-62656号)、平成8年2月26日設定登録、平成9年11月13日訂正審判請求(平成9年審判第19472号)、平成10年1月22日「本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。」との審決。本件発明)の特許権者である。 被告は、平成10年2月27日、原告を被請求人として、本件発明につき特許無効の審判を請求し、平成10年審判第35076号事件として審理された結果、平成11年5月18日、「特許第2027807号発明の特許を無効とする。」との審決があり、その謄本は平成11年6月21日に原告に送達された。 2 本件発明の要旨 真空ポンプによって排気する分析室への空気流入経路上、又は排気経路上に、経路の開閉を制御する弁を設けると共に、分析室の真空度を測定する真空計と、この真空計からの信号によって前記弁の開度を調節する制御回路を備え、分析室の空気圧力が 0.1Torr 程度に下がった後その空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御することを特徴とする蛍光X線分析装置。 3 審決の理由の要点 (1) 本件発明の要旨 前項のとおりである。 (2) 被告(請求人)の無効理由の概要 被告が審判で主張した無効理由の概要は、本件発明は、 @ 審判甲第1号証及び審判甲第2号証に記載された発明及び周知技術である審判甲第3〜11号証に基づいて、当業者であれば容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法123条1項2号の規定により無効とされるべきものであり、 A 特許法126条に基づいて行われた本件特許の願書に添付した明細書又は図面の訂正については、上記と同様に特許法126条4項の規定に違反してなされたものであり、本件特許は特許法123条1項8号の規定により無効とすべきである、 というものであり、下記の証拠方法を提出している。 なお、上記無効理由中「特許法126条4項」「特許法123条1項8号」との記載は、本件発明が、容易に発明をすることができたものであるので、特許出願の際独立して特許を受けることができない、との主張の根拠条文を記載したものであるが、上記独立特許要件に関する規定は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる、改正前の「特許法126条3項」「特許法123条1項7号」に当たることは明らかであるから、以下、上記記載はそれぞれ「特許法126条3項」「特許法123条1項7号」の誤記であるとする。 審判甲第1号証:実願昭52-67220号(実開昭53-160989号)のマイクロフイルム 審判甲第2号証:「Vacuum」 22[7](1972)p.261-263, "An automatic pressure controller for vacuum systems" (【I】著) 審判甲第3号証:特開昭58-204357号公報 審判甲第4号証:実公昭42-1037号公報 審判甲第5号証:実公昭43-31191号公報 審判甲第6号証:「Norelco REPORTER October‐December 1964」(1964)p.120-137, "A Note on Optic‐Path Vacuum Conditions in X-ray Analyses of Light Elements" (【J】著) 審判甲第7号証:【K】, 【L】編「INSTRUMENTS AND MEASUREMENTS VOLUME 1」(1961)ACADEMIC PRESS PUBLISHERS p.360-377, "RECENT DEVELOPMENTS IN ARL X-RAY INSTRUMENTATION" (E.【M】著) 審判甲第8号証:「METHODS FOR EMISSION SPECTROCHEMICAL ANALYSIS (Seventh Edition)」(1982)ASTM出版p.348-351, p.495-498, p.839-843, p.849-854 審判甲第9号証:【N】著「Introduction to X-Ray Spectrometric Analysis」(1978), Plenum Pressp.1-3, "Chapter 1 Excitation and Nature of X-Rays and X‐Ray Spectra" 審判甲第10号証:【O】編「ADVANCES IN X-RAY ANALYSIS VOLUME 3 "Proceedings of the Eighth Annual Conference on Applications of X-Ray Analysis Held August 12-14, 1959" 」(1959) Plenum Press p.49-56, "THE UNIVERSAL VACUUM SPECTROGRAPH AND COMPARATIVE DATA ON THE INTENSITIES OBSERVED IN AN AIR, HELIUM, AND VACUUM PATH" (【P】 and 【Q】著): 審判甲第11号証:「Norelco REPORTER March-September 1956」 (1956) North American Philips Co. Inc. p.24-36, "X‐ray Spectrochemical Analysis" (【R】著) (3) 審判甲各号証の記載事項 (3)-1 審判甲第1号証には、次のことが図面とともに記載されている。 「例えばX線分析装置では、物質にX線を照射する部分あるいはX線の照射によって物質から得られる固有X線を検出器でとらえる部分等はX線の減衰を抑えるために真空状態にしている。従って、かかる測定装置等では測定精度を上げるために測定時は常に所定の真空度に保持されていなければならない。」(2頁5〜12行)、 「真空度を測定して自動的に装置の測定開始又は停止を行うようにし、これによって常に所定の真空度で測定を行ない従来の欠点を除去する真空制御系を備えた測定装置を提供するものである。」(3頁12〜16行) 「第1図において11は内部がポンプ12により真空状態に設定され、・・・ここでの真空度は例えば真空室11外部に設けた真空計13により測定され、後続のコンパレータ14に送られる。このコンパレータ14は真空計13から送られてくる真空度に対応した信号レベルと予め所定の真空度に設定されたレベルとを比較し、真空計13からの真空度レベルが予め設定されたレベルより高いときに信号を出力するものである。このコンパレータ14は前記ポンプ12を稼働制御するとともに、後続のパルス発生部15およびインヒビット回路16を制御する。・・・インヒビット回路16はコンパレータ14の信号と外部からの測定したい任意時のスタート信号が供給されるようになっており、従って、何れかの信号が入らないときにはインヒビットされている。」(3頁18行〜4頁19行)、 「次に、第1図に示す真空測定機能を備えた測定装置の作用を説明する。今、測定装置を動作すると、真空計13は真空室11の真空度を検出する。このとき真空室11の真空度がレベル設定された真空度より小さいときにはコンパレータ14から信号が出ないので、ポンプ12は稼働継続状態にあり、このため真空室11内はポンプ12により減圧操作が行なわれる。 而して、真空室11の真空度が予め設定された真空度に達すると、コンパレータ14より信号が発生し、これによりポンプ12は停止するとともに、後続のパルス発生部15からパルス信号が発生し、これはオア回路17を通って測定制御部に送られる。これにより、測定装置は測定を開始する。 一方、測定したい任意のときに外部からインヒビット回路16にスタート信号を与えると、コンパレータ14から信号が出ているときにはインヒビット回路16は解除されているので、・・・測定装置は測定を開始する。なお、コンパレータ回路14から信号がでていないときには、インヒビット回路16はインヒビット状態にあり、このため回路16にスタート信号を入れても測定を行なわない。」(4頁最下行〜6頁5行)、 「なお、真空室11内の真空度が低下した場合には、コンパレータ14からの出力がなくなり、測定を中止させるとともに自動的にポンプ12を作動させて真空度を上げるようにする。」(6頁16〜19行)、 「また、本考案装置は一例としてX線分析装置に適用したが、これに限らず真空に設定して測定を行なう装置全てに適用できるものである。」(6頁最下行〜7頁2行) (3)-2 審判甲第2号証には、次のことが図面とともに記載されている。 「本論文は、動的真空システムにおいて一定圧力を保持すべくガス処理量を制御するように設計された閉ループサーボシステムの開発について述べる。これは、電気信号を出力できる圧力計と、小さなサーボモー夕で駆動できるガス流入用ニードルバルブとで作動するように設計されている。従来の動作原理が適用されており、 ゲージ出力信号は、増幅された後に基準電圧と比較される。これら2つの差電圧によりモー夕を駆動制御する。モー夕駆動は、圧力ゲージの出力電圧が基準値と同じ値を維持するような方向になっている。速い応答性のゲージ(例えば、イオン化タイプ)あるいは遅い応答性のゲージ(例えば、ピラニタイプ)を備え、かつ、長い真空度制御時定数あるいは短い真空度制御時定数を備えており、広範に変化するタイプの動作を行うものに対しては、システムが迅速で安定した閉ループ応答を備えていることが重要である。」(261頁上欄1〜9行) 「導入部 真空処理や実験においては、しばしば、温度、電圧、電流の多くのパラメータを限られた範囲内で制御することが必要とされる。真空室内における圧力やガス流もまた、かかる処理や実験にとって非常に重要なパラメータであろう。 ポンピング速度における変動、そして、より小さな範囲のガスの放出、吸着、そして、漏れは、圧力変動の多くの原因であり、ある一つの設定条件に対しては、リーク弁の手動による調整によってその圧力を維持することとなる。 真空室内における圧力を検出し、これに対応してリークバルブの位置を調整する、つまり、コンダクタンスを調整する制御システムでは、リーク弁のコンダクタンスが他のパラメータの変化にもかかわらず、自動的に、真空室圧力を一定に維持することとなる。 システム動作 図1はかかる制御システムの動作を示している。真空室内の圧力は変換器により検出され、圧力に応じた電圧が制御ユニットに供給されて内部の基準値と比較される。その信号は全圧に比例してもよく、あるいは、質量分析計が使用される場合には、分圧に比例することもできる。2つの信号の間の差は増幅されてモー夕に印加され、リーク弁を所望の圧力に達するまで開閉する。この時点で、リーク弁を通るガス流は、ポンプを通るガス流と等しくなり圧力は平衡状態となる。 上記のように動作する制御システムは、以下のような要求を満たすように設計されている。 (a)真空システム内の圧力を要求される圧力の1パーセント以内に維持すること。 (b)セットアップが簡単で操作が容易であること。 (c)可能な限り多くのタイプの変換器からの信号を入力すること。 (d)大幅に変動する真空システムの閉ループ条件下での安定性を維持すること。」(261頁左欄1行〜同頁右欄2行)、 「応用 この自動圧力制御装置はリバプール市でのいくつか試験において使用されている。 制御ユニットの開発のために使用された真空システムは、3リットルと1.5リットルの二つの容量を有している。両容量は、10リットル/秒の3極型イオンポンプによって吸い出され、これにより、それぞれ0.3と0.05秒の時定数のシステムとなっている。 図5は、3リットルのシステムにおける、8×10‐7torrのベース圧力から10‐5torrの要求圧力までの典型的な反応曲線を示す。弁は、全閉状態から通常の動作範囲に達するためには約10秒かかり、さらに要求圧力の1%に至るまでには3秒かかる。 10%のステップ状の変化に対する応答もまた示されており、適切な電圧波形を与えることにより、圧力はいかなる所望の関数にも追従するようプログラムすることができる。 制御ユニットは、また、10リットルのシステムにも組み入れられ、2リットル/秒のロータリーポンプによって5秒の時定数を有するものとなっている。圧力はブルドン管ゲージによって、10‐1-10torrの範囲で測定される。この場合、圧力ゲージからのゼロ出力は平衡状態に達したことを指し示す。この制御ユニットは、また、上昇する圧力に対して減少する電気的出力を与えるゲージ、すなわち、ピラニゲージ及び熱電対ゲージと共に使用することもできる。 100リットル/秒の拡散ポンプにより吸引される2リットルのシステムにおいて、圧力を一定に保持するために自動制御装置が使用された場合におけるゲージの汚染の検討もまた行われた。 これらの例は、自動圧力制御装置が適応される種々のシステム、ポンプの排気速度、そして圧力変換器を示すように選択されている。真空システムにおける適当な位置にリーク弁と圧力変換器を配置することが必要であり、以下の点が注意されるべきである。 (a)最良のダイナミック応答性のためには、変換器はガスの入り口近くに配置され、全体システムが平衡状態に達する前に圧力の変化を検出するようにすべきである。 (b)リークバルブと真空室との間の小径孔の配管を長くすることは、システム内において遅れによって不安定性を生じ、制御ユニットの感度を低下させる必要を生じることから、避けなければなない。 結論 この自動圧力制御装置は、可能な限り様々な真空室、ポンプ、圧力変換器を考慮してそれらに使用することが出来るように設計されている。また、制御システムの正常な動作に対するノイズの影響、不慣れなオペレータにより使用される場合における使用の簡単さに、あるいは、圧力が制御される多数のパラメータの中の1つである場合でもそれぞれに費やされる時間が最小限になるように、留意が払われている。 それゆえ、この制御システムは、研究所や真空装置を利用した多くの産業プロセスの双方において有用な応用を見いだすことが期待される。」(263頁左欄25行〜同頁右欄39行) (3)-3 審判甲第6号証には次のことが記載されている。 「導入部 X線分光分析の定量分析は、通常、既知及び未知の試料との計数率の比較によって行われる。X線通路では、一次ビームが試料中の特定元素を励起し、それらの蛍光X線は適当なコリメーションを通過して分光結晶へ向かい、特性X線の強度の計測を行う検出器の方へ回折される。原子番号が20以下の軽元素からの放射で実用的な計数率を得るには、この通路の空気の吸収を減少しなければならない。しかしながら、システムにおける真空がより良くなるに従って、記録される計数率はより高くなるため、高精度の分析を維持するためには、与えられた分析の実行の全ての測定は一定の真空レベルで行われなければならない。本ノートでは、ナトリウムからカルシウムまでの軽元素についての到達真空度とその許容される変動幅が評価される。」(120頁左欄1〜26行) 「結果・・・試料中の元素のパーセント含有率が高くなればなるほど、真空レベルのX線強度の絶対値への影響が大きくなることを示している。・・・この縦座標は、真空度が150ミクロンであるとの前提において真空度許容範囲を示しているものであることが注意されるべきである。・・・ 結論 軽元素分析における真空レベルの正確な制御の必要性を軽減するためには、150ミクロン以下で分析を行うことが好ましい。このレベルまでに減圧する時間は、 前段ポンプと分光器との間に簡単な液体窒素のトラップとバルブアセンブリーを挿入することにより大幅に低減することが出来る。減圧時間における更なる改良は、 8ホルダーの試料室により、減圧時間を50%低減することにより達成される。これらの改造により、8個の試料(岩石試料、前乾燥せず)は、30秒以内に100ミクロンまで減圧することが出来る。このレベルでは、トラップ上のバルブは部分的に閉じ、安定な真空度が維持される。」(120頁中央欄下から4行〜137頁中央欄15行) (3)-4 審判甲第7号証には次のことが記載されている。 「真空に関する考察 ところで、X線分光分析計システムにおいて空気の代わりにヘリウムや水素を使用することにより、特に3Å以上での吸収がかなり減少し、真空システムはより効率的でより経済的なものとなる。・・・ 図5からは、10cm径の分光器における、ある一定の重要な元素に対してもたらす吸収量を示している。0.5〜0.1mmの領域では、認められ得る強度の変動が、圧力の違いによって生じていることが明らかである。0.1mm以下では、 僅かな変動により誤差はほとんど生じていない。 それ故、分析記録システムでは、0.1mmの圧力に達した時に自動的に分析を開始するように設計されており、これは試料を分析位置に移動した後、だいたい20-30秒程度である。」(365頁13行〜366頁5行) (3)-5 審判甲第8号証には、蛍光X線分析を含む各種の発光分光化学分析のための標準的方法又は提唱方法、特に、アルミニウム等の軽元素を含む各種合金の蛍光X線分析方法に関し、次のことが図面とともに記載されている。 「7.3.4真空システムは、もしも使用されるならば、真空ポンプ、ゲージ、 そして光通路をポンプで自動的に真空にして、13.3Pa(100μmHg)又はそれ以下で分析を開始及び維持し、2.7Pa(±20μmHg)で制御可能な電気的制御装置から構成すべきである。」(496頁左欄43〜48行) 「5.3.4真空システムは、その蛍光X線が空気により吸収される元素の定量のために備え、光路の自動的な真空を行うため、真空ポンプと、ゲージと、電気的な制御装置とを備え、真空ポンプ、ゲージ、そして光通路をポンプで自動的に真空にし、分析を開始し、13.3Pa(100ミリトール)の圧力を維持するための電気的制御装置から構成される。」(840頁左欄30〜36行) 「6.3.5真空システムは、その蛍光X線が空気により吸収される元素の定量のために備え、真空ポンプ、ゲージ、そして、光通路をポンプで自動的に真空にし、分析を開始し、13.3Pa(100ミリトール)又はそれ以下の圧力を維持するための電気的制御装置から構成される。」(850頁左欄37〜43行) (4) 本件発明と審判甲各号証に記載された発明との対比 本件発明と審判甲第1号証に記載された発明とを対比すると、審判甲第1号証の「ポンプ12」「真空室11」「X線分析装置」がそれぞれ本件発明の「真空ポンプ」「分析室」「蛍光X線分析装置」に対応することは明らかである。また、本件発明の「所定の値で一定に保持する」との構成は、「空気圧力が所定値以下になると経路が開放されて空気が分析室に流入し空気圧が上昇する。・・・空気圧が所定値以下になると弁が閉鎖され、空気のもれ等によって徐々に空気圧が上昇する。空気圧力が所定値以上になると再び弁が開き排気される。」(本件明細書3欄31〜37行)との明細書の記載からみて、分析室内の空気圧が所定値近傍を上下する場合を含むものと解される。一方、審判甲第1号証には、「例えばX線分析装置では、・・・物質から得られる固有X線を検出器でとらえる部分等はX線の減衰を抑えるために真空状態にしている。従って、かかる測定装置等では測定精度を上げるために測定時は常に所定の真空度に保持されていなければならない。」(2頁5〜12行)、「このコンパレータ14は真空計13から送られてくる真空度に対応した信号レベルと予め所定の真空度に設定されたレベルとを比較し、真空計13からの真空度レベルが予め設定されたレベルよりも高いときに信号を出力するものである。このコンパレータ14は前記ポンプ12を稼働制御するとともに・・・制御する」(4頁3〜11行)、「真空室11の真空度が予め設定された真空度に達すると、コンパレータ14より信号が発生し、これによりポンプ12は停止するとともに、・・・測定装置は測定を開始する。一方、測定したい任意のときに外部からインヒビット回路16にスタート信号を与えると、コンパレータ14から信号が出ているときには、インヒビット回路16は解除されているので、・・・測定装置は測定を開始する。なお、コンパレータ回路14から信号がでていないときには、インヒビット回路16・・・にスタート信号を入れても測定を行なわない。」(5頁8行〜6頁5行)、「なお、真空室11内の真空度が低下した場合には、コンパレータ14からの出力がなくなり、測定を中止させるとともに自動的にポンプ12を作動させて、真空度を上げるようにする。」(6頁16〜19行)との記載があることは上記のとおりであり、該記載から審判甲第1号証の蛍光X線分析装置は、「真空室11の真空度が予め設定された真空度に達すると、・・・ポンプ12は停止」し、「測定装置は測定を開始する」とともに「真空度が低下した場合には、・・・測定を中止させるとともに自動的にポンプ12を作動させて、真空度を上げるようにする」ことにより、その真空度が設定された真空度近傍を上下するものであるから、審判甲第1号証の「設定された真空度」は本件発明の「所定の値」に相当する。さらに、審判甲第1号証の「コンパレータ14」は、真空計からの信号によりポンプ12を稼働制御して真空度を上下させるものであるから、審判甲第1号証の「コンパレータ14」は本件発明の「制御回路」に相当する。したがって、両者は、「真空ポンプによって排気する分析室、該分析室の真空度を測定する真空計と、この真空計からの信号によって制御する制御回路を備え、分析室の空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御する蛍光X線分析装置」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点: @ 本件発明が、分析室への空気流入経路上、又は排気経路上に、経路の開閉を制御する弁を設け、制御回路により弁の開度を調節することにより、真空室の空気圧力を所定の値で一定に保持しているのに対し、審判甲第1号証のものは、制御回路(コンパレータ14)によりポンプを稼働制御することにより真空室の空気圧力を所定の値で一定に保持するものであって、経路の開閉を制御する弁及び該弁の開度を調節するものではない点。 A 本件発明は、分析室の空気圧力が「 0.1Torr 程度に下がった後」その空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御するものであるのに対し、審判甲第1号証のものは、分析室の空気圧力を設定された真空度(所定の値)で一定に保持するよう制御するものではあるが、その設定された真空度がどの程度の真空度に下がった後であるか明らかでない点。 (5) 相違点についてした審決の判断 相違点@について: 審判甲第2号証には、真空ポンプによって排気する分析室への空気流入経路上に、経路の開閉を制御する弁を設け、分析室の真空度を測定する真空計と、この真空計からの信号によって前記弁の開度を調節する制御回路を備え、分析室の空気圧力が所定の値に下がった後その空気圧力を所定の真空度(0.1〜10Torr)で一定に保持するよう制御する真空装置が記載されており、該所定の真空度は蛍光X線分析可能な真空度を含むことは明らかである。そして、審判甲第1号証には、真空ポンプを用い分析室の空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御する蛍光X線分析装置が記載されており、該蛍光X線分析装置の真空装置として一般的な真空装置が適用可能なことは明らかであるから、蛍光X線分析可能な真空度に制御可能な審判甲第2号証の真空装置を審判甲第1号証の蛍光X線分析装置に適用することにより上記相違点@の構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。 相違点Aについて: 本件発明のものは、蛍光X線分析、特に軽元素の蛍光X線分析を行うことを目的とするものであるが、軽元素の蛍光X線分析を行う際に、分析室の真空度を 0.1Torr 程度にすべきことは周知のことにすぎない(必要であれば審判甲第6〜第8号証参照)。また、蛍光X線分析において測定中の空気圧力を分析可能な一定の値に維持することも周知のことである(例えば、審判甲第8号証には、0.1Torr 又はそれ以下の空気圧を維持することが記載されていることは上記記載のとおりである。)。してみると、軽元素の蛍光X線分析を行う際に真空度を 0.1Torr 程度にすることが格別のことでない以上、審判甲第1号証の真空装置として審判甲第2号証の一般的な真空装置を適用する際に、一定に保持する所定の真空度の値が分析可能な値(0.1Torr)に収まるように設計することにより、上記相違点Aの構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。 なお、原告(被請求人)は、「審判甲第1号証に記載された発明は“真空度を測定しておいて所定の真空度になったら自動的に測定を開始し、真空度が悪くなったら測定を停止するようにしたX線分析装置などの測定装置”ということがその要旨」であり、「真空度を設定値で積極的に一定に保ちながらX線測定を行うという発想がない」として本件発明との差異を主張するが、真空ポンプを用い分析室の空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御する蛍光X線分析装置が審判甲第1号証に記載されていること、軽元素の蛍光X線分析を行う際に真空度を 0.1Torr 程度にすることが周知であることは、上記相違点@,Aにおいて検討したとおりであるから、一定に保持する所定の真空度の値が分析可能な値(0.1Torr)に収まるよう(0.1Torr 又はそれ以下)に設定されれば、測定を中止することなく引き続き蛍光X線分析が可能であることは明らかであるので、上記主張は採用するに足りないものである。 そして、本件発明が奏する作用効果は、審判甲第1、2号証に記載された発明及び周知技術から予測し得る程度のものである。 したがって、本件発明は、審判甲第1、第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件発明の特許は、特許法126条3項の規定に違反してなされたものである。 (6) 審決のむすび 以上のとおりであるから、本件発明の特許は、特許法126条3項の規定に違反してなされたものであるので、本件特許は特許法123条1項7号の規定により無効とすべきである。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(一致点及び相違点の認定に関する誤り) (1) 審決は、本件発明と審判甲第1号証に記載された発明とは、「・・・分析室の空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御する蛍光X線分析装置」である点で一致する旨認定するが、誤りである。 審決の上記認定の根拠は、本件発明のように弁のオン、オフによる圧力制御も空気圧が所定値近傍を上下動する場合を含む一方、審判甲第1号証のポンプのオンオフ制御においても同様に設定された真空度近傍を空気圧が上下するものであり、両者は設定値近傍を上下動する点で共通するため、審判甲第1号証の「設定された真空度」は本件発明の「所定の値」に該当するというにある。 (2) しかし、本件発明の「所定の値」とは、分析室内の真空度を限りなく一定に保持しようとする場合のその保持値を意味し、その真空度で分析が継続してなされるのであり、そのように一定値に保持するための手段としてバルブを用いたものである。確かに、バルブを用いた場合であっても分析室内の真空度が「所定の値」近傍を若干上下動するのは事実であるが、本件発明は、本来分析室内の真空度を全く変動なく完全な一定値としたいのであり、真空度を上下動させるために意図的にバルブを用いたものではなく、真空度が多少なりとも上下動するのは、現在の科学技術上、真空室内を100%完全に一定値に保持することが不可能なことによるものである。 一方、審判甲第1号証には「分析室の空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御する」点が何ら開示及び示唆されていない。すなわち、審判甲第1号証には、 「従って、かかる測定装置等では測定精度を上げるために測定時は常に所定の真空度に保持されていなければならない。」(2頁9〜12行)との記載があるが、ここでの「所定の真空度に保持」とは、それに続く「そこで、従来以上のような装置では、測定に移る前に真空部分の真空度を真空計により測定し、これを確かめたうえで測定開始の指令を与えたり、また無人装置ではタイマー等を使って真空度が上がるであろう時間を予め設定しておき、タイムアップ後測定を開始するようにしている。」(2頁13〜19行)なる記載からすれば、ある程度の高真空度であることを意味し、それが一定値であることを何ら示唆するものではない。したがって、 審判甲第1号証に記載の発明は設定された値で分析測定を行うものではなく、設定された値以下の真空度で分析を行う測定装置であって、しかも測定中はポンプが停止するため真空度は無制御状態になることを示している。そして、審判甲第1号証に記載の発明では、ある程度の分析時間を確保しなければならないことから敢えて真空度の上下動が大きいポンプのオンオフ制御を行うものと考えられる。 すなわち、審判甲第1号証に開示されたX線分析装置は、真空室内が「設定された真空度」より真空度が悪い場合分析を行わず、「設定された真空度」より真空度が良い場合のみ分析を行うことを可能とするものであり、「設定された真空度」とは、分析の開始及びポンプの停止を行う真空度であり、かつ、分析の停止及びポンプの動作開始を行う真空度を示すにすぎず、本件発明のように、真空度を一定値に保持するための保持値ではない。もし審判甲第1号証に記載された発明における「設定された真空度」を本件発明のように分析室内を一定の真空度に保持するための保持値を意味するものであると解釈すると、審判甲第1号証に記載された発明は、分析室内を分析の開始点でありかつ停止点である真空度に保持することになり、実質的に分析する期間が確保できなくなる結果、本来の分析動作が不可能になる。 (3) 被告は、特許請求の範囲に明示されていないことを理由に、「その真空度で分析が継続して行われる」ことが本件発明とは無関係であると主張するが、本件発明において、分析室を一定に保持した状態で分析を行わない場合を含めることは、 発明として全く意味をなさないこととなる。本件発明の特許請求の範囲における「分析室の真空度を一定に保持するよう制御することを特徴とする蛍光X線分析装置」は、その真空度で分析がなされることを構成要件として内在する。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り及び本件発明の作用効果の看過) (1) 相違点@の判断の誤り 審決は、審判甲第2号証に記載された発明が、「空気圧力が所定の値に下がった後その空気圧力を所定の真空度(0.1〜10Torr)で一定に保持するよう制御する真空装置」であること、及び、審判甲第1号証に記載された発明が、「分析室の空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御する蛍光X線分析装置」であることから、 審判甲第1号証の蛍光X線分析装置に対して審判甲第2号証に開示された「分析室への空気流入経路上に経路の開閉を制御する弁を有する真空装置」を組み合わせることは容易であるとして、相違点@の構成とすることが容易であると判断した。 しかし、取消事由1で述べたように、審判甲第1号証に記載された発明は、分析室の真空度が設定された真空度以下となった期間に分析を行うものであるから、分析室の真空度を設定された真空度に一定保持するようにすると分析の開始点と終了点が一致してしまい、分析ができなくなる。このため、審判甲第1号証に記載された発明に、審判甲第2号証の真空度を一定に保持するバルブ構成を組み合わせる必然性は何らなく、仮にこれらを組み合わせた場合、審判甲第1号証に記載された発明が機能しない方向に作用するので、審判甲第1号証に記載された発明に対して審判甲第2号証を組み合わせて相違点@の構成とすることが容易であるとする審決の判断は誤りである。 (2) 相違点Aの判断の誤り (2)-1 審決は、「分析室の真空度を 0.1Torr 程度にすべきことは、審判甲第6号証〜甲第8号証から周知のことにすぎず、また、蛍光X線分析装置において測定中の空気圧力を所定の値で一定に維持することも周知であり(例えば、審判甲第8号証には、0.1Torr 又はそれ以下の空気圧を維持することが記載されている。)」とするが、誤りである。 審判甲第8号証の項目5.3.4(349頁)には、分析に使用する真空装置について、"to start the analysis at a pressure of 100μm or less, controllable to ±20μm"と記載されている。これは、100μm又はそれ以下の圧力で、しかも±20μmの誤差範囲で分析を開始することを極めて明瞭に示しており、分析開始以降も真空ポンプを継続して動作させるものと考えられる。また、審判甲第8号証の項目7.3.4(496頁)には、分析に使用する真空装置に用いる電気的制御装置について、"to start the analysis and maintain a pressure of 13.3Pa (100μmHg) or less, controllable to 2.7 Pa (±20μmHg)."と記載されているが、これは、単に 0.1Torr(±0.02Torr)又はそれ以下の真空度で分析を開始し、それ以降は真空度を 0.1Torr(±0.02Torr)以下に保持する構成を意味するにすぎず、0.1Torr 以下で真空度を一定に保持する本件発明の構成を開示及び示唆するものではない。 (2)-2 審判甲第7号証には、0.1mm以下ではわずかな変動により誤差がほとんど生じていない旨の記載(366頁1行〜2行)があり、前項主張の解釈は、0.1mmHg(0.1Torr)以下の真空度では、空気圧力を一定に保持することは特に必要ないと考えられていたことにも合致する。 被告は、0.1Torr 程度以下の高真空度でも、真空度の変動が分析結果に悪影響を及ぼす(変動する)ことが既に認識されていたことが審判甲第7号証の図5(365頁)に示すグラフから明らかである、分析結果の変動と悪影響を及ぼすことが同義であるかのように述べるが、同図において、0.1mmHg(0.1Torr)以下では、100%に近い吸収率であって、グラフはほぼ水平になり圧力が変動した場合に吸収率はほとんど変化しないことが読み取れるとともに、ここで問題となっているのは、分析結果に対する影響が無視できる程度のものと認識されていたか否かであるから、被告の主張は理由がない。 (2)-3 さらに、審判甲第6号証137頁図3には、軽元素分析における真空レベルの正確な制御の必要性を軽減するためには、150ミクロン以下で分析することが望ましい旨記載されている。 また、審判甲第6号証137頁中央欄2行〜右欄15行には、具体例として、前段ポンプと分光器との間に簡単な液体窒素のトラップとバルブアセンブリーを挿入する構成を用いた場合、8個の試料は、30秒以内に100ミクロン(0.1Torr)まで減圧され、 このレベルでトラップ上のバルブを部分的に閉じることにより安定な真空度が維持される旨記載されている。これは、100ミクロン(0.1Torr)までトラップを用いて減圧することにより減圧時間を短縮し、以降はこのトラップに通じるバルブを部分的に閉じて前段のポンプを運転し続けることによって安定な真空度を維持することを開示するものであり、「正確な制御の必要性の軽減」とは、100ミクロン(0.1Torr)以下で、特段の制御手段を設けないこと、すなわち、ポンプを駆動し続ける程度のことを示すものである。このため、審判甲第6号証は、真空度が100ミクロン(0.1Torr)程度以下では、正確に真空度を一定に制御する必要がなく、真空ポンプの動作を継続し続けるだけでよいことを示唆しており、審判甲第8号証についての前記原告の解釈を裏付ける。 (2)-4 以上のとおり、従来、0.1Torr 程度以下の高真空度では分析結果に対する悪影響はほとんどないと考えられており、分析室の空気圧力が 0.1Torr 程度に下がった後その空気圧力を所定の値で一定に保持することは周知ではないので、0.1Torr 程度以下の高真空度で測定を行う場合に、審判甲第1号証に記載された発明に審判甲第2号証に記載された発明を組み合わせたものを用いる必然性はない。したがって、審判甲第1号証の真空装置として審判甲第2号証の一般的な真空装置を適用する際に、一定に保持する所定の真空度の値が分析可能な値(0.1Torr)に収まるように設計することにより、相違点Aの構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことであるとした審決の判断も、誤りである。 (3) 本件発明の作用効果の看過 審決は、本件発明が奏する作用効果は、審判甲第1、第2号証に記載された発明及び周知技術から予測し得る程度のものであると判断する。 しかしながら、そもそも審判甲第1号証には、分析室の真空度を一定に保持する構成が何ら開示されておらず、また、審決が周知技術であるとする審判甲第6号証から第8号証には、0.1Torr 以下の条件で真空度が変動した場合の軽元素において生じる分析精度への影響を何ら開示しないので、軽元素の分析精度を向上させるという本件発明の効果は、審判甲第1号証及び審判甲第2号証に記載された発明及び周知技術から予測し得るものではなく、審決の上記判断は誤りである。 |
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審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対し (1) 審判甲第1号証に記載の発明は、原告の主張するような設定された値「以下」の真空度で分析測定を行うものではなく、測定精度を上げるため、測定時は常に所定の真空度に保持するものである。仮に、審判甲第1号証に記載の発明が、原告の主張するように「設定された値以下の真空度で分析を行う測定装置」ならば、 真空ポンプは、所定の真空度になった時に停止させる必要はなく、ポンプの稼動は継続するはずである。このように、審判甲第1号証に記載の発明は、所定の値に達すれば真空ポンプを停止させることにより設定された値以下にならないように制御し、所定の真空度に保持するものであり、原告が主張するような「設定された値以下の真空度で分析を行う測定装置」でないことは明白である。 (2) 原告は、「測定中はポンプが停止するために真空度は無制御状態になる」と主張するが、審判甲第1号証でも、真空室(分析室)の真空度は常に真空計によって計測(モニター)されており、その信号がコンパレータに送られ、これによりポンプが常に制御されて所定の真空度に保持されている、すなわち、ポンプが停止の状態の時も制御が行われていることは明らかである。 原告はまた、「審判甲第1号証に記載の発明では、ある程度の分析時間を確保しなければならないことから敢えて真空度の上下動が大きいポンプのオンオフ制御を行うものである」、「もし審判甲第1号証に記載された発明における『設定された真空度』を本件発明のように分析室を一定の真空に保持するための保持値を意味するものであると解釈すると、・・・実質的に分析する期間が確保できなくなる結果、本来の分析動作が不可能になる」と主張する。 しかしながら、ポンプのオンオフ制御では真空度の上下動が大きいとする技術的根拠はなく、また、ある程度の分析時間を確保しなければならないことから敢えて真空度の上下動が大きいポンプのオンオフ制御を行うとする根拠もない。さらに、 本件発明においても、制御される真空度の変動の程度(例えば、微少な変動)は特定されておらず、本件発明と審判甲第1号証に記載の発明とでは、共に、所定の値又は設定された真空度の近傍を上下動するものであり、これにより空気圧力(真空度)を所定の値で一定に保持するよう制御することは明らかである。 原告は、「・・・その真空度で分析が継続して行われる。」と主張するが、この点は本件発明の構成要件ではない。 2 取消事由2に対し (1) 相違点@について 前項で述べたように、本件発明においては分析室内の空気圧力が所定の値の近傍を上下するが、審判甲第1号証に記載された発明でも、分析室内の真空度をあらかじめ設定された真空度近傍を上下するものであり、両者は共に同じ動作を行う。 (2) 相違点A及び本件発明の作用効果について (2)-1 審判甲第7号証の図5には、明らかに、0.1mmHg(すなわち、0.1Torr)以下でも吸収量がなお変動する特性がグラフによって示されている。審判甲第7号証には、「0.5〜0.1mmの領域では、認められ得る強度の変動が、圧力の違いによって生じていることが明らかである。0.1mm以下では、僅かな変動により誤差はほとんど生じていない。」と記載されているが、これは変動が小さいことを述べているにすぎず、測定精度に注目する当業者にとってみれば、0.1mmHg(0.1Torr)以下でも蛍光X線の吸収率がなお変動している事実は明らかである。 (2)-2 審判甲第8号証の496頁の項目7.3.4には、アルミニウムを含む軽元素の分析のために13.3Pa±2.7Pa(すなわち、0.1Torr±0.02Torr に対応する。)で分析を開始し維持することが明らかに記載されており、このことからも、真空度を設定値で一定に保ちながらX線測定を行う発想は、それ自体、既に周知であったことは明らかである。 原告主張のように、もしも「それ以降は真空度を0.1Torr(±0.02Torr)以下に保持する」ものであれぱ、単に"and maintain it to be less than 13.3Pa (100μmHg) "と表現されるべきものである。その後に続く" controllable to 2.7Pa (±20μmHg) "についても、特に(±20μmHg)のように(±)符号を使用した表現からみても、制御すべき真空度の幅を規定していることは明らかである。 原告指摘の項目5.3.4における記載についても、単に、"and maintain"が省略されただけのものであり、原告の主張する「以下」を表現するのであれば、「(±20μmHg)」との表現は不要である。しかも、「(±20μmHg)」は制御される真空度の制御範囲を示しているのであり、原告の主張する「誤差範囲」とは明らかに異なる。 (2)-3 審判甲第6号証でも、軽元素の分析においては、所定の真空度(0.1Torr)に達した後、バルブ等の弁の制御により、その真空度を安定に保持すべきことが既に明記されている。軽元素の分析で真空度を安定に保持すべきことは、「また、審判甲第6号証137頁中央欄2行〜右欄15行には、具体例として、前段ポンプと分光器との間に簡単な液体窒素のトラップとバルブアセンブリーを挿入する構成を用いた場合、8個の試料は、30秒以内に100ミクロン(0.1Torr)まで減圧され、このレベルでトラップ上のバルブを部分的に閉じることにより安定な真空度が維持される旨記載されている。」として、原告自ら認めているところである。 (2)-4 以上のとおり、審判甲第6号証ないし第8号証では、上述のように明らかに、0.1Torr 以下の条件で真空度が変動した場合の軽元素分析精度への影響は既に認識されていたことは明らかであるから、「軽元素の蛍光X線分析を行う際に、 分析室の真空度を0.1Torr 程度にすべきことは周知」及び「蛍光X線分析において測定中の空気圧力を分析可能な一定の値に維持することも周知」とした審決の認定に誤りはない。 一方、審判甲第2号証は、「蛍光X線分析装置」であることを除いて、本件発明のすべての構成要件を備えており、さらに、「10-1Torr-10Torr」程度の真空度で使用されるものこと(263頁右欄6行〜7行)、そして「研究所や真空装置を利用した多くの産業プロセス」等の種々の用途に利用可能であることが示されている(263頁右欄37行〜39行)。 してみれば、本件発明と審判甲第1号証に記載された発明とでは、前者では弁の開閉を制御し、後者ではポンプの作動・停止を制御するとの相違があるにすぎず、 本件発明が奏する作用効果は、上記審判甲第1号証及び審判甲第2号証に記載された発明から当業者であれば当然に予想し得る程度のものでしかない。 |
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当裁判所の判断
1 本件出願当時の技術水準 (1) 以下の判断の前提として、蛍光X線分析を行う際の空気圧力の維持に関する本件出願当時(昭和61年、1986年)の技術水準についてみるに、甲第8号証によれば、審判甲第8号証(1982年)中の論文の一つは、「高温ニッケル合金の蛍光X線分光分析の提唱方法」(495頁タイトル部分)と記載があるように、蛍光X線分光分析を扱った文献であり、そこには、"to start the analysis and maintain a pressure of 13.3Pa (100μmHg) or less, controllable to 2.7 Pa (±20μmHg)."(496頁項目7.3.4)との記載があることが認められる。 原告は、これを「13.3Pa(0.1Torr)又はそれ以下の圧力で、しかも±20μmHgの誤差範囲で分析を開始し、その後は13.3Pa(0.1Torr)以下に圧力を維持する(真空ポンプの動作を継続する)ことを示していると解するのが相当である。」と主張するが、controllable to 2.7 Pa (±20μmHg) は、maintain(維持する)の目的語たる a pressure of 13.3Pa (100μmHg) or less (13.3Pa (100μmHg) 又はそれ以下の圧力)を修飾しているのであるから、±20μmHgが分析開始の際の誤差範囲であると解することはできない。もし原告の主張するように「その後は13.3Pa(0.1Torr)以下に圧力を維持する」という意味であれば、圧力はいくら小さくてもよいことになるから、±20μmHgなどと表現する必要はなく、単に、0.1Torrの誤差上限である20μmHgを加えた「0.12Torr 以下に維持する」という表現で足りるはずである。 したがって、審判甲第8号証の前記記載は、分析を開始してから、分析中の真空度を±20μmHgの変動幅に制御可能な13.3Pa (100μmHg) 以下の所定値に維持することを述べていると解すべきである。 (2) また、甲第6号証によれば、審判甲第6号証(1964年)には 「X線分光分析の定量分析は、・・・高精度の分析を維持するためには、与えられた分析の実行のすべての測定は一定の真空レベルで行われなければならない。・・・到達真空度とその許容される変動幅が評価される」(訳文1頁9〜19行)、 「例えば、シリコンに対する曲線は、約20%のケイ素に対しては、分析における真空度の許容範囲は220ミクロン (150±110ミクロン) であるのに対し、・・・マグネシウムやアルミニウムはその構成比が 8%から 12%であり、この濃度においては、 そのレベルは約10から20ミクロンだけ変動し得る(150±5・10ミクロン)」(同2頁21〜26行。ここで、±5・10ミクロンとは、文脈から、±5〜10ミクロンの意味と理解される)、 「8個の試料・・・は30秒以内に100ミクロンまで減圧することができる。このレベルでは、トラップ上のバルブは部分的に閉じ、安定な真空度が維持される。」(同3頁4〜6行)との各記載があることが認められる。 これらの記載によると、原子番号が20以下の軽元素のX線分光分析の定量分析においては、分析中真空度の変動幅を許容範囲内に収めることが必要であり、100ミクロン(0.1Torr)まで減圧後、バルブを部分的に閉じることにより、真空度の変動幅を許容範囲内に抑えていたものと認められる。原告は、甲第6号証の「安定な真空度が維持される」とは、100ミクロン(0.1Torr)以下で、特段の制御手段を設けないこと、すなわち、ポンプを駆動し続ける程度のことを示すと主張するが、圧力を下げ続けてもよいのであれば、バルブを部分的に閉じる必要はなく、また前記各記載からも圧力を下げすぎることを回避するためにバルブを部分的に閉じているものと解するのが相当であり、原告の主張は理由がない。 (3) そうすると、審判甲第6号証及び審判甲第8号証は、いずれも、高精度のX線分光分析を課題として、真空室を 0.1Torr 程度まで減圧後、真空度を許容範囲内(真空度が低すぎても、高すぎてもいけない)に抑えて分析を行うことを記載したものと認めることができる。したがって、「蛍光X線分析を行う際に、分析室の真空度を 0.1Torr 程度にすべきことは周知……のことにすぎない。また、蛍光X線分析において測定中の空気圧力を分析可能な一定の値に維持することも周知……のことである。」とした審決の認定に誤りはない。 2 取消事由1について (1) 甲第4号証によれば、審判甲第1号証に以下の記載があることが認められる。 @ 「X線の照射によって物質から得られる固有X線を検出器でとらえる部分等はX線の減衰を抑えるために真空状態にしている。従って、かかる測定装置等では測定精度を上げるために測定時は所定の真空度に保持されていなければならない。」(願書添付の明細書2頁7〜12行) A 「真空室11の真空度がレベル設定された真空度より小さいときには・・・真空室11内はポンプ12により減圧操作が行われる。」(同5頁3〜7行) B 「真空室11の真空度が予め設定された真空度に達すると、・・・ポンプ12は停止するとともに・・・これにより測定装置は測定を開始する。」(同5頁8〜14行) C 「なお、真空室11内の真空度が低下した場合には、コンパレータ14からの出力がなくなり、測定を中止させるとともに自動的にポンプ12を作動させて真空度を上げるようにする。」(同6頁16〜19行) D 「本考案によれば、所定の真空度に設定して測定を行う装置において、真空度を測定して自動的に測定を開始するようにしたので、測定中何らかの原因により真空度が低下しても直ちに測定を停止するので、測定結果のデータは常に所定の真空度に設定された状態で測定したものであり、非常に精度の高いものとすることができる。」(同7頁4〜10行) (2) A〜Cの記載によると、審判甲第1号証では、真空室11の真空度があらかじめ設定された真空度より小さいときには真空ポンプの稼働により真空度を上げ、 真空室11の真空度が設定された真空度に達するとポンプを停止するものであるから、真空室の真空度は設定された真空度近傍に保たれるものと認められ、Dの「所定の真空度に設定された状態」とはそのような状態を意味するものと解することができ、結局A〜Cは@の「測定時は所定の真空度に保持」を実現する具体的手段を記載したものと認めることができる。 この審判甲第1号証における記載を、本件発明の要件たる「空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御する」ことと異なる意味に解すべき理由は見当たらないから、「審判甲第1号証の「設定された真空度」は本件発明の「所定の値」に相当する。」との審決の認定に誤りはなく、原告主張の審決取消事由1は理由がない。 (3) 原告は、「本件発明の「所定の値」とは、分析室内の真空度を限りなく一定に保持しようとする場合のその保持値を意味し、その真空度で分析が継続してなされるのである。」、「審判甲第1号証に記載された発明の目的において記載された「常に所定の真空度で測定を行い」とは、ある程度の高真空度であることを意味し、真空度が一定値であることを示唆するものではなく、設定された値以下の真空度で測定を行うことを意味すると考えるのが自然である。」、「審判甲第1号証の発明では、ある程度の分析時間を確保しなければならないことから敢えて真空度の上下動が大きいポンプのオンオフ制御を行うものと考えられる。」などと主張する。 しかしながら、甲第3号証によれば、本件明細書に「第3図は本発明を実施し、 真空度がほぼ 0.06±0.006Torr になるように制御してAlX線の強度を測定した例である。」(49頁左欄21〜23行)との記載があることが認められ、一定に保持される圧力範囲(0.012Torr)は所定値(0.06Torr)の20%に及んでおり、本件発明につき原告が主張する真空度(空気圧力)が「限りなく一定」であるとの事項が本件明細書の記載に基づくものであると認めることはできない。 そして、前記1で判断したように、分析室の空気圧力が 0.1Torr 程度に下がった後その空気圧力を所定の値で一定に保持することは本件出願当時周知であったのであり、また、審判甲第1号証記載の発明について、原告主張のように、設定された値以下の真空度で測定を行うものと理解した場合、設定された真空度に達した後ポンプを停止することの技術的意義を理解することが困難であるし、ポンプのオンオフ制御による真空度の上下動が大きいとしても、本件発明は上下動の幅を限定しているものではなく、本件発明による制御においても、上下動の幅を大きくすることが不可能であると認めることもできない。 以上のとおりであって、原告の上記主張は理由がない。 3 取消事由2について (1) 甲第5号証によれば、審判甲第2号証に以下の記載があることが認められる。 「本論文は、動的真空システムにおいて一定圧力を保持すべくガス処理量を制御するように設計された閉ループサーボシステムの開発について述べる。これは、電気信号を出力できる圧力計と、小さなサーボモー夕で駆動できるガス流入用ニードルバルブとで作動するように設計されている。」(261頁上欄1〜3行) 「真空室内における圧力を検出し、これに対応してリークバルブの位置を調整する、つまり、コンダクタンスを調整する制御システムでは、リーク弁のコンダクタンスが他のパラメータの変化にもかかわらず、自動的に、真空室圧力を一定に維持することとなる。・・・上記のように動作する制御システムは、以下のような要求を満たすように設計されている。(a)真空システム内の圧力を要求される圧力の1パーセント以内に維持すること。」(261頁左欄12行〜32行) 「制御ユニットは、また、10リットルのシステムにも組み入れられ、2リットル/秒のロータリーポンプによって5秒の時定数を有するものとなっている。圧力はブルドン管ゲージによって、10‐1-10torrの範囲で測定される。・・・それゆえ、この制御システムは、研究所や真空装置を利用した多くの産業プロセスの双方において有用な応用を見い出すことが期待される。」(263頁右欄4行〜39行) これらの記載によると、「審判甲第2号証には、真空ポンプによって排気する分析室への空気流入経路上に、経路の開閉を制御する弁を設け、分析室の真空度を測定する真空計と、この真空計からの信号によって前記弁の開度を調節する制御回路を備え、分析室の空気圧力が所定の値に下がった後その空気圧力を所定の真空度(0.1〜10Torr)で一定に保持するよう制御する真空装置が記載されており」との審決の認定には、そこにおける「分析室」が「真空室」の誤記と認められる以外、 誤りはないというべきである。 (2) そして、審判甲第1号証に記載の発明が、「所定の真空度に保持」するものであることは、取消事由1についてさきに判断したとおりであり、この点、前記の審判甲第6号証及び審判甲第8号証に記載のところと軌を一にするものである。 したがって、特に軽元素を分析対象とした場合に、保持すべき所定の真空度を 0.1Torr 程度とすることは軽微な設計事項程度と認めることができ、また前記のとおり、審判甲第2号証には「この制御システムは、研究所や真空装置を利用した多くの産業プロセスの双方において有用な応用を見いだことが期待される。」と記載があることからすると、審判甲第2号証記載の制御システムを審判甲第1号証に記載の発明に適用し得ないとすることもできない。 よって、「蛍光X線分析可能な真空度に制御可能な甲第2号証の真空装置を審判甲第1号証の蛍光X線分析装置に適用することにより上記相違点@の構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。」とした審決の判断、及び「審判甲第1号証の真空装置として甲第2号証の一般的な真空装置を適用する際に、一定に保持する所定の真空度の値が分析可能な値(0.1Torr)に収まるように設計することにより、上記相違点Aの構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。」とした審決の判断には誤りはないというべきである。 (3) 原告は、「審判甲第1号証に記載された発明に、審判甲第2号証の真空度を一定に保持するバルブ構成を組み合わせる必然性は何らなく、仮にこれらを組み合わせた場合、審判甲第1号証に記載された発明が機能しない方向に作用する」と主張する。 しかしながら、甲第4号証によれば、審判甲第1号証には「測定中何らかの原因により真空度が低下しても直ちに測定を中止する」(7頁6〜7行)と記載があることが認められ、審判甲第1号証に記載の発明においては、真空度の低下が分析測定に支障を来すことの対策として測定を中止すると解すべきであり、分析に支障がない程度の真空度が確保される場合には測定の継続を排除する旨の趣旨であると解することは到底できない。そして、前記(1)に認定したとおり、審判甲第2号証には「真空システム内の圧力を要求される圧力の1パーセント以内に維持する」との記載があることからすると、審判甲第2号証には、真空度の変動幅は十分小さく、分析に支障がない程度の真空度が確保されるとの事項が開示されているとみることができる。 したがって、審判甲第1号証に記載の発明に審判甲第2号証記載の真空システムを適用した際には、真空度の変動幅が小さいことにかんがみ、高精度の測定を行えることを認めることはできても、発明が機能しないことを認めることはできないから、原告の上記主張は理由がない。 (4) そして、前記1で判断したように、高精度の分析測定を課題として、分析室の空気圧力が所定値以下に下がった後、空気圧力を一定に保持して分析測定を行うことが周知である以上、空気圧力を一定に保持する精度に測定精度が依存することは当然であるから、高精度に空気圧力を一定に保持し得る審判甲第2号証記載の真空システムを適用した場合に、分析精度も向上することは当然予測されることである。 したがって、「本件発明が奏する作用効果は、審判甲第1、2号証に記載された発明及び周知技術から予測し得る程度のものである。」とした審決の判断にも誤りはないというべきである。 (5) 以上のとおりであって、原告主張の取消事由2も理由がない。 |
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結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。 (平成12年7月18日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 橋本英史 |