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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ネ10083損害賠償請求控訴事件 判例 特許
平成21ネ10002特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成18ネ10075特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成20ネ10073特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成15ワ25968特許権侵害差止請求事件 判例 特許
関連ワード 公知技術 /  技術的範囲 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  対象製品 /  数値限定 /  均等 /  置き換え /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  加工 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 /  釈明 / 
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事件 平成 17年 (ネ) 10056号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 有限会社アルファグリーン
訴訟代理人弁護士 松坂祐 輔,小倉秀夫輔佐人弁理士 長門侃 二,山中純 一,坪井健児
被控訴人 株式会社第一アメニティ(以下「被控訴人足利第一アメニティ」とい う。)
被控訴人 株式会社第一アメニティ(以下「被控訴人川崎第一アメニティ」とい う。)
両名訴訟代理人弁護士 新保克 芳,村田真一
両名輔佐人弁理士 鈴木 俊一郎,八本佳 子,辻野 利永子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/07/12
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴人の求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,「プライオグリーン」という商品名の緑化土壌安定剤を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しの申出をしてはならない。
3 被控訴人らは,前項記載の緑化土壌安定剤及びその半製品を廃棄せよ。
事案の概要
1 手続の経緯 (1) 控訴人は,原審において,「プライオグリーン」という商品名の緑化土壌安定剤(以下「被控訴人製品」という。)が,控訴人の持分に係る特許第2935408号の請求項3記載の特許(以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の発明の技術的範囲に属し,被控訴人足利第一アメニティが被控訴人製品を製造し,被控訴人川崎第一アメニティがこれを販売する行為が本件特許権を侵害すると主張して,被控訴人製品の製造等の差止め及び被控訴人製品等の廃棄を求めた。
(2) 原審は,被控訴人製品が本件発明の構成要件Bb(「硫酸カルシウム 1〜20重量%」との構成要件)を充足するとは認められないと判示して,控訴人の請求をいずれも棄却した。
(3) 控訴人は,原判決を不服として控訴し,当審において,被控訴人製品が本件発明の構成要件Bbを充足しないとしても,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,又は,本件発明の不完全利用として,本件発明の技術的範囲に属する,との主張を追加した。
2 争いのない事実,争点等 前提となる事実等,争点及び争点についての当事者の主張は,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 当審における当事者の主張 (1) 控訴人 ア 被控訴人製品は,本件発明の構成要件Bbを充足する。
(ア) 甲4(報告書)によれば,被控訴人製品には2.60重量%の酸化硫黄(1.04重量%の硫黄に相当する。)が含まれる。また,甲19(調査報告書)によれば,被控訴人製品には0.98重量%の硫黄が含まれる。甲4と甲19は,分析方法を異にしているが,上記のように,硫黄の含有量について実質的に同一の結論に到達しているから,ともに信用性が高い。そして,甲15(見解書)によれば,被控訴人製品には,硫酸アルミニウムが1.4重量%(0.39重量%の硫黄に相当する。),硫酸カルシウムが2重量%(0.47重量%の硫黄に相当する。)が含まれる。甲19によれば,被控訴人製品には0.98重量%の硫黄が含まれているから,この0.98重量%の硫黄は,0.39重量%が硫酸アルミニウムに,0.47重量%が硫酸カルシウムに,0.12重量%がフライアッシュとセメントにそれぞれ起因することになる。そうすると,甲15による被控訴人製品の硫酸アルミニウムと硫酸カルシウムの含有量は,甲19による被控訴人製品の硫黄の含有量と整合するから,甲15は,信用性が高い。
これに対し,被控訴人らの開示した構成成分量によると,被控訴人製品には,硫酸アルミニウムが2.8重量%(0.79重量%の硫黄に相当する。),硫酸カルシウムが4.5重量%(1.06重量%の硫黄に相当する。)が含まれるから,これらに起因する硫黄が少なくとも1.85重量%含まれている。甲19によれば,被控訴人製品には0.98重量%の硫黄が含まれるにすぎないから,その差の0.87重量%もの硫黄が消失していることになり,フライアッシュとセメントに起因する硫黄が含まれていることを考えれば,更に多くの硫黄が消失していることになる。そうすると,被控訴人らの開示した構成成分量による被控訴人製品の硫酸アルミニウムと硫酸カルシウムの含有量は,甲19による被控訴人製品の硫黄の含有量と整合しないから,被控訴人らの開示は,信用性がない。
したがって,被控訴人の開示は信用性がなく,甲15は,甲19の分析結果と一致して信用性が高いのであって,これによれば,被控訴人製品が本件発明の構成要件Bbを充足するものである。
(イ) 被控訴人らの開示した構成成分量に従い,被控訴人製品444s中に硫酸アルミニウム12.5sが含まれるときに,添加剤84sに対する硫酸カルシウムの含有率を20重量%(16.8s)と仮定して,硫酸アルミニウム及び硫酸カルシウム硫黄に由来する硫黄の含有量を算出すると,7.45s(1.68重量%)になる。甲19によれば,被控訴人製品には0.98重量%の硫黄が含まれるところ,甲4と甲19との対比による甲19の測定誤差を考慮しても,被控訴人製品444s中に硫酸アルミニウム12.5sが含まれるときに,添加剤に対する硫酸カルシウムの含有率が20重量%を超えることは極めて少ないから,被控訴人製品は本件発明の構成要件Bbを充足するものと認定すべきである。
(ウ) 甲19の図-2におけるSi,Ca,Alの成分割合を比較すると,被控訴人製品(同図中の「イ号物件」)は,被控訴人らが開示したもの(同図中の「合成品」)とは異なり,控訴人が主張するもの(同図中の「イ号成分推定品」)とほとんど同じであるから,被控訴人製品が本件発明の構成要件Bbを充足する。
イ 仮に被控訴人製品が本件発明の構成要件Bbを充足するとは認められないとしても,被控訴人製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明技術的範囲に属する。
(ア) 「厚層基材種子吹付け工法」として公知であった先行技術は,「客土,種子,養成剤,肥料,土壌改良剤,促進剤,土壌固結剤(糊剤)などを所定の割合で混合して成る混合物を水に懸濁してスラリー客土とし,得られたスラリー客土を例えばラス網が張設されている法面に吹付けて,当該法面を所望厚みの吹付け面で被覆する工法」であるが,糊剤の硬化に2,3日を要し,硬化前の降雨で吹付け面全体が流亡したり,糊剤の硬化により客土の表面が乾固状態になって,保水性や通気性が劣化して発芽率は低下したり,吹付け面の厚さによっては3ないし5日間の施工期間が必要となる問題があった。本件発明は,上記のような先行技術だけが公知であったときに,硫酸アルミニウムと硫酸カルシウムを添加剤に含め,材料を水に分散させてスラリー状にしたときに,@硫酸アルミニウムが,水に溶解して電解質として機能して,コロイド状に分散している灰成分(例えばフライアッシュ)との間でエトリンジャイトを生成するとともに,その凝集と土壌粒子を巻き込んだ凝結とを促進し,A硫酸カルシウムが,硫酸アルミニウムと同じように,エトリンジャイトの生成と凝集を促進するとともに,ケイ酸カルシウム水和物を生成し,また,それ自体石膏成分である硫酸カルシウムは,石膏化によってスラリーの固化を促進し,Bこれら水和化合物と土壌粒子との複合した多孔質団粒が,急速に形成されて硬化し,通気性,保水性,弾力性に富んだものとなって,土壌を安定化するようにしたものである。したがって,本件発明の本質的部分は,上記のように,硫酸アルミニウムと硫酸カルシウムを添加剤に含める点にあるのであって,これらを特定の割合で混合することは本件発明の本質的部分ではない。
これを硫酸カルシウムについてみると,含有量を20重量%以下としたのは,「20重量%より多くなると,硫酸カルシウムその自体は石こう成分であるため,調整されたスラリーの石こう化が始まって固くなり,吹きつけ加工が行いにくくなる」からであり,吹きつけ加工上の多少の不便を甘受すれば,20重量%より多くしても,上記の効果を得ることができるのである。被控訴人製品は,硫酸カルシウムの含有量が23.8重量%であって,本件発明の構成要件Bbとの間に3.8重量%の差があるにすぎないところ,この程度の差は,硫酸カルシウムの石こう化による固化をいくぶんか促進し,調整されたスラリーの固化にいくらかの違いを生じさせる程度であって,スラリーの固化時間や粘度は,吹付け施工時に適宜調整するものであるから,硫酸カルシウムの含有量が20重量%以下であることは,本件発明の本質的部分ではない。
(イ) 被控訴人製品の硫酸カルシウムの含有量を23.8重量%にしても,スラリー固化の速度が遅くなるだけで,本件発明の目的を達することができ,また,本件発明と同一の作用効果を奏する。
(ウ) 被控訴人製品の硫酸カルシウムの含有量を23.8重量%にすることは,当業者が適宜選択することができる事項であって,技術的に重要な意義を有するものではなく,当業者が容易に想到することができたものである。
(エ) 被控訴人製品は,樹脂ポリマーを糊剤とする本件特許出願当時における公知技術と同一ではなく,当業者が公知技術から本件特許出願時に容易に推考することができたものではない。
(オ) 本件発明において硫酸カルシウムの含有量を20重量%以下としたのは,硫酸カルシウムの石膏化の影響と施工上の便宜とを配慮して少し詳しく規定したにすぎず,硫酸カルシウムの含有量を20重量%より大きくしても,スラリーが固化する前に手早く施工するか,施工時にスラリーの粘度を調整すればよいだけである。
本件発明は,樹脂ポリマーを糊剤とする本件特許出願当時における公知技術とは全く異なるのであって,施工上の便宜を配慮することはあっても,硫酸カルシウムの含有量が20重量%より大きい場合を意識的に除外したものではなく,その他特段の事情もない。
(カ) したがって,硫酸カルシウムの含有量が23.8重量%であるとしても,被控訴人製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明技術的範囲に属するというべきである。
ウ 仮に被控訴人製品が特許請求の範囲に記載された構成と均等なものでないとしても,被控訴人製品は,特許発明の不完全利用であるから,本件発明の技術的範囲に属する。
(ア) 被控訴人製品は,硫酸カルシウムの含有量が23.8重量%であって,本件発明の構成要件Bbとの間に3.8重量%の差があるにすぎず,本件発明と同一の技術思想に基づくものである。また,本件発明において硫酸カルシウムの含有量を20重量%以下としたのは,「吹きつけ加工の行いやすさ」という些末的な観点からであって,本件発明の構成要件の中では重要度が非常に低い。
(イ) 本件発明は,既に公知であるから,硫酸カルシウムの含有量を23.8重量%にするのは,非常に容易である。
(ウ) 被控訴人製品の硫酸カルシウムの含有量を23.8重量%にすることによって,吹きつけ加工の行いやすさが犠牲になることは明らかであり,したがって,技術的完全を期する限り,このような省略をするはずがない。
(エ) 上記(ウ)のように,被控訴人製品の硫酸カルシウムの含有量を23.8重量%にすることによって,吹きつけ加工の行いやすさが犠牲になるが,厚層基材種子吹付工法において,「コロイド状に分散している灰成分(例えばフライアッシュ)との間でエトリンジャイトを生成するとともに,その凝集と土壌粒子を巻きこんだ凝結とを促進し」たり,「ケイ酸カルシウム水和物を生成し,また,それ自体石膏成分である硫酸カルシウムは,石膏化によってスラリーの固化を促進し,これら水和化合物と土壌粒子との複合した多孔質団粒が,急速に形成されて硬化」したりさせて,「通気性,保水性,弾力性に富んだものとな」るようにできるのであり,本件発明の特許出願前の技術に比べて,作用効果が特に優れている。
(オ) したがって,硫酸カルシウムの含有量が23.8重量%であるとしても,被控訴人製品は,特許発明の不完全利用であるから,本件発明の技術的範囲に属するというべきである。
(2) 被控訴人ら ア 被控訴人製品は,本件発明の構成要件Bbを充足しない。
甲19及び甲4は,被控訴人製品(甲19では「イ号物件」)におけるアルミニウムとカルシウムの含有量,被控訴人製品(甲19では「イ号物件」)及び控訴人製品におけるカリウムの含有量,控訴人製品における硫黄濃度等において,矛盾しているから,対象とした試料の同一性と測定結果のそれぞれに信用性がない。
したがって,このことを吟味しないで,甲19を前提に主張をしても無意味である。
イ 被控訴人製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものではない。
(ア) 本件発明は,添加剤中の各成分の割合を一定の範囲にすることをその特徴とするものであり,本件明細書には,硫酸カルシウムについて,「20%より多くなると,硫酸カルシウムそれ自体は石こう成分であるため,調整されたサラリーの石こう化が始まって固くなり,吹きつけ施行が行いにくくなるからである」として,その含有量を20%に限定することの意味が記載されている。
被控訴人製品は,硫酸カルシウムの含有量が27.6重量%であって,本件発明の構成要件Bbの1ないし20重量%とは明らかに差のある値であるから,この部分は本件発明の本質的部分である。
(イ) 添加剤に対する硫酸カルシウムの含有量の上限は,上記(ア)のとおり,石こう化が進んでしまうことから規定されたものであって,硫酸アルミニウム,硫酸カルシウム,シリカ粉末及びセメント成分からなる添加剤中で硫酸カルシウムの含有量が27.6重量%に達したときに,本件発明と同じ作用効果を奏するものであるかどうかは容易に分かることではないから,被控訴人製品の硫酸カルシウムの含有量を27.6重量%にすることは,当業者が容易に想到することはできない。
(ウ) 硫酸カルシウムの含有量を1ないし20重量%としたことが,20重量%より大きい場合を意識的に除外したものであるということができる。
ウ 被控訴人製品は,本件発明の不完全利用ではない。
本件発明は,添加剤中の各成分の割合を一定の範囲にすることをその特徴とするものであって,硫酸カルシウムの含有量が1ないし20重量%との数値限定範囲に属するか否かは本質的部分であり,本件発明の構成要件の中で重要度が非常に低いとはいえない。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次の2において,当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における控訴人の主張について (1) 被控訴人製品が本件発明の構成要件Bbを充足するか否かについて ア 第2の3(1)ア(ア)の主張について (ア) 甲4(報告書)は,中外テクノス株式会社が,控訴人の依頼に基づき,アルファグリーン(控訴人の製品)及び被控訴人製品について,それぞれの成分(SiO2,Al 2O 3,Fe 2O 3,CaO,MgO,Na 2O,K 2O,SO 3,P 2O 5,CO 2)をJIS M8815,JIS M8217,ICP発光分光分析法及び中和滴定法により分析し,その含有割合を数値で示した結果の報告書であるが,その中で,酸化硫黄(SO3)については,JIS M8217により分析し,被控訴人製品では2.60重量%であるとの結果が得られたことが示されている。
しかし,甲4において,JIS M8217による分析方法について,その具体的な測定方法や測定条件等は明らかにされていない。また,ICP発光分光分析法についても,その具体的な測定方法や測定条件等は明らかでないのであって,そうであれば,甲4の分析結果が被控訴人製品の構成を正確に示しているとは認め難いといわなければならない(なお,控訴人は,JIS M8217はJIS規格の分析方法であり,また,ICP発光分光分析法は確立された分析方法に基づくものであって,いずれも具体的な測定条件等は明らかであり,その結果に基づき,被控訴人製品における硫酸アルミニウム,硫酸カルシウム,シリカ粉末,ファライアッシュ,セメント成分の含有量を算出することができると主張するが,JIS M8217がJIS規格の分析方法であり,また,ICP発光分光分析法が確立された分析方法に基づくものであるとしても,上記の測定方法において,用いた試薬や試料,使用した測定装置などの具体的な測定方法や測定条件等が一義的に規定され,あるいは確立されているというわけではないから,具体的な測定方法や測定条件等は明らかでないといわざるを得ない。したがって,その分析結果に基づき,硫酸アルミニウム等の含有量を算出したとしても,これが被控訴人製品の構成を正確に示しているということはできないから,控訴人の上記主張は,採用することができない。)。
甲19(調査報告書)は,株式会社ハイメック中国事業所が,控訴人の依頼に基づき,アルファグリーン製品(控訴人の製品),イ号物件(被控訴人製品),合成品(被控訴人らが開示した被控訴人製品の構成成分量に従い,控訴人が合成したもの)及びイ号成分推定品(控訴人が主張する被控訴人製品の構成成分量に従い,控訴人が合成したもの)について,EDX(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)により分析した結果の報告書であるが,その中で,被控訴人製品では硫黄(S)が0.98重量%であるとの結果が得られたことが示されている。
控訴人は,甲4と甲19が硫黄の含有量について実質的に同一の結論に到達していると主張しているところ,アルファグリーン(控訴人の製品)について,同じ硫黄の含有量についてみると,甲4においては酸化硫黄(SO3)の含有量が4.87%(1.95重量%の硫黄に相当する。)であるとの結果が得られたのに対し,甲19においては硫黄の含有量が2.63重量%であるとの結果が得られたものであるから,このことにかんがみると,甲4の分析結果だけでなく,甲19の分析結果も,その正確性は疑わしいといわなければならず,したがって,甲19において,その分析結果がそれぞれの製品の元素の含有量を正確に示しているとは,即断することができない。
したがって,甲4と甲19が,被控訴人製品の硫黄の含有量について実質的に同一の結論に到達したからといって,ともに信用性が高いということはできない。
(イ) 甲15(見解書)は,控訴人補佐人が,甲4の分析結果を前提として,フライアッシュやセメントの組成について平均値を用いて,被控訴人製品の各構成成分の含有量を計算した結果の見解書であるが,これによると,多数の計算結果の中で,フライアッシュ(灰)100重量部に対し,硫酸アルミニウム7重量%,硫酸カルシウム10重量%,シリカ粉末15重量%,セメント成分68重量%からなる,添加剤25重量部を混合したものの計算結果が,甲4の分析結果に最も近いと記載されている。
しかし,上記(ア)のとおり,甲4の分析結果は,被控訴人製品の構成を正確に示しているとは認め難いから,上記の計算結果が甲4の分析結果に最も近いからといって,これが被控訴人製品の構成を正しく反映しているということはできない。しかも,上記(ア)のとおり,甲19の分析結果は,それぞれの製品の元素の含有量を正確に示しているとは即断することができないから,甲15による被控訴人製品の硫酸アルミニウムと硫酸カルシウムの含有量が,たまたま甲19による被控訴人製品の硫黄含有量と整合するからといって,甲15が信用性が高いということはできない。
(ウ) そして,仮に被控訴人らの開示した構成成分量が真実に反するものであったとしても,そのことから,直ちに,被控訴人製品が本件発明の構成要件Bbを充足するということにはならないし,上記(ア)のとおり,甲19の分析結果は,それぞれの製品の元素の含有量を正確に示しているとは即断することができないから,被控訴人らの開示した構成成分量による被控訴人製品の硫酸アルミニウムと硫酸カルシウムの含有量が,甲19による被控訴人製品の硫黄の含有量と整合しないとしても,被控訴人らの開示が信用性がないということにはならない。
(エ) したがって,甲15の計算結果などから,被控訴人製品が本件発明の構成要件Bbを充足するということはできない。
イ 第2の3(1)ア(イ)の主張について 控訴人は,被控訴人らの開示した構成成分量に従い,被控訴人製品444s中に硫酸アルミニウム12.5sが含まれるときに,添加剤に対する硫酸カルシウムの含有率が20重量%を超えることは極めて少ないと主張するところ,これは,被控訴人らが開示した構成成分量において,硫酸カルシウムの分量だけが不正確であり,他の分量は正確であるとの前提に立つものであるが,このような前提に立つことに合理性があるとは考え難い。また,上記ア(ア)のとおり,甲19の分析結果が,それぞれの製品の元素の含有量を正確に示しているとは即断することができないから,これと上記前提のもとで算出した結果とを比較しても,意味がないといわなければならない(なお,上記ア(ア)のとおり,甲4の分析結果は,被控訴人製品の構成を正確に示しているとは認められないから,甲4と甲19との対比による甲19の測定誤差を考慮しても,意味がない。)。
したがって,このようなもとで,添加剤に対する硫酸カルシウムの含有率が20重量%を超えることは極めて少ないという結果を得たとしても,このことから,被控訴人製品が本件発明の構成要件Bbを充足するということはできない。
ウ 第2の3(1)ア(ウ)の主張について 甲19には,主元素(Al,Si,Ca,Fe)のSi含有量を100としたときの成分割合が図示(図-2)され,「図-2から,アルファグリーン,イ号物件,イ号物件推定品は似かよった主元素成分割合であることが判ります。」と記載されている。
しかし,甲19の分析結果は,上記ア(ア)のとおり,それぞれの製品の元素の含有量を正確に示していると即断することはできない。しかも,アルファグリーン製品(控訴人の製品)は,その構成が明らかでなく,仮に甲7(見解書)に記載された「灰成分(フライアッシュ)100重量部に対し,硫酸アルミニウム1.74重量%,硫酸カルシウム6.96重量%,シリカ粉末6.96重量%,セメント成分45.2重量%とから成る添加剤40.4重量部」との構成であるとしても,フライアッシュやセメントの具体的な成分が明らかでない上,添加剤中の未開示部分39.14重量%の具体的な成分が明らかでない。また,合成品について,控訴人は,これに用いたセメントが太平洋セメント製である旨釈明する(平成15年9月29日付け「求釈明に対する回答書」)が,そのグレードや製品名等は明らかにしてないから,その成分が明らかでないし,イ号成分推定品についても,その構成が明らかでなく,仮に控訴人が主張するように「フライアッシュ成分100重量部に対し,硫酸アルミニウム約7重量パーセント,硫酸カルシウム約10重量パーセント,シリカ粉末約15重量パーセント,セメント成分約68重量パーセントとから成る添加剤約25重量部」との構成であるとしても,フライアッシュやセメントの具体的な成分が明らかでない。
したがって,主元素(Al,Si,Ca,Fe)のSi含有量を100としたときの成分割合について,アルファグリーン,イ号物件及びイ号物件推定品が似かよったものであるとしても,このことから,被控訴人製品の硫酸カルシウムが1ないし20重量%の範囲にあると推認するには足りない。
エ そうであれば,原告の上記主張を考慮して検討しても,なお,被控訴人製品が本件発明の構成要件Bbを充足すると認めるには足りない。
(2) 被控訴人製品が特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるか否かについて ア 上記のとおり,被控訴人製品は,本件発明の構成要件Bbを充足すると認めるには足りないから,本件発明の技術的範囲に属するということはできない。しかし,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,@上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,A上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,B上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,C対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,D対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁)。
イ そこで,これについてみるのに,まず,「硫酸カルシウム 1〜20重量%」との部分が本件発明の本質的部分であるか否かについて検討する。
(ア) 本件明細書(甲1)の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
「【従来の技術】・・・この厚層基材種子吹付け工法は,客土,種子,養成剤,肥料,土壌改良剤,促進剤,土壌固結剤(糊剤)などを所定の割合で混合して成る混合物を水に懸濁してスラリー客土とし,得られたスラリー客土を例えばラス網が張設されている法面に吹付けて,当該法面を所望厚みの吹付け面で被覆する工法である。」(段落【0002】) 「【発明が解決しようとする課題】・・・まず,従来のスラリー客土は土壌粒子を団粒化するための糊剤が樹脂ポリマーを主体とするため,その硬化速度は遅いことである。・・・ ・・・また,従来のスラリー客土は糊剤が樹脂ポリマーを主体としているため,糊剤の硬化が完了すると,団粒化した客土の表面は乾固状態になり,保水性や通気性も悪く,全体として,植生材料の発芽状態はまだらとなり,またその発芽率は低下するという問題がある。・・・ また,従来から用いられているスラリー客土は,糊剤の硬化速度が遅いということからして,単時間で厚い吹付け面を形成することが困難である。・・・」(段落【0004】ないし【0006】) 「本発明は,厚層基材種子吹付け工法に用いられてきた従来のスラリー客土における上記した問題を全て解決し,吹付け施工後,1〜3時間程度経過すると団粒化が起こり通常の降雨量でも流亡することがなく,また1度の吹付け作業で8cm程度の厚みの吹付け面を形成することができ,しかも形成された吹付け面は多孔質で通気性や保水性に富み,吹付け面全体から高い発芽率で植生種子を発芽成長させることができ,凍上劣化も起こすことがない客土にすることができ,更には,泥状土壌に混合して用いるとその泥状土壌を短時間で固化して安定化することができる緑化・土壌安定化用無機質材料とそれを用いた厚層基材種子吹付け工法または土壌安定化工法の提供を目的とする。」(段落【0008】) 「【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために,本発明においては,灰成分100重量部に対し,硫酸アルミニウム1〜20重量%,硫酸カルシウム1〜20重量%,シリカ粉末1〜20重量%,セメント成分10〜80重量%から成る添加剤10〜50重量部を混合して成ることを特徴とする緑化・土壌安定化用無機質材料(以下,第1材料という)が提供される。
また,本発明では,灰成分100重量部に対し,硫酸硫酸アルミニウム1〜20重量%,硫酸カルシウム1〜20重量%,シリカ粉末1〜20重量%,セメント成分10〜80重量%から成る添加剤10〜50重量部およびセラミックス粉末10重量部以下を混合して成ることを特徴とする緑化・土壌安定化用無機質材料(以下,第2材料という)が提供される。」(段落【0009】,【0010】) 「本発明の第1材料は後述する灰成分と添加剤を必須とし,また第2材料は,この第1材料に更に後述するセラミックス粉末を配合して構成される。・・・」(段落【0012】) 「・・・次に,本発明の第1材料,第2材料において,配合する添加剤は,硫酸アルミニウム,硫酸カルシウム,シリカ粉末,セメント成分を必須成分として成る。」(段落【0015】) 「硫酸アルミニウムは,本発明材料を水に分散させてスラリー状にしたときに水に溶解して電解質として機能し,コロイド状に分散している灰成分との間でエトリンジャイトを生成し,その凝集を促進する。そして,土壌が共存している場合は,加水分解を経て水酸化アルミニウムが生成する過程でアルミニウムの重縮合イオンが高分子体として生成し,これが土壌粒子をまき込みながら凝結していく。
この硫酸アルミニウムの割合は,添加剤の全量に対し,1〜20重量%に設定される。この割合が1重量%よりも少ないときは灰成分の凝集効果やエトリンジャイトの生成効果が低下して土壌の迅速な安定化や土壌中の水分を効果的に吸収できなくなり,逆に,20重量%より多くしても,配合効果は飽和に達するだけで,徒にコストアップを招くようになる。
硫酸カルシウムは,硫酸アルミニウムの場合と同じように,スラリーを調製したときに水に溶解して解離し,灰成分の凝集を引起し,また灰成分と反応してエトリンジャイトやケイ酸カルシウム水和物を生成する。この硫酸カルシウムの割合は,添加剤の全量に対し,1〜20重量%に設定される。この割合が1重量%より少ないときは上記した効果が充分に発揮されず,逆に20重量%より多くなると,硫酸カルシウムそれ自体は石こう成分であるため,調製されたスラリーの石こう化が始まって固くなり,吹付け施工が行いにくくなるからである。
シリカ粉末は,本発明の材料が団粒・固化したときに,その団粒の中に分散して強度保持に寄与する。用いるシリカ粉末としては格別限定されるものではないが,例えば,ヒュームドシリカや天然のシラスなどを好適なものとしてあげることができる。とくに,ヒュームドシリカは非晶質であるため,スラリーの調製と同時に激しく結晶化しながら灰成分や後述するセメント成分と結合して団粒の強度を高めることができるので有用である。
シリカ粉末の割合は,添加剤の全量に対し,1〜20重量%に設定される。この割合が1重量%よりも少ないと,前記した強度向上効果が充分に発揮されず,逆に20重量%より多くしても,配合効果は飽和に達し,徒にコストアップを招くようになる。セメント成分は,調製したスラリー客土を例えば法面に吹付けたとき,そのスラリー客土を短時間で凝結させると同時に,吹付け面の強度確保のために配合される。
このセメント成分としては格別限定されるものではなく,例えばポルトランドセメントや,緊急工事用の建設材料として用いられている早強セメントなどが好適である。このセメント成分の割合は,添加剤の全量に対し,10〜80重量%に設定される。この割合を10重量%より少なくすると,上記した効果が充分に発揮されず,逆に80重量%より多くすると,施工後のスラリーの凝結が過度に進んで非常に固い施工面になってしまい,例えば植生材料を添加したときにその植生材料の発芽成育に支障をきたすからである。
本発明の第1材料,第2材料は,いずれも,灰成分100重量部に対し前記添加剤を10〜50重量部混合して成る。添加剤の混合割合を10重量部より少なくすると,調製したスラリーの迅速な団粒・固化が進まず,また,50重量部よりも多くすると,相対的にセメント成分が増量するので施工面や施工土壌が過度に固くなる。いずれにしても,雨水で流亡せず,凍上劣化を起こさず,植生材料が吹付け面から万遍なく発芽成育する緑化吹付け用材料や,泥状土壌の安定化材料としては不満足である。
第2材料においては,この第1材料に更にセラミックス粉末が必須成分として配合される。・・・」(段落【0016】ないし【0023】) 「本発明の厚層基材種子吹付け工法は次のようにして行われる。まず,所定容積のタンク内に,水,客土,種子,養成剤,肥料,土壌改良剤,促進剤などを投入したのち撹拌し,更にここに本発明材料を投入する。このとき,吹付け施工に適合する粘度となるように注入水量と客土量は適宜に調節される。そして,全体を充分に撹拌して吹付け用のスラリー客土とする。
得られたスラリー客土を所定の地表,例えば法面に吹付けてそこに付着させ施工を終了する。吹付けと同時に客土は流動性を失って地表に強固に付着し,また迅速に客土の団粒化が進んで全体は弾力性をもって固化する。次に,本発明の土壌安定化工法においては,対象とする泥状土壌と本発明の材料の所定量とを混合・攪拌・転圧すればよい。
材料の水和反応により,泥状土壌中の水分は迅速に吸収されながら泥状土壌の団粒・固化が進行して高強度化する。その結果,短時間で泥状土壌は安定化する。」(段落【0025】ないし【0027】) 「【発明の効果】・・・請求項1の緑化・土壌安定化用材料は,吹付け施工後1時間程度の時間が経過すれば,通常の降雨では全く流亡しない。また,傾斜面が35°程度の通常斜面であれば,ラス網やネットなどを用いることなく厚層基材種子吹付けが可能である。更には,凍上劣化を起こすことがないので寒冷地における緑化吹付けが可能になる。
そして,ぬかるんだ泥状土壌に対しても,短時間でそれを固化し安定化させることができる。また,水で流亡しないということから,湖沼や親水公園などの水際への水性植物の吹付け移植が可能となり,環境浄化,環境保全に資することができる。本発明の材料は,構成する成分間における水和反応によって水和化合物が生成し,これが土壌粒子を核とする多孔質の団粒を迅速に形成するので,その団粒は通気性と保水性に富み,添加される肥料の保持力も良好で,添加される植生材料の発芽成育にとって非常に好適な環境を提供することができる。
また,請求項2の材料には,更に多孔質粒子の集合体であるセラミックス粉末が配合されているので,保水性や透水性が一層良好になるとともに,種子の活着性も優れ,肥料などの効能を長期に亘って確保することができる。」(段落【0037】ないし【0039】) (イ) 以上の記載によると,従来の厚層基材種子吹付け工法におけるスラリー客土は,客土,種子,養成剤,肥料,土壌改良剤,促進剤,土壌固結剤(糊剤)などを所定の割合で混合して成る混合物を水に懸濁したものであるが,従来のスラリー客土は,土壌粒子を団粒化するための糊剤が樹脂ポリマーを主体とするため,その硬化速度が遅く,また,糊剤の硬化が完了すると,団粒化した客土の表面は乾固状態になって,保水性や通気性も悪く,全体として,植生材料の発芽状態はまだらとなり,その発芽率は低下し,さらに,糊剤の硬化速度が遅く,単時間で厚い吹付け面を形成することが困難であるという問題があったところ,本件発明は,これらの問題を解決することを目的として,「添加剤が硫酸アルミニウム1ないし20重量%,硫酸カルシウム1ないし20重量%,シリカ粉末1ないし20重量%,セメント成分10ないし80重量%からなり,フライアッシュ成分100重量部に対し添加剤10〜50重量部を混合すること」という構成を採用し,これにより,吹付け施工後,1ないし3時間程度経過すると団粒化が起こり通常の降雨量でも流亡することがなく,また,1度の吹付け作業で8cm程度の厚みの吹付け面を形成することができ,しかも,形成された吹付け面は,多孔質で通気性や保水性に富み,吹付け面全体から高い発芽率で植生種子を発芽成長させることができ,凍上劣化も起こすことがないという作用効果を奏するものであることが認められる。そうすると,本件発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的部分は,「添加剤が硫酸アルミニウム1ないし20重量%,硫酸カルシウム1ないし20重量%,シリカ粉末1ないし20重量%,セメント成分10ないし80重量%からなり,フライアッシュ成分100重量部に対し添加剤10〜50重量部を混合すること」という特定の範囲内の混合割合を用いることにあると認められる。
したがって,本件発明の本質的部分は,硫酸カルシウムが1ないし20重量%の範囲内にあることを含む,成分を特定の割合で混合することであるということができる。
(ウ) 控訴人は,本件発明は,「客土,種子,養成剤,肥料,土壌改良剤,促進剤,土壌固結剤(糊剤)などを所定の割合で混合して成る混合物を水に懸濁してスラリー客土とし,得られたスラリー客土を例えばラス網が張設されている法面に吹付けて,当該法面を所望厚みの吹付け面で被覆する工法」が公知であったときに,硫酸アルミニウムと硫酸カルシウムを添加剤に含めることによって,土壌を安定化するようにしたものであるから,成分を特定の割合で混合することは,本件発明の本質的部分ではないと主張する。
しかし,控訴人は,特許請求の範囲において,添加剤につき,硫酸アルミニウム1ないし20重量%,硫酸カルシウム1ないし20重量%,シリカ粉末1ないし20重量%,セメント成分10ないし80重量%と限定し,発明の詳細な説明において,段落【0016】ないし【0023】に上記(ア)のとおりの記載をしているのである。そして,硫酸カルシウムについてみると,控訴人は,第2の3(1)イ(イ),(ウ)のとおり,硫酸カルシウムの含有量を23.8重量%にしても,スラリー固化の速度が遅くなるだけで,本件発明の目的を達することができ,本件発明と同一の作用効果を奏する,硫酸カルシウムの含有量を23.8重量%にすることは,当業者が適宜選択することができる事項であって,技術的に重要な意義を有するものではなく,当業者が容易に想到することができたと主張しているところ,仮にこの主張のとおりであるとすれば,控訴人が,本件発明の特許出願に際して,硫酸カルシウムの含有量を1ないし20重量%の範囲に限定するとは考え難いが,それにもかかわらず,控訴人はあえて限定しているのである。そうであれば,本件発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的部分は,硫酸アルミニウムと硫酸カルシウムを添加剤に含めるというにとどまらず,特定の混合割合の硫酸アルミニウムと硫酸カルシウムを添加剤に含めるところにあるというべきであり,したがって,これが本件発明の本質的部分である。これと異なる控訴人の上記主張は,採用することができない。
(エ) 被控訴人製品は,本件発明の構成要件Bbを充足すると認めるには足りないところ,この部分は本件発明の本質的部分であるから,そうであれば,被控訴人製品が特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるということはできない。
(3) 被控訴人製品が本件発明の不完全利用であるか否かについて 被控訴人製品は,上記のとおり,本件発明の構成要件Bbを充足すると認めるには足りないところ,この部分は本件発明の本質的部分である。
ところで,特許権侵害訴訟において,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,一定の要件があるときは,相手方が製造等をする製品又は用いる方法が,特許発明の不完全利用として,特許発明技術的範囲に属するものと解する余地があるとしても,本件においては,構成要件Bbに係る部分が本件発明の本質的部分であるから,このような部分においてまで,特許発明の不完全利用として,特許発明技術的範囲に属すると解することは相当でないというべきである。
したがって,被控訴人製品が本件発明の不完全利用であると認めることはできない。
結論
以上のとおりであって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,控訴人の控訴は理由がないから,これを棄却すべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久