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関連審決 異議1998-76099
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 55号 取消決定取消請求事件
原告 株式会社加藤製作所代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 【B】
被告 特許庁長官【C】
指定代理人 【D】
同 【E】
同 【F】
同 【G】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/10/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年異議第76099号事件について平成11年12月24日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた判決
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「ホイールクレーンにおけるウインチ取付装置」とする特許第2767166号発明(平成3年8月23日出願、平成10年4月10日設定登録、以下、この特許を「本件特許」と、この発明を「本件発明」といい、本件発明のうち明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本件発明1」と、
同請求項2に記載された発明を「本件発明2」という。)の特許権者である。
【H】は、平成10年12月17日、本件特許につき特許異議の申立てをし、平成10年異議第76099号事件として、特許庁に係属したところ、原告は、平成11年6月14日に明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を訂正する旨の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をし、さらに、同年10月18日に本件訂正請求に係る訂正請求書の補正をした(以下、この補正後の本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)。
特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、平成11年12月24日に「特許第2767166号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は平成12年1月15日、原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載 (1) 設定登録時の特許請求の範囲の記載 【請求項1】 下部走行体上に上部旋回体を旋回可能に設け、該上部旋回体の旋回フレームを構成する両側板が、当該旋回体の左右方向のほぼ中央部から上方へ、両者間に適宜間隔を存して垂直状に起立すると共に、前記下部走行体の前後方向の後方へ延びるように配設され、該左右両側板間に倒伏状態の伸縮ブームの下側及び当該伸縮ブームの起伏シリンダが収容可能に配設され、かつ、前記旋回フレームの左右両側板の前後方向の中央部より後側領域から、その上方へ立上がる立上がり部の頂部に、前記伸縮ブームの倒伏状態における基部上側をフートピンにより回動可能に取付け、該伸縮ブームのブームヘッドが当該伸縮ブームの基部より前下がりに倒伏可能で、当該伸縮ブームの基部側を前記旋回フレームの左右両側板間に配設し、さらに、前記伸縮ブームの倒伏状態における基部下側の、前記旋回フレームの左右両側板の後側下部のスペース部に、ウインチをほぼ収納するように配設したことを特徴とするホイールクレーンにおけるウインチ取付装置。
【請求項2】 下部走行体上に上部旋回体を旋回可能に設け、該上部旋回体の旋回フレームを構成する側面視ほぼ台形状の左右一対の両側板を、当該旋回体の左右方向のほぼ中央部から上方へ、該両側板間に適宜間隔を存して垂直状に起立し、
前記下部走行体の前後方向の後方へ延びるものとして設け、該旋回フレームの左右のほぼ台形状両側板間に、倒伏状態における伸縮ブームの下側及び当該伸縮ブームの起伏シリンダの基部側を収容可能に配設し、かつ、前記旋回フレームのほぼ台形状両側板の頂部に、前記伸縮ブームの倒伏状態における基部上側をフートピンにより回動可能に取付け、当該伸縮ブームのブームヘッドがその基部側より前下がりに倒伏可能で、該伸縮ブームの基部側を前記ほぼ台形状の左右両側板間に配設され、
さらに、前記伸縮ブームの倒伏状態における基部下側の前記左右のほぼ台形状両側板の後側下部のスペース部に、ウインチをほぼ収納するように配設ことを特徴とするホイールクレーンにおけるウインチ取付装置。
(2) 本件訂正に係る特許請求の範囲の記載 【請求項1】 下部走行体上に上部旋回体を旋回可能に設け、該上部旋回体の旋回フレームを構成する両側板が、当該旋回体の左右方向のほぼ中央部から上方へ、両者間に適宜間隔を存して垂直状に起立すると共に、前記下部走行体の前後方向の後方へ延びるように配設され、該左右両側板間に倒伏状態の伸縮ブームの下側及び当該伸縮ブームの起伏シリンダが収容可能に配設され、かつ、前記旋回フレームの左右両側板の前後方向の中央部より後側領域から、その上方へ立上がる立上がり部の頂部に、前記伸縮ブームの倒伏状態における基部上側をフートピンにより回動可能に取付け、該伸縮ブームのブームヘッドが当該伸縮ブームの基部より前下がりに倒伏可能で、当該伸縮ブームの基部側を前記旋回フレームの左右両側板間に配設し、さらに、前記伸縮ブームの倒伏状態における基部下側の、前記旋回フレームの左右両側板の後側下部間のスペース部に、ウインチをほぼ収納するように配設し、かつ、該ウインチから繰出されるワイヤロープを前記フートピンよりやや後側上部に配設されたシーブを介して、倒伏状態における伸縮ブーム上側からブームヘッド側へ導出したことを特徴とするホイールクレーンにおけるウインチ取付装置。
【請求項2】 下部走行体上に上部旋回体を旋回可能に設け、該上部旋回体の旋回フレームを構成する側面視ほぼ台形状の左右一対の両側板を、当該旋回体の左右方向のほぼ中央部から上方へ、該両側板間に適宜間隔を存して垂直状に起立し、
前記下部走行体の前後方向の後方へ延びるものとして設け、該旋回フレームの左右のほぼ台形状両側板間に、倒伏状態における伸縮ブームの下側及び当該伸縮ブームの起伏シリンダの基部側を収容可能に配設し、かつ、前記旋回フレームのほぼ台形状両側板の頂部に、前記伸縮ブームの倒伏状態における基部上側をフートピンにより回動可能に取付け、当該伸縮ブームのブームヘッドがその基部側より前下がりに倒伏可能で、該伸縮ブームの基部側を前記ほぼ台形状の左右両側板間に配設され、
さらに、前記伸縮ブームの倒伏状態における基部下側の前記左右のほぼ台形状両側板の後側下部間のスペース部に、ウインチをほぼ収納するように配設し、かつ、該ウインチから繰出されるワイヤロープを前記フートピンよりやや後側上部に配設されたシーブを介して、倒伏状態における伸縮ブーム上側からブームヘッド側へ導出したことを特徴とするホイールクレーンにおけるウインチ取付装置。
3 本件決定の理由 本件決定は、別添決定書写し記載のとおり、@訂正請求書の補正につき、特許法131条2項所定の訂正の要旨の変更に該当しないものと認められるとし、A本件訂正請求につき、本件訂正に係る本件発明1及び本件発明2(以下、順次「訂正発明1」、「訂正発明2」という。)が、いずれも、本件特許出願前に日本国内において頒布された実願平1-103747号(実開平3-41786号)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下「引用刊行物1」という。)並びに特開昭63-37097号公報(以下「引用刊行物2」という。)にそれぞれ記載された発明により、当業者が容易に発明できたもので、同法29条2項に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正請求は、同法120条の4第3項において準用する同法126条4項に違反するので、認められないとし、B本件発明1及び本件発明2の要旨を、それぞれ、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の記載のとおり認定した(ただし、請求項2の記載の末尾の「配設ことを特徴とするホイールクレーンにおけるウインチ取付装置。」を「配設したことを特徴とするホイールクレーンにおけるウインチ取付装置。」と改めたが、これは、誤記を訂正したにすぎないものと認められる。)上、本件発明1及び本件発明2が、いずれも引用刊行物1、2に記載された発明により、当業者が容易に発明できたもので、特許法29条2項に該当するから、本件特許は、同法113条2号によって取り消されるべきであるとした。
原告主張の本件決定取消事由
本件決定の理由中、訂正請求書の補正が、訂正の要旨の変更に該当しないとした判断、引用刊行物1の記載を摘記した部分(決定書6頁7行目〜10頁末行)及び引用刊行物2の記載事項(同15頁3行目〜15行目)の各認定、訂正発明1と引用刊行物1に記載された発明(以下「刊行物発明」といい、そのうち、引用刊行物1の第1図に記載されたものを、特に「刊行物発明1」という。)との相違点1(同16頁1行目〜9行目)及び相違点3(同16頁17行目〜17頁2行目)の各認定、訂正発明2と刊行物発明との相違点1(同20頁末行〜21頁8行目)、相違点3(同21頁15行目〜末行)及び相違点4(同22頁1行目〜4行目)の各認定は認める。
本件決定は、引用刊行物1に記載された技術事項を誤認して、訂正発明1と刊行物発明との相違点2の認定、及び訂正発明2と刊行物発明との相違点2の認定をいずれも誤り(取消事由1、3)、当該各相違点2についての判断を誤り(取消事由2、4)、さらに、訂正発明2と刊行物発明との相違点4についての判断を誤って(取消事由5)、訂正発明1、2が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件訂正請求が認められない旨誤って判断した結果、本件発明1及び本件発明2の要旨の認定を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(訂正発明1と刊行物発明との相違点2の認定の誤り) 刊行物発明1の「旋回体メインフレーム(12a)が本件発明の側板に相当する」(決定書12頁12行目〜13行目)ことは認める。
本件決定は、刊行物発明1が、「伸縮ブーム(13)の倒伏状態における基部下側の旋回フレームの左右両旋回体メインフレーム(12a)の後側下部間のスペース部に、ウインチボックス(12b)の一部を収納するように配設している」(決定書12頁2行目〜5行目)構成を有すると認定し、これを前提として、訂正発明1と刊行物発明との相違点2として、「請求項1に係る発明(注、訂正発明1)は、旋回フレームの左右両側板の後側下部間のスペース部に、ウインチをほぼ収納するように配設しているのに対して、引用刊行物1記載のもの(注、刊行物発明)では、旋回フレームの左右両側板の後側下部間のスペース部に、ウインチボックスの一部を収納するように配設する構成である」(同16頁10行目〜16行目)と認定したが、
それは誤りである。
すなわち、引用刊行物1には、ウインチボックス(12b)の両側板を、上部旋回体(12)の左右両旋回体メインフレーム(12a)(両側板)に対してどのように設けるか、具体的には、左右両旋回体メインフレーム(12a)の内側に設けるか、その外側に設けるか、若しくは左右両旋回体メインフレーム(12a)の一部をそのまま後方へ延長してウインチボックス(12b)の両側板とするか等についての記載はない。したがって、引用刊行物1には、刊行物発明1につき、旋回フレームの左右両旋回体メインフレーム(12a)の後側下部間のスペース部に、ウインチボックス(12b)の一部を収納するように配設すること、つまり、ウインチボックス(12b)の側板の一部を左右両旋回体メインフレーム(12a)の間に挟むようにして収納することは記載されていないのである。
この点につき、引用刊行物1の第1図には、ホイールクレーンのメインフレーム(12a)の左側縁が破線で記載される一方、ウインチボックス(12b)の側板が、当該破線で記載されたメインフレーム(12a)の左側縁を超え、その全体が実線で記載されているから、同図に表示された引用例発明1は、ウインチボックス(12b)の右側板が、メインフレーム(12a)の右側板の外側(第1図では手前側)に位置するように外装されたものであることが明らかである。
したがって、刊行物発明1が、「伸縮ブーム(13)の倒伏状態における基部下側の旋回フレームの左右両旋回体メインフレーム(12a)の後側下部間のスペース部に、ウインチボックス(12b)の一部を収納するように配設している」構成を有するした本件決定の認定は誤りであり、この認定を前提とする、訂正発明1と刊行物発明との相違点2の認定も誤りというべきである。
2 取消事由2(訂正発明1と刊行物発明との相違点2についての判断の誤り) 本件決定は、上記訂正発明1と刊行物発明との相違点2についての判断に当たり、引用刊行物1の「ウィンチドラム(14)、(15)は、ブーム起伏時にブームフット(13a)と接触(干渉)しない範囲内において、ブームフット(13a)に対して最大限に近接させて、つまりできるだけ前方位置に取付けてなる構成としている」(決定書7頁17行目〜8頁1行目)との記載が、「ウィンチドラム(14)、(15)を可能な限り左右の旋回体メインフレーム(12a)間に入るよう位置させることを意味する」(同18頁17行目〜19行目)とし、また、「引用刊行物2第4図に示されるようにウインチボックスを旋回フレームの後部に、即ち旋回フレームに挟まれた位置に設けることは広く行われていることである」(同18頁末行〜19頁3行)とした上で、「これらの事項より、旋回フレームの左右両側板の後側下部間のスペース部に、ウインチをほぼ収納するように配設とすることは、引用刊行物1の記載から当業者が容易に為し得たものと言わざるを得ない。」(同19頁3行目〜8行目)と判断した。
しかしながら、引用刊行物1の上記「ウィンチドラム(14)、(15)は、・・・できるだけ前方位置に取付けてなる」との記載は、ウインチドラムに関することで、ウインチ全体、ことに、ウインチボックスに関することではないから、「旋回フレームの左右両側板の後側下部間のスペース部に、ウインチをほぼ収納するように配設する」ことには直接的な関わりのないことである。
また、引用刊行物2の第4図には、旋回フレーム1aの側板の後側にウインチボックス1bを突設したものが示されるだけであって、「ウインチボックスを旋回フレームの後部の、同旋回フレームの側板に挾まれた位置に設けたもの」についての記載はない。
したがって、本件決定の訂正発明1と刊行物発明との相違点2についての判断は誤りである。
3 取消事由3(訂正発明2と刊行物発明との相違点2の認定の誤り) 本件決定は、訂正発明2と刊行物発明との相違点2として、「請求項2に係る発明(注、訂正発明2)は、左右両側板の後側下部間のスペース部に、ウインチをほぼ収納するように配設しているのに対して、引用刊行物1記載のもの(注、刊行物発明)では、旋回フレームの左右両側板の後側下部間のスペース部に、ウインチボックスの一部を収納するように配設する構成である」(決定書21頁9行目〜14行目)と認定したが、この認定が誤りであることは、上記1(取消事由1)において、訂正発明1と刊行物発明との相違点2の認定につき述べたところと同様である。
4 取消事由4(訂正発明2と刊行物発明との相違点2についての判断の誤り) 本件決定は、訂正発明2と刊行物発明との相違点1〜3に対し、「請求項1に係る発明(注、訂正発明1)と引用刊行物1記載のもの(注、刊行物発明)との相違点1乃至3で検討したとおり、各相違点に格別のものは認められない。」(決定書22頁8行目〜10行目)と判断したが、この判断が、訂正発明2と刊行物発明との相違点2に関して誤りであることは、上記2(取消事由2)において、訂正発明1と刊行物発明との相違点2についての判断につき述べたところと同様である。
5 取消事由5(訂正発明2と刊行物発明との相違点4についての判断の誤り) 本件決定は、訂正発明2と刊行物発明との相違点4として認定した「請求項2に係る発明(訂正発明2)の左右両側板は、側面視ほぼ台形状であるのに対して、引用刊行物1では旋回体メインフレーム(12a)の形状は明確ではない」(決定書22頁1行目〜4行目)点につき、「引用刊行物1の第1図、第4図、あるいは引用刊行物2の第1図、第4図に示されるよう、側板(旋回フレーム)の形状は各種存在する。また、引用刊行物1の第1図あるいは第4図に示されるように、側板(旋回フレーム)を上部回転体の回転ベアリング部より後方に延びた構成とすることもよく知られている。そのため、相違点2で検討したことにより、側板(旋回フレーム)間にウインチボックスを設けるため、側板(旋回フレーム)の後方に延びる部分を広くし側面視ほぼ台形状とすることは当業者が容易に為し得た設計上の微差にすぎないものと認められる。」(同22頁11行目〜23頁3行目)と判断した。
しかしながら、相違点2についての判断が誤りであることは上記のとおりであるし、引用刊行物1、2の各第1、第4図のいずれにも、側面視がほぼ台形状の側板は記載されていない。
のみならず、訂正発明2は、ほぼ台形状の側板により挾まれるその後側下部間に確保されるスペースに、ウインチ全体をほぼ収容したもので、本件訂正に係る明細書(甲第18号証)記載の効果(17頁末行〜18頁12行目)を奏するものであるところ、かかる構成及び効果を評価することなく、引用刊行物1、2の各第1、第4図の側板(旋回フレーム)から容易に発明できたとする判断には明らかな誤りがある。
被告の反論
本件決定の認定及び判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(訂正発明1と刊行物発明との相違点2の認定の誤り)について 引用刊行物1の第1図において、メインフレーム(12a)とウインチボックス(12b)の側板との位置関係は、判然としておらず、また、第2図には、第1図に記載されたウインチボックス(12b)が明示されていない。
しかしながら、第2図に表示されたウインチドラム(14)、(15)の端部がメインフレーム(12a)からわずかしか露出していないから、ウインチドラムを収納するウインチボックス(12b)が、メインフレーム(12a)から大幅に外側(第2図においては上下方向)に突出していることはあり得ない。
また、引用刊行物1の第4図には、第1図、第2図に表示された発明に係る従来例が記載されているが、そのウインチボックス(2b)の側板は、メインフレーム(2a)に挟まれた位置にあることが明らかであり、この第4図を参酌すれば、第1図記載の発明(刊行物発明1)のウインチボックス(12b)の側板も、メインフレーム(12a)に挟まれた位置に存在すると解釈することが妥当である。
このように、刊行物発明1においては、メインフレーム(12a)で隠された部分、すなわち、メインフレーム(12a)の下部であって、メインフレーム(12a)の間に、ウインチボックス(12b)の一部が存在し、該部分で上部旋回体と連結されていることは明らかである。したがって、「旋回フレームの左右両旋回体メインフレーム(12a)の後側下部間のスペース部に、ウインチボックス(12b)の一部を収納するように配設している」とした本件決定の認定に誤りはない。
2 取消事由2(訂正発明1と刊行物発明との相違点2についての判断の誤り)について 引用刊行物1に、「旋回フレームの左右両旋回体メインフレーム(12a)の後側下部間のスペース部に、ウインチボックス(12b)の一部を収納するように配設している」ことが記載されていることは上記1のとおりであり、そうすると、引用刊行物1の「ウィンチドラム(14)、(15)は、・・・できるだけ前方位置に取付けてなる」との記載は、「旋回フレームの左右両側板の後側下部間のスペース部に、ウインチをほぼ収納するように配設」することを要件とする訂正発明1と直接的な関わりを有するものということができる。ウインチドラムがウインチボックスに収容されるものであり、ウインチドラムをできるだけ前方位置に取り付けることは、ウインチボックスをできるだけ前方位置に取り付けることを意味するからである。
また、引用刊行物2の第4図において、ウインチボックス1bが、同図面で実線で表された旋回フレーム1の後部で、左右旋回フレーム1で挟まれた位置にあることは明らかである。そうすると、引用刊行物2には、ウインチボックスを旋回フレームの後部、すなわち、旋回フレームで挟まれた位置に設けることが記載されており、本件決定が、「引用刊行物2第4図に示されるようにウインチボックスを旋回フレームの後部に、即ち旋回フレームに挟まれた位置に設けることは広く行われていることである」と認定したことに誤りはない。
したがって、本件決定の、訂正発明1と刊行物発明との相違点2についての判断に誤りはない。
3 取消事由3(訂正発明2と刊行物発明との相違点2の認定の誤り)について 本件決定の、訂正発明2と刊行物発明との相違点2の認定に誤りがないことは、上記1(取消事由1について)において、訂正発明1と刊行物発明との相違点2の認定につき述べたところと同様である。
4 取消事由4(訂正発明2と刊行物発明との相違点2についての判断の誤り)について 本件決定の、訂正発明2と刊行物発明との相違点2についての判断に誤りがないことは、上記2(取消事由2について)において、訂正発明1と刊行物発明との相違点2についての判断につき述べたところと同様である。
5 取消事由5(訂正発明2と刊行物発明との相違点4についての判断の誤り)について 訂正発明2と刊行物発明との相違点2についての判断に誤りがないことは、
上記4のとおりである。
そして、訂正発明2の台形状の側板につき、本件訂正に係る明細書(甲第18号証)記載の効果(17頁末行〜18頁12行目)のうち、コストメリットの点は、形状を加工が簡単にできるように単純なものとしたことによる効果であり、台形状とすることと何ら因果関係はなく、また、ウインチが左右両側板により保護される点は、旋回フレームの左右両側板の後側下部間のスペース部に、ウインチをほぼ収納するように配設することによる効果であって、引用刊行物2の第4図記載の発明でも奏することができる。さらに、伸縮ブームが下部走行体側に十分近接するように倒伏可能である点については、引用刊行物1の第4、第5図及び引用刊行物2の第4図に、ウインチから繰出されるワイヤロープをフートピンよりやや後側上部に配設されたシーブを介して倒伏状態における伸縮ブーム上側からブームヘッド側に導出することが示されており、これらに記載の発明においても、倒伏状態の伸縮ブームの下側と起伏シリンダまわりにワイヤロープの導出空間を確保する必要がなく、上記効果を奏することができるものである。
したがって、「側板(旋回フレーム)の後方に延びる部分を広くし側面視ほぼ台形状とすることは当業者が容易に為し得た設計上の微差にすぎないものと認められる。」とした本件決定の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正発明1と刊行物発明との相違点2の認定の誤り)について 引用刊行物1に、本件決定が摘記引用した(決定書6頁13行目〜9頁10行目)記載があることは、当事者間に争いがない。
そして、本件決定は、当該記載及び図面第1図により、刊行物発明1が、
「伸縮ブーム(13)の倒伏状態における基部下側の旋回フレームの左右両旋回体メインフレーム(12a)の後側下部間のスペース部に、ウインチボックス(12b)の一部を収納するように配設している」(決定書12頁2行目〜5行目)構成を有すると認定するものであるが、当該摘記引用した記載によって、刊行物発明1につき、ウインチボックス(12b)が上部旋回体(12)の後部に設けられていること、ウインチボックス(12b)にウインチドラム(14)、(15)を収容し、1本のドラム軸(18)に取り付けて並設すること、ウインチドラム(14)、(15)はブームフット(13a)に接触(干渉)しない範囲内において、ブームフット(13a)に最大限に近接させる(できるだけ前方位置に取り付ける)構成であることが認められるものの、当該摘記引用した記載を含め、
引用刊行物1(甲第13号証)に、刊行物発明1が、ウインチボックス(12b)を、たとえ部分的にではあれ、その一方の側板から他方の側板までの横幅方向の全部を左右メインフレーム(12a)の間に収納する構成であること、すなわち、ウインチボックス(12b)の側板が左右メインフレーム(12a)に挟まれた構成であることを示す記載は存在しない。
ところで、引用刊行物1(甲第13号証)の第4図には、ウインチボックス(2b)が、その一方の側板から他方の側板までの横幅方向の全部を左右メインフレーム(2a)に挟まれたホイールクレーンが記載されているものと認められるところ、
被告は、この第4図を参酌すれば、刊行物発明1のウインチボックス(12b)の側板も、メインフレーム(12a)に挟まれた位置に存在すると解釈することが妥当であると主張する。
しかしながら、引用刊行物1(甲第13号証)において、その第4図に記載されたホイールクレーンは、「従来のクレーン」(13頁11行目〜12行目)であり、かつ、「一般に、クレーン(例として、ラフテレーンクレーンを取り上げる)は、その側面図の第4図に示すように、・・・上記ボックス(2b)には内部に2つのウインチドラム(4)、(5)が前後に位置ずれして設けられる」(2頁6行目〜15行目)との記載に照らして、ウインチボックス内に2本のウインチドラムが前後に位置ずれして設けられるものであるから、それぞれのウインチドラムの軸方向の少なくとも一部が相互に重なっているものと認められる。これに対し、刊行物発明1(第1図に記載されたもの)は、「実施例に係るクレーン」(13頁9行目)であって、そのウインチボックス(12b)に収容されたウインチドラム(14)、(15)が、1本のドラム軸(18)に取り付けて並設されているものであることは前示のとおりであるから、ウインチボックスにおけるウインチドラムの軸方向の長さ(一方の側板から他方の側板までの幅方向の長さ)において、第4図記載のホイールクレーンに係るウインチボックスは幅狭であり、刊行物発明1に係るウインチボックスは幅広であるとの相違があることが明らかである。
そうすると、第4図記載のホイールクレーンに係る幅狭のウインチボックス(2b)の側板が左右メインフレーム(2a)に挟まれているからといって、これを参酌し、刊行物発明1の幅広のウインチボックス(12b)の側板も、メインフレーム(12a)に挟まれた位置に存在すると解釈することに合理性があるということはできない。
それのみならず、引用刊行物1(甲第13号証)の第1図においては、メインフレーム(12a)の下側輪郭線が、ガイドシーブ16,(17)付近から右下に向かって実線で図示されているものの、その延長上でウインチボックス(12b)と重なる範囲は破線で図示されていること、また、ウインチボックス(12b)の範囲内で、ウインチドラム(14)、(15)、ドラム軸(18)及びロープがいずれも破線で図示されていることが認められる。
他方、昭和52年発行の日本機械学会編「機械工学便覧・改訂第6版」(甲第20号証)には、「製図は工学言語で,パターン情報である.その機能としては,(1)情報の伝達、・・・がある.これらの機能と,工業や技術の特質や動向から,次のような製図の特質が生じる.・・・(4)一義性:製図内容にあいまい性がなく,設計・生産・検査などで,同一の解釈が得られる」(7-7頁左欄下から13行目〜2行目)、「線の太さ・形の種類と,その用途は第8表に示す.」(7-8頁左欄1行目〜2行目)との各記載があり、その第8表(7-8頁左欄)には、
「太い線」につき、実線が外形線、破線がかくれ線であることが示されている。
そして、引用刊行物1のような特許、実用新案登録出願の願書に添付された図面が、必ずしも設計図のような正確性を有してはいないにしても、線の種類等については、前示のような製図における用法に従っているものとみることが相当であるところ(ウインチボックス(12b)内部に収容されているはずのウインチドラム(14)、(15)、ドラム軸(18)等が、ウインチボックス(12b)の範囲内で破線で示されていることは、このことを裏付けるものである。)、前示引用刊行物1の第1図において、メインフレーム(12a)の輪郭線が、ウインチボックス(12b)と重なる範囲で破線(かくれ線)で図示されていることに照らせば、刊行物発明1のウインチボックス(12b)の側板はメインフレーム(12a)の手前側、すなわち、外側にあると解されるものである。そもそも、刊行物発明1に係る平面図である第2図(甲第13号証13頁10行目)に表示されたウインチドラム(14)、(15)の端部がメインフレーム(12a)から、わずかとはいえ、露出していることは、被告の自認するところであり、この点からしても、ウインチドラムを収納するウインチボックス(12b)の側板が、メインフレーム(12a)から外側に突出していることは、当然の事理であるといわなければならない。
したがって、ウインチボックス(12b)の側板がメインフレーム(12a)に挟まれた位置に存在する旨の被告の上記主張は採用することができない。
なお、ウインチボックスは、ウインチドラム(軸)を支えるための構造として、コの字状の構造を有していれば足りるものと解されるから、刊行物発明1において、ウインチボックス(12b)の側板が、メインフレーム(12a)の外側に位置することに特段の支障はないものと認められる。
そうすると、本件決定が、刊行物発明1について、「伸縮ブーム(13)の倒伏状態における基部下側の旋回フレームの左右両旋回体メインフレーム(12a)の後側下部間のスペース部に、ウインチボックス(12b)の一部を収納するように配設している」構成を有すると認定したことは誤りといわざるを得ず(「メインフレーム(12a)の後側下部間のスペース部に、ウインチボックス(12b)の一部を収納する」との意味が、たとえ部分的にではあれ、ウインチボックス(12b)の一方の側板から他方の側板までの横幅方向の全部を左右メインフレーム(12a)の間に収納することであることは、被告において明らかに争わない。)、これを前提とした訂正発明1と刊行物発明との相違点2の認定も誤りであるというべきである。
2 取消事由2(訂正発明1と刊行物発明との相違点2についての判断の誤り)ついて 刊行物発明1のウインチドラム(14)、(15)の端部がメインフレーム(12a)から露出していることは、前示のとおりであり、したがって、ウインチドラム(14)、(15)を左右のメインフレーム(12a)間に入るよう位置させることは、当然に不可能である。そうすると、引用刊行物1の「ウィンチドラム(14)、(15)は、ブーム起伏時にブームフット(13a)と接触(干渉)しない範囲内において、ブームフット(13a)に対して最大限に近接させて、つまりできるだけ前方位置に取付けてなる構成としている」(決定書7頁17行目〜8頁1行目)との記載が、「ウィンチドラム(14)、(15)を可能な限り左右の旋回体メインフレーム(12a)間に入るよう位置させることを意味する」(同18頁17行目〜19行目)とした本件決定の判断は、明らかに誤りであるといわなければならない。
また、引用刊行物2(甲第14号証)には、その第4図に記載された発明につき、「従来のホイールクレーンの一般的構成を第4図に示している。Aは下部走行体、Bはこの下部走行体A上に搭載された上部旋回体、1はこの上部旋回体Bの旋回フレームで、・・・後部にウィンチボックス1bが設けられ、このウィンチボックス1b内に、主巻ロープR1を巻取駆動する主巻用ウィンチW1、および補巻ロープR2を巻取駆動する補巻用ウィンチW2が収容されている。2はウィンチボックス1bの後面に取付けられたカウンタウエイトである。」(1頁左下欄末行〜右下欄12行目)との記載があり、さらに、第1〜第3図に記載された発明につき、「第1図乃至第3図に本発明の実施例を示している。・・・Cは上部旋回体、
5は旋回フレーム、・・・6はブーム、6aはブーム起伏シリンダである。このクレーンにおいては、旋回フレーム5を、第4図に示す従来クレーンの旋回フレーム1よりも後方に長く形成し、ブームフット61をこの旋回フレーム5の後端部にブームフットピン62を介して枢着するとともに、このブーム6の倒伏姿勢での上面にウィンチボックス7を設置し、これにウィンチW1、W2を収容している。すなわち、ウィンチW1、W2を、旋回フレーム5でなくブーム6に設置する」(2頁左下欄3行目〜18行目)との記載がある。
そして、これらの記載と第4図の記載を併せ考えれば、引用刊行物2の第4図に記載された発明においては、左右旋回フレーム1の一部を後方へ延長して、ウインチW1、W2を設置するウインチボックス1bの両側板としているものと認められるから、ウインチボックスが旋回フレームに挟まれた位置に設けられているということはできず、他に、引用刊行物2(甲第14号証)に、ウインチボックスが旋回フレームに挟まれていると認めるべき記載は見当たらない。
そうすると、本件決定が、「引用刊行物2第4図に示されるようにウインチボックスを旋回フレームの後部に、即ち旋回フレームに挟まれた位置に設けることは広く行われていることである」(決定書18頁末行〜19頁3行)としたことは、誤りといわざるを得ない。
したがって、本件決定が、引用刊行物1に、刊行物発明1の「ウィンチドラム(14)、(15)を可能な限り左右の旋回体メインフレーム(12a)間に入るよう位置させることを意味する」記載があるとし、また、「引用刊行物2第4図に示されるようにウインチボックスを旋回フレームの後部に、即ち旋回フレームに挟まれた位置に設けることは広く行われている」とした上で、相違点2につき、「これらの事項より、旋回フレームの左右両側板の後側下部間のスペース部に、ウインチをほぼ収納するように配設とすることは、引用刊行物1の記載から当業者が容易に為し得たものと言わざるを得ない。」(同19頁3行目〜8行目)と判断したことも誤りである。
3 取消事由3及び4(訂正発明2と刊行物発明との相違点2の認定及び判断の誤り)ついて 本件決定の訂正発明2と刊行物発明との相違点2の認定(決定書21頁9行目〜14行目)が誤りであること、同相違点についての判断(同22頁7行目〜10行目)が誤りであることは、訂正発明1と刊行物発明との相違点2の認定及び判断についての上記説示と同様である。
4 以上によれば、訂正発明1、訂正発明2が引用刊行物1、2にそれぞれ記載された発明により、当業者が容易に発明できたもので、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正請求が、同法120条の4第3項において準用する同法126条4項に違反して、認められないとした本件決定の判断は誤りというべきである。そうすると、本件決定は、本件発明1及び本件発明2の要旨の認定を誤った違法があるといわざるを得ないから、その余の点につき判断するまでもなく、取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利